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特許7493908多孔性フィルム、二次電池用セパレータおよび二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】多孔性フィルム、二次電池用セパレータおよび二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/409 20210101AFI20240527BHJP
【FI】
H01M50/409
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018509630
(86)(22)【出願日】2018-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2018005159
(87)【国際公開番号】W WO2018155287
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2017031749
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 信康
(72)【発明者】
【氏名】生駒 啓
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【合議体】
【審判長】金丸 治之
【審判官】稲葉 大紀
【審判官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-192529(JP,A)
【文献】特開2016-172426(JP,A)
【文献】特開2004-307625(JP,A)
【文献】特開2004-345269(JP,A)
【文献】特開2005-327633(JP,A)
【文献】特開2015-71241(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を有し、
該多孔質層の表面開孔率をα、該多孔質層の断面空隙率をβとしたとき、α/βが50%以下であり、前記多孔質層の表面開孔率αが20%以下であり、前記多孔質層の断面空隙率βが50%以上65%以下であり、
前記多孔質層が耐熱樹脂を含み、前記耐熱樹脂がポリアミド、ポリアミドイミドおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であり、
前記耐熱樹脂の固有粘度(η)が2.5dl/g以上8.0dl/g以下である、多孔性フィルム。
【請求項2】
前記耐熱樹脂が、下記式(1)で示される構造を含む芳香族ポリアミドを含む、請求項1に記載の多孔性フィルム。
-NH-Ar-NH-CO-Ar-CO- ・・・(1)
ただし、Ar、Arはいずれも芳香族基を示す。
【請求項3】
前記多孔質層が無機粒子を含む、請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項4】
前記多孔質層100質量%における前記耐熱樹脂の含有量が1質量%以上50質量%未満である、請求項1から3のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の多孔性フィルムを用いてなる二次電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項に記載の二次電池用セパレータを用いてなる二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性フィルム、二次電池用セパレータおよび二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のような二次電池は、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ゲーム機などのポータブルデジタル機器、電動工具、電動バイク、電動アシスト補助自転車などのポータブル機器、および電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの自動車用途など、幅広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン電池は、一般的に、正極活物質を正極集電体に積層した正極と、負極活物質を負極集電体に積層した負極との間に、二次電池用セパレータと電解質が介在した構成を有している。
【0004】
二次電池用セパレータとしては、ポリオレフィン系多孔質基材が用いられている。二次電池用セパレータに求められる特性としては、多孔構造中に電解液を含み、イオン移動を可能にする特性と、リチウムイオン電池が異常発熱した場合に、熱で溶融することで多孔構造が閉鎖され、イオン移動を停止させることで、発電を停止させるシャットダウン特性が挙げられる。
【0005】
しかしながら、近年のリチウムイオン電池の高容量化、高出力化に伴い、前記特性のみならず、二次電池用セパレータには、さらなる高い安全性の付与が求められてきている。リチウムイオン電池が異常発熱した場合、上記のシャットダウン特性が作動した後、さらに電池が加熱されることで、二次電池用セパレータの破膜が発生してしまう。また、リチウムイオン電池に衝撃が加わることで、局所的に圧力がかかった状態で発熱し、二次電池用セパレータの破膜が発生する場合もある。このような二次電池用セパレータの破膜が発生すると、電池内部で短絡が発生し、電池の発火、爆発を引き起こす可能性がある。このように、二次電池用セパレータには、シャットダウン特性に加え、高温での耐熱破膜性が要求される。
【0006】
また一方では、リチウムイオン電池には、高出力化、長寿命化といった優れた電池特性も求められており、二次電池用セパレータへの安全性付与の際に、電池特性を低下させることなく、良好な電池特性を発現することが求められている。
【0007】
これらの要求に対して、特許文献1では、ポリオレフィンを主体とする多孔質膜に無機粒子を含む多孔質層を積層することで、熱収縮率を低減することができる二次電池用セパレータが提案されている。また、特許文献2では、耐熱性含窒素芳香族重合体とセラミック粉末を多孔質基材上に積層することで、高耐熱性でショート温度が高い二次電池用セパレータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5183435号公報
