(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】信号処理装置、測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
G01R27/02 A
(21)【出願番号】P 2020091471
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昭純
(72)【発明者】
【氏名】倉島 孝行
(72)【発明者】
【氏名】鳴澤 知弘
(72)【発明者】
【氏名】浜 崇
(72)【発明者】
【氏名】間明 祥太郎
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-106071(JP,A)
【文献】特開2006-198334(JP,A)
【文献】特開平09-196980(JP,A)
【文献】特開2010-230659(JP,A)
【文献】特開2018-048884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流が印加された電池に生じる電圧信号を標本化して前記電池のインピーダンスを測定する測定装置であって、
標本化した値が順次変化するように定められた所定の周波数を有する交流電流を前記電池に印加する印加手段と、
前記交流電流の半波長分の周期よりも長い所定の周期で前記電圧信号を標本化する標本化手段と、
前記標本化手段によって
測定開始後一分以内に標本化された
3000個以上の離散値の一群を示す離散データに基づいて前記電池のインピーダンスを演算する演算手段と、
を含む測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記演算手段は、前記離散データを用いて前記電圧信号の実効値を演算する処理を実行して前記電池のインピーダンスを演算する、
測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の測定装置であって、
前記標本化手段は、前記交流電流の一波長分又は二波長分の周期ごとに異なるタイミングで前記電圧信号を標本化する、
測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の測定装置であって、
前記所定の周波数は、前記電圧信号を標本化するための標本化周波数の近傍に定められる、
測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の測定装置であって、
前記離散値の一群の数は、前記所定の周波数と前記標本化周波数との差分に応じて定められる、
測定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の測定装置であって、
前記電池は、複数の単電池により構成された組電池であり、
前記印加手段は、前記組電池に前記交流電流を印加し、
前記標本化手段は、前記単電池ごとに前記電圧信号を前記所定の周期で標本化する、
測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の測定装置であって、
複数の前記単電池に接続された入力端子と前記標本化手段に接続された出力端子とを有し、前記出力端子の接続先となる前記複数の入力端子を順次切り替える切替手段をさらに含み、
前記標本化手段は、前記切替手段の前記出力端子から出力される前記電圧信号を前記所定の周期よりも短い周期で標本化することにより、前記単電池の各々の前記電圧信号を前記所定の周期で標本化する、
測定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の測定装置であって、
前記演算手段は、前記電圧信号の交流成分の実効値を前記交流電流の実効値により除して前記電池のインピーダンスを算出する、
測定装置。
【請求項9】
組電池に交流電流が印加された状態で前記組電池を構成する複数の単電池の各々のインピーダンスを測定するために必要となる前記単電池の各々の電圧信号を標本化する信号処理装置であって、
前記単電池の各々に接続される複数の入力端子と前記複数の入力端子に接続可能な出力端子とを有し、前記出力端子の接続先を順次切り替える切替手段と、
前記入力端子ごとに前記交流電流の半波長分の周期よりも長い所定の周期で前記出力端子から出力される前記電圧信号を標本化する標本化手段と、
前記電圧信号の実効値を演算する処理が実行されるよう前記標本化手段によって
測定開始後一分以内に標本化された
3000個以上の離散値の一群を示す離散データを前記入力端子ごとに生成する生成手段と、
を含む信号処理装置。
【請求項10】
交流電流が印加された電池に生じる電圧信号を標本化して前記電池のインピーダンスを測定する測定方法であって、
標本化した値が順次変化するように定められた所定の周波数の交流電流を前記電池に印加する印加ステップと、
前記交流電流の半波長分の周期よりも長い所定の周期で前記電圧信号を標本化する標本化ステップと、
前記標本化ステップにおいて
測定開始後一分以内に標本化された
3000個以上の離散値の一群を示す離散データに基づいて前記電池のインピーダンスを演算する演算ステップと、
を含む測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電流が印加された電池に生じる電圧信号を標本化する信号処理装置、測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、交流電流を供給した電池の両端電圧を検出し、検出電圧をサンプリングして検出電圧の波形を示す波形データを生成することにより、電池のインピーダンスを測定する測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような測定装置では、電池の検出電圧がナイキスト周波数よりも高い周波数でサンプリングされるため、高精度な電子機器が必要となり、回路構成が複雑になってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、簡易な構成により電池のインピーダンスを測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様によれば、交流電流が印加された電池に生じる電圧信号を標本化して前記電池のインピーダンスを測定する測定装置は、標本化した値が順次変化するように定められた所定の周波数を有する交流電流を前記電池に印加する印加手段を備える。さらに測定装置は、前記交流電流の半波長分の周期よりも長い所定の周期で前記電圧信号を標本化する標本化手段と、前記標本化手段によって測定開始後一分以内に標本化された3000個以上の離散値の一群を示す離散データに基づいて前記電池のインピーダンスを演算する演算手段とを含む。
