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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】アンモニアセンサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20240527BHJP
   D06M 11/44 20060101ALI20240527BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240527BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240527BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20240527BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
G01N27/04 E
D06M11/44
B82Y30/00
B82Y40/00
D06M11/83
D06M101:40
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020056877
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021155878
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】金 翼水
(72)【発明者】
【氏名】ダボード カラガニ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕二
(72)【発明者】
【氏名】パラスト ギティガード
(72)【発明者】
【氏名】サナ ウラ
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-149954(JP,A)
【文献】特開2014-052237(JP,A)
【文献】特開2018-076192(JP,A)
【文献】特開平08-325195(JP,A)
【文献】特開2008-222490(JP,A)
【文献】特開2016-062891(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157506(WO,A1)
【文献】B. Pant, et al.,"Ag-ZnO photocatalyst anchored on carbon nanofibers: Synthesis, characterization, and photocatalytic activities",Synthetic Metals,2016年,Vol.220,p.533-537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M
B82Y
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバーの表面に銀ナノ物質及び酸化亜鉛ナノ物質が担持されている複合カーボンナノファイバーを有するアンモニア検出部と、前記アンモニア検出部と電気的に接続されている抵抗変化検出部とを備えることを特徴とするアンモニアセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア(NH)は工業的に有用な物質であり、主に窒素源として用いられる。しかし、アンモニアは毒性を有する他、環境汚染源ともなり得る。このため、アンモニアの工業的な利用のためには、アンモニアの漏出を検出するためのアンモニアセンサーが不可欠である。このため、従来から様々な種類のアンモニアセンサーが開発されてきた(例えば、特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-250999号公報
【文献】特開2017-67136号公報
【文献】特開2003-61715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アンモニアセンサーに求められる性能のうち、「(1)感度(sensitivity)」、「(2)選択性(selectivity)」及び「(3)高速応答(fast response)」は特に重要なものである。アンモニアセンサーの技術分野においては、上記の性能を向上させることが常に求められている。
【0005】
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、特に重要な性能である「(1)感度」、「(2)選択性」及び「(3)高速応答」の全てを高い水準で有する新規なアンモニアセンサーを提供することを目的とする。また、当該アンモニアセンサーにおいてアンモニアの検出を担う複合カーボンナノファイバー(複合CNF)及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合カーボンナノファイバーは、カーボンナノファイバーの表面に銀ナノ物質及び酸化亜鉛ナノ物質が担持されていることを特徴とする。
