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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】救命具
(51)【国際特許分類】
   B63C 9/15 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
B63C9/15 100
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022193066
(22)【出願日】2022-12-01
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390019301
【氏名又は名称】高階救命器具株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】亀井 祐樹
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第7677940(US,B1)
【文献】米国特許第5456623(US,A)
【文献】特開2007-90943(JP,A)
【文献】国際公開第2008/143539(WO,A1)
【文献】特開2004-98936(JP,A)
【文献】特開2012-236543(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19932386(DE,A1)
【文献】米国特許第3119132(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 9/15
B63C 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えた救命具であって、
使用者の胴周りに装着されるベルトと、
収縮状態の前記浮袋体を収容する収容部と、を備え、
前記ベルトは、前記収容部の外周面に支持され、
前記収容部には、前記浮袋体が前記収縮状態である場合には閉状態であり、前記浮袋体が前記膨張状態となる場合に開状態となる開口部が設けられ、
前記開口部は、前記収容部における前記ベルトよりも上側に設けられ
前記収容部に収容されると共に前記収容部の内部へ侵入した水の量が設定量となったことを検知する検知器を備え、
前記浮袋体は、前記検知器による検知結果に基づいて、前記収縮状態から前記膨張状態となるように構成され、
前記収容部には、前記収容部の内部へ侵入した水を前記収容部の外部へ排出する排出部が設けられている、救命具。
【請求項2】
前記収容部は、本体部と、前記開口部の開状態で前記本体部の上方を開放し、前記開口部の閉状態で前記本体部の上方を覆う上カバーと、を備え、
前記本体部と前記上カバーとによって囲まれた空間に、前記収縮状態の前記浮袋体と前記検知器とが収容され、
前記上カバーには、前記収容部の外部から前記検知器を視認可能な視認窓が設けられている、請求項に記載の救命具。
【請求項3】
膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えた救命具であって、
使用者の胴周りに装着されるベルトと、
収縮状態の前記浮袋体を収容する収容部と、を備え、
前記ベルトは、前記収容部の外周面に支持され、
前記収容部には、前記浮袋体が前記収縮状態である場合には閉状態であり、前記浮袋体が前記膨張状態となる場合に開状態となる開口部が設けられ、
前記開口部は、前記収容部における前記ベルトよりも上側に設けられ
前記ベルトの外周側に、使用者の装備品を保持するための保持部が設けられている、救命具。
【請求項4】
前記保持部は、釣り竿を使用者に固定するための釣り竿固定具を保持する固定具保持部を含む、請求項に記載の救命具。
【請求項5】
前記浮袋体と前記収容部とが、使用者の背部側で所定長さの延長索体を介して連結されているとともに、前記延長索体による連結位置よりも前方の位置で前記延長索体の長さより短い距離で連結されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の救命具。
【請求項6】
前記浮袋体は、前記膨張状態で使用者の胴周りを囲むと共に一部で不連続となる不連続部を有する略C字形状に形成されており、
前記不連続部で対抗する両端部が、互いに篏合可能な凹凸状に形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の救命具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えた救命具に関する。
【背景技術】
【0002】
