(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】人力駆動車用の内装変速機および人力駆動車用の変速システム
(51)【国際特許分類】
B62M 11/16 20060101AFI20240527BHJP
B62M 6/55 20100101ALI20240527BHJP
B62M 6/45 20100101ALI20240527BHJP
F16H 3/44 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B62M11/16 A
B62M6/55
B62M6/45
F16H3/44 A
(21)【出願番号】P 2020138643
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴士
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-218488(JP,A)
【文献】特開2010-95203(JP,A)
【文献】特開2011-6046(JP,A)
【文献】特開2016-203735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0334520(US,A1)
【文献】特開2018-136002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/55
B62M 6/45
B62M 11/16
B62M 11/18
B62M 9/04
F16H 3/00- 3/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力駆動車用の内装変速機であって、
人力駆動車のクランクの回転を受ける入力部と、
前記入力部から伝達される回転を出力する出力部と、
前記入力部から伝達される回転を前記出力部に出力する変速機構と、
前記入力部と前記出力部との間における回転力の伝達経路を切り替える第1切替機構と、を備え、
前記変速機構は、キャリアを含む遊星歯車機構を備え、
前記第1切替機構は、前記キャリアと一体回転する係合部を含み、
前記係合部は、第1状態と第2状態との間で切り替えられ、前記第1状態の場合、前記入力部または前記出力部の少なくとも1つと係合せず、前記第2状態の場合、前記入力部および前記出力部の両方と係合し、
前記伝達経路は、第1伝達経路および第2伝達経路を含み、
前記入力部が前記出力部を回転させる場合、
前記第1伝達経路において、前記係合部が前記第1状態に切り替えられ、かつ前記入力部と前記キャリアとが係合することによって、前記入力部の回転が前記キャリアから前記変速機構を介して前記出力部に伝達するよう構成され、
前記出力部が前記入力部を回転させる場合、
前記第2伝達経路において、前記係合部が前記第2状態を形成し、かつ前記入力部と前記キャリアとの接続が解除されることによって、前記出力部の回転が、前記係合部を介して前記入力部に伝達するように構成される、内装変速機。
【請求項2】
前記係合部は、前記第1状態の場合、前記出力部に係合しない、請求項1に記載の内装変速機。
【請求項3】
前記係合部は、前記第1状態の場合、前記入力部と係合する、請求項1または2に記載の内装変速機。
【請求項4】
前記出力部が前記入力部を回転させる場合、
前記係合部は、前記第2状態において前記入力部および前記出力部の両方と接触する、請求項1から3のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項5】
前記第1切替機構の少なくとも一部は、前記入力部の軸方向に
おける所定位置から前記軸方向に直交する方向を見て、前記入力部と前記出力部とが重複する位置に設けられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項6】
前記変速機構から出力される回転を、前記出力部に伝達する第2切替機構をさらに備え、
前記第1切替機構は、前記第2切替機構よりも前記入力部に近い位置に配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項7】
前記係合部は、転動体を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項8】
前記第1切替機構は、前記入力部に設けられる溝を含み、
前記溝は、前記クランクの回転が前記入力部に伝達される場合における前記入力部の回転方向において、上流から下流に向かうにつれて浅くなるように構成され、
前記転動体は、前記溝に配置される、請求項7に記載の内装変速機。
【請求項9】
前記第1切替機構は、前記転動体を保持する保持部を含み、
前記保持部は、前記キャリアと一体回転するように構成される、請求項7または8に記載の内装変速機。
【請求項10】
前記第1切替機構は、付勢部材を含み、
前記付勢部材は、前記係合部を前記第1状態から前記第2状態に切り替えるように
前記係合部を付勢する、請求項7または8に記載の内装変速機。
【請求項11】
前記第1切替機構は、付勢部材を含み、
前記付勢部材は、前記保持部および前記キャリアの少なくとも1つと係合し、前記保持部および前記キャリアの少なくとも1つを付勢することによって、前記係合部を前記第1状態から前記第2状態に切り替
えるように付勢する、請求項9に記載の内装変速機。
【請求項12】
前記係合部は、複数の前記転動体を含む、請求項7から11のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項13】
前記遊星歯車機構は、増速機構を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項14】
変速切替機構をさらに含み、
前記遊星歯車機構は、複数の太陽ギアを含み、
前記変速切替機構は、前記複数の太陽ギアの回転状態を切り替えることによって、変速比を変更する、請求項1から13のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項15】
前記出力部は、ハブシェルを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の内装変速機。
【請求項16】
人力駆動車用の変速システムであって、
請求項1から15のいずれか一項に記載の内装変速機と、
