(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】情報処理方法、情報処理装置、生産システム、プログラム、記録媒体
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
(21)【出願番号】P 2019223201
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 真
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-250381(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094263(WO,A1)
【文献】特開2019-204342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理部を有する情報処理装置の情報処理方法であって、
前記処理部が、
機械設備が第1状態から第2状態に至るまでの前記機械設備の状態に係る計測値を取得し、
前記計測値に基づいて、少なくとも2つの所定の特徴量に関連するデータを取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータの所定期間の所定タイミングにおいて、前記第1状態である区間と、前記第2状態である区間とを分離した場合の分離度を取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータから、所定期間における前記分離度の最大値が閾値以上となるタイミングを有している所定の特徴量に関するデータを少なくとも1つ選択し、
選択した所定の特徴量に関するデータにおいて前記タイミングに基づき期間を設定し、当該期間における所定の特徴量に関するデータを機械学習に使用するデータとして取得する、
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項2】
前記処理部が、
前記タイミングに基づいて、前記機械設備が前記第1状態であった期間を設定し、当該期間における所定の特徴量に関するデータを前記機械学習に使用するデータとして取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記処理部が、
前記計測値に基づいて前記少なくとも2つ
の所定の特徴量に関するデータとして複数種類の所定の特徴量に関するデータを取得し、
前記複数種類の所定の特徴量に関するデータから、前記タイミングを有している所定の特徴量に関するデータを少なくとも1つ選択する、
ことを特徴とする請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記処理部が、
前記機械学習により学習済みモデルを取得し、前記学習済みモデル
と、前記学習済みモデルを取得した後に取得した前記機械設備の状態に係る前記計測値と、に基づき前記機械設備の状態を判定する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記処理部が、
選択した所定の特徴量に関するデータと同種の所定の特徴量に関するデータについての、前記機械設備が前記第1状態から前記第2状態に至るまでのデータ、を前記学習済みモデルに入力し、
前記学習済みモデルに入力した入力データと前記学習済みモデルから出力される出力データとの乖離度を求め、
前記機械設備が前記第1状態から前記第2状態に至るまでの期間における前記乖離度の経時変化に基づき判定用閾値を設定し、
評価時における前記機械設備の状態に係る計測値を用いて、選択した所定の特徴量に関するデータと同種の所定の特徴量に関するデータを評価用特徴量として取得し、
前記機械設備の状態の判定において、前記評価用特徴量と前記学習済みモデルとを用いて、前記機械設備が前記第1状態から乖離した度合いを示す指標値を取得し、前記指標値と前記判定用閾値を用いて、前記評価時における前記機械設備の状態を判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の情報処理方法。
【請求項6】
処理部を有する情報処理装置の情報処理方法であって、
前記処理部が、
機械設備が第1状態から第2状態に至るまでの前記機械設備の状態に係る計測値を取得し、
前記計測値に基づいて、少なくとも2つの所定の特徴量に関連するデータを取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータの所定期間の所定タイミングにおいて、前記第1状態である区間と、前記第2状態である区間とを分離した場合の分離度を取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータから、所定期間における前記分離度の最大値が大きい順から所定数の所定の特徴量に関するデータを選択し、
選択した所定の特徴量に関するデータにおいて、所定期間における前記分離度が最大値となるタイミングに基づき期間を設定し、当該期間における所定の特徴量に関するデータを機械学習に使用するデータとして取得する、
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項7】
前記処理部が、
選択した所定の特徴量に関するデータにおける前記タイミングのうち、最も早いタイミングよりも早い期間の所定の特徴量に関するデータを、前記機械学習に使用するデータとして取得する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項8】
前記処理部が、
前記機械学習に使用する所定の特徴量に関するデータの選択に係る情報、および/または前記機械設備が前記第1状態であった期間に係る情報を、表示部に表示させる、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項9】
前記処理部が、
所定期間における前記分離度の最大値に係る情報、および/または前記タイミングに係る情報、および/または前記機械設備が前記第1状態であった期間の指定に係る情報を、表示部に表示させる、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項10】
前記処理部が、
前記学習済みモデルの取得において、オートエンコーダを用いた機械学習により前記学習済みモデルを取得する、
ことを特徴とする請求項5に記載の情報処理方法。
【請求項11】
前記処理部が、
前記機械設備の状態の判定において判定された結果を通知する、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項12】
