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特許7493775金属間化合物からなる多孔質フィルム、並びにその製造方法及び応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】金属間化合物からなる多孔質フィルム、並びにその製造方法及び応用
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20240527BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240527BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20240527BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20240527BHJP
   H10N 10/851 20230101ALI20240527BHJP
【FI】
C23C26/00 C
B32B5/18
B32B15/04 Z
C01B33/06
C23C26/00 B
H10N10/851
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020145374
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040587
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】山田 高広
(72)【発明者】
【氏名】藪 浩
(72)【発明者】
【氏名】松井 淳
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-102156(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179897(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/024781(WO,A1)
【文献】特開2015-053466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
H10N 10/00-10/857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面及び孔内表面が第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物で構成されており、前記表面及び前記孔内表面を構成している前記金属間化合物が、複数の空孔を有し、当該複数の空孔がハニカム状に配列され、かつ隣接する孔と連接して平面方向に連続的な孔を形成していることを特徴とする、多孔質フィルム。
【請求項2】
前記第1の金属元素が、遷移金属元素又はケイ素元素である請求項1に記載の多孔質フィルム。
【請求項3】
前記第2の金属元素が、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素から選択される請求項1又は2に記載の多孔質フィルム。
【請求項4】
前記第1の金属元素がケイ素元素であり、前記第2の金属元素がマグネシウム元素である請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質フィルムを複数積層してなる多孔質フィルム積層体。
【請求項6】
少なくとも表面及び孔内表面が第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物で構成されており、前記表面及び前記孔内表面を構成している前記金属間化合物が複数の空孔を有することを特徴とする多孔質フィルムを、複数積層してなる多孔質フィルム積層体。
【請求項7】
請求項4に記載の多孔質フィルム、又は請求項5若しくは6に記載の多孔質フィルム積層体を、n型半導体層及びp型半導体層の少なくとも一方として備えた、熱電変換素子。
【請求項8】
ポリマー多孔質フィルムの表面及び孔内表面に、第1の金属元素を含む化合物を塗布する工程と、
塗布した第1の金属元素を含む化合物を酸化して、第1の金属元素の酸化物の被膜を形成する工程と、
前記酸化物の被膜を形成したポリマー多孔質フィルムを第2の金属元素の蒸気雰囲気下で加熱する工程とにより、多孔質フィルムを製造し、
前記多孔質フィルムは、少なくとも前記多孔質フィルムの表面及び孔内表面が第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物で構成されており、前記多孔質フィルムの前記表面及び前記孔内表面を構成している前記金属間化合物が複数の空孔を有することを特徴とする、
多孔質フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属間化合物からなる多孔質フィルム、並びにその製造方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノオーダーからマイクロオーダーの微細な空孔が規則的に配列した多孔質フィルム(多孔質膜ともいう。)は、エネルギー変換材料、半導体低誘電率材料、電子ディスプレイ用散乱層、磁気記録材料、細胞培養用基材等をはじめ、多岐に渡る用途への応用が期待されている有望な素材である。
このような多孔質フィルムを構成する材料としては、用途等に応じて適宜に選択されるが、通常、高分子(ポリマー)、セラミック、金属等の各種材料が挙げられる。
