(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】鳥類における形質選択
(51)【国際特許分類】
A01K 67/0278 20240101AFI20240527BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240527BHJP
A01K 43/00 20060101ALI20240527BHJP
C12N 7/04 20060101ALI20240527BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20240527BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240527BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A01K67/0278 ZNA
G01N33/48 N
A01K43/00
C12N7/04
A61K39/12
A61P31/12
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019566285
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 AU2018050535
(87)【国際公開番号】W WO2018218299
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-31
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】317002869
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ジェイムズ ドラン
(72)【発明者】
【氏名】マーク レスリー ティザード
(72)【発明者】
【氏名】アンドルー ビーン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/040527(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0034879(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0288856(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104694576(CN,A)
【文献】TIZARD M. et al.,Precision genome engineering in the chicken,The gap between science and market place,2014年,p. 1-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/00 - 67/04
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスジェニック鳥類の卵であって、
i)Z染色体上にあってその卵において検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあって、第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べたときに、その卵において、および/またはその卵から生まれた鳥類において産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を含んでいる、トランスジェニック鳥類の卵。
【請求項2】
以下の:
i) 前記遺伝子改変が母系遺伝し、
ii) 前記マーカーを、前記卵の殻の完全性を損なうことなく検出することができ、
iii) 前記マーカーが、産卵時点から2日以内に前記卵の殻を破損することなく検出可能であり、
iv) 前記マーカーが、蛍光タンパク質、発光タンパク質、可聴(振動)タンパク質、音響タンパク質、代謝マーカー、又は選択的キレート化タンパク質であり;
v) 前記第1及び/又は第2の遺伝的改変がトランス遺伝子であり;そして
vi) 前記遺伝子改変が、単一の外来遺伝子コンストラクト中に存在する
のうちの1又は複数を含む、請求項1に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項3】
前記蛍光タンパク質の選択が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増強型緑色蛍光タンパク質(EGFP)、Emerald、Superfolder GFP、Azami Green、mWasabi、TagGFP、TurboGFP、mNeonGreen、mUKG、AcGFP、ZsGreen、Cloverm Sapphire、T-Sapphire、増強型青色蛍光タンパク質(EBFP)、EBFP2、Azurite、TagBFP、mTagBFP、mKalama1、シアン色蛍光タンパク質(CFP)、mCFP、増強型シアン色蛍光タンパク質(ECFP)、mECFP、Cerulean、SCFP3A、mTurquoise、mTurquoise2、CyPet、AmCyan1、Midori-Ishi Cyan、TagCFP、mTFP1(Teal)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、増強型黄色蛍光タンパク質(EYFP)、スーパー黄色蛍光タンパク質(SYFP)、Topaz、Venus、Citrine、mCitrine、YPet、TagYFP、TurboYFP、PhiYFP、ZsYellow1、mBanana、Kusabira Orange、Kusabira Orange2、mOrange、mOrange2、dTomato、dTomato-Tandem、赤色蛍光タンパク質(RFP)、TurboRFP、TurboFP602、TurboFP635、Tag ref蛍光タンパク質(RFP)、TagRFP-T、DsRed、DsRed2、DsRed-Express(T1)、DsRed-Monomer、mTangerine、mKeima-Red、mRuby、mRuby2、mApple、mStrawberry、AsRed2、mRFP1、JRed、mCherry、mKate2、mKate(TagFP635)、HcRed1、mRaspberry、dKeima-Tandem、HcRed-Tandem、mPlum、mNeptune、NirFP、Sirius、TagRFP657、AQ143、Kaede、KikGR1、PX-CFP2、mEos2、IrisFP、mEOS3.2、PSmOrange、PAGFP、Dronpa、アロフィコシアニン、GFPuv、R-フィコエリトリン(RPE)、ペリジニンクロロフィル(PerCP)、P3、Katusha、B-フィコエリトリン(BPE)、mKO、J-Redからなされる、請求項
2に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項4】
前記産生形質の選択が、ウイルス産生、組み換えタンパク質産生、筋肉質量、栄養含量、繁殖力からなされる、請求項1~3のいずれか1項に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項5】
前記産生形質がウイルス産生であり、前記第2の遺伝子改変により、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて前記卵において抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の発現が低下し、その卵が、同質遺伝子型の卵よりも多くのウイルスを産生することができる、請求項4に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項6】
前記抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択が、IFNAR1、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλ、IFNAR2、UBE1DC1、GNAZ、CDX2、LOC100859339、IL28RA、ZFPM2、TRIM50、DNASEIL2、PHF21A、GAPDH、BACE2、HSBP1、PCGF5、IL-1RA、DDI2、CAPN13、UBA5、NPR2、IFIH1、LAMP1、EFR3A、ARRDC3、ABI1、SCAF4、GADL1、ZKSCAN7、PLVAP、RPUSD1、CYYR1、UPF3A、ASAP1、NXF1、TOP1MT、RALGAPB、SUCLA2、GORASP2、NSUN6、CELF1、ANGPTL7、SLC26A6、WBSCR27:siL1、HTT、MYOC、TM9SF2,CEP250、FAM188A、BCAR3、GOLPH3L、HN1、ADCY7、AKAP10、ALX1、CBLN4、CRK、CXORF56、DDX10、EIF2S3、ESF1、GBF1、GCOM1、GTPBP4、HOXB9、IFT43、IMP4、ISY1、KIAA0586、KPNA3、LRRIQ1、LUC7L、MECR、MRPL12、POLR3E、PWP2、RPL7A、SERPINH1、SLC47A2、SMYD2、STAB1、TTK、WNT3、IFNGR1、IFNGR2、IL-10R2、IFNκ、IFNΩ、IL-1RB、XPO1からなされる、請求項5に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項7】
前記産生形質がウイルス産生であり、前記第2の遺伝子改変により、以下の:
i) その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて前記卵においてSIAT1遺伝子および/またはSIAT1タンパク質の発現が増加し、その卵が産生するウイルスでは、同質遺伝子型の卵が産生するウイルスと比べて免疫原性が増大すること,
ii)その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵においてα-2,6-結合シアル酸の量が増加するとともにα-2,3-結合シアル酸の量が減少し、その卵が産生するウイルスでは、前記同質遺伝子型の卵が産生するウイルスと比べて免疫原性が増大すること、
iii)その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵において抗微生物タンパク質の発現が増加し、その卵が、前記同質遺伝子型の卵よりも多くのウイルスを産生すること、
のうちの1又は複数を生じる、請求項4に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項8】
前記鳥類がニワトリである、請求項1~7のいずれか1項に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項9】
雄である、請求項1~8のいずれか1項に記載のトランスジェニック鳥類の卵。
【請求項10】
トランスジェニック鳥類であって、
i)Z染色体上にあってその鳥類が産んだ卵において検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあって、第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べて、その卵において、および/またはその卵から生まれた鳥類において産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を、含む鳥類。
【請求項11】
雌である、請求項10に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項12】
雄である、請求項10に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項13】
請求項11に記載のトランスジェニック鳥類を交配することにより産まれ、前記第1の遺伝子改変と、前記第2の遺伝子改変とを有する、鳥類の卵又は子孫。
【請求項14】
第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べてウイルスの産生が増加した雄性卵である、請求項13に記載の鳥類
の卵。
【請求項15】
鳥類の雄性卵を検出する方法であって、
i)請求項11に記載の雌のトランスジェニック鳥類を、前記第1の遺伝子改変が欠けた雄の鳥類と交配させることによって産まれた鳥類の卵を取得し、
ii)その卵をマーカーに関してスクリーニングすることを含んでいて、
前記卵がマーカーを有する場合に雄である、前記方法。
【請求項16】
工程i)の雄がトランスジェニックではなく、及び/又は前記マーカーが蛍光タンパク質であり、前記卵を第1の波長の光に曝露し、そして第2の波長の光で蛍光を評価することによって、そのマーカーをスクリーニングする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
鳥類の卵を生産する方法であって、請求項11に記載の雌の鳥類を雄の鳥類と交配させることを含む方法。
【請求項18】
ウイルスを複製する方法であって、
1)請求項1~9のいずれか1項に記載の鳥類の卵を取得し、
2)その卵にウイルスを接種し、そして
3)その卵を所定の期間わたって孵卵してそのウイルスを複製する
ことを含む、前記方法。
【請求項19】
前記第2の遺伝子改変により、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて前記卵において抗ウイルス遺伝子の発現が低下する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ワクチン組成物を製造する方法であって、
1)請求項18又は19に記載の方法を利用してウイルスを複製し、
2)複製されたそのウイルスまたはその粒子を前記卵から回収し、
3)回収されたそのウイルスからワクチン組成物を調製する
ことを含む方法。
【請求項21】
工程2)または工程3)が前記ウイルスの不活化を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
トランスジェニック鳥類の卵、またはその卵から生まれる鳥類を作り出す方法であって、その卵または鳥類が、
i)Z染色体上にあって鳥類の卵において検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあって、第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べて、その卵において、および/またはその卵から生まれた鳥類において産生形質を変化させる第2の遺伝子改変と、を含んでいて、
この方法が、以下の:
1)前記遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄の鳥類を、Z染色体上に前記遺伝子改変を含む雌の鳥類と交配させて、前記遺伝子改変に関してホモ接合型である雄性卵を産ませること、またはその卵から鳥類を生まれさせることを含み、
2)前記遺伝子改変に関してホモ接合型である雄の鳥類を、前記遺伝子改変が欠けた雌の鳥類と交配させて、Z染色体上に前記遺伝子改変を含む雌性卵を産ませること、またはその卵から鳥類を生まれさせること
3)Z染色体上に前記遺伝子改変を含む雌の鳥類を、前記遺伝子改変が欠けた雄の鳥類と交配させて、前記遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄性卵を産ませること、またはその卵から鳥類を生まれさせることを含み、この交配から産まれた雌性卵、またはこの卵から生まれた鳥類は、前記遺伝子改変を欠いている、及び
4)a)前記遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄の鳥類を、Z染色体上に前記遺伝子改変を含む雌の鳥類と交配させて、前記遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄の鳥類を生まれさせ、
b)工程a)で生まれた雄の鳥類を、前記遺伝子改変が欠けた雌の鳥類と交配させて、Z染色体上に前記遺伝子改変を含む雌の鳥類を生まれさせ、
c)工程b)で生まれた雌の鳥類を、前記遺伝子改変が欠けた雄の鳥類と交配させて、前記遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄性卵を産ませ、またはその卵から鳥類を生まれさせ、この交配から産まれた雌性卵、またはこの卵から生まれた鳥類は、前記遺伝子改変を欠いている、
のうちの1を含む、前記方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、この方法で作り出した前記雌の鳥類を卵産業で利用し、この方法によって作り出した雄性卵をワクチン産業で利用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニック鳥類と、その鳥類から産まれる卵に関するものであり、その卵は、卵内での性選別を容易にする遺伝子改変と、卵の中、またはその卵から生まれる鳥類の中で産生形質を増加させる遺伝子改変を含んでいる。本発明は、孵化前に卵の性別を特定する方法と、孵化前に性別に基づいて卵を選別する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝学は家禽を飼いならす上で以前から重要な役割を担ってきており、食肉と卵をそれぞれ生み出すブロイラーと産卵鶏という市場の主要な2種類の鳥類の高性能化に寄与してきた。これら2種類の系統の一生には非常に大きな違いがあり、産卵鶏産業で生まれる雄鶏は、市場の大半の状況では商業的に生き延びて食肉になることがない。その結果として雄は、手作業での性識別または羽の色の同定によって孵化後にただちに安楽死させられ、死骸から安価に栄養素が回収される。この慣行は、産卵鶏産業に影響を与える重大でしかも大きくなりつつある倫理的問題を提起しており、養鶏家にコストと生産価値の損失を負わせる。アメリカ合衆国の全米鶏卵生産者組合が最近、彼らの目標として、雄を選別するという慣行を2020年までに廃止することを宣言したことも注目される。他の国々もこの先例に追随する可能性が大きい。
【0003】
孵化前に雄の雛を検出して除去する能力は、産卵産業と関連産業にとって前に進む大きな一歩になると考えられる。孵化後に雄の雛を選別するという現在の慣行は、多くの国々で大きな倫理的ジレンマとなっている。産卵鶏の雄を孵化させて成長させるというのは養鶏家にとって持続可能な選択肢ではない。雄性卵が孵化前に特定されると、その卵を雌性卵から分離し、ワクチン製造などの異なる製造プロセスで利用できると考えられる。この製造プロセスでは、卵をワクチンの製造に必要なウイルス産生のためのバイオリアクターとして使用できるため、このシステムの無駄が少なくなる。
【0004】
卵の中で性を識別するための方法がいくつか開発されていて、それらは、ホルモン測定(Weissmann他、2013年)、DNA分析(Porat他、2011年)、より最近ではラマン分光(Galli他、2016年)に基づいている。DNA検査とホルモン検査はサンプリングと処理を必要とする。そのどちらも時間と費用がかかるため、産業に取り入れるのに理想的ではない。ラマン分光は大きな前進だが、無接触分析のために卵の殻に大きな穴を開けることを含んでいるため、その後、接着テープで密封する必要がある。これらのどの方法でも、卵を産卵の時点と孵卵前に選別することはできない。それが可能であると考えられる卵内での性識別法が、産業にとってはより望ましく、産業の既存の慣行に組み込むことがより容易であろう。この背景のもとで、本発明の発明者は、代替生産プロセスで利用するため、産卵時に胚をスクリーニングして孵化前に雄性卵を除去することのできる遺伝的アプローチを開発した。
【発明の概要】
【0005】
1つの側面では、本発明により、トランスジェニック鳥類の卵として、
i)Z染色体上にあってその卵の中で検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあって、その卵の中、および/またはその卵から生まれた鳥類の中で産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べたときに含んでいる、トランスジェニック鳥類の卵が提供される。
【0006】
好ましい一実施態様では、第2の遺伝子改変は、第1の遺伝子改変と同じZ染色体上にある。
【0007】
一実施態様では、遺伝子改変は物質として遺伝する。
【0008】
一実施態様では、卵は雄である。別の一実施態様では、卵は雌である。
【0009】
一実施態様では、第1の遺伝子改変と第2の遺伝子改変が同じ遺伝子改変である。例えば第1の遺伝子改変として、内在遺伝子に挿入される導入遺伝子が可能であり、その結果としてZ染色体上で機能するタンパク質をもはやコードしていない遺伝子になる(インターフェロンI遺伝子、インターフェロンII遺伝子など)。この例では、分断された内在遺伝子は第2の遺伝子改変である。
【0010】
一実施態様では、マーカーは、卵の殻の完全性を損なうことなく検出することができる。
【0011】
一実施態様では、マーカーは、産卵時点から1日以内、または2日以内に卵の殻を破損することなく検出可能である。
【0012】
一実施態様では、マーカーは、蛍光タンパク質、発光タンパク質、可聴(振動)タンパク質、音響タンパク質、代謝マーカー、選択的キレート化タンパク質のいずれかである。
【0013】
一実施態様では、マーカーは蛍光タンパク質である。一実施態様では、蛍光タンパク質の選択は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増強型緑色蛍光タンパク質(EGFP)、Emerald、Superfolder GFP、Azami Green、mWasabi、TagGFP、TurboGFP、mNeonGreen、mUKG、AcGFP、ZsGreen、Cloverm Sapphire、T-Sapphire、増強型青色蛍光タンパク質(EBFP)、EBFP2、Azurite、TagBFP、mTagBFP、mKalama1、シアン色蛍光タンパク質(CFP)、mCFP、増強型シアン色蛍光タンパク質(ECFP)、mECFP、Cerulean、SCFP3A、mTurquoise、mTurquoise2、CyPet、AmCyan1、Midori-Ishi Cyan、TagCFP、mTFP1(Teal)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、増強型黄色蛍光タンパク質(EYFP)、スーパー黄色蛍光タンパク質(SYFP)、Topaz、Venus、Citrine、mCitrine、YPet、TagYFP、TurboYFP、PhiYFP、ZsYellow1、mBanana、Kusabira Orange、Kusabira Orange2、mOrange、mOrange2、dTomato、dTomato-Tandem、赤色蛍光タンパク質(RFP)、TurboRFP、TurboFP602、TurboFP635、Tag ref蛍光タンパク質(RFP)、TagRFP-T、DsRed、DsRed2、DsRed-Express(T1)、DsRed-Monomer、mTangerine、mKeima-Red、mRuby、mRuby2、mApple、mStrawberry、AsRed2、mRFP1、JRed、mCherry、mKate2、mKate(TagFP635)、HcRed1、mRaspberry、dKeima-Tandem、HcRed-Tandem、mPlum、mNeptune、NirFP、Sirius、TagRFP657、AQ143、Kaede、KikGR1、PX-CFP2、mEos2、IrisFP、mEOS3.2、PSmOrange、PAGFP、Dronpa、アロフィコシアニン、GFPuv、R-フィコエリトリン(RPE)、ペリジニンクロロフィル(PerCP)、P3、Katusha、B-フィコエリトリン(BPE)、mKO、J-Redからなされるが、これらに限定されない。一実施態様では、蛍光タンパク質はRFPである。一実施態様では、蛍光タンパク質はGFPである。
