(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】自動体外式除細動器
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
A61N1/39
(21)【出願番号】P 2023579652
(86)(22)【出願日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2023030715
【審査請求日】2023-12-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521424264
【氏名又は名称】株式会社オンラインマスター
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100214514
【氏名又は名称】鳴村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】千葉 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】北角 権太郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 邦彦
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-534107(JP,A)
【文献】特表2004-533310(JP,A)
【文献】特開2022-182029(JP,A)
【文献】特開2022-182010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング制御信号に従ったデューティ比でスイッチング動作を行うことにより、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路が変換した交流電圧を昇圧するトランスと、
前記トランスにより昇圧された電圧を整流する整流回路と、
前記整流回路の出力電圧に基づいた電気ショックを被救護者に印加する電極と、
前記インバータ回路に前記スイッチング制御信号を供給して、
前記インバータ回路のスイッチング動作のデューティ比を制御することで、前記インバータ回路から前記トランスに供給される電気エネルギーを制御するデューティ比制御手段と、
を備える自動体外式除細動器。
【請求項2】
被救護者に印加する電気ショックの電圧波形に対応して、時間の経過に対するデューティ比の変化を表すデータを記憶する記憶部を備え、
前記デューティ比制御手段は、前記記憶部に記憶されているデータに従って、前記インバータ回路のスイッチング動作のデューティ比を制御する、
請求項1に記載の自動体外式除細動器。
【請求項3】
前記記憶部は、被救護者に印加する電気ショックの複数の電圧波形のそれぞれに対応して、時間に対するデューティ比の変化を表すデータを記憶し、
複数の電圧波形のうちの1つを選択する選択手段をさらに備え、
前記デューティ比制御手段は、前記選択手段により選択された電圧波形に対応するデータに従って、前記インバータ回路のデューティ比を制御する
、
請求項2に記載の自動体外式除細動器。
【請求項4】
被救護者に装着された前記電極間のインピーダンスを測定する測定手段と、
印加電圧の基本波形を記憶する手段と、
を備え、
前記デューティ比制御手段は、前記測定手段により測定されたインピーダンスに基づいて、前記基本波形を補正して、補正された
基本波形に基づいて、
前記インバータ回路に前記スイッチング制御信号を供給して、前記インバータ回路のスイッチング動作のデューティ比を制御することで、前記インバータ回路から前記トランスに供給される電気エネルギーを制御する、
請求項
1に記載の自動体外式除細動器。
【請求項5】
前記記憶部に記憶された時間に対するデューティ比の変化を示すデータを更新する手段をさらに備える、
請求項2又は3に記載の自動体外式除細動器。
【請求項6】
前記整流回路の出力電圧を、極性制御信号に従って、順方向あるいは反転して前記電極に印加する極性反転回路と、
前記極性反転回路に前記極性制御信号を送信して、印加対象の電気ショックの電圧波形に応じた極性の電圧を前記電極に印加させる極性制御手段と、
をさらに備える請求項1又は2に記載の自動体外式除細動器。
【請求項7】
被救護者に印加する電気ショックの電圧波形に対応する印加電圧の極性を示すデータを記憶する記憶部を備え、
前記極性制御手段は、前記記憶部に記憶されているデータに従って、前記極性反転回路を制御する
、
請求項
6に記載の自動体外式除細動器。
【請求項8】
前記整流回路の出力する電圧を平滑化する平滑回路をさらに備える、
請求項1又は2に記載の自動体外式除細動器。
【請求項9】
前記デューティ比制御手段は、予め定めた時間間隔で複数回の前記インバータ回路を駆動することにより、複数の電圧パルスを生成する、
請求項1又は2に記載の自動体外式除細動器。
【請求項10】
前記電極は、針状、パッド状、又は、はさみ状の形状を有し、被救護者に装着される、
請求項1又は2に記載の自動体外式除細動器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動体外式除細動器に関する。
【背景技術】
【0002】
被救護者のけいれんした心臓に高電圧パルスによる電気ショックを与えることで除細動を行い正常な拍動を促す除細動器として、自動体外式除細動器(AED;Automated External Defibrillator)が普及している。従来のAEDは、比較的大型の機器であり、駅、公共施設、商業施設等に設置されている場合が多く、携帯は困難である。
【0003】
AEDの小型化に関する技術として特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載のAEDは、電源部の出力電圧をトランスで昇圧して高電圧パルスを発生する。特許文献1に記載のAEDは、高耐圧で大容量のコンデンサを備える必要がないため、小型化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のAEDは、電源部とトランスとの間に設けられた1個のスイッチをオン・オフする単純な仕組みトランスに電力を供給する。そのため、特許文献1に記載のAEDは、従来のAEDで生成することが可能な除細動に適した複雑な波形の高電圧パルスを生成するのは困難である。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、小型で、除細動に適した高電圧パルスを生成することができる自動体外式除細動器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る自動体外式除細動器は、
スイッチング制御信号に従ったデューティ比でスイッチング動作を行うことにより、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路が変換した交流電圧を昇圧するトランスと、
