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特許7493752データ処理装置、データ処理方法、プログラム、及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】データ処理装置、データ処理方法、プログラム、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/18 20060101AFI20240527BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G06F17/18 D
G01T1/20 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020056730
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021157470
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】榊 泰直
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-061512(JP,A)
【文献】特開2017-033307(JP,A)
【文献】特開2017-215669(JP,A)
【文献】金 秀明 Hideaki KIM,可変ビン幅ヒストグラム密度推定法を組み込んだ確率的トピックモデルの提案 A New Probabilistic Topic Model Based on Variable Bin Width Histogram,情報処理学会 研究報告 数理モデル化と問題解決(MPS) 2016-MPS-108 [online] ,日本,情報処理学会,2016年07月01日,pp.1-7,ISSN: 2188-8833
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/18
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定誤差を伴う値の集合である入力データを取得する取得部と、
前記入力データから出力データを生成する生成部と
を備え
前記生成部による前記出力データの生成処理には、
前記入力データに対して、前記入力データを取得する測定器の前記測定誤差を反映した応答関数を用いたスパースコーディングを適用する処理と、
前記出力データが示す度数分布における対象区間であるi番目のビンのビン幅を、
前記出力データが示す度数分布における前記i番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンと、前記出力データが示す度数分布におけるi-1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第1のビン数と、
前記出力データが示す度数分布における前記i番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンと、前記出力データが示す度数分布におけるi+1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第2のビン数とに応じて可変的に導出する処理と
が含まれる
ことを特徴とするデータ処理装置。
【請求項2】
前記出力データが示す度数分布における各ビンは、前記入力データに対してスパースコーディングを適用して得られたデータである前記スパースコーディング後データにおける0でない度数を有するビンに対応している
ことを特徴とする請求項に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記出力データが示す度数分布における前記i番目のビンの度数は、当該i番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの度数を、当該i番目のビンのビン幅を用いて正規化することによって得られる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記測定器は、
幅を有する粒子ビームを1又は複数の集束点に集束させる集束部と、
前記1又は複数の集束点に配置されたシンチレータと
を備えていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記入力データが示す度数分布における当該入力データの範囲を示す階級は、第1の変数によって表現され、
前記生成部は、前記スパースコーディング後のデータを変換することによって、第2の変数によって階級が表現されるデータを生成する
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
測定誤差を伴う値の集合である入力データを取得する取得ステップと、
前記入力データから出力データを生成する生成ステップと
を含み、
前記生成ステップによる前記出力データの生成処理には、
前記入力データに対して、前記入力データを取得する測定器の前記測定誤差を反映した応答関数を用いたスパースコーディングを適用する処理と、
前記出力データが示す度数分布における対象区間であるi番目のビンのビン幅を、
前記出力データが示す度数分布における前記i番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンと、前記出力データが示す度数分布におけるi-1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第1のビン数と、
前記出力データが示す度数分布における前記i番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンと、前記出力データが示す度数分布におけるi+1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後のデータにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第2のビン数とに応じて可変的に導出する処理と
が含まれる
ことを特徴とするデータ処理方法。
【請求項7】
請求項1に記載のデータ処理装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、前記取得部、及び前記生成部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ処理装置、データ処理方法、プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な量を測定する測定装置が知られている。そのような測定装置の一例として、非特許文献1には、電子磁気分光計が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J. O. Deasy, P. R. Almond, M. T. McEllistrem and C. K. Ross, “A simple magnetic spectrometer for radiotherapy electron beams”, Med Phys. 21(11), 1703-1714 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、何らかの値を測定する場合、測定値には誤差が伴う。換言すれば、真の分布に対して誤差が重畳された(又は畳み込まれた)分布が、実際に測定される測定値の分布である。当該誤差は、検出装置等に起因する場合もあるし、集計方法等に起因する場合もあるし、その他の要因に起因する場合もある。このように誤差を伴う測定値の分布から、真の値の分布をどのようにして決定すればよいのかという逆問題においては、分布を表示する際の領域の分割間隔(ビン幅という)をどのように設定すればよいのかという問題が生じる。
【0005】
本発明の一態様は、ビン幅を好適に設定することによって、真の分布を好適に再現することのできるデータ処理装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るデータ処理装置は、誤差を伴う値の集合である入力データを取得する取得部と、前記入力データから、前記入力データの前記誤差に応じたビン幅を有する出力データを生成する生成部とを備えている。
【0007】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、入力データの前記誤差に応じた一様幅でないビン幅を有する出力データを生成するので、真の分布を好適に再現することができる。
【0008】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記生成部による出力データの生成処理には、前記入力データに対して、前記入力データに含まれる誤差を内包する応答関数を用いたスパースコーディングを適用する処理が含まれることが好ましい。