【0014】
一実施態様では、マーカーは発光タンパク質である。一実施態様では、発光タンパク質はエクオリンとルシフェラーゼから選択される。
【0015】
一実施態様では、第1の遺伝子改変および/または第2の遺伝子改変は、挿入、置換、欠失いずれかの結果である。一実施態様では、挿入は、導入遺伝子の挿入である。
【0016】
一実施態様では、第1の遺伝子改変および/または第2の遺伝子改変は導入遺伝子である。
【0017】
一実施態様では、第1の遺伝子改変および/または第2の遺伝子改変は、単一の外来遺伝子コンストラクトの中にある。
【0018】
一実施態様では、第1の遺伝子改変および/または第2の遺伝子改変は、プログラム可能なヌクレアーゼを用いて導入される。
【0019】
一実施態様では、産生形質の選択は、ウイルス産生、組み換えタンパク質産生、筋肉質量、栄養含量、繁殖力からなされるが、これらに限定されない。
【0020】
一実施態様では、産生形質はウイルス産生であり、第2の遺伝子改変により、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵の中での抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の発現が低下し、その卵は、同質遺伝子型の卵よりも多くのウイルスを産生することができる。
【0021】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択は、IFNAR1、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλ、IFNAR2、UBE1DC1、GNAZ、CDX2、LOC100859339、IL28RA、ZFPM2、TRIM50、DNASEIL2、PHF21A、GAPDH、BACE2、HSBP1、PCGF5、IL-1RA、DDI2、CAPN13、UBA5、NPR2、IFIH1、LAMP1、EFR3A、ARRDC3、ABI1、SCAF4、GADL1、ZKSCAN7、PLVAP、RPUSD1、CYYR1、UPF3A、ASAP1、NXF1、TOP1MT、RALGAPB、SUCLA2、GORASP2、NSUN6、CELF1、ANGPTL7、SLC26A6、WBSCR27:siL1、HTT、MYOC、TM9SF2,CEP250、FAM188A、BCAR3、GOLPH3L、HN1、ADCY7、AKAP10、ALX1、CBLN4、CRK、CXORF56、DDX10、EIF2S3、ESF1、GBF1、GCOM1、GTPBP4、HOXB9、IFT43、IMP4、ISY1、KIAA0586、KPNA3、LRRIQ1、LUC7L、MECR、MRPL12、POLR3E、PWP2、RPL7A、SERPINH1、SLC47A2、SMYD2、STAB1、TTK、WNT3、IFNGR1、IFNGR2、IL-10R2、IFNκ、IFNΩ、IL-1RB、XPO1からなされるが、これらに限定されない。
【0022】
一実施態様では、一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択は、IFNAR1、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλ、BACE2、UBA5、ZFPM2、TRIM50、DDI2、NPR2、CAPN13、DNASE1L2、PHF21A、PCGF5、IFNLR1、IFIH1、IL-1RA、LAMP1、EFR3A、ABI1、GADL1、PLVAP、CYYR1、ASAP1、NXF1、NSUN6、ANGPTL7、SIL1、BCAR3、GOLPH3L、HN1、ADCY7、CBLN4、CXORF56、DDX10、EIF2S3、ESF1、GCOM1、GTPBP4、IFT43、KPNA3、LRRIQ1、LUC7L、MRPL12、POLR3E、PWP2、RPL7A、SMYD2、XPO1、ZKSCAN7からなされるが、これらに限定されない。
【0023】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択は、IFNAR1、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλからなされる。
【0024】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIFNAR1である。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIL-6である。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はMDA5である。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はCNOT4である。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIFNαである。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIFNβである。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIFNγである。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIFNλである。
【0025】
一実施態様では、第2の遺伝子改変は、抗ウイルス遺伝子またはその調節領域での欠失、置換、挿入のいずれかである。
【0026】
一実施態様では、産生形質はウイルス産生であり、第2の遺伝子改変によって鳥類の卵の中のグリコシル化が変化し、その卵が産生するウイルスでは、同質遺伝子型の卵が産生するウイルスと比べて免疫原性が増大している。
【0027】
一実施態様では、産生形質はウイルス産生であり、第2の遺伝子改変によって鳥類の卵の中のシアル化が変化し、その卵が産生するウイルスでは、同質遺伝子型の卵が産生するウイルスと比べて免疫原性が増大している。
【0028】
一実施態様では、産生形質はウイルス産生であり、第2の遺伝子改変によって鳥類の卵の中のα-2,6-結合シアル酸(α-2,6-シアル化)が増加し、その卵が産生するウイルスでは、同質遺伝子型の卵が産生するウイルスと比べて免疫原性が増大している。
【0029】
一実施態様では、産生形質はウイルス産生であり、第2の遺伝子改変により、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵の中でのSIAT1遺伝子および/またはSIAT1タンパク質の発現が増加し、その卵が産生するウイルスでは、同質遺伝子型の卵が産生するウイルスと比べて免疫原性が増大している。
【0030】
一実施態様では、産生形質はウイルス産生であり、第2の遺伝子改変により、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵の中でのα-2,6-結合シアル酸の量が増加するとともにα-2,3-結合シアル酸の量が減少し、その卵が産生するウイルスでは、同質遺伝子型の卵が産生するウイルスと比べて免疫原性が増大している。
【0031】
一実施態様では、産生形質はウイルス産生であり、第2の遺伝子改変により、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵の中での抗微生物タンパク質の発現が増加し、その卵は、同質遺伝子型の卵よりも多くのウイルスを産生することができる。一実施態様では、抗微生物タンパク質は微生物のβ-デフェンシンである。
【0032】
一実施態様では、産生形質は組み換えタンパク質産生であり、第2の遺伝子改変により、卵の中で組み換えタンパク質が発現する。一実施態様では、組み換えタンパク質は治療用タンパク質である。
【0033】
一実施態様では、遺伝子改変は、鳥類のZ染色体の中で蛍光タンパク質をコードしている導入遺伝子の挿入であり、その挿入により、その鳥類から産まれる卵および/または鳥類の中の産生形質を変化させる遺伝子および/またはタンパク質の発現が変化する。
【0034】
一実施態様では、鳥類はニワトリである。
【0035】
別の1つの側面では、本発明により、トランスジェニック鳥類として、
i)Z染色体上にあってその鳥類が産んだ卵の中で検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあってその卵の中、および/またはその卵から生まれた鳥類の中で産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べて含む鳥類が提供される。
【0036】
好ましい一実施態様では、第2の遺伝子改変は、第1の遺伝子改変と同じZ染色体上にある。
【0037】
一実施態様では、鳥類は雌である。
【0038】
一実施態様では、鳥類は雄である。
【0039】
一実施態様では、雄のトランスジェニック鳥類は遺伝子改変に関してヘテロ接合型である。このような鳥類を、Z染色体上に雄と同じ遺伝子改変を有する雌のトランスジェニック鳥類と交配させ、本発明の繁殖法で用いるための祖父を作り出すことができる(
図2を参照されたい)。
【0040】
別の一実施態様では、雄のトランスジェニック鳥類は遺伝子改変に関してホモ接合型である。このような鳥類を雌の非トランスジェニック鳥類と交配させ、本発明の繁殖法で用いるための母親を作り出すことができる(
図2を参照されたい)。
【0041】
当業者であれば、本発明の雌のトランスジェニック鳥類が、本発明の雄のトランスジェニック鳥類に関して上に概説した任意の特徴を持ちうることを認識していると考えられる。
【0042】
さらに別の側面では、本発明により、本発明に記載されているトランスジェニック鳥類が産む鳥類の卵または子孫が提供される。
【0043】
一実施態様では、鳥類の卵は、第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べてウイルスの産生が増加した雄性卵である。
【0044】
代わりの一実施態様では、鳥類の卵は、第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵への適合性がより小さいウイルスを産生するように改変した雄性卵である。一実施態様では、第2の遺伝子改変により、雄性卵でSIAT遺伝子および/またはSIATタンパク質の発現が増加する。一実施態様では、第2の遺伝子改変により、雄性卵でα-2,6シアル酸が増加する。一実施態様では、第2の遺伝子改変により、雄性卵でα2,3シアル酸が減少する。
【0045】
さらに別の一実施態様では、卵は、治療用組み換えタンパク質を産生する。
【0046】
さらに別の1つの側面では、本発明により、鳥類の雄性卵を検出する方法として、
i)本発明の雌のトランスジェニック鳥類を、第1の遺伝子改変が欠けた雄の鳥類と交配させることによって産まれた鳥類の卵を取得し、
ii)その卵をマーカーに関してスクリーニングすることを含んでいて、
その卵がマーカーを有する場合に雄である方法が提供される。
【0047】
一実施態様では、工程i)の雄はトランスジェニックではない。
【0048】
一実施態様では、マーカーは、蛍光タンパク質または可聴タンパク質である。
【0049】
一実施態様では、マーカーは蛍光タンパク質であり、卵を第1の波長の光に曝露することによってそのマーカーをスクリーニングし、第2の波長の光で蛍光を評価する。
【0050】
一実施態様では、本発明の方法を鳥類の卵の大規模な性選別に利用する。一実施態様では、雄性卵を選択し、ウイルスの産生、または治療用タンパク質の産生に使用する。一実施態様では、(食品用の)卵の生産および/または食肉の生産に雌性卵を選択する。一実施態様では、雌性卵はトランスジェニックではない。
【0051】
一実施態様では、本発明の方法は自動化されている。
【0052】
別の1つの側面では、本発明により、鳥類の卵を性選別する方法として、
i)本明細書に記載されている雌の鳥類を雄の鳥類と交配させて鳥類の卵を取得し、
ii)その卵をマーカーに関してスクリーニングし、
iii)雄性卵を雌性卵から分離することを含み、
卵がマーカーを有する場合に雄であり、卵がマーカーを欠いている場合に雌である方法が提供される。
【0053】
さらに別の1つの側面では、本発明により、鳥類の卵を作り出す方法として、本明細書に記載されている雌の鳥類を雄の鳥類と交配させることを含む方法が提供される。一実施態様では、雄の鳥類は、本明細書に記載されている第1の遺伝子改変と第2の遺伝子改変を含んでいない。一実施態様では、交配によって産まれる雌性卵は、本明細書に記載されている第1の遺伝子改変と第2の遺伝子改変を含んでいない。
【0054】
1つの側面では、本発明により、食品を製造する方法として、
(i)雌の鳥類を雄の鳥類と交配させることにより、少なくとも1羽が本発明の鳥類である鳥類を取得し、
(ii)その鳥類から食肉および/または卵を回収する方法が提供される。
【0055】
一実施態様では、雌は本発明の鳥類である。
【0056】
別の1つの側面では、本発明により、ウイルスを複製する方法として、
1)本明細書に記載されている鳥類の卵を取得し、
2)その卵にウイルスを接種し、
3)その卵を所定の期間にわたって孵卵してそのウイルスを複製することを含む方法が提供される。
【0057】
一実施態様では、第2の遺伝子改変により、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて卵の中での抗ウイルス遺伝子の発現が低下する。
【0058】
一実施態様では、本明細書に記載されている方法はさらに、複製されたウイルスまたはその粒子を卵から回収することを含んでいる。
【0059】
一実施態様では、回収工程は、卵から尿膜腔液を取得することを含んでいる。
【0060】
本明細書に記載されている鳥類の卵を利用して、および/または本明細書に記載されている方法を利用して作製されたウイルスも提供される。
【0061】
1つの側面では、本発明により、ワクチン組成物を製造する方法として、
1)本明細書に記載されている方法を利用してウイルスを複製し、
2)複製されたそのウイルスまたはその粒子を卵から回収し、
3)回収されたそのウイルスからワクチン組成物を調製することを含む方法が提供される。
【0062】
一実施態様では、工程2)または工程3)はウイルスの不活化を含んでいる。
【0063】
一実施態様では、ウイルスは動物ウイルスである。一実施態様では、動物は、ヒト、ニワトリ、ブタ、魚、ヒツジ、ウシのいずれかである。一実施態様では、動物はヒトである。
【0064】
一実施態様では、ウイルスは、オルソミクソウイルス科、ヘルペスウイルス科、パラミクソウイルス科、フラビウイルス科、コロナウイルス科から選択された1つの科に属するが、これらの科に限定されることはない。
【0065】
一実施態様では、選択されるウイルスの非限定的な例は、インフルエンザウイルス、イヌジステンパーウイルス、はしかウイルス、レオウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、イヌパラインフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、鶏痘ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、おたふくかぜウイルス、ウマ脳脊髄炎ウイルス、風疹ウイルス、産卵低下症候群ウイルス、トリ腸瘍溶解性ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ウシパラインフルエンザウイルス、天然痘ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、ウシ茨城ウイルス、組み換え水痘ウイルス、トリアデノウイルスI型、II型、III型、ブタ日本脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、セムリキフォレストウイルス、脳脊髄炎ウイルス、ベネズエラEEVウイルス、鶏貧血ウイルス、マレック病ウイルス、パルボウイルス、口蹄疫ウイルス、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、古典的ブタ熱ウイルス、ブルータングウイルス、アカバネウイルス、伝染性サケ貧血ウイルス、伝染性造血器壊死症ウイルス、ウイルス性出血性敗血症ウイルス、伝染性膵臓壊死症ウイルスである。一実施態様では、ウイルスはインフルエンザウイルスである。
【0066】
1つの側面では、本発明により、本明細書に記載されている方法を利用して製造されたワクチン組成物が提供される。
【0067】
1つの側面では、本発明により、トランスジェニック鳥類の卵、またはその卵から生まれる鳥類を作り出す方法として、その卵または鳥類が、
i)Z染色体上にあって鳥類の卵の中で検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあってその卵の中、および/またはその卵から生まれた鳥類の中で産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べて含んでいて、
この方法が、遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄の鳥類を、Z染色体上に前記遺伝子改変を含む雌の鳥類と交配させて、遺伝子改変に関してホモ接合型である雄性卵を産ませること、またはその卵から鳥類を生まれさせることを含む方法が提供される。
【0068】
1つの側面では、本発明により、トランスジェニック鳥類の卵、またはその卵から生まれる鳥類を作り出す方法でとして、その卵または鳥類が、
i)Z染色体上にあって鳥類の卵の中で検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあってその卵の中、および/またはその卵から生まれた鳥類の中で産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べて含んでいて、
この方法が、遺伝子改変に関してホモ接合型である雄の鳥類を、遺伝子改変が欠けた雌の鳥類と交配させて、Z染色体上に遺伝子改変を含む雌性卵を産ませること、またはその卵から鳥類を生まれさせることを含む方法が提供される。
【0069】
1つの側面では、本発明により、トランスジェニック鳥類の卵、またはその卵から生まれる鳥類を作り出す方法として、その卵または鳥類が、
i)Z染色体上にあって鳥類の卵の中で検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあってその卵の中、および/またはその卵から生まれた鳥類の中で産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べて含んでいて、
この方法が、Z染色体上に遺伝子改変を含む雌の鳥類を、遺伝子改変が欠けた雄の鳥類と交配させて、遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄性卵を産ませること、またはその卵から鳥類を生まれさせることを含み、この交配から産まれた雌性卵、またはこの卵から生まれた鳥類は、遺伝子改変を欠いている方法が提供される。
【0070】
1つの側面では、本発明により、トランスジェニック鳥類の卵、またはその卵から生まれる鳥類を作り出す方法として、その卵または鳥類が、
i)Z染色体上にあって鳥類の卵の中で検出可能なマーカーをコードしている第1の遺伝子改変と;
ii)同じZ染色体上にあってその卵の中、および/またはその卵から生まれた鳥類の中で産生形質を変化させる第2の遺伝子改変を、その第2の遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵または鳥類と比べて含み、
1)遺伝子改変に関してヘテロである雄の鳥類を、Z染色体上に遺伝子改変を含む雌の鳥類と交配させて、遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄の鳥類を生まれさせ、
2)工程1)で生まれた雄の鳥類を、遺伝子改変が欠けた雌の鳥類と交配させて、Z染色体上に遺伝子改変を含む雌の鳥類を生まれさせ、
3)工程2)で生まれた雌の鳥類を、遺伝子改変が欠けた雄の鳥類と交配させて、遺伝子改変に関してヘテロ接合型である雄性卵を産ませ、またはその卵から鳥類を生まれさせ、この交配から産まれた雌性卵、またはこの卵から生まれた鳥類は、遺伝子改変を欠いている方法が提供される。
【0071】
本明細書に記載されている方法の一実施態様では、その方法によって生まれる雌の鳥類は卵産業で利用され、その方法によって生まれる雄性卵はワクチン産業で利用される。
【0072】
本出願の明細書の中に個別に、または集合的に開示または示唆されている工程、特徴、整数、組成物、化合物と、工程または特徴のうちの任意の2つ以上のあらゆる組み合わせ。
【0073】
本明細書のどの実施態様も、特に断わらない限り、必要な変更を加えることで他の任意の実施態様に適用されるものとする。例えば当業者であればわかるように、本発明のトランスジェニック鳥類の卵に関して上に概略を示した抗ウイルス遺伝子の例は、本発明の方法にも同じように適用される。
【0074】
本発明は、本明細書に記載されている具体的な実施態様によって範囲が限定されることはなく、具体的な実施態様は、例示だけを目的としている。機能的に同等な生成物、組成物、方法は、本明細書に記載されているように、明らかに本発明の範囲に含まれる。
【0075】
この明細書全体を通じ、特に断わらない限り、または文脈が別のことを要求しているのでなければ、単一の工程、物質からなる単一の組成物、一群の工程、物質からなる一群の組成物は、これらの工程、物質からなる組成物、一群の工程、物質からなる一群の組成物のうちの1つと複数個(すなわち1つ以上)を包含するものとする。
【0076】
下記の非限定的な実施例により、添付の図面を参照しながら本発明をこれから記述していく。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】全体図:雌の雛を選択的に孵化させる。ニワトリの性判定は、2本の性染色体ZとWの存在によってなされる。雄は、Z染色体のコピーを2つ持ち(ZZ)、雌は1本のZと1本のWを持っている(ZW)。雌の鳥類が持つ1つだけのZ染色体は、雄の子孫に必ず伝えられるため、雄のすべての子孫に伝えられる。雌の子孫は、自らのZ染色体として、改変されていない繁殖用雄に由来するものだけが可能である。Z染色体上のマーカー(例えばGFPやRFPなどの蛍光タンパク質)を利用して、最も初期の段階で、すなわち孵卵前と孵化前に、産卵鶏生産システムからすべての雄を排除する。したがって生産システムに入るすべての子孫が雌になり、マーカー有するZ染色体は完全に消える。雄性卵は、ウイルス産生などの別の用途に流用することができる。
【0078】
【
図2】産卵鶏産業の繁殖構造と、どのようにすればブロイラーと産卵鶏の繁殖ラインに本発明の改変を組み込むことができるかを示している。ニワトリの最上行は、系統の曾祖父母の行を表わしている。ニワトリの上から2行目は、祖父母の行を表わしている。ニワトリの上から3番目の行は、親の行を表わしている。最下行は、市場の産卵鶏と、親の行から市場の産卵鶏を誕生させている間に産まれた雄性卵を表わしている。民間産業では、曾祖父母(Z
FPZとZ
FPW)に存在しているZ染色体の中の遺伝子改変(蛍光タンパク質(FP)が発現するようになる改変、および/または産生形質に影響を与える改変など)を祖父系列(Z
FPZ
FP)に伝えることができ、それを親系列の中の雌(Z
FPW)に伝えることができ、その改変は、改変された母親(Z
FPW)を改変のない雄と交配させることによって産まれる雄性卵に伝えられるが、この交配によって生じる雌はこの改変を欠くことになることがわかる。
【0079】
【
図3】始原生殖細胞(PGC)の直接的な生体内トランスフェクションを通じたトランスジェニックニワトリの作製。A:PGCは発生中の生殖腺に移動するため、PGCを標的として、2日目の胚(ステージ14 HH)の循環系にリポフェクタミンと(GFPなどのマーカー遺伝子を含むことができる)DNAコンストラクトを直接注入する。B:卵を再び密封して孵卵する。C:孵化するまで胚を孵卵し、雄を性的に成熟するまで育てる。D:精子を回収し、導入遺伝子の存在をqPCRでスクリーニングする。E:トランスジェニック精子のレベルが高い雄を繁殖させ、子孫でマーカー遺伝子の存在を目視によってスクリーニングする。