【0007】
本発明の第二の態様によれば、信号処理装置は、組電池に交流電流が印加された状態で前記組電池を構成する複数の単電池のインピーダンスを測定するのに必要となる前記単電池の各々の電圧信号を標本化する。この信号処理装置は、前記単電池の各々に接続される複数の入力端子と前記複数の入力端子に接続可能な出力端子とを有し前記出力端子の接続先を順次切り替える切替手段と、前記入力端子ごとに前記交流電流の半波長分の周期よりも長い所定の周期で前記出力端子から出力される前記電圧信号を標本化する標本化手段とを備える。さらに信号処理装置は、前記電圧信号の実効値を演算する処理が実行されるよう前記標本化手段によって測定開始後一分以内に標本化された3000個以上の離散値の一群を示す離散データを前記入力端子ごとに生成する生成手段を含む。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、交流電流の半波長分の周期よりも長い所定の周期で電圧信号を標本化した離散値の一群を収集することにより、電池のインピーダンスを演算する際に必要となる電圧信号の電圧値を精度よく求めることができる。したがって、電圧信号を標本化するための周期を交流電流の半波長分の周期に比べて長く設定できるので、簡易な構成により電池のインピーダンスを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態における測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、交流電流が印加された電池に生じる交流電圧信号とサンプリングとの時間関係を説明するための図である。
【
図3】
図3は、電池のインピーダンスを測定する測定方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、測定方法に含まれるインピーダンス演算処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第二実施形態における測定装置に備えられた信号処理部の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、組電池における複数の単電池のインピーダンスを測定する測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。
【0011】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態における測定装置の機能構成を示すブロック図である。
【0012】
測定装置1は、電池10のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定システムである。
【0013】
本実施形態において、測定装置1は、電池10に交流電流Iaを印加(供給)し、印加した状態において電池10の両端間に生じる電圧信号Vaを標本化(サンプリング)する。そして測定装置1は、標本化した電圧信号Vaの電圧値と交流電流Iaの電流値とに基づいて、電池10における内部抵抗11の大きさを示すインピーダンスZを演算する。以下では、電池10における内部抵抗11のインピーダンスZのことを、単に電池10のインピーダンスZとも称する。
【0014】
電池10は、電気を蓄える蓄電デバイスであり、二次電池(化学電池)に限らず、例えば、電気二重層キャパシタであってもよい。また、蓄電デバイスは、単一の蓄電セルからなる単電池でもよく、複数の単電池を有する組電池であってもよい。組電池は、例えば、複数の単電池が直列接続、並列接続又はこれらの組み合わされた電池モジュールである。直列接続と並列接続との組み合せの例としては、直列接続された一群の単電池を1組として、各組を並列に接続した状態を指す直列並列接続などが挙げられる。
【0015】
電池10は、例えば、リチウムイオン二次電池の単一の蓄電セルであり、数[V]の直流電圧を出力する。電池10は、
図1のように、等価回路モデルによって示される。電池10は、等価回路モデルによれば、正極電極10aと、負極電極10bと、内部抵抗11と、蓄電部12と、を有する。
【0016】
測定装置1は、交流電流源20と、信号処理部30と、測定部40と、表示部50と、操作部60と、を備える。これらは、一体として構成されてもよく、それぞれ別体として構成されてもよい。
【0017】
交流電流源20は、電池10における内部抵抗11のインピーダンスZを測定するための測定周波数を有する交流電流を電池10に対して印加する印加手段を構成する。交流電流源20の測定周波数は、電池10に生じる電圧信号Vaを標本化した値が順次変化するように定められた所定の周波数である。
【0018】
交流電流源20の測定周波数は、数百[Hz]から数[kHz]までの範囲内の値に設定されることが一般的である。本実施形態の測定周波数は、電圧信号Vaを標本化するための標本化周波数の近傍の値、例えば980[Hz]に設定される。なお、標本化周波数は、以下、サンプリング周波数と称される。
【0019】
本実施形態では、交流電流Iaは正弦波であり、その振幅は一定である。交流電流Iaの実効値は例えば160[mA]に設定される。交流電流Iaは、正弦波に限らず、例えばノコギリ波であってもよい。
【0020】
本実施形態において交流電流源20は、測定部40からの指令に従って上記の測定周波数を有する交流電流Iaを電池10の正極電極10aに供給する。これにより、電池10の正極電極10aと負極電極10bとの両端間に生じる電圧信号Vaには、電池10のインピーダンスZに応じた交流成分が電池10の直流電圧に重畳(合成)される。
