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特許7494040シンチレータユニット、及び放射線検出器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】シンチレータユニット、及び放射線検出器
(51)【国際特許分類】
   G21K 4/00 20060101AFI20240527BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20240527BHJP
   A61B 6/42 20240101ALI20240527BHJP
【FI】
G21K4/00 A
G01T1/20 D
G01T1/20 B
G01T1/20 E
G01T1/20 G
A61B6/42 500Q
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020127945
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2021026005
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019141822
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】安居 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】小谷 佳範
(72)【発明者】
【氏名】山火 智
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133894(JP,A)
【文献】特開昭63-25579(JP,A)
【文献】特開2012-128402(JP,A)
【文献】特開2012-13694(JP,A)
【文献】特開2005-348907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/20
A61B 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシンチレータと前記複数のシンチレータの間に反射層を備えるシンチレータユニットであって、
前記シンチレータと前記反射層との間に、前記シンチレータから順に接着層、及び前記接着層よりも屈折率の低い低屈折率層を有するシンチレータユニット。
【請求項2】
前記シンチレータユニットが、前記シンチレータ、前記接着層、前記低屈折率層、前記反射層、前記低屈折率層、前記接着層、前記シンチレータを順に含む構成を有する請求項1に記載のシンチレータユニット。
【請求項3】
前記反射層が、誘電体多層膜を含む請求項1または2に記載のシンチレータユニット。
【請求項4】
前記低屈折率層が、前記シンチレータユニットの光取り出し面に対して略垂直に配置されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項5】
前記接着層がエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、及びビニル系樹脂の少なくともいずれか一種を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項6】
前記接着層の厚みが2μm以上5μm以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項7】
前記接着層の屈折率が1.30より大きく1.70より小さい請求項1乃至6のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項8】
前記低屈折率層が、酸化ケイ素を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項9】
前記低屈折率層の屈折率が1.10以上1.20以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項10】
前記低屈折率層が空隙を有し、前記低屈折率層の空隙率が、60.0%以上95.0%以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項11】
前記低屈折率層の厚さが300nm以上2μm以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項12】
前記低屈折率層が、中空粒子を含む請求項1乃至11のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項13】
前記中空粒子の外殻の屈折率が1.35以上1.60以下である請求項12に記載のシンチレータユニット。
【請求項14】
前記中空粒子が中空シリカ粒子である請求項12又は13に記載のシンチレータユニット。
【請求項15】
前記低屈折率層がヒュームドシリカ粒子を含む請求項1乃至11のいずれか1項に記載のシンチレータユニット。
【請求項16】
複数のシンチレータと前記複数のシンチレータとの間に反射層を備えるシンチレータユニットと、前記シンチレータから発生した光を検出する検出部とを備える放射線検出器であって、
前記シンチレータユニットが、前記シンチレータと前記反射層との間に、前記シンチレータから順に接着層、及び前記接着層よりも屈折率の低い低屈折率層を有することを特徴とする放射線検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータユニット、及び放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器は、医療現場などでの被写体の放射線による撮影に用いられている。特に、CT(Computed Tomography)に用いられる放射線検出器は、放射線(例えば、X線)により光を発生するシンチレータ、及び2次元に複数配列した受光素子を含む検出部で構成されている。被写体にX線を照射すると、被写体を透過したX線によりシンチレータから光が発生し、その発生した光をシンチレータごとに対応する受光素子が検出することで、透過したX線の2次元像が得られる。
【0003】
しかし、シンチレータから発生する光は、あらゆる方向に出射してしまう。シンチレータから発生する光の大部分を検出部に導くために、シンチレータの検出部が配置された面とは反対の面に接着層を介して反射層が取り付けられている場合がある。例えば、特許文献1には、放射線が入射する方向から順に、空気層、誘電体多層反射膜、接着層、蛍光体層、及び光検出器を含むフラットパネルディテクタ(FPD)が記載されている。また、特許文献2には、検出器への光の収集効率を向上させるために、シンチレータと銀コーティングとの間に、シンチレータ側から順に、接着層、及び屈折率が1.3より小さい屈折コーティングを有する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/167334号
【文献】特表2001-516888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載のFPDの構成を、CTに用いられるような、複数のシンチレータを備え、かつ、各シンチレータに対応する受光素子を複数備える検出器に適用して、検討を行った。その結果、あるシンチレータから発生した光は、対応する受光素子に入るのではなく、対応する受光素子に隣接する受光素子に入り込んでしまい、クロストークが発生してしまうことがわかった。
【0006】
また、特許文献2では、複数のシンチレータを備え、かつ、各シンチレータに対応する受光素子を複数備える検出器に、シンチレータと銀コーティングとの間に、シンチレータから順に、接着層、及び屈折コーティングを有する構成が適用されていなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、複数のシンチレータを備えるシンチレータユニットを用いる場合に、クロストークを低減することが可能なシンチレータユニットを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記シンチレータユニットを使用する放射線検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数のシンチレータと前記複数のシンチレータとの間に反射層を備えるシンチレータユニットであって、前記シンチレータと前記反射層との間に、前記シンチレータから順に接着層、及び前記接着層よりも屈折率の低い低屈折率層を有することを特徴とするシンチレータユニットに関する。