浮袋体を備えた救命具は、海や川などの水辺において用いられ、救命具を装着した使用者が誤って水中に落下した場合などの有事の際に、使用者を水面に浮上させるための助けとなる。このような救命具の一例が、特開2007-090943号公報(特許文献1)に開示されている。以下、背景技術の説明において括弧内に示される符号は、特許文献1のものである。
【0003】
特許文献1に開示された救命具(1)は、収縮状態の浮袋体(2)をカバー(4)で覆う構成となっている。収縮状態の浮袋体(2)をカバー(4)内に収まるように折り畳み、カバー(4)を折曲線(4a)で2つ折りにして上縁面ファスナ(4c)と下縁面ファスナ(4d)とを係着することにより、扁平筒状に形成されたカバー(4)内に浮袋体(2)を収容することができる。折曲線(4a)が、カバー(4)の上側に配置され、上縁面ファスナ(4c)と下縁面ファスナ(4d)とが、カバー(4)の下端部において互いに係着する。
【0004】
有事の際、すなわち、使用者が水中に落下した際には、救命具(1)が水を検知して、浮袋体(2)は膨張状態となる。膨張する浮袋体(2)が、上縁面ファスナ(4c)と下縁面ファスナ(4d)との係着部分をカバー(4)の内部から突き破り、カバー(4)の外部へ飛び出す。すなわち、特許文献1に開示された救命具(1)では、カバー(4)の下側から浮袋体(2)が飛び出す構造となっている。このように、カバー(4)の下側から浮袋体(2)が飛び出すようにしているのは、カバー(4)の上側を完全に塞ぐことで、使用者が作業中に用いる水、或いは雨などがカバー(4)の上側から内部に侵入して検知されることにより浮袋体(2)が誤作動して膨張することを防ぐ狙いもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-090943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、浮袋体(2)は、カバー(4)の下側から飛び出す分、水面まで浮上するのに時間を要することになる。水面まで浮上する時間はなるべく短い方が好ましい。
【0007】
上記実情に鑑みて、有事において浮袋体を早期に水面まで浮上させることが可能な救命具が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えた救命具であって、
使用者の胴周りに装着されるベルトと、
収縮状態の前記浮袋体を収容する収容部と、を備え、
前記ベルトは、前記収容部の外周面に支持され、
前記収容部には、前記浮袋体が前記収縮状態である場合には閉状態であり、前記浮袋体が前記膨張状態となる場合に開状態となる開口部が設けられ、
前記開口部は、前記収容部における前記ベルトよりも上側に設けられ
前記収容部に収容されると共に前記収容部の内部へ侵入した水の量が設定量となったことを検知する検知器を備え、
前記浮袋体は、前記検知器による検知結果に基づいて、前記収縮状態から前記膨張状態となるように構成され、
前記収容部には、前記収容部の内部へ侵入した水を前記収容部の外部へ排出する排出部が設けられている
【0009】
本構成によれば、収縮状態で収容部に収容された浮袋体は、膨張する際に、開状態となる開口部から収容部の外部へ飛び出す。この開口部は、収容部におけるベルトよりも上側に設けられている。そのため、開口部は、ベルトの配置の妨げとなることがなく、かつ、収容部の下端部に配置される場合に比べて、水面に近い位置に配置される。従って、本構成によれば、有事において浮袋体を早期に水面まで浮上させることが可能となる。
開口部がベルトよりも上側に設けられていると、使用者が作業中に用いる水、或いは雨などが、開口部を介して収容部の内部に侵入し得る。しかしながら本構成によれば、収容部には、収容部の内部へ侵入した水を収容部の外部へ排出する排出部が設けられているため、使用者が水中に落下していない状況(有事でない場合)において、収容部に侵入した水や雨などを収容部の外部へ積極的に排出することができる。検知器は、収容部の内部へ侵入した水の量が設定量となったことを検知するところ、排出部による水の排出により、収容部の内部に設定量の水が溜まらないようにできる。従って、本構成によれば、有事でない場合に、浮袋体が誤作動して膨張することを防ぐことができる。
【0010】
膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えた救命具であって、
使用者の胴周りに装着されるベルトと、
収縮状態の前記浮袋体を収容する収容部と、を備え、
前記ベルトは、前記収容部の外周面に支持され、
前記収容部には、前記浮袋体が前記収縮状態である場合には閉状態であり、前記浮袋体が前記膨張状態となる場合に開状態となる開口部が設けられ、