【0009】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、前記入力データに含まれる誤差を内包する応答関数を用いたスパースコーディングを用いることによって、真の分布を好適に再現することができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記出力データにおける各ビンは、前記入力データに対してスパースコーディングを適用して得られたデータであるスパースコーディング後データにおける0でない度数を有するビンに対応している。ここで、「0でない度数を有するビン」とは、そのビン内に少なくとも1つの0でないデータが存在するビンをいう。
【0011】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、前記出力データにおける各ビンは、前記入力データに対してスパースコーディングを適用して得られたデータであるスパースコーディング後データにおける0でない度数を有するビンの間隔に対応しているので、真の分布を好適に再現することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記出力データにおける対象ビンのビン幅は、当該対象ビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの周辺のビンであって度数が0であるビンの数に応じて定まることが好ましい。ここで、「度数が0であるビン」とは、そのビン内にデータが存在しない空のビンをいう。
【0013】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、前記出力データにおける対象ビンのビン幅は、当該対象ビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの周辺のビンであって度数が0であるビンの間隔に応じて定まるので、真の分布を好適に再現することができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記出力データにおける対象ビンであるi番目のビンのビン幅は、
前記出力データにおけるi番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンと、前記出力データにおけるi-1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第1のビン数と、
前記出力データにおけるi番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンと、前記出力データにおけるi+1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第2のビン数とに応じて、ビン幅を領域内で一様に固定することなく可変的に定まることが好ましい。
【0015】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、誤差を内包する計測システムの応答関数に応じた最適なビン幅を好適に設定することができるので、真の分布を好適に再現することができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記出力データにおける対象ビンの度数は、当該対象ビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの度数を、当該対象ビンのビン幅を用いて正規化することによって得られることが好ましい。
【0017】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、前記スパースコーディング後データにおけるビンの度数を、当該対象ビンのビン幅を用いて正規化するので、真の分布を好適に再現することができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記入力データは、物理量に関する測定データであり、前記スパースコーディングに用いる応答関数として、前記測定データを取得する測定器の特性を反映した応答関数を用いてもよい。
【0019】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、物理量に関する測定データに基づき、真の分布を好適に再現することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記測定器は、幅を有する粒子ビームを1又は複数の集束点に集束させる集束部と、前記1又は複数の集束点に配置されたシンチレータとを備えていることが好ましい。ここで、「シンチレータ(scintillator)」とは、放射線にあたると、蛍光を発光する蛍光体である。
【0021】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、前記1又は複数の集束点に配置されたシンチレータを備えているので、粒子ビームを好適に検出することができる。
【0022】
また、本発明の一態様に係るデータ処理装置では、前記入力データの階級は、第1の変数によって表現され、前記生成部は、前記スパースコーディング後のデータを変換することによって、第2の変数によって階級が表現されるデータを生成することが好ましい。
【0023】
上記のように構成されたデータ生成装置によれば、前記生成部は、前記スパースコーディング後のデータを変換することによって、第2の変数によって階級が表現されるデータを生成するので、入力データに含まれる誤差の態様に応じて好適に分布を表現することができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係るデータ処理方法は、上記の課題を解決するために、誤差を伴う値の集合である入力データを取得する取得ステップと、前記入力データから、前記入力データの前記誤差に応じたビン幅を有する出力データを生成する生成ステップとを含んでいる。
【0025】
上記のように構成されたデータ処理方法によれば、上記データ処理装置と同様の効果を奏する。
【0026】
本発明の各態様に係るデータ処理装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記データ処理装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記データ処理装置をコンピュータにて実現させるプログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、真の分布を好適に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態1に係るデータ処理装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態1に係る生成部による出力データ生成処理の具体的な処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3】実施形態1に係る生成部による出力データ生成処理の具体例を模式的に示す図である。
図4】実施形態1に係る生成部が生成するスパースコーディング後のデータ、及び、正規化後のデータを説明するための図である。
図5】実施形態1に係る生成部が実行するスパースコーディングの処理の流れを示すフローチャートである。
図6】実施例1に係るデータ収集装置の構成を示すブロック図である。
図7】上段は、実施例1に係るデータ収集装置における電子偏向磁石部の模式的な斜視図であり、下段左側は、当該電子偏向磁石部と当該電子偏向磁石部に取り付けられたシンチレータ部のとの外観図であり、下段右側は、電子偏向磁石部が発生させる磁場の強度プロファイルを示す図である。
図8】上段は、実施例1に係るデータ収集装置における電子偏向磁石部シンチレータ部の設計データに基づくシミュレーション結果であり、下段左側は、シンチレータ部にて検出される電子線のエネルギーデポジットを示すグラフであり、下段右側は、比較用に「Scintillator_2」の位置に配置されたシンチレータによって検出される各電子線のエネルギーの分散と、「Scintillator_1」の位置に配置されたシンチレータ部によって検出される各電子線のエネルギーの分散とを示すグラフである。
図9】上段左側は、スパースコーディング処理におけるパラメータの収束を示すグラフであり、上段右側は、電子線によるオリジナルのエネルギーデポジット、当該エネルギーデポジットをスパースコーディングした結果、及び、当該スパースコーディングした結果から再構築されたシンチレータ上のエネルギー分布を示すグラフであり、下段左側は、スパースコーディング後の分布と、スパースコーディング後の分布を正規化することによって得られた正規化後の分布を示すグラフであり、下段右側は、電子線によるオリジナルのエネルギーデポジット、当該エネルギーデポジットの分布からスパースコーディング及び正規化処理により得られた正規化後の分布、及び、シミュレーションに求めた電子線のオリジナルのエネルギースペクトルを示すグラフである。
図10】従来例に係る手法によって導出したエネルギースペクトルと、実施例1に係る手法によって導出したエネルギースペクトルとを示す図である。