【0009】
また、本発明は、複数のシンチレータと前記複数のシンチレータとの間に反射層を備えるシンチレータユニットと、前記シンチレータから発生した光を検出する検出部とを備える放射線検出器であって、前記シンチレータユニットが、前記シンチレータと前記反射層との間に、前記シンチレータから順に接着層、及び前記接着層よりも屈折率の低い低屈折率層を有することを特徴とする放射線検出器に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のシンチレータを備えるシンチレータユニットを用いる場合に、クロストークを低減することが可能なシンチレータユニット、及び放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における低屈折率層の一例を模式的に示す概略断面図である。
図2】本発明の実施形態における放射線検出器の一例を模式的に示す概略鳥瞰図である。
図3】本発明の実施形態における反射率測定に用いる試料を模式的に示す概略鳥瞰図である。
図4】本発明の実施例において、反射率測定に用いる試料を模式的に示す概略断面図であり、(a)は実施例1における試料の概略断面図であり、(b)はシンチレータ/空気層/反射層の概略断面図であり、(c)は比較例1の概略断面図である。
図5】本発明の実施例の説明における反射率スペクトルの測定結果の一例であり、(a)は入射角が70度の実施例1と比較例1の反射スペクトルの測定結果であり、(b)は入射角が74度の実施例1と比較例1の反射スペクトルの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシンチレータユニットは、複数のシンチレータと複数のシンチレータとの間に反射層を備える。さらに、シンチレータと反射層との間に、シンチレータから順に接着層、及び接着層よりも屈折率の低い低屈折率層を有する。あるシンチレータで発生する光のうち、隣接する別のシンチレータに向かう光は、シンチレータと反射層との間に低屈折率層が配置されていることで、接着層と低屈折率層との界面、及び反射層により反射される。これは、2つの媒質の屈折率差により生じる「全反射」という物理現象を利用したことにより、生じた現象である。これにより、あるシンチレータから発生した光が、対応する受光素子に入るのではなく、対応する受光素子に隣接する受光素子に入り込んでしまうことにより生じるクロストークを低減することが可能となる。
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に述べる。各種の物性値は、特に断りのない限り、25℃における値である。
【0014】
図2は、本発明の放射線検出器の一実施形態を模式的に示す概略鳥瞰図である。図2において、シンチレータユニット205は、複数のシンチレータ201が2次元に配列し、2つのシンチレータ201の間に反射層204が配置された構成である。シンチレータ201と反射層204の間には、シンチレータ201から順に、接着層202と低屈折率層104とが設けられ、それぞれの部材が密着した構成となっている。
【0015】
また、複数のシンチレータ間で、シンチレータから順に、接着層、接着層よりも屈折率の低い低屈折率層、反射層を有していれば、シンチレータと反射層とが接した構成を有していてもよい。
【0016】
なお、本発明の効果を得られる範囲において、シンチレータや各層の間に別の層を有していても良い。
【0017】
シンチレータユニットを構成する層の例として、シンチレータ、接着層、低屈折率層、反射層を順に含む構成や、シンチレータ、接着層、低屈折率層、反射層、低屈折率層、接着層、シンチレータを順に含む構成が挙げられる。
【0018】
また、シンチレータ、接着層、低屈折率層、基材、低屈折率層、接着層、シンチレータを順に含む構成や、シンチレータ、反射層、低屈折率層、接着層、低屈折率層、反射層、シンチレータを順に含む構成が挙げられる。基材としては後述の材料を用いることができる。
【0019】
シンチレータユニット205は、2つの低屈折率層104で反射層204を挟む構成になっており、1つの反射層204の両側に低屈折率層104を配置させることができる。これにより、一方のシンチレータ(例えば、図2の紙面上部)から他方のシンチレータ(例えば、図2の紙面下部)に向かって進む光に関して、反射層204と低屈折率層104(図2の紙面下部。他方のシンチレータ側)との界面で高い確率で光を反射することができる。その結果、使用する反射層の数が少なくても、クロストークを低減することが可能となる。そのため、複数のシンチレータを高い密度で配置することができ、放射線に対する感度や得られる画像の解像度が向上する。
【0020】
特許文献1に記載のFPDの構成の場合、凹凸の形状を有するプリズムシートと誘電体多層反射膜とにより、空気層が形成されている。複数のシンチレータ間にこのような凹凸の形状を有するプリズムシートを挿入する場合、シンチレータユニットとして十分な強度が得られない。また、誘電体多層反射膜の片面にしか空気層を形成できないため、クロストークを低減するためには、複数の誘電体多層反射膜が必要となるため、複数のシンチレータを高い密度で配置しにくい。
【0021】
したがって、複数のシンチレータが2次元に配置した構成の放射線検出器を用いるCTなどの用途には、本実施形態のシンチレータユニットは、特に有用である。さらに、低屈折率層104は、隣接する部材(図2の場合、反射層204と接着層202)と面で接している。そのため、本実施形態のシンチレータユニットは、デバイス化する上で十分な強度を有している。
【0022】
[シンチレータ201]
本実施形態のシンチレータユニット205に用いるシンチレータ201は、放射線(X線、γ線、荷電粒子など)により発光する材料を含むことが好ましい。
【0023】
シンチレータ201として適用可能な材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、典型元素、又は希土類金属のハロゲン化物などが挙げられる。その他、酸化物、窒化物、カルコゲン化物、13族-14族化合物などが挙げられる。具体的には、TlドープNaI、TlドープCsI、NaドープCsI、CeドープLuSiO(LSO)、CeドープLuSiO(LYSO)、GdSiO、BiGe12、ZnWO、CdWO、PbWO,LuAlO、CeドープYAl12、CeドープYAlO(YAP)、CeドープGdAlO(GAP)、CeドープLuAlO(LuAP)、CeドープLuAl12、PrドープLuAl12、CeFなどが挙げられる。なかでも、シンチレータ201は、CeドープLuSiO、及びCeドープLuSiOの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0024】
[接着層202]
接着層202としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、及びビニル系樹脂の少なくともいずれか一種の光学用接着剤を用いることができる。
【0025】
接着層202の屈折率は、例えば1.30より大きく1.70より小さいことが好ましく、1.30より大きく1.50より小さいことがより好ましい。接着層202の屈折率が1.70より小さいことで、反射層204と低屈折率層104の界面で反射されてきた光が、低屈折率層104と接着層202の界面で反射されて隣接する別のシンチレータの方に向かってしまう確率が減り、元の発光源であるシンチレータ201内に戻ることができる。
【0026】
接着層202の厚みは、5μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましく、2μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。接着層202が5μm以下であると、厚みの変動が抑えられるため、シンチレータユニットの組立誤差を小さくすることができる。接着層202の厚みが2μm以上であると、十分な接着強度が得られる。
【0027】
[反射層204]
反射層204としては、例えば、アルミニウムや銀などの金属材料を用いることができる。反射層は、PET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムにアルミニウムを蒸着したもの(アルペット(登録商標))を用いてもよい。
