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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】樹脂製カード媒体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20240527BHJP
   G06K 19/02 20060101ALI20240527BHJP
   B32B 9/02 20060101ALI20240527BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G06K19/077 144
G06K19/02
B32B9/02
B32B5/02 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019216259
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021086483
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591064379
【氏名又は名称】昌栄印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】中田 知宏
【審査官】小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218951(JP,A)
【文献】特開2014-160327(JP,A)
【文献】特開昭63-242696(JP,A)
【文献】特開2010-188637(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059305(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
G06K 19/02
B32B 9/02
B32B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維を含んでいる植物繊維含有樹脂層と、
前記植物繊維含有樹脂層の中に包み込まれるように配置された、複数の電子部品を両面に装着した部品基板と、
前記植物繊維含有樹脂層の一の面側に積層された、植物繊維を含まない2以上の樹脂層からなる第1の仕上げ層と、
前記植物繊維含有樹脂層の一の面とは反対側の他の面側に積層された、植物繊維を含まない2以上の樹脂層からなる第2の仕上げ層とを備えた樹脂製カード媒体において、
前記第1の仕上げ層の各樹脂層と前記第2の仕上げ層の各樹脂層のそれぞれは互いに同じ構成を有しており、そして前記第1の仕上げ層の各樹脂層と前記第2の仕上げ層の各樹脂層のそれぞれは、互いに前記植物繊維含有樹脂層を挟んで対称の位置に配置されていることを特徴とする樹脂製カード媒体。
【請求項2】
前記第1の仕上げ層の各樹脂層のそれぞれは、前記植物繊維含有樹脂層を挟んで対称の位置に配置されている前記第2の仕上げ層の各樹脂層と同じ厚みを有していることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製カード媒体。
【請求項3】
前記第1の仕上げ層の各樹脂層のそれぞれは、前記植物繊維含有樹脂層を挟んで対称の位置に配置されている前記第2の仕上げ層の各樹脂層と同じ材料から形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂製カード媒体。
【請求項4】
前記部品基板に装着されており、そして前記植物繊維含有樹脂層の一部に開口部を設けることにより外部に露出されたスイッチ、表示部および/または指紋検出部をさらに備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂製カード媒体。
【請求項5】
ISO/IEC7810:2003の規格に準拠したカードの反り量が0.7mm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂製カード媒体。
【請求項6】
植物繊維を含まない2以上の樹脂シートからなる第2の仕上げ層を準備するステップと、
前記第2の仕上げ層の樹脂シートの上に、プラスチック繊維と植物繊維とからなる第2の混抄紙を積層するステップと、
前記第2の混抄紙の上に、複数の電子部品を両面に装着した部品基板を載置するステップと、
前記部品基板の上に、プラスチック繊維と植物繊維とからなる第1の混抄紙を積層するステップと、
前記第1の混抄紙の上に、植物繊維を含まない2以上の樹脂シートからなる第の仕上げ層を積層するステップにおいて、前記第1の仕上げ層の各樹脂シートと前記第2の仕上げ層の各樹脂シートのそれぞれは互いに同じ構成を有しており、そして前記第1の仕上げ層の各樹脂シートと前記第2の仕上げ層の各樹脂シートのそれぞれを、互いに前記第1および第2の混抄紙を挟んで対称の位置に配置することにより、熱プレス前のカード媒体積層体を準備し、そして
前記カード媒体積層体を、前記プラスチック繊維の軟化点以上且つ融点未満の温度において熱プレスすることを特徴とする平坦且つ平滑な樹脂製カード媒体の製造方法。
【請求項7】
熱プレス成形前の前記第1の仕上げ層の各樹脂シートのそれぞれは、前記第1および第2の混抄紙を挟んで対称の位置に配置される熱プレス成形前の前記第2の仕上げ層の各樹脂シートと同じ厚みを有していることを特徴とする請求項6に記載の樹脂製カード媒体の製造方法。
【請求項8】
熱プレス成形前の前記第1の仕上げ層の各樹脂シートのそれぞれは、前記第1および第2の混抄紙を挟んで対称の位置に配置される熱プレス成形前の前記第2の仕上げ層の各樹脂シートと同じ材料からできていることを特徴とする請求項6又は7に記載の樹脂製カード媒体の製造方法。