例えば、特許文献1には、ポリマー製の多孔質フィルムとしてポリイミド多孔質膜が記載されている。また、セラミック製の多孔質フィルムとしては、シリカで形成された微細構造体が挙げられる(非特許文献1)。この非特許文献1には、シリカで形成された微細構造体の製造方法として、ポリシロキサンブロックを有するブロック共重合体を用いて架橋共重合体フィルムを作製し、次いでこの架橋共重合体フィルムを熱分解する方法が記載されている。更に、金属製の多孔質フィルムとしては、銀で形成されたハニカムフィルムが挙げられる(非特許文献2)。この非特許文献2には、ポリマーを用いて形成したハニカムパターンフィルムの孔表面に銀を無電解めっきした後に、ポリマーを溶出若しくは焼失させて、銀で形成されたハニカムフィルムを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-080538号公報
【0004】
【文献】J. Mater. Chem., 2010, 20, 5446-5453
【文献】Langmuir, Vol.22, No.23, 2006, 9760-9764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質フィルムを特定の用途に適用するに際しては、その用途に適した材料が選択される。例えば、エネルギー変換装置の1種である熱電変換装置の半導体材料として多孔質フィルムを適用する場合には、ゼーベック係数及び電気伝導率が大きく、熱伝導率が小さい材料が選択される。このような材料としては、通常、希土類、貴金属若しくは重金属等の各種元素の金属材料等が用いられる。
しかし、従来の多孔質フィルムは、多孔質であるために熱伝導率を小さくできるものの、ポリマー、セラミックや金属等の材料で形成されたものが多く、材質、物性ないし特性の面で、その用途が限られてしまう。例えば、金属材料で多孔質フィルムを製造する方法としては、合金微粒子をバインダーと共に焼き固めてバインダーを焼失させる方法、異種金属合金の一部を溶出させる方法等が挙げられる。しかし、従来の多孔質フィルムの製造方法では、用途に適した金属材料で、均一性を持った空孔を有する高空孔率の多孔質フィルムを形成することは容易ではない。
高分子、セラミック等の材料に対して、金属材料は、添加する金属元素の種類や添加量等の変更によって、機械的強度、磁性、電気伝導性、熱起電力、熱伝導率等の物性ないし特性を改善することができる。したがって、多孔質フィルムを合金等の金属材料で製造できれば、その物性ないし特性を利用して、種々の用途に応用可能となって用途を広げることができる。
【0006】
本発明は、金属間化合物で作製された多孔質フィルム及びその積層体、更にこの多孔質フィルムの製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、金属間化合物で作製された多孔質フィルムを用いたエネルギー変換装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリマーで形成された多孔質フィルムの表面に第1の金属種の酸化物を配置した後に第2の金属種の蒸気環境下で加熱還元することにより、ポリマーで形成された多孔質構造を鋳型として、この鋳型に対応する多孔質構造の骨格表面を第1の金属種と第2の金属種とからなる金属間化合物で被覆(形成)できることを、見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>複数の空孔を有する多孔質フィルムであって、
その多孔質構造骨格の表面が、少なくとも第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物で被覆されている、多孔質フィルム。
<2>前記第1の金属元素が、遷移金属元素又はケイ素元素である<1>に記載の多孔質フィルム。
<3>前記第2の金属元素が、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素から選択される<1>又は<2>に記載の多孔質フィルム。
<4>前記第1の金属元素がケイ素元素であり、前記第2の金属元素がマグネシウム元素である<1>~<3>のいずれか1項に記載の多孔質フィルム。
<5>上記<1>~<4>のいずれか1項に記載の多孔質フィルムを複数積層体してなる多孔質フィルム積層体。
<6>上記<4>に記載の多孔質フィルム、又は<4>に記載の多孔質フィルムを含む<5>に記載の多孔質フィルム積層体を、n型半導体層及びp型半導体層の少なくとも一方として備えた、熱電変換素子。
<7>ポリマー多孔質フィルムの表面に、第1の金属元素を含む化合物を塗布する工程と、
塗布した第1の金属元素を含む化合物を酸化して、第1の金属元素の酸化物の被膜を形成する工程と、
前記酸化物の被膜を形成したポリマー多孔質フィルムを第2の金属元素の蒸気雰囲気下で加熱して、第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物を形成する工程と、
を有する、多孔質フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、(多孔構造の少なくとも骨格表面が)金属間化合物で作製された多孔質フィルム、及びその製造方法を提供できる。本発明は、金属間化合物で作製された多孔質フィルムを用いたエネルギー変換装置、好ましくは熱電変換素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、比較例1で作製したポリマー多孔質フィルムの電子顕微鏡写真を示す図である。
図2図2は、比較例1で作製した複合多孔質フィルムからポリマーを除去したポリマー除去膜の電子顕微鏡写真を示す図である。
図3図3は、比較例1で作製した多孔質フィルム及びシリコン基板の電子顕微鏡写真を示す図である。
図4図4は、比較例1で作製した多孔質フィルム及びシリコン基板のラマン散乱スペクトルを示す図である。
図5図5は、比較例1で作製した多孔質フィルム及びシリコン基板のXRDの結果を示す図である。
図6図6は、実施例1で作製したMgSi多孔質フィルム及びシリコン基板の電子顕微鏡写真を示す図である。
図7図7は、実施例1で作製したMgSi多孔質フィルム及びシリコン基板のラマン散乱スペクトルを示す図である。
図8図8は、実施例1で作製したMgSi多孔質フィルム及びシリコン基板のXRDの結果を示す図である。
