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特許7494025微生物または細胞の培養に有用な気体を含有するファインバブル・ウルトラファインバブルを用いた撹拌機のない生物反応装置、およびこの生物反応装置を用いた生物反応方法
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  • 特許-微生物または細胞の培養に有用な気体を含有するファインバブル・ウルトラファインバブルを用いた撹拌機のない生物反応装置、およびこの生物反応装置を用いた生物反応方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】微生物または細胞の培養に有用な気体を含有するファインバブル・ウルトラファインバブルを用いた撹拌機のない生物反応装置、およびこの生物反応装置を用いた生物反応方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/04 20060101AFI20240527BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240527BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240527BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C12M1/04
C12M1/00 D
C12N1/00 C
C12N5/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020112193
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022011205
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】国友 信秀
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】樋口 正守
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-012484(JP,A)
【文献】特開2017-038589(JP,A)
【文献】特開2007-312689(JP,A)
【文献】特開平01-291784(JP,A)
【文献】特開2011-092111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液および微生物または細胞を含有する生物培養液を収容する培養槽、
上記生物培養液を上記培養槽から抜き出す抜出管路、および
上記抜出管路と上記培養槽との間に配され、上記生物培養液を上記培養槽に還流するマルチノズルを備える生物反応装置であって、
上記マルチノズルは、
上記生物培養液に、上記微生物または細胞の培養に有用な気体を含有する気体のファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させるファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置、および
上記培養槽側の出口に設けられた複数の吐出口を備え、
上記複数の吐出口が、上記ファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させた上記生物培養液を、上記マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられ
上記マルチノズルが、
上記抜出管路に接続された下端部、
上記培養槽に接続された上端部、
上記下端部に接続され、上記下端部に供給された上記生物培養液を分流し上記上端部側に搬送する、上記マルチノズルの中心軸に沿って設けられた複数の搬送管路、および
上記各搬送管路に接続された、複数の吐出管路を備えており、
上記各吐出管路または上記各搬送管路に、上記ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置がそれぞれ設けられていることを特徴とする、生物反応装置。
【請求項2】
上記抜出管路と上記マルチノズルとの間に、上記培養槽から抜き出した上記生物培養液を、ろ過液とろ過液を除いた上記生物培養液とに分離するろ過器が配置され、
このろ過液が、上記マルチノズルに供給されることを特徴とする、請求項1に記載の生物反応装置。
【請求項3】
上記マルチノズルが、上記各吐出管路の上記培養槽側の出口に設けられた、上記複数の吐出口を備えており、
