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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物
(51)【国際特許分類】
   C23G 5/028 20060101AFI20240527BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20240527BHJP
   C11D 7/30 20060101ALI20240527BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20240527BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C23G5/028
C09K3/30 M
C09K3/30 S
C11D7/30
C11D7/50
C11D17/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023090572
(22)【出願日】2023-05-31
(62)【分割の表示】P 2022034411の分割
【原出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2023107823
(43)【公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2017215124
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503123864
【氏名又は名称】神戸合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 督修
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 祐士
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-518010(JP,A)
【文献】特表2013-504658(JP,A)
【文献】特表2013-532755(JP,A)
【文献】特表2013-538888(JP,A)
【文献】特開2014-005419(JP,A)
【文献】特開2015-040279(JP,A)
【文献】特開2017-043742(JP,A)
【文献】特開2017-200989(JP,A)
【文献】特表2017-533281(JP,A)
【文献】国際公開第2013/086264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/30
C11D 1/00 - 19/00
C23G 5/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄成分としての(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、および2,3,3-トリクロロ-3-フルオロプロペン、HCFO-1233ydから選択される1つまたはそれ以上であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有してなり、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとの質量比(HFO系の不燃性フッ素系溶剤/アルコキシフルオロアルケン)の範囲が99/1~1/99であり、ただし、HFO系の不燃性フッ素系溶剤が(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである場合は前記質量比が80/20~40/60、HFO系の不燃性フッ素系溶剤がHCFO-1233ydである場合は前記範囲が30/70~1/99であることを特徴とする各種車両・乗物・輸送機関の洗浄剤組成物を各種車両・乗物・輸送機関へ塗布または吹き付ける工程または各種車両・乗物・輸送機関を前記洗浄剤組成物へ浸漬する工程を有する各種車両・乗物・輸送機関の洗浄方法。
【請求項2】
アルコキシフルオロアルケンが、アルコキシパーフルオロアルケンであることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
アルコキシフルオロアルケンのアルコキシ基が、メトキシ基もしくはエトキシ基であるアルコキシフルオロアルケンまたはアルコキシパーフルオロアルケンを含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項4】
アルコキシフルオロアルケンが、炭素数5以上8以下のアルコキシフルオロアルケンであることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項5】
アルコキシフルオロアルケンが、メトキシパーフルオロペンテン、メトキシパーフルオロへキセン、メトキシパーフルオロヘプテン、もしくはメトキシパーフルオロオクテン、または、エトキシパーフルオロペンテン、エトキシパーフルオロへキセン、エトキシパーフルオロヘプテン、もしくはエトキシパーフルオロオクテン、またはそれらの異性体混合物を何れか1つ以上を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項6】
アルコキシフルオロアルケンが、メトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項7】
洗浄成分としての(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、および2,3,3-トリクロロ-3-フルオロプロペン、HCFO-1233ydから選択される1つまたはそれ以上であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有してなり、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとの質量比(HFO系の不燃性フッ素系溶剤/アルコキシフルオロアルケン)の範囲が99/1~1/99であり、ただし、HFO系の不燃性フッ素系溶剤が(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである場合は前記質量比が80/20~40/60、HFO系の不燃性フッ素系溶剤がHCFO-1233ydである場合は前記範囲が30/70~1/99であることを特徴とする各種車両・乗物・輸送機関の洗浄剤組成物と噴射ガスとを含有するエアゾール組成物を各種車両・乗物・輸送機関に噴射して洗浄する工程を有する各種車両・乗物・輸送機関の洗浄方法。
【請求項8】
噴射ガスが、N、CO、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、希ガス、LPG、DMEまたは圧縮空気であることを特徴とする、請求項7に記載の洗浄方法。
【請求項9】
噴射ガスが、Nであることを特徴とする、請求項7に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄や工具、作業場、ピット、工場の洗浄に用いるための新たな洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物に関し、特に、各種車両・乗物・輸送機関における金属や金属と樹脂との組合せからなるボディ、ブレーキ部品、サスペンション、ホイールなどの各種の車両用部品や制御装置などを脱脂し洗浄するためのものであって、不燃性で、引火の危険性や火災のリスクが低く消防法上の非危険物に該当することから危険物倉庫が不要のため、大量使用する洗浄剤組成物の保管量に法的な制限がなく、さらに、毒性が低く、かつ、オゾン層破壊などの環境負荷が小さいという優れた特性を有し、さらには、従来の洗浄剤組成物と同等以上の洗浄性、汚れの再付着防止性を有しつつも、従来の洗浄剤組成物よりもゴムや樹脂に対するアタック性が極めて低く、また、使用場面に合わせて所望の乾燥速度を有するように配合比率が調整可能であるという優れた特性を併せ持つ、洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関は、ボディ、ブレーキ、サスペンション、ホイールなどの各種部品や装置などが、金属や各種の樹脂などを用いて製造されている。また、近年、軽量化や装飾性を高めることを意図して、金属に樹脂を組み合わせた複合材料なども用いた部材も使用されている。