前記処理部が、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータの時系列において、少なくとも1つの前記所定タイミングにおいて第1データ集合と第2データ集合とに分け、
前記所定タイミングのそれぞれにおいて、前記第1データ集合の第1平均および第1分散、前記第2データ集合の第2平均および第2分散に基づき、前記分離度を取得する、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項13】
前記処理部が、
所定の特徴量に関するデータを選択する場合における、前記分離度に関する前記閾値をユーザにより設定する画面を表示部に表示する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項14】
前記処理部が、
所定期間における前記分離度の最大値が大きい順に、前記所定の特徴量に関するデータを表示部に表示する、
ことを特徴とする請求項6に記載の情報処理方法。
【請求項15】
前記処理部が、
所定期間における前記分離度の最大値に基づき選択した所定の特徴量に関するデータにおいて、ユーザにより前記機械学習に使用するデータとするか否かを選択する画面を表示部に表示する、
ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項16】
前記第1状態は前記機械設備が正常である状態であり、前記第2状態は前記機械設備が異常である状態である、
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項17】
処理部を有する情報処理装置であって、
前記処理部が、
機械設備が第1状態から第2状態に至るまでの前記機械設備の状態に係る計測値を取得し、
前記計測値に基づいて、少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータを取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータの所定期間の所定タイミングにおいて、前記第1状態である区間と、前記第2状態である区間とを分離した場合の分離度を取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータから、所定期間における前記分離度の最大値が閾値以上となるタイミングを有している所定の特徴量に関するデータを少なくとも1つ選択し、
選択した所定の特徴量に関するデータにおいて前記タイミングに基づき期間を設定し、当該期間における所定の特徴量に関するデータを機械学習に使用するデータとして取得する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項18】
処理部を有する情報処理装置であって、
前記処理部が、
機械設備が第1状態から第2状態に至るまでの前記機械設備の状態に係る計測値を取得し、
前記計測値に基づいて、少なくとも2つの所定の特徴量に関連するデータを取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータの所定期間の所定タイミングにおいて、前記第1状態である区間と、前記第2状態である区間とを分離するための分離度を取得し、
前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータから、所定期間における前記分離度の最大値が大きい順から所定数の所定の特徴量に関するデータを選択し、
選択した所定の特徴量に関するデータにおいて、所定期間における前記分離度が最大値となるタイミングに基づき期間を設定し、当該期間における所定の特徴量に関するデータを機械学習に使用するデータとして取得する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項19】
請求項17または請求項18に記載の情報処理装置と、前記機械設備と、を備えた生産システム。
【請求項20】
請求項19に記載の生産システムを用いて物品の製造を行うことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項21】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の情報処理方法をコンピュータが実行可能なプログラム。
【請求項22】
請求項21に記載のプログラムを格納した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー等からのデータに基づき、機械設備の故障の予兆を検出する際に用いる情報処理方法、情報処理装置、生産システム、プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。特に、機械学習により機械設備の故障予知モデルを生成する際に用いる学習用データの作成に関する。
【背景技術】
【0002】
機械設備は、構成部品の状態変化等により動作状態が時々刻々と変化し得る。その機械設備の使用目的に照らして動作状態が許容範囲内の場合を正常状態、許容範囲外の場合を故障状態と呼ぶとすれば、例えば生産機械であれば、故障状態になると不良品を製造したり生産ラインを停止させるなどの不具合を発生させてしまうことになる。
【0003】
生産機械等では、故障状態をなるべく発生させないようにするため、同一の作業を反復継続して行う場合であっても、定期あるいは不定期に保守作業を実施するのが一般的である。予防安全性を高くするには、保守作業の実施インターバルを短くするのが有効だが、保守作業中は生産機械等を停止させるため、保守作業の頻度を過度に高めると生産機械等の稼働率が低下してしまう。そこで、機械等がまだ正常状態ではあるが故障状態の発生が近くなった時にこれを検知できるのが望ましい。故障状態の発生が近づいたことを検知(故障の発生を予測)できれば、その時点で機械等の保守作業を実施すればよいので、稼働率が必要以上に低下するのを抑制することができるからである。
【0004】
故障の発生を予測するための手法として、機械設備の状態を機械学習した学習済モデルを予め作成しておき、学習済モデルを用いて評価時の機械設備の状態を評価する手法が知られている。予測精度を高めるには、故障の予測に適した学習済モデルを構築することが重要であるが、そのためには機械学習の際に用いる学習用データの適否が問題となる。
【0005】