【0080】
【
図4】生殖系列トランスジェニックニワトリにおけるTol2挿入部位の分析。A:ゲノムにおいて挿入が起こった領域の特徴づけ。B:染色体ごとの挿入部位数の分布。
【0081】
【
図5】胚発生のさまざまな段階におけるGFP蛍光の検出。蛍光を検出するためのフィルタを有するGFP検出光源を用いて胚発生の2.5日目、10日目、18日目に蛍光を検出。
【0082】
【
図6】ウイルス中和アッセイにおける組み換えニワトリ(rch)のIFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλの抗ウイルス活性。細胞生存率の上昇はODの増加と等価である。吸光度の値は、2つの独立な実験からのデュープリケートでの平均値±SEである。細胞だけと、対照である細胞+ウイルスを、24ウエルの平均値として示してある。
【0083】
【
図7A-B】間接的ELISA分析により、精製した抗IFN(IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλ)血清が相同なタンパク質を認識することが明らかになる。グラフは、硫酸アンモニウムで沈降させたポリクローナル抗chIFN抗血清が、ELISAにおいて相同なタンパク質を検出することを示している。ODは、抗体のレベルの1つの指標である。吸光度の値は、2つの独立な実験からのデュープリケートでの平均値±SEである。B:抗chIFN-α抗体は卵内でウイルス力価を増大させるようには見えない。抗chIFN-α抗体をインフルエンザワクチンウイルス(PR8またはNIBRG14)とともに卵の中に接種すると、ヘマグルチニン(HA)アッセイによって測定されるヘマグルチニン(HA)力価を上昇させない。棒グラフは、4つの実験の平均値±SEを表わしている。
【
図7C】C:抗chIFN-β抗体は卵内でウイルス力価を増大させるようには見えない。精製した抗chIFN-β抗体とインフルエンザワクチンウイルス(PR8またはNIBRG14)を同時に投与すると、HAアッセイによって求まる卵内のウイルスHA力価に影響を与えない。棒グラフは、3回までの実験の平均値±SEを表わしている。
【0084】
【
図8A-B】抗chIFN-λ抗体は卵内のウイルス力価を増大させる。精製した抗chIFN-γ抗体とインフルエンザワクチンウイルス(PR8またはNIBRG14)を接種すると、HAアッセイによって測定される卵内のウイルスHA力価が上昇する。棒グラフは、7回までの実験の平均値±SEを表わしている。統計的有意差は、星1つ(*)p<0.05、星2つ(**)p<0.005、星3つ(***)p=0.0001で表わしてある。B:抗chIFN-γ抗体は卵内のウイルス力価を増大させる。抗chIFN-γ抗体とインフルエンザワクチンウイルス(PR8またはNIBRG14)を同時に投与すると、HAアッセイによって測定される卵内のウイルスHA力価を増大させる。棒グラフは、2回の実験の平均値±SEを表わしている。統計的有意差は、星1つ(*)p<0.05で表わしてある。
【
図8C】C:抗chIL-6抗体は卵内のウイルス力価を増大させる。精製した抗chIL-6抗体とインフルエンザワクチンウイルス(PR8またはNIBRG14)の両方を注入すると、HAアッセイによって測定される卵内のウイルスHA力価が増大するという効果がある。棒グラフは、5回までの実験の平均値±SEを表わしている。統計的有意差は、星1つ(*)p<0.05、星2つ(**)p<0.005で表わしてある。
【0085】
【
図9A-B】トリインフルエンザのワクチンを製造するための抗ウイルス遺伝子のスクリーニングと同定。A:陰性対照siRNA(siNT1)または21種類の候補宿主遺伝子を標的とするsiRNAをトランスフェクトされたDF-1細胞の生存率。生存率は、トランスフェクションの72時間後にウイルスを感染させるときに測定した。B:不死化されたニワトリ線維芽細胞系DF-1の中、または対照細胞(siNT1)の中、または21種類の宿主遺伝子の発現を抑制するためのsiRNAをトランスフェクトした細胞の中で増殖させたインフルエンザA/WSNの力価。siRNAを用いたノックダウン(KD)の後にTCID
50として測定されたウイルス力価に有意な上昇が観察され、IFNAR1がウイルス力価の最大の上昇を示す。
【
図9C】C:DF-1細胞上のウイルス粒子の免疫染色は、siRNAによってIFNAR1の発現を抑制した後にウイルスの増殖が有意に増加することを示している。
【0086】
【
図10-1】インビトロでsiRNAによって宿主の遺伝子発現を下方調節すると、ウイルスの増殖が増える。DF-1細胞に、陰性対照siRNA(siNT1)、またはCNOT4、IFNAR、MDA5のいずれかを標的とするsiRNAを、プールされた4種類のsiRNA二本鎖(スマートプール)として、または個別のsiRNA二本鎖として、トランスフェクトした。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。mRNAのレベルは、トランスフェクションの72時間後に定量リアルタイムPCRによってTaqmanプローブを用いて定量した。それぞれのsiRNA複合体を個別に、標的遺伝子をノックダウンする能力(左図)とウイルス力価を上昇させる能力(右図)について評価した。細胞にインフルエンザA/WSNウイルス(MOI 0.1)を48時間にわたって感染させた。細胞上清の中のウイルスのレベルをTCID
50アッセイによって定量した。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。
【
図10-2】インビトロでsiRNAによって宿主の遺伝子発現を下方調節すると、ウイルスの増殖が増える。DF-1細胞に、陰性対照siRNA(siNT1)、またはCNOT4、IFNAR、MDA5のいずれかを標的とするsiRNAを、プールされた4種類のsiRNA二本鎖(スマートプール)として、または個別のsiRNA二本鎖として、トランスフェクトした。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。mRNAのレベルは、トランスフェクションの72時間後に定量リアルタイムPCRによってTaqmanプローブを用いて定量した。それぞれのsiRNA複合体を個別に、標的遺伝子をノックダウンする能力(左図)とウイルス力価を上昇させる能力(右図)について評価した。細胞にインフルエンザA/WSNウイルス(MOI 0.1)を48時間にわたって感染させた。細胞上清の中のウイルスのレベルをTCID
50アッセイによって定量した。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。
【
図10-3】インビトロでsiRNAによって宿主の遺伝子発現を下方調節すると、ウイルスの増殖が増える。DF-1細胞に、陰性対照siRNA(siNT1)、またはCNOT4、IFNAR、MDA5のいずれかを標的とするsiRNAを、プールされた4種類のsiRNA二本鎖(スマートプール)として、または個別のsiRNA二本鎖として、トランスフェクトした。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。mRNAのレベルは、トランスフェクションの72時間後に定量リアルタイムPCRによってTaqmanプローブを用いて定量した。それぞれのsiRNA複合体を個別に、標的遺伝子をノックダウンする能力(左図)とウイルス力価を上昇させる能力(右図)について評価した。細胞にインフルエンザA/WSNウイルス(MOI 0.1)を48時間にわたって感染させた。細胞上清の中のウイルスのレベルをTCID
50アッセイによって定量した。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。
【
図10-4】インビトロでsiRNAによって宿主の遺伝子発現を下方調節すると、ウイルスの増殖が増える。DF-1細胞に、陰性対照siRNA(siNT1)、またはCNOT4、IFNAR、MDA5のいずれかを標的とするsiRNAを、プールされた4種類のsiRNA二本鎖(スマートプール)として、または個別のsiRNA二本鎖として、トランスフェクトした。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。mRNAのレベルは、トランスフェクションの72時間後に定量リアルタイムPCRによってTaqmanプローブを用いて定量した。それぞれのsiRNA複合体を個別に、標的遺伝子をノックダウンする能力(左図)とウイルス力価を上昇させる能力(右図)について評価した。細胞にインフルエンザA/WSNウイルス(MOI 0.1)を48時間にわたって感染させた。細胞上清の中のウイルスのレベルをTCID
50アッセイによって定量した。*は、siNT1をトランスフェクトされた細胞におけるmRNAのレベルと比べてp<0.05である場合。
【0087】
【
図11】卵からのTCID
50 WSN。A:ABA-21/117Qを用いて送達されたsiRNAによる下方調節の後の卵からのTCID
50 WSN。数値は単一のレプリケートとして示してある。B:ABA-21/117Qを用いて送達されたsiRNAによる下方調節の後の卵からのTCID
50 WSN。数値は平均値+2SDとして示してある。
【0088】
【
図12A-B】卵からのTCID
50 WSN。A:ABA-21/117Qを用いて送達されたsiRNAによる下方調節の後の卵からのPR8ワクチン株のTCID
50。数値は平均値+2SDとして示してある。B:TCID
50力価とIFNAR1ノックダウンの間の相関。
【
図12C-D】C:ABA-21/117Qを用いて送達されたsiRNAによる下方調節で得られたHAとTCID
50の最大値であり、対照と比べて3桁の増加に対応する。shIFNAR1は、卵の中でのインフルエンザの増殖を増やす。D:胚発生の0日目にRCAS-shIFNA1を注入し、10日目にインフルエンザ(PR8株)を感染させた後の12日目の胚の心臓におけるshIFNAR1の発現とインフルエンザRNAのレベルを測定した。リアルタイムPCRからの生のCT値は、shIFNA1の発現とインフルエンザRNAのレベルの間に相関があることを示している。shIFNA1とインフルエンザRNAの発現が多いほどCT値が小さいことが示されている(N=6)。
【0089】
【
図13A-B】IFNAR1 DF-1 KO細胞系の生成。トランスフェクションの後、親細胞系からの細胞は、PCRスクリーニングの間に約30%の対立遺伝子で別のアンプリコンを示した。A:欠失をシークエンシングによって確認した。細胞のソーティングにより、単独クローンとして、野生型(WT)と比較したときに二対立遺伝子(A136とA142)、または単一対立遺伝子(A13)、または明らかな欠失なし(A143)であるものを取得した。B:IFNAR1A遺伝子の発現をqPCRによって評価した。結果は、KO細胞系の表面に生成したハウスキーピングWSNウイルス粒子に対するΔΔct値の平均値±2標準偏差(SD)として表わした。全ウイルス収量の指標として、PfuとTCID
50を、MDCK細胞にH1N1 A/WSN/1933を感染させてさまざまな細胞系で増殖させた後に求めた。
【
図13C】C:0時間と48時間の時点で遺伝子をノックアウトした。
【
図13D】D:KO細胞系の表面に生成したWSNウイルス粒子。全ウイルス収量の指標として、PfuとTCID
50を、MDCK細胞にH1N1 A/WSN/1933を感染させてさまざまな細胞系で増殖させた後に求めた。
【0090】
【
図14】ヘンドラウイルスに対する抗ウイルス遺伝子のスクリーニングと同定。不死化されたヒト細胞系Helaの中、または対照細胞(siNT1)の中、または列挙されている遺伝子の発現を抑制するためのsiRNAをトランスフェクトされた細胞の中でのヘンドラウイルスの複製。siRNAを用いるとウイルス複製の有意な増加が観察された。LAMP1がウイルス力価の最大の増加を示した。
【0091】
【
図15】オボトランスフェリンを過剰発現している鳥類の卵の抗微生物活性。オボトランスフェリンの過剰発現によって卵白の抗微生物特性が向上することが、オボトランスフェリンを過剰発現している卵白の中でのサルモネラ・キアンブの増殖が対照と比べて減少していることによって示されている。
【0092】
【
図16】SIAT1遺伝子の発現によってシアル酸残基の立体配座がα-2,3からα-2,6へとシフトする。ニワトリ線維芽DF1細胞にトランスポゾンプラスミドをトランスフェクトして、A:eGFPマーカー遺伝子を発現させるか、B:eGFPマーカー遺伝子とSIAT1遺伝子の両方を発現させた後、eGFP陽性集団を探すソーティングを実施した。α-2,3シアル酸残基またはα-2,6シアル酸残基に対して特異的な蛍光タグを付けたレクチンで細胞を染色した。すべてのDF1細胞がα-2,3残基の染色に関して陽性であったが、α-2,6の染色に関してはSIAT1遺伝子をトランスフェクトされた細胞だけが陽性であった。写真は20倍の倍率にしたDF1細胞を示しており、左から右へと、明視野、赤色蛍光(RFP)励起、緑色蛍光(GFP)励起である。α-2,6残基に関して染色されたDF1のFACS分析からの蛍光ヒストグラム。C:SIAT1遺伝子とマーカー遺伝子をトランスフェクトされたDF1は、マーカー遺伝子だけをトランスフェクトされたDF1と比べて染色がより強かった。
【0093】
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【発明を実施するための形態】
【0094】
一般的な技術と選択された定義
【0095】
特に断わらない限り、本明細書で用いられているあらゆる科学技術用語は、(例えば細胞培養、分子遺伝学、トランスジェニック鳥類、免疫学、免疫組織化学、精密ゲノム工学、タンパク質化学、生化学の)当業者が一般に理解しているのと同じ意味を持つものとする。
【0096】
特に断わらない限り、本発明で利用される細胞培養と免疫学の技術は、当業者に周知の標準的な手続きである。このような技術はさまざまな出典の文献全体に記載されていて説明されており、そのような文献の例は、J. Perbal、『A Practical Guide to Molecular Cloning』、John Wiley and Sons社(1984年)、J. Sambrook他、『Molecular Cloning: A Laboratory Manual』、Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989年)、T.A. Brown(編)『Essential Molecular Biology: A Practical Approach』、第1巻と第2巻、IRL Press社(1991年)、D.M. GloverとB.D. Hames(編)『DNA Cloning: A Practical Approach』、第1巻~第4巻、IRL Press社(1995年と1996年)、F.M. Ausubel他(編)『Current Protocols in Molecular Biology』、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience社(1988年、現在までのあらゆる改訂を含む)、Ed HarlowとDavid Lane(編)『Antibodies: A Laboratory Manual』、Cold Spring Harbour Laboratory(1988年)、J.E. Coligan他(編)『Current Protocols in Immunology』、John Wiley & Sons社(現在までのあらゆる改訂を含む)である。
【0097】
「および/または」という用語、例えば「Xおよび/またはY」は、「XとY」または「XまたはY」を意味し、両方の意味、またはどちらかの意味を明示的に支持するものとする。
【0098】
本明細書全体を通じ、「含む」、またはそのバリエーションである「含んでいる」などは、記載されている要素、整数、工程、一群の要素、一群の整数、一群の工程を包含することを意味すると理解されるが、他の任意の要素、整数、工程、一群の要素、一群の整数、一群が排除されるわけではない。
【0099】
本明細書では、「Z染色体」という用語は、鳥類の性染色体を意味する。雄の鳥類は、Z染色体のコピーを2つ持ち(ZZ)、雌は、母親に由来するZ 染色体の1つのコピーと、W染色体の1つのコピーを持っている(ZW)。
【0100】
本明細書では、「卵」という用語は、鳥が産んだ卵子を意味する。典型的には、鳥類の卵は、硬くて楕円形の外殻と、「卵の白い部分」または卵白と、卵黄と、さまざまな薄い膜からなる。卵は受精していてもいなくてもよい。
【0101】
本明細書では、「卵の殻の完全性」という用語は、雛の成長が可能なくらい十分に完全であるか、(ウイルスまたはタンパク質を産生させるための)バイオリアクターとして使用できるくらい十分に完全である卵の殻を意味する。一実施態様では、殻は、例えばマーカーの存在を検出するための光ファイバーを導入する小さな穴を持つことができる。一実施態様では、卵の殻は完全で破損していない(マーカーは卵の殻の外から検出される)。
【0102】
遺伝子改変
【0103】
本明細書では、「遺伝子改変」という用語は、鳥類および/または鳥類の卵の中の遺伝材料に対するあらゆる人工的な変化を意味する。改変は、卵または鳥類の一方の親または両親に対して、または両親の一方の先祖に対してなされた可能性がある。細胞の遺伝子を改変する方法は本分野において周知であり、当業者に知られている任意の方法を含むことができる。
【0104】
一例では、遺伝子改変は、ゲノム内の内在遺伝子に対してプログラム可能なヌクレアーゼによって導入された変異である。例えば変異として、機能するタンパク質をもはやコードしていない遺伝子にするフレームシフトおよび/または欠失が可能である。別の一実施態様では、相同組み換えを利用して標的遺伝子の一部または全部を欠失させ、タンパク質が産生されなくする。一実施態様では、遺伝子改変は、非相同末端結合によって導入される。一実施態様では、遺伝子改変は、化学的突然変異誘発物質によって導入される。代わりの一実施態様では、遺伝子改変は、例えば卵の中でポリヌクレオチドを発現させる核酸コンストラクトへの導入遺伝子の挿入である。導入遺伝子は染色体外にあってもよいし、卵のゲノムに統合されてもよい。導入遺伝子はZ染色体に挿入されることが好ましい。
【0105】
一実施態様では、遺伝子改変は内在遺伝子の変異(点変異、挿入、欠失(またはこれらの1つ以上の組み合わせ)など)であり、その遺伝子を部分的に、または完全に不活化する。点変異として、未成熟終止コドン(ナンセンス変異)、スプライス部位変異、欠失、フレームシフト変異や、遺伝子またはコードされるポリペプチドの活性を低下させるアミノ酸置換変異が可能である。
【0106】
一実施態様では、導入遺伝子は、アンチセンスポリヌクレオチド、センスポリヌクレオチド、マイクロRNA、内在酵素に結合するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、トランスポゾン、アプタマー、二本鎖RNA分子、それに由来するプロセシングを受けたRNA分子をコードしている。一実施態様では、導入遺伝子は、ポリヌクレオチドをコードするオープンリーディングフレームを含んでいて、そのポリヌクレオチドは、鳥類および/または鳥類の卵の中でのそのポリヌクレオチドの発現を指示するプロモータに機能可能に連結されている。
【0107】
プログラム可能なヌクレアーゼ
【0108】
いくつかの実施態様では、本明細書で言及する遺伝子改変は、プログラム可能なヌクレアーゼを通じて鳥類に、または卵の母親および/または父親の生殖系列に導入される。好ましい一実施態様では、1つ以上の遺伝子改変が、プログラム可能なヌクレアーゼを通じて卵の母親および/または父親の生殖系列のZ染色体に導入される。一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼによって導入された遺伝子改変が、鳥類の中、および/またはその卵または子孫の中の産生形質を変化させる。
【0109】
本明細書では、「プログラム可能なヌクレアーゼ」という用語は、鳥類のゲノムの中、または鳥類の卵の母親および/または父親の生殖系列の中の所定の部位を認識して編集する「標的となる」(「プログラムされた」)ヌクレアーゼに関係する。
【0110】
一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、ゲノム内の所定の部位で部位特異的にDNAの切断を誘導することができる。一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、1つのDNA結合タンパク質ドメイン、または複数のDNA結合タンパク質ドメインの組み合わせを有するゲノム位置を認識するようにプログラムすることができる。一実施態様では、このヌクレアーゼは、遺伝子またはその調節領域の中に欠失、置換、挿入のいずれかを導入する。
【0111】
一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、複数のDNA結合ジンクフィンガータンパク質(ZFP)ドメインの組み合わせによってゲノム位置を認識するようにプログラムすることができる。ZFPはDNA配列の中の特定の3-bpを認識するため、複数のZFPの組み合わせを用いて特定のゲノム位置を認識することができる。
【0112】
一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクタ(TALE)DNA結合ドメインによってゲノム位置を認識するようにプログラムすることができる。
【0113】
代わりの一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、1つ以上のRNA配列によってゲノム位置を認識するようにプログラムすることができる。代わりの一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、1つ以上のDNA配列によってプログラムすることができる。代わりの一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、1つ以上のハイブリッドDNA/RNA配列によってプログラムすることができる。代わりの一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼは、RNA配列、DNA配列、ハイブリッドDNA/RNA配列のうちの1つ以上によってプログラムすることができる。
【0114】
代わりの一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼを使用して多重サイレンシングを実現すること、すなわちプログラム可能なヌクレアーゼを2つ以上の「ターゲティング配列」または「プログラミング配列」(すなわち2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれよりも多い数のプログラミング配列)とともに送達し、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれよりも多い数の遺伝子を同時に標的にできるようにすることができる(Kim他、2014年)。
【0115】
本開示で使用できるプログラム可能なヌクレアーゼの非限定的な例に含まれるのは、細菌のクラスター化されて規則的な間隔で配置された短い回文反復(CRISPR)-cas(CRISPR関連)系に由来するRNA依存性人工ヌクレアーゼ(RGEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベータ様ヌクレアーゼ(TALEN)、アルゴノートである。
【0116】