接続された一対の上記搬送管路および上記吐出管路を含む各平面において、該搬送管路と該吐出管路が成す鋭角側の角度が90°を超え180°未満に設定されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の生物反応装置。
【請求項4】
上記マルチノズルにおける、上記各平面が上記マルチノズルの中心軸を含む平面であることを特徴とする、請求項3に記載の生物反応装置。
【請求項5】
上記マルチノズルにおける、上記各平面が上記マルチノズルの中心軸を含まない平面であり、上記各平面と、上記各搬送管路および上記マルチノズルの中心軸を含む平面が成す鋭角側の角度が0°を超え90°未満に設定されていることを特徴とする、請求項3に記載の生物反応装置。
【請求項6】
上記培養槽が横型培養槽であることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の生物反応装置。
【請求項7】
上記培養槽が縦型培養槽であることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の生物反応装置。
【請求項8】
上記マルチノズルが複数個設けられていることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の生物反応装置。
【請求項9】
上記複数個のマルチノズルから吐出される、上記ファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させた上記生物培養液の吐出量が、上記複数個のマルチノズルにおいてそれぞれ独立して調整されることを特徴とする、請求項に記載の生物反応装置。
【請求項10】
前記請求項1~のいずれかに記載の生物反応装置により、上記微生物または細胞の反応生成物を得る、または、上記微生物または細胞を増殖させることを特徴とする、生物反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物または細胞(以下、「微生物等」ともいう。)を培養して、微生物等に反応生成物を生成させ、または、微生物等を増殖する生物反応装置およびこの生物反応装置を用いた生物反応方法に関し、撹拌機を使用することなく、培養槽に収容された、培養液および微生物等を含有する生物培養液(以下、「生物培養液」ともいう。)を撹拌することを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
生物反応は、化学反応と異なり、反応自体は遅いが、多大なエネルギーや多くの化学物質を使用しないので、環境にとって温和で有意義な反応である。
【0003】
しかし、生物反応は、一般的に反応が遅いという問題があった。すなわち、化学反応は、1時間以内の反応で十分な場合が多いのに対して、生物反応の場合は、数時間から長い場合は数日または特に長い場合数週間以上の反応時間を要する場合もある。このため、生物反応を効率的、経済的に行うことが求められている。
【0004】
本発明者等は、特許文献1~4等において、酸素含有気体のマイクロナノバブルを用いて、微生物等の生物反応を効率的かつ経済的に行うことを提案している。
【0005】
なお、本件の特許請求の範囲および明細書では、従来の「マイクロバブル」、「ナノバブル」を、それぞれ、「ファインバブル」、「ウルトラファインバブル」と称する。
【0006】
しかしながら、特許文献1~4の生物反応装置・生物反応方法では、撹拌機を使用して、培養槽に収容された生物培養液を撹拌することから、
a)ストレス・ダメージを受けて、微生物等の活性が低下したり、増殖が阻害されたりする、
b)生物反応前の培地滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ、雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、
c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する
等の問題が生じる。
【0007】
また、特許文献5および6では、撹拌機を使用しない微生物等の培養方法が提案されている。しかしながら、特許文献5では、菌体の流加培養(菌体の増殖に伴って培地の量を増加させる)という特殊な培養において、培養タンク本体内に設けるという特殊な構造を採用して、内筒内外の液の比重差を利用して自然循環流が行われる。また、特許文献6では、細胞の培養を、鉛直な一対の培養筒の下部を連結した反応槽という特殊な反応槽を用いて、両培養筒の下部に接続したガス吹込手段から交互にガスを吹き込んで培養液を撹拌するという特殊な方法で撹拌が行われる。このように、特許文献5および6に開示された撹拌手法は、培養槽内の構造が複雑となり、雑菌の混入防止が困難であることから、一般的な培養槽を用いる生物反応装置・生物反応方法では採用できないものである。