図11】実施例1に係るシンチレータ部の具体的配置の詳細について説明するための図である。
図12】実施例2に係るデータ処理装置、データ収集装置、及びデータ提示装置の構成を示すブロック図である。
図13】上段左側は、実施例2に係る電子線発生部、電子偏向磁石部、シンチレータ部、及び検出部の相対的配置を模式的に示す外観図であり、上段右側は、パラメータのノルムの収束を示すグラフであり、下段左側は、スパースコーディング後の分布と、オリジナルのエネルギーデポジットと、再構築されたシンチレータ上のエネルギースペクトルとを示す図であり、下段右側は、スパースコーディングによって数値的に計算された線量分布と、実測した線量分布とを示すグラフである。
図14】実施例3に係るデータ処理装置、データ収集装置、及びデータ提示装置の構成を示すブロック図である。
図15】上から1段目は、実施例3に係る検出部が検出したシンチレータ部による発光を示す画像であり、上から2段目は、スパースコーディング演算部が実行するスパースコーディング処理におけるパラメータのノルムの収束を示すグラフであり、上から3段目は、発光強度、スパースコーディング後の分布、及び正規化後の分布を示す図である。
図16】実施形態2に係るデータ収集装置及びデータ処理装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図17】誤差を伴う値の分布が有する問題点について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本実施形態に係るデータ処理装置の詳細な説明に先立ち、図17を参照して、誤差を伴う値の分布が有する問題点について纏めておく。
【0030】
なお、本明細書において、「測定」とは検出装置等のデバイスを用いた測定に限定されるものではなく、例えば、調査等の実施、調査等によって得られた数値の集計、及び、そのようにして集計した数値の取得等も含まれ得る。
【0031】
また、本明細書において、特段の言及がない場合、分布を示すグラフの横軸は、階級(class)を表し、縦軸は、度数(frequency)を表す。ここで、frequencyは「電波の周波数」のように周期性を有するものを意図しているわけではない。
【0032】
<誤差を伴う値の分布が有する問題点>
一般に、何らかの値を測定する場合、測定値には誤差が伴う。換言すれば、計測システムには誤差が内包されている。このため、真の分布に対して誤差が重畳された(又は畳み込まれた)分布が、実際に測定される測定値の分布である。当該誤差は、検出装置等に起因する場合もあるし、集計方法等に起因する場合もあるし、その他の要因に起因する場合もある。このように誤差を伴う測定値の分布から、真の値の分布をどのようにして決定すればよいのかという所謂逆問題を考える。
【0033】
図17の上段は、例示的な真の分布を模式的に示したものである。図17の中段は、真の分布に重畳される誤差を、真の分布と共に示したグラフである。また、図17の下段は、真の分布に誤差が重畳された結果得られる分布を示している。
【0034】
一例として、図17の上段に示すように、真の値の分布が存在した場合、図17の中段に模式的に示すように、真の値のそれぞれには測定に伴う誤差が付随する。そして、実際に測定される値は、これらの誤差が畳み込まれた(コンボリューションされた)ものとなるため、図17の下段に示すように、真の分布とは異なった分布となってしまう。なお、図17では、真の値に付随する誤差のプロファイルを、一例としてガウス型の誤差関数として表現しているが、これは本実施形態を限定するものではない。統計学的な意味で誤差が発生する状況において、当該誤差のプロファイルが何らかの形で表現できるものであればここでの議論は成り立つ。また、図17に示す例では、連続分布の例を示しているが、ここでの議論は、離散的な分布の場合であっても成り立つ。
【0035】
ここで、測定された分布(図17の下段)から、真の分布(図17の上段)を決定するという逆問題を考える。当該逆問題は以下のような問題を有している。
【0036】
まず、真の分布の特徴を正しく再現するためには、ビン幅を適切に決定することが好ましい。しかしながら、図17の中段に示すように、ある値に付随する誤差のプロファイルが、他の値に付随する誤差のプロファイルと重畳(クロストーク)するという問題が生じる。また、各値に付随する誤差の分散は階級に応じて一般に変化し得る。
【0037】
このため、誤差を有する測定値の分布から、真の分布を決定するという逆問題において、一様に固定されるビン幅をどのように設定すればよいのかという第1の問題が生じる。
【0038】
また、一般に、計測点の数には上限が存在し、全体の分布の一部を測定するに留まることが多い。このような状況において一部の分布を用いて、真の分布全体を明らかにすることは、所謂「信号分離(Source Separation)問題」として知られている問題である。当該問題は、劣決定な非適切問題(ill-posed)であり最適解を得ることは一般に困難であるという第2の問題がある。
【0039】
本実施形態に係るデータ処理装置は、上記第1の問題を解決する一手法を提供するものであり、また、一形態例として、上記第2の問題を解決する一手法を提供するものである。
【0040】
<データ処理装置>
以下では、本実施形態に係るデータ処理装置1について詳細に説明する。図1は本実施形態に係るデータ処理装置1の構成を示すブロック図である。
【0041】
図1に示すように、データ処理装置1は、入出力部11、制御部12、及びメモリ13を備えている。
【0042】
入出力部11は、一例として図1に示すデータ収集装置50からのデータを受け取ったり、データ提示装置60にデータを提供したりする。入出力部11は、データ収集装置50から取得したデータを、制御部12に供給する。また、入出力部11は、制御部12から供給された出力データを、データ提示装置60に供給する。なお、本実施形態において、入出力部11がデータ収集装置50から取得するデータは、上述したような誤差を伴うデータである。また、他の構成として、制御部12に対して、入力部と出力部とが接続され、入力部にはデータ収集装置50が接続され、出力部にはデータ提示装置60が接続される構成であっても良い。
【0043】
データ収集装置50は、データを収集する装置であり、その具体的な構成は本実施形態を限定するものではない。データ収集装置50は、一例として物理現象に関する測定を行う測定装置であってもよいし、取得したデータを管理するサーバにアクセスするデータ取得装置であってもよい。データ提示装置60は、データをユーザに提示する装置であり、その具体的な構成は本実施形態を限定するものではない。データ提示装置60は、一例として表示パネルを備え、提示すべきデータを、当該表示パネルに表示する構成とすることができる。
【0044】
図1に示すように、制御部12は、取得部121、及び生成部122を備えている。取得部121は、一例として、入出力部11から提供される、誤差を伴う値の集合である入力データを取得する。また、取得部121は、メモリ13に格納されている各種のデータを取得する。
【0045】
生成部122は、取得部121が取得した、誤差を伴う入力データから、当該入力データに付随する誤差に応じた任意幅のビンを有する出力データを生成する。そして、生成したデータを、入出力部11に供給する。
【0046】
ここで、生成部122によるビン幅の設定方法は本実施形態を限定するものではないが、一例として、入力データに含まれる各値に付随する誤差の分散の値を特定し、特定した分散がより大きい階級ではより大きいビン幅を設定し、特定した分散がより小さい階級ではより小さいビン幅と設定する構成とすることができる。
【0047】
このように、生成部122では、一例として、入力データに含まれる誤差の分散の値と正の相関を有するようなビン幅を設定し、設定したビン幅を有する出力データを生成する。
【0048】
以上のように、生成部122は、入力データの誤差に応じた任意幅のビンを有する出力データを生成するので、例えば一様幅のビン幅を有する出力データを生成する構成に比べて、真の分布をより好適に再現することができる。
【0049】
(生成部による出力データ生成処理の具体例1)
続いて、図2及び図3を参照して、生成部122による出力データ生成処理の具体例について説明する。
【0050】
図2は、生成部122による出力データ生成処理の具体的な処理の流れの一例を示すフローチャートである。図3は、生成部122による出力データ生成処理の具体例を模式的に示す図である。
【0051】
(ステップS101)
まず、取得部121は、入力データを取得する。図3の上から1段目には、取得部121が取得する入力データの一例を示している。
【0052】
(ステップS102)
続いて、生成部122は、ステップS101において取得部121が取得した入力データに対して、スパースコーディングを適用する。ここで、スパースコーディングにおいて用いられる応答関数は、入力データに含まれる誤差を内包する応答関数を採用する。換言すれば、スパースコーディングにおいて用いられる応答関数は、入力データに含まれる誤差を内包する計測システムの応答関数を採用する。ここで、入力データに含まれる誤差を内包する応答関数、及び、入力データに含まれる誤差を内包する計測システムの応答関数とは、一例として、入力データ中の各値に付随する誤差のプロファイルに整合するプロファイルを有する応答関数のことを指す。