【請求項9】
前記部品基板に装着されており、そして前記第1の混抄紙の一部に開口部を設けることにより、熱プレス成形後の樹脂製カード媒体の外部に露出されるスイッチ、表示部および/または指紋検出部をさらに備えていることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の樹脂製カード媒体の製造方法。
【請求項10】
得られた樹脂製カード媒体のISO/IEC7810:2003の規格に準拠した反り量が0.7mm以下であることを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の樹脂製カード媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICチップ等の電子部品を備えた平坦且つ平滑な樹脂製カード媒体及びその製造方法に関し、特に電子部品を搭載した部品基板を植物繊維含有樹脂層で挟み込み、その表裏に複数の樹脂層のそれぞれを、互いに該植物繊維含有樹脂層を挟んで対称の位置に配置した樹脂製カード媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高機能化、多機能化、セキュリティ性の向上などの要請により、カードには、大容量の可変情報記録媒体としてIC(Integrated Circuit)チップ、外部から電力と信号を得るためのアンテナ回路、情報の表示するための表示部、指紋等を検出するためのセンサー部、電源(電池)および電源をオン・オフするためのスイッチなど、多数の電子部品が搭載された部品基板を組み込むケースが多くなっている。
【0003】
このように、カードの中に電子部品が搭載された部品基板を組み込んで平坦なカードを製造する方法としては、部品基板の表裏面を合成樹脂でコーティングしたり、または部品基板の表裏面に合成樹脂シートや繊維シートを積層して熱プレスを掛ける方法などが知られている。また、別の製造方法として、表裏の合成樹脂シート等を接着剤で貼り合わせる方法も知られている。
【0004】
例えば、スペーサー層等に凹部又は穴を設けることなく、電子部品や部品基板の厚みを吸収させてカードを製造する方法としては、特開平9-275184号公報(特許文献1)に記載されているように、電子部品が搭載された基板表面を溶融樹脂で含浸させた繊維または紙、織物などの繊維シートで覆うことにより、電子部品や部品基板の厚みを吸収させる方法が知られている。
【0005】
特許文献1に記載のカードの製造方法は、繊維または繊維シートによって電子部品や部品基板の厚みを吸収させているので、接着剤層(ホットメルト層)のみを使用した場合に比べて、樹脂硬化時の凝固速度ムラによる局部的なひけの発生が抑制されてカードの平坦性が向上し、また曲げ強度等の機械的強度も向上する。しかしながら、特許文献1に記載されたカードの製造方法では、繊維または繊維シートへ含浸させた樹脂が溶融状態にあるため、樹脂硬化時の凝固速度のバラツキにより繊維または繊維シートの収縮ムラを引き起こしたり助長する結果、カードの反りが大きくなるという問題があった。特に電子部品や電子部品を搭載した部品基板がカードの表側または裏側のいずれか一方へ偏倚している場合、カードの反りがより大きくなる傾向にあるという問題があった。
【0006】
また、上記の問題点を解決するため、例えばWO2019/059305号国際公報(特許文献2)では、溶融樹脂の代替として、部品基板の電子部品搭載側にプラスチック繊維と植物繊維とからなる混抄紙を積層し、該カード積層体をプラスチック繊維の軟化点以上且つ融点未満の温度において熱プレスすることにより、樹脂硬化時の凝固速度のバラツキによる繊維シート等の収縮ムラの発生を抑制したカードおよびその製造方法が開発されている。
【0007】
ところで、ICチップ等を搭載した近年の樹脂製カードは、極めて高度な平坦性(例えば反り量が抑制されていること)や平滑性(例えば局部的凹部の深さが抑制されていること)、印刷性などが求められることから、カード上下面の表面層とその背面側のいくつかの層には平滑性等の高い樹脂製の仕上げシートが用いられる。
【0008】
ところが、仕上げ層としてカードの上下面に積層された樹脂シートは、上面側と下面側とで熱プレスによる熱収縮率などが異なると最終的にカードに反りを来たすことから、カードに反りを来たさないように、上面側と下面側との間で樹脂シートの材料や厚み等の形状、それらの積層枚数や組み合せなどを変えて調整しなければならないという問題があった。この問題は、上述した特許文献2に記載されたカードのように、カードの中心に、部品基板の電子部品搭載側に混抄紙を積層することで、電子部品等の厚みを吸収させた植物繊維を含む樹脂からなる緩衝層を設けた場合においても同様の問題を生じていた。
【0009】
すなわち、特許文献2に記載されたカードは、混抄紙を部品基板の電子部品搭載側に積層することで、電子部品等の凹凸を主として厚み方向に吸収するものであるが、部品基板は混抄紙の中では偏倚して配置されるため、熱プレスにより、混抄紙は上部と下部(部品基板から遠い部分と近い部分)とで平面方向に異なる熱収縮率を示すことがある。このため、高度な平坦性や平滑性を得るためには、特許文献2に記載されたカードにおいても、混抄紙の上面および部品基板の下面に積層される樹脂シートの材料や形状、積層枚数などを調整するか、或いは混抄紙の上部と下部の熱収縮率が同じになるように、混抄紙中の部品基板の配置などを調整する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-275184号公報