【文献】特許第3175730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1は無機粒子により熱収縮率を低減しているが、シャットダウン後の高温領域に到達した際、無機粒子を含む多孔質層も、基材であるポリオレフィンも、容易に熱破膜が発生し、十分な安全性を確保することができない。また、特許文献2では、耐熱性含窒素芳香族重合体を積層しているため、耐熱破膜性は良好であるが、耐熱性含窒素芳香族重合体の割合が大きく、無機粒子の粒径が小さいため、電池特性の劣化が大きく、またコストも上昇する。
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記問題に鑑み、耐熱破膜性が高く、かつ優れた電池特性を有する多孔性フィルムを低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、耐熱破膜性が高く、かつ優れた電池特性を有する多孔性フィルムを低コストで提供するために、鋭意検討を重ねた。その結果、多孔質層の表面開孔率αを、多孔質層の断面空隙率βの50%以下にすることで、耐熱破膜性が高く、かつ優れた電池特性を有する多孔性フィルムを低コストで提供することを可能にした。
【0012】
上記課題を解決するため本発明の多孔性フィルムは次の構成を有する。
(1)多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を有し、該多孔質層の表面開孔率をα、該多孔質層の断面空隙率をβとしたとき、α/βが90%以下である、多孔性フィルム。
(2)前記α/βが50%以下である、(1)に記載の多孔性フィルム。
(3)前記多孔質層の表面開孔率αが35%以下である、(1)または(2)に記載の多孔性フィルム。
(4)前記多孔質層の断面空隙率βが40%以上80%以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(5)前記多孔質層が耐熱樹脂を含む、(1)から(4)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(6)前記耐熱樹脂がポリアミド、ポリアミドイミドおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である、(5)に記載の多孔性フィルム。
(7)前記耐熱樹脂が、下記式(1)で示される構造を含む芳香族ポリアミドを含む、(5)または(6)に記載の多孔性フィルム。
【0013】
-NH-Ar-NH-CO-Ar-CO- ・・・(1)
ただし、Ar、Arはいずれも芳香族基を示す。
(8)前記多孔質層が無機粒子を含む、(1)から(7)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(9)前記多孔質層100質量%における前記耐熱樹脂の含有量が1質量%以上50質量%未満である、(5)から(8)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(10)前期耐熱樹脂の固有粘度(η)が2.0dl/g以上8.0dl/g以下である、(1)から(9)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(11)(1)から(10)のいずれかに記載の多孔性フィルムを用いてなる二次電池用セパレータ。
(12)(11)に記載の二次電池用セパレータを用いてなる二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多孔質層の表面開孔率αを、多孔質層の断面空隙率βの50%以下にすることで、耐熱破膜性が高く、かつ優れた電池特性を有する多孔性フィルムを低コストで提供することができる。本発明の多孔性フィルムを用いることで、高容量、高出力、長寿命、低コストの二次電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明多孔性フィルムは、多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を有し、多孔質層の表面開孔率αが、多孔質層の断面空隙率βの50%以下である、多孔性フィルムである。以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
[多孔質層]
(多孔質構造)
本発明の多孔質層における多孔質構造は、多孔質層の表面開孔率をα、多孔質層の断面空隙率をβとしたとき、α/βが90%以下である。α/βは多孔質層全体の空隙率に対する表面開孔率の割合を表わし、αが耐熱破膜性、βが電池特性を示す数値となるため、耐熱破膜性と電池特性の両立を示す数値となる。好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。多孔質層の表面開孔率αが多孔質層の断面空隙率βの90%より大きい場合、十分な耐熱破膜性を得ることができない場合がある。
【0017】
また、多孔質層の表面開孔率αは35%以下であることが好ましい。より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。多孔質層の表面開孔率αが35%より大きい場合、十分な耐熱破膜性を得られない場合がある。
【0018】
また、多孔質層の断面空隙率βは40%以上80%以下であることが好ましい。より好ましくは45%以上70%以下、さらに好ましくは50%以上65%以下である。多孔質層の断面空隙率βが40%より小さい場合、十分なイオン透過性が得られず、電池特性が低下する場合がある。また、80%よりも大きい場合、十分な耐熱破膜性を得られない場合がある。
【0019】