【0021】
直流遮断部13は、交流電流Iaを印加した電池10の両端間に生じる電圧信号Vaの直流成分を遮断するとともに電圧信号Vaの交流成分を示す交流電圧信号Vacを通過させる。本実施形態において直流遮断部13はコンデンサによって実現され、例えば、静電容量が1000[pF]から10[μF]程度までの範囲内の値を有するコンデンサが直流遮断部13として用いられる。
【0022】
なお、本実施形態では電圧信号Vaの直流成分を除去するために、電池10と信号処理部30との間に直流遮断部13を配置したが、これに限られるものではない。例えば、信号処理部30において直流遮断部13と同じような機能が内蔵されている場合は、直流遮断部13を省略してもよい。
【0023】
信号処理部30は、交流電流源20から電池10に交流電流Iaが印加された状態において電池10に生じる電圧信号Vaを標本化する標本化手段を構成する。信号処理部30は、例えばA/D(Analog to Digital)コンバータを備える信号処理装置、又は複数の電気信号をデジタル処理して時系列に記憶するロガー装置などによって実現される。
【0024】
信号処理部30は、プロセッサ、記憶装置、入出力インターフェース、及び、これらを相互に接続するバスによって構成される。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)又はDSP(digital signal processor)などによって実現される。このプロセッサは、記憶装置から読み出したプログラムを実行することにより、入出力インターフェースを介して信号処理部30の機能を総括的に制御する。
【0025】
信号処理部30は、機能構成として、低速サンプリング処理部31と、離散データ生成部32と、記憶部33と、を備える。
【0026】
低速サンプリング処理部31は、電池10に印加される交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い所定の周期である低速周期で、電池10に生じる電圧信号Vaを標本化する標本化手段を構成する。
【0027】
本実施形態では、電圧信号Vaの検出に要する時間を短くするために、低速サンプリング処理部31は、交流電流Iaの一波長分又は二波長分の周期ごとに異なるタイミングにより電圧信号Vaを標本化する。具体的には、低速サンプリング処理部31は、交流電流Iaの測定周波数の近傍の値に設定されたサンプリング周波数で、直流遮断部13から出力される交流電圧信号Vacを標本化する。
【0028】
そして、低速サンプリング処理部31は、交流電流Iaの一波長分又は二波長分ごとに標本化した離散値Vdを離散データ生成部32に順次出力する。このように、交流電流Iaの測定周波数とサンプリング周波数とを両者が一致しないよう互いにずらすことによって標本化した離散値Vdが順次変化するので、これらの離散値Vdを収集することで交流電流Iaの波形を復元することが可能になる。
【0029】
電圧信号Vaを標本化するための低速周期は、例えば、1シンボルあたり1[ms]の周期、すなわち1[ms/S]に設定される。信号処理部30として安価で簡易な構成を採用した装置が用いられる場合は、その装置のサンプリング性能の上限値が低速周期として設定されることが想定される。この場合は、交流電流Iaの測定周波数は、1[kHz]のサンプリング周波数からずらした値、例えば980[Hz]に設定される。
【0030】
離散データ生成部32は、低速サンプリング処理部31によって電圧信号Vaが標本化された離散値Vdの一群を示す離散データを生成する生成手段を構成する。
【0031】
本実施形態では、離散データ生成部32は、低速サンプリング処理部31から順次出力される離散値Vdを所定のサンプリング数だけ取得し、取得したサンプリング数の離散値Vdの一群を用いて離散データを生成して測定部40に出力する。
【0032】
上述のサンプリング数は、離散データに示される離散値Vdの一群の数であり、電圧信号Vaの波形を復元するのに必要となる所定の個数、例えば100個から3,000個程度の範囲内の値に設定される。電圧信号Vaの検出精度を高める観点から、サンプリング数は3,000個以上が好ましい。
【0033】
また、サンプリング数は、固定値に限らず、交流電流Iaの測定周波数と低速サンプリング処理部31のサンプリング周波数との差分に応じて定められてもよい。例えば、電圧信号Vaの検出精度を高める観点から上記差分が小さいほどサンプリング数を多くしてもよく、電圧信号Vaの検出時間を短縮する観点から、上記差分が大きいほどサンプリング数を減らしてもよい。
【0034】
離散データ生成部32は、生成した離散データをデータ出力部34に伝送するとともに離散データを記憶部33に格納する。これにより、記憶部33には、電圧信号Vaの離散値Vdの一群が検出結果として記憶される。
【0035】
記憶部33は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)によって構成される。記憶部33には、信号処理部30の動作を制御するためのプログラムが記憶されている。それゆえ、記憶部33は、信号処理部30の機能を実現するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0036】
また、記憶部33には、低速サンプリング処理部31に設定される低速周期の値が記憶されている。この低速周期は、標本化した離散値が順次変化するように、例えば交流電流Iaの測定周波数からズラした値に対応する周期に設定される。低速周期の値は、あらかじめ定められたものでもよく、測定者による操作部60への入力操作によって設定されるものであってもよい。
【0037】
データ出力部34は、離散データ生成部32から取得した離散データを測定部40に出力する。例えば、データ出力部34は、測定部40に対して離散データを所定のデータ形式で伝送する伝送回路でもよく、測定部40に挿入されるUSB(Universal Serial Bus)メモリなどの外部記憶装置に離散データを記録する記録装置であってもよい。
