(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】生体情報測定装置、生体情報測定方法および生体情報測定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/22 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
A61B5/22
(21)【出願番号】P 2021514224
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016762
(87)【国際公開番号】W WO2020213689
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019078637
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】上原 吉就
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】田上 友季也
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-214491(JP,A)
【文献】特開2012-239666(JP,A)
【文献】特開2007-181486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0029318(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0005696(US,A1)
【文献】国際公開第2012/050088(WO,A1)
【文献】Raquel Bailon et al.,Influence of Running Stride Frequency in Heart Rate Variability Analysis During Treadmill Exercise Testing,IEEE TRANSACTIONS ON BIOMEDICAL ENGINEERING,2013年07月,VOL.60,NO.7,PP.1796-1805
【文献】佐野 友香 他,リアルタイムでの心拍解析を用いたトレーニングシステムの解析,第58回 システム制御情報学会 研究発表講演会講演論文集 [CD-ROM],2014年05月21日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の運動時の拍動を採取した心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測する心拍計数手段と、
前記心拍データの心拍変動周波数をパワースペクトル解析して低周波成分の積分値であるLF値を算出する解析手段と、
少なくとも、前記被測定者の運動強度に対する、前記HR値を前記LF値で除算したHR/LF値を求める
手段を含む検出手段とを備えた生体情報測定装置。
【請求項2】
前記検出手段は、運動強度に対して求めたHR/LF値が予め設定された基準により急増するポイントを検出する請求項1記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記解析手段は、パワースペクトル解析による高周波成分の積分値であるHF値を算出
し、
前記検出手段は、前記被測定者の運動強度に対する、前記HF値の対数を直線近似
した第1近似直線
を求めるとともに、前記被測定者の運動強度に対する、求めたHR/LF値の対数
を直線近似した第2近似直線
を求め、前記第1近似直線と前記第2近似直線の第1交点を検出する請求項1または2記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記検出手段は、
前記被測定者の運動強度に対する、前記LF値を前記HF値で除算したLF/HF値の対数を直線近似
した第3近似直線
を求め、前記第1近似直線と前記第3近似直線との第2交点を検出
する請求項3記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
被測定者の運動時の拍動の状況を心拍計数手段により採取した心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測するステップと、
前記心拍データの心拍変動周波数を解析手段によりパワースペクトル解析して低周波成分の積分値であるLF値を算出するステップと、
前記被測定者の運動強度に対する前記HR値を前記LF値で除算したHR/LF値を求める検出手段により検出するステップとを含む生体情報測定方法。
【請求項6】
コンピュータを、
被測定者の運動時の拍動を採取した心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測する心拍計数手段、
前記心拍データの心拍変動周波数をパワースペクトル解析して低周波成分の積分値であるLF値を算出する解析手段、
前記被測定者の運動強度に対する、前記HR値を前記LF値で除算したHR/LF値を求める検出手段として機能させる生体情報測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動中、リアルタイムに被測定者の運動強度を測定できる生体情報測定装置、生体情報測定方法および生体情報測定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康増進、生活習慣の予防・治療、トレーニングを目的として運動が行われる。身体に負荷を掛ける運動は、負荷(強度)が不足するようであれば効果が得られ難い。また、反対に、過度な負荷は身体への悪影響が懸念される。安全で効果的な運動強度の決定には、乳酸性作業域値(LT)や換気性作業閾値(VT)を測定して判断されることが推奨されている。しかし、これらの測定を行うためには熟練した技術や高価な機器が必要であるため、広く普及することが困難である。