【0028】
反射層に金属材料を用いる場合、400nm~700nmの波長を有する光の反射率は、80%以上100%以下である。ここで、光の反射率は、空気中で測定される値である。
【0029】
(誘電体多層膜)
反射層204としては、反射率の高い誘電体多層膜を用いることが好ましい。反射層として誘電体多層膜を用いる場合、400nm~700nmの波長を有する光の反射率は、95%以上100%以下である。ここで、光の反射率は、空気中で測定される値である。また、用いるシンチレータの発光波長帯で高反射率であればよく、発光波長以外の波長域では必ずしも高反射率である必要はない。アルミニウムや銀などの金属材料を用いる場合と比べて、誘電体多層膜を用いる場合は、光の反射率が高い。これにより、シンチレータから発生した光が、隣接したシンチレータにまで漏えいした結果生じるクロストークをさらに低減することが可能となる。
【0030】
誘電体多層膜を構成する誘電体は、無機材料でも有機材料でもよく、これらの組み合わせでもよい。有機材料は、軽量かつ柔軟であるため、より好ましい。有機材料としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0031】
前記誘電体多層膜は低屈折率層と接していることが好ましい。これにより、誘電体多層膜の屈折率と隣接する層との屈折率差が大きくなるため、400nm~700nmの波長の光の反射率は、向上する。誘電体多層膜と低屈折率層とが接する場合、低屈折率層の屈折率は、1.05以上1.30以下であることが好ましく、1.10以上1.20以下であることがより好ましく、1.15以下であることが特に好ましい。
【0032】
(低屈折率層)
<組成、及び構成>
図1において、屈折率が1.65以下の固体物質を骨格とする場合、低屈折率化のために空隙率を適切に設定することができ、低屈折率層104の強度を向上させることができる。
【0033】
固体物質は、結晶質、及び非晶質のいずれでもよい。固体物質は、粒子であってもよい。粒子は、特に限定されず、球状粒子、不定形状粒子、該球状又は不定形状粒子が数珠状又は分鎖状に連結した粒子、内部に空洞を有する中空粒子、又中空粒子が数珠状又は分鎖状に連結した粒子などが挙げられる。
【0034】
固体物質としては、フッ素系ポリマーやアクリル樹脂などの樹脂、フッ化マグネシウムやフッ化カルシウムなどのフッ化物、炭酸カルシウムや炭酸カリウムなどの炭酸塩、硫酸バリウムなどの硫酸塩、二酸化ケイ素(以下、シリカともいう)や酸化アルミニウムなどの酸化物などが挙げられる。
【0035】
固体物質で屈折率の低い材料としては、有機材料ではフッ素系ポリマー、無機材料では、フッ化マグネシウムや二酸化ケイ素が例示できる。
【0036】
しかしながら、フッ素系ポリマーの屈折率は低いもので1.30程度、フッ化マグネシウムと二酸化ケイ素(石英)の屈折率はそれぞれ1.38と1.46であり、単体の屈折率が1.30を大きく下回る材料は、窒素や酸素のような気体が主である。
【0037】
屈折率、コスト、化学的安定性の観点から、固体物質は、二酸化ケイ素を含むことが好ましい。すなわち、固体物質の主成分は、二酸化ケイ素であることが好ましい。ここで、「固体物質の主成分が二酸化ケイ素である」とは、固体物質中、二酸化ケイ素が50質量%以上であることを意味する。典型的には、固体物質中の二酸化ケイ素は、90質量%以上である。
【0038】
二酸化ケイ素粒子の具体例として、日産化学(株)製のスノーテックスシリーズ、オルガノシリカゾル、日揮触媒化成(株)のスルーリアシリーズ、日本アエロジル(株)販売のEVONIK製アエロジルシリーズなどが挙げられる。
【0039】
一般に、屈折率nの物質Aと屈折率nの物質Bで構成される複合物質Cの屈折率nは、近似的に以下の式(1)で表される。
式(1)
=〔n×v/100〕+〔n×v/100〕 (1)
ここで、v、vはそれぞれ複合物質を構成する物質A、物質Bの体積分率である(v+v=100)。
【0040】
式(1)によると、固体物質と空気の複合物質、つまり、固体物質を骨格とする多孔質膜を低屈折率層104として用いることによって、元の固体物質の屈折率より低くすることができる。その際、骨格となる固体物質の屈折率が低いほど、また、低屈折率層104の空隙率が高いほど、低屈折率層104の屈折率は低くなる。低屈折率層104の空隙率を高めるために、低屈折率層104は多孔質構造を有してもよい。この観点において低屈折率層104を多孔質膜と称することができる。
【0041】
なお、上記式(1)において、物質Aを空気、物質Bを二酸化ケイ素とした場合、空気の屈折率n=1.00、二酸化ケイ素の屈折率n=1.46、二酸化ケイ素の体積分率v=100-vとなる。すなわち、vは低屈折率層104の屈折率nの関数となり、vを求めることができる。このvは、空隙率である。
【0042】
低屈折率層104が空隙を有する場合、その低屈折率層の空隙率は、60.0%以上95.0%以下であることが好ましく、65.0%以上90.0%以下であることがより好ましい。
【0043】
例えば、式(1)によると、二酸化ケイ素(屈折率1.46)を骨格とする低屈折率層104の空隙率が60.0%未満では、屈折率は1.15を超える場合がある。
【0044】
一方、空隙率が95.0%を超える場合、低屈折率層104の屈折率が1.05未満という、過剰に低い屈折率になると共に、低屈折率層104を構成する骨格が少ないため強度が低下する可能性がある。
【0045】
二酸化ケイ素は、その表面に有機基、及び水酸基の少なくとも1つを有することが好ましい。表面に水酸基を有する二酸化ケイ素は親水性が高いため、このような二酸化ケイ素粒子を骨格とすると、親水性の高い低屈折率層104を形成することができる。
【0046】
また、例えば、シランカップリング剤で二酸化ケイ素の表面を修飾することによって低屈折率層104に機能性を付与することができる。二酸化ケイ素の表面に水酸基を有する場合には、水酸基とシランカップリング剤の加水分解生成物の間の脱水縮合反応を利用することができる。
【0047】
有機基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1以上4以下のアルキル基;ビニル基、アクリル基、メタクリル基などの重合性部位を有する炭化水素基;フェニル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0048】
二酸化ケイ素の表面に有機基を有する場合、撥水性、撥油性、生体適合性、電子輸送性、重合性など、様々な機能を低屈折率層104に付与することができる。
【0049】
また、二酸化ケイ素の表面に存在する官能基の全てが有機基に置換されている必要はなく、有機基と水酸基の両方が任意の割合で存在していてもよい。
【0050】
〔中空シリカ粒子〕
低屈折率層104が、中空粒子を含有する場合について、さらに説明するが、これらに限定されることはない。中空粒子とは、外殻が固体物質で形成され、外殻の内側に空洞(空隙)を有する粒子である。
【0051】
低屈折率層104は、複数の中空粒子を含むことが好ましい。複数の中空粒子を含む低屈折率層104は、中空粒子の他に、中実粒子を含んでいてもよいし、バインダを含んでいてもよい。
【0052】
固体物質で構成された一次粒子として、中空粒子を含む場合の低屈折率層104の構造の一例を図1に示す。
【0053】
低屈折率層104は、複数の中空粒子301を含有し、複数の中空粒子301間には空隙302が存在している。また、中空粒子の内部にも空隙304が存在する。図1中、符号303は外殻、符号305は基材を表す。
【0054】
低屈折率層104の単位体積に対する複数の中空粒子内の空隙の合計体積の割合を空隙率X(%)とし、低屈折率層104の単位体積に対する中空粒子間の空隙の合計体積の割合を空隙率Y(%)としたときに、X<Yの関係を満たすことが好ましい。ここで、(X+Y)は、上記低屈折率層104の空隙率を意味する。
【0055】
また、低屈折率層104の屈折率nは以下の式(2)で表される。
式(2)
n=〔n×(X+Y)/100〕+〔n×(100-X-Y)/100〕
(2)ここで、nは空気の屈折率(n=1)、nは中空粒子の外殻の屈折率(n>1)である。式(2)によると、X+Yが大きいほど、また、nが低いほど、nは低くなる。
【0056】
また、低屈折率層104の屈折率nは以下の式(3)でも表される。
式(3)
n=〔n×Y/100〕+〔n×(100-Y)/100〕