(CRISPR)-cas(CRISPR関連)系は、侵入してくるファージやプラスミドに対する防御に関与する微生物ヌクレアーゼ系である。微生物宿主内のCRISPR遺伝子座は、複数のCRISPR関連(Cas)遺伝子の組み合わせのほか、CRISPRが媒介する核酸の切断の特異性をプログラムすることのできる非コードRNAエレメントを含有している。さまざまなクラスIIのRGENを有する広い範囲の細菌宿主で3種類(I~III)のCRISPR系が同定されている(Makarova他、2015年)。各CRISPR遺伝子座の1つの重要な特徴は、非反復配列(スペーサ)の短いストレッチが介在した反復配列(直接反復)からなるアレイの存在である。非コードCRISPRアレイは直接反復の中で転写された後に切断されて個々のスペーサ配列を含有する複数の短いcrRNAになり、それらがCasヌクレアーゼを標的部位(プロトスペーサ)に向かわせる。
【0117】
II型CRISPRは、標的となるDNAの二本鎖を4つの逐次工程で破断させる(例えばCong他、2013年を参照されたい)。最初に、2つの非コードRNAであるプレ-crRNAとtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがプレ-crRNAの反復領域にハイブリダイズして、プレ-crRNAから個々のスペーサ配列を含有する成熟crRNAへのプロセシングを媒介する。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体が、crRNA上のスペーサと、プロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)の隣にある標的DNA上のプロトスペーサとの間のワトソン-クリック塩基対形成を通じ、Cas9を標的DNAに向かわせる。これが標的認識の追加条件である。最後にCas9によって標的DNAが切断されてプロトスペーサの中に二本鎖切断が生じる。CRISPR系は、ゲノム内に一本鎖切断を生じさせるのにも使用できる。したがってCRISPR系は、RNAに依存した(またはRNAがプログラムする)部位特異的ゲノム編集に使用することができる。
【0118】
一実施態様では、ヌクレアーゼはRNA依存性人工ヌクレアーゼ(RGEN)である。一実施態様では、RGENは古細菌ゲノムに由来するか、その組み換えバージョンである。一実施態様では、RGENは細菌ゲノムに由来するか、その組み換えバージョンである。一実施態様では、RGENはI型(CRISPR)-cas(CRISPR関連)系に由来する。一実施態様では、RGENはII型(CRISPR)-cas(CRISPR関連)系に由来する。一実施態様では、RGENはIII型(CRISPR)-cas(CRISPR関連)系に由来する。一実施態様では、ヌクレアーゼはクラスIのRGENである。一実施態様では、ヌクレアーゼはクラスIIのRGENである。一実施態様では、RGENは多構成要素の酵素である。一実施態様では、RGENは単一構成要素の酵素である。一実施態様では、RGENはCAS3である。一実施態様では、RGENはCAS10である。一実施態様では、RGENはCAS9である。一実施態様では、RGENはCpf1である(Zetsche他、2015年)。一実施態様では、RGENは単一のRNAまたはDNAの標的となる。一実施態様では、RGENは2つ以上のRNAおよび/またはDNAの標的となる。一実施態様では、CAS9は化膿レンサ球菌に由来する。
【0119】
一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼとして転写アクチベータ様エフェクタ(TALE)ヌクレアーゼが可能である(例えばZhang他、2011年を参照されたい)。TALEは、植物病原体キサントモナスに由来する転写因子であり、容易に操作して新しいDNA標的に結合させることができる。TALEまたはその切断バージョンは、エンドヌクレアーゼ(Fok1など)の触媒ドメインに連結させてTALEヌクレアーゼまたはTALENと呼ばれるターゲティングエンドヌクレアーゼを作り出すことができる。
【0120】
一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である。一実施態様では、ZFNの各単量体は3つ以上のジンクフィンガー系DNA結合ドメインを含んでいて、それぞれのジンクフィンガー系DNA結合ドメインが3 bpの下位部位に結合する。別の実施態様では、ZFNは、独立なヌクレアーゼに機能可能に連結されたジンクフィンガー系DNA結合ドメインを含むキメラタンパク質である。一実施態様では、独立なエンドヌクレアーゼはFokIエンドヌクレアーゼである。一実施態様では、ヌクレアーゼ剤は、第1のZFNと第2のZFNを含んでいる。このヌクレアーゼ剤では、第1のZFNと第2のZFNのそれぞれがFokIヌクレアーゼに機能可能に連結されており、第1のZFNと第2のZFNが、標的DNA配列のそれぞれの鎖の中にあって約6 bp~約40 bpの切断部位または約5 bp~約6 bpの切断部位で隔てられた2つの連続した標的DNA配列を認識し、FokIヌクレアーゼが二量体化して二本鎖を切断する(例えばアメリカ合衆国特許出願公開第2006/0246567号、第2008/0182332号、第2002/0081614号、第2003/0021776号、WO 2002/057308、アメリカ合衆国特許出願公開第2013/0123484号、第2010/0291048号、WO 11/017293を参照されたい)。
【0121】
一実施態様では、プログラム可能なヌクレアーゼとして、DNAによってプログラムされたアルゴノートが可能である(WO 14/189628)。原核生物と真核生物のアルゴノートは、RNA干渉経路に関与する酵素である。アルゴノートは、設計された核酸ターゲティング酸と複合体を形成することによって標的核酸に結合してその標的核酸を切断することができる。切断によって標的核酸の中に二本鎖切断を導入することができる。その切断は、非相同末端結合機構によって修復することができる。DNAによって「誘導された」アルゴノートまたは「プログラムされた」アルゴノートは、DNAの中の所定の位置に二本鎖DNA切断を導入するよう指示することができる。一実施態様では、アルゴノートはNatronobacterium gregoryiに由来する。
【0122】
相同組み換え
【0123】
一実施態様では、遺伝子改変は相同組み換えによって導入される。相同組み換えは遺伝子組み換えの一種であり、ヌクレオチド配列が2つの似た分子または2つの同じ分子の間で交換され、相同組み換えには、二本鎖切断修復(DSBR)経路と合成依存性鎖アニーリング(SDSA経路)の利用が関与する可能性がある(Lodish他、2000年;Weaver、2002年)。相同組み換えを利用して遺伝子(抗ウイルス遺伝子またはその調節領域など)またはその一部を欠失させること、または遺伝子の中に置換または挿入を導入することができる。それに加え、相同組み換えを利用して導入遺伝子を挿入することができる。当業者に知られている任意の方法で相同組み換えを利用して遺伝子改変を宿主細胞のDNAに導入することができる。一実施態様では、相同組み換えは、プログラム可能なヌクレアーゼによって開始させることができる。
【0124】
二本鎖RNA
【0125】
一実施態様では、遺伝子改変、好ましくは第2の遺伝子改変は、RNAiのためのdsRNA分子をコードする導入遺伝子であり、鳥類のゲノムに統合されることが好ましい。
【0126】
「RNA干渉」、「RNAi」、「遺伝子サイレンシング」という用語は、一般に、dsRNA分子が、その二本鎖RNA分子と相同性を実質的または完全に共有している核酸配列の発現を低下させるプロセスを意味する。しかしRNA干渉は非RNA二本鎖分子を用いて実現できることが示されている(例えばアメリカ合衆国特許出願公開第2007/0004667号を参照されたい)。
【0127】
二本鎖領域は少なくとも19個(例えば約19個~23個)の連続したヌクレオチドでなければならない。あるいは二本鎖領域はそれよりも長くてもよく、例えば30個または50個のヌクレオチド、または100個のヌクレオチド、またはそれよりも長いことが可能である。遺伝子転写産物の全体に対応する完全長配列を使用してもよい。二本鎖領域は長さが約19個~約23個のヌクレオチドであることが好ましい。
【0128】
核酸分子の二本鎖領域と標的となる転写産物の一致度は、少なくとも90%、より好ましくは95~100%である必要がある。核酸分子はもちろん、分子を安定化する機能を持つことのできる無関係な配列を含むことができる。
【0129】
「短い干渉性RNA」または「siRNA」という用語は、本明細書では、遺伝子の発現を例えばRNAiによって配列特異的に抑制または下方調節することのできるリボヌクレオチドを含む核酸分子を意味し、その中の二本鎖部分は、長さが50個未満、好ましくは約19個~約23個のヌクレオチドである。例えばsiRNAとして、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む核酸分子で、アンチセンス領域が、標的核酸分子またはその一部の中のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を含み、センス領域が、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有するものが可能である。siRNAは2つの別々のオリゴヌクレオチドから組み立てることができる。そのとき1本の鎖はセンス鎖であり、他方はアンチセンス鎖であり、アンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的になっている。
【0130】
本明細書では、siRNAという用語は、配列特異的なRNAiを媒介することのできる核酸分子の記述に用いられる他の用語(例えばマイクロRNA(miRNA)、短いヘアピンRNA(shRNA)、短い干渉性オリゴヌクレオチド、短い干渉性核酸(siNA)、短い干渉性改変オリゴヌクレオチド、化学的に改変されたsiRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)など)と同等である。それに加え、本明細書では、RNAiという用語は、配列特異的なRNA干渉の記述に用いられる他の用語(転写後遺伝子サイレンシング、翻訳抑制、エピジェネティクスなど)と同等である。例えば本発明のsiRNA分子を用いて転写後のレベルと転写前のレベルの両方で遺伝子をエピジェネティックに抑制することができる。非限定的な一例では、本発明のsiRNA分子による遺伝子発現のエピジェネティックな調節が、siRNAが媒介するクロマチン構造の改変によって遺伝子発現が変化した結果として生じる可能性がある。
【0131】
「shRNA」または「短いヘアピンRNA」」とは、RNA分子であって、約50個未満のヌクレオチド、好ましくは約19個~約23個のヌクレオチドが同じRNA分子上の相補的な配列と塩基対を形成していて、その配列とその相補的な配列が、塩基が相補的なこれら2つの領域によって作り出されるステム構造の上方で一本鎖を形成する少なくとも約4個~約15個のヌクレオチドの非ペア領域によって隔てられているものを意味する。一本鎖ループの配列の一例には5'UUCAAGAGA3'が含まれる。
【0132】
shRNAに含まれるのは、二重フィンガーまたは2フィンガーのヘアピンdsRNAと、多フィンガーのヘアピンdsRNAであり、その中ではRNA分子が、一本鎖スペーサ領域によって隔てられた上記のようなステム-ループ構造を2つ以上含んでいる。
【0133】
本明細書に記載されているdsRNAを用いると、ウイルス産生などの産生形質を制御する遺伝子の発現を低下させることができる。例えば鳥類のZ染色体に挿入した核酸コンストラクトからdsRNAを発現させることができ、dsRNAが発現する結果として鳥類の産生形質を制御する遺伝子の発現が低下する。一実施態様では、遺伝子は、BACE2、GNAZ、UBE1DC1、CDX2、ZFPM2、TRIM50、DDI2、LOC1008859339、CNOT4、CAPN13、DNASEIL2、PHF21A、PCGF5、HSBP1、GAPDH、IFNAR1、IL28RA、MDA5、IL-6、IL1R1である。一実施態様では、dsRNAは、表1に示されている配列を含んでいる。
【0134】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0135】
核酸コンストラクト
【0136】
「導入遺伝子」は、本明細書では、バイオテクノロジーの分野における通常の意味を持つ。導入遺伝子には、組み換えDNA技術または組み換えRNA技術によって作り出されるか変えられて、鳥類の卵、または卵の親、またはその先祖に導入された遺伝子配列が含まれる。導入遺伝子には、鳥類の細胞に由来する遺伝子配列を含めることができる。典型的には、導入遺伝子は、人が操作することによって(例えば形質転換によるが、当業者が認識しているように任意の方法を利用できる)鳥類またはその卵に導入されている。導入遺伝子には、染色体に導入される遺伝子配列のほか、染色体外の遺伝子配列が含まれる。導入遺伝子は、典型的には、興味あるポリヌクレオチドをコードするオープンリーディングフレームを、鳥類の卵の中でそのポリヌクレオチドを発現させるための適切なプロモータに機能可能に連結された状態で含むことになる。
【0137】
遺伝子改変を鳥類および/または鳥類の卵に導入するのに核酸コンストラクトを使用することができる。一実施態様では、核酸コンストラクトは導入遺伝子を含むことができる。本明細書では、「核酸コンストラクト」は、プログラム可能なヌクレアーゼまたは興味あるタンパク質(検出可能なマーカーなど)を「ガイドする」か「標的とする」RNA配列、DNA配列、RNA/DNAハイブリッド配列のいずれかをコードする任意の核酸分子(例えば本明細書で定義されている二本鎖RNA分子)を意味する。典型的には、核酸コンストラクトは、二本鎖DNA、または二本鎖RNA、またはこれらの組み合わせになろう。さらに核酸コンストラクトは、典型的には、ポリヌクレオチドをコードするオープンリーディングフレームに機能可能に連結された適切なプロモータを含むことになる。核酸コンストラクトは、例えば二本鎖RNA分子の第1の一本鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームを含むことができ、相補的な(第2の)鎖は、異なる核酸コンストラクトまたは同じ核酸コンストラクト(同じ核酸コンストラクトが好ましい)の第2のオープンリーディングフレームによってコードされている。核酸コンストラクトとして直線状の断片または環状の分子が可能であり、核酸コンストラクトは複製できてもできなくてもよい。当業者は、本発明の核酸コンストラクトを適切なベクターの中に含めることが可能であることを理解するであろう。レシピエント細胞への核酸コンストラクトのトランスフェクション、または核酸コンストラクトによるレシピエント細胞の形質転換により、その細胞が、その核酸コンストラクトによってコードされているRNA分子またはDNA分子を発現することが可能になる。
【0138】
別の一例では、核酸コンストラクトは、二本鎖領域を含む同じRNA分子(例えば短いヘアピンRNA)および/または1つ以上の(例えば1個、2個、3個、4個、5個、またはそれよりも多数の)異なるRNA分子のコピーを複数発現することができる。別の一例では、核酸コンストラクトとして、Schusserら(2013年)が記載しているような遺伝子ターゲティングカセットが可能である。
【0139】
核酸コンストラクトは追加の遺伝子エレメントも含有することができる。コンストラクトの中に含めることのできるエレメントのタイプに限定はなく、当業者が選択することができる。いくつかの実施態様では、核酸コンストラクトが導入遺伝子として宿主細胞の中に挿入される。そのような場合には、コンストラクトの中に、導入遺伝子挿入プロセスからのRNA分子をコードする配列を保護して外部転写読み過ごしのリスクが減るように設計された「スタッファ(詰め物)」フラグメントを含めることが望ましい可能性がある。スタッファフラグメントは、例えばプロモータと、コード配列および/またはターミネータ構成成分との間の距離を大きくすることを目的としてコンストラクトの中に含めることもできる。スタッファフラグメントは、5~5000個またはそれよりも多い個数の任意の長さのヌクレオチドにすることができる。プロモータ相互間に1つ以上のスタッファフラグメントが存在することもできる。多数のスタッファフラグメントがある場合には、それらは長さが同じでも異なっていてもよい。これらのスタッファDNAフラグメントは配列が異なっていることが好ましい。スタッファ配列は、その配列が挿入されている細胞またはその子孫の中に見いだされるのと同じ配列を含むことが好ましい。さらに別の一実施態様では、核酸コンストラクトは、二本鎖RNAをコードするオープンリーディングフレームに隣接したスタッファ領域を含んでいる。
【0140】
あるいは核酸コンストラクトは、転移可能なエレメント(例えば二本鎖RNAをコードするオープンリーディングフレームに隣接した末端逆転反復配列を特徴とするトランスポゾン)を含むことができる。適切なトランスポゾンの例に含まれるのは、Tol2、ミニTol、Sleeping Beauty、Mariner、Galluhopである。
【0141】
本発明の実施態様で使用できる他の遺伝エレメントに含まれるのは、細胞に選択的増殖の利点を与えるタンパク質をコードするもの(アデノシンデアミナーゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、ハイグロマイシン-B-ホスホトランスフェラーゼなど)、または薬抵抗性を与えるタンパク質をコードするものである。
【0142】
核酸コンストラクトが鳥類にトランスフェクトされる場合には、プロモータと追加のあらゆる遺伝エレメントが、鳥類のゲノムの中に自然に存在するヌクレオチド配列からなることが望ましい。
【0143】
いくつかの場合には、核酸コンストラクトをベクターの中に挿入することが望ましい可能性がある。ベクターとして、例えばバクテリオファージ、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、天然痘ウイルス、ヘルペスウイルスのいずれかに由来するプラスミド、ウイルス、人工染色体が可能である。このようなベクターに含まれるのは、染色体に由来するベクター、エピソームに由来するベクター、ウイルスに由来するベクターであり、例えば細菌プラスミド、バクテリオファージ、ウイルスに由来するベクター、これらの組み合わせに由来するベクター(プラスミドとバクテリオファージの遺伝子エレメント、コスミド、ファージミドに由来するベクターなど)がある。
【0144】
一実施態様では、核酸コンストラクトはプロモータを含んでいる。当業者は、プロモータ(構成的プロモータ、組織特異的または発達段階特異的なプロモータ、誘導的プロモータなど)を本発明で利用できることを認識しているであろう。一実施態様では、プロモータは鳥類のプロモータである。一実施態様では、プロモータは、Pol Iプロモータ、Pol IIプロモータ、Pol IIIプロモータのいずれかである。鳥類のプロモータの例に含まれるのは、7sK RNAポリメラーゼIIIプロモータ、U6 RNAポリメラーゼIIプロモータである(Bannister他、2007年;Massin他、2005年)。
【0145】
トランスジェニック鳥類
【0146】
「鳥類」という用語は、本明細書では、分類学の鳥綱の任意の種、亜種、類を意味し、その非限定的な例は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、キジ、オウム、フィンチ、タカ、カラス、走鳥類(ダチョウ、エミュー、ヒクイドリが含まれる)である。この用語には産卵鶏とブロイラーの両方が含まれる。この用語にはGallus gallus(ニワトリ)の既知のさまざまな品種(例えばAC、Ancona、Andalusian、Amrox、Appenzell Bearded Hen、Appenzell Pointed Hood Hen、Araucana、Aseel、Australorp、Bandara、Baheij、Barred-Rock、Brahma、Brown Leghorn、Barnevelders、Buckeye、Buttercup、California Gray、Campine、Catalana、Chantecler、Cochin、Cornish、Crevecoeur、Cubalaya、Delaware、Dominiques、Dorking、Dutch Bantams、Faverolles、Frieslands、Frizzle、Gallus Inauris、Gimmizah、Golden Montazah、Hamburgs、Holland、Houdan、Java、Jersey Giant、Italian Partidge-coloured、Junglefowl(Green)、Junglefowl(Gray)、La Fleche、Lakenvelder、Lamona、Langshan、Leghorn、Malay、Matrouh、Minorca、Modern Gam、Naked Neck(Turken)、New Hampshire Red、Old English Game、Orpington、Plymouth Rock、Polish、Red Cap、Rhode Island Red、Silkie Bantam、Silver Montazah、Styrian、Sultan、Sumatra、Sussex、Swiss Hen、White-Faced Black-Spanish、White Leghorn、Wyandottes)のほか、シチメンチョウ、キジ、ウズラ、アヒル、ゲームヘン(ひな鶏)、ホロホロチョウ、ひなバト、ダチョウという種や、商業的な量で一般に飼育されている他の家禽が含まれる。この用語には、アヒルの既知のさまざまな育成種が含まれる。この用語にはアヒルの既知のさまざまな育成種が含まれ、例えばCall、Cayuga、Crested、Khaki Campbell、Muscovy、Orpington、Pekin、Pommeranian、Rouen、Runnerが存在する。この用語にはシチメンチョウの既知のさまざまな育成種が含まれ、例えばBlack、Bourbon、Bronze、Narragansett、Royal Palm、Slate、Whiteが存在する。この用語にはガチョウの既知のさまざまな育成種が含まれ、例えばAfrican、Chinese Brown、Chinese White、Diepholz、Embden、Egyptian、Pilgrim、Toulouseが存在する。
【0147】
本明細書では、「雄のトランスジェニック鳥類」、「雌のトランスジェニック鳥類」、「トランスジェニック鳥類」、またはこれらのバリエーションは、1個以上の細胞、好ましくはすべての細胞が第1の遺伝子改変または第2の遺伝子改変を、好ましくは両方を含有する鳥類を意味する。トランスジェニック鳥類として、産卵鶏産業またはブロイラー産業の繁殖構造(例えば親系、祖父母系、曾祖父母系)の鳥類が可能である(
図2参照)。
【0148】
一実施態様では、鳥類は、
図2に示されている親系または曾祖父母系の雌(ZW)であり、Z染色体上に第1および/または第2の遺伝子改変を含んでいるが、両方の遺伝子改変を含むことが好ましい。
【0149】
別の一実施態様では、鳥類は、
図2に示されている祖父母系の雄(ZZ)であり、両方のZ染色体上に第1および/または第2の遺伝子改変を含んでいるが、両方の遺伝子改変を含むことが好ましい。
【0150】
別の一実施態様では、鳥類は、
図2に示されている曾祖父母系の雄(ZZ)であり、一方のZ染色体上だけに第1および/または第2の遺伝子改変を含んでいるが、両方の遺伝子改変を含むことが好ましい。
【0151】