【文献】WO2019/059305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、内部にICチップ等の電子部品を搭載した部品基板を有し、そしてカードの上下面に樹脂層からなる仕上げ層が配置された樹脂製カード媒体において、通常の熱プレス成形により、極めて高い平坦性(例えば反り量が抑制されていること)や平滑性(例えば局部的凹部の深さが抑制されていること)、印刷性を有する樹脂製カード媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、熱プレス成形前、ICチップ等の電子部品を搭載した部品基板の凹凸を吸収するために、プラスチック繊維と植物繊維とからなる混抄紙を積層したカード媒体において、混抄紙の上部と下部(部品基板から遠い部分と近い部分)が平面方向で異なる熱収縮率を示すメカニズムについて鋭意検討を重ねた。その結果、混抄紙を、電子部品を搭載した部品基板を包み込むようにその上下面から挟み込み、さらに該混抄紙の上面側および下面側の熱収縮等をある程度拘束することができる樹脂シートを複数枚上下(表裏)対称に積層することにより、極めて高い平坦性や平滑性、印刷性を有する樹脂製カード媒体を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明によれば、植物繊維を含んでいる植物繊維含有樹脂層(熱プレス成形前は第1および第2の「混抄紙」、以下同じ。)と、前記植物繊維含有樹脂層の中に包み込まれるように配置された、複数の電子部品を両面に装着した部品基板と、前記植物繊維含有樹脂層の一の面側に積層された、植物繊維を含まない2以上の樹脂層(熱プレス成形前は「樹脂シート」、以下同じ。)からなる第1の仕上げ層と、前記植物繊維含有樹脂層の一の面とは反対側の他の面側に積層された、植物繊維を含まない2以上の樹脂層からなる第2の仕上げ層とを備えた樹脂製カード媒体において、前記第1の仕上げ層の各樹脂層と前記第2の仕上げ層の各樹脂層のそれぞれは互いに同じ構成を有しており、そして前記第1の仕上げ層の各樹脂層と前記第2の仕上げ層の各樹脂層のそれぞれは、互いに前記植物繊維含有樹脂層を挟んで対称の位置に配置されていることを特徴とする樹脂製カード媒体およびその製造方法が提供される。
【0014】
本発明の樹脂製カード媒体は、ICチップ等の複数の電子部品を上下面に搭載した部品基板が、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂など共重合ポリエステル樹脂からなるプラスチック繊維と植物繊維とからなる第1および第2の混抄紙(熱プレス成形後は1つの「植物繊維含有樹脂層」を形成、以下同じ。)を用いて部品基板を包み込むようにその上下面から挟み込まれる。このため、上下面に積層された第1および第2の混抄紙は、熱プレスの際、部品基板の上下面において、電子部品から略同等の圧力を受けて略同等の密度および略同等の熱収縮率を維持しながら厚み方向へ圧縮され、1つの植物繊維含有樹脂層を形成するので、完成後の樹脂製カードの変形を防止するのに寄与する。
【0015】
また、本発明の樹脂製カード媒体は、第1の混抄紙の上にも第2の混抄紙の上にも、植物繊維を含まない複数の樹脂シート(熱プレス成形後は「樹脂層」を形成、以下同じ。)からなる第1および第2の仕上げ層を積層しているので、熱プレスの際、仕上げ層と接する混抄紙の上下面はより均一な熱収縮を示すように拘束される。
【0016】
さらに、本発明では、第1および第2の仕上げ層を構成する各樹脂シートのそれぞれは互に同じ材料や同じ厚みなどからなる同じ構成とし、第1および第2の仕上げ層の各樹脂シートのそれぞれを、互いに第1および第2の混抄紙を挟んで対称の位置となるように配置して熱プレス前のカード媒体積層体を準備する。そして、該カード媒体積層体をプラスチック繊維の軟化点以上且つ融点未満の温度において熱プレスすると、第1および第2の混抄紙の上下面はさらにより一層均一な熱収縮を示すので、極めて平坦且つ平滑であり、そして同じ材料や同じ厚みなど同じ構成からなる第1および第2の仕上げ層の各樹脂層のそれぞれが互いに植物繊維含有樹脂層を挟んで対称の位置に配置された樹脂製カード媒体を得ることができる。
【0017】
なお、本発明において、樹脂シートまたは熱プレス成形後の樹脂層が「同じ構成を有する」とは、互いに対称の位置にある樹脂シートまたは熱プレス成形後の樹脂層が材料的にも、大きさや厚み等の形状的にも同じであることを意味する。
【0018】
また、本発明において、混抄紙または熱プレス成形後の植物繊維含有樹脂層を挟んで「対称の位置に配置されている」とは、例えば混抄紙の表面に、該表面から遠ざかる方向へ樹脂シートc/樹脂シートb/樹脂シートa(熱プレス成形後は「樹脂層/樹脂層b/樹脂層」を形成)からなる第1の仕上げ層が積層されている場合は、混抄紙の裏面にも、該混抄紙を鏡面として表面と同じ構成を有する樹脂シートが並ぶように、該裏面から遠ざかる方向へ向けて、樹脂シートc/樹脂シートb/樹脂シートa(熱プレス成形後は「樹脂層c/樹脂層b/樹脂層a」)の順で第2の仕上げ層が積層されていることを意味する。別言すれば、上記の樹脂製カード媒体は、上(表面)から下(裏面)へ向けて、樹脂シートa(樹脂層a)/樹脂シートb(樹脂層b)/樹脂シートc(樹脂層c)、そして混抄紙(植物繊維含有樹脂層)、そして樹脂シートc(樹脂層c)/樹脂シートb(樹脂層b)/樹脂シートa(樹脂層a)の順で積層されていることを意味する。
【0019】
本発明では、第1の仕上げ層の各樹脂シートと第2の仕上げ層の各樹脂シートのそれぞれが、互いに第1および第2の混抄紙を挟んで対称の位置となるように配置されていれば上述の効果を得ることができ、2以上であれば、特に第1および第2の仕上げ層の各樹脂シートの積層枚数に制限はない。