【0007】
本発明のアンモニアセンサーは、カーボンナノファイバーの表面に銀ナノ物質及び酸化亜鉛ナノ物質が担持されている複合カーボンナノファイバーを有するアンモニア検出部と、前記アンモニア検出部と電気的に接続されている抵抗変化検出部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の複合カーボンナノファイバーの製造方法は、カーボンナノファイバーを準備するカーボンナノファイバー準備工程と、前記カーボンナノファイバーに銀ナノ物質及び酸化亜鉛ナノ物質を担持する担持工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合カーボンナノファイバー(複合CNF)は、アンモニアセンサーにおいてアンモニアの検出を担う構成要素として用いることで、後述する実施例に示すように、「(1)感度」、「(2)選択性」及び「(3)高速応答」の全てを高い水準で有するアンモニアセンサーを実現することが可能となる。また、本発明の複合カーボンナノファイバーの製造方法によれば、上記のような本発明の複合カーボンナノファイバーを製造することが可能となる。
【0010】
本発明のアンモニアセンサーは、本発明の複合カーボンナノファイバーを用いるため、「(1)感度」、「(2)選択性」及び「(3)高速応答」の全てを高い水準で有するアンモニアセンサーとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1の模式図。
図2】実施形態に係るアンモニアセンサー10の模式図。
図3】実施例におけるナノファイバー、カーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーのSEM画像。
図4】実施例におけるカーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーの比表面積の測定結果を示すグラフ。
図5】実施例におけるナノファイバー、カーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーのTEM画像。
図6】実施例におけるカーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーのXRDパターン及びXPSパターンを示すグラフ。
図7】実施例における複合カーボンナノファイバーの抵抗の変化パターンを示すグラフ。
図8】実施例における複合カーボンナノファイバーの抵抗の変化パターンにおける抵抗変化の範囲を示すグラフ。
図9】実施例におけるアンモニアセンサーの選択性及び感度を示す棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の複合カーボンナノファイバー、アンモニアセンサー及び複合カーボンナノファイバーの製造方法について、図に示す実施形態に基づいて説明する。各図面は模式図であり、必ずしも実際の構造や構成を厳密に反映したものではない。以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。
【0013】
[実施形態]
1.複合カーボンナノファイバー
図1は、実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1の模式図である。
【0014】
実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1(複合CNF)においては、カーボンナノファイバー2上に銀ナノ物質4及び酸化亜鉛ナノ物質6が担持されている。実施形態においては、銀ナノ物質4は銀ナノ粒子(AgNPs)であり、酸化亜鉛ナノ物質6は亜鉛ナノロッド(ZnONRs)である。なお、複合カーボンナノファイバーは、一種の導電線として利用されることを重視して「複合カーボンナノワイヤー」と呼称することもできる。
【0015】
本明細書における「ナノファイバー(NF)」は、繊維径がナノメートルスケール(本明細書においては1000nm以下)の極細繊維のことをいう。
本明細書における「ナノ物質」は、ナノメートルスケールの構造(粒径や断面積)を有する微細物質のことをいう。
本明細書における「ナノ粒子(NPs)」は、粒子径がナノメートルスケールの微細粒子のことをいう。
本明細書における「ナノロッド(NRs)」は、最大太さがナノメートルスケールであり、かつ、軸方向の長さが最大太さの2倍以上である微細柱状物質(棒状の微細物質)のことをいう。
【0016】
カーボンナノファイバー2は、主に炭素からなるナノファイバーである。本明細書における「主に炭素からなる」とは、炭素がカーボンナノファイバー2における繊維部分の全重量の50%以上を占めていることをいう。導電性及び化学的安定性の観点からは、上記割合が70%以上であることが好ましく、90%以上であることが一層好ましく、95%以上であることがより一層好ましい。