【0008】
本発明者等は、次の事項を見いだし、本発明をなしたものである。
1)従来の生物反応装置・生物反応方法では、撹拌機は、i)培養槽に供給される気体の気泡を細かく剪断する目的、およびii)培養槽中の生物培養液を均一に混合する目的で用いられているが、特許文献1~4のような、酸素含有気体のファインバブル・ウルトラファインバブルを用いる生物反応装置・生物反応方法では、既に上記i)の目的は十分に達成されていることから、上記ii)の目的が達成できれば、撹拌機を使用する必要性が乏しいこと。
2)上記ii)の目的は、培養槽に還流される、上記ファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させた生物培養液を、中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられている複数の吐出口を備えたマルチノズルを用いて培養槽に向けて吐出することにより、経済的かつ効率的に達成できること。
3)上記ファインバブル・ウルトラファインバブルに含有させる気体として、特許文献1~4のような<好気性または通性嫌気性微生物等>の培養では酸素を含有する気体が用いられるが、これに限らず、<偏性嫌気性微生物等>の培養では、窒素を含有する気体を用いて、また、天然ガス由来の炭素ガス(炭酸ガス、メタンガス等)から有機物(アミノ酸、有機酸、タンパク質等)を生成する微生物<有機物合成微生物等>の培養では、炭酸ガス、メタンガス等の天然ガス由来の炭素ガスを用いて、同様に、撹拌機を使用することなく培養が行えること。
【0009】
上記1)~3)の着想に基づいて成された本発明の生物反応装置およびこの生物反応装置を用いた生物反応方法は、撹拌機を使用することなく、生物培養液に、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、天然ガス由来の炭素ガス、火力発電所から排出される炭酸ガス等の微生物等の培養に有用な気体(以下、「有用気体」ともいう。)を含有する気体のファインバブル・ウルトラファインバブル(以下、「微細気泡」ともいう。)を含有させた生物培養液を、マルチノズルを用いて、培養槽内の多方向に向けて吐出することを特徴とするものであり、これにより、微生物等の活性を低下させずに、上記a)~c)の問題が解決できると共に、マルチノズルを用いることにより、撹拌を経済的かつ効率的に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5985114号公報
【文献】特許第6087476号公報
【文献】特許第6138390号公報
【文献】特許第6499203号公報
【文献】特開平6-327460号公報
【文献】特開2012-115232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の生物反応装置(以下、「本発明の生物反応装置」ともいう。)およびこの生物反応装置を用いた生物反応方法(以下、「本発明の生物反応方法」ともいい、総称して「本発明の生物反応装置・方法」ともいう。)の課題は、撹拌機を使用せずに培養槽に収容された生物培養液を十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持できると共に、撹拌機を使用しないことにより、培養槽・生物反応装置の内部構造を簡素化でき、洗浄性の向上および雑菌汚染の防止を図ることができる、ひいては、撹拌を経済的かつ効率的に行うことのできる生物反応装置・生物反応方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の生物反応装置・方法では、培養槽から生物培養液を抜き出し、微細気泡を含有させて培養槽に還流する際に、有用気体を含有する気体の微細気泡を含有する生物培養液を、マルチノズルを用いて、培養槽内の多方向に向けて吐出することにより、撹拌機を使用することなく生物培養液の撹拌を行うことを特徴とするものである。