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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/24 20060101AFI20240527BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H01Q3/24
H01Q21/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020037064
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021141416
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 優
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-074345(JP,A)
【文献】特開2017-168891(JP,A)
【文献】特開2014-178783(JP,A)
【文献】特開2016-208223(JP,A)
【文献】特開2015-037240(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221290(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064470(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0264013(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0048995(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/24
H01Q 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一から第N(Nは4つ以上の整数)のアンテナ素子と、
前記第一から第Nのアンテナ素子それぞれに対する信号の入力を制御する制御部と、
アンテナの位置またはアンテナの移動方向を検知するセンサ部と、
を備え、
前記第一から第Nのアンテナ素子の内、第二から第Nのアンテナ素子はそれぞれ前記第
一のアンテナ素子から略360/N度ずつ異なる方向へ開放端を延伸し、
前記第一から第Nのアンテナ素子に入力される信号のうち、第二から第Nのアンテナ素
子に入力される信号はそれぞれ前記第一のアンテナ素子に入力される信号から略360/
N度ずつずらした位相を有し、
前記制御部は前記センサ部で検知された情報を基に、
前記第一から第Nのアンテナ素子に信号を入力して第一の方向に円偏波を放射させる第
一の状態と、
前記第一から第Nのアンテナ素子のうちの一部のアンテナ素子に信号を入力して前記第
一の方向とは異なる方向に直線偏波を放射させる第二の状態とを切り替えるように、信号
の入力を制御することを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記第一のアンテナ素子に入力される信号から略90度、180度、270度ずつずら
した位相を有する信号が入力されるアンテナ素子をそれぞれ第二、第三、第四のアンテナ
素子とした場合に、
前記制御部は、
前記第一、第二、第三、第四第のアンテナ素子に信号を入力して前記第一の方向に円偏
波を放射する第一の状態とし、
前記第一、第三のアンテナ素子に前記信号を入力し、前記第二、第四のアンテナ素子に
前記信号を入力せずに前記第一の方向とは異なる方向に直線偏波を放射する第二の状態と
することを特徴とする請求項1記載のアンテナ。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第二、第四のアンテナ素子に前記信号を入力し、
前記第一、第三のアンテナ素子に前記信号を入力せずに、
前記第一及び第二の方向とは異なる方向に直線偏波を放射する第三の状態とすることを
特徴とする請求項2記載のアンテナ。
【請求項4】
前記第一から第Nのアンテナ素子は一辺がλ/4の第一の基板に設けられ、
前記制御部は一辺がλ/4の第二の基板に設けられ、
前記第一の基板と前記第二の基板はλ/8以下の距離で略平行に離間する、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記センサ部は加速度センサ、地磁気センサ、GPS、反射電力センサの少なくとも何
れかであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のアンテナ。
【請求項6】
前記制御部は、受信した応答信号あるいはタイマに従ってアンテナ素子への信号の入力
を制御することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のアンテナ。
【請求項7】
前記アンテナの移動方向が前記第一の方向と略同一であった場合に、円偏波を放射させる前記第一の状態となるよう信号の入力を制御することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のアンテナ。
【請求項8】
前記第一の方向は前記第一の基板の厚み方向と同一であることを特徴とする請求項4に記載のアンテナ。