【0017】
銀ナノ粒子は銀からなるナノ粒子であり、酸化亜鉛ナノロッドは酸化亜鉛からなるナノロッドである。酸化亜鉛ナノロッドは、単独の柱状物質であってもよいし、図1に示すように複数の柱状物質が根元で結合しているものであってもよい。
【0018】
2.複合カーボンナノファイバーの製造方法
実施形態に係る複合カーボンナノファイバーの製造方法は、実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1を製造するための方法であり、カーボンナノファイバー準備工程と、担持工程とを含む。
【0019】
カーボンナノファイバー準備工程は、カーボンナノファイバー2を準備する工程である。カーボンナノファイバーの製造方法については広く知られているため、詳細な説明は省略するが、例えば、適切な高分子(例えば、ポリアクリロニトリル)からなるナノファイバー(図示せず。)を形成し、その後当該ナノファイバーを炭化することでカーボンナノファイバー2を得ることができる。
【0020】
担持工程は、カーボンナノファイバー2に銀ナノ物質4及び酸化亜鉛ナノ物質6を担持する工程である。
【0021】
実施形態に係る担持工程は、銀イオンを含む溶液にカーボンナノファイバー2を浸漬し、塩基性物質を加えて銀を含有する物質をカーボンナノファイバー2の表面に析出させ、その後カーボンナノファイバーを熱処理することで、銀ナノ物質4を銀ナノ粒子としてカーボンナノファイバー2に担持する工程を含む。
【0022】
銀イオンを含む溶液としては、銀の塩の水溶液(例えば、硝酸銀水溶液)を好適に用いることができる。塩基性物質としては、強アルカリ性の水溶性化合物(例えば、水酸化ナトリウム)を好適に用いることができる。銀を含有する物質とは、熱処理で単体の銀にできる物質(例えば、水酸化銀(I)や酸化銀(I))である。
【0023】
実施形態に係る担持工程は、亜鉛イオン及び亜鉛イオンを還元可能な物質を含む溶液にカーボンナノファイバー2を浸漬し、50℃~100℃の範囲内で保温しながら亜鉛を含有する物質をカーボンナノファイバー2の表面に析出させ、その後酸素存在下でカーボンナノファイバー2を熱処理することで、酸化亜鉛ナノ物質6を酸化亜鉛ナノロッドとしてカーボンナノファイバー2に担持する工程も含む。
【0024】
亜鉛イオンを含む溶液としては、亜鉛の塩の水溶液(例えば、硝酸亜鉛水溶液)を好適に用いることができる。亜鉛イオンを還元可能な物質としては、亜鉛を含有する物質を棒状に成長させるために、高温下(50℃~100℃)において析出に係る反応が比較的遅く進行する物質(例えば、メチルエチルケトン)を用いることが好ましい。亜鉛を含有する物質とは、熱処理により酸化亜鉛にできる物質(例えば、水酸化亜鉛)である。
【0025】
熱処理の温度は、例えば、それぞれ150℃~400℃の範囲内とすることができる。特に、酸化銀を分解して銀ナノ物質4を得るという観点からは、熱処理の温度は250℃以上とすることが好ましい。なお、銀ナノ物質4を銀ナノ粒子としてカーボンナノファイバー2に担持する工程と、酸化亜鉛ナノ物質6を酸化亜鉛ナノロッドとしてカーボンナノファイバー2に担持する工程とは、どちらを先に実施してもよい。また、両工程は並列で実施してもよい。つまり、銀ナノ物質4を得るための熱処理と酸化亜鉛ナノ物質6を得るための熱処理とをまとめて一度に実施してもよい(後述する実施例参照。)。
【0026】
以上の工程を実施することで、実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1を製造することができる。なお、複合カーボンナノファイバーの製造方法は、上記以外の工程(例えば、ファイバーを裁断・整形する工程)を含んでいてもよい。また、上記した工程内において説明しなかった操作等(例えば、洗浄や乾燥)をおこなってもよい。
【0027】
3.アンモニアセンサー
図2は、実施形態に係るアンモニアセンサー10の模式図である。
【0028】
以下の説明においては、本発明と密接に関連する要素についてのみ記載する。アンモニアセンサー10は、以下に説明するもの以外の構成要素(例えば、筐体や電源)を備えていてもよい。
【0029】
実施形態に係るアンモニアセンサー10は、図2に示すように、カーボンナノファイバー2の表面に銀ナノ物質4及び酸化亜鉛ナノ物質6が担持されている複合カーボンナノファイバー1を有するアンモニア検出部1aと、アンモニア検出部1aと電気的に接続されている抵抗変化検出部12と、配線14とを備える。アンモニア検出部1aは、例えば、不織布状の複合カーボンナノファイバー1を有する。
【0030】