一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、ニワトリの生存にマイナスの影響を及ぼさない位置にある。一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、Z染色体上の遺伝子の発現と調節に有害な影響を及ぼさない位置にある。一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、Z染色体上に位置する遺伝子のエキソンの中にある。一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、Z染色体上に位置する遺伝子のイントロンの中にある。一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、表4または表5に示されているように、Z染色体上に位置する挿入部位または遺伝子の中にある。一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、PALM2、UGCG、MAP1b、IFNβ、IFNA1、IFNA3、IL11RA、NP_990383.1、IPI00681421.2、NP_001026617.1、A1EA95、NP_989906.1、IPI00576148.2、IPI00679858.2、NP_990202.1、IPI00818057.1、NFIL3、 TFIP8、TICAM2、MEKK1、IFNKL(インターフェロンκ様)から選択された遺伝子の中に位置する。一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、ENSGALT00000045403、ENSGALT00000025241、ENSGALT00000025295、ENSGALT00000024188から選択されたアンサンブルIDの中に位置する。一実施態様では、Z染色体上の第1および/または第2の遺伝子改変は、chrZ.1779、chrZ.1406、chrZ.889、chrZ.25、chrZ.1602から選択されたGenescan予測の中に位置する。
【0152】
生殖系列の中に遺伝子改変を含むトランスジェニック鳥類は、その生殖系列遺伝子改変を含む鳥類および/または卵の生産に用いることができる。一実施態様では、トランスジェニック鳥類は、Z染色体の中に遺伝子改変を含む雌のトランスジェニック鳥類であり、雄の鳥類および/またはその鳥類が産んだ卵だけがその遺伝子改変を受け継ぐ。
【0153】
本発明のトランスジェニック鳥類は、遺伝子改変を含む卵として、その遺伝子改変が、その遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型(isogenic)の卵と比べて鳥類の遺伝子および/または卵の中のタンパク質の発現を低下させる卵を産ませるのに用いることができる。一実施態様では、遺伝子改変により、動物および/またはその子孫および/または鳥類またはその子孫が産んだ卵の中で1つ以上の遺伝子および/またはタンパク質の発現が低下する。一実施態様では、遺伝子ノックアウト動物を作製することができる。別の一実施態様では、遺伝子改変は、少なくとも(細胞が1個の段階の)受精した卵子のDNAの中に導入される。当業者は、この実施態様において、遺伝子改変が母親と父親の一方または両方に由来するDNAに導入される可能性があることがわかるであろう。
【0154】
トランスジェニック動物を作製する技術は本分野で周知である。この主題に関する有用な一般的な教科書は、Houdebine、『Transgenic animals - Generation and Use』(Harwood Academic社、1997年)である。近年、鳥類の種のゲノムを遺伝子操作する技術が急速に進歩している(Doran他、2016年に概説)。
【0155】
異種DNAを例えば受精した卵子に導入することができる。例えば全能性または多能性の幹細胞を、微量注入、リン酸カルシウムを媒介とした沈降、リポソーム融合、レトロウイルス感染のいずれか、または他の手段によって形質転換した後、形質転換した細胞を胚の中に導入し、次いでその胚を発生させることによってトランスジェニック動物にすることができる。1つの方法では、発生中の胚に望むDNAを含有するレトロウイルスを感染させ、感染させたその胚からトランスジェニック動物を誕生させる。しかし代わりの1つの方法では、好ましくは細胞1個の段階で胚の前核または細胞質に適切なDNAを同時に注入し、その胚を発生させることによって成熟したトランスジェニック動物にすることができる。
【0156】
トランスジェニック鳥類の作製に用いる別の方法は、標準的な方法で核酸を前核段階の卵に微量注入する操作を含んでいる。次いで注入を受けた卵を培養した後、偽妊娠レシピエントの卵管に移す。
【0157】
トランスジェニック鳥類は核移植技術によって作製することもできる。この方法を利用して、ドナー動物からの線維芽細胞に、調節配列の制御下にある興味ある結合ドメインまたは結合パートナーをコードする配列を組み込んだプラスミドを安定にトランスフェクトする。その後、安定な形質転換体を脱核した卵細胞に融合させ、培養し、雌のレシピエントに移植する。
【0158】
精子を媒介とした遺伝子移植(SMGT)が、トランスジェニック動物の作製に利用できる可能性のある別の方法である。この方法は、Lavitranoら(1989年)によって初めて報告された。精子を媒介とした移植は、WO 2017/024343に記載されているように、プログラム可能なヌクレアーゼの使用を含むことができる。
【0159】
トランスジェニック鳥類を作製する別の1つの方法は、リンカーに基づいて精子を媒介とした遺伝子移植(LB-SMGT)を行なう方法である。この手続きはアメリカ合衆国特許第7,067,308号に記載されている。簡単に述べると、回収したばかりの精子を洗浄し、(ATCC登録番号PTA-6723が割り当てられているハイブリドーマが分泌する)マウスモノクローナル抗体mAbCとともにインキュベートした後、コンストラクトDNAとともにインキュベートする。モノクローナル抗体は、DNAが精子に結合するのを助ける。次に精子/DNA複合体を雌に人工授精する。
【0160】
トランスジェニック鳥類を作製する別の1つの方法は、相同組み換えである。この手続きの一例は、Schusserら(2013年)の論文の中に提示されている。Schusserらは、培養した始原生殖系列細胞の中での相同組み換えによる遺伝子ターゲティングで遺伝子特異的ノックアウト鳥を作製することを記載している。一例では、トランスジェニック鳥類は、Schusserら(2013年)が記載している遺伝子サイレンシングカセットを用いて作製される。
【0161】
生殖系列トランスジェニックニワトリは、複製に欠陥のあるレトロウイルスを、産まれたての卵の中の雛の胞胚葉の胚下腔に注入して作製することができる(アメリカ合衆国特許第5,162,215号;Bosselman他、1989年;Thoraval他、1995年)。外来遺伝子を有するレトロウイルス核酸が胚性細胞の染色体の中にランダムに挿入されてトランスジェニック動物が誕生する。そのうちの何匹かは自らの生殖系列の中に移入遺伝子を有する。挿入部位における位置効果を克服するため、融合した遺伝子コンストラクトの5'領域または3'領域に絶縁エレメントを挿入することが報告されている(Chim他、1993年)。
【0162】
生殖系列トランスジェニック動物を作製する別の1つの方法は、トランスポゾン(例えばTol2トランスポゾン)を利用して本発明の核酸コンストラクトを動物のゲノムに統合することによる。Tol2トランスポゾンはKoga他(1996年)とKawakami他(2000年)に記載されており、メダカOryzias latipesから初めて単離されたもので、hATファミリーのトランスポゾンに属している。ミニ-Tol2はTol2のバリアントであり、Balciunas他(2006年)に記載されている。Tol2トランスポゾンとミニ-Tol2トランスポゾンは、Tol2トランスポザーゼと同時に作用するとき、導入遺伝子が生物のゲノムに統合されやすくする。Tol2トランスポザーゼを別の非複製プラスミドで送達することにより、Tol2トランスポゾンまたはミニ-Tol2トランスポゾンと導入遺伝子だけがゲノムに統合され、Tol2トランスポザーゼを含有するプラスミドは、細胞が限られた回数分裂する間に失われる。したがって統合されたTol2トランスポゾンまたはミニ-Tol2トランスポゾンは、その後の転移事象を実現する能力をもはや持たなくなる。それに加え、Tol2は天然の鳥類トランスポゾンであると判明しているわけではないため、鳥類細胞(例えばニワトリ細胞)の中でさらに転移事象を引き起こす内在トランスポザーゼ活性はない。
【0163】
他の適切な任意のトランスポゾン系を本発明の方法で利用することができる。例えばトランスポゾン系として、Sleeping Beautyトランスポゾン系、Frog Princeトランスポゾン系、Mos1トランスポゾン系や、tc1/marinerファミリーまたはhATファミリーのトランスポゾンに属する任意のトランスポゾンを用いることが可能である。
【0164】
鳥類胚性幹細胞をレシピエントの胚に注入するとキメラ鳥が誕生することが、アメリカ合衆国特許第7,145,057号に記載されている。得られたキメラを繁殖させると、ゲノムに遺伝子改変が含まれたトランスポゾン鳥が誕生する。
【0165】
鳥類始原生殖細胞(PGC)の長期培養からトランスジェニックニワトリを得る方法がアメリカ合衆国特許出願公開第2006/0206952号に記載されている。改変されたPGCは、既知の手続きによって宿主鳥類の胚と組み合わされると、生殖系列を通じて伝えられてトランスポゾン子孫が誕生する。
【0166】
適切な任意のウイルスに基づくウイルス送達系を利用して本発明の核酸コンストラクトを細胞に送達することができる。それに加え、ハイブリッドウイルス系を利用することができる。ウイルス送達系の選択はさまざまなパラメータに依存することになろう。パラメータとして、興味ある細胞、組織、臓器への送達効率、系の形質転換効率、病原性、免疫学懸念、毒性の懸念などがある。あらゆる用途に適した単一のウイルス系は存在しないことは明らかである。本発明で用いるウイルス送達系を選択するとき、重要なのは、ウイルス粒子を含有する核酸コンストラクトが、好ましくは1)再現可能かつ安定に増殖され;2)精製によって高力価にでき;3)標的への送達を媒介することのできる(核酸発現コンストラクトがばらまかれることなく興味ある細胞、組織、臓器に送達される)系を選択することである。
【0167】
一実施態様では、WO 2013/155572とTyack他(2013年)に記載されているようにして、トランスフェクション試薬を、本明細書に記載されている単離された核酸分子、ポリヌクレオチド、核酸コンストラクトのいずれかと混合し、発生中の鳥類の胚の血液の中に直接注入することができる。この方法を本明細書では「直接的注入」と呼ぶ。このような方法を利用して導入遺伝子を胚の中の始原生殖細胞(PGC)に導入し、鳥類のゲノムの中に挿入する。直接的注入は、プログラム可能なヌクレアーゼの投与にも利用することができる。
【0168】
したがってポリヌクレオチド(本明細書に定義されている導入遺伝子および/または核酸コンストラクトなど)を適切なトランスフェクション試薬と複合体にしたり混合したりすることができる。「トランスフェクション試薬」という用語は、本明細書では、真核細胞(その非限定的な例に始原生殖細胞などの鳥類細胞が含まれる)へのポリヌクレオチドの取り込みを増やすためにそのポリヌクレオチドに添加される組成物を意味する。真核細胞にトランスフェクトするのに適していることが知られている任意のトランスフェクション試薬を使用できるが、カチオン性脂質を含むトランスフェクション試薬が特に有用である。カチオン性脂質を含む市販の適切なトランスフェクション試薬の非限定的な例に含まれるのは、リポフェクタミン(Life Technologies社)とリポフェクタミン2000(Life Technologies社)である。
【0169】
ポリヌクレオチドは、トランスフェクション試薬と、製造者の指示または既知のプロトコルに従って混合(または「複合体化」)することができる。例として、プラスミドDNAにリポフェクタミン2000トランスフェクション試薬(Invitrogen社、Life Technologies社)をトランスフェクトするとき、DNAを50μlのOpit-MEM培地の中に希釈し、穏やかに混合することができる。リポフェクタミン2000試薬を穏やかに混合し、適量を50μlのOpit-MEM培地の中で希釈する。5分間インキュベートした後、希釈されたDNAとトランスフェクション試薬をまとめ、室温で20分間穏やかに混合する。
【0170】
次に、本発明の方法に従って適切な体積のトランスフェクション混合物を鳥類の胚の中に直接注入する。典型的には、鳥類の胚の中への注入に適した体積は約1μl~約3μlだが、適切な体積は、さまざまな因子(胚のステージ、注入を受ける鳥類の種など)によって決まる可能性がある。当業者は、トランスフェクション試薬とDNAを混合するためのプロトコルと鳥類の胚の中に注入する体積を本明細書の教示に照らして最適化できることがわかるであろう。
【0171】
注入の前に、孵卵を、卵の尖端部を上に向けた状態で、胚発生に適した温度(例えば約37.5~38℃)にて約2.5日にわたって(ステージ12~17)、または胚の中で血管が、注入が十分に可能なサイズになる時間が経過するまで実施する。トランスフェクション混合物の注入に最適な時期はPGC移動の時期であり、それは、ステージ12~17、より好ましくはステージ13~14の頃に典型的に発生する。当業者が認識しているように、ブロイラー系のニワトリは典型的にはより早く成長する胚を有するという理由で、注入は、トランスフェクション混合物がPGC移動の時期に血流の中に導入されるようにするため、好ましくはステージ13~14の初期になすべきである。
【0172】
鳥類の胚の血管にアクセスするため、卵の殻に穴を開ける。例えば適切な道具(鉗子など)を用いて約10 mmの穴を卵の尖端部に開ける。胚とその膜の損傷を回避しつつ、殻とそれに関連した膜の区画を注意深く取り除く。
【0173】
トランスフェクション混合物を鳥類の胚の血管に注入した後、十分な量のパラフィルム、または本分野で知られている他の適切な封止用フィルムを用いて卵を密封する。例えば殻に10 mmの穴を開けた場合には、約20 mmの正方形のパラフィルムを用いて穴を覆うことができる。次に、温めた外科用メスの刃を用いてパラフィルムを卵の外面に固定する。次に卵をひっくり返して尖端部を下にし、胚発生に十分な温度で孵卵してあとで分析するか、孵化させる。直接的注入の技術は、アメリカ合衆国特許出願第61/636,331号からの優先権を主張しているWO 2013/155572に、より詳しく記載されている。
【0174】
本発明の方法を利用して作製した動物および/または卵は、遺伝子改変の存在に関してスクリーニングすることができる。この工程は、本分野で知られている適切な手続きを利用して実施できる。例えば核酸サンプル(例えばゲノムDNAサンプル)を標準的なDNA増幅とシークエンシング手続きを利用して分析し、ゲノム改変がゲノム内の標的部位(遺伝子座)に存在するかどうかを明らかにする。一実施態様では、スクリーニングによっても動物および/または卵が遺伝子改変に関してホモ接合型であるかヘテロ接合型であるかを判断できる。別の一実施態様では、遺伝子改変を子孫に伝達することができるようにするため、鳥類をスクリーニングして遺伝子改変を生殖細胞系列に見いだせるかどうかを明確にすることができる。
【0175】
卵の中で検出可能なマーカー
【0176】
本明細書では、「卵の中で検出可能なマーカー」と「検出可能なマーカー」という表現は、第1の遺伝子改変の文脈では交換可能に用いられる。検出可能なマーカーとして、本発明の鳥類の卵の中で発現させることができるとともに、当業者に知られていて卵の殻の完全性を損なわない任意の方法によって検出することのできるタンパク質が可能である。一実施態様では、検出可能なマーカーとして、蛍光タンパク質、発光タンパク質、可聴(振動)タンパク質、音響タンパク質、代謝タンパク質、選択的キレート化タンパク質のいずれかが可能である。一実施態様では、マーカーは、産卵時点から1日以内、または2日以内に、卵の殻の完全性を損なうことなく検出することができる。一実施態様では、マーカーは卵が孵化する前に検出することができる。一実施態様では、マーカーは、胚発生の少なくとも1日目に、または胚発生の少なくとも2日目に、または胚発生の少なくとも2.4日目に、または胚発生の少なくとも4日目に、または胚発生の少なくとも6日目に、または胚発生の少なくとも8日目に、または胚発生の少なくとも10日目に、または胚発生の少なくとも12日目に、または胚発生の少なくとも14日目に、または胚発生の少なくとも16日目に、または胚発生の少なくとも18日目に検出することができる。
【0177】
好ましい一実施態様では、マーカーは蛍光タンパク質である。一実施態様では、蛍光タンパク質は近赤外蛍光タンパク質である(例えばTagRFP657)。一実施態様では、蛍光タンパク質は、光で活性化することのできる蛍光タンパク質である。一実施態様では、選択される蛍光タンパク質の非限定的な例は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増強型緑色蛍光タンパク質(EGFP)、Emerald、Superfolder GFP、Azami Green、mWasabi、TagGFP、TurboGFP、mNeonGreen、mUKG、AcGFP、ZsGreen、Cloverm Sapphire、T-Sapphire、増強型青色蛍光タンパク質(EBFP)、EBFP2、Azurite、TagBFP、mTagBFP、mKalama1、シアン蛍光タンパク質(CFP)、mCFP、増強型シアン蛍光タンパク質(ECFP)、mECFP、Cerulean、SCFP3A、mTurquoise、mTurquoise2、CyPet、AmCyan1、Midori-Ishi Cyan、TagCFP、mTFP1(Teal)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、増強型黄色蛍光タンパク質(EYFP)、スーパー黄色蛍光タンパク質(SYFP)、Topaz、Venus、Citrine、mCitrine、YPet、TagYFP、TurboYFP、PhiYFP、ZsYellow1、mBanana、Kusabira Orange、Kusabira Orange2、mOrange、mOrange2、dTomato、dTomato-Tandem、赤色蛍光タンパク質(RFP)、TurboRFP、TurboFP602、TurboFP635、Tag ref蛍光タンパク質(RFP)、TagRFP-T、DsRed、DsRed2、DsRed-Express(T1)、DsRed-Monomer、mTangerine、mKeima-Red、mRuby、mRuby2、mApple、mStrawberry、AsRed2、mRFP1、JRed、mCherry、mKate2、mKate(TagFP635)、HcRed1、mRaspberry、dKeima-Tandem、HcRed-Tandem、mPlum、mNeptune、NirFP、Sirius、TagRFP657、AQ143、Kaede、KikGR1、PX-CFP2、mEos2、IrisFP、mEOS3.2、PSmOrange、PAGFP、Dronpa、アロフィコシアニン、GFPuv、R-フィコエリトリン(RPE)、ペリジニンクロロフィル(PerCP)、P3、Katusha、B-フィコエリトリン(BPE)、mKO、J-Redである。一実施態様では、蛍光タンパク質はRFPである。一実施態様では、蛍光タンパク質はGFPである。一実施態様では、GFPは、以下の変異、すなわちGFP(Y66H変異)、GFP(Y66F変異)、GFP(Y66W変異)、GFP(S65A変異)、GFP(S65C変異)、GFP(S65L変異)、GFP(S65T変異)のうちの1つ以上を含んでいる。
【0178】
一実施態様では、マーカーは発光タンパク質である。一実施態様では、発光タンパク質はエクオリンとルシフェラーゼから選択される。
【0179】
一実施態様では、可聴(振動)タンパク質は、卵からの音波または振動を検出することによって検出できる。
【0180】
一実施態様では、マーカーは音響タンパク質である。本明細書では、「音響タンパク質」は、例えばキャンドリング(白色光への曝露)、または磁気共鳴イメージング(MRI)によって、または他の検出システムによって検出することのできる音に応答して構造を形成するタンパク質を意味する。
【0181】
一実施態様では、マーカーは代謝マーカーである。代謝マーカーとして、例えば導入されたマーカー酵素からの揮発性産物が可能である。そのようなマーカーは、バイオセンサー(例えばCybernose(登録商標)装置)を用いて検出することができる。
【0182】
一実施態様では、マーカーは選択的キレート化タンパク質である。本明細書では、「選択的キレート化タンパク質」は、MRIまたは他の検出システムに応答して金属イオンを封鎖して濃縮することのできるタンパク質を意味する。
【0183】
一実施態様では、マーカーは、卵の殻の完全性を損なうことなく検出することができる。これは、マーカーの存在/不在の評価を可能にする光ファイバーまたはバイオセンサーを挿入するのに適した小さな穴を卵に開けることによって実現できる。そのような光ファイバーまたはバイオセンサーは毛髪の幅のサイズにできるため、針の中に組み込んで卵の中に挿入し、その卵の中で例えば雄性胚を検出し、印をつけ、除去することができる。そのような光ファイバーまたはバイオセンサーは、マーカーを含む雄性胚を迅速に検出して除去するための既存の卵内注入プラットフォーム(例えばEmbrex卵内注入システム)と組み合わせることができる。そのような光ファイバーとして、蛍光タンパク質、発光タンパク質、可聴(振動)タンパク質、代謝マーカー、音響タンパク質いずれかの検出に適したものが可能である。一実施態様では、本明細書で言及する光ファイバーは、直径が1000μm未満、または900μm未満、または800μm未満、または700μm未満、または600μm未満、または500μm未満、または400μm未満、または300μm未満、または200μm未満、または100μm未満、または50μm未満、または40μm未満、または30μm未満、または20μm未満、または10μm未満、または5μm未満、または4μm未満、または3μm未満、または2μm未満、または1μm未満である。
【0184】
一実施態様では、マーカーは卵の殻の外から検出することができる。すなわち卵の殻は完全であり、破損していない(光ファイバーまたはバイオセンサーに適した穴が開けられていない)。すると卵が汚染するリスクが低下するため、その卵を例えばウイルス産生またはタンパク質産生に用いることができる。
【0185】
一実施態様では、マーカーは蛍光タンパク質であり、卵を第1の波長の光に曝露してスクリーニングし、第2の波長の光に曝露して評価する。一実施態様では、第1と第2の波長は同じ波長である。一実施態様では、第1と第2の波長は異なる波長である。一実施態様では、光源としてレーザーが可能である。本明細書に記載されている蛍光タンパク質の蛍光の評価に適した波長は、当業者が文献に基づいて容易に決定することができよう。一実施態様では、スクリーニングにフィルタの使用も含めることができる。
【0186】
当業者であれば、本明細書に記載されている検出法を自動化できることがわかるであろう。自動化された方法は運搬手段を含むことができ、その運搬手段によって卵を移動させて卵を第1の波長の光に曝露する手段を通り抜けさせ、および/または通過させ、第2の波長の光で発現の存在を検出する手段を通り抜けさせる、および/または通過させる。自動化は、Embrex卵内注入システムの改造、または本明細書で言及されているマーカーを検出する同様のシステムの改造を含むことができる。蛍光を出す卵は、蛍光を出さない卵から例えば人の手で分離すること、またはロボットアームによって分離すること、または吸引によってそれぞれの卵を掴んで持ち上げる真空装置によって分離すること、またはゲーティング手段によって分離すること(卵は、卵が蛍光を出す場合にだけ、および/または蛍光を出さない場合にだけ開くゲートによって分離される)ができる。
【0187】
一実施態様では、この方法を利用して鳥類の卵を性別によって大量に分別する。一実施態様では、雄性卵が雌性卵から分離されて、ウイルスの産生または治療用タンパク質の産生に用いられる。一実施態様では、雌性卵が雄性卵から分離されて、(食品用の)卵の生産または肉の生産に用いられる。