【0003】
例えば、特許文献1に、各々の被験者が自己の体力等に応じて最適な運動量で運動できるようにした、運動負荷の測定装置が知られている。
【0004】
この特許文献1に記載の運動負荷の測定装置は、運動状態にある被験者の心拍間隔の変動を検出して被験者の運動負荷を検出する。
この測定装置は、運動状態にある被験者の心拍間隔の変動をフーリエ変換して得られるパワースペクトルから、高い高周波帯域の積分値(HFpower)と低い低周波帯域の積分値(LFpower)を検出し、HFpowerから、被験者の運動負荷を検出するというものである。
また、HFpower(HF値)とLFpower(LF値)の比率から運動強度を検出したり、HF値と、LF値とHF値の比率を、運動負荷を示す運動指数に変換し、HF値から換算された運動指数と、LF値とHF値の比率で換算された運動指数とを加算し、加算された運動指数から運動負荷を検出したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の運動負荷の測定装置では、副交感神経の活動が反映されるHF値から運動負荷を検出したり、交感神経の活動が反映されるLF値とHF値の比率(LF/HF値)から運動負荷を検出したりしている。しかし、HF値やLF/HF値は、運動負荷に対して急激に減少したり増加したり変化するものではない。そのため、運動強度に応じた体調の変化や健康状態の管理を示す指標としては適していない。
【0007】
図7に示すように、運動強度が上昇すると、交感神経が活発になることで、心拍数が上昇する。心拍数は最適運動強度を超えても緩やかに上昇する。これは、心拍数の上昇として、血圧変化を感知した圧受容器が交感神経を制御することで、心拍数の急激な上昇を抑制しているものと推定される。そのため、圧受容器の影響を排除した心拍数は、最適運動強度を超えると急激に上昇するものと推測される。
【0008】
従って、交感神経の活動を示す新しい指標を導入できれば、激しい運動を行うときだけでなく、日頃の生活においても、体を動かすときに、拍動を採取した心拍データから、交感神経の活動の状況を把握することで、体調の変化や健康状態の管理を行うことができる。
【0009】
そこで本発明は、交感神経の活動を示す新しい指標を導入することで、健康管理に重要な生体情報を得ることが可能な生体情報測定装置、生体情報測定方法および生体情報測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、被測定者の心拍数(HR値)に対する補正値として、心拍変動周波数をパワースペクトル解析して低周波成分の積分値(LF値)で除算した値が、交感神経の活動を表す新たな指標となることを見出し、発明するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の生体情報測定装置は、被測定者の運動時の拍動を採取した心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測する心拍計数手段と、前記心拍データの心拍変動周波数をパワースペクトル解析して低周波成分の積分値であるLF値を算出する解析手段と、少なくとも、前記被測定者の運動強度に対する、前記HR値を前記LF値で除算したHR/LF値を求める手段を含む検出手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の生体情報測定方法は、被測定者の運動時の拍動の状況を心拍計数手段により採取した心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測するステップと、前記心拍データの心拍変動周波数を解析手段によりパワースペクトル解析して低周波成分の積分値であるLF値を算出するステップと、前記被測定者の運動強度に対する前記HR値を前記LF値で除算したHR/LF値を求める検出手段により検出するステップとを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の生体情報測定プログラムは、コンピュータを、被測定者の運動時の拍動を採取した心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測する心拍計数手段、前記心拍データの心拍変動周波数をパワースペクトル解析して低周波成分の積分値であるLF値を算出する解析手段、前記被測定者の運動強度に対する、前記HR値を前記LF値で除算したHR/LF値を求める検出手段として機能させることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、心拍計数手段が心拍数を示すHR値を計測し、解析手段が心拍変動周波数を高周波成分の積分値であるHF値と、低周波成分の積分値であるLF値とを算出し、検出手段が、被測定者の運動強度に対する、HR値をLF値で除算したHR/LF値を求める。そうすることで、運動強度に対するHR/LF値の傾向を認識することで、健康管理に重要な生体情報を得ることが可能である。
【0015】