なお、上記不織布は複合カーボンナノファイバー1以外の繊維状物質や粒子状物質を有するものであってもよい。また、上記不織布は、コーティングや化学的修飾等がなされているものであってもよい。また、複合カーボンナノファイバー1は、不織布以外の形態(例えば、布状や糸状の形態)でアンモニア検出部1aの要素として用いられていてもよいし、樹脂等で固定されていてもよい。
【0031】
抵抗変化検出部12は、電気抵抗の変化を検出する装置(例えば、いわゆるマルチメーター)からなる。配線14は、アンモニア検出部1aにおいてアンモニアの検出を実効的におこなう部分(例えば、複合カーボンナノファイバー1からなる不織布)の離隔した2点と、抵抗変化検出部12とを電気的に接続する。抵抗変化検出部12及び配線14としては公知のものを用いることができるため、詳細な説明は省略する。
【0032】
4.実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1、アンモニアセンサー10及び複合カーボンナノファイバーの製造方法の効果
【0033】
複合カーボンナノファイバー1におけるナノ物質(特に酸化亜鉛ナノ物質6)は、アンモニアを分解可能な物質である。アンモニアが分解されると電子が放出され、当該電子を捕捉した複合カーボンナノファイバー1の抵抗が変化する。また、複合カーボンナノファイバー1はナノスケールの構造を有する物質からなるため、アンモニアが微量であっても十分に大きな抵抗の変化が発生する。このため、実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1によれば、アンモニアセンサー10においてアンモニアの検出を担う構成要素として用いることで、「(1)感度」、「(2)選択性」及び「(3)高速応答」の全てを高い水準で有するアンモニアセンサーを実現することが可能となる。
【0034】
実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1においては、銀ナノ粒子である銀ナノ物質4は、アンモニアが分解されたときに放出される電子の捕捉を促進すると考えられる。
【0035】
実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1においては、酸化亜鉛ナノロッドである酸化亜鉛ナノ物質6は、粒子状である酸化亜鉛ナノ物質と比較してアンモニアと接触しやすくなるため、実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1のアンモニアに対する感度の高さに寄与していると考えられる。
【0036】
実施形態に係るアンモニアセンサー10は、実施形態に係る複合カーボンナノファイバー1を用いるため、「(1)感度」、「(2)選択性」及び「(3)高速応答」の全てを高い水準で有するアンモニアセンサーとなる。
【0037】
実施形態に係る複合カーボンナノファイバーの製造方法によれば、複合カーボンナノファイバー1を製造することが可能となる。
【0038】
また、実施形態に係る複合カーボンナノファイバーの製造方法によれば、溶液からの析出及び熱処理を利用することで、比較的簡易な方法で銀ナノ粒子及び酸化亜鉛ナノロッドを形成することが可能となる。
【0039】
[実施例]
本発明の発明者らは、本発明の複合カーボンナノファイバー及びアンモニアセンサーを実際に製造して形態や性能の確認をおこなった。以下、その結果を記載する。
【0040】
まず、実施例で用いた材料や装置等について説明する。なお、一般的な普及品であって固有の名称等を記載する必要がない事物については説明を省略する。
【0041】
ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile。Mw:150,000。以下、PANと記載する。)、硝酸亜鉛六水和物(zinc nitrate hexahydrate。reagent grade,98%。以下、硝酸亜鉛についてZn(NOと記載する。)及びヘキサメチレンテトラミン(hexamethylenetetramine。ACS reagent,>99.0%)は、米国のSigma-Aldrich Corporationを通じて購入したものを用いた。
【0042】
N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide、99.59%。以下、DMFと記載する。)、硝酸銀(silver nitrate、99.8%。以下、AgNOと記載する。)、水酸化ナトリウム(sodium hydroxide、97%。以下、NaOHと記載する。)、アンモニア(以下、NHと記載する。)、エタノール(ethanol、99%)、2-プロパノール(2-propanol)、メチルエチルケトン(2-butanone)及びアセトン(acetone)については、富士フイルム和光純薬株式会社を通じて購入したものを用いた。また、溶媒や洗浄用水として脱イオン水を用いた。
【0043】
走査型電子顕微鏡(SEM)としては、株式会社日立ハイテクノロジーズのS-3000Nを用いた。加速電圧は20kVとした。
