IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-露光装置、及び物品の製造方法 図1
  • 特許-露光装置、及び物品の製造方法 図2
  • 特許-露光装置、及び物品の製造方法 図3
  • 特許-露光装置、及び物品の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】露光装置、及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 9/00 20060101AFI20240527BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240527BHJP
   H01L 21/68 20060101ALI20240527BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G03F9/00 H
G03F7/20 521
G03F7/20 501
H01L21/68 K
H01L21/68 F
G01B11/00 G
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020153580
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047669
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅教
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-266397(JP,A)
【文献】特開平09-166415(JP,A)
【文献】特開2008-145203(JP,A)
【文献】特表2002-543372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24
G03F 9/00-9/02
H01L 21/68
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原版に形成されたパターンを基板に転写するように前記基板を露光する露光装置であって、
第1の方向に垂直な第1の反射面が配置されていると共に、前記基板及び前記原版の一方を保持しながら前記第1の方向において所定の周波数で往復移動する第1のステージと、
前記第1の反射面に向けて第1の計測光を射出した後に前記第1の反射面によって反射された前記第1の計測光を受光することによって、前記第1のステージの前記第1の方向における位置を計測する第1の計測部と、
前記第1の方向に垂直な第2の反射面が配置されていると共に、前記基板及び前記原版の他方を保持する第2のステージと、
前記第2の反射面に向けて第2の計測光を射出した後に前記第2の反射面によって反射された前記第2の計測光を受光することによって、前記第2のステージの前記第1の方向における位置を計測する第2の計測部と、
前記第2のステージに比べて前記第1のステージに近接して配置されていると共に、内部を伝搬する第3の計測光の波長を計測する第3の計測部と、
前記第3の計測部による計測結果と前記所定の周波数とに基づいて、前記第2の計測部の計測結果を補正する制御部と、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記第2のステージは、前記第1のステージが前記第1の方向の一方の向きに移動する際には他方の向きに移動するように、前記第1の方向において前記所定の周波数で往復移動することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記第1の計測光及び前記第3の計測光それぞれの波長は、前記第1のステージの移動に応じて変化し、前記第2の計測光の波長は、前記第2のステージの移動に応じて変化することを特徴とする請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第3の計測部によって計測された前記第3の計測光の波長の時間変化をローパスフィルタ、バンドパスフィルタ及びハイパスフィルタの少なくとも一つに入力することによって、前記第3の計測光の波長の時間変化のうち所定の周波数領域の成分を取得することを特徴とする請求項2または3に記載の露光装置。
【請求項5】
前記第1のステージ及び前記第2のステージはそれぞれ、前記基板を露光する際に前記第1の方向において前記所定の周波数で往復するように複数の走査移動を行い、
前記所定の周波数領域は、前記所定の周波数に応じて決定されることを特徴とする請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
前記所定の周波数より高い第1のカットオフ周波数を有する第1のローパスフィルタと、
前記所定の周波数より低い第2のカットオフ周波数を有する第2のローパスフィルタと、
を備え、
前記制御部は、前記第3の計測部によって計測された前記第3の計測光の波長の時間変化を該第1のローパスフィルタ及び該第2のローパスフィルタそれぞれに入力することによって、前記第3の計測光の波長の時間変化のうち第1の周波数領域の成分及び第2の周波数領域の成分を取得することを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記第1の周波数領域の成分をλ lpf_high(t)、前記第2の周波数領域の成分をλ lpf_low(t)、所定の係数をa、前記第2の計測光の波長の時間変化をλ(t)としたとき、
前記制御部は、
λ(t)=λ lpf_low(t)-a(λ lpf_high(t)-λ lpf_low(t))
