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特許7493913蓄電デバイス用バインダー組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用バインダー組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240527BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240527BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240527BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240527BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20240527BHJP
   C08F 236/04 20060101ALI20240527BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20240527BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240527BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/139
H01M4/1395
C08F236/04
H01G11/38
H01G11/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019088393
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2020184462
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】中山 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】大塚 巧治
(72)【発明者】
【氏名】増田 香奈
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180101(WO,A1)
【文献】特開2014-199742(JP,A)
【文献】特開2016-058184(JP,A)
【文献】特開2016-058185(JP,A)
【文献】特開2010-205722(JP,A)
【文献】特開2015-111575(JP,A)
【文献】特開2014-103122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C08F 236/04
H01G 11/38
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a1)30~65質量部と、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5~40質量部と、
α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a3)15~40質量部と、を含有し、かつ、下記条件を満たす、蓄電デバイス用バインダー組成物。
<条件>
前記重合体(A)をスピンコートし、160℃で6時間乾燥して得られたフィルムを、SiOプローブを用いたAFM(原子間力顕微鏡)で測定したときの、前記SiOプローブに対する前記フィルムの接着強度が80N/m以上300N/m以下である。
【請求項2】
前記重合体(A)を、体積分率1:1のプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとからなる溶媒に、70℃、24時間の条件で浸漬させたときの膨潤率が、150%以上350%以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物。
【請求項3】
前記重合体(A)が重合体粒子であり、
前記重合体粒子の表面酸量が0.5mmol/g以上3mmol/g以下である、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物。
【請求項4】
前記重合体粒子の数平均粒子径が、50nm以上500nm以下である、請求項3に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物。
【請求項5】
前記液状媒体(B)が水である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用バインダー組成物と、活物質と、を含有する、蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項7】
前記活物質としてケイ素材料を含有する、請求項6に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項8】
さらに、セルロースファイバーを含有する、請求項6または請求項7に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項9】
集電体と、前記集電体の表面に請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備える蓄電デバイス電極。
【請求項10】
請求項9に記載の蓄電デバイス電極を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用バインダー組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の駆動用電源として、高電圧かつ高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。このような蓄電デバイスとしては、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタなどが期待されている。
【0003】
このような蓄電デバイスに使用される電極は、活物質と、バインダーとして機能する重合体とを含有する組成物(蓄電デバイス電極用スラリー)を集電体の表面へ塗布及び乾燥させることにより製造される。バインダーとして使用される重合体に要求される特性としては、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、電極を巻き取る工程における耐擦性、その後の裁断などによっても、塗布・乾燥された組成物塗膜(以下、「活物質層」ともいう。)から活物質の微粉などが脱落しない粉落ち耐性などを挙げることができる。
【0004】
なお、上記の活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、並びに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。従って本明細書では、以下、これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
【0005】
近年、蓄電デバイスの更なる高出力化及び高エネルギー密度化を達成する観点から、リチウム吸蔵量の大きい材料を活物質として利用する検討が進められている。例えば、特許文献1に開示されているようにリチウムの理論吸蔵量が最大で約4,200mAh/gであるケイ素材料を活物質として活用する手法が有望視されている。
【0006】
しかしながら、このようなリチウム吸蔵量の大きい材料を利用した活物質は、リチウムの吸蔵・放出により大きな体積変化を伴う。このため、従来使用されている電極用バインダーを、このようなリチウム吸蔵量の大きい材料に適用すると、密着性を維持することができずに活物質が剥離するなどし、充放電に伴って顕著な容量低下が発生する。
【0007】
電極用バインダーの密着性を改良するための技術としては、粒子状のバインダー粒子の表面酸量を制御する技術(特許文献2及び特許文献3参照)や、エポキシ基やヒドロキシ基を有するバインダーを用いて上記特性を向上させる技術(特許文献4及び特許文献5参照)などが提案されている。また、ポリイミドの剛直な分子構造で活物質を束縛し、活物質の体積変化を押さえ込もうとする技術(特許文献6参照)が提案されている。また、ポリアクリル酸のような水溶性ポリマーを用いる技術(特許文献7参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-185810号公報
【文献】国際公開第2011/096463号
【文献】国際公開第2013/191080号
【文献】特開2010-205722号公報
【文献】特開2010-3703号公報
【文献】特開2011-204592号公報
【文献】国際公開第2015/098050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1~7に開示されているような電極用バインダーは、リチウム吸蔵量が大きく、かつ、リチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化が大きいケイ素材料に代表される新たな活物質を実用化するにあたり密着性が十分であるとは言えなかった。このような電極用バインダーを使用すると、充放電を繰り返すことにより活物質が脱落するなどして電極が劣化するため、実用化に必要とされる充放電耐久特性が十分に得られないという課題があった。
【0010】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、柔軟性及び密着性に優れるとともに、良好な充放電耐久特性を示す蓄電デバイス電極を製造可能な蓄電デバイス用バインダー組成物を提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、該組成物を含有する蓄電デバイス電極用スラリーを提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、柔軟性及び密着性に優れるとともに、良好な充放電耐久特性を示す蓄電デバイス電極を提供する。さらに、本発明に係る幾つかの態様は、充放電耐久特性に優れる蓄電デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0012】
本発明に係る蓄電デバイス用バインダー組成物の一態様は、
重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)が、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a1)30~65質量部と、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5~40質量部と、
α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a3)10~40質量部と、を含有し、かつ、下記条件を満たす。
<条件>
