(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】Angptl2阻害剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/343 20060101AFI20240527BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240527BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240527BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240527BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240527BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240527BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240527BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A61K31/343 ZNA
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P29/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K8/49
A61Q19/02
(21)【出願番号】P 2022205676
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2019016002の分割
【原出願日】2019-01-31
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2018052184
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018138538
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開1 集会名:日本生薬学会第65回年会 開催日:平成30年9月16日~17日 発表日:平成30年9月16日 要旨集発行日:平成30年8月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開2 集会名:日本生薬学会第65回年会 開催日:平成30年9月16日~17日 発表日:平成30年9月17日 要旨集発行日:平成30年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】399088289
【氏名又は名称】株式会社再春館製薬所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 央
(72)【発明者】
【氏名】間地 大輔
(72)【発明者】
【氏名】諫本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 久博
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】Phytochemistry,1976年,15(11),1573-1580
【文献】Cancer research,1971年,31(11),1649-154
【文献】INDIAN DRUGS,1991年,28(4),170-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/343
A61P 3/10
A61P 9/10
A61P 29/00
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 8/49
A61Q 19/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(VII):
【化1】
で表される化合物又は薬学的に許容されるその塩
を含む、Angptl2阻害
用組成物。
【請求項2】
化粧品、医薬部外品、医薬品、又は食品組成物である、請求項1に記載のAngptl2阻害用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Angptl2阻害剤及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオポエチン様因子2(Angiopoietin-like 2、Angptl2)は、アンジオポエチン様因子ファミリー(angiopoietin-like family)に属する炎症性タンパク質である。ヒトにおいてAngptl2は493のアミノ酸を有するグリコシル化タンパク質であり、その構造はアンジオポエチンに類似しており、N末端にコイルドコイルドメイン、及びC末端にフィブリノゲン様ドメインを有することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
