(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】セラミック成形体からの有機物成分の除去方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/638 20060101AFI20240527BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20240527BHJP
C04B 35/632 20060101ALI20240527BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C04B35/638
B28B11/24
C04B35/632
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
(21)【出願番号】P 2020011697
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019013236
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 整
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/050590(WO,A1)
【文献】特開2001-303112(JP,A)
【文献】特表2003-512514(JP,A)
【文献】特開平06-084408(JP,A)
【文献】特開平06-206760(JP,A)
【文献】特開平06-128022(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023517(WO,A1)
【文献】特開2012-188299(JP,A)
【文献】特開平11-157945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/638
B28B 11/24
C04B 35/632
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック成形体から有機物成分を除去する方法であって、
添加剤、バインダー樹脂及びセラミックを含有するセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する工程を含み、
前記添加剤が、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、
臭化鉄、及び、アルミニウムイオンの無機酸塩の少なくとも一方(成分A4)から選ばれる少なくとも一つ化合物からなる、有機物成分の除去方法。
【請求項2】
成分A1が、β-ジケトン骨格を有する化合物と第一遷移金属及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一つの元素との錯体である、請求項1に記載の有機物成分の除去方法。
【請求項3】
バインダー樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びセルロース系樹脂から選ばれる少なくとも一つの化合物である、請求項1又は2に記載の有機物成分の除去方法。
【請求項4】
β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、
臭化鉄、及び、アルミニウムイオンの無機酸塩の少なくとも一方(成分A4)から選ばれる少なくとも一つ化合物からなる、セラミック成形体製造用添加剤であって、
成分A1が、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)及びトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)から選ばれる少なくとも一つの化合物である、セラミック成形体製造用添加剤。
【請求項5】
成分A2がN-メチルモルホリンN-オキシドであり、
成分A3が2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルであり、
成分A4
が臭化鉄
及び硝酸アルミニウム
の少なくとも一方である、請求項4に記載のセラミック成形体製造用添加剤。
【請求項6】
β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、
臭化鉄、及び、アルミニウムイオンの無機酸塩の少なくとも一方(成分A4)から選ばれる少なくとも一つ化合物からなる添加剤と、バインダー樹脂と、有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒と、を含有する、セラミック成形体製造用バインダー溶液。
【請求項7】
成分A1が、β-ジケトン骨格を有する化合物と第一遷移金属及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一つの元素との錯体である、請求項6に記載のセラミック成形体製造用バインダー溶液。
【請求項8】
成分Aが、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)、N-メチルモルホリンN-オキシド、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル
、臭化鉄
及び硝酸アルミニウムから選ばれる少なくとも一つの化合物である、請求項6又は7に記載のセラミック成形体製造用バインダー溶液。
【請求項9】
バインダー樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びセルロース系樹脂から選ばれる少なくとも一つの化合物である、請求項6から8のいずれかに記載のセラミック成形体製造用バインダー溶液。
【請求項10】
請求項4又は5に記載の添加剤と、バインダー樹脂と、有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒と、セラミックと、を含有する、セラミック成形体製造用セラミックスラリー。
【請求項11】
請求項4又は5に記載の添加剤とバインダー樹脂と有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒とセラミックとを配合し、セラミックスラリーを得る工程と、
前記セラミックスラリーを乾燥する工程と、を含む、セラミック成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項6から9のいずれかに記載のバインダー溶液とセラミックとを配合し、セラミックスラリーを得る工程と、
前記セラミックスラリーを乾燥する工程と、を含む、セラミック成形体の製造方法。
【請求項13】
添加剤、バインダー樹脂及びセラミックを含有するセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する工程と、
前記セラミック成形体を500℃を超える温度で焼成してセラミック焼成物を得る工程と、を含み、
前記添加剤が、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、
臭化鉄、及び、アルミニウムイオンの無機酸塩の少なくとも一方(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる、積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック成形体からの有機物成分の除去方法、セラミック成形体製造用添加剤、該添加剤を含有するセラミック成形体製造用バインダー溶液、セラミック成形体製造用セラミックスラリー、及び積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサを製造する場合には、一般に次のような工程が行われる。まず、セラミック粉末を分散させた有機溶媒中に、ポリビニルブチラール樹脂等のバインダー樹脂と可塑剤とを添加し、ボールミル等により均一に混合することでセラミックグリーンシート用スラリー組成物を調製し、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上に流延成形し、加熱等により溶剤等を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを製造する。
次いで、得られたセラミックグリーンシートの表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得て、所望のサイズに切断後、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経ることにより、積層セラミックコンデンサが製造される。
【0003】
近年、電子機器の多機能化や小型化に伴い、積層セラミックコンデンサには大容量化、小型化が求められている。これに対応して、セラミックグリーンシートに用いられるセラミック粉末としては、0.2μm以下の微細な粒子径のものが用いられ、セラミック粉末を含有するスラリー組成物の厚さが1μm以下となるように、薄膜状に剥離性の支持体上に塗工する試みがなされている。
【0004】
