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特許7493776着色方法及び着色料の種類と使用量の算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】着色方法及び着色料の種類と使用量の算出方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20240527BHJP
   G01J 3/46 20060101ALI20240527BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240527BHJP
   H04N 1/54 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H04N1/60
G01J3/46 Z
G06T1/00 510
H04N1/54
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020147341
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042106
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 仁志
(72)【発明者】
【氏名】小多 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小林 寿樹
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-005159(JP,A)
【文献】特開2018-191073(JP,A)
【文献】特開平08-094440(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108200(WO,A1)
【文献】特開2009-118419(JP,A)
【文献】特開平02-077741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/52 -2/525
G01J 3/00 -4/04
G01J 7/00 -9/04
G06F 3/01
G06F 3/048-3/04895
G06T 1/00 -1/40
G06T 3/00 -5/50
H04N 1/46 -1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
どのように着色したかが不明な見本物体の色の見え方に近似するように被着色物体を複数種類の着色料で着色するための着色方法であって、
前記見本物体を測色し、得られた測色データに基づいて前記見本物体の着色料の種類と使用量を推定する第1の工程と、
使用された着色料の種類と使用量がわかっており、かつグラフィック画面上で見え方に応じた初期位置が与えられている複数の参照物体の着色料の種類と使用量のデータに前記第1の工程で推定された前記見本物体の着色料の種類と使用量のデータを適用し、明度ごとに前記グラフィック画面上における前記参照物体と前記見本物体の妥当な位置関係を算出する第2の工程とを有し、
前記第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック画面上の位置に対応する着色料の種類と使用量とに基づいて前記被着色物体を着色するようにしたことを特徴とする着色方法。
【請求項2】
前記参照物体の前記グラフィック画面上の初期位置は主観的に定められることを特徴とする請求項1に記載の着色方法。
【請求項3】
前記グラフィック画面は明度ごとに設定される色相と彩度からなる領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載の着色方法。
【請求項4】
前記第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック画面上の位置が、前記参照物体との関係で実際の見え方による位置とは異なる場合に、前記グラフィック画面上の前記見本物体の位置を修正し、新たな位置に対応する着色料の種類と使用量とに基づいて前記被着色物体を着色するようにしたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の着色方法。
【請求項5】
前記見本物体は透明体であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の着色方法。
【請求項6】
前記見本物体はレンズ体であることを特徴とする請求項5に記載の着色方法。
【請求項7】
前記見本物体と前記参照物体とは同じ素材であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の着色方法。
【請求項8】
前記見本物体と前記被着色物体とは同じ素材であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の着色方法。
【請求項9】
着色料の種類として赤(R)黄(Y)青(B)3つの色を用いることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の着色方法。
【請求項10】
どのように着色したかが不明な見本物体の色の見え方に近似するように被着色物体を複数種類の着色料で着色する際に、着色する着色料の種類と使用量を求めるための算出方法であって、
前記見本物体を測色し、得られた測色データに基づいて前記見本物体の着色料の種類と使用量を推定する第1の工程と、
使用された着色料の種類と使用量がわかっており、かつグラフィック上で見え方に応じた初期位置が与えられている複数の参照物体の着色料の種類と使用量のデータに前記第1の工程で推定された前記見本物体の着色料の種類と使用量のデータを適用し、明度ごとに前記グラフィック上における前記参照物体と前記見本物体の妥当な位置関係を算出する第2の工程とを有し、
前記第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック上の位置に対応する着色料の種類と使用量とに基づいて前記被着色物体を着色する着色料の種類と使用量を求めるようにしたことを特徴とする着色料の種類と使用量の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はどのように着色したかが不明な見本物体の色の見え方に近似するように被着色物体を複数種類の着色料で着色するための着色方法及び着色料の種類と使用量の算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被着色物体にカラー加工、つまり着色して製品を得る場合に、仕上がりカラーの目標が見本となる物体(以下、見本物体)として与えられることがある。この場合は、物体を見本に似せたカラーに仕上げることが目的である。そのためのカラー加工の条件を決定するにあたっては、テスト加工を何回も繰り返すことで加工条件を定めることができる。見本物体と同じ色の多くの製品を作製する場合にはそれでもよい。