Angptl2は、アテローム性動脈硬化症等の慢性炎症性疾患、及び癌等に関連することが示唆されている。また、近年では、血中Angptl2の値が高い被験者群において、2型糖尿病を発症するリスクが高いことや(非特許文献2)、2型糖尿病患者において、Angptl2の血中濃度が死亡率及びMACE(主要有害心血管イベント)と相関することが報告されている(非特許文献3)。また、骨格筋細胞におけるAngptl2の発現上昇が、筋委縮を加速させることも示されており(非特許文献4)、Angptl2が炎症及びトリグリセリド代謝を調節する重要なタンパク質であり得ることも示されている(非特許文献5)。
【0004】
以上の通り、Angptl2は多くの疾患に関連し得るためその阻害剤の有用性は高いが、これまでのところ有効なAngptl2阻害剤は見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kim I. et al., The Journal of Biological Chemistry, 1999, 274(37), pp. 26523-26528.
【文献】Yasufumi Doi et al., Diabetes Care, 2013,36, pp. 98-100
【文献】Barnabas Gellen et al., Diabetologia, 2016, 59, pp.2321-2330
【文献】Zhao Jet al., J. Biol. Chem. 2018, 293(5), pp. 1596-1609
【文献】Muramoto A et al., Nutr. Diabetes., 2011, 7;1:e20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、Angptl2阻害剤を提供すること等を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、不知火菊(シラヌイギク)抽出物に含まれる幾つかの化合物を単離し、これらの化合物がAngptl2の産生阻害作用を有し得ること、またこれらの化合物と同様の骨格を有する他の化合物等もAngptl2の産生阻害作用を有し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明は、以下の態様を包含する。
【0009】
(1)式(IV)又は(V):
【化1】
[式中、Ra及びRbの一方は
【化2】
であり、
Ra及びRbのもう一方は水素又はヒドロキシ基であり、
R
1~R
7は、互いに独立に、水素、ヒドロキシ基、又はC
1-C
4アルコキシ基である]
で表される化合物若しくはその配糖体、又は薬学的に許容されるその塩からなる、Angptl2阻害剤。
(2)R
1~R
7は、互いに独立に水素、ヒドロキシ基、又はメトキシ基である、(1)に記載のAngptl2阻害剤。
(3)式(IV)又は(V)で表される化合物若しくはその配糖体が、6-メトキシトリシン(6-Methoxytricin)、オイパチリン(Eupatilin)、アピゲニン(Apigenin)、ルテオリン(Luteolin)、ビテキシン(Vitexin)、クリシン(Chrysin)、ゲンクワニン(Genkwanin)、プリムレチン(Primuletin)、タンゲレチン(Tangeretin)、ビオカニンA(Biochanin A)、ノビレチン(Nobiletin)、ジオスメチン(Diosmetin)、ホルモノネチン(Formononetin)、ヘスペレチン(Hesperetin)、及びケンフェロール(Kaempferol)からなる群から選択される、(2)に記載のAngptl2阻害剤。
(4)式(VII):
【化3】
で表される化合物又は薬学的に許容されるその塩からなる、Angptl2阻害剤。
【0010】
(5)式(I):
【化4】
[式中、R
1~R
7は、互いに独立に、水素、ヒドロキシ基、又はC
1-C
4アルコキシ基である]
で表される化合物若しくはその配糖体、又は薬学的に許容されるその塩からなる、Angptl2阻害剤。
(6)R
1及びR
6は、水素、ヒドロキシ基、又はメトキシ基であり、
R
2、R
4、及びR
7は、水素又はヒドロキシ基であり、
R
3及びR
5は、水素又はメトキシ基である、
(5)に記載のAngptl2阻害剤。
(7)式(I)で表される化合物若しくはその配糖体が、アピゲニン(Apigenin)、ルテオリン(Luteolin)、ビテキシン(Vitexin)、クリシン(Chrysin)、ゲンクワニン(Genkwanin)、及びプリムレチン(Primuletin)からなる群から選択される、(6)に記載のAngptl2阻害剤。
【0011】
(8)(1)~(7)のいずれかに記載のAngptl2阻害剤を含む、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は食品組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、Angptl2阻害剤が提供される。これにより、Angptl2に関連し得る疾患を治療及び/又は予防し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られた不知火菊抽出物の分画物であるFr.9-6-8のEI-MSの結果を示す。