図9図9は、比較例2で作製した多孔質フィルム及びシリコン基板の電子顕微鏡写真を示す図である。
図10図10は、比較例2で作製した多孔質フィルム及びシリコン基板のラマン散乱スペクトルを示す図である。
図11図11は、比較例2で作製した多孔質フィルム及びシリコン基板のXRDの結果を示す図である。
図12図12は、実施例2において、複合多孔質フィルムを積層した状態の電子顕微鏡写真を示す図である。
図13図13は、実施例2で作製したMgSi多孔質フィルム積層体の電子顕微鏡写真を示す図である。
図14図14は、参考例1で作製した複合多孔質フィルム(チタニアコートハニカムフィルム)からポリマーを除去したポリマー除去膜の電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明及び本明細書において、金属間化合物とは、2種類以上の金属原子が化学結合した化合物を意味する。また、合金とは、複数の金属元素又は金属元素と非金属元素からなる金属様の化合物をいい、固溶体、共晶、金属間化合物等を含む。それゆえ本発明及び本明細書においては、特に断らない限り、「合金」は、金属間化合物はもちろん固溶体等を含む意味で用いる。
また、本発明及び本明細書において、金属元素は、一般に周期律表の第1族~第13族に属する金属元素に加えて、所謂半金属元素(ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルの各元素、更にはセレン、ポロニウム及びアスタチンの各元素)を包含する。
本発明及び本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[多孔質フィルム]
本発明の多孔質フィルムは、複数の空孔を有するフィルムであって、その多孔質構造の骨格の少なくとも表面が金属間化合物(からなる金属材料)で被覆されている。表面が金属間化合物で被覆される(表面に金属間化合物が存在する)ことにより、多孔質フィルムは、その用途に応じて求められる特性、例えば熱若しくは電気伝導性を示す。また、多孔質フィルムは、空孔内を含む全表面が金属間化合物で被覆されている態様が好ましい態様の1つであり、多孔構造の骨格全体が金属間化合物で形成されている態様もとりうる。なお、少なくとも表面が金属間化合物で被覆される多孔質構造は、通常、後述する第1の金属元素の酸化物、第1の金属元素の単体等の金属材料で形成され、多孔質構造の全部が金属間化合物で形成されることもできる。
【0013】
多孔質フィルムが有する空孔は、有底孔(穴)でもよいが、通常、フィルムの厚さ方向に貫通する孔(透過孔)である。また、空孔は、隣接する別の孔と独立に存在していてもよく、隣接する別の孔と連接して平面方向に連続的な孔を形成していてもよい。多孔質フィルムが有する空孔の数は、フィルムサイズ、孔径、空隙率等に応じて適宜に決定され、例えば、1mm当たり10~10個とすることができる。
【0014】
本発明の多孔質フィルムにおいて、複数の空孔が配置される配列は、特に制限されないが、フィルム上面視で、縦横均一な配列、千鳥(ジグザグ)配置、ハニカム状配置等が挙げられる。中でも、空隙率を大きくすることができ、また後述するポリマー多孔質フィルムの製造方法で簡便に製造できる点で、ハニカム状配置が好ましい。
本発明において、複数の貫通孔がハニカム状に配置された多孔質フィルムを「ハニカムフィルム」ということがある。
【0015】
多孔質フィルムの孔径(表面開口径)、空隙率、厚さ等の物性ないし特性は、用途等に応じて適宜に設定される。
例えば、空孔の孔径(表面開口径)は、通常、ナノオーダーからマイクロオーダーの孔径に設定され、例えば、数百nm~数十ミクロンとすることができ、500nm~20μmであることが好ましい。多孔質フィルムの空隙率としては、例えば60%以上とすることができ、70%以上であることが好ましい。空隙率は、得られる多孔質フィルムの見掛け(空孔を含む)体積(D)に対する、空孔(空孔内の空気)の体積(A)の体積割合であり、式:A/D×100(%)により、算出できる。多孔質フィルムの見掛け(空孔を含む)体積(D)の測定方法は、25℃において、サンプルの縦・横・高さのサイズを測定することで得られ、空孔の体積(A)の測定方法は、25℃において、空孔の直径をSEM等により測定し、空孔密度を掛け合わせることで測定できる。多孔質フィルムの厚さは、単層(多孔質フィルム自体の厚さに相当)又は積層(多孔質フィルム積層体の厚さに相当)により、100nm~10mmとすることができ、500nm~1000μmであることが好ましい。
後述する本発明の多孔質フィルムの製造方法で製造される多孔質フィルムは、例えば合金の粉体を密着成形して製造する多孔質フィルムとは異なり、粒界が存在しない。そのため、粒界の界面抵抗がなく、例えば電気伝導率の低下を防止できる。更に粉体を密着成形して製造した多孔質フィルムに比して軽量で高い空隙率を実現できる。
本発明の多孔質フィルムが後述する本発明の多孔質フィルムの製造方法で製造される場合、ポリマー多孔質フィルムの物性ないし特性を維持している。
【0016】
多孔質フィルムを形成する金属間化合物は、特に制限されず、要求特性、用途等に応じて適宜に選択される。例えば、金属間化合物は、第1の金属元素と第2の金属元素と含んで形成され、これら金属元素以外の金属元素(第3の金属元素)を含んで形成されてもよい。
第1の金属元素としては、特に制限されず、遷移金属元素又はケイ素元素であることが好ましく、ケイ素元素がより好ましい。遷移金属元素としては、周期律表の第3族から第11族に属する元素であればよく、例えば、ゲルマニウム元素、スズ元素、チタン元素、ジルコニウム元素、クロム元素、マンガン元素、鉄元素等が挙げられる。第2の金属元素としては、第1の金属元素と金属間化合物を形成しうるものであれば特に制限されず、例えば、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素から選択される金属元素であることが好ましく、マグネシウム元素がより好ましい。これら金属元素から形成される金属間化合物としては、マグネシウムシリサイド、クロムシリサイド、マンガンシリサイド、鉄シリサイド等のシリサイド系の金属間化合物が挙げられる。