前記検出手段は、運動強度に対して求めたHR/LF値が予め設定された基準により急増するポイントを検出するものとすることができる。そうすることで、このポイントを最適運動強度と推定することができる。
【0016】
発明者らは、HF値とHR/LF値との両方を、10を底とする対数とすることで、単位が異なるHF値およびHR/LF値を無次元量のように扱えることを発見した。
そのため、運動強度を横軸に、対数値を縦軸にしたグラフにすると、HF値とHR/LF値の直線近似に交点が求められ、その交点が最適運動強度と一致または近い値となることがわかった。
そこで、前記解析手段は、パワースペクトル解析による高周波成分の積分値であるHF値を算出し、前記検出手段は、前記被測定者の運動強度に対する、前記HF値の対数を直線近似することで求められる第1近似直線と、求めたHR/LF値の対数から直線近似した第2近似直線との第1交点を検出するものとすることができる。
HR/LF値の対数は、漸増運動負荷中に直線的に上昇するため、第1近似直線と第2近似直線との第1交点を明確に求めることができるので、第1交点を最適運動強度として求めることができる。
【0017】
前記検出手段は、前記第1近似直線と、前記LF値を前記HF値で除算したLF/HF値の対数を直線近似することで求められる第3近似直線との第2交点を検出し、第1交点と第2交点とが示す運動強度の範囲を検出することができる。
第1交点により示された最適運動強度に、第2交点により幅を持たせることにより、第1交点が最適運動強度から少し外れている場合でも、最適運動強度に幅(範囲)を持たせることで、個人差がある最適運動強度をその範囲に含ませることができる。従って、最適運動強度の検出について、正確性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、HR/LF値は、漸増運動負荷中に直線的に上昇するため、第1近似直線と第2近似直線との第1交点を明確に求めることができるため、第1交点を最適運動強度として求めることができるので、最適運動強度の検出の正確性を向上させることができる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置により運動負荷を測定する被測定者を示す図である。
【
図2】
図1に示す生体情報測定装置の構成を説明するための図である。
【
図3】運動強度に対する、HR値、HF値、LF値、LF/HF値、HR/LF値の傾向を説明するための図である。
【
図4】運動強度を横軸に、血中乳酸値とHR/LF値とを縦軸にしたグラフである。
【
図5】運動強度を横軸に、HF値の対数およびHR/LF値の対数を縦軸にしたグラフであり、(A)は、血中乳酸値を測定して乳酸性作業域値(LT)が検出されたときの運動負荷を100%、(B)は、呼気ガスからを酸素摂取量および二酸化炭素排出量を測定して換気性作業閾値(VT)が検出されたときの運動負荷を100%(最適運動強度)としたものである。
【
図6】
図5に示すグラフに、LF/HF値の対数による近似直線(第3近似直線)を重ねたグラフである。
【
図7】心拍数と交感神経との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、生体情報測定装置1は、被測定者が運動負荷器具Aを用いて負荷運動したときの状態を測定して、健康管理に重要な生体情報を測定するものである。運動負荷器具Aは、例えば、自転車エルゴメーターとすることができる。また、運動負荷器具は、トレッドミルを使用することでも可能である。更に、運動負荷としては、実際に路上を走ったり、踏み台を昇降したりすることでもよい。
【0021】
図2に示すように、生体情報測定装置1は、心拍採取手段10と、演算制御手段20とを備えている。
心拍採取手段10は、被測定者から拍動を採取して心拍データとして出力するものである。心拍採取手段10は、例えば、アームエレクトロニクス社製のLRR-03またはHRR-01が使用できる。心拍採取手段10は、測定電極11と、心拍データ記録手段12とを備えている。
【0022】
測定電極11は、被測定者に貼り付けられる心電図電極である。
心拍データ記録手段12は、測定電極11からのアナログ信号をデジタル信号に変換して記憶手段に格納しながら、演算制御手段20へ出力する。
【0023】
演算制御手段20は、心拍データに基づいて被測定者の最適運動強度を検出するコンピュータである。このコンピュータは、生体情報測定プログラムを動作させることで、生体情報測定装置1の演算制御手段20として機能する。
演算制御手段20は、心拍計数手段21と、解析手段22と、演算手段23と、検出手段24と、入力手段25と、表示手段26と、記憶手段27とを備えている。
【0024】
心拍計数手段21は、心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測する。
解析手段22は、心拍データの心拍変動周波数をパワースペクトル解析して、高周波成分の積分値であるHF値と低周波成分の積分値であるLF値とを出力する。
演算手段23は、HR値の補正としてHR値をLF値により除算したHR/LF値を算出する。また、演算手段23は、LF値をHF値で除したLF/HF値を算出する。
【0025】
検出手段24は、運動強度に対して求めたHR/LF値が急増するポイントを検出する。急増するポイントは、HR/LF値が予め設定された基準により大きいときのHR/LF値から検出することが可能である。このとき、HR/LF値と基準値とを単純に比較して超えたか否かを判定してもよいし、運動強度に対するHR/LF値の微分が基準値を超えたか否かを判定するようにしてもよい。
