(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火シート、熱膨張性耐火シートを用いた貫通部の耐火処理方法、および熱膨張性耐火シートを用いた貫通部の防火構造
(51)【国際特許分類】
H02G 3/22 20060101AFI20240527BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20240527BHJP
A62C 3/16 20060101ALI20240527BHJP
F16L 5/02 20060101ALI20240527BHJP
F16L 5/04 20060101ALI20240527BHJP
C09K 21/12 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
H02G3/22
E04B1/94 F
A62C3/16 B
F16L5/02 F
F16L5/04
C09K21/12
(21)【出願番号】P 2020177805
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江草 史典
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-131561(JP,A)
【文献】特開2011-074969(JP,A)
【文献】特開2007-205472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/22
E04B 1/94
A62C 3/16
F16L 5/02
F16L 5/04
C09K 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火区画の貫通部に挿通されるケーブル類に、複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シートであって、
シートの面直方向から見て、
第1耐火材料からなる第1帯状領域と、
第2耐火材料からなる第2帯状領域とが
一体化されて並んで設けられており、
第1耐火材料および第2耐火材料は、いずれも熱膨張性の耐火樹脂組成物であり、
第1耐火材料は第2耐火材料に比べ、膨張後の形状維持性が高い、
熱膨張性耐火シート。
【請求項2】
さらに、第1耐火材料からなる第3帯状領域が設けられ、
第2帯状領域が第1帯状領域と第3帯状領域の間に
一体化されて配置されている、
請求項1に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項3】
第1耐火材料が亜リン酸アルミニウムを含む、
請求項1または請求項2に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項4】
第1耐火材料および第2耐火材料が熱膨張性黒鉛を含む、
請求項3に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項5】
請求項1に記載の熱膨張性耐火シートを用いた、貫通部の耐火処理方法であって、
第1帯状領域が周方向に延在するように、熱膨張性耐火シートを円筒状に丸め、
円筒状に丸めた熱膨張性耐火シートを、火災の発生が予測される側に第1帯状領域が位置するように、貫通部の穴に配置する、
耐火処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載の熱膨張性耐火シートを用いた、貫通部の耐火構造であって、
熱膨張性耐火シートが、
第1帯状領域が周方向に延在するように円筒状に丸められた状態で、
火災の発生が予測される側に第1帯状領域が位置するように、貫通部の穴に配置された、
貫通部の耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時に熱膨張して断熱性や耐火性を呈する熱膨張性耐火シートに関する。また、本発明は、当該熱膨張性耐火シートを用いた、建築物の貫通部の耐火処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に防火区画を設ける際に、防火区画の仕切り壁に、ケーブル類の挿通や換気等の目的のため、貫通部、すなわち、仕切り壁を貫通する穴が設けられることがある。火災の際には、貫通部を通じて、空気(酸素)が供給されたり、火炎が伝播したりするため、火災が発生した際に、貫通部が閉塞されるよう、貫通部には耐火処理が行われる。