(3)ここで、nは中空粒子1個の屈折率(n>1)である。屈折率nは、中空粒子1個に占める外殻の体積および屈折率と空隙の体積および屈折率の割合から算出される見かけの屈折率である。つまり、式(1)において、n=1、n=nとし、vを中空粒子の空隙の体積、vを外殻の体積とすれば、n=nとなる。式(3)によると、Yが大きいほど、また、nが低いほど、nは低くなる。
【0057】
なお、光学測定により低屈折率層104の屈折率nを求め、式(2)、(3)に既知のn、n、nを代入することで、X及びYを推定することもできる。
【0058】
中空粒子が密に配置されると、中空粒子の間に存在する空隙の体積分率が減少し、空気よりも高い屈折率を有する成分である外殻の体積分率が大きくなるため、低屈折率層104の屈折率が高くなる。一方、中空粒子が疎に配置されると、中空粒子間に存在する空隙の体積分率が増加し、外殻の体積分率が小さくなるため、低屈折率層104の屈折率が低くなる。すなわち、低屈折率層104の屈折率をより低くするためには、Y/Xを大きくするとよい。具体的には、Y/X>1、つまりX<Yの関係を満たしていることが好ましい。
【0059】
また、X及びYは、X<(100-X-Y)<Yの関係を満たすことが好ましい。
【0060】
低屈折率層104は、固体物質で構成された粒子、及び、高強度化のため、該粒子を結合するバインダを含有してもよい。バインダを使用する場合、低屈折率層104中に含まれる固体は、中空粒子の外殻とバインダであり、低屈折率層104の単位体積に対する固体の体積分率は(100-X-Y)(%)で表される。
【0061】
X<(100-X-Y)の関係を満たす場合、低屈折率層104の強度がより向上する。また、(100-X-Y)<Yの関係を満たす場合、低屈折率層104の屈折率がより低くなる。
【0062】
XとYの合計値(X+Y)は、60.0%以上95.0%以下であることが好ましく、65.0%以上~90.0%以下であることがより好ましい。(X+Y)を上記範囲にすることで、低屈折率層104の強度と低屈折率層104の屈折率を所望の範囲に調整することが容易となる。
【0063】
低屈折率層104において、Xは、8.0%以上32.0%以下であることが好ましく、10.0%以上28.0%以下であることがより好ましく、12.0%以上24.0%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
一方、Yは、30.0%以上80.0%以下であることが好ましく、35.0%以上75.0%以下であることがより好ましく、40.0%以上70.0%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
X及びYを上記範囲とすることで、低屈折率層104の強度と低屈折率層104の屈折率を所望の範囲に調整することが容易となる。
【0066】
図1の例示は、中空粒子の形状が実質的に球状のものであるが、これに限定されるものではない。中空粒子は、外殻303と、外殻に包囲され中空粒子の内部に形成された空隙304を有する。この場合、中空粒子は、コアを空気とするコア・シェル粒子の一種とみなすことができる。
【0067】
中空粒子1個の屈折率nは、式(4)で表される。
式(4)
=〔n×(100-V)/100〕+〔n×V/100〕 (4)
ここで、Vは中空粒子の全体積に対する内部の空隙の体積分率である。すなわち、中空粒子1個の屈折率nは外殻の材料の屈折率nと中空粒子1個の空隙率Vによって決定される。
【0068】
中空粒子1個の空隙率nは、30.0%以上70.0%以下であることが好ましく、35.0%以上65.0%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
空隙率nが上記範囲である場合、低屈折率層104の屈折率を低下させやすく、中空粒子外殻の強度及び低屈折率層104の強度を安定化させることができる。
【0070】
中空粒子の外殻nの屈折率は、上記固体物質の屈折率と同様、1.10以上、1.20以上、1.25以上、1.30以上、1.35以上であることが好ましく、1.65以下、1.60以下であることが好ましい。この数値範囲は、任意に組み合わせることができる。中空粒子の外殻nの屈折率は、1.35以上1.60以下であることがより好ましい。
【0071】
中空粒子の外殻の屈折率nが上記範囲である場合、低屈折率層104の製造の容易性、中空粒子の強度、低屈折率層104の強度に優れ、かつ、低屈折率層104の屈折率を低く調整することができる。
【0072】
中空粒子の外殻の材質としては、上記固体物質と同様のものを用いることができる。
【0073】
また、中空粒子の外殻はミクロな細孔を有していてもよい。外殻にミクロな細孔を形成すると外殻の屈折率をより低くすることができる。
【0074】
中空粒子の一次粒子の個数平均粒径は、1nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上100nm以下であることがより好ましく、10nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上100nm以下であることが特に好ましい。
【0075】
個数平均粒径が上記範囲であると、中空粒子の作製が容易であり、光の散乱を低減しやすく、低屈折率層104の透過率をより向上させることができる。
【0076】
〔ヒュームドシリカ粒子、鎖状シリカ粒子〕
低屈折率層104は、固体物質で構成された一次粒子が三次元構造を形成した二次粒子、固体物質で構成された一次粒子が鎖状に連結した鎖状二次粒子、及び固体物質で構成された一次粒子が分鎖状に連結した分鎖状二次粒子からなる群より選択される少なくとも1種の粒子を含有することが好ましい。ここで、固体物質で構成された粒子が凝集体を形成している場合、凝集体も固体物質で構成された一次粒子が三次元構造を形成した二次粒子に含まれる。
【0077】
固体物質で構成された一次粒子が三次元構造を形成した二次粒子、固体物質で構成された一次粒子が鎖状に連結した鎖状二次粒子、及び固体物質で構成された一次粒子が分鎖状に連結した分鎖状二次粒子は、低屈折率層104中の固体物質の体積分率を小さくする。そして、空隙の体積分率を大きくすることができる。すなわち、低屈折率層104の屈折率を低くすることができる。
【0078】
固体物質で構成された一次粒子の個数平均粒径は、1nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上100nm以下であることがより好ましい。また、固体物質で構成された一次粒子の個数平均粒径は、10nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上100nm以下であることが特に好ましい。
【0079】
一次粒子の個数平均粒径が上記範囲の場合、粒子の凝集を適切に制御することが可能であり、塗工液への分散性を向上させることができる。また、一次粒子が400nm~700nmの波長域における光の散乱体となることを低減し、低屈折率層104の透過率をより向上させることができる。
【0080】
ここで、固体物質で構成された一次粒子が三次元構造を形成した二次粒子の例として、ヒュームドシリカ粒子を用いた例を説明するが、これに限定されるわけではない。
【0081】
ヒュームドシリカ粒子は、四塩化ケイ素を酸素及び水素炎中において高温加水分解によって生成させることができる。上記製法で生成されたヒュームドシリカ粒子は、数十ナノメートルの一次粒子が融着して、三次元構造の二次粒子を形成する。また、二次粒子は、それらが凝集して複雑な高次構造を有することもある。
【0082】
ヒュームドシリカ粒子は、その特徴的な構造のため、見掛けの比重が0.01g/cm~0.1g/cmである非常に嵩高い粒子である。したがって、ヒュームドシリカ粒子を含む低屈折率層104は、空隙率が大きく、屈折率を顕著に低減することができる。
【0083】
二次粒子の個数平均粒径は、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、50nm以上500nm以下であることがより好ましい。
【0084】
二次粒子の個数平均粒径が上記範囲である場合、例えば、二次粒子が、二酸化ケイ素の一次粒子が三次元構造を形成しており、数個の一次粒子が集合した単純な構造とはならない。
【0085】
二次粒子が上記構造を有することで、低屈折率層104の空隙率を上記範囲に制御しやすくなり、低屈折率層104の屈折率を上記範囲に制御することが容易になる。また、二次粒子の粒子間に、400nm~700nmの波長域における光の散乱体となりうる、巨大な空隙が形成されにくく、低屈折率層104の光の透過率を上記範囲に制御しやすくなる。
