(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】トンネル壁面投影システム
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20240527BHJP
G06T 3/00 20240101ALI20240527BHJP
H04N 5/74 20060101ALI20240527BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
G06T3/00
H04N5/74 Z
E21D11/10 Z
(21)【出願番号】P 2020140490
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】514229661
【氏名又は名称】株式会社ソーシャル・キャピタル・デザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100205084
【氏名又は名称】吉浦 洋一
(72)【発明者】
【氏名】武藤 信義
(72)【発明者】
【氏名】村田 利文
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-049905(JP,A)
【文献】特開2018-088654(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155590(WO,A1)
【文献】特開2017-211314(JP,A)
【文献】特開2016-090333(JP,A)
【文献】特開2011-095222(JP,A)
【文献】特開2003-185589(JP,A)
【文献】国際公開第2015/140484(WO,A1)
【文献】特開平5-191902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
G06T 3/18
H04N 5/74
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,
前記トンネル壁面投影システムは,
トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部と,
前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部と,
前記レンダリング画像の一部または全部を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,
前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部と,を有
しており,
前記レンダリング処理部は,
前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行う,
ことを特徴とするトンネル壁面投影システム。
【請求項2】
前記トンネル壁面投影システムは,
投影位置の入力を受け付ける位置入力受付処理部と,
前記入力を受け付けた投影位置から所定範囲の情報を,前記レンダリング画像から切り出して部分画像とする画像切出処理部と,を有しており,
前記マッピング処理部は,前記部分画像をトンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成する,
ことを特徴とする
請求項1に記載のトンネル壁面投影システム。
【請求項3】
トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,
前記トンネル壁面投影システムは,
トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部と,
前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部と,
投影位置の入力を受け付ける位置入力受付処理部と,
移動量計測装置を備えた台車の移動量を取得する移動処理部と,
前記入力を受け付けた投影位置から所定範囲の情報を,前記レンダリング画像から切り出して部分画像とする画像切出処理部と,
前記部分画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,
前記マッピング画像を
,前記台車に備えた投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部と,を有
しており,
前記レンダリング処理部は,
前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行い,
前記画像切出処理部は,
前記取得した移動量を用いて,前記レンダリング画像から前記部分画像を切り出す,
ことを特徴とするトンネル壁面投影システム。
【請求項4】
前記トンネル壁面は鉄道のトンネルであって,
前記台車は,
一本のレール上を移動するように車輪を設置している,
ことを特徴とする
請求項3に記載のトンネル壁面投影システム。
【請求項5】
トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,
前記トンネル壁面投影システムは,
トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,
前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部と,
トンネル壁面を撮影する撮影装置が撮影した画像から,点検員による所定の入力装置による動作を検出することで,変状を追加する点検作業検出処理部と,を有しており,
前記点検作業検出処理部は,
前記撮影装置が撮影した画像から前記入力装置による所定の色の点灯を検出し,その色の消灯までその色をトレースすることで,変状を追加する,
ことを特徴とするトンネル壁面投影システム。
【請求項6】
前記撮影装置は,
前記投影装置の光軸と同軸上に設置される,
ことを特徴とする
請求項5に記載のトンネル壁面投影システム。
【請求項7】
トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,
前記トンネル壁面投影システムは,
トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,
前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部と,を有
しており,
前記投影装置の投影開始および/または投影終了と,前記トンネル壁面の周囲にある照明装置の消灯および/または点灯とが連動する,
ことを特徴とするトンネル壁面投影システム。
【請求項8】
前記トンネル壁面投影システムは,
プロジェクタの位置,方向を調整する入力値を受け付けて仮想的に視点を変更することで,前記マッピング画像の校正処理を行う校正処理部,
を有することを特徴とする請求項1
から請求項7のいずれかに記載のトンネル壁面投影システム。
【請求項9】
前記トンネル壁面投影システムは,
プロジェクタの位置,方向を調整する入力値を受け付けて前記投影装置の位置,方向を変更することで前記投影するマッピング画像の校正処理を行う校正処理部,
を有することを特徴とする請求項1
から請求項7のいずれかに記載のトンネル壁面投影システム。
【請求項10】
コンピュータを,
トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部,
前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部,
前記レンダリング画像の一部または全部を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,
前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部,として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,
前記レンダリング処理部は,
前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行う,
ことを特徴とするトンネル壁面投影プログラム。
【請求項11】
コンピュータを,
トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部,
前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部,
投影位置の入力を受け付ける位置入力受付処理部,
移動量計測装置を備えた台車の移動量を取得する移動処理部,
前記入力を受け付けた投影位置から所定範囲の情報を,前記レンダリング画像から切り出して部分画像とする画像切出処理部,
前記部分画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,
前記マッピング画像を
,前記台車に備えた投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部,
として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,
前記レンダリング処理部は,
前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行い,
前記画像切出処理部は,
前記取得した移動量を用いて,前記レンダリング画像から前記部分画像を切り出す,