しかし同じ製品を大量に作製するのではなく、例えばカラー付きの眼鏡レンズなどは、一人のユーザーのために特定の度数のレンズを作ることが多い。そのようなケースでテスト加工を繰り返すことは現実的ではなく、仕上がりカラーを予測することによって、テストを繰り返すことを避けながらもベストに近い加工条件を得たいという要望がある。
見本物体に基づいて同じ色の製品を得るための先行技術として特許文献1及び2を挙げる。特許文献1には、インク基調色の比率を選択し、インク公式表示の色及び所望のインクの色をモニターディスプレイ上に表示するシステムが開示されている。この先行文献には、カラーマッチングのための方法として、既知の反射率値を備えた標準タイルを使用することが記載されている。また、特許文献2は印刷再現予測の技術であり、面積変調で色を再現する印刷物の任意の掛け合わせに対する分光反射率を推定し、再現色を予測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-163759号公報
【文献】特開2014-197790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テスト加工を繰り返し行わずに仕上がりカラーを予測した結果を表示するには、コンピューターのモニターディスプレイ上でグラフィック画面で表示するのが適している。つまり、カラー加工条件を決定して、その加工条件に対応するグラフィック画面をディスプレイ上に表示することができればよい。それが可能であれば、その反対の操作も可能となる。すなわち、見本のカラーに相当するグラフィック画面の条件(具体的にはディスプレイに表示された位置の座標)を指定して、それに対応するカラー加工条件を得るようにすればよい。
しかし、実際の仕上がりカラーはカラー加工された物体の色であり、仕上がりカラーの予測表示はモニターディスプレイに表示された色である。そのため、人間には両者の見え方は異なり、照明の条件や観察する人によって同じ色に見えたり異なる色に見えたりする。また、光学レンズのように光を透過する物体においては照明だけでなく背景にある物によっても色の見え方が変わるため、物体の色とモニターディスプレイに表示された色の見え方を比較することはいっそう難しい。
そのため、モニターディスプレイの表示に基づいて見本物体の色の見え方に近似した着色が可能となる着色方法及び着色料の種類と使用量の算出方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために手段1では、どのように着色したかが不明な見本物体の色の見え方に近似するように被着色物体を複数種類の着色料で着色するための着色方法であって、前記見本物体を測色し、得られた測色データに基づいて前記見本物体の着色料の種類と使用量を推定する第1の工程と、使用された着色料の種類と使用量がわかっており、かつグラフィック画面上で見え方に応じた初期位置が与えられている複数の参照物体の着色料の種類と使用量のデータに前記第1の工程で推定された前記見本物体の着色料の種類と使用量のデータを適用し、明度ごとに前記グラフィック画面上における前記参照物体と前記見本物体の妥当な位置関係を算出する第2の工程とを有し、前記第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック画面上の位置に対応する着色料の種類と使用量とに基づいて前記被着色物体を着色するようにした。
これによって、グラフィック画面上での位置が与えられている参照物体との関係でグラフィック画面上に表示される見本物体の見え方をチェックすることができ、実際に被着色物体に着色する前に見本物体に近似するような着色料の種類と使用量を検討することが可能となる。
【0006】
「見本物体」は「このような色で被着色物体を着色してほしい」というために使用される色見本となる物体である。被着色物体と同じ素材に着色したものでも、そうでなくともよい。透明体であっても非透明体であってもよい。発光物体であってもよい。また、被着色物体に使用される着色材料と同じ着色剤を使用してもそうでなくともよい。
「被着色物体」は見本物体と同じ色となるように着色を施される物体である。透明体であっても非透明体であってもよく、透明体であれば着色は内部に浸透させて着色することがよい。発光物体であってもよい。着色手段としては、例えば着色剤を含ませた紙片から着色剤を昇華させるように着色してもよく、例えば着色溶液中に被着色物体を浸漬させた後に乾燥させるようにしてもよい。見本物体への着色手段と被着色物体への着色手段は同じであっても異なる着色手段であってもよい。
「着色料」は複数の異なる色の着色料を使用する。見本物体に使用したものと同じ種類の着色料である必要はない。具体的な着色料としては例えば赤(R)黄(Y)青(B)の三色を使用することがよい。赤(R)黄(Y)青(B)はマゼンタ・イエロー・シアンと呼称することもある。これらの色に黒や白の無彩色を配合するようにしてもよい。
「測色」とは、物体から発せられる分光を機械測定し、数値化することである。透明な物体であれば例えば分光透過率測定装置により取得し、透明ではない物品については例えば分光反射率測定装置によって取得する。発光物体については例えば分光強度測定装置によって取得する。
「グラフィック画面」は、本発明ではモニターディスプレイ上に表示されるカラー表示によるグラフィック画像が表示された画面をいう。
【0007】
第1の工程では見本物体を測色し、得られた測色データに基づいて見本物体の着色料の種類と使用量を推定する。推定としているのは、測色して計算された着色料の種類と使用量で着色してもディスプレイに表示される色とは異なる可能性があるため、この段階では「推定」ということにし、第2の工程の計算のベースとするに留めるためである。見本物体を測色し、得られた測色データに基づいて見本物体の着色料の種類と使用量を計算する方法としては、上記の特許文献1、特許文献2の他に、例えば特開2018-191073号に開示されるような公知技術が挙げられる。