【0086】
一次粒子及び二次粒子の個数平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる(いずれも最大径の算術平均値から算出する)。また、一次粒子及び二次粒子の個数平均粒径は、例えば、上述のように、四塩化ケイ素を酸素及び水素炎中において高温加水分解する際の条件を調整することで制御することができる。
【0087】
<成膜方法>
〔塗工液の調整〕
低屈折率層104を成膜するための塗工液の調製方法について説明する。二酸化ケイ素の一次粒子が三次元構造を形成したヒュームドシリカ粒子を用いた場合の例について説明するが、これに限定されるわけではない。
【0088】
ヒュームドシリカ粒子を溶媒に分散する。ヒュームドシリカ粒子を分散する溶媒としては、ヒュームドシリカ粒子と親和性の高い溶媒が好ましく、ヒュームドシリカ粒子の表面の官能基の種類によって、一種類の溶媒又は二種類以上の混合溶媒を用いてもよい。
【0089】
溶媒としては、有機溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、エチルアセテート、プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのアセテート系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒を用いることができる。
【0090】
溶媒として水を用いることもできるが、水は表面張力が大きいため、乾燥する際に大きい毛管力が発生し、ヒュームドシリカ粒子間の空隙が収縮する場合がある。そのため、低屈折率層104の空隙率が低下しやすく、屈折率が上昇する可能性がある。
【0091】
また、シンチレータ105の材料として、アルカリ金属、特にCsIを用いる場合、その強い潮解性のため、水を溶媒として用いるのは適切ではない。固体物質で構成された粒子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0092】
塗工液中の固体物質で構成された粒子の含有量は、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以上であることがさらに好ましく、7.0質量%以上であることが特に好ましい。塗工液中のシリカ粒子の含有量は、50.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以下であることがより好ましく、20.0質量%以下であることがさらに好ましい。数値範囲は、任意に組み合わせることができる。
【0093】
例えば、塗工液中のヒュームドシリカ粒子の濃度(固形分濃度)は、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。
【0094】
塗工液中の固体物質で構成された粒子の含有量、例えば、ヒュームドシリカ粒子の含有量(濃度)が上記範囲である場合、低屈折率層104の膜厚を500nm以上に調整することが容易となる。また、ヒュームドシリカ粒子の溶媒中への均一分散性を向上させることができ、得られた低屈折率層104の透過率を上記範囲に調整することも容易となる。
【0095】
ヒュームドシリカ粒子を上記溶媒に添加した後、分散処理を施す。ヒュームドシリカ粒子が複雑な高次構造を維持したまま溶液中に分散している塗工液を成膜すると、ヒュームドシリカ粒子及びヒュームドシリカ粒子間の空隙が可視光を散乱するサイズとなるため、低屈折率層104の透過率が低下する場合がある。ヒュームドシリカ粒子に分散処理を施すと、分散処理時間と共に、塗工液の透明度が上昇していく。
【0096】
ヒュームドシリカ粒子が適度に分散された塗工液を成膜すると、ヒュームドシリカ粒子の骨格及びヒュームドシリカ粒子間の空隙が可視光の散乱体にならないサイズになるため、透過率の高い低屈折率層104が形成される。
【0097】
分散処理をさらに施すと、ヒュームドシリカ粒子の嵩高い高次構造が一次粒子まで破壊されやすく、空隙率が低下する場合があり、得られる低屈折率層104の屈折率が上昇する傾向にある。
【0098】
また、分散処理が過度であると、いわゆる過分散の状態になり、ヒュームドシリカ粒子は再凝集しやすく、成膜後の低屈折率層104の透過率が低下する場合がある。
【0099】
したがって、適度な分散状態にすることが好ましい。分散処理には、スターラー、超音波、自転公転ミキサー、ボールミル、ビーズミル、ホモジナイザーなどを用いることができる。
【0100】
固体物質として、外殻が二酸化ケイ素である中空粒子を用いる場合の例について説明するが、これに限定されるわけではない。
【0101】
中空粒子の分散液を使用することができる。中空粒子の分散液としては、中空粒子の空隙率、中空粒子の外殻の屈折率、中空粒子の一次粒子の個数平均粒径などを満足する中空粒子の分散液であれば、特に限定されない。
【0102】
例えば、外殻が二酸化ケイ素である中空粒子(以降、中空シリカ粒子ともいう)のイソプロパノール(以降、IPAともいう)分散液である、日揮触媒化成製スルーリアシリーズが好適に用いられる。スルーリアシリーズのような市販品のほか、中空シリカ粒子であれば、上記ヒュームドシリカ粒子の溶媒分散と同様の方法により中空粒子を溶媒に分散したものを用いてもよい。
【0103】
溶媒中の中空粒子濃度は、上記塗工液中のヒュームドシリカ粒子濃度(固形分濃度)と同様の範囲にすればよい。
【0104】
中空シリカ粒子の表面は、水酸基を有しており、親水性であるため、疎水性が強い溶媒は適していない。具体的には、オクタノール/水分配係数logPowが2以下である、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、エチルアセテート、プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのアセテート系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒が挙げられる。
【0105】
前述したように、膜の屈折率を低くするためには、Y及びX+Yを大きくする必要がある。その方法の一つとして、中空シリカ粒子をランダムに配列することが挙げられる。
【0106】
ここで、中空シリカ粒子をランダムに配列する方法について説明する。分散液中において中空シリカ粒子の緩やかな凝集体を形成することによって、中空シリカ粒子をランダムに配列することができる。
【0107】
凝集体も、固体物質で構成された一次粒子が三次元構造を形成した二次粒子に含まれる。
【0108】
分散液中で良好に分散している中空シリカ粒子を凝集させる方法の一つとして、分散媒より相対的にlogPowが大きい溶媒(以降、凝集剤)を添加する方法が挙げられる。該方法に限ったものではなく、中空シリカ粒子の凝集状態をコントロール可能な方法が好ましい。
【0109】
中空シリカ粒子の表面は、水酸基を有しており、親水性であるため、分散媒よりlogPowが大きい、つまり、分散媒より相対的に疎水的な凝集剤を添加すると、中空シリカ粒子の凝集が引き起こされる。
【0110】
分散液中で良好に分散している中空シリカ粒子を凝集させるための凝集剤における、logPowと添加量について述べる。分散媒と凝集剤のlogPowの差が小さすぎると、中空シリカ粒子の凝集が起こらず、差が大きすぎると、凝集剤の添加量が少量であっても中空シリカ粒子は激しく凝集する。中空シリカ粒子が大きな凝集体を形成すると、凝集体自体が光の散乱体になることがある。
【0111】
一方、中空シリカ粒子の大きな凝集体の間に形成された巨大な空隙も光の散乱体になりやすいため、塗布後の低屈折率層104が白濁し、透過率が低下する場合がある。
【0112】
また、激しい凝集が引き起こされると、塗工液の保存安定性が低下しやすい。したがって、屈折率が低く、透過率の高い低屈折率層104を形成するためには、凝集剤の種類と添加量で、中空シリカ粒子の凝集状態を制御するとよい。このような性質を利用し、凝集剤の種類と添加量で中空シリカ粒子の凝集状態を制御することで、低屈折率層104の屈折率を制御してもよい。
【0113】
また、中空シリカ粒子の間の空隙が何らかの物質で充填されると、Y及びX+Yが小さくなり、低屈折率層104の屈折率が高くなる可能性があるので、凝集剤は後工程で除去可能であることが好ましく、加熱により揮発することがより好ましい。
【0114】