多孔質層の表面開孔率αおよび断面空隙率βは以下の手法を用いて得られる。多孔質層の表面および断面に対して、イオンコートを行い、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)より表面および断面の画像データを得る。得られた画像データから画像解析を行い、画像全体から開孔していない部分を引くことで開孔部の面積を算出し、表面開孔率α、および断面空隙率βを得ることができる。
【0020】
(耐熱樹脂)
本発明の耐熱樹脂とは、融点を150℃以上に有する樹脂、または実質的に融点を有さない樹脂を意味する。ここで融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)にて、初めに昇温、冷却した後の2回目の昇温時の吸熱ピークのピークトップを融点とする。融点を150℃以上に有する樹脂とは、150℃以上に上記ピークトップを有する樹脂をいい、融点を有さない樹脂とは、測定温度範囲-20~230℃において、上記ピークトップを有さない樹脂のことをいう。上記のような樹脂として、例えば、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアセタール、などの耐熱樹脂を含むことが耐熱破膜性向上の観点から好ましい。これらの中でも特に、耐熱樹脂がポリアミド、ポリアミドイミドおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。より好ましくは、耐熱樹脂が芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリイミドであり、さらに好ましくは耐熱樹脂が芳香族ポリアミドである。
【0021】
芳香族ポリアミドとしては、例えばメタ配向芳香族ポリアミドと、パラ配向芳香族ポリアミドが挙げられる。本発明においては、どちらを用いてもよいが、多孔質層の強度や耐熱破膜性が優れる点からパラ配向芳香族ポリアミドが好ましい。
【0022】
ここで、パラ配向芳香族ポリアミドとは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの重合により得られるものであり、化学式(1)および/または化学式(2)で表される繰り返し単位を基本骨格とする。
【0023】
また、Ar、Ar、Arとしては、例えば、次の化学式(3)~(7)などが挙げられる。また、化学式(6)、(7)におけるX、Yは、-O-、-CO-、-SO-、-CH-、-S-、-C(CH-などから選択することができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
【化1】
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
【0027】
芳香族ジアミンの具体例としては、パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、2-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、1-5’-ナフタレンジアミン、4、4’-ジアミノジフェニルスルフォンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
また、芳香族ジカルボン酸ハライドの具体例としては、テレフタル酸クロライド、2-クロロテレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、2-クロロイソフタル酸クロライド、2,6’-ナフタレンジカルボン酸クロライドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明における耐熱樹脂は、下記式(1)で示される構造を含む芳香族ポリアミドを含むことが好ましい。
-NH-Ar-NH-CO-Ar-CO- ・・・(1)
ただし、Ar、Arはいずれも芳香族基を示す。
【0030】
上記芳香族ポリアミドは、化学式(1)で表されるArの5モル%以上80モル%以下がエーテル基を有する芳香族基であることが好ましい。より好ましくは7モル%以上60モル%以下、さらに好ましくは10モル%以上40モル%以下である。エーテル基を有する芳香族基が5モル%よりも少ない場合、十分な多孔質構造が得られず、電池特性が低下する場合がある。また、80モル%よりも多い場合、十分な耐熱破膜性が得られない場合がある。また、多孔質層の強度が低下し、十分な安全性が得られない場合がある。また、製造工程上で、多孔質層の脱離へ変形が起こる場合がある。
【0031】
Arのエーテル基を有する芳香族基の含有量は、まず、金枠に固定した、多孔質基材上に多孔質層が積層された多孔性フィルム試料を、試料100質量部に対して100質量部の濃硫酸中に室温下で24時間浸漬することで試料から多孔質層を回収する。その後、遠心分離機等で不溶分(例えば無機粒子)を除去し、回収した樹脂成分から化学的な手法(分子量分析法、質量分析法、核磁気共鳴法、フーリエ変換赤外分光法等)の組合せにより算出することができる。
【0032】
前記芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度(η)は、2.0dl/g以上8.0dl/g以下が好ましい。固有粘度を増大させることは、芳香族ポリアミド樹脂の重合度すなわち分子量を増大させることであり、芳香族ポリアミド樹脂の耐熱性が向上する。そのため、固有粘度の高い芳香族ポリアミド樹脂を用いた二次電池用セパレータは、十分な耐熱破膜性を得ることができる。したがって、固有粘度(η)を2.0dl/g以上、より好ましくは2.5dl/g以上、さらに好ましくは3.6dl/g以上とすることで、十分な耐熱破膜性を得ることができる。もしくは、耐熱破膜性を高めるために芳香族ポリアミド樹脂の添加量を抑えることができ、透気度の上昇、および空隙率の低下による電池特性の低下を防ぐことができる。一方、固有粘度を増大し過ぎると重合時の取り扱い性の低下、および生産性の低下を招く場合がある。固有粘度(η)を8.0dl/g以下、より好ましくは7.0dl/g以下、さらに好ましくは6.0dl/g以下とすることで、重合時の取り扱い性の低下、および生産性の低下を防ぐことができる。また、溶媒への溶解性の低下や芳香族ポリアミド樹脂分子の凝集により、多孔質膜を形成することが困難となるのを防ぐことができる。
【0033】