【0053】
なお、本明細書における「スパースコーディング」とは、誤差を内包する計測システムの応答関数を用いた逆畳み込みにおいて、真の分布形状を最小限の特徴量のみで表現する手法であると表現することもできる。
【0054】
一例として、入力データ中の各値に付随する誤差のプロファイルが、ガウス型の誤差関数として表現できる場合には、生成部122は、応答関数として、当該ガウス型の誤差関数を採用する。
【0055】
また、入力データ中の各値に付随する誤差の分散は、一般に、階級によって異なり得る。このような状況に対応するため、生成部122は、一例として、入出力部11及び取得部121を介して、入力データ中の各値に付随する誤差の分散を示す情報を取得し、取得した情報に基づき、応答関数として、階級に応じた分散を表現する誤差関数を採用する構成とすればよい。なお、本実施形態に係るスパースコーディングのアルゴリズムの詳細については後述する。
【0056】
図3の上から2段目は、生成部122が入力データに対してスパースコーディングを適用することによって得られた、スパースコーディング後のデータを、誤差のプロファイルに応じた応答関数と共に示すグラフである。なお、スパースコーディング後のデータは、縮小データ(Shrinkage data)または、縮小スペクトル(Shrinkage spectrum)と呼ばれることもある。
【0057】
(ステップS103)
続いて、生成部122は、ステップS102において生成したスパースコーディング後のデータに対して、正規化処理を適用することによって出力データを生成する。ここで、当該正規化処理には、処理の対象となる対象ビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの度数(ビンの高さ)を、当該対象ビンのビン幅を用いて正規化する処理が含まれる。換言すれば、生成部122は、当該対象ビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの度数を、当該対象ビンのビン幅を用いて正規化することによって、出力データにおける対象ビンの度数を算出する。
【0058】
図3の上から3段目は、本ステップにおける正規化処理後のデータを、スパースコーディング後のデータと共に示すグラフである。また、図3の上から4段目には、本ステップにおいて生成した正規化処理後のデータを、真の分布と共に示すグラフである。
【0059】
上記の処理により、生成部122は、出力データにおける各ビンの度数を好適に算出することができる。また、そのようにして算出された度数を有する出力データは、図4の下段右側に示すように、真の分布を好適に再現する。なお、正規化処理のことをデコード(Decoding)と呼ぶこともある。
【0060】
(ステップS104)
続いて、生成部122は、ステップS103において生成した出力データを、入出力部11を介して、データ提示装置60に供給する。データ提示装置60は、提供された出力データをユーザに提示する。
【0061】
(スパースコーディング後のデータ、及び正規化後のデータ(出力データ)の詳細)
以下では、上述したステップS102において生成されるスパースコーディング後のデータ、及び、ステップS103において生成される正規化後のデータ(出力データ)の詳細について、図4を参照して説明する。
【0062】
図4の上段は、ステップS102において生成部122が生成するスパースコーディング後のデータの例を示している。図4の上段に示すように、スパースコーディング後のデータは、度数が0でない複数のビン(度数が0でないビンを「非0ビン」とも呼ぶ)と、これら複数の非0ビンの間に存在する度数が0の複数のビン(度数が0であるビンを「0ビン」とも呼ぶ)を含んでいる。
【0063】
ここで、図4に示すように、S103において生成部122が生成する出力データ(正規化後のデータ)における各ビンは、スパースコーディング後データにおける0でない度数を有するビンに対応している。
【0064】
図4の上段では、非0ビンの度数をNsparse(i-1)、 Nsparse(i)、Nsparse(i+1)のように表現している。ここで、i-1、i、i+1は非0ビンの各々に付されたインデックスである。図4の上段に示す例では、i-1番目の非0ビンと、i番目の非0ビンとの間には、ΔE(i-1,i)個の0ビンが存在している。同様に、i番目の非0ビンと、i+1番目の非0ビンとの間には、ΔE(i,i+1)個の0ビンが存在している。
【0065】
ここで、上述のように、入力データに含まれる誤差の分散に応じた応答関数を採用したスパースコーディングでは、i-1番目の非0ビンと、i番目の非0ビンとの間の0ビンの個数であるΔE(i-1,i)は、i-1番目の非0ビンに付随する誤差の分散と、i番目の非0ビンに付随する誤差の分散とを反映したものとなるという性質がある。より具体的に言えば、ΔE(i-1,i)は、i-1番目の非0ビンに付随する誤差の分散及びi番目の非0ビンに付随する誤差の分散がより大きければ、より大きくなり、i-1番目の非0ビンに付随する誤差の分散及びi番目の非0ビンに付随する誤差の分散がより小さければ、より小さくなるという性質を有している。
【0066】
また、図4の上段において、dEsparse(i-1)、dEsparse(i)、dEsparse(i+1)は、それぞれ、i-1、i、i+1の非0ビンの各々に対応するビン幅を示している。生成部122は、ステップS103において、dEsparse(i)を、i-1番目の非0ビンに付随する分散、i番目の非0ビンに付随する分散、及びi+1番目の非0ビンに付随する分散に応じて決定する。このように、生成部122は、出力データにおける対象ビンのビン幅を、対象ビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの周辺のビンであって度数が0であるビンの数に応じて導出する。
【0067】
一例として、生成部122は、出力データにおける対象ビンであるi番目のビンのビン幅を、
出力データにおけるi番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンと、前記出力データにおけるi-1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第1のビン数と、
出力データにおけるi番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンと、前記出力データにおけるi+1番目のビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンとの間に存在する度数が0であるビンの数である第2のビン数と
に応じて導出する。他のビン幅についても同様である。
【0068】
より具体的には、生成部122は、ステップS103において、dEsparse(i)を、i-1番目の非0ビンに付随する誤差の分散、i番目の非0ビンに付随する誤差の分散、及びi+1番目の非0ビンに付随する誤差の分散と正の相関を有するように決定する。他のビン幅についても同様である。
【0069】
更に具体的に言えば、一例として、生成部122は、一例として、dEsparse(i)を、
dEsparse(i) = ΔE(i-1,i)×w1 + ΔE(i,i+1)×w2
によって決定する。ここで、w1とw2とは、それぞれ、ΔE(i-1,i)に乗ぜられる重み係数と、ΔE(i,i+1)に乗ぜられる重み係数とを示しており、
w1 + w2 =1
を満たすように選ばれる。一例として、w1及びw2を共に1/2とすることができるが、これは本実施形態を限定するものではなく、他の重み係数を用いてもよい。例えば、ΔE(i-1,i)に乗ぜられる重み係数w1をΔE(i-1,i)に依存した値としてもよいし、ΔE(i,i+1)に乗ぜられる重み係数w2をΔE(i,i+1)に依存した値としてもよい。
【0070】
図4の下段は、ステップS103において生成部122が生成する正規化後のデータ(出力データ)の一例を示す図である。図4の下段に示すように、生成部122が生成する出力データは、図4の上段において説明したビン幅を有する。また、生成部122は、出力データに含まれる各ビンの度数Nnormを、
Nnorm(i) = N sparse(i)/dEsparse(i)
によって導出する。換言すれば、生成部122は、対象ビンに対応する前記スパースコーディング後データにおけるビンの度数を、当該対象ビンのビン幅によって除算するという正規化処理により、出力データにおける対象ビンの度数を導出する。
【0071】
(スパースコーディングの詳細)