【0003】
貫通部の耐火処理に、熱膨張性を有する耐火シートを用いると、耐火処理(施工)が簡単になり、便利である。
例えば、特許文献1には、熱膨張性耐火材料からなるシート材と樹脂発泡体であるウレタンフォームとが積層されたテープ状の耐火処理部材を、ケーブル等の貫通物に捲回して貫通穴の内部に配置して耐火処理をする技術が開示されており、当該処理方法によれば、コストを低減しながら、施工が容易な防火区画貫通部の施工方法が提供されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防火区画の貫通部の耐火処理には、できるだけ長時間にわたって火炎や熱風に耐える耐火性能が求められる。また、防火区画の貫通部の耐火処理には、貫通部を確実に閉塞し、煙や空気の流れを遮断する性能が求められる。
【0006】
しかしながら、従来の熱膨張性耐火部材では、これら要求を両立させることは難しかった。すなわち、長時間にわたって火炎や熱風に耐える耐火性能を向上させようとすれば、膨張した耐火部材が比較的硬質なものとなるようにしたいが、そうした耐火部材は膨張倍率が低くなりがちで、貫通部を確実に閉塞させる性能が低くなりがちだからである。
【0007】
本発明の目的は、施工が簡単であり、火災の際に長時間にわたって貫通部の閉塞がなされる複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シートを用いた貫通部の耐火処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋭意検討の結果、膨張後の形状維持性が異なる複数の熱膨張性耐火材料を用いて、それら材料からなる帯状の領域が並ぶように熱膨張性耐火シートを構成すると、長時間にわたる火炎や熱風への耐火性と貫通部の確実な閉塞が両立できることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シートであって、シートの面直方向から見て、第1耐火材料からなる第1帯状領域と、第2耐火材料からなる第2帯状領域とが一体化されて並んで設けられており、第1耐火材料および第2耐火材料は、いずれも熱膨張性の耐火樹脂組成物であり、第1耐火材料は第2耐火材料に比べ、膨張後の形状維持性が高い、熱膨張性耐火シートである(第1発明)。
【0010】
第1発明において、好ましくは、さらに、第1耐火材料からなる第3帯状領域が設けられ、第2帯状領域が第1帯状領域と第3帯状領域の間に一体化されて配置されている(第2発明)。また、第1発明もしくは第2発明において、好ましくは、第1耐火材料が亜リン酸アルミニウムを含む(第3発明)。また、第3発明において、好ましくは、第1耐火材料および第2耐火材料が熱膨張性黒鉛を含む(第4発明)
【0011】
また、本発明は、第1発明の複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シートを用いた、貫通部の耐火処理方法であって、第1帯状領域が周方向に延在するように、熱膨張性耐火シートを円筒状に丸め、円筒状に丸めた熱膨張性耐火シートを、火災の発生が予測される側に第1帯状領域が位置するように、貫通部の穴に配置する、耐火処理方法である(第5発明)。
また、本発明は、第1発明の複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シートを用いた、貫通部の耐火構造であって、熱膨張性耐火シートが、第1帯状領域が周方向に延在するように円筒状に丸められた状態で、火災の発生が予測される側に第1帯状領域が位置するように、貫通部の穴に配置された、貫通部の耐火構造である(第6発明)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シート(第1発明)や本発明の貫通部耐火処理方法(第5発明)、本発明の貫通部の耐火構造(第6発明)によれば、耐火処理の施工が簡単であり、火災の際に長時間にわたって貫通部の閉塞がなされるとの効果が得られる。