【0003】
これらの金属を用いた部品や装置は、使用する間に油分や汚れなどがその表面に付着し、所期の性能や装飾性が低下してくる。また、付着した成分によっては金属表面が腐食し、所期の性能が不可逆的に損なわれてしまう。さらに、車両・乗物・輸送機関には、各装置の動きをスムーズにするよう、グリスなどの油分が必要部位に塗布されるが、それら油分は、走行時に空気の流れや雨水が吹き付けられるなどすることにより徐々に油分が意図しない部位に流れ出るなどし、また他の車両・乗物・輸送機関から流れ出た油分などが汚れと共に路面から巻き上げられるなどして、車両・乗物・輸送機関の各部に付着し、各種の部品や装置における所期の性能を低下させる要因となる。特に、車両・乗物・輸送機関において多く用いられるブレーキライニングを施したブレーキシューをブレーキディスクやブレーキドラム等の回転体に制動子として作用させる摩擦ブレーキ装置においては、油分が付着すると摩擦係数が低下し、さらにブレーキライニングが摩耗して生じた粉塵が付着しやすくなって、ブレーキの制動性が低下してしまう要因となるため、定期的にメンテナンス作業を実施し、油分や汚れが付着した金属部材を洗浄する必要が生じている。
【0004】
また、各種車両・乗物・輸送機関の組み立て製造時において、金属に樹脂や塗料などを塗布し加工する際に、金属表面に油分などが僅かに付着したままになっていると、樹脂や塗料が安定して付着せずに剥離したり変質するなどして、製品の品質が大幅に低下してしまう。また、ブレーキ、サスペンション、ホイールなどの運行時の安全性担保のために特に重要な部品や装置においては、油分などが僅かに付着したままでは摩擦係数が低下し、そのまま組み上げてしまうと制動性が損なわれるなどして、所期の性能を安定して発揮させることが出来なくなる。そこで、車両・乗物・輸送機関の組み立て製造時には、各部品の金属表面に僅かに付着した油分を事前に十分に洗浄し取り除くことが求められている。
【0005】
そこで、主に各種車両・乗物・輸送機関のボディ、ブレーキ部品、サスペンション、ホイールなどを洗浄するための洗浄剤組成物として、従来は、洗浄性を有するトリクロロエタンを主成分とするものが開発され利用されていた。しかし、トリクロロエタンには、毒性が知られている。また、トリクロロエタンは、オゾン層の保護のためのウィーン条約の下で発効したオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書において、締約国における生産と消費を段階的に削減し1996年には全廃するとともに議定書の非締約国との輸出入の禁止又は制限がされることとなった。そのため、トリクロロエタンを用いた洗浄剤組成物の使用は、避けられることとなった。
【0006】
そこで、イソヘキサン、シクロヘキサンなどのC6の石油系炭化水素をベースに、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類を添加し、洗浄性、乾燥性、沸点を調整した洗浄剤組成物が製造され、それをLPGガスを用いたエアゾール組成物や移動式簡易エアゾール充填機を使用した圧縮空気によるエアゾール組成物としたものが提案され、広く用いられている。
【0007】
しかしながら、上記の洗浄剤組成物に用いられている石油系炭化水素やアルコール類は、引火性が高く、消防法上の危険物として規制を受ける。そのため、保管には危険物倉庫の設置が必要であり、設置の為のコストがかかるものであった。また、洗浄剤組成物使用施設において危険物倉庫を有していても、保管できる量には制限がある。特に上記洗浄剤組成物は、その多くが第四類第一石油類に分類されるが、法令上1倉庫に保管可能な第四類第一石油類の指定数量は低く設定されていることから、洗浄剤組成物の使用量が多いにもかかわらず、少量しか保管できないという問題があり、その改善が求められていた。
【0008】
さらに、上記洗浄剤組成物に用いられている炭化水素はトリクロロエタンのような毒性はないものの、過剰量を吸入することにより炭化水素中毒となる危険性があるため、屋外や換気装置のある屋内などの換気がされている環境下にて使用する必要があり、製品にもその旨の注意書きがされている。しかし、エアゾール製品を使用するため、作業場だけでなく風下にも気化した炭化水素が流れ、そこにいる人が吸入する危険性は残っており、改善が求められていた。
【0009】
また、作業時に洗浄剤組成物を掛け流したりエアゾール製品を勢いよく噴射させるなどすると、作業者の手袋や衣服に引火性が高い上記洗浄剤組成物が多量に染みこむことがある。また、作業者の手袋、作業着に付着した油汚れを落とすために上記洗浄剤組成物を多量に染みこませることがある。しかし、上記洗浄剤組成物は引火性が高いため、その後の乾燥が不十分であると、静電気やタバコの火による発火事故が生じる危険性が生じる。そこで、作業環境における確実な安全性を確保する上でも、それらの引火性の高い成分の使用を避けるよう、改善が求められていた。
【0010】
引火点を持たない溶剤として一般的に良く知られているものにハロゲン系の溶剤があるが、塩素系、臭素系はその有害性から製造や使用に制限があり、洗浄剤組成物への使用は困難を伴う。そこで、保管量や安全性確保の問題を解決する一案として、炭素数の長い石油系炭化水素を用いた高引火点の製品や洗浄成分として、カルビトール、アルコールなどを含む水系の製品が提案されている(特許文献1を参照)。
【0011】
しかしながら、上述した水系組成物は、乾燥に30~40分もの時間を要するなど、乾燥性が非常に悪く遅い(特許文献1を参照)。そのため、それら水系組成物を洗浄剤組成物として用いると、使用後にブレーキ廻りに水系組成物の液が残留しやすくなり、液が残留したままにブレーキを使用してしまうとブレーキ制動力が下がるといった重大な影響を及ぼすことに繋がる。そのため、上述した水系組成物を用いる作業工程は、洗浄後に十分な乾燥を行うことが必須とされ、煩雑であり、改善が求められていた。またさらに、水系であることから、従来のブレーキクリーナー用洗浄剤組成物に比して洗浄性に劣り、汚れの種類によっては必ずしも十分な洗浄性能を有していないために使用場面に制限があり、より汎用性を高めるものとなるよう、改善が求められていた。
【0012】
ところで、金属材料の洗浄に利用し得る溶剤としては、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのようなハイドロフルオロオレフィン系の溶剤であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤が知られている。しかしながら、このHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、金属材料に対する洗浄性を有するものの、金属材料以外の素材である樹脂やエラストマーに対して、強い浸食性を有していることが知られている(非特許文献1)。そのため、このようなHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、それを使用する場面を十分に精査する必要がある。
【0013】
特に、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関における各種制動装置、ライト、窓などの、安全性を高く保つことが求められる重要部品には、金属材料が汎用されているが、それら金属材料に加えて、通常は、ポリカーボネート、アクリル、ABS、ポリスチレン、シリコーンゴム、天然ゴム、HNBR、NBR、フッ素ゴムおよびウレタンゴムなどの各種の樹脂やエラストマーからなる素材も、同時に使用されている。例えば、ブレーキは、ブレーキフルードの油圧により制御し、そのブレーキフルードは、一般的に装置間を連結するゴムホース内に満たされている。
【0014】
