IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 飛島建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-油分検出システム 図1
  • 特許-油分検出システム 図2
  • 特許-油分検出システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】油分検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20240527BHJP
   C02F 1/40 20230101ALI20240527BHJP
【FI】
G01N1/10 Q
C02F1/40 F
C02F1/40 L
C02F1/40 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021210295
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023094788
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】梶 正樹
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-126763(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1119492(KR,B1)
【文献】国際公開第2013/052007(WO,A1)
【文献】特開2003-149146(JP,A)
【文献】特開平11-005591(JP,A)
【文献】特開2009-262705(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111167169(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10- 1/20
C02F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊する油分を含んだ水を収集する油分収集装置と、前記油分収集装置が収集した水から油分を検出する油分検出手段と、漏油対策対象物および前記油分収集装置を取り囲んで配置され、水に浮遊する油分の拡散を防止する拡散防止手段と、前記油分収集装置へ向けて油分が流動するよう水流を発生させる水流発生手段と、を備え、
前記油分収集装置は、水が流入する取込口と、前記油分収集装置内の水を該油分収集装置内から排出する水排出手段とを有し、
前記拡散防止手段で囲まれた範囲内において前記水流発生手段により水流を発生させて浮遊する油分を含んだ水を前記油分収集装置に向けて流動させ、前記油分収集装置内に流入した水から、前記油分検出手段が油分を検出する、
ことを特徴とする油分検出システム。
【請求項2】
前記油分収集装置は、前記取込口から流入した水が流動する流動板を有し、前記取込口の取込口下端が水面より低い位置になるよう調整設置され、
前記油分検出手段は、前記流動板上を流動する水から油分を検出する、
ことを特徴とする請求項1記載の油分検出システム。
【請求項3】
前記流動板は、取込口と対向する側が前記取込口側より低くなるように傾斜した状態で保持されている、
ことを特徴とする請求項2記載の油分検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋河川工事分野、例えばダム貯水池などにおいて、工事で生じる漏油による水質汚濁を防止するため、油分を監視し、検出する油分検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の油分回収事例としては、例えば貯水施設や貯油施設等での油膜検知器を用いた油分回収事例(遮断弁付き放流配管)はあるが、海洋河川工事分野での事例はない。海洋河川工事分野でも使用機械器具からの漏油防止対策、または漏油が発生した場合に油分を除去する対策が必要であり、漏油対策としては、作業区域(主要作業船の周囲)をオイルフェンスで包囲し、小型船舶上からの包囲した区域内を目視観察し、必要枚数の油吸着マット(例えば300mm×300mm×10mm)を投入して、油分の回収する方法等がある。
【0003】
ここで、油分検知器としては、レーザ光を水面へ照射しその反射光を受光することで、反射光強度の違いにより油分を検知する装置(例えば特開平10-090177号公報)などがある。
【0004】
しかしながら、飲料水確保を目的とした利水ダム湖上での工事では、油分が放流設備へ取り込まれないように、油分の完全回収が必須とされ、通常より厳しい条件下での工事が要求される。例えば、作業区域が70t吊クレーン付き台船の周囲を含む比較的広範囲な湖面上であった場合には、目視では漏油を全て確認できるか定かではなく、一部見落とされる懸念がある。また、作業を行わない夜間にも作業区域内で漏油が生じないとも限らない。