なる式が満たされるように前記第2の計測光の波長を補正することによって、前記第2の計測部の計測結果を補正することを特徴とする請求項6に記載の露光装置。
【請求項8】
前記aの値は、前記第1のステージの前記走査移動における最大速度に対する前記第2のステージの前記走査移動における最大速度の比から決定されることを特徴とする請求項7に記載の露光装置。
【請求項9】
前記第1の計測光の波長の時間変化をλ(t)としたとき、
前記制御部は、
λ(t)=λ lpf_high(t)
なる式が満たされるように、前記第1の計測光の波長を補正することによって、前記第1の計測部の計測結果を補正することを特徴とする請求項7または8に記載の露光装置。
【請求項10】
原版に形成されたパターンを基板に転写するように前記基板を露光する露光装置であって、
第1の方向に垂直な第1の反射面と前記第1の方向に垂直な第2の方向に垂直な第2の反射面とが配置されており、前記基板を保持しながら前記第1の方向において所定の周波数で往復移動する基板ステージと、
前記第1の反射面に向けて第1の計測光を射出した後に前記第1の反射面によって反射された前記第1の計測光を受光することによって、前記基板ステージの前記第1の方向における位置を計測する第1の計測部と、
前記第2の反射面に向けて第2の計測光を射出した後に前記第2の反射面によって反射された前記第2の計測光を受光することによって、前記基板ステージの前記第2の方向における位置を計測する第2の計測部と、
前記第2の反射面に比べて前記第1の反射面に近接して配置されていると共に、内部を伝搬する第3の計測光の波長を計測する第3の計測部と、
前記第3の計測部による計測結果と前記所定の周波数とに基づいて、前記第2の計測部の計測結果を補正する制御部と、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項11】
前記基板ステージは、前記基板を露光する際に、前記第1の方向において前記所定の周波数で往復するように複数の走査移動を行うと共に、前記第2の方向において複数のステップ移動を行うことを特徴とする請求項10に記載の露光装置。
【請求項12】
前記第1の計測光及び前記第3の計測光それぞれの波長は、前記基板ステージの前記走査移動に応じて変化することを特徴とする請求項11に記載の露光装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記第3の計測部によって計測された前記第3の計測光の波長の時間変化をローパスフィルタ、バンドパスフィルタ及びハイパスフィルタの少なくとも一つに入力することによって、前記第3の計測光の波長の時間変化のうち所定の周波数領域の成分を取得することを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項14】
前記所定の周波数領域は、前記所定の周波数よりも低い周波数領域であることを特徴とする請求項13に記載の露光装置。
【請求項15】
前記所定の周波数より低いカットオフ周波数を有するローパスフィルタを備え、
前記制御部は、前記第3の計測部によって計測された前記第3の計測光の波長の時間変化を該ローパスフィルタに入力することによって、前記所定の周波数領域の成分を取得することを特徴とする請求項13または14に記載の露光装置。
【請求項16】
前記所定の周波数領域の成分をλ lpf_low(t)、前記第2の計測光の波長の時間変化をλ(t)としたとき、
前記制御部は、
λ(t)=λ lpf_low(t)
なる式が満たされるように前記第2の計測光の波長を補正することによって、前記第2の計測部の計測結果を補正することを特徴とする請求項15に記載の露光装置。
【請求項17】
前記第1の計測部は、前記第1の反射面によって反射された前記第1の計測光と第1の参照光との干渉から前記第1の計測部と前記第1の反射面との間の距離を計測する第1の干渉計であり、
前記第2の計測部は、前記第2の反射面によって反射された前記第2の計測光と第2の参照光との干渉から前記第2の計測部と前記第2の反射面との間の距離を計測する第2の干渉計であることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項18】
前記第3の計測部は、所定の空間内を伝搬する前記第3の計測光による所定の対象に対する計測結果と真空空間内を伝搬する第4の計測光による前記所定の対象に対する計測結果とを比較することによって、前記第3の計測光の波長を計測する波長トラッカであることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか一項に記載の露光装置を用いて前記基板を露光する工程と、
露光された前記基板を現像する工程と、
現像された前記基板から物品を製造する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項20】
第1の方向に垂直な第1の反射面が配置されていると共に、基板及び原版の一方を保持しながら前記第1の方向において所定の周波数で往復移動する第1のステージと、前記第1の方向に垂直な第2の反射面が配置されていると共に、前記基板及び前記原版の他方を保持する第2のステージとを備える、前記原版に形成されたパターンを前記基板に転写するように前記基板を露光する露光装置において前記第1のステージ及び前記第2のステージそれぞれの位置を計測する方法であって、
前記第1の反射面に向けて第1の計測光を射出した後に前記第1の反射面によって反射された前記第1の計測光を受光することによって、前記第1のステージの前記第1の方向における位置を計測する第1の計測ステップと、
前記第2の反射面に向けて第2の計測光を射出した後に前記第2の反射面によって反射された前記第2の計測光を受光することによって、前記第2のステージの前記第1の方向における位置を計測する第2の計測ステップと、