【0038】
次に、電池10における内部抵抗11を測定する測定部40の構成について詳細に説明する。
【0039】
測定部40は、信号処理部30によって標本化された離散値Vdの一群を示す離散データに基づいて電池10のインピーダンスZを演算する演算手段を構成する。測定部40は、信号処理部30と同じように、プロセッサ、記憶装置、入出力インターフェース、及び、これらを相互に接続するバスによって構成される。
【0040】
本実施形態では、測定部40は、記憶部41と、電圧値演算部42と、インピーダンス演算部43と、を備える。
【0041】
記憶部41は、上述の記憶部33と同じようにRAM及びROMによって構成される。この記憶部41には、測定部40の動作を制御するためのプログラムが記憶されている。さらに記憶部41には、交流電圧信号Vacの実効値を演算するための演算式と交流電流Iaの実効値とがあらかじめ記憶されている。
【0042】
交流電流Iaの実効値は、実測値又は推定値でもよく、交流電流源20に対して指示される交流電流Iaの指令値であってもよい。また、交流電流Iaの電流値としては実効値に代えて振幅値が用いられてもよい。この場合、交流電流Iaの振幅値を二の平方根で除すことによって交流電流Iaの実効値が得される。
【0043】
電圧値演算部42は、信号処理部30からの離散データを用いて電圧信号Vaの実効値を演算する処理を実行する。
【0044】
本実施形態では、電圧値演算部42は、記憶部41から読み出した演算式に離散データに示される離散値Vdの一群を代入して交流電圧信号Vacの実効値を演算する処理を実行する。例えば、電圧値演算部42は、離散値Vdの一群の二乗平均値の平方根を求める次式(1)を用いて交流電圧信号Vacの実効値RMSを演算する。
【0045】
【数1】
なお、nは、離散値Vdの一群の数、すなわちサンプリング数である。
【0046】
上式(1)のような統計的な処理を実行することによって、一波長分又は二波長分の低速周期で標本化した離散データから交流電圧信号Vacの実効値RMSを精度よく求めることが可能になる。また、電圧値演算部42は、取得した交流電圧信号Vacの実効値RMSをインピーダンス演算部43に出力する。
【0047】
これに代えて電圧値演算部42は、離散データに示される離散値Vdの一群の中から離散値Vdの最大値、すなわち振幅値を抽出し、抽出した値を二の平方根で除算する処理を実行して交流電圧信号Vacの実効値を取得してもよい。
【0048】
また、直流遮断部13を省略した構成においては、電圧値演算部42は、電圧信号Vaの実効値を演算し、その実効値から電池10の直流電圧の値を減じて電圧信号Vaの交流成分の実効値を求めてもよい。
【0049】
インピーダンス演算部43は、記憶部41から読み出した交流電流Iaの実効値と電圧信号Vaの実効値RMSとを用いて、電池10における内部抵抗11のインピーダンスZを演算する。具体的には、インピーダンス演算部43は、電圧値演算部42から交流電圧信号Vacの実効値RMSを取得すると、交流電圧信号Vacの実効値RMSを交流電流Iaの実効値で除して電池10のインピーダンスZを算出する。
【0050】
交流電流Ia及び交流電圧信号Vacの実効値に代えてインピーダンス演算部43は、振幅値又は平均値を用いて電池10のインピーダンスZを算出してもよい。例えば、インピーダンス演算部43は、交流電圧信号Vacの振幅値を交流電流Iaの振幅値で除して電池10のインピーダンスZを算出してもよい。また、インピーダンス演算部43は、算出したインピーダンスZを示す内部抵抗情報を測定結果として記憶部33に出力するとともに、その内部抵抗情報を表示部50に送信する。
【0051】
表示部50は、例えば、液晶ディスプレイ又はLEDディスプレイなどの表示装置によって構成される。表示部50は、測定条件の設定内容又は測定結果などを表示する。本実施形態では、表示部50は、インピーダンス演算部43から内部抵抗情報を受信すると、内部抵抗情報に示されたインピーダンスZを測定者に対して表示する。
【0052】
操作部60は、測定者の入力操作に従って測定装置1の動作を指定するための操作信号を生成してその操作信号を測定装置1に出力する。本実施形態では、操作部60は、測定装置1の低速サンプリング処理部31に対してサンプリング周波数を示す操作信号を出力する。
【0053】
これに加え、操作部60は、交流電流源20に対して交流電流Iaの測定周波数と交流電流Iaの実効値又は振幅値とを示す操作信号を出力してもよく、インピーダンス演算部43に対して交流電流Iaの実効値又は振幅値を示す操作信号を出力してもよい。
【0054】
なお、本実施形態では測定部40の機能がプロセッサの処理によって実現されたが、測定部40の機能をエクセルシートなどのソフトウエアプログラムを実行することによって実現してもよい。
【0055】
次に、
図2を参照して、信号処理部30のサンプリング周波数と交流電流Iaの測定周波数との設定手法の一例について説明する。
【0056】
図2は、信号処理部30によって交流電圧信号Vacを標本化する手法を説明するための図である。
図2(a)には、信号処理部30における交流電圧信号Vacとサンプリングタイミングとの時間関係がタイミングチャートにより示されており、
図2(b)には、標本化された離散値Vdの一群が交流電圧信号Vacの正弦波形と共に示されている。
【0057】
図2(a)に示す例では、正弦波の交流電流Iaが電池10に印加された状態で電池10の両端間に生じる交流電圧信号Vacの一部を信号処理部30が標本化している様子が示されている。ここでは、交流電圧信号Vacの周波数に相当する交流電流Iaの測定周波数fiは、信号処理部30のサンプリング周波数fsの近傍の値に設定されている。
【0058】
図2(a)に示すように、交流電流Iaの測定周波数fiとサンプリング周波数fsとの両者を互いにずらすことにより、サンプリング周期は、交流電流Iaの半波長分の周期である半周期よりも長い低速周期Tsとなる。
【0059】