【0017】
本発明の多孔質フィルム、特に本発明の多孔質フィルムの製造方法で製造される多孔質フィルムは、上記のように高い空隙率を実現できる。しかも、金属間化合物で一体的に膜状に形成されているため、粒界の存在(例えば界面抵抗)による問題はなく、例えば、低抵抗、低熱伝導率、高電気伝導率等も実現できる。
【0018】
[多孔質フィルム積層体]
本発明の多孔質フィルムは、上述の膜厚を有しているが、膜厚ないし体積を更に大きくする(適用可能な用途を広げる)ため、積層して使用することもできる。
本発明の多孔質フィルム積層体は、本発明の多孔質フィルムを少なくとも1層含む積層体であり、すべての層が本発明の多孔質フィルムである積層体が好ましい。積層される本発明の多孔質フィルムは、材質、物性等が同じフィルムでも異なるフィルムでもよい。また本発明の多孔質フィルムに積層されうる多孔質フィルムとしては、本発明の多孔質フィルム以外のものであればよく、上述した従来の多孔質フィルム等が挙げられる。
特に本発明の多孔質フィルムを積層した多孔質フィルム積層体は、各多孔質フィルムが多孔質構造を維持しており、複数の空孔が3次元的に配列された多孔体として機能する。
多孔質フィルムの積層数は、特に制限されず、要求特性、用途等に応じて適宜に決定される。例えば2層以上とすることができる。
【0019】
本発明の多孔質フィルム及び多孔質フィルム積層体は、その物性ないし特性に応じて、上述のように、エネルギー変換材料、半導体低誘電率材料、電子ディスプレイ用散乱層、磁気記録材料、細胞培養用基材等の各種用途に使用できる。
【0020】
[熱電変換素子]
発明の多孔質フィルム又は本発明の多孔質フィルム積層体を熱電変換材料として用いた例を説明する。
本発明の熱電変換素子は、n型半導体層及びp型半導体層の少なくとも一方として、本発明の多孔質フィルム又は本発明の多孔質フィルム積層体を備えている。ここで、熱電変換素子が備える多孔質フィルムは、第1の金属元素がケイ素元素であり、第2の金属元素がマグネシウム元素である多孔質フィルム(MgSi多孔質フィルムという。)であるものが好ましい。また、多孔質フィルム積層体は少なくとも1層のMgSi多孔質フィルムを含む多孔質フィルム積層体であることが好ましい。
MgSi(マグネシウムシリサイド)は、軽量で安価な化合物で高温耐性にも優れるものの、特に産業分野から排出される排熱温度範囲(400~800K)においては、これまで熱電変換材料としては十分な無次元性能指数ZT(>1)を実現できていない。しかし、本発明の多孔質フィルムは、上述のように、高空隙率と低熱伝導率若しくは高電気伝導率とを実現でき、多孔質フィルムをMgSiで形成すると、熱電変換材料としての十分な無次元性能指数ZTを実現できる。そのため、MgSi多孔質フィルムは熱電変換材料として好適に用いることができる。
なお、MgSiは、通常n型半導体層としてそのまま適用できるが、適宜にドーパントを添加してもよい。また、p型半導体層として適用する場合、ビスマス等のドーパントを添加することが好ましい。ドーパントの添加は、本発明の製造方法のいずれの工程で行うことができる。
【0021】
熱電変換素子の構造としては、特に制限されず、公知の構造を適宜に適用できる。
例えば、第1の低温側電極と、第1の低温側電極に接続されたn型熱電変換層と、このn型熱電変換層と高温側電極を介して電気的に接続されたp型熱電変換層と、p型熱電変換層に接続された第2の低温側電極とを有する構造が挙げられる。
熱電変換素子は複数備えて熱電変換装置を構成することもできる。
【0022】
[多孔質フィルムの製造方法]
本発明の多孔質フィルムの製造方法(以下、単に本発明の製造方法ということがある。)は、下記工程を有する。ここで、下記の塗布する工程と被膜を形成する工程とはゾルゲル法を適用して実施することが好ましい。

塗布する工程:ポリマー多孔質フィルムの表面に、第1の金属元素を含む化合物を塗布する工程
被膜を形成する工程:塗布した第1の金属元素を含む化合物を酸化して、第1の金属元素の酸化物の被膜を形成する工程
加熱する工程:酸化物の被膜を形成したポリマー多孔質フィルムを、第2の金属元素の蒸気雰囲気下で加熱して、第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物を形成する工程
【0023】
本発明の製造方法を実施するに際して、ポリマー多孔質フィルムを準備する。
準備するポリマー多孔質フィルムは、本発明の多孔質フィルムを形成可能なフィルムであればよいが、自己組織化を利用して作製したものが好ましい。自己組織化を利用したポリマー多孔質フィルムの製造方法としては、ポリマー溶液を基板上に塗布し、ポリマー溶液表面上に結露した水滴を鋳型としてハニカム状の多孔質膜を形成する方法(所謂、Breath fingure method)が好適である。この方法では、通常、複数の空孔(貫通孔)がハニカム状に配列されたポリマー製の多孔質フィルム(ポリマーハニカムフィルム)を形成できる。
Breath fingure methodとしては、例えば、両親媒性を有する単独のポリマー、又は(両親媒性ポリマー以外の)ポリマーと両親媒性ポリマーとからなるポリマー混合物の疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストし、この有機溶媒を蒸散させると同時にキャスト液表面で結露させ、結露により生じた微小水滴を蒸発させる方法が挙げられる。
このBreath fingure methodとしては、例えば、特開2001-157574号公報、特開2002-347107号公報又は特開2002-335949号公報に記載の方法、上記非特許文献2、更には特開2008-055585号公報に記載の方法を参考にすることができ、これら文献に記載の内容は本明細書に取り込まれる。