前記重合体(A)をスピンコートし、160℃で6時間乾燥して得られたフィルムを、SiOプローブを用いたAFM(原子間力顕微鏡)で測定したときの、前記SiOプローブに対する前記フィルムの接着強度が80N/m以上300N/m以下である。
【0013】
前記蓄電デバイス用バインダー組成物の一態様において、
前記重合体(A)を、体積分率1:1のプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとからなる溶媒に、70℃、24時間の条件で浸漬させたときの膨潤率が、150%以上350%以下であることができる。
【0014】
前記蓄電デバイス用バインダー組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(A)が重合体粒子であり、
前記重合体粒子の表面酸量が0.5mmol/g以上3mmol/g以下であることができる。
【0015】
前記蓄電デバイス用バインダー組成物のいずれかの態様において、
前記重合体粒子の数平均粒子径が、50nm以上500nm以下であることができる。
【0016】
前記蓄電デバイス用バインダー組成物のいずれかの態様において、
前記液状媒体(B)が水であることができる。
【0017】
本発明に係る蓄電デバイス電極用スラリーの一態様は、
前記いずれかの態様の蓄電デバイス用バインダー組成物と、活物質と、を含有する。
【0018】
前記蓄電デバイス電極用スラリーの一態様において、
前記活物質としてケイ素材料を含有することができる。
【0019】
前記蓄電デバイス電極用スラリーのいずれかの態様において、
さらに、セルロースファイバーを含有することができる。
【0020】
本発明に係る蓄電デバイス電極の一態様は、
集電体と、前記集電体の表面に前記いずれかの態様の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備える。
【0021】
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
前記態様の蓄電デバイス電極を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る蓄電デバイス用バインダー組成物によれば、柔軟性及び密着性を向上できるため、良好な充放電耐久特性を示す蓄電デバイス電極を製造することができる。本発明に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、蓄電デバイス電極が活物質としてリチウム吸蔵量の大きい材料、例えばグラファイトのような炭素材料やケイ素材料を含有する場合に特に上記の効果を発揮する。このように、蓄電デバイス電極の活物質としてリチウム吸蔵量の大きい材料を使用できるので、電池性能も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0024】
なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~」及び「メタクリル酸~」の双方を包括する概念である。同様に「~(メタ)アクリレート」とは、「~アクリレート」及び「~メタクリレート」の双方を包括する概念である。同様に「(メタ)アクリルアミド」とは、「アクリルアミド」及び「メタクリルアミド」の双方を包括する概念である。
【0025】
本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0026】
1.蓄電デバイス用バインダー組成物
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、重合体(A)と、液状媒体(B)とを含有する。本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力並びに粉落ち耐性を向上させた蓄電デバイス電極(活物質層)を作製するための材料として使用することもできるし、充放電に伴って発生するデンドライトに起因する短絡を抑制するための保護膜を作製するための材料として使用することもできる。以下、本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0027】
1.1.重合体(A)
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、重合体(A)を含有する。重合体(A)は、該重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a1)(以下、単に「繰り返し単位(a1)」ともいう。)30~65質量部と、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)(以下、単に「繰り返し単位(a2)」ともいう。)5~40質量部と、α,β―不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a3)(以下、単に「繰り返し単位(a3)」ともいう。)10~40質量部と、を含有する。また、重合体(A)は、前記繰り返し単位の他に、それと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。
【0028】
また、重合体(A)は、次の条件を満たす。すなわち、前記重合体(A)をスピンコートし、160℃で6時間乾燥して得られたフィルムを、SiOプローブを用いたAFM(原子間力顕微鏡)で測定したときの、前記SiOプローブに対する前記フィルムの接着強度が80N/m以上300N/m以下である。
【0029】
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物に含まれる重合体(A)は、液状媒体(B)中に分散されたラテックス状であってもよいし、液状媒体(B)中に溶解された状態であってもよいが、液状媒体(B)中に分散されたラテックス状であることが好ましい。重合体(A)が液状媒体(B)中に分散されたラテックス状であると、活物質と混合して作製される蓄電デバイス電極用スラリー(以下、単に「スラリー」ともいう。)の安定性が良好となり、またスラリーの集電体への塗布性が良好となるため好ましい。
【0030】
以下、重合体(A)を構成する各繰り返し単位、重合体(A)の物性、製造方法の順に説明する。
【0031】
1.1.1.重合体(A)を構成する各繰り返し単位
1.1.1.1.共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a1)
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a1)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、30~65質量部である。繰り返し単位(a1)の含有割合の下限としては、33質量部であることが好ましく、35質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(a1)の含有割合の上限としては、60質量部であることが好ましく、55質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(a1)を前記範囲で含有することにより、活物質やフィラーの分散性が良好となり、均一な活物質層や保護膜の作製が可能となるため、電極板の構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示すようになる。また、活物質の表面を被覆した重合体(A)に伸縮性を付与することができ、重合体(A)が伸縮することで密着性を向上できるので、良好な充放電耐久特性を示すようになる。
【0032】
共役ジエン化合物としては、特に限定されないが、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらの中でも、1,3-ブタジエンが特に好ましい。
【0033】
1.1.1.2.不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)>
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、5~40質量部である。繰り返し単位(a2)の含有割合の下限としては、7質量部であることが好ましく、10質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(a2)の含有割合の上限としては、35質量部であることが好ましく、30質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(a2)を前記範囲で含有することにより、活物質やフィラーの分散性が良好となる。さらに、活
物質としてのケイ素材料との親和性を向上させ、該ケイ素材料の膨潤を抑制することで良好な充放電耐久特性を示すようになる。
【0034】
不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の、モノカルボン酸及びジカルボン酸(無水物を含む。)を挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸から選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0035】
1.1.1.3.α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a3)
α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、10~40質量部である。繰り返し単位(a3)の含有割合の下限としては、12質量部であることが好ましく、15質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(a3)の含有割合の上限としては、35質量部であることが好ましく、30質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(a3)を前記範囲で含有することにより、重合体(A)の電解液への溶解を低減することが可能となり、電解液による密着性の低下を抑制することができる。また、蓄電デバイス中で溶解した重合体成分が電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0036】
α,β-不飽和ニトリル化合物としては、特に限定されないが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられ、これらから選択される1種以上を使用することができる。これらのうち、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルよりなる群から選択される1種以上が好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。
【0037】
1.1.1.4.その他の繰り返し単位