第2の工程では、使用された着色料の種類と使用量がわかっていて、グラフィック画面上で見え方に応じた初期位置が与えられている複数の参照物体と、見本物体の推定した着色料の種類と使用量のデータを適用し、明度ごとにグラフィック画面上における参照物体と見本物体の妥当な位置関係を算出する。複数の参照物体の色はそれぞれ異なる大きさと方向を持っている。そのため、複数の参照物体の着色料の種類と使用量と見本物体の推定された着色料の種類と使用量とによって、見本物体のグラフィック画面上の位置を算出し、その際の位置に応じた着色料の種類と使用量の確かさを検討するというものである。複数の参照物体の着色料の種類と使用量に応じてグラフィック画面上の位置を与えれば、それらとの関係である着色料の種類と使用量の見本物体のグラフィック画面上の位置が相対的に定まるからである。使用された着色料の種類と使用量はベクトルとして表すことができるため、ベクトル化して計算することがよい。
明度ごとに計算するとしたのは、着色料の使用料と明度は非線形の特性を示すため、ある着色料のある使用料での明度は決まってしまうこととなり、明度ごとにグラフィック画面上での複数の参照物体との関係で見本物体の位置を決める必要があるからである。尚、明度は濃度と言い換えることもでき、明度では数値が大きいほど色は薄くなり、濃度では数値が大きいほど色は濃くなる。
また、物体を見るためにはなんらかの照明が必要である。そして、物体が非透明体であればその表面で反射した光によって明度・彩度・色相が構成される。物体が透明体であれば背景で反射して透明体を透過してくる光によって明度・彩度・色相が構成される。発光体であればそのまま発光する光の明度・彩度・色相によって明度・彩度・色相が構成される。以下、特に断りはないが透明体に関しては照明が背景で反射して透明体を透過した光の明度・彩度・色相を意味し、非透明体に関しては照明が非透明体の表面で反射した光の明度・彩度・色相を意味することとする。
【0008】
上記の算出は表示装置や入力装置を備えるコンピュータ装置によって実行される。コンピュータ装置の記憶装置には、複数の参照物体の着色料の種類と使用量と見本物体の推定された着色料の種類と使用量とによって、見本物体のグラフィック画面上の位置を算出するプログラム(ソフトウェア)が記憶されている。コンピュータ装置の制御手段は作業者による入力に基づいてプログラムを実行して適合度合いを算出する。
「第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック画面上の位置に対応する着色料の種類と使用量とに基づいて前記被着色物体を着色する」とは、グラフィック画面上での見え方において人(具体的には作業担当者)が見本物体と参照物体との位置関係が、実際の見本と参照物体とを比べて妥当な位置に配置されているならば、その際の着色料の種類と使用量で、妥当な位置ではないと判断した場合には修正された着色料の種類と使用量で着色されることとなる。
【0009】
また、手段2では、前記参照物体の前記グラフィック画面上の初期位置は主観的に定められるようにした。
初期位置は計算で求めることができないため、参照物体の色に基づいて人の目によって主観的にグラフィック画面上の「この付近が妥当であろう」という位置に設定するようにすることがよい。
また、手段3では、前記グラフィック画面は明度ごとに設定される色相と彩度からなる領域であるようにした。
明度・彩度・色相の三要素を二次元的に表現するためには、1つを固定して他の二要素で2次元的に表現することがよい。その際に、明度を固定することはグラフィック円の全体的な色相配置(どの方向に赤があって、どの方向に青があるかなど)と、彩度配置(中心が無彩色で周辺が高彩色)を、常に一定にすることができるため、彩度や色相を固定するよりも合理的で見やすいためである。
また、手段4では前記第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック画面上の位置が、前記参照物体との関係で実際の見え方による位置とは異なる場合に、前記グラフィック画面上の前記見本物体の位置を修正し、新たな位置に対応する着色料の種類と使用量とに基づいて前記被着色物体を着色するようにした。
前記第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック画面上の位置が実際の見本物体と複数の参照物体との色の関係から想定して、妥当な位置とはいえない場合に、グラフィック画面上の前記見本物体の位置を修正する。修正はグラフィック画面上の位置に応じて修正された測色データに基づいて改めて計算された見本物体の着色料の種類と使用量を使用することがよい。
【0010】
また、手段5では、前記見本物体は透明体であるようにした。
この裏返しとして見本物体は非透明体でもよい。
また、手段6では、見本物体はレンズ体であるようにした。
毎回カラーが異なるような見本レンズに関して、その染色条件を簡単に決定する方法が望まれているからである。
また、手段7では、前記見本物体と前記参照物体とは同じ素材であるようにした。
素材が同じである方がより正確な着色料の種類と使用量を設定できるからである。
また、手段8では、前記見本物体と前記被着色物体とは同じ素材であるようにした。
素材が同じである方がより正確な着色料の種類と使用量を設定できるからである。
また、手段9では、着色料の種類として赤(R)黄(Y)青(B)3つの色を用いるようにした。
これらの色を使うことがもっとも普遍的に様々な色合いを出すことができるため、見本物体と近似するように被着色物体を着色することが妥当である。
また、手段10では、どのように着色したかが不明な見本物体の色の見え方に近似するように被着色物体を複数種類の着色料で着色する際に、着色する着色料の種類と使用量を求めるための算出方法であって、前記見本物体を測色し、得られた測色データに基づいて前記見本物体の着色料の種類と使用量を推定する第1の工程と、使用された着色料の種類と使用量がわかっており、かつグラフィック上で見え方に応じた初期位置が与えられている複数の参照物体の着色料の種類と使用量のデータに前記第1の工程で推定された前記見本物体の着色料の種類と使用量のデータを適用し、明度ごとに前記グラフィック上における前記参照物体と前記見本物体の妥当な位置関係を算出する第2の工程とを有し、前記第2の工程で算出された前記見本物体の前記グラフィック上の位置に対応する着色料の種類と使用量とに基づいて前記被着色物体を着色する着色料の種類と使用量を求めるようにした。
これは手段1について着色料の種類と使用量の算出方法でクレームした内容である。
【0011】
本発明の範囲は、明細書に明示的に説明された構成や限定されるものではなく、本明細書に開示される本発明の様々な側面の組み合わせをも、その範囲に含むものである。本発明のうち、特許を受けようとする構成を、添付の特許請求の範囲に特定したが、現在の処は特許請求の範囲に特定されていない構成であっても、本明細書に開示される構成を、将来的に特許請求の範囲とする意思を有する。