さらに、第2発明のようにした場合には、施工がより容易なものとなり、耐火処理の確実性も向上する。また、第3発明や第4発明のようにした場合には、耐火処理の確実性が特に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の熱膨張性耐火シートの構造を示す平面図である。
【
図2】第1実施形態の熱膨張性耐火シートの構造を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態の熱膨張性耐火シートの施工方法を示す図である。
【
図4】第2実施形態の熱膨張性耐火シートの構造を示す平面図および断面図である。
【
図5】第3実施形態の熱膨張性耐火シートの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照しながら、防火区画の貫通部の耐火処理に使用される熱膨張性耐火シートを例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0015】
図1および
図2は、第1実施形態の熱膨張性耐火シート1の構成を示す平面図および断面図である。必須ではないが、第1実施形態の熱膨張性耐火シート1はテープ状であり、
図1では、図の上下方向がテープの長手方向となり、図の左右方向がテープの幅方向である。
【0016】
第1実施形態の熱膨張性耐火シート1では、
図1のように、シートの面直方向から見て、第1耐火材料からなる第1帯状領域11と、第2耐火材料からなる第2帯状領域12とが並んで設けられている。本実施形態のように、テープ状の熱膨張性耐火シートの場合には、第1帯状領域11と第2帯状領域12が、それぞれ、テープの長手方向に延在するように
一体化されて設けられることが好ましい。
【0017】
また、必須ではないが、本実施形態のように、シートの面直方向から見て、熱膨張性耐火シート1には、第1耐火材料からなる第3帯状領域13が設けられており、第2帯状領域12が第1帯状領域11と第3帯状領域13の間に一体化されて配置されていることが好ましい。なお、後述する実施形態のように、熱膨張性耐火シートに第3帯状領域13が設けられていなくてもよい。
【0018】
また、必須ではないが、
図2に示すように、第1耐火材料からなる第3帯状領域13が設けられる場合には、本実施形態のように、第1帯状領域11と第3帯状領域13が第1耐火材料によって互いにつながれた、扁平なコの字状に形成されて、コの字の空間部分を埋めるように、第2耐火材料からなる第2帯状領域12が
一体化されて設けられることが好ましい。このように、各帯状領域には、シート面直方向から見て、帯状領域の奥側に他の耐火材料からなる層が積層されていてもよい。
【0019】
第1耐火材料および第2耐火材料は、いずれも熱膨張性の耐火樹脂組成物である。熱膨張性の耐火樹脂組成物は、ベース樹脂に膨張剤が配合されていて、火炎や熱風等、火災発生時の熱気にさらされて樹脂組成物の温度が上昇すると膨張して炭化し、耐火性を呈する樹脂組成物である。
【0020】
第1耐火材料は第2耐火材料に比べ、膨張後の形状維持性が高くされる。すなわち、第1耐火材料は第2耐火材料に比べ、加熱により膨張し炭化した組成物が、より硬質で崩れにくくしっかりとした炭化物となる。
【0021】
また、必須ではないが、第1耐火材料は第2耐火材料に比べ、加熱の際の膨張倍率が低いことが好ましい。膨張倍率が低いことも、膨張後の形状維持性を高めることに貢献する。典型的には、第1耐火材料の膨張倍率が15~30倍とされ、第2耐火材料の膨張倍率が30~60倍とされ、両者の膨張倍率の比、すなわち、(第2耐火材料の膨張倍率)/(第1耐火材料の膨張倍率)が、1.5~2.5であることが好ましい。なお、ここで、膨張倍率とは、熱膨張性の耐火樹脂組成物の膨張前の体積(VB)に対する膨張後の体積(VA)の比(VA/VB)である。
【0022】
また、第1耐火材料が亜リン酸アルミニウムを含むことが好ましい。熱膨張性の耐火樹脂組成物に亜リン酸アルミニウムを含ませると、加熱により膨張し炭化した組成物を、より硬質で崩れにくく、しっかりとしたものとできる。第1耐火材料において、ベース樹脂成分100重量部に対し、亜リン酸アルミニウムが20~55重量部配合されることが好ましい。なお、第2耐火材料が亜リン酸アルミニウムを含んでいてもよいが、第1耐火材料に比べ含有量が少ないか、もしくは、第2耐火材料が亜リン酸アルミニウムを含まないことが好ましい。
【0023】