ことを特徴とするトンネル壁面投影プログラム。
【請求項12】
コンピュータを,
トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,
前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部,
トンネル壁面を撮影する撮影装置が撮影した画像から,点検員による所定の入力装置による動作を検出することで,変状を追加する点検作業検出処理部,として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,
前記点検作業検出処理部は,
前記撮影装置が撮影した画像から前記入力装置による所定の色の点灯を検出し,その色の消灯までその色をトレースすることで,変状を追加する,
ことを特徴とするトンネル壁面投影プログラム。
【請求項13】
コンピュータを,
トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,
前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる
投影処理部,
として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,
前記投影装置の投影開始および/または投影終了と,前記トンネル壁面の周囲にある照明装置の消灯および/または点灯とが連動する,
ことを特徴とするトンネル壁面投影プログラム。
【請求項14】
トンネル壁面の点検作業を行うためのトンネル壁面の点検作業方法であって,
コンピュータにおいて,
トンネル壁面の変状を記録した図面データ
から変状を示す線および/または図形と位置情報とを抽出させるステップと,
前記抽出した変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行い、前記抽出した位置情報を用いてレンダリング画像を生成させるステップと,
前記レンダリング画像の一部または全部を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成させるステップと,
前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させるステップと,
を有することを特徴とするトンネル壁面の点検作業方法。
【請求項15】
トンネル壁面の点検作業を行うためのトンネル壁面の点検作業方法であって,
トンネル壁面の新たな変状に対して,点検員が入力装置を点灯して動かす動作を撮影装置で撮影するステップと,
前記撮影した画像から,前記入力装置の動きをトレースするステップと,
前記トレースした情報を用いて新たな変状を図面データに追加するステップと,
を有することを特徴とするトンネル壁面の点検作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トンネル,とくに鉄道のトンネルの壁面における損傷の点検作業を行う際に用いるトンネル壁面投影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道などのトンネルの壁面は,経年劣化,振動,石が衝突するなどのさまざまな事象によって,クラック(ひび割れ)や剥離などの損傷(変状)が発生する。トンネル壁面の変状を放置すると,変状箇所から水が浸入して内部が腐食し,トンネル自体の耐久性に影響を与える可能性があるなど,さまざまな問題の原因となる。そこで,トンネルの管理者は,トンネルの壁面の変状を適切に管理する必要がある。具体的には,トンネル壁面に生じた変状を発見し,その変状の位置,大きさ,進行状況などを記録しておく。そして,次回以降の点検で,新たな変状の発見を行うとともに,すでに記録してある変状の変化,進行状況などを確認し,必要な場合には修復を行っている。
【0003】
一方,すべての変状をすぐに修復するのは,作業的にも費用的にも容易ではない。そのため,トンネル壁面に生じた変状の状況を管理することで,許容限度を上回った,あるいは許容限度に近くなった変状から修復をすることとなる。それを実現するため,トンネルの壁面の変状の状況,たとえばクラックの幅や長さ,剥離の大きさなどを適切に管理することが求められている。
【0004】
従来,トンネル壁面に生じた変状の管理は目視を基本としている。たとえば,点検員が構造物を実際に目視し,クラックや剥離などの変状を見つけ,その箇所をチョークなどでなぞり,それをカメラで撮影をする。そして,撮影した画像情報を見ながら,チョークでなぞった部分をCAD図面にトレースすることで,変状の管理をしていた。なお,CAD図面で変状の管理をするのは,検査結果の公式資料としてCAD図面を作成することが求められているからである。
【0005】
また,下記非特許文献1に示すように,MR(複合現実)技術を利用し,点検員がヘッドマウントディスプレイを装着し,トンネル壁面にCAD図面を重ねて立体的に見られるようにする技術もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】株式会社鴻池組,”MR技術を活用したトンネル維持管理システム(トンネルMR)に新機能を追加-ウェアラブル端末を使用したデータ入力で業務効率化-”,[online],インターネット<URL:https://www.konoike.co.jp/news/archive/2019/201906042209.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
点検員が図面を見ながら作業を行う従来の方法では,ほとんどの作業が人手で行われるため,点検員の作業負担がきわめて重い。とくに,鉄道のトンネルにおいては,夜間の鉄道が運行していない数時間に作業を行わなければならない。そのため点検作業は迅速に行わなければならないが,人手による作業なので作業時間がかかってしまう。
【0008】
非特許文献1に示したMR技術を活用したシステムの場合,ヘッドマウントディスプレイを装着した点検員しか図面を見ることができないので情報の共有ができない。
【0009】
また,点検員のヘッドマウントディスプレイには,点検員が検査を行う場所の図面を表示する必要があるが,トンネル内ではGPS装置を使用できないため,点検員がトンネル内のどの場所にいるか特定できない。そのため,場所のキャリブレーションが難しい。そのため,非特許文献1では,トンネル内の作業現場に場所を示すマーカを設置し,それをヘッドマウントディスプレイで認識することで場所を特定して図面をヘッドマウントディスプレイに表示する方法を採っている。しかし,場所を示すマーカを適切に設置する必要があり,また点検員も最初にマーカを読み取らなければならない負担が生じる。
【0010】
さらに,MR技術を用いるため,CAD図面の3次元モデルが必要となるが,トンネルのCAD図面の3次元モデルは少なく,CAD図面の3次元モデルがない場合には,使用することができない。
【0011】
加えて,トンネルの場合,地面との接点付近から半円状に反対側の地面との接点付近までの変状を確認する必要がある。そのため,トンネルの天井付近も確認する必要が出てくるが,点検員は重量のあるヘッドマウントディスプレイを装着して頭部を天井方向に長時間傾ける必要があるため,体力的な負担も大きい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者は,上記課題に鑑み,トンネルの壁面にCAD図面などの図面データに基づく変状を示す画像を投影することで,上述の課題を解決するトンネル壁面投影システムを発明した。
【0013】
第1の発明は,トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,前記トンネル壁面投影システムは,トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部と,前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部と,前記レンダリング画像の一部または全部を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部と,を有しており,前記レンダリング処理部は,前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行う,トンネル壁面投影システムである。
【0014】
本発明のように構成することで,従来の人手による点検作業よりも大幅に効率化を図ることができる。また,場所のキャリブレーションや図面データの3次元モデルを用いることなく,多くの点検員が同時に図面データに基づく変状箇所の情報を共有しながら作業を行うことができる。また点検員の体力的な負担も大きくなく作業を行うことができる。
CAD図面などの図面データにおける変状箇所を示す線などは細く,また背景色も黒色であるため,そのままトンネル壁面に投影したのでは,点検員が変状の箇所を視認することが容易ではない。そこで,本発明のように構成することで,トンネル壁面への投影をした場合に,変状箇所の視認性を向上することができ,点検員による点検作業を容易にすることができる。
【0015】
上述の発明において,前記トンネル壁面投影システムは,投影位置の入力を受け付ける位置入力受付処理部と,前記入力を受け付けた投影位置から所定範囲の情報を,前記レンダリング画像から切り出して部分画像とする画像切出処理部と,を有しており,前記マッピング処理部は,前記部分画像をトンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成する,トンネル壁面投影システムのように構成することができる。
