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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】電力変換装置および遠隔監視システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240527BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020128210
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025408
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松元 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田邉 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和茂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史宏
(72)【発明者】
【氏名】平賀 正宏
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-010490(JP,A)
【文献】特開2011-097812(JP,A)
【文献】特開2008-131722(JP,A)
【文献】特開2015-114202(JP,A)
【文献】特開2005-269832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体デバイスを有するインバータで電流の通流や遮断を制御し所望の電力変換を行う電力変換装置であって、
電流センサで検出した電流値と速度指令とキャリア周波数をもとにゲート信号を算出し前記インバータを制御するモータ制御器と、
前記パワー半導体デバイスの損失を推定し温度履歴を演算する温度履歴演算器と、
前記温度履歴の演算結果を保存する温度履歴記憶装置と、
前記温度履歴記憶装置から読み出した温度履歴から前記パワー半導体デバイスの損傷を演算する損傷演算器を備え
前記温度履歴演算器の処理は前記インバータの運転時に行い、
前記損傷演算器の処理は前記インバータの処理能力に余力があるときに行なうことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
パワー半導体デバイスを有するインバータで電流の通流や遮断を制御し所望の電力変換を行う電力変換装置であって、
電流センサで検出した電流値と速度指令とキャリア周波数をもとにゲート信号を算出し前記インバータを制御するモータ制御器と、
前記パワー半導体デバイスの損失を推定し温度履歴を演算する温度履歴演算器と、
前記温度履歴の演算結果を保存する温度履歴記憶装置と、
前記温度履歴記憶装置から読み出した温度履歴から前記パワー半導体デバイスの損傷を演算する損傷演算器を備え、
前記温度履歴演算器は、前記キャリア周波数と、オンデューティと、直流電圧と、前記電流と、前記パワー半導体デバイスの電気特性より、前記パワー半導体デバイスの損失を推定し、該推定した損失と前記パワー半導体デバイスの熱特性より、前記パワー半導体デバイスの温度履歴を演算するものであり、
前記温度履歴演算器は、前記直流電圧の監視からインバータの力行、回生情報を推定し、
該力行、回生情報により、力行時と回生時でそれぞれ個別に前記パワー半導体デバイスの損失を推定し、
該推定した損失と前記パワー半導体デバイスの熱特性より、力行時と回生時でそれぞれ個別に前記パワー半導体デバイスの温度履歴を演算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
パワー半導体デバイスを有するインバータで電流の通流や遮断を制御し所望の電力変換を行う電力変換装置であって、
電流センサで検出した電流値と速度指令とキャリア周波数をもとにゲート信号を算出し前記インバータを制御するモータ制御器と、
前記パワー半導体デバイスの損失を推定し温度履歴を演算する温度履歴演算器と、
前記温度履歴の演算結果を保存する温度履歴記憶装置と、
前記温度履歴記憶装置から読み出した温度履歴から前記パワー半導体デバイスの損傷を演算する損傷演算器を備え、
前記温度履歴演算器は、前記キャリア周波数と、オンデューティと、直流電圧と、前記電流と、前記パワー半導体デバイスの電気特性より、前記パワー半導体デバイスの損失を推定し、該推定した損失と前記パワー半導体デバイスの熱特性より、前記パワー半導体デバイスの温度履歴を演算するものであり、
前記温度履歴演算器は、力率の監視からインバータの力行、回生情報を推定し、