以下では、生成部122が実行するスパースコーディングの詳細について説明する。図5は生成部122が実行するスパースコーディングの処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下では、所謂フーバー損失付L1正則化を有するアルゴリズム(L1-Constrainted Huber Loss Minimization)に沿った処理について説明するが、これは本実施形態を限定するものではない。ただし、一適用例において、L1正則化を有するアルゴリズムは、一般的な最小二乗法や、L2正則化を有するアルゴリズムよりも好適であることが発明者によって確かめられている。
【0072】
(ステップS1021)
まず、生成部122は、取得部121を介して、入力データを取得する。本ステップにおいて取得した入力データは、後述するステップにおける測定値yに対応する。
【0073】
(ステップS1022)
続いて、生成部122は、応答関数Φを設定する。ここで、応答関数Φは、ステップS1021において取得した入力データに含まれる誤差のプロファイルと同様のプロファイルを有するように設定される。
【0074】
一例として、生成部122は、ステップS1021において取得した入力データ中の各値に付随する誤差の分散を示す情報を取得し、取得した情報に基づき、応答関数Φとして、階級に応じた分散を表現する誤差を内包する関数を採用する。
【0075】
(ステップS1023)
続いて、ステップS1023において、生成部122は、ループインデックスnを1に設定する。また、本ステップにおいて、初期パラメータθ1を設定する。より具体的には、ステップS1022において設定した応答関数Φと、ステップS1021において取得した測定値yとを用いて、
【数1】
によって初期パラメータθ1を設定する。ここで、太文字は、ベクトル又は行列を表す。パラメータθは、ループインデックスnの値をインクリメントしながら、後述するループ処理によって次々と更新される。また、応答関数Φは、上述したように、入力データに含まれる誤差に応じた応答関数である。
【0076】
また、応答関数Φの肩の「ダガー」は、当該応答関数Φの行列に対して転置及び複素共役演算を行うことを示している。
【0077】
(ステップS1024)
続いて、ステップS1024において、ループインデックスnを設定又は変更(更新)する。本ステップでは、ループの開始において、ループインデックスnをn=1に設定する。また、本ステップではループ処理の繰り返し時にループインデックスnをインクリメントする。
【0078】
(ステップS1025)
本ステップにおいて、生成部122は、重み行列Wと、正則行列Θとを、現在のθから以下のように算出する。ここで現在のθとは、ループインデックスnによって指定されるθのことを指す。
【数2】
【数3】
ここで、重みwiは、
【数4】
によって定義される。ここで、残差reiは、
【数5】
によって定義される。また、ηは、外れ値と正常値とを区別するための閾値である。また、θに付されている添え字bは、入力データに含まれる階級の数に対応している。
【0079】
なお、重み行列Wの成分wに付されている添え字nは、重み行列Wの成分数を示しており、上述したループインデックスとは意味が異なる。
【0080】
(ステップS1026)
続いて、生成部122は、現在のθを用いて算出される値を、θn+1に代入することによってθを更新する。より具体的には、生成部122は、
【数6】
によって、θを更新する。ここで、λは、システムによって最適化されたL1正規化係数としての意味を有する。また、応答関数Φの肩の「T」は、当該応答関数Φの行列を転置することを示している。
【0081】
また。本ステップにおいて、θn+1の各成分が0より大きな正の値となるように、以下の制約条件を課す。
【数7】
ここで、θi は、θn+1の各成分を示す。
【0082】
(ステップS1027)
生成部122は、上述したステップS1025及びステップS1026を、ノルム
【数8】
が収束するまで繰り返す。換言すれば、生成部122は、上記ノルムが収束したと判定した場合には処理を終了し、上記ノルムが収束していないと判定した場合には、ステップS1024に戻り、ループインデックスnをインクリメントしたうえで処理を続ける。
【0083】
このようにして得られたθが、上述した説明におけるスパースコーディング後データであり、すでに説明したように、一般に、複数の非0ビンと、非0ビンの間に存在する0ビンとを有している。
【0084】
また、このようにして得られたスパースコーディング後データにおいて、応答関数Φのプロファイルの幅(分散)と、ビン幅との間には正の相関が存在することが分かっている。そして、本実施形態では、応答関数Φのプロファイルは、入力データに含まれる誤差のプロファイルに整合するように選択される。したがって、本実施形態に係る上記の構成によれば、誤差を伴う入力データから、当該入力データの誤差に応じたビン幅を有する出力データを生成する。このため、例えば一定のビン幅を有する出力データを生成する構成に比べて、真の分布をより好適に再現することができる。
【0085】
<実施例1>
以下では、本実施形態に係るデータ処理装置1の一実施例について説明する。本例ではデータ処理装置1をインライン電子磁気分光計に適用した。本例では、データ収集装置50を具体的に作成し、当該データ収集装置50の設計データを用いたシミュレーションにより電子線のエネルギーデポジットに関する入力データを生成した。そして、当該入力データに対してスパースコーディング及び正規化処理を適用することによって、生成部122によるアルゴリズムの検証を行った。
【0086】
(理論的モデル)
本実施例の実際の構成の説明に先立ち、コリメータ、電子偏向磁石部、シンチレータ部、およびシンチレータ発光を測定する検出部を含むインライン電子磁気分光計の理論モデルについて説明する。
【0087】
このインライン電子磁気分光計では、コリメータ径rを大きくすると、電子線のフラックスが増加し、信号対雑音比(S/N)が増大する。しかしながら、同時に、電子分布の分散が増加する。したがって、シンチレータ上の任意の所定の点で測定された信号は、電子のエネルギーが混合されたものとなる。すなわち、より大きなコリメータを用いることは、信号分離問題を生じさせる。
【0088】
EminとEmaxの間の測定範囲において、分光計によって位置zにおいて検出されるシンチレータ光の測定値y(z)は、連続関数表現で、
【数9】
となる。ここで、φ(r,z,E)はシンチレータにおける電子の応答関数(emission functionとも呼ぶ)であり、rはコリメータの直径であり、Eは、シンチレータの位置zにおける電子のエネルギーである。θspec(E)は、実際の電子のスペクトルである。このように、実際の電子のスペクトルは、測定値y(z)と応答関数φ(r,z,E)とから求めることができる。
【0089】
シンチレータ光は、離散的なエネルギースペクトルから再現することもできる。このため、測定モデルは、ベクトル表現の線形回帰モデルとして定義することもできる。具体的には、当該測定モデルは、
【数10】
と表される。ここで、fθ(z)は、位置zにおいて検出されるシンチレータ光の測定値である。また、応答関数φE(z)は、基底関数とも呼ばれる。
【0090】
(データ収集装置の構成)
続いて、データ収集装置50の構成について説明する。図6は、本実施例に係るデータ収集装置50の構成を示すブロック図である。
【0091】
図6に示すように、データ収集装置50は、電子偏向磁石部52、シンチレータ部53、及びシミュレーション部501を備えている。
【0092】
電子偏向磁石部52は、電子線発生部が発生した電子線を入射させるものであるが、本例では、実際には電子線を生成する代わりに、シミュレーション部501によって、シミュレーションコードPHITS(Particle and Heavy Ion Transport code System)によるシミュレーションを実行した。
【0093】
シミュレーション部501には、電子線発生部の設計パラメータ、電子偏向磁石部52の設計パラメータ、及びシンチレータ部53の設計パラメータが供給され、PHITSによるシミュレーションに用いられる。
【0094】
(電子偏向磁石部及びシンチレータ部)
電子偏向磁石部52は、複数の磁石を有している。電子線発生部から電子偏向磁石部52に、図7に示すz方向正の向きで入射した電子線は、これらの磁石による磁場によって曲げられる。
【0095】
シンチレータ部53には、電子偏向磁石部52の磁場によって曲げられた電子線が入射する。シンチレータ部53は、入射した電子線のエネルギーデポジットに応じた輝度で発光する。より具体的には、シンチレータ部53の発光輝度は、電子線のエネルギーデポジットと正の相関を有する。シンチレータ部53のより詳細な設計については後述する。
【0096】
図7の上段に、電子偏向磁石部52の模式的な斜視図を示す。図7に示すように、電子偏向磁石部52には、10mm径のコリメータ孔が形成されており、当該コリメータ孔に、電子線発生部が発生させた電子線が入射する。
【0097】
なお、本実施例において、電子偏向磁石部52の幅Wは45mm、電子偏向磁石部52の長さLは280mm、電子偏向磁石部52の高さHは、90mmとした。
【0098】