【0016】
本発明のような処理を行うことで,図面データのすべてに対して画像の変形処理を行わずとも,全体の変形処理等を行わず,入力を受け付けた位置から一定距離に該当する部分のみを切り出して処理を行えばよく,処理負荷を軽減することができる。
【0017】
第3の発明は,トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,前記トンネル壁面投影システムは,トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部と,前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部と,投影位置の入力を受け付ける位置入力受付処理部と,移動量計測装置を備えた台車の移動量を取得する移動処理部と,前記入力を受け付けた投影位置から所定範囲の情報を,前記レンダリング画像から切り出して部分画像とする画像切出処理部と,前記部分画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,前記マッピング画像を,前記台車に備えた投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部と,を有しており,前記レンダリング処理部は,前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行い,前記画像切出処理部は,前記取得した移動量を用いて,前記レンダリング画像から前記部分画像を切り出す,トンネル壁面投影システムである。
【0018】
本発明のように構成することで,従来の人手による点検作業よりも大幅に効率化を図ることができる。また,場所のキャリブレーションや図面データの3次元モデルを用いることなく,多くの点検員が同時に図面データに基づく変状箇所の情報を共有しながら作業を行うことができる。また点検員の体力的な負担も大きくなく作業を行うことができる。
CAD図面などの図面データにおける変状箇所を示す線などは細く,また背景色も黒色であるため,そのままトンネル壁面に投影したのでは,点検員が変状の箇所を視認することが容易ではない。そこで,本発明のように構成することで,トンネル壁面への投影をした場合に,変状箇所の視認性を向上することができ,点検員による点検作業を容易にすることができる。
また,図面データのすべてに対して画像の変形処理を行わずとも,全体の変形処理等を行わず,入力を受け付けた位置から一定距離に該当する部分のみを切り出して処理を行えばよく,処理負荷を軽減することができる。
トンネル内はGPS装置を使用して位置情報を取得することができない。そこで,位置の特定が容易ではないが,本発明のように構成することで,台車の移動量というトンネル内ではもっとも高精度の距離測定方法を用いて,精度が高く,台車の移動に合わせた部分画像を切り出し,切り出した部分画像を変形させてトンネル壁面に投影することができる。
【0019】
上述の発明において,前記トンネル壁面は鉄道のトンネルであって,前記台車は,一本のレール上を移動するように車輪を設置している,トンネル壁面投影システムのように構成することができる。
【0020】
鉄道のトンネルの場合,通常,一つの進行方向に対してレールは2本ある。そこで台車を2本のレールに跨がるように設置するともっとも安定するが,その場合,地下鉄の走行管理の仕組み上,レール上に車両があることが検知され,点検作業活動の管理レベルが高まって,点検作業に支障が生ずる。すなわち,2本のレールに跨がる点検車両を用いて点検作業を行う場合,安全性の観点から,点検作業の管理レベルが高くなり,特別な許可が必要となる。しかし,変状の管理は頻度が高い作業であるから,かかる特別な許可を頻繁に得るのは煩雑である。そこで,本発明のように,一本のレールを移動する台車を用いることで,管理レベルの低い点検として取り扱うことができ,特別な許可も必要なく,点検作業の繁雑さを解消でき,点検作業の支障を解消できる。
【0021】
第5の発明は,トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,前記トンネル壁面投影システムは,トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部と,トンネル壁面を撮影する撮影装置が撮影した画像から,点検員による所定の入力装置による動作を検出することで,変状を追加する点検作業検出処理部と,を有しており,前記点検作業検出処理部は,前記撮影装置が撮影した画像から前記入力装置による所定の色の点灯を検出し,その色の消灯までその色をトレースすることで,変状を追加する,トンネル壁面投影システムである。
【0022】
上述の発明において,前記撮影装置は,前記投影装置の光軸と同軸上に設置される,トンネル壁面投影システムのように構成することができる。
【0023】
本発明のように構成することで,従来の人手による点検作業よりも大幅に効率化を図ることができる。また,場所のキャリブレーションや図面データの3次元モデルを用いることなく,多くの点検員が同時に図面データに基づく変状箇所の情報を共有しながら作業を行うことができる。また点検員の体力的な負担も大きくなく作業を行うことができる。
また,撮影装置で撮影した画像に基づいてトレースをする場合,投影時に行われる投影する部分画像を生成する変換と逆の変換を行えば変状を追加することができる。
【0024】
第7の発明は,トンネル壁面に変状を投影するトンネル壁面投影システムであって,前記トンネル壁面投影システムは,トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部と,前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部と,を有しており,前記投影装置の投影開始および/または投影終了と,前記トンネル壁面の周囲にある照明装置の消灯および/または点灯とが連動する,トンネル壁面投影システムである。
【0025】
投影装置を投影する場合には周囲の照明装置の明かりは,トンネル壁面に投影された画像を不明瞭にし,投影された画像を作業員が視認することの支障となる。一方,投影装置の投影を終了し,台車などを移動する場合には周囲の照明装置がないと暗くて作業の支障となる。そこで,移動中にプロジェクタを消灯する場合には,本発明のように構成することで,照明に関する作業を連動することができ,作業負荷の軽減を図ることができる。
【0026】
上述の発明において,前記トンネル壁面投影システムは,プロジェクタの位置,方向を調整する入力値を受け付けて仮想的に視点を変更することで,前記マッピング画像の校正処理を行う校正処理部,を有するトンネル壁面投影システムのように構成することができる。
【0027】
トンネル壁面への変状の投影を行った場合であっても,図面とトンネルの施工状態のずれや,プロジェクタの設置位置の精度などの理由から,トンネル壁面にある実際の変状と位置のずれが生じる場合もある。そこで,本発明のように仮想的に視点を変更することで,複雑な装置の構成を備えることなく,位置のずれを解消することができる。
【0028】
上述の発明において,前記トンネル壁面投影システムは,プロジェクタの位置,方向を調整する入力値を受け付けて前記投影装置の位置,方向を変更することで前記投影するマッピング画像の校正処理を行う校正処理部,を有するトンネル壁面投影システムのように構成することができる。
【0029】
位置のずれの解消については,本発明のようにプロジェクタの位置,方向を変更することで対応してもよい。
【0030】
第1の発明のトンネル壁面投影システムは,本発明のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで実現できる。すなわち,コンピュータを,トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部,前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部,前記レンダリング画像の一部または全部を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部,として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,前記レンダリング処理部は,前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行う,トンネル壁面投影プログラムである。
【0031】
第3の発明のトンネル壁面投影システムは,本発明のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで実現できる。すなわち,コンピュータを,トンネル壁面の変状を記録した図面データから抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを抽出する変状図形処理部,前記抽出した変状を示す線および/または図形とその位置情報とを用いてレンダリング画像を生成するレンダリング処理部,投影位置の入力を受け付ける位置入力受付処理部,移動量計測装置を備えた台車の移動量を取得する移動処理部,前記入力を受け付けた投影位置から所定範囲の情報を,前記レンダリング画像から切り出して部分画像とする画像切出処理部,前記部分画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,前記マッピング画像を,前記台車に備えた投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部,として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,前記レンダリング処理部は,前記変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行い,前記画像切出処理部は,前記取得した移動量を用いて,前記レンダリング画像から前記部分画像を切り出す,トンネル壁面投影プログラムである。