前記トランスにより昇圧された電圧を整流する整流回路と、
前記整流回路の出力電圧に基づいた電気ショックを被救護者に印加する電極と、
前記インバータ回路に前記スイッチング制御信号を供給して、前記インバータ回路のスイッチング動作のデューティ比を制御することで、前記インバータ回路から前記トランスに供給される電気エネルギーを制御するデューティ比制御手段と、
を備える。
【0008】
さらに、被救護者に印加する電気ショックの電圧波形に対応して、時間の経過に対するデューティ比の変化を表すデータを記憶する記憶部を備えてもよい。この場合前記デューティ比制御手段は、例えば、前記記憶部に記憶されているデータに従って、前記インバータ回路のスイッチング動作のデューティ比を制御する。
【0009】
前記記憶部は、例えば、被救護者に印加する電気ショックの複数の電圧波形のそれぞれに対応して、時間に対するデューティ比の変化を表すデータを記憶する。この場合、複数の電圧波形のうちの1つを選択する選択手段をさらに備えてもよい。前記デューティ比制御手段は、前記選択手段により選択された電圧波形に対応するデータに従って、前記インバータ回路のデューティ比を制御する。
【0010】
被救護者に装着された前記電極間のインピーダンスを測定する測定手段と、印加電圧の基本波形を記憶する手段と、を備え、前記デューティ比制御手段は、前記測定手段により測定されたインピーダンスに基づいて、前記基本波形を補正して、補正された基本波形に基づいて、前記インバータ回路に前記スイッチング制御信号を供給して、前記インバータ回路のスイッチング動作のデューティ比を制御することで、前記インバータ回路から前記トランスに供給される電気エネルギーを制御する、ようにしてもよい。
【0011】
前記記憶部に記憶された時間に対するデューティ比の変化を示すデータを更新する手段をさらに備えてもよい。
【0012】
前記整流回路の出力電圧を、極性制御信号に従って、順方向あるいは反転して前記電極に印加する極性反転回路と、前記極性反転回路に前記極性制御信号を送信して、前記設定波形に応じた極性の電圧を前記電極に印加させる極性制御手段とをさらに備えてもよい。
【0013】
被救護者に印加する電気ショックの電圧波形に対応する印加電圧の極性を示すデータを記憶する記憶部を備えてもよい。この場合、前記極性制御手段は、前記記憶手段に記憶されているデータに従って、前記極性反転回路を制御する。
【0014】
前記整流回路の出力する電圧を平滑化する平滑回路をさらに備えてもよい。
【0015】
前記デューティ比制御手段は、予め定めた時間間隔で複数回の前記インバータ回路を駆動することにより、複数の電圧パルスを生成してもよい。
【0016】
前記電極は、針状又はパッド状の外形形状を有し、被救護者に装着されるものでよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小型化を実現し、且つ、複雑な波形の高電圧パルスを容易に生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の実施形態に係るAEDの外観の一例を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係るAEDの電極の装着位置の例を示す図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るAEDの回路ブロック図である。
【
図4】(A)~(C)は、本開示の実施形態に係るAEDが印加可能な高電圧パルスの波形の例を示す図である。
【
図5】
図3に示す高電圧生成部の回路構成の一例を示す図である。
【
図6】(A)~(D)は、
図5に示すフルブリッジインバータ回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】
図5に示す第1ドライバの回路構成の一例を示す図である。
【
図8】
図3に示す記憶部の機能的構成の一例を示す図である。
【
図9】(A)~(F)は、
図5に示す高電圧生成部の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図10】実施形態に係るAEDが実行する高電圧パルス印加処理のフローチャートである。
【
図11】
図10に示す波形テーブル生成処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図12】本開示の実施形態に係るAEDのデュアルショックモードでの高電圧パルスの波形の例を示す図である。
【
図13】本開示の実施形態に係るAEDのデュアルショックモードでのAEDの動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図14】変形例に係るAEDの外観の一例を示す図である。
【
図15】変形例に係るAEDの電極構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る自動体外式除細動器について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付す。また、以下の説明では、自動体外式除細動器をAED(Automated External Defibrillator)とも表記する。
【0020】
図1は、本開示の実施形態に係るAED1の外観の一例を示す図である。AED1は、本体部10と、一対の電極30A、30Bと、本体部10と電極30A、30Bのそれぞれとを電気的に接続するケーブル40A、40Bと、を備える。
【0021】
AED1を使用する際には、
図2に示すように、電極30A及び電極30Bを、被救護者の右胸付近及びわき腹付近に挿しそれぞれ装着する。なお、電極30A及び30Bの装着位置は、
図2の例に特に限定されず、心臓に対して対になる位置、即ち、心臓に対して電気ショックを与えることが可能な位置であれば任意である。具体的には、高電圧パルスにより生じる電流の経路が、電極30A及び30Bのうち一方から心臓を通過して他方に到達する経路を生成可能な任意の位置に、電極30A及び30Bを装着する。例えば、左肩と右肩に電極30Aと30Bを挿すことにより、個人差を低減することができる。
【0022】
図1に戻り、AED1の本体部10は、例えば、携帯端末、タブレット等と同様の携帯容易な形状とサイズを有する。本体部10の表面には、表示部11と操作部12とが設けられている。表示部11は、例えば液晶ディスプレイとその駆動回路とを含む。表示部11は、AED1の操作状態、印加対象の高電圧パルスの波形、動作モード等を示す情報が表示される。
【0023】
操作部12は、操作つまみ12a及びボタン群12bを含む。ボタン群12bは、電源ボタン、被救護者に高電圧パルスを印加することを指示する電圧印加ボタン、印加対象の高電圧パルスの波形を選択する波形選択ボタン、動作モードを選定するためのモード選定ボタン等の各種操作ボタンを含む。
【0024】