本願発明は以下の実施の形態に記載の構成に限定されない。各実施の形態や実施例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、グラフィック画面上での位置が与えられている参照物体との関係でグラフィック画面上に表示される見本物体の見え方をチェックすることができ、実際に被着色物体に着色する前に見本物体に近似するような着色料の種類と使用量を検討することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態において見本レンズと規格カラーレンズとの関係を説明する模式図。
図2】規格カラーレンズの色を構成するRYBの設定量の三次元空間でのベクトル方向を二次元的に示したベクトル図
図3】実施の形態における電気的構成を説明するブロック図。
図4】モニターディスプレイ上に表示されるレンズ情報画面の図。
図5】レンズ情報画面の円グラフ上に配置されるマークと見本レンズと規格カラーレンズの関係と色相の分布状態を説明する拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の着色方法を眼鏡レンズに応用した実施の形態について説明する。具体的には、本実施の形態では見本レンズとなる「ある着色がされたカラーレンズ」と同じに見えるように無色透明なレンズ体に着色する場合の着色料の種類と使用量を、着色料の種類と使用量が明確である複数の規格カラーレンズを参照して求める。
まず、見本レンズに基づいてそれと同じように見えるレンズを作製するまでの手順の概要を説明する。尚、以下で「DRY染色」とは、所定の用紙に染料をインクジェットでプリントし、用紙をレンズに近接させた状態で保持して電気炉に入れて熱することで、染料をレンズに付着させて、基材中に侵入させる色付け方法である。「WET染色」とは溶媒に染料を溶かしこんだ液体に透明な目的物体を浸漬して染料を染みこませる方法である。
(イ)測色工程で見本レンズの分光透過率を測定する。
(ロ)測定した分光透過率に基づいて、DRY染色加工で使用するRYB染料の設定量を算出する。
(ハ)設定量にもとづいてDRY染色加工を行う。DRY染色加工では、染料を紙に印刷し、加熱してレンズに転写する。
(ニ)カラー加工の結果が見本レンズに近ければそのまま合格とし、色が違って見えればWET調色を行う。
(ホ)WET染色加工はディップによる。仕上がった色を見本レンズと比較しながら染める。
以下、実施の形態ではこの手順における(ロ)のDRY染色加工で使用するRYB染料の設定量を算出するものである。
【0015】
(1)見本レンズについて
図1に示すように、見本レンズ1は屈折率160基材のレンズに同じ色相で上半分が濃度が高く、下半分の濃度が相対的に低い円形のいわゆる丸レンズと呼称される着色レンズとする。本実施の形態ではレンズメーカーにて見本レンズを分光透過率測定装置2によって見本レンズ1の濃度の高い位置と低い位置の上下二箇所を測定し、分光透過率データを取得する。分光透過率データに基づいて見本レンズと同じ色になるようにDRY染色する場合のDRY染色用のR(赤)Y(黄)B(青)の三色の配合量(設定量)を算出する。この方法は公知である特開2019-191073号の手法と同じ手法で計算して算出する。また、濃度の移行する中央部分を上下のRYB設定量を加重平均して求める。こうして、見本レンズ1について上中下3つの領域のRYB設定量を得る。
但し、この方法で求めた3つのRYB設定量は分光透過率データに基づくもので、グラフィック画面上での見え方とは必ずしも一致しない。そのため、このRYB設定量は仮の設定量とする。
【0016】
(2)規格カラーレンズについて
規格カラーレンズは見本レンズ1と同じ屈折率160基材の丸レンズである。図1に示すように、規格カラーレンズは、代表的なA~Gの7種(7色)について、10%、15%、25%、35%、50%の5段階の濃度が用意されている。
表1は、その7色×5段階の濃度の計35の規格カラーレンズを加工するための染料の設定量である。同じグループの5種の濃度の規格カラーレンズは濃度が異なっていても色相と彩度では同じ見え方となる。つまり、色相と彩度を有する領域において位置が設定される場合には濃度差があっても同じ規格カラー名のレンズは同じ位置に表示されることとなる。
各染料の設定量は最小を0、最大を4095(2の12乗-1)としている。0であれば、その色の染料は使わないで加工する。DRY染色加工においては、染料の設定量は転写用紙に印刷するインクの量である。表1に示した数値に特別な単位はなく、相対的な量の関係(基準となる単位の何倍か)を表す。見本レンズの仮の設定量も同様である。また、表1において「*」は設定量の実際の桁位置の数値を明示せずに表した代替記号であり、0~9までのいずれかの整数が入る。
【0017】
【表1】
【0018】
(3)規格カラーレンズに基づくベクトル空間の考え方について
規格カラーレンズについてRYBそれぞれの量を3つの軸とした3次元空間に7色×5濃度=35個の参照点と考える。参照点の情報を元に任意のRYB設定量に対応する濃度とモニターディスプレイ6上での表示位置を求めることができる。実施の形態はこの考えを使用して見本レンズ1の仮のRYB設定量について3次元空間の位置を決定し、それを適用してモニターディスプレイ6上の表示位置を求めようとするものである。
ここで、それぞれの参照点には濃度が対応しており、3次元空間の35個の参照点においては濃度が定まっている。参照点の間の空間においては濃度を線形補間するなどのルールを定めれば、空間内の濃度の分布をRYB設定量の関数として定めることができる。
まず、RYBをすべて0としたときに濃度が0(100%透過)になるとして、このRYB空間の原点において濃度が0であるとする。次に、濃度が50%よりも大きい見本レンズを扱う場合に備えて、各カラーの35%濃度と50%濃度のRYB設定量をもとに、外挿補間によって75%濃度の座標を定める。
【0019】
ある特定の濃度において、フィールド中央のトゥルーグレーから6種類のカラーに向かうベクトルを、RYB設定量の差をもとに定める。表2は25%濃度における6種類のベクトルの成分である(実際の計算では1を加えて対数をとった値の差分をベクトル成分にする。)。この表2にはRYB設定量をそのまま用いた値を示したが、染料の量は濃度に対して指数関数的に増減するので、RYB設定量の対数を用いて計算するほうが良い。ただし設定量0の対数を取ることはできないので、計算の便宜上を設定量に適当な数(例えば1)を加えてから対数を取る