また、前記芳香族ポリアミドは、化学式(1)のArおよびArの芳香族基の少なくとも一部が、電気吸引性基で置換されていることが好ましい。好ましくは、すべての芳香族基の合計の30~100モル%が、電子求引性基で置換された芳香族基であり、より好ましくは、50~100モル%である。ここで、本発明における電子求引性基とは、電気陰性度が2.5以上の基をいう。電子求引性基として、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基などのハロゲン基、トリフルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基、ニトロ基、シアノ基、シアネート基、フェニル基などが挙げられる。
【0034】
(無機粒子)
本発明の多孔質層は無機粒子を含むことが好ましい。多孔質層が無機粒子を含むことで熱寸法安定性および異物による短絡の抑制を付与することができる。
【0035】
具体的に無機粒子としては、酸化アルミニウム、ベーマイト、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウムなどの無機酸化物粒子、窒化アルミニウム、窒化硅素などの無機窒化物粒子、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶粒子などが挙げられる。これらの粒子を1種類で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
用いる無機粒子の平均粒径は、0.10μm以上5.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.20μm以上3.0μm以下、さらに好ましくは0.30μm以上1.0μm以下である。0.10μmより小さいと、多孔質層が緻密になることで透気度が高くなる場合がある。また、空孔径が小さくなることから電解液の含浸性が低下し生産性に影響を与える場合がある。5.0μmより大きくなると、十分な寸法安定性が得られない場合があり、また多孔質層の膜厚が増大し、電池特性の低下をもたらす場合がある。
【0037】
用いる粒子の形状としては、球状、板状、針状、棒状、楕円状などが挙げられ、いずれの形状であってもよい。その中でも、表面修飾性、分散性、塗工性の観点から球状であることが好ましい。
【0038】
(多孔質層の形成)
本発明の多孔性フィルムは、多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を有し、多孔質層の表面開孔率αが、多孔質層の断面空隙率βの50%以下である、多孔性フィルムの製造方法で得られるが、その方法について以下に説明する。
【0039】
耐熱樹脂として、芳香族ポリアミドを用いる場合、ジアミンと酸ジクロライドを原料として、溶液重合などの公知の製法により製造された芳香族ポリアミドと無機粒子を溶媒中に分散させることで塗工液を調整する。ここで、分散させる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性有機極性溶媒を用いることができる。この中でも、後工程での多孔質構造の形成の観点から、N-メチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0040】
また、多孔質化を促進するために、芳香族ポリアミドの貧溶媒を添加してもよい。中でも水の添加が好ましく、添加する水の量は、芳香族ポリアミド100質量部に対して、500質量部以下が好ましい。添加する水の量が500質量部より多くなると、芳香族ポリアミドが塗工液中で凝固するなど、塗剤の安定性が十分に得られない場合がある。
【0041】
塗工液中には、芳香族ポリアミドと無機粒子以外にも、電極との接着性を付与するために、フッ素樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリビニルピロリドンなどの有機樹脂を添加することもできる。添加するフッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのホモポリマー系、エチレン・テトラフルオロエチレンポリマー、エチレン-クロロトリフルオロエチレンポリマー、などのコポリマー系が挙げられる。また、ホモポリマー系とテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレンなどとのコポリマーなども挙げられる。これらのフッ素樹脂の中でもポリフッ化ビニリデン系樹脂、特には、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体からなる樹脂が、電気的安定性と耐酸化性の点から好ましく、酸性官能基を有することが電極との接着性の点から好ましい。酸性官能基とは、プロトン(H)を放出可能な官能基であり、酸性官能基として、具体的には、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。これらのうちの1種類を使用してもよく、2種類以上で組み合わせてもよい。酸性官能基として、特にカルボン酸基が好ましく、カルボン酸基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸、およびその誘導体、また、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などのジカルボン酸、およびその酸無水物、またはその誘導体が挙げられる。これらは、1種類を使用してもよく、2種類以上で組み合わせてもよい。これらの中でも、ジカルボン酸が好ましく、マレイン酸が特に好ましい。
【0042】
また、塗工液には、必要に応じて、分散剤、増粘剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を添加してもよい。
【0043】
塗工液の分散方法としては、公知の手法を用いればよい。ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、ペイントシェーカーなどが挙げられる。これら複数の混合分散機を組み合わせて段階的に分散を行ってもよい。