例えば、特許文献1には、機械設備の状態を示すセンサー信号に基づきベクトルを抽出し、特徴ベクトルのデータチェックに基づき使用する特徴を選択することが記載されている。さらに、選択された学習データに基づき機械設備の正常モデルを作成することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、季節変動などに応じて季節ごとに準備した複数学習データの選択に関して、多変量解析の結果である異常測度や各センサー信号の影響度の評価結果から、異常に応じて着目し選択すべきセンサー信号を選ぶことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-70635号公報
【文献】特開2011-59790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
機械設備においては、その運転状態を管理するため、様々なパラメータについて計測データが取得されているが、一般的に故障の発生頻度は大きくないので、多くの故障事例のデータを収集するのは容易ではない。その一方で、様々なパラメータについて計測した膨大な計測データには、故障の発生に関係有るものと関係無いものが混在しているため、機械学習のための学習用データとしては冗長である。
【0009】
特許文献1や特許文献2においては、学習用データを選択することについては認識されているものの、実際に学習用データをどのようにして選択して取得するかについては、十分な検討がなされていなかった。
【0010】
特に、故障の発生頻度が小さく、少ない故障事例しか収集できないような機械設備の場合には、従来の方法では予測精度の高い学習済モデルを作成するのは困難であった。
そこで、機械設備についての少ない故障事例しか収集できなくても、予測精度の高い故障予知モデルを作成できる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様によれば、処理部を有する情報処理装置の情報処理方法であって、前記処理部が、機械設備が第1状態から第2状態に至るまでの前記機械設備の状態に係る計測値を取得し、前記計測値に基づいて、少なくとも2つの所定の特徴量に関連するデータを取得し、前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータの所定期間の所定タイミングにおいて、前記第1状態である区間と、前記第2状態である区間とを分離した場合の分離度を取得し、前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータから、所定期間における前記分離度の最大値が閾値以上となるタイミングを有している所定の特徴量に関するデータを少なくとも1つ選択し、選択した所定の特徴量に関するデータにおいて前記タイミングに基づき期間を設定し、当該期間における所定の特徴量に関するデータを機械学習に使用するデータとして取得する、ことを特徴とする情報処理方法である。
【0012】
また、本発明の別の1つの態様によれば、処理部を有する情報処理装置であって、前記処理部が、機械設備が第1状態から第2状態に至るまでの前記機械設備の状態に係る計測値を取得し、前記計測値に基づいて、少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータを取得し、前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータの所定期間の所定タイミングにおいて、前記第1状態である区間と、前記第2状態である区間とを分離した場合の分離度を取得し、前記少なくとも2つの所定の特徴量に関するデータから、所定期間における前記分離度の最大値が閾値以上となるタイミングを有している所定の特徴量に関するデータを少なくとも1つ選択し、選択した所定の特徴量に関するデータにおいて前記タイミングに基づき期間を設定し、当該期間における所定の特徴量に関するデータを機械学習に使用するデータとして取得する、ことを特徴とする情報処理装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械設備の状態を示す種々の特徴量の中から故障の発生に相関性が高い特徴量を選択することができる。少ない故障事例しか収集できなくても、予測精度の高い故障予知モデルを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の故障予知システムが備える機能ブロックを説明するための模式的な機能ブロック図。
【
図2】実施形態のハードウェア構成を説明するための模式図。
【
図3】実施形態における特徴量の抽出方法を説明するための模式図。
【
図4】実施形態における分離度の算出方法を説明するための模式図。
【
図5】実施形態における機械学習方法を説明するための模式図。
【
図6】実施形態における故障予知方法について説明するための模式図。
【
図7】実施形態における故障予知モデルの生成の処理手順を示すフローチャート。
【
図8】実施形態における故障予知の処理手順を示すフローチャート。
【
図9】実施形態において表示される作業支援画面の一例を示す図。
【
図10】実施形態において表示される作業支援画面の別の一例を示す図。
【
図11】実施形態における判定用閾値の決定方法を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の実施形態として、機械設備の故障を予測する際に用いる故障予知システム、制御方法、制御装置、制御装置を備えた機械設備、制御プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、等について説明する。以下の説明では、その機械設備の使用目的に照らして動作状態が許容範囲内の場合を正常状態、許容範囲外の場合を故障状態または異常状態と記す場合がある。
【0016】
[機能ブロックの構成]
図1は、実施形態の故障予知システムが備える機能ブロックの構成を説明するための模式的な機能ブロック図である。尚、
図1では本実施形態の特徴を説明するために必要な機能要素を機能ブロックで表しているが、本発明の課題解決原理とは直接関係のない一般的な機能要素については記載を省略している。また、
図1に図示された各機能要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示のごとく構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散や統合の具体的形態は図示の例に限らず、その全部または一部を、使用状況等に応じて任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0017】
図1に示すように、実施形態の故障予知システムは、診断対象である機械設備10と、故障予知装置100を備えている。