【0188】
産生形質
【0189】
本明細書では、「産生形質」という用語は、市場価値がある鳥類の表現型を意味し、市場価値の非限定的な例は、ウイルス産生、組み換えタンパク質産生、筋肉質量、栄養含量、繁殖力、卵生産、供給効率、生存能力、肉収量、長寿、胸肉の収量、腿肉の収量、疾患抵抗性、疾患感受性、餌を与えて成熟するまでの最適な時間、目標体重に達するまでの時間、目標時点での体重、1日当たりの平均体重増加、肉の品質、筋肉含量、脂肪含量、食餌摂取量、タンパク質含量、骨含量、メンテナンスに必要なエネルギー、成熟時のサイズ、アミノ酸プロファイル、脂肪酸プロファイル、ストレスに対する感受性と反応、消化能力、ミオスタチン活性、脂肪の付き方である。一実施態様では、形質は、サルモネラ菌感染、腹水、リステリア菌感染に対する抵抗性である。卵の特徴として、アレルゲンなし、品質、サイズ、形、賞味期限、新鮮さ、コレステロール含量、色、ビオチン含量、カルシウム含量、殻の質、卵黄の色、レシチン含量、卵黄の数、卵黄含量、白身含量、ビタミン含量、ビタミンD含量、栄養密度、タンパク質含量、卵白含量、タンパク質の質、アビジン含量、脂肪含量、飽和脂肪含量、不飽和脂肪含量、卵の内部の品質、血液のスポットの数、空胞のサイズ、グレード、粉ふき特性、卵帯の割合または外観、殻むきの容易さ、食べられない卵である可能性、サルモネラ菌含量が可能である。
【0190】
一実施態様では、産生形質の選択は、ウイルス産生、組み換えタンパク質産生、筋肉質量、栄養含量、繁殖力、アレルゲン性からなされる。
【0191】
一実施態様では、産生形質は性別ではない。一実施態様では、鳥類は、機能する改変されていないDMRT1遺伝子を含んでいる。
【0192】
一実施態様では、産生形質は、Z染色体の上に位置する遺伝子によって改変される。例えばその遺伝子の選択は、IFNB (ENSGALG00000005759) Z:6888741-6889590;IFNA1 (ENSGALG00000013245) Z:6896104-6896866;IFNA3 (ENSGALG00000005764) Z:6906540-6907121;IL11RA (ENSGALG00000005848) Z:7805781-7828820;NP_990383.1 (ENSGALG00000005194) Z:8423047-8426804;IPI00681421.2 (ENSGALG00000021353) Z:8426772-8430612;NP_001026617.1 (ENSGALG00000002383) Z:8431894-8435719;A1EA95 (ENSGALG00000013372) Z:10231937-1024566;NP_989906.1 (ENSGALG00000003733) Z:11395953-11424499;IPI00576148.2 (ENSGALG00000003747) Z:11551082-11574029;IPI00679858.2 (ENSGALG00000014714) Z:16329446-16353112;NP_990202.1 (ENSGALG00000014716) Z:16366576-16391591;IPI00818057.1 (ENSGALG00000023411) Z:20717464-20724015;IPI00598932.2 (ENSGALG00000015031) Z:28205728-28210197;NFIL3 (ENSGALG00000015209) Z:43619547-43620923;TFIP8 (ENSGALG00000002196) Z:69693040-69693606;TICAM2 (ENSGALG00000021410) Z:71110462-71115876;IFNKL インターフェロンκ様(ENSGALG00000015062) Z: 34282788-34285316;MEKK1 (ENSGALG00000014718) Z:47924788からなすことができる。
【0193】
ウイルス産生
【0194】
本明細書では、「ウイルス産生」は、卵のウイルス産生能力の増大、またはワクチンを製造するためのウイルスの適合性(免疫原性)の向上、または鳥類の卵の中で産生されるウイルスの品質(免疫原性)の向上を意味する。一実施態様では、本発明のトランスジェニック卵は、ウイルスを接種されると、同じ改変が欠けた同質遺伝子型の卵よりも多い量のウイルスを産生する。一実施態様では、本発明のトランスジェニック卵は、例えば哺乳動物のウイルスを接種されると、野生型ウイルスにより似た(すなわち卵への適合性がより小さい、または免疫原性がより大きい)ウイルスを産生するため、その帰結としてそのウイルスに由来するワクチンは、同じ遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵で産生されるウイルスよりも大きな保護免疫反応を誘導する。一実施態様では、ウイルスは、同じ改変が欠けた同質遺伝子型の卵で産生されるウイルスよりもヒトで免疫原性がより大きい。
【0195】
本明細書では、「同質遺伝子型の卵よりも多くのウイルスを産生する」という表現は、同質遺伝子型の卵よりも多くのウイルスを培養するのに用いる本発明による鳥類の卵の能力を意味する。一実施態様では、同質遺伝子型の卵は、本発明による鳥類の卵と同じ血統の鳥類に由来する。一実施態様では、同質遺伝子型の鳥類の卵は、遺伝子改変の存在を除いて本発明の卵と遺伝子が同じである。一実施態様では、本発明による鳥類の卵は、遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて少なくとも0.5倍、または少なくとも1倍、または少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも15倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍多いウイルスを産生する。ウイルス産生のこのような増加は、当業者が定型的な技術を利用して容易に判断することができる。例えば本発明の卵と同質遺伝子型の卵に同じウイルスを同じ量で接種し、同じ条件下で同じ期間にわたって孵卵し、標準的な技術(例えば実施例に概略を示した技術)を利用してそれぞれの卵の中に存在するウイルス粒子の量を求めることができる。
【0196】
本明細書では、「ウイルスまたはその粒子」という表現は、不活化が可能な、または不活化ができない全ウイルスと、そのようなウイルスの粒子を意味する。ウイルス粒子は、スプリットウイルスワクチンまたはサブユニットウイルスワクチンで用いるのに適した任意のサイズにすることができる。全ウイルス、またはそのウイルスの粒子は、卵の尿膜腔液から回収することができる。スプリットウイルスワクチンまたはサブユニットウイルスワクチンのため、回収した全ウイルスをワクチン組成物の調製中に破壊して適切なサイズの粒子を形成することができる。
【0197】
一実施態様では、ウイルスの産生は、卵の中での抗ウイルス遺伝子の発現および/または抗ウイルスタンパク質の活性を、同じ改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて低下させる遺伝子改変を導入することによって増やすことができる。
【0198】
本明細書では、「抗ウイルス遺伝子の発現を低下させる」という表現は、遺伝子改変が、卵の中でのRNA転写産物のレベル、および/またはRNA転写産物からの翻訳のレベルを同質遺伝子型の卵におけるレベルと比べて下方調節する能力を意味する。一実施態様では、同質遺伝子型の卵は、本発明による鳥類の卵と同じ血統の鳥類に由来する。一実施態様では、同質遺伝子型の鳥類の卵は、遺伝子改変の存在を除いて本発明の卵と遺伝子が同じである。一実施態様では、遺伝子は抗ウイルスタンパク質をコードしているため、卵の中での抗ウイルスタンパク質活性のレベルも、同質遺伝子型の卵でのレベルと比べて低下することになる。一実施態様では、遺伝子改変によって卵の中での抗ウイルス遺伝子の発現が、その遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または少なくとも99%、または100%低下する。このような低下は、標準的な手続きを利用して明確にすることができる。
【0199】
本明細書では、「抗ウイルスタンパク質活性のレベルを低下させる」という表現は、遺伝子改変が、卵の中での抗ウイルスタンパク質活性のレベルを同質遺伝子型の卵におけるレベルと比べて下方調節する能力を意味する。一実施態様では、同質遺伝子型の卵は、本発明による鳥類の卵と同じ血統の鳥類に由来する。一実施態様では、同質遺伝子型の鳥類の卵は、本発明の卵と遺伝子改変の存在を除いて本発明の卵と遺伝子が同じである。タンパク質の活性は、例えば卵の中のそのタンパク質の量を減らすことによって、および/またはそのタンパク質が天然の機能(アプタマーによるタンパク質の結合など)を実行する能力を低下させることによって低下させることができる。一実施態様では、遺伝子改変によって卵の中での抗ウイルスタンパク質活性のレベルが、遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または少なくとも99%、または100%低下する。このような低下は、標準的な手続きを利用して明確にすることができる。
【0200】
本明細書では、「抗ウイルス遺伝子」は、鳥類に内在する任意の遺伝子であり、その発現が、卵の中でのウイルスの産生を任意の手段によって制限する。抗ウイルス遺伝子は、抗ウイルスタンパク質をコードすることができる。
【0201】
本明細書では、「抗ウイルスタンパク質」は、鳥類に内在する任意のタンパク質であり、このタンパク質が存在していると卵の中でのウイルスの産生が制限される。
【0202】
抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質は、成鳥がウイルス感染に対する免疫反応を起こす能力に関与することができる。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質は、インターフェロン(IFN)経路の一部を形成する。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質は、I型、またはII型、またはIII型のインターフェロン経路に存在する。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質は、I型またはIII型のインターフェロン経路に存在する。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質は、IFN-α/β受容体1(IFNAR1)鎖である。別の一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIL-6である。
【0203】
代わりの一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質は、成鳥がウイルス感染に対する免疫反応を起こす能力に関与することができるか、その能力に関与することが知られている。そのような遺伝子/タンパク質について以前にわかっている機能のいくつかの例に、細胞代謝、胚発生、細胞シグナル伝達、核酸合成に関与していることが含まれる。
【0204】
代わりの一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の発現低下により、ウイルスに感染した鳥類の卵の細胞のアポトーシスが減少する。
【0205】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択は、IFNAR1、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλ、IFNAR2、UBE1DC1、GNAZ、CDX2、LOC100859339、IL28RA、ZFPM2、TRIM50、DNASEIL2、PHF21A、GAPDH、BACE2、HSBP1、PCGF5、IL-1RA、DDI2、CAPN13、UBA5、NPR2、IFIH1、LAMP1、EFR3A、ARRDC3、ABI1、SCAF4、GADL1、ZKSCAN7、PLVAP、RPUSD1、CYYR1、UPF3A、ASAP1、NXF1、TOP1MT、RALGAPB、SUCLA2、GORASP2、NSUN6、CELF1、ANGPTL7、SLC26A6、WBSCR27:siL1、HTT、MYOC、TM9SF2,CEP250、FAM188A、BCAR3、GOLPH3L、HN1、ADCY7、AKAP10、ALX1、CBLN4、CRK、CXORF56、DDX10、EIF2S3、ESF1、GBF1、GCOM1、GTPBP4、HOXB9、IFT43、IMP4、ISY1、KIAA0586、KPNA3、LRRIQ1、LUC7L、MECR、MRPL12、POLR3E、PWP2、RPL7A、SERPINH1、SLC47A2、SMYD2、STAB1、TTK、WNT3、IFNGR1、IFNGR2、IL-10R2、IFNκ、IFNΩ、IL-1RB、XPO1、またはこれらの対応する受容体またはアゴニストのうちの1つ、または2つ、または3つ、または4つ、または5つ以上からなされる。一実施態様では、IFNαは、以下のアイソフォーム、すなわちIFNα1、IFNα2、IFNα4、IFNα5、IFNα6、IFNα7、IFNα8、IFNα10、IFNα13、IFNα14、IFNα16、IFNα17、IFNα21のうちの1つ以上である。一実施態様では、IFNγは、以下のアイソフォーム、すなわちIFNλ1、IFNλ2、IFNλ3、IFNλ4のうちの1つ以上である。
【0206】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択は、IFNAR1、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNλ、BACE2、UBA5、ZFPM2、TRIM50、DDI2、NPR2、CAPN13、DNASE1L2、PHF21A、PCGF5、IFIH1、IL-1RA、LAMP1、EFR3A、ABI1、GADL1、PLVAP、CYYR1、ASAP1、NXF1、NSUN6、ANGPTL7:siL1、BCAR3、GOLPH3L、HN1、ADCY7、CBLN4、CXORF56、DDX10、EIF2S3、ESF1、GCOM1、GTPBP4、IFT43、KPNA3、LRRIQ1、LUC7L、MRPL12、POLR3E、PWP2、RPL7A、SMYD2、XPO1、ZKSCAN7、またはこれらの対応する受容体またはアゴニストのうちの1つ、または2つ、または3つ、または4つ、または5つ以上からなされる。
【0207】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択は、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNα、IFNβ、IFNγ、IFNAR2、UBE1DC1、GNAZ、CDX2、LOC100859339、IL28RA、ZFPM2、TRIM50、DNASEIL2、PHF21A、GAPDH、BACE2、HSBP1、PCGF5、IL-1RA、DDI2、CAPN13、UBA5、NPR2、IFIH1、LAMP1、EFR3A、ARRDC3、ABI1、SCAF4、GADL1、ZKSCAN7、PLVAP、RPUSD1、CYYR1、UPF3A、ASAP1、NXF1、TOP1MT、RALGAPB、SUCLA2、GORASP2、NSUN6、CELF1、ANGPTL7、SLC26A6、WBSCR27:siL1、HTT、MYOC、TM9SF2,CEP250、FAM188A、BCAR3、GOLPH3L、HN1、ADCY7、AKAP10、ALX1、CBLN4、CRK、CXORF56、DDX10、EIF2S3、ESF1、GBF1、GCOM1、GTPBP4、HOXB9、IFT43、IMP4、ISY1、KIAA0586、KPNA3、LRRIQ1、LUC7L、MECR、MRPL12、POLR3E、PWP2、RPL7A、SERPINH1、SLC47A2、SMYD2、STAB1、TTK、WNT3、IFNGR1、IFNGR2、IL-10R2、IFNκ、IFNΩ、IL-1RB、XPO1、またはこれらの対応する受容体またはアゴニストのうちの1つ、または2つ、または3つ、または4つ、または5つ以上からなされる。
【0208】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の選択は、IL-6、CNOT4、MDA5、IFNAR2、UBE1DC1、GNAZ、CDX2、LOC100859339、IL28RA、ZFPM2、TRIM50、DNASEIL2、PHF21A、GAPDH、BACE2、HSBP1、PCGF5、IL-1RA、DDI2、CAPN13、UBA5、NPR2、IFIH1、LAMP1、EFR3A、ARRDC3、ABI1、SCAF4、GADL1、ZKSCAN7、PLVAP、RPUSD1、CYYR1、UPF3A、ASAP1、NXF1、TOP1MT、RALGAPB、SUCLA2、GORASP2、NSUN6、CELF1、ANGPTL7、SLC26A6、WBSCR27:siL1、HTT、MYOC、TM9SF2,CEP250、FAM188A、BCAR3、GOLPH3L、HN1、ADCY7、AKAP10、ALX1、CBLN4、CRK、CXORF56、DDX10、EIF2S3、ESF1、GBF1、GCOM1、GTPBP4、HOXB9、IFT43、IMP4、ISY1、KIAA0586、KPNA3、LRRIQ1、LUC7L、MECR、MRPL12、POLR3E、PWP2、RPL7A、SERPINH1、SLC47A2、SMYD2、STAB1、TTK、WNT3、IFNGR1、IFNGR2、IL-10R2、IFNκ、IFNΩ、IL-1RB、XPO1、またはこれらの対応する受容体またはアゴニストのうちの1つ、または2つ、または3つ、または4つ、または5つ以上からなされる。
【0209】
一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質はIFNAR1である。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はIL-6である。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はMDA5である。一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はCNOT4である。別の一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はIFNαである。別の一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はIFNβである。別の一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はIFNγである。別の一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はIFNλである。別の一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はIL-1RAである。別の一実施態様では、抗ウイルス遺伝子および/またはタンパク質はIL-1RBである。
【0210】
標的にすることのできる抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質に関するより詳細な事項は以下の表2に提示されている。
【0211】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0212】
一実施態様では、本発明のトランスジェニック卵は、例えば哺乳動物ウイルスを接種されると野生型ウイルスにより似た(すなわち卵への適合性がより小さい)ウイルスを産生するため、その帰結としてそのウイルス(免疫原性がより大きいウイルス)に由来するワクチンは、同じ遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べてより大きな保護免疫反応を誘導する。一実施態様では、本明細書に記載されている卵が産生したウイルスによって生じる保護免疫反応は、遺伝子改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または少なくとも99%、または100%増大する。一実施態様では、遺伝子改変が鳥類の卵の中のグリコシル化パターン(シアル化など)を変化させる。一実施態様では、遺伝子改変が鳥類の卵の中のα-2,6-シアル化を増大させる(Oh他、2008年)。一実施態様では、遺伝子改変が鳥類の卵の中のα-2,3-シアル化を減少させる。一実施態様では、遺伝子改変がST6β-ガラクトシドα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ1(SIAT1であり、ST6GaIIとしても知られる)タンパク質の発現を増加させ、このタンパク質が鳥類の卵の中のα-2,6-結合シアル酸(α-2,6-シアル化)を増加させる。したがって一実施態様では、本発明により、ワクチン製造のために鳥類の卵の中で産生されるウイルスの免疫原性を増大させることが可能になる。
【0213】
一実施態様では、本明細書に記載されている鳥類の卵は、鳥類の卵の中で産生されるウイルスの量を、同じ改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて増加させる遺伝子改変と、鳥類の卵の中で産生されるウイルスの品質(免疫原性)を、同じ改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて向上させる遺伝子改変を含んでいる。一実施態様では、卵は、鳥類の卵の中でのSIAT1タンパク質の発現を、同じ改変が欠けた同質遺伝子型の卵と比べて増やす遺伝子改変を含んでいる。一実施態様では、卵は、本明細書に記載されている抗ウイルス遺伝子および/または抗ウイルスタンパク質の発現を低下させる遺伝子改変と、SIAT1タンパク質の発現を増大させる遺伝子改変を含んでいる。一実施態様では、SIAT1は哺乳動物のSIAT1である。一実施態様では、SIAT1はヒトのSIAT1である。一実施態様では、SIAT1は、遺伝子ID:6480に記載されているシアリルトランスフェラーゼである。一実施態様では、卵は、IFNAR遺伝子および/またはタンパク質の発現を低下させる遺伝子改変と、SIAT1タンパク質の発現を増大させる遺伝子改変を含んでいる。
【0214】
組み換えタンパク質
【0215】
本明細書では、「組み換えタンパク質産生」という用語は、鳥類の卵の中での組み換えタンパク質の産生を意味する。一実施態様では、組み換えタンパク質は卵白の中で産生される。組み換えタンパク質は卵の尿膜腔液から回収することができる。一実施態様では、組み換えタンパク質は卵から回収する必要がなく、卵を食べることによる投与が可能である。一実施態様では、組み換えタンパク質として、抗微生物タンパク質、結合タンパク質、サイトカインまたはケモカイン、ホルモン、血液凝固因子、酵素、ワクチン製造に用いる抗原が可能である。一実施態様では、組み換えタンパク質は治療用タンパク質である。
【0216】
「抗微生物タンパク質」という用語は、鳥類の卵または鳥類に含まれていて、その鳥類の卵または鳥類を微生物から保護するタンパク質を意味する。一実施態様では、抗微生物タンパク質が卵を汚染から保護し、ワクチン製造の間の廃棄物を減らす。一実施態様では、抗微生物タンパク質は、デフェンシン、オボラクトフェリン、オボトランスフェリンのいずれかである。一実施態様では、抗微生物タンパク質はオボトランスフェリンである。一実施態様では、抗微生物タンパク質はβ-デフェンシンである。
【0217】