【0032】
第5の発明のトンネル壁面投影システムは,本発明のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで実現できる。すなわち,コンピュータを,トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部,トンネル壁面を撮影する撮影装置が撮影した画像から,点検員による所定の入力装置による動作を検出することで,変状を追加する点検作業検出処理部,として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,前記点検作業検出処理部は,前記撮影装置が撮影した画像から前記入力装置による所定の色の点灯を検出し,その色の消灯までその色をトレースすることで,変状を追加する,トンネル壁面投影プログラムである。
【0033】
第7の発明のトンネル壁面投影システムは,本発明のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで実現できる。すなわち,コンピュータを,トンネル壁面の変状を記録した図面データを用いて生成した画像を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成するマッピング処理部,前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させる投影処理部,として機能させるトンネル壁面投影プログラムであって,前記投影装置の投影開始および/または投影終了と,前記トンネル壁面の周囲にある照明装置の消灯および/または点灯とが連動する,トンネル壁面投影プログラムである。
【0034】
第14の発明は,トンネル壁面の点検作業を行うためのトンネル壁面の点検作業方法であって,コンピュータにおいて,トンネル壁面の変状を記録した図面データから変状を示す線および/または図形と位置情報とを抽出させるステップと,前記抽出した変状を示す線および/または図形を構成する線を太くする太線化処理,背景色の変更処理,前記変状を示す線および/または図形を構成する線の色を変更する処理のうちいずれか一以上を行い、前記抽出した位置情報を用いてレンダリング画像を生成させるステップと,前記レンダリング画像の一部または全部を,トンネル壁面の形状に対応するように変形させてマッピング画像を生成させるステップと,前記マッピング画像を投影装置からトンネル壁面に投影させるステップと,を有するトンネル壁面の点検作業方法である。
【0035】
本発明のトンネル壁面の点検作業方法によって,従来の人手による点検作業よりも大幅に効率化を図ることができる。また,場所のキャリブレーションや図面データの3次元モデルを用いることなく,多くの点検員が同時に図面データに基づく変状箇所の情報を共有しながら作業を行うことができる。また点検員の体力的な負担も大きくなく作業を行うことができる。
【0038】
トンネル壁面の点検作業を行うためのトンネル壁面の点検作業方法であって,トンネル壁面の新たな変状に対して,点検員が入力装置を点灯して動かす動作を撮影装置で撮影するステップと,前記撮影した画像から,前記入力装置の動きをトレースするステップと,前記トレースした情報を用いて新たな変状を図面データに追加するステップと,を有するトンネル壁面の点検作業方法とすることもできる。
【0039】
本発明のトンネル壁面の点検作業方法によって,トンネル壁面の変状に変化がある場合には,従来のように,当該トンネル壁面を写真等で撮影し,それに基づいて変状を手動で入力または自動で抽出する等の作業を行う必要がなくなる。単に,点検員がトンネル壁面の変状に沿って所定の動作を行えば,変状を追加することができ,作業負荷の軽減を図ることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明のトンネル壁面投影システムを用いることで,従来の人手による作業よりも大幅に効率化を図ることができる。また,MR技術ではないので,場所のキャリブレーションや図面データの3次元モデルを用いることなく,多くの点検員が同時に図面データに基づく変状箇所の情報を共有しながら作業を行うことができる。また点検員の体力的な負担も大きくなく作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明のトンネル壁面投影システムの全体の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図2】本発明のトンネル壁面投影システムで用いるコンピュータのハードウェア構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】本発明のトンネル壁面投影システムにおける全体の処理プロセスの一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明のトンネル壁面投影システムにおける事前処理の処理プロセスの一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明のトンネル壁面投影システムにおける利用処理の処理プロセスの一例を示すフローチャートである。
【
図7】台車の車輪とレールとの関係の一例を示す図である。
【
図8】台車の基本的構造のほかの一例を示す図である。
【
図9】台車に投影装置を設置した状態の一例を示す図である。
【
図10】台車に投影装置を設置し,スタンドに作業用コンピュータを載置した状態の一例を示す図である。
【
図11】台車がレールを移動する状態の一例を示す図である。
【
図12】台車がレールで固定され,投影装置による投影を行う状態の一例を示す図である。
【
図13】台車を用いてトンネル壁面に投影を行う状態を模式的に示す図である。
【
図14】読み込むCAD図面のデータの一例を示す図である。
【
図15】
図14のCAD図面から背景を削除した状態の一例を示す図である。
【
図16】レンダリング処理部での処理対象とする部分の画像の拡大図である。
【
図17】
図16に基づいて生成したレンダリング画像の一例を示す図である。
【
図19】マッピング画像を投影する前のトンネル壁面を正面から見た状態の一例を模式的に示す図である。
【
図20】
図19の状態を投影装置側から斜めに撮影した状態の一例を模式的に示す図である。
【
図21】マッピング画像を
図19のトンネル壁面に投影した状態を,トンネル壁面の正面から見た状態の一例を模式的に示す図である。
【
図22】
図21の状態を投影装置側から斜めに撮影した状態の一例を模式的に示す図である。
【
図23】校正処理の画面の一例を模式的に示す図である。
【
図25】実施例2におけるトンネル壁面投影システムの全体の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図26】撮影装置が撮影した画像から,点検員が所定の色のペンライト等の入力装置を点灯した場合に,カーソルがマッピング画像(正面から見た状態のマッピング画像)上に表示された状態の一例を示す図である。
【
図27】点検員がペンライト等の入力装置で変状箇所をトレースしているときにマッピング画像(正面から見た状態のマッピング画像)上に表示されたトレース線の一例を示す図である。
【
図28】点検員がペンライト等の入力装置で変状箇所をトレースしてマッピング画像(正面から見た状態のマッピング画像)にトレース線が登録された状態の一例を示す図である。
【
図29】新たなトレース線が登録されたCAD図面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明のトンネル壁面投影システム1の全体の構成の一例のブロック図を
図1に示す。また,本発明のトンネル壁面投影システム1で用いるコンピュータのハードウェア構成の一例のブロック図を
図2に示す。
【0043】
トンネル壁面投影システム1は,事前処理部2と利用処理部3とを有する。事前処理部2と利用処理部3は,それぞれ異なるコンピュータで処理が実行されてもよいし,同じコンピュータで処理が実行されてもよい。少なくとも利用処理部3は,トンネル内を移動可能な台車4に搭載したコンピュータで実行される。
【0044】
本発明で用いるコンピュータ(可搬型通信端末を含む)は,プログラムの演算処理を実行するCPUなどの演算装置70と,情報を記憶するRAMやハードディスクなどの記憶装置71と,ディスプレイなどの表示装置72と,情報の入力を行う入力装置73と,演算装置70の処理結果や記憶装置71に記憶する情報の通信をする通信装置74とを有している。なお,コンピュータがタッチパネルディスプレイを備えている場合には表示装置72と入力装置73とが一体的に構成されていてもよい。タッチパネルディスプレイは,たとえばタブレット型コンピュータやスマートフォンなどの可搬型通信端末などで利用されることが多いが,それに限定するものではない。
【0045】