【請求項9】
前記アンテナはRFIDの通信を行うことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に
記載のアンテナ。
【請求項10】
請求項1乃至の何れか一項に記載のアンテナを備える通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
広いグランド面上にアンテナ素子を配置し、グランド面に対して垂直方向に指向性を持たせるアンテナ設計方法がある。この設計方法では、グランド面の反対側へは放射せず、またグランド面で隔てられることでアンテナ素子と反対側の構造は放射特性に影響を与えないという利点がある。
【0003】
また、上記利点を生かし、人体への近接や、金属面などに設置しても使用可能な無線通信システムも提案されており、人体装着型のウェアラブル無線システム等、様々なユースケースが検討されている。特許文献1には、複数のアンテナ素子に対して位相差を与えることでアンテナの正面方向における水平偏波と垂直偏波とを切り替えるアンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-168891
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の記載される技術は、在庫管理等のユースケースにおいて、人がアンテナの正面方向を管理対象に向ける動作を行った場合においては読み取り距離の向上に寄与する。
【0006】
しかしながら、人がそのような動作をせずに、アンテナを保持した人や物が動き回るだけで在庫管理を行うようなユースケースにおいて使用し難い。例えばアンテナを人体に装着した場合に、アンテナの正面方向が必ずしも人体の移動方向と一致せず、読み取り範囲の向上には寄与しない。
【0007】
そこで本発明は、そのようなユースケースにおいて利用可能な、円偏波及び直線偏波を広範囲に放射可能なアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のアンテナは、第一から第N(Nは4つ以上の整数)のアンテナ素子と、前記第一から第Nのアンテナ素子それぞれに対する信号の入力を制御する制御部と、アンテナの位置またはアンテナの移動方向を検知するセンサ部と、を備え、前記第一から第Nのアンテナ素子の内、第二から第Nのアンテナ素子はそれぞれ前記第一のアンテナ素子から略360/N度ずつ異なる方向へ開放端を延伸し、前記第一から第Nのアンテナ素子に入力される信号のうち、第二から第Nのアンテナ素子に入力される信号はそれぞれ前記第一のアンテナ素子に入力される信号から略360/N度ずつずらした位相を有し、前記制御部は前記センサ部で検知された情報を基に、前記第一から第Nのアンテナ素子に信号を入力して第一の方向に円偏波を放射させる第一の状態と、前記第一から第Nのアンテナ素子のうちの一部のアンテナ素子に信号を入力して前記第一の方向とは異なる方向に直線偏波を放射させる第二の状態とを切り替えるように、信号の入力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、円偏波及び直線偏波を広範囲に放射可能なアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施形態におけるアンテナ構成
図2】第一実施形態におけるアンテナの機能ブロック
図3】第一実施形態におけるアンテナの動作を示すフローチャート
図4】第一実施形態におけるアンテナの放射特性
図5】第二実施形態におけるアンテナ構成
図6】第二実施形態におけるアンテナの機能ブロック
図7】第二実施形態におけるアンテナの動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第一の実施形態〕
本実施形態におけるアンテナの構成を図1に示す。以降、図中で同色の部分は指示のない限り同等の機能を有している。また、図示していない機能や実装部品等であっても、同じ効果が得られる全ての構成は、本実施例中に含まれる。基板101及び基板102は、基板の厚み方向であるZ軸に沿って、基板101、基板102の順に-Z方向に重ねて配置する。
【0012】
図1(a)は基板101の表面である。4つのアンテナ素子103は各々、開放端同士が重ならないよう延伸方向をX軸及びY軸に沿って略90度ずつ変えて配置し、開放端とは反対側の端部である給電端はビア104に接続する。なお、開放端の延伸方向は逆回りでも良く、素子形状をメアンダ状に折り畳んでも良い。
【0013】
図1(b)は基板101の裏面である。4つのビア104は各々、基板101を貫通した上で、4つのパッド105に接続する。
【0014】
図1(c)は基板102の表面である。4つのパッド106は各々、グランド107及び4つのRF(Radio Frequency)ライン108に接続する。ここで、パッド105及びパッド106は、導通部(非図示)である金属製のスペーサと面接触することで導通する。
【0015】
なお、RF信号の周波数が通過できれば良いので、同軸ケーブルや金属線、金属ネジでも代用可能であって、導通部が基板101及び基板102の支持部材として機能しても良い。また、パッド106とグランド107との接続は、アンテナ素子103が逆F型として動作するためにRF信号の位相を調整するものであるため、位相の調整が不要な場合は非接続としても良い。