重合体(A)は、前記繰り返し単位(a1)~(a3)の他に、これらと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。このような繰り返し単位としては、例えば、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a4)(以下、単に「繰り返し単位(a4)」ともいう。)、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a5)(以下、単に「繰り返し単位(a5)」ともいう。)、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a6)(以下、単に「繰り返し単位(a6)」ともいう。)、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a7)(以下、単に「繰り返し単位(a7)」ともいう。)、スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a8)(以下、単に「繰り返し単位(a8)」ともいう。)、カチオン性単量体に由来する繰り返し単位等が挙げられる。
【0038】
<(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a4)>
重合体(A)は、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a4)を含有してもよい。繰り返し単位(a4)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、0.1~10質量部であることが好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a4)を前記範囲で含有することにより、活物質やフィラーのスラリー中の分散性が良好となる場合がある。また、得られる活物質層の柔軟性が適度となり、集電体と活物質層との密着性が良好となる。さらに、グラファイトのような炭素材料とケイ素材料を含有する活物質同士の結合能力を高めることができるため、柔軟性や集電体に対する密着能力がより良好な活物質層が得られる場合がある。
【0039】
(メタ)アクリルアミドとしては、特に限定されないが、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-
ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、アクリルアミドtert-ブチルスルホン酸等が挙げられ、これらから選択される1種以上であることができる。
【0040】
<水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a5)>
重合体(A)は、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a5)を含有してもよい。繰り返し単位(a5)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、0.1~10質量部であることが好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a5)を前記範囲で含有することにより、後述するスラリーを作製する際に、活物質を凝集させることなく、活物質が良好に分散されたスラリーを作製しやすくなる場合がある。これにより、スラリーを塗布・乾燥して作製された活物質層中の重合体(A)が均一に近い分布となるので、結着欠陥が非常に少ない蓄電デバイス電極を作製できる場合がある。すなわち、活物質同士の結合能力及び活物質層と集電体との密着能力を飛躍的に向上できる場合がある。
【0041】
水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらから選択される1種以上であることができる。中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0042】
<不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a6)>
重合体(A)は、不飽和カルボン酸エステル(前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く。)に由来する繰り返し単位(a6)を含有してもよい。繰り返し単位(a6)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、0.1~30質量部であることが好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a6)を前記範囲で含有することにより、重合体(A)と電解液との親和性が良好となり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制するとともに、電解液を過大に吸収することによる密着性の低下を防ぐことができる場合がある。
【0043】
不飽和カルボン酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用することができる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル等が挙げられ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0044】
<芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a7)>
重合体(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a7)を含有してもよい。繰り返し単位(a7)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、0.1~30質量部であることが好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a7)を前記範囲で含有することにより、活物質として用いられるグラファイトに対して適度な結着力を有するようになり、柔軟性及び密着性に優れた蓄電デバイス電極が得られる場合がある。
【0045】
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらから選択される1種以上であることができる。
【0046】
<スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a8)>
重合体(A)は、スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a8)を含有してもよい。繰り返し単位(a8)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、0.1~10質量部であることが好ましい。
【0047】
スルホン酸基を有する化合物としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アクリルアミドプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する化合物、及びこれらのアルカリ塩などを用いてもよい。
【0048】
<カチオン性単量体に由来する繰り返し単位>
重合体(A)は、カチオン性単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。カチオン性単量体としては、特に限定されないが、第二級アミン(塩)、第三級アミン(塩)及び第四級アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体であることが好ましい。これらカチオン性単量体の具体例としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩化メチル4級塩、(メタ)アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸3-(ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(ジエチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸4-(ジメチルアミノ)フェニル、(メタ)アクリル酸2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチル、(メタ)アクリル酸2-(0-[1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(1-アジリジニル)エチル、メタクロイルコリンクロリド、イソシアヌル酸トリス(2-アクリロイルオキシエチル)、2-ビニルピリジン、キナルジンレッド、1,2-ジ(2-ピリジル)エチレン、4’-ヒドラジノ-2-スチルバゾール二塩酸塩水和物、4-(4-ジメチルアミノスチリル)キノリン、1-ビニルイミダゾール、ジアリルアミン、ジアリルアミン塩酸塩、トリアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジクロルミド、N-アリルベンジルアミン、N-アリルアニリン、2,4-ジアミノ-6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン、N-trans-シンナミル-N-メチル-(1-ナフチルメチル)アミン塩酸塩、trans-N-(6,6-ジメチル-2-ヘプテン-4-イニル)-N-メチル-1-ナフチルメチルアミン塩酸塩等が挙げられる。これらの単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
1.1.2.重合体(A)の物性
<AFM測定における接着強度>
重合体(A)は、次の条件により測定されるAFMのSiOプローブに対する接着強
度が80N/m以上300N/m以下である。該接着強度の下限は、90N/mであることが好ましく、100N/mであることがより好ましい。該接着強度の上限は、280N/mであることが好ましく、260N/mであることがより好ましい。この接着強度が前記範囲内であると、粒子状のシリコン系活物質との接着力が向上し、活物質同士や集電体と活物質との密着性が良好となるため、蓄電デバイス電極の充放電耐久特性が向上するものと推測される。
(条件)
重合体(A)をスピンコートし、160℃で6時間乾燥して得られたフィルムを、SiOプローブを用いたAFM(原子間力顕微鏡)で測定したときの、前記SiOプローブに対する前記フィルムの接着強度を求める。なお、AFM測定は、後述の実施例に記載された方法を適用する。
【0050】
<電解液膨潤率>
重合体(A)を、体積分率1:1のプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとからなる溶媒に、70℃、24時間の条件で浸漬させたときの膨潤率(「電解液膨潤率」ともいう。)は、好ましくは150%以上350%以下であり、より好ましくは155%以上330%以下であり、特に好ましくは160%以上300%以下である。重合体(A)の電解液膨潤率が前記範囲内にあると、重合体(A)は電解液を吸収することにより適度に膨潤することができる。その結果、溶媒和したリチウムイオンが容易に活物質に到達できるようになるので、電極抵抗を効果的に低下させ、より良好な充放電特性を実現できる。また、前記範囲内の電解液膨潤率であれば、重合体(A)が電解液を吸収しても大きな体積変化が生じないため密着性にも優れる。