【0020】
また、本発明によれば、熱プレス時、熱プレスの温度は、混抄紙中のPET樹脂など共重合ポリエステル樹脂からなるプラスチック繊維の軟化点以上且つ融点未満の温度に管理されるため、混抄紙中のプラスチック繊維が溶融することもなければ、溶融したプラスチックの凝固速度ムラにより、カード媒体にひけや反りを生じさせることもない。別言すれば、軟化したプラスチック繊維の硬化速度ムラにより生じるカード媒体にひけや反りは、溶融したプラスチックの凝固速度ムラにより生じるカード媒体にひけや反りよりもはるかに小さく抑えることができるメリットがある。
【0021】
さらに、本発明の樹脂製カード媒体では、混抄紙の中に熱の影響を受けても形状や性質等が殆ど変化することがない植物繊維が含まれているため、軟化した樹脂の流動が抑制されると共に、軟化したPET樹脂など共重合ポリエステル樹脂からなるプラスチック繊維の硬化速度ムラ等に起因してカード内に残留応力が生じても、植物繊維が補強材料として機能する結果、残留応力の解放を防ぎ、カードの反りや変形を防止することができる。
【0022】
本発明の樹脂製カード媒体では、熱プレス時、PET樹脂など共重合ポリエステル樹脂からなるプラスチック繊維と植物繊維とからなる混抄紙がクッション材としても機能するため、成形後のカード媒体の平坦性を保つように、電子部品による部品基板の凹凸(電子部品の厚み)を吸収する。このように、混抄紙に部品基板の凹凸を確実に吸収させるためには、部品基板の厚みと電子部品の厚みの合計厚みが、熱プレス成形後のカード媒体の厚みに対して50%以下、より好ましくは40%以下となるように調整すれば十分である。
【0023】
また、本発明の樹脂製カード媒体では、スイッチ、表示部および/または指紋検出部などの外部とアクセスが必要な電子部品を取り付ける場合、部品基板を覆う第1の混抄紙の一部に開口部を設けることにより、部品基板に装着された表示部および/または指紋検出部を外部に露出させることができる。
【0024】
以上の結果、本発明によれば、例えばISO/IEC7810:2003の規格に準拠したカードの反り量が0.7mm以下であり、前記ISOの規格とは別に、カードの局部的凹部の深さが0.2mm未満であるという極めて平坦性および平滑性に優れた樹脂製カード媒体を得ることができる。
【0025】
次に、上述した本発明の樹脂製カード媒体の製造方法について述べる。本発明の平坦且つ平滑な樹脂製カード媒体は、植物繊維を含まない2以上の樹脂シート(熱プレス成形後は「樹脂層」を形成)からなる第2の仕上げ層を準備するステップと、前記第2の仕上げ層の樹脂シートの上に、プラスチック繊維と植物繊維とからなる第2の混抄紙(熱プレス成形後は「植物繊維含有樹脂層」を形成)を積層するステップと、前記第2の混抄紙の上に、複数の電子部品を両面に装着した部品基板を載置するステップと、前記部品基板の上に、プラスチック繊維と植物繊維とからなる第1の混抄紙を積層するステップと、前記第1の混抄紙の上に、植物繊維を含まない2以上の樹脂シートからなる第2の仕上げ層を積層するステップにおいて、前記第1の仕上げ層の各樹脂シートと前記第2の仕上げ層の各シートのそれぞれは互いに同じ構成を有しており、そして前記第1の仕上げ層の各樹脂シートと前記第2の仕上げ層の各樹脂シートのそれぞれを、互いに前記第1および第2の混抄紙を挟んで対称の位置となるように配置することにより、熱プレス前のカード媒体積層体を準備し、そして前記カード媒体積層体を、前記プラスチック繊維の軟化点以上且つ融点未満の温度において熱プレスする樹脂製カード媒体の製造方法により得られる。
【0026】
なお、本発明では、電子部品による部品基板の凹凸を吸収することで、高度の平坦性および平滑性を有する樹脂製カード媒体を得るための適した混抄紙中の植物繊維としては、例えば、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP;N材)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;N材、NB材)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP;L材)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、L材)などの化学パルプ;グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などの機械パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェイストパルプ(WP)などの古紙パルプやセミケミカルパルプ(CP)などの木材パルプや、例えば木綿、わら、竹、エスパルト、洋麻(ケナフ)、綿(コットン)、マニラ麻(バガス)、亜麻、麻、黄麻、雁皮等の非木材パルプを使用することができる。
【0027】
これら植物繊維は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。これらの中でも、NBKP、洋麻、マニラ麻のパルプは適度な繊維長のパルプが流通しており、強い紙を作りやすい為に好ましく、白色度が高くて入手が容易な点でNBKPが特に好ましい。
【0028】