図7の下段左側は、電子偏向磁石部52と、当該電子偏向磁石部52に取り付けられたシンチレータ部53との外観図を示している。また、図7の下段右側は、電子偏向磁石部52が発生させる磁場の強度プロファイルを示している。当該強度プロファイルのグラフにおいて、点は実測値を示し、実線は3次元磁場シミュレーションによる計算値を示している。同図から分かるように、実測値と計算値は高い精度で一致している。
【0099】
図8の上段は、電子偏向磁石部52及びシンチレータ部53の設計データに基づく、シミュレーションコードPHITSによるシミュレーション結果を示す図である。同図は、電子偏向磁石部52によって曲げられた電子線のフラックスとシンチレータ部53の配置との位置関係を示す図である。ここで、本実施例に係るシンチレータ部53は、図8において「Scintillator_1」として示した位置に配置される。「Scintillator_2」として示した位置は比較用に図示しているものである。
【0100】
図8の上段に示すように、電子偏向磁石部52によって曲げられた電子線は、エネルギー毎に複数のフラックスに分割される。そして、電子偏向磁石部52(集束部)は、電子線(粒子ビーム)を、1又は複数の集束点に集束させる。図8に示す例では、Maxwell温度が5MeV、20MeV、50MeV、100MeVの各エネルギーを有する電子線のフラックスを示した。
【0101】
また、図8の上段に示すように、本実施例に係るシンチレータ部53は、「Scintillator_1」として示すように、各電子線フラックスが集束する点を繋ぐように配置される。換言すれば、シンチレータ部53は、前記1又は複数の集束点に配置される。
【0102】
図8の下段左側は、PHITSによるシミュレーション結果を示す図であり、シンチレータ部53にて検出される電子線のエネルギーデポジットを縦軸(単位はa.u.(Arbitrary Unit))とし横軸をz(単位はcm)として示したグラフである。
【0103】
図8の下段左側に示すように、Maxwell温度が5MeV、20MeV、50MeV、100MeVの各電子線に対応して、それぞれのエネルギー分布が検出される。同図に示すように、それぞれのエネルギーデポジットの分布は、横軸をzとして、ガウス型の誤差関数のプロファイルに略一致するプロファイルを有している。
【0104】
図8の下段右側は、PHITSによるシミュレーション結果を示す図であり、比較用に「Scintillator_2」の位置に配置されたシンチレータによって検出される各電子線のエネルギーの分散と、「Scintillator_1」の位置に配置されたシンチレータ部53によって検出される各電子線のエネルギーの分散とを示すグラフである。
【0105】
図8の下段右側に示すように、シンチレータ部53を「Scintillator_1」の位置に配置することにより、「Scintillator_2」の位置に配置された場合に比べて、検出された各電子線のエネルギーの分散が低く抑えられることが分かる。
【0106】
本例では、生成部122は、PHITSによるシミュレーションで生成したエネルギーデポジットの分布を入力データとし、当該入力データに対してスパースコーディング処理を行った。また、本例では、フーバー損失付L1正則化アルゴリズムを用いた。スパースコーディングに用いる応答関数は、図8の下段左側に示したエネルギーデポジットの分布に整合するプロファイルを有する応答関数を用いた。本実施例では、図8の下段左側に示したエネルギーデポジットの各分布は、ガウス型の誤差関数のプロファイルに類似しているため、応答関数Φの各成分として、ガウス型の応答関数φE
【数11】
を用いた。ここで、パラメータzEは、応答関数の位置を示している。また、係数AE及び分散sEは、それぞれ、電子線のエネルギーに依存するパラメータである。係数AE及び分散sEは、電子線発生部の出射窓直後を基準位置として、大気中を輸送してシンチレータ部53へ付与された電子線のエネルギーデポジットの計算結果を用いて、シミュレーションコードPHITSにより算出した値を用いた。
【0107】
図9の上段左側は、スパースコーディング処理におけるパラメータθの収束を示すグラフである。同図に示すように、パラメータθのノルムは、反復回数が100を超えると十分な収束が示された。
【0108】
図9の上段右側には、PHITSシミュレーションに基づくMaxwell温度5MeVの電子線によるオリジナルのエネルギーデポジット(Deposited @ Scintillator)、当該エネルギーデポジットをスパースコーディングした結果(Sparse coding)、及び、当該スパースコーディングした結果を、式9に代入することによって再構築されたシンチレータ上のエネルギー分布(Reconstructed)を示している。
【0109】
図9の上段右側に示すように、スパースコーディングによって離散的な分布に構造化されていることが見て取れる。また、スパースコーディングの結果を用いて再構築されたエネルギーデポジットの分布は、スパースコーディング後の離散的な分布を用いているにも関わらず、オリジナルのエネルギーデポジットを好適に再現することが見て取れる。
【0110】
ここで、図9の上段右側では、横軸(階級)がエネルギーとして表現されている。このように、生成部122は、シンチレータ上の位置zを横軸(階級)として表現された分布を変換することによって、エネルギーを横軸(階級)として表現された分布を生成する。 一般に、横軸をエネルギーとして入力データを表現すると、当該入力データの誤差のプロファイルにロングテール等が含まれてしまう場合がある。この場合、応答関数としてもロングテールを表現するものを用いる必要があるため、スパースコーディング処理の処理量が増大したり、ノルムの収束性が低下したりといった問題が生じやすい。
【0111】
上記の構成では、シンチレータ上の位置zを横軸とする入力データに対してスパースコーディング処理を行い、そのうえで、横軸をエネルギーに変換するので、スパースコーディング処理の処理量が増大したり、ノルムの収束性が低下したりといった問題を好適に抑制することができる。
【0112】
続いて、生成部122により、スパースコーディング後の分布における各ビンの度数(本例ではエネルギーデポジット)を、当該スパースコーディング後の分布におけるビン幅を用いて正規化した。正規化演算部1223による正規化処理は、図4を用いて説明した処理と同様であるのでここでは再度の説明を省略する。
【0113】
図9の下段左側には、スパースコーディング後の分布(Sparse Coding)と、スパースコーディング後の分布を正規化することによって得られた正規化後の分布(Decoding)を示している。
【0114】
図9の下段右側には、PHITSシミュレーションに基づくMaxwell温度5MeVの電子線によるエネルギーデポジット(Deposited @ Scintillator)、当該エネルギーデポジットの分布からスパースコーディング及び正規化処理により得られた正規化後の分布(Decoding)、及び、PHITSにより求めた電子線のオリジナルのエネルギースペクトルを示している。同図に示すように、スパースコーディング及び正規化処理により、オリジナルのエネルギースペクトルが好適に再現されることが分かる。また、正規化後の分布から電子線の電子温度を求めたところ、
Te=4.98MeV
となり、PHITSの計算において仮定したTe=5MeVと高精度で一致することも分かった。
【0115】
(従来例との比較)
図10は、本例に係る手法と、従来例に係る手法との対比を説明するための図である。図10の上段左側は、Maxwell温度5MeVの電子線について従来例に係る手法を用いて導出されたエネルギースペクトルを示している。同図において○印は真の分布を示しており、実線は一般的に多用される計測値を応答関数で補正するという従来例の解析手法によって導出されたスペクトルを示している。同図に示すように、従来例に係る手法では、誤差部分のクロストークがあるために、エラーバーの範囲ですら真の分布と重なっておらず、誤差のクロストークの影響で黒矢印分だけ真の分布と異なるスペクトルが導出されてしまう。
【0116】
一方、図10の上段右側は、Maxwell温度5MeVの電子線について本例に係る手法を用いた導出されたエネルギースペクトルを示している。本例に係る手法を用いて導出されたスペクトル(実線)は、真の分布(○印)に極めて一致している。また、本例に係る手法では、スパースコーディングにてビン幅が自動設定されているために、ビン幅は低エネルギー領域と高エネルギー領域では一様にはならず好適化されている。
【0117】
同様に、図10の下段左側は、Maxwell温度15MeVの電子線について従来例に係る手法を用いた導出されたエネルギースペクトルを示している。また、図10の下段右側は、Maxwell温度15MeVの電子線について本例に係る手法を用いた導出されたエネルギースペクトルを示している。Maxwell温度15MeVの電子線についても、従来例の手法では、真の分布を再現することができていない一方、本例に係る手法で導出されたスペクトル(実線)は、真の分布(○印)に極めて一致している。
【0118】
(考察)