亜リン酸アルミニウムは、アルミニウムの亜リン酸塩であればよく、その組成は特に限定されない。本発明における使用に際して、亜リン酸アルミニウムには前駆体や誘導体などが含まれていてもよく、例えば、ホスホン酸塩や水和物等を含んでもよい。亜リン酸アルミニウムとしては、高発泡性のものが好ましく、例えば、太平化学産業株式会社から販売されている。中でも、亜リン酸アルミニウムの発泡開始温度が380℃~480℃であり、膨張率が10倍ないし70倍程度のものが好ましい。
【0024】
また、第1耐火材料および第2耐火材料が熱膨張性黒鉛を含むことが好ましい。熱膨張性黒鉛は膨張性が高く、かつ、組成物の膨張後の炭化が速く、耐火性と断熱性に富む。第1耐火材料において、ベース樹脂100重量部に対し、熱膨張性黒鉛が20~55重量部配合されることが好ましい。また、第2耐火材料において、ベース樹脂100重量部に対し、熱膨張性黒鉛が30~100重量部配合されることが好ましい。
【0025】
ここで、熱膨張性黒鉛とは、一般に黒鉛の層状結晶と熱分解成分とを含み、加熱によって急激に膨張する性質を有するものをいう。熱膨張性黒鉛は、火炎に暴露されるなどして加熱されると、熱分解成分がガス化することで黒鉛結晶の層間を押し広げることで膨張する。このような熱膨張性黒鉛としては市販のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、エア・ウォーター株式会社の「TEG」シリーズや鈴裕化学「GREP-EG」シリーズ等が使用できる。
【0026】
以下、第1耐火材料および第2耐火材料となる熱膨張性の耐火樹脂組成物を構成する材料について、より詳細に説明する。
耐火樹脂組成物のベースになる樹脂(ベース樹脂)としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、ゴム等の樹脂が利用できる。ベース樹脂は難燃性の樹脂(例えば塩化ビニル樹脂やウレタン樹脂、フッ素樹脂など)であることが好ましい。複数の樹脂を組み合わせて使用してもよい。ベース樹脂に熱可塑性樹脂(特に塩化ビニル樹脂やポリウレタン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂)を用いれば、膨張剤等の配合剤を練りこんでシート状にしやすく、発泡倍率も高めやすい。また、ベース樹脂に熱硬化性樹脂(特にフェノール樹脂)を含ませるようにすれば、火災により加熱された際に樹脂成分が硬化しようとするので、膨張し炭化する際の組成物をより硬質で崩れにくく、しっかりとしたものとしやすくなる。第1耐火材料のベース樹脂と第2耐火材料のベース樹脂は、おなじ樹脂であってもよいが、異なる樹脂であってもよい。
【0027】
耐火樹脂組成物に含まれる膨張剤としては、特に限定されないが、熱膨張性黒鉛や亜リン酸アルミニウムなどが好ましい。膨張を助ける目的で、膨張剤とともに、酸化チタンなどの増粘剤が耐火樹脂組成物に含まれてもよい。
【0028】
熱膨張性耐火シートが適度な柔軟性を有し、施工性が高められるように、熱膨張性の耐火樹脂組成物は、ゴムや可塑剤を含んでいてもよい。
【0029】
耐火樹脂組成物には、難燃剤、例えば、ポリリン酸アンモニウムやハロゲン系難燃剤が含まれていてもよい。また、耐火樹脂組成物には、炭化材、例えば、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールが含まれていてもよい。また、耐火樹脂組成物には、無機充填剤、例えば、ホウ酸や酸化アルミニウム、酸化亜鉛等が含まれていてもよい。無機充填剤としては、含水無機物や金属炭酸塩が好ましい。
【0030】
耐火樹脂組成物には、その他必要に応じて、酸化防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、顔料、紫外線吸収剤等、が含まれていてもよい。
【0031】
必須ではないが、例えば、本実施形態においては、第1耐火材料は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に、熱膨張性黒鉛を33重量部、亜リン酸アルミニウムを33重量部配合した、熱膨張性の耐火樹脂組成物である。また、第2耐火材料は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に、熱膨張性黒鉛を55重量部配合した、熱膨張性の耐火樹脂組成物である。450℃に加熱した際の、第1耐火材料の膨張倍率は25倍であり、第2耐火材料の膨張倍率は50倍であり、両者の膨張倍率の比は2.0である。