しかしながら、微細な粒子径のセラミック粉末を用いると、充填密度や表面積が増加するため、使用するバインダー樹脂量が増加し、これに伴って、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度も増大することから、塗工が困難となったり、セラミック粉末自体の分散不良が発生したりすることがあった。特許文献1から3には、このような課題解決のためのバインダー樹脂が開示され、特許文献4には、セラミック粉末の分散性を向上させる高分子分散剤が開示されている。また、特許文献5には、脱バインダー性や焼結性を改善するために、基板用グリーンシートの片面または両面に、基板用グリーンシートの所定の基板焼結温度では焼結しないセラミック粉末と酸化剤となる酸化物粉末と有機バインダーとよりなるダミー用グリーンシートを積層するセラミック電子部品の製造方法が開示されている。そして、酸化物粉末が二酸化鉛、四酸化三鉛、三酸化二鉛、二酸化マンガン、過酸化バリウム、過酸化カルシウム、過酸化ストロンチウム及び過酸化亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種であることが開示されている。特許文献6には、Ru、Pd、Os、Ir及びPtから選ばれる重金属を含有する金属含有物質を用いる有機物質の燃焼を促進する方法が開示されている。特許文献7には、ポリビニルブチラール樹脂とメタクリル酸エステル系樹脂とを主成分とし、これらを不飽和結合を有するアミド化合物で変成してなる複合樹脂からなるセラミックグリーンシート成形用バインダーが提案されている。特許文献8には、ポリビニルブチラール樹脂とメタクリル酸エステル系樹脂とを主成分とし、これらをエチレンカーボネートで変成してなる複合樹脂からなるセラミックグリーンシート成形用バインダーが提案されている。そして、特許文献7及び8の実施例では、チタン酸バリウム、オクチル酸ニオブ、オクチル酸ネオジミウム、アセチルアセトンコバルト(III)、エチルシリケート、アセチルアセトンマンガンを含む原料を粉砕混合分散処理して得た混合粉末に成形用バインダーとジオクチルフタレートを加えスラリーを得たことが開示されている。そして、スラリーから得られたグリーンシートを積み重ねて圧着した後、切断し、積層チップを得、1270℃で3時間焼成して焼結チップを得たことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-59358号公報
【文献】特開2006-89354号公報
【文献】WO2012/023517
【文献】特開2013-193912号公報
【文献】特開平11-157945号公報
【文献】昭63-295481号公報
【文献】特開平6-128022号公報
【文献】特開平6-206760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に開示されるセラミックグリーンシートの製造方法では、均一な薄膜状態を保ちながらバインダー樹脂等の有機物成分を短時間に低温度で除去することが困難であり、積層セラミックコンデンサの品質低下や生産効率低下を招くという問題がある。また、特許文献5に開示される酸化物粉末を用いる方法では、酸化物粉末の有機溶媒への溶解度が低く、バインダー溶液やセラミックスラリーに添加した場合に析出してしまい均一な薄膜を形成することが困難であり、積層セラミックコンデンサの品質低下や生産効率低下を招くという問題がある。そのため、積層セラミックコンデンサの品質低下や生産効率低下を招くことなく、均一な薄膜状態を保ちながらバインダー樹脂等の有機物成分を短時間かつ低温度で除去できるセラミックグリーンシートの製造方法が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、セラミック成形体からの有機物成分の除去性に優れる、有機物成分の除去方法、セラミック成形体製造用添加剤、並びに、これを用いたセラミック成形体製造用バインダー溶液、セラミックスラリー、セラミック成形体の製造方法及び積層セラミックコンデンサの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、セラミック成形体から有機物成分を除去する方法であって、添加剤、バインダー樹脂及びセラミックを含有するセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する工程を含み、前記添加剤が、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる、有機物成分の除去方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる、セラミック成形体製造用添加剤であって、成分A1が、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)及びトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)から選ばれる少なくとも一つの化合物である、セラミック成形体製造用添加剤に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる添加剤と、バインダー樹脂と、有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒と、を含有する、セラミック成形体製造用バインダー溶液に関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示の添加剤と、バインダー樹脂と、有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒と、セラミックと、を含有する、セラミック成形体製造用セラミックスラリーに関する。
【0012】
本開示は、一態様において、本開示の添加剤とバインダー樹脂と有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒とセラミックとを配合し、セラミックスラリーを得る工程と、前記セラミックスラリーを乾燥する工程と、を含む、セラミック成形体の製造方法に関する。
【0013】
本開示は、一態様において、本開示のバインダー溶液とセラミックとを配合し、セラミックスラリーを得る工程と、前記セラミックスラリーを乾燥する工程と、を含む、セラミック成形体の製造方法に関する。
【0014】
本開示は、一態様において、添加剤、バインダー樹脂及びセラミックを含有するセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する工程と、前記セラミック成形体を500℃を超える温度で焼成してセラミック焼成物を得る工程と、を含み、前記添加剤が、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる、積層セラミックコンデンサの製造方法に関する
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、一態様において、セラミック成形体からの有機物成分の除去性に優れる有機物成分の除去方法及びセラミック成形体製造用添加剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、特定の添加剤を用いてセラミックグリーンシートを製造することで、積層セラミックコンデンサの製造過程において、バインダー樹脂等由来の有機物成分を効率よく除去できるという知見に基づく。
【0017】
すなわち、本開示は、一態様において、セラミック成形体からの有機物成分を除去する方法であって、添加剤、バインダー樹脂及びセラミックを含有するセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する工程を含み、前記添加剤が、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる、有機物成分の除去方法に関する。
本開示は、一態様において、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなるセラミック成形体製造用添加剤(以下、「本開示の添加剤」ともいう)に関する。
【0018】
本開示の効果が発現するメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推定される。
本開示における成分A1~A4の少なくとも1つの化合物からなる添加剤は、有機溶媒又は水に溶けることから、バインダー溶液に添加しても均一に溶解し、セラミックスラリー中でも均一となり、薄膜状に支持体上に塗工してもセラミック成形体中に均一に存在できる。そして、成分A1~A4は酸化剤として機能するため、バインダー樹脂等の有機物を低温でも効率よく酸化させて、脱脂工程や焼成工程において、低温かつ短時間で有機物残渣を低減できると推定される。
ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0019】
[有機物成分の除去方法]
本開示は、一態様において、セラミック成形体から有機物成分を除去する方法(以下、「本開示の有機物成分除去方法」ともいう)に関する。本開示の有機物成分除去は、添加剤、バインダー樹脂及びセラミックを含有するセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する工程(以下、「脱脂工程」ともいう)を含む。この温度範囲に保持することにより、セラミックの焼結は進行しないが有機物の分解が促進され、効率的に有機物成分の除去が進行すると考えられる。
【0020】
前記脱脂工程におけるセラミック成形体の保持温度は、一又は複数の実施形態において、有機物残渣低減の観点から、200℃以上であって、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、そして、セラミック成型体のクラック発生防止という観点から、500℃以下であって、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
前記脱脂工程におけるセラミック成形体の保持温度は、一定温度でもよいし、温度変化があってもよい。温度を変化させる方法としては、例えば、200℃から500℃まで低速度で昇温する方法(連続昇温)が挙げられる。昇温速度としては、有機物残渣低減の観点から、30℃/分以下が好ましく、10℃/分以下がより好ましく、5℃/分以下が更に好ましい。そして、昇温速度は、セラミックス焼成温度に到達させる観点から、0.1℃/分以上が好ましい。