具体的には、生物培養液を収容する培養槽、生物培養液を培養槽から抜き出す抜出管路、および抜出管路と培養槽との間に配され、生物培養液を培養槽に還流するマルチノズルを備える生物反応装置であって、上記マルチノズルは、生物培養液に、有用気体を含有する気体の微細気泡を含有させる微細気泡発生装置、および培養槽側の出口に設けられた複数の吐出口を備え、複数の吐出口から、微細気泡を含有させた生物培養液(以下、「微細気泡含有生物培養液」ともいう。)を、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、上記のように、有用気体を含有する気体の微細気泡を含有する生物培養液を、マルチノズルを用いて、培養槽内の多方向に向けて吐出することにより、撹拌機を使用せずに、培養槽に収容された生物培養液を十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持することができる。
【0014】
さらに、本発明では、上記のように撹拌機を使用しないことにより、培養槽・生物反応装置の内部構造を簡素化でき、洗浄性の向上および雑菌汚染の防止を図ることができる、
そして、撹拌機を使用しないことにより、a)微生物等がストレス・ダメージを受け微生物等の活性が低下する、b)生物反応前の滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する等の従来の問題を解決することができる。
【0015】
このように、撹拌機を使用せずマルチノズルを用いることにより、培養槽に収容された生物培養液の撹拌を、経済的かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の生物反応装置・方法の第1実施形態の概要を示す模式図である。
図2】本発明の生物反応装置・方法の第2実施形態の概要を示す模式図である。
図3】本発明の生物反応装置・方法に用いられるマルチノズルの概要を示す断面模式図である。
図4図3のX-X’断面を示す断面模式図である。
図5図3の左端面を示す外観模式図である。
図6】本発明の生物反応装置・方法における搬送管路と吐出管路が成す鋭角側の角度を説明するための模式図である。
図7】本発明の生物反応装置・方法における搬送管路と吐出管路が成す鋭角側の角度を説明するための模式図である。
図8】本発明の生物反応装置・方法の第3実施形態の概要を示す模式図である。
図9】本発明の生物反応装置・方法に用いられる微細気泡発生装置を示す断面模式図である。
図10】本発明の生物反応装置・方法に好適に用いられる微細気泡発生装置を示す外観模式図である。
図11】微細気泡発生装置の作動状態を示す断面模式図である。
図12】従来の生物反応装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面も参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
<本発明の生物反応装置・方法の一般的事項>
まず、本発明の生物反応装置・方法の一般的事項について説明する。
【0019】
本発明の生物反応装置・方法は、<好気性または通性嫌気性微生物等>の培養に好適に用いることができる。具体的には、醸造、発酵等による食品、薬品、化学品等の製造、バイオマスを利用したバイオエタノールの製造等の微生物等による反応生成物の製造のみならず、微生物等の増殖にも適用できる。<好気性または通性嫌気性微生物等>を培養する場合には、有用気体として酸素を含有する気体が用いられる。
【0020】
<好気性または通性嫌気性微生物等>を用いた生物反応は、培養槽に収容した微生物等を含有する培養液中において、培養液を栄養源として、微生物等に反応生成物を生成させたり、微生物等を増殖させるものである。
【0021】
<好気性または通性嫌気性微生物等>の培養液としては、糖類、窒素源が含有されたものを用いる。糖類としては、通常、マルトース、スクロース、グルコース、フルクトース、これらの混合物等の糖類、エタノール等が用いられ、培養液における糖類の濃度は、特に限定されないものの、0.1~10w/v%とするのが好ましい。また、窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムまたはコーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、ペプトン等が用いられ、0.1~10w/v%とするのが好ましい。さらに、培養液には糖類、窒素源以外にも、必要に応じて、ビタミン、無機塩類等を添加することが好ましい。
【0022】