【
図2】実施例1で得られた不知火菊抽出物の分画物であるFr.9-6-5-2-1のEI-MSの結果を示す。
【
図3】実施例1で得られた不知火菊抽出物の分画物であるFr.9-6-5-2-2aのEI-MSの結果を示す。
【
図4】実施例1で不知火菊抽出物から得られた3つの化合物(NC-1、NC-2、及びルテオリン)、並びにアピゲニン、ビテキシン、クリシン、ゲンクワニン、及びプリムレチンの、Angptl2遺伝子発現阻害効果を示す。コントロールはDMSOの結果を示す。NC-1及びNC-2は、終濃度1μg/ml、3μg/ml、10μg/mlの結果を示し、その他の化合物は全て終濃度3μg/mlの結果を示す。
【
図5】アピゲニン、タンゲレチン、ビオカニンA、ノビレチン、ジオスメチン、ホルモノネチン、ヘスペレチン、及びケンフェロールの、Angptl2遺伝子発現阻害効果を示す。コントロールはDMSOの結果を示す。化合物は全て終濃度10μMで用いた。
【
図6】実施例5で得られた不知火菊抽出物の分画物であるFr.7-3-3-1のFAB-MSの結果を示す。
【
図7】実施例5で得られた不知火菊抽出物の分画物であるFr.7-3-3-1(アルテグラシンA)及びアピゲニンの、終濃度1μg/ml、3μg/mlで用いた場合のAngptl2遺伝子発現阻害効果を示す。コントロールはDMSOの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.用語の定義
本明細書において、「薬学的に許容される塩」とは、ある化合物の特定の置換基(例えば、ヒドロキシル基)に基づいて、塩基又は酸を用いて調製された薬学的に非毒性の活性化合物の塩をいう。薬学的に許容される塩は、使用した塩基又は酸により塩基性付加塩と酸付加塩とに分類できる。
【0015】
「塩基性付加塩」としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩、N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩、アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0016】
「酸付加塩」としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩、メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等が挙げられる。
【0017】
本明細書において、「Angptl2」とは、アンジオポエチン様因子2(Angiopoietin-like 2)を指す。Angptl2は血中等に存在する炎症性タンパク質である。Angptl2のアミノ酸配列及びDNA配列は公知であり、当業者であれば公共のデータベース(NCBI、DDBJ、及びENA)等に基づいてその配列を容易に特定することができる。例えば、ヒトAngptl2は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む。配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の例として、配列番号1で示される塩基配列が挙げられる。また、本発明において、Angptl2は、配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して、例えば80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が付加、欠失、及び/若しくは置換されたアミノ酸配列であってよい。また、Angptl2をコードする塩基配列は、配列番号1で示される塩基配列に対して、例えば80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有する塩基配列、又は配列番号1の塩基配列において1若しくは複数個の塩基が付加、欠失、及び/若しくは置換された塩基配列であってよい。
【0018】
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列に関する同一性の値は、複数の配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389-3402, 1977及びAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。また、本明細書において、「1若しくは複数個」の範囲は、1から10個、好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。
【0019】