前記開口部は、前記収容部における前記ベルトよりも上側に設けられ、
前記ベルトの外周側に、使用者の装備品を保持するための保持部が設けられている。
【0011】
本構成によれば、収縮状態で収容部に収容された浮袋体は、膨張する際に、開状態となる開口部から収容部の外部へ飛び出す。この開口部は、収容部におけるベルトよりも上側に設けられている。そのため、開口部は、ベルトの配置の妨げとなることがなく、かつ、収容部の下端部に配置される場合に比べて、水面に近い位置に配置される。従って、本構成によれば、有事において浮袋体を早期に水面まで浮上させることが可能となる。
また、本構成によれば、有事以外における救命具の利便性を高めることができる。また、例えば、釣り人が救命具を使用する場合には、装備品として、釣り針や、釣り糸を切るためのハサミなどを保持部で保持しておくことができる。本開示に係る救命具は、浮袋体が、収容部におけるベルトよりも上側から飛び出す構造であるため、膨張する浮袋体が、保持部に保持されている装備品(上述のような釣り針やハサミなど)に接触することを回避できる。従って、保持部に装備品が保持されていたとしても、膨張する浮袋体が当該装備品に接触して損傷することを回避し、浮袋体を適切に膨張させることが可能となる。
【0012】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】救命具の使用状態を示す図
図2】膨張状態の浮袋体を示す平面図
図3】救命具の斜視図
図4】浮袋体が収縮状態から膨張状態に変化する様子を示す図
図5】収容部を水平に切断した状態を示す断面図
図6】釣り人が救命具を用いる場合の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
救命具は、膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えている。救命具は、例えば海や川などの水辺において用いられ、救命具を装着した使用者が誤って水中に落下した場合などの有事の際に、使用者を水面に浮上させるための助けとなる。以下、救命具の実施形態について説明する。
【0015】
図1に示すように、救命具100は、使用者Pの胴周りに装着されるベルト2と、収縮状態の浮袋体1を収容する収容部3と、を備えている。図1は、浮袋体1が膨張状態となって水面Wまで浮上している様子を示している。浮袋体1は、膨張状態において、収容部3の外部に配置される。
【0016】
本実施形態では、浮袋体1と収容部3とが、使用者Pの背部側(後方側)で所定長さの延長索体7を介して連結されているとともに、延長索体7による連結位置よりも前方の位置で延長索体7の長さより短い距離で連結されている。本例では、浮袋体1は、延長索体7による連結位置よりも前方の位置において、延長索体7よりも短い連結索体8を介して、収容部3に連結されている。
【0017】
詳細には、浮袋体1の後部と収容部3の後部とが、使用者Pの背部側中央部付近に配置された延長索体7と、延長索体7による連結位置よりも前方に位置する使用者Pの左右両側部付近に配置された連結索体8と、により連結されている。ここで、連結索体8の長さは、延長索体7の長さより短く形成される。そして、この延長索体7と連結索体8との長さの関係は、浮袋体1が膨張状態である場合における水面Wでの使用者Pの浮遊姿勢が理想的な後傾姿勢となるように設定される。
【0018】
具体的には、使用者Pの身体の軸Xが、水面に対して30~60〔°〕、より好ましくは40~50〔°〕の角度で後傾するように、延長索体7及び連結索体8の長さが設定される。例えば、連結索体8が浮袋体1と収容部3とを連結する連結距離は、0~10〔cm〕、より好ましくは0~3〔cm〕程度となるように設定されるとよい。一方、延長索体7が浮袋体1と収容部3とを連結する連結距離は、連結索体8による連結距離に対して15~35〔cm〕、より好ましくは20~30〔cm〕程度長く設定されるとよい。
【0019】
上記構成により、浮袋体1は、使用者Pの背部側(後方側)では延長索体7の長さ分だけ使用者Pの腰周りより上方に移動することが許容される。一方、浮袋体1は、延長索体7による連結位置よりも前方では、延長索体7よりも短い連結索体8によって収容部3に連結されているので、使用者Pの腰周りに比較的近い位置に配置される。従って、浮袋体1は、使用者Pの身体の軸Xを基準とした場合には、前傾した状態(腹部側が下方位置であって背部側が上方位置となるように傾斜した状態)となる。そして、浮袋体1は、水面Wでは当然に水平になるので、使用者Pは、自然と軸Xに沿って後傾することになる。その結果、浮袋体1が膨張状態における水面Wでの使用者Pの浮遊姿勢を、理想的な後傾姿勢に容易に安定させることができる。なお、延長索体7や連結索体8には、紐やワイヤ等を用いることができる。