【0032】
第1耐火材料や第2耐火材料の膨張後の形状維持性を高くするためには、必須ではないが、亜リン酸アルミニウムの配合量を多くしたり、熱膨張性黒鉛の配合量を少なくすればよい。難燃剤や炭化剤、無機充填剤などの量を調節して、耐火材料の膨張後の形状維持性を調節してもよい。また、第1耐火材料や第2耐火材料の膨張倍率を高めるには、熱膨張性黒鉛の配合量を多くしたりすればよい。
【0033】
上記実施形態の熱膨張性耐火シートは、公知の製造方法を応用して製造できる。以下、その製造プロセスを例示する。
まず所定のベース樹脂と他の配合材料を順次混錬し、第1耐火材料と第2耐火材料を、それぞれ調製する。
【0034】
得られた第1耐火材料を、
図2に示した扁平なコの字状断面となるよう、テープ状に加工する。一方、第2耐火材料を、所定の幅のテープ状に加工する。これら加工は押出成形であってもよいし、ロール加工であってもよい。その後、第1耐火材料のテープと第2耐火材料のテープを重ね合わせて一体化し、第1実施形態の熱膨張性耐火シートを得る。第1耐火材料のテープと第2耐火材料のテープの一体化は、熱融着によるものであってもよいが、接着剤や粘着剤を利用して一体化してもよい。また、第1耐火材料と第2耐火材料を共押出して、第1実施形態の熱膨張性耐火シート1を製造してもよい。
【0035】
上記第1実施形態の熱膨張性耐火シート1は、防火区画の壁面等に設けられた貫通部(貫通穴)の耐火処理に使用される。
図3に熱膨張性耐火シート1の施工方法の例を示す。この施工方法の例では、壁面Wに設けられた貫通穴HにケーブルCが挿通されていて、この部分を貫通部として耐火処理が行われる。
【0036】
まず、所定の長さにカットした第1実施形態の熱膨張性耐火シート1をケーブルCの周囲に巻き付ける(
図3(a))。第1帯状領域11が周方向に延在するように、熱膨張性耐火シート1は円筒状に丸められる。ケーブルCの周囲を1周以上、好ましくは複数周以上捲回するよう、巻き付けられることが好ましい。また、ケーブルCの外周面と、貫通穴Hの内周面の間の空間をおおむね塞ぐような厚みとなるように、熱膨張性耐火シート1が捲回されることが好ましい。
【0037】
円筒状に丸められた熱膨張性耐火シート1が、火災の発生が予測される側に第1帯状領域11が位置し、貫通穴Hの内側に配置されるよう、熱膨張性耐火シート1を貫通穴Hの内側に押し込んで、耐火処理が完了する(
図3(b))。ここで、火災の発生が予測される側とは、例えば、防火区画が機関室と燃料室を隔てる壁面である場合には、より火災が発生しやすい機関室の側を言う。これにより、貫通部において火災が発生する側が、主に第1耐火部材によって覆われ、ふたをされたようになる。
【0038】
第1実施形態の熱膨張性耐火シート1のように、テープの両側縁部がともに第1耐火材料性である場合には、火災の発生が予測される側に、第1帯状領域11または第3帯状領域13のどちらが配置されてもよく、いずれの場合にも、火災の発生が予測される側の部屋と第2帯状領域12との間に、第1耐火材料からなる第1帯状領域11もしくは第3帯状領域13が配置される。したがって、上記第1実施形態の熱膨張性耐火シート1のように、第1耐火材料からなる第3帯状領域13が設けられ、第2帯状領域12が第1帯状領域11と第3帯状領域13の間に配置されていれば、熱膨張性耐火シート1の施工の際に、火災の発生のしやすさや火災の伝播方向をあまり考慮しなくてもよくなり、施工性がより高められる。
【0039】
上記実施形態の熱膨張性耐火シート1の作用および効果について説明する。
上記実施形態の熱膨張性耐火シート1によれば、熱膨張性耐火シート1が熱膨張性の耐火樹脂組成物からなるシート状の耐火処理部材であるため、熱膨張性耐火シート1を所定の長さにカットして、貫通部の隙間や貫通穴に配置すれば耐火処理が完了するため、施工が簡単である。また、熱膨張性耐火シート1が可撓性を有している場合には、シートの可撓性を利用して、熱膨張性耐火シート1を円筒状に捲回して貫通部の貫通穴に押し込むようにして固定することもでき、耐火処理の施工性が特に高められる。
【0040】