前記脱脂工程においてセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する期間は、有機物残渣低減の観点から、30分以上が好ましく、90分以上がより好ましく、180分以上が更に好ましく、250分以上がより更に好ましい。そして、温度を保持する期間は、セラミックス焼成物の生産性向上の観点から、500分以下が好ましい。
【0021】
セラミック成形体としては、例えば、セラミックグリーンシートが挙げられる。
【0022】
セラミック成形体に含まれる添加剤は、一又は複数の実施形態において、有機物残渣低減の観点から、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる。成分A1~成分A4については後述するものが挙げられる。
【0023】
セラミック成形体に含まれるバインダー樹脂は、一又は複数の実施形態において、有機物残渣低減の観点から、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びセルロース系樹脂から選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0024】
セラミック成形体に含まれるセラミックとしては、後述するセラミックスラリーの調製に用いられるセラミック(成分E)と同じものが挙げられる。
【0025】
[セラミック成形体製造用添加剤]
本開示の添加剤は、一又は複数の実施形態において、β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる。本開示の添加剤は、一又は複数の実施形態において、有機物残渣低減剤である。本開示の添加剤は、一又は複数の実施形態において、有機物を酸化するための酸化剤である。本開示の添加剤は、一又は複数の実施形態において、セラミック成形体から有機物成分を除去するために使用することができる。
【0026】
<β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)>
本開示におけるβ-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)は、分子内にβ-ジケトン骨格を有する化合物であればいずれのものでもよい。成分A1は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0027】
成分A1は、一又は複数の実施形態において、一部又は全部がエノール体であってもよいし、エノラート体であってもよい。成分A1としては、一又は複数の実施形態において、下記式(I)で表される化合物、及び、分子内に式(II)で表される構造を有する化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、有機物残渣低減の観点から、分子内に式(II)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0028】
【0029】
式(II)中、*は、結合位置を示す。*は、一又は複数の実施形態において、水素原子又は金属元素との結合位置を示す。金属元素としては、例えば、遷移金属及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。遷移金属としては、マンガン、鉄、コバルト、クロム等が挙げられる。
【0030】
成分A1は、有機物残渣低減の観点から、β-ジケトン骨格を有する化合物と遷移金属及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一つの元素との錯体(成分A1’)であることが好ましい。遷移金属としては、マンガン、鉄、コバルト、クロム等の第一遷移元素が挙げられる。すなわち、成分A1は、有機物残渣低減の観点から、β-ジケトン骨格を有する化合物と第一遷移金属及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一つの元素との錯体(成分A1’)であることが好ましい。
したがって、本開示は、一態様において、β-ジケトン骨格を有する化合物と第一遷移金属及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一つの元素との錯体(成分A1’)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物の、セラミック成形体からの有機物成分の除去のための使用に関する。
また、本開示は、一態様において、β-ジケトン骨格を有する化合物と第一遷移金属及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一つの元素との錯体(成分A1’)、アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物であって、の、セラミック成形体製造用添加剤としての使用に関する。
【0031】
成分A1の具体例としては、一又は複数の実施形態において、有機物残渣低減の観点から、1,3-シクロヘキサンジオン、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)銅(II)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)、及びトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)鉄(III)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)、及びトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)鉄(III)から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、及びトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。成分A1は、その他の一又は複数の実施形態において、有機物残渣低減の観点から、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、及びトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)から選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0032】
<アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)>
本開示におけるアミンオキシド基を有する化合物(成分A2)は、分子内にアミンオキシド基を有する化合物であればいずれのものでもよい。成分A2は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0033】
成分A2としては、一又は複数の実施形態において、下記式(III)で表される非環状アミンオキシド化合物、下記式(IV)又は(V)で表される構造を有する環状アミンオキシド化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
【0035】
式(III)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に有機基を示し、有機物残渣低減の観点から、炭素数1以上20以下のアルキル基が好ましい。アルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
式(IV)中、R4は炭化水素基を示し、有機物残渣低減の観点から、メチル基が好ましい。
式(V)中、R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を示す。炭化水素基は、有機物残渣低減の観点から、メチル基が好ましい。
【0036】
成分A2の具体例としては、有機物残渣低減の観点から、N-メチルモルホリンN-オキシド、ピリジンN-オキシド、2,6-ルチゾンN-オキシド、トリメチルアミンN-オキシド、及びラウリルジメチルアミンN-オキシドから選ばれる少なくとも1種が好ましく、N-メチルモルホリンN-オキシドがより好ましい。
【0037】
<ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)>
本開示のニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)は、分子内にニトロキシラジカル基を有する化合物であればいずれのものでもよい。成分A3は、1種でもよいし、2種以上の組合せもよい。
【0038】
成分A3としては、一又は複数の実施形態において、分子内に下記式(VI)で表されるニトロキシラジカルを有する化合物が挙げられる。
【0039】
【0040】
式(VI)中、*は有機基との結合位置を示す。
【0041】
成分A3の具体例としては、有機物残渣低減の観点から、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、及び2-アザアダマンタン-N-オキシル、2-ヒドロキシ-2-アザアダマンタンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、及び4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルが更に好ましい。
【0042】