AED1の本体部10の内部には、
図3に示すように、上述した表示部11と操作部12の他に、記憶部13、制御部14、通信部15、高電圧生成部16、心電図信号取得部17、状態検出部18、電源部19,及び音声出力部20が設けられている。
【0025】
電源部19は、出力電圧V1が100~110Vボルト程度の直流電源を含む。この直流電源は、例えば、半固体リチウム蓄電池を複数個直列に接続して構成される。電源部19は、高電圧生成部16に直流電力を供給する。なお、
図3では図示が省略されているが、電源部19は、高電圧生成部16以外の各部にも接続されており、これら各部に動作用の電力を供給する。
【0026】
高電圧生成部16は、制御部14の制御に従って、電源部19の出力電圧を昇圧すると共に昇圧電圧を調整して、電極30Aと電極30Bとの間に、被救護者に印加する高電圧パルス(より具体的には、電極30Aと電極30Bとの間の電位差)を発生させる。この高電圧パルスは、除細動に適した波形を有している。本実施形態では、操作者が操作部12を操作することにより、発生させる高電圧パルスの波形を、
図4(A)に示す単相性(Monophasic)波形、二相性波形である
図4(B)に示すBTE波形、および、
図4(C)に示すRLB波形、の中から設定することができる。以下の説明では、印加対象として現在設定されている高電圧パルスの波形を「設定波形」とも表記する。
【0027】
ここで、高電圧生成部16の回路構成の一例を
図5に示す。なお、
図5は主要な回路構成のみを示しており、グランド接続部分等は適宜省略している。高電圧生成部16は、フルブリッジインバータ回路161と、第1ドライバ162と、トランス163と、整流平滑回路164と、極性反転回路165と、第2ドライバ166と、を備える。
【0028】
フルブリッジインバータ回路161は、ブリッジ回路の4辺を構成する4個のスイッチング素子Q1~Q4を備える。スイッチング素子Q1~Q4は、それぞれ、MOSFET、IGBT等から構成される。以下の説明では、スイッチング素子Q1~Q4が、NチャネルMOSFETから構成されているとする。スイッチング素子Q1とQ3の電流路の一端(ドレイン)は、電源部19の正極端子に接続されている。また、スイッチング素子Q2とQ4の電流路の一端(ソース)は、電源部19の負極端子に接続されている。スイッチング素子Q1の電流路の他端(ソース)とスイッチング素子Q2の電流路の他端(ドレイン)との接続ノードN1は、トランス163の一次巻線163aの一端に接続されている。スイッチング素子Q2の電流路の他端(ソース)とスイッチング素子Q4の電流路の他端(ドレイン)との接続ノードN2は、トランス163の一次巻線163aの他端に接続されている。
【0029】
スイッチング素子Q1とQ4のゲートには、第1ドライバ162から、スイッチング制御信号S1が印加され、スイッチング素子Q2とQ3のゲートには、第1ドライバ162から、スイッチング制御信号S2が印加される。
【0030】
スイッチング素子Q1とQ4は、スイッチング制御信号S1がハイレベルのときにオンする。このとき、電流が、電源部19の正極端子→スイッチング素子Q1→接続ノードN1→トランス163の一次巻線163a→接続ノードN2→スイッチング素子Q4→電源部19の負極端子、と流れる。一方、スイッチング素子Q2とQ3は、スイッチング制御信号S2がハイレベルのときにオンする。このとき、電流が、電源部19の正極端子→スイッチング素子Q3→接続ノードN2→トランス163の一次巻線163a→接続ノードN1→スイッチング素子Q2→電源部19の負極端子、と流れる。
【0031】
図6(A),(B)に示すように、スイッチング制御信号S1とS2を交互にハイレベルにする処理を繰り返すことにより、スイッチング素子Q1とQ4の組とスイッチング素子Q2とQ3の組が交互に繰り返してオンする。これにより、
図6(C)に示すように、トランス163の一次巻線163aに交流電圧が印加される。一次巻線163aに印加される電圧は、おおよそ-V1~+V1となる。これにより、
図6(D)に示すように、一次巻線163aに交流の一次電流I
inが流れる。一次電流I
inの実効値は、スイッチング素子Q1~S4のオン・オフの周期λに対するオン期間PW1又はPW2の割合、即ち、デューティ比(PW1/λ)及び(PW2/λ)で定まる。従って、デューティ比(PW1/λ),(PW2/λ)を調整することにより、即ち、スイッチング素子Q1~Q4のスイッチング動作をPWM制御することにより、トランス163に供給される電気エネルギーの量を調整することができる。なお、スイッチング素子Q1とQ4の組のオン期間PW1とスイッチング素子Q2とQ3の組のオン期間PW2とは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0032】
スイッチング素子Q1~Q4には、パルス状の瞬時大電流が流れる。このため、例えば、300A程度のパルス状の瞬時電流を許容し、且つ、高速スイッチングが可能な大型のSi-MOSFETを使用することが望ましい。
【0033】
図5に示すトランス163は、一次巻線163aと二次巻線163bを含む。一次巻線163a及び二次巻線163bは、フェライト等で形成されたコア(鉄心)に巻回されている。一次巻線163aの一端は、フルブリッジインバータ回路161の接続ノードN1に接続され、一次巻線163aの他端は、接続ノードN2に接続されている。二次巻線163bの一端は、トランス163の出力端子T1に接続されており、二次巻線163bの他端は、トランス163の出力端子T2に接続されている。
【0034】
一次巻線163aの巻き数は、比較的少なく、例えば、10回程度、二次巻線163bの巻き数は、例えば、100~200程度とすることが望ましい。この場合、一次巻線163aと二次巻線163bの巻き数比NRは、1:10~1:20である。この例では、一次巻線163aの巻き数を10、二次巻線163bの巻き数を138、巻き数比をNR13.8とする。また、二次巻線163bとしては、低損失のリッツ線を使用し、巻線も太くすることが望ましい。これにより、例えば、一次巻線163aの抵抗を0.025Ω程度、二次巻線163bの抵抗を、1.93Ω程度とすることができ、生体インピーダンス(50~1000Ω)に対して、トランス163のインピーダンスを1/10以下で十分に小さい3Ω以下に抑えることができる。
【0035】
整流平滑回路164は、整流素子であるダイオードD1~D4から構成される全波整流回路164aと、平滑回路を構成する平滑コンデンサC1と、を備える。
【0036】
全波整流回路164aの入力端はトランス163の出力端子T1,T2に接続されており、出力端子T1、T2間の電圧を全波整流し、脈流電圧を平滑コンデンサC1の正極端子T3と負極端子T4の間に印加する。ダイオードD1~D4は、大電流と高周波スイッチング動作を許容するSiCショットキー型とすることが望ましい。また、耐圧を確保するため、ダイオード素子を複数個直列接続してダイオードD1~D4として使用してもよい。