凝集剤としては、例えばX-22-164(信越化学工業製)などのシリコーンオイルを用いることができるが、これに限定されない。
【0115】
以下、低屈折率層104の成膜方法について説明する。
【0116】
上記塗工液を用いて、膜を形成する。成膜方法としては、バーコート法、ドクターブレード法、スキージ法、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、スクリーンプリント法などを用いることができる。なかでも、低屈折率層104の膜厚を均一にする観点からスピンコート法を用いることが好ましい。また、シンチレータを形成した大面積なセンサパネルに成膜する場合はスプレー法を用いることが好ましい。
【0117】
また、低屈折率層104が所望の膜厚を有し、上面が平坦である膜を得るためには、例えば、スピンコート法における回転数を適切に調整するとよい。
【0118】
上記方法で成膜した膜は、20℃以上100℃以下で乾燥することが好ましい。
【0119】
得られた膜は、さらに加熱処理を施してもよい。加熱処理は100℃以上200℃以下であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがより好ましい。
【0120】
加熱温度を100℃以上とすることで、例えば、中空粒子の内部の空隙に溶媒が残存する可能性を低減できる。一方、加熱温度を200℃以下とすることで、光検出部113に相当するセンサパネルの性能が低下する可能性を低減できる。
【0121】
また、膜がバインダ及び重合開始剤を含有する場合は、熱硬化又は光硬化の工程を含むことが好ましい。なお、熱硬化の場合は、乾燥又は加熱の工程で溶媒の揮発と同時にバインダの熱硬化も行うこともできる。
【0122】
一般的に、微粒子で形成されている膜は、分子間力でその膜形状を維持している。また、微粒子表面が疎水性の場合は疎水性相互作用、微粒子表面が親水性の場合は液架橋も作用するが、何れも物理的な相互作用である。膜を加熱処理すると、例えば、ヒュームドシリカ粒子表面に存在している水酸基同士が脱水反応で化学結合するため、膜の強度向上が期待できる。
【0123】
低屈折率化を目的として、上記固体物質で構成された粒子を含有する膜を形成する場合、粒子間に作用するファンデルワールス力や液架橋によって、その構造及び膜形状を維持している。
【0124】
前記構造を有する膜の強度を向上するための方法の一つとして、粒子同士を結着するバインダを用いてもよい。膜の強度向上の観点から、低屈折率層104は、さらにバインダを含有してもよい。
【0125】
また、低屈折率層104は、固体物質がバインダで結合された結合体を含有することが好ましい。具体的には、低屈折率層104は、固体物質で構成された粒子がバインダで結合された結合体を含有することが好ましい。バインダによる固体物質の結合は、固体物質で構成された一次粒子同士、固体物質で構成された一次粒子が形成した二次粒子同士、一次粒子と二次粒子の間などのいずれの結合も包含する概念である。また、結合は、イオン結合や共有結合などの化学的な結合であってもよく、力学的接着のような結合であってもよい。
【0126】
バインダとしては、アクリル樹脂、フッ素樹脂、スチレン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂などの樹脂を用いることができる。
【0127】
また、重合性基を有するシリコーンオイルを重合させたり、シリコンアルコキシドの加水分解し、縮重合させたりして得られる有機ケイ素化合物を用いることができる。
【0128】
屈折率が低く、無色透明であり、粒子同士を結着できるものであれば、これらに限ったものではない。
【0129】
バインダを含有する膜の製造方法の例として、固体物質と溶媒とバインダを含有する混合液を準備する工程、混合液に分散処理を施して塗工液を得る工程、及び塗工液を成膜、乾燥、必要に応じて加熱又は高エネルギー線照射して膜を得る工程を有する方法がある。
【0130】
バインダは、シロキサンを含有することが好ましく、シルセスキオキサンを含有することがより好ましい。
【0131】
シルセスキオキサンは、組成式[R(SiO1.5](Rは反応性の官能基であり、例えば、重合性基、水酸基、塩素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、及び炭素数1以上6以下のアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種を表す。)で表されるT3単位構造を有する化合物であり、酸化ケイ素と有機物質のハイブリッド材料である。
【0132】
シルセスキオキサン(以下、SQと略すこともある)とは、主鎖骨格がSi-O結合からなるシロキサン系の化合物で、[R(SiO1.5]の組成式で表される。Rは、アクリロイル基、メタクリロイル基、オキセタニル基及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の重合性基であることが好ましい。
【0133】
シルセスキオキサンが多数の固体物質で構成された粒子同士を結合する役割を果たす場合、高い空隙率を有したまま、より優れた膜強度を実現することが可能となる。
【0134】
シルセスキオキサンは、重合体の形態としては特に制限はなく、例えば公知の直鎖状ポリシロキサン、かご型ポリシロキサン、ラダー型ポリシロキサンなどを挙げることができる。シルセスキオキサン構造とは、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している構造(ケイ素原子数に対する酸素原子数が1.5)である。コストの観点から、直鎖状ポリシロキサン、かご型ポリシロキサン、ラダー型ポリシロキサンが混在していても構わない。
【0135】
シルセスキオキサンは、分子中に重合性基(上記式中のR)を有し、ラジカル重合、又はカチオン重合によって硬化する化合物であることが好ましい。
【0136】
ラジカル重合によって硬化するシルセスキオキサンとしては、Rとしてアクリロイル基やメタクリロイル基などを有するシルセスキオキサンなどが挙げられる。一方、カチオン重合によって硬化するタイプでは、Rとしてオキセタニル基やエポキシ基などを有するシルセスキオキサンなどが挙げられる。
【0137】
具体的には、東亜合成製のシルセスキオキサン誘導体SQシリーズ(AC-SQ、MAC-SQ、OX-SQ)などが挙げられる。
【0138】
シルセスキオキサンは、粘性の高い液体であるため、塗工液に添加して使用するとよい。必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。
【0139】
機能膜中のバインダの含有量は、固体物質で構成された粒子100質量部に対して3.0質量部以上60.0質量部以下であることが好ましく、7.0質量部以上30.0質量部以下であることがより好ましい。また、機能膜中のバインダの含有量は、固体物質で構成された粒子100質量部に対して7.0質量部以上25.0質量部以下であることがさらに好ましく、10.0質量部以上25.0質量部以下であることが特に好ましい。
【0140】
この塗工液を基材上に塗工し、加熱又は光照射をすることによって、シルセスキオキサンを硬化させることができる。
【0141】
この操作で、固体物質で構成された粒子がシルセスキオキサンで結合された結合体を含有する膜が形成される。シルセスキオキサンの硬化により、膜の強度を高めることができる。
【0142】
重合開始剤としては、例えば、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤、熱カチオン重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤は、一種の重合開始剤で構成されていてもよく、複数種の重合開始剤で構成されていてもよい。