機械設備10は、例えば多関節ロボットや、生産ラインに設置される生産装置など、各種の産業機器である。機械設備10には、機械設備の状態を計測するための各種のセンサー11が設置されている。例えば、機械設備10が多関節ロボットの場合には、関節を駆動するモーターの電流値を計測するセンサー、関節の角度センサー、速度や振動や音を計測するセンサーなどが設置され得る。ただし、これは単なる例示であり、機械設備10の種類や作業用途等により、適宜の種類、数のセンサーが、適宜の位置にセンサー11として設置され得る。センサー11には、力センサー、トルクセンサー、振動センサー、音センサー、撮像センサー、距離センサー、温度センサー、湿度センサー、流量センサー、pHセンサー、圧力センサー、粘度センサー、ガスセンサー等の各種センサーが用いられ得る。尚、
図1では、図示の便宜のためセンサー11を単数で示したが、通常は複数のセンサーが設置される。
【0018】
機械設備10は、故障予知装置100と通信可能に有線あるいは無線で接続されており、故障予知装置100はセンサー11が計測したデータを通信により取得することができる。
故障予知装置100は、故障予知モデルを作成する段階においては、センサー11から収集したデータを用いて機械設備の故障発生に相関性が高い特徴量を選択し、選択した特徴量を用いて機械学習して学習済モデル(故障予知モデル)を生成して記憶する。また、評価段階(故障予知段階)においては、センサー11から収集した評価時のデータを学習済モデルに入力し、学習済モデルの入力と出力とを用いて乖離度を算出し、故障発生に近づいているか否かを判定する。以下、故障予知装置100が有する機能ブロックについて順に説明する。
【0019】
故障予知装置100は、制御部110、記憶部120、特徴量選択部131、表示部130、入力部140を備えている。
制御部110および特徴量選択部131は、複数の機能ブロックを含んでいるが、これらの機能ブロックは、例えば記憶装置に記憶された制御プログラムを、故障予知装置100のCPUが読み出して実行することにより構成される。あるいは、故障予知装置100が備えるASIC等のハードウェアにより、機能ブロックの一部または全部を構成してもよい。
【0020】
記憶部120は、センサーデータ記憶手段121、特徴量記憶手段122、分離度記憶手段123、故障予知モデル条件記憶手段124、故障予知モデル記憶手段125を含んでいる。記憶部120が有するこれらの手段は、ハードディスクドライブ、RAM、ROMといった記憶装置の記憶領域に適宜割り当てられて構成される。記憶部120は、故障予知を実行するための処理に必要な各種のデータを取得して記憶するデータ取得部である。
【0021】
表示部130および入力部140は、故障予知装置100が備えるユーザインターフェースである。表示部130には、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示デバイスが用いられ、入力部140には、例えばキーボード、ジョグダイアル、マウス、ポインティングデバイス、音声入力機などの入力デバイスが用いられる。
【0022】
制御部110のセンサーデータ収集手段111は、機械設備10のセンサー11から計測データを取得し、センサーデータ記憶手段121に格納する。すなわち、例えば機械設備10において計測された電流、速度、圧力や、振動、音、各部の温度、等の機械設備の状態に係る計測データを収集して格納する。
【0023】
特徴量抽出手段112は、センサーデータ記憶手段121に格納された計測データに基づいて、機械設備10の運転状態の特徴を示す特徴量を抽出して、特徴量記憶手段122に格納する。例えば、特徴量データとして、機械設備の1動作サイクルの中で収取されたセンサーの計測値の最大値および/または最小値を抽出したり、あるいは平均値を算出しても良い。あるいは、例えば所定の期間分のセンサーの値を時系列の周波数領域へ積分変換したものでも良い。また、時系列に並べたセンサー値の時間に対する微分値や二次微分値でも良い。また、センサーの計測値(生データ)そのものが、故障の発生に近づいたか否かを検知する際の判断材料として有用である場合は、計測値そのものを特徴量データとして扱っても良い。本実施形態では、特徴量抽出手段112は、センサーの計測データに基づき特徴量を抽出あるいは算出し、時系列の特徴量データを作成して特徴量記憶手段122に格納する。
【0024】
分離度算出手段113は、特徴量記憶手段122から特徴量を取得して各特徴量についての分離度の最大値を算出し、分離度記憶手段123に格納する。分離度については、後に詳しく述べるが、機械設備が正常状態から故障状態に変化する際に、その特徴量が状態の変化に対して敏感か否かを表す指標である。
【0025】
特徴量選択部131は、分離度記憶手段123から各特徴量に関する分離度の最大値を取得し、取得した情報と分離度閾値設定手段132に記憶された閾値とに基づいて、機械学習に用いる特徴量を選択する。また、正常区間設定手段133は、選択した特徴量について分離度の最大値が発現したタイミングを参照して、機械設備の正常区間(故障の予兆がまだ特徴量に発現していない正常状態の期間)を設定する。選択した特徴量、および正常区間は、機械学習用の学習データを抽出するための条件として、故障予知モデル条件記憶手段124に記憶される。
【0026】
データ抽出手段114は、学習済モデルを生成する時には、故障予知モデル条件記憶手段124に記憶された条件に基づき特徴量記憶手段122から機械学習用データを抽出し、機械学習用データを故障予知モデル生成手段115に出力する。また、データ抽出手段114は、評価時には、故障予知モデル条件記憶手段124に記憶された特徴量(機械学習に用いた特徴量)と同種の特徴量を特徴量記憶手段122に記憶された評価時の特徴量データの中から抽出し、故障判定手段116に出力する。
【0027】
故障予知モデル生成手段115は、学習済モデルを生成する時にデータ抽出手段114から入力される機械学習用データを用いて学習済モデル(故障予知モデル)を生成し、故障予知モデル記憶手段125に格納する。
【0028】
故障判定手段116は、評価時にデータ抽出手段114から入力される評価用の特徴量データを、故障予知モデル記憶手段125に格納された学習済モデル(故障予知モデル)に入力し、入力と出力の乖離度を算出する。そして、乖離度と判定用閾値とを比較して故障の予兆の有無を判定する。
故障通知手段117は、故障判定手段116の判定結果を、外部装置に通知したり、表示部130に表示したりする。
【0029】
[ハードウェア構成]
図2に、実施形態の故障予知システムのハードウェア構成の一例を模式的に示す。故障予知システムは、
