(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】車室内音響装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/879 20180101AFI20240527BHJP
A47C 7/72 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B60N2/879
A47C7/72
(21)【出願番号】P 2020122328
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-045528(JP,U)
【文献】特開2008-271067(JP,A)
【文献】特表2016-513599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/879
A47C 7/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の座席のヘッドレストに、前記座席に着座している搭乗者へ音圧を与えるスピーカが設置されている車室内音響装置において、
前記スピーカが、前記ヘッドレストを左右方向に二分する中心部に位置し、
前記スピーカが、上下に間隔を空けて複数個設けられていることを特徴とする車室内音響装置。
【請求項2】
車室内の座席のヘッドレストに、前記座席に着座している搭乗者に向けて前方へ音圧を与えるスピーカが設置されている車室内音響装置において、
前記ヘッドレストの内部に、前方に位置する離間領域
となる空間と、前記離間領域よりも後方に位置する収納空間が設けられて、前記収納空間内にスピーカが収納されており、
前記スピーカが、前記ヘッドレストを左右方向に二分する中心部に位置していることを特徴とする車室内音響装置。
【請求項3】
車室内の座席のヘッドレストに、前記座席に着座している搭乗者に向けて前方へ音圧を与えるスピーカが設置されている車室内音響装置において、
前記ヘッドレストの内部に、前方に位置する離間領域と、前記離間領域よりも後方に位置する収納空間が設けられて、前記収納空間内にスピーカが収納され、前記離間領域と前記収納空間との境界部に多孔質のカバー部材が設けられて
おり、
前記スピーカが、前記ヘッドレストを左右方向に二分する中心部に位置していることを特徴とする車室内音響装置。
【請求項4】
前記ヘッドレストの前面に、前記離間領域を覆う多孔質のカバー部材が設けられている
請求項2または3に記載の車室内音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の座席のヘッドレストにスピーカが設置された車室内音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1と特許文献2に、車室内の座席のヘッドレストにスピーカが設置された車室内音響装置に関する発明が記載されている。
これらの車室内音響装置は、車室内の座席のシート背面部の上に位置するヘッドレストに一対のスピーカが配置されている。この一対のスピーカは、左右方向に距離を空けて配置されている。
【0003】
特許文献1と特許文献2に記載された車室内音響装置は、座席のヘッドレストにおいて左右離れた位置に配置された一対のスピーカから、その座席に着座した搭乗者の両側の耳部に音圧が与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-111640号公報
【文献】特開2019-212940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の車室内音響装置では、車室内の複数の座席にスピーカが設置され、複数の搭乗者のそれぞれが異なるコンテンツに関する音響を個別に聴取することが好まれている。しかし、特許文献1と特許文献2に記載された車室内音響装置は、座席のヘッドレストの左右離れた位置に一対のスピーカが配置されているため、音圧が搭乗者の頭部の両側部を通過して前方の座席に到達しやすい。特に中音域や高音域では、音圧の指向性が高いため、搭乗者の頭部の両側部から前方へ音圧が移行しやすい。よって、前後の座席での音圧が干渉するなど、前後の座席の音響の分離度が低下することになる。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、座席ごとに設けられたスピーカからの発音を、それぞれの搭乗者が干渉することなく分離して聴取しやすくした車室内音響装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車室内の座席のヘッドレストに、前記座席に着座している搭乗者へ音圧を与えるスピーカが設置されている車室内音響装置において、
前記スピーカが、前記ヘッドレストを左右方向に二分する中心部に位置し、
前記スピーカが、上下に間隔を空けて複数個設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
または、本発明は、車室内の座席のヘッドレストに、前記座席に着座している搭乗者に向けて前方へ音圧を与えるスピーカが設置されている車室内音響装置において、
