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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】発振器、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 7/08 20060101AFI20240527BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20240527BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20240527BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20240527BHJP
   H01P 7/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H03B7/08
G01J1/02 P
H01L27/04 B
H01L27/04 L
H01P7/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019153699
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021034908
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香取 篤史
(72)【発明者】
【氏名】海部 紀之
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/091470(WO,A1)
【文献】特開2011-061274(JP,A)
【文献】特開2018-087725(JP,A)
【文献】特開2008-010811(JP,A)
【文献】特開2007-248382(JP,A)
【文献】Jenshan Lin et al.,Two-dimensional quasi-optical power-combining arrays using strongly coupled oscillators,IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES,米国,IEEE,1994年04月,Vol.42, No.4,pp.734-741
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J1/00-11/00
H01L27/04
H01P1/20-7/10
H03B1/00-28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ負性抵抗素子を有する複数の共振器と、
前記複数の共振器に対して電圧を印加する電圧バイアス回路と、
前記電圧バイアス回路に対して、前記複数の共振器のうちいずれかの共振器と並列に配置されたシャント素子と、
を有し、
前記複数の共振器は、それぞれ別のインダクタを介して並列に前記電圧バイアス回路に接続されており、
所定の周波数以上において、前記インダクタのインピーダンスは、前記複数の共振器のうち前記インダクタに対応する共振器のインピーダンスの絶対値より大きく、
前記シャント素子では、抵抗素子と容量素子とが直列に接続されている、
ことを特徴とする発振器。
【請求項2】
それぞれ負性抵抗素子を有する複数の共振器と、
前記複数の共振器に対して電圧を印加する電圧バイアス回路と、
を有し、
前記複数の共振器は、それぞれ別のインダクタを介して並列に前記電圧バイアス回路に接続されており、
所定の周波数以上において、前記インダクタのインピーダンスは、前記複数の共振器のうち前記インダクタに対応する共振器のインピーダンスの絶対値より大きく、
前記複数の共振器のそれぞれに対して、複数のシャント素子が並列に接続されており、
前記複数のシャント素子の間は、前記インダクタを介して接続されている、
ことを特徴とする発振器。
【請求項3】
前記シャント素子は、容量素子により構成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の発振器。
【請求項4】
前記シャント素子では、抵抗素子と容量素子とが直列に接続されている、
ことを特徴とする請求項に記載の発振器。
【請求項5】
前記シャント素子と、前記電圧バイアス回路に対して前記シャント素子と並列に配置された共振器とは、高周波側のカットオフ周波数に対応する波長の1/4以下の長さの配線によって接続されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項6】
前記インダクタは、前記複数の共振器それぞれの一方の端子側に配置されており、他方の端子側には配置されていない、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項7】
前記所定の周波数は、10KHz以上の周波数である、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項8】
前記インダクタは、前記複数の共振器を備えたチップに配置されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項9】
前記インダクタは、前記複数の共振器を備えたチップを保持するパッケージまたは、プリント回路基板に配置されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項10】
前記電圧バイアス回路は、前記複数の共振器に対して交流の電圧を印加する、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の発振器。
【請求項11】
前記複数の共振器は、30GHzから30THzまでの範囲に含まれる周波数の電磁波を発生させる、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項12】
前記負性抵抗素子は、共鳴トンネルダイオードである、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項13】
パッケージ、プリント回路基板、および表面実装素子をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項14】
前記複数の共振器は、チップに配されており、
前記チップのサイズは、数ミリメータ角から数十ミリメータ角である、
ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の発振器。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の発振器を有する照明装置と、
前記発振器によって発生した電磁波が照射された被対象を撮像する撮像素子と、
を備える、
ことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器、撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
30GHzから30THzの任意の周波数帯の電磁波(電波)であるテラヘルツ波を発生させる小型の発振器として、特許文献1に記載されているような、共鳴トンネルダイオード(RTD)などの負性抵抗素子を含んだ構成の発振回路がある。この構成において、図14(A)が示すように、発振回路100は、負性抵抗素子101とコンデンサ102とインダクタ103を有する。ここで、発振回路100に対して、負性抵抗素子101が負性抵抗の特性を有する電圧値を印加するように電圧バイアス回路200が接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-61276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発振器をテラヘルツカメラの照明として用いる場合などには、広い領域に対してテラヘルツ波を均一に照射するために、複数の発振回路(共振器)がアレイ状に並べられる。そのため、複数の発振回路を同一の電圧バイアス回路によって駆動する構成が取られる。しかし、特許文献1に記載の技術を用いて、1つの電圧バイアス回路により複数の発振回路に電圧を印加する構成にすると、発振回路(共振器)同士による適切でない発振によって所望の周波数ではない電磁波が生じえる。
【0005】
そこで、本発明は、電圧バイアス回路によって複数の共振器に電圧を印加する発振器において、適切な発振を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、
それぞれ負性抵抗素子を有する複数の共振器と、
前記複数の共振器に対して電圧を印加する電圧バイアス回路と、
前記電圧バイアス回路に対して、前記複数の共振器のうちいずれかの共振器と並列に配置されたシャント素子と、
を有し、
前記複数の共振器は、それぞれ別のインダクタを介して並列に前記電圧バイアス回路に接続されており、
所定の周波数以上において、前記インダクタのインピーダンスは、前記複数の共振器のうち前記インダクタに対応する共振器のインピーダンスの絶対値より大きく、
前記シャント素子では、抵抗素子と容量素子とが直列に接続されている、
ことを特徴とする発振器である。
本発明の1つの態様は、
それぞれ負性抵抗素子を有する複数の共振器と、
前記複数の共振器に対して電圧を印加する電圧バイアス回路と、
を有し、
前記複数の共振器は、それぞれ別のインダクタを介して並列に前記電圧バイアス回路に接続されており、
所定の周波数以上において、前記インダクタのインピーダンスは、前記複数の共振器のうち前記インダクタに対応する共振器のインピーダンスの絶対値より大きく、
前記複数の共振器のそれぞれに対して、複数のシャント素子が並列に接続されており、
前記複数のシャント素子の間は、前記インダクタを介して接続されている、
ことを特徴とする発振器である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電圧バイアス回路によって複数の共振器に電圧を印加する発振器において、適切な発振ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1に係る発振器の回路図である。
図2】実施形態1に係る負性抵抗素子の電圧-電流特性を示すグラフである。
図3】比較例および実施形態1に係る発振器を説明する回路図である。
図4】実施形態2に係る発振器を示す図である。
図5】実施形態2に係る発振器を示す図である。
図6】実施形態3に係る発振器を示す図である。
図7】実施形態3に係るインダクタを説明する図である。
図8】実施形態4に係る発振器の回路図である。
図9】実施形態5に係る発振器の回路図である。
図10】実施形態6に係る発振器を示す図である。
図11】実施形態6に係る発振器を説明する図である。
図12】実施形態7に係る発振器を説明する図である。
図13】実施形態8に係る撮像装置を説明する図である。
図14】従来の発振器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形、変更が可能である。
【0010】
<実施形態1>
まずは、実施形態1に係る発振器1について図1を用いて説明する。図1は、発振器1を説明する模式図(回路図)である。発振器1は、3つの発振回路100、3つのインダクタ120、電圧バイアス回路200、配線210、配線211~213、共通配線220を備える。3つの発振回路100は、同一の構成であり、それぞれ発振回路111、発振回路112、発振回路113である。また、発振回路111~113のそれぞれは、インダクタ120に接続されている。発振回路111~113に接続されているインダクタ120は、それぞれインダクタ121~123である。配線210および共通配線220は、電圧バイアス回路200に接続されている。発振回路111~113は、それぞれ配線211~213によって配線210に接続される。
【0011】
本実施形態では、1つの電圧バイアス回路200に複数の発振回路100が接続されている。具体的には、発振回路111,112,113の3つの発振回路100が並列に電圧バイアス回路200に接続している。ただし、発振回路の数は、3つに限定されたものではなく、電圧バイアス回路200が駆動可能な発振回路の数であれば幾つでもよい。また、電圧バイアス回路200と複数の発振回路111~113との1組によって発振器1を構成について説明するが、本実施形態はこれに限るものではない。電圧バイアス回路200と複数の発振回路を1組として、このような組を複数有する発振器であっても、本実施形態は適用可能である。
【0012】
[発振回路について]