【0020】
浮袋体1は、密閉された袋体である。浮袋体1は、収縮状態から、気体の流入によって膨張状態に変化する。浮袋体1は、収縮状態において折り畳まれて、収容部3に収容される。浮袋体1は、収縮状態から膨張状態に変化する過程で収容部3から外部へ飛び出すように構成されている。
【0021】
図2に示すように、本実施形態では、救命具100は、浮袋体1の内部に気体を供給する気体供給装置4を備えている。気体供給装置4は、浮袋体1に取り付けられている。気体供給装置4としては、公知の各種の構成のものを用いることができる。例えば、気体供給装置4は、炭酸ガス等の圧縮気体が充填されたボンベ4aを備えている。気体供給装置4は、救命具100の着水を検知した場合に、ボンベ4a内の圧縮気体を浮袋体1に供給するように構成されている。これにより、浮袋体1が膨張状態となる。すなわち、気体供給装置4は、水を検知する検知器Dとしての機能を有している。本実施形態では、検知器Dは、収容部3に収容されると共に収容部3の内部へ侵入した水の量が設定量となったことを検知するように構成されている。
【0022】
本実施形態では、浮袋体1は、膨張状態で使用者Pの胴周りを囲むと共に一部で不連続となる不連続部10を有する略C字形状に形成されている。不連続部10で対抗する両端部が、互いに篏合可能な凹凸状に形成されている。このような構成により、適切に使用者Pの胴周りを囲むように、浮袋体1を膨張させることができる。従って、水中に落下した使用者Pを、浮袋体1により迅速かつ確実に支持して、水面Wに浮上させることができる。
【0023】
ここでは、便宜上、浮袋体1を、図2に示すように5つの領域に区分して考えることとする。詳細には、使用者Pの背部側領域を中央部11、この中央部11の右端から前方へ延びる使用者Pの右側部側領域を右側基部12、中央部11の左端から前方へ延びる使用者Pの左側部側領域を左側基部13、右側基部12から前方へ延びる使用者Pの腹部側右前方領域を右側腕部14、左側基部13から前方へ延びる使用者Pの腹部側左前方領域を左側腕部15とする。なお、図2では、各領域の境界を二点鎖線で示しているが、この境界の位置は厳密なものではない。
【0024】
浮袋体1は、右側腕部14と左側腕部15とを合わせた容積が、中央部11の容積より十分に大きくなるように形成されている。これは、使用者Pが水中に落下した際に、浮袋体1が、使用者Pの腹部側を上にして浮上するようにさせるためである。
【0025】
右側腕部14と左側腕部15との容積が不均等になっている。具体的には、右側腕部14の容積が、左側腕部15の容積よりも大きくなっている。これは、使用者Pが水中に落下した際に、浮袋体1を、容積の大きい右側腕部14が上になる方向に回転させ、使用者Pの腹部側前方を迅速に上向きにさせるためである。浮袋体1をこのように構成することにより、使用者Pが腹部側を下向きにして水中への落下した場合であっても、浮袋体1が迅速に腹部側部分である右側腕部14及び左側腕部15を上とする姿勢になるようにすることができる。よって、浮袋体1の反転性能を高めることができる。その結果、救命具100は、使用者Pの水中への落下姿勢に関わらず、使用者Pの浮遊姿勢を、図1に示すような理想的な後傾姿勢に迅速に安定させることができる。
【0026】
浮袋体1の膨張状態で、浮袋体1の両端部は不連続部10において対向する。詳細には、右側腕部14の先端部と左側腕部15の先端部とが当接して対向する。右側腕部14の先端部と左側腕部15の先端部とは、互いに嵌合する凹凸状に形成されている。具体的には、右側腕部14の先端部は円弧上の凹部14aを有しており、左側腕部15の先端部は円弧上の凸部15aを有している。このように、浮袋体1の膨張状態において、右側腕部14の先端部と左側腕部15の先端部とが嵌合するので、膨張状態での浮袋体1の形状を安定させることができる。よって、使用者Pの浮遊姿勢を安定させることが容易になる。
【0027】
本実施形態では、浮袋体1の右側腕部14の上面側には、充填量調節管5が設けられている。本例では、充填量調節管5は、浮袋体1の内部に連通する管5aと、管5aの先端開口部を覆うように嵌め込み可能なキャップ5bと、管5aの先端開口部付近の内部に設けられ、浮袋体1の内部へ流れる気体のみを通過させる逆止弁(図示せず)と、を備えている。使用者Pは、浮袋体1の膨張の程度が足りない場合には、充填量調節管5から息を吹き込み、膨張の程度が過ぎる場合には、逆止弁を開放する操作をして浮袋体1内の気体を放出する。これにより、使用者Pは、浮袋体1の膨張の程度を調節できる。なお、この充填量調節管5の配置は、使用者Pが息を吹き込む作業を行い易い配置であればよい。例えば、充填量調節管5を左側腕部15の上面側に配置してもよい。