該力行、回生情報により、力行時と回生時でそれぞれ個別に前記パワー半導体デバイスの損失を推定し、
該推定した損失と前記パワー半導体デバイスの熱特性より、力行時と回生時でそれぞれ個別に前記パワー半導体デバイスの温度履歴を演算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
パワー半導体デバイスを有するインバータで電流の通流や遮断を制御し所望の電力変換を行う電力変換装置であって、
電流センサで検出した電流値と速度指令とキャリア周波数をもとにゲート信号を算出し前記インバータを制御するモータ制御器と、
前記パワー半導体デバイスの損失を推定し温度履歴を演算する温度履歴演算器と、
前記温度履歴の演算結果を保存する温度履歴記憶装置と、
前記温度履歴記憶装置から読み出した温度履歴から前記パワー半導体デバイスの損傷を演算する損傷演算器を備え、
前記損傷演算器で演算した前記パワー半導体デバイスの損傷結果を累積する累積損傷演算器と、
前記累積した損傷結果を保存する累積損傷記憶装置と、
前記累積損傷記憶装置から読み出した累積した損傷結果から前記パワー半導体デバイスの寿命を推定する寿命推定器を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記寿命推定器からの寿命推定結果と基準値とを比較し、該寿命推定結果が前記基準値以上の場合には非発報期間として該寿命推定結果を表示器に表示し、前記寿命推定結果が前記基準値未満の場合には発報期間として基準値を下回り正常時と異なることを表示器に表示する発報判定器を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力変換装置を有する遠隔監視システムであって、
前記電力変換装置は通信器を備え、通信ネットワーク網を介して、該電力変換装置を監視する監視装置に接続されており、
前記電力変換装置は、前記温度履歴演算器での温度履歴演算結果および前記発報判定器での発報判定結果を前記通信器に送出し、該通信器は、前記通信ネットワーク網を介して前記監視装置に前記温度履歴演算結果および前記発報判定結果を送出することを特徴とする遠隔監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパワー半導体デバイスを備える電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用インバータに代表される電力変換装置は、産業界で製造装置、昇降装置、搬送装置等におけるモータ駆動装置として幅広く用いられている。そうした様々な用途において、汎用インバータは安定稼働が求められる。万一、汎用インバータが停止した場合は、工場の生産停止や設備の稼働停止が起こり、甚大な影響を及ぼす。
【0003】
汎用インバータは、IGBTやダイオードなどのパワー半導体デバイスで電流の通流、遮断を制御し、所望の電力変換を行う。パワー半導体デバイスは、ワイヤーボンディング、または、絶縁基板上に形成された銅箔パターンなどとはんだで接合されており、これによってパワー半導体デバイス外部の回路と電気的に接続される。絶縁基板は金属ベース上に実装され、パワー半導体デバイスは金属ベースを介して冷却される。このように外部回路との電気的接続構造や冷却構造を備えたハウジングにパワー半導体デバイスを内蔵した部品はパワーモジュールと呼ばれる。
【0004】
パワー半導体デバイスに電流が通流、遮断する際、パワー半導体デバイスは発熱し、ジャンクションとフィン(冷却構造を備えた金属ベース)間に温度差(以下、△Tと呼ぶ)が発生する。インバータの停止時には発熱がなくなり、△Tは小さくなる。上記のパワー半導体デバイスの接合部(ワイヤーボンディング、銅箔パターンとの接合部)は、一般的に異なる熱膨張率の材料が用いられるため、△Tの変動により、接合部に熱応力が加わる。△Tの変動が繰り返えされると、接合部に剥離や亀裂が生じ故障に至る。このような故障に至るまでの時間は、△Tの程度や頻度によって異なる。△Tの程度や頻度は、電力変換装置の使用方法、電力変換装置によって駆動する装置によって様々である。また、装置の使用状況によって、IGBTとダイオードにかかる負荷の割合も異なる。したがって、このような故障を予防するためには、電力変換装置の使用状況に応じて、IGBTとダイオードにかかる負荷の程度を把握するための処置が必要である。
【0005】