以下では、発振回路100について説明する。なお、上述のように、発振回路111、発振回路112、発振回路113は、それぞれ発振回路100であり同一の構成である。発振回路100は、負性抵抗素子101、容量102、インダクタ103によって構成される共振器(テラヘルツ発振回路)である。発振回路100は、電圧バイアス回路200によりオペレーション電圧Vopが印加されることにより、30GHzから30THzの間において発振を行い、テラヘルツ波を発生させる。なお、以下では、発振回路の設計パラメータで主に決まる所望の周波数ftでの発振を、「テラヘルツ発振」と呼ぶ。
【0013】
負性抵抗素子101には、電圧制御型の負性抵抗を用いることができる。具体的には、負性抵抗素子101として、電流注入型の共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunnelling Diode:RTD)を用いることにより、テラヘルツ周波数での発振が可能な発振回路100を構成することができる。この共鳴トンネルダイオード(以下、RTD)は、GaAs、InGaAs/InAlAsからなる量子井戸により構成される。
【0014】
図2(A)は、負性抵抗素子101の電流-電圧特性を説明する模式図である。横軸に負性抵抗素子101に印加される電圧Vrを示し、縦軸に負性抵抗素子101に流れる電流Irを示している。負性抵抗素子101の両端子(アノード、カソード)間に印加した電圧と、流れる電流との電圧-電流特性において、電圧増加に対して電流値が増加する領域PRと、電圧増加に対して電流値が減少する領域NRに分けることができる。この電圧増加に対して電流値が減少する領域NRが、負性抵抗の特性を有している領域である。以後、領域NRを「負性抵抗領域」と呼び、領域PRを「抵抗領域」と呼ぶ。負性抵抗領域NR中の電圧値(オペレーション電圧Vop)が負性抵抗素子101の両端子間に印加されることで、負性抵抗素子101と、容量102およびインダクタ103との間で所望のテラヘルツ周波数ftで発振するように設計されている。オペレーション電圧Vopが変化すると、発振する条件(周波数、出力の大きさ)などが変化するため、一定の電圧値が負性抵抗素子101に印加されることが求められる。なお、印加する電圧値は、発振の安定性を高めるために、負性抵抗領域NRの電圧範囲の中心付近の値であることが望ましい。ただし、これに限らず、負性抵抗領域NR内であれば、それ以外の電圧を負性抵抗素子101に印加してもテラヘルツ発振は可能である。
【0015】
また、オペレーション電圧Vopを印加している際に、負性抵抗素子101に流れる電流値をIopとする。ここで、オペレーション電圧Vopの具体的な値としては、負性抵抗素子101が有するパラメータによって変化するが、おおよそ0.5から1.5ボルト(V)の範囲であることが多い。一方、電流値Iopの具体的な値としては、同じように負性抵抗素子が有するパラメータによって変化するが、おおよそ20から150ミリアンペアー(mA)の範囲であることが多い。ただし、本実施形態は、上述したオペレーション電圧Vopの電圧値範囲や、電流値Iopの電流値範囲に限定されるものではなく、上述した範囲以外でも同様に用いることができる。
【0016】
負性抵抗素子101の有する負性抵抗値Rnrについて、図2(A)と同じ電圧-電流特性を示す図2(B)を用いて説明する。オペレーション電圧Vopを印加した状態での、電圧-電流特性における傾き値(Va/Ia)を、負性抵抗素子101の負性抵抗値Rnrとすることができる。負性抵抗値Rnrは、負性抵抗素子101のパラメータにより異なるが、一般的には1Ωから数十Ωの間にある。
【0017】
上記のように、負性抵抗素子101にオペレーション電圧Vopを印加するために、発振回路100は電圧バイアス回路200と接続されている。具体的には、電圧バイアス回路200は電圧Vbを出力して、配線を介して発振回路100にオペレーション電圧Vopを印加する。従って、電圧バイアス回路200と発振回路100との間に存在する配線などにおいて発生する電圧降下VΔを考慮して、発振回路100にオペレーション電圧Vopが印加されるように電圧Vbは設定される(Vb=Vop+VΔ)。
【0018】
また、図1が示すように、それぞれの発振回路111,112,113は、インダクタ121,122,123のいずれかを介して、電圧バイアス回路200に接続されている。ここで、発振回路111では、一方の端子Aが、配線211とインダクタ121と、配線210を介して、電圧バイアス回路200に接続される。一方、発振回路111の端子Aとは別の他方の端子Bは、共通配線220を介して、電圧バイアス回路200に接続されている。発振回路112,113も同様に端子A,Bが、電圧バイアス回路200と接続されている。
【0019】
[本実施形態との比較例について]
以下では、本実施形態に係る発振器1との比較例の発振器について説明し、比較例の発振器に生じる課題について説明する。また、以下では、発振回路111,112,113のインピーダンスを、それぞれZr1,Zr2,Zr3とする。配線211,212,2
13のインピーダンスを、それぞれZw1,Zw2,Zw3とする。さらに、発振回路111,112,113に対応したインダクタ121,122,123のインピーダンスを、それぞれZl1,Zl2,Zl3とする。
【0020】
まず、比較例として、図3(A)を用いて、インダクタ120(121)を含まない構成における発振回路111の発振について説明する。比較例では、発振回路111に対して、発振回路112と発振回路113と電圧バイアス回路200とが並列に配置された回路301が接続されているように見える。インピーダンスZr1に対して、回路301の合成インピーダンスZ301の値が十分高ければ、発振回路111は回路301の影響を受けない。このため、発振回路111の素子(負性抵抗素子101、容量102、インダクタ103)だけで発振する周波数ftが決まる。しかし、合成インピーダンスZ301の値が、Zr1に近いまたはZr1よりも低い値であれば、発振回路111が回路301と結合する。
【0021】
ここで、発振回路111,112,113は、設計上は同じパラメータでも、実際の特性は厳密には微妙に異なる。例えば、各発振回路100の発振周波数や位相は、それぞれ厳密には微妙に異なる。そのため、発振回路100同士が結合してしまうと、周波数や位相の違いにより、所望のテラヘルツ周波数ftで発振することができない。それどころか、結合によって、所望のテラヘルツ周波数ft以外の周波数で発振が起こる可能性が高い。この所望のテラヘルツ周波数ft以外の周波数での発振を「寄生発振」と呼ぶ。このような寄生発振が起こってしまうと、さらに、所望のテラヘルツ周波数ftでの発振が得にくい。
【0022】