一般的には、サンプリング周期は、ナイキストの定理に従って、交流電流Iaの半周期よりも短い周期に設定される。サンプリング周期を交流電流Iaの半周期よりも短くするほど、サンプリング数が増加するので交流電圧信号Vacの波形を再現しやすくなり、交流電圧信号Vacの検出精度が向上する。
【0060】
これに対し、本実施形態では、サンプリング周期が交流電流Iaの半周期よりも長い低速周期Tsに設定されるので、交流電流Iaの一波長λi又は二波長分の周期ごとに異なるタイミングにより交流電圧信号Vacが標本化される。したがって、標本化した離散値Vd(1)乃至Vd(5)の一つ一つは、交流電圧信号Vacを一波長λiごとに離散的に標本化したものであり、一波長λi内に多数のサンプリング値を示す一般的な波形データではない。
【0061】
しかしながら、
図2(b)に示すように、交流電圧信号Vacを標本化した離散値Vd(1)乃至Vd(5)などを収集することによって、交流電圧信号Vacの波形を復元することが可能になる。そこで、発明者らは、収集した離散値Vdの一群に対して上式(1)のように実効値を演算する処理を施したところ、一般的な波形データから得られる電池10のインピーダンスZと同等の精度で、電池10のインピーダンスZを求めることができるということを確認した。
【0062】
すなわち、低速周期Tsで交流電圧信号Vacを標本化した場合であっても、標本化した離散値Vdの一群に対して統計的な処理を施すことにより、電池10のインピーダンスZを測定することができることを発明者らは知見した。そして、このような手法を採用することにより、例えば処理能力が比較的低いような簡易な構成を有する信号処理装置であっても、精度よく電池10のインピーダンスZを測定することが可能になることを発明者らは見出した。
【0063】
さらに発明者らは、1[ms/S]のサンプリング周波数fsと測定周波数fiとの差分Δfを数十[Hz]程度に小さく設定した場合は、離散値Vdの一群のサンプリング数を少なくとも3,000個程度収集することにより測定結果のバラツキが抑制されることも確認した。
【0064】
このように、サンプリング周波数fsと測定周波数fiとを互いにずらすことにより、交流電圧信号Vacの測定開始後一分以内に、バラツキが小さく、かつ、確度が高い電池10のインピーダンスZを取得することが可能になる。
【0065】
また、発明者らは、交流電圧信号Vacを標本化した離散値Vdの一群を用いて算出される実効値と理論上の実効値(1/√2)との相対誤差を求める式を導出して測定結果のバラツキについて評価を行った。その結果、低速周期Tsを1[ms/S]とし、測定周波数fiを980[Hz]とする場合に相対誤差を0.1[%]程度に収めるためには、サンプリング数が3,000個程度必要になることがわかった。
【0066】
すなわち、サンプリング周波数fsを1[kHz]とし、測定周波数fiを980[Hz]とする場合は、離散値Vdの一群のサンプリング数を少なくとも3,000個程度収集することにより測定結果のバラツキを0.1[%]程度に収めることができるという結果が得られた。このように評価式を用いて得られた算出結果と発明者らによる実験結果とは概ね一致していることも確認した。
【0067】
これらの結果から、サンプリング周波数fsと測定周波数fiとを互いにズラして設定することにより、交流電圧信号Vacの標本化に要する測定時間を短縮しつつ測定結果のバラツキを抑えることができるといえる。
【0068】
なお、
図2に示した例では測定周波数fiがサンプリング周波数fsから差分Δfだけ減じた値に設定されているが、測定周波数fiはサンプリング周波数fsに差分Δfだけ加えた値に設定されてもよい。
【0069】
次に、測定装置1の動作について
図3及び
図4を参照して説明する。
【0070】
図3は、電池10のインピーダンスZを測定するための測定方法の処理手順例を示すフローチャートである。まず、電池10の正極電極10a及び負極電極10bの両端が測定装置1の交流電流源20及び信号処理部30にそれぞれ並列接続される。
【0071】
ステップS1において交流電流源20は、電圧信号Vaを標本化する際に標本化した離散値Vdが順次変化するように定められた測定周波数fiを有する交流電流Iaを電池10に印加する。本実施形態では、測定周波数fiは、信号処理部30でのサンプリング周波数fsからズラした近傍の値、例えば980[Hz]に設定される。
【0072】
ステップS2において信号処理部30は、交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い低速周期Tsで電圧信号Vaを標本化する。例えば、離散値Vdの一群を収集する時間を短縮する観点から、信号処理部30は、交流電流Iaの一波長分又は二波長分の周期ごとに異なるタイミングにより電圧信号Vaを標本化する。本実施形態では、低速周期Tsは、信号処理部30の性能上の上限値、例えば1[ms/S]に設定される。
【0073】
ステップS3において信号処理部30は、標本化した離散値Vdの一群を示す離散データを生成する。離散値Vdの一群の数は、例えば3,000個以上に設定される。
【0074】
ステップS4において測定部40は、信号処理部30から取得した離散データに基づいて電池10における内部抵抗11のインピーダンスZを演算するためのインピーダンス演算処理を実行する。このインピーダンス演算処理の一例については
図4を参照して後述する。
【0075】
ステップS5において表示部50は、測定部40によって演算されたインピーダンスZを測定結果として測定者に表示する。
【0076】
図4は、ステップS4で実行されるインピーダンス演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0077】
ステップS41において測定部40は、離散値Vdの一群を示す離散データを用いて、交流信号の実効値を演算するための実効値演算処理を実行する。本実施形態では、測定部40は、上式(1)のように、離散値Vdの一群についての二乗平均値の平方根を演算した値を交流電圧信号Vacの実効値RMSとして出力する。
【0078】
ステップS42において測定部40は、交流電圧信号Vacの実効値RMSを交流電流Iaの実効値を除して電池10のインピーダンスZを算出する。ステップS42の処理が終了すると、測定部40は、