Breath fingure methodは、上記文献を参照して適宜に実施することができるが、その一例を以下に説明する。ただし、本発明は下記一例に限定されるものではない。
【0024】
この方法に使用可能なポリマーとしては、両親媒性を有する単独のポリマーでもよく、(両親媒性ポリマー以外の)ポリマーと両親媒性を有するポリマーからなる複数のポリマーの混合物でもよい。
両親媒性を有する単独のポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸-ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε-カプロラクトン-ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリリンゴ酸-ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体等が挙げられる。
(両親媒性ポリマー以外の)ポリマーとしては、例えば、ポリスチレンやポリスチレン-ポリブタジエンエラストマー等のポリスチレン系エラストマー、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン系エラストマー、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート等の脂肪族ポリエステル系エラストマー、並びにポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ビスフェノールA等の脂肪族ポリカーボネート系エラストマー等が、有機溶媒への溶解性の観点から、好ましい。
両親媒性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基若しくはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、又はヘパリンやデキストラン硫酸、核酸(DNAやRNA)等のアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等が好ましい。
【0025】
ポリマーと両親媒性ポリマーを併用する場合、その組成比は特に限定されないが、好ましくは、質量比(ポリマー:両親媒性ポリマー)で、99:1~50:50の範囲内である。この範囲に設定することにより、均一なハニカム構造を有する力学的に安定なポリマー多孔質フィルムを作製できる。
【0026】
ポリマー多孔質フィルムを作製するに際して、ポリマー溶液上に微小な水滴粒子を形成させることが必要であることから、使用する有機溶媒としては非水溶性(疎水性)であることが重要である。疎水性有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性ケトン類、二硫化炭素等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、又、これらの溶媒を組み合わせて混合溶媒として使用してもよい。
疎水性有機溶媒に溶解するポリマーと両親媒性ポリマーの両者の合計のポリマー濃度は、特に制限されず適宜に設定されるが、好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.05~5質量%である。ポリマー濃度を上記範囲に設定すると、所望のハニカム構造を有する力学強度に優れたポリマー多孔質フィルムを作製できる。
本発明においては、公知の界面活性剤を用いることが、均一な配置及びサイズの孔を形成できる点で、好ましい。
【0027】
上記方法では、まず、上記ポリマーの有機溶媒溶液を基板上にキャストしてハニカム構造体を調製する。
基板としては、特に制限されないが、例えば、ガラス、金属、シリコンウェハー等の無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン等の耐有機溶剤性に優れた高分子などを使用できる。
ハニカム構造が形成される機構は次のように考えられる。すなわち、有機溶媒が蒸発するとき、潜熱を奪うために、キャストフィル表面の温度が下がり、微小な水の液滴がポリマー溶液表面に凝集、付着する。ポリマー有機溶媒溶液中の親水性部分の働きによって水と有機溶媒の間の表面張力が減少し、このため、水微粒子が凝集して1つの塊になろうとするに際して安定化される。有機溶媒が蒸発していくに伴い、ヘキサゴナルの形をした液滴が最密充填した形で並んでいき、最後に、水が蒸発して、ポリマーが規則正しくハニカム状に並んだ形として残る。
【0028】
Breath fingure methodによってポリマー多孔質フィルムを作製する方法、環境としては、好ましくは下記(1)及び(2)が挙げられる。
(1)有機溶媒溶液を基板上にキャストし、高湿度空気(例えば相対湿度50%以上)を吹き付けることで有機溶媒を徐々に蒸散させると同時にキャスト液表面に水分を結露させ、結露により生じた微小水滴を蒸発させる方法
(2)有機溶媒溶液を、相対湿度50~95%の大気下で基板上にキャストし、有機溶媒を蒸散させると同時にキャスト液表面に水分を結露させ、結露により生じた微小水滴を蒸発させる方法
【0029】
こうして、複数の空孔がハニカム配列に配置されたポリマー多孔質フィルムを作製できる。ポリマー多孔質フィルムにおいて、ハニカム構造体のひとつひとつの大きさ(孔径)及び空隙率、更に孔の貫通状態又は別の孔との接続状態は、特には限定されず、ポリマー有機溶媒溶液の塗布量、ポリマー有機溶媒溶液中のポリマー種類若しくは濃度、吹き付ける高湿度空気の湿度、相対湿度等によって、適宜に調整できる。孔径、空隙率及び厚さはそれぞれ上記多孔質フィルムの孔径、空隙率及び厚さと同じ範囲に設定できるが、下記範囲に設定することもできる。例えば、孔径としては、好ましくは0.1~100μmであり、より好ましくは0.1~10μmである。空隙率としては、60%以上にすることができ、65~80%にすることもできる。ポリマー多孔質フィルムの厚さは、適宜に調整することができるが、通常、500nm~20μmにすることができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、準備したポリマー多孔質フィルムの表面に、第1の金属元素を含む化合物を塗布する工程を行う。