成分A1~A3は、有機物残渣低減の観点から、トルエンとエタノールの混合溶媒(質量比1:1)への溶解度が25℃において1質量%以上であることが好ましい。
【0043】
<遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)>
成分A4は、有機物残渣低減の観点から、硝酸鉄、臭化鉄、硝酸銅、塩化銅及び硝酸アルミニウムから選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。成分A4の化合物はいずれも水に溶解するので、溶媒として水を用いることが好ましい。
【0044】
成分Aは、一又は複数の実施形態において、有機物残渣低減の観点から、ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)、N-メチルモルホリンN-オキシド、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、硝酸鉄、臭化鉄、硝酸銅、塩化銅及び硝酸アルミニウムから選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0045】
[添加剤組成物]
本開示は、一態様において、本開示の添加剤(以下、「成分A」ともいう)を含有する添加剤組成物(以下、「本開示の添加剤組成物」ともいう)に関する。本開示の添加剤組成物における成分Aとしては、上述したものが挙げられる。本開示の添加剤組成物は、一又は複数の実施形態において、成分A以外のその他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、有機溶媒が挙げられる。
【0046】
[バインダー溶液]
本開示は、一態様において、本開示の添加剤(成分A)を含有する、セラミック成形体製造用バインダー溶液(以下、「本開示のバインダー溶液」)に関する。本開示のバインダー溶液は、一又は複数の実施形態において、本開示の添加剤(成分A)と、バインダー樹脂(以下、「成分B」ともいう)と、有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒(以下、「成分D」ともいう)とを含有する。本開示のバインダー溶液は、一又は複数の実施形態において、可塑剤(以下、「成分C」ともいう)をさらに含むことができる。成分Aが成分A1、成分A2及び成分A3から選ばれる少なくとも1種である場合、本開示のバインダー溶液は成分Cを含むことが好ましい。
【0047】
<添加剤(成分A)>
本開示のバインダー溶液における成分Aは、上述したとおり、前記β-ジケトン骨格を有する化合物(成分A1)、前記アミンオキシド基を有する化合物(成分A2)、前記ニトロキシラジカル基を有する化合物(成分A3)、並びに、遷移金属イオン及びアルミニウムイオンの少なくとも一方の無機酸との塩(成分A4)から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。成分A1~A4としては、上述したものが挙げられる。これらの中でも、成分Aとしては、有機物残渣低減の観点から、前記式(II)で表される構造を有する化合物である成分A1が好ましい。
【0048】
本開示のバインダー溶液における成分Aの含有量は、成分Bの濃度に応じて適宜設定することができる。
本開示のバインダー溶液における成分Bが高濃度(例えば、成分Bの含有量が8質量%超)である場合、本開示のバインダー溶液における成分Aの含有量は、有機物残渣低減の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、0.8質量%以上がより更に好ましく、そして、同様の観点から、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、2質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Aの含有量は、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.8質量%以上2質量%以下がより更に好ましい。成分Aが2種以上の化合物からなる場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
また、本開示のバインダー溶液における成分Bが低濃度(例えば、成分Bの含有量が8質量%以下)である場合、本開示のバインダー溶液における成分Aの含有量は、有機物残渣低減の観点から、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、2質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Aの含有量は、0.05質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がより更に好ましい。
【0049】
また、本開示のバインダー溶液における成分Aの含有量は、有機物残渣低減の観点から、成分B100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましく、8質量部以上がより更に好ましい。そして、同様の観点から、成分B100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましく、30質量部以下が更に好ましく、25質量部以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Aの含有量は、成分B100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下が好ましく、3質量部以上35質量部以下がより好ましく、5質量部以上30質量部以下が更に好ましく、8質量部以上25質量部以下がより更に好ましい。
【0050】
<バインダー樹脂(成分B)>
本開示のバインダー溶液における成分Bは、従来からセラミックグリーンシート等のセラミック成形体に用いられているバインダー樹脂であればいずれのものでもよい。成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。成分Bの具体例としては、ポリビニルブチラール樹脂(PVB樹脂)、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらのなかでも、成分Bは、セラミック成形体の強度向上の観点から、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びセルロース系樹脂から選ばれる少なくとも一つの化合物を好適に用いることができ、ポリビニルブチラール樹脂(PVB樹脂)が好ましい。
【0051】
本開示のバインダー溶液における成分Bの含有量は、セラミック成形体の強度向上の観点から、5質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましく、8質量%以上が更に好ましく、10質量%以上がより更に好ましく、そして、有機残渣低減の観点から、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下が更に好ましく、15質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Bの含有量は、5質量%以上25質量%以下が好ましく、6質量%以上20質量%以下がより好ましく、8質量%以上18質量%以下が更に好ましく、10質量%以上15質量%以下がより更に好ましい。成分Bが2種以上のバインダー樹脂からなる場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0052】
<可塑剤(成分C)>
本開示のバインダー溶液が成分Cを含む場合、本開示のバインダー溶液における成分Cは、従来からセラミックグリーンシート等のセラミック成形体に用いられている可塑剤であればいずれのものでもよい。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0053】
成分Cの具体例としては、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)等のフタル酸ジエステル、ジオクチルアジペート等のアジピン酸ジエステル、トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサレート等のアルキレングリコールジエステル等が挙げられ、セラミック成形体の柔軟性向上の観点から、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)が好ましい。
【0054】
本開示のバインダー溶液が成分Cを含む場合、本開示のバインダー溶液における、成分Cの含有量は、セラミック成形体の柔軟性向上の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が更に好ましく、2質量%以上がより更に好ましく、そして、有機物残渣低減の観点から、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、4質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Cの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上7質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上5質量%以下が更に好ましく、2質量%以上4質量%以下がより更に好ましい。成分Cが2種以上の可塑剤からなる場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0055】