本明細書において、「Angptl2阻害」とは、Angptl2遺伝子の発現、及び/又はAngptl2タンパク質の産生を阻害する効果、好ましくはAngptl2遺伝子の発現を阻害する効果をいう。Angptl2阻害効果は、当業者であれば通常の方法を用いて確かめることができ、例えばAngptl2遺伝子の発現阻害効果であれば、HPAC等の培養細胞に対して化合物を処理してReal-time PCR法等の手法によりAngptl2遺伝子の発現量を調べ、これを未処理の細胞における発現量と比較することによって阻害効果を確認することができる。同様に、Angptl2タンパク質の産生阻害効果であれば、培養細胞に対して化合物を処理してELISA法等の手法によりAngptl2タンパク質の産生量を調べ、これを未処理の細胞における産生量と比較することによって阻害効果を確認することができる。
【0020】
2.Angptl2阻害剤
一態様において、本発明は、式(IV)又は(V):
【化5】
[式中、Ra及びRbの一方は
【化6】
であり、
Ra及びRbのもう一方は水素又はヒドロキシ基であり、
R
1~R
7は、互いに独立に、水素、ヒドロキシ基、又はC
1-C
4アルコキシ基である]
で表される化合物若しくはその配糖体、又は薬学的に許容されるその塩からなる、Angptl2阻害剤に関する。
【0021】
好ましくは、R1~R7は、互いに独立に水素、ヒドロキシ基、又はメトキシ基である。
【0022】
式(IV)に含まれる化合物の好適な例として、Raが水素であり、Rbが式(VI)の置換基であり、R1、R3、R5、及びR7が水素であり、R2がメトキシ基であり、R4及びR6がヒドロキシ基であるビオカニンA(Biochanin A)、並びにRaが水素であり、Rbが式(VI)の置換基であり、R1、R3、R4、R5、及びR7が水素であり、R2がメトキシ基であり、R6がヒドロキシ基であるホルモノネチン(Formononetin)が挙げられる。
【0023】
式(IV)に含まれる化合物の好適な例として、Raが式(VI)の置換基であり、Raがヒドロキシ基であり、R1、R3、R5、及びR7が水素であり、R2、R4及びR6がヒドロキシ基である、ケンフェロール(Kaempferol)が挙げられる。
【0024】
式(VI)に含まれる化合物の好適な例として、Raが式(VI)の置換基であり、Rbが水素であり、R1、R4及びR6がヒドロキシ基であり、R2がメトキシ基であり、R3、R5、及びR7が水素である、ヘスペレチン(Hesperetin)が挙げられる。
【0025】
一実施形態において、式(IV)又は(V)で表される化合物若しくはその配糖体は、6-メトキシトリシン(6-Methoxytricin)、オイパチリン(Eupatilin)、アピゲニン(Apigenin)、ルテオリン(Luteolin)、ビテキシン(Vitexin)、クリシン(Chrysin)、ゲンクワニン(Genkwanin)、プリムレチン(Primuletin)、タンゲレチン(Tangeretin)、ビオカニンA(Biochanin A)、ノビレチン(Nobiletin)、ジオスメチン(Diosmetin)、ホルモノネチン(Formononetin)、ヘスペレチン(Hesperetin)、及びケンフェロール(Kaempferol)からなる群から選択される。
【0026】
一実施形態において、式(IV)又は(V)で表される化合物若しくはその配糖体は、式(I)で表される化合物若しくはその配糖体である。
【0027】
また、一態様において、本発明は、式(I):
【化7】
[式中、R
1~R
7は、互いに独立に、水素、ヒドロキシ基、又はC
1-C
4アルコキシ基(好ましくはC
1-C
3アルコキシ基、C
1-C
2アルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基)である]で表される化合物若しくはその配糖体、又は薬学的に許容されるその塩からなる、Angptl2阻害剤に関する。
【0028】
好ましくは、式(I)において、R1及びR6は、水素、ヒドロキシ基、又はメトキシ基であり、R2、R4、及びR7は水素又はヒドロキシ基であり、R3及びR5は、水素又はメトキシ基である。式(I)に含まれる化合物の好適な例として、以下の表1に示される化合物が挙げられる。
【0029】
【0030】
本明細書において、「配糖体」とは、前記化合物に糖がグリコシド結合したものを意味し、その例として例えば前記化合物にグルコース、キシロース、ソルボース、ガラクトース等の糖、好ましくはグルコースを1又は複数個、例えば1~2個、好ましくは1個結合させたものが挙げられる。配糖体において、糖は、例えばR6又はR7、好ましくはR7の位置で前記化合物に結合する。
【0031】
一態様において、本発明は、式(VII):
【化8】
で表される化合物又は薬学的に許容されるその塩からなる、Angptl2阻害剤に関する。
【0032】
上記化合物は、
【化9】
で表されるアルテグラシンAであってもよい。
【0033】
本発明のAngptl2阻害剤を構成する上記化合物は、被験者に対して毒性を有さないものであり得るため、医薬品、医薬部外品、化粧品、及び食品等の分野において用いる場合に好適である。
【0034】