しかし、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤が樹脂やエラストマーに触れてしまうと、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤が有する強い浸食性により、安全性を高く保つことが求められる重要部品における樹脂やエラストマーが変質するなどの重大な不具合が生じる。特に、上記車両・乗物・輸送機関における重要部品においても汎用されるポリカーボネートは失透し、アクリル、ABS及びポリスチレンは溶解し、シリコーンゴム、天然ゴム、HNBR、NBR、フッ素ゴム及びウレタンゴムは膨潤してしまうため(非特許文献1)、安全性低下が懸念されることとなる。
【0015】
また、洗浄用組成物として用いる場合には、洗浄しようとする箇所を洗浄用組成物で十分に湿潤させて洗い流すことを要するが、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤は低沸点であるため乾燥性が非常に高く、湿潤させて洗い流す工程には適していない。湿潤させるようにすると過剰な量のHFO系の不燃性フッ素系溶剤により、重要部品における樹脂やエラストマーに触れることにより安全性低下が懸念される。
【0016】
また、フッ素系溶剤としては、アルコキシフルオロアルケンであるメトキシパーフルオロヘプテンや、その異性体混合物であるオプテオンTMSF10(旧名称:バートレル(登録商標)スープリオン)(三井・デュポンフロロケミカル株式会社)がある。このオプテオンTMSF10は、フッ素グリースを用いる潤滑剤の溶媒に好適に利用されるが(特許文献2)、自動車、二輪自動車、建機、農機、航空機、鉄道車両、鉄道車両などの各種車両におけるブレーキ関連部品などにおいて、それら潤滑成分が塗布・コーティングされる状況を作ることで、摩擦係数を低下させて制動力を大きく低下させるようなことは行われない。
【0017】
【文献】特開2001-207199号公報
【文献】特開2017-115099号公報
【文献】1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力 次世代フッ素系溶剤 セントラル硝子株式会社 カタログ発行年月 2015年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、不燃性であるため、引火の危険性が低く、火災時のリスクが低く、消防法上の非危険物に該当し、危険物倉庫が不要で、大量使用する洗浄剤組成物の保管量に法的な制限がなく、さらに、毒性が低く、オゾン層破壊などの環境負荷が小さいという特性を有し、さらに、従来の洗浄剤組成物と同等の洗浄性、乾燥性を有しつつも、従来の洗浄剤組成物よりもゴムや樹脂に対するアタック性が極めて低い、新たな洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物を提供することである。
【0019】
洗浄剤組成物は、汚れ成分を湿潤させて洗い落とす作業に用いられることから、その使用量および保管量が多くなる。そのため、通常の使用環境及び保管環境の温度条件下において引火点を有さず、かつ燃焼範囲のない溶剤を選定することで、引火による火災のリスクを大きく低減させることが要請されている。
【0020】
また、洗浄においては、洗浄剤組成物で汚れ成分を湿潤させて洗い落とすことが要求される。そこで、洗浄用組成物を、塗布や浸漬させて使用する溶液として提供するだけではなく、洗浄剤組成物と噴射ガスとを含有するエアゾール組成物としても提供できるものとし、洗浄時の扱いを簡便にするとともに、気体圧力を利用して汚れを物理的に除去しやすくする必要がある。なお、エアゾール組成物として提供する場合には、作業者が吸引するリスクが高まるため、洗浄剤組成物には、より毒性の低い溶剤を選定することが要請されている。
【0021】
そして、高引火点の製品や水系の製品では達成していない従来製品と同等もしくはそれ以上の洗浄性を有し、適度な乾燥性が実現されることが要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願の発明者は、上記課題を解決する新たな洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物を提供するため、様々な化合物や組成物が有する物性を確認し、その洗浄性を調査する作業を進めていた。その中で、強い浸食性により、安全性を高く保つことが求められる自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関などの重要部品や、作業者が用いる工具、作業場、ピット、工場などにおいて用いられる樹脂やエラストマーが、変質、失透、溶解するなどの重大な不具合が生じることが知られたHFO系の不燃性フッ素系溶剤に、各種車両・乗物・輸送機関二用いられる油脂類との高い相溶性を有しないことが今回明らかとなったアルコキシフルオロアルケンの一例としてのメトキシパーフルオロヘプテンの異性体混合物を加えた組成物としたところ、驚くことに、樹脂やエラストマーが変質、失透、溶解することがなくなるとともに、適度な乾燥性を保持できるものが得られるなど、従来よりも優れた洗浄用組成物としての特性を発揮し、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関や工具、作業場、ピット、工場の洗浄に用いる新たな洗浄用組成物としての特性を発揮することを見出した。そして、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとの組合せをさらに詳細に検討することで、本願の新たな洗浄用組成物およびそのエアゾール組成物の発明を完成させた。
【0023】
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、上記洗浄剤組成物が、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関、工具、作業場、ピット、工場の洗浄に用いるためのものであることを特徴とする洗浄剤組成物である。
【0024】
上記の課題を解決するための本発明の第2の手段は、上記洗浄剤組成物が、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関のブレーキクリーナー用であることを特徴とする、本発明の第1の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0025】
上記の課題を解決するための本発明の第3の手段は、上記HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとの質量比(HFO系の不燃性フッ素系溶剤/アルコキシフルオロアルケン)の範囲が99/1~1/99であることを特徴とする、本発明の第1または第2の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0026】
上記の課題を解決するための本発明の第4の手段は、上記HFO系の不燃性フッ素系溶剤が、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、および1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3-トリクロロ-3-フルオロプロペン、AMOLEA(登録商標) AS-300から選択される1つまたはそれ以上であることを特徴とする、本発明の第1~第3の何れか1の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0027】
上記の課題を解決するための本発明の第5の手段は、上記アルコキシフルオロアルケンが、アルコキシパーフルオロアルケンであることを特徴とする、本発明の第1~第3の何れか1の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0028】
上記の課題を解決するための本発明の第6の手段は、上記アルコキシフルオロアルケンのアルコキシ基が、メトキシ基もしくはエトキシ基であるアルコキシフルオロアルケンまたはアルコキシパーフルオロアルケンを含むものであることを特徴とする、本発明の第1~第3の何れか1の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0029】
上記の課題を解決するための本発明の第7の手段は、アルコキシフルオロアルケンが、炭素数5以上8以下のアルコキシフルオロアルケンであることを特徴とする、本発明の第1~第3の何れか1の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0030】