また、成分Cの含有量は、セラミック成形体の柔軟性の観点から、成分B100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上が更に好ましく、20質量部以上がより更に好ましく、そして、有機物残渣低減の観点から、成分B100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下が更に好ましく、35質量部以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Cの含有量は、成分B100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下が好ましく、10質量部以上45質量部以下がより好ましく、15質量部以上40質量部以下が更に好ましく、20質量部以上35質量部以下がより更に好ましい。
【0056】
<有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒(成分D)>
本開示のバインダー溶液における成分Dは、従来からセラミックグリーンシート等のセラミック成形体に用いられている有機溶媒又は水であればいずれのものでもよい。成分Dは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。本開示のバインダー溶液に含まれる成分Aが成分A1、成分A2及び成分A3から選ばれる少なくとも1種である場合、本開示のバインダー溶液は成分Dとして有機溶媒を含むことが好ましい。本開示のバインダー溶液に含まれる成分Aが成分A4である場合、本開示のバインダー溶液は成分Dとして水を含むことが好ましい。
【0057】
成分Dが有機溶媒である場合、成分Dの具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-オクタノール、ジアセトンアルコール、ターピネオール、ブチルカルビトール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル等のエステル類;エチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ナフサ、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トルエン、キシレン、ピリジン等の芳香族類が挙げられ、バインダー樹脂の溶解性向上の観点から、アルコール類及びセロソルブ類が好ましく、アルコール類がより好ましく、メタノール、エタノール及び2-プロパノールが更に好ましく、エタノールがより更に好ましい。
さらに、成分Dが有機溶媒である場合、成分Dは、セラミックスラリーから有機溶媒を穏やかに除去して均質なセラミック成形体を成形する観点から、沸点の異なる2種以上の有機溶媒の混合物が好ましく、アルコール類及びセロソルブ類と共沸しにくい他の有機溶媒と、アルコール類及びセロソルブ類との混合物がより好ましい。前記アルコール類及びセロソルブ類と共沸しにくい他の有機溶媒としては、炭化水素類及び芳香族類が好ましく、芳香族類がより好ましく、トルエンが更に好ましい。これらの観点を総合すると、成分Dとしては、芳香族類とアルコール類の混合物が好ましく、トルエンとエタノールとの混合物がより好ましい。有機溶媒(成分D)におけるトルエンとエタノールの質量比(トルエン/エタノール)は、同様の観点から、0.1以上3以下が好ましく、0.3以上2以下がより好ましく、0.6以上1.5が更に好ましい。
【0058】
成分Dが水である場合、成分Dとしては、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。
【0059】
本開示のバインダー溶液における成分Dの含有量は、バインダー樹脂の溶解性向上の観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましく、70質量%以上がより更に好ましく、そして、生産性向上の観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、88質量%以下が更に好ましく、85質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Dの含有量は、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上90質量%以下がより好ましく、65質量%以上88質量%以下が更に好ましく、70質量%以上85質量%以下がより更に好ましい。成分Dが2種以上の有機溶媒の混合物である場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0060】
<その他の成分>
本開示のバインダー溶液は、前記成分A~D以外に、必要に応じてその他の成分をさらに含有することができる。その他の成分としては、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤等の従来公知の添加剤が挙げられる。
【0061】
<バインダー溶液の製造方法>
本開示のバインダー溶液は、例えば、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B、成分D及び必要に応じて任意成分(成分C、その他の成分)を公知の方法で配合することにより製造できる。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも成分A、成分B、成分Dを配合する工程を含む、バインダー溶液の製造方法(以下、「本開示のバインダー溶液の製造方法」ともいう)に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分D及び必要に応じて任意成分(成分C、その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。本開示のバインダー溶液の製造方法において、各成分の配合量は、上述した本開示のバインダー溶液の各成分の含有量と同じとすることができる。
【0062】
[セラミックスラリー]
本開示は、一態様において、本開示の添加剤を含有する、セラミック成形体製造用セラミックスラリー(以下、「本開示のセラミックスラリー」ともいう)に関する。
本開示のセラミックスラリーは、一又は複数の実施形態において、本開示の添加剤(成分A)と、バインダー樹脂(成分B)と、有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒(成分D)とセラミック(以下、「成分E」ともいう)とを含有するものである。成分Aが成分A1、成分A2及び成分A3から選ばれる少なくとも1種である場合、本開示のセラミックスラリーは成分Dとして有機溶媒を含むことが好ましい。成分Aが成分A4である場合、本開示のセラミックスラリーは成分Dとして水を含むことが好ましい。
本開示のセラミックスラリーは、一又は複数の実施形態において、可塑剤(成分C)をさらに含むことができる。成分Aが成分A1、成分A2及び成分A3から選ばれる少なくとも1種である場合、本開示のバインダー溶液は成分Cを含むことが好ましい。
【0063】
本開示のセラミックスラリーにおける成分Aの含有量は、有機物残渣低減の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、0.8質量%以上がより更に好ましく、そして、同様の観点から、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、2質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Aの含有量は、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.8質量%以上2質量%以下がより更に好ましい。成分Aが2種以上の化合物からなる場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0064】
本開示のセラミックスラリーにおける成分Bの含有量は、セラミックの分散性向上の観点から、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、9質量%以上がより更に好ましく、そして、有機残渣低減の観点から、20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましく、12質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Bの含有量は、2質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上18質量%以下がより好ましく、7質量%以上15質量%以下が更に好ましく、9質量%以上12質量%以下がより更に好ましい。成分Bが2種以上のバインダー樹脂からなる場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0065】
本開示のセラミックスラリーが成分Cを含む場合、本開示のセラミックスラリーにおける成分Cの含有量は、セラミック成形体の柔軟性向上の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が更に好ましく、2質量%以上がより更に好ましく、そして、有機物残渣低減の観点から、9質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、4質量%以下が更に好ましく、3質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Cの含有量は、0.5質量%以上9質量%以下が好ましく、1質量%以上6質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上4質量%以下が更に好ましく、2質量%以上3質量%以下がより更に好ましい。成分Cが2種以上の可塑剤からなる場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0066】