【0037】
平滑コンデンサC1は、正極端子T3と負極端子T4の間に印加される全波整流後の脈流電圧を平滑化する。平滑コンデンサC1は、高耐圧で比較的小容量ものものが望ましい。例えば、耐圧1,600V、容量12μF程度のものが望ましい。平滑コンデンサC1により、出力電圧の脈動を抑圧することができる。ただし、平滑コンデンサC1を設けないで、全波整流回路164aによる整流のみを行ってもよい。
【0038】
正極端子T3と負極端子T4の間の電圧V2は、例えば、電源部19の出力電圧を110V、トランス163の巻き数比NRを13.8とすると、デューティ比で変化するが、最大でおおよそ1500V程度となり、AED1の高電圧パルスとして十分使用可能な電圧が確保される。電源電圧V1及び巻き数比NRを調整することにより、より高電圧を得ることも可能である。
【0039】
極性反転回路165は、整流平滑回路164の出力する電圧V2を、順方向にあるいは逆方向に電極30Aと30Bとの間に切り換えて印加する回路である。極性反転回路165は、フルブリッジインバータ回路161と同様の構成を有し、フルブリッジ回路の4辺を構成する4個のスイッチング素子Q5~Q8を備える。スイッチング素子Q5~Q8は、それぞれ、大電流用のSiCから形成されるNチャネルMOSFET、IGBT等から構成される。以下の説明では、MOSFETとする。
【0040】
スイッチング素子Q5とQ7の電流路の一端は、整流平滑回路164の正極端子T3に接続されている。また、スイッチング素子Q6とQ8の電流路の一端は、整流平滑回路164の負極端子T4に接続されている。スイッチング素子Q5の電流路の他端とスイッチング素子Q6の電流路の他端との接続ノードN3は、ケーブル40Aを介して電極30Aに接続されている。スイッチング素子Q7の電流路の他端とスイッチング素子Q8の電流路の他端との接続ノードN4は、ケーブル40Bを介して電極30Bに接続されている。これにより、電極30Aと30Bとの間に、電圧V2又は反対極性の電圧-V2が印加され、電気ショックを与える高電圧パルスVoutとなる。
【0041】
第1ドライバ162は、フルブリッジインバータ回路161のスイッチング素子Q1~Q4のオン及びオフを制御する駆動回路である。第1ドライバ162は、制御部14から供給されるPWM制御信号に従って、
図6(A),(B)に例示するスイッチング制御信号S1とS2の周期λとパルス幅PW1,PW2、を制御する。換言すると、フルブリッジインバータ回路161のスイッチング動作のデューティ比を制御する。
【0042】
第1ドライバ162の構成の一例を
図7に示す。
図示する例では、第1ドライバ162は、発振回路1621と複数のカウンタを含む分周回路1622備える。発振回路1621は、例えば、振動子を含み、1MHz程度のクロック信号を出力する。分周回路1622は、PWM制御信号に従って、発振回路1621から出力されるクロック信号のクロック数をカウントし、
図6に示す周期λを計測する。分周回路1622は、各周期λ内で、スイッチング制御信号S1とS2をハイレベルにする初期タイミングをそれぞれ計測し、さらに、パルス幅PW1,PW2を計測することにより、スイッチング制御信号S1、S2を出力する。これにより、スイッチング制御信号S1、S2の周期λ及びパルス幅PW1,PW2が1クロック(1μS)単位で制御される。周期λ、パルス幅PW1,PW2は、PWM制御信号により分周回路1622に随時更新して設定される。これにより、フルブリッジインバータ回路161がPWM制御され、フルブリッジインバータ回路161からトランス163に供給される電気エネルギーの量が制御される。
【0043】
第2ドライバ166は、極性反転回路165のスイッチング素子Q5~Q8のオン及びオフを制御する駆動回路である。より、詳細には、第2ドライバ166は、制御部14からの極性制御信号に応答し、例えば、
図4(A)の印加電圧及び
図4(B)、(C)の印加電圧の前半のように電極30Aに正極性、電極30Bに負極性の電圧を印加する際には、スイッチング素子Q5とQ8をオンするように、スイッチング制御信号S3をハイレベルにする。一方、
図4(B)、(C)の印加電圧の後半のように電極30Aに負極性、電極30Bに正極性の電圧を印加する際には、スイッチング素子Q6とQ7をオンするように、スイッチング制御信号S4をハイレベルにする。
【0044】
図3に示す記憶部13は、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリとを含む。不揮発性メモリには、制御部14が実行する制御プログラム及び固定データが記憶されている。揮発性メモリは、制御プログラムを実行する際のワークエリアとして制御部14によって利用される。また、揮発性メモリには、心電図信号等が一時的に記憶される。
【0045】
また、記憶部13には、
図8に示すように、波形メモリ領域131が確保されている。
波形メモリ領域131には、基本波形テーブル132,PWM制御テーブル133,極性制御テーブル134が記憶されている。
【0046】
基本波形テーブル132は、記憶部13の不揮発性の記憶領域に配置され、AED1で選択可能な高電圧パルスの基本波形、例えば、
図4(A)~(C)に示す電圧波形の波形データを記憶する。各基本波形の波形データは、電極30Aと30Bの間のインピーダンス(生体インピーダンス)が基準値Rrのときに、被救護者に印加する総エネルギーが基準値Erとなるよう設計されている。基本波形テーブル132は、不揮発性の記憶領域に保存されている。生体インピーダンスRbは、電極の形状、電極の装着位置等に応じて変化し、電極30A,30Bが、
図1に示すような針状の場合には、1000Ω程度、従来のパッド型(
図14参照)の場合には、20Ω~200Ω程度である。このため、本実施の形態では、生体インピーダンスの基準値Rrを、例えば、1000Ωとして、基準波形が設定される。
【0047】
PWM制御テーブル133と極性制御テーブル134とは、基本波形テーブル132に記憶されている基本波形を被救護者用にカスタマイズして生成されるテーブルである。PWM制御テーブル133と極性制御テーブル134とを、印加対象の高電圧パルスの波形を定義するテーブルの意味で、波形テーブル135と総称することがある。
【0048】
より詳細には、PWM制御テーブル133は、被救護者に印加する高電圧パルスについて、フルブリッジインバータ回路161に供給するスイッチング制御信号S1とS2を制御するために、経過時間ti(i=0,1,2...)とその時点での周期λとパルス幅PW1とPW2とを対応付けて格納する。換言すれば、経過時間tiにおける、フルブリッジインバータ回路161のスイッチング動作におけるデューティ比を示すデータを格納する。
【0049】
極性制御テーブル134は、被救護者に印加する高電圧パルスについて、極性反転回路165に供給するスイッチング制御信号S3とS4を制御するために、経過時間tiとその時点で印加する電圧の極性とを対応付けて格納する。