図2に示すように、主制御手段としてのCPU1601、記憶装置としてのROM1602、およびRAM1603を備えたPCハードウェアを含むことができる。ROM1602には、後述する故障予知方法を実現するための処理プログラムや推論アルゴリズムなどの情報を格納しておくことができる。また、RAM1603は、その制御手順を実行する時にCPU1601のワークエリアなどとして使用される。また、制御系には、外部記憶装置1606が接続されている。外部記憶装置1606は、HDDやSSD、ネットワークマウントされた他のシステムの外部記憶装置などから構成される。
【0030】
後述する本実施形態の故障予知方法を実現するためのCPU1601の処理プログラムは、HDDやSSDなどから成る外部記憶装置1606や、ROM1602の(例えばEEPROM領域)のような記憶部に格納しておくことができる。その場合、故障予知方法を実現するためのCPU1601の処理プログラムは、ネットワークインターフェース(NIF)1607を介して、上記の各記憶部に供給し、また新しい(別の)プログラムに更新することができる。あるいは、故障予知方法を実現するためのCPU1601の処理プログラムは、各種の磁気ディスクや光ディスク、フラッシュメモリなどの記憶手段と、そのためのドライブ装置を経由して、上記の各記憶部に供給し、またその内容を更新することができる。故障予知方法を実現するためのCPU1601の処理を実行可能なプログラムを格納した状態における各種の記憶手段、記憶部、ないし記憶デバイスは、本発明の故障予知手順を格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を構成する。
【0031】
CPU1601には、
図1に示したセンサー11が接続される。
図2では、図示を簡略化するため、センサー11はCPU1601に直接接続されているように示されているが、例えばIEEE488(いわゆるGPIB)などを介して接続されていてもよい。また、センサー11は、ネットワークインターフェース1607、ネットワーク1608を介してCPU1601に接続される構成であってもよい。
【0032】
ネットワークインターフェース1607は、例えばIEEE 802.3のような有線通信、IEEE 802.11、802.15のような無線通信による通信規格を用いて構成することができる。CPU1601は、ネットワークインターフェース1607を介して、他の装置1104、1121と通信することができる。例えば故障予知の対象がロボットであるなら、装置1104、1121は、当該ロボットの制御、管理のために配置されたPLCやシーケンサのような統轄制御装置や、管理サーバなどであってもよい。
【0033】
図2に示す例では、UI装置(ユーザインターフェース装置)として、
図1に示す入力部140および表示部130に関係する操作部1604および表示装置1605が接続されている。操作部1604は、ハンディターミナルのような端末、あるいはキーボード、ジョグダイアル、マウス、ポインティングデバイス、音声入力機などのデバイス(あるいはそれらを備える制御端末)によって構成することができる。表示装置1605は、分離度算出手段113、故障予知モデル生成手段115、故障判定手段116等が実行する処理に係る情報を表示画面に表示できるものであればよく、例えば液晶ディスプレイ装置を用いることができる。
【0034】
[故障予知方法について]
本実施形態において、故障予知装置100の故障予知モデル生成手段115は、いわゆる教師無し学習により学習済モデル(故障予知モデル)を構築する。いわゆる教師なし学習によって機械設備の故障の特徴を学習するには、故障無しの状態、すなわち機械設備が正常に動作しているときの稼働データのみを利用して機械学習する。教師なし学習とは、入力データのみを大量に学習装置に与えることで、入力データがどのような分布をしているかを学習させる。すなわち、入力データに対して圧縮・分類・整形などの処理を行う装置に、入力データに対応した教師出力データを与えずに、処理を学習させる手法である。
【0035】
教師なし学習の手法を用いた故障予知方法について、具体的に説明する。機械設備の使用目的に照らして動作状態が許容範囲内の場合を正常状態として、正常状態での機械設備の稼働データのみを用いて機械学習を行う。本実施形態では、教師なし学習モデルとして、オートエンコーダを用いる。
【0036】
本実施形態は、機械学習に用いるデータの抽出方法に特徴があり、機械設備が正常状態から故障状態に変化する際の状態変化に対して敏感な特徴量を選び、選んだ特徴量の所定期間(正常区間)のデータを学習用データとして用いる。
【0037】
まず、
図3を参照して特徴量の抽出について説明する。
図3に示すように、故障予知の対象となる機械設備10は、電流センサーであるセンサー1、速度センサーであるセンサー2、圧力センサーであるセンサー3を含むセンサー11を備えるものとする。本実施形態に係る故障予知方法では、まずセンサー11に含まれる各センサーの計測データに基づき、機械設備10の運転状態を示す特徴量を抽出する。特徴量は、センサーの時系列の計測データに関して、周波数領域へ積分変換したり、時間に対する一次微分や二次微分を演算したり、フィルタリング処理をしたり、周期動作の最大値や最小値を抽出する等の処理を行うことにより抽出する。尚、前述したセンサーおよび計測データ処理は例示に過ぎず、機械設備の状態を把握するのに適したデータを取得できるのであれば、どのようなセンサーや計測データ処理であってもよい。また、センサーの計測データそのものにより機械設備の状態を容易に解析可能であるならば、特段の処理を行わずに計測データそのものを特徴量としてもよい。
図3では、センサー1、センサー2、センサー3の計測データ各々について三種の処理を行い、右側に示す合計9種の特徴量の時系列データが抽出された状態を模式的に示している。
【0038】
次に、抽出した特徴量の中から、機械設備が正常状態から故障状態に変化する際に敏感に変化する特徴量を選ぶ方法について説明する。
まず、機械設備10が正常状態から故障状態に至るまでの特徴量の時系列データ、すなわち
図3の右側に示した9種の特徴量の時系列データを抽出する。次に、機械設備が正常状態から故障状態に変化する際の敏感度を表す指標である分離度を、9種の特徴量について算出する。
【0039】
図4を参照して、時系列の特徴量データから分離度を算出する方法について説明する。ここでは、フィッシャーの線形判別分析法を例として、分離度を算出する方法を説明する。フィッシャーの線形判別分析法は、2つの集合(実施形態の場合は、正常状態と故障状態)を最もよく判別できる直線を求める手法である。時系列上の任意の一点において、特徴量がどちら側にあるかを見ることで、どちらの集合に属するかを判別することができる。