本発明のAngptl2阻害剤を構成する上記化合物(例えば、6-メトキシトリシン、オイパチリン、ルテオリン、及びアルテグラシンA)は、本明細書の記載を参照して、例えば実施例1の記載を参照して、各種クロマトグラフィーによりChrysanthemum属植物、例えば不知火菊(シラヌイギク;Chrysanthemum indicam×Erigeron annuus)又はシマカンギク(Chrysanthemum indicam)の抽出物から単離することができる。これらの植物の抽出物は、植物の任意の部位、例えば花部又は蕾から得ることができる。また、本発明の化合物は、既存の化学物質を原料として、公知の化学合成法によって得てもよい。例えば、本発明の化合物と同様の骨格を有するフラボン類の幾つかは市販されているため、これらを出発原料として本発明の化合物を調製してもよいし、市販のものをそのまま用いてもよい。
【0035】
3.用途
一態様において、本発明は、上記「2.Angptl2阻害剤」に記載のAngptl2阻害剤、又はAngptl2阻害剤を構成する上記化合物を、好ましくは有効成分として含む、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は食品組成物に関する。
【0036】
本明細書において、「医薬部外品」とは、薬事法で定められている製品であって、人体に対する作用が医薬品よりも緩和な製品をいう。限定されるものではないが、医薬部外品の例として、サプリメント及び薬用化粧品等が挙げられる。
【0037】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品、又は食品組成物は、上記成分以外に、一以上の他の成分、例えば薬学的に許容される担体又は溶媒等を含んでもよい。薬学的に許容される担体の例として、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、希釈剤、等張化剤、鎮静剤、緩衝剤、及び他の添加剤が挙げられ、溶媒の例として、滅菌水、生理食塩水、及び緩衝液(リン酸バッファー等を含む)が挙げられる。
【0038】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品、又は食品組成物は、原則として当該分野で公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Merck Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載の方法を用いて製剤化できる。具体的な製剤化の方法は、投与方法によって異なる。投与方法は、経口投与と非経口投与に大別され、投与方法は適宜選択することができる。
【0039】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、原則1回の投与でその有効成分が標的部位に達し得る量、かつそれを適用する被験体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量であればよい。このような含有量は、有効成分の種類、組成物の剤形及び投与方法等によって異なり、当業者によって適宜定められる。例えば、標的部位における終濃度が、0.1μg/ml以上、1μg/ml以上、2μg/ml以上、また100μg/ml以下、10μg/ml以下、又は4μg/ml以下、例えば0.1μg/ml~100μg/ml、1μg/ml~10μg/ml、又は2μg/ml~4μg/ml又は約3μg/mlとなるように有効成分を含むことができる。
【0040】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品、又は食品組成物を投与する対象の生物種は、限定しないが、好ましくは哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジー等の霊長類、ラット及びマウス等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物、好ましくはヒトである。
【0041】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品、又は食品組成物は、Angptl2阻害のために用いられ得る。したがって、本発明の組成物は、アテローム性動脈硬化症等の慢性炎症性疾患、癌、及び2型糖尿病等の糖尿病等、サルコペニア、及びメタボリックシンドローム等の疾患の治療及び/又は予防のために用いられ得る。また、Angptl2阻害はメラニン産生の抑制を引き起こし得るため(Gaku Satou et al., Experimental Dermatology. 2019;1~9)、本発明の組成物は、メラニン産生の抑制のためにも用いられ得る。
【0042】
一態様において、本発明は、上記「2.Angptl2阻害剤」に記載のAngptl2阻害剤若しくはAngptl2阻害剤を構成する上記化合物、又は上記組成物を被験体に投与することを含む、被験体においてAngptl2を阻害するための方法に関する。