【0044】
塗工液を調製する順序としては特に限定はされない。分散工程の効率化の観点から、芳香族ポリアミドと非プロトン性有機極性溶媒を混合し、溶解させ、その溶解液にアルミナ、その他の有機樹脂、添加剤等を添加し、塗工液を調整することが好ましい。
【0045】
次に、得られた塗工液を多孔質基材上に塗工し、水槽中に浸漬させ、乾燥を行い、多孔質層を積層する。塗工方法としては、公知の方法で塗工すればよい。例えば、ディップコーティング、グラビアコーティング、スリットダイコーティング、ナイフコーティング、コンマコーティング、キスコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷などが利用できる。これらに限定されることはなく、用いるフッ素樹脂、有機樹脂、無機粒子、バインダー、分散剤、レベリング剤、使用する溶媒、基材などの好ましい条件に合わせて塗工方法を選択すればよい。また、塗工性を向上させるために、例えば、多孔質基材にコロナ処理、プラズマ処理などの塗工面の表面処理を行ってもよい。
【0046】
多孔質層における耐熱樹脂の含有量は、多孔質層全体100質量%中、1質量%以上50質量%未満であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上30質量%未満である。さらに好ましくは、3質量%以上15質量%未満である。多孔質層を複数有する場合は、各々の多孔質層について考えるものとする。
【0047】
多孔質層における耐熱樹脂の含有量が、1質量%未満の場合、十分な耐熱破膜性が得られない場合がある。また、50質量%以上の場合、耐熱樹脂の含有量が大きく、十分な多孔質構造が得られず、電池特性が低下する場合がある。また、コスト面でも不利となる場合がある。多孔質層を複数有する場合は、各々の多孔質層について、少なくとも一つの層について、耐熱樹脂の含有量が、1質量%以上50質量%未満であることが好ましく、全ての多孔質層について、耐熱樹脂の含有量が、1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。
【0048】
多孔質層の膜厚は、1μm以上8μm以下であることが好ましい。より好ましくは、1.5μm以上6μm以下である。さらに好ましくは2μm以上5μm以下である。ここでいう多孔質層の膜厚とは、多孔質基材の片面に多孔質層を有する多孔性フィルムの場合は、当該多孔質層の膜厚をいい、多孔質基材の両面に多孔質層を有する多孔性フィルムの場合は、当該両方の多孔質層の膜厚の合計をいう。多孔質層の膜厚が1μmよりも薄い場合、十分な耐熱破膜性が得られない場合がある。また、6μmより厚い場合、十分な多孔質構造が得られず、電池特性が低下する場合がある。また、コスト面でも不利となる場合がある。なお、多孔質基材の両面に多孔質層を有する場合は、両方の多孔質層の膜厚の合計が1μm以上8μm以下であることが好ましい。
【0049】
多孔質層の積層による透気度の上昇値は、250秒/100cc以下であることが好ましい。より好ましくは200秒/100cc以下である。ここで、多孔質層の積層による透気度の上昇値とは、多孔質層を有する多孔性フィルムの透気度から多孔質基材単体での透気度を引いた値であり、多孔質層を積層したことによる透気度の上昇値を表すものでる。多孔質層の積層による透気度の上昇が250秒/100ccよりも大きくなると、電池特性が低下する場合がある。
【0050】
[多孔質基材]
本発明において、多孔質基材としては、内部に空孔を有する多孔膜、不織布、または繊維状物からなる多孔膜シートなどが挙げられる。多孔質基材を構成する材料としては、電気絶縁性であり、電気的に安定で、電解液にも安定である樹脂から構成されていることが好ましい。また、シャットダウン機能を付与する観点から用いる樹脂は融点が200℃以下の熱可塑性樹脂が好ましい。ここでのシャットダウン機能とは、リチウムイオン電池が異常発熱した場合に、熱で溶融することで多孔構造を閉鎖し、イオン移動を停止させて、発電を停止させる機能のことである。
【0051】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂が挙げられ、前記多孔質基材はポリオレフィン系多孔質基材であることが好ましい。また、前記ポリオレフィン系多孔質基材は融点が200℃以下であるポリオレフィン系多孔質基材であることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、その共重合体、およびこれらを組み合わせた混合物などが挙げられ、例えばポリエチレンを90質量%以上含有する単層の多孔質基材、ポリエチレンとポリプロピレンからなる多層の多孔質基材などが挙げられる。
【0052】
多孔質基材の製造方法としては、ポリオレフィン系樹脂をシートにした後に延伸することで多孔質化する方法やポリオレフィン系樹脂を流動パラフィンなどの溶剤に溶解させてシートにした後に溶剤を抽出することで多孔質化する方法が挙げられる。
【0053】
多孔質基材の厚みは、3μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上、また30μm以下である。多孔質基材の厚みが50μmより厚くなると多孔質基材の内部抵抗が高くなる場合がある。また、多孔質基材の厚みが3μmより薄くなると製造が困難になり、また十分な力学特性が得られない場合がある。
【0054】
多孔質基材の透気度は、50秒/100cc以上1,000秒/100cc以下であることが好ましい。より好ましくは50秒/100cc以上、また500秒/100cc以下である。透気度が1,000秒/100ccよりも大きいと、十分なイオン移動性が得られず、電池特性が低下してしまう場合がある。50秒/100ccよりも小さい場合は、十分な力学特性が得られない場合がある。
【0055】
[多孔性フィルム]