本開示のセラミックスラリーにおける成分Dの含有量は、バインダー樹脂の溶解性向上の観点から、45質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、65質量%以上がより更に好ましく、そして、生産性向上の観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましく、80質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Dの含有量は、45質量%以上95質量%以下が好ましく、55質量%以上90質量%以下がより好ましく、60質量%以上85質量%以下が更に好ましく、65質量%以上80質量%以下がより更に好ましい。成分Dが2種以上の有機溶媒からなる場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0067】
<セラミック(成分E)>
本開示のセラミックスラリーにおけるセラミック(成分E)は、従来からセラミックグリーンシート等のセラミック成形体に用いられているセラミックであればいずれのものでもよい。成分Eは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。成分Eの具体例としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸カルシウム、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、フェライト等の粉末が挙げられ、積層セラミックコンデンサの性能向上の観点から、チタン酸バリウムが好ましい。
【0068】
本開示のセラミックスラリーに用いられるチタン酸バリウムとしては、分散性向上の観点、セラミック成形体の剥離性向上の観点及びセラミックスラリー調製の容易性の観点から、粉末であることが好ましい。前記チタン酸バリウムのBET比表面積に基づく平均粒径(以下、単に「チタン酸バリウムの平均粒径」ともいう」)は、セラミック成形体の剥離性向上の観点から5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、35nm以上がより更に好ましく、そして、セラミックスラリー中の分散性向上の観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、120nm以下が更に好ましく、100nm以下がより更に好ましい。より具体的には、前記チタン酸バリウムの平均粒径は、5nm以上300nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、20nm以上120nm以下が更に好ましく、35nm以上100nm以下がより更に好ましい。
【0069】
本開示において、本開示のセラミックスラリーの調製に用いられるチタン酸バリウムのBET比表面積に基づく平均粒径は、チタン酸バリウムを粒子径R(m)の球と仮定して、窒素吸着法により測定されたBET比表面積S(m2/g)及びチタン酸バリウムの比重ρ(6.0g/cm3)を用いて、求めることができる。すなわち、BET比表面積は単位質量当たりの表面積であるので、チタン酸バリウムの表面積をA(m2)、質量をW(g)とすると、
S(m2/g)
= A(m2)÷W(g)
=[4×π×(R÷2)2]÷[4÷3×π×(R÷2)3×ρ×106 ]
= 6÷(R×ρ×106)
の関係式が求められる。粒子径の単位をmからnmに変換すると、前記関係式は、R(nm)=6000÷(S×ρ)となり、平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)を求めることができる。例えば、チタン酸バリウムのBET比表面積が20(m2/g)であれば、その平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)は、50nmとなる。
【0070】
本開示のセラミックスラリーにおける成分Eの含有量は、電気特性向上の観点から、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、13質量%以上がより更に好ましく、そして、塗工作業性を向上し生産性を向上させる観点から、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、30質量%以下がより更に好ましい。より具体的には、成分Eの含有量は、5質量%以上80質量%以下が好ましく、8質量%以上60質量%以下がより好ましく、10質量%以上40質量%以下が更に好ましく、13質量%以上30質量%以下がより更に好ましい。成分Eが2種以上のセラミックからなる場合、成分Eの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0071】
<その他の成分>
本開示のセラミックスラリーは、前記成分A~E以外に、必要に応じてその他の成分をさらに含有することができる。その他の成分としては、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤等の従来公知の添加剤が挙げられる。
【0072】
<セラミックスラリーの製造方法>
本開示のセラミックスラリーは、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B、成分D、成分E及び必要に応じて任意成分(成分C、その他の成分)を公知の方法で配合することにより製造できる。また、本開示のバインダー溶液は、上述したとおり、成分A、成分B、成分D及び必要に応じて成分Cを含有することから、本開示のセラミックスラリーは、その他の一又は複数の実施形態において、本開示のバインダー溶液、成分E及び必要に応じてその他の成分を公知の方法で配合することにより製造できる。さらに、本開示のバインダー溶液に含まれる有機溶媒(成分D)は、本開示のセラミックスラリーの調製に使用される有機溶媒の一部であってもよい。すなわち、本開示のセラミックスラリーは、その他の一又は複数の実施形態において、本開示のバインダー溶液、有機溶媒(成分D)、成分E及び必要に応じてその他の成分を公知の方法で配合することにより製造できる。
したがって、本開示は、一態様において、成分A、成分B、成分D、成分E及び必要に応じて任意成分(成分C、その他の成分)を配合する工程(以下、「配合工程」ともいう)を含む、セラミックスラリーの製造方法(以下、「本開示のセラミックスラリーの製造方法」ともいう)に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分D、成分E及び必要に応じて任意成分(成分C、その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。
成分Aを配合する順番は、有機物残渣低減の観点から、成分Eと成分Dと必要に応じてその他の成分を配合した後に、成分Aを配合することが好ましい。
一又は複数の実施形態において、成分Aを配合する順番としては、成分Eと成分Dとを混合した後、成分A及び成分Bを含む混合溶液を混合することが挙げられる。したがって、前記配合工程は、一又は複数の実施形態において、成分E、成分D及び必要に応じてその他の成分を配合する工程(一次分散工程)と、成分A、成分B及び必要に応じて成分Cをさらに配合する工程(二次分散工程)を含む。これにより、成分Eと成分Dとその他成分を混合した状態で成分Eを一次粒径まで解砕した後、成分Aと成分Bと成分Cを混合してセラミックスラリーを製造できる。
その他の一又は複数の実施形態において、成分Aを配合する順番としては、セラミックスラリーを皮膜化する直前に成分Aを混合することが挙げられる。したがって、前記配合工程は、その他の一又は複数の実施形態において、成分E、成分D及びその他の成分を配合する工程(一次分散工程)と、成分B及び必要に応じて成分Cをさらに配合する工程(二次分散工程)と、成分Aをさらに配合する工程(最終添加工程)を含む。これにより、成分Eと成分Dとその他成分を混合した状態で成分Eを一次粒径まで解砕した後、成分Bと成分Cを混合し、更に成分Aを混合してセラミックスラリーを製造できる。
本開示のセラミックスラリーの製造方法において、各成分の配合量は、上述した本開示のセラミックスラリーの各成分の含有量と同じとすることができる。なお、1μm以下の薄いセラミック成形体を作製する場合には、作業性向上及び膜厚を均一にする観点から、有機溶媒(成分D)で希釈して、セラミックスラリーの有機溶媒以外の固形分濃度を20質量%以上40質量%以下にすることが好ましく、25質量%以上35質量%以下にすることがより好ましい。
【0073】
本開示のセラミックスラリーを製造する方法としては、例えば、上記各成分をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0074】