また、本発明では、上述した混抄紙中に配合されるプラスチック繊維や、カード表面の平坦性および平滑性の他、印字性、光沢性、耐疵性などを向上させるために使用される樹脂シート(仕上げ層)に適した樹脂材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)、ポリカーボネート(PC)、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、複数の電子部品を表裏面に搭載した部品基板をプラスチック繊維と植物繊維とからなる混抄紙(熱プレス成形後は「植物繊維含有樹脂層」)で包み込み、さらに混抄紙の上下面に、第1の仕上げ層の2以上の樹脂シート(熱プレス成形後は「樹脂層」)および第2の仕上げ層の2以上の樹脂シートのそれぞれを、互いに混抄紙を挟んで対称の位置に配置したことにより、通常の熱プレス成形により、極めて高い平坦性(例えば反り量が抑制されていること)や平滑性(例えば局部的凹部の深さが抑制されていること)、印刷性を有する樹脂製カード媒体を得ることができる。
【0030】
本発明によれば、熱プレス時、熱プレスの温度は、混抄紙中のプラスチック繊維の軟化点以上且つ融点未満の温度に管理されるため、混抄紙中のプラスチック繊維が溶融することもなければ、溶融したプラスチックの凝固速度ムラにより、カード媒体にひけや反りを生じさせることもない。このため、軟化したプラスチック繊維の硬化速度ムラにより生じるカード媒体のひけや反りは、溶融したプラスチックの凝固速度ムラにより生じるカード媒体のひけや反りよりもはるかに小さいという優れた効果を得ることができる。
【0031】
本発明によれば、混抄紙の中に熱の影響を受けても形状や性質等が殆ど変化することがない植物繊維が含まれているため、軟化した樹脂の流動を阻止すると共に、軟化したプラスチック繊維の硬化速度ムラ等によりカード内に残留応力が生じても、植物繊維が補強材料となってカードの変形を拘束する結果、残留応力の解放を防ぎ、カードの反りや変形が防止されるという優れた効果を得ることができる。
【0032】
また、本発明では、熱プレス時、PET樹脂など共重合ポリエステル樹脂からなるプラスチック繊維と植物繊維とからなる混抄紙がクッション材としても機能するため、成形後のカード媒体の平坦性を保つように、電子部品による部品基板の凹凸(電子部品の厚み)を吸収する。このため、本発明によれば、例えばISO/IEC7810:2003の規格に準拠したカードの反り量が0.7mm以下であり、前記ISOの規格とは別に、カードの局部的凹部の深さが0.2mm未満であるという極めて優れた平坦性および平滑性を有する樹脂製カード媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1の熱プレス成形前後のカード媒体の断面を模式的に示した図である。
図2】実施例2の熱プレス成形前後のカード媒体の断面を模式的に示した図である。
図3】比較例1の熱プレス成形前後のカード媒体の断面を模式的に示した図である。
図4】比較例2の熱プレス成形前後のカード媒体の断面を模式的に示した図である。
図5】比較例3の熱プレス成形前後のカード媒体の断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂製カード媒体及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0035】
1.樹脂製カード媒体の作製
<実施例1(図1参照)>
(1)部品基板の準備
大きさ35mm×78mm、厚み0.10mmの部品基板5(製品名「ポリイミド基板」)の上面の適当な位置へ、7mm角、厚み0.4mmのSUS製擬似チップA(50)×1個と、7mm角、厚み0.25mmのSUS製擬似チップB(51)×1個を装着し、部品基板5の下面の適当な位置へ厚み0.25mmのSUS製擬似チップB(51)×2個を装着した部品基板5を準備した。
【0036】
(2)樹脂シートおよび混抄紙の準備
以下に示す樹脂シートおよび混抄紙を準備した。
・樹脂シートA(40):ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)
製品名「ディアフィクス PG-WHI-FG」三菱樹脂社製
厚み0.20mm、融点80℃
・樹脂シートB(41):ポリエチレンテレフタレート共重合体(透明PETG)
製品名「ディアフィクス PG-CHI-FG」三菱樹脂社製
厚み0.05mm、融点80℃
・第1の混抄紙3a:PET樹脂繊維と植物繊維とからなるPET混抄紙
製品名「SC-01」巴川製紙所製
厚み0.20mm、軟化点130℃
・第2の混抄紙3b:PET樹脂繊維と植物繊維とからなるPET混抄紙
製品名「SC-01」巴川製紙所製
厚み0.20mm、軟化点130℃
【0037】
(3)カード媒体積層体の準備
次に上記部品基板、樹脂シートおよびPET混抄紙を用いて、実施例1のカード媒体積層体2を形成した。図1(a)には、熱プレス成型前の実施例1のカード媒体積層体2の断面が模式的に示されており、図1(b)には、熱プレス成型後の実施例1の樹脂製カード媒体1の断面が模式的に示されている。より具体的には、下から上への順番で、第2の仕上げ層4bとしての樹脂シートA(40)×1枚と樹脂シートB(41)×2枚を、その上に第2の混抄紙3b×2枚を、その上に部品基板5を、その上に第1の混抄紙3a×3枚を、そしてその上に第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートB(41)×2枚と樹脂シートA(40)×1枚を積層することにより実施例1のカード媒体積層体2を形成した。
【0038】
(4)熱プレス成形
実施例1のカード媒体積層体2を、熱プレス機により150℃の温度に加熱して軟化させ、0.8MPaの圧力に加圧して8分間保持し、その後0.8MPaの圧力を保持しながら室温まで冷却し、得られた樹脂製カード媒体成形体をカード形状に個片化することにより、実施例1の樹脂製カード媒体1を作製した。