本技術分野における従来技術として特許文献1がある。特許文献1では、温度変化推定部で、スイッチング回路の半導体素子を流れる電流から演算した出力電流信号と運転周波数信号とキャリア周波数信号とに基づき半導体素子の温度変化を推定して温度変化振幅を演算し、熱ストレス演算部で、パワーサイクル曲線データ記憶部に格納されたパワーサイクル曲線データから温度変化振幅に対応するパワーサイクル数に換算し、熱ストレス信号を演算し、寿命推定部で、熱ストレス信号に基づいて半導体素子の寿命推定をし、寿命推定結果信号として表示部に出力する電動機制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2004/082114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、温度変化推定部の演算、熱ストレス演算部の演算、寿命推定部の演算が同時に行われている。このような構成ではこれらの演算を行う演算装置にかかる負荷が大きく、高精度な演算が難しい問題がある。また、明細書中の式(1)で出力電流Iの関数として、半導体素子の発熱量を演算する方法を例示しているが、力行、回生の状態によってパワートランジスタとダイオードに流れる実効電流が異なるために、それぞれの損失を高精度に演算できない課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一例を挙げるならば、パワー半導体デバイスを有するインバータで電流の通流や遮断を制御し所望の電力変換を行う電力変換装置であって、電流センサで検出した電流値と速度指令とキャリア周波数をもとにゲート信号を算出しインバータを制御するモータ制御器と、パワー半導体デバイスの損失を推定し温度履歴を演算する温度履歴演算器と、温度履歴の演算結果を保存する温度履歴記憶装置と、温度履歴記憶装置から読み出した温度履歴からパワー半導体デバイスの損傷を演算する損傷演算器を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パワー半導体デバイスの寿命を高精度に演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1における電力変換装置の構成図である。
図2】実施例1における電力変換装置のインバータの回路図である。
図3】実施例1における電力変換装置のパワーモジュールの斜視図である。
図4】実施例1における電力変換装置のパワーモジュールの断面図である。
図5】実施例1における電力変換装置の直流電圧の時間推移を示す図である。
図6】実施例1における電力変換装置のIGBTのコレクタエミッタ間電圧-コレクタ電流特性を示す図である。
図7】実施例1における電力変換装置のIGBTの単パルススイッチング損失-コレクタ電流特性を示す図である。
図8】実施例1における電力変換装置のダイオードの順方向電圧-順方向電流特性を示す図である。
図9】実施例1における電力変換装置のIGBTの単パルスリカバリ損失-順方向電流特性を示す図である。
図10】実施例1における電力変換装置のIGBTの熱インピーダンス-時間特性を示す図である。
図11】実施例1における電力変換装置のダイオードの熱インピーダンス-時間特性を示す図である。
図12】実施例1における電力変換装置の温度履歴の演算結果例を示す図である。
図13】実施例1における電力変換装置の温度履歴の反転点を示す図である。
図14】実施例1における電力変換装置のパワー半導体素子のライフサイクル-Tjc特性を示す図である。
図15】実施例1における電力変換装置の寿命演算結果と基準値との比較方法を説明する図である。
図16】実施例1における電力変換装置の寿命演算結果の寿命表示を示す図である。
図17】実施例1における電力変換装置の寿命演算結果の発報表示を示す図である。
図18】実施例2における電力変換装置を有する遠隔監視システムの構成図である。
図19】実施例2における複数の電力変換装置を通信ネットワーク網を介して監視装置に接続する遠隔監視システムのイメージ図である。
図20】実施例3における電力変換装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本実施例における電力変換装置の構成図である。図1において、電力変換装置100は、主回路200と、寿命推定装置300と、インターフェース装置400とを備える。
【0013】
まず、主回路200について説明する。主回路200は、交流電源101より送出される交流電力を整流するダイオード整流器201と、平滑コンデンサ202と、パワー半導体スイッチング素子であるIGBT203と、IGBT203に逆並列に接続するダイオード204とを備えるインバータ205により構成される。本実施例ではインバータ205は図2に示す三相2レベル方式のインバータとして説明する。
【0014】