<好気性または通性嫌気性微生物等>としては、醸造、発酵等の技術分野で従来用いられている、アスペルギルス菌等の麹菌、納豆菌、酢酸菌、酵母菌、乳酸菌等の好気性および通性嫌気性の微生物のほか、遺伝子組み換え技術で創り出される各種好気性および通性嫌気性の微生物を用いることができる。また、細胞としては、例えば、抗体医薬として使用される生理活性ペプチドまたは蛋白質を製造するための動物細胞、とりわけ遺伝子組換え動物細胞等が挙げられる。
【0023】
さらに、本発明の生物反応装置・方法は、ビフィズス菌等の大気レベルの濃度の酸素に暴露することにより生育が阻害される<偏性嫌気性微生物等>の培養にも用いることができる。<偏性嫌気性微生物等>を培養する場合には、有用気体として窒素が用いられる。
【0024】
さらに、本発明の生物反応装置・方法は、天然ガス由来の炭素ガス(炭酸ガス、メタンガス)、火力発電所から排出される炭酸ガス等から、アミノ酸、有機酸、タンパク質等の有機物を生成する<有機物合成微生物等>の培養にも用いることができる。<有機物合成微生物等>を培養する場合には、有用気体として、天然ガス由来の炭素ガス、火力発電所から排出される炭酸ガス等が用いられる。
【0025】
<本発明の生物反応装置・方法において用いられる微細気泡>
次に、本発明の生物反応装置・方法において用いられる微細気泡について説明する。
【0026】
本発明の生物反応装置・方法において用いられる「ファインバブル・ウルトラファインバブル」(微細気泡)とは、「ファインバブル」および/または「ウルトラファインバブル」を意味する。「通常の気泡」は水中を急速に上昇して表面で破裂して消えるのに対し、「ファインバブル」といわれる直径50μm以下の微小気泡は、水中で縮小していって消滅し、この際に、フリーラジカルと共に、直径100nm以下の極微小気泡である「ウルトラファインバブル」を発生し、この「ウルトラファインバブル」は比較的長時間水中に残存する。
【0027】
本発明においては、個数平均直径が100μm以下の気泡を「ファインバブル」といい、個数平均直径が1μm以下の気泡を「ウルトラファインバブル」という。「ファインバブル・ウルトラファインバブル」(微細気泡)の気泡径を測定する方法としては、画像解析法、レーザー回折散乱法、電気的検知帯法、共振式質量測定法、光ファイバープローブ法等が一般に用いられ、ナノバブルの気泡径を測定する方法としては、動的光散乱法、ブラウン運動トラッキング法、電気的検知帯法、共振式質量測定法等が一般に用いられている。
【0028】
<本発明の生物反応装置の特徴>
まず、従来用いられている、酸素含有気体の微細気泡を含有させて微生物等を培養する生物反応装置について説明する。
【0029】
図12]に示すように、従来の生物反応装置では、培養槽ポンプ101により培養槽102から生物培養液103を抜き出し、酸素含有気体aが供給される微細気泡発生装置104により酸素含有気体aの微細気泡を含有させて、培養槽102に還流すると共に、撹拌機105により培養槽102中の生物培養液103を撹拌している。また、培養槽ポンプ101と微細気泡発生装置104との間にろ過器(図示せず)を配置して、培養槽102から抜き出した生物培養液103から分離したろ過液を、微細気泡発生装置104に供給することも行われている。
【0030】
本発明の生物反応装置は、[図1]に示すように、生物培養液1を収容する培養槽2、培養槽ポンプ3等により生物培養液1を培養槽2から抜き出す抜出管路4、および抜出管路4と培養槽2との間に配され、生物培養液1を培養槽2に還流するマルチノズル5を備える生物反応装置であり、
マルチノズル5は、生物培養液1に、有用気体を含有する気体Aの微細気泡を含有させる微細気泡発生装置5-1、および培養槽2側の出口に設けられた複数の吐出口5-2を備えており、
複数の吐出口5-2が、微細気泡含有生物培養液を、マルチノズル5の中心軸Bの前方方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられていることを特徴とするものである。
【0031】
図1]に示す本発明の生物反応装置・方法の第1実施形態では、培養槽2の底部にマルチノズル5が設けられているが、[図2]に示す本発明の生物反応装置・方法の第2実施形態のように、培養槽2の側面部にマルチノズル5を設けることもできる。
【0032】
このように、有用気体を含有する気体Aの微細気泡含有生物培養液を、培養槽2に還流する際に、マルチノズル5の中心軸Bの前方方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することにより、撹拌機を使用することなく、微生物等の活性が維持できる生物反応装置および生物反応方法を提供することができる。そして、撹拌機を使用しないことにより、a)微生物等がストレス・ダメージを受け微生物等の活性が低下する、b)生物反応前の滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する等の従来の問題を解決することができる。さらに、培養槽内面にバッフル・邪魔板等の部材を設ける必要がないことから、培養槽内面にテフロン加工(テフロン:登録商標)を施し、汚れの付着防止、雑菌混入(コンタミネーション)のリスク低減を図ることができる。