【0028】
図3に示すように、ベルト2は、収容部3の外周面に支持されている。すなわち、ベルト2が使用者Pの腰周りに装着された状態で、ベルト2と使用者Pとの間に収容部3が配置される。なお、本明細書において、「外周」または「内周」は、救命具100を装着した使用者Pの身体の中心を基準として定義される。
【0029】
本実施形態では、収容部3の外周面には、ベルト2を支持するためのベルト支持部Lが設けられている。ベルト2は、ベルト支持部Lによって、収容部3の外周面に支持されている。ベルト支持部Lは、いわゆるベルトループと呼ばれるものであり、ループ状に形成されたベルトループの内側に、ベルト2が挿通される。
【0030】
本実施形態では、ベルト2は、ベルト本体2aと、ベルト本体2aの両端に設けられると共に互いに係着可能なバックル2b、2cと、を備えている。各バックル2b、2cは、ベルト本体2aの長さを調節するための長さ調節機構を備えている。使用者Pは、ベルト本体2aを自身の腰周りに巻いてバックル2b、2cを互いに係着させ、ベルト本体2aの長さ調節を行うことにより、ベルト2を腰周りからずれないようにしっかりと装着することができる。
【0031】
収容部3は、収縮状態の浮袋体1を収容するように構成されている。収容部3は、ベルト2と共に使用者Pの腰周りに装着される。本実施形態では、収容部3は、ベルト2よりも内周側(使用者Pに近い側)に配置される。すなわち、使用者Pが救命具100を装着した状態において、収容部3は、使用者Pとベルト2との間に配置される。
【0032】
収容部3には、浮袋体1が収縮状態である場合には閉状態であり、浮袋体1が膨張状態となる場合に開状態となる開口部32が設けられている。浮袋体1は、収縮状態から膨張状態に変化する過程で、開状態となる開口部32から飛び出し、水面Wに浮上する。
【0033】
ここで、開口部32は、収容部3におけるベルト2よりも上側に設けられている。これにより、開口部32から飛び出して水面Wに浮上しようとする浮袋体1が、ベルト2に引っ掛かるようなことがない。従って、浮袋体1を円滑に水面Wへ浮上させることができる。さらに、開口部32をベルト2よりも上側に設けることにより、救命具100が着水した際の開口部32の位置を、水面Wに対してより近くすることができる。従って、浮袋体1を早期に水面Wまで浮上させることが可能となる。
【0034】
本実施形態では、開口部32は、収容部3の上端部に設けられている。これにより、上述の効果をより高めることができる。
【0035】
本実施形態では、収容部3は、本体部30と、開口部32の開状態で本体部30の上方を開放し、開口部32の閉状態で本体部30の上方を覆う上カバー31と、を備えている。図示の例では、本体部30と上カバー31とは、ファスナー32aにより連結されている。ファスナー32aは、開口部32に相当する箇所に設けられている。ファスナー32aが本体部30と上カバー31とを連結している状態で、開口部32は閉状態となっている。膨張する浮袋体1の圧力によって、本体部30と上カバー31との連結が解除されるように構成されている。本体部30と上カバー31との連結が解除されることによって、開口部32が開状態となる。
【0036】
本体部30と上カバー31とによって囲まれた空間に、収縮状態の浮袋体1(図示省略)と検知器Dとが収容されている。上述のように、本実施形態では、気体供給装置4が、検知器Dとしても機能する。すなわち本実施形態では、本体部30と上カバー31とによって囲まれた空間に、収縮状態の浮袋体1と気体供給装置4(検知器D)とが収容されている。
【0037】
本実施形態では、上カバー31には、収容部3の外部から気体供給装置4(検知器D)を視認可能な視認窓34が設けられている。救命具100を胴周りに装着した使用者Pは、救命具100を上から見ることになるが、本構成のように視認窓34を上カバー31に設けることで、使用者Pが救命具100を装着した状態であっても、使用者Pの見易い位置に視認窓34を配置することができる。従って、使用者Pは、救命具100を装着した状態であっても、視認窓34を介して検知器Dの状態を容易に把握することできる。なお、「検知器Dの状態」とは、例えば、気体供給装置4が使用済みであるか否かを示す状態である。気体供給装置4が使用済みである場合には、ボンベ4a内に気体が無い状態であるため、交換が必要となる。この種の検知器Dは、気体供給装置4が使用済みであるか否かを示す表示部を備えているのが通常であり、このような検知器Dを本開示に係る救命具100に用いるとよい。