上記の課題を解決するための本発明の第8の手段は、上記アルコキシフルオロアルケンが、メトキシパーフルオロペンテン、メトキシパーフルオロへキセン、メトキシパーフルオロヘプテン、もしくはメトキシパーフルオロオクテン、または、エトキシパーフルオロペンテン、エトキシパーフルオロへキセン、エトキシパーフルオロヘプテン、もしくはエトキシパーフルオロオクテン、またはそれらの異性体混合物を何れか1つ以上を含むものであることを特徴とする、本発明の第1~第3の何れか1の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0031】
上記の課題を解決するための本発明の第9の手段は、上記アルコキシフルオロアルケンが、メトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物であることを特徴とする、本発明の第1~第3の何れか1の手段に記載の洗浄剤組成物である。
【0032】
上記の課題を解決するための本発明の第10の手段は、本発明の第1~第9の手段のいずれか1の手段に記載の洗浄剤組成物と噴射ガスとを含有するエアゾール組成物である。
【0033】
上記の課題を解決するための本発明の第11の手段は、上記噴射ガスが、N、CO、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、アルゴン、LPG、DMEまたは圧縮空気であることを特徴とする、本発明の第10の手段に記載のエアゾール組成物である。
【0034】
上記の課題を解決するための本発明の第12の手段は、上記噴射ガスが、Nであることを特徴とする、本発明の第11の手段に記載のエアゾール組成物である。
【0035】
上記の課題を解決するための本発明のその他の手段は、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有してなることを特徴とする洗浄剤組成物である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の手段の洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物は、その主要成分として配合されるHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとが、いずれも引火点がなく、不燃性である。そのため、それらの洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物使用環境における引火の危険性および火災時のリスクが低い。そして、この主要成分であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンは、いずれも消防法上の非危険物に該当することから、危険物倉庫が不要で、大量使用する洗浄剤組成物の保管量に法的な制限がない。また、上記各成分は、いずれも毒性が低く、オゾン層破壊などの環境負荷が小さいため、人体や環境に配慮された製品となる。その上、本発明の手段の洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物は、従来のブレーキクリーナーに遜色のない洗浄性を備えつつも、従来のブレーキクリーナーよりもゴムや樹脂に対するアタック性が極めて低いという、優れた特性を発揮するものとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を実施するための最良の形態について、以下に表を参照して、本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物について説明する。
【0038】
<主要成分について>
本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物の主要成分について説明する。本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物には、HFO系の不燃性フッ素系溶剤と、アルコキシフルオロアルケンとの2成分を含有させるものとする。
【0039】
上記HFO系の不燃性フッ素系溶剤は、樹脂およびエラストマーの変質、失透または溶解などを生じさせる(非特許文献1)ため、樹脂およびエラストマーを用いたものの洗浄剤の成分として、そのまま用いることは好ましくない。また、上記アルコキシフルオロアルケンは、フッ素グリースを用いる潤滑剤の溶媒に好適に利用され(特許文献2)、自動車、二輪自動車、建機、農機、航空機、鉄道車両、鉄道車両などの各種車両におけるブレーキ関連部品などにおいて、それら潤滑成分が塗布・コーティングされる状況を作ることは避けられる。
【0040】
ところが、そのような洗浄剤組成物に配合する成分としては不適であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤を、潤滑剤の溶媒に好適に利用されるアルコキシフルオロアルケンと共に含有させたものとすると、予想外にも、樹脂およびエラストマーに対する変質、失透、溶解などの影響を生じさせることがなくなるとともに、従来の洗浄剤組成物よりもより幅広く優れた洗浄特性を有し、かつ、適度な乾燥性を発揮させることができる組成物となった。そこで、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを主要な成分として共に含有させたものとすることで、各種の安全性を保持しつつ、より幅広い種類の素材に対して利用できる優れた特性を備えた、新たな洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物の提供が可能となった。
【0041】
<HFO系の不燃性フッ素系溶剤について>
上述した本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物には、必須となる2成分のうちの一方の成分として、ハイドロフルオロオレフィン系の溶剤であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤を含有するものとする。HFO系の不燃性フッ素系溶剤としては、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3-トリクロロ-3-フルオロプロペン、AMOLEA(登録商標) AS-300などの不燃性の溶剤を用いることができる。これらHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、市販されているものを入手するなどして利用することができる((Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233Z)(セントラル硝子株式会社,日本)、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(マトリクスサイエンティフィック、米国)、AMOLEA(登録商標) AS-300(AGC株式会社、日本)など)。
【0042】
上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、引火点がなく爆発限界試験方法ASTM E681による燃焼範囲もない、不燃性の溶剤である。また、オゾン層破壊係数ODPが低く、もしくは実質的にゼロで地球温暖化係数GWPが<1など、環境性に配慮された化学的性質を有している。そのため、オゾン層保護法、地球温暖化対策推進法、フロン排出抑制法、消防法、高圧ガス保安法などにおいて特定される成分には該当せず、その利用に特別な制限がかかるものではない。保管にあたり危険物倉庫が不要で、保管量に法的な制限がない。
【0043】