このようなベクトルの成分が、RYB設定量の差をもとに0~75%にかけて離散的(0%、10%、15%、25%、35%、50%、75%)に定まる。例えば、25%と35%の間の濃度において、それぞれの濃度のベクトル成分を線形補間するなどして、任意の濃度のベクトル成分を得ることができる。6個のベクトルのうち隣り合う2個について1次結合をとれば、それはフィールド中央のトゥルーグレーを示す点と2つのベクトルを含む平面を表す。とくに1次結合の係数を非負とすれば、それは図2に示す2つのベクトルにはさまれた領域を表す。本実施の形態では見本レンズ1が「ある濃度」でのそのような平面上に存在するという理論から規格カラーレンズとの関係で位置を決定するという計算を実行する。
任意の濃度について、濃度が同じ7点のRYB座標を定める。トゥルーグレーを示す点から周囲の6点に向かう直線状においても濃度は同じ値であるとする。さらに隣り合う2つのベクトルの非負係数の1次結合で表される点においても濃度は同じ値であるとする。以上の前提から、これら6個の領域において、濃度は一定であるものとして以下(5)においてコンピュータ装置5による計算を行う。なお、6個の領域を表す平面はRYB空間において一般にそれぞれ別の面である(偶然一致することもある)が、隣り合う面は一つ直線を共有する。
【0020】
【表2】
【0021】
(4)計算を実行するコンピュータ装置とその周辺装置について
図3に示すように、コンピュータ装置5には分光透過率測定装置2と、モニターディスプレイ6と、入力装置7とが接続されている。分光透過率測定装置2はそれ自身コンピュータ装置を備えデータ出力機能を有する。
コンピュータ装置5は電気的構成としてCPU(中央処理装置)8及びROMやRAM等からなる記憶装置9等の周辺装置によって構成される。記憶装置9にはCPU8の動作を制御するためのプログラム、複数のプログラムに共通して適用できる機能を管理するOA処理プログラム(例えば、日本語入力機能や印刷機能等)、モニターディスプレイ6の画面を制御するプログラム等の基本プログラムが格納されている。また、記憶装置9には見本レンズ1と規格カラーレンズ3のグラフ上の位置を算出するための算出プログラムや、7種の異なる色グループの規格カラーレンズのRYB設定量データ等が格納されている。
制御手段であるCPU8は入力装置7からの入力動作に基づいて、記憶装置9内に記憶された算出プログラムに従い、以下のようなメイン制御を実行する。
(イ)見本レンズ1について分光透過率測定装置2からの測色データに基づいてRYB設定量を計算する。
(ロ)図4に表示されるレンズ情報画面21を表示させる。レンズ情報画面21内に色相と彩度からなるグラフィック化した円グラフ22を表示させる。円グラフ22の座標に応じて規格カラーレンズのRYB設定量データに応じた位置、つまり色に応じた位置に第1のマーク23を表示させる。
(ハ)円グラフ22上に規格カラーレンズのRYB設定量データと計算した見本レンズ1のRYB設定量データに基づいて規格カラーレンズとの関係で妥当な位置となる見本レンズ1の濃度と座標上の位置を算出し、その位置に第2のマーク24を表示させる。より具体的には上中下三段の円グラフ22A~22Cについて、算出された見本レンズ1の濃度に応じた濃度(明度)で表示する。
(ニ)見本レンズ1のRYB設定量データに基づいてRYBの割合を算出しその数値と特性をグラフ化してレンズ情報画面21に表示させる。
【0022】
入力装置7はキーボード、マウス等から構成され、これらを操作することで見本レンズ1と規格カラーレンズ3のグラフ上の位置を算出するためのプログラムを立ち上げ、所定の入力によってプログラムに基づく計算を実行させ、結果を得ることができる。また、入力装置7によって見本レンズ1と規格カラーレンズ3のRYB設定量の具体的な数値を入力する。
尚、出力手段としてはモニターディスプレイ6以外にプリンタや他の装置へデータを転送する出力手段等が挙げられる。また、入力装置7としてはキーボード、マウス等以外にバーコードのような2次元コードやLAN接続された他のコンピュータやデータ記憶装置等の他の装置から転送されたデータを入力する手段等が挙げられる。分光透過率測定装置2から算出用コンピュータ1へのデータ出力は直接的でなく他のメディア(例えばフレキシブルディスク等のメモリ)を介して間接的に行うようにしてもよい。
【0023】
(5)コンピュータ装置によって実行される計算について
以下、コンピュータ装置5(CPU8)によって実行されるプログラムの具体的な計算方法について説明する。尚、以下の計算例での「*」は設定量の実際の桁位置の数値を明示せずに表した代替記号であり、0~9までのいずれかの整数が入る。
A.第1の計算
第1の計算では仮のRYB設定量から見本レンズ1の濃度と画面表示位置を求める。
(イ)分光透過率をもとに算出した見本レンズ1の仮のRYB設定量の3つの値それぞれに1を加えて対数を取る。対数を取るのはRYB設定量の数値の桁数がカラーによって大きすぎる場合があるためである。
(ロ)算出した見本レンズ1の仮のRYB設定量の合計を規格カラーレンズ3「Aレンズ」の各濃度のRYB設定量の合計と比較し、仮濃度を求める。「Aレンズ」と比較するとしたのは「Aレンズ」は無彩色であり中間的な色だからである。「Aレンズ」は以下の計算の基準位置となる。
計算例としては次のようになる。例えば、「Aレンズ」濃度25%のRYB設定量は表1から(2**,*5*,**5)である。このRYB設定量それぞれに1を加えて対数をとると、その合計はln(2**+1)+ln(*5*+1)+ln(**5+1)で求められる。この合計をσA25とする。見本レンズ1の仮のRYB設定量について、そのRYB設定量それぞれに1を加えて対数をとった合計をσXとする。σXがσA25と同じ値であれば、RYBのそれぞれの数値が「Aレンズ」濃度25%とは違っていても、仮濃度25%であるとする。一方、σA25より大きければ仮濃度は25%よりも濃いと考えて、一つ上の濃度である「Aレンズ」濃度35%との兼ね合いで決める。σA25と同様に計算して、σA35=ln(4**+1)+ln(*5*+1)+ln(**8+1)である。例えばσX=0.5×σA25+0.5×σA35という関係であれば、25%と35%の中間であるので仮濃度は30%となる。25%と35%の中間でない場合、σXは決まっているため、2つの係数の和を1に保ったまま2つの係数を適宜変えて仮濃度を求める計算をする。25%と35%の間の10%間の濃度の計算では、例えば、σA25の係数が1であればσA35の係数は0となるので、濃度は25%そのものとなる。σA25の係数が0.1減って、0.9であればσA35は0.1となるため、σX=0.9*σA25+0.9*σA35は25%から1%上がって仮濃度は26%となる。1%は10%の0.1だからである。同様に例えばσX=0.6×σA25+0.4×σA35という関係であれば、仮濃度は25%から4%上がって29%と計算される。CPU8はプログラムに従ってσXの誤差内に収まるまで繰り返し計算を実行して仮濃度を決定する。なお、記号ln( )は、eを底とする自然対数を表す。