一実施態様では、「結合タンパク質」は、抗体またはそのフラグメントである。本明細書では、「抗体」という用語に、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、融合ディアボディ、トリアボディ、ヘテロ複合抗体、キメラ抗体が含まれ、その中には、インタクトな分子のほか、そのフラグメントと、他の抗体様分子が含まれる。抗体には多彩な形態の改変が含まれ、その非限定的な例に含まれるのは、VHドメインまたはVLドメインを含むドメイン抗体、重鎖可変領域の二量体(ラクダに関して報告されているVHH)、軽鎖可変領域の二量体(VLL)、直接結合させること、またはリンカーを介して結合させることのできる軽鎖(VL)可変領域と重鎖(VH)可変領域だけを含有するFvフラグメント、重鎖可変領域とCH1ドメインを含有するFdフラグメントである。
【0218】
互いに結合された重鎖可変領域と軽鎖可変領域で構成されていて一本鎖を形成するscFv(Bird他、1988年;Huston他、1988年)と、scFvのオリゴマー(ディアボディ、トリアボディなど)も、「抗体」という用語に包含される。可変領域を含有するとともに定常領域の一部を含有する抗体のフラグメント(Fabフラグメント、(Fab')2フラグメント、FabFc2フラグメント)も包含される。相補性決定領域(CDR)グラフト抗体フラグメントと、抗体フラグメントのオリゴマーも包含される。Fvの重鎖構成要素と軽鎖構成要素は、同じ抗体に由来していても、異なる抗体に由来していてもよいため、キメラFv領域が生じる。
【0219】
抗体として、可変軽鎖(LV)と可変重鎖(VH)を含むFv領域が可能であり、その軽鎖と重鎖は、直接結合させること、またはリンカーを介して結合させることができる。本明細書では、リンカーは、軽鎖と重鎖に共有結合していてそれら2本の鎖の間に十分なスペースと可撓性を与える分子を意味する。そのためこれらの鎖は、これらの鎖が向かうエピトープに対する特異的な結合が可能な空間配置を実現することができる。タンパク質リンカーが特に好ましい。なぜならタンパク質リンカーは、融合ポリペプチドのIg部分の固有構成要素として発現させることができるからである。
【0220】
抗体として、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディのいずれかが可能である。一実施態様では、抗体として、二重特異性抗体、操作された抗体、抗体-薬複合体、バイオシミラー抗体のいずれかが可能である。一実施態様では、抗体として、アバタセプト、アブシキシマブ、アリロクマブ、アダリブマブ、アフィベルセプト、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ(アバスチン)、ブレンツキシマブベドチン、ボコシズマブ、カナキヌマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴール、ダクリズマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、エロツズマブ、エタネルセプト、エボロクマブ、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、ニボルマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、ペムブロリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ピジリズマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシリズマブ(またはアトリズマブ)、トシツモマブ、トラスツズマブ、トレメリムマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブのいずれか、またはこれらを改変したもの、これらのバイオシミラーが可能である。
【0221】
一実施態様では、「サイトカインまたはケモカイン」として、骨形成タンパク質、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン、IFNα、IFNβ、IFNλ、IFNγ、TNFα、TNFβ、インターロイキン1受容体アンタゴニスト(IL1RA)、胸腺間質リンポポエチン、1つ以上のインターロイキンのいずれかが可能である。一実施態様では、サイトカインはIFNβである。一実施態様ではサイトカインはIL1RAである。
【0222】
一実施態様では、「ホルモン」として、エピネフリン、メラトニン、トリヨードチロニン、チロキシン、プロスタグランジン、ロイコトリエン類、プロスタサイクリン、トロンボキサン、アミリン、抗ミュラー管ホルモン、アドポネクチン、副腎刺激ホルモン、アンギオテンシノーゲン、アンギオテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、脳ナトリウム利尿ペプチド、カルシトニン、コレシストキニン、コルチコトロピン放出ホルモン、コルチスタチン、エンセファリン、エンドセリン、エリスロポエチン、卵胞刺激ホルモン、ガラニン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1、ゴナドトロピン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ヘプシジン、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、ヒト胎盤性ラクトゲン、成長ホルモン、インヒビン、インスリン、インスリン様増殖因子、レプチン、黄体形成ホルモン、メラノサイト刺激ホルモン、モチリンオレキシン、オキシトシン、膵臓ポリペプチド、下垂体細胞アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド、プロラクチン、プロラクチン放出ホルモン、リラクシン、レニン、セクレチン、ソマトスタチン、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、血管作動性腸管ペプチドのいずれか、またはこれらの誘導体または類似体が可能である。
【0223】
一実施態様では、「凝固因子」として、第I因子、第II因子、第III因子、第IV因子、第V因子、第VI因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XII因子、第XIII因子、高分子量キニノーゲン、フィブロネクチン、アンチトロンビンII、ヘパリン補因子II、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、プロテインZ関連プロテアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン、α2-アンチプラスミン、組織プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ、プラスミノーゲンアクチベータ阻害剤-1、プラスミノーゲンアクチベータ阻害剤-2のいずれかが可能である。
【0224】
一実施態様では、「酵素」として、プロテアーゼ、リパーゼ、アスパラギナーゼ、リプロタマーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベータ、コラゲナーゼ、グルタミナーゼ、ヒアルロニダーゼ、ストレプトキナーゼ、ウリカーゼ、ウロキナーゼ、ヌクレアーゼ(プログラム可能なヌクレアーゼなど)のいずれかが可能である。一実施態様では、組み換えタンパク質は、治療用タンパク質、すなわち薬「Kanuma」として販売されているライソゾーム酸性リパーゼ(LAL)である。
【0225】
筋肉質量
【0226】
本明細書では、「筋肉質量」という用語は、筋肉組織の重量を意味する。筋肉質量の増加は、本明細書に記載されているようにして処理した卵から孵化したトリの全筋肉組織を計量し、本明細書に規定されている核酸を投与されていない同じ種の鳥類からのトリ、好ましくは同じ血統または育種の鳥類からのトリ、さらに好ましくは同じトリと比べることによって求められる。あるいは特定の筋肉(胸および/または脚の筋肉など)を用いて筋肉質量の増加を明らかにすることができる。本発明の方法によって筋肉質量が少なくとも約1%、2.5%、5%、7.5%増加することが好ましく、約10%増加することがより一層好ましい。鳥類の1つの形質としての筋肉質量を変化させるための標的にすることが可能な遺伝子の例に含まれるのは、ミオスタチン(MSTN)、増殖分化因子-8 (GDF-8)、インスリン様増殖因子1(IGF1)、筋分化1(MyoD1)、成長ホルモン(GH)、成長ホルモン放出因子(GRF)、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、c-ski、インターロイキン-15(IL-15)、線維芽細胞増殖因子(FGF5)である(アメリカ合衆国特許第7,732,571号、WO 1991/000287、WO 1996/037223、WO 2007/062000、アメリカ合衆国特許第7,732,571号)。
【0227】
栄養含量
【0228】
本明細書では、「栄養含量」という用語は、鳥類から得られた卵および/または肉の栄養含量を意味する。栄養含量は、卵および/または肉に含まれるビタミン、ミネラル、アミノ酸、タンパク質、炭水化物の含量を増加させることを意味することができる。本発明の方法によって卵または鳥類に含まれる栄養素の濃度が少なくとも約0.5%、1%、2.5%、5%、7.5%増加することが好ましく、約10%増加することがより一層好ましい。
【0229】
繁殖力
【0230】
本明細書では、「繁殖力」という用語は、遺伝子が改変された本明細書に記載の鳥類またはその子孫の生殖能力を意味する。例えば繁殖力の増加に、排卵率または妊娠率の増加を含めることができる。
【0231】
アレルゲン性
【0232】
形質としての「アレルゲン性」を変化させるための標的にすることが可能な遺伝子の例に含まれるのは、オボムコイド(Gald1)、オボアルブミン、リゾチーム、オボトランスフェリン、レビチン、アポビチリン、ニワトリ血清アルブミン、YGP42、フォスビチンである(Dhanapale他、2015年)。
【0233】
ウイルス
【0234】
本発明による鳥類の卵の中で産生されるウイルスには、鳥類の卵の中で新たなウイルス粒子を複製して産生することのできる任意のウイルスが含まれる。このようなウイルスにDNAウイルスとRNAウイルスが含まれる。一実施態様では、ウイルスは動物ウイルスである。一実施態様では、動物ウイルスはヒトウイルスである。一実施態様では、ウイルスは非ヒトウイルスである。一実施態様では、ウイルスは鳥類ウイルスである。
【0235】
本発明で使用するウイルスの非限定的な例に含まれるのは、オルソミクソウイルス科、ヘルペスウイルス科、パラミクソウイルス科、フラビウイルス科、コロナウイルス科から選択されたウイルスである。一実施態様では、ウイルスはオルソミクソウイルス科のメンバーである。
【0236】
オルソミクソウイルス科のウイルスとして、例えばA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、イサウイルス、トゴトウイルス、クアランジャウイルスが可能である。インフルエンザウイルスとしてA型インフルエンザウイルスが可能である。A型インフルエンザウイルスは、動物から単離されたA型インフルエンザウイルスから選択することができる。一実施態様では、動物はヒトまたは鳥類である。特にA型インフルエンザウイルスの選択は、H1N1、H1N2、H1N3、H1N4、H1N5、H1N6、H1N7、H1N9、H2N1、H2N2、H2N3、H2N4、H2N5、H2N7、H2N8、H2N9、H3N1、H3N2、H3N3、H3N4、H3N5、H3N6、H3N8、H4N1、H4N2、H4N3、H4N4、H4N5、H4N6、H4N8、H4N9、H5N1、H5N2、H5N3、H5N6、H5N7、H5N8、H5N9、H6N1、H6N2、H6N3、H6N4、H6N5、H6N6、H6N7、H6N8、H6N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N5、H7N7、H7N8、H7N9、H9N1、H9N2、H9N3、H9N5、H9N6、H9N7、H9N8、H10N1、H10N3、H10N4、H10N6、H10N7、H10N8、H10N9、H11N2、H11N3、H11N6、H11N9、H12N1、H12N4、H12N5、H12N9、H13N2、H13N6、H13N8、H13N9、H14N5、H15N2、H15N8、H15N9、H16N3からなすことができる。一実施態様では、A型インフルエンザウイルスは、H1N1、H3N2、H7N7、H5N1から選択される。
【0237】
ヘルペスウイルス科のウイルスとして、例えばHSV-1、HSV-2、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルスが可能である。
【0238】
パラミクソウイルス科のウイルスとして、例えばパラミクソウイルス科またはニューモウイルス亜科のウイルスが可能である。一実施態様では、パラミクソウイルス科のウイルスはニューカッスル病ウイルスである。
【0239】
フラビウイルス科のウイルスとして、例えばフラビウイルス、ヘパシウイルス、ペギウイルス、ペスチウイルスのいずれかが可能である。一実施態様では、フラビウイルス科のウイルスとして、アポイウイルス、アロアウイルス、バガザウイルス、バンジウイルス、ボウボウイウイルス、ブカラサコウモリウイルス、カシパコアウイルス、キャリー島ウイルス、カウボーンリッジウイルス、ダカールコウモリウイルス、デングウイルス、エッジヒルウイルス、エンテベコウモリウイルス、ガジェッツガリーウイルス、イルヘウスウイルス、イスラエルシチメンチョウ髄膜脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジュグラウイルス、フティアパウイルス、カダムウイルス、ケドゥグウイルス、ココベラウイルス、クタンゴウイルス、キャサヌル森林病ウイルス、ランガッウイルス、跳躍病ウイルス、メアバンウイルス、モドックウイルス、モンタナ筋炎白質脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、ウンタヤウイルス、オムスク出血熱ウイルス、プノンペンコウモリウイルス、ポワッサンウイルス、リオブラボウイルス、ロイヤルファームウイルス、サボヤウイルス、サルビエハウイルス、サンペルリタウイルス、ソーマレズ環礁ウイルス、セピックウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、テンブスウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、チュレーニーウイルス、ウガンダSウイルス、ウスツウイルス、ウェッセルスブロンウイルス、ウエストナイルウイルス、ヤウンデウイルス、黄熱病ウイルス、ヨコセウイルス、ジカウイルスが可能である。
【0240】
コロナウイルス科のウイルスとして、例えばコロナウイルス科またはコロナウイルス亜科のウイルスが可能である。コロナウイルス科のウイルスとして、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、デルタコロナウイルス、ガンマコロナウイルスのいずれかが可能である。一実施態様では、コロナウイルス科のウイルスとしてSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスが可能である。
【0241】
一実施態様では、ウイルスの選択は、インフルエンザウイルス、イヌジステンパーウイルス、はしかウイルス、レオウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、イヌパラインフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、鶏痘ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、おたふくかぜウイルス、ウマ脳脊髄炎ウイルス、風疹ウイルス、産卵低下症候群ウイルス、トリ腸瘍溶解性ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ウシパラインフルエンザウイルス、天然痘ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、ウシ茨城ウイルス、組み換え水痘ウイルス、トリアデノウイルスI型、II型、III型、ブタ日本脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、セムリキフォレストウイルス、脳脊髄炎ウイルス、ベネズエラEEVウイルス、鶏貧血ウイルス、マレック病ウイルス、パルボウイルス、口蹄疫ウイルス、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、古典的ブタ熱ウイルス、ブルータングウイルス、アカバネウイルス、伝染性サケ貧血ウイルス、伝染性造血器壊死症ウイルス、ウイルス性出血性敗血症ウイルス、伝染性膵臓壊死症ウイルスからなされる。
【0242】
卵の中でのワクチン製造
【0243】
鳥類の卵の中でウイルスを複製する方法と、その卵からワクチンを製造する方法は、70年を超える歴史があるため、本分野において周知である。例えばインフルエンザワクチン組成物を製造するための従来の方法は、典型的には、孵化した鶏卵の中でウイルスを増殖させることを含んでいる。次に、この方法で増殖させたウイルスを用い、例えば生弱毒化ウイルスワクチン組成物、不活化全ウイルスワクチン組成物、サブユニットワクチン組成物のいずれかを製造する。インフルエンザワクチン組成物を製造する1つの方法は、生きたインフルエンザウイルスを10~11日齢の孵化した鶏卵の中に接種することによる。接種されたこのワクチン用ウイルスは、ウイルスの複製が可能になるようにするため所定の期間(例えば2日以上)孵卵した後、ウイルスが豊富な尿膜腔液から回収する(Hoffmann他、2002年)。一例では、所定の期間は、少なくとも12時間、または少なくとも18時間、または少なくとも24時間、または少なくとも48時間、または少なくとも72時間、または少なくとも4日間、または少なくとも5日間、または少なくとも6日間、または少なくとも7日間、または少なくとも8日間、または少なくとも9日間、または少なくとも10日間である。
【0244】
典型的な操作では、卵のキャンドリングを実施し、殻を殺菌し、それぞれの卵の尿膜腔に少量のウイルスを注射によって接種する必要がある。次に、注入を受けた卵を33~37℃で48~72時間孵卵し、再びキャンドリングを実施し、一晩冷やし、殻を破ると、尿膜腔液の回収が可能になる。次に、回収した尿膜腔液を濾過および/または遠心分離によって純化した後、さらなる精製に進む。『不活化インフルエンザワクチンのための条件』、世界保健機構技術報告書シリーズ、第384号(1966年)。アメリカ合衆国で市販されている多くのインフルエンザワクチンは、孵化した鶏卵の中での増殖によって製造されてきた。一実施態様では、卵は鶏卵であり、ウイルスは8日目~11日目に回収する。一実施態様では、卵は鶏卵であり、ウイルスはほぼ10日目に回収する。
【0245】
複製されたウイルスまたはその粒子を卵から回収する
【0246】
複製されたウイルスまたはその粒子(例えばスプリットウイルス粒子、またはサブユニットウイルス粒子)は、卵から、好ましくは卵の尿膜腔液から、当業者に知られている任意の方法で回収することができる。例えば複製されたウイルスまたはその粒子の回収は、純化、濃縮、不活化、ヌクレアーゼ処理、分離/精製、ポリッシング(最終精製)、減菌濾過という工程の1つ以上を含むことができる(Wolf他、2008年;Wolf他、2011年;Kalbfuss他、2006年;Josefsberg他、2012年)。一例では、純化は、遠心分離、および/または精密濾過、および/または深層濾過によって実現される。一例では、濃縮は、遠心分離、および/または限外濾過、および/または沈降、および/またはモノリス、および/または膜吸着剤によって実施される。一例では、不活化は、UV、熱、化学処理のいずれかによって実現される。不活化の化学的形態に含まれるのは、ホルマリン、バイナリエチレンイミン、β-プロピオラクトンや、当業者に知られている他の方法である。一実施態様では、ヌクレアーゼ処理は、ベンゾナーゼを用いた処理である。一例では、分離/精製は、超遠心分離(例えば密度勾配)、および/またはビーズクロマトグラフィ(例えばサイズ排除クロマトグラフィやアフィニティクロマトグラフィ)、および/または膜吸着剤(例えばイオン交換クロマトグラフィやアフィニティクロマトグラフィ)によって実現される。一例では、ポリッシングは、限外濾過および/または透析濾過によって実現される。一例では、ウイルスまたはウイルス粒子は、アルコール沈降またはポリエチレングリコール沈降によって濃縮することができる。一例では、複製されたウイルスまたはその粒子の回収は、Greinら(2013年)が記載しているように膜の利用を含んでいる。
【0247】
別の一例では、複製されたウイルスの回収は、スプリットワクチン組成物またはサブユニットワクチン組成物のために適切なサイズのウイルス粒子を作製するウイルス破壊工程を含むことができる(Wolf他、2008年;Josefsberg他、2012年)。このような工程として、スプリットワクチン組成物またはサブユニットワクチン組成物のために適切なサイズのウイルス粒子を作製する任意の方法が可能である。一例では、破壊工程は、洗浄剤を用いた可溶化である。
【0248】
当業者であれば、回収されたウイルス(完全弱毒化または不活化)または回収されたウイルス粒子(スプリットウイルス粒子またはサブユニットウイルス粒子)を製剤化してワクチン組成物にできることを理解していると考えられる。このような組成物は、アジュバント、賦形剤、結合剤、保存剤、キャリアカップリング剤、緩衝剤、安定剤、乳化剤、湿潤剤、非ウイルスベクター、トランスフェクションを容易にする化合物のうちの1つ以上を含むことができる(Josefsberg 他、2011年;Jones、2008年)。当業者であればさらに、このようなワクチン組成物は凍結乾燥が可能であることを理解していると考えられる。一例では、製造されるワクチン組成物は、ヒトでの使用に適している。一例では、製造されるワクチン組成物は、動物での使用に適している。
【実施例】
【0249】
実施例1:雌の雛の選択的な孵化
【0250】
ニワトリでは、そして一般に鳥類では、雌は異型配偶子を持つ性であり、1つのZ染色体と1つのW染色体を有するためZWである。雄は同型配偶子を有するためZZである。その最良の証拠は、Z染色体上の2倍量の遺伝子DMRT1が雄の発生において重要であることである(Smith他、2009年)。このことは、雄がXYであり、雌がXXである哺乳動物の性とは対照的である。Z染色体上の適切な位置にマーカー遺伝子を挿入した後、Z*W(雌)をZZ(雄)と交配させた繁殖ペアは、子孫として、ZW(f)、Z*Z(m)、ZZ*(m)、ZW(f)を産むと考えられる。
【0251】
雌のZ染色体上のマーカー遺伝子は、野生型の雄と交配されると、常に、マーカー遺伝子を持つ雄と、マーカー遺伝子のない雌を生じさせる(
図1)。産卵鶏産業の繁殖構造へのこのマーカーの組み込みを
図2に示す。マーカー遺伝子として例えば構成的に発現する緑色蛍光タンパク質(GFP、RFPなど)が可能であり、雄性胚は、大半が未分化の60,000個の細胞からなる胚である産卵時点でさえ蛍光を出すため、蛍光検出システムを利用して雌から明確に識別されると考えられる。
【0252】
代わりの遺伝子が多く存在しており、その遺伝子を用いると、印を付けたZ*染色体を検出して雄をスクリーニングする他の手段を提供することもできると考えられる。この技術の強みは、選択可能な導入遺伝子を、選別なしの排除で消費者のための卵を産む野生型の雌を誕生させること組み合わせたことにあり、「孵化と選別」がないために製造倫理が向上しているという付加価値を有する。養鶏家には、孵卵が少なくなり、卵を取り扱うことが減り、雄からの栄養回収がより容易になるという利益もある。Z染色体に第2の変異(例えば鳥類の卵の中でのウイルス産生を増やす抗ウイルス遺伝子などの遺伝子の中の変異)を組み込むと、以前は廃棄されていた材料の利用が容易になると考えられるため、家禽生産産業の生産性が向上するとともに、この産業における生物廃棄物が減少する。
【0253】
実施例2:鳥類の種の遺伝子工学