タッチパネルディスプレイは,そのディスプレイ上で,直接,所定の入力デバイス(タッチパネル用のペンなど)や指などによって入力を行える点で,表示装置72と入力装置73の機能が一体化した装置である。
【0046】
トンネル壁面投影システム1におけるコンピュータは,一台のコンピュータであってもよいし,その機能が複数のコンピュータによって実現されていてもよい。この場合のコンピュータとして,たとえばクラウドサーバであってもよい。
【0047】
本発明のトンネル壁面投影システム1における各手段は,その機能が論理的に区別されているのみであって,物理上あるいは事実上は同一の領域を為していてもよい。
【0048】
台車4は,支持台40と車輪41と位置固定装置42とを有している。
図6に台車4の基本的構造の一例を示す。また台車4には,台車4をレール60に沿って移動可能なハンドル43が着脱自在に取り付けられている。
【0049】
支持台40は台車4の基盤を形成する。支持台40の外形には制約はないが,台車4に後述する投影装置50を載置するため,水平面を形成しているとよい。支持台40は,アルミニウムなどの金属により形成されていることが好ましい。車輪41は,台車4をトンネル内で移動させるために,支持台40の下面側に取り付けられている。車輪41の数は任意の数でよいが,好ましくは,進行方向に対する同軸上に前後に少なくとも1つずつ取り付けられている。また,鉄道のトンネルの場合,車輪41がレールを走行可能な形状,たとえばレールを左右から挟み込むために凹形状をしているとよい。これを模式的に示すのが
図7である。車輪41は,2本のレールのそれぞれに位置するように取り付けられているのではなく,1本のレールのみに位置するように取り付けられていることがよい。
【0050】
位置固定装置42は,後述する投影装置50でトンネル壁面に投影するときに,台車4の位置を路面に対して固定する。位置固定装置42の構造は,台車4の位置を固定できるのであればどのような構造であってもよい。たとえば,車輪41が回転しないように固定する装置であってもよいし,ジャッキのように台車4を上方に持ち上げ,レールに沿って台車4が移動しないようにするなどの装置であってもよい。ジャッキのように台車4を持ち上げて固定する場合には,支持台40を水平に位置できるように,支持台40の左右および/または前後方向にそれぞれ位置固定装置42が取り付けられているとよい。
【0051】
ハンドル43は,台車4の操作者(たとえば点検作業の点検員や監督者など)が把持して,台車4をトンネル内で移動可能とする。たとえばハンドル43は略L字状をしており,一端が着脱自在に支持台40に取り付けられ,他の一端側を操作者が把持して台車4を移動させる。
【0052】
台車4からハンドル43を取り外した状態では,台車4にスタンド45を取り付ける。スタンド45は固定軸44と接合しており,固定軸44を支持台44に着脱自在に取り付けることで,スタンド45の着脱が可能となる。固定軸44の一端は支持台44に,他の一端はスタンド45に接合している。スタンド45には作業用コンピュータ51を載置するほか,筆記用具,紙類などを載置することも可能である。作業用コンピュータ51としては,ラップトップ型コンピュータのほか,タブレット型コンピュータなどの可搬型通信端末も含まれる。さらに,作業用コンピュータ51が事前処理部2と利用処理部3の機能を実現してもよいし,利用処理部3の機能のみを実現し,事前処理部2の機能は別のコンピュータで実現してもよい。
【0053】
台車4の支持台40の水平面上には各種の装置を設置する。すなわち支持台40の水平面上には,台座46,支持軸47,固定具48を設置し,固定具48に投影装置50を設置する。なお,図示はしないが,支持台40には投影装置50のほか,電源装置など,必要な装置を設置してもよい。
【0054】
台座46は,支持台40の上で,水平面を回転可能に取り付けられる。また台座46のには,垂直方向に固定具48を支持するための支持軸47が取り付けられる。固定具48は,2方向が開口している箱状をしており,撮影装置50をその内側に固定して設置することができる。なお,固定具48は,一方向のみが開口しており,その開口部から投影装置50を設置してもよいし,投影装置50が直接支持軸47に取り付けられていてもよい。
【0055】
固定具48は,支持軸47の一端において,回転軸48aを中心に,上下方向に(仰角,俯角の方向に)回転させることができる。また,固定具48の相対する側面の支持軸47付近においては,溝48bが設けられており,支持軸47に設けたピン48cが溝48bに位置することで,固定具48の回転範囲を溝48bの範囲に制限する。これらによって,台座46を水平面方向に回転させ,また固定具48を上下方向に回転させることができ,投影装置50を任意の方向に向けることができる。そのため,投影装置50から出射する光を,光源位置を回転軸として,仰角およびレール60の方向からトンネル壁面に向かってどれだけ展開するか(内転角)を調整して固定することができる。支持軸47および固定具48は,撮影装置50を取り付けた場合に,その光源が台座46の中心付近に位置するように設置されるとよい。
【0056】
投影装置50を固定具48に取り付けた状態の台車4を
図9および
図10に示す。
図9は,台車4にハンドル43が取り付けられた状態であり,
図10は,台車4に固定軸44およびスタンド45が取り付けられた状態である。また,スタンド45には作業用コンピュータ51が載置されている。
【0057】
また,
図11は,台車4が枕木61の上にあるレール60に沿って移動する状態を示している。
図12は,台車4の位置を位置固定装置42で固定し,投影装置50で投影する状態を示している。
【0058】
投影装置50はいわゆるプロジェクタであり,トンネル壁面に対して所定の画像を投影する。一般的な投影装置50は略直方体の筐体をしており,長手方向を水平面に載置して使用をする。本願発明で用いる投影装置50としても一般に使用されている(市販の)投影装置50を用いることができるが,地面やレール付近からトンネルの頂上(クラウン)付近,好ましくはトンネルの頂上を含む範囲まで画像を投影可能なように,短手方向が水平面側となるように,固定具48に設置することが好ましい。これによって,市販の投影装置50であっても比較的近距離の位置にある壁面を,地面やレール付近からトンネルの頂上(クラウン)付近を含む範囲まで画像を投影することができる。なお,地面やレール付近からトンネルの頂上(クラウン)付近を含む範囲まで画像を投影できるのであれば,投影装置50の設置状態は短手方向が水平面側となることに限定するものではなく,長手方向が水平面側となってもよい。
【0059】
投影装置50は,台車4が位置する側とは反対側の壁面に対して所定の画像を投影する。トンネル壁面と台車4の進行方向が平行の場合,投影装置50から出射する光の光軸と,トンネル壁面または台車4の進行方向との間の角度θは,10度~45度程度であることがよい。より好ましくは20度~30度,さらに好ましくは22度~25度であるとよい。
【0060】
さらに,台車4は移動量計測装置49を有している。移動量計測装置49は,起点(計測開始地点)からの移動量(距離)を計測する装置である。たとえばオドメータ,ローラーエンコーダが該当する。ローラーエンコーダの場合,台車4の車輪41にローラーが接触するように設置することで,車輪41の回転に伴うローラーの回転量を計測することで,移動量(距離)を計測できる。また,回転式のほか,レーザドップラー速度計などを用いてその移動距離を計測してもよい。
【0061】
図13は,鉄道のトンネルの場合に,1本のレール上に位置する台車4に設置した投影装置50からトンネル壁面に対して所定の画像を投影する状態を模式的に示す図である。
【0062】
なお,台車4の構造およびそこに設置する各種装置は一例であって,これに限定するものではない。投影装置50により所定の画像をトンネル壁面に投影し,設置した投影装置50を移動可能な台車4であれば如何なる構造であってもよい。また必要に応じて台車4の構造,設置する装置を変更,増減できる。
【0063】
投影装置50のほか,電源装置(図示しない)などの装置は,進行方向に対してハンドル43が取り付けられている側に重心が位置するように,台車4において配置される。これによって,たとえば位置固定装置42をハンドル43側のみに設けることで足りる。すなわち,台車4の重心がハンドル43の側に位置していれば,位置固定装置42で台車4を支持することができる。
【0064】
トンネル壁面投影システム1における事前処理部2は,投影処理を行う前の事前準備の処理を行う。図面読込処理部20と変状図形処理部21とレンダリング処理部22とを有する。
【0065】
図面読込処理部20は,トンネル壁面のクラックや剥離などの損傷箇所(変状)を記録したCAD図面のデータファイル(ベクター画像)を読み込む。このCAD図面は,従来のトンネルの維持管理業務のなかで作成されてきた形式のデータ,トンネルを断面に沿ってカバーする展開図(地面またはその近傍から天井をとおり反対側の地面またはその近傍に至るまでをカバーする展開図)をそのまま利用することができる。CAD図面には,変状の種類ごとにレイヤが設けられており,各レイヤにおいて,どの位置にどのような大きさの変状があるかが記録されている。たとえばトンネルのキロポストに対応づけて,どの位置にどのような大きさの変状があるかを記録している。図面読込処理部20は,たとえばDXF形式で表現されているCAD図面のファイルを読み込む。なお,CAD図面の場合を説明するが,CAD図面でなくても,変状を記録した図面のデータファイルであればよい。