【0050】
波形テーブル135についてより詳細に説明する。
電極30Aと30Bの間の生体インピーダンスRbは、電極の形状、電極の装着位置等に応じて変化する。このため、被救護者の生体インピーダンスRbが高いときに、基本波形で定まる電圧Viを印加すると、印加エネルギーが不足してしまい、一方、生体インピーダンスRbが低いときに、基本波形で定まる電圧Viを印加すると、印加エネルギーが過大になる恐れがある。このため、電極30Aと30Bの間の生体インピーダンスRbを状態検出部18で測定し、被救護者の生体インピーダンスRbの大きさに応じて、基本波形の波形を調整して印加波形を生成し、被救護者に印加される総エネルギーEを基準値Erに一致させる。
【0051】
生体に印加されるエネルギーEは、印加電圧Vと流れる電流Iの積I・Vで表される。また、I=V/Rである。従って、印加エネルギーE=V2/Rと表される。従って、インピーダンスRがk倍になった場合には、電圧を√k倍すれば、ほぼ同一のエネルギーEを印加することができる。或いは、高電圧パルスの印加時間(継続時間)をk倍にすれば、おおよそ同一のエネルギーEを印加することができる。
【0052】
本実施形態では、実測された生体インピーダンスがRb、生体インピーダンスの基準値がRrのときには、タイミングtiでの基本波形の電圧Viを√(Rb/Rr)・Viに補正して印加波形を形成し、被救護者に印加する。
【0053】
PWM制御テーブル133は、経過時間tiのタイミングで、電圧√(Rb/Rr)・Viを生成するために必要な周期λとパルス幅PW1とPW2を格納する。換言すると、タイミングtiでのフルブリッジインバータ回路161のスイッチング動作のデューティ比を指示するPWM制御信号を格納する。
【0054】
一方、極性制御テーブル134は、経過時間tiのタイミングで、印加する電圧の極性を示すデータを記憶する。なお、正極性を示すデータは、スイッチング制御信号S3をハイレベルに設定することを指示し、負極性を示すデータは、スイッチング制御信号S4をハイレベルに設定することを指示する。
【0055】
PWM制御テーブル133と極性制御テーブル134の記憶データを具体例に基づいて説明する。
ここでは、印加対象のパルス電圧波形が、
図4(B)に例示するBTE電圧であるとする。理解を容易にするため、スイッチング制御信号S1,S2の周期λを一定とする。
【0056】
BTE電圧波形の基本電圧波形Vrの一例を
図9(A)に細い破線で示す。
ここで、状態検出部18により検出された生体インピーダンスRb/生体インピーダンスの基準値Rrが1.3であるとする。この場合、被救護者にエネルギーの基準値Erを印加するためには、基本電圧波形Vrの電圧を1.14≒√1.3=√(Rb/Rr)倍に補正した電圧波形Vaを被救護者に印加する。電圧を1.14倍に補正した電圧波形Vaを、
図9(A)に太い実線で示す(図は見やすいようにデフォルメしている)。
電圧波形Vaを得る際の、整流平滑回路164の出力電圧V2=|Va|は、
図9(B)に示す正極性の電圧波形となる。
【0057】
図9(B)に示す電圧波形|Va|を得るためには、
図9(C)、(D)に模式的に示すように、タイミングT1で、フルブリッジインバータ回路161のスイッチング動作のデューティ比を、V2=1.14Vrが得られるように設定し、以後、タイミングT1~T2の間及びT4~T5の間、基本電圧波形Vrの電圧の低下に伴ってデューティ比を徐々に減少すればよい。換言すると、スイッチング制御信号S1,S2の周期λを一定とし、タイミングT1で、フルブリッジインバータ回路161のスイッチング動作のパルス幅PW1,PW2を適切に設定し、以後、パルス幅PW1,PW2を徐々に小さくすればよい。なお、
図9(C)、(D)は、デューティ比の時間変化を例示するための模式図であり、実際の波形とは異なる。例えば、実際には、
図6(A)、(B)に示したように、スイッチング制御信号S1とS2は、位相が互いにπずれている。
【0058】
PWM制御テーブル133は、このようにして求めた、開始タイミングT0からの各経過時間tiでの、周期λとパルス幅PW1,PW2、即ち、デューティ比を示すデータをテーブル形式で格納する。データの形式は、経過時間tiと周期λとパルス幅PW1,PW2の組、周期λが固定であることを前提として経過時間tiとパルス幅PW1,PW2の組、経過時間tiとスイッチング制御信号S1とS2のデューティ比など、任意の形態を取りうる。
【0059】
さらに、
図9(A)に示すように、タイミングT0~T3の間は正極性の電圧を出力するように、極性反転回路165のスイッチング素子Q5とQ8をオンし、タイミングT3~T6の間は負極性の電圧を出力するように、スイッチング素子Q6とQ7をオンする必要がある。このため、
図9(E)、(F)に示すように、タイミングT0~T3の間はスイッチング制御信号S3をハイレベルとし、タイミングT3~T6の間は、スイッチング制御信号S4をハイレベルとする。極性制御テーブル134は、このようにして求めた、開始タイミングT0からの各経過時間tiでの、印加電圧の極性を示すデータを格納する。
【0060】
図3に示す制御部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、即ちコンピュータを含む。制御部14には、単一のコンピュータが含まれてもよく、また、複数のコンピュータが含まれてもよい。また、制御部14の一部はASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウエアを含んでもよい。
【0061】
制御部14は、記憶部13に記憶されている制御プログラムに従って作動することにより、表示部11、操作部12、記憶部13、通信部15、高電圧生成部16、心電図信号取得部17、状態検出部18、及び音声出力部20の各々の制御を行うことによって、心電図解析及び電気ショックの出力制御等を実行する。
【0062】
制御部14は、機能的な構成として波形制御部141を備える。
波形制御部141は、DSP(Digital Signal Processor)を備える。DSPは、印加対象波形(設定波形)が選定され、生体インピーダンスRbが測定されたときに、フルブリッジインバータ回路161のスイッチング動作のデューティ比を制御するためのデータと、極性反転回路165を制御するためのデータをそれぞれ求め、PWM制御テーブル133と極性制御テーブル134に格納する。
【0063】
また、波形制御部141は、PWM制御テーブル133の記憶データを参照して、PWM制御信号を生成し、生成したPWM制御信号を、第1ドライバ162に供給する。第1ドライバ162は、PWM制御信号に従って、
図6(A)、(B)、
図9(C)、(D)に例示したスイッチング制御信号S1とS2により、スイッチング素子Q1とQ4の組みと、Q2とQ3の組みを、指示されたデューティ比で交互にオン・オフする。これにより、