また、上記実施形態の熱膨張性耐火シート1は、第1耐火材料からなる第1帯状領域11と、第2耐火材料からなる第2帯状領域12とが一体化されて並んで設けられ、第1耐火材料は第2耐火材料に比べ、膨張後の形状維持性が高いので、火災の際に長時間にわたって貫通部の閉塞がなされる。すなわち、膨張後の形状維持性が高い第1耐火材料からなる第1帯状領域11の部分は、火炎や熱風にさらされてもその形状を長時間にわたって維持でき、耐火処理部材が喪失しにくくなる。また、第2耐火材料からなる第2帯状領域12の部分は、第1帯状領域に比べ膨張性を高めることができるため、仮に第1帯状領域11の膨張が不十分で隙間が生じたとしても、かかる隙間を第2耐火材料からなる第2帯状領域12の膨張によって埋めることができ、貫通部を火炎や熱風が通過してしまうことを阻止できる。
【0041】
そして、上記実施形態の熱膨張性耐火シート1は、第1帯状領域が周方向に延在するように、熱膨張性耐火シートを円筒状に丸め、火災の発生が予測される側に第1帯状領域が位置するように、円筒状に丸めた熱膨張性耐火シートを貫通部の貫通穴に配置することにより耐火処理を完了させることができる。そのため、耐火処理の施工性が高いとともに、膨張後の形状維持性が高い第1耐火材料からなる第1帯状領域11を火炎側に配置しつつ、第2耐火材料からなる第2帯状領域12により隙間の封止を図ることができ、火災の際に長時間にわたって確実に貫通部の閉塞がなされうる。
【0042】
さらに、第1耐火材料からなる第3帯状領域13が設けられ、第2帯状領域12が第1帯状領域11と第3帯状領域13の間に一体化されて配置されるようにした場合には、貫通穴のいずれの方向から火炎が来ても、火炎が来る側に膨張後の形状維持性が高い第1耐火材料からなる帯状領域が面するようにできる。この場合、火炎がどちらから来るかをあまり考慮しなくても施工ができるため、耐火処理の施工性がより高められる。また、火炎や熱風に強い帯状領域が両側に配されているため、耐火処理の長時間の確実性もより向上する。
【0043】
また、第1耐火材料が亜リン酸アルミニウムを含むようにした場合には、第1耐火材料を、膨張後の形状維持性がより高いものとしやすく、耐火処理の長時間の確実性がより向上できる。
【0044】
また、第1耐火材料および第2耐火材料が熱膨張性黒鉛を含む場合には、これら第1耐火材料や第2耐火材料の膨張特性が調整しやすくなり、膨張した耐火材料が適度な断熱性を維持しやすくなり、耐火処理の長時間の確実性が特に向上する。
【0045】
また、上記第1実施形態のように、第1帯状領域11と第2帯状領域12を並べて一体化する際に、第1帯状領域11を構成する第1耐火材料を薄く延長して、第2耐火材料からなる第2帯状領域12に積層するように一体化すると、次の効果も得られる。
第1帯状領域11と第2帯状領域12の接合一体化が確実で強固なものとなるため、運搬時や施工時に、第1帯状領域11と第2帯状領域12が分離してしまうことが予防でき、施工性がより高められる。
【0046】
また、上記第1実施形態のように、第1帯状領域11と第2帯状領域12、第3帯状領域13を並べて一体化する際に、第1耐火材料を第1帯状領域11と第3帯状領域13の間に薄く延長して、この薄い延長部に第2耐火材料からなる第2帯状領域12と積層するように一体化すると、以下の効果も得られる。
この場合、第1帯状領域11と第3帯状領域13の間に第1耐火材料が薄く延長された部分は、第2耐火材料に比べ膨張しにくく、膨張後の形状維持性も高いため、第2耐火材料からなる第2帯状領域が貫通穴の中心軸方向に過度に膨張して、第1帯状領域11や第3帯状領域13の部分を貫通穴の外へ押し出してしまうことが予防される。これにより、膨張後の形状維持性が高い第1帯状領域11や第3帯状領域13が貫通部の外に脱落し喪失してしまうことが予防され、耐火処理の長時間の確実性がより向上する。
【0047】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0048】
図4には、第2実施形態の熱膨張性耐火シート2の構造を、平面図および断面図で示す。第2実施形態の熱膨張性耐火シート2もテープ状である。
図4では、図の上下方向をテープの幅方向で示している。本実施形態では、熱膨張性耐火シート2は、シートの面直方向から見て、第1耐火材料からなる第1帯状領域21と、第2耐火材料からなる第2帯状領域22とが並ぶように