その一方で、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、樹脂に対する侵襲性を有している。そのため、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤、例えば、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンや1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが軟質のポリ塩化ビニル(PVC)樹脂やフェノール樹脂に作用すると該樹脂が変質し、樹脂製品の重量や寸法に変化が生じる。また、ポリカーボネートの樹脂に作用すると、該樹脂を白化・失透させてしまう。さらに、アクリル(PMMA)樹脂、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合合成樹脂であるABS樹脂やポリスチレン樹脂に作用すると、それらの樹脂を軟化させたり溶解してしまうこととなる。このように、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、樹脂材料との適合性が悪い。
【0044】
また、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、各種のエラストマーに対しても侵襲性を有している。そのため、HFO系の不燃性フッ素系溶剤、例えば、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンや1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンがSBR、クロロプレンゴム、ブチルゴム、EPDMおよびCSMに作用すると、それらエラストマーが変質して重量や寸法に変化が生じる。また、シリコーンゴム、天然ゴム、HNBR、NBR、フッ素ゴムおよびウレタンゴムに作用すると、それらエラストマーが膨潤してしまう。このように、HFO系の不燃性フッ素系溶剤は、そのままでは、エラストマーとの適合性が悪い。
【0045】
しかし、上述したHFO系の不燃性フッ素系溶剤が有する樹脂適合性の悪さや乾燥性の高さといった自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関などに用いる洗浄剤組成物に不適切な特性は、予想外にも、洗浄剤組成物とするには不適切な他の特性を有するアルコキシフルオロアルケンを共に含有させることにより解消され、より優れた洗浄剤組成物が提供される。
【0046】
<アルコキシフルオロアルケンについて>
上述した本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物は、必須となる2成分のうちの他方の成分として、アルコキシフルオロアルケンを含有するものとする。
【0047】
ここで、「アルコキシフルオロアルケン」とは、アルコキシ基、および二重結合を有するフッ素化オレフィンを意味する。アルコキシフルオロアルケンにはアルコキシパーフルオロアルケンが包含される。ここで、「アルコキシパーフルオロアルケン」は、アルコキシル基を有するパーフルオロアルケンを意味する。アルコキシフルオロアルケンのアルコキシル基は、炭素数1以上5以下のものが包含され、好ましくは、炭素数1または2であるメトキシまたはエトキシ基のものが用いられる。また、パーフルオロアルケンは、二重結合を1つ有する炭化水素において、水素原子が全てフッ素で置換された化合物を意味し、炭素数が2以上10以下のものが包含され、好ましくは炭素数が5以上8以下のものが包含される。これらのアルコキシパーフルオロアルケンには、メトキシパーフルオロペンテン、メトキシパーフルオロへキセン、メトキシパーフルオロヘプテン、もしくはメトキシパーフルオロオクテン、または、エトキシパーフルオロペンテン、エトキシパーフルオロへキセン、エトキシパーフルオロヘプテン、もしくはエトキシパーフルオロオクテンが包含される。そして、例えば、メトキシパーフルオロヘプテンの構造としては、以下のものが挙げられるが、何れの構造のものでも良く、これらの混合物であっても良い。
CF3(CF22CF=CFCF(OCH3)CF3
CF3(CF2)CF=CF(CF22(OCH3)CF3
CF3(CF2)CF=CFCF(OCH3)CF2CF3
CF3CF=CFCF(OCH3)(CF22CF3
CF3CF=CFCF2CF(OCH3)CF2CF3
CF3(CF2)CF=C(OCH3)(CF22CF3
【0048】
上記アルコキシフルオロアルケンには、メトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物が包含される。このメトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物は、引火点がなく、燃焼点(下限)並びに燃焼点(上限)が共に非検出の、不燃性である。消防法上の非危険物に該当し、危険物倉庫が不要で、保管量に法的な制限がない。
【0049】
その一方で、メトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物は、下記に開示される試験例に記載するように、自動車等のブレーキ周りで汎用されるグリース、エンジンオイル、ブレーキオイルなどの油脂への相溶性を有しない。
【0050】
しかし、このメトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物が有する、優れた溶媒として潤滑剤を構成するという特性や、油脂類や溶剤との高い相溶性を持たないという洗浄剤組成物に不適切な特性は、予想外にも、各種車両・乗物・輸送機関などに用いる洗浄剤組成物とするには不適切な他の特性を有するHFO系の不燃性フッ素系溶剤を共に含有させることにより解消され、より優れた洗浄剤組成物が提供される。
【0051】
本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物におけるアルコキシフルオロアルケンとしては、好ましくは、メトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物を用いるものとする。そして、たとえば、アルコキシフルオロアルケンであるメトキシパーフルオロヘプテンの異性体混合物としては、オプテオンTMSF10(旧名称:バートレル(登録商標)スープリオン)(三井・デュポンフロロケミカル株式会社)を用いることができる。
【0052】
オプテオンTMSF10は、不燃性フッ素系溶剤として、三井・デュポンフロロケミカル株式会社より市販されているものを入手し利用することができる。この溶剤は、引火点(TCC,COC)がなく、燃焼範囲もない、不燃性の溶剤である。消防法上の非危険物に該当し、危険物倉庫が不要で、保管量に法的な制限がない。オゾン層破壊係数(ODP)は0で、地球温暖化係数(GWP)も10未満となっている。
【0053】
<HFO系の不燃性フッ素系溶剤と、アルコキシフルオロアルケンとの質量比について>
本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物においては、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の洗浄や、作業者の使用した工具、作業場、ピット、工場の洗浄に用いることを考慮すると、溶剤がそもそも不燃性であるという特性に加え、さらに、樹脂やエラストマーに対する侵襲性をより低くし、油脂類などへの相溶性をより高め、かつ、金属、樹脂及びエラストマーなどの様々な素材からなる部材に対するより優れた洗浄性と、適度な乾燥速度をもたらすものとなるよう、含有される二成分であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤と、アルコキシフルオロアルケンとの質量比の範囲を調節することが好ましい。
【0054】
そして、樹脂やエラストマーに対するより低い侵襲性、より高い油脂類などへの相溶性、金属、樹脂及びエラストマーなどの様々な素材からなる部材に対する優れた洗浄性と適度な乾燥速度を有するといった優れた特性を複数あわせ持つようにするため、本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物において含有される二成分であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤と、アルコキシフルオロアルケンとの質量比の範囲は、99/1~1/99とする。洗浄対象となる油脂類の種類と、侵襲の抑止対象となる洗浄対象部位やその周辺部位において併用される樹脂及びエラストマーの種類とに合わせて、HFO系の不燃性フッ素系溶剤と、アルコキシフルオロアルケンとの質量比の範囲を、それぞれ調節した洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物を提供することができる。