図6(C)に例示するように、トランス163の一次巻線163aに、デューティ比に対応する実効値を有する交流電圧が印加され、
図6(D)に例示するように、デューティ比に対応する実効値を有する交流の一次電流Iinが流れる。これにより、二次巻線163bに巻き数比NRに対応する高圧交流電圧が発生する。この高圧交流電圧は全波整流回路164aにより全波整流されて直流電圧に変換され、さらに、平滑コンデンサC1により平滑化されて、
図9(B)に例示したように出力される。
【0064】
また、波形制御部141は、極性制御テーブル134の記憶データを参照して、生成した極性制御信号を、第2ドライバ166に供給する。第2ドライバ166は、極性制御信号に応答して、
図9(E),(F)に例示したように、正極性の電圧を被救護者に印加すべき期間、スイッチング制御信号S3をハイレベルにし、負極性の電圧を被救護者に印加すべき期間、スイッチング制御信号S4をハイレベルにする。これにより、被救護者に正極性の電圧を印加すべき期間には、スイッチング素子Q5とQ8がオンして、被救護者に正極性の電圧を印加し、被救護者に負極性の電圧を印加すべき期間には、スイッチング素子Q6とQ7がオンして、被救護者に負極性の電圧を印加する。これにより双極性の電圧波形の電気ショックが被救護者に印加される。
【0065】
図3に示す通信部15は、制御部14による制御の下、サーバ装置等の外部機器(図示せず)と無線又は有線の通信を行う通信インタフェースである。音声出力部20は、スピーカ等の放音装置を含む。音声出力部20は、制御部14による制御の下、AED1の操作をガイドする音声、警告音等を出力する。
【0066】
電極30A、30Bは、心停止状態の被救護者に装着される針状の電極である。電極30Aはケーブル40Aを介して高電圧生成部16、心電図信号取得部17、及び状態検出部18に接続される。電極30Bはケーブル40Bを介して高電圧生成部16、心電図信号取得部17、及び状態検出部18に接続される。針状の電極30A,30Bを使用することにより、通常のパッド型の電極と異なり、被救護者の体表面が濡れているような場合でも、被救護者と電極30A,30Bとの接続を確保することができる。
【0067】
心電図信号取得部17は、電極30A及び電極30Bからの心電図信号に含まれる雑音のフィルタリング、及び雑音をフィルタリング済の心電図信号の増幅等を行う。心電図信号取得部17により増幅された心電図信号は、制御部14に送られ、心電図解析等に用いられる。また、制御部14は、心電図信号を、表示部11に適宜表示する。
【0068】
状態検出部18は、例えば、電極30A及び電極30Bとの間のインピーダンス、即ち、被救護者の電流通過部分のインピーダンス(生体インピーダンス)を測定する。状態検出部18は、測定したインピーダンスを制御部14へ出力する。
【0069】
次に上記構成を有するAED1の動作及び使用方法を説明する。
救護者は、AED1が小形軽量であるため、これを容易に携帯できる。設置しておく場合でもスペースを必要としない。
【0070】
救護者は、AED1を使用する場合、操作部12を操作して、電源を投入すると共に、被救護者の心臓を挟む位置、例えば、
図2に示す位置に電極30Aと30Bを挿す。この状態で、救護者は、電極30Aと30Bが正しく装着されているか否かを判断するため、操作部12のボタン群12b内の状態検出ボタンを押下する。この操作に応答して、制御部14は、高電圧生成部16に予め設定された電圧を発生させ、電極30Aと30Bの間に印加する。状態検出部18は、電極30Aと30Bの間の電圧と、電極30A又は30Bを流れる電流を測定し、生体インピーダンスRbを測定し、制御部14に通知する。
【0071】
制御部14は、測定された生体インピーダンスから、電極30A,30Bの装着状態が正しいか否か(生体インピーダンスが所定範囲に納まっているか否か)を判別する。制御部14は、表示部11及び音声出力部20により判別結果を報知する。救護者は、報知内容に従って、必要に応じて、電極30A,30Bを再装着する。
【0072】
救護者は、必要に応じて、被救護者の心電図を確認する。この場合、電極30Aと30Bを被救護者に装着した状態で、救護者は、ボタン群12b内の心電図検出ボタンを押下する。この操作に応答して、制御部14は、心電図信号取得部17を起動する。心電図信号取得部17は、電極30Aと30Bの間の電圧を測定し、制御部14に供給する。制御部14は、検出された生体電圧の波形を表示部11に表示する。救護者は、表示に従って、被救護者の心電図を確認する。
【0073】
次に、被救護者に高電圧パルスを印加する処理を
図10のフローチャートを参照しつつ説明する。
被救護者に高電圧パルスを印加する場合、救護者は、操作部12を操作して、予め登録されている高電圧パルスの波形のリストを表示する(ステップS11)。救護者は、表示された波形のうちから1つを選択する(ステップS12:Yes)。選択された波形が設定波形である。なお、印加する高電圧パルス波形を予め選択して記憶部13に格納しておくことにより、ステップS11とS12をスキップしてもよい。
続いて、制御部14は、ボタン群12bのなかの印加ボタンの押下を待機する(ステップS13)。
【0074】
印加ボタンが押下されると(ステップS13:Yes)、制御部14の波形制御部141は、波形テーブル135(PWM制御御テーブル133と極性制御御テーブル134)を生成する波形テーブル生成処理を実行する(ステップS14)。
【0075】
波形テーブル生成処理の詳細を
図11のフローチャートを参照して説明する。
まず、制御部14は、高電圧生成部16及び状態検出部18を制御して、生体インピーダンスを測定する(ステップS21)。具体的には、制御部14は、高電圧生成部16に所定電圧を発生させ、電極30A又は30Bに流れる電流を測定させることにより、生体インピーダンスRbを測定させる(ステップS21)。
次に、制御部14は、基本波形テーブル132に格納されている基本波形が予定している生体インピーダンスの基準値Rrに対する測定した生体インピーダンスの値Rbの比Rb/Rrを求める(ステップS22)。
次に、制御部14の波形制御部141は、被救護者に印加する高電圧パルスのエネルギーが基準値Eとなるように、生体インピーダンスの比の平方根√(Rb/Rr)を、ステップS14で選択された設定波形の波高値に乗算して、補正電圧波形Vaを求める(ステップS23)。
次に、波形制御部141は、t=0に設定する(ステップS24)。
次に、波形制御部141は、tのタイミングでの、補正電圧波形Vaの波高値に基づいて、スイッチング制御信号S1とS2の周期λとパルス幅PW1,PW2を求める(ステップS25)。
次に、波形制御部141は、tのタイミングでの、基本電圧波形Vrの極性に基づいて、極性データを求める(ステップS26)。
次に、波形制御部141は、tが電圧印加終了のタイミングに達したか否かを判別する(ステップS27)。