本発明の多孔性フィルムは、多孔質基材の少なくとも片面に、上述の多孔質層を有する多孔性フィルムである。多孔質層は、イオン透過性を有するために十分に多孔化されていることが好ましく、多孔性フィルムの透気度として、50秒/100cc以上1,000秒/100cc以下であることが好ましい。より好ましくは、50秒/100cc以上500秒/100cc以下である。さらに好ましくは、50秒/100cc以上300秒/100cc以下である。透気度が1,000秒/100ccよりも大きいと、十分なイオン移動性が得られず、電池特性が低下してしまう場合がある。50秒/100ccよりも小さい場合は、十分な力学特性が得られない場合がある。
【0056】
[二次電池]
本発明の多孔性フィルムは、リチウムイオン電池等の二次電池用セパレータに好適に用いることができる。リチウムイオン電池は、正極活物質を正極集電体に積層した正極と、負極活物質を負極集電体に積層した負極との間に、二次電池用セパレータと電解質が介在した構成となっている。
【0057】
正極は、活物質、バインダー樹脂、および導電助剤からなる正極材が集電体上に積層されたものであり、活物質としては、LiCoO、LiNiO、Li(NiCoMn)O、などの層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnなどのスピネル型マンガン酸化物、およびLiFePOなどの鉄系化合物などが挙げられる。バインダー樹脂としては、耐酸化性が高い樹脂を使用すればよい。具体的にはフッ素樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが挙げられる。導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛などの炭素材料が用いられている。集電体としては、金属箔が好適であり、特にアルミニウムが用いられることが多い。
【0058】
負極は、活物質およびバインダー樹脂からなる負極材が集電体上に積層されたものであり、活物質としては、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料、スズやシリコンなどのリチウム合金系材料、Liなどの金属材料、およびチタン酸リチウム(LiTi12)などが挙げられる。バインダー樹脂としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが用いられる。集電体としては、金属箔が好適であり、特に銅箔が用いられることが多い。
【0059】
電解液は、二次電池の中で正極と負極との間でイオンを移動させる場となっており、電解質を有機溶媒にて溶解させた構成をしている。電解質としては、LiPF、LiBF 、およびLiClOなどが挙げられるが、有機溶媒への溶解性、イオン電導度の観点からLiPFが好適に用いられている。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ガンマブチロラクトン、およびスルホランなどが挙げられ、これらの有機溶媒を2種類以上混合して使用してもよい。
【0060】
二次電池の作製方法としては、まず活物質と導電助剤をバインダー溶液中に分散して電極用塗布液を調製し、この塗布液を集電体上に塗工して、溶媒を乾燥させることで正極、負極がそれぞれ得られる。乾燥後の塗工膜の膜厚は50μm以上500μm以下とすることが好ましい。得られた正極と負極の間に二次電池用セパレータを、それぞれの電極の活物質層と接するように配置し、アルミラミネートフィルム等の外装材に封入し、電解液を注入後、負極リードや安全弁を設置し、外装材を封止する。このようにして得られた二次電池は、耐熱破膜性が高く、かつ優れた電池特性を有し、また、低コストでの製造が可能となる。
【実施例
【0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。本実施例で用いた測定法を以下に示す。
【0062】
[測定方法]
(1)表面開孔率α、断面空隙率β
表面開孔率αの場合は、多孔性フィルムの表面にイオンコーターを用いてイオンコートを行い、サンプルを作製した。また、断面空隙率βの場合は、多孔性フィルムを液体窒素にて凍結し、上部からアルゴンビームを照射することで、断面を作製し(Cryo-BIB法)、断面にイオンコーターを用いてイオンコートを行い、測定用サンプルを作製した。得られたサンプルを、日立ハイテクノロジー社製電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)S4800を用いて加速電圧1.5kVにて、表面を撮影倍率2万倍、断面を撮影倍率4万倍で観察し、画像データを得た(スケールバーなどの表示がない、観察部のみの画像)。得られた画像データから多孔質層のみが残るように画像を切り取り、MVTec社製HALCON Ver.10.0を用いて画像解析を行い、表面開孔率α(%)および断面空隙率β(%)を算出した。画像解析方法としては、まず256階調モノクロ画像に対して、11画素平均画像Aと3画素平均画像Bをそれぞれ生成し、画像B全体の面積(Area_all)を算出した。
【0063】
次に画像Bから画像Aを差として除去し、画像Cを生成し、輝度≧10となる領域Dを抽出した。抽出した領域Dを塊ごとに分割し、面積≧100となる領域Eを抽出した。その領域Eに対して、半径2.5画素の円形要素でクロージング処理した領域Fを生成し、横1×縦5画素の矩形要素でオープニング処理した領域Gを生成することで、縦サイズ<5の画素部を除去した。そして、領域Gを塊ごとに分割し、面積≧500となる領域Hを抽出することで、フィブリル領域を抽出した。
【0064】
さらに画像Cにて画像≧5となる領域Iを抽出し、領域Iを塊ごとに分割し、面積≧300となる領域Jを抽出した。領域Jに対して、半径1.5画素の円形要素でオープニング処理した後、半径8.5画素の円形要素でクロージング処理した領域Kを生成し、領域Kに対して、面積≧200となる領域Lを抽出した。領域Lにおいて、面積≧4,000画素の暗部を明部で埋めた領域Mを生成することでフィブリル以外の未開孔部の領域を抽出した。
【0065】
最後に、領域Hと領域Mの和領域Nを生成し、和領域Nの面積(Area_closed)を算出することで、未開孔部の面積を求めた。なお、表面開孔率α、および断面空隙率βの計算は、以下の式により算出した。
【0066】
表面開口率α、断面空隙率β(%)=(Area_all - Area_closed) / Area_all×100