前記第2伝達経路において、前記入力部に伝達された回転を伝達可能に構成される、モータおよび発電機の少なくとも1つと、を含む、変速システム。
【請求項17】
前記モータを含み、
前記モータは、前記人力駆動車の推進をアシストするように構成される、請求項16に記載の変速システム。
【請求項18】
前記モータは、前記人力駆動車のクランク軸に設けられる、請求項16または17に記載の変速システム。
【請求項19】
前記変速システムは、前記モータが回生した電力によって充電されるバッテリを含む、請求項16から18のいずれか一項に記載の変速システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人力駆動車用の人力駆動車用の内装変速機および人力駆動車用の変速システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されている人力駆動車用の変速機は、クランクからの人力駆動力を伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的の1つは、出力体の回転を入力体に伝達できる人力駆動車用の内装変速機および人力駆動車用の変速システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面に従う内装変速機は、人力駆動車用の内装変速機であって、人力駆動車のクランクの回転が伝達される入力部と、前記入力部から伝達される回転を出力する出力部と、前記入力部から伝達される回転を前記出力部に出力する変速機構と、前記入力部と前記出力部との間における回転力の伝達経路を切り替える第1切替機構と、を備え、前記変速機構は、キャリアを含む遊星歯車機構を備え、前記第1切替機構は、前記キャリアと一体回転する係合部を含み、前記係合部は、第1状態と第2状態とを形成し、前記第1状態の場合、前記入力部または前記出力部の少なくとも1つと係合せず、前記第2状態の場合、前記入力部および前記出力部の両方と係合し、前記伝達経路は、第1伝達経路および第2伝達経路を含み、前記入力部が前記出力部を回転させる場合、前記第1伝達経路において、前記係合部が前記第1状態を形成し、かつ前記入力部と前記キャリアとが係合することによって、前記入力部の回転が前記キャリアから前記変速機構を介して前記出力部に伝達するよう構成され、前記出力部が前記入力部を回転させる場合、前記第2伝達経路において、前記係合部が前記第2状態を形成し、かつ前記入力部と前記キャリアとの接続が解除されることによって、前記出力部の回転が、前記係合部を介して前記入力部に伝達するように構成される。
上記第1側面の内装変速機によれば、第1切替機構によって、入力部と出力部との間における回転力伝達経路を好適に切り替えできる。このため、出力体の回転を入力体に伝達できる。
【0006】
前記第1側面に従う第2側面の内装変速機において、前記係合部は、前記第1状態の場合、前記出力部に係合しない。
上記第2側面の内装変速機によれば、係合部が第1状態を形成している場合、係合部は出力部に係合しないため、入力部の回転が係合部を介して出力部に伝達されない。
【0007】
前記第1側面または前記第2側面に従う第3側面の内装変速機において、前記係合部は、前記第1状態の場合、前記入力部と係合する。
上記第3側面の内装変速機によれば、係合部が第1状態の場合、係合部が入力部と係合することによって、入力部の回転が係合部に伝達されるため、入力部の回転がキャリアから変速機構を介して出力部に伝達される。
【0008】
前記第1側面から前記第3側面のいずれか1つに従う第4側面の内装変速機において、前記出力部が前記入力部を回転させる場合、前記係合部は、前記第2状態において前記入力部および前記出力部の両方と接触する。
上記第4側面の内装変速機によれば、係合部が第2状態の場合、係合部は、入力部および出力部の両方と接触することによって、出力部の回転が係合部を介して入力部に伝達されるため、出力部の回転が、係合部を介して入力部に伝達される。
【0009】
前記第1側面から前記第4側面のいずれか1つに従う第5側面の内装変速機において、前記第1切替機構の少なくとも一部は、前記入力部の軸方向において、前記入力部と前記出力部とが重複する位置に設けられる。
上記第5側面の内装変速機によれば、第1切替機構の少なくとも一部が入力部と出力部とが重複する位置に設けられるため、第1切替機構の構造の複雑化を抑制できる。
【0010】
前記第1側面から前記第5側面のいずれか1つに従う第6側面の内装変速機において、前記変速機構から出力される回転を、前記出力部に伝達する第2切替機構をさらに備え、前記第1切替機構は、前記第2切替機構よりも前記入力部に近い位置に配置される。
上記第6側面の内装変速機によれば、第1切替機構を第2切替機構よりも入力部に近い位置に配置できる。
【0011】
前記第1側面から前記第6側面のいずれか1つに従う第7側面の内装変速機において、前記係合部は、転動体を含む。
上記第7側面の内装変速機によれば、係合部は転動体を含むため、係合部に伝達された回転を、入力部と出力部の間において好適に伝達できる。
【0012】
前記第7側面に従う第8側面の内装変速機において、前記第1切替機構は、前記入力部に設けられる溝を含み、前記溝は、前記クランクの回転が前記入力部に伝達される場合における前記入力部の回転方向において、上流から下流に向かうにつれて浅くなるように構成され、前記転動体は、前記溝に配置される。
上記第8側面の内装変速機によれば、クランクの回転が入力部に伝達される場合における入力部の回転方向において、溝が上流から下流に向かうにつれて浅くなるように構成されるため、溝と係合部とが好適に係合できる。
【0013】
前記第7側面または前記第8側面に従う第9側面の内装変速機において、前記第1切替機構は、前記転動体を保持する保持部を含み、前記保持部は、前記キャリアと一体回転するように構成される。
上記第9側面の内装変速機によれば、保持部がキャリアと一体回転するため、係合部に伝達された回転を、キャリアに好適に伝達できる。
【0014】
前記第7側面または前記第8側面に従う第10側面の内装変速機において、前記第1切替機構は、付勢部材を含み、前記付勢部材は、前記係合部を前記第1状態から前記第2状態に切り替えるように前記係合部を付勢する。
上記第10側面の内装変速機によれば、付勢部材が係合部を第1状態から第2状態に切り替えるように付勢するため、係合部を好適に第1状態から第2状態に切り替えることができる。