【0040】
具体的には、時系列の特徴量の任意の一点を境に、左側のデータ集合をA、右側のデータ集合をBとした際に、データ集合A、データ集合Bの平均μと分散σを求める。求められた各集合の平均μと分散σにより、下式で、分離度を求める。
【0041】
【0042】
9種の特徴量の各々に対して、データ集合Aとデータ集合Bの境界を時間軸に沿ってずらしながら上記の処理を行い、時間軸上の各点における分離度を求める。そして、9種の特徴量の各々に関して、時系列に求めた分離度の中の最大値を求める。分離度の最大値として大きな値をもつ特徴量であるほど、正常状態と故障状態の分離能が高い、すなわち故障の発生に対して感度が高い特徴量であると言える。また、その特徴量に関して最大の分離度が得られたタイミングは、その特徴量にとって正常状態と故障状態を最も良く分離(区別)できるタイミングであると言える。
【0043】
図9に示すのは、本実施形態において、作業者が学習用データを選択して機械学習により学習済モデルを作成する作業を行う際に、故障予知装置100の表示部130に表示される作業支援画面の一例である。
【0044】
画面の左上には、故障ケースを特定するための情報を表示する欄が配置されている。学習用データとして、どの故障ケースに関する計測データを用いるかを作業者が指定したり、変更あるいは確認する作業の便宜のためである。
【0045】
画面の右上には、分離度の最大値の範囲を表示する表示欄が配置されている。学習用データに用いる特徴量を選択するための条件である分離度の最大値の範囲を、作業者が指定したり、変更あるいは確認する作業の便宜のためである。
図9の例は、学習用データに用いる特徴量を選択する条件が、分離度の最大値が50以上であることを示している。
【0046】
画面の中段には、選択条件に合致して選択された特徴量に関する情報が、分離度の最大値が大きい順に上から並んで表示されている。
図9の例は、9種の特徴量の中で選択条件に合致したのは、電流値最大値、圧力最小値、速度平均の3つであり、この順に分離度の最大値が大きかったことを示している。例えば、電流値最大値についてみれば、最大の分離度である98が、故障発生の7日前に検出されたことが示されている。尚、
図9の例では、電流値、速度、圧力のように異なる種類のセンサーの計測データから抽出された特徴量が選択されているが、これは偶然であり、例えば同じセンサーの計測値に異なる処理をして得られた特徴量が選択される場合も有り得る。
画面中段の右側に表示されるグラフ欄には、各特徴量についての経時変化グラフと、各特徴量についての分離度が最大となるタイミング、および以下に説明する正常区間がグラフィック表示されている。
【0047】
本実施形態では、選択された特徴量についての時系列データのうち、機械設備が正常状態にある期間(正常区間)のデータを学習用データとして用いるが、画面下段には正常区間指定情報欄が表示されている。この欄は、正常区間を作業者が設定したり、確認や変更の指示をする便宜のために設けられている。
図9の例では、故障発生よりも10日以上前を正常区間に指定することが示されている。
【0048】
正常区間は、選定された3つの特徴量において分離度の最大値が検出されたタイミングのいずれよりも早い(過去の)区間として設定される。もし、選定された特徴量において分離度の最大値が検出されたタイミングが正常区間内に存在すると、その特徴量については正常区間のデータに故障状態のデータが混入してしまい、正常状態の特徴を正しく機械学習させるのに不都合だからである。
図9の例では、選定された特徴量のうち分離度の最大値が検出されたタイミングが最も早いのは速度平均であるが、正常区間は速度平均の分離度が最大になる時点よりも前に設定されているので、問題ない。
【0049】
尚、正常区間を故障発生時点よりも早く(遠い過去に)設定するほど、正常状態のなかでも初期状態に近い状態、すなわち機械設備が故障から遠い状態のデータを用いて機械学習させることができる。ただし、故障発生時点よりも早く(遠い過去に)設定するほど、正常区間が時間的に短くなるため、機械学習に用いることができるデータ量が少なくなると言える。そこで、正常区間は、データの質と量を総合的に勘案して設定するのが望ましい。
【0050】
画面中段の左端に表示される選択欄は、その特徴量が選択されていることを作業者が確認したり、作業者が選択/非選択を指示、変更する作業を行う便宜のために設けられている。例えば、分離度50以上という選択条件を指定することにより、上述した3つの特徴量が自動選定された場合であっても、作業者の判断により一部を除外したい場合には、選択欄のチェックを外すことによりそれを指示することが可能である。
図10は、作業者が速度平均を機械学習用の特徴量から除外するように指示した場合の表示画面を例示している。
【0051】
このように、本実施形態によれば、正常状態と故障状態とを判別するための感度が高い特徴量を選定し、その特徴量について機械設備が正常状態である正常区間のデータを機械学習用のデータとして抽出することができる。
【0052】
画面下段の右端に配置されたモデル生成ボタンは、選定した特徴量を用いて機械学習により故障予知モデルを生成する作業を開始するように、作業者が故障予知装置に指示するためのアイコンである。
【0053】
次に、
図5の模式図を参照して、上述のようにして抽出した学習用データを用いてオートエンコーダに機械学習させる方法について説明する。オートエンコーダは、入力された学習用データを、少ない情報量に圧縮(符号化)した後に復元(復号化)するニューラルネットワークの一種である。機械学習により「入力データをうまく圧縮し、復元するためのパラメータ」すなわち、入力データの特徴を学習する。
【0054】
オートエンコーダは、入力値xをエンコードして中間層zに圧縮する。その後、中間層zをデコードして出力値yとして復元する。その際、入力値と出力値の復元誤差Jが少なくなるように機械学習する。
すなわち、オートエンコーダは、下記に示す数式4において復元誤差Jが少なくなるように、数式2のW、b、および数式3のW’、b’を定める。尚、sは活性化関数である。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
学習済のオートエンコーダ(学習済モデル、あるいは故障予知モデルと記す場合がある)に、学習用データと特徴が類似したデータを入力すれば、学習時に獲得したパラメータによる符号化・復号化により復元誤差が小さい出力値が出力される。一方、学習データとは特徴が異なるデータを学習済モデルに入力すると、学習時に獲得したパラメータではうまく圧縮・復号ができないため、復元誤差が大きくなる。