【0051】
<数平均粒子径>
重合体(A)が粒子である場合、該粒子の数平均粒子径は、好ましくは50nm以上500nm以下であり、より好ましくは60nm以上450nm以下であり、特に好ましくは70nm以上400nm以下である。重合体(A)の粒子の数平均粒子径が前記範囲にあると、活物質の表面に重合体(A)の粒子が吸着しやすくなるので、活物質の移動に伴って重合体(A)の粒子も追従して移動することができる。その結果、両者の粒子のうちのいずれかのみが単独でマイグレーションすることを抑制できるので、電気的特性の劣化を低減することができる。
【0052】
なお、重合体(A)の粒子の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した粒子の画像より得られる粒子径50個の平均値より算出することができる。透過型電子顕微鏡としては、例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製の「H-7650」などが挙げられる。
【0053】
<表面酸量>
重合体(A)が粒子である場合、該粒子の表面酸量は、好ましくは0.5mmol/g以上3mmol/g以下であり、より好ましくは0.6mmol/g以上2.8mmol/g以下であり、特に好ましくは0.7mmol/g以上2.5mmol/g以下である。重合体(A)の粒子の表面酸量が前記範囲であると、安定かつ均質なスラリーを作製することができる。このような均質なスラリーを用いて活物質層を作製すると、活物質と重合体(A)の粒子とが均一に分散した、厚さのばらつきが小さい活物質層が得られる。その結果、電極内での充放電特性のばらつきを抑制できるため、良好な充放電特性を示す蓄電デバイスが得られる。
【0054】
<ガラス転移温度(Tg)>
重合体(A)は、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定したときに、-100℃~150℃の温度範囲において吸熱ピークを1つのみ有する
ものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度(すなわちガラス転移温度(Tg))は、-50℃~50℃の範囲にあることがより好ましい。DSC分析における重合体(A)の吸熱ピークが1つのみであり、かつ、該ピーク温度が前記範囲にある場合、重合体(A)は良好な密着性を示すとともに、活物質層により良好な柔軟性及び粘着性を付与できるため好ましい。
【0055】
1.1.3.重合体(A)の製造方法
重合体(A)の製造方法については、特に限定されないが、例えば公知の乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、重合開始剤などの存在下で行う乳化重合法によることができる。乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、重合開始剤としては、特許第5999399号公報等に記載された化合物を用いることができる。
【0056】
重合体(A)を合成するための乳化重合法は、一段重合で行ってもよく、二段重合以上の多段重合で行ってもよい。
【0057】
重合体(A)の合成を一段重合によって行う場合、上記の単量体の混合物を、適当な乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤などの存在下で、好ましくは40~80℃において、好ましくは4~36時間の乳化重合によることができる。
【0058】
重合体(A)の合成を二段重合によって行う場合、各段階の重合は以下のように設定することが好ましい。
【0059】
一段目重合に使用する単量体の使用割合は、単量体の全質量(一段目重合に使用する単量体の質量と二段目重合に使用する単量体の質量との合計)に対して、20~99質量%の範囲とすることが好ましく、25~99質量%の範囲とすることがより好ましい。一段目重合をこのような単量体の使用割合で行うことにより、分散安定性に優れ、凝集物が生じ難い重合体(A)の粒子を得ることができるとともに、蓄電デバイス用バインダー組成物の経時的な粘度上昇も抑制されることとなり好ましい。
【0060】
二段目重合に使用する単量体の種類及びその使用割合は、一段目重合に使用する単量体の種類及びその使用割合と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0061】
各段階の重合条件は、得られる重合体(A)の粒子の分散性の観点から、以下のようにすることが好ましい。
・一段目重合;好ましくは40~80℃の温度:好ましくは2~36時間の重合時間:好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上の重合転化率。
・二段目重合;好ましくは40~80℃の温度;好ましくは2~18時間の重合時間。
【0062】
乳化重合における全固形分濃度を50質量%以下とすることにより、得られる重合体(A)の粒子の分散安定性が良好な状態で重合反応を進行させることができる。この全固形分濃度は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは42質量%以下である。
【0063】
重合体(A)の合成を一段重合として行う場合であっても、二段重合法による場合であっても、乳化重合終了後には重合混合物に中和剤を添加することにより、pHを3.5~10程度、好ましくは4~9、より好ましくは4.5~8に調整することが好ましい。ここで使用する中和剤としては、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物;アンモニア等が挙げられる。上記のpH範囲に設定することにより、重合体(A)の安定性が良好となる。中和処理を行った後に、重合混合物を濃縮することにより、重合体(A)の良好な安定性を維持しながら固形分濃度を高くすることができる。
【0064】
1.1.4.重合体(A)の含有割合
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物における重合体(A)の含有割合は、重合体成分100質量部中、10~100質量部であることが好ましく、20~95質量部であることがより好ましく、25~90質量部であることが特に好ましい。ここで、重合体成分には、重合体(A)、後述する重合体(A)以外の重合体及び増粘剤等が含まれる。
【0065】
1.2.液状媒体(B)
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、液状媒体(B)を含有する。液状媒体(B)としては、水を含有する水系媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。上記水系媒体には、水以外の非水系媒体を含有させることができる。この非水系媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。本実施形態に係る蓄電デバイス用組バインダー組成物は、液状媒体(B)として水系媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、取扱作業者に対する安全性も高くなる。
【0066】
水系媒体中に含まれる非水系媒体の含有割合は、水系媒体100質量部中、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、液状媒体として非水系媒体を意図的に添加しないという程度の意味であり、蓄電デバイス用バインダー組成物を調製する際に不可避的に混入する非水系媒体を含んでいてもよい。
【0067】
1.3.その他の添加剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、必要に応じて上述した成分以外の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば重合体(A)以外の重合体、防腐剤、増粘剤等が挙げられる。
【0068】
<重合体(A)以外の重合体>
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、重合体(A)以外の重合体を含有してもよい。このような重合体としては、特に限定されないが、不飽和カルボン酸エステルまたはこれらの誘導体を構成単位として含むアクリル系重合体、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系重合体等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの重合体を含有することにより、柔軟性や密着性がより向上する場合がある。
【0069】
<防腐剤>
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、防腐剤を含有してもよい。防腐剤を含有することにより、蓄電デバイス用バインダー組成物を貯蔵した際に、細菌や黴などが増殖して異物が発生することを抑制できる場合がある。防腐剤の具体例としては、特許第5477610号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0070】
<増粘剤>
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物は、増粘剤を含有してもよい。増粘剤を含有することにより、スラリーの塗布性や得られる蓄電デバイスの充放電特性等をさらに向上できる場合がある。
【0071】
増粘剤の具体例としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース化合物;ポリ(メタ)アクリル酸;前記セル
ロース化合物又は前記ポリ(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマーを挙げることができる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等が好ましい。
【0072】
これら増粘剤の市販品としては、例えばCMC1120、CMC1150、CMC2200、CMC2280、CMC2450(以上、株式会社ダイセル製)等のカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0073】
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、蓄電デバイス用バインダー組成物の全固形分量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0074】
1.4.蓄電デバイス用バインダー組成物のpH