比較例のように、1つの電圧バイアス回路200に、複数の発振回路100が接続された構成であると、複数の発振回路100の間の結合が非常に発生しやすい。加えて、発振回路112と発振回路113自体は、発振回路111とほぼ同じインピーダンス(Zr1=Zr2=Zr3)である。このため、発振回路112と発振回路113の並列回路の合成インピーダンスは、発振回路111のインピーダンスZr1の約半分のインピーダンス(Zr1/2)である。また、回路301における他の素子に対して電圧バイアス回路200が並列に存在していても、回路301のインピーダンスZ301を増加させないため、インピーダンスZ301は、Zr1/2より高い値を取らない。そのため、比較例では、Zr1>Z301が成立するので、発振回路111と回路301との結合による寄生発振がきわめて起こりやすい。
【0023】
一方、図3(B)に、1つの電圧バイアス回路200に、単一の発振回路111を接続した構成を示す。図3(B)では、発振回路111に対して、電圧バイアス回路200のみが配置された回路300が接続されているように見える。回路300の合成インピーダンスZ300は、電圧バイアス回路200のインピーダンスにより決まるので、電圧バイアス回路200のインピーダンスを最適な値に選択しておけば、結合を防止可能であるため寄生発振する可能性を低くできる。
【0024】
以上のように、複数の発振回路111,112,113を同一の電圧バイアス回路200に接続する構成では、発振回路100と電圧バイアス回路200を一対一で使用する構成に比べて寄生発振する可能性が高いという課題がある。
【0025】
[本実施形態の発振器について]
次に、比較例における課題を解決するような、本実施形態に係る発振器1について図3(C)を用いて説明する。発振器1では、発振回路111,112,113が、それぞれ異なるインダクタ120(121,122,123)を介して、同一の電圧バイアス回路200に接続されている。そして、発振回路111に対して、インダクタ121と回路3
11が直列に並んだ回路310が接続されているように見える。回路311は、発振回路112およびインダクタ122が直列に接続された組と、発振回路113およびインダクタ123が直列に接続された組と、電圧バイアス回路200とが並列に配置された構成である。
【0026】
本実施形態では、インダクタ121,122,123のインピーダンスZl1,Zl2,Zl3が、発振回路111,112,113の有するインピーダンスZr1,Zr2,Zr3より大きい(Zl1=Zl2=Zl3>Zr1=Zr2=Zr3)。ここで、回路310の合成インピーダンスをZ310とし、回路311の合成インピーダンスをZ311とする。回路310は、インダクタ121と回路311を直列に配置した構成なので、Z310はZl1とZ310を合算した値である。本実施形態では、インダクタ121のZl1は、発振回路111のZr1より大きいので、発振回路111とインダクタ121との結合を防止して、寄生発振の発生確率を低減できる。さらに、回路311には、インダクタ122、123が並列に配置されているので、電圧バイアス回路200のインピーダンスが最適なもの(十分高い値)に設定されていれば、Z311は、Zr1とZl1を加えた値の半分以上の値を得ることができる。つまり、Z311は、Zr1より大きな値を取ることができるので、発振回路111と回路311との結合も防止できる。そのため、Z310は、Zr1より十分大きな値(Zr1×2より大きな値)をとり得るため、複数の発振回路を接続した構成であっても、結合による寄生発振を十分に抑制できる。
【0027】
また、本実施形態では、発振回路111,112,113と電圧バイアス回路200の間にインダクタ121,122,123が配置されている。インダクタ120は、低い周波数ではインピーダンスが低いため、直流から低周波数付近において、電圧バイアス回路200からの出力電圧Vbがインダクタ120によって大きく降下することはない。ここで、発振回路111のインピーダンスZr1は、1Ωから10Ω程度が一般的なので、バイアス電圧Vbとオペレーション電圧Vopをほぼ一致させるために、Zl1は直流付近で数十ミリΩから数百ミリΩ以下の範囲であることが望ましい。なお、本実施形態はこの範囲に限らず、使用上問題ない範囲であれば、任意の値を用いることができる。また、インダクタ120での電圧降下を考慮して、バイアス電圧Vbを設定してもよい。
【0028】
一方、インダクタ120は、高い周波数ではインピーダンスの値が大きい。具体的には、インダクタ120は、周波数に比例してインピーダンスが増加する。そのため、寄生発振の可能性のある下限の周波数fsから、テラヘルツ周波数領域までの周波数においては、インダクタ120のインピーダンスが十分大きいため、発振回路100間の結合の防止が可能である。なお、図3(C)を用いて説明したインピーダンスの関係(Zl1=Zl2=Zl3>Zr1=Zr2=Zr3)は、下限の周波数fs以上(所定の周波数以上)の領域で満たしておけばよく、直流やその付近の低周波数では満たす必要はない。ここで、寄生発振が起こる下限の周波数fsは、発振回路100のパラメータにより異なるが、典型的には、数十KHzから数十MHzの間である。従って、周波数fsを10KHzとすれば(10KHz以上の周波数においてZl1=Zl2=Zl3>Zr1=Zr2=Zr3が満たされれば)、十分に寄生発振の抑制が可能である。また、この周波数fsは、発振回路100以外にも、配線や電圧バイアス回路200の寄生素子などからも影響を受けるので、実際に使用する際のパラメータに基づいて周波数fsを算出してインダクタ120の値(インダクタンス)が設定されればよい。
【0029】
このように、発振回路100と電圧バイアス回路200の間にインダクタ120を用いる構成によって、周波数fs以下において電圧の印加を容易にすることができ、周波数fs以上において寄生発振を防ぐ効果を両立することができる。
【0030】
なお、本実施形態のインダクタ120(121,122,123)の値は、使用する発
振回路100のパラメータやテラヘルツ波の発振周波数、配線の形態や電圧バイアス回路の構成などによって変化するので、その時々の最適な値を選択することで対応できる。使用するインダクタの値(インダクタンス)として、典型的な一例として記載すると、数百ナノヘンリーから、数マイクロヘンリーの範囲の値でありえる。インダクタの値は、この限りではなく、その他の値も本明細書に記載の条件を満たせば、同様に用いることができる。
【0031】