【0015】
前記第9側面に従う第11側面の内装変速機において、前記第1切替機構は、付勢部材を含み、前記付勢部材は、前記保持部および前記キャリアの少なくとも1つと係合し、前記保持部および前記キャリアの少なくとも1つを付勢することによって、前記係合部を前記第1状態から前記第2状態に切り替えるように付勢する。
上記第11側面の内装変速機によれば、付勢部材が保持部およびキャリアの少なくとも1つと係合することによって、係合部を第1状態から第2状態に切り替えるように付勢できる。
【0016】
前記第7側面から前記第11側面のいずれか1つに従う第12側面の内装変速機において、前記係合部は、複数の前記転動体を含む。
上記第12側面の内装変速機によれば、係合部が複数の転動体を含むため、係合部は、入力部と出力部との間において回転を好適に伝達できる。
【0017】
前記第1側面から前記第12側面のいずれか1つに従う第13側面の内装変速機において、前記遊星歯車機構は、増速機構を含む。
上記第13側面の内装変速機によれば、入力部に入力された回転を増速機構によって増速できる。
【0018】
前記第1側面から第13側面のいずれか1つに従う第14側面の内装変速機において、変速切替機構をさらに含み、前記遊星歯車機構は、複数の太陽ギアを含み、前記変速切替機構は、前記複数の太陽ギアの回転状態を切り替えることによって、変速比を変更する。
上記第14側面の内装変速機によれば、複数の太陽ギアの回転状態を切り替えることによって、変速比を変更できる。
【0019】
前記第1側面から前記第14側面のいずれか1つに従う第15側面の内装変速機において、前記出力部は、ハブシェルを含む。
上記第15側面の内装変速機によれば、入力部がハブシェルを回転させる場合、入力部の回転がキャリアから変速機構を介してハブシェルに伝達できる。ハブシェルが入力部を回転させる場合、係合部を介してハブシェルの回転を入力部に伝達できる。
【0020】
本発明の第16側面に従う変速システムは、人力駆動車用の変速システムであって、前記第1側面から前記第15側面のいずれか1つの人力駆動車用の内装変速機と、前記第2伝達経路において、前記入力部に伝達された回転を伝達可能に構成される、モータおよび発電機の少なくとも1つと、を含む。
上記第16側面の変速システムによれば、第2伝達経路において、出力部から入力部に伝達された回転がモータおよび発電機の少なくとも1つに伝達されるため、モータおよび発電機の少なくとも1つは回生を行える。
【0021】
前記第16側面に従う第17側面の変速システムにおいて、前記モータを含み、前記モータは、前記人力駆動車の推進をアシストするように構成される。
上記第17側面の変速システムによれば、人力駆動車の推進をアシストするモータに出力部の回転を伝達できる。
【0022】
前記第16側面または前記第17側面に従う第18側面の変速システムにおいて、前記モータは、前記人力駆動車のクランク軸に設けられる。
上記第18側面の変速システムによれば、モータは人力駆動車のクランク軸に設けられるモータに、出力部の回転を伝達できる。
【0023】
前記第16側面から前記第18側面のいずれか1つに従う第19側面の変速システムにおいて、前記変速システムは、前記モータが回生した電力を充電するバッテリを含む。
上記第19側面の変速システムによれば、モータが回生した電力を、バッテリに充電できる。
【発明の効果】
【0024】
本開示の人力駆動車用の内装変速機および人力駆動車用の変速システムは、出力体の回転を入力体に伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態の人力駆動車用の変速システムおよび人力駆動車用の内装変速機を含む人力駆動車の側面図。
【
図2】実施形態の人力駆動車用の変速システムを含む回転力の伝達経路の模式図。
【
図3】実施形態の人力駆動車用の内装変速機の正面図。
【
図5】
図3の人力駆動車用の内装変速機のスケルトン図。
【
図6】
図3の第1切替機構について、入力部の回転が出力部に伝達される場合の模式図。
【
図7】
図3の第1切替機構について、出力部の回転が入力部に伝達される場合の模式図。
【
図8】
図3の人力駆動車用の内装変速機における、第1伝達経路の模式図。
【
図9】
図3の人力駆動車用の内装変速機における、第2伝達経路の模式図。
【
図10】実施形態の変形例における人力駆動車用の変速システムを含む回転力の伝達経路の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<実施形態>
図1から
図9を参照して、実施形態の人力駆動車用の内装変速機50および人力駆動車用の変速システム40について説明する。人力駆動車10は、少なくとも1つの車輪を有し、少なくとも人力駆動力Hによって駆動できる乗り物である。人力駆動車10は、例えばマウンテンバイク、ロードバイク、シティバイク、カーゴバイク、および、ハンドバイク、リカンベントなど種々の種類の自転車を含む。人力駆動車10が有する車輪の数は限定されない。人力駆動車10は、例えば1輪車および3輪以上の車輪を有する乗り物も含む。人力駆動車10は、人力駆動力Hのみによって駆動できる乗り物に限定されない。人力駆動車10は、人力駆動力Hだけではなく、電気モータの駆動力を推進に利用するイーバイク(E-bike)を含む。イーバイクは、電気モータによって推進が補助される電動アシスト自転車を含む。以下、実施形態において、人力駆動車10を、電動アシスト自転車として説明する。
【0027】
人力駆動車10は、人力駆動力Hが入力されるクランク12を備える。人力駆動車10は、車輪14と、車体16と、を、さらに備える。車輪14は、後輪14Aと、前輪14Bと、を含む。車体16は、フレーム18を含む。クランク12は、フレーム18に対して回転可能なクランク軸12Aと、クランク軸12Aの軸方向の端部にそれぞれ設けられる一対のクランクアーム12Bとを含む。各クランクアーム12Bには、一対のペダル20がそれぞれ連結される。後輪14Aは、クランク12が回転することによって駆動される。後輪14Aは、フレーム18に支持される。クランク12は、駆動機構22によって後輪14Aと連結される。駆動機構22は、クランク軸12Aに連結される第1回転体24を含む。クランク軸12Aは、第1回転体24と一体回転するように連結されてもよく、第1ワンウェイクラッチ36を介して連結されていてもよい。第1ワンウェイクラッチ36は、クランク12が前転した場合に、第1回転体24を前転させ、クランク12が後転した場合に、クランク12と第1回転体24との相対回転を許容するように構成される。第1回転体24は、フロントスプロケット24A、プーリ、または、ベベルギアを含む。駆動機構22は、第2回転体26と、連結部材48とをさらに含む。連結部材48は、第1回転体24の回転力を第2回転体26に伝達する。連結部材48は、例えば、チェーン、ベルト、または、シャフトを含む。