【0033】
本発明の生物反応装置では、抜出管路4とマルチノズル5との間に、培養槽2から抜き出した生物培養液1を、ろ過液とろ過液を除いた生物培養液とに分離するろ過器を配置し、このろ過液を、マルチノズル5に供給することができる。このように、微生物等を除いたろ過液に有用気体を含有する気体Aの微細気泡を含有させ、マルチノズル5の吐出口5-2から吐出することにより、微生物等が受けるストレス・ダメージを低減することができる。ろ過液を除いた生物培養液は、回収されるか、または、別の管路を通じて培養槽2に還流される。
【0034】
<本発明の生物反応装置において用いられるマルチノズル>
次に、本発明の生物反応装置において用いられるマルチノズルの好適な態様について、[図3]~[図5]を用いて説明する。
【0035】
好適なマルチノズル5としては、[図3]に示すように、
1)抜出管路4に接続された下端部5-3、
2)培養槽2に接続された上端部5-4、
3)下端部5-3に供給された生物培養液1を分流し、上端部5-4側に搬送する、ノズルの中心軸Bに沿って設けられた複数の搬送管路5-5、
4)各搬送管路5-5に接続された、複数の吐出管路5-6、および
5)各吐出管路5-6の培養槽2側の出口に設けられた、複数の吐出口5-2
を備えており、複数の吐出口5-2が、微細気泡含有生物培養液を、中心軸Bの培養槽2側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられていることを特徴とする。
【0036】
マルチノズル5の複数の吐出口5-2は、上記のように、通常は、微細気泡含有生物培養液を、中心軸Bの培養槽2側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられるが、複数の吐出口5-2が培養槽2の壁面より内側に突出して設置される場合には、微細気泡含有生物培養液を、中心軸Bの培養槽2側方向に対して90°を超え180°未満となる方向に吐出することもできる。このように、微細気泡含有生物培養液を中心軸Bの培養槽2側方向に対して90°を超え180°未満となる方向に吐出すると、培養槽2の内壁面に微細気泡含有生物培養液が衝突する、微細気泡の浮上を抑制する等の作用が生じることから、培養槽2に収容された生物培養液1を適切に撹拌するための設計を行う際の選択肢を増やすことができる。
【0037】
図4]は、図3のX-X’断面を示す断面模式図であるが、このように、複数の搬送管路5-5は、マルチノズルの中心軸Bに沿って設けられる。また、[図5]は、[図3]の左端面を示す外観模式図であるが、このように、複数の吐出口5-2は、マルチノズルの中心軸Bに対して対称的に、上端部5-4の周囲に沿って配置されるのが好ましい。
【0038】
図3]には、微細気泡発生装置5-1を図示していないが、微細気泡発生装置5-1の設置の態様としては、
a)下端部5-3と搬送管路5-5の間に、1つの微細気泡発生装置5-1を設ける態様、
b)各吐出管路5-6に、それぞれ微細気泡発生装置5-1を設ける態様、または
c)各搬送管路5-5に、それぞれ微細気泡発生装置5-1を設ける態様
を採用することができる。
【0039】
上記a)の態様は、設置、維持等のコストの観点から好ましく、上記b)およびc)の態様は、各吐出口5-2から吐出される生物培養液1の微細気泡量を個別に調整できる観点から好ましい。
【0040】
<微細気泡含有生物培養液の吐出>
本発明の生物反応装置のマルチノズルでは、複数の吐出口は、微細気泡含有生物培養液を、マルチノズルの中心軸の前方方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられている。これにより、複数の吐出口から吐出される微細気泡含有生物培養液により、撹拌機を使用することなく、培養槽に収容された生物培養液が十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持することができる。
【0041】