また、本実施形態では、発振回路111,112,113の分離のために、端子A側のみにインダクタ121,122,123を配置している。一方、端子B側の共通配線220にはインダクタ120を配置していない。発振回路の結合を防ぐためであれば、片方だけに配置することで効果を得られる。これにより、構成要素の増加を最小限に留めて、十分な効果を得ることができる。また、挿入するインダクタ120を片方側の端子側にすべて配置することで、配線や部品配置を容易に構成することができる。加えて、複数の発振回路により発振器や照明を構成する場合には、複数の発振回路を同一のチップ上に形成することによって発振器や照明の小型化が可能である。このチップ上では、発振回路の片方の端子は一般的な構成と同様に基板電位に接続されているので、チップ内の構成を一般的な構成から大きく変更することなく本実施形態を適用することができる。なお、必ずしも一方の端子にのみインダクタ120を配置する構成とする必要はなく、両方の端子にインダクタ120を配置する構成としてもよい。また、端子A側ではなく、端子B側にインダクタ120を配置する構成であってもよい。
【0032】
本実施形態によると、負性抵抗を有する複数の発振回路(共振器)を、同一の電圧バイアス回路が駆動する発振器において、各発振回路を所望のテラヘルツ周波数で安定して発振させることができる。
【0033】
<実施形態2>
実施形態2に係る発振器2として、実施形態1に係る発振器1におけるインダクタ121,122,123の配置について説明する。図4(A)~図5(B)を用いて、本実施形態に係る発振器2を説明する。発振器2は、図4(A)が示すように、プリント回路基板500(PCB)、パッケージ501(PKG)、チップ600、電圧バイアス回路200を備える。
【0034】
チップ600は、図4(B)が示すように、負性抵抗素子101を含む発振回路100(111,112,113)を備えており、パッケージ501内に実装されている。また、チップ600は、アンテナ602、配線603、電極610、ワイヤー611、ワイヤー612を備える。
【0035】
図4(A)が示すように、プリント回路基板500上には、パッケージ501と電圧バイアス回路200、パッケージ形態にされた表面実装型(SMD)のインダクタ121,122,123が配置されている。電圧バイアス回路200は、インダクタ121,122,123を介して、チップ600上にある発振回路111,112,113と電気的に接続されている。これは、プリント回路基板500とパッケージ501が有する配線(不図示)を介して接続されている。また、パッケージ501は、チップ600を保持(サポート)する。
【0036】
図4(B)が示すように、チップ600の配線は、パッケージ501が有する配線と、ワイヤーボンディングによって電気的に接続されている。ワイヤーボンディングは、チップ600上の電極610が、ワイヤー611またはワイヤー612を介して、パッケージ501上の電極610と電気的に接続されていることによって実現されている。
【0037】
なお、チップ600のチップサイズは、典型的には、数ミリメータ角から数十ミリメータ角である。また、図4(A)では、1つのチップ600上に複数の発振回路をすべて配置した構成を説明したが、この構成に限らず、複数の発振回路を複数のチップに分けた構成であってもよい。
【0038】
図4(C)は、図4(B)のA1-A2断面を示した模式図である。図4(C)が示すように、チップ600上には、絶縁膜620が配置されている。発振回路100(111)は、チップ600上に、絶縁膜620(チップ600)の厚さ方向に配置されており、一方の端子はチップ600の基板電位に接続されている。もう一方(他方)の端子は、発振回路100(111)の上側に配置されたアンテナ602に接続されている。アンテナ602は、チップ600上の配線603により、A2側の電極610に接続されている。チップ600の基準電位は、絶縁膜を貫通した配線613により、A1側の電極610に接続されている。ここで、アンテナ602のサイズは、テラヘルツ波の発振周波数に応じて最適な大きさであればよく、例えば、数百マイクロメータ(μm)角から数百マイクロメータ(μm)角の大きさでありえる。また、アンテナ602は、正方形状のアンテナに限らず、テラヘルツ波を発振することができれば、どのようなアンテナ形状であってもよい。
【0039】
また、本実施形態では、インダクタ121,122,123を、プリント回路基板500における表面実装型部品(SMD)として構成しているので、必要なパラメータを有した素子を任意に選択して用いることができる。そして、表面実装型部品としてインダクタ121,122,123を用いることによれば、実装面積を抑制することができ、集積度を高めることができる。本実施形態では、発振回路100の数と同数のインダクタ120が必要なので、実装面積の抑制は重要である。
【0040】
本実施形態によると、負性抵抗を有する複数の発振回路を、同一の電圧バイアス回路が駆動する場合でも、各発振回路を所望のテラヘルツ周波数で安定して発振させる発振器2を、簡素な構成で提供することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、プリント回路基板500上にインダクタ121,122,123を配置した構成について説明したが、この構成には限らない。図5(A)が示すように、パッケージ501上に、チップ600と共に、インダクタ121,122,123を配置した構成とすることもできる。これにより、パッケージ501の外部に、各発振回路からの配線を引き出す必要がないため、パッケージ501のピン数の削減や、プリント回路基板500上の配線の削減をすることができる。そのため、小型な発振器を実現することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、パッケージ501上にチップ600を配置した構成について説明したが、この構成には限られない。図5(B)が示すように、プリント回路基板500上にチップ600を直接配置した構成であってもよい。これにより、パッケージ501を省くことができるので、より少ない構成によって発振器を構成することができる。
【0043】
<実施形態3>
実施形態3に係る発振器3は、インダクタ121,122,123の配置が実施形態2に係る発振器2と異なる。以下では、図6(A)~図7(B)を用いて発振器3を説明する。
【0044】
発振器3では、インダクタ120(121,122,123)が、図6(A)が示すように、発振回路100(111,112,113)を備えたチップ600上に配置されている。発振回路100と電極610に、チップ600における配線603と配線604を