tが終了タイミングに達していない場合(ステップS27:No)、t=t+1とtを更新して(ステップS28)、ステップS25に戻り、次のタイミングtについて同様の処理を行う。
tが終了タイミングに達している場合(ステップS27:Yes)、複数回のステップS25の処理で求めた一連のタイミングtでのPWM制御御信号をPWM制御テーブル133に格納し、複数回のステップS26の処理で求めた一連のタイミングtでの極性制御信号を極性制御テーブル134に格納する(ステップS29)。
こうして、波形制御部141のDSPによる高速演算処理により、PWM制御テーブル133と極性制御テーブル134が形成される。
続いて、
図10のステップS15に進み、制御部14は、内部タイマを起動する。
【0076】
次に、制御部14は、PWM制御テーブル133に記憶されているPWM制御信号のうち内部タイマの計測時間t用のデータに基づいて、PWM制御信号を第1ドライバ162に供給する(ステップS16)。PWM制御信号は、スイッチング素子Q1~Q4の周期λとパルス幅PW1とPW2,又は、デューティ比を示す。
【0077】
また、制御部14は、極性制御テーブル134に記憶されている極性制御信号のうち計測時間t用のデータに基づいて、極性制御信号を第2ドライバ166に供給する(ステップS17)。
【0078】
続いて、制御部14は、内部タイマの計測時間tに基づいて、高電圧パルスの印加が終了したか否かを判別する(ステップS18)。
終了していない場合(ステップS18:No)、処理は、ステップS16にリターンし、高電圧パルスの印加を継続する。
一方、終了している場合(ステップS18:Yes)、高電圧パルス印加処理は終了する。なお、自動的に、心電図を測定して表示する処理を開始してもよい。
【0079】
ステップS16で出力されるPWM制御信号に応答して、第1ドライバ162は、スイッチング素子Q1とQ4の組みと、Q2とQ3の組みを、指示されたデューティ比で交互にオン・オフする。これによりトランス163の一次巻線163aに、デューティ比に対応する大きさの交流の一次電流Iinが流れ、二次巻線163bに巻き数比に対応する高圧交流電圧が発生する。この高圧交流電圧は全波整流回路164aにより全波整流されて直流高電圧に変換され、さらに、平滑コンデンサC1により平滑化されて電圧V2として出力される。電圧V2は、
図9(B)に例示したように、補正電圧波形Vaの絶対値波形に等しい波形を有する。
【0080】
ステップS17で出力される極性制御信号に応答して、第2ドライバ166は、正極性の高電圧パルスを印加すべき期間、スイッチング制御信号S3をハイレベルにして、スイッチング素子Q5とQ8の組みをオンし、電極30Aと30Bの間に順方向の電圧V2を印加し、被救護者に正極性の高電圧パルスVoutを印加する。また、第2ドライバ166は、負極性の高電圧パルスを印加すべき期間、スイッチング制御信号S4をハイレベルにして、スイッチング素子Q6とQ7の組みをオンして、電極30Aと30Bの間に順方向の電圧V2を印加し、被救護者に負極性の高電圧パルスVoutを印加する。
【0081】
このようにして、被救護者には、
図9(A)に例示する補正電圧波形Vaを有する高電圧パルスが印加される。補正電圧波形Vaの高電圧パルスは、被救護者の個人差、電極30A,30Bの装着状態の変動などに起因する生体インピーダンスの変動によらず、ほぼ一定エネルギーEが印加される。
【0082】
以上説明したように、本発明の実施の形態のAED1によれば、インバータ回路による直流交流変換とトランスを用いて高電圧を生成するため、高電圧を保持するための高耐圧コンデンサを使用する必要がなく、小型化が可能となる。また、高電圧パルスの電圧は、PWM信号によって1パルス単位で制御されるフルブリッジインバータ回路161により時系列で調整される。従って、除細動に適した複雑な波形の高電圧パルスを容易に生成することが可能となる。さらに、極性反転信号によって制御される極性反転回路165によって、設定波形に応じた適切なタイミングで、整流平滑回路164の出力する電圧V2の極性が反転される。これにより、BTE波形やRLB波形のような二相性波形の高電圧パルスを容易に生成することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態に係るAED1によれば、トランス163で昇圧した電圧を平滑化する平滑回路を備えているため、脈流を抑えてより理想的な波形の高電圧パルスを生成することが可能となる。
【0084】
上記実施の形態では、高電圧パルスを被救護者に1回印加する例を示したが、複数回印加してもよい。以下、高電圧パルスを一定の時間を空けて複数回印加するモードをデュアルショックモードとよぶ。
図12に、デュアルショックモードで高電圧生成部16が生成する高電圧パルスの例を示す。この例では、2sの時間間隔で、RLB波形の高電圧パルスが2個連続的に生成されている。なお、デュアルショックモードでは、1回目と2回目で異なる波形の高電圧パルスを生成してもよい。また、2回より多くの高電圧パルスを連続的に生成して被救護者に印加してもよい。
【0085】
デュアルショックモードでは、AED1は、予め設定された時間間隔で、高電圧パルスを2連続で被救護者に印加する。例えば、操作者が、操作部12を操作することで、AED1の動作モードをデュアルショックモードに切り替えることができる。また、操作者は、操作部12を操作することで、2連続で照射する高電圧パルスの時間間隔を0.25s~3.00sの範囲で設定することができる。
【0086】
この場合、例えば、複数回分の波形データ全体を波形メモリ領域131に格納し、
図10に示す高電圧パルス印加処理で印加してもよい。
また、
図13のフローに示すように、設定波形の高電圧パルスを印加し(ステップS31)、続いて、予め設定されている繰り返し回数だけ高電圧パルスが印加されているか否かを判別し(ステップS32)、終了していない場合には、一定のインターバル時間を計測し(ステップS33)、ステップS31にリターンし、次の高電圧パルスを印加するようにしてもよい。なお、次に印加する高電圧パルスの波形はそれ以前に印加した高電圧パルスの波形と同一でも異なっていてもよい。また、3回以上印加する場合には、インターバルの長さも毎回異なっても同一でもよい。また、印加する波形とその順番を編集できるようにしてもよい。
【0087】
ステップS32で、終了と判別された際には、処理を終了する。
【0088】
図13の処理の場合には、繰り返し回数、印加する高電圧パルスの波形と順番、インターバル期間を記憶部13に予め記憶しておけば、複数パルス分の波形データ全体を波形メモリ領域131に記憶しておく必要はなく、記憶部13の容量を抑えることができる。
【0089】
(変形例)
上記実施形態は、種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、高電圧パルスの波形をMonophasic波形、BTE波形、および、RLB波形、の3つの中から設定することができると説明したが、設定できる波形の種類はこれらに限定されるものではない。また、AED1が出力できる高電圧パルスの波形を1つのみに固定してもよい。例えば、AED1が出力できる高電圧パルスの波形をMonophasic波形のみに固定した場合は、高電圧生成部16に極性反転回路165を設けなくてもよい。