微細気泡含有生物培養液を、マルチノズルの中心軸Bの前方方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するために、接続された一対の搬送管路5-5および吐出管路5-6の位置関係を次のように設定することができる。
【0042】
[位置関係A]
図6]および[図7]に示すように、接続された一対の搬送管路5-5および吐出管路5-6を含む各平面Cにおいて、搬送管路5-5と吐出管路5-6が成す鋭角側の角度αを90°を超え180°未満に設定する。
【0043】
この位置関係Aにより、各吐出口5-2から吐出される、微細気泡含有生物培養液の方向を、マルチノズルの中心軸Bから遠ざかる多方向として、培養槽2に収容された生物培養液1を撹拌することができる。
【0044】
吐出口5-2の数をn個とすると、接続された搬送管路5-5および吐出管路5-6の各対1~nにおける角度α1~αnは、90°を超え180°未満の範囲において個別に適宜設定することができる。
【0045】
[位置関係B]
図7]に示すように、接続された一対の搬送管路5-5および吐出管路5-6を含む各平面Cと、各平面Cに含まれる搬送管路およびマルチノズルの中心軸Bを含む平面Dが成す鋭角側の角度βを0°を超え90°未満に設定する。
【0046】
この位置関係Bにより、各吐出口5-2から吐出される、微細気泡含有生物培養液の方向を、中心軸Bを中心とする多方向として、培養槽2に収容された生物培養液1を撹拌することができる。
【0047】
吐出口5-2の数をn個とすると、平面Cとこれに対応する平面Dはn対存在するが、各対における角度β1~βnは、0°を超え90°未満の範囲において個別に適宜設定することができる。
【0048】
上記角度α1~αnおよび角度β1~βnは、培養槽2の形状、吐出口5-2の個数・設置位置等に応じて、培養槽2に収容された生物培養液1が適切に撹拌できるように、実験、シュミュレーション等により適宜設定することができる。
【0049】
<培養槽の形状・構造>
本発明の生物反応装置・方法において用いられる培養槽の形状としては、一般に用いられている円筒形、立方体形、直方体形のものを用いることができるが、撹拌を均一・均質に行う観点からは、円筒形のものが好ましい。
【0050】
また、本発明の生物反応装置・方法において用いられる培養槽としては、[図1]に示す本発明の生物反応装置・方法の第1実施形態および[図2]に示す本発明の生物反応装置・方法の第2実施形態のような縦型培養槽、または、[図8]に示す本発明の生物反応装置・方法の第3実施形態のような横型培養槽を用いることができるが、横型培養槽を用いることが好ましい。[図8]に示すような横型培養槽を用いることにより、培養槽2に収容された生物培養液1が適切に撹拌できるように、実験、シュミュレーション等により、マルチノズルの個数、マルチノズルの設置位置等の設計を行う際の選択肢を増やすことができ、望ましい撹拌状態を実現しやすくなる。また、生物培養液1の単位体積当たりに供給される微細気泡の量を一定とすると、横型培養槽を用いた場合には、生物培養液1の表面当たりの微細気泡の量を小さくできるため、生物培養液1の表面に形成される泡の厚みを小さくすることができる。
【0051】
<マルチノズルの設置数>
本発明の生物反応装置・方法においては、マルチノズルが複数個設けられていることが好ましい。マルチノズルを複数個設けることにより、培養槽2に収容された生物培養液1が適切に撹拌できるように、実験、シュミュレーション等により、マルチノズルの個数、マルチノズルの設置位置等の設計を行う際の選択肢を増やすことができ、望ましい撹拌状態を実現しやすくなる。
【0052】
さらに、複数個のマルチノズルから吐出される、微細気泡含有生物培養液の吐出量を、複数個のマルチノズルにおいてそれぞれ独立して調整することにより、望ましい撹拌状態を実現するために設計を行う際の選択肢を更に増やすことができる。
【0053】
<マルチノズルに設けられる微細気泡発生装置>
マルチノズルに設けられる微細気泡発生装置としては、公知または市販されている、水流方式の微細気泡発生装置を用いることができる。
【0054】
水流方式の微細気泡発生装置としては、[図9]に示すようなものが挙げられる。この微細気泡発生装置6では、圧をかけた状態で微細気泡発生装置6の入口部6-1から生物培養液を供給し、管路の径を絞って流速を上げながら、のど部6-2で乱流を発生させる。この状態で、有用気体を含有する気体Aを気体入口6-3から供給し、吸引部6-4において生物培養液と混合し、水流により微細気泡となり、出口部6-5から、有用気体を含有する気体Aの微細気泡を含有する生物培養液が排出される。
【0055】