【0024】
(ハ)仮濃度における「Aレンズ」のRYB設定量(これも1を加えて対数をとった値)を、算出したRYB設定量からそれぞれ減じ、その結果を「算出ベクトル」とする。
計算例としては次のようになる。
見本レンズ1の仮のRYB設定量を(R0、Y0、B0)とする。
仮濃度が25%の場合、算出ベクトルの各成分は次のようになる。
ln(R0+1)-ln(2**+1)
ln(Y0+1)-ln(*5*+1)
ln(B0+1)-ln(**5+1)
仮濃度が35%の場合、算出ベクトルの各成分は次のようになる。
ln(R0+1)-ln(4**+1)
ln(Y0+1)-ln(*5*+1)
ln(B0+1)-ln(**8+1)
仮濃度が30%の場合、算出ベクトルの各成分は次のようになる。
ln(R0+1)-0.5×ln(2**+1)-0.5×ln(4**+1)
ln(Y0+1)-0.5×ln(*5*+1)-0.5×ln(*5*+1)
ln(B0+1)-0.5×ln(**5+1)-0.5×ln(**8+1)
【0025】
(ニ)仮濃度における「Aレンズ」以外の6色のベクトル成分を求める。
そのベクトルの成分は、各規格カラーのRYB設定量から「Aレンズ」のRYB設定量を引いた値となる。
計算例としては次のようになる。
「Aレンズ」濃度25%のRYB設定量は(2**,*5*,**5)
「Bレンズ」濃度25%のRYB設定量は(3**,*0*,**0)である。
すると、「Aレンズ」から「Bレンズ」に向かうベクトルの成分は(2**-3**,*5*-*0*,**5-**0)となる。つまり、R成分は2**-3**、Y成分は*5*-*0*、B成分は**5-**0である。
但し、実際は、RYB設定量それぞれの値に1を加えて対数をとって扱うため、
ln(3**+1)- ln(2**+1)=0.099**
ln(*0*+1)- ln(*5*+1)=-0.38**2
ln(**0+1)- ln(**5+1)=-0.6**02
という計算となる。
【0026】
(ホ)6色のうち隣り合う2色のベクトルの非負係数による1次結合で算出ベクトルを近似する。隣り合う2色は6組ある。これは上記の「(3)規格カラーレンズに基づくベクトル空間の考え方について」にあるように、ある濃度での1次結合が上記(ハ)で算出した算出ベクトルと同じになればそのときの濃度が見本レンズ1の濃度であるという理論である。
尚、係数の自由度は2で、ベクトルの成分は3なので、1次結合と算出ベクトルは一般には一致しない。言い換えると、3成分の差の2乗和は0にはならないが、その値が最も小さくなる2色の組を最適化計算によって求め、係数を決定することができる。CPU8はプログラムに従って計算を実行し係数と濃度を決定する
計算例としては次のようになる。
まず、B、C、Xを3成分のベクトルとする。そして、係数をαとβとする。
ベクトルBを、ある濃度における「Aレンズ」からある濃度におけるBに向かうベクトルとする。ベクトルCを、ある濃度における「Aレンズ」からある濃度におけるCに向かうベクトルとする。ベクトルXを、ある濃度における「Aレンズ」からXに向かうベクトルとする。そして、αB+βCをXに近づける計算の例を示す。
ベクトルBを(RB、YB、BB)で表す。
ベクトルCを(RC、YC、BC)で表す。
ベクトルXを(RX、YX、BX)で表す。
例えば濃度が30%であれば、
RB=(0.5×ln(3**+1)+0.5×ln(4**+1)) - (0.5×ln(2**+1)+0.5×ln(4**+1))
YB=(0.5×ln(*0*+1)+0.5×ln(*7*+1)) - (0.5×ln(*5*+1)+0.5×ln(*5*+1))
BB=(0.5×ln(**0+1)+0.5×ln(**0+1)) - (0.5×ln(**5+1)+0.5×ln(**8+1))
RC=(0.5×ln(3**+1)+0.5×ln(6**+1)) - (0.5×ln(2**+1)+0.5×ln(4**+1))
YC=(0.5×ln(*3*+1)+0.5×ln(*2*+1)) - (0.5×ln(*5*+1)+0.5×ln(*5*+1))
BC=(0.5×ln(**0+1)+0.5×ln(**5+1)) - (0.5×ln(**5+1)+0.5×ln(**8+1))
となる。
これら6個の数は、すべて計算によって算出される数であり、値は固定されている。
また、ベクトルXの成分は上記(ハ)で示したように、
RX=ln(R0+1) - (0.5×ln(2**+1)+0.5×ln(4**+1))
YX=ln(Y0+1) - (0.5×ln(*5*+1)+0.5×ln(*5*+1))
BX=ln(B0+1) - (0.5×ln(**5+1)+0.5×ln(**8+1))
となる。
これら3個の数も値は固定されている。R0、Y0、B0が仮のRYB設定量として定まった値だからである。
そして、
(α×RB+β×RC-RX)2+(α×YB+β×YC-YX)2+(α×BB+β×BC-BX)2
の値を最小にするαとβを求めればよい。
この式はαとβを変数とする関数(評価関数)の形になっているので、f(α、β)として表す。
∂f(α、β)/∂α=0 ・・・F1
∂f(α、β)/∂β=0 ・・・F2
の条件より、f(α、β)の値を最小とするαとβを求めることができる。
【0027】
(ヘ)CPU8はプログラムに従って仮濃度を適当に増減させて、(ハ)~(ホ)を繰り返し実行し、3成分の差の2乗和が小さくなるように計算を実行する。そして、3成分の差の2乗和(またはその変化量)が打切り誤差を下回ったら計算を終える。この時点で濃度が定まる。その段階で仮濃度ではなくなる。そして、最終的に選択された2つのベクトルと、それぞれに乗じる係数によって見本レンズ1の位置が定まる。「Aレンズ」以下の7色の規格カラーレンズ3の円グラフ22上の座標(x、y)は対応関係があるので、それら既知の座標(x、y)に基づいて見本レンズ1の円グラフ22上の表示位置も定まる。CPU8はプログラムに従って円グラフ22上の位置に第2のマーク24を表示させる。
より詳しい具体的な計算方法は次のようになる。