得られた表面開孔率αと断面空隙率βから、以下の式によりα/βを算出した。
【0067】
α/β(%)=表面開孔率α(%)/断面空隙率β(%)×100
上記の方法にて、同じ多孔性フィルムの両面において10ヶ所ずつ測定し、その平均値の値を当該サンプルのα/β(%)とした。
【0068】
(2)熱破膜温度
50mm×50mmサイズの多孔性フィルムを切り出し、中央に12mmの貫通孔のある2枚のステンレス板で試料を挟み、さらにその両側から中央に12mmの貫通孔のある加熱ブロック板で挟んだ。貫通孔にタングステン製で直径9.5mmの球を乗せ、加熱ブロックを5℃/分で昇温していき、球が落下した際の温度を計測した。50mm×50mmサイズの試料を5枚用意し、測定を実施した平均値を熱破膜温度とした。160℃未満を×、160℃以上200℃未満を△、200℃以上250℃未満を○、250℃以上を◎とした。
【0069】
(3)固有粘度(η)
臭化リチウム(LiBr)を2.5質量%添加したN-メチルピロリドン(NMP)に、ポリマーを0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ粘度計を使用して、30℃にて流下時間を測定した。ポリマーを溶解させないブランクのNMPの流下時間も同様に測定し、下式を用いて固有粘度(η)(dl/g)を算出した。
固有粘度(η)(dl/g)=〔ln(t/t0)〕/0.5
t0:ブランクの流下時間(秒)
t:サンプルの流下時間(秒)。
【0070】
(4)電池作製
正極シートは、正極活物質としてLi(Ni5/10Mn2/10Co3/10)Oを92質量部、正極導電助剤としてアセチレンブラックとグラファイトを2.5質量部ずつ、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部を、プラネタリーミキサーを用いてN-メチル-2-ピロリドン中に分散させた正極スラリーを、アルミ箔上に塗布、乾燥、圧延して作製した(塗布目付:9.5mg/cm)。
【0071】
この正極シートを40mm×40mmに切り出した。この時、活物質層の付いていない集電用のタブ接着部が、前記活物質面の外側に5mm×5mmの大きさになるように切り出した。幅5mm、厚み0.1mmのアルミ製のタブをタブ接着部に超音波溶接した。
【0072】
負極シートは、負極活物質として天然黒鉛98質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを1質量部、負極結着剤としてスチレン-ブタジエン共重合体1質量部を、プラネタリーミキサーを用いて水中に分散させた負極スラリーを、銅箔上に塗布、乾燥、圧延して作製した(塗布目付:5.5mg/cm)。
【0073】
この負極シートを45mm×45mmに切り出した。この時、活物質層の付いていない集電用のタブ接着部が、前記活物質面の外側に5mm×5mmの大きさになるように切り出した。正極タブと同サイズの銅製のタブをタブ接着部に超音波溶接した。
【0074】
次に、多孔性フィルムを55mm×55mmに切り出し、多孔性フィルムの両面に上記正極と負極を活物質層が多孔性フィルムを隔てるように重ね、正極塗布部が全て負極塗布部と対向するように配置して電極群を得た。1枚の90mm×200mmのアルミラミネートフィルムに上記正極・負極・多孔性フィルムを挟み込み、アルミラミネートフィルムの長辺を折り、アルミラミネートフィルムの長辺2辺を熱融着し、袋状とした。
【0075】
エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1モル/リットルとなるように溶解させ、作製した電解液を用いた。袋状にしたアルミラミネートフィルムに電解液1.5gを注入し、減圧含浸させながらアルミラミネートフィルムの短辺部を熱融着させてラミネート型電池とした。
【0076】
(5)放電負荷特性
放電負荷特性を下記手順にて試験を行い、放電容量維持率にて評価した。
【0077】
上記ラミネート型電池を用いて、25℃下、0.5Cで放電したときの放電容量と、10Cで放電したときの放電容量とを測定し、(10Cでの放電容量)/(0.5Cでの放電容量)×100で放電容量維持率を算出した。ここで、充電条件は0.5C、4.3Vの定電流充電とし、放電条件は2.7Vの定電流放電とした。上記ラミネート型電池を5個作製し、放電容量維持率が最大、最小となる結果を除去した3個の測定結果の平均を容量維持率とした。放電容量維持率が55%未満を×、55%以上65%未満を○、65%以上の場合を◎とした。
【0078】
(6)充放電サイクル特性
充放電サイクル特性を下記手順にて試験を行い、放電容量維持率にて評価した。
【0079】
〈1~300サイクル目〉
充電、放電を1サイクルとし、充電条件を2C、4.3Vの定電流充電、放電条件を2C、2.7Vの定電流放電とし、25℃下で充放電を300回繰り返し行った。
【0080】
〈放電容量維持率の算出〉
(300サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100で放電容量維持率を算出した。上記ラミネート型電池を5個作製し、放電容量維持率が最大、最小となる結果を除去した3個の測定結果の平均を容量維持率とした。放電容量維持率が60%未満を×、60%以上70%未満を○、70%以上の場合を◎とした。なお、以下の実施例2、6、8、9、11~13は、参考例2、6、8、9、11~13と読み替える。
【0081】
(実施例1)
脱水したN-メチル-2-ピロリドンに、ジアミン全量に対して85モル%に相当する2-クロロ-1,4-フェニレンジアミンと15モル%に相当する4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを溶解させた。そこへ酸ジクロライドとして、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライドを添加し撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸ジクロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウムで中和し、さらに15モル%のジエタノールアミン、25モル%のトリエタノールアミンにて中和し、芳香族ポリアミド濃度が10質量%である芳香族ポリアミド溶液を得た。芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度(η)は4.3dl/gであった。