本実施形態に係る蓄電デバイス用バインダー組成物のpHは、3.5~10であることが好ましく、4~9であることがより好ましく、4.5~8であることが特に好ましい。pHが前記範囲内にあれば、レベリング性不足や液ダレ等の問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と密着性とを両立させた蓄電デバイス電極を製造することが容易となる。
【0075】
本明細書における「pH」とは、以下のようにして測定される物性をいう。25℃で、pH標準液として中性リン酸塩標準液及びほう酸塩標準液で校正したガラス電極を用いたpH計で、JIS Z8802:2011に準拠して測定した値である。このようなpH計としては、例えば東亜ディーケーケー株式会社製「HM-7J」や株式会社堀場製作所製「D-51」等が挙げられる。
【0076】
なお、蓄電デバイス用バインダー組成物のpHは、重合体(A)を構成する単量体組成に影響を受けることを否定しないが、単量体組成のみで定まるものではないことを付言しておく。すなわち、一般的に同じ単量体組成であっても重合条件等で蓄電デバイス用バインダー組成物のpHが変化することが知られており、本願明細書の実施例はその一例を示しているに過ぎない。
【0077】
例えば、同じ単量体組成であっても、重合反応液に最初から不飽和カルボン酸を全て仕込み、その後他の単量体を順次添加して加える場合と、不飽和カルボン酸以外の単量体を重合反応液へ仕込み、最後に不飽和カルボン酸を添加する場合とでは、得られる重合体の表面に露出する不飽和カルボン酸に由来するカルボキシル基の量は異なる。このように重合方法で単量体を加える順番を変更するだけでも、蓄電デバイス用バインダー組成物のpHは大きく異なると考えられる。
【0078】
2.蓄電デバイス用スラリー
本実施形態に係る蓄電デバイス用スラリーは、上述の蓄電デバイス用バインダー組成物を含有するものである。上述の蓄電デバイス用バインダー組成物は、充放電に伴って発生するデンドライトに起因する短絡を抑制するための保護膜を作製するための材料として使用することもできるし、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力並びに粉落ち耐性を向上させた蓄電デバイス電極(活物質層)を作製するための材料として使用することもできる。そのため、保護膜を作製するための蓄電デバイス用スラリー(以下、「保護膜用スラリー」ともいう。)と、蓄電デバイス電極の活物質層を形成するための蓄電デバイス用スラリー(以下、「蓄電デバイス電極用スラリー」ともいう。)とに分けて説
明する。
【0079】
2.1.保護膜用スラリー
「保護膜用スラリー」とは、これを電極又はセパレータの表面もしくはその両方に塗布した後、乾燥させて、電極又はセパレータの表面もしくはその両方に保護膜を作製するために用いられる分散液のことをいう。本実施形態に係る保護膜用スラリーは、上述した蓄電デバイス用バインダー組成物のみから構成されていてもよく、無機フィラーをさらに含有してもよい。以下、本実施形態に係る保護膜用スラリーに含まれる各成分について詳細に説明する。なお、蓄電デバイス用バインダー組成物については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0080】
2.1.1.無機フィラー
本実施形態に係る保護膜用スラリーは、無機フィラーを含有することにより、保護膜のタフネスを向上させることができる。無機フィラーとしては、シリカ、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、及び酸化マグネシウム(マグネシア)よりなる群から選択される少なくとも1種の粒子を用いることが好ましい。これらの中でも、保護膜のタフネスをより向上させる観点から、酸化チタン又は酸化アルミニウムが好ましい。また、酸化チタンとしてはルチル型の酸化チタンがより好ましい。
【0081】
無機フィラーの平均粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.1~0.8μmであることがより好ましい。なお、無機フィラーの平均粒子径は、多孔質膜であるセパレータの平均孔径よりも大きいことが好ましい。これにより、セパレータへのダメージを軽減し、無機フィラーがセパレータの微多孔に詰まることを防ぐことができる。
【0082】
本実施形態に係る保護膜用スラリーは、無機フィラー100質量部に対して、上述の蓄電デバイス用バインダー組成物が、固形分換算で0.1~20質量部含有されていることが好ましく、1~10質量部含有されていることがより好ましい。蓄電デバイス用バインダー組成物の含有割合が前記範囲であることにより、保護膜のタフネスとリチウムイオンの透過性とのバランスが良好となり、その結果、得られる蓄電デバイスの抵抗上昇率をより低くすることができる。
【0083】
2.1.2.液状媒体
本実施形態に係る保護膜用スラリーには、蓄電デバイス用バインダー組成物からの持ち込み分に加えて、さらに液状媒体を添加してもよい。液状媒体の添加量は、塗工方法等に応じて最適なスラリー粘度が得られるように、必要に応じて調整することができる。このような液状媒体としては、上記「1.2.液状媒体(B)」に記載されている材料が挙げられる。
【0084】
2.1.3.その他の成分
本実施形態に係る保護膜用スラリーは、上記「1.3.その他の添加剤」に記載されている材料を必要に応じて適量用いることができる。
【0085】
2.2.蓄電デバイス電極用スラリー
「蓄電デバイス電極用スラリー」とは、これを集電体の表面に塗布した後、乾燥させて、集電体表面上に活物質層を作製するために用いられる分散液のことをいう。本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用バインダー組成物と、活物質とを含有する。
【0086】
一般的に、蓄電デバイス電極用スラリーは、密着性を向上させるために、SBR系共重
合体などのバインダー成分と、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤とを含有することが多い。一方、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、重合体成分として上述した重合体(A)のみを含有する場合であっても柔軟性及び密着性を向上させることができる。もちろん、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、さらに密着性を向上させるために、重合体(A)以外の重合体や増粘剤を含有してもよい。
【0087】
以下、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーに含まれる成分について説明する。
【0088】
2.2.1.重合体(A)
重合体(A)の組成、特性、製造方法については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0089】
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリー中の重合体成分の含有割合は、活物質100質量部に対し、1~8質量部であることが好ましく、1~7質量部であることがより好ましく、1.5~6質量部であることが特に好ましい。重合体成分の含有割合が前記範囲にあると、スラリー中の活物質の分散性が良好となり、スラリーの塗布性も優れたものとなる。ここで、重合体成分には、重合体(A)、必要に応じて添加される重合体(A)以外の重合体及び増粘剤等が含まれる。
【0090】
2.2.2.活物質
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーに使用される活物質としては、例えば炭素材料、ケイ素材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニウム化合物、ポリアセン等の導電性高分子、A(但し、Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が挙げられる。これらの具体例としては、特許第5999399号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0091】
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、正極及び負極のいずれの蓄電デバイス電極を作製する際にも使用することができ、正極及び負極の両方に使用することが好ましい。
【0092】
正極活物質としてリン酸鉄リチウムを使用する場合、充放電特性が十分ではなく密着性が劣るという課題があった。リン酸鉄リチウムは、微細な一次粒径を有し、その二次凝集体であることが知られており、充放電を繰り返す際に活物質層中で凝集が崩壊し活物質同士の乖離を引き起こし、集電体からの剥離や、活物質層内部の導電ネットワークが寸断されやすいことが要因の一つであると考えられる。
【0093】
しかしながら、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーを用いて作製された蓄電デバイス電極では、リン酸鉄リチウムを使用した場合でも上述のような問題が発生することなく、良好な電気的特性を示すことができる。この理由としては、重合体(A)がリン酸鉄リチウムを強固に結着できると同時に、充放電中においてもリン酸鉄リチウムを強固に結着させた状態を維持できるからであると考えられる。
【0094】
一方、負極を作製する場合には、上記例示した活物質の中でもケイ素材料を含有するものであることが好ましい。ケイ素材料は単位重量当たりのリチウムの吸蔵量がその他の活物質と比較して大きいことから、負極活物質としてのケイ素材料を含有することにより、
得られる蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができ、その結果、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度を高くすることができる。
【0095】
また、負極活物質としては、ケイ素材料と炭素材料との混合物であることがより好ましい。炭素材料は充放電に伴う体積変化がケイ素材料よりも小さいので、負極活物質としてケイ素材料と炭素材料との混合物を使用することにより、ケイ素材料の体積変化の影響を緩和することができ、活物質層と集電体との密着能力をより向上させることができる。
【0096】
シリコン(Si)を活物質として使用する場合、シリコンは、高容量である一方、リチウムを吸蔵する際に大きな体積変化を生じる。このため、ケイ素材料は膨張と収縮の繰り返しによって微粉化し、集電体からの剥離や、活物質同士の乖離を引き起こし、活物質層内部の導電ネットワークが寸断されやすいという性質がある。これにより、短時間で充放電耐久特性が極端に劣化してしまうのである。
【0097】
しかしながら、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーを用いて作製された蓄電デバイス電極は、ケイ素材料を使用した場合でも上述のような問題が発生することなく、良好な電気的特性を示すことができる。この理由としては、重合体(A)がケイ素材料を強固に結着させることができると同時に、リチウムを吸蔵することによりケイ素材料が体積膨張しても重合体(A)が伸び縮みしてケイ素材料を強固に結着させた状態を維持できるからであると考えられる。