【0143】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-又はp-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体などの置換基を有してもよい2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン誘導体;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノ-プロパン-1-オンなどのα―アミノ芳香族ケトン誘導体;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-t-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナンタラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノンなどのキノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテルなどのベンゾインエーテル誘導体;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン、プロピルベンゾインなどのベンゾイン誘導体;ベンジルジメチルケタールなどのベンジル誘導体;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9,9’-アクリジニル)ヘプタンなどのアクリジン誘導体;N-フェニルグリシンなどのN-フェニルグリシン誘導体;アセトフェノン、3-メチルアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンなどのアセトフェノン誘導体;チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン誘導体;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド誘導体;1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)などのオキシムエステル誘導体;キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0144】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、Irgacure184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI-1700、-1750、-1850、CG24-61、Darocur1173、LucirinTPO、LR8893、LR8970(以上、BASF製、「Darocur」及び「Lucirin」は登録商標)、ユベクリルP36(UCB製)などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0145】
光カチオン重合開始剤としては、オニウム塩、芳香族オニウム塩、アリールスルホニウム塩、アリールヨウドニウム塩などが好ましい。アニオンの具体例としては、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、フルオロスルホン酸イオンなどが挙げられる。
【0146】
光カチオン重合開始剤の市販品としては、サンアプロ製CPI-210S(サンアプロ製)、UVI-6950(ユニオンカーバイド製)、アデカオプトマーSP-150(ADEKA製)などが挙げられる。
【0147】
塗工液中の重合開始剤の含有量は、シルセスキオキサン固形分100質量部に対し、0.01質量部以上1.5質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上1.0質量部以下であることがより好ましい。
【0148】
固体物質で構成された粒子、溶媒及びバインダ、並びに必要に応じて重合開始剤を混合して、塗工液を調製するとよい。溶媒としては有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、特に限定されないが、アルコール、カルボン酸、脂肪族系又は脂環族系の炭化水素類、芳香族系炭化水素類、エステル、ケトン類、エーテル類、あるいはこれら2種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0149】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0150】
カルボン酸としては、具体的には、n-酪酸、α-メチル酪酸、i-吉草酸、2-エチル酪酸、2,2-ジメチル酪酸、3,3-ジメチル酪酸、2,3-ジメチル酪酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、3,3-ジメチルペンタン酸、2,3-ジメチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、3-エチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0151】
脂肪族系又は脂環族系の炭化水素類としては、具体的にはn-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンなどが挙げられる。
【0152】
芳香族炭化水素類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどが好ましい。
【0153】
エステル類としては、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0154】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0155】
エーテル類としては、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0156】
塗工液を調製するに当たり、溶液の安定性の点から上述した各種の溶剤類のうちアルコールを使用することが好ましい。
【0157】
塗工液は、予め固体物質で構成された粒子を溶媒中に分散させた液に、所定量のバインダ及び必要に応じて重合開始剤を添加することにより調製することができる。粒子を有機溶媒中に分散させた液は、上記分散処理と同様の方法(例えば、ボールミルなど)を用い、粒子粉末を溶媒に分散させて調製してもよく、市販の分散液を用いてもよい。
【0158】
塗工液を用いて膜を形成する際には、塗布を行う雰囲気を乾燥空気もしくは乾燥窒素等の不活性気体雰囲気とすることが好ましい。乾燥雰囲気の相対湿度は30%以下にすることが好ましい。
【0159】
さらに、膜を形成する溶液塗布法としては、例えばディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、ならびにこれらの併用など、既知の塗布手段を適宜採用することができる。膜厚は、ディッピング法における引き上げ速度やスピンコート法における基板回転速度などを変化させることと、塗工液の濃度を変えることにより制御することができる。
【0160】
得られた膜の硬化は、光照射や放射線照射などの高エネルギー線照射により行ってもよく、加熱により行ってもよい。高エネルギー線照射と加熱を併用して硬化を行っても構わない。
【0161】
高エネルギー線照射により硬化する場合、高エネルギー線としては、電子線、X線、紫外線などが挙げられ、特に限定されるものではない。高エネルギー線として紫外線を用いる場合、照射波長領域は160nm~400nmが好ましく、その出力は0.1mW/cm以上2000mW/cm以下であることが好ましい。シルセスキオキサンの酸化を防止するという観点から、硬化雰囲気は窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。加熱により硬化する場合、50℃以上250℃以下、好ましくは80℃以上200℃以下の温度で、1分間~20分間実施するとよい。
【0162】
<膜の空隙率、及び屈折率の評価方法>
膜における、空隙率X(%)及び空隙率Y(%)の算出は、下記の通りに行うことができる。
【0163】
まず、基材上に形成した膜に、Model681 イオンビームコーターIBC(Gatan製)を用いてカーボン膜をコートした後、収束イオンビーム加工装置(FIB-SEM、FEI製、Nova600)内で、イオンビームによる断面出し加工(30kV-0.1nA)を行った後、走査型電子顕微鏡(以降、SEMという)により加速電圧2kVでSEM画像を取得する。
【0164】
SEM画像の観察倍率は、少なくとも厚み方向には膜全体をカバーし、かつ、例えば、中空粒子の一つ一つの形状が判別できる倍率とする。具体的には、5万倍から20万倍程度とする。
【0165】
また、膜の単位体積は、1000nm×1000nm×(厚さ方向)100nmとする。取得した断面SEM像における空隙率の算出には、グレースケール画像の二値化により、中空粒子と、中空粒子の間の空隙とを区分して、各領域の面積計算を行う。画像処理には、画像解析ソフトウェアImage J(NIH Image、https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)を用いる。