図3に示したステップS4の処理に戻って、算出した電池10のインピーダンスZを測定結果として表示部50に出力する。
【0079】
次に、第一実施形態による作用効果について説明する。
【0080】
本実施形態において、交流電流Iaが印加された電池10に生じる電圧信号Vaを標本化して電池10における内部抵抗11のインピーダンスZを測定する測定装置1は、測定周波数fiを有する交流電流Iaを電池10に印加する交流電流源20を備える。測定周波数fiは、標本化した値が順次変化するように定められた所定の周波数である。そして測定装置1は、交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い所定の周期である低速周期Tsで電圧信号Vaを標本化する信号処理部30と、信号処理部30によって標本化された離散値Vdの一群を示す離散データに基づいて電池10のインピーダンスZを演算する測定部40を含む。
【0081】
また、本実施形態における測定方法は、交流電流Iaが印加された電池10に生じる電圧信号Vaを標本化して電池10のインピーダンスZを測定する。この測定方法は、上記の交流電流Iaを電池10に印加するステップS1と、交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い低速周期Tsで電圧信号Vaを標本化するステップS2と、ステップS2において標本化された離散値Vdの一群を示す離散データに基づいて電池10のインピーダンスZを演算するステップS4と、を含む。
【0082】
これらの構成によれば、上記の低速周期Tsで電圧信号Vaを標本化した場合であっても、標本化した離散値Vdの一群を収集して得られる実効値RMSなどの電圧値を用いることにより、電池10のインピーダンスZを精度よく測定できることを発明者らは知見した。そのため、高速でサンプリングできないような簡易な回路構成の装置を用いても精度よく電池10のインピーダンスZを求めることができる。
【0083】
すなわち、本実施形態によれば、簡易な構成により電池10のインピーダンスZを測定することができる。これに加え、サンプリング周期を下げることによって測定装置1の処理負荷を抑えられるので、測定装置1のコストを低減することが可能になる。
【0084】
また、本実施形態における測定部40は、信号処理部30からの離散データを用いて電圧信号Vaの実効値を演算する処理を実行して電池10のインピーダンスZを演算する。交流電流Iaの一周期内で標本化された一つの離散値Vdだけでは電圧信号Vaの正弦波形が復元されない離散データであっても、離散値Vdの一群に対して実効値を演算する統計的な処理を施すことにより、電圧信号Vaの実効値を精度よく検出することができる。したがって、電池10のインピーダンスZを精度よく測定することができる。
【0085】
また、本実施形態における信号処理部30の低速サンプリング処理部31は、交流電流Iaの一波長分又は二波長分の周期ごとに異なるタイミングで電圧信号Vaを標本化する。
【0086】
この構成によれば、交流電流Iaの二波長分の周期よりも長い周期ごとに電圧信号Vaを標本化する場合に比べて、標本化した離散値Vdの一群を収集するのに必要となる時間を短縮することができる。したがって、速やかに電池10のインピーダンスZを測定することができる。
【0087】
また、本実施形態では、交流電流Iaが有する測定周波数fiは、電圧信号Vaを標本化するための標本化周波数(サンプリング周波数fs)の近傍の値に定められる。このように測定周波数fiをサンプリング周波数fsからズラして設定することにより、測定周波数fiとサンプリング周波数fsとの差分Δfが比較的小さくなるので、電圧信号Vaの実効値の算出誤差を小さくすることができる。
【0088】
また、本実施形態では、離散データに示される離散値Vdの一群の数は、測定周波数fiとサンプリング周波数fsとの差分Δfに応じて定められる。これにより、離散値Vdの一群の数を固定する場合に比べて、離散値Vdの不足によってインピーダンスZの測定精度が低下したり、離散値Vdの過多によってインピーダンスZの測定時間が長くなったりすることを回避できる。
【0089】
また、本実施形態における測定部40は、電圧信号Vaの交流成分である交流電圧信号Vacの実効値RMSを交流電流Iaの実効値により除して電池10のインピーダンスZを算出する。このように交流電圧信号Vac及び交流電流Iaの物理量として実効値を用いることにより、電池10のインピーダンスZを精度よく求めることができる。
【0090】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態における測定装置について
図5を参照して説明する。
【0091】
図5は、本実施形態における測定装置2の構成を示す回路図である。本実施形態では、測定装置2の測定対象物は、
図1に示した電池10を複数備える組電池100であり、測定装置2は、この組電池100の全部又は一部の電池10のインピーダンスを測定する点が第一実施形態とは異なる。ここでは電池10のことを単電池10と称する。
【0092】
測定装置2は、組電池100を構成する複数の単電池10のインピーダンスを測定するインピーダンス測定システムである。具体的には、測定装置2は、組電池100のうち五つの単電池10の各々について
図1に示した内部抵抗11のインピーダンスZを測定する。
【0093】
測定装置2は、
図1に示した低速サンプリング処理部31に代えて、これに対応する低速サンプリング処理部31Aを備えている。他の構成については、測定装置1と同様の構成であるため、同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0094】
組電池100は、複数の単電池10が直列接続されてなる電池である。測定装置2の交流電流源20は、組電池100の正極端子100a及び負極端子100bの両端に接続され、第一実施形態と同じように測定周波数fiを有する交流電流Iaを組電池100の正極端子100aに印加する。これにより、各単電池10の両端間には、第一実施形態と同じように、単電池10の直流電圧に交流電圧信号Vacを重畳した電圧信号Vaが生じる。