【0038】
本実施形態では、ベルト2の外周側に、使用者Pの装備品E(図4参照)を保持するための保持部6が設けられている。本例では、収容部3の外周面に設けられたベルト支持部Lに、保持部6が設けられている。保持部6は、ベルト支持部Lの外面に取り付けられた保持ベルト6aを含む。ベルト支持部Lと保持ベルト6aとの間には隙間が設けられており、この隙間を利用して、保持ベルト6aに装備品Eを引っ掛けることができる。例えば、釣り人が救命具100を使用する場合には、装備品Eとして、釣り針や、釣り糸を切るためのハサミなどを保持部6で保持しておくことができる。
【0039】
図6にも示すように、本実施形態では、保持部6は、釣り竿Fを使用者Pに固定するための釣り竿固定具9を保持する固定具保持部6bを含む。これによれば、釣り人が救命具100を用いる場合に好適である。詳細は後述する。
【0040】
図4は、浮袋体1が、収縮状態から膨張状態になる様子を示している。図4(a)に示すように、使用者Pが水中に落下した場合には、救命具100が着水し、収容部3の内部に水が流入する。収容部3に流入した水は、検知器Dによって検知される。本実施形態では、浮袋体1は、検知器Dによる検知結果に基づいて、収縮状態から膨張状態となるように構成されている。
【0041】
図4(b)に示すように、検知器Dが水を検知すると、浮袋体1は、収縮状態から膨張状態となって、開口部32から飛び出し、水面Wに浮上する。上述のように、開口部32は、収容部3におけるベルト2よりも上側の部分(本例では収容部3の上端)に配置されているため、開口部32から飛び出す浮袋体1は、円滑に水面Wへと浮上することができる。特に、本実施形態では、ベルト2の外周側に保持部6が設けられており、当該保持部6では装備品Eが保持されている。しかし、上記のような、開口部32がベルト2よりも上側の部分に配置された構成によれば、開口部32から飛び出す浮袋体1が装備品Eに接触することがない。従って、浮袋体1が装備品Eに接触して損傷するようなこともない。
【0042】
ここで、開口部32が収容部3の上部(本例では上端)に配置されていると、従来のように開口部が収容部の下端部に配置された構成に比べて、収容部3の上側からの水の侵入を防ぎ難い。そのため、使用者Pが作業中に用いる水、或いは雨などが収容部3の上側から内部に侵入して、有事でない状況においても検知器Dによって誤検知される事態が起こり得る。しかしながら、本実施形態に係る救命具100は、開口部32を収容部3の上部に配置しながらも、このような事態を回避することが可能となっている。以下、詳細に説明する。
【0043】
図5は、収容部3の内部を上側から見た断面図である。図5に示すように、本実施形態では、収容部3には、収容部3の内部へ侵入した水を収容部3の外部へ排出する排出部33が設けられている。これにより、使用者Pが水中に落下していない状況(有事でない場合)において、収容部3に侵入した水や雨などを収容部3の外部へ積極的に排出することができる。検知器Dは、収容部3の内部へ侵入した水の量が設定量となったことを検知するところ、排出部33による水の排出により、収容部3の内部に設定量の水が溜まらないようにできる。従って、本構成によれば、有事でない場合に、浮袋体1が誤作動して膨張することを防ぐことができる。
【0044】
本実施形態では、排出部33は、収容部3の本体部30における底部302に設けられている。図示の例では、底部302の一部がメッシュ素材を用いて構成されており、当該メッシュ素材の部分が、排出部33となっている。但し、排出部33は、例えば、孔部などを用いて構成されていてもよい。
【0045】
上述のように、本実施形態では、保持部6は、釣り竿Fを使用者Pに固定するための釣り竿固定具9を保持する固定具保持部6bを含む。図6は、釣り人が救命具100を用いている場合を示している。
【0046】
図6に示すように、本実施形態では、固定具保持部6bは、保持ベルト6aに連結されている。詳細な図示は省略するが、固定具保持部6bは、使用者Pの左右両側に設けられており、左右両側の固定具保持部6bによって、使用者Pの膝元で釣り竿固定具9を保持する。
【0047】
釣り竿固定具9は、釣り竿Fのグリップ部分に設けられた、いわゆるギンバルFaを固定する。これにより、例えば大型の魚を釣る際の釣り人の動作をサポートすることができる。
【0048】