【0005】
そこで、漏油を常時監視するとともに確実に漏油を回収する対策が求められており、今後もこうした社会要請が高まると考えられる。本件発明はこのような点に鑑みなされたもので、比較的広範囲の作業エリアであっても、表面水を確実かつ効率よく定点へ誘導して油分の発生を常時監視できるシステムを提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-090177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かくして、本発明は前記従来の要請及び従来の課題に対処すべく創案されたものであって、比較的広範囲の作業エリアであっても、表面水及び油分を確実に油分収集装置へ誘導し収集することができ、もって油分の発生を常時監視でき、現場条件を踏まえてシステムを構築することができるため確実かつ効率よく油分の発生を監視し、検出することができる油分検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
浮遊する油分を含んだ水を収集する油分収集装置と、前記油分収集装置が収集した水から油分を検出する油分検出手段と、漏油対策対象物および前記油分収集装置を取り囲んで配置され、水に浮遊する油分の拡散を防止する拡散防止手段と、前記油分収集装置へ向けて油分が流動するよう水流を発生させる水流発生手段と、を備え、
前記油分収集装置は、水が流入する取込口と、前記油分収集装置内の水を該油分収集装置内から排出する水排出手段とを有し、
前記拡散防止手段で囲まれた範囲内において前記水流発生手段により水流を発生させて浮遊する油分を含んだ水を前記油分収集装置に向けて流動させ、前記油分収集装置内に流入した水から、前記油分検出手段が油分を検出する、
ことを特徴とし、
または、
前記油分収集装置は、前記取込口から流入した水が流動する流動板を有し、前記取込口の取込口下端が水面より低い位置になるよう調整設置され、
前記油分検出手段は、前記流動板上を流動する水から油分を検出する、
ことを特徴とし、
または、
前記流動板は、取込口と対向する側が前記取込口側より低くなるように傾斜した状態で保持されている、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的広範囲の作業エリアであっても、表面水及び油分を確実に油分収集装置へ誘導し収集することができ、もって油分の発生を常時監視でき、現場条件を踏まえてシステムを構築することができるため確実かつ効率よく油分の発生を監視することができるとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の概略構成を説明する説明図(1)である。
図2】本発明の概略構成を説明する説明図(2)である。
図3】本発明の概略構成を説明する説明図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図に示す実施例に基づいて説明する。
図1は本発明の油分検出システムの平面視を模式的に示した図である。本発明の油分検出システムは、例えば湖やダム貯水池などの飲料水の確保を目的とした利水ダム湖上でクレーン台船など工事用船舶5を使用した工事において主に用いられるものである。
【0012】
前記油分検出システムは、図1に示されるとおり、拡散防止手段(誘導用フェンス1)と、油分収集装置2と、油分検出手段3と、水流発生手段4とを備えて構成されている。以下に、各構成について詳述する。
【0013】
まず、前記誘導用フェンス1は、例えば、油分漏出対策が必要な工事用船舶5などの漏油対策対象物の周囲を所定の範囲で包囲して、漏油が発生した場合に所定範囲外への油分の拡散を防止するためのものであり、汚濁防止膜(例えばオイルフェンスやシルトフェンス)などが用いられる。また、誘導用フェンス1は、油分収集装置2に向かうにつれて漸次幅が狭くなるように配置されており、これにより水や水に浮遊する油分を前記油分収集装置2内に確実に、かつ効率よく誘導することができるのである。
【0014】
次に、油分収集装置2は、前記誘導用フェンス1内であって、前記工事用船舶5の船尾付近に設置されている(図1参照)。設置方法の一例としては、工事用船舶5の船尾から水平方向に張り出したアングルに鋼材(φ50mm)を鉛直方向に延びるように取り付け、油分収集装置2に取り付けたさや管(φ60mm)内に前記鋼材を挿入することで、前記油分収集装置2が水面の揺れに合わせて上下に揺れ動くことができるように設置することができる。
【0015】