【0028】
第2回転体26は、後輪14Aに連結される。第2回転体26は、リアスプロケット26A、プーリ、または、ベベルギアを含む。
【0029】
フレーム18には、フロントフォーク28を介して前輪14Bが取り付けられている。フロントフォーク28には、ハンドルバー32がステム30を介して連結されている。本実施形態では、後輪14Aが駆動機構22によってクランク12に連結されるが、後輪14Aおよび前輪14Bの少なくとも1つが、駆動機構22によってクランク12に連結されてもよい。
【0030】
人力駆動車10は、人力駆動車用の変速システム40を備える。変速システム40は、内装変速機50と、第2伝達経路T2において、入力部52に伝達された回転を伝達可能に構成される、モータ42および発電機の少なくとも1つと、を含む。本実施形態では、変速システム40は、モータ42を含む。好ましくは、変速システム40は、バッテリ46と、連結部材48と、をさらに含む。
【0031】
モータ42は、人力駆動車10の推進をアシストするように構成される。モータ42は、人力駆動車10に推進力を付与する。モータ42は、1または複数の電気モータを含む。モータ42は、ペダル20から後輪14Aまでの人力駆動力Hの動力伝達経路、および、前輪14Bの少なくとも1つに回転を伝達するように構成される。ペダル20から後輪14Aまでの人力駆動力Hの動力伝達経路は、後輪14Aを含む。本実施形態では、モータ42は、人力駆動車10のクランク軸12Aに設けられる。モータ42は、第1回転体24に回転を伝達するように構成される。モータ42は、人力駆動車10のフレーム18に設けられてもよく、ハウジングに設けられてもよい。ハウジングは、例えばフレーム18に着脱可能に取り付けられる。モータ42およびモータ42が設けられるハウジングを含んで、ドライブユニットが構成される。好ましくは、モータ42は、回生可能に構成される。好ましくは、変速システム40は、後輪14Aの回転がモータ42に伝達可能に構成され、後輪14Aの回転がモータ42に伝達されることによってモータ42は回生する。
【0032】
好ましくは、変速システム40は、モータ42が回生した電力によって充電されるバッテリ46を含む。バッテリ46は、1または複数のバッテリ素子を含む。バッテリ素子は、充電池を含む。バッテリ46は、モータ42に電力を供給する。バッテリ46は、モータ42と有線または無線によって通信可能に接続される。バッテリ46は、例えば電力線通信(PLC;power line communication)によってモータ42の制御装置と通信可能である。一例では、バッテリ46は、フレーム18またはリアキャリアに設けられるバッテリホルダに取り付けられている。
【0033】
変速システム40は、内装変速機50を備える。内装変速機50は、人力駆動車10のクランク軸12Aの回転速度Cに対する駆動輪の回転速度Wの比率である変速比率Rを変更する。変速比率Rは、クランク12の回転速度Cに対する駆動輪の回転速度Wの比率である。本実施形態では、駆動輪は後輪14Aである。内装変速機50は、例えば、後輪14Aのハブに設けられる。内装変速機50は、アクチュエータによって動作するように構成されてもよい。アクチュエータは、電気アクチュエータを含む。アクチュエータは、例えば、電気モータを含む。内装変速機50は、機械ケーブルによって動作するように構成されてもよい。
【0034】
内装変速機50は、入力部52と、出力部54と、変速機構56と、第1切替機構58と、を備える。入力部52は、人力駆動車10のクランク12の回転を受ける。出力部54は、入力部52から伝達される回転を出力する。変速機構56は、入力部52から伝達される回転を出力部54に出力する。第1切替機構58は、入力部52と出力部54との間における回転力の伝達経路Tを切り替える。好ましくは、内装変速機50は、変速切替機構60をさらに含む。内装変速機50は、支持部材62をさらに含む。入力部52は、駆動体64を含む。好ましくは、出力部54は、ハブシェル54Aを含む。支持部材62は、ハブ軸62Aを含む。
【0035】
駆動体64は、ハブシェル54Aとハブ軸62Aとの間に設けられ、第2回転体26と一体回転可能に構成される。ハブ軸62Aは、後輪14Aの車軸と一体化されている。出力部54は、後輪14Aのスポークを取り付けるためのフランジ66を備える。
【0036】
変速機構56は、キャリア68を含む遊星歯車機構70を備える。遊星歯車機構70は、複数の遊星歯車機構70を含む。本実施形態では、遊星歯車機構70は、第1遊星歯車機構74、第2遊星歯車機構76、第3遊星歯車機構78および第4遊星歯車機構80を含む。第1遊星歯車機構74は、内装変速機50の軸方向において入力部52の隣に配置される。第2遊星歯車機構76は、内装変速機50の軸方向において第1遊星歯車機構74の隣かつ、入力部52とは反対側に配置される。第4遊星歯車機構80は、内装変速機50の軸方向において第2遊星歯車機構76の隣かつ、第1遊星歯車機構74とは反対側に配置される。第3遊星歯車機構78は、内装変速機50の軸方向において第3遊星歯車機構78の隣かつ、第2遊星歯車機構76とは反対側に配置される。好ましくは、変速機構56は、複数の遊星歯車機構70を備える。遊星歯車機構70の数は、2つであってもよく、5つ以上であってもよい。
【0037】
遊星歯車機構70は、複数の太陽ギア82を含む。複数の遊星歯車機構70は、複数の太陽ギア82、複数のリングギア84、複数のキャリア68および複数の遊星ギア86を含む。複数の太陽ギア82は、第1太陽ギア82A、第2太陽ギア82B、第3太陽ギア82Cおよび第4太陽ギア82Dを含む。複数のリングギア84は、第1リングギア84Aおよび第2リングギア84Bを含む。複数のキャリア68は、第1キャリア68Aおよび第2キャリア68Bを含む。複数の遊星ギア86は、第1遊星ギア86A、第2遊星ギア86B、第3遊星ギア86Cおよび第4遊星ギア86Dを含む。好ましくは、遊星歯車機構70は、増速機構88を含む。遊星歯車機構70は、遊星歯車機構70に入力される回転を増速して出力できるように構成される。