第1の金属元素としては、後述する第2の金属元素とともに金属間化合物を形成可能な金属元素を含む化合物であればよく、第1の金属元素を含む化合物としては、ゾルゲル法に好適に用いられる化合物が好ましい。
第1の金属元素としては、遷移金属元素又はケイ素元素が挙げられ、上述の通りである。第1の金属元素は、ゾルゲル法に好適である点で、ケイ素元素、チタン元素、ジルコニウム元素が好ましく、ケイ素元素がより好ましい。第1の金属元素を含む化合物としては、例えば、第1の金属元素のハロゲン物、水酸化物、アルコキシド、塩化物、硫化物等が挙げられ、ゾルゲル法に好適である点で、アルコキシドが好ましい。アルコキシドとしては、通常、アルキルアルコキシドが用いられ、アルキル基の炭素数は特に制限されないが、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。第1の金属元素を含む化合物としては、具体的には、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシジルコニウム等が挙げられる。
第1の金属元素を含む化合物は、通常、溶液として用いられる。第1の金属元素を含む化合物を溶解する有機溶媒は、塗布するポリマー多孔質フィルムを溶かさなければ特に制限されず、例えば、アルコール溶媒、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル等が挙げられ、アルコール溶媒が好ましい。溶液中の、第1の金属元素を含む化合物の濃度も特に制限されず、適宜に設定される。例えば、1~80質量%とすることができ、好ましくは、10~50質量%である。
【0031】
第1の金属元素を含む化合物の塗布方法及び塗布条件は、特に限定されず、通常の溶液塗布方法を適宜に採用できる。塗布条件としては、非加熱下若しくは加熱下での、大気中若しくは不活性ガス雰囲気等の条件が挙げられる。
本発明の製造方法においては、塗布した第1の金属元素を含む化合物の溶液を、通常の乾燥方法及び乾燥条件で乾燥することが好ましい。例えば、非加熱下若しくは加熱下での、風乾、送風乾燥等が挙げられる。
第1の金属元素を含む化合物の塗布量(乾燥後)は、多孔質構造の骨格を形成可能な量であればよいが、塗布厚さとしては、1nm~5μmとすることができ、好ましくは10nm~0.1μmである。
こうして、ポリマー多孔質フィルムの少なくとも表面を、第1の金属元素を含む化合物で、被覆することができる。
【0032】
本発明の製造方法においては、次いで、塗布した第1の金属元素を含む化合物を酸化して、第1の金属元素の酸化物の被膜を形成する。具体的には、第1の金属元素を含む化合物を塗布したポリマー多孔質フィルムを酸化処理する。
酸化処理の方法は、特に制限されないが、オゾン環境下での紫外線照射が好ましい。
オゾン環境におけるオゾン濃度は、特に制限されず、表面に配置された第1の金属元素を含む化合物を酸化するのに十分な量に設定される。紫外線照射条件は、第1の金属元素を含む化合物の酸化反応に必要な線量を照射できればよく、適宜の条件に設定される。例えば、紫外線の照射(露光)は、オゾンを発生させる245nm及び185nmの波長光を露光できる5W以上の出力がある低圧水銀ランプ等を用いて行うことが適している。
なお、紫外線の照射は、ポリマー多孔質フィルムを1枚ずつ行ってもよく、複数枚積層した状態で行ってもよい。
【0033】
上記酸化処理により、ポリマー多孔質フィルムの表面及び孔内表面に塗布された第1の金属元素を含む化合物が直接酸化される。例えば、テトラアルコキシシランが直接酸化されてシリカ(SiO)が形成される。
本工程で形成する酸化物被膜の膜厚は、第1の金属元素を含む化合物の塗布量に応じて決定され、例えば、1~5μmとすることができる。
こうして、ポリマー多孔質フィルムの表面及び孔内表面に、第1の金属元素を含む化合物の酸化物被膜を形成することができる。
得られる多孔質フィルムは、ポリマー多孔質フィルムを多孔質構造の骨格としてその表面(孔内表面を含む。)を第1の金属元素を含む化合物の酸化物被膜で被覆した複合多孔質フィルムである。本発明において、ポリマーハニカムフィルムの表面を上記酸化物(例えばシリカ)被膜で被覆した複合多孔質フィルムを酸化物(例えばシリカ)コートハニカムフィルムという。
【0034】
本発明の製造方法においては、上述のようにして得られた酸化物被膜を有するポリマー多孔質フィルム(複合多孔質フィルム)を第2の金属元素の蒸気雰囲気下で加熱して、第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物を形成する。
この工程で用いられる第2の金属元素としては、上述の通り、第1の金属元素と金属間化合物を形成しうるものであればよく、要求特性、用途等に応じて適宜選択される。好ましくは比較的温和な条件で金属蒸気となるものであり、例えば、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素である。この工程で形成される金属間化合物としては、要求特性、用途等に応じて、第1の金属元素及び第2の金属元素を適宜に組み合わせた化合物が挙げられ、具体的には上述の通りである。例えば、本発明の多孔質フィルムを形成する熱電変換材料として好適な金属間化合物としてはマグネシウムシリサイドが挙げられる。