この特性を利用して、本実施形態では、選択された特徴量の正常区間のデータを入力値xとしてオートエンコーダに与えて機械学習させる。
【0059】
また、故障予知を行う際には、学習時に選択されたのと同種の特徴量の評価時のデータを入力値xとして学習済モデルに入力し、出力値yを出力させる。そして、入力値xに対する出力値yの復元誤差を算出し、復元誤差すなわち入力と出力の乖離度を機械設備が正常状態から乖離している程度を示す指標として扱う。
【0060】
また、本実施形態では、乖離度を用いて機械設備の故障発生が近いか否かを判定する際に用いる判定用閾値を設定しておく。判定用閾値を設定するには、まず、学習済モデルに、正常状態から故障発生に至るまでの実際の機械設備のセンサーデータに基づく特徴量データを入力し、故障が発生するまでの乖離度の経時的変化を調べる。この特徴量データとしては、学習時に選択されたのと同種の特徴量(同じセンサーの計測データに同じ処理をして得られた特徴量)のデータを用いる。乖離度の経時的変化に基づき、故障の発生が近づいたことを判定するための判定用閾値を設定する。乖離度が判定用閾値以上であれば、機械設備の故障発生が近い、すなわち故障の予兆ありと判定する。
【0061】
図11は、判定用閾値の決定方法を具体的に説明するための図である。
図11のグラフの横軸は時間(時刻)、縦軸は故障の発生に近づいた度合いを示す指標値(学習済モデルの入力と出力の乖離度)であり、正常状態の初期から故障(異常状態)の発生に至るまでの指標値の経時変化を示している。故障の発生が近づいたことを故障予知装置が予知・通知してから故障が発生するまでに、所定期間tを確保したい場合、すなわち故障の発生よりも所定期間tだけ前に故障予知装置に予知させたい場合を想定する。この場合には、図示のように故障発生から所定期間tだけ遡った時点の指標値(学習済モデルの入力と出力の乖離度)の数値を、故障予知の判定用閾値として設定する(判定用閾値設定工程)。
【0062】
上述した学習済モデルと判定用閾値を用いた故障予知について説明する。
図6に示すのは、オートエンコーダを用いた故障予知方法を説明するための模式図である。
学習済モデルに、評価時の機械設備の稼働状態を示す評価データを入力し、入力値と出力値を用いて、学習した正常状態に対して機械設備がどの程度離れた状態であるのかを示す乖離度を算出する。評価データとしては、学習時に選択されたのと同種の特徴量(同じセンサーの計測データに同じ処理をして得られた特徴量)についての評価時のデータを用いる。具体的には、
図6に示すように故障予知モデルに評価データを入力し、その結果得られる故障予知モデルの出力値yと入力値xの復元誤差Jを算出し、正常状態からの乖離度として扱う。本実施形態では、この乖離度を、故障の発生に近づいた度合いを示す指標値として扱う。乖離度(復元誤差J)が判定用閾値T以上である場合には、故障の発生までの期間が所定期間t以下である、すなわち故障の予兆ありと判定する。逆に、乖離度(復元誤差J)が判定用閾値T未満である場合には、故障の発生までの期間が所定期間tよりも長い、すなわち故障の予兆なしと判定する。
【0063】
[処理手順について]
次に、故障予知装置100が実行する処理の手順を、
図7及び
図8のフローチャートを参照して説明する。
図7は、故障予知モデルの生成についての処理手順を示すフローチャートである。
【0064】
まず、ステップS101において、故障予知装置100のセンサーデータ収集手段111が、機械設備10の状態を計測するためのセンサー11から計測データを取得し、センサーデータ記憶手段121に格納する(計測データ取得工程)。
【0065】
次に、ステップS102において、特徴量抽出手段112は、センサーデータ記憶手段121に格納されたセンサーデータに基づいて、機械設備10の運転状態の特徴を示す特徴量を抽出して、特徴量記憶手段122に格納する(特徴量抽出工程)。
【0066】
次にステップS103において、機械設備10に故障が発生しているか否かを制御部110が判断する。故障の発生は、ユーザが入力部140を介して故障予知装置100の制御部110に入力してもよいし、機械設備10の制御部(不図示)がネットワークインターフェース(NIF)1607を介して故障予知装置100の制御部110に入力してもよい。
【0067】
故障が発生していない(ステップS103:no)場合には、ステップS101に戻り、以後は故障が発生するまで、ステップS101とステップS102を繰り返す。
故障が発生した(ステップS103:yes)場合には、ステップS104に進み、分離度算出手段113は特徴量記憶手段122から特徴量を取得して各特徴量についての分離度を算出する。
【0068】
次にステップS105において、分離度算出手段113は、算出した分離度の経時データの中から、各特徴量についての分離度の最大値を抽出し、分離度記憶手段123に格納する。すなわち、複数の特徴量の各々について正常状態から故障状態に至るまでの期間内における分離度の最大値を取得する。(分離度最大値取得工程)。
【0069】
次にステップS106において、特徴量選択部131は、分離度記憶手段123から各特徴量に関する分離度の最大値を取得し、分離度閾値設定手段132に記憶された閾値に基づいて、機械学習に用いる特徴量を選択する。また、正常区間設定手段133は、選択された特徴量について分離度の最大値が発現したタイミングを参照して、機械設備の正常区間(故障の予兆がまだ特徴量に発現していない正常状態期間)を設定する。選択した特徴量、および正常区間に関する情報は、機械学習用の学習データを抽出するための条件として、故障予知モデル条件記憶手段124に記憶される。
【0070】
次にステップS107において、データ抽出手段114は、故障予知モデル条件記憶手段124に記憶された抽出条件に基づき特徴量記憶手段122から機械学習用データを抽出し、機械学習用データを故障予知モデル生成手段115に向けて出力する。すなわち、選択された特徴量の正常区間のデータを抽出して出力する(学習用データ抽出工程)。
【0071】
次にステップS108において、故障予知モデル生成手段115は、データ抽出手段114から入力される機械学習用データを用いて学習済モデル(故障予知モデル)を生成し、故障予知モデル記憶手段125に格納する(学習済モデル生成工程)。
以上の一連の処理を実行することにより、学習済モデル(故障予知モデル)を生成することができる。
【0072】
次に、機械設備10が故障の発生に近づいているか否かを判定する際に、生成した学習済モデル(故障予知モデル)を用いて故障予知装置100が実行する処理の手順を説明する。