BET(Brunauer-Emmett-Teller)法による表面積(比表面積)の測定装置としては、米国のMicromeritics Instrument CorporationのTriStar II 3020 version 3.02を用いた。サンプルチューブの内径(internal diameter)は3/8インチとし、サンプル量は0.1gとした。比表面積の測定においては、吸着質として窒素ガスを用いた。
透過型電子顕微鏡(TEM)としては、日本電子株式会社のJEM-2010を用いた。加速電圧は200kVとした。
X線回折装置(XRD)としては、株式会社リガクのrotaflex RTP300を用いた。X線源としては銅(CuKα線、出力50kV-200mA)を用いた。
X線光電子分光分析装置(XPS)としては、株式会社島津製作所のShimadzu-Kratos AXIS-ULTRA HAS SVを用いた。X線源としてはアルミニウム(AlKα線、出力10kV-15mA)を用いた。
抵抗変化検出部に相当する機材としては、株式会社アドバンテストのR6441a DIGITAL MULTIMETERを用いた。
【0044】
I.実施例に係る複合カーボンナノファイバーの製造方法
カーボンナノファイバー準備工程においては、まず、結晶状のPANをDMFに溶解させ、12時間攪拌することにより紡糸溶液を作製した。紡糸溶液の濃度は10wt%とした。次に、紡糸溶液を内径0.1mmのチップを取り付けた20mLのシリンジに入れ、定法により電界紡糸をおこなった。電圧は12kVとし、チップ-コレクター間の距離は12cmとした。その結果、ナノファイバーを得ることができた。
【0045】
ナノファイバーを空気中で1時間、280℃で熱処理して安定化させ、その後、アルゴン中で2時間、650℃で熱処理して炭化させ、カーボンナノファイバーを得た。熱処理には汎用のオートクレーブを用いた。以降の熱処理においても同様である。
【0046】
担持工程においては、まず、それぞれ濃度が異なる3種類のAgNO水溶液を準備した。各水溶液におけるAgNOの濃度は0.005M、0.01M及び0.02Mとし、溶液量は全て20mLとした。カーボンナノファイバーを20mLのAgNO水溶液に浸漬し、室温で一晩放置した。続いて、2mLのNaOHをそれぞれのAgNO水溶液に加え、さらに一晩放置した。その後、カーボンナノファイバーをAgNO水溶液から取り出し、30秒間水洗した後に60℃で乾燥させた。
【0047】
次に、それぞれ濃度が異なる3種類のZn(NO・ヘキサメチレンテトラミン水溶液を準備した。各水溶液におけるZn(NOの濃度は12.5mM、25mM及び50mMとした。また、各水溶液におけるヘキサメチレンテトラミンの濃度は全て25mMとした。Zn(NO・ヘキサメチレンテトラミン水溶液にカーボンナノファイバーを浸漬し、4時間、90℃で静置した。続いて、カーボンナノファイバーを水溶液から取り出し、水洗した後に60℃で乾燥させた。その後、カーボンナノファイバーを空気中で1時間、280℃で熱処理し、複合カーボンナノファイバーとした。
【0048】
以上の工程により複合カーボンナノファイバーを得た。以下の説明においては、「AgNOの濃度が0.005Mである水溶液及びZn(NOの濃度が12.5mMである水溶液を用いて製造した複合カーボンナノファイバー」を「サンプル1」と記載し、「AgNOの濃度が0.01Mである水溶液及びZn(NOの濃度が25mMである水溶液を用いて製造した複合カーボンナノファイバー」を「サンプル2」と記載し、「AgNOの濃度が0.02Mである水溶液及びZn(NOの濃度が50mMである水溶液を用いて製造した複合カーボンナノファイバー」を「サンプル3」と記載する。
【0049】
II.実施例における複合カーボンナノファイバーの形態
以下、上記のようにして製造した複合カーボンナノファイバーの形態について説明する。
【0050】
図3は、実施例におけるナノファイバー、カーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーのSEM画像である。図3(a)は電界紡糸後のナノファイバー、図3(b)は熱処理で安定化させたナノファイバー、図3(c)はカーボンナノファイバー、図3(d)はサンプル1、図3(e)はサンプル2、図3(f)はサンプル3にそれぞれ係るSEM画像である。上記SEM画像においては、比較的低倍率のSEM画像(5μmのスケール表示があるもの)と比較的高倍率のSEM画像(2μmのスケール表示があるもの)とを1つの画像として重ねて表示している。
【0051】
図3に示すように、複合カーボンナノファイバー(サンプル1,2,3)においては、粒子状の物質(銀ナノ粒子)及び棒状の物質(酸化亜鉛ナノロッド)の存在を確認できた。また、複合カーボンナノファイバーにおいては、酸化亜鉛ナノロッドがカーボンナノファイバーの表面から放射状に延びていることが確認できた。
【0052】