介して、インダクタ120が接続されている。
【0045】
図6(B)は、図6(A)のA1-A2の断面図を示す。図7(A)は、インダクタ120の周辺の拡大図を示し、図7(B)は、図7(A)のB1-B2の断面図を示す。インダクタ120は、図7(A)が示すように、金属配線605がループ状に巻いていることによって形成されている。金属配線605の片方の端子は、配線603に接続されている。金属配線605上には、絶縁膜621が形成されており、金属配線605の中央の端部は、絶縁膜621上の配線606に接続されている。さらに、金属配線605の中央の端部は、配線606を経由して配線604に接続されている。インダクタ120は、絶縁膜と金属の配線をループ上に形成した簡素な構成であるので、負性抵抗素子101などを形成したチップ600上に容易に形成することができる。
【0046】
本実施形態によると、パッケージ501にインダクタ120を配置した実施形態2とは異なり、発振回路100を形成したチップ600上にインダクタ120を配置しているため、発振器における面積の増加を抑制することができる。そのため、負性抵抗を有する複数の発振回路を同一の電圧バイアス回路が駆動する場合でも、各発振回路を所望のテラヘルツ周波数で安定して発振させる発振器を、小型な構成で提供することができる。
【0047】
なお、本実施形態のインダクタは、上記で説明した構成に限定されるものではなく、チップ上に配置できる構成のインダクタであればよい。
【0048】
<実施形態4>
実施形態4に係る発振器4は、実施形態1に係る発振器1の構成に加えて、寄生発振を防止するシャント素子を有する。図8(A)、図8(B)の回路図を用いて、本実施形態に係る発振器4を説明する。
【0049】
発振器4は、図8(A)が示すようにシャント素子900を備える。シャント素子900は、負性抵抗素子101に対して直列に配置されており、発振回路100と結合することにより、発振回路100の外部の素子との結合を防ぐ。これにより、シャント素子900は、発振回路100の所望のテラヘルツ発振周波数ft以外の発振を抑制する。
【0050】
一般的には、電圧バイアス回路200と発振回路100を接続する配線には、図14(B)が示すように、寄生インダクタや寄生容量など(素子400~404)が含まれる。そのため、発振回路100が有する素子と電圧バイアス回路200が有する寄生素子との間で、所望の周波数ftと異なる周波数での発振回路が形成されて、寄生発振が発生する場合がある。
【0051】
また、一般的に、電圧バイアス回路200自体は、理想的な電圧源ではない。詳しくは、電圧バイアス回路200は、図14(B)が示すように、理想的な電圧源201、寄生インダクタや寄生抵抗、寄生容量など(素子411,412,413)を有している。そのため、寄生発振は、発振回路100の素子と、電圧源201以外の電圧バイアス回路200の寄生素子との間において発生する場合もある。
【0052】
そこで、本実施形態では寄生発振を抑制するために、図8(A)が示すように、電圧バイアス回路200に対して、シャント素子900と発振回路100とが並列に配置される。ここで、シャント素子900は、発振回路100の負性抵抗素子101の抵抗値Rrと略同一のインピーダンスを有している。これにより、発振回路100とシャント素子900は結合し、シャント素子900にて損失を発生させることができる。シャント素子900による損失によって、発振回路100が外部の配線や電圧バイアス回路200と結合することを防ぎ、寄生発振を抑制することができる。なお、シャント素子900のインピー
ダンスの範囲は、具体的には抵抗値Rrに対して、2倍以下の範囲が望ましく、さらに1.5倍以下の範囲であることがより好ましい。
【0053】
さらに、シャント素子900は、配置する位置を考慮する必要がある。具体的には、発振回路100(111,112,113)と、シャント素子900とを接続する配線の長さを、寄生発振を抑制しようとする最大の周波数(高周波側のカットオフ周波数)の波長λの1/4以下にする。これは、交流信号の波長が短いと、配線の位置が少し変わっただけで、位相が大きく変化してしまい、配線端での反射による等価容量や等価インダクタが発生するからである。特に、ギガヘルツからテラヘルツの周波数付近での寄生発振を抑制しようとする場合には、発振回路の近傍にシャント素子900を配置する。発振回路100からシャント素子900までの距離が波長λの1/4以下であれば、配線端での反射の効果による等価容量や等価インダクタの発生を抑えることができ、寄生発振を抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態では、図8(B)が示すように、シャント素子900として容量素子901を用いる。容量素子901は、周波数に比例して、インピーダンスを容易に下げることができる。そのため、容量素子901は、特定の周波数から高い領域まで、継続して低いインピーダンスを得ることができる。例えば、容量素子901は、数メガヘルツから数テラヘルツの広い範囲で低いインピーダンスを得て、その周波数範囲において寄生発振を抑制することができる。しかし、インダクタ120を有しない場合には、複数の発振回路100を接続すると容量素子901同士が結合してしまい、隣接する発振回路100間における結合による寄生発振や、場合によっては発振停止が起こってしまう。
【0055】
これに対して、本実施形態では、発振器4は、発振回路100間にインダクタ120(121,122,123)を有している。このため、発振回路100とそれに付随するシャント素子900が、他の発振回路100や他のシャント素子900に結合することを防ぐことができる。
【0056】
本実施形態に係る発振器によると、負性抵抗を有する複数の発振回路を、同一の電圧バイアス回路が駆動する場合でも、寄生発振を抑制して、各発振回路を所望のテラヘルツ周波数で安定して発振させることができる。
【0057】
<実施形態5>
実施形態5に係る発振器5は、寄生発振を防止するシャント素子の構成が実施形態4に係る発振器4と異なる。図9(A)、図9(B)を用いて、本実施形態に係る発振器5を説明する。
【0058】
本実施形態では、図9(A)が示すように、シャント素子として抵抗容量素子902を用いる。抵抗容量素子902は、抵抗素子903と容量素子904を直列に接続した構成である。
【0059】