本工程における加熱条件としては、第2の金属元素(第2の金属元素を含む化合物)が金属蒸気に相変化し、かつ第1の金属元素と第2の金属元素とが反応して金属間化合物を形成可能な温度に設定される。この温度は、第1の金属元素及び第2の金属元素の種類(所定の金属間化合物を形成する元素の組み合わせ)によって一義的に決定されない。例えば、第1の金属元素としてケイ素元素、第2の金属元素としてマグネシウム元素を選択する(マグネシウムシリサイドを形成する)場合、600℃を超える温度に設定され、650℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましい。上限温度は、特に限定されず、適宜に設定されるが、例えば1000℃以下が実際的である。加熱時間は、特に制限されないが、例えば、1~10時間とすることができる。
【0035】
第2の金属元素の蒸気雰囲気下で加熱することにより、第1の金属元素の酸化物(例えばシリカ:SiO)が第2の金属元素(例えばマグネシウム:Mg)により還元反応されて、第1の金属元素と第2の金属元素との金属間化合物(マグネシウムシリサイド:MgSi)が多孔質構造の少なくとも骨格表面に一体的に形成される。この反応は例えば無電解めっき等の化学めっきでは生起せず、上記工程により所望の金属間化合物を形成することができる。
この還元反応に際しては、ポリマー多孔質フィルムの多孔質構造を維持しながら進行し、製造される本発明の多孔質フィルムはポリマー多孔質フィルムの多孔質構造のプロファイル(例えば、空孔の配列、孔径、空隙率)と同様若しくは近似するプロファイルを有している。そのため、目的とする多孔質構造を制御できる上述のBreath fingure methodで作製したポリマー多孔質フィルムを用いると、目的とする多孔質構造を有する金属間化合物で被覆(形成)された多孔質フィルムを、簡便に製造することができる。
上記還元反応において、ポリマー多孔質フィルム(多孔質構造)の骨格を形成しているポリマーは通常焼失する。
本発明の製造方法によれば、上述のようにして、ポリマー多孔質フィルムの多孔質構造を鋳型として、この鋳型に対応する多孔質構造の少なくとも骨格表面を金属間化合物で被覆できる。すなわち、ポリマー多孔質フィルムの多孔質構造を、少なくとも表面が金属間化合物で被覆された多孔質構造に変換できる。
【0036】
本発明の製造方法においては、加熱する工程でポリマーが残存した場合、残存しているポリマーを除去する工程を行うこともできる。例えば、有機溶媒中への浸漬処理、焼成処理等が挙げられる。浸漬処理に用いる有機溶媒としては、ポリマー多孔質フィルムを形成しているポリマーを溶解可能な溶媒であればよく、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル化合物等が挙げられる。
また、本発明の製造方法においては、ポリマー多孔質フィルムの空孔内に存在している空気等を除去する工程を各工程前に行うこともできる。特に、第1の金属元素を含む化合物を塗布する工程の前に行うと、空孔内表面に第1の金属元素を含む化合物を塗布しやすくなる。空気等を除去する処理方法としては、特に制限されず、例えば、脱気処理、ポリマー多孔質フィルムを溶解しない有機溶媒での洗浄処理等が挙げられる。
【0037】
こうして、本発明の金属間化合物で形成された多孔質フィルムを製造できる。
【実施例
【0038】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0039】
[比較例1]
以下のようにして、多孔質フィルムを製造した。
<ポリマー多孔質フィルムの作製>
ポリマー多孔質フィルムを非特許文献2に準拠して、Breath fingure methodにより作製した。
具体的には、1,2―ポリブタジエン(商品名:RB820、JSR社製)と、非特許文献2に記載の下記両親媒性ポリマーを質量比10:1で混合し、クロロホルムに溶解して、5g/Lの溶液を調製した。ガラス基板上にこの溶液20mLをキャストし、高湿度空気(相対湿度90%以上)を吹き付けた。溶液の溶媒を蒸発させながら、溶液上に結露させた微小な水滴粒子を蒸発させて、ポリマー多孔質フィルム(ポリマーハニカムフィルム)を製膜した。
【化1】
得られたポリマー多孔質フィルムの表面構造を、走査型電子顕微鏡(SEM、型番:S-5200、日立ハイテク社製)を用いて、加速電圧30KVで、観察した。撮影したSEM写真を図1に示す。SEM写真から、得られたポリマー多孔質フィルムは、複数の空孔がハニカム状に配列されていることを確認した。
なお、得られたポリマー多孔質フィルムの孔径は10μm、上記測定方法による空隙率は60%、厚さは8μmであった。
【0040】
<酸化物被膜で被覆した複合多孔質フィルムの作製>
第1の金属元素を含む化合物としてテトラエトキシオルトシリケート(TEOS、富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
上記で得たポリマー多孔質フィルムを、TEOSの30質量%エタノール溶液に浸漬した後、室温で風乾した(塗布厚さ10nm)。その後、紫外線洗浄・改質装置(型番:OC-250615-D+A、岩崎電気社製)を用いて、下記条件にて、30分UV-オゾン処理を行い、表面のTEOSを酸化処理することで、ポリマー多孔質フィルムの表面及び孔内表面にシリカ膜をコートした。酸化物被膜の膜厚は10nmであった。
- 照射条件 -
低圧水銀ランプとして、オゾンを発生させる245nm及び185nmの波長光を露光できる5W以上の出力があるものを用いた。
【0041】
こうして作製した複合多孔質フィルム(シリカコートハニカムフィルム)がシリカ膜でコートされているか確認した。
具体的には、複合多孔質フィルムをクロロホルム中に浸漬させて、ポリマーを溶解(溶出)させて、ポリマー除去膜を得た。このポリマー除去膜を上記観測条件で、SEMにより観察した。撮影したSEM写真を図2に示す。SEM写真から、複合多孔質フィルムは、その表面及び孔内表面がシリカで被覆されていることを確認した。
【0042】
<多孔質フィルム(ハニカムフィルム)の製造>