【0066】
変状図形処理部21は,図面読込処理部20で読み込んだCAD図面を,レイヤごとに分類し,変状を示す図形(変状を示す線も含む。以下同様)とその位置情報をデータベースなどに抽出して格納する。この際に,CAD図面全体に対して処理を一度だけ行ってもよいが,処理の高速化の観点から,当日または所定期間における点検作業を行う区間の範囲に対して処理を行ってもよい。その場合,変状図形処理部21は,作業区間を示す位置の情報を受け取り,その情報に基づいてCAD図面のうち該当範囲を特定し,特定した範囲における変状を抽出して,変状を示す図形とその位置情報をデータベースなどに格納する。たとえば点検作業を行う日の作業区間をトンネルのキロポストによる位置の情報,たとえば1.0キロメートルから1.5キロメートルのように受け取り,その区間のCAD図面において,レイヤごとに,変状を示す図形とその位置情報を分類してデータベースなどに格納する。
【0067】
レンダリング処理部22は,変状図形処理部21で格納した変状を示す図形とその位置情報とを用いてレンダリングの処理を行い,レンダリング画像を生成する。このレンダリング画像はベクター画像を変換したラスター画像である。レンダリングの処理は,プロジェクタの現在位置から投影される範囲に限定して行ってもよい。
【0068】
具体的には,変状を示す図形を構成する線を太くする処理,変状を示す図形を構成する線の色を変更する処理,背景色の変更処理,ベクター画像をラスター画像に変換する処理を行う。
【0069】
CAD図面において変状を示す図形を構成する線は細いので,元の線の太さでは投影をした際に視認できない,あるいは視認しにくい場合がある。そこで,変状を示す図形を構成する線を太くする処理として,元の線を所定倍率,所定量だけ太くする太線化処理を実行する。たとえば投影時に10~30cm程度の線幅となるように太くすることが好ましいが,それに限定するものではない。
【0070】
CAD図面の背景色は通常,黒色である。そのため,そのまま投影をすると,背景部分である壁面の大半が暗くなってよく見えない,また変状が明度の低い色である場合には視認しにくい場合がある。そこで,トンネルの壁面そのものが見やすくなるように,背景色を視認性が高い色,たとえば背景色を明度が高い色である白色あるいは白色に近い色(白色系の色)に変更する。
【0071】
さらに,図形を構成する線の色も視認性が高い色に変更する。この場合,背景色から目立つように,背景色とは異なる色相の色,たとえば青色,赤色,緑色などに変更する。また,背景色とは異なる色相の色を十分に視認できる範囲でさらに明度を一定量だけ下げることで,背景色から際立たせるようにしてもよい。トンネルの壁面は,汚れいていることも多く,鮮やかな色を投影しても彩度が大きく失われることがあるため,背景色と明度差をつけることで,視認性を高めることができる。なお,色は変状の種類ごと(レイヤごと)に変更すると好ましい。
【0072】
上述の太線化処理,背景色変更処理,線色変更処理のすべてを行うとよいが,その一部のみであってもよい。このような処理を実行した後,ラスター情報に変換してラスター画像であるレンダリング画像を生成する。
【0073】
トンネル壁面投影システム1における利用処理部3は,事前処理部2で生成したレンダリング画像に対して,後述する所定の処理を実行した画像をトンネル壁面に対して投影装置50により投影する。利用処理部3は,位置入力受付処理部30と画像切出処理部31とマッピング処理部32と投影処理部33と校正処理部34と移動処理部35とを有する。
【0074】
位置入力受付処理部30は,当日の作業を行う作業開始場所の投影位置を示す情報,たとえばキロポスト,上り,下りを示す情報などの情報の入力を受け付ける。
【0075】
画像切出処理部31は,位置入力受付処理部30で入力を受け付けた投影位置を示す情報に基づいて,その現在位置から所定の範囲の部分画像をレンダリング画像から切り出す。ここでレンダリング画像から切り出すとは,実際にレンダリング画像から部分画像を切り出してもよいし,実際には切り出さずに,部分画像とする範囲を特定して,その特定した範囲を部分画像として処理対象とするといったように,仮想的に切り出す(処理対象として特定する)場合も含む。
【0076】
たとえば投影装置50による1回の投影範囲を10メートルとしてレンダリング画像から部分画像を切り出す場合,その日の作業開始地点においてはレンダリング画像の当該日の作業開始地点から10メートルに相当する範囲を部分画像として切り出す。そしてその範囲における作業が終了すると,作業開始地点から10メートル移動した地点と20メートルの地点の範囲を部分画像として切り出す。なお,投影装置50からトンネル壁面に対しては斜め前方方向に投影をするため,作業開始地点とは,投影装置50で投影された投影面の最初の位置であってもよいし,あるいは投影装置50の最初の位置であってもよく,任意の地点であればよい。
【0077】
マッピング処理部32は,トンネル壁面の形状に対応したマッピング関数を利用して部分画像を変形し,変形した部分画像(マッピング画像)を生成する。トンネルの断面形状は,円形,矩形,馬蹄形などがあるが,それらの断面形状に合わせて歪ませた画像をマッピング関数を利用して部分画像を変形してマッピング画像を生成する。ここで用いるマッピング関数による部分画像の変形処理は公知の各処理方法を用いることができる。また,マッピング関数を利用して部分画像を変形するため,トンネル壁面の形状についてはあらかじめセンシングをしておき,必要なパラメータを取得しておく。あるいは,台車4にトンネル壁面の形状をセンシングするための各種センサ装置を設置しておき,マッピング処理部32による処理の前または処理のときに,当該センサ装置を用いてトンネル壁面の形状をセンシングして,マッピング関数で用いるパラメータとして適用してもよい。
【0078】
マッピング処理を行う際には,部分画像を複数のタイル(小領域)に分割し,そのタイルごとに画像を変形して,後述する投影処理部33が投影装置50を介して投影させることが好ましい。分割するタイルは,縦横が整列していても整列していなくてもよい。
【0079】
マッピング処理を行う際には,3次元空間状の投影される壁面におけるタイル(小領域)の各頂点,たとえば矩形なら4点の3次元座標から,投影装置50のパネル面上の対応する座標4点を求める。そして,投影される壁面の小領域に投影されるべき画像を,パネル面上の歪んだ矩形に適合(フィット)するように,ホモグラフィー変換をすることで生成する。この処理をタイルごとに行えば,トンネル壁面の投影するマッピング画像を生成することができる。
【0080】
トンネル壁面に対して垂直方向から部分画像を投影してもよいが,好ましくは,進行方向に対して斜め後方または斜め前方から投影を行った方が,広範囲に投影を行えるのでよい。この場合,台車4に設置した投影装置50から出射する光軸と,トンネル壁面または台車4の進行方向との角度θをさらに用いてマッピング関数を利用して部分画像を変形し,マッピング画像を生成してもよい。
【0081】
投影処理部33は,マッピング処理部32で生成したマッピング画像を,投影装置50を介してトンネル壁面に投影させる。
【0082】
校正処理部34は,投影した画像に対して,投影装置50の位置,方向を調整する入力を受け付け,その入力値に応じてマッピング関数を修正し,投影する画像の変形を校正する。
【0083】
移動処理部35は,台車4が移動した場合に,台車4の移動量計測装置49で計測した移動量を取得し,その移動量に基づいて画像切出処理部31で切り出す範囲を変更する。
【実施例1】
【0084】
つぎに本発明のトンネル壁面投影システム1を用いた処理プロセスの一例を
図3乃至
図5のフローチャートを用いて説明する。なお,以下の説明では,トンネルとして地下鉄のトンネルの場合を説明するが,地下鉄以外の鉄道のトンネル,車両や人が移動するトンネルであっても同様に実現できる。
【0085】
まずトンネルの壁面に投影処理を行う事前準備の処理として事前処理を実行する(S100)。なお事前処理は,トンネル内の点検作業の現場で行ってもよいし,それ以前の所定箇所,たとえば点検作業を行う会社の事務所などで現場作業の開始前に行ってもよい。
【0086】
事前処理として,まず図面読込処理部20は,あらかじめ準備してあるトンネル壁面の変状を記録したCAD図面のデータを図面読み込み処理部で読み込む(S200)。読み込むCAD図面のデータの一例を
図14に示す。
図14における中心付近の破線はトンネル壁面の頂上(クラウン)であり,その上下方向がそれぞれ左右の側面となる。また,
図14における一点鎖線で囲んだ矩形領域が,CAD図面のうち,点検作業を行う範囲として,後述のレンダリング処理部22での処理対象とする部分である。
【0087】
このように読み込んだCAD図面に対して,変状図形処理部21は,レイヤごとに分類して,変状を示す図形を抽出し,変状を示す図形とその位置情報をデータベースなどに格納をする(S210)。
【0088】
まず,
図14のCAD図面のデータから点検作業を行う範囲を指定する。一点鎖線で囲んだ矩形領域が,CAD図面のうち,点検作業を行う範囲として,後述のレンダリング処理部22での処理対象とする部分である。破線はトンネル壁面の頂上(クラウン)である。この領域を拡大したのが
図15である。
図15における実線や矩形領域がそれぞれ変状としてCAD図面に記録されている部分である。また,
図16は,点検作業を行う範囲として,後述のレンダリング処理部22での処理対象とする部分の拡大図である。
【0089】