【0098】
活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合は、1質量%以上とすることが好ましく、1~50質量%とすることがより好ましく、5~45質量%とすることがさらに好ましく、10~40質量%とすることが特に好ましい。活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合が前記範囲内であると、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度の向上と充放電耐久特性とのバランスに優れた蓄電デバイスが得られる。
【0099】
活物質の形状としては、粒子状であることが好ましい。活物質の平均粒子径としては、0.1~100μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。ここで、活物質の平均粒子径とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から算出される体積平均粒子径のことをいう。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LA-300シリーズ、HORIBA LA-920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
【0100】
2.2.3.その他の成分
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、上述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を添加してもよい。このような成分としては、例えば重合体(A)以外の重合体、増粘剤、液状媒体、導電付与剤、pH調整剤、腐食防止剤、セルロースファイバー等が挙げられる。重合体(A)以外の重合体及び増粘剤としては、上記「1.3.その他の添加剤」で例示した化合物の中から選択して、同様の目的及び含有割合で用いることができる。
【0101】
<液状媒体>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、蓄電デバイス用バインダー組成物からの持ち込み分に加えて、さらに液状媒体を添加してもよい。添加される液状媒体は、蓄電デバイス用バインダー組成物に含まれていた液状媒体(B)と同種であってもよく、異なっていてもよいが、上記「1.2.液状媒体(B)」で例示した液状媒体の中から選択して使用されることが好ましい。
【0102】
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーにおける液状媒体(蓄電デバイス用バインダー組成物からの持ち込み分を含む。)の含有割合は、スラリー中の固形分濃度(スラリー中の液状媒体以外の成分の合計質量がスラリーの全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、30~70質量%となる割合とすることが好ましく、40~60質量%となる割合とすることがより好ましい。
【0103】
<導電付与剤>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、導電性を付与するとともに、リチウムイオンの出入りによる活物質の体積変化を緩衝させることを目的として、導電付与剤を含有することができる。
【0104】
導電付与剤の具体例としては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン等のカーボンが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック又はケッチェンブラックを好ましく使用することができる。導電付与剤の含有割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1~15質量部であり、特に好ましくは2~10質量部である。
【0105】
<pH調整剤・腐食防止剤>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、活物質の種類に応じて集電体の腐食を抑制することを目的として、pH調整剤及び/又は腐食防止剤を含有することができる。
【0106】
pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、ギ酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることでき、これらの中でも、硫酸、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また、重合体(A)の製造方法中に記載された中和剤の中から選択して使用することもできる。
【0107】
腐食防止剤としては、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、メタタングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等を挙げることができ、これらの中でもパラタングステン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0108】
<セルロースファイバー>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、セルロースファイバーを含有することができる。セルロースファイバーを含有することにより、活物質の集電体に対する密着性を向上できる場合がある。繊維状のセルロースファイバーが線接着又は線接触によって隣接する活物質同士を繊維状結着させることにより、活物質の脱落を防止できるとともに、集電体に対する密着性を向上できると考えられる。
【0109】
セルロースファイバーの平均繊維長は、0.1~1000μmの広い範囲から選択でき、例えば、好ましくは1~750μm、より好ましくは1.3~500μm、さらに好ましくは1.4~250μm、特に好ましくは1.8~25μmである。平均繊維長が前記範囲であれば、表面平滑性(塗膜均一性)が良好となり、集電体に対する活物質の密着性が向上する場合がある。
【0110】
セルロースファイバーの繊維長は均一であってもよく、繊維長の変動係数([繊維長の
標準偏差/平均繊維長]×100)は、例えば、好ましくは0.1~100、より好ましくは0.5~50、特に好ましくは1~30である。セルロースファイバーの最大繊維長は、例えば、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらにより好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
【0111】
セルロースファイバーの平均繊維長を活物質層の平均厚みに対して5倍以下とすると、表面平滑性(塗膜均一性)、及び活物質の集電体に対する密着性がさらに向上するため有利である。セルロースファイバーの平均繊維長は、活物質層の平均厚みに対して、好ましくは0.01~5倍、より好ましくは0.02~3倍、特に好ましくは0.03~2倍である。
【0112】
セルロースファイバーの平均繊維径は、好ましくは1nm~10μm、より好ましくは5nm~2.5μm、さらに好ましくは20~700nm、特に好ましくは30~200nmである。平均繊維径が前記範囲にあると、繊維の占有体積が大きくなりすぎず、活物質の充填密度を高めることができる場合がある。そのため、セルロースファイバーは、平均繊維径がナノメータサイズのセルロースナノファイバー(例えば、平均繊維径が10~500nm、好ましくは25~250nm程度のセルロースナノファイバー)であることが好ましい。
【0113】
セルロースファイバーの繊維径も均一であり、繊維径の変動係数([繊維径の標準偏差/平均繊維径]×100)は、好ましくは1~80、より好ましくは5~60、特に好ましくは10~50である。セルロースファイバーの最大繊維径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。
【0114】
セルロースファイバーの平均繊維径に対する平均繊維長の比(アスペクト比)は、例えば、好ましくは10~5000、より好ましくは20~3000、特に好ましくは50~2000である。アスペクト比が前記範囲にあると、集電体に対する活物質の密着性が良好となるとともに、繊維の破断強度を弱めることなく、電極の表面平滑性(塗膜均一性)が良好となる場合がある。
【0115】
本発明において、平均繊維長、繊維長分布の標準偏差、最大繊維長、平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、最大繊維径は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維(n=20程度)から算出した値であってもよい。
【0116】
セルロースファイバーの材質は、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されていればよい。セルロースファイバーとしては、例えば、高等植物由来のセルロース繊維(例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(例えば、コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など)、動物由来のセルロース繊維(例えば、ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維(例えば、ナタデココに含まれるセルロースなど)、化学的に合成されたセルロース繊維(例えば、レーヨン、セルロースエステル(セルロースアセテートなど)、セルロースエーテル(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどのアルキルセルロースなどのセルロース誘導体など)などが挙げられる。これらのセルロースファイバーは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0117】
これらのセルロースファイバーの中でも、適度なアスペクト比を有するナノファイバー
を調製し易い点から、高等植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)や種子毛繊維(コットンリンターパルプなど)などのパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
【0118】
セルロースファイバーの製造方法は、特に限定されず、目的の繊維長及び繊維径に応じて、慣用の方法、例えば、特公昭60-19921号公報、特開2011-26760号公報、特開2012-25833号公報、特開2012-36517号公報、特開2012-36518号公報、特開2014-181421号公報などに記載の方法を利用してもよい。