さらに、好適には、[図10]~[図11]に示すような、気体入口6-3を、微細気泡発生装置6の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられたスリットとした微細気泡発生装置を用いることができる。このような微細気泡発生装置を用いると、[図11]に示すように、スリットから吹き込まれた有用気体を含有する気体Aは、微細気泡発生装置6の内面に沿って気体の連続する幅広の薄層Eを形成して微細気泡発生装置6の内面に沿って流れ、微細気泡Fが徐々に形成されると共に、出口部6-5付近で多量の微細気泡Fが形成されるため、微細気泡の生成効率を向上させ、生物培養液の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができる。さらに、薄層Fが、微生物等が微細気泡発生装置6の内面に衝突するのを防止するクッションの役割を果たすため、微生物等がストレス・ダメージを受けたりするのを低減することができる。
【0056】
<その他>
微細気泡の酸素含有率の上限値は60%未満であり、55%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、45%以下が最も好ましい。微細気泡の酸素含有率を60%以上と過度に大きくすると、酸素の酸化作用により微生物等が受けるストレス・ダメージが大きくなってしまう。また、微細気泡の酸素含有率の下限値は23%以上であり、25%以上が好ましく、27%以上がより好ましく、30%以上が最も好ましい。微細気泡の酸素含有率を23%未満と過度に小さくすると、溶存酸素濃度が低下し、微生物等微生物等の活性を高めることが困難となる。酸素含有率を高めた微細気泡を形成する気体を得るためには、通常、吸着剤を用いたPSA法、VSA法等、水の電気分解法、深冷分離法、膜分離法、化学吸着法等の公知の酸素富化手段を用いて気体の酸素含有率を高めることが好ましく、経済的観点からは、酸素富化膜を用いるのが好ましい。
【0057】
また、生物培養液1を培養槽2から抜き出すための培養槽ポンプ3として、微生物等に与えるストレス・ダメージが比較的少ないチューブポンプ、ダイアフラムポンプ、スクリューポンプ、ロータリーポンプ等の容積式ポンプを好適に用いることができる。
【0058】
<まとめ>
以上に説明したように、本発明の生物反応装置・方法は、有用気体を含有する気体の微細気泡を含有する生物培養液を、マルチノズルを用いて、培養槽内の多方向に向けて吐出することにより、撹拌機を使用せずに、培養槽に収容された生物培養液を十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持することができる。
【0059】
さらに、本発明の生物反応装置・方法では、撹拌機を使用しないことにより、培養槽・生物反応装置の内部構造を簡素化でき、洗浄性の向上および雑菌汚染の防止を図ることができる。
【0060】
そして、撹拌機を使用しないことにより、a)微生物等がストレス・ダメージを受け微生物等の活性が低下する、b)生物反応前の滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する等の問題を解決することができる。
【0061】
このように、撹拌機を使用せずマルチノズルを用いることにより、培養槽に収容された生物培養液の撹拌を、経済的かつ効率的に行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
1 (培養液、微生物等を含有する)生物培養液
2 培養槽
3 培養槽ポンプ
4 抜出管路
5 マルチノズル
5-1 微細気泡(ファインバブル・ウルトラファインバブル)発生装置
5-2 (複数の)吐出口
5-3 下端部
5-4 上端部
5-5 (複数の)搬送管路
5-6 (複数の)吐出管路
6 微細気泡発生装置
6-1 入口部
6-2 のど部
6-3 気体入口
6-4 吸引部
6-5 出口部
A 有用気体を含有する気体
B (マルチノズルの)中心軸
C 接続された一対の搬送管路および吐出管路を含む各平面
D 各平面Cに含まれる搬送管路およびマルチノズルの中心軸Bを含む平面
E 幅広の薄層
F 微細気泡
α 各平面Cにおいて、搬送管路と吐出管路が成す鋭角側の角度
β 各平面Cと、各平面Cに含まれる搬送管路およびマルチノズルの中心軸Bを含む平面Dが成す鋭角側の角度
101 培養槽ポンプ
102 培養槽
103 生物培養液
104 微細気泡発生装置
105 撹拌機
a 酸素含有気体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12