【0095】
信号処理部30は、組電池100を構成する単電池10ごとに、単電池10の両端間に生じる交流電圧信号Vacを交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い所定の周期である低速周期Tsで標本化する。そして信号処理部30は、単電池10の各々について、交流電圧信号Vacを標本化した離散値Vdの一群を示す離散データを生成する。
【0096】
本実施形態において信号処理部30は、第一実施形態と同じように、交流電流Iaの一波長分又は二波長分の周期ごとに異なるタイミングにより交流電圧信号Vacを単電池10ごとに標本化する。このような処理は、例えば、交流電流Iaの測定周波数fiを信号処理部30のサンプリング周波数fsの近傍の値にずらすことによって実現される。
【0097】
図5に示す例では、信号処理部30の第一チャネル(CH1)から第五チャネル(CH5)までの各チャンネルに接続された単電池10は、それぞれ単電池10(1)から10(5)と表記されている。
【0098】
本実施形態では、信号処理部30を構成する低速サンプリング処理部31Aは、切替器311とA/Dコンバータ312とを備える。
【0099】
切替器311は、複数の単電池10に接続された入力端子Ti1乃至Ti5と、入力端子Ti1乃至Ti5に接続可能な一対の出力端子To1及びTo2とを有する。切替器311は、一対の出力端子To1及びTo2の接続先となる複数の入力端子Ti1乃至Ti5を単電池10ごとに順次切り替える切替手段を構成する。
【0100】
具体的には、切替器311の五つの入力端子Ti1乃至Ti5には、それぞれ単電池10(1)乃至10(5)の正極電極10aが接続され、一対の出力端子To1及びTo2には、A/Dコンバータ312の入力端子に接続されている。
【0101】
また、切替器311の四つの入力端子Ti2乃至Ti5には、それぞれ単電池10(1)乃至10(4)の負極電極10bが接続され、切替器311の入力端子Tieには、単電池10(5)の負極電極10bが接続されている。
【0102】
切替器311は、本実施形態では交流電圧信号Vacを標本化する低速周期Tsの五倍の周期で、一対の出力端子To1及びTo2の接続先を入力端子Ti1乃至Ti5の各々に順次切り替える。これにより、切替器311は、単電池10(1)乃至10(5)の各々について、低速周期Tsで交流電圧信号VacをA/Dコンバータ312に出力する。
【0103】
A/Dコンバータ312は、第一実施形態と同じように交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い低速周期Tsで、単電池10(1)乃至10(5)の各々の交流電圧信号Vacを標本化する標本化手段を構成する。このため、A/Dコンバータ312は、低速周期Tsよりも短い高速周期で切替器311の出力端子To1から出力される交流電圧信号Vacを標本化する。
【0104】
本実施形態においてA/Dコンバータ312は、低速周期Tsの五分の一の周期である高速周期で、切替器311の出力端子To1からの出力信号を標本化する。これにより、単電池10(1)乃至10(5)の各々の交流電圧信号Vacが低速周期Tsで標本化される。例えば、低速周期Tsは1.0[ms/S]であり、高速周期は0.2[ms/S]である。
【0105】
A/Dコンバータ312は、単電池10(1)乃至10(5)の各々の単電池10ごとに低速周期Tsで標本化した離散値Vdを量子化し、量子化した値を新たな離散値Vdとして順次離散データ生成部32に出力する。そして離散データ生成部32は、単電池10ごとに低速周期で離散値Vdの一群を示す離散データを生成する。
【0106】
そして測定部40は、単電池10ごとにA/Dコンバータ312によって生成された離散データに基づいて、第一実施形態と同じように単電池10(1)乃至10(5)の各内部抵抗11のインピーダンスZを演算する。
【0107】
このように、測定装置2は、複数の単電池10の各々について、第一実施形態と同様、単電池10の両端間の交流電圧信号Vacを低速周期Tsで標本化することにより単電池10のインピーダンスZを精度よく測定することができる。
【0108】
次に、測定装置2の動作について
図6を参照して説明する。
【0109】
図6は、組電池100を構成する複数の単電池10のインピーダンスZを測定する測定方法の一例を示すフローチャートである。まず、組電池100の両端が測定装置2の交流電流源20及び信号処理部30にそれぞれ並列接続される。
【0110】
ステップS11において交流電流源20は、測定周波数fiを有する交流電流Iaを組電池100の正極端子100aに印加する。測定周波数fiは、例えば、サンプリング周波数fsからズラした値に設定される。
【0111】
ステップS121において信号処理部30は、低速周期Tsよりも速い高速周期で、複数の単電池10を一つずつ順次切り替える。本実施形態では、信号処理部30は、単電池10の各々に接続される複数の入力端子Ti1乃至Ti5と複数の入力端子Ti1乃至Ti5に接続可能な出力端子To1とを有し、出力端子To1の接続先を高速周期で順次切り替える。高速周期は、信号処理部30の性能上の上限値に設定される。
【0112】
ステップS122において信号処理部30は、単電池10ごとに、低速周期Tsで交流電圧信号Vacを標本化する。例えば、離散値Vdの一群を収集する時間を短縮する観点から、信号処理部30は、単電池10の各々について、交流電流Iaの一波長分又は二波長分の周期ごとに異なるタイミングにより交流電圧信号Vacを標本化する。低速周期Tsは、例えば1[ms/S]に設定される。
【0113】
ステップS13において信号処理部30は、単電池10ごとに、標本化した離散値Vdの一群を示す離散データを生成する。離散値Vdの一群の数は、例えば3,000個以上に設定される。
【0114】
ステップS14において測定部40は、単電池10ごとに、
図3に示したインピーダンス演算処理を実行する。これにより、複数の単電池10の各々のインピーダンスZが算出されて、測定方法についての一連の処理手順が終了する。