インバータ205はモータ制御器206 によって制御される。具体的には、モータ制御器206は、電流センサ207a、207bで検出した電流値と、速度指令と、設定されたキャリア周波数fcでゲート信号を算出する。算出したゲート信号をゲートドライバ208で増幅し、ゲート電圧としてIGBT203(a,b,c,d,e,f)に入力される。キャリア周期に対するゲートのオン期間の比をオンデューティDと呼ぶ。これにより、モータ102が指令の速度となるように、電圧を出力する。IGBT203、ダイオード204ともに、オン時のジュール損失や通流遮断切り替え時のスイッチング損失、リカバリ損失によって、ジャンクション温度が上昇し、オフ時にジャンクション温度が低下する。
【0015】
図3にIGBT203、ダイオード204を内蔵するパワーモジュール220の斜視図を示し、図3内のA-A’断面図を図4に示す。
【0016】
図3において、ハウジング221の内部にIGBT203、ダイオード204等の複数のパワー半導体素子222、温度センサ223を、面上に配置(図3図4では1個の半導体素子のみを明示)する。
【0017】
図4において、パワーモジュール220は、パワー半導体素子222、チップ下はんだ224、銅箔225、絶縁基板226、基板下はんだ227、金属ベース228の順に積層され、チップ下はんだ224、基板下はんだ227は隣接する層を接合する。半導体素子面のもう一方は金属ワイヤ229で接合されている。
【0018】
パワー半導体素子222が異なる熱膨張係数を持つ物質で接合されているため、パワー半導体素子の温度が上下降する際、接合部に応力がかかる。この応力に対する耐量はパワーサイクル耐量と呼ばれており、ライフサイクルと呼ばれる所定の温度振幅に対する使用可能な繰り返し数で示される。したがって、半導体素子の温度履歴がわかれば、寿命を推定することが可能である。
【0019】
次に、寿命推定装置300について説明する。図1において、本実施例における寿命推定装置300は、演算指令Aをトリガーにして、温度履歴演算器301が、モータ制御器206から得られるキャリア周波数fcとオンデューティD、電圧センサ209で検出した直流電圧Vd、電流センサ207で検出した電流I、IGBTおよびダイオードの熱特性テーブル303、電気特性テーブル302より、IGBTとダイオードのそれぞれの半導体素子の損失を推定する。以下、詳細に説明する。
【0020】
まず、例えば、図5に示すように、直流電圧321が基準電圧322を下回る場合を力行、直流電圧が基準電圧を上回る場合を回生と判定する。または、モータ制御器が有する制御情報より、モータ力率を推定し、力行と回生を判定する。そして、上アームのIGBTの損失Pqは、電流が正方向のときに、例えば、力行時に下記式(1)により演算し、回生時は下記式(2)により演算する。
【0021】
【数1】
【0022】
【数2】
【0023】
ここで、rq、vqは、図6に示すIGBTのコレクタエミッタ間電圧-コレクタ電流特性331の線形近似曲線332の傾きと切片である。また、aq、bqは、図7に示す、直流電圧がvdbの時の、IGBTの単パルス当たりのスイッチング損失-コレクタ電流特性336の線形近似曲線337の傾きと切片である。図1において、これらの変数は電気特性テーブル302に保存される。
【0024】
また、下アームのダイオードの損失Pdは、電流が正方向のときに、例えば、力行時に下記式(3)により演算し、回生時は下記式(4)により演算する。
【0025】
【数3】
【0026】
【数4】
【0027】
ここで、rd、vdは、図8に示すダイオードの順方向電圧-順方向電流特性341の線形近似曲線342の傾きと切片である。また、ad、bdは、図9に示す、直流電圧がvdbの時の、ダイオードの単パルス当たりのリカバリ損失-順方向電流特性346の線形近似曲線347の傾きと切片である。図1において、これらの変数は電気特性テーブル302に保存される。
【0028】
次に、IGBTとダイオードのそれぞれの半導体素子の温度履歴を算出する。以下、詳細に説明する。
【0029】
まず、IGBTのジャンクションとフィン間の温度差△Tqは、例えば、下記式(5)により演算する。
【0030】
【数5】
【0031】
ここで、τthq、rthqは、図10に示すIGBTの熱インピーダンス-時間特性351の近似曲線352の変数である。図1において、これらの変数は熱特性テーブル303に保存される。
【0032】
損失Pqの演算、および△Tq演算は、任意に設定可能な△tの周期で行い、i番目の△Tqが△Tq[i]である。図1において、△Tq[i]の演算結果は、温度履歴記憶装置304に送出、保存される。式(5)の演算にあたって、△Tq[i-1]は温度履歴記憶装置304から読み込む。
【0033】