【0016】
4つのRFライン108は各々、4つのRFスイッチ109を経由して、共通のRFライン110を通り、送受信部111に接続する。RFスイッチ109は、一端をRFライン108と、他端をRFライン110と接続し、短絡か開放かを制御する。つまり、RFスイッチ109が短絡状態にある場合は、送受信部111とアンテナ素子103との間をRF信号が通過でき、開放状態にある場合は、送受信部111とアンテナ素子103との間をRF信号が通過できない。
【0017】
図1(d)は基板102の裏面である。グランド112はパッド106と重なる領域を避けて全面に配置し、基板102を貫通する複数のビア(非図示)でグランド107と導通する。ここで、RFライン108及びRFライン110の線路幅及び線路厚みは、RF信号の周波数において概ね50ohmとなるように基板102の層構造及び誘電率から決定される。
【0018】
4つのパッド106を図中右上から反時計回りにA、B、C、Dとして、A、B、C、Dと送受信部111とを接続するRFラインの総電気長をa、b、c、dと定義する。この時、4つのRFライン108は、b=a+λ/4、c=b+λ/4、d=c+λ/4の関係性を満たし、且つ、グランド107と重ならないようメアンダ状に配置する。
【0019】
なお、4つのRFライン108の位相差はλ/4、即ち概ね90度ずつあればよい。位相差を与える回転方向や実装方法は問わず、線路長ではなく移相器を用いても良い。
【0020】
アンテナによって送受信するRF信号は、4つのアンテナ素子103の合成波となる場合は円偏波となり、対向する2つのアンテナ素子103の任意の組み合わせにおける合成波となる場合は直線偏波となる。
【0021】
本実施形態において、アンテナの構成を基板101及び基板102に分離せず、アンテナ素子103及びグランド107、RFライン108等の機能を1枚の多層基板中に設けても良い。同様に、RFライン108及びRFライン110、RFスイッチ109も、基板102の表面にある必要はなく、裏面や多層構造の内層に設けても良い。その場合は、金属製のスペーサ(非図示)は層間を接続するビアとなる。
【0022】
本実施形態におけるアンテナの機能ブロックを図2に示す。以降、図中において、実線はRF信号が通過する経路、点線は特定の機能を制御する信号や情報のやりとりを行う信号が通過する経路、破線は特定の機能や名称を定義している。
【0023】
アンテナの送信時において、送受信部201が出力したRF信号は、4つに分岐した上で接点a、b、c、dにおいて切替部202に入力する。切替部202は図1のRFスイッチである。4つの切替部202は各々、接点a-a‘、接点b-b’、接点c-c‘、接点d-d’を接続する。切替部202が短絡状態にある場合、切替部202が出力したRF信号は、接点a’、b’、c’、d’において位相部203に入力する。
【0024】
位相部203は、入力した4つのRF信号に対してそれぞれ略0度、90度、180度、270度の位相を回転し、アンテナ素子204に出力する。制御部205は、センサ部206及びタイマ部207の情報を元に、4つの切替部202を制御する。制御部205は一つ以上のプロセッサを含んでおり、各種の制御プログラムを実行してアンテナ、主に切替部202の制御を行う。ここで、センサ部206は、アンテナの加速度の検出を行い、検出結果を用いてアンテナの移動方向を推定する。
【0025】
なお、センサ部206は、アンテナの移動方向や現在位置が分かればどのようなセンサが用いられてもよい。センサ部206としてGPS(grobal positioning system)、アンテナ素子204の反射電力センサ、アンテナの姿勢、地磁気センサ、加速度センサ、既知の場所や信号に基づく三角測量等を用いてもよい。また、これらを適宜組み合わせてセンサ部としてもよい。タイマ部207は、現在時刻や設定された時刻に基づく通知を行う。
【0026】
アンテナの受信時においては、RF信号が通過する経路が送信時と逆順となるだけで各ブロックにおける機能は送信時と同様である。
【0027】
即ち、アンテナ素子204が受信したRF信号は、位相部203及び切替部202を通じて送受信部201に入力する。尚、RF信号の分岐数は4つ以上の整数Nであれば良く、位相部203は分岐数に応じて略360/N度の位相差をRF信号に与える。
【0028】
この時、制御部205は4以上の複数の分岐の内、少なくとも位相差が0度、90度、180度、270度に該当する接点を抽出した上で切替部202を制御することで同様の効果が得られる。
【0029】
図3は、図2に記載したアンテナの動作を示すフローチャートである。図3のフローチャートは、アンテナが備える制御部205の制御によって実行される。
【0030】
RF信号の送受信を開始してから(S301)、送受信を終了するまで(S307)、制御部205は主に切替部202の制御を繰り返し実行する(S302-S306)。
【0031】
初めに、制御部205はセンサ部206から移動方向を読み込み、アンテナの移動方向がZ軸方向と同一であるかを判定する(S302)。概ね同一の場合は、制御部205は切替部202によって、接点a-a‘、接点b-b’、接点c-c‘、接点d-d’を接続する(S303)。次に、制御部205はタイマ部207から時刻を読み込み、一定時間内に通信先からの応答を受信したかを判定する(S304)。