スパースコーディングされたスペクトルは、シミュレーションで仮定したTe=5MeVのMaxwell分布にはならず、離散的な分布となった。これは、全ての応答関数の和の表現でスペクトル解を求めるのではなく、最小数の応答関数の和でスペクトル解を求めるほうが好適であることを示唆している。
【0119】
これは、応答関数を用いたスパースコーディングにより、信号に誤差分散のクロストークによって「互いに素」にならない区間に存在する複数電子の重なりが、シュリンケージされ「互いに素」に最も近い形状表現が得られることを示している。
【0120】
そして、スパース化された結果に対して、上述した正規化処理を適用することにより、上記シュリンケージされた結果から、「互いに素」に最も近いエネルギービン幅となる電子分布が再現されることが示された。
【0121】
(シンチレータ部の配置の詳細)
以下では、本実施例に係るシンチレータ部53の具体的配置の詳細について、図11を参照して説明する。上述したように、シンチレータ部53は、電子偏向磁石部52によって曲げられた電子線の1又は複数の集束点に配置されるが、これらの収束点は以下のように求められる。
【0122】
まず、電子の質量をmeと表したとき、その運動エネルギーは
【数12】
であるので、相対論を考慮した速度vは、
【数13】
と求まる。ここで、上式において、βは、β=v/cによって与えられ、cは光速を示している。一方で、運動量mvは、
【数14】
なので、計算の後、mvは、
【数15】
と求まる。したがって、ラーマ半径rbは、
【数16】
と求まる。すなわち、ラーマ半径は、磁場の強さと入射電子エネルギーとで決まる。なお、上式において、qは電子の電荷を示しており、Bは磁束密度を示している。
【0123】
図11に示す電子ビームの端を規定する2つの軌跡は、磁場中で、中心(0,rb)で半径rbの円と、中心(0,rb+a)で半径rbの円として表される。ここで、定数aは磁石のサイズによって定まる定数である。従って、これら2つの式は、図11の座標を用いた三平方の定理により、
【数17】
で与えられる。ここでy1=y2=bとなる座標は、y1=b、及びy2=bを、それぞれ式15の2つの式に代入し、z1、及びz2について解くことによって、
【数18】
によって与えられる。ここで、定数bは、磁石のサイズによって定まる定数である。これらの座標における接線は、
【数19】
で与えられる。したがって、集束点は、上記2つの接線の交点として与えられる。式14及び式17から分かるように、電子のエネルギーが変わると、ラーマ半径も変わり、上記2の接線の交点も変わる。このようにして、図11に示す複数の交点C1~C3が求まり、これら複数の交点を繋ぐようにして、シンチレータ部53が配置される。
【0124】
なお、シンチレータ部53の配置の仕方は上述の手法に限定されるわけではなく、例えば、2次元および3次元磁場シミュレーションによって数値的に決定される構成としてもよい。
【0125】
<実施例2>
以下では、本実施形態に係るデータ処理装置1の他の実施例について説明する。本例では、データ処理装置1を実際の電子ビームに関するエネルギースペクトルの測定及び線量分布の測定に適用した。
【0126】
図12は、本実施例に係るデータ処理装置1、データ収集装置50、及びデータ提示装置60の構成を示すブロック図である。
【0127】
本例に係るデータ提示装置60はスペクトル表示部61を備え、生成部122によって求められた各種のスペクトルを表示する。
【0128】
(データ収集装置)
図12に示すように、データ収集装置50は、電子線発生部51、電子偏向磁石部52、シンチレータ部53、及び検出部54を備えている。また検出部54は、図12に示すように、発光計測部541、及び画像生成部542を備えている。
【0129】
図13の上段左側は、本例に係る電子線発生部51、電子偏向磁石部52、シンチレータ部53、及び検出部54の相対的配置を模式的に示す外観図である。図13の上段左側に示すように電子線発生部51と電子偏向磁石部52とを0.5m離間して配置し、検出部54をシンチレータ部53から1.5m離間して配置した。
【0130】
電子線発生部51は、電子線を発生させる。発生された電子線は、電子偏向磁石部52に対して向き付けられる。本例に係る電子線発生部51としてLINAC(Linear Particle Accelerator)を用いた。
【0131】
本例では、Maxwell温度9MeVの電子線ビームを、コリメータ位置において4pC(ピコクーロン)程度になるように、電子偏向磁石部52に入射させた。
【0132】
(電子偏向磁石部及びシンチレータ部)
電子偏向磁石部52及びシンチレータ部53については、実施例1において説明した構成と同様の構成を用いたため説明を省略する。
【0133】
(検出部)
検出部54は、図12に示すように、発光計測部541、及び画像生成部542を備えている。発光計測部541はCCDカメラを備え、シンチレータ部53の発光を計測する。
【0134】
画像生成部542は、発光計測部541が計測した発光を表す画像データを生成する。そして、画像生成部542は、生成した画像データを、データ処理装置1の生成部122に供給する。
【0135】
本例では、検出部54の発光計測部541が備えるCCDカメラの露光時間は100ミリ秒とし、2画像分を平均化したものを記録した。
【0136】
Maxwell温度9MeVの電子線ビームのシンチレータ部53での発光は、図13の上段左側の(a)に示すような形状で計測された。
【0137】
(生成部)
図12に示すように、本実施例に係るデータ処理装置1が備える生成部122は、前処理演算部1221、スパースコーディング演算部1222、及び正規化演算部1223を備えている。
【0138】
前処理演算部1221は、画像生成部542が生成した画像データから、放射線ノイズ等のノイズを除去することによりノイズ除去済データを生成する。そして、前処理演算部1221は、ノイズ除去済データから輝度分布を生成する。本例では、前処理演算部1221は、図13の上段左側の(a)に示した形状を縦方向に積分し、1次元輝度分布にすることによってスパースコーディング演算部1222への入力データを生成した。
【0139】
ここで、上述したようにシンチレータ部53による輝度は、シンチレータ部53における電子線のエネルギーデポジットと正の相関を有しているので、前処理演算部1221は、ノイズ除去済データから生成した輝度分布を変換することによってエネルギーデポジットの分布を生成することができる。なお、当該エネルギーデポジットの分布を示すグラフのビン数は、画像生成部542が生成した画像データの横方向の画素数に対応する。
【0140】
スパースコーディング演算部1222は、前処理演算部1221が生成したエネルギーデポジットの分布を入力データとし、当該入力データに対してスパースコーディング処理を行う。本例では、フーバー損失付L1正規化アルゴリズムを用いた。スパースコーディング処理のアルゴリズムについては実施例1と同様であるためここでは説明を省略する。ただし、スパースコーディングに用いた応答関数は、検出部54が検出したエネルギーデポジットの分布に整合するプロファイルを有する応答関数を用いた。
【0141】
図13の上段右側は、パラメータθのノルムの収束を示すグラフである。同図に示すように、パラメータθのノルムは、反復回数の増加と共に集束した。
【0142】
図13の下段左側は、スパースコーディング後の分布(Sparse Feature)と、シンチレータ部53にデポジットされたオリジナルのエネルギーデポジット(Original)と、スパースコーディング後の分布を、応答関数を用いることによって再構築されたシンチレータ上のエネルギースペクトル(Reconstructed)とを示している。スパースコーディングの結果を用いて再構築されたエネルギースペクトルは、スパースコーディング後の離散的な分布を用いているにも関わらず、オリジナルのエネルギースペクトルを好適に再現することが見て取れる。
【0143】
図13の下段右側は、スパースコーディングによって数値的に計算された線量分布と、ウォーターファントムを用いて実測した線量分布とを示す図である。同図に示すように、スパースコーディングによって数値的に計算された線量分布(丸印)と、実測の線量分布(実線)との差は、平均で10%程度に抑えられている。要するに、これによりスパースコーディングが真の分布の形状を最小限の特徴量で表しており、その特徴量にて物理量計算が可能であるということが実証されている。
【0144】
<実施例3>
以下では、本実施形態に係るデータ処理装置1の他の実施例について説明する。本例では、データ処理装置1を、レーザ駆動電子ビームの測定に適用し、生成部122によるアルゴリズムのロバスト性について検証した。
【0145】
図14は、本実施例に係るデータ処理装置1、データ収集装置50、及びデータ提示装置60の構成を示すブロック図である。図14に示すように、本例に係る電子線発生部51は、レーザ発生部511、及びターゲット512を備えている。
【0146】