【0115】
次に、第二実施形態による作用効果について説明する。
【0116】
本実施形態において測定装置2の測定対象物は、複数の単電池10によって構成された組電池100であり、交流電流源20は、組電池100の両端に交流電流Iaを印加する。そして低速サンプリング処理部31は、組電池100を構成する一つの単電池10ごとに交流電圧信号Vacを交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い所定の周期である低速周期Tsで標本化する。そして測定部40は、単電池10ごとに、第一実施形態と同じように、低速周期Tsで標本化した離散値Vdの一群を示す離散データに基づいて単電池10のインピーダンスZを演算する。
【0117】
この構成によれば、複数の単電池10のインピーダンスZを測定するにあたり、交流電圧信号Vacのサンプリング周期を一般的な周期よりも遅い低速周期Tsに設定できるので、低速サンプリング処理部31を簡易に構成することができる。
【0118】
また、一般的には、測定対象となる単電池10の個数が増えるほど、処理能力の高い高価な装置を用いて標本化することが必要になる。これに対し、本実施形態の上記構成では、全ての交流電圧信号Vacが低速周期Tsで標本化されるので、高価な装置を用いることなく、一般的な周期から低速周期Tsに変更した分だけ測定可能な単電池10の個数を増やすことができる。
【0119】
したがって、低速サンプリング処理部31を簡易な構成にしつつ、複数の単電池10のインピーダンスZを測定することが可能となる。それゆえ、複数の単電池10の測定に要するコストを低減することができる。すなわち、信号処理部30の一つのチャンネルあたりの単価を下げることができる。
【0120】
これに加えて本実施形態の測定装置2では、一つの交流電流源20から組電池100の全体に交流電流Iaが印加されるので、単電池10ごとに交流電流Iaを印加する必要がない。それゆえ、複数の交流電流源20を用意する必要がないため、測定装置2の構成を簡素にすることができる。
【0121】
また、本実施形態における測定装置2は、複数の単電池10に接続された入力端子Ti1乃至Ti5と、A/Dコンバータ312に接続された出力端子To1とを有する切替器311をさらに備える。この切替器311は、出力端子To1の接続先となる複数の入力端子Ti1乃至Ti5を順次切り替える。そしてA/Dコンバータ312は、切替器311の出力端子To1から出力される交流電圧信号Vacを、上記の低速周期よりも短い周期で標本化することにより、単電池10の各々の交流電圧信号Vacを低速周期Tsで標本化する。
【0122】
この構成によれば、A/Dコンバータ312の前段に切替器311を配置することにより、単電池10ごとにA/Dコンバータ312を設ける必要がなくなる。それゆえ、信号処理部30の構成を簡素にしつつ、製造コストを低減することができる。
【0123】
一方、A/Dコンバータ312の前段に切替器311を配置することにより、複数の交流電圧信号Vacを一つのA/Dコンバータ312において標本化しなければならないので、A/Dコンバータ312の処理負荷は高くなる。しかしながら、交流電圧信号Vacの各々を低速周期Tsで標本化すればよいので、A/Dコンバータ312の処理能力を上げることなく複数の単電池10のインピーダンスZを測定することが可能となる。
【0124】
したがって、本実施形態によれば、複数の交流電圧信号Vacを時分割で標本化するにあたり、A/Dコンバータ312の処理能力を抑えるとともに信号処理部30の構成を簡素にすることができる。すなわち、信号処理部30の簡素化及び処理能力の抑制という二つの相反する効果を同時に実現することができる。
【0125】
また、本実施形態において、信号処理装置としての信号処理部30は、組電池100に交流電流Iaが印加された状態で組電池100を構成する複数の単電池10の各々のインピーダンスZを測定するために必要となる単電池10の各々の交流電圧信号Vacを標本化する。
【0126】
この信号処理部30は、単電池10の各々に接続される複数の入力端子Ti1乃至Ti5と複数の入力端子Ti1乃至Ti5に接続可能な出力端子To1とを有し出力端子To1の接続先を順次切り替える切替手段として切替器311を備える。さらに信号処理部30は、A/Dコンバータ312と離散データ生成部32とを備える。A/Dコンバータ312は、各入力端子Ti1乃至Ti5ごとに交流電流Iaの半波長分の周期よりも長い低速周期Tsで出力端子To1から出力される交流電圧信号Vacを標本化する標本化手段を構成する。離散データ生成部32は、交流電圧信号Vacの実効値RMSを演算する処理が実行されるようA/Dコンバータ312によって標本化された離散値Vdの一群を示す離散データを各入力端子Ti1乃至Ti5ごとに生成する生成手段を構成する。
【0127】
この構成によれば、上述のとおり、複数の交流電圧信号Vacを時分割で標本化するにあたり、A/Dコンバータ312のサンプリング性能を抑えつつ信号処理部30の構成を簡素にすることができる。
【0128】
なお、本実施形態では単電池10が直列接続された組電池100のうち信号処理部30が複数の単電池10のインピーダンスZをそれぞれ測定する例について説明したが、これに限れられるものではない。例えば、信号処理部30は、単電池10が並列接続又は直列並列接続された組電池のうち複数の単電池10のインピーダンスZをそれぞれ測定するものであってもよい。
【0129】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0130】
1、2 測定装置
10 電池
20 交流電流源(印加手段)
30 信号処理部(信号処理装置、標本化手段、生成手段)
31 低速サンプリング処理部(標本化手段)
311 切替器(切替手段)
312 A/Dコンバータ(標本化手段)
32 離散データ生成部(生成手段)
40 測定部(演算手段)
41 電圧値演算部
42 インピーダンス演算部
100 組電池
S1~S4、S11~S14(印加ステップ、標本化ステップ、演算ステップ)