【0032】
S302において同一でない場合、又は、S304において応答を受信できない場合は、制御部205は切替部202によって、接点a-a‘、接点c-c‘のみを接続し(S305)、続けて、接点b-b’、接点d-d’のみを接続する(S306)。これによって一部のアンテナ素子に対してのみ信号を入力するように制御する。即ち各アンテナ素子に対して信号を入力するか否かを切り替える。
【0033】
なお、持ち運び可能とするためにバッテリ(非図示)を有する構成であれば、駆動するバッテリの残量が低下した場合には切替部202の切り替え頻度を下げる等の処理を行ってもよい。
【0034】
尚、本動作シーケンスは一例であって、S303、S305、S306の何れかを組み合わせて実施するのみでも良いし、処理の順序を入れ替えても良い。更に、時間内に通信先からの応答を受信しない場合には、S303、S305、S306の何れも実施しない、シーケンスも含まれる。
【0035】
本実施形態のアンテナは、円偏波を用いるRFID(radio frequency identifier)を想定したアンテナである。しかしながら、GPS(grobal positioning system)、Wi-Fi、といった無線通信や、LTE(long term evolution)等の公衆無線通信で用いられるアンテナにおいても適用可能である。
【0036】
この場合、図3のS304で受信する応答は、RFIDにおいてはRFIDタグからの反射信号や送信信号であり、Wi-Fiにおいてはビーコン等の報知信号やack等の応答信号であり、GPSにおいては衛星の送信信号である。
【0037】
本実施形態によって、アンテナが移動する方向とアンテナが正面を向く方向が一致しない場合にあっても、前後左右方向に直線偏波のRF信号を放射することで、RFIDシステムにおいてはRFIDタグの読み取り範囲を広げることが可能となる。
【0038】
また、移動方法と正面方向が一致するにも関わらずRFIDタグが読み取れない場合にあっても、自動的に放射方向を切り替えることで読み取り距離を向上することも可能となる。
【0039】
本実施形態において、920MHzで共振するアンテナの放射特性を図4に示す。
【0040】
この時、基板401及び基板402は基板厚1mm、比誘電率4.3、基板401と基板402の間隔は7mmであり、基板間はλ/8以下の距離で略平行に離間する。逆F型アンテナの素子長は約λ/4であり、各基板の一辺の長さも約λ/4である。
【0041】
また、RFラインの線路幅は1.6mm、線路厚みは35umである。
【0042】
図4(a)は図3のS303における放射特性であって、+Z方向にメインの指向性を備えた円偏波のRF信号を放射する。図4(b)は図3のS305における放射特性であって、+X及び-X方向に直線偏波のRF信号を放射する。図4(c)は図3のS306における放射特性であって、+Y及び-Y方向に直線偏波のRF信号を放射する。
【0043】
以上より、+Z方向に放射する円偏波のRF信号だけでは読み取ることができないX及びY軸方向に置かれたRFIDタグを、指向性を切り替えることで読み取ることが可能となり、結果としてRFIDシステムの読み取り範囲を拡張できる。
【0044】
なお、ここで示した形状、材質及びサイズは一例であって、高誘電体への封入や、樹脂との一体成型によるアンテナ素子103等の更なる小型化も本実施形態に含まれる。
【0045】
〔第二の実施形態〕
本実施形態におけるアンテナの構成を図5に示す。なお、実施例1と同じ部分に関しては説明を省略する。基板501及び基板502は、基板の厚み方向であるZ軸に沿って、基板501、基板502の順に-Z方向に重ねて配置する。
【0046】
図5(a)は基板501の表面である。4つのアンテナ素子503は各々、始点である給電端がビア504に接続し、終点である開放端同士が重ならないように、且つ、異なるアンテナ素子の給電端を囲むように延伸方向をX軸及びY軸に沿って90度ずつ変えて配置する。
【0047】
図5(b)は基板501の裏面である。4つのビア504は各々、基板501を貫通した上で、4つのパッド505に接続する。
【0048】
図5(c)は基板502の表面である。4つのパッド506がある位置を図中右上から反時計回りにA、B、C、Dとすると、パッド506はA、B、C、Dにおいて基板502を貫通するビア507に接続し、A、Bにおいてグランド508及びRFライン509に接続する。RFライン509は各々、RFスイッチ510又は511を経由して、共通のRFライン512を通り、送受信部513に接続する。
【0049】
図5(d)は基板502の裏面である。ビア507はC、Dにおいてグランド514及びRFライン515に接続する。グランド514はA、Bにおけるビア507と導通しないよう全面に配置し、基板502を貫通する複数のビア(非図示)でグランド508と導通する。
【0050】
RFライン515は各々、基板502を貫通するビア516からRFライン517を経て、RFスイッチ510又は511に接続する。RFスイッチ510及び511はSPDTであって、RFスイッチ510はA、Cが送受信部513と短絡か開放かを制御し、RFスイッチ511はB、Dが送受信部513と短絡か開放かを制御する。