また、検出手段24は、被測定者の運動強度に対するHF値の対数を直線近似することで求められる第1近似直線と、HR/LF値の対数を直線近似することで求められる第2近似直線との第1交点を検出する。また、検出手段24は、第1近似直線と、LF/HF値を直線近似することで求められる第3近似直線との第2交点を検出する。
【0026】
入力手段25は、生体情報測定プログラムを開始したり、停止したり、結果を表示手段26へ表示させることを指示したりする。入力手段25は、キーボードやマウスとすることができる。また、表示手段26は、CRT、LCD、有機ELディスプレイとすることができる。
記憶手段27は、各データが読み書き可能な不揮発性メモリである。記憶手段27としては、大容量で高速アクセスが可能なハードディスク装置を採用することができる。
この記憶手段27には、心拍データ、HR値、HF値、LF値、HR/LF値、LF/HF値が格納される他、OSや生体情報測定プログラム、設定情報などが格納される。
【0027】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る生体情報測定装置1の動作状態と測定方法について、図面に基づいて説明する。
【0028】
被測定者に貼り付けた測定電極11から入力され、心拍データ記録手段12により取得された心拍データは、心拍採取手段10から演算制御手段20へ出力される。
演算制御手段20では、まず心拍計数手段21が被測定者から採取した心拍データに基づいて心拍数を示すHR値を計測する。
【0029】
次に、解析手段22が、心拍データから心拍変動周波数のパワースペクトルを算出する。このパワースペクトルは、心拍データを最大エントロピー法に基づいて演算して得ることができる。また、パワースペクトルは、心拍データを高速フーリエ変換して得ることができる。
次に、解析手段22が、低周波数帯域(0.004Hz以上、0.15Hz未満)と、高周波数帯域(0.15Hz以上、0.4Hz以下)とのそれぞれのパワースペクトルを積分する。そして、解析手段22が、低周波成分をLF値、高周波成分をHF値として算出する。
【0030】
次に、演算手段23が、HR/LF値と、HR/LF値の対数と、LF/HF値と、LF/HF値の対数とを算出する。
そして、検出手段24が、運動強度に対するHR/LF値が所定値(予め設定された基準)より大きいときのHR/LF値を検出する。
検出手段24が、HR/LF値が所定値より大きいことを検出すると、運動強度と、運動強度に対するHR/LF値とを示すグラフや表を測定結果として、表示手段26に表示したり、図示しない印刷装置により印刷したりして出力する。
【0031】
また、検出手段24が、被測定者の運動強度に対する、HF値の対数の近似直線(第1近似直線)を求める。また、検出手段24が、HR/LF値の近似直線(第2近似直線)を求める。そして、検出手段24が、第1近似直線と第2近似直線との第1交点を検出することで、この第1交点を最適運動強度とした測定結果を表示手段26に表示したり、図示しない印刷装置により印刷したりして出力する。
【0032】
図3に示すように、心拍数(HR値)は、運動強度の上昇に伴って上昇するが、副交感神経の活動を示すHF値による第1近似直線との交点を求めるために、心拍数の対数を算出して近似直線を求めると、この近似直線は、変化が現れない、ほぼ水平な近似直線となる。
また、一般的な交感神経活性の指標であるLF/HF値は、十分な活性化や活性の急増が認められず、また、そのばらつきも多いことが明らかである。
そこで、発明者らは、この心拍数(HR値)を自律神経全体(交感神経+副交感神経)の活性化指標であるLF値で補正することにより求めた新規の交感神経指標としてHR/LF値を用いることを見出した。
【0033】
(実施例)
ここで、女性の大学生8名を被測定者として、生体情報測定装置1により運動強度を測定したときの実施例を説明する。
測定者は、被測定者である女性の大学生が運動負荷器具Aである自転車エルゴメーターに乗り、拍動を測定するための測定電極11を、被測定者の前胸部および腹部の3カ所に貼って、負荷運動としてRamp式漸増運動負荷試験により測定した。
【0034】
また、測定者は、運動強度を測定するために、負荷運動中の被測定者から血液を採取して血中乳酸値を測定すると共に、質量分析装置を用いて呼気ガスを採取して酸素摂取量および二酸化炭素排出量を算出した。呼気ガスの分析には、アルコシステム社製のARCO-2000を使用した。
負荷運動量は、血中乳酸値を測定するときの乳酸性作業域値では82.7±18.5W、酸素摂取量および二酸化炭素排出量を測定するときの換気性作業閾値では83.8±5.8Wであった。
【0035】
測定結果をグラフにして
図4に示す。
図4は、運動強度を横軸に、HR/LF値と血中乳酸値とを縦軸にしたものである。各点は、一人の被験者の数値を示す。
図4から、ポイントPが示す90WからHR/LF値が急増していることが判る。
90WのHR/LF値は16.1であった。90Wに至る前の70Wでは1.6,80Wでは3.0であった。また、100Wでは64.8、110Wでは40.5であった。
被験者は、このポイントPにより、交感神経が活発に活動し始めるときの運動強度として把握することができる。また、ポイントPの運動強度を最適運動強度と推定することができる。
そのため、被測定者は、
図4に示すグラフのような、運動強度に対するHR/LF値の傾向を認識することで、運動に対する計画を立てるときに役立てたり、日常生活における活動による身体への影響を把握したりすることができる。