【0038】
第1遊星歯車機構74は、第1太陽ギア82A、第1リングギア84A、第1遊星ギア86Aおよび第1キャリア68Aを含む。第1太陽ギア82Aは、支持部材62の軸まわりに支持部材62に回転可能に支持される。第1リングギア84Aは、第1太陽ギア82Aまわりに配置される。第1遊星ギア86Aは、第1太陽ギア82Aと係合し、かつ、第1太陽ギア82Aおよび第1リングギア84Aに対して公転可能である。第1遊星歯車機構74は、複数の第1遊星ギア86Aを含む。第1キャリア68Aは、複数の第1遊星ギア86Aをそれぞれ回転可能に支持する。第1キャリア68Aは、支持部材62の軸まわりに回転可能に設けられる。複数の第1遊星ギア86Aはそれぞれ、第1キャリア68Aの回転に伴って第1太陽ギア82Aまわりで公転する。第1キャリア68Aは、入力部52に接続されて、入力部52からの回転が伝達される。第1遊星歯車機構74は、入力部52からの回転を増速して出力するように構成される。
【0039】
第2遊星歯車機構76は、第2太陽ギア82B、第1リングギア84A、第2遊星ギア86Bおよび第1キャリア68Aを含む。第2太陽ギア82Bは、支持部材62の軸まわりに支持部材62に回転可能に支持される。第1リングギア84Aは、第2太陽ギア82Bまわりに配置される。第2遊星ギア86Bは、第2太陽ギア82Bと係合し、かつ、第2太陽ギア82Bおよび第1リングギア84Aに対して公転可能である。第2遊星歯車機構76は、複数の第2遊星ギア86Bを含む。第1キャリア68Aは、複数の第2遊星ギア86Bをそれぞれ回転可能に支持する。第1キャリア68Aは、支持部材62の軸まわりに回転可能に設けられる。複数の第2遊星ギア86Bはそれぞれ、第1キャリア68Aの回転に伴って第2太陽ギア82Bまわりで公転する。第2遊星歯車機構76は、入力部52からの回転を増速して出力するように構成される。第1キャリア68Aは、入力部52に接続されて、入力部52からの回転が伝達される。
【0040】
第1遊星歯車機構74および第2遊星歯車機構76は、いずれも入力部52からの回転を増速して出力するように構成される。第1リングギア84Aは、第1遊星歯車機構74および第2遊星歯車機構76によって共用される。第1キャリア68Aは、第1遊星歯車機構74および第2遊星歯車機構76によって共用される。第1遊星ギア部材90は、いわゆる段付きの遊星ギアを構成する。第1遊星ギア86Aおよび第2遊星ギア86Bは、第1遊星ギア部材90に形成される。第2太陽ギア82Bの歯数は、第1太陽ギア82Aの歯数よりも多い。このため、第2遊星歯車機構76が用いられる場合の増速比は、第1遊星歯車機構74が用いられる場合の増速比よりも大きい。
【0041】
第3遊星歯車機構78は、第3太陽ギア82C、第2リングギア84B、第3遊星ギア86Cおよび第2キャリア68Bを含む。第3太陽ギア82Cは、支持部材62の軸まわりに支持部材62に回転可能に支持される。第2リングギア84Bは、第3太陽ギア82Cまわりに配置される。第3遊星ギア86Cは、第3太陽ギア82Cと係合し、かつ、第3太陽ギア82Cおよび第2リングギア84Bに対して公転可能である。第3遊星歯車機構78は、複数の第3遊星ギア86Cを含む。第2キャリア68Bは、複数の第3遊星ギア86Cをそれぞれ回転可能に支持する。第2キャリア68Bは、支持部材62の軸まわりに回転可能に設けられる。複数の第3遊星ギア86Cはそれぞれ、第2キャリア68Bの回転に伴って第3太陽ギア82Cまわりで公転する。第2キャリア68Bは、第1リングギア84Aに接続されて、第1リングギア84Aからの回転が伝達される。
【0042】
第4遊星歯車機構80は、第4太陽ギア82D、第2リングギア84B、第4遊星ギア86Dおよび第2キャリア68Bを含む。第4太陽ギア82Dは、支持部材62の軸まわりに支持部材62に回転可能に支持される。第2リングギア84Bは、第4太陽ギア82Dまわりに配置される。第4遊星ギア86Dは、第4太陽ギア82Dと係合し、かつ、第4太陽ギア82Dおよび第2リングギア84Bに対して公転可能である。第4遊星歯車機構80は、複数の第4遊星ギア86Dを含む。第2キャリア68Bは、複数の第4遊星ギア86Dをそれぞれ回転可能に支持する。第2キャリア68Bは、支持部材62の軸まわりに回転可能に設けられる。複数の第4遊星ギア86Dはそれぞれ、第2キャリア68Bの回転に伴って第4太陽ギア82Dまわりで公転する。第2キャリア68Bは、第1リングギア84Aに接続されて、第1リングギア84Aからの回転が伝達される。
【0043】
第3遊星歯車機構78および第4遊星歯車機構80は、いずれも入力部52からの回転を増速して出力するように構成される。第2リングギア84Bは、第3遊星歯車機構78および第4遊星歯車機構80によって共用される。第2キャリア68Bは、第3遊星歯車機構78および第4遊星歯車機構80によって共用される。第2遊星ギア部材92は、いわゆる段付きの遊星ギアを構成する。第3遊星ギア86Cおよび第4遊星ギア86Dは、第2遊星ギア部材92に形成される。第4太陽ギア82Dの歯数は、第3太陽ギア82Cの歯数よりも多い。このため、第4遊星歯車機構80が用いられる場合の増速比は、第3遊星歯車機構78が用いられる場合の増速比よりも大きい。
【0044】
図4に示すように、変速切替機構60は、第1切替部60A、第2切替部60B、第3切替部60Cおよび第4切替部60Dを含む。第1切替部60Aは、第1太陽ギア82Aと支持部材62との間に配置される。第2切替部60Bは、第2太陽ギア82Bと支持部材62との間に配置される。第3切替部60Cは、第3太陽ギア82Cと支持部材62との間に配置される。第4切替部60Dは、第4太陽ギア82Dと支持部材62との間に配置される。
【0045】
第1切替部60Aは、支持部材62に対して回転可能な回転状態と回転不能な規制状態とのいずれか一方に第1太陽ギア82Aを設定する。第2切替部60Bは、支持部材62に対して回転可能な回転状態と回転不能な規制状態とのいずれか一方に第2太陽ギア82Bを設定する。第3切替部60Cは、支持部材62に対して回転可能な回転状態と回転不能な規制状態とのいずれか一方に第3太陽ギア82Cを設定する。第4切替部60Dは、支持部材62に対して回転可能な回転状態と回転不能な規制状態とのいずれか一方に第4太陽ギア82Dを設定する。変速切替機構60は、複数の太陽ギア82の回転状態を切り替えることによって、変速比を変更する。第1切替部60A、第2切替部60B、第3切替部60Cおよび第4切替部60Dは、例えば、1つのスリーブ部材に設けられる。アクチュエータの駆動または機械ケーブルの動作によって、スリーブ部材が支持部材62まわりに回転することによって、第1切替部60A、第2切替部60B、第3切替部60Cおよび第4切替部60Dが動作し、変速比を変更する。