【0082】
得られた芳香族ポリアミド溶液にN-メチル-2-ピロリドンを加え、芳香族ポリアミドとアルミナ粒子の合計100質量部に対して、芳香族ポリアミドが10質量部となるようにアルミナ粒子(平均粒径0.4μm)を添加した。その混合溶液を攪拌機で予備分散した後に、ビーズミルを用いて分散を行い、塗工液を得た。
【0083】
得られた塗工液をディップコートにて、ポリエチレン多孔質基材(厚み5μm、透気度120秒/100cc)の両面に塗工し、その後、水槽に浸漬し、含有される溶媒が揮発するまで乾燥することで多孔質層を形成し、本発明の多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムについて、多孔質層の表面開孔率、断面空隙率、多孔質層の両面合計の膜厚、熱破膜温度、放電負荷特性、充放電サイクル特性の測定結果を表1に示す。
【0084】
(実施例2)
芳香族ポリアミドとアルミナ粒子の合計100質量部に対して、芳香族ポリアミドが5質量部となるようにし、表面開孔率を15%、断面空隙率を68%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0085】
(実施例3)
多孔質層の両面合計の膜厚を3.0μmにした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0086】
(実施例4)
多孔質層の両面合計の膜厚を1.5μmにした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0087】
(実施例5)
多孔質層の両面合計の膜厚を7.0μmにした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0088】
(実施例6)
表面開孔率を15%、断面空隙率を68%、多孔質層の両面合計の膜厚を3.5μmにした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0089】
(実施例7)
芳香族ポリアミドとアルミナ粒子の合計100質量部に対して、芳香族ポリアミドが20質量部となるようにし、表面開孔率を5%、断面空隙率を50%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0090】
(実施例8)
芳香族ポリアミドとアルミナ粒子の合計100質量部に対して、芳香族ポリアミドが35質量部となるようにし、表面開孔率を2%、断面空隙率を40%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0091】
(実施例9)
表面開孔率を15%、断面空隙率を66%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0092】
(実施例10)
芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度(η)を5.1dl/g、多孔質層の両面合計の膜厚を2.0μmにした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0093】
(実施例11)
芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度(η)を3.5dl/g、芳香族ポリアミドとアルミナ粒子の合計100質量部に対して、芳香族ポリアミドが50質量部となるようにし、表面開孔率を50%、断面空隙率を60%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0094】
(実施例12)
芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度(η)を2.5dl/g、表面開孔率を40%、断面空隙率を70%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0095】
(実施例13)
芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度(η)を2.0dl/gにした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0096】
(実施例14)
芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度(η)を3.0dl/gにした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0097】
(比較例1)
表面開孔率を50%、断面空隙率を55%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0098】
(比較例2)
芳香族ポリアミドとアルミナ粒子の合計100質量部に対して、芳香族ポリアミドが3質量部となるようにし、表面開孔率を65%、断面空隙率を65%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0099】
(比較例3)
芳香族ポリアミドとアルミナ粒子の合計100質量部に対して、芳香族ポリアミドが20質量部となるようにし、表面開孔率を60%、断面空隙率を55%にした以外は実施例1と同様にして、本発明の多孔性フィルムを得た。
【0100】
【表1】
【0101】
表1から、実施例1~14は、いずれも、多孔質基材の少なくとも片面に、多孔質層を有し、多孔質層の表面開孔率が、多孔質層の断面空隙率の50%以下である、多孔性フィルムであるため、十分な耐熱破膜性と良好な電池特性が得られる。
【0102】
一方、比較例1~3は、表面開孔率が高く、断面空隙率も高いため、電池特性は良好であるが、十分な耐熱破膜性が得られない。