ここで、図2は油分収集装置2の模式図を示しており、(a)は斜視図、(b)は平面図である。図2(a)、(b)から理解されるとおり、前記油分収集装置2は、略四角箱状をした収集体6が両側側面に取り付けられたフロート7に支持されて、水面上に浮遊した状態で設置されている。したがって、前述したとおり、前記油分収集装置2が水面の揺れに合わせて上下に揺れ動くことができ、水面の揺れによる破損などを防止することができるのである。
【0016】
そして、前記収集体6には、ウエイト8が取り付けられている。図2(a)、(b)では、取込口9が設けられた前面の両端と後面の略中央にウエイト8が取り付けられて構成されている。なお、前記フロート7及びウエイト8が収集体6に取り付けられる位置については何ら限定されるものではなく、本発明が用いられる現場条件に応じて決定されるものである。
【0017】
そして、前記収集体6には、取り込んだ水分を貯留する集水部10が設けられている。前記集水部10内に効率よく表面水を取り込むために、収集路11が設けられており、前記収集路11は、取込口9から徐々に幅狭となるよう対向する側壁が形成されている。
【0018】
そして、前記取込口9の取込口下端部13から前記収集体6の内側に延出する底板として流動板14が設置されている。該流動板14を設けることにより、油分が浮遊した水が前記取込口9から流入した場合、上部に油分を有する水が、例えば渦巻き状態となって撹拌などされることなく、収集路11を通過できることとなる。
【0019】
すなわち、前記流動板14により、油分が水に浮遊した状態のまま前記収集路11を通過することができるのである。その結果、攪拌されることなく、流動板14上を油分が水に浮遊した状態のまま一定方向に流れるため、後述する油分検出手段3が油分を検出する精度を高めることができる。なお、流動板14は、取込口9から流入した水が集水部10へ向けて流動できれば、取込口下端部13から内側に延出する構成に限定されるものではなく、例えば、取込口下端部13のやや下方位置から流動板14を接続し、該流動板14を内側方向に延出させ、もって段差が出来るような構成にしてもよい。
【0020】
ここで、図3は前記収集体6の勾配を示す模式図である。なお、図3に記載の矢印は流入される水の流れる方向を示している。図3に示されるとおり、集水部10に水が流れ込みやすくするために、前記集水部10に貯留される水面の高さは、油分収集装置2の周囲の水位(例えば利水ダム湖の表面水位)より低くなるよう調整されている。そのため前記集水部10の水面の高さを調節するため、前記集水部10内には水分を排出させる水分排出手段12が設けられている。前記水分排出手段12は、例えばポンプ式などが用いられ、集水部10における前記油分収集装置2の取込口9と対向する側の下方に設置されている。
【0021】
そして、前記収集体6の取込口9は、例えば利水ダム湖の表面水位より水中に沈むように調整されている(図3参照)。したがって、前記ウエイト8の重量と、フロート7の浮力と、集水部10内に貯留された水分と、水分排出手段12の重量との関係により、油分収集装置2の吃水量と装置姿勢が調整されているのである。
【0022】
具体的には、図3から理解されるとおり、前記取込口9の取込口下端部13からの水深が5mm以下となり、かつ前記収集体6において取込口9と対向する後面(奥側)が前記取込口9より低く(深く)、前記取込口9の取込口下端部13から延出する流動板14が取込口9側から奥側へ下り勾配の傾斜状となるように、油分収集装置2の吃水量・装置姿勢を調整する。この際、取込口下端部13が水面から沈む深さ、かつ流動板14の傾斜角度によって、前記油分収集装置2に流入される流入量や流入する水の勢いが変化するため、油分収集装置2の吃水量・装置姿勢を調整することは、本発明の重要な構成となる。
【0023】
さらに、稼働中もこの状態が維持されるように、流入量に対して水分排出手段12の排水量を調整する。なお、集水部10の貯水量が所定の基準以下になった場合には、前記水分排出手段12が自動で停止するようなセンサ式のオンオフ切替手段(図示していない)を設けても良い。
【0024】
次に、図2及び図3に示す油分検出手段3は、前記油分収集装置2の収集路11上に設置されている。前記油分検出手段3の設置方法の一例としては、工事用船舶5に取付架台を介して設置し、波浪等による該工事用船舶5の揺れ(傾き)に対して平均的に前記収集路11上の水面に垂直にレーザを照射できるように設置調整されている。よって、前記油分検出手段3の収集路11を通過する表面水にレーザなどを照射して、その反射光を受光することにより油分の有無を検知することができるのである。
【0025】
この場合においても、流動板14が取込口9の取込口下端部13から前記収集体6の内側に延出して設けられているため、前記流動板14上を油分が水に浮遊した状態のまま一定方向に流れることにより、この流動板14上を流動する水から前記油分検出手段3が油分の有無を検知でき、油分の検出精度を高めることができる。