【0043】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
<実施例1:化合物の単離1>
不知火菊(地上部、花部も含む)乾燥物1.8 kgを酢酸エチルにて抽出した(20L、50℃、5回)。得られた酢酸エチル抽出液を、エバポレーターを用いて濃縮乾燥し、78.3 gの濃縮物を得た。続いてこの濃縮物を、n-hexane:EtOAc (1:0、9:1、7:3、1:1、3:7、0:1)、及びEtOAc:MeOH (1:1, 0:1)、各6 Lを用いて、順相カラムによる分画を行い、12種のフラクションに分画した(Fr.1~12)。Angptl2のmRNA発現評価(発現評価方法は実施例2に記載の通り)により、活性を評価し、Fr.9が活性分画であることを確かめた。
【0045】
得られた活性分画物9 (9.5 g)を、MeOH:H2O (0:1, 1:2, 1:1, 2:1, 1:0)、Acetone、及びEtOAc、各3 Lを用いて、逆相カラムによる分画を行い、7種のフラクションに分画した(Fr.9-1~7)。Angptl2のmRNA発現評価(発現評価方法は実施例2に記載の通り)により、活性を評価し、Fr.9-6が活性分画であることを確かめた。
【0046】
得られたFr.9-6を、MeOH 3 Lを用いて、ゲル濾過カラムによる分画を行い、9種のフラクションに分画した(Fr.9-6-1~9)。Angptl2のmRNA発現評価(発現評価方法は実施例2に記載の通り)により、活性を評価し、Fr.9-6-5及び9-6-8が活性分画であることを確かめた。
【0047】
Fr.9-6-8は、自然ろ過により精製し、ろ紙上に残った黄色結晶として単一化合物を得た。
【0048】
得られたFr.9-6-5を、MeOH:H2O (9:1、1:0)、Acetone、各1 Lを用いて、逆相カラムによる分画を行い、3種のフラクションに分画した(Fr.9-6-5-1~3)。
【0049】
分画物Fr.9-6-5-2をHPLCにて分取(移動相CH3CN:H2O=8:2、流速4.0 mL/min.カラムODS 10x250 mm、検出器RI)し、3種のフラクションに分画した(Fr.9-6-5-2-1~3)。Fr. 9-6-5-2-1は単一化合物であった。また、分画物Fr.9-6-5-2-2をHPLCにて分取(移動相CH3CN:H2O=65:35、流速 4.0 mL/min.カラムODS 10x250 mm, RI)し、単一化合物Fr. 9-6-5-2-2aを得た。
【0050】
<実施例2:化合物の構造の特定1>
(材料と方法)
実施例1で得られた分画物であるFr.9-6-8、Fr. 9-6-5-2-1、及びFr. 9-6-5-2-2aについて、NMR及びMSを以下の通り行った。
NMR
化合物約7 mgをDMSO-d60.65 mLに溶解し、NMR管 (直径5mm)に入れた。NMR装置はJEOL Resonance社製 ECX-400 IIを使用した。本化合物及び文献(Magnetic Resonance in Chemistry 45, 674-679 (2007))の1H-NMR及び13C-NMRのケミカルシフト値の比較から化合物を同定した。
MS
化合物約5 mgをDMSO 1 mLに溶解し、ガラスキャピラリーに1μL入れた。EI-MS装置はJEOL社製 GC-mate IIを使用した。分子イオンピークと、上記NMRのデータと合わせて化合物の分子式を推定し、文献(Arch Pharm Res 27, 507-511 (2004);さらに、6-Methoxytricinについては、(1) Deng, Yan-Ru et al., Journal of the Chinese Chemical Society (Taipei, Taiwan) 2004, v. 51(3), pp. 629-636、及び(2) Mariano Martinez-Vazquez et al., Journal of Natural Products 1993, V56(8), pp. 1410-13;Eupatilinについては(1) Suleimenov, E.M. et al., Chem Nat Comp, 41, 689-691(2005)、及び(2) Antonio G. Gonzalez et al., Phytochemistry, v. 27, 1540-1541(1988))との比較から化合物を同定した。
【0051】
(結果)
Fr.9-6-8、Fr.9-6-5-2-1、及びFr.9-6-5-2-2aのEI-MSの結果を、それぞれ
図1~3に示す。Fr.9-6-8、Fr.9-6-5-2-1、及びFr.9-6-5-2-2aのNMRの結果を以下の表2~4に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
EI-MSの結果及びNMRのデータから、Fr.9-6-8はルテオリンであると同定した。
【0056】
また、同様にFr. 9-6-5-2-1は、以下の式(II):
【化10】
を有する6-メトキシトリシン(6-Methoxytricin、以下NC-1とも記載する)であると同定した。