前記ヘッドレストの内部に、前方に位置する離間領域となる空間と、前記離間領域よりも後方に位置する収納空間が設けられて、前記収納空間内にスピーカが収納されており、
前記スピーカが、前記ヘッドレストを左右方向に二分する中心部に位置していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車室内音響装置は、座席のヘッドレストに設置されたスピーカから発せられる音がその座席に着座している搭乗者に聴取される。ただし、スピーカからの音圧が搭乗者の首背部や後頭部に当たるために、頭部の前方へ音圧が行き届きにくくなる。特に、中音域や高音域では音圧の指向性が高いため、音圧が首部や頭部で遮られて前方へ移行しにくくなる。そのため、前後の座席間で音響を分離して聴取しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態の車室内音響装置を備えた自動車の車室内を示す平面図、
【
図2】
図1に示された後部座席の車室内音響装置を示す平面図、
【
図3】
図1に示された後部座席の車室内音響装置を示す側面図、
【
図4】本発明の第2実施形態の車室内音響装置を示す側面図、
【
図5】本発明の第3実施形態の車室内音響装置を示す側面図、
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、自動車の車室内の一部を示す平面図であり、前部座席(運転席)1と、後部座席2、および前部座席1の前方のステアリングホイール3が示されている。各図では、X1方向が前方でX2方向が後方、Y1方向が左方向でY2方向が右方向である。またZ1方向が上方向で、Z2方向が下方向である。
【0016】
前部座席1には前席搭乗者10が着座しており、後部座席2に後席搭乗者20が着座している。
図2に、後部座席2に着座している後席搭乗者20の肩部21と頭部22および左側(Y1側)と右側(Y2側)の耳部23が示されている。
図3には、後席搭乗者20の首部24が示されている。
【0017】
図2と
図3に示されるように、後部座席2のシート背面部(シートバック)4の上に、本発明の第1実施形態の車室内音響装置30が設けられている。車室内音響装置30は、シート背面部4の上に設置されるヘッドレスト31と、ヘッドレスト31の内部に収納されたスピーカ32とを有している。
【0018】
図3にヘッドレスト31の断面が示されている。ヘッドレスト31には、後席搭乗者20に向けられた前面31aから後方(X2方向)に向けて凹状となる収納空間33が形成されて、収納空間33の内部にスピーカ32が設置されている。ヘッドレスト31の前面31aでは、収納空間33がカバー部材34で塞がれている。カバー部材34は音圧が通過可能であり、多孔質のシートや多孔質の樹脂板などで形成されている。スピーカ32はコーン形状の振動板32aと、振動板32aを振動させる磁気駆動回路32bとを有している。スピーカ32は発音方向が前方(X1方向)に向けられており、スピーカ32はカバー部材34の内側にほぼ接触した状態で支持されている。
【0019】
図2に中心線Oが示されている。中心線Oは、シート背面部4およびヘッドレスト31を左右方向(X1-X2方向)で二分する中心線であり、後席搭乗者20およびその頭部22と首部24とを左右方向(X1-X2方向)で二分する中心線である。
図2に示されるように、スピーカ32の中心線、すなわちコーン形状の振動板の中心および磁気駆動回路32bの中心を通る線は、
図2の平面図において中心線Oと一致している。
【0020】
スピーカ32は、後席搭乗者20から後方(X2方向)に空間を空けて対向していることが好ましい。
図3に示されるように、スピーカ32はヘッドレスト31の前面31aに位置するカバー部材34に密着して設けられているが、前面31aと首背部25との間に空間部が形成されているため、スピーカ32を首背部25から後方に距離を空けて配置することができる。
図2にスピーカ32の直径Dが示されている。直径Dは、スピーカ32の発音域の直径であり、コーン形状の振動板32aの直径である。直径Dは、頭部22の左右方向(X1-X2方向)での幅寸法よりも小さいことが好ましく、さらには首部24の左右方向(X1-X2方向)での幅寸法よりも小さいことが好ましい。例えば、直径Dは150mm以下が好ましく。120mm以下あるいは100mm以下がさらに好ましい。直径Dがこの範囲であると、スピーカ32から前方(X1方向)に発せられる音圧が首背部25や後頭部26に直接に当たるようになり、頭部22よりも前方へ行き届きにくくなる。
【0021】
前部座席1に設けられた車室内音響装置30に装備されたスピーカ32と、後部座席2に設けられたスピーカ32の再生音はモノラルである。ただし、1個のスピーカでステレオ再生音を発せられる小型のスピーカが、スピーカ32の代わりに設置されてもよい。
【0022】
図1には、前部座席1に着座している前席搭乗者10の肩部11と頭部12および耳部13が示されている。前部座席1のシート背面部4の上にも車室内音響装置30が設けられている。前部座席1に設けられた車室内音響装置30のヘッドレスト31およびスピーカ32の構造は、
図2と
図3に示された後部座席2に設けられたものと同じである。
【0023】
図1と
図2および