そしてレイヤごとに分類ごとに,変状を示す図形とその位置情報をデータベースなどに格納をする。
【0090】
このように変状図形を抽出すると,レンダリング処理部22は,変状図形処理部21で格納した変状を示す図形とその位置情報とを用いて,レンダリング画像情報を生成する(S220)。
【0091】
具体的には,まず,変状を示す図形を構成する線の太さを所定の基準にしたがい,太くする。たとえばトンネル壁面の投影時に実寸で10~30cm程度,好ましくは実寸で20cm程度となるように,線を太くする。そして,背景色を黒色から白色に変更する。さらに,投影したときにトンネル壁面のコンクリート部分との色の違いが際立つように,線の色を変更する。たとえば線の色の明度が高いと背景の白色との違いがわかりにくいので,明度を落とす処理を行う。そしてこのような処理を実行した後,ラスター画像に変換をすることでレンダリング画像を生成する。
図16に基づいて生成したレンダリング画像の一例を
図17に示す。なお,
図17のレンダリング画像の右側から左側に向かって,台車4の進行方向としている。
【0092】
以上のような処理を実行することで,事前処理を実行することができる。
【0093】
つぎに,点検作業を行うときに,事前処理で生成したレンダリング画像を用いて,トンネル壁面に投影をする場合の利用処理を行う(S110)。
【0094】
まず,投影装置50を設置した台車4の前後の車輪41が1本のレール60に乗るように台車4を設置する。そして点検員が台車4に取り付けたハンドル43を把持して,投影を開始する位置まで台車4をレール60に沿って移動させる。なお,台車4の移動は手動で行うほか,モータなどを利用して自動で移動を行ってもよい。この場合,ハンドル43は設ける必要がなく,固定軸44およびスタンド45を台車4に常時設置していてもよい。
【0095】
台車4が投影位置に移動すると,台車4が移動しないように,位置固定装置42によって台車4が移動しないように,台車4の位置を一時的に固定する。
【0096】
また,台車4に取り付けたハンドル43を,台車4から外す。そして,台車4に,スタンド45と接合した支持軸44を取り付ける。これによって,作業用コンピュータ51をスタンド45に載置可能とする。
【0097】
スタンド45に載置した作業用コンピュータ51に,点検員が投影位置の情報,たとえば点検作業を行うキロポストの距離,上り,下りなどの情報を入力し,その入力を利用処理部3の位置入力受付処理部30で受け付ける(S300)。
【0098】
そして,画像切出処理部31は,S300で入力を受け付けた投影位置を示す情報に基づいて,レンダリング画像における所定範囲の部分画像を切り出す(S310)。たとえば1回の投影範囲が10メートルの場合,投影位置から10メートルの範囲の部分画像を切り出す。
【0099】
つぎにマッピング処理部32は,切り出した部分画像に対して,トンネル形状に対応したマッピング関数を利用して部分画像を変形し,マッピング画像を生成する(S320)。マッピング画像の一例が
図18である。
図18のマッピング画像は,トンネル壁面に投影した画像ではなく,部分画像をトンネル形状に対応するように変形した画像である。なお,
図18のマッピング画像の枠線は,画像の区切りを示すために表示しただけであり,実際には画像の枠線を表示しないことが好ましい。
【0100】
部分画像をマッピング関数を利用してトンネル形状に対応するように変形すると,投影方向の先端部側は,画像がない部分が生じる。そのため,変形した部分画像を囲う矩形領域を設定した場合の画像がない部分は黒色などの,背景色とは反対色などの投影面とは違いが明確になる色で埋めることが好ましい。このように,単に部分画像を変形するのではなく,変形した部分画像を囲う矩形領域の範囲であって,変形した部分画像がない領域は違いが明確になる所定の色で埋めることで,投影装置50により投影をした場合に,投影面とそれ以外の面の違いを明確化することができる。
【0101】
そして,投影処理部33は,マッピング画像(
図18)を,台車4に設置した投影装置50を介して,トンネル壁面に投影する(S320)。
【0102】
図19に,マッピング画像を投影する前のトンネル壁面(通常の状態のトンネル壁面)を正面から見た状態の一例を示す。
図19では,トンネル壁面の形状をわかりやすくするため,水平線およびトンネル断面に沿った線を黒の実線で表示している。また,
図19の状態を投影装置50側から斜めに撮影した状態の一例を
図20に示す。なお,
図19および
図20では,実際のトンネルではなく,トンネルを模した実験装置に投影した画像であるが,実際のトンネルに投影した場合であっても同様となる。
【0103】
また,
図21に,マッピング処理部32で生成したマッピング画像を,
図19のトンネル壁面に投影した状態を,トンネル壁面の正面から見た状態の一例を示す。なお,
図21における右側上部の暗い部分は,投影装置50の光が届かない領域である。また,
図21の状態を投影装置50側から斜めに撮影した状態の一例を
図22に示す。なお,
図21および
図22では,
図19および
図20と同様に,実際のトンネルではなく,トンネルを模した実験装置に投影した画像であるが,実際のトンネルに投影した場合であっても同様となる。
【0104】
以上のような処理を実行することで,投影処理部33がトンネル壁面にマッピング画像を投影することができる。
【0105】
投影装置50は好ましくは斜め方向から投影しているため,マッピング画像自体は歪みがある。しかし,この歪みがある画像をトンネル壁面に投影した場合,投影面を正面から見る点検員には,
図21に示すように,トンネル壁面の実際の変状箇所に適合するように,変状箇所を示す線や領域などが表示されて視認できる。
【0106】
投影処理部33でマッピング画像を投影した場合であっても,トンネル壁面にある実際の変状と,投影したマッピング画像における変状とに位置のずれが生じる場合もある。これは,投影装置50の設置位置,姿勢が想定と相違している場合,あるいはトンネル壁面とレールの設置状況が想定と異なっていた場合など,各種の事情によって生じる。
【0107】
その場合,校正処理部34は,台車4のスタンド45に設置した作業用コンピュータ51で点検員によって所定の操作を受け付けることで,
図23に示すような校正処理の画面を作業用コンピュータ51で表示し,投影装置50の位置,投影装置50の方向を調整して,校正処理を実行する。すなわち,投影装置50の位置として投影装置50の上下の高さ(キー入力W,Z),投影装置50の左右(トンネル壁面と投影装置50の距離)の位置(キー入力A,S),投影装置50の前後方向(進行方向に対する前後方向)の位置(キー入力F,B)の入力を受け付け,また,投影装置50の方向として投影装置50の俯角(キー入力U,D),内転角(キー入力L,R)の入力を受け付け,投影装置50の位置と方向を調整して校正処理を実行する。内転角とは,トンネルの進行方向から投影する壁面に向かって投影装置50の光軸を回転させた角度である。校正処理を模式的に示すのが,
図24である。
【0108】
すなわち,校正処理の画面に入力された投影装置50の位置,投影装置50の方向の入力を校正処理部34で受け付け,その入力値に基づいてマッピング関数を調整し(S340),マッピング処理部32が,S310で切り出した部分画像に基づいてS340の校正処理を実行後のマッピング関数を利用してマッピング画像を新たに生成する。新たに生成したマッピング画像を,投影処理部33が投影装置50からトンネル壁面に対して投影する。これによって,実際に投影装置50を移動させることなく,校正処理の画面で入力された入力値に基づいて仮想的に視点を変更してマッピング画像を生成し直すことで投影を行うことができる。
【0109】
なお,S310で切り出した部分画像に対してS340の校正処理を実行後のマッピング関数を利用して生成したマッピング画像を投影装置50からトンネル壁面に対して投影させるかわりに,
図24に示すようにワイヤーフレーム40画像(トンネル形状のグリッド図)を,S340の校正処理を実行後のマッピング関数を利用して変形し,投影装置50からトンネル壁面に対して投影させてもよい。この場合,処理負荷を軽減できる。
【0110】
さらに,校正処理部34は,マッピング関数を調整するほか,台車4の台座46に設置してある雲台47の位置および方向を変更することで,マッピング関数を変更せずに,マッピング画像の投影位置を変更する校正処理を実行してもよい。
【0111】
以上のようにマッピング画像がトンネル壁面に対して正しい位置に投影されると,点検員はトンネル壁面にある変状箇所を投影面により視認しながら,点検作業を行う。このように,トンネル壁面そのものに変状箇所を投影することで,点検員は,変状箇所をすぐに把握することができ,また点検員が変状箇所の情報を共有しながら点検作業を行うことができる。また,ヘッドマウントディスプレイのような装置を装着する必要もないので,体力的な負担も大きくはない。
【0112】
そして,投影面の範囲での点検作業が終了すると,点検員が作業用コンピュータ51で所定の操作を行うことでマッピング画像の投影をいったん終了する。
【0113】
点検員は,位置固定装置42で固定した台車4の固定を解除し,台車4をレール60に沿って移動可能とする。
【0114】
移動可能となった後,台車4をレール60に沿って,つぎの投影位置まで移動させる。つぎの投影位置は,マッピング画像の投影範囲よりは所定距離だけ短い距離を設定するとよい。たとえば投影範囲が10メートルの場合,所定距離を1メートルとして,最初の投影位置から9メートルだけ台車4をレールに沿って移動させる。そして,上述と同様に台車4を位置固定装置42によって固定し,S310以降の処理を実行させる。