本例では、レーザ発生部511によって生成したレーザを、ターゲット512に入射させ、ターゲット512にて発生した電子線を電子偏向磁石部52に入射させた。より具体的には、レーザ発生部511により10J(ジュール)、35fs(フェムト秒)でレーザを発生させ、当該レーザを、単位面積当たりの光強度8×1021W/cm2に集束させ、厚さ5μmのSUSであるターゲット512に入射角45度で入射させた。電子偏向磁石部52及びシンチレータ部53は、ターゲット512の後方150cmの位置に配置した。
【0147】
電子偏向磁石部52、シンチレータ部53、検出部54、データ処理装置1、及びデータ提示装置60の構成は上述した実施例2と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0148】
図15の上から1段目は、検出部54が検出したシンチレータ部53による発光を示す画像である。
【0149】
図15の上から2段目は、スパースコーディング演算部1222が実行するスパースコーディング処理におけるパラメータθのノルムの収束を示すグラフである。同図に示すように、パラメータθのノルムは、反復回数の増加と共に集束した。
【0150】
図15の上から3段目は、発光強度(Measured Intensity)、スパースコーディング後の分布(Sparse coding)、及び正規化後の分布(Decoding)を示している。同図では、生成部122により位置zをエネルギーに換算することによって生成された、横軸がエネルギーのエネルギースペクトルを示している。
【0151】
同図に示すように、発光強度は、放射ノイズのため、数倍程度の変動を伴う。しかしながら、このような大きな変動が存在する場合であっても、パラメータのノルムは安定して収束し、スパースコーディング及び正規化処理によって、スペクトルの再構成に成功することが分かる。
【0152】
(実施形態1の付記事項1)
上述の例では、応答関数(基底関数)としてガウス型の関数を用いる場合について説明したが、これは本実施形態を限定するものではない。
【0153】
測定値における分散の大きさが分かれば、その分散の大きさを、ガウス型基底関数以外に、三角関数、多項式関数等の任意の基底関数にフィッティングしてもよい。また、測定値を利用した数理的なカーネル法にてカーネル基底関数で表現したり、関数変換によって基底関数に整合するよう入力データを変換したりしてもよい。ここで、基底関数間の重なりがより小さくなるように、基底関数等を選択することが好ましい。
【0154】
また、上述の手法では、フーバー損失付L1正則化を有するアルゴリズムを採用したが、これは本実施形態を限定するものではない。入力データの誤差に応じたビン幅を有する出力データを生成するアルゴリズムであれば、他のアルゴリズムを用いてもよい。
【0155】
そのようなアルゴリズムとして、入力データの誤差の大きさに正の相関を有するようにビン幅を決定し、当該ビン幅を有する出力データを生成するアルゴリズムも含まれる。また、そのようなアルゴリズムの適用に続いて、上述の正規化処理を適用することが好ましい。
【0156】
(実施形態1の付記事項2)
実施例1における説明において、生成部122は、第1の変数(例えば位置z)を横軸(階級)として表現された分布を変換することによって、第2の変数(例えばエネルギー)を横軸(階級)として表現された分布を生成することを説明したが、本実施形態は、生成部122によって、より能動的に変数変換を行うことにより、入力データ中の誤差のプロファイルとスパースコーディングに用いる応答関数のプロファイルを整合させる構成としてもよい。
【0157】
例えば、第2の変数によって表現される階級を用いるよりも、第1の変数によって表現される階級を用いたほうが、誤差のプロファイルと応答関数のプロファイルを整合させやすい状況を考える。このような状況において、入力データの階級が第2の変数によって表現されていた場合、生成部122は、当該入力データを変換することによって、階級が第1の変数で表現される変換後入力データを生成し、当該変換後入力データに対してスパースコーディングを行い、スパースコーディング後データに対して、上記変換の逆変換を適用することによって、第2の変数によって表現された階級を有するデータを生成する構成としてもよい。
【0158】
或いは、その逆に、データ収集装置50の構成を工夫することによって、入力データに含まれる誤差のプロファイルとスパースコーディングに用いる応答関数のプロファイルを整合させる構成としてもよい。このような工夫の一例が、上述したシンチレータ部53の設計である。
【0159】
なお、実施形態1では、物理量として、電子線の解析に適用した一例について説明したが、他に適用可能な物理量としては、音、光、画像、振動などの解析にも適用可能である。
【0160】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0161】
本実施形態では、データ処理装置1を、学力分布の推定に用いる。本実施形態に係るデータ処理装置は、図1に示した実施形態1に係るデータ処理装置1と略同様の構成であるが、本実施形態では、データ収集装置50は、学生に対して行ったテストの結果を収集する。
【0162】
本実施形態に係るデータ収集装置50及びデータ処理装置1の処理の流れについて、図16を参照して説明する。
【0163】
図16は、本実施形態に係るデータ収集装置50及びデータ処理装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
【0164】
(ステップS201)
ステップS201において、データ収集装置50は、ある科目に対して毎週行われる小テストの1年間の学生の得点群(第1の得点群)を取得する。
【0165】
(ステップS202)
そして生成部122は、ステップS202において、当該得点群の分布に適合するよう基底関数を設定する。より具体的には、一例として、当該得点群の分布の分散値と同じ分散値を有するガウス型の誤差関数を基底関数に設定する。
【0166】
(ステップS203)
続いて、ステップS203において、データ収集装置50は、年度末に行われる最終テストの得点群(第2の得点群)を取得する。
【0167】
(ステップS204)
そして生成部122は、ステップS204において、ステップS202で設定した基底関数を用いて、最終テストの得点群の分布をスパースコーディングする。
【0168】
(ステップS205)
続いて、ステップS205において、生成部122は、ステップS204で得られたスパースコーディング後データに対して正規化処理を行う。
【0169】
(ステップS206)
続いて、ステップS206において、生成部122は、ステップS205で得られた正規化後のデータを出力する。
【0170】
このように構成されたデータ処理装置1によれば、最終テストのヒストグラムから1年間の得点群の揺らぎを踏まえたうえでの真の学力分布を推定することができる。
【0171】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0172】
本実施形態では、データ処理装置1を、年収分布の推定に用いる。本実施形態に係るデータ処理装置は、図1に示した実施形態1に係るデータ処理装置1と略同様の構成であるが、本実施形態では、データ収集装置50は、各世帯における世帯年収を示すデータを収集する。
【0173】
本実施形態に係るデータ収集装置50及びデータ処理装置1は、例えば以下のような処理を行う。
【0174】
データ収集装置50は、世帯主の年齢群毎に、複数年の世帯年収を示すデータを取得する。そして、生成部122は、当該データのヒストグラムに適合するよう基底関数を設定する。生成部122は、当該基底関数を用いたスパースコーディングを実行し、更に正規化処理を実行することによって、世帯収入の経時変化を踏まえたうえで、各年齢層世帯が真に感じる年収分布を推定することができる。
【0175】
このように、データ処理装置1は、スペクトル解析等の科学領域の計量値だけでなく教育、経済などの社会科学領域を含む広い領域の計量値の分析に適用可能である。
【0176】
〔ソフトウェアによる実現例〕
データ処理装置1の制御ブロック(特に取得部121、生成部122)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0177】
後者の場合、データ処理装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0178】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0179】
1 データ処理装置
11 入出力部
12 制御部
13 メモリ
50 データ収集装置
51 電子線発生部
52 電子偏向磁石部
53 シンチレータ部
54 検出部
60 データ提示装置
61 スペクトル表示部
121 取得部
122 生成部
501 シミュレーション部
511 レーザ発生部
512 ターゲット
541 発光計測部
542 画像生成部
1221 前処理演算部
1222 スパースコーディング演算部
1223 正規化演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図15
図16
図17