△Tq[0]は演算指令Aを発行するタイミングに適した任意の値を設定できる。例えば、インバータの停止時間がτthqよりも十分大きいと判断した場合、Tq[0]を0とすることで、より精度の高い演算を行うことができる。また、△tを小さく設定することで、温度履歴演算の精度を高めることができる。一定の精度を得るために、パワーモジュールの熱時定数の1/10より小さく△tを設定することが好ましい。一方、△tを大きく設定すると、単位時間あたりの温度履歴のデータ量を削減できるので、記憶容量を節約することができ、より長時間の温度履歴を記憶できる利点がある。
【0034】
次に、ダイオードのジャンクションとフィン間の温度差△Tdは、例えば、式(6)により演算する。
【0035】
【数6】
【0036】
ここで、τthd、rthdは、図11に示すダイオードの熱インピーダンス-時間特性356の近似曲線357の変数である。図1において、これらの変数は熱特性テーブル303に保存される。
【0037】
力行・加速運転における上アームIGBTとダイオードの温度履歴の演算結果の一例を図12に示す。図12は上段から順に、図1におけるモータ制御器206が有する出力周波数f0の波形であり、続いて、演算結果である、△Tq、△Tdの波形である。この例では、△Tqは2番目のピークが最大で、△Tdは3番目のピークが最大となった。温度履歴を保存することで、高精度な寿命予測に重要な、損傷が最大となる温度のピークを検出することができる。
【0038】
次に、上記温度履歴を用いて、劣化度(損傷)を推定する処理について説明する。なお、以降、IGBTとダイオードの区別を省略する。図1に示す損傷演算器305は温度履歴記憶装置304より、温度履歴を読み込み、図13に示すように△Tの極小点、極大点を抽出する(以下、極小点、極大点を総称して反転点と呼ぶ)。抽出した反転点の配列△T‘から、レインフロー法等のカウント方法で△T’‘の振幅Rが発生した回数を数える。この結果より、温度履歴全体の損傷d[1]は、例えば式(7)より演算する。
【0039】
【数7】
【0040】
ここで、R[j]はj番目のRで、n[j]はR[j]の発生回数を表す。alx、blxは、図14に示すライフサイクル-Tjc特性カーブ361の近似曲線362の係数であり、図1において、耐量特性テーブル306に保存される。
【0041】
本実施例では耐量特性カーブを、線形近似する場合の係数で例を示したが、その他の方法で近似する、または特性をテーブル化する等しても良い。反転点の抽出処理は、温度履歴演算器301で行っても良い。温度履歴演算器301で本処理を行えば、反転点以外の情報保存が不要となり、記憶量を節減できる。
【0042】
本演算結果d[1]を、図1に示す累積損傷演算器307に送出し、過去の累積損傷記憶装置308から読み込まれる累積損傷d[0]に加算する。すなわち、新たな累積損傷d[0]を式(8)で演算する。
【0043】
【数8】
【0044】
d[0]は最初に0であり、損傷が蓄積するにつれて大きくなり、1に達したら寿命と判定する。
【0045】
本演算結果d[0]を、累積損傷記憶装置308に送出し、保存する。そして、累積損傷記憶装置308から寿命推定器309にd[0]を送出し、式(9)で寿命Lを演算する。
【0046】
【数9】
【0047】
Lは最初に100であり、損傷が蓄積するにつれて小さくなり、0に達したら寿命となる。
【0048】
以上の構成により、寿命推定装置300はIGBT203およびダイオード204のパワーサイクルに伴う寿命を演算することができる。
【0049】
なお、前記、損失の推定、および、温度履歴の算出処理は、インバータの運転時に瞬時電流と制御情報とから求める必要がある。一方、温度履歴は記憶装置に保存されるため、上記、損傷の演算は、インバータの処理能力に余力があるときに行ってよい。例えば、演算負荷を平滑化するために、PWMの演算等がなく演算装置の負荷が小さいインバータの待機時に処理を行ってもよい。または、複数回の温度の算出処理を行う間に、1回の損傷の演算を行ってもよい。
【0050】
次に、インターフェース装置400について説明する。図1において、寿命推定器309は、発報判定器401に寿命推定結果421を送出する。
【0051】
図15は、本実施例における電力変換装置の寿命演算結果と基準値との比較方法を説明する図である。図15において、発報判定器401は寿命推定結果421と任意に設定可能な基準値422とを比較する。寿命推定結果421が基準値422以上の場合を非発報期間、基準値422未満の場合を発報期間と呼ぶ。非発報期間には図1における表示器402に寿命推定結果を送出し、例えば、図16に示すように、寿命がわかるように明示する。図16においては、表示器402に寿命が残り36%であることを示している。
【0052】