【0115】
あるいは台車4の移動距離を任意の距離だけ移動させるようにしてもよい。この場合,台車4に設置した移動量計測装置55で台車4の移動量(距離)を計測し,移動処理部35が,台車4の移動量(距離)を取得する(S360)。そして取得した移動量(距離)を画像切出処理部31に渡し,レンダリング画像から切り出す部分画像の範囲を変更する。たとえば移動量計測装置55で台車4が9メートル移動していた場合,移動量として9メートルの情報を移動処理部35が取得し,それを画像切出処理部31に渡す。画像切出処理部31は,起点または前回の地点から9メートル移動した位置を基準とし,そこから所定範囲,たとえば10メートルの範囲を部分画像としてレンダリング画像から切り出す(S310)。
【0116】
そして以後,同様にS320以降の処理を実行することで,同様に点検作業を行うことができる。
【0117】
このように,当日の点検作業が終了するまでの間,投影を行う位置に台車4を移動させ,台車4に投影した投影装置50により,CAD図面のデータから,変状箇所の太線化,背景色の変更,変状箇所の線の色を変更等したレンダリング画像を生成し,そのレンダリング画像から,投影位置に対応する範囲の部分画像を切り出して,マッピング関数を用いて生成したマッピング画像をトンネル壁面に投影することを繰り返すことで,トンネル壁面の点検作業を容易に行うことができる。
【実施例2】
【0118】
実施例1での処理に加えて,以下のような処理を行ってもよい。台車4には,さらに,トンネル壁面を静止画像または動画像で撮影を行う撮影装置52を備える。撮影装置52は,撮影範囲が投影装置50の投影範囲全体をカバーする機材を選択し,投影装置50の光軸に合わせて設置することが好ましい。
【0119】
また,トンネル壁面投影システム1の利用処理部3には,さらに点検作業検出処理部36を備える。この場合のトンネル壁面投影システム1の全体の構成の一例を模式的に示すのが
図25である。
【0120】
点検作業検出処理部36は,台車4に設置した撮影装置52が撮影する点検員による点検作業の連続的な静止画像または動画像から,点検員がトンネル壁面にある変状箇所を指し示すための所定の入力装置73,たとえばペンライトやレーザポインタを用いた所定の動作を検出する。
【0121】
撮影装置52は,点検員によるトンネル壁面の点検作業を撮影している。そして,点検員がトンネル壁面に,クラックなどの新たな変状や,変状の進行を発見すると,当該変状の種類に応じた色のペンライトを点灯し,変状箇所に沿ってペンライトを動かす。変状箇所に沿ってペンライトを動かし終わると,ペンライトを消灯する。たとえば,変状の種類がクラックの場合には赤色のペンライトを点灯し,剥離の場合には緑色のペンライトを点灯し,錆汁の場合には青色のペンライトを点灯するなど,変状の種類と色とは任意に対応づけることができるが,好ましくは,CAD図面における変状の種類と色との対応に沿っていることが好ましい。
【0122】
点検作業検出処理部36は,撮影装置52が撮影した画像からペンライトの点灯を検出すると,所定のカーソルCをマッピング画像上に表示をする。これを模式的に示すのが
図26である。そして,点検員による変状箇所に沿ったペンライトの移動を検出し,それを所定の色でトレースし,トレース線Tをマッピング画像に表示を行う。この状態の一例を示すのが
図27である。そして,点検員による変状箇所に沿ったペンライトの移動が終了すると,点検員によるペンライトの消灯を検出し,当該トレース線Tをマッピング画像上で確定し,マッピング画像に新たな変状を示すトレース線Tが登録される。この状態の一例を示すのが
図28である。
【0123】
なお,ペンライトの移動を検出するには,あらかじめ定めたいくつかの色のうちの一つであることを検出すればよい。またペンライトは発光部が直線状なので,その端部(好ましくは先端部)を色から検出し,その後の変状の形状に沿ったペンライトの端部の移動を追跡することで,変状の形状を検出できる。
【0124】
そして,点検作業検出処理部36は,上述のようにトレース線Tが登録されたマッピング画像に対して,実施例1とは逆の処理を実行することで,CAD図面データに戻すことができる。
【0125】
すなわち,トレース線Tが登録されたマッピング画像に対して,マッピング処理部32におけるマッピング関数の逆変換を行うことで,トレース線Tが登録されたマッピング画像を,トレース線Tが登録された部分画像に逆変換する。そして,当該部分画像に対応する位置はS300,S360で特定できているので,ペンライトの色を検出し,その色に対応づけた変状の種別を特定する。そして変状の種別に対応するレイヤにおいて,検出した色で,所定の太さで,トレース線Tを登録することで,CAD図面に新たな変状を登録することができる。新たなトレース線Tを登録したCAD図面(背景を除去した状態)の一例を
図29に示す。
【0126】
マッピング画像を部分画像に変換する場合には,撮影装置52のイメージセンサ面で検出された輝点に対して,レンズ歪みに対して歪み補正処理を行って正しい座標に変換し,その後,3次元空間の壁面のどこにその輝点が対応するのかをマッピング関数の逆変換で求める。そして,壁面の位置からCAD図面上の位置を求めることとなる。
【0127】
以上のような処理を実行することで,点検員が新たな変状を発見した場合には,ペンライトやレーザポインタなどを利用してトンネル壁面の変状箇所をトレースし,撮影装置52がその点検作業を撮影すれば,自動的にトレース線Tをマッピング画像,部分画像,レンダリング画像,CAD図面などに登録することができる。これによって,点検員は,点検作業の現場において変状の箇所をトレースするだけで,CAD図面に新たな変状を追加することができる。そのため,CAD図面上で変状箇所を追加登録するなどの作業を行わなくてもよくなり,その作業負担が軽減する。
【実施例3】
【0128】
さらに別の実施態様として,投影装置50によるマッピング画像の投影と,点検作業の現場の周囲にある照明装置の点灯,消灯を連動してもよい。
【0129】
トンネル内は暗いので,点検作業を行う場合には,照明装置を周囲に設置し,点検対象とするトンネル壁面を照らしている。一方,投影装置50でマッピング画像を投影する場合,その照明装置の照明は,マッピング画像を見えにくくしてしまう。
【0130】
そこで,本実施態様においては,投影装置50がマッピング画像の投影を行うときに,少なくともトンネル壁面を照らす照明装置に対して,当該照明装置を消灯するように信号を送る。この信号を受けた照明装置は,照明装置を消灯する。照明装置が消灯しても,投影装置50によりトンネル壁面に対しては光が照射されているので,十分な点検作業を行うことはできる。
【0131】
一方,その点検場所における点検作業が終了する場合,つぎの点検場所まで台車4を移動させる。このときに投影装置50は投影をしていないので,周囲が暗くなり,台車4の移動作業などに支障が生じる。そこで,投影装置50がマッピング画像の投影を終了するときには,少なくともトンネル壁面を照らす照明装置に対して,当該照明装置を点灯するように信号を送る。この信号を受けた照明装置は,照明装置を点灯する。
【0132】
このように,投影装置50の投影開始および投影終了と,照明装置の消灯および点灯とを連動させることで,点検作業を効率的に進めることができる。
【0133】
投影装置50から照明装置への信号の送出は,有線で行ってもよいし,無線で行ってもよい。また,投影装置50の投影開始と投影終了に応じて,照明装置の消灯と点灯を切り替えるのではなく,逆に,照明装置の消灯をする際に照明装置から投影装置50に投影開始の信号を送ることで投影装置50が投影を開始し,照明装置の点灯をする際に照明装置から投影装置50に投影終了の信号を送ることで投影装置50が投影を終了してもよい。
【0134】
本発明は,本発明の趣旨を逸脱しない範囲において,適宜,設計変更が可能である。また処理は一例であり,その処理を異なる順番で実行することも可能である。さらに,画面の表示についても適宜,変更可能である。また,すべての機能を備えずとも,一部の機能のみを備えるのであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明のトンネル壁面投影システム1を用いることで,従来の人手による作業よりも大幅に効率化を図ることができる。また,MR技術ではないので,場所のキャリブレーションやCAD図面の3次元モデルを用いることなく,多くの点検員が同時にCAD図面に基づく変状箇所の情報を共有しながら作業を行うことができる。また点検員の体力的な負担も大きくなく作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0136】
1:トンネル壁面投影システム
2:事前処理部
3:利用処理部
4:台車
20:図面読込処理部
21:変状図形処理部
22:レンダリング処理部
30:位置入力受付処理部
31:画像切出処理部
32:マッピング処理部
33:投影処理部
34:校正処理部
35:移動処理部
36:点検作業検出処理部
40:支持台
41:車輪
42:位置固定装置
43:ハンドル
44:固定軸
45:スタンド
46:台座
47:支持軸
48:固定具
48a:回転軸
48b:溝
48c:ピン
49:移動量計測装置
50:投影装置
51:作業用コンピュータ
52:撮影装置
60:レール
61:枕木
70:演算装置
71:記憶装置
72:表示装置
73:入力装置
74:通信装置