一体化して構成される。本実施形態のように、第3帯状領域が存在しなくてもよい。
【0049】
第2実施形態の熱膨張性耐火シート2であっても、第1実施形態と同様に、第1帯状領域21が周方向に延在するように、熱膨張性耐火シート2を円筒状に丸め、火災の発生が予測される側に第1帯状領域21が位置するように、円筒状に丸めた熱膨張性耐火シートを貫通部の貫通穴に配置してやれば、耐火処理を完了させることができ、施工が簡単であり、火災の際に長時間にわたって貫通部の閉塞がなされる。
【0050】
また、本実施形態のように、第1耐火材料からなる第1帯状領域21と、第2耐火材料からなる第2帯状領域22の接合は、
図4の断面図に示したように、それぞれの領域を単層のテープ状に形成しつつ、領域端部を突き合わせるように接合するようにしてもよい。この場合、熱膨張性耐火シート2の製造が簡単になる。
【0051】
また、図示しないが、熱膨張性耐火シート2には、さらに他の層、例えばガラス繊維の織布層等が積層されていてもよい。こうした層は補強層として機能し、第1帯状領域21と第2帯状領域22がバラバラになってしまうことを予防するとともに、火災の際には、各耐火材料がシート面に沿う方向に膨張することを抑制し、第1帯状領域21や第2帯状領域22がシートの厚み方向に膨張することを促進するので、耐火性をより向上させることができる。
【0052】
また、シートの面直方向から見た際に第1実施形態と同様に帯状領域が配置された第3実施形態の熱膨張性耐火シート3を、
図5に示すような断面の構造となるように構成することもできる。
図5では、図の左右がテープの幅方向となるように断面を示している。第3実施形態の熱膨張性耐火シート3は、第1実施形態の熱膨張性耐火シート1と断面構造、すなわち、各帯状領域の接合形態が異なるが、他の点は第1実施形態の熱膨張性耐火シート1と同様であり、同様な作用効果を示す。
【0053】
第3実施形態の熱膨張性耐火シート3では、第2帯状領域32を構成する第2耐火材料が、テープの幅方向外側に向かって薄く延長されており、その延長された部分に、第1耐火材料からなる第1帯状領域31と第3帯状領域33がそれぞれ積層され一体化されている。このような構成とした場合には、第1帯状領域31や第3帯状領域33の部分の貫通穴半径方向の膨張性を高めやすくなり、第1帯状領域31や第3帯状領域33の部分がより耐火性能の向上に寄与する。
【0054】
上記実施形態の説明においては、熱膨張性耐火シートがテープ状である例を中心に説明したが、熱膨張性耐火シートは所定の長さと幅にカットされたシート状であってもよい。
【0055】
熱膨張性耐火シートは、硬質なシートであってもよいが、施工性を高める観点からは、シートが手指で簡単に曲げられる程度に軟質なシートであることが好ましい。好ましくは、熱膨張性耐火シートは、デュロAで60~85度程度の硬度を有する耐火材料により構成されることが好ましい。
【0056】
なお、あらかじめ円筒状に形成されていて、部材の弾力性を利用して施工ができるようにされているなど、耐火処理の施工性に特に問題がないのであれば、熱膨張性耐火シートを構成する耐火材料は、より硬質な、すなわち、デュロAで85~95度程度の硬度を有する耐火材料であってもよい。
【0057】
また、上記実施形態の説明では、主に、円形の貫通穴を有する貫通部の耐火処理をする例を中心に説明したが、熱膨張性耐火シートを用いた耐火処理は、上述した処理方法に限定されない。例えば、貫通部が狭いスリット状の隙間であれば、適度な寸法にカットした熱膨張性耐火シートを、第1帯状領域が火災が発生する側に位置するように、隙間に押し込んで配置すれば、耐火処理を完了できる。また、例えば、貫通部が矩形状の角穴であれば、適度な寸法にカットした熱膨張性耐火シートを、火災が発生する側に第1帯状領域が位置するように積み重ねて、角穴の内側の空間を埋めるように配置すれば、耐火処理を完了できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上記実施形態の複数周以上捲回可能な可撓性を有する熱膨張性耐火シートは、防火区画の貫通部の耐火処理に使用でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0059】
1 熱膨張性耐火シート
11 第1帯状領域
12 第2帯状領域
W 壁
H 貫通穴
C ケーブル