図3に示される第1実施形態の車室内音響装置30は、前部座席1と後部座席2とで、スピーカ32から別のコンテンツに基づく音を個別に発生させることが可能である。例えば、前部座席1のスピーカ32からは、運転者である前席搭乗者10に対し、ナビゲーションシステムの道案内音やその他の車両走行情報やエアーコンディショナ―の動作情報が音声として与えられる。また前部座席1のスピーカ32から音楽再生音が与えられてもよい。後部座席2のスピーカ32から後席搭乗者20に対して、ゲーム操作に基づく音や、テレビジョン受像機の音声、あるいは個人的に聞きたい音楽の再生音が与えられる。
【0024】
図2の平面図では、スピーカ32の中心が中心線O上に位置し、
図3に示されるように、スピーカ32が首背部25に背部から対向している。そのため、スピーカ32から前方(X1方向)に発せられる音圧が、首背部25に当たって、音圧が首背部25よりも前方へ直進するのが抑制される。ただし、
図2に示されるように、スピーカ32と首背部25との間に空間が形成されるため、音圧が後席搭乗者20の耳部23に届きやすく、後席搭乗者20は近くに位置するスピーカ32の再生音を十分な音量で聴取することができる。
【0025】
前部座席1に設けられた車室内音響装置30と、前席搭乗者10との関係は、後部座席2と同じである。前部座席1でも、スピーカ32から前方へ向けて発せられる音圧が、前席搭乗者10の首背部に当たり、またスピーカ32の前方近くに位置する耳部13で聴取できるようになる。後部座席2のスピーカ32から発せられる音圧が、後席搭乗者20の首背部25に当たって、前部座席1に届きにくいため、前部座席1の車室内音響装置30と後部座席2の車室内音響装置30の音響効果を確実に分離できるようになる。そのため、前席搭乗者10は、後部座席1のスピーカ32からの発音の影響を大きく受けることなく、前部座席1のスピーカ32から発せられる音声を鮮明に聴取できるようになる。スピーカ32から発せられる音圧は周波数が高くなるほど前方への指向性が高くなるため、中音域や高音域では音圧の前進が首背部25で阻止されやすくなる。したがって、前席搭乗者10は、特に中音域から高音域において、影響を受けにくくなる。
【0026】
また、前部座席1の車室内音響装置30に設けられたスピーカ32は、ヘッドレスト31の左右方向(Y1-Y2方向)の中心に位置しているため、前部座席1のスピーカ32から後座搭乗者20の耳部23までの音響的な距離が長くなる。そのため、後席搭乗者20も、前部座席1の車室内音響装置30の影響を受けることなく、後部座席2のスピーカ32からの音圧を聴取しやすくなる。
【0027】
図4に示される本発明の第2実施形態の車室内音響装置130は、ヘッドレスト31の内部に位置するスピーカ32が後席搭乗者20の後頭部26に背部から対向している。ヘッドレスト31の内部前方に離間領域35が設けられ、離間領域35よりも後方の収納空間33にスピーカ32が設けられている。離間領域35は空間である。あるいは離間領域35には、音圧が通過しやすい低密度のクッション材など収納されている。収納空間33と離間空間35との境界部には前記カバー部材34が設けられ、ヘッドレスト31の前面31aには、離間領域35を覆う多孔質のカバー部材36が設けられている。後頭部26がヘッドレスト31の前面31aに接したとしても、ヘッドレスト31の内部の前方に音圧が通過可能な離間領域35を設けられているため、スピーカ32を後頭部26から後方へ離して配置することができる。
【0028】
図4に示される車室内音響装置130では、スピーカ32から前方に発せられる音圧が後席搭乗者20の後頭部26に当たるため、後部座席1のスピーカ32から発せられる音圧が、前席搭乗者10に与える影響を抑制できる。スピーカ32から発せられる音圧は離間領域35を通過して、その前方に位置する耳部23に回り込むことができるため、スピーカ32からの再生音を後席搭乗者20が比較的大きな音量で聴取できる。また、スピーカ32が後頭部26に対向していると、スピーカ32の耳部23と同じ高さに配置でき、後席搭乗者20の耳部23に音圧が届きやすくなる。
【0029】
図5に示される本発明の第3実施形態の車室内音響装置230は、ヘッドレスト31の内部前方に離間領域35が設けられており、2つのスピーカ32が離間領域35の後方に配置されている。
図2と同様の平面図で見た場合に、2つのスピーカ32は、いずれもその中心が中心線O上に一致している。また、上側のスピーカ32は、後席搭乗者20の後頭部26に背部から距離を空けて対向し、下側のスピーカ32は首背部25に背部から距離を空けて対向している。上下に並ぶ2つのスピーカ32を使用することで、音響効果を高めることができる。また、上下の2つのスピーカの一方を中音域や低音域の再生に使用し、他方のスピーカを高音域の再生に使用するなど、2つのスピーカでの再生周波数を変えて、2ウエイスピーカシステムとして使用することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 前部座席
2 後部座席
4 シート背面部
10 前席搭乗者
20 後席搭乗者
22 頭部
23 耳部
25 首背部
26 後頭部
30 車室内音響装置
31 ヘッドレスト
32 スピーカ
33 収納空間
34,36 カバー部材
35 離間領域