【0046】
入力部52の回転力は、第1遊星歯車機構74および第2遊星歯車機構76の第1キャリア68Aに伝達可能に構成される。第1遊星歯車機構74および第2遊星歯車機構76の第1リングギア84Aの回転力は、第3遊星歯車機構78および第4遊星歯車機構80の第2キャリア68Bに伝達可能に構成される。第3遊星歯車機構78および第4遊星歯車機構80の第2リングギア84Bの回転力は、出力部54に伝達可能に構成される。内装変速機50において実現される各変速比において、第1太陽ギア82Aと第2太陽ギア82Bとの一方または両方が回転状態に設定される。内装変速機50において実現される各変速比において、第3太陽ギア82Cと第4太陽ギア82Dとの一方または両方が回転状態に設定される。内装変速機50において実現される各変速比において、第1太陽ギア82A、第2太陽ギア82B、第3太陽ギア82C、および、第4太陽ギア82Dの全てが回転状態に設定される変速比を含んでいてもよい。本実施形態では、内装変速機50において実現される各変速比のうちの一番小さい変速比において、第1太陽ギア82A、第2太陽ギア82B、第3太陽ギア82C、および、第4太陽ギア82Dの全てが回転状態に設定される。
【0047】
第1切替機構58は、キャリア68と一体回転する係合部94を含む。係合部94は、第1キャリア68Aと一体回転する。係合部94は、転動体96を含む。好ましくは、係合部94は、複数の転動体96を含む。転動体96は、例えば、ころであってもよく、球であってもよい。第1切替機構58は、転動体96を保持する保持部98を含む。保持部98は、キャリア68と一体回転するように構成される。保持部98は、第1キャリア68Aと一体回転するように構成される。保持部98は、第1キャリア68Aと一体に形成されてもよく、第1キャリア68Aと別体に形成されて、第1キャリア68Aと結合されてもよい。例えば、保持部98は、複数の転動体96を保持する円筒部と、円筒部および第1キャリア68Aを結合するアーム部と、を備える。保持部98は、第1キャリア68Aのうちの、複数の第1遊星ギア86Aおよび複数の第2遊星ギア86Bのそれぞれを貫通するピン部材に結合されてもよく、複数のピン部材を一体的に支持する支持部分に結合されてもよい。
【0048】
図6および
図7に示すように、第1切替機構58は、入力部52に設けられる溝100を含む。なお、
図6および
図7は、入力部52、出力部54、および、保持部98の周方向および回転方向が図面の横方向と平行になるように模式的に示す図である。溝100は、クランク12の回転が入力部52に伝達される場合における入力部52の回転方向において、上流から下流に向かうにつれて浅くなるように構成され、転動体96は、溝100に配置される。例えば、溝100は、入力部52の外周部に設けられる。係合部94は、入力部52の外周部と、出力部54の内周部との間に配置される。
【0049】
入力部52とキャリア68とは、一体回転可能に構成される。入力部52とキャリア68とは、所定の範囲において、相対回転可能に構成される。例えば、入力部52およびキャリア68の一方は周方向に延びる凹部52Aを備え、入力部52およびキャリア68の他方は、凹部52Aに係合する凸部68Cを含む。凹部52Aは、周方向において凸部68Cよりも大きい。このため、凹部52Aの内部において、凸部68Cが移動可能に構成される。本実施形態では、入力部52の内周部に凹部52Aが設けられ、第1キャリア68Aの外周部に凸部68Cが設けられる。凹部52Aおよび凸部68Cは、入力部52のうちの係合部94が設けられる部分とは異なる部分に設けられる。例えば、凹部52Aおよび凸部68Cは、入力部52のうちの係合部94が設けられる部分よりも径方向の内側に配置される。
図4に示すように、凹部52Aおよび凸部68Cが設けられる部分は、回転軸方向と平行な方向において、少なくとも一部が入力部52のうちの係合部94が設けられる部分と重複してもよい。
【0050】
図6および
図7に示すように、好ましくは、付勢部材102によって転動体96が溝100の浅い位置に位置する場合、凸部68Cは、凹部52Aの周方向の壁部に接触しないように構成される。例えば、入力部52とキャリア68とが相対回転可能な所定の範囲と対応する回転角度は、転動体96が溝100の内部において周方向に移動可能な範囲と対応する回転角度よりも大きい。
【0051】
係合部94は、第1状態S1と第2状態S2との間で切り替えられる。係合部94は、第1状態S1の場合、入力部52または出力部54の少なくとも1つと係合せず、第2状態S2の場合、入力部52および出力部54の両方と係合する。好ましくは、係合部94は、第1状態S1の場合、出力部54に係合しない。好ましくは、係合部94は、第1状態S1の場合、入力部52と係合する。
【0052】
好ましくは、第1切替機構58は、付勢部材102を含む。本実施例では、付勢部材102は、入力部52と第1切替機構58との間に配置される。付勢部材102は、例えば、コイルばねを含む。付勢部材102は、係合部94を第1状態S1から第2状態S2に切り替えるように係合部94を付勢する。好ましくは、付勢部材102は、保持部98およびキャリア68の少なくとも1つと係合し、保持部98およびキャリア68の少なくとも1つを付勢することによって、係合部94を第1状態S1から第2状態S2に切り替
えるように付勢する。付勢部材102は、保持部98およびキャリア68の少なくとも1つを、入力部52に対して、第1回転方向D1に付勢する。第1回転方向D1は、クランク12の回転が入力部52に伝達される場合における入力部52の回転方向である。
図6および