図8は、処理手順を示すフローチャートである。機械設備10が故障の発生に近づいているか否かを判定する処理は、例えばユーザが故障予知装置100の入力部140を用いて処理の開始を指示することによりスタートする。あるいは、機械設備10の運転時間に応じて自動的に処理が開始されるように、故障予知装置100の制御プログラムを構成しておいてもよい。
【0073】
処理が開始されると、ステップS201において、機械設備10の状態を計測するためのセンサー11から、故障予知装置100のセンサーデータ収集手段111が計測データを取得し、センサーデータ記憶手段121に格納する。
【0074】
次に、ステップS202において、特徴量抽出手段112は、センサーデータ記憶手段121に格納されたセンサーデータに基づいて、機械設備10の運転状態の特徴を示す特徴量を抽出して、特徴量記憶手段122に格納する。
【0075】
次に、ステップS203において、データ抽出手段114は、故障予知モデル条件記憶手段124に記憶された情報、すなわち機械学習に用いた特徴量の種類に関する情報を取得し、その種類と同じ特徴量を特徴量記憶手段122から抽出する。抽出された特徴量は、評価用データとして故障判定手段116に向けて出力される(評価用特徴量抽出工程)。
【0076】
次に、ステップS204において、故障判定手段116は、データ抽出手段114から入力される評価用の特徴量データを、故障予知モデル記憶手段125に格納された学習済モデル(故障予知モデル)に入力し、入力と出力の乖離度を算出する。
【0077】
次に、ステップS205において、故障判定手段116は、算出した乖離度と判定用閾値とを比較し、機械設備10が故障の発生に近づいているか否か、すなわち故障の予兆の有無を判定する。
乖離度が判定用閾値以上(ステップS205:yes)であれば、機械設備10の故障発生が近いと判定し、ステップS206に移行する。
【0078】
ステップS206において、故障判定手段116は故障通知手段117に対して通知指令を発する。通知指令を受けた故障通知手段117は、故障判定手段116の判定結果をユーザに通知する。通知を行う際には、ユーザインターフェースを介してユーザに通知するとともに、判定に係る情報を記憶部120に記憶したり、外部インターフェースを通じて外部装置に提供してもよい。ユーザに通知するには、故障予知装置100の表示部130に表示したり、音声メッセージを発したり、紙等の媒体に印刷して出力する等の処理を行なってもよい。ユーザへの通知が完了すると、処理を終了(END)する。
【0079】
乖離度が判定用閾値未満(ステップS205:no)であれば、機械設備10の故障発生が遠い、すなわち故障の予兆なしと判定し、処理を終了(END)する。尚、故障の予兆なしと判定した場合であっても、その結果をユーザに通知したり、判定に係る情報を記憶装置に記憶したり、外部インターフェースを通じて外部装置に提供してもよい。
【0080】
以上のように、実施形態によれば、故障事例に基づき、機械設備の状態を示す種々の特徴量の中から故障の発生に相関性が高い特徴量を選択することができる。少ない故障事例しか収集できなくても、予測精度の高い故障予知モデルを作成することができる。すなわち、少ない故障事例であっても、機械設備の状態を示す種々の特徴量の中から、正常状態と故障状態とを分離する分離能が高い特徴量を機械学習用データとして選択できる。故障の発生と相関性が高い特徴量を選択して機械学習を行うことにより、故障の発生を事前に予測する精度が高い学習済モデルを作成できる。
【0081】
[他の実施形態]
本発明の実施は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が可能である。
例えば、実施形態では、いわゆる教師無し学習の手法により、オートエンコーダを用いて故障予知モデルを作成したが、本発明はいわゆる教師有り学習の手法を用いて故障予知モデルを作成して実施することも可能である。教師あり学習とは、ある入力と結果(ラベル)のデータの組を大量に学習装置に与えて、それらデータセットにある特徴を学習させ、入力から結果を推定するモデル、すなわち入出力の関係性を帰納的に獲得する学習済モデルを構築する手法である。
【0082】
また、実施形態では、機械学習の例としてニューラルネットワークを利用する方法を説明したが、機械学習の方法はこれに限られるものではなく、例えば遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシンなどを用いてもよい。機械学習を行う装置としては、汎用の計算機もしくはプロセッサを用いることもできるが、GPGPU機能を備えたグラフィックス・プロセッシング・ユニットや、大規模PCクラスター等を利用すると、高速処理が可能になる。
【0083】
また、実施形態では、ステップS106において、特徴量選択部131は、各特徴量に関する分離度の最大値と、分離度閾値設定手段132に記憶された所定の閾値とに基づいて、機械学習に用いる特徴量を選択したが、閾値を用いないで選択してもよい。例えば、特徴量を分離度の最大値が大きい順に並べ、所定順位までの特徴量(所定数の特徴量)を機械学習用として選択してもよい。
【0084】
上述したように、実施形態によれば少ない故障事例のデータを用いた機械学習によっても、故障の予測精度が高い故障予知モデルを生成できるが、新たな故障事例が発生した場合に、追加の機械学習をすることを禁止するものではない。すなわち、学習済モデルを生成した後に、新たな故障事例のデータを用いて追加学習を行ってもよい。その場合には、追加学習する故障事例に関する計測データを参照して、選択する特徴量や判定用閾値を変更してもよい。
【0085】
本発明の故障予知装置は、例えば産業用ロボット、サービス用ロボット、コンピュータによる数値制御で動作する加工機械、等の様々な機械や設備の故障予知に適用することが可能である。機械設備と故障予知装置を一体化して故障予知システムを構成したり、機械設備の一部として故障予知装置を設けてもよい。
【0086】
本発明は、実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0087】
10・・・機械設備/11・・・センサー/100・・・故障予知装置/110・・・制御部/111・・・センサーデータ収集手段/112・・・特徴量抽出手段/113・・・分離度算出手段/114・・・データ抽出手段/115・・・故障予知モデル生成手段/116・・・故障判定手段/117・・・故障通知手段/120・・・記憶部/121・・・センサーデータ記憶手段/122・・・特徴量記憶手段/123・・・分離度記憶手段/124・・・故障予知モデル条件記憶手段/125・・・故障予知モデル記憶手段/130・・・表示部/131・・・特徴量選択部/132・・・分離度閾値設定手段/133・・・正常区間設定手段/140・・・入力部