【0055】
例えば、本発明の手段の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物において含有される二成分が、HFO系の不燃性フッ素系溶剤が(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、アルコキシフルオロアルケンがメトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物とである場合には、その質量比(HFO系の不燃性フッ素系溶剤/アルコキシフルオロアルケン)の範囲は、99/1~1/99とし、好ましくは99/1~10/90、より好ましくは90/10~20/80とすることができるが、対象となる顧客の利用状況に適合したものとなるよう、溶解させようとする油脂の種類や、侵襲から防御すべき樹脂やエラストマーの種類に合わせ、また、コストのバランスを考慮しながら、上記質量比の範囲の中から好適なものを選択して用いても良い。それにより、樹脂やエラストマーに対するより低い侵襲性、より高い油脂類などへの相溶性、金属、樹脂及びエラストマーなどの様々な素材からなる部材に対する優れた洗浄性と適度な乾燥速度を有するといった優れた特性を複数あわせ持つようにすることが可能となり、洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物として好適に使用できるものとなる。
【0056】
<他の成分について>
本発明の手段の洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物は、上述した洗浄剤組成物としての主要な2成分に加えて、さらに必要に応じて、引火の危険性や火災時のリスクを高めない程度において配合されたものとしてもよい。上記追加成分が配合されたものとする場合には、洗浄剤組成物としての不燃性または消防法における非危険物としての特性を保持しながらも、主要な2成分により達成される、HFO系の不燃性フッ素系溶剤そのものが保持する樹脂やエラストマーに対する侵襲性を低減し、かつ、油脂成分に対する洗浄性と適度な乾燥速度を保持するという特性を保持できる範囲内において配合されたものとする。この配合される成分としては、アルコール類、飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、安定剤、キレート剤などを挙げることができ、例えば、3MTM NOVECTM7200、3MTM NOVECTM7300などのHFE系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソヘキサンなどの炭化水素系溶剤、アセトン、MEK、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチル エーテルアセテートなどのエステルおよびグリコールエステル系溶剤、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシメチルブタノール、ヘキシルジグリコールなどのエーテル及びグリコールエーテル系溶剤、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグライム系溶剤、HCFC-141b、HCFC-225、1-ブロモプロパン、クロロホルムなどの塩素系溶剤、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどの特殊溶剤、γ-ブチロラクトン、1,3-ジオキソラン、ジメチルスルホキシドなどのその他の溶剤が配合されたものとすることができる。
【0057】
<エアゾール組成物について>
エアゾール組成物における噴射ガスとしては、液化ガスや圧縮ガスを使用することができる。例えば、LPG(液化石油ガス)、DME(ジメチルエーテル)、炭酸ガス、フロン系ガス、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、窒素ガス、アルゴンなどの希ガス、圧縮空気などのガスやLPGとDMEの混合物、LPGと炭酸ガスとの混合物などといった上記のガスを二種以上組み合わせたものをあげることが出来る。そして、本発明の手段の洗浄剤組成物と上記の噴射ガスを混合してエアゾール組成物とし、耐圧缶に充填して提供することが出来る。
【0058】
<使用方法について>
本発明の手段の洗浄剤組成物の溶液は、洗浄対象となる自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両・乗物・輸送機関の金属、樹脂及びエラストマーなどの様々な素材からなる部材や、作業者の使用した工具、作業場、ピット、工場に塗布して用いたり、それらの洗浄対象を洗浄剤組成物の溶液に浸漬させて用いることができる。また、本発明の手段の洗浄剤組成物を噴射ガスとなる液化ガスと混合したエアゾール組成物を耐圧缶に充填してエアゾール化させ、または、本発明の手段の洗浄剤組成物をペール缶に入れ、使用する作業場に移動式小型充填機を設置し、圧縮空気によりペール缶に入れた洗浄剤組成物をエアゾール化させ、洗浄対象となる金属や樹脂及びエラストマーなどの様々な素材からなる部材に、エアゾールとして吹き付けて用いることができる。
【実施例
【0059】
以下に、本発明の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物を製造し使用した例を、実施例及び試験例として示す。
【0060】
<試験用サンプルについて>
試験用サンプルを調製するため、本発明の洗浄剤組成物に用いる成分と、従来の洗浄剤とを、購入する。
本発明の洗浄剤組成物に用いる成分であるHFO系の不燃性フッ素系溶剤としては、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである1233Z(セントラル硝子株式会社,日本)および1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(マトリクスサイエンティフィック、米国)を購入した。さらに、AGC株式会社(日本)よりAMOLEA(登録商標) AS-300の供給を受けた。また、アルコキシフルオロアルケンの一例として、メトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物を用いることとし、その一例として、オプテオンTMSF10(旧名称:バートレル(登録商標)スープリオン)(三井・デュポンフロロケミカル株式会社)を購入した。
【0061】
また、従来の洗浄剤として、速乾原液としては、イソヘキサンを用いる、ブレーキ&パーツクリーナー(速乾タイプ)(神戸合成株式会社,日本)を使用し、さらに、脱脂洗浄剤としては、シクロヘキサンを用いる、脱脂洗浄剤(株式会社ホンダアクセス,日本)を、常乾原液としては、イソパラフィン系溶剤の、ブレーキクリーナーN04(スズキ株式会社,日本)を、また、トリクロロエタンを、それぞれ購入した。
【0062】
そして、上記HFO系の不燃性フッ素系溶剤と上記アルコキシフルオロアルケンとの質量比が以下のものとなるようにして、本発明のHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有してなる洗浄剤組成物である実施例1~実施例9の洗浄剤組成物を、それぞれ製造した。
【0063】
<HFO系の不燃性フッ素系溶剤/アルコキシフルオロアルケン>
・質量比(1233Z/オプテオンTMSF10)
実施例1: 90/10
実施例2: 80/20
実施例3: 70/30
実施例4: 60/40
実施例5: 50/50
実施例6: 40/60
実施例7: 30/70
実施例8: 20/80
実施例9: 10/90
・質量比(AS-300/オプテオンTMSF10)
実施例10: 90/10
実施例11: 70/30
実施例12: 50/50
実施例13: 30/70
実施例14: 10/90
【0064】
また、以下の比較例1~4を用意した。なお、速乾原液、脱脂洗浄剤、常乾原液は、いずれも燃焼性が高く、また、トリクロロエタンは有害性が高く、これらはいずれも洗浄用組成物としては問題のある特性を有している。