抵抗容量素子902は、実施形態4に係る容量素子901に比べて、構成要素は増えるが、広い周波数範囲において安定して寄生発振を抑制することができる。また、抵抗素子903と容量素子904が配置されていることにより、直流付近の周波数領域では定常電流が流れず、消費電力は増加しない。
【0060】
ここで、シャント素子において損失が発生しないと、発振回路が他の部位と結合することが防げないことがある。このため、実施形態4のように容量素子901をシャント素子として用いる場合には、周波数の増加に従ってインピーダンスが減少するので、特に高い周波数での損失が下がりすぎるのを防ぐために、容量値をあまり大きくすることができな
い場合がある。
【0061】
しかし、本実施形態では、抵抗素子903と容量素子904の時定数で決まる周波数より十分高い周波数領域では、容量素子904は短絡された状態となり、抵抗素子903において十分な損失を発生させることができる。このため、抵抗素子903がシャント素子に含まれることにより、容量素子904の容量値を大きくすることができ、シャント素子で発生する損失を一定量確保することができる。
【0062】
つまり、抵抗容量素子902をシャント素子として用いる場合には、抵抗素子903を有することによって、容量素子901をシャント素子として用いる場合に比べて、より容量値を大きくすることができ、低い周波数まで十分な損失を得ることができる。そのため、本実施形態に係る発振器5は、より広い周波数において寄生発振の抑制を行うことができる。
【0063】
本実施形態に係る発振器5によると、負性抵抗を有する複数の発振回路を同一の電圧バイアス回路が駆動する場合でも、寄生発振の発生をより抑制して、各発振回路を所望のテラヘルツ周波数で安定して発振させることができる。
【0064】
なお、容量素子901や抵抗容量素子902などの容量素子を含んだシャント素子の他に、図9(B)が示すように、抵抗素子905をシャント素子とする構成でもあってもよい。
【0065】
抵抗素子905をシャント素子として用いる構成は、抵抗のみを用いた単純な構成であり、容量素子を含んだシャント素子に比べると、より容易に十分な損失を発生させ、インピーダンスを制御することも容易である。そのため、抵抗素子905のみによって構成されるシャント素子は、容量素子を含んだシャント素子と比較すると、発振回路間での結合が発生する可能性をより低くできる。
【0066】
言い換えると、抵抗素子905をシャント素子とする構成と比べると、容量素子901や抵抗容量素子902をシャント素子とする構成では、発振回路間の結合発生を回避することがより求められる。そのため、特に、容量を有するシャント素子において、インダクタ120によって結合の発生を抑制する効果が非常に高いといえる。しかしながら、抵抗素子905をシャント素子とする場合についても、発振回路間での結合の発生を抑制するという効果を十分に得ることができる。
【0067】
<実施形態6>
実施形態6に係る発振器6は、シャント素子の数とインダクタとの関係が他の実施形態に係る発振器と異なる。それ以外は、実施形態1~5を組合わせたものと同じである。図10(A)~図11(B)を用いて、本実施形態に係る発振器6を説明する。
【0068】
図10(A)は、発振器6の構成を示し、図10(B)は、発振器6におけるチップ600の詳細な構成を示す。発振器6において、図10(A)および図10(B)が示すように、チップ600上にシャント素子911が配置され、パッケージ501上にシャント素子912が配置され、プリント回路基板500上にシャント素子913が配置されている。さらに、シャント素子911とシャント素子912の間には、インダクタ121~123が配置される。シャント素子912とシャント素子913の間には、インダクタ121’~123’が配置される。シャント素子913と電圧バイアス回路200の間には、インダクタ121’’~123’’が配置される。このように、発振器6は、図11(A)の回路図が示すように、複数のインダクタを多段に備える。
【0069】
シャント素子911~913のそれぞれは、高い周波数の寄生発振の抑制させるために、発振回路100に近接して配置されている。より好適には、発振回路100からシャント素子911~913までのそれぞれの距離が、当該シャント素子のそれぞれが抑制する寄生発振周波数での波長の1/4以下であるとよい。ここで、シャント素子911が、寄生発振防止の効果を発揮する周波数をfs1とし、シャント素子912が、寄生発振防止の効果を発揮する周波数をfs2とし、シャント素子913が、寄生発振防止の効果を発揮する周波数をfs3とする。それぞれのシャント素子の周波数は、発振回路に近い順から高く、fs1>fs2>fs3の関係である。
【0070】
また、本実施形態では、インダクタ120のインピーダンス(インダクタンス)は発振回路100に近い順に小さくされる。ここで、インダクタ121(122,123)のインピーダンスをZlm1とし、インダクタ121’(122’,123’)のインピーダンスをZlm2とし、インダクタ121’’(122’’,123’’)のインピーダンスをZlm3とする。これらは、Zlm1<Zlm2<Zlm3の関係が成立する。ここで、インピーダンスが大きいほど、そのインダクタのサイズは大きい。このため、チップ600上に配置するインダクタ120のインピーダンスが大きいと、チップ600の面積が占有されるので、インピーダンスには上限がある。また、パッケージ501内に配置するインダクタ120のインピーダンスが大きいと、表面実装型部品のサイズの増加によって、パッケージ501のサイズが増加してしまう。本実施形態では、チップ600に近い順にインダクタのインピーダンスが小さいので、チップ600やパッケージ501の実装面積を抑えることができる。
【0071】
周波数fs1において、インピーダンスZlm1は、発振回路100が有するインピーダンスZr1とほぼ同じか大きい値を有する。これにより、周波数fs1以上の周波数において、シャント素子911によって損失を発生させて、さらに外部の素子との結合を防ぐことができる。また、シャント素子911による損失が不足する周波数においても、インダクタ121(122,123)によって当該周波数において損失が発生できるので、当該周波数の電磁波が外部に漏れ出ることがない。シャント素子912とインダクタ121’(122’,123’)との関係と、シャント素子913とインダクタ121’’(122’’,123’’)との関係も、同様である。ここで、図11(B)に、本実施形態における周波数に対するインピーダンスZlm1~Zlm3の値の関係を模式した図を示す。インピーダンスZlm1~Zlm3は、連続的にインピーダンスZr1とほぼ同じか大きい値を有している。