以上説明した救命具100によれば、有事において浮袋体1を早期に水面Wまで浮上させることが可能となる。また、浮袋体1が飛び出す開口部32が、ベルト2よりも上側に設けられているため、浮袋体1の飛び出しの妨げとならないように、使用者Pの装備品Eを保持するための保持部6をベルト2の外周側に設けることができる。さらに、収容部3には、収容部3の内部に侵入した水を積極的に排出する排出部33が設けられているため、使用者Pが水中に落下した有事の状況以外の状況において、検知器Dが水を誤検知しないようにできる。すなわち、有事の際のみに、検知器Dが水を検知して浮袋体1が膨張するようにできる。
【0049】
〔その他の実施形態〕
次に、救命具のその他の実施形態について説明する。
【0050】
(1)上記の実施形態では、開口部32が、収容部3の上端部に設けられている例について説明した。しかし、開口部32は、収容部3におけるベルト2よりも上側に設けられていればよい。この条件を満たすのであれば、例えば開口部32は、収容部3の上端部ではなく、収容部3の本体部30における周壁部301に設けられていてもよい。
【0051】
(2)上記の実施形態では、排出部33が、収容部3の本体部30における底部302に設けられている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、排出部33は、収容部3の本体部30における周壁部301に設けられていてもよい。この場合、排出部33は、周壁部301におけるなるべく下部に設けられていると好適である。
これによれば、収容部3の内部に侵入した水を排出し易い。
【0052】
(3)上記の実施形態では、本体部30と上カバー31とが、ファスナー32aにより連結されており、開口部32に相当する箇所に当該ファスナー32aが配置されている例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、本体部30と上カバー31とは、面ファスナー、或いは、ボタンなどにより連結されていてもよい。この場合であっても、面ファスナーやボタンは、膨張する浮袋体1の圧力によって外れるように構成される。
【0053】
(4)上記の実施形態では、気体供給装置4が、水を検知する検知器Dとしての機能を有している例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、気体供給装置4と検知器Dとは別々のものであってもよい。
【0054】
(5)なお、上述した実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0055】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明した救命具について説明する。
【0056】
膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えた救命具であって、
使用者の胴周りに装着されるベルトと、
収縮状態の前記浮袋体を収容する収容部と、を備え、
前記ベルトは、前記収容部の外周面に支持され、
前記収容部には、前記浮袋体が前記収縮状態である場合には閉状態であり、前記浮袋体が前記膨張状態となる場合に開状態となる開口部が設けられ、
前記開口部は、前記収容部における前記ベルトよりも上側に設けられている。
【0057】
本構成によれば、収縮状態で収容部に収容された浮袋体は、膨張する際に、開状態となる開口部から収容部の外部へ飛び出す。この開口部は、収容部におけるベルトよりも上側に設けられている。そのため、開口部は、ベルトの配置の妨げとなることがなく、かつ、収容部の下端部に配置される場合に比べて、水面に近い位置に配置される。従って、本構成によれば、有事において浮袋体を早期に水面まで浮上させることが可能となる。
【0058】
前記収容部に収容されると共に前記収容部の内部へ侵入した水の量が設定量となったことを検知する検知器を備え、
前記浮袋体は、前記検知器による検知結果に基づいて、前記収縮状態から前記膨張状態となるように構成され、
前記収容部には、前記収容部の内部へ侵入した水を前記収容部の外部へ排出する排出部が設けられている、と好適である。
【0059】
開口部がベルトよりも上側に設けられていると、使用者が作業中に用いる水、或いは雨などが、開口部を介して収容部の内部に侵入し得る。しかしながら本構成によれば、収容部には、収容部の内部へ侵入した水を収容部の外部へ排出する排出部が設けられているため、使用者が水中に落下していない状況(有事でない場合)において、収容部に侵入した水や雨などを収容部の外部へ積極的に排出することができる。検知器は、収容部の内部へ侵入した水の量が設定量となったことを検知するところ、排出部による水の排出により、収容部の内部に設定量の水が溜まらないようにできる。従って、本構成によれば、有事でない場合に、浮袋体が誤作動して膨張することを防ぐことができる。
【0060】