また、発報期間には図17に示すように、基準値を下回り正常時と異なることを、使用者がわかるように表示する。図17においては、基準値を下回った場合を、表示器402に“EEE”で表示している。
【0053】
このように、寿命および発報を明示的にすることで、例えば、寿命に達する前にパワーモジュールを交換でき、また、インバータの加減速時間を長くする等の縮退処置にてパワーモジュールを延命することができ、突発的故障の予防処置を検討でき、突発的故障を未然に防ぐことが出来る。
【0054】
以上のように、本実施例によれば、IGBTおよびダイオードの寿命を高精度に演算することができる。また、寿命および発報を明示的にすることで、突発的故障を未然に防ぐことが出来る。
【実施例2】
【0055】
図18は、本実施例における電力変換装置を有する遠隔監視システムの構成図である。図18において、図1と同じ構成については同じ符号を付し、その説明は省略する。図18において図1と異なる点は、電力変換装置100は、図1の構成に加え、通信器501を備え、通信ネットワーク網502を介して、複数の電力変換装置を監視する監視装置503に接続される点である。
【0056】
図18において、温度履歴演算器301が温度履歴演算結果および発報判定結果を通信器501に送出する。通信器501は、通信ネットワーク網502を介して監視装置503にこれらの情報を送出する。
【0057】
図19は、本実施例における複数の電力変換装置を通信ネットワーク網を介して監視装置に接続する遠隔監視システムのイメージ図である。図19において、それぞれの電力変換装置100が通信器501を介して通信ネットワーク網502に接続されている。また、監視装置503が通信ネットワーク網502に接続され、複数の電力変換装置100を監視している。
【0058】
以上の構成によって、監視装置503で複数の電力変換装置100を監視することができる。さらに、監視装置503に、詳細なディスプレイ等の表示装置、高性能な演算装置を搭載することで、複数台の電力変換装置100の運転状況比較や、異常運転の検出など、総合的な管理・分析ができる。例えば、事務所など電力変換装置から離れた場所でも、日々の稼働状況を管理でき、管理業務を効率化できる。さらに、データの蓄積により、保守計画や運転計画の立案に必要な情報を逐次更新することができる。また、異常発生時には、客観的な稼働状況を関係部門で共有できるため、不稼働時間を短縮できる。
【実施例3】
【0059】
本実施例では回生コンバータを利用した電力変換装置について説明する。図20は、本実施例における電力変換装置の構成図である。図20において、図1と同じ構成については同じ符号を付し、その説明は省略する。図20において図1と異なる点は、回生コンバータを利用した主回路600を有する点である。
【0060】
図20において、主回路600は、図1におけるダイオード整流器201に代えて、パワー半導体スイッチング素子であるIGBT203と、IGBT に逆並列に接続するダイオード204を備える回生コンバータ601を備えるものである。また、回生コンバータ制御器606を備える。回生コンバータ601はIGBT203のスイッチングにより、入力電力の力率を調整できるため、直流電圧の変動を抑制できる利点がある。
【0061】
以上実施例について説明したが、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。また、上記の各構成、機能は、それらの一部又は全部を、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行するソフトウェアで実現してもよいし、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0062】
100:電力変換装置、101:交流電源、102:モータ、200:主回路、201:ダイオード整流器、202:平滑コンデンサ、203:IGBT、204:ダイオード、205:インバータ、206:モータ制御器、207:電流センサ、208:ゲートドライバ、220:パワーモジュール、221:ハウジング、222:パワー半導体素子、223:温度センサ、300:寿命推定装置、301:温度履歴演算器、302:電気特性テーブル、303:熱特性テーブル、304:温度履歴記憶装置、305:損傷演算器、306:耐量特性テーブル、307:累積損傷演算器、308:累積損傷記憶装置、309:寿命推定器、321:直流電圧、322:基準電圧、400:インターフェース装置、401:発報判定器、402:表示器、421:寿命推定結果、422:基準値、501:通信器、502:通信ネットワーク網、503:監視装置、601:回生コンバータ
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