上記(ホ)において、評価関数fの値を最小化する計算を示した。fは3つの実数の二乗和として表され、最小値は0である。仮に決めた濃度(仮濃度)においては、αとβを2つの偏微分の式F1とF2の解に相当するαとβの値を代入してもfの値は0にならない。上記(ホ)の説明では、fはαとβを変数とする関数であるとしたが、fは仮濃度の関数でもある。そこで、仮濃度をdで表すことにする。(ホ)の計算では仮濃度を30%としたことによりRB~BCの値が定まったので、fは形式的にαとβだけの関数になった。ここで、仮濃度dの値を変化させることを考えれば、fはα、β、dの関数となる。
ここで、ある仮濃度dについてαとβを最適化してfの値を最小にした関数の値をfmin(d)で表す。そして、仮濃度を0.0001(0.01%)だけ変化させたときの関数の値をfmin(d+0.0001)とする。
ここでP=(fmin(d+0.0001)-fmin(d))/0.0001
とおいて、
dの値をd-fmin(d)/P・Δでおきかえる。
おきかえたdをさらにPの式に代入する。
この操作を繰り返すことにより、fmin(d)の値は0に収束する。ただしΔは置き換えの量を加減するための係数で、正の数とする。収束が遅い場合はΔの値を大きくし、収束しない場合(振動して大きくなってしまう)はΔの値を小さくする。この繰り返しの過程において、dの値が変わるたびにfmin(d)とfmin(d+0.0001)を与えるαとβの値(評価関数fの値を最小とするαとβの値)は変わる。つまり、この繰り返し計算はα、β、dの値を少しずつ変化させて、評価関数fの値が0となる条件を見つける計算である。その過程において、dの値をトライアンドエラーで加減することで最適化して、αとβはその時のdによって一意的に定まる。これによって、αとβによって見本レンズ1のある濃度でのベクトル成分が求まる。トライアンドエラーで加減する変数は1つだけなので、比較的容易に最適解を得られる。
【0028】
B.第2の計算
第2の計算では、見本レンズ1の濃度と画面表示位置から見本レンズ1のRYB設定量を求める。このような第1の計算の逆となる計算は、例えば見本レンズ1が表示されているある濃度における円グラフ22上で見本レンズ1の位置を移動させる場合を想定している。
上記のように見本レンズ1は2つのベクトルとそれに乗じる係数で定まる。逆に定められた濃度と見本レンズ1の現状の画面表示位置に基づいて、RYB設定量を求めることができる。見本レンズ1のある定められた濃度と円グラフ22上の位置は近似した2つのベクトル(つまり最終的に選択された2つのベクトル)の1次結合だからである。この考えによって、ある定めた濃度において見本レンズ1の画面表示位置を移動させるとする。
見本レンズ1について円グラフ22上の移動させた表示位置に基づいて、隣り合う2色の組が決まり、その2色の表示位置と「Aレンズ」の表示位置の座標をもとに、「Aレンズ」の座標から2色の座標に向かうディスプレイ上のベクトルが定まることとなる。そして、定めた表示位置を2つのベクトルの1次結合で表すための係数が決定される。その係数を、α、βとする。定めた濃度に対応する「Aレンズ」のRYB設定量に、定めた濃度における2色のベクトルのα、βを係数とする1次結合を加えることで見本レンズ1のRYB設定量が求まる。
【0029】
具体的な計算例としては次のようになる。
ベクトルBを、ある濃度(例えば30%)における「Aレンズ」から濃度30%におけるBに向かうベクトルとする。ベクトルCを、濃度30%における「Aレンズ」から濃度30%におけるCに向かうベクトルとする。ここまではA.第1の計算の(ホ)と同様である。
ここで、X=0.5×B+0.5×CとなるベクトルXを想定する。これは係数αとβをともに0.5とした例である。すなわち、「Aレンズ」の表示位置の座標からベクトルBの半分とベクトルCの半分を合わせただけ移動した座標に、見本レンズ1の画面表示位置を移動させることを想定している。ベクトルXが求めようとする見本レンズ1の成分となる。すると、濃度30%のAレンズを表す点(これを点Qとする)からBに向かうベクトルをベクトルBとして、点QからCに向かうベクトルをベクトルCとする。そして、ベクトルBの半分とベクトルCの半分を足し合わせたものがベクトルXである。
ベクトルBを(RB、YB、BB)で表す。
ベクトルCを(RC、YC、BC)で表す。
ベクトルXを(RX、YX、BX)で表す。
点Qを表す3成分を(RQ、YQ、BQ)で表す。これは表1から、
RQ=(0.5×ln(2**+1)+0.5×ln(4**+1))
YQ=(0.5×ln(*5*+1)+0.5×ln(*5*+1))
BQ=(0.5×ln(**5+1)+0.5×ln(**8+1))となる。
これらの関係から、Aレンズを表す点Qを始点としたときのベクトルXの終点を求めることとする。
RB=(0.5×ln(3**+1)+0.5×ln(4**+1)) - RQ
YB=(0.5×ln(*0*+1)+0.5×ln(*7*+1)) - YQ
BB=(0.5×ln(**0+1)+0.5×ln(**0+1)) -BQ
RC=(0.5×ln(3**+1)+0.5×ln(6**+1)) - RQ
YC=(0.5×ln(*3*+1)+0.5×ln(*2*+1)) - YQ
BC=(0.5×n(**0+1)+0.5×ln(**5+1)) - BQ
となる。
これら6個の数は、すべて計算によって算出される数であり、値は定まっている。
RX=0.5×RB+0.5×RC
YX=0.5×YB+0.5×YC
BX=0.5×BB+0.5×CC
点Qを始点とするベクトルXの終点座標は以下の式で表される。
RQ + 0.5×RB+0.5×RC
YQ + 0.5×YB+0.5×YC
BQ + 0.5×BB+0.5×CC
これをRYB設定量に換算するには、指数をとって1を引く。
Rの設定量は、exp(RQ + 0.5×RB+0.5×RC) - 1
Yの設定量は、exp(YQ + 0.5×RB+0.5×RC) - 1
Bの設定量は、exp(BQ + 0.5×RB+0.5×RC) - 1
【0030】
(6)モニターディスプレイ上に表示されるレンズ情報画面について
作業者は、表1の規格カラーレンズのRYB設定量データを入力装置7を用いて呼び出す。一方、分光透過率測定装置2を用いて見本レンズ1を測色したデータをコンピュータ装置5に導入し、見本レンズ1の仮のRYB設定量を計算する。作業者の入力装置7の入力動作に従ってこれらRYB設定量のデータに基づいて上記の計算がなされ、その結果がモニターディスプレイ6上において図4のレンズ情報画面21に表示される。レンズ情報画面21はレンズ加工上の諸情報が表示され、また、画面上でGUI入力可能な画面である。レンズ情報画面21の概要を説明する。
レンズ情報画面21はレンズの加工に必要となる諸情報が表示されるとともにモニターディスプレイ6上でGUI入力可能となる画面である。まずレンズ情報画面21の概要を説明する。