【0072】
このように、本実施形態では、複数のシャント素子間にインダクタを配置することで、実装面積の大幅な増大を発生させることなく、シャント素子での寄生発振の抑制ができる。また、複数のシャント素子によって、広い範囲の周波数において寄生発振を抑制することができる。本実施形態に係る発振器によると、負性抵抗を有する複数の発振回路を、同一の電圧バイアス回路が駆動する場合でも、寄生発振の発生を抑制して、各発振回路を所望のテラヘルツ周波数で安定して発振させることができる。
【0073】
なお、本実施形態では、チップ600上にシャント素子911が配置され、パッケージ501上にシャント素子912が配置され、プリント回路基板500上にシャント素子913が配置されている構成で説明したが、本実施形態はこれに限らない。3つのうちのシャント素子のいずれかが存在しない構成でもよく、シャント素子が4つ以上のシャント素子を配置した構成でもよい。
【0074】
<実施形態7>
実施形態7では、直流電圧を印加する電圧バイアス回路ではなく、交流電圧を印加する電圧バイアス回路を有する発振器7について説明する。図12(A)および図12(B)
を用いて、本実施形態に係る発振器7を説明する。
【0075】
実施形態1では、発振器1において、直流の電圧を印加する電圧バイアス回路200が用いられていた。本実施形態では、図12(A)が示すように、発振器7において電圧バイアス回路200の代わりに、交流電圧を印加する交流電圧バイアス回路202が用いられる。
【0076】
交流電圧バイアス回路202は、発振回路100に印加するために、交流の電圧を発生させる。具体的には、図12(B)が示すように、交流電圧バイアス回路202では、ある周波数facで、テラヘルツ波を発振するオペレーション電圧Vopとテラヘルツ波の発振が停止する電圧値Voffとの間を変化する電圧を用いる。これにより、テラヘルツ波の発振と停止を、周波数facで繰り返すことができる。なお、電圧値Voffは、負性抵抗領域NR以外の電圧値であればよく、例えば0Vである。周波数facは、テラヘルツ波の発振周波数(30GHzから30THzまで)より、十分低い周波数である。周波数facには、数Hzから数MHzの範囲の周波数が用いられるが、使用上問題なければ、これ以外の周波数も用いることができる。
【0077】
テラヘルツの発振と停止を繰り返すことにより、テラヘルツ波の照射と非照射の状態を繰り返すことができる。これにより、テラヘルツ発振を停止している際に、他の要素で照射されるテラヘルツ波のオフセットノイズ成分を把握することができる。そのため、テラヘルツ波を対象物に照射して、対象物から反射するテラヘルツ波を撮影するカメラに対して発振器を用いる構成では、照明由来以外のノイズ成分を除去することができる。そのため、S/N比の高いテラヘルツカメラを実現することができる。
【0078】
本実施形態に係る発振器によると、テラヘルツ波の発振と停止を繰り返すことができるので、テラヘルツ波のオフセットノイズ成分を把握することができる。本実施形態の発振器は、オフセット成分が把握できるので、照明やカメラに用いた時、SN比を向上させることができる。
【0079】
なお、実施形態5の抵抗容量素子902を用いる構成では、容量素子904と抵抗素子905の時定数により決まる周波数frcが、交流電圧バイアス回路202が変化する周波数facより高いことが求められる。例えば、交流電圧バイアス回路202において矩形波の電圧を用いる場合には、周波数frcは、周波数facの数倍以上であることが好ましい。
【0080】
<実施形態8>
実施形態8では、発振器を用いた撮像装置(画像取得装置)について説明する。図13(A)、図13(B)を用いて、本実施形態に係る撮像装置を説明する。撮像装置は、照明801、テラヘルツ撮像素子802、タイミング生成部803を有する。
【0081】
照明801は、実施形態1に係る発振器1を有することによって、被対象800に対してテラヘルツ波811(所定の電磁波)を照射する照明装置である。図13(A)が示すように、照明801から出射したテラヘルツ波811が、撮影の対象物である被対象800によって反射して、反射したテラヘルツ波812がテラヘルツ撮像素子802により撮像される。被対象800の形状や物性値に対応して、テラヘルツ撮像素子802が得ることのできる画像は変わるため、撮像装置は、被対象800の情報を適切に取得することができる。
【0082】
本実施形態によれば、複数の発振回路を同一の電圧バイアス回路が駆動する構成で、各発振回路を所望の周波数で安定に発振させることができるので、より安定的にテラヘルツ
波を出力する照明を実現することができる。
【0083】
さらに、図13(B)が示すように、照明801に、実施形態7に係る交流電圧バイアス回路202を用いた発振器7を用いることができる。
【0084】
図13(B)では、撮像装置は、タイミング生成部803をさらに有する。タイミング生成部803は、照明801と、テラヘルツ撮像素子802にタイミング信号810を出力している。照明801に入力されたタイミング信号810は、交流電圧バイアス回路202の電圧変化タイミングを調整するために用いられる。照明801は、調整されたタイミングで、テラヘルツ波の発振と停止を周期的に繰り返すことによって、テラヘルツ波を照射した期間と照射していない期間とが発生する。一方、テラヘルツ撮像素子802に入力されたタイミング信号810は、照明801がテラヘルツ波を照射した期間の撮像と、照射していない期間の撮像をそれぞれ行い、各期間での撮像画像の差を取る動作を行う。これにより、意図して照射していない(オフセットノイズ成分となる)テラヘルツ波の成分を除去することができる。そのため、取得した画像のSN比(Singal to Noise Ratio)を向上させることができる。
【0085】
本実施形態に係るテラヘルツ波発振回路を照明801に用いると、複数の発振回路を同一の交流電圧バイアス回路が駆動する構成で、各発振回路を所望の周波数で安定に発振させることができる。そのため、照射と停止を繰り返しても、大きく安定なテラヘルツ出力の照明を得ることができるため、画像取得装置に用いた際にSN比の高い画像を取得することができる。
【符号の説明】
【0086】
1:発振器、100:発振回路、101:負性抵抗素子、
120:インダクタ、200:電圧バイアス回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14