上記で得た複合多孔質フィルムを窒化ホウ素(BN)るつぼに入れ、第2の金属元素としての金属Mgと共にステンレス管に封管して、650℃で2.5時間加熱処理した。こうして比較例1の多孔質フィルムを製造した。
【0043】
上記工程においてMgSiの形成を確認するため、複合多孔質フィルムの作製と同様にして表面にシリカ膜を形成したシリコン基板を、上記多孔質フィルムの製造と同様にして金属Mgの蒸気環境下で加熱した。
【0044】
得られた多孔質フィルム及びシリコン基板の表面構造を上記観測条件でSEMにより観察した。撮影したSEM写真を図3に示す。その結果、多孔質フィルムは、ポリマー多孔質フィルムの多孔質構造(プロファイル)を維持していた。また、シリコン基板の表面には凹凸のある構造が形成されていた。これは、Mg蒸気によりMgSiが形成され、体積が膨張したことに由来すると考えられる。
また、得られた多孔質フィルムの化学組成をラマン散乱(NanofinderFlex;Tokyo Instruments Inc.)、及びX線回折(XRD、Rigaku Miniflex 600 equipped with a D/tex Ultra)により評価した。ラマン散乱スペクトル図を図4に、XRDの結果を図5に示す。図4および図5において、「Si substrate」はシリコン基板を、「honey comb aggregate」は多孔質フィルムの凝集塊を、「honey comb hole」は多孔質フィルムの空孔を、「honey comb」は多孔質フィルムを、それぞれ示す(図7図8図10及び図11において同じ。)。
ラマン散乱スペクトルにより、シリコン基板ではMgSiのピークが観察された。多孔質構造の骨格と一部凝集塊の部分からはシリコンのピークが得られた。この結果から、シリコン基板ではMgSiが形成されているが、多孔質フィルムの空孔ではシリカが還元され、シリコンが形成されていることが示唆された。また、XRDの結果、シリコン基板ではMgSiが形成されているが、多孔質フィルムの空孔ではシリコンになっていることが確認された。

- ラマン散乱測定条件 -
励起波長:532nm
積算回数:20~60s
- XRD測定条件 -
X線:CuKα線 1.5418Å
【0045】
[実施例1]
比較例1において、複合多孔質フィルムと金属Mgとの加熱温度を725℃に変更したこと以外は比較例1と同様にして、実施例1のMgSi多孔質フィルム及びシリカ基板を製造した。
実施例1のMgSi多孔質フィルム及びシリコン基板を比較例1と同様にして評価した。撮影したSEM写真を図6に、ラマン散乱スペクトル図を図7に、XRDの結果を図8に示す。
SEM写真から、実施例1のMgSi多孔質フィルムはポリマー多孔質フィルムの多孔質構造を維持していることが確認できた。また、実施例1のシリコン基板の表面には凹凸のある構造が形成されていた。
ラマン散乱スペクトルにより、実施例1のMgSi多孔質フィルム及びシリコン基板のどちらからもMgSiのピークが観察された。この結果から、MgSiの形成には725℃が適していることが明らかとなった。また、XRDの結果からもMgSiが形成されていることが確認された。
【0046】
[比較例2]
比較例1において、複合多孔質フィルムと金属Mgとの加熱温度を600℃に変更したこと以外は比較例1と同様にして、比較例2の多孔質フィルム及びシリカ基板を製造した。
比較例2の多孔質フィルム及びシリコン基板を比較例1と同様にして評価した。撮影したSEM写真を図9に、ラマン散乱スペクトル図を図10に、XRDの結果を図11に示す。
SEM写真から、比較例2の多孔質フィルムはポリマー多孔質フィルムの多孔質構造を維持していることが確認できた。また、比較例2のシリコン基板の表面には少ないものの凹凸のある構造が形成されていた。
ラマン散乱スペクトルにより、比較例2の多孔質フィルムではアモルファスカーボンとシリコンのピークが観測され、比較例2のシリコン基板からはシリコンのピークが観察された。この結果から、加熱温度が600℃では炭化されたポリマー多孔質フィルムがシリカの膜中に埋まっており、MgSiが形成されていないことが示唆された。また、XRDの結果からも、アモルファスなシリカ膜が形成され、MgSiは形成されていないことが確認された。
【0047】
[実施例2]
比較例1と同様にして複合多孔質フィルムを作製した。
この複合多孔質フィルムを2層、3層又は4層積層した状態で、実施例1と同様にして、金属Mgとともに725℃に加熱した。こうして、2層、3層又は4層の各積層構造からなるMgSi多孔質フィルム積層体をそれぞれ製造した。
複合多孔質フィルムを積層した状態、及び、MgSi多孔質フィルム積層体を、比較例1と同様にして、SEM観察した。その結果を図12及び図13に示す。
図13に示されるように、MgSi多孔質フィルム積層体における各層は複合多孔質フィルムの多孔質構造を維持しながらも、多孔質構造の少なくとも骨格表面がMgSiで被覆されており、MgSiからなる3次元多孔体が形成されていることを確認した。
【0048】
[参考例1]
以下のようにして複合多孔質フィルム(チタニアコートハニカムフィルム)を製造した。
比較例1の<酸化物被膜で被覆した複合多孔質フィルムの作製>において、テトラエトキシオルトシリケートのエタノール溶液に代えてチタニウムイソプロポキシド(東京化成工業社製)の10質量%エタノール溶液を用いたこと以外は、実施例1の<酸化物被膜で被覆した複合多孔質フィルムの作製>と同様にして、表面のチタニウムイソプロポキシドを酸化処理することで、ポリマー多孔質フィルムの表面及び孔内表面にチタニア膜をコートした。チタニア膜の膜厚は約50nmであった。
得られたチタニアコートハニカムフィルムをクロロホルム中に浸漬させてポリマー除去膜を得た。このポリマー除去膜を上記観測条件でSEMにより観察した。撮影したSEM写真を図14に示す。SEM写真から、複合多孔質フィルムは、その表面及び孔内表面がチタニアで被覆されていることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14