【0057】
また、同様にFr. 9-6-5-2-2aは、以下の式(III):
【化11】
を有するオイパチリン(Eupatilin、以下NC-2とも記載する)であると同定した。
【0058】
<実施例3:Angptl2阻害試験1>
(材料と方法)
細胞培養
HPAC(ヒト膵臓がん細胞)を10%FBS(fetal bovine serum)、100 units/ml penicillin及び 100 μg/ml streptomycin (Wako, Osaka, Japan)含有のDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium (Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)を用いて、5%CO2、温度37℃にて培養した。
【0059】
サンプル処理
上記と同様の培養法にて、6wellマルチプレートに1.5×105個/wellにてHPACを播種した。その24時間後、2μLの試験化合物と2mLの10%FBS、100 units/ml penicillin及び100 μg/ml streptomycin含有のDMEMの混合溶液を調製し、培養液と入れ替えた。試験化合物としては、実施例2で得た3つの化合物(NC-1、NC-2、及びルテオリン)に加えて、アピゲニン、ビテキシン、クリシン、ゲンクワニン、及びプリムレチン(和光純薬工業)を使用し、全てDMSO(Dimethyl sulfoxide)にて溶解したものを用いた。その8時間後、TRI Reagent(登録商標)(コスモ・バイオ社)を用いて細胞を溶解した。
【0060】
活性評価(Real-time RT-PCR Analysis)
細胞溶解液からのTotal RNAの抽出及び精製は、TRI REAGENT(登録商標)のRNA抽出プロトコール(cosmo bio)の手順に従った。サンプル(1μg RNA)から、PrimeScriptTMRT Master Mix (TaKaRa)を用いてcDNA合成を行った。SYBR Green Supermix (Bio-Rad)を用いて、real-time RT-PCR(CFX ConnectTM(Bio-Rad, Hercules, CA, USA))を行った。解析はCFX Manager Softwareを用いた。18s cDNA又はbeta-actin cDNAを内部標準とし、Angptl2/18s又はAngptl2/ beta-actinの発現量を評価した。プライマーはPrimer3 websiteを用いてデザインし、その配列は以下の通りである。
【0061】
Angptl2 Forward:ACCGAGTGCATAAGCAGGAG(配列番号3)、及びReverse:AGCTTCACCTCGCTCACAAT(配列番号4)
beta-actin Forward:GCCATGTACGTTGCTATCCA(配列番号5)、及びReverse:GTCAGGCAGCTCGTAGCTCT(配列番号6)
18s Forward:GGCCGTTCTTAGTTGGTGGA(配列番号7)、及びReverse:TCAATCTCGGGTGGCTGAAC(配列番号8)
【0062】
細胞毒性試験
LDH Cytotoxicity Detection Kit(TaKaRa, Japan)及びThe Cell Counting Kit-8 (CCK8; Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan) を用いて、マニュアルに従い行った。マニュアルからの改変点は以下の通りである。HPACを24wellマルチプレートに3×104個/well播種し、その24時間後、試験化合物に曝露し、10 μlのCCK8溶液を各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。最後に、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーを用いて測定した(ARVOTM X3)。
【0063】
(結果)
Real-time RT-PCRによるAngptl2遺伝子の発現解析の結果を
図4に示す。
図4に示される通り、試験した化合物はいずれもAngptl2遺伝子の発現を低下させることが示された。また、NC-1及びNC-2については、用量依存的にAngptl2遺伝子の発現が低下することも確認された。
【0064】
細胞毒性試験を行ったところ、アピゲニン、クリシン、ゲンクワニン、プリムレチン(いずれも0.003mg)、及びビテキシン(0.01mg)では、いずれもLDH/CCK-8が120以上となるような細胞毒性は認められなかった(データ示さず)。
【0065】
<実施例4:Angptl2阻害試験2>
(材料と方法)