レンズ情報画面21は左方上段~中断にかけては書誌事項とレンズの処方データが表示される第1の領域25とされている。本実施の形態では処方データはアクティブ化されていないためロートーンの印字とされている。左方下段は第2の領域26とされている。第2の領域25には見本レンズ1のRYB設定量データに基づいて算出されるRYBの測色データと、光学特性を示すグラフが表示されている。
【0031】
レンズ情報画面21の右方は上下三段に配置された円グラフ22A~22Cが表示された第3の領域27とされている。円グラフ22A~22Cは見本レンズ1と規格カラーレンズ3に基づいてコンピュータ装置5によって算出されたグラフィック画像である。図5に示すように、円グラフ22A(他の22B、22Cも同様)は右方に配置された赤(R)から反時計回り方向に概ね60度の間隔を開けて橙(Or)、黄(Y)、緑(G)、青(B)、紫(P)の順に円の周方向においてそれらが徐々に変化するような色相で構成されており、かつ中心から周縁に向かって彩度が高くなるような色で構成されている。中心は3つの色の混ざった灰色となる。円グラフ22A~22Cは図4では無彩色に表れているが実際はこれらの多彩な色で表示される。
上段の円グラフ22Aは見本レンズ1の上半分の濃度が高い部分の測色データに基づくRYB設定量から算出された濃度で表示され、下段の円グラフ22Cは見本レンズ1の下半分の濃度が低い部分の測色データに基づくRYB設定量から算出された濃度で表示され、中断は、上段と中段のRYB設定量の中間値で算出された濃度で表示される。
【0032】
円グラフ22A~22Cにはそれぞれ第1のマーク23と第2のマーク24が表示される。第1のマーク23は細線の小さな丸で示され「Aレンズ」~「Gレンズ」までの7種の規格カラーレンズ3のそれぞれの色に応じた位置に配置される。具体的には、図5に示すように、第1のマーク23は中心位置に「Aレンズ」が配置され、右斜め下位置から反時計回り方向に「Bレンズ」~「Gレンズ」が配置される。これは本実施の形態では濃度にかかわらずそれらのRYB設定量と座標位置との関係で前もって算出されている。一方、第2のマーク24は太線の小さな丸で示され、上記の計算の結果として規格カラーレンズ3の色との関係で配置される。第2のマーク24の座標に基づいて第2の領域26の数値及びグラフ形状が算出されている。上段の円グラフ22Aの第2のマーク24は見本レンズ1の上半分の濃度が高い部分を示し、下段の円グラフ22Cの第2のマーク24は見本レンズ1の下半分の濃度が低い部分を示し、中段の円グラフ22Cの第2のマーク24は見本レンズ1の濃度の変位している中央部分を示している。
各円グラフ22A~22Cに隣接した位置には方形の窓28が表示されている。窓28には第2のマーク24の色が拡大して表示されている。これによって、第2のマーク24は小さな丸で示されているため、色の詳細がわかりにくいが、このように補助的に見本レンズ1のグラフィック画面での色を大写しにすることで第2のマーク24の色を視認することが可能となっている。
【0033】
作業者はこのように表示されるレンズ情報画面21の円グラフ22の表示に基づいて見本レンズ1が規格カラーレンズ3に対して測色した数値に基づいた場合に、グラフィック画面で確認した場合に客観的に判断することができる。
そして、作業者はモニターディスプレイ6上のこの円グラフ22を参考にし、更に実際の見本レンズ1と実際の規格カラーレンズ3を見比べて、グラフィック画面で確認した位置が正しいかどうかのチェックもすることができる。
また、チェックした結果、見本レンズ1の位置が妥当ではないと判断する場合がある。例えば、図4では下段の円グラフ22Cの第2のマーク24は上段の円グラフ22Aの第2のマーク24と大きくずれている。実際の規格カラーレンズ3を見比べて、例えば下段の円グラフ22Cの第2のマーク24を上段の円グラフ22Aの第2のマーク24と同じ位置にずらすべきであるとした場合には、下段の円グラフ22Cの第2のマーク24を入力装置7を用いて移動させることで、実際の見本レンズ1に近似させることができる。この場合には見本レンズ1の移動に伴って第2の領域26の数値及びグラフ形状も変化することとなる。
【0034】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態での任意の仮のRYB設定量から見本レンズ1の濃度と画面表示位置を求める計算例として、「第1の計算」を示した。この計算例の他の方法を示す。また、これら以外の方法も可能である。
(イ)分光透過率をもとに、カラー予測の元となるRYB設定量を定める。
この点は第1の計算と同様である。
(ロ)適当な濃度とモニターディスプレイ上の表示位置(2要素)の初期値を与える。
(ハ)濃度と位置の計3要素に対応したRYB設定量を上記「第2の計算」の方法で得る。これを仮の結果とする。
(ニ)RYB設定量に関して、予測の元と仮の結果の差が小さくなるように、濃度と位置の3要素を更新していく。つまりループ計算を行って真の値に近づけていく。
【0035】
・上記では見本レンズ1の仮のRYB設定量を算出するために7色×5段階の濃度の合計で35種の位置とRYB設定量がわかっている規格カラーレンズを参照物体として用意したが、7色、つまり7種類以外の種類でもよく、濃度も5段階以外の多段階としてもよい。規格カラーレンズのトータルも35種以上であってもよい。
・上記実施の形態では規格カラーレンズ3は濃度が変わっても色相と彩度は変わらないため、ある濃度で表示される7種の規格カラーレンズ3の円グラフ22上の位置に変更はなかった。しかし、例えば、着色料が濃度によって色相と彩度の位置も変わるような非線形特性であれば円グラフ22上の位置も濃度によって変更するようにすることも可能である。
・上記実施の形態では見本レンズ1も規格カラーレンズも使用される着色料はRYBの三色であったが、これは一例であって着色料を3種類以上使用して着色するようにしてもよい。また、上記の実施の形態で使用したRYB以外の着色料を使用してもよい。
・実施の形態では被着色物体を透明体であるレンズを例にして規格カラーレンズに基づいて見本レンズ1のRYB設定量を算出するようにしていたが、レンズに限定されるものではなく、さらには透明体に限定されるものでもない。見本物品が不透明であっても本発明のように複数の参照物体の着色料の種類と使用量がわかっており、グラフィック上での見え方に応じた初期位置とが与えられているのであれば、レンズ以外で実現してもよく、他の非透明体で実現してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…見本物体としての見本レンズ、3…参照物体としての規格カラーレンズ。
図1
図2
図3
図4
図5