図4は、実施例におけるカーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーの比表面積の測定結果を示すグラフである。図4(a)は比表面積を示す棒グラフであり、図4(b)は吸着等温線を示すグラフである。図4(a)及び図4(b)におけるAはカーボンナノファイバー、Bはサンプル1、Cはサンプル2、Dはサンプル3に関する結果をそれぞれ示す。
【0053】
BET法による表面積(比表面積)の測定を行った結果、図4(a)及び図4(b)に示すように、複合カーボンナノファイバーの比表面積及び吸着量がカーボンナノファイバーにおけるそれらと比較して大きいことが確認できた。これは、銀ナノ粒子及び酸化亜鉛ナノロッドの存在に起因すると考えられる。また、サンプル1、サンプル2、サンプル3の順に比表面積及び吸着量が大きくなったことも確認できた。こちらは、銀ナノ粒子及び酸化亜鉛ナノロッドの量及び形状に起因すると考えられる。
【0054】
図5は、実施例におけるナノファイバー、カーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーのTEM画像である。図5(a)は電界紡糸後のナノファイバー、図5(b)は熱処理で安定化させたナノファイバー、図5(c)はカーボンナノファイバー、図5(d)はサンプル1、図5(e)はサンプル2、図5(f)はサンプル3にそれぞれ係るTEM画像である。
【0055】
図5に示すように、ナノファイバー及びカーボンナノファイバーにおいては、表面及び内部に粒子状の物質及び棒状の物質が存在しないことが確認できた。また、サンプルごとに銀ナノ粒子及び酸化亜鉛ナノロッドの量や形状が異なることが確認できた。
【0056】
図6は、実施例におけるカーボンナノファイバー及び複合カーボンナノファイバーのXRDパターン及びXPSパターンを示すグラフである。図6(a)はXRDパターンを示すグラフであり、図6(b)~図6(d)はXPSパターンを示すグラフである。図6(a)~図6(d)におけるAはカーボンナノファイバー、Bはサンプル1、Cはサンプル2、Dはサンプル3に関する結果をそれぞれ示すものである。
【0057】
複合カーボンナノファイバーのXRDパターン及びXPSパターンにおいては、銀ナノ粒子及び酸化亜鉛ナノロッドに関するピークが確認できた(図6に示す各グラフ参照。)。また、サンプル1、サンプル2、サンプル3の順に銀ナノ粒子及び酸化亜鉛ナノロッドに関するピークが大きくなる傾向があることも確認できた。
【0058】
図6(a)のXRDパターンにおける31.8°、34.4°及び36.2°のピークは、酸化亜鉛ナノロッドがc軸に沿って垂直に成長したことを示す。さらに、62.8°、64.5°及び66.3°のピークは、酸化亜鉛ナノロッドが六角柱状の構造を有することを示す。
【0059】
一方、38.2°のピーク及び44.3°のピークは、AgOが銀単体(Ag)に分解されたことを示す。シェラーの式(Scherrer equation)による計算からは、銀ナノ粒子の平均径は約36.17nmとなり、これはTEM画像による観察結果を考慮すると妥当な値であると考えられる。なお、銀ナノ粒子の平均径の算出においては、k(形状因子)=0.9、λ(X線波長)=0.15406nm、β=ピーク半値全幅(FWHM、単位:ラジアン)、θ=ピーク位置(単位:ラジアン)とした。
【0060】
XPSパターンからは、サンプル1、サンプル2、サンプル3の順にC=C結合に関する283eVのピーク強度が低くなることが確認できた(図6(b)参照。)。また、サンプル1、サンプル2、サンプル3の順に銀ナノ粒子及び酸化亜鉛ナノロッドに起因するピークが増大することが確認できた(図6(c)~図6(e)参照。)。
【0061】
以上の結果から、本発明に係る複合カーボンナノファイバーの製造方法によって本発明に係る複合カーボンナノファイバーを製造できることが確認できた。
【0062】
III.実施例に係るアンモニアセンサー
以下、実施例に係る複合カーボンナノファイバーを備えるアンモニアセンサーを実際に作製し、アンモニアの検出に関する実験を実施した結果について記載する。
【0063】
実施例に係るアンモニアセンサー(図示せず。)は、図2に示す実施形態に係るアンモニアセンサー10と基本的に同様の構成を有する。アンモニア検出部としては、実施例に係る複合カーボンナノファイバーからなる不織布を用いた。
【0064】
実施例においては、複合カーボンナノファイバー(上記サンプル1,2,3)からなる不織布を脱イオン水及び検出対象の物質(アンモニア、エタノール、2-プロパノール、メチルエチルケトン又はアセトン)からなる水溶液を入れた容器の上部に固定した。この状態で容器内の液体を攪拌し、検出対象の物質の気化を誘発させた。水溶液の濃度は、それぞれ0.1Mとした。ただし、感度に係る実験(図9(b)参照。)においては、アンモニアの水溶液の濃度を0.01M、0.1M及び1Mとした。抵抗変化の基準値は、脱イオン水のみで上記と同様の実験をおこなった場合の結果を用いた。