【0166】
具体的には、求めた中空粒子の面積A(%)に、中空粒子の全体積に対する内部の空隙の体積分率Vをかけたものが、空隙率X(%)であり、X=A×Vとする。また、空隙率Y(%)は、Y=100-Aとする。
【0167】
以上により求めたX、Yと式(2)から低屈折率層104の屈折率nを算出することができる。
【0168】
<膜の厚み>
低屈折率層104の厚みは、例えば、100nm以上3.5μm以下とすることができ、150nm以上3μm以下とすることができる。また、低屈折率層104の厚みは、300nm以上2μm以下であることが好ましい。好ましい厚みの下限値は、全反射効率を十分に高めるためにはシンチレータの発光波長と同等以上が好ましいことから決定される。可視光域に発光を呈するシンチレータを用いるため、低屈折率層は、300nm以上の厚みを有することが好ましい。また、低屈折率層の厚みが2μm以下であると、クラックが発生しにくく、十分な強度を有する低屈折率層が得られる。低屈折率層104の厚みは、膜の空隙率、及び屈折率の評価方法に記載したように、断面SEM像より測定できる。
【0169】
[放射線検出器]
図2に示すように、シンチレータユニット205と、シンチレータユニット205からの光を検出する検出部206とを組み合わせることで、放射線検出器207とすることができる。検出部206としては、シリコン・フォト・マルチプライア・アレイ(SiPMA)、相補性金属酸化膜半導体センサー(CMOS)、フラットパネルディテクター(FPD)などを用いることができる。
【0170】
検出部206は、シンチレータ201と接するように配置されていることが好ましい。これにより、検出部206は、シンチレータ201で発生した光を効率的に検出することができる。また、検出部206は、シンチレータ201と一対になっていることが好ましい。これにより、検出部206は、それぞれのシンチレータ201で発生した光を個別に検出することができる。
【0171】
図2に示す光取り出し面208とは、シンチレータユニット205において、シンチレータ201で発生した光が射出される面のことである。図2では、光取り出し面208に対して、反射層204及び低屈折率層104が略垂直に配置されている。すなわち、反射層204及び低屈折率層104を介して、複数のシンチレータ、及び複数のシンチレータと対となっている複数の検出部が配置されることとなる。これにより、あるシンチレータで発生した光は、対となっている検出部では検出されるものの、対となっていない検出部では検出されにくいため、クロストークをさらに低減することが可能となる。
【0172】
(反射率の測定方法)
反射率には、絶対反射率と相対反射率がある。絶対反射率は、測定試料へのある波長の入射光に対する反射光の強度比のことである。入射角とは、入射光と、測定試料の反射面の法線がなす角のことである。反射角とは、反射光と、反射面の法線がなす角のことである。絶対反射率の測定のおいては、入射角と反射角が等しい場合の強度比を測定する。
【0173】
相対反射率は、ある測定試料の絶対反射率を参照とした際の相対的な反射率のことである。例えば、2つの測定試料の相対反射率は、一方の測定試料の絶対反射率と他方の絶対反射率の比のことである。
【実施例
【0174】
以下に実施例を挙げて、本発明に係るシンチレータユニットを詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によりなんら限定されるものではない。
【0175】
(実施例1)
本実施例のシンチレータユニットの低屈折率層による反射率の向上は、以下のように評価した。図3は、本発明の反射率測定に用いる試料を模式的に示す概略鳥瞰図である。図3に示すようにθが40°となるようにシンチレータを加工した。加工したシンチレータ201に、接着層202、低屈折率層104、及び反射層204を順に接するように配置した。
【0176】
低屈折率層は、中空シリカ粒子を用いて作製した。膜形成用塗工液の調製には、日揮触媒化成製スルーリア4110(分散媒:IPA、シリカ固形分濃度:20.5質量%、中空粒子1個の個数平均粒径:60nm、中空粒子1個の空隙率:45%、中空粒子1個の屈折率:1.25)を用いた。そして、シリカの固形分濃度が6.0質量%となるように調整したものを塗工液とした。この塗工液をスピンコート法で反射層に塗布し、回転速度を1000rpmとして10秒間回転させて、低屈折率層を成膜した。
【0177】
作製した低屈折率層に対して、収束イオンビーム加工装置(FIB-SEM、FEI製、Nova600)内で、イオンビームによる断面出し加工(30kV-0.1nA)を行った。その後、走査型電子顕微鏡(以降、SEMと記載する)により加速電圧2kVでSEM画像を取得した。低屈折率層は、反射層と隙間なく接着できており、膜厚は、0.5μmであった。低屈折率層の断面SEM像に対して、グレースケール画像の二値化により、中空粒子と、中空粒子の間の空隙とを区分して、各領域の面積計算を行った。算出した中空粒子の面積に、中空粒子の全体積に対する内部の空隙の体積分率を考慮して、低屈折率層の空隙率を算出すると、67%であった。式(2)からns=1.46として低屈折率層の屈折率を算出すると1.15であった。
【0178】
低屈折率層を形成した反射層に、エポキシ系の光学用接着剤(屈折率1.43)を用いて、シンチレータ(LSO)を接着させた。接着層の厚みが2μmとなるように、接着剤の液量と、接着する際の押し付け圧力を調節した。反射層は誘電体多層膜を用いた。
【0179】
絶対反射率及び相対反射率の測定は、日本分光製のVR670及びARMN-735を用いて、以下のように行なった。
【0180】
図3のA-A’断面を図4(a)に示す。図4(a)において、入射光401が反射層204に入射し、反射層204で反射した反射光402の強度を測定した。測定した反射光402の反射角404は、入射角403と同じとした。以下の測定結果の入射角とは、入射角403のことである。
【0181】
以下の測定結果では、相対反射率を用いる。相対反射率の参照としては、図4(b)に示すように不図示のスペーサーを入れて、反射層とシンチレータの間が空気の場合の絶対反射率を用いた。各条件で測定した絶対反射率を、図4(b)の絶対反射率で除して、相対反射率を算出した。図5は、測定した相対反射率スペクトルの測定結果の一例である。
【0182】
(比較例1)
低屈折率層を用いなかったこと以外は実施例1と同様に試料を作製した。すなわち、図4(c)に示すようにシンチレータ201、接着層202、及び反射層204の順に積層された試料を作製した。実施例1と同様に相対反射率を測定した。測定した相対反射率のスペクトルを図5に示す。
【0183】
図5の相対反射率スペクトルから、すべての波長で実施例1の方が比較例1よりも反射率が高いことが分かる。すなわち、シンチレータと反射層との間に、シンチレータから順に接着層、及び低屈折率層を配置させることで、光を反射させやすいことが読み取れる。
【0184】
さらに、図5(a)及び(b)は、それぞれ入射角が70°、74°の際の相対反射スペクトルである。図5(a)及び(b)を比較すると、入射角が大きくなるほど、実施例1の相対反射率と比較例1の相対反射率との差が大きくなっていることが分かる。これは、図2に示すように光の取り出し面208と反射層204が略垂直である場合、実施例1の方が比較例1よりも相対反射率は高くなることが分かる。すなわち、シンチレータと反射層との間に、シンチレータから順に接着層、及び低屈折率層を配置させることで、光を反射させやすいことが読み取れる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明によれば、複数のシンチレータを備えるシンチレータユニットを用いる場合に、クロストークを低減することが可能なシンチレータユニットを有する放射線検出器を提供することができる。
【符号の説明】
【0186】
104 低屈折率層
201 シンチレータ
202 接着層
204 反射層
205 シンチレータユニット
206 検出部
207 放射線検出器
208 光射出面
301 中空粒子
302 中空粒子間の空隙
303 中空粒子の外殻
304 中空粒子の内部に形成された空隙
305 基材
401 入射光
402 反射光
403 入射角
404 反射角
図1
図2
図3
図4
図5