【0051】
なお、短絡及び開放以外の状態でも良く、SPDTから接続可能な端子数を増やした上で、RFライン509及びRFライン517、RFライン512を抵抗等の負荷に接続する状態も本実施形態に含まれる。
【0052】
第一の実施形態と同様に、アンテナによって送受信するRF信号は、4つのアンテナ素子503の合成波となる場合は円偏波となり、対向する2つのアンテナ素子503の任意の組み合わせにおける合成波となる場合は直線偏波となる。
【0053】
本実施形態におけるアンテナの機能ブロックを図6に示す。
【0054】
アンテナの送信時において、送受信部601が出力したRF信号は、2つに分岐した上で接点e、fにおいて切替部602に入力する。4つの切替部602は各々、接点e-e‘、接点f-f‘を接続する。切替部602が短絡状態にある場合、切替部602が出力したRF信号は、接点e’、f’において2つに分岐した後、位相部603に入力する。
【0055】
位相部603は、入力した4つのRF信号に対してそれぞれ略0度、90度、180度、270度の位相を回転し、アンテナ素子604に出力する。
【0056】
制御部605は、センサ部606及び記憶部607、カウント部608の情報を元に、2つの切替部602を制御する。
【0057】
ここで、センサ部606は、アンテナの特性インピーダンスを検出し、特性インピーダンスの変化量を用いて、近接の有無を推定する。この時、特性インピーダンスは、アンテナ素子604に誘電体や導電体が近接することで増減するため、変化量は方向性結合器等を用いた反射波電力として測定可能である。
【0058】
記憶部607は、現在や過去における切替部602の状態を保持すると共に、センサ部606で検出した特性インピーダンスを保持する。カウント部608は、切替部602の制御回数を計測する。
【0059】
アンテナの受信時においては、RF信号が通過する経路が送信時と逆順となるだけで各ブロックにおける機能は変化しない。即ち、アンテナ素子604が受信したRF信号は、位相部603及び切替部602を通じて送受信部601に入力する。
【0060】
図7は、図6に記載したアンテナの動作を示すフローチャートである。図7のフローチャートは、アンテナが備える制御部605の制御によって実行される。
【0061】
RF信号の送受信を開始してから(S701)、送受信を終了するまで(S709)、制御部605は主に切替部602の制御を繰り返し実行する(S702-S708)。
【0062】
初めに、制御部605は記憶部607から制御情報を読み込み、制御情報に基づき切替部602を制御する(S702)。制御情報は、デフォルトとして定義した切替部602の各接点における接続状態であっても良いし、前回に送受信を終了した際の接続状態でも良い。
【0063】
次に、制御部605はセンサ部606からアンテナへの近接の有無を読み込み、+Z軸方向に近接していない場合は、制御部605は切替部602によって、接点e-e‘、接点f-f’を接続する(S704)。一方で、+Z軸方向に近接を認めた場合は、制御部605は切替部602によって、接点e-e‘のみを接続し(S705)、続けて、接点f-f’のみを接続する(S706)。その後、制御部605は記憶部607から切替部602を切り替えた回数を読み込み、切り替えた回数が閾値を上回る場合は、制御ループを抜ける(S707)。
【0064】
最後に、制御部605は切り替えた回数及び最後の接続状態を記憶部607に書き込み、送受信は終了となる(S709)。この時、切り替えた回数が閾値を超えたことを表示部への表示や音声によってユーザに報知しても良い。また、切替部602の制御そのものを、本動作フローに割り込む形で、操作部を通じてユーザが、又は送受信部601が送受信する信号の処理を行うシステムが決めても良い。
【0065】
本動作シーケンスは一例であって、S704、S705、S706の何れかを実施するのみでも良いし、シーケンス順序を入れ替えても良い。
【0066】
更に、時間内に通信先からの応答を受信しない場合には、S704、S705、S706の何れも実施しないシーケンスも含まれる。
【0067】
本実施形態によって、アンテナの正面方向に人体や金属等の電磁波を妨害する物体が近接した場合にあっても、前後左右方向に直線偏波のRF信号を放射することで、RFIDシステムにおいてはRFIDタグの読み取り範囲を広げることが可能となる。
【0068】
〔その他の実施形態〕
本発明は、上述の各実施形態のアンテナを備えた通信装置によっても実現可能である。上述の各実施形態のアンテナがRFID用のアンテナとして用いられる場合は、RFID通信を行うための通信装置にこのアンテナを実装することができる。特にRFIDリーダとして用いる通信装置が上述の各実施形態のアンテナを備えることにより、通信装置を常に通信相手とするRFIDタグに向けておくという手間が省け、ユーザの利用効率が向上する。
【符号の説明】
【0069】
101、102 基板
103 アンテナ素子
104 ビア
105、106 パッド
107 グランド
108、110 RFライン
109 RFスイッチ
111 送受信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7