【0065】
複合カーボンナノファイバーがアンモニアを含む水蒸気と接触すると、アンモニア分子及び酸素分子から窒素分子、水分子及び自由電子が発生する。その結果、複合カーボンナノファイバーの電気抵抗が変化する。以下の実験は、このような考え方をもとに実施した。
【0066】
図7は、実施例における複合カーボンナノファイバーの抵抗の変化パターンを示すグラフである。図7(a)はサンプル1、図7(b)はサンプル2、図7(c)はサンプル3にそれぞれ係るグラフである。図7及び後述する図8におけるグラフ内のV1はアンモニア、V2はエタノール、V3は2-プロパノール、V4はメチルエチルケトン、V5はアセトンに関する結果をそれぞれ示すものである。
【0067】
図8は、実施例における複合カーボンナノファイバーの抵抗の変化パターンにおける抵抗変化の範囲を示すグラフである。図8(a)はサンプル1、図8(b)はサンプル2、図8(c)はサンプル3にそれぞれ係るグラフである。
【0068】
図9は、実施例におけるアンモニアセンサーの選択性及び感度を示す棒グラフである。図9(a)は選択性に関する棒グラフであり、図9(b)は感度に関する棒グラフである。図9の棒グラフ中におけるBはサンプル1、Cはサンプル2、Dはサンプル3にそれぞれ関するものである。図9(b)におけるE1はアンモニアの水溶液の濃度が0.01Mのときの結果であり、E2はアンモニアの水溶液の濃度が0.1Mのときの結果であり、E3はアンモニアの水溶液の濃度が1Mのときの結果である。
【0069】
実験の結果、アンモニアセンサーがアンモニア検出部(複合カーボンナノファイバー)の抵抗の変化によりアンモニアを選択的に検出可能であることが確認できた(図7参照。)。
【0070】
また、アンモニアセンサーがアンモニアを検出したときの応答時間は約10秒であり、回復時間は約20秒であることが確認できた(図7参照。)。従来知られているアンモニアセンサーにおいては、応答時間は最短で20秒程度であり、回復時間は最短で30秒程度である。このため、実施例に係るアンモニアセンサーは、従来のアンモニアセンサーよりも応答時間及び回復時間が短いといえる。なお、応答時間及び回復時間の短縮には銀ナノ粒子の導電性(カーボンナノファイバー中の電子の動きの高速化)が寄与していると考えられる。
【0071】
また、アンモニアに対する複合カーボンナノファイバーの抵抗変化の範囲は、サンプル1、サンプル2、サンプル3の順に(つまり、製造において使用した水溶液における銀ナノ粒子源及び酸化亜鉛ナノロッド源の濃度が高いほど)大きくなる傾向があることが確認できた(図8及び図9(b)参照。)。
【0072】
また、エタノール、2-プロパノール、メチルエチルケトン又はアセトンが接触したときのアンモニアセンサーの抵抗変化はおおむね5%以内であり、ノイズとして処理できる程度のものであることが確認できた。以上の結果から、実施例における複合カーボンナノファイバーは、十分な選択性を有していると考えられる。
【0073】
以上の結果から、実施例における複合カーボンナノファイバーを備えるアンモニアセンサーは、重要な性能である「(1)感度」、「(2)選択性」及び「(3)高速応答」の全てを高い水準で有するものであることが確認できた。
【0074】
以上、本発明を上記の実施形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態及び実施例に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の様態において実施することが可能である。
【0075】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の形状、数、位置等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0076】
(2)上記実施形態において説明した複合カーボンナノファイバーの製造方法は例示であり、本発明の複合カーボンナノファイバーは、上記以外の方法により製造してもよい。
【0077】
(3)本発明の複合カーボンナノファイバーにおいては、表面に銀ナノ物質及び酸化亜鉛ナノ物質以外の物質が担持されていてもよい。また、カーボンナノファイバーは、炭素以外の物質を含有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る複合カーボンナノファイバー及びアンモニアセンサーは、アンモニアを検出する用途において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1…複合カーボンナノファイバー、1a…アンモニア検出部、2…カーボンナノファイバー、4…銀ナノ物質、6…酸化亜鉛ナノ物質、10…アンモニアセンサー、12…抵抗変化検出部、14…配線
図1
図2
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図7
図8
図9