図7において、第1回転方向D1は、紙面右向きである。入力部52が出力部54を回転させていない場合、付勢部材102によって、転動体96は、溝100の浅い部分に位置する。すなわち、入力部52および出力部54のいずれも回転していない場合、付勢部材102によって、転動体96は、溝100の浅い部分に位置する。出力部54が入力部52を回転させる場合、付勢部材102によって、転動体96は、溝100の浅い部分に位置する。好ましくは、付勢部材102は、保持部98に接触するように配置される。付勢部材102は、保持部98を介して係合部94を付勢する。付勢部材102がコイルばねである場合、例えば、コイルばねのコイルの一方の端部が保持部98に接触することによって、係合部94を付勢する。付勢部材102は、係合部94を第1状態S1から第2状態S2に切り替えるように付勢できるものであれば、いずれの構成も採用できる。例えば、付勢部材102は、ゴム部材であってもよい。
【0053】
図4に示すように、第1切替機構58の少なくとも一部は、入力部52の軸方向において、入力部52と出力部54とが重複する位置に設けられる。第1切替機構58の少なくとも一部は入力部52と出力部54との間に設けられる。好ましくは、内装変速機50は、変速機構56から出力される回転を、出力部54に伝達する第2切替機構104をさらに備える。第2切替機構104は、出力部54と第2リングギア84Bとの間に設けられる。第2切替機構104は、ワンウェイクラッチを含む。第2切替機構104は、第2リングギア84Bの回転を出力部54に伝達し、出力部54の回転を第2リングギア84Bに伝達しないように構成される。好ましくは、第1切替機構58は、第2切替機構104よりも入力部52に近い位置に配置される。好ましくは、第1切替機構58の少なくとも一部は、出力部54の回転軸と平行な方向において、フランジ66のうちの入力部52に近い側のフランジ66と重複する位置に配置される。第1切替機構58が入力部52に近い位置に配置されることによって、出力部54から入力部52に回転力が伝達される場合の動力損失が抑制される。
【0054】
伝達経路Tは、第1伝達経路T1および第2伝達経路T2を含む。
図5および
図6に示すように、入力部52が出力部54を回転させる場合、第1伝達経路T1において、係合部94が第1状態S1に切り替えられ、かつ入力部52とキャリア68とが係合することによって、入力部52の回転がキャリア68から変速機構56を介して出力部54に伝達するよう構成される。
【0055】
図2に示すように、第1伝達経路T1は、クランク軸12Aに人力駆動力Hが入力されて出力部54が回転する場合の伝達経路に含まれる。第2伝達経路T2は、クランク軸12Aの回転が停止され、かつ、出力部54の回転力がモータ42に伝達される場合の伝達経路に含まれる。
【0056】
クランク12が第1回転方向D1と対応する方向に回転した場合のクランクアーム12Bの回転は、クランク軸12Aに伝達される。クランク軸12Aから伝達された回転は、第1ワンウェイクラッチ36に伝達され、合力部38においてモータ42の回転と合力される。合力部38は、例えば、クランク軸12Aと同軸に設けられる軸部材を含む。合力部38から伝達された回転は、フロントスプロケット24Aに伝達される。フロントスプロケット24Aから伝達された回転は、連結部材48に伝達される。連結部材48から伝達された回転は、リアスプロケット26Aに伝達される。リアスプロケット26Aに伝達された回転は、入力部52に伝達される。入力部52から伝達された回転は、変速機構56に伝達される。変速機構56から伝達された回転は、出力部54に伝達される。
【0057】
図2および
図6に示すように、リアスプロケット26Aから伝達された回転は、入力部52に伝達される。第1伝達経路T1において、入力部52はキャリア68と係合し、入力部52の回転は、キャリア68に伝達される。本実施形態では、入力部52に設けられる溝100は、第1回転方向D1において、上流から下流に向かうにつれて浅くなるように構成されるため、入力部52が出力部54に対して、第1回転方向D1に回転する場合、係合部94は、溝100のうちの第1回転方向D1の上流側の深い部分に位置する。第1切替機構58は第1伝達経路T1において入力部52と接触してもよく、接触しなくてもよい。キャリア68と係合部94とは一体回転するため、入力部52がキャリア68を押すことによって、係合部94は出力部54とは係合しない位置に維持され、第1状態S1を形成する。第1状態S1を形成することによって、第1切替機構58に伝達された回転は、出力部54には伝達されない。入力部52から伝達された回転は、第1切替機構58から変速機構56に伝達されてもよいし、入力部52から直接変速機構56に伝達されてもよい。変速機構56に伝達された回転は、遊星歯車機構70を介して、出力部54に伝達される。本実施例では、変速機構56に伝達された回転は、遊星歯車機構70で増速され、出力部54に伝達される。
【0058】
図2および
図7に示すように、出力部54が入力部52を回転させる場合、第2伝達経路T2において、係合部94が第2状態S2を形成し、かつ入力部52とキャリア68との接続が解除されることによって、出力部54の回転が、係合部94を介して入力部52に伝達するように構成される。
【0059】
出力部54が回転する場合、例えば、クランク12の回転が停止し、出力部54がコースティングによって回転する場合、出力部54の回転は変速機構56を介さずに第1切替機構58に伝達される。第1切替機構58から伝達された回転は入力部52に伝達される。入力部52から伝達された回転は、リアスプロケット26A、連結部材48およびフロントスプロケット24Aに順に伝達される。フロントスプロケット24Aに伝達された回転は、合力部38に伝達され、モータ42に伝達される。モータ42は合力部38から伝達された回転によって回生を行い、回生された電力はバッテリ46に充電される。
【0060】
図7に示すように、クランク12の回転が停止して入力部52の回転が停止すると、第2伝達経路T2において、キャリア68が付勢部材102によって付勢され、凸部68Cが凹部52Aの内部において入力部52に対して第1回転方向D1に移動して、キャリア68と入力部52との係合が解除される。本実施形態では、入力部52に設けられる溝100は、第1回転方向D1において、上流から下流に向かうにつれて浅くなるように構成される。キャリア68が付勢部材102によって付勢される場合、キャリア68と第1切替機構58とは一体回転するため、係合部94は溝100のうちの第1回転方向D1の下流側の浅い位置に位置する。このため、係合部94は溝100の第1回転方向D1の下流側で係合するため、係合部94は、出力部54と係合可能な位置に配置され、第2状態S2を形成する。出力部54が入力部52を回転させる場合、係合部94は、第2状態S2において入力部52および出力部54の両方と接触する。出力部54から伝達された回転は、第1切替機構58を介して入力部52へと伝達される。