【0119】
2.2.4.蓄電デバイス電極用スラリーの調製方法
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用バインダー組成物及び活物質を含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的かつ安価に製造する観点から、蓄電デバイス用バインダー組成物に、活物質及び必要に応じて用いられる任意的添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。具体的な製造方法としては、例えば、特許第5999399号公報等に記載されている方法が挙げられる。
【0120】
3.蓄電デバイス電極
本実施形態に係る蓄電デバイス電極は、集電体と、前記集電体の表面上に上述の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。かかる蓄電デバイス電極は、金属箔などの集電体の表面に、上述の蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された蓄電デバイス電極は、集電体上に、上述の重合体(A)及び活物質、さらに必要に応じて添加した任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものであるため、柔軟性及び密着性に優れるとともに、良好な充放電耐久特性を示す。
【0121】
集電体としては、導電性材料からなるものであれば特に制限されないが、例えば特許第5999399号公報等の記載されている集電体が挙げられる。
【0122】
蓄電デバイス電極用スラリーの集電体への塗布方法についても特に制限はなく、例えば特許第5999399号公報等の記載されている方法により塗布することができる。
【0123】
本実施形態に係る蓄電デバイス電極において、活物質としてケイ素材料を用いる場合、活物質層100質量部中のシリコン元素の含有割合は、2~30質量部であることが好ましく、2~20質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることが特に好ましい。活物質層中のシリコン元素の含有量が前記範囲内であると、それを用いて作製される蓄電デバイスの蓄電容量が向上することに加え、シリコン元素の分布が均一な活物質層が得られる。
【0124】
本発明において活物質層中のシリコン元素の含有量は、例えば、特許第5999399号公報等に記載された方法により測定することができる。
【0125】
4.蓄電デバイス
本実施形態に係る蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス電極を備え、さらに電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口す
る方法などを挙げることができる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型など、適宜の形状であることができる。
【0126】
電解液は、液状でもゲル状でもよく、活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。これら電解質や溶媒については、例えば、特許第5999399号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0127】
上述の蓄電デバイスは、大電流密度での放電が必要なリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等に適応可能である。これらの中でもリチウムイオン二次電池が特に好ましい。本実施形態に係る蓄電デバイス電極及び蓄電デバイスにおいて、蓄電デバイス用バインダー組成物以外の部材は、公知のリチウムイオン二次電池用、電気二重層キャパシタ用やリチウムイオンキャパシタ用の部材を用いることが可能である。
【0128】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0129】
5.1.実施例1
5.1.1.蓄電デバイス用バインダー組成物の調製及び評価
(1)蓄電デバイス用バインダー組成物の調製
以下に示すような段重合により、重合体(A)を含有する蓄電デバイス用バインダー組成物を得た。反応器に、水400質量部と、1,3-ブタジエン50質量部、スチレン15質量部、アクリル酸10質量部、アクリロニトリル25質量部からなる単量体混合物と、連鎖移動剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.1質量部と、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1質量部と、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2質量部とを仕込み、攪拌しながら70℃で24時間重合した。このときの重合転化率98%で反応を終了した。このようにして得られた重合体(A)の粒子分散液から未反応単量体を除去し、濃縮後10%水酸化ナトリウム水溶液及び水を添加して、重合体(A)の粒子を20質量%含有するpH6.0の蓄電デバイス用バインダー組成物を得た。
【0130】
(2)AFM測定における接着強度
アセトンで10分間超音波洗浄を実施した1cm角のシリコンウエハー上に、上記で得られた重合体(A)を滴下し、300rpmで3分、1000rpmで30秒スピンコートをすることにより、重合体(A)の平滑なフィルムを作製した。このフィルムを160℃で6時間、真空中で乾燥させた後、原子間力顕微鏡(AFM)装置(日立ハイテクサイエンス社製、S・image)専用のサンプル固定台に固定して、カンチレバーとして材質SiO製(NANOSENSORS社製、SD・Sphere・NCH・S-10、ばね定数:42N/m、Sphere Diameter:0.8μm)のものを用い、室温(25℃)下でACモードにおける形状像を測定した。そのとき、重合体(A)として観察される部分について、コンタクトモードでフォースカーブ(室温(25℃)下、カンチレバーは空中50nm移動させ、フィルム上に着地後、10nm押し込みを実施。この間5秒往復)を測定した。フォースカーブは、探針と試料の間の距離と、カンチレバーに働く力(すなわち、カンチレバーのたわみ量)との関係をプロットした曲線である。フォースカーブから読み取った振れの量より、カンチレバーと試料との接着強度(N/m)を読取った。
【0131】
(3)電解液膨潤率の測定(電解液浸漬試験)
上記(2)で得られた重合体(A)のフィルム1gを、後述の蓄電デバイスの製造において電解液として用いるプロピレンカーボネート(PC)及びジエチルカーボネート(DEC)からなる混合液(PC/DEC=1/1(容量比)、以下、この混合液を「PC/DEC」という。)20mL中に浸漬して、70℃において24時間振とうした。次いで、300メッシュの金網で濾過して不溶分を分離した後、溶解分のPC/DECを蒸発除去して得た残存物の重量(Y(g))を測定した。また、上記の濾過で分離した不溶分(フィルム)の表面に付着したPC/DECを紙に吸収させて取り除いた後、該不溶分(フィルム)の重量(Z(g))を測定した。下記式によって電解液膨潤率を測定したところ、上記重合体(A)の電解液膨潤率は270wt%であった。
電解液膨潤率(質量%)=(Z/(1-Y))×100
【0132】
(4)表面酸量の測定
上記で得られた蓄電デバイス用バインダー組成物中に含まれる重合体(A)の粒子の表面酸量を以下のようにして測定した。まず、電位差滴定装置(京都電子工業株式会社製、型式「AT-510」)の滴定ビュレット・本体上部の試薬ビン内に0.005mol/Lの硫酸が充填されていることを確認し、超純水の導電率が2μS以下であることを確認した。次いで、ビュレット内の空気抜きのため、パージを行い、さらにノズルの泡抜きを行った。その後、上記で得られた蓄電デバイス用バインダー組成物を固形分換算で約1gを300mLビーカーに採取し、そのサンプル重量を記録しておいた。そこに超純水を加えて200mLまで希釈した後、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。終点を迎えたら、30秒ほど攪拌させ、伝導度が落ち着いたことを確認した。測定プログラムのRESETボタンを押し、測定待機状態にした。測定プログラムのSTARTボタンを押し、0.005mol/Lの硫酸による測定を開始した。終点に達すると自動的に終了されファイルが保存されるので、得られた曲線を解析し、使用した硫酸量から下記式より表面酸量を求めた。その結果、重合体(A)の表面酸量は1.2mmol/gであった。
表面酸量(mmol/g)=粒子表面のカルボン酸区域で使用した酸量[mL]×酸の濃度[mol/L]×電離度/サンプル重量[g]/1000
【0133】
(5)数平均粒子径の測定
上記で得られた蓄電デバイス用バインダー組成物を0.1wt%に希釈したラテックスをコロジオン支持膜上にピペットで1滴滴下し、さらに0.02wt%の四酸化オスミウム溶液をピペットでコロジオン支持膜上に1滴滴下し、12時間風乾させ試料を準備した。このようにして準備した試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型番「H-7650」)を用いて、倍率を10K(倍率)で観察し、HITACH EMIPのプログラムにより画像解析を実施し、ランダムに選択した50個の重合体(A)の粒子の数平均粒子径を算出したところ、200nmであった。
【0134】
(6)pH
上記で得られた蓄電デバイス用バインダー組成物について、pHメーター(株式会社堀場製作所製)を用いて25℃におけるpHを測定したところ、pH6.0であることを確認できた。
【0135】
5.1.2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製及び評価
(1)ケイ素材料(活物質)の合成
粉砕した二酸化ケイ素粉末(平均粒子径10μm)と炭素粉末(平均粒子径35μm)との混合物を、温度を1100~1600℃の範囲に調整した電気炉中で、窒素気流下(0.5NL/分)、10時間の加熱処理を行い、組成式SiO(x=0.5~1.1)で表される酸化ケイ素の粉末(平均粒子径8μm)を得た。この酸化ケイ素の粉末300gをバッチ式加熱炉内に仕込み、真空ポンプにより絶対圧100Paの減圧を維持しなが
ら、300℃/hの昇温速度にて室温(25℃)から1100℃まで昇温した。次いで、加熱炉内の圧力を2000Paに維持しつつ、メタンガスを0.5NL/分の流速にて導入しながら、1100℃、5時間の加熱処理(黒鉛被膜処理)を行った。黒鉛被膜処理終了後、50℃/hの降温速度で室温まで冷却することにより、黒鉛被膜酸化ケイ素の粉末約330gを得た。この黒鉛被膜酸化ケイ素は、酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された導電性の粉末(活物質)であり、その平均粒子径は10.5μmであり、得られた黒鉛被膜酸化ケイ素の全体を100質量%とした場合の黒鉛被膜の割合は2質量%であった。