【0026】
前記油分検出手段3が油分を検知した場合は、所定の警報システムにより工事関係者のスマートフォンやパーソナルコンピュータなどの情報端末、および、浄水場などに警報が発令されて通知されることとなる。そして、工事関係者は、誘導用フェンス1内の油分の有無を目視確認し、油分を確認した場合には漏油対応を行うなど、早急な対応が可能となる。
【0027】
次に、水流発生手段4について説明する。
本発明では、前記水流発生手段4は前記誘導用フェンス1内において、例えば2か所に設置され(図1参照)、前記油分収集装置2に向けて水流を発生させている。なお、図1に記載の矢印は水の流れる方向を示している。
【0028】
前記水流発生手段4は、例えば、陸上部に発電機(25KVAビックタンク仕様)を設置して、3.7Kwの比較的高出力の水中ポンプを設置することで、この水中ポンプの排水によってジェット水流を発生させることができる。そして、発生したジェット水流により、前記誘導用フェンス1内において前記油分収集装置2に向けて水の流れを誘導する。これにより、強風時であったとしても表面水を前記油分収集装置2へ向けて誘導することができるのである。
【0029】
なお、前記油分収集装置2へ向けて水流を発生させることができるものであれば、水中ポンプに限定されるものではない。また、前記水流発生手段4の排水口を2か所に分岐することも考えられ、ジェット水流を2か所から発生させて、効率的に水の流れを誘導することができる。
【0030】
次に、本発明の油分検出システムに係る動作の一例について説明する。
誘導用フェンス1内の2か所において設置された水流発生手段4によって水流(ジェット水流)を発生させて、前記誘導用フェンス1内の表面水を油分収集装置2へ向けて誘導する。なお、誘導用フェンス1が油分収集装置2へ向けて漸次幅が狭くなるように配置されることで、水流発生手段4で発生させた水流によって、確実かつ効率的に表面水が油分収集装置2へ向けて誘導される。
【0031】
ここで、前記油分収集装置2の取込口9の取込口下端部13は、利水ダム湖の表面水位より5mm程度沈むように調整されており、また、前記油分収集装置2は取込口9から後方に向かうにつれて、流動板14が下り勾配となるように前記油分収集装置2が傾斜した状態で保持されている。さらに、前記油分収集装置2の集水部10に貯留される水面の高さは、利水ダム湖の表面水位より低く水位差が生じるように、水分排出手段12によって前記集水部10内の貯留量が調整されている。なお、前記水分排出手段12は、前記集水部10の貯水量が所定の基準以下になった場合には、前記水分排出手段12が停止するよう構成されている。
【0032】
すなわち、取込口下端部13が利水ダム湖の水面より低く配置され、かつ、前記流動板14に下り勾配の傾斜が設けられるとともに、常時貯留される水面の高さは利水ダム湖の表面水位より低く水位差が生じるように調整されているため、取込口9から収集体6内へ表面水を引き込むように、確実に、かつ効率よく利水ダム湖の表面水を流入させ、集水部10に流れ込むように集水することができるのである。
【0033】
そして、前記油分収集装置2の収集路11を通る利水ダム湖の表面水には、油分検出手段3からレーザが照射され、その反射光の変化によって油分が検出されることとなる。その際においても、前記収集路11を設け、かつ流動板14を設置しているため、流入水が撹拌などされにくく一定方向に安定して流れやすいため、油分を確実に検出することができる。
【0034】
利水ダム湖の表面水から油分が検出された場合は、所定の報知システムにて工事関係者へ報知(各自の情報端末、浄水場および現場事務所などへ警報発令)され、工事関係者は、早急に例えば移動船等で湖上を移動しながら漏出した油分を確認し、吸着マット(例えばマジックファイバ(登録商標))を投入して吸着回収するとともに、例えば粉状の活性炭などを投入して消臭することとなる。なお、活性炭を使用する場合は、沈殿するので回収する必要がない。その後、油分が漏出した発生原因の確認と流出防止対策を行うことで、水質汚濁を防ぐことができるのである。
【0035】
この油分検出システムは、基本的に工事の作業期間中に稼働し、検出対象は、作業船や作業機械で使用される例えばガソリン、軽油、作動油およびグリス等を想定しているが、油分による水質汚濁対策を要する環境であれば例示した油分以外に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 誘導用フェンス
2 油分収集装置
3 油分検出手段
4 水流発生手段
5 工事用船舶
6 収集体
7 フロート
8 ウエイト
9 取込口
10 集水部
11 収集路
12 水分排出手段
13 取込口下端部
14 流動板
図1
図2
図3