[セラミック成形体の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示のセラミックスラリーを乾燥する工程を含む、セラミック成形体の製造方法(以下、「本開示のセラミック成形体の製造方法」ともいう)に関する。本開示のセラミック成形体の製造方法の一実施形態としては、本開示の添加剤(成分A)とバインダー樹脂(成分B)と有機溶媒及び水の少なくとも一方の溶媒(成分D)とセラミック(成分E)と必要に応じて任意成分(成分C、その他の成分)を配合し、セラミックスラリーを得る工程と、前記セラミックスラリーを乾燥する工程を含む。また、本開示のセラミック成形体の製造方法の他の実施形態としては、本開示のバインダー溶液とセラミック(成分E)とを配合し、セラミックスラリーを得る工程と、前記セラミックスラリーを配合する工程を含む。本開示のセラミック成形体の製造方法としては、一又は複数の実施形態において、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、本開示のセラミックスラリーをポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上に流延成形し、加熱等により溶剤等を留去させた後、支持体から剥離する方法等が挙げられる。本開示のセラミック成形体の製造方法は、一又は複数の実施形態において、積層セラミックコンデンサを製造するための材料であるセラミック成形体の製造に用いることが好ましい。積層セラミックコンデンサは、セラミック成形体、すなわち、セラミックグリーンシートに導電ペーストを塗布したものを積層することにより作製できる。
【0075】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の有機物成分除去方法を含む、積層セラミックコンデンサの製造方法(以下、「本開示の積層セラミックコンデンサの製造方法」ともいう)に関する。すなわち、本開示の積層セラミックコンデンサの製造方法は、一又は複数の実施形態において、成分A1、成分A2、成分A3及び成分A4から選ばれる少なくとも一つの化合物からなる添加剤(成分A)、バインダー樹脂(成分B)、並びにセラミック(成分E)を含有するセラミック成形体を200℃以上500℃以下の温度に保持する工程(脱脂工程)を含む。本開示の積層セラミックコンデンサの製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記脱脂工程後のセラミック成形体を500℃を超える温度で焼成してセラミック焼成物を得る工程(焼成工程)をさらに含む。具体的には、成分A、成分B及び成分Eを含有するセラミック成形体(セラミックグリーンシート)の表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得て、所望のサイズに切断後、200℃以上500℃以下の温度に保持することにより積層体中に含まれるバインダー樹脂等の有機物成分を熱分解して除去した後(脱脂処理)、500℃を超える温度で焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結することにより積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
1.セラミックスラリーの調製(実施例1~12、比較例1~2)
(実施例1~11、比較例1)
表1に示す成分A~Dを配合し混合することにより、バインダー溶液を調製した。次いで、各バインダー溶液とセラミック(成分E)を配合して攪拌棒で攪拌することにより、実施例1~11及び比較例1のセラミックスラリーを1g調製した。各セラミックスラリー中の各成分の含有量(質量%、有効分)は、表1に示すとおりである。なお、表1において、( )内の数値は、バインダー溶液中の各成分の含有量(質量%、有効分)を示す。
(実施例12、比較例2)
表2に示す成分A~Dを配合し混合することにより、バインダー溶液を調製した。次いで、有機溶媒(成分D)とセラミック(成分E)を配合して攪拌棒で攪拌することにより成分Eの分散液を調製した。そして、各バインダー溶液と成分Eの分散液を配合して混合することにより、実施例12及び比較例2のセラミックスラリーを1g調製した。各セラミックスラリー中の各成分の含有量(質量%、有効分)は、表2に示すとおりである。なお、表2において、( )内の数値は、バインダー溶液中の各成分の含有量(質量%、有効分)を示す。
【0078】
セラミックスラリーの調製には、下記の成分を用いた。
<添加剤(成分A)>
添加剤(成分A)には、下記の成分A1~A3を有機物残渣低減剤として用いた。
(成分A1)
ビス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(II)[SIGMA-ALDRICH, Inc.製、マンガン(II)アセチルアセトナート]
トリス(2,4-ペンタンジオナト)マンガン(III)[東京化成工業株式会社製]
トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)[東京化成工業株式会社製]
トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)[富士フィルムワコ-ケミカル株式会社製]
トリス(2,4-ペンタンジオナト)クロム(III)[東京化成工業株式会社製]
トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)[東京化成工業株式会社製]
トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)[東京化成工業株式会社製]
(成分A2)
N-メチルモルホリンN-オキシド[東京化成工業株式会社製、4-メチルモルホリンN-オキシド]
(成分A3)
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル[東京化成工業株式会社製、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル]
なお、前記成分A1~成分A3は、トルエンとエタノールの混合溶媒(質量比1:1)への溶解度が1質量%以上である。
<バインダー(成分B)>
ポリビニルブチラール樹脂(PVB樹脂)[株式会社クラレ製、モビタールB60H]
<可塑剤(成分C)>
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)[富士フィルム和光純薬株式会社製]
<有機溶媒(成分D)>
トルエン[富士フィルム和光純薬株式会社製]
エタノール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
<セラミック(成分E)>
チタン酸バリウム[共立マテリアル株式会社製、BT-HP9DX、平均粒子径100nm]
【0079】
2.有機物除去性の評価(実施例1~12、比較例1~2)
(評価フィルムの調製)
調製直後の各セラミックスラリーをテフロン(登録商標)製シャーレ上に100μL滴下し、室温にて6時間乾燥して有機溶媒(成分D)を揮発除去し、評価用フィルム(成形体)を調製した。
(有機物残渣の測定)
測定用アルミパンに各評価用フィルムを適量入れ、熱量分析測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、EXSTAR TG/DTA7200)を用いて熱量分析を行った。50℃から310℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、310℃を300分間保持、その後、550℃まで昇温速度5℃/分で昇温する測定条件で測定を行った。得られた時間-TG(%)グラフより、測定開始(50℃)から300分後、すなわち、310℃到達から287分後におけるTG(%)を算出し、この数値を有機物残渣の評価に用いた。また、測定開始から100分後及び200分後も同様に評価に用いた。TG(%)が低いほど有機物残渣が少なく、有機物成分の除去性に優れていることを示す。結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2における測定開始時のTG(100%)は、測定開始時における添加剤(成分A)とバインダー(成分B)と可塑剤(成分C)とセラミック(成分E)の合計質量である。測定開始後のTG(%)の値は、加熱により評価用フィルム(成形体)に含まれる有機物成分を除去するにつれて減少するが、有機物成分の除去が終わると一定の値になる。一定の値は、測定時の温度では分解しない成分(成分Eなど)と有機残渣の質量に依存する。
なお、昇温及び保持の温度操作において、200℃以上500℃以下である期間は、345.5分である。また、50℃から200℃に到達するのは、測定開始から7.5分後である。
【0080】
【0081】
【0082】
表1及び表2に示すとおり、実施例1~11のセラミックスラリーは、比較例1のセラミックスラリーに比べてTG(%)の数値が小さく、実施例12のセラミックスラリーは、比較例2のセラミックスラリーに比べてTG(%)の数値が小さいことから、有機物残渣が少なく、有機物成分の除去性に優れていることがわかった。また、実施例12のセラミックスラリーは、測定開始200分後にはTG(%)の値が、測定開始300分後と同じ値となり一定値に達している一方で、比較例2のセラミックスラリーでは、測定開始300分後でもTG(%)の値が測定開始200分後の値から減少している。このことから、実施例12は有機物成分の除去速度も向上することがわかった。
【0083】
3.バインダー溶液の調製(実施例13~18及び比較例3~4)
表3~4に示す成分A、成分B及び成分Dを配合し混合することにより、実施例13~18及び比較例3~4のバインダー溶液を調製した。各バインダー溶液中の各成分の含有量(質量%、有効分)は表3~4に示すとおりである。
【0084】
4.セラミックスラリーの調製(実施例19~22及び比較例5~6)
(実施例19~22)
表5に示す成分A、成分B及び成分Dを配合し混合することにより、実施例19~22及び比較例5~6に示すバインダー溶液を調製した。調製したバインダー溶液とセラミック(成分E)を配合して攪拌棒で攪拌することにより、実施例19~22及び比較例5~6のセラミックスラリーを調製した。このとき、バインダー溶液の固形分の質量(成分Aと成分Bの合計質量)と成分Eの質量が同等となるように調製した。各セラミックスラリー中の各成分の配合量(質量部、有効分)は、表5に示すとおりである。