【0136】
(2)蓄電デバイス電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)を1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、重合体(A)を4質量部(固形分換算値、上記で得られた蓄電デバイス用バインダー組成物として添加)、負極活物質として結晶性の高いグラファイトである人造黒鉛(日立化成工業株式会社製、商品名「MAG」)76質量部(固形分換算値)、上記で得られた黒鉛被覆膜酸化ケイ素の粉末を19質量部(固形分換算値)、導電付与剤であるカーボン(デンカ株式会社製、アセチレンブラック)1質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行い、ペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分濃度を48質量%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×10Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、負極活物質中にSiを20質量%含有する蓄電デバイス電極用スラリー(C/Si(20%))を調製した。
【0137】
5.1.3.蓄電デバイスの製造及び評価
(1)蓄電デバイス電極(負極)の製造
厚み20μmの銅箔よりなる集電体の表面に、上記で得られた蓄電デバイス電極用スラリー(C/Si(20%))を、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で10分乾燥し、次いで120℃で10分乾燥処理した。その後、活物質層の密度が1.5g/cmとなるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、蓄電デバイス電極(負極)を得た。
【0138】
(2)負極塗工層の密着強度の評価
上記で得られた蓄電デバイス電極の表面に、ナイフを用いて活物質層から集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ10本入れて碁盤目の切り込みを作った。この切り込みに幅18mmの粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ」(登録商標)JIS Z1522に規定)を貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定で評価した。評価基準は以下の通りである。評価結果を表1に示す。
(評価基準)
・5点:活物質層の脱落が0個である。
・4点:活物質層の脱落が1~5個である。
・3点:活物質層の脱落が6~20個である。
・2点:活物質層の脱落が21~40個である。
・1点:活物質層の脱落が41個以上である。
【0139】
(3)対極(正極)の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、電気化学デバイス電極用バインダー(株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4質量部(固形分換算値)、導電助剤(デンカ株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3.0質量部、正極活物質として平均粒子径5μmのLiCoO(ハヤシ化成株式会社製)100質量部(固形分換算値)及びN
-メチルピロリドン(NMP)36質量部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを追加し、固形分濃度を65質量%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに減圧下(約2.5×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、正極用スラリーを調製した。アルミニウム箔よりなる集電体の表面に、この正極用スラリーを、溶媒除去後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間加熱して溶媒を除去した。その後、活物質層の密度が3.0g/cmとなるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、対極(正極)を得た。
【0140】
(4)リチウムイオン電池セルの組立て
露点が-80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した負極を直径15.95mmに打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記で製造した正極を直径16.16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0141】
(5)充放電サイクル特性の評価
上記で製造した蓄電デバイスにつき、25℃に調温された恒温槽にて、定電流(1.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(1.0C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、1サイクル目の放電容量を算出した。このようにして100回充放電を繰り返した。下記式により容量保持率を計算し、下記の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
容量保持率(%)=(100サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
(評価基準)
・5点:容量保持率が95%以上。
・4点:容量保持率が90%以上~95%未満。
・3点:容量保持率が85%以上~90%未満。
・2点:容量保持率が80%以上~85%未満。
・1点:容量保持率が75%以上~80%未満。
・0点:容量保持率が75%未満。
【0142】
なお、測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値のことを示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは、0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0143】
5.2.実施例2~20、比較例1~8
上記「5.1.1.蓄電デバイス用バインダー組成物の調製及び評価 (1)蓄電デバイス用バインダー組成物の調製」において、各単量体の種類及び量を、それぞれ下表1または下表2に記載の通りとした以外は同様にして重合体粒子を20質量%含有する蓄電デバイス用バインダー組成物を得た。
【0144】
さらに、上記で調製した蓄電デバイス用バインダー組成物を用いた以外は上記実施例1と同様にして、蓄電デバイス電極用スラリーをそれぞれ調製し、蓄電デバイス電極及び蓄電デバイスをそれぞれ作製し、上記実施例1と同様に評価した。
【0145】
5.3.実施例21
実施例20において、増粘剤としてCMC(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)0.9質量部及びCNF(株式会社ダイセル社製、商品名「セリッシュKY-100G」、繊維径0.07μm)0.1質量部とした以外は実施例20と同様にして蓄電デバイス電極用スラリーを調製し、蓄電デバイス電極及び蓄電デバイスをそれぞれ作製し、上記実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0146】
5.4.実施例22
実施例20において、増粘剤としてCMC(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)0.8質量部及びCNF(株式会社ダイセル社製、商品名「セリッシュKY-100G」、繊維径0.07μm)0.2質量部とした以外は実施例20と同様にして蓄電デバイス電極用スラリーを調製し、蓄電デバイス電極及び蓄電デバイスをそれぞれ作製し、上記実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0147】
5.5.評価結果
下表1~下表2に、実施例1~20及び比較例1~8で使用した重合体組成、各物性及び各評価結果を示す。下表3に、実施例21~22の各評価結果を示す。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
上表1~上表2における単量体の略称は、それぞれ以下の化合物を表す。
<共役ジエン化合物>
・BD:1,3-ブタジエン
<不飽和カルボン酸>
・TA:イタコン酸
・AA:アクリル酸
・MAA:メタクリル酸
<α,β-不飽和ニトリル化合物>
・AN:アクリロニトリル
<(メタ)アクリルアミド>
・AAM:アクリルアミド
・MAM:メタクリルアミド
<水酸基を有する不飽和カルボン酸エステル>
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
・HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
<不飽和カルボン酸エステル>
・MMA:メタクリル酸メチル
・BA:アクリル酸ブチル
・2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
・CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
<芳香族ビニル化合物>
・ST:スチレン
・DVB:ジビニルベンゼン
<スルホン酸基を有する化合物>
・NASS:スチレンスルホン酸ナトリウム
【0151】
【表3】
【0152】
上表1~上表2から明らかなように、実施例1~20に示した本発明に係る蓄電デバイス用バインダー組成物を用いて調製された蓄電デバイス電極用スラリーは、比較例1~8の場合と比較して、充放電に伴う体積変化が大きい活物質同士を好適に結着させることができ、しかも活物質層と集電体の密着性を良好に維持できることが判明した。その結果、充放電を繰り返し、活物質が体積の膨張と収縮を繰り返したにも関わらず、活物質層の剥離を抑制し、良好な充放電耐久特性を有する蓄電デバイス電極が得られた。この理由としては、上表1~上表2に示す実施例1~20に係る蓄電デバイス電極は、比較例1~8の場合と比較して、充放電による活物質層の膜厚変化を低減できることで、活物質層内部の導電ネットワークを維持できるためと推測される。
【0153】
また、上表3の結果から明らかなように、実施例21及び22に示した本発明に係る蓄電デバイス用バインダー組成物を用いて調製された蓄電デバイス電極用スラリーは、増粘剤のCNFを併用しても、充放電に伴う体積変化が大きい活物質同士を好適に結着させることができ、しかも活物質層と集電体の密着性を良好に維持できることが判明した。
【0154】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。