【0039】
<実施例2(図2参照)>
(1)部品基板の準備
大きさ35mm×78mm、厚み0.10mmの部品基板5(製品名「ポリイミド基板」)の上面の適当な位置へ、7mm角、厚み0.25mmのSUS製擬似チップ51)×2個を装着し、部品基板5の下面の適当な位置へ7mm角、厚み0.4mmのSUS製擬似チップA(50)×1個と、厚み0.25mmのSUS製擬似チップB(51)×1個を装着した部品基板5を準備した。
【0040】
(2)樹脂シートおよび混抄紙の準備
以下に示す樹脂シートおよび混抄紙を準備した。
・樹脂シートA(40):ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)
製品名「ディアフィクス PG-WHI-FG」三菱樹脂社製
厚み0.20mm、融点80℃
・樹脂シートB(41):ポリエチレンテレフタレート共重合体(透明PETG)
製品名「ディアフィクス PG-CHI-FG」三菱樹脂社製
厚み0.05mm、融点80℃
・樹脂シートC(42):ポリカーボネート及びPETGの混合シート
製品名「ディアフィクス PA-C」三菱樹脂社製
厚み0.05mm、融点110℃
・第1の混抄紙3a:PET樹脂繊維と植物繊維とからなるPET混抄紙
製品名「SC-01」巴川製紙所製
厚み0.20mm、軟化点130℃
・第2の混抄紙3b:PET樹脂繊維と植物繊維とからなるPET混抄紙
製品名「SC-01」巴川製紙所製
厚み0.20mm、軟化点130℃
【0041】
(3)カード媒体積層体
次に上記部品基板、樹脂シートおよびPET混抄紙を用いて、実施例2のカード媒体積層体2aを形成した。図2(a)には、熱プレス成型前の実施例2のカード媒体積層体2aの断面が模式的に示されており、図2(b)には、熱プレス成型後の実施例2の樹脂製カード媒体1aの断面が模式的に示されている。より具体的には、下から上への順番で、第2の仕上げ層4bとしての樹脂シートA(40)×1枚と樹脂シートB(41)×1枚と樹脂シートC(42)×1枚を、その上に第2の混抄紙3b×3枚を、その上に部品基板5を、その上に第1の混抄紙3a×2枚を、そしてその上に第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートC(42)×1枚と樹脂シートB(41)×1枚と樹脂シートA(40)×1枚を積層することにより実施例2のカード媒体積層体2aを形成した。
【0042】
(4)熱プレス成形
実施例1と同じ条件にて、実施例2のカード媒体積層体2aを熱プレス成形することにより、実施例2の樹脂製カード媒体1aを作製した。
【0043】
<比較例1(図3参照)>
(1)部品基板の準備
部品基板は、実施例1と同じ部品基板5を準備した。
(2)樹脂シートおよび混抄紙の準備
樹脂シートおよび混抄紙は、実施例1と同じ樹脂シートA(40)、樹脂シートB(41)、第1の混抄紙3aおよび第2の混抄紙3bを準備した。
【0044】
(3)カード媒体積層体
次に上記部品基板、樹脂シートおよびPET混抄紙を用いて、比較例1のカード媒体積層体2bを形成した。図3(a)には、熱プレス成型前の比較例1のカード媒体積層体2bの断面が模式的に示されており、図3(b)には、熱プレス成型後の比較例1の樹脂製カード媒体1bの断面が模式的に示されている。より具体的には、下から上への順番で、第2の仕上げ層4bとしての樹脂シートA(40)×1枚と樹脂シートB(41)×1枚を、その上に第2の混抄紙3b×2枚を、その上に部品基板5を、その上に第1の混抄紙3a×3枚を、そしてその上に第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートB(41)×4枚と樹脂シートA(40)×1枚を積層することにより比較例1のカード媒体積層体2bを形成した。
【0045】
すなわち、比較例1のカード媒体積層体2bは、実施例1のカード媒体積層体2に対して、第2の仕上げ層4bとしての樹脂シートB(41)の積層枚数(熱プレス成形後は「樹脂層B(41a)の厚み」)を2枚から1枚へ変更し、そして第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートB(41)の積層枚数を2枚から4枚へ変更することによりPET混抄紙3a、3b(熱プレス成形後の「植物繊維含有樹脂層30」)を挟んで仕上げ層4a、4bの厚みを非対称としたこと以外は、実施例1のカード媒体積層体2と同じである。
【0046】
(4)熱プレス成形
実施例1と同じ条件にて、比較例1のカード媒体積層体2bを熱プレス成形することにより、実施例2の樹脂製カード媒体1bを作製した。
【0047】
<比較例2(図4参照)>
(1)部品基板の準備
部品基板は、実施例2と同じ部品基板5を準備した。
(2)樹脂シートおよび混抄紙の準備
樹脂シートおよび混抄紙は、実施例2と同じ樹脂シートA(40)、樹脂シートB(41)、樹脂シートC(42)、第1の混抄紙3aおよび第2の混抄紙3bを準備した。
【0048】
(3)カード媒体積層体
次に上記部品基板、樹脂シートおよびPET混抄紙を用いて、比較例2のカード媒体積層体2cを形成した。図4(a)には、熱プレス成型前の比較例2のカード媒体積層体2cの断面が模式的に示されており、図4(b)には、熱プレス成型後の比較例2の樹脂製カード媒体1cの断面が模式的に示されている。より具体的には、下から上への順番で、第2の仕上げ層4bとしての樹脂シートA(40)×1枚と樹脂シートB(41)×2枚と樹脂シートC(42)×1枚を、その上に第2の混抄紙3b×3枚を、その上に部品基板5を、その上に第1の混抄紙3a×2枚を、そしてその上に第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートB(41)×1枚と樹脂シートC(42)×2枚と樹脂シートA(40)×1枚を積層することにより比較例2のカード媒体積層体2cを形成した。