【0085】
表3~5に示すバインダー溶液及びセラミックスラリーの調製には、下記の成分を用いた。
<添加剤(成分A)>
添加剤(成分A)には、下記の成分A4を有機物残渣低減剤として用いた。
(成分A4)
臭化鉄(III)[SIGMA-ALDRICH, Inc.製]
硝酸鉄(III)九水和物[富士フィルム和光純薬株式会社製]
塩化銅(II)二水和物[富士フィルム和光純薬株式会社製]
硝酸銅(II)三水和物[富士フィルム和光純薬株式会社製]
硝酸アルミニウム(III)九水和物[富士フィルム和光純薬株式会社製]
<バインダー(成分B)>
メチルセルロース[富士フィルム和光純薬株式会社製、メチルセルロース15]
ポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)[株式会社クラレ製、PVA3-88]
<溶媒(成分D)>
蒸留水[富士フィルム和光純薬株式会社製]
<セラミック(成分E)>
炭化ケイ素[SIGMA-ALDRICH, Inc.製]
【0086】
5.有機物除去性の評価(実施例13~22、比較例3~6)
(評価フィルムの調製)
調製直後の各バインダー溶液及びセラミックスラリーをテフロン(登録商標)製シャーレ上に1mL滴下し、室温にて24時間乾燥して水を揮発除去し、評価用フィルムを調製した。
(有機物残渣の測定)
測定用アルミパンに各評価用フィルムを適量入れ、熱量分析測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、EXSTAR TG/DTA7200)を用いて熱量分析を行った。50℃から550℃まで昇温速度1℃/分で昇温する測定条件(連続昇温)で測定を行った。得られた時間-TG(%)グラフより、実施例13~16、19~22及び比較例3、5~6については、測定開始(50℃)から100分後、200分後及び300分後におけるTG(%)を算出し、実施例17~18及び比較例4については、測定開始(50℃)から100分後、200分後、300分後及び400分後おけるTG(%)を算出し、これら数値を有機物残渣の評価に用いた。TG(%)が低いほど有機物残渣が少なく、有機物成分の除去性に優れていることを示す。結果を表3~表5に示す。
表3~表4における測定開始時のTG(100%)は、測定開始時における添加剤(成分A4)とバインダー(成分B)の合計質量であり、表5における測定開始時のTG(100%)は、測定開始時における添加剤(成分A4)とバインダー(成分B)とセラミック(成分E)の合計質量である。測定開始後のTG(%)の値は、加熱により評価用フィルムに含まれる有機物成分を除去するにつれて減少するが、有機物成分の除去が終わると一定の値になる。一定の値は、測定時の温度では分解しない成分(成分A4、成分Eなど)の質量に依存する。
なお、昇温の温度操作において、200℃以上500℃以下である期間は、300分である。また、50℃から200℃に到達するのは、測定開始から150分後である。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表3に示すとおり、実施例13~16のバインダー溶液は、比較例3のバインダー溶液に比べてTG(%)の数値が小さく、有機物残渣が少なく、有機物成分の除去性に優れていることがわかった。
表4に示すとおり、実施例17及び18のバインダー溶液は、比較例4のバインダー溶液に比べてTG(%)の数値が小さく、特に測定開始400分後におけるTG(%)の数値が小さいことから、有機物残渣が少なく、有機物成分の除去性に優れていることがわかった。
表5に示すとおり、実施例19~21のセラミックスラリーは、比較例5のセラミックスラリーに比べてTG(%)の数値が小さく、実施例22のセラミックスラリーは、比較例6のセラミックスラリーに比べてTG(%)の数値が小さいことから、有機物残渣が少なく、有機物成分の除去性に優れていることがわかった。
さらに、表3~表5において、200℃に達していない測定開始100分後(150℃)では有機物成分低減がほとんど進行せず、200℃を超えている測定開始200分後(250℃)では有機物成分低減が進行していることがわかった。そして、表3では実施例13~16のバインダー溶液は比較例3のバインダー溶液に比べて、測定開始100分後のTG(%)から測定開始200分後のTG(%)への減少の程度が大きく、有機物成分低減の除去速度が向上していることがわかった。表4では実施例17及び18のバインダー溶液は比較例4のバインダー溶液に比べて、測定開始100分後のTG(%)から測定開始200分後のTG(%)への減少の程度が大きく、有機物成分低減の速度が向上していることがわかった。表5では実施例19~21のセラミックスラリーは比較例5のセラミックスラリーに比べて、実施例22のセラミックスラリーは比較例6のセラミックスラリーに比べて、測定開始100分後のTG(%)から測定開始200分後のTG(%)への減少の程度が大きく、有機物成分低減の速度が向上していることがわかった。
【0091】
6.セラミックスラリーの調製(実施例23~25)
添加剤(成分A)の添加時期を変更して、実施例23~25のセラミックスラリーを調製した。実施例23では、添加剤(成分A)を二次分散工程で添加し、実施例24では、添加剤(成分A)を二次分散工程の後(最終添加工程)で添加し、実施例25では、一次分散工程で添加した。具体的なセラミックスラリーの調製方法を以下に示す。
【0092】
(実施例23)
1L広口ポリ瓶に高分子分散剤溶液:2.0gと溶剤:45.7gを測り取り、よく攪拌した後、セラミック(成分E):80.0gを投入して、ジルコニアビーズを用いてボールミル攪拌を32時間行った(一次分散工程)。
次いで可塑剤(成分C)2.38gを添加した。予め溶媒250.6gとトリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)(成分A)0.47gとバインダー(成分B)9.09gを32時間攪拌して均一溶液としていた混合溶液を添加し、ボールミル攪拌を16時間行った(二次分散工程)。
【0093】
(実施例24)
1L広口ポリ瓶に高分子分散剤溶液:2.0gと溶剤:45.7gを測り取り、よく攪拌した後、セラミック(成分E):80.0gを投入して、ジルコニアビーズを用いてボールミル攪拌を32時間行った(一次分散工程)。
次いで可塑剤(成分C)2.38gを添加した。予め溶媒250.6gとバインダー(成分B)9.09gを32時間攪拌して均一溶液としていた混合溶液を添加し、ボールミル攪拌を16時間行った(二次分散工程)。
最後にトリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)(成分A)0.47gを添加してよく攪拌した(最終添加工程)。
【0094】
(実施例25)
1L広口ポリ瓶に高分子分散剤溶液:2.0gと溶剤:45.7g、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)(成分A)0.47gを測り取り、よく攪拌した後、セラミック(成分E):80.0gを投入して、ジルコニアビーズを用いてボールミル攪拌を32時間行った(一次分散工程)。
次いで可塑剤(成分C)2.38gを添加した。予め溶媒250.6gとバインダー(成分B)9.09gを32時間攪拌して均一溶液としていた混合溶液を添加し、ボールミル攪拌を16時間行った(二次分散工程)。
【0095】
実施例23~25のセラミックスラリーの調製に用いた高分子分散剤溶液には以下のようにして合成したものを用いた。
<高分子分散剤の合成>
1L4つ口セパラブルフラスコに予めエタノールを60.0g仕込んでおき、滴下ロート二つ、還流冷却管、温度計、撹拌装置を取り付けた。窒素置換した後、150rpmで撹拌しながら、80℃まで昇温し、温度を保ったままステアリルメタクリレート(NKエステルS:新中村化学社製):30.0gとメタクリル酸(冨士フイルム和光純薬社製):15.0g、メトキシポリエチレングリコール(23モル)メタクリレート(NKエステルM-230G:新中村化学社製):155g、メルカプトプロパンジオール(連鎖移動剤:冨士フィルム和光純薬社製):5.79g、エタノール:133.6gの混合溶液と、V-65B(重合開始剤:冨士フィルム和光純薬社製):4.43gとエタノール:106.4gの混合溶液を別々に120分かけて滴下した。滴下終了後、80℃で60分温度を保ち、その後冷却した。得られた高分子分散剤溶液の固形分濃度は40.7質量%であり、GPCによるポリスチレン換算重量平均分子量は7600であった。
【0096】
(有機物除去性の評価)
実施例23~25のセラミックスラリーの評価フィルムの調製及び有機物残渣の測定は、測定開始100分後のTGの測定を50分後に行った以外は、実施例1のセラミックスラリーと同様の方法で行った。結果を表6に示す。
表6において、測定開始時のTG(100%)は、測定開始時における添加剤(成分A1)とバインダー(成分B)と可塑剤(成分C)と分散剤の合計質量である。測定開始後のTG(%)の値は、加熱により評価用フィルムに含まれる有機物成分を除去するにつれて減少する。
【0097】
【0098】
表6に示すとおり、実施例23及び24のセラミックスラリーは、実施例25のセラミックスラリーに比べてTG(%)の数値が短時間で一定値に達する(有機物成分の除去が終わる)ことから、成分Eと成分Dとを混合した後に、成分Aをバインダー(成分B)と予め均一溶液としていた混合溶液を添加する、もしくは成分Aを皮膜化する直前に添加することにより、有機物成分の除去性が有効に働くことがわかった。