【0090】
また、基本波形テーブル132に格納される波形データを読み出して、波形を表示部11に表示させながら操作部12の操作に従って、加工・編集して、上書きあるいは別名で保存することにより、任意の高電圧パルス波形を生成及び編集可能である。さらに、外部のコンピュータ等で生成あるいは編集した波形データを通信部15を介して記憶部13に格納するようにしてもよい。
【0091】
AED1の電極30A、30Bは、
図1に示すような針状の電極に限定されるものではなく、種々の形状の電極が採用可能である。例えば、
図14に示すように、AED1は、針状の電極30A、30Bに代えて、パッド状の電極50A、50Bを備えていてもよい。また、パッド状の電極50A、50Bの表面に、微細な針、刃、歯、凹凸等の被救護者の体表面との接触抵抗を小さくするための構成を備えていてもよい。
【0092】
また、本発明が適用される電極30A,30Bは、それぞれ、
図15に例示するように、洗濯バサミ型の構成でもよい。
図15に示す電極30は、握り部301と把持部302とを有している。救助者は、電極30の握り部301を握ることで把持部302を開き、把持部302の間に皮膚Kを挿入して挟み、握り部301の握りを解除して把持部302に皮膚Kを把持させることで、電極30を皮膚Kに装着させる。
【0093】
さらに、把持部302に剣山のような複数の針状部位303を配置してもよい。針状部位303のうち少なくとも一部が、皮膚Kの内部に存在するようになる。
【0094】
針状の電極、洗濯バサミ状の電極、微細な針等を有するパッド状電極等は、雨天など、前胸部が継続的に濡れてしまう環境でも、電極と被救護者との電気的接続を安定して確保ために有効である。
【0095】
その他、回路及び動作は適宜変更可能である。例えば、主に正論理で説明したが、不論理で回路を設計してもよい。また、実施の形態で例示した材料、数値は例示であり、限定されるものではない。
【0096】
また、生体インピーダンス以外にも、電池の内部インピーダンス、インバータ・トランス・整流回路の損失がある。このため、実測した出力電流と出力電圧に基づき、印加する高電圧パルスのエネルギーが目標値に一致するように、基本電圧波形Vrの波高値とパルスの長さを補正してもよい。
【0097】
また、損失の総量と補正内容とを対応付けた補正テーブルを用意し、総損失を求め、求めた総損失をキーに補正内容を求め、求めた補正内容に従って基本電圧波形Vrを補正するようにしてもよい。
【0098】
上記説明では、基本電圧波形Vrを補正することにより、各タイミングtでの印加すべき電圧を求めた。この開示はこれに限定されない。例えば、基本電圧波形Vrを使用せずに、印加する高電圧波形を求めることも可能である。例えば、基本波形テーブル132を取り除き、波形メモリ領域131には、高電圧パルス電圧のエンベローブと印加する電気エネルギーの総量を記憶しておく。波形制御部141は、計測された生体インピーダンスの値Rbに基づいて、印加する高電圧パルスの総エネルギーが目標値Eに一致し、エンベローブが予め記憶している基本のエンベローブに一致するように各タイミングでの印加電圧を求める。
【0099】
上記実施の形態において、
フルブリッジインバータ回路161は、スイッチング制御信号に従ったデューティ比でスイッチング動作を行うことにより、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路の一例である。
トランス163は、インバータ回路が変換した交流電圧を昇圧するトランスの一例である。
全波整流回路164aは、昇圧された電圧を整流する整流回路の一例である。
平滑コンデンサC1は、整流回路の出力する電圧を平滑化する平滑回路の一例である。
電極30A,30Bは、整流回路の出力電圧に基づいた電気ショックを被救護者に印加する電極の一例である。
極性反転回路165は、整流回路の出力電圧を、極性制御信号に従って、順方向あるいは反転して電極に印加する極性反転回路の一例である。こので、スイッチング制御信号S3,S4は、極性制御信号の一例である。
【0100】
波形制御部141と第1ドライバ162は、インバータ回路にスイッチング制御信号を供給して、インバータ回路からトランスに供給される電気エネルギーを制御するデューティ比制御手段の一例である。
PWM制御テーブル133は、被救護者に印加する電気ショックの電圧波形に対応して、時間の経過に対するデューティ比の変化を表すデータを記憶する記憶部の一例である。また、極性制御テーブル134は、被救護者に印加する電気ショックの印加電圧の極性を示すデータを記憶する記憶部の一例でもある。
操作部12と制御部14とは、複数の電圧波形から印加対象の1つを選択する選択手段の一例である。
制御部14と状態検出部18とは、被救護者に装着された前記電極間のインピーダンスを測定する測定手段の一例である。
操作部12、制御部14、通信部15は、記憶部に記憶された時間に対するデューティ比の変化を示すデータを更新する手段の一例である。
波形制御部141と第2ドライバ166は、極性反転回路に極性制御信号を送信して、前記設定波形に応じた極性の電圧を前記電極に印加させる極性制御手段の一例である。
【0101】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記す。
【符号の説明】
【0102】
1…AED、10…本体部、30A、30B、50A、50B…電極、40A,40B…ケーブル、11…表示部、12…操作部、13…記憶部、131…波形テーブル、14…制御部、141…波形制御部、15…通信部、16…高電圧生成部、161…フルブリッジインバータ回路、162 第1ドライバ、163 トランス、163a…一次巻線、163b…二次巻線、164 整流平滑回路、165 極性反転回路、166 第2ドライバ、Q1~Q8…スイッチング素子、D1~D4…ダイオード、C1…コンデンサ、17…心電図信号取得部、18…状態検出部、19…電源部,20…音声出力部
【要約】
自動体外式除細動器(AED)は、電源部(19)と、電源部(19)から印加される電圧を昇圧して高電圧パルスを生成する高電圧生成部(16)と、高電圧パルスに基づいた電気ショックを被救護者に付与する一対の電極(30A、30B)と、を備える。高電圧生成部(16)は、電源部(19)から印加される直流電圧を交流電圧に変換するフルブリッジインバータ回路(161)と、変換された交流電圧を昇圧するトランス(163)と、第1ドライバ(162)とを備える。制御部(14)は、第1ドライバ(162)にPWM信号を送信して、フルブリッジインバータ回路(161)をPWM制御させ、フルブリッジインバータ回路(161)の出力電圧を、設定波形に応じて時系列で変化させる。