【0049】
すなわち、比較例2のカード媒体積層体2cは、実施例2のカード媒体積層体2aに対して、第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートB(41)と樹脂シートC(42)の配置(熱プレス成形後は「樹脂層B(41a)と樹脂層C(42a)の配置」)を入れ替えることにより、PET混抄紙3a、3b(熱プレス成形後の「植物繊維含有樹脂層30」)を挟んで仕上げ層4a、4bの材料構成を非対称としたこと以外は、実施例2のカード媒体積層体2と同じである。
【0050】
(4)熱プレス成形
実施例1と同じ条件にて、比較例2のカード媒体積層体2cを熱プレス成形することにより、比較例2の樹脂製カード媒体1cを作製した。
【0051】
<比較例3(図5参照)>
(1)部品基板の準備
部品基板は、実施例2と同じ部品基板5を準備した。
(2)樹脂シートおよび混抄紙の準備
樹脂シートおよび混抄紙は、実施例2と同じ樹脂シートA(40)、樹脂シートB(41)、樹脂シートC(42)、第1の混抄紙3aおよび第2の混抄紙3bを準備した。
【0052】
(3)カード媒体積層体
次に上記部品基板、樹脂シートおよびPET混抄紙を用いて、比較例3のカード媒体積層体2dを形成した。図5(a)には、熱プレス成型前の比較例3のカード媒体積層体2dの断面が模式的に示されており、図5(b)には、熱プレス成型後の比較例3の樹脂製カード媒体1dの断面が模式的に示されている。より具体的には、下から上への順番で、第2の仕上げ層4bとしての樹脂シートA(40)×1枚と樹脂シートB(41)×1枚と樹脂シートC(42)×2枚を、その上に第2の混抄紙3b×3枚を、その上に部品基板5を、その上に第1の混抄紙3a×2枚を、そしてその上に第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートB(41)×1枚と樹脂シートA(40)×1枚を積層することにより比較例3のカード媒体積層体2dを形成した。
【0053】
すなわち、比較例3のカード媒体積層体2dは、実施例2のカード媒体積層体2aに対して、第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートC(42)、樹脂シートB(41)、樹脂シートA(40)(熱プレス成形後は「樹脂層C(42a)、樹脂層B(41a)、樹脂層A(40a)」)から樹脂シートC(42)を省略することにより、PET混抄紙3a、3b(熱プレス成形後の「植物繊維含有樹脂層30」)を挟んで仕上げ層4a、4bの積層枚数を非対称としたこと以外は、実施例2のカード媒体積層体2と同じである。
【0054】
(4)熱プレス成形
実施例1と同じ条件にて、比較例3のカード媒体積層体2を熱プレス成形することにより、比較例3の樹脂製カード媒体1dを作製した。
【0055】
2.樹脂製カード媒体の形状評価
(1)樹脂製カード媒体の反り量
樹脂製カード媒体の反り量は、ISO/IEC7810:2003の規格に準拠して、カードの凸面のすべての部分において、定盤の平面からの最大距離をレーザー変位センサー(キーエンス製 LK-030)を用いて測定した。
反り量の評価は、樹脂製カード媒体の反り量が0.7mm未満である場合を「○」、0.7mm以上である場合を「×」として評価した。
(2)樹脂製カード媒体表面の凹みの評価
樹脂製カード媒体表面の凹みの深さはレーザー変位センサー(キーエンス製 LK-030)を用いて測定した。
凹みの評価は、樹脂製カード媒体表面に深さが0.2mm以上の凹みが存在する場合を「×」、それ以外を「○」として評価した。
【0056】
上記実施例1、2、比較例1、2、3の樹脂カード媒体の製造条件およびそのテスト結果を下記表1に示す。
【表1】
【0057】
表1より、実施例1と比較例1とを比較すると、複数の電子部品(疑似チップA、B)50、51を表裏面に搭載した部品基板5をPET混抄紙3a、3b(熱プレス成形後は「植物繊維含有樹脂層30」)で包み込み、さらにPET混抄紙3a、3bの上下面に、第1の仕上げ層4aと第2の仕上げ層4bの樹脂シートA(40)および樹脂シートB(41)(熱プレス成形後は「樹脂層A(40a)と樹脂層B(41a)」)のそれぞれを、前記PET混抄紙3a、3bを挟んで対称の位置となるように配置した実施例1の樹脂製カード媒体1では、0.7mmを超える反りやひけ等による凹みを生じず、極めて高い平坦性(例えば反り量が抑制されていること)や平滑性(例えば局部的凹部の深さが抑制されていること)、印刷性を有することが判った。一方、実施例1に対して第1の仕上げ層4aと第2の仕上げ層4bの樹脂シートB(41)の厚みを変えることにより、PET混抄紙3a、3bを挟んで第1の仕上げ層4aの各樹脂層40a、41aと第2の仕上げ層4bの各樹脂層40b、41bの厚みが非対称となるように配置した比較例1の樹脂製カード媒体1bでは、ひけ等による凹みは生じなかったが、0.7mmを超える反りが生じることが判った。
【0058】