<従来品(可燃性)>
比較例1: 速乾原液
比較例2: 脱脂洗浄剤
比較例3: 常乾原液
比較例4: トリクロロエタン
【0065】
さらに、HFO系の不燃性フッ素系溶剤と不燃性フッ素系溶剤のメトキシパーフルオロヘプテンまたはその異性体混合物の2成分を共に配合する各実施例のものと比較するため、以下の比較例5~8を用意した。
<HFO系の不燃性フッ素系溶剤>
比較例5: 1233Zのみ
比較例6: 1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのみ
比較例7: AS-300のみ
<アルコキシフルオロアルケン>
比較例8: オプテオンTMSF10のみ
【0066】
次に、以下に示す試験例1~試験例4を実施し、本発明の手段の洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物が、従来の洗浄剤に比して優れた特性を有するものであることを、具体的に確認した。
【0067】
<試験例1:侵襲性の評価(長期接触)>
・材料および方法
試験溶液として、実施例1~14ならびに比較例1~8の溶液を用意する。
また、侵襲性を評価するため、次に示すテストピースを用意する。
ゴム:NR(天然ゴム)
:CR(クロロプレンゴム)
:SBR(スチレン・ブタジエンゴム)
:EPDM(エチレンプロピレンゴム)
(いずれも、株式会社スタンダードテストピース,日本より入手。)
樹脂:ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)
:LDPE(低密度ポリエチレン)
:PC(ポリカーボネート)
(いずれも、日本テストパネル株式会社)
【0068】
上記のゴムまたは樹脂の各テストピース(サイズ10mmx10mmx2mm)の重量を測定する。
次に、バイアル瓶に、実施例または比較例の溶液を20mLを入れ、その中に、上記のゴムまたは樹脂の各テストピース(サイズ10mmx10mmx2mm)を浸漬させ、そのバイアル瓶を、45℃に設定した恒温恒湿機(HPAV-120-40,株式会社いすゞ製作所,日本)に入れ、静置する。
バイアル瓶から各テストピースを取り出し、表面状態を観察した後、テストピースの重量および厚みを測定し、膨潤度を算出し、±5.0%の範囲内に収まるか否か確認するとともに、PCの透明度が失われないかについても確認する。
用いる溶液が少量となる場合には、使用量に比例したテストピースの大きさおよび液量にて試験を行う。
【0069】
・試験結果
上記試験を実施した結果を表1-1~表1-3に示す。
【0070】
【表1-1】
【0071】
【表1-2】
【0072】
【表1-3】
【0073】
試験例1では、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有してなる組成物が、HFO系の不燃性フッ素系溶剤が有するゴムまたは樹脂に対する侵襲性を改善していることを確認した。そして、ゴムまたは樹脂に対する非侵襲性に関する従来の洗浄剤との比較検証を行った。
【0074】
HFO系の不燃性フッ素系溶剤は、長期間に作用させた際にゴムや樹脂に対して侵襲性を有し、特に、各種車両・乗物・輸送機関などにおいて安全性を確保するために重要な装置および部品において汎用される、NR(天然ゴム)、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)を膨潤させ、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)を溶解・軟化させ、PC(ポリカーボネート)を膨潤、白化・失透させ、かつ、ひび割れさせるなど強い侵襲性を示し、それらゴムや樹脂の変質の程度は、いずれも製品としての品質が担保できなくなるものであった(表1-1)。
【0075】
また、従来の洗浄剤は、そもそも可燃性であるとともに、NR、CR、SBR、EPDMのようなゴムやABS、LDPE(低密度ポリエチレン)、PCのような樹脂に対して作用させると、強い侵襲性示し、同様に製品としての品質が担保できなくなるものであった(表1-1)。
【0076】
ところが、HFO系の不燃性フッ素系溶剤に対して、アルコキシフルオロアルケンを配合することより、驚くことに、上記のHFO系の不燃性フッ素系溶剤を使用した際に観察されていた各種ゴムや樹脂の膨潤、溶解、白化、失透、ひび割れの現象を消失させることが可能となることが明らかとなった(表1-2~表1-3)。
【0077】
各種車両・乗物・輸送機関の安全性を確保するために重要な装置および部品に汎用される各種のゴムや樹脂への侵襲性を示さないという新たな特性を有する洗浄剤組成物を作ることができる本発明は、侵襲性を有する従来の洗浄剤を置き換えるのに大変有効な手段を提供するものであることが理解される。また、本発明の手段の洗浄剤組成物は、長期に使用し続けても、ゴムや樹脂に対する侵襲性が生じる懸念が大変少ないものであることが理解される。
【0078】
また、HFO系の不燃性フッ素系溶剤は製造可能な量に限りがあるところ、本発明の手段の洗浄剤組成物は、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを混合して製造されることから、洗浄剤組成物としての供給可能量を増加させ、製品供給の滞りを防ぐ効果も有することが理解される。
【0079】
上記ゴムのうち、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)は、自動車のブレーキ液系のシール用やタイヤなどにも使用されているため、ブレーキ装置やその周辺の洗浄に用いる洗浄剤においてはSBRに対する浸食性が低いことが望まれる。また、PC(ポリカーボネート)もブレーキ装置など制御系機構において用いられる。ところが、本発明のように、HFO系の不燃性フッ素系溶剤に対して、アルコキシフルオロアルケンを配合することより、驚くことに、SBRやPCに対する浸食性の問題をも十分に減じ、それらの膨潤率を製品の品質が一定程度保持できる5%以下にまでに抑え込むことができた。
【0080】
<試験例2:侵襲性の評価(短期接触)>
・材料および方法
試験例1と同様に、上述した実施例1~14ならびに比較例1~8の溶液をそれぞれ用意する。また、短期間の侵襲性を評価するため、次に示すテストピースを用意する。
樹脂:ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)
:PC(ポリカーボネート)
(いずれも、日本テストパネル株式会社)
【0081】
上記樹脂の各テストピース(サイズ10mmx10mmx2mmに対し、実施例1~18または比較例1~8の溶液を含ませたマイクロファイバークロスで表面の拭き取りを行う。その後、各テストピース表面の外観変化を目視および接触にて確認した。外観変化が無ければ○、変化があれば×とするとともに樹脂表面の状態を記録した。
【0082】
・試験結果
上記試験を実施した結果を表2-1~表2-3に示す。
【0083】
【表2-1】
【0084】
【表2-2】
【0085】
【表2-3】
【0086】
本発明の手段の洗浄剤組成物に用いる主要成分の1つであるHFO系の不燃性フッ素系溶剤は、溶液を含ませたマイクロファイバークロスで表面の拭き取りを行うことによる短時間の接触だけでも、ABSやPCからなる樹脂を変質させてしまう(表2-1)。
【0087】
しかし、HFO系の不燃性フッ素系溶剤に対して、アルコキシフルオロアルケンを配合し、本発明の手段の洗浄剤組成物のものとすることで、そのような短時間の接触による樹脂の変質が生じなくなることが明らかとなった(表2-2~表2-3)。
【0088】
<試験例3:グリスおよびオイルへの相溶性の評価>
・材料および方法
試験例1と同様にして、試験溶液として、実施例1~14ならびに比較例1~8の溶液を用意する。
【0089】
洗浄し除去する対象となる油脂類として、次に示す、自動車等において汎用される各種グリス及びオイルを用意する。
グリス:GREASE(オレンジ)(神戸合成株式会社,日本)
:ラバー兼用ブレーキグリス(神戸合成株式会社,日本)
:ディスクブレーキ用グリス(神戸合成株式会社,日本)
:ブレーキグリス(神戸合成株式会社,日本)
:シリコングリス(神戸合成株式会社,日本)
:キャリパーピングリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
:パッド&シューグリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
:ラバーグリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
:ブレーキグリス(株式会社ホンダアクセス,日本)
オイル:エンジンオイル Mobil1 0W-20(エクソンモービル,米国)
:ブレーキフルード(DOT3)(株式会社ホンダアクセス,日本)
:ブレーキフルード(DOT4)(スズキ株式会社,日本)
【0090】
10mLバイアル瓶をそれぞれの溶液毎に用意し、上記グリスまたはエンジンオイルをそれぞれ1g入れる。そのバイアル瓶に、さらに実施例または比較例の溶液を5mL加え、バイアル瓶の蓋を閉じる。各バイアル瓶を、超音波洗浄機(AU16C、アイワ医科工業株式会社,日本)にて1時間超音波処理する。
1時間の超音波処理後に、超音波洗浄機から各バイアル瓶を取り出す。バイアル瓶の内部を確認し、グリスまたはエンジンオイルと、実施例または比較例の溶液とが、完全に混ざっていれば○、一部分離していれば△、完全に分離していれば×として、相溶性を評価する。なお、用いる溶液が少量となる場合には、使用量に比例した液量にて試験を行う。
【0091】
・試験結果
上記試験を実施した結果を表3-1~表3-3に示す。
【0092】
【表3-1】
【0093】
【表3-2】
【0094】
【表3-3】
【0095】
上記試験において用いたアルコキシフルオロアルケンは、グリスまたはブレーキオイルにほとんど相溶性を有しないことが明らかとなった(表3-1の比較例8)。このことからみて、アルコキシフルオロアルケンは、グリスまたはブレーキオイルなどの油脂成分による汚れを除去するための洗浄剤とするには不適であることが理解される。また、HFO系の不燃性フッ素系溶剤は相溶性を適度に有するものの、試験例1および試験例2の試験結果でも明らかなように樹脂やエラストマーへの侵襲性を有することから各種車両・乗物・輸送機関などに用いる洗浄剤組成物には不適である。このように、各種のHFO系の不燃性フッ素系溶剤ならびにアルコキシフルオロアルケンは、ともに各種車両・乗物・輸送機関などに用いる洗浄剤組成物に加える動機付けを欠くものである。
【0096】
ところが、上記のような車両・乗物・輸送機関の洗浄に用いえないHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを共に含有させたものとすると、驚くことにグリスまたはブレーキオイルなどの油脂成分に対する幅広い相溶性を示すこと、すなわち、それら油脂成分に対して高い洗浄性を発揮するものとなることが、今回明らかとなった(表3-2)。また、相溶性を示すHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンの質量比の範囲も幅広いものであった(表3-2~表3-3)。このことから、本発明の手段のように、洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物をHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有するものとすることにより、洗浄対象となる油脂類の種類と、侵襲の抑止対象となる洗浄対象部位やその周辺部位において併用される樹脂及びエラストマーの種類とに合わせて、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとの質量比の範囲を調節して、洗浄剤組成物を用いるシーンに適した特性の洗浄剤組成物およびそのエアゾール組成物を提供することが可能であることが理解される。
【0097】
また、従来の洗浄剤では、GREASE(オレンジ)やラバーグリスに対する相溶性が欠ける場合があった(表3-1)。ところが、表3-2に示されるように、GREASE(オレンジ)やラバーグリスにほとんど相溶性を有しないアルコキシフルオロアルケンを共に含有させることで、HFO系の不燃性フッ素系溶剤を希釈した状態にしても、それらGREASE(オレンジ)やラバーグリスに対して相溶性を示すものが、新たに得られたことが明らかとなった。
【0098】
このように、洗浄用組成物において、本願発明のようにHFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有させることにより、グリスまたはブレーキオイルに対して幅広く相溶性を発揮するようになり、不燃性および低毒性でありながら、従来のブレーキクリーナーと同等以上の優れた洗浄特性を有する新たな洗浄剤組成物が提供できるようになることが理解される。
<試験例4:洗浄剤組成物における乾燥性の評価>
・材料および方法
試験例1と同様に、上述した実施例1、3、5、7、9~14ならびに比較例1~5の溶液をそれぞれ用意する。
【0099】
恒温恒湿機(HPAV-120-40,株式会社いすゞ製作所,日本)を、45℃、25℃または10℃で湿度70%の温度条件に設定し、2cmの平皿を入れ、静置した。平皿の温度が一定になったところで、平皿に実施例1、3、5、7および9ならびに比較例1~5の溶液を100μL入れ、平皿上から各溶液の液滴が完全に揮発し、乾燥するまでの時間を目視で計測する。
【0100】
・試験結果
上記試験を実施した結果を表4-1~表4-3に示す。
【0101】
【表4-1】
【0102】
【表4-2】
【0103】
【表4-3】
【0104】
良好な作業性と安全性を確保することが要請される洗浄剤組成物においては、乾燥に要する至適の時間は、標準的には、40℃の高温環境下では1分から2分、25℃の常温環境下では2分から3分、10℃の低温環境下では3分から4分であることが好ましい。従来の洗浄剤では、このような条件を達成できているものは、速乾原液のタイプのもののみであり、その他のものは、乾燥するまでに過剰な時間を要するものであった(表4-1)。しかし、この速乾原液のタイプは、乾燥に要する時間が短いが、引火性が高く、洗浄剤組成物に要請される高い安全性を確保する観点において問題を有している。
【0105】
試験例3において明らかとなったように、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有させる本願発明の手段の洗浄剤組成物は、優れた油脂成分に対する特性を有する不燃性の洗浄剤組成物である。そこで、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを含有させた洗浄剤組成物がどのような乾燥時間を有し得るものとなるか検討した。
【0106】
その結果、HFO系の不燃性フッ素系溶剤は乾燥時間が短いものであるところ(表4-1)、共に含有させるアルコキシフルオロアルケンの一例として、メトキシパーフルオロヘプテンの異性体混合物としてオプテオンTMSF10を用いると、乾燥時間が長くなり、標準的な作業時間を確保できるものが得られることが明らかとなった(表4-2および表4-3)。また、アルコキシフルオロアルケンの配合比率を増やすと、より長い乾燥時間を有する洗浄剤組成物が得られるようになることが確認された(表4-2および表4-3)。使用場面に合わせて所望の乾燥速度のものとするように、HFO系の不燃性フッ素系溶剤やアルコキシフルオロアルケンの種類や、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとの質量比を調節できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとを洗浄剤組成物に含有させたことで、不燃性であるため、引火の危険性や火災時のリスクが低く、消防法上の非危険物に該当し、危険物倉庫が不要で、大量使用する洗浄剤組成物の保管量に法的な制限がなく、さらに、毒性が低く、オゾン層破壊などの環境負荷が小さいという特性と、従来のブレーキクリーナー用洗浄剤組成物と同等以上の洗浄性を有しつつも、ゴムや樹脂に対するアタック性が極めて低いという優れた特性を付与し、かつ、使用場面に合わせて所望の乾燥速度を有するように、HFO系の不燃性フッ素系溶剤とアルコキシフルオロアルケンとの質量比を調整した、新たな洗浄剤組成物及びそのエアゾール組成物を提供することが可能となる。