【0061】
図2、
図5、
図8および
図9を参照して、第1伝達経路T1と第2伝達経路T2の回転伝達経路について説明する。
図8は、内装変速機50が取り得る変速比のうちの1つの変速比を取っている状態を示す。
【0062】
図2、
図5および
図8に示すように、回転伝達経路U1は、第1伝達経路T1を経由して、内装変速機50が回転を伝達する一例である。回転伝達経路U1において、第1太陽ギア82Aが回転状態にあり、第2太陽ギア82Bが規制状態にあり、第3太陽ギア82Cが回転状態にあり、かつ、第4太陽ギア82Dが規制状態にある。第2遊星歯車機構76および第4遊星歯車機構80で増速された回転は、第2切替機構104を経由して、出力部54に伝達される。
【0063】
図2、
図5および
図9に示すように、回転伝達経路U2は、第2伝達経路T2を経由して、内装変速機50が回転を伝達する一例である。回転伝達経路U2においては、第2切替機構104によって、出力部54の回転は変速機構56に伝達されない。出力部54の回転は、変速機構56を経由することなく、入力部52に伝達される。
【0064】
<変形例>
実施形態に関する説明は、本開示に従う人力駆動車用の内装変速機および人力駆動車用の変速システムが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本開示に従う人力駆動車用の内装変速機および人力駆動車用の変速システムは、例えば以下に示される実施形態の変形例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。以下の変形例において、実施形態の形態と共通する部分については、実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0065】
・
図10に示すように、人力駆動車10の変速システム40は、モータ42に代えて発電機44を備える。好ましくは、発電機44は、回転伝達経路に含まれる。発電機44は、人力駆動車10の走行にともない発電する。発電機44は、回転力の伝達経路において、フロントスプロケット24Aよりもクランク12側に設けられる。発電機44は、出力部54が回転することによって発電する。好ましくは、発電機44の発電した電力は、バッテリ46に供給される。発電機44は、キャパシタを含み、キャパシタからコンポーネントおよび制御装置に電力を供給するようにしてもよい。変速システム40が発電機44を含む場合、クランク12が第1回転方向D1と対応する方向に回転した場合のクランクアーム12Bの回転は、クランク軸12Aに伝達される。クランク軸12Aから伝達された回転は、第1ワンウェイクラッチ36に伝達され、発電機44に伝達される。発電機44の回転は、フロントスプロケット24Aに伝達される。フロントスプロケット24Aから伝達された回転は、連結部材48に伝達される。連結部材48から伝達された回転は、リアスプロケット26Aに伝達される。リアスプロケット26Aに伝達された回転は、入力部52に伝達される。入力部52から伝達された回転は、第1切替機構58に伝達される。第1切替機構58から伝達された回転は、変速機構56に伝達される。変速機構56から伝達された回転は、出力部54に伝達される。出力部54が回転する場合、例えば、クランク12の回転が停止し、出力部54がコースティングによって回転すると、出力部54の回転は変速機構56を介さずに第1切替機構58に伝達される。第1切替機構58から伝達された回転は入力部52に伝達される。入力部52から伝達された回転は、リアスプロケット26A、連結部材48およびフロントスプロケット24Aに順に伝達される。フロントスプロケット24Aに伝達された回転は、発電機44に伝達され、発電機44は回生を行う。回生された電力はバッテリ46に充電される。
【0066】
・変速システム40は、モータ42および発電機44の両方を備えていなくてもよい。
・変速システム40は、バッテリ46を備えていなくてもよい。この場合、モータ42および発電機44は、例えば、回生制動可能に構成されてもよい。
【0067】
・モータ42は、後輪14Aおよび前輪14Bの少なくとも1つに設けられてもよい。後輪14Aおよび前輪14Bの少なくとも1つにモータ42を設ける場合、モータ42は、ハブモータおよびミッドシップモータを含んでもよい。後輪14Aにモータ42が設けられる場合、モータ42は、好ましくは、入力部52またはリアスプロケット26Aに接続される。後輪14Aおよび前輪14Bにモータ42が設けられる場合、出力部54の回転がリアスプロケット26Aよりもクランク12側に伝達されないようにワンウェイクラッチが設けられてもよい。
【0068】
・内装変速機50は、クランク軸12Aまわりに設けられてもよい。この場合、入力部52は、例えば、合力部38または合力部38と一体に回転する部材であり、出力部54は、フロントスプロケット24Aまたはフロントスプロケット24Aと一体に回転する部材である。人力駆動車10から合力部38を省略し、モータ42がクランク軸12Aに回転を伝達するように構成されてもよい。この場合、入力部52は、例えば、クランク軸12Aまたはクランク軸12Aと一体に回転する部材であり、出力部54は、フロントスプロケット24Aまたはフロントスプロケット24Aと一体に回転する部材である。
【0069】
本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」または「2つの選択肢の双方」を意味する。他・の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」または「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0070】
10…人力駆動車、12…クランク、12A…クランク軸、40…変速システム、42…モータ、44…発電機、46…バッテリ、50…内装変速機、52…入力部、54…出力部、54A…ハブシェル、56…変速機構、58…第1切替機構、60…変速切替機構、68…キャリア、70…遊星歯車機構、82…太陽ギア、88…増速機構、94…係合部、96…転動体、98…保持部、100…溝、102…付勢部材、104…第2切替機構。