前記収容部は、本体部と、前記開口部の開状態で前記本体部の上方を開放し、前記開口部の閉状態で前記本体部の上方を覆う上カバーと、を備え、
前記本体部と前記上カバーとによって囲まれた空間に、前記収縮状態の前記浮袋体と前記検知器とが収容され、
前記上カバーには、前記収容部の外部から前記検知器を視認可能な視認窓が設けられている、と好適である。
【0061】
本構成によれば、収容部の外周面に支持されているベルトの妨げとならない位置に、視認窓を配置することができる。また、救命具を胴周りに装着した使用者は、救命具を上から見ることになるが、本構成のように視認窓を上カバーに設けることで、使用者が救命具を装着した状態であっても、使用者の見易い位置に視認窓を配置することができる。従って、使用者は、救命具を装着した状態であっても、視認窓を介して検知器の状態を容易に把握することできる。
【0062】
前記ベルトの外周側に、使用者の装備品を保持するための保持部が設けられている、と好適である。
【0063】
本構成によれば、有事以外における救命具の利便性を高めることができる。また、例えば、釣り人が救命具を使用する場合には、装備品として、釣り針や、釣り糸を切るためのハサミなどを保持部で保持しておくことができる。本開示に係る救命具は、浮袋体が、収容部におけるベルトよりも上側から飛び出す構造であるため、膨張する浮袋体が、保持部に保持されている装備品(上述のような釣り針やハサミなど)に接触することを回避できる。従って、保持部に装備品が保持されていたとしても、膨張する浮袋体が当該装備品に接触して損傷することを回避し、浮袋体を適切に膨張させることが可能となる。
【0064】
前記保持部は、釣り竿を使用者に固定するための釣り竿固定具を保持する固定具保持部を含む、と好適である。
【0065】
例えば、釣り人は、釣り竿を自らの身体に固定するための釣り竿固定具を用いることがある。本構成によれば、使用者は、固定具保持部を利用して釣り竿固定具を装備することが可能となる。
【0066】
前記浮袋体と前記収容部とが、使用者の背部側で所定長さの延長索体を介して連結されているとともに、前記延長索体による連結位置よりも前方の位置で前記延長索体の長さより短い距離で連結されている、と好適である。
【0067】
本構成によれば、浮袋体は、使用者の背部側(後方側)では延長索体の長さ分だけ使用者の腰周りより上方に移動することが許容される。一方、延長索体による連結位置よりも前方では、浮袋体は、延長索体の長さより短い距離で連結されているので、ベルトが装着されている使用者の腰周りに比較的近い位置に拘束される。従って、浮袋体は、使用者の身体の軸に対して前傾した状態(腹部側が下方位置であって背部側が上方位置となるように傾斜した状態)となる。そして、水面では浮袋体は水平になるので、使用者の身体は自然に後傾姿勢となる。その結果、浮袋体が膨張状態における水面での使用者の浮遊姿勢を、理想的な後傾姿勢に容易に安定させることができる。
【0068】
前記浮袋体は、前記膨張状態で使用者の胴周りを囲むと共に一部で不連続となる不連続部を有する略C字形状に形成されており、
前記不連続部で対抗する両端部が、互いに篏合可能な凹凸状に形成されている、と好適である。
【0069】
本構成によれば、浮袋体が膨張する過程で使用者の身体を不連続部から内側に納めることができ、自動的に使用者の胴周りを囲むように浮袋体を膨張させることができる。従って、迅速かつ確実に使用者の身体を支持して浮上させることができる。また、膨張状態で両端部が嵌合するので、浮袋体の形状を安定させることができ、使用者の浮遊姿勢を安定させることも容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示に係る技術は、膨張状態で使用者の胴周り付近を囲む形状となる浮袋体を備えた救命具に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
100 :救命具
1 :浮袋体
10 :不連続部
2 :ベルト
3 :収容部
30 :本体部
31 :上カバー
32 :開口部
33 :排出部
34 :視認窓
6 :保持部
6b :固定具保持部
7 :延長索体
9 :釣り竿固定具
D :検知器
E :装備品
F :釣り竿
P :使用者
【要約】
【課題】有事において浮袋体を早期に水面まで浮上させる。
【解決手段】ベルト2は、収容部3の外周面に支持されている。収容部3には、浮袋体1が収縮状態である場合には閉状態であり、浮袋体1が膨張状態となる場合に開状態となる開口部32が設けられている。開口部32は、収容部3におけるベルト2よりも上側に設けられている。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6