このように、交感神経の活動を示す新しい指標として、HR/LF値を導入すれば、健康管理に重要な生体情報を得ることが可能である。
【0036】
図5(A)および同図(B)は、運動強度を横軸に、HF値の対数およびHR/LF値の対数を縦軸にしたものである。各点は、平均値を示すもので、標準偏差をエラーバーにより示している。
図5(A)に示すグラフは、運動強度について、血中乳酸値を測定して乳酸性作業域値(LT)が検出されたときの運動負荷を100%(最適運動強度)としている。
【0037】
図5(A)のグラフからHF値の対数による第1近似直線L11は、以下の式1により表すことができる。
Y=-0.018X+2.503(相関係数R=0.995)・・・(式1)
また、
図5(A)のグラフからHR/LF値による第2近似直線L21は、以下の式2により表すことができる。
Y=0.020X-1.174(相関係数R=0.982)・・・(式2)
従って、式1による第1近似直線L11と、式2による第2近似直線L21との第1交点P1は、LTによる運動負荷100%に位置していることから、この第1交点P1は、ほぼ最適運動強度を示していることがわかる。
【0038】
図5(B)に示すグラフは、運動強度について、呼気ガスからを酸素摂取量および二酸化炭素排出量を測定して換気性作業閾値(VT)が検出されたときの運動負荷を100%(最適運動強度)としている。
【0039】
図5(B)のグラフからHF値による第1近似直線L12は、以下の式3により表すことができる。
Y=-0.020X+2.620(相関係数R=0.997)・・・(式3)
また、
図5(B)のグラフからHR/LF値による第2近似直線L22は、以下の式4により表すことができる。
Y=0.021X-1.224(相関係数R=0.994)・・・(式4)
従って、式3による第1近似直線L12と、式4による第2近似直線L22との第1交点P2は、VTによる運動負荷100%であることから、この第1交点P2はほぼ最適運動強度を示していることがわかる。
このように、HR/LF値の対数(第2近似直線L21,L22)は、漸増運動負荷中に直線的に上昇することが、
図5(A)および同図(B)より明らかであり、HF値の対数(第1近似直線L11,L12)との間に明確に第1交点P1,P2を求めることができる。
【0040】
従って、検出手段24が、第1近似直線L11,L12を示す式1,式3と、第2近似直線L21,L22を示す式2,式4とから第1交点P1,P2を求めることで、LTやVTを測定しなくても、正確に最適運動強度を求めることができる。
従って、負荷運動中に被測定者から採血したり、呼気ガスを採取するためのマスクを被測定者が装着したりする必要がないため、非侵襲的な測定が可能である。
【0041】
検出手段24は、
図5(A)および同図(B)に示すグラフに、交感神経の活動が反映されるLF/HF値の対数による近似直線(第3近似直線)を重ねるようにして、
図6(A)および同図(B)に示すように第1近似直線L11,L12と第3近似直線L31,L32との第2交点P3,P4を求めることができる。
なお、
図6(A)に示すグラフから第3近似直線L31は、以下の式5により表すことができる。
Y=-0.0001X+0.584(R=0.034)・・・(式5)
また、
図6(B)に示すグラフから第3近似直線L32は、以下の式6により表すことができる。
Y=0.002X+0.496(R=0.580)・・・(式6)
【0042】
図6(A)は、
図5(A)に第3近似直線L31を重ねたものである。
図6(A)からもわかるように、乳酸性作業域値(LT)を運動強度100%としたときに、第1近似直線L11と第3近似直線L31との第2交点P3は、運動強度約110%を指している。
また、
図6(B)からもわかるように、換気性作業閾値(VT)を運動強度100%としたときに、第1近似直線L12と第3近似直線L32との第2交点P4は、運動強度約105%を指している。
【0043】
このことから、最適運動強度は、第1近似直線L11,L12と、第2近似直線L21,L22との第1交点P1,P2と、第1近似直線L11,L12と、第3近似直線L31,L32との第2交点P3,P4とにより示される運動強度の範囲とすることができる。
そして、この運動強度の範囲を、検出手段24が、表示手段26に表示したり、図示しない印刷装置により印刷したりして出力することで、被測定者は、その範囲内に最適運動強度が含まれることを認識することができる。
【0044】
従って、第1交点P1,P2により示された最適運動強度に、第2交点P3,P4により幅(範囲)を持たせることにより、第1交点が最適運動強度から少し外れていても、個人差がある最適運動強度をその範囲に含ませることができる。従って、最適運動強度の検出について、正確性を更に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、最適運動強度が精度よく検出することができるため、健康増進、生活習慣の予防・治療、トレーニングに最適である。
【符号の説明】
【0046】
1 生体情報測定装置
10 心拍採取手段
11 測定電極
12 心拍データ記録手段
20 演算制御手段
21 心拍計数手段
22 解析手段
23 演算手段
24 検出手段
25 入力手段
26 表示手段
27 記憶手段
A 運動負荷器具
L11,L12 第1近似直線
L21,L22 第2近似直線
L31,L32 第3近似直線
P1,P2,P3,P4 交点