【0254】
鳥類の種で生殖系列に遺伝子を導入する方法は、一般に2つのアプローチに基づいている。第1のアプローチは、胞胚葉(ステージX)または初期段階のニワトリ胚(McGrew他、2004年)に組み換えレンチウイルスを注入することを含んでおり、第2のアプローチは、生体外培養と、始原生殖細胞(PGC)を操作した後にその細胞をレシピエントの胚の中に再度注入することを必要とする(Van de Lavoir他、2006年)。どちらの方法も、研究室に応用するのに理想的ではない。なぜなら研究室では、バイオセイフティを理由としてレンチウイルス法を回避することが好ましく、しかも例えばオーストラリアに独自の検疫コンプライアンス規則があるために輸入された生物学的製剤をPGCの培養に用いることを回避する必要があるからである。
【0255】
そこでPGCの直接的な生体内トランスフェクションを通じてトランスジェニックトリを作製するという代わりの方法が開発された(Tyack他、2013年)。この論文に提示されている結果は、PGCにミニTol2トランスポゾンプラスミドを生体内トランスフェクションするという単純な手続きで、導入遺伝子を次世代に伝えることのできる安定な雄の生殖系列トランスジェニックニワトリが誕生することを明確に示している(
図3)。この方法は、PGCの形質転換が、プラスミドDNA-リポソーム複合体を14 HHステージの胚の血流に注入することによって実現できることを証明した以前に公開されている方法(Watanabe他、1994年)に対する大きな改良に基づいている。
【0256】
以前になされたこの研究から、循環するPGCを生体内にトランスフェクトすることによって外来DNAを生殖腺の生殖細胞に導入することは可能だが、それは非常に非効率で不安定なプロセスであることがわかった。さらに、彼らは、このアプローチによってトランスジェニックトリを誕生させることが可能であると証明することはできなかった。リポフェクション技術を利用することでこのアプローチが著しく進歩して生体内でPGCが安定に形質転換され、トランスポゾンの中に担持されている増強緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現するトランスジェニック子孫がうまくかつ効率的に誕生する。このアプローチでは、2つのプラスミドからなるミニTolトランスポゾン系を使用した。第1のプラスミドは、CAGGSプロモータの制御下にあるEGFP導入遺伝子を含有していてTol2 ITRに隣接していた(pMiniTol-EGFP)。第2のプラスミド(pTrans)は、CMV最初期プロモータの制御下にあるTol2トランスポザーゼをコードしているため、トランスフェクトされたPGCの中でそのTol2トランスポザーゼがトランスで発現した後にミニTol-EGFPがプラスミドから染色体に転移する。pMiniTol-EGFPとpTransを組み合わせ、リポフェクタミン2000を用いて製剤化し、14 HHステージの胚に静脈内注射した。
【0257】
トランスフェクションの成功は、14日齢の胚の生殖腺の中でのEGFP発現を可視化することによって確認した。残った胚の40%が生き延びて孵化し、雄の雛が成長して性的に成熟した。その後すべての雄鶏から精子を回収し、PCRを利用してミニTol-EGFP導入遺伝子の存在を調べたところ、45%の雄がトランスジェニック精液を持つことが見いだされた。精液中のミニTol DNAのレベルが最高であった3羽の雄を、G1生殖系列トランスジェニック子孫を得るために繁殖させる創始雄鶏として選択した。選択した雄鶏をそれぞれ同じ血統の雌鶏とつがいにすると、合計で419羽のG1雛が孵化し、それらの雛を全身でのEGFP発現の目視によって選別した。419羽の雛のうちの合計5羽がEGFPの発現に関して陽性であったため、ミニTol-EGFPをトランスフェクトされた創始雄鶏のPGCにそのミニTol-EGFPが安定に統合され、導入遺伝子がG1子孫へと生殖系列伝達されたことが確認された。3羽の雄鶏のうちの2羽は、生殖系列伝達が約1.5%であった。陽性であった5羽のG1雛に由来するゲノムDNAのサザンブロット分析から、5羽の雛のうちの4羽で単一転移事象が起こり、1羽の雛で二重転移事象が起こったことが明らかになった。
【0258】
実施例3:Z染色体への導入遺伝子の特別な統合
【0259】
産卵鶏産業のため、卵の中で性選択をする遺伝的方法を、(Tyack他、2013年)に記載されている方法を利用してZ染色体に単一のミニTol-EGFPを特別に挿入した雌鶏を誕生させることによって開発した。
【0260】
胚性始原生殖細胞(PGC)への直接的なトランスフェクションを利用し、Tol2トランスポゾンを用いて100羽を超える生殖系列G1ニワトリを誕生させた。G1ニワトリでサザンブロットを利用して導入遺伝子のコピー数を分析したところ、Tol2の挿入数は1~7コピーの範囲が可能であった。大半のG1雛(63%)は、導入遺伝子の挿入が1つだけである。ゲノムで挿入が起こった領域も分析した(
図4)。
【0261】
挿入の49.4%はイントロンの中であり、1.3%はエキソンの中であり(エキソンは、産生形質に連結された特定の遺伝子の発現を破壊するための標的とするのでなければ積極的に避けるべきであると考えられる領域である)、24.6%は反復領域の中であり、3.9%はUTR(非翻訳領域)の中であり、20.8%は未知の領域(すなわちニワトリのゲノムの最新バージョンで特徴づけられていない)の中であった。インサートの染色体分布から、12.3%がZ染色体の中に位置することが明らかになった(
図4)。染色体3は18.5%;染色体1は13.8%;染色体5は12.3%である。これら染色体のすべてが最上位であるため、統計的に挿入の数が最大になることが予測される。
【0262】
Z染色体全体の挿入部位のデータから、Z染色体上の8つの位置がマーカー導入遺伝子の統合に適していることが突き止められた。これらの位置を表4と表5に示す。これらはニワトリの生存に影響を与えない位置にあるため、Z遺伝子の発現と調節に対する有害な影響がない。この分析の結果として、さらなる研究は、雌鶏がZ染色体上のニワトリTalin1(chTLN1)のイントロンの中に単一のTol2 EGFRインサートを特別に有する1つの血統に焦点を絞った。この研究から、トランスポザーゼ技術を利用すると、Z結合選択マーカーを応用して卵内で雄性胚をうまく同定できるため、最初期段階で生産システムからその雄性胚を排除することが可能になることがわかる。これらの研究により、この応用の開発に利用できると考えられる適切なZ染色体位置を多数同定することが可能になったため、産卵から孵化までの任意の時点でZ結合マーカー遺伝子の発現を検出することが可能であることがわかった。選択マーカーは、遺伝子工学の技術を利用して繁殖用雌鶏のZ染色体に挿入される蛍光タンパク質である。この改変された染色体は、雄の子孫にだけ伝達される。それとは対照的に、雌であるすべての子孫は母親からW染色体だけを受け取るため、蛍光タンパク質マーカーを持つことは不可能である。雌である子孫は遺伝子が改変されていないため、蛍光マーカーを発現することができない。
【0263】
【0264】
【0265】
表4と表5に示されている統合部位は、ニワトリのゲノム(バージョンICGSC Gallus_gallus-4.0/galGal4)に関するカリフォルニア大学、サンタクルス(UCSC)のゲノムブラウザ(http://genome.ucsc.edu)のBLATアルゴリズムを利用して求めた。
【0266】
実施例4:胚内の蛍光マーカー遺伝子の検出
【0267】
GFPの蛍光を胚発生のさまざまな段階で分析した。蛍光は、フィルタ付きのGFP検出光源を用いて胚発生の2.5日目、10日目、18日目に検出した(
図5)。この方法は、蛍光を出す雄性胚を検出するため代わりに光ファイバーと内視鏡を用いる場合に適合させることができる。いくつかの蛍光タンパク質も卵の殻の外から直接検出することができる。
【0268】
実施例5:抗体の中和によるインターフェロン反応の中断で卵内のウイルス収量が増加する
【0269】
Top F'10大腸菌コンピテント細胞の中で、pQE50発現系を使用し、IPTGを用いて誘導した後にChIFNα、ChIFNβ、ChIFNγ、ChIFNλのORFを発現させた。組み換えタンパク質を溶解させ、Ni-NTA-アガロースを用いて精製した。rchIFNの生物活性はウイルス中和アッセイ(Lowenthal他、1995年)を利用して測定した。rchIFNは細胞をある範囲の濃度で保護したため、生物活性である(
図6)。
【0270】
rchIFNを免疫原として使用して相同組み換えタンパク質に対するウサギ抗血清を生成させた。Quilaja saponaria(Quil A)カクテルアジュバントの中の rchIFNタンパク質を7回まで皮下注射して雌のニュージーランド白ウサギを免疫化した。硫酸アンモニウムを用いてウサギ抗chIFN抗血清に含まれる球状血清タンパク質を富化した。富化した抗血清を分光測光器(NanoDrop(登録商標)ND-1000、NanoDrop Technologies社、アメリカ合衆国)を用いて定量した後、卵内に注入するため抗体を0.2μmのフィルタで殺菌した(Sartorius社、ドイツ国)。間接的ELISA分析を利用して血清の反応性とポリクローナル抗体認識を調べた。簡単に述べると、精製したrchIFNを96ウエルのELISAプレートの中の被覆用バッファーの中で希釈して5μg/mlにし、Titertek Multiscan Plusプレートリーダーで450 nmにて読み取った。この分析から、血清が対応するタンパク質に対して示す用量-効果反応性がわかった(
図7A)。
【0271】
次に、胚齢が10~11日目のHyline褐色卵(Hy-Line社、オーストラリア国)に、尿膜腔液を通じて抗体および/またはウイルスを接種した。1%ネオマイシン/ポリミクシンを含有するウイルス希釈液の中で(CSL Pty Ltd社から提供された)インフルエンザウイルスのストックを希釈して10-5にした。卵へのPR8(H1N1)ワクチンウイルスまたはH5N1ワクチンウイルス(NIBRG-14)(CSL社、オーストラリア国)の接種を別々に実施した。精製した抗chIFN抗体と抗chIL-6抗体もウイルス希釈溶液の中で希釈し、卵の中に、卵1個につき1000μg、または200μg、または20μgの割合で接種した。接種後、35℃で48時間にわたって孵卵した。
【0272】
孵卵の後、卵のキャンドリングによって生存を調べ、その後は回収に備えて一晩4℃に冷やした。尿膜腔液(5 ml)をそれぞれの卵から取り出してさらに分析した。回収した当日にHAアッセイを実施した。簡単に述べると、尿膜腔液サンプルをPBSの中で1/25に段階希釈し、丸底の96ウエルのプレート(ICN Biochemicals社、アメリカ合衆国)の最終行にデュープリケートで添加した。50μlの洗浄した0.5%ニワトリRBCをすべてのウエルに添加し、軽く叩いて混合し、室温で少なくとも40分間放置し、HAの終点を求めた。卵内実験から、抗chIFNα抗体(
図7B)と抗chIFNβ抗体(
図7C)はすべての濃度で卵の中のPR8ウイルスまたはNIBRG-14ウイルスのHA力価に対して有意な効果を持たないことが示された。しかし抗chIFNλ抗体(
図8A)は、200μg/卵で投与するとPR8ウイルスの力価を統計的に改善することが示された(p=0.04)。H5N1ワクチンウイルスの力価は、抗体を1000μg/卵(p=0.0045)で投与したときと20μg/卵(p=0.0001)で注入したときの両方で1.5倍まで向上した。同様に、抗chIFNγ抗体(
図8B)は、1000μg/卵(p=0.015)で接種すると、H5N1ワクチンウイルスのHA力価を向上させることができた。さらに、抗chIL-6抗体(
図8C)も卵の中のH5N1ワクチンウイルスの力価を統計的に向上させた。
【0273】
実施例6:インビトロでsiRNAによって多数の遺伝子を破壊するとウイルスの力価が上昇する
【0274】
抗ウイルス機能を有する遺伝子候補を同定するため、一群の遺伝子を小さな干渉RNA(siRNA)アッセイによって評価した。各遺伝子に対する多彩な(スマートプール)siRNAをDF-1細胞にトランスフェクトした後、トリインフルエンザ(AI)ウイルスを感染させた。結果は、KD後にウイルス力価が上昇し、細胞に対する明らかな毒性効果はまったくないことを示している(
図9)。少なくともいくつかの場合には明らかな効果が観察されなかったが、それはsiRNAが効果的なKDを生じさせるほど十分に早期に投与されなかったことに起因する可能性がある(例えば抗IL6抗体のデータを考慮すると、そのことで
図9のIL-6 siRNAのデータが説明される可能性が大きい)。CNOT4、IFNAR、MDA5について、個々のスマートプールsiRNAが細胞の生存と遺伝子サイレンシングに及ぼす効果を評価した(
図10)。
【0275】
実施例7:卵の中でshRNAによって多数の遺伝子を下方調節するとウイルスの力価が上昇する
【0276】
卵内分析のため、siRNAをABA-21/117Q/PFポリマー(ABA-21/117Q;PolyFluor 570染料標識なしのポリマー)との複合体として送達した(合計200μlの中のポリマーと2ナノモルのsiRNAのモル比が4:1)。複合体は、リン酸塩緩衝化食塩水(PBS)の存在下で水溶液の中に形成した。必要量のポリマー(316μg)を水の中に再懸濁させたものを試験管に添加し、ボルテックスにかけて混合した。次に、30μgのsi対照または24.5μgのsi抗IFNAR1に相当する合計2ナノモルを試験管に添加し、サンプルをボルテックスにかけた。室温で1時間継続することによって複合体が形成された。複合体を漿尿膜腔液に直接注入した。48時間後、ウイルスを以前に報告されているようにして注入し、サンプルをウイルス感染の24時間後に回収した。結果は、IFNAR1のノックダウン後にウイルスの増殖が増加することを示している(
図11と
図12)。
【0277】
実施例8:ニワトリの体内のIFNAR1遺伝子を欠失させるとインビトロでウイルス力価が上昇する
【0278】
ニワトリインターフェロン(α、β、ω)受容体1、すなわちIFNAR1(遺伝子ID:395665)の永久的な欠失がウイルスの収量に影響を及ぼすことを調べるため、ニワトリ胚線維芽細胞(DF-1)の連続細胞系からKO細胞系を作製した。微生物のクラスター化されて規則的な間隔で配置された短い回文反復(CRISPR/Cas9)系からのRNA誘導Cas9ヌクレアーゼを使用して2つの異なる一本鎖ガイドRNA(sgRNA)を設計し、二本鎖化によって二重二本鎖の切断を生じさせた。sgRNAを(Ran他、2013年)に従ってクローニングした後、対応するコンストラクトのDF-1細胞へのトランスフェクションを、IFNAR1前駆体の転写開始部位(TSS)と1つのエキソンが完全に除去された約200 bpの欠失のコード化を利用して実施した。BD FACSAria II(商標)セルソーターを用いてソーティングした後、単独の細胞を単離した。各クローン内の欠失をゲノムPCRスクリーニングの後に同定し、野生型と単一対立遺伝子細胞系と二対立遺伝子細胞系を識別した。
【0279】
トランスフェクションの後、約30%の対立遺伝子が200 bpを超える欠失を示した。そのことは、アンプリコンのクローニングとシークエンシングによって確認された。細胞を選別して単独クローンにした後、gDNA PCRによってスクリーニングし、単一対立遺伝子細胞系と二対立遺伝子細胞系を単離した。さらに、誘導された欠失は、遺伝子の量に依存して遺伝子の発現を転写レベルで妨害することが証明され、単一対立遺伝子細胞系は、野生型細胞系と比べて半分の発現レベルを示し、二対立遺伝子細胞系はゼロに近いレベルを示した。この効果はウイルスまたはポリ(I*C)を用いたチャレンジングの後にも継続し、後者は自然反応の強力な誘導因子である(
図13A、
図13B、
図13C)。
【0280】
欠失がワクチン製造に及ぼす影響を評価するため、H1N1株A/WSN/1933を大きな感染多重度(MOI)と小さな感染多重度で使用した(それぞれ1 MOIと0.1 MOI)。このアプローチを利用すると、プラーク形成単位(PFU)アッセイで測定するとき、10時間感染させた後にウイルスの収量が二対立遺伝子細胞系で有意に増加し、野生型細胞系で見られるレベルの約3倍になる。単離されたウイルスは、二対立遺伝子細胞系からのTCID
50が親細胞系と比べて5倍大きかった(
図13D)。
【0281】
実施例9:ヘンドラウイルスに対する抗ウイルス遺伝子のスクリーニングと同定
【0282】
ウイルス産生に関係する多数の遺伝子を、ヒトHeLa細胞の中でヘンドラウイルス(HeV)感染に必要なタンパク質を探すsiRNAスクリーンの中で同定した。HeLa細胞(ATCC CCL-2)は、10%v/vのウシ胎仔血清(FBS)、10 mMのHEPES、2 mMのL-グルタミン、100 U/mlのペニシリンと100μg/mlのストレプトマイシン(P/S;Life Technologies社)を補足した増殖培地(イーグル改変イーグル培地;EMEM)の中で維持した。Opti-MEM (Life Technologies社)の中のDharmafect-1(GE Life Sciences 社)を用いてHeLa細胞(7×10
4)にsiRNAプール(GE Life Sciences社)を一晩逆トランスフェクトした後、培地を除去し、トランスフェクション用培地(増殖培地から抗生剤を取り除いたもの)と交換し、細胞をさらに24時間インキュベートした。約6時間がトランスフェクション後(h.p.t.)に経過してから培地を交換し、さらに18時間インキュベートした。次に細胞にヘンドラウイルス(HeV)を感染させた(Hendra virus/Australia/Horse/1994/Hendra)。50%組織培養感染量(TCID
50)を求めるため、96ウエルの組織培養プレートの培地の中に組織培養物上清の10倍希釈物を作った。プレートを37℃かつ5%CO
2で3日間(HeV)インキュベートし、細胞変性効果をスコアにした。ReedとMuenchの方法(1938年)によって感染力価を計算した。抑制された遺伝子のウイルス複製を、標的でないsiRNA対照(siNT)と比較した。ウイルス複製の有意な増加が観察され、多数の遺伝子が抑制された(
図14と表3を参照されたい)。ADCY7のサイレンシングがウイルス力価の最大の増加を示した(表3参照)。
【0283】
実施例10:鳥類と鳥類の卵の中のオボトランスフェリンの過剰発現
【0284】
全体としてTyack他(2013年)に記載されている直接的注入法を利用して、Gallus gallusのオボトランスフェリンを過剰発現するニワトリを誕生させた。G1雌鶏からの卵に、鳥類の卵の中で増殖することが知られているサルモネラ・キアンブを注入した。感染した卵から卵白を回収し、サルモネラの増殖を細胞培養プレート上で評価した。
図15に示されているように、オボトランスフェリンの過剰発現によって卵白の抗微生物特性が対照と比べて向上する。そのため改変は、繁殖集団と、そこから産まれてバイオリアクターとして使用できる卵においてサルモネラ感染を減らすのに役立つ可能性がある。
【0285】
【0286】
実施例11:ニワトリ細胞へのSIAT1遺伝子の統合によってα-2,6シアル酸残基の数が増加する
【0287】
孵化した卵は、ヒトインフルエンザウイルスのワクチンを製造するのに役立つ。しかしウイルスの侵入と複製に利用されるシアル酸細胞受容体は、ヒトとニワトリで立体配座が異なっている。ニワトリでは、ヒトに存在するα-2,6シアル酸受容体ではなく、α-2,3受容体のほうが数が多い。接種されたウイルスは卵の環境に適応してヒトの免疫原性を低下させるため、得られるワクチンの効果はヒトに投与されたときには低下する。SIAT1遺伝子はα-2,6受容体を産生させる触媒となる。トランスポザーゼを用いてヒトSIAT1をマーカー遺伝子とともにニワトリのゲノムに統合できるかどうかを評価した。トランスポザーゼの活性は、SIAT1とマーカー遺伝子の安定な統合をゲノム全体で起こすことができる程度であると考えられる。Z染色体の相対的なサイズが理由で導入遺伝子がその位置に統合される可能性は非常に大きいと考えられ、そのような場合には、マーカー遺伝子を子孫の性選択に利用することができる。
【0288】
リポフェクタミン2000を用いてDF1ニワトリ線維芽細胞にtol2トランスポザーゼプラスミドと、CAGプロモータによって駆動されるカセットを含有するトランスポゾンプラスミドを、eGFPだけとともに、またはeGFPとT2AリボソームスキップペプチドとSIAT1とともにトランスフェクトした。トランスフェクション後(10日間)、GFP陽性DF1集団を選別した。
【0289】
集密度が80~90%の細胞をビオチン化レクチン(Vector Laboratories社、α-2,3残基を染色するためのMAL IIレクチン、α-2,6残基を染色するためのSNAレクチン)とともにインキュベートした後、ストレプトアビジン-フィコエリトリン複合体とともにインキュベートし、次いで4%パラホルムアルデヒドの中で固定して蛍光下でイメージングを実施した。各インキュベーション工程の間の時間に冷たいPBS/1%BSAを用いて細胞を洗浄した。
【0290】
FACSによって細胞を分析するため、0.25%トリプシン-EDTAを用いて細胞をそっと剥がし、1×106個の細胞をアリコートに分けて96ウエルのプレートのウエルに入れた。細胞を上記のようにして染色し、固定はせず、FACS Aria IIセルソーターにかけた。
【0291】
DF1細胞にトランスポゾンをトランスフェクトしてCAG-eGFPカセットを統合させると、eGFPが強力かつ安定に発現した。次に、同じCAG-eGFP(GFP)カセットを変更し、2Aペプチドを間に挟むことによってeGFP配列から隔てられたヒトSIAT1のコード配列が含まれるようにした。そのCAG-eGFP-2A-SIAT1(GFP-SIAT)カセットをトランスフェクトされたDF1細胞は、eGFPを、CAG-eGFPがトランスフェクトされた細胞と同様のレベルで発現した。
【0292】
eGFPで選別したDF1細胞集団の表面にあるシアル酸の染色から、GFPをトランスフェクトされたDF1細胞とGFP-SIATをトランスフェクトされたDF1細胞の表面にはα-2,3シアル酸残基が存在することが明らかになったが、α-2,6シアル酸残基はGFP-SIATをトランスフェクトされたDF1細胞の表面にだけ存在していた(
図16Aと
図16B)。FACS分析によるDF1細胞上のα-2,6残基の定量から、GFP(x平均=1200 rfu)をトランスフェクトされた細胞とGFP-SIAT(x平均=3800 rfu)をトランスフェクトされた細胞の間で蛍光染色の平均値の増加が3倍であることがわかった。
【0293】
したがってSIAT1を性選択マーカー遺伝子とともに挿入すると、卵の適応を回避した方法で、性選択された卵をワクチンの製造に用いることが可能になると考えられる。
【0294】
当業者には、広く記載されている本発明の精神または範囲を逸脱することなく、具体的な実施態様の中に示した本発明に対する多数のバリエーションおよび/または改変が可能であることがわかるであろう。したがって本発明の実施態様は、あらゆる点で説明を目的としており、限定することが目的ではないと見なされる。
【0295】
本出願は、「鳥類における形質選択」という名称で2017年5月31日に出願されたオーストラリア仮出願第2017902123号からの優先権を主張する。この出願の内容全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【0296】
本明細書で議論および/または参照されているすべての刊行物は、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0297】
本明細書に含まれている文書、操作、材料、装置、物品などについてのあらゆる議論は、本発明のための文脈を提示することだけを目的としている。これらの材料の任意のもの、またはすべてが、本出願の各請求項の優先日よりも前に存在していたという理由で、先行技術の基礎の一部を形成していること、または本発明に関係する分野における共通の一般的な知識であったことを認めるわけではない。
【0298】
【配列表】