また、実施例2と比較例2とを比較すると、部品基板5をPET混抄紙3a、3b(熱プレス成形後は「植物繊維含有樹脂層30」)で包み込み、さらにPET混抄紙3a、3bの上下面に、第1の仕上げ層4aの樹脂シートA(40)、樹脂シートB(41)および樹脂シートC(42)(熱プレス成形後は「樹脂層A(40a)、樹脂層B(41a)および樹脂層C(42a)」)と、第2の仕上げ層4bの樹脂シートC(42)、樹脂シートB(41)および樹脂シートA(40)を、前記PET混抄紙3a、3bを挟んでそれぞれに対称の位置に配置した実施例2の樹脂製カード媒体1aでは、実施例1と同様に0.7mmを超える反りやひけ等による凹みを生じず、極めて高い平坦性や平滑性、印刷性を有することが判った。一方、実施例2に対して第1の仕上げ層4aの樹脂シートB(41)および樹脂シートC(42)の配置を入れ替えることにより、PET混抄紙3a、3bを挟んで第1の仕上げ層4aと第2の仕上げ層4bの各樹脂層41a、42aの材料構成が非対称となるように配置した比較例2の樹脂製カード媒体1cでは、ひけ等による凹みは生じなかったが、0.7mmを超える反りが生じることが判った。
【0059】
また、実施例1および実施例2により、本発明では、第1の仕上げ層4aの各樹脂シートと第2の仕上げ層4bの各樹脂シートのそれぞれが、互いに第1および第2の混抄紙を挟んで対称の位置となるように2以上配置されていれば、上述の効果が得られることが判った。
【0060】
さらに、実施例2と比較例3とを比較すると、実施例2に対して、第1の仕上げ層4aとしての樹脂シートC(42)、樹脂シートB(41)、樹脂シートA(40)(熱プレス成形後は「樹脂層C(42a)、樹脂層B(41a)、樹脂層A(40a)」)から樹脂シートC(42)を省略することにより、PET混抄紙3a、3b(熱プレス成形後は「植物繊維含有樹脂層30」)を挟んで第1の仕上げ層4aと第2の仕上げ層4bの各樹脂層40a、41a、42aの積層枚数が非対称となるように配置した比較例3の樹脂製カード媒体1dでは、ひけ等による凹みは生じなかったが、0.7mmを超える反りが生じることが判った。
【0061】
実施例1、2において、反りやひけ等による凹みを生じず、極めて高い平坦性や平滑性、印刷性を得られる詳細なメカニズムは定かでないが、その1つの要因として、実施例1、2の樹脂製カード媒体1、1aは、部品基板5をPET混抄紙3a、3bで挟み込んでいるので、PET混抄紙3a、3bが、熱プレスの際、部品基板5の上下面において電子部品(疑似チップA、B)50、51から略同等の圧力を受けて略同等の密度および略同等の熱収縮率を維持しながら厚み方向へ圧縮されることが考えられる。
【0062】
また、実施例1、2の樹脂製カード媒体1、1aでは、第1の混抄紙3aの上にも第2の混抄紙3bの上にも、植物繊維を含まない樹脂シートA(40)、樹脂シートB(41)および/または樹脂シートC(42)が積層されているので、熱プレスの際、第1の仕上げ層4aおよび第2の仕上げ層4bと接するPET混抄紙3a、3bの上下面が、より一層均一な熱収縮を示すように拘束されることも高い平坦性や平滑性の実現に寄与しているものと考えられる。
【0063】
さらに、実施例1、2の樹脂製カード媒体1、1aでは、第1の仕上げ層4aと第2の仕上げ層4bを構成する各樹脂シートA(40)、B(41)および/またはC(42)はそれぞれに同じ材料や同じ厚み同じ積層枚数などからなる同じ構成とし、第1の仕上げ層4aと第2の仕上げ層4bを構成する各樹脂シートA(40)、B(41)および/またはC(42)のそれぞれは、第1の混抄紙3aおよび第2の混抄紙3bを挟んで対称の位置となるように配置して、熱プレス前のカード媒体積層体2、2aを準備しているので、該カード媒体積層体2、2aをプラスチック繊維の軟化点以上且つ融点未満の温度において熱プレスすることにより、PET混抄紙3a、3bの上下面はさらにより一層均一な熱収縮を示し、カードの反りや変形が防止されて、極めて平坦且つ平滑な樹脂製カード媒体1、1aを得ることができるものと推察される。
【0064】
この結果、実施例1、2のカード媒体1、1aは、ISO/IEC7810:2003の規格に準拠したカードの反り量が0.7mm以下であり、カードの局部的凹部の深さが0.2mm未満であるという極めて優れた平坦性および平滑性を得ることができる。また、カード媒体1の表裏面に印字性の高い樹脂シートA(40)を用いれば、熱プレス成形後のカード媒体1、1aの表裏面においても極めて高い印字性を有する樹脂層を得ることができる。
【0065】
なお、実施例1、2の樹脂製カード媒体1、1aおよび比較例1、2、3の樹脂製カード媒体1b、1c、1dは、いずれも局部的凹部の深さが0.2mm未満に抑えられていた。これは、実施例1、2の樹脂製カード媒体1、1aにおいても比較例1、2、3の樹脂製カード媒体1b、1c、1dにおいても、部品基板5をPET混抄紙3a、3bで包み込みことによる凹凸吸収効果が現れたことによるものと考えられる。
【0066】
そのため、実施例1、2および比較例1、2、3では、PET混抄紙3a、3b(熱プレス成形後は「植物繊維含有樹脂層30」)へ、擬似チップA(50)、B(51)による部品基板5の凹凸を確実に吸収させるためには、部品基板5の厚みとチップA(50)、B(51)の厚みの合計厚みが、熱プレス成形後のカード媒体の厚みに対して50%以下、より好ましくは40%以下となるように調整すれば十分であることが判った。
【符号の説明】
【0067】
1,1a,1b,1c,1d・・・・・樹脂カード媒体
2,2a,2b,2c,2d・・・・・カード媒体積層体
3a・・・・第1のPET混抄紙
3b・・・・第2のPET混抄紙
30・・・・植物繊維含有樹脂層
4a・・・・第1の仕上げ層
4b・・・・第2の仕上げ層
40・・・・樹脂シートA
40a・・・樹脂層A
41・・・・樹脂シートB
41a・・・樹脂層B
42・・・・樹脂シートC
42a・・・樹脂層C
5・・・・・部品基板
50・・・・擬似チップA(7mm角、厚み0.4mm)
51・・・・擬似チップB(7mm角、厚み0.25mm)
図1
図2
図3
図4
図5