実施例3に記載の方法に従って、細胞培養、サンプル処理、及びReal-time RT-PCRによる活性評価を行った。ただし、サンプル処理では、実施例3に記載の化合物に代えて、タンゲレチン、ビオカニンA、ノビレチン、ジオスメチン、ホルモノネチン、ヘスペレチン(コスモ・バイオ社)、及びケンフェロール(和光純薬工業)をいずれも10μMで用いた。結果は0.1%DMSOをcontrolとした際の相対値を示し、実施例3で効果が認められたアピゲニンを陽性対照として加えた。結果は、n=4(ただし、アピゲニンはn=3、ケンフェロールはn=2)の平均値である。
【0066】
(結果)
Real-time RT-PCRによるAngptl2遺伝子の発現解析の結果を
図5に示す。
図5に示される通り、本実施例で試験した化合物についてもAngptl2遺伝子の発現を低下させることが示された。
【0067】
<実施例5:化合物の単離2>
実施例1と同様に、不知火菊(地上部、花部も含む)抽出物から12種のフラクションに分画し(Fr.1~12)、Angptl2のmRNA発現評価により、Fr.7が活性分画であることを確かめた。
【0068】
得られた活性分画物7(1.4g)をn-hexane:EtOAc(1:0、9:1、4:1、3:2、2:3、1:4、0:1)各2L、及びMeOH各2Lを用いてシリカゲルオープンカラムにて10種のフラクションに分画した(Fr.7-1~10)。実施例2に従ってAngptl2のmRNA発現評価により活性を評価し、Fr.7-3が活性分画であることを確かめた。
【0069】
得られたFr.7-3(932.38mg)をn-hexane:EtOAc(1:0、19:1、17:3、3:1、13:7、1:1、0:1)、及びMeOH各1Lを用いてシリカゲルオープンカラムにて8種のフラクションに分画した(Fr.7-3-1~8)。実施例2に従ってAngptl2のmRNA発現評価により活性を評価し、Fr.7-3-3が活性分画であることを確かめた。
【0070】
得られたFr.7-3-3をHPLCにて分取(移動相CH3CN:H2O=65:35、流速3.5 mL/min、カラムODS 20x250 mm、検出器RI)し、単一化合物Fr.7-3-3-1を得た。
【0071】
<実施例6:化合物の構造の特定2>
(材料と方法)
実施例5で得られた分画物であるFr.7-3-3-1について、NMR、MS、及びX線結晶構造解析を以下の通り行った。
NMR
化合物約7 mgをCDCl30.65 mLに溶解し、NMR管 (直径5mm)に入れた。NMR装置はJEOL Resonance社製 ECX-400 IIを使用した。本化合物の1H-NMR及び13C-NMRのケミカルシフト値から化合物を同定した。
MS
常法に従い、本化合物のFAB-MS測定を行った。マトリックスには3-nitrobenzylalcoholを使用した。
X線結晶構造解析
岡山大学理学部機器センターに測定を委託した。手短には、本化合物をメタノールに溶解し、室温で72 hr静置しメタノールが揮発して結晶化したものをろ取し、0.6 × 0.3 × 0.3 mmの大きさにカットして測定に供した。
【0072】
(結果)
Fr.7-3-3-1のMSの結果を、
図6に示す。ヨウ化ナトリウムを添加して検出を行ったところ、正イオン検出でナトリウム付加分子イオンピークm/z 327 [M+Na]
+が観測され、その精密質量値は327.1239(理論計算値327.1208)であったこと、及びNMRのデータと合わせて本化合物の分子式をC
17H
20O
5と推測した。
【0073】
Fr.7-3-3-1のNMRの結果を、以下の表5~6に示す。
【0074】
【0075】
X線結晶構造解析の結果を以下に示す。
【0076】
【0077】
以上のNMR、MS、及びX線結晶構造解析の結果から、Fr.7-3-3-1は、以下の式:
【化12】
を有するアルテグラシンA(Arteglasin A)であると同定した。
【0078】
<実施例7:Angptl2阻害試験3>
(材料と方法)
実施例3に記載の方法に従って、細胞培養、サンプル処理、及びReal-time RT-PCRによる活性評価を行った。ただし、サンプル処理では、実施例3に記載の化合物に代えて、実施例6で得られたアルテグラシンAを1μg/ml又は3μg/mlで用いた。結果は0.1%DMSOをcontrolとした際の相対値を示し、陽性対象としてアピゲニンを1μg/ml又は3μg/mlで用いた。結果は、n=3の平均値である。また、実施例3同様に細胞毒性試験を行った。
【0079】
(結果)
Real-time RT-PCRによるAngptl2遺伝子の発現解析の結果を
図7に示す。
図7に示される通り、アルテグラシンAについてもAngptl2遺伝子の発現を低下させることが示され、その効果はアピゲニン以上であった。
【0080】
また、細胞毒性試験を行ったところ、アルテグラシンA(0.001mg/ml(約3.3μMに相当))では、LDH/CCK-8が120以上となるような細胞毒性は認められなかった(データ示さず)。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、Angptl2阻害作用を有し得る化合物、及びAngptl2阻害剤が提供される。これにより、Angptl2に関連し得る疾患を治療及び/又は予防することが可能となり得るため、その産業上の利用可能性は高い。
【配列表】