前記第2のステージに比べて前記第1のステージに近接した空間を伝搬する第3の計測光の波長を計測する第3の計測ステップと、
前記第3の計測ステップにおける計測結果と前記所定の周波数とに基づいて、前記第2の計測ステップにおける計測結果を補正する補正ステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置においては、ステージの位置を高精度に計測することで露光性能を向上させることが求められている。
そして、干渉計を用いてステージの位置を計測する際には、ステージに向けて射出する計測光の波長の変化に注意する必要がある。
【0003】
すなわち、計測光が伝搬する空間の温度、湿度又は気圧等の環境が変化すると、それに伴い空間の屈折率が変化することで計測光の波長が変化してしまうため、干渉計によってステージの位置を計測する際に誤差が生じてしまう。
特許文献1は、空気振動源から干渉計の光路及び波長検出器それぞれまでの距離の間の差に基づいて干渉計からの計測光の波長を補正することによって、空気振動源からの音波の影響に伴う干渉計による計測値の変化を補正する露光装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-145203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、基板を露光する際にステージを往復移動させる露光装置では、干渉計から射出されるステージの位置を計測するための計測光が伝搬する空間の環境、特に気圧が時間変化することで、空間の屈折率ひいては計測光の波長が時間変化してしまう。
一方、特許文献1に開示されている露光装置では、空気振動源から干渉計の光路までの距離に基づいて計測光の波長を補正しており、そのようなステージの移動に伴う計測光の波長の時間変化については考慮していない。
そこで本発明は、ステージの移動を考慮してステージの位置の計測結果を補正することで露光性能を向上させることができる露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る露光装置は、原版に形成されたパターンを基板に転写するように基板を露光する露光装置であって、第1の方向に垂直な第1の反射面が配置されていると共に、基板及び原版の一方を保持しながら第1の方向において所定の周波数で往復移動する第1のステージと、第1の反射面に向けて第1の計測光を射出した後に第1の反射面によって反射された第1の計測光を受光することによって、第1のステージの第1の方向における位置を計測する第1の計測部と、第1の方向に垂直な第2の反射面が配置されていると共に、基板及び原版の他方を保持する第2のステージと、第2の反射面に向けて第2の計測光を射出した後に第2の反射面によって反射された第2の計測光を受光することによって、第2のステージの第1の方向における位置を計測する第2の計測部と、第2のステージに比べて第1のステージに近接して配置されていると共に、内部を伝搬する第3の計測光の波長を計測する第3の計測部と、第3の計測部による計測結果と所定の周波数とに基づいて、第2の計測部の計測結果を補正する制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステージの移動を考慮してステージの位置の計測結果を補正することで露光性能を向上させることができる露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施形態に係る露光装置の一部拡大模式的断面図。
図2】第一実施形態に係る露光装置における計測光の波長の時間変化を模式的に示した図。
図3】第一実施形態に係る露光装置において計測光の波長の時間変化に含まれる所定の周波数領域の成分を取得する処理を示したフローチャート。
図4】第二実施形態に係る露光装置の一部拡大模式的上面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本実施形態に係る露光装置を添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す図面は、本実施形態を容易に理解できるようにするために、実際とは異なる縮尺で描かれている。
また以下では、基板ステージの基板載置面に垂直な方向をz方向、基板載置面内において互いに直交する(垂直な)二つの方向をそれぞれx方向及びy方向と定義する。
【0010】
[第一実施形態]
露光装置に設けられているステージの位置決め精度の向上は、露光性能に直結するため極めて重要である。
そして、ステージの位置決め精度を向上させるためには、干渉計等のステージの位置を計測するための手段の計測精度を向上させることが求められる。
【0011】
また、計測光が伝搬する空間の環境が変化することによって計測光の波長が変化すると、干渉計の計測結果において誤差が生じる。
そして従来、そのような誤差を補正する手段として、真空空間を伝搬した参照光及び所定の空間を伝搬した計測光それぞれの波長を比較することで、所定の空間の環境の変化に伴う計測光の波長の変化量を検出することができる波長トラッカが用いられる。
【0012】
一般的に、波長トラッカのサイズは大きいため、干渉計からの計測光が伝搬する光路の近傍に配置することができない場合がある。
また、露光装置においては、基板を保持して移動する基板ステージと原版を保持して移動する原版ステージとが設けられている。
そのため、各ステージに波長トラッカを設けようとすると、コスト、工数及びサイズが増大してしまう。
【0013】
そこで本実施形態は、コスト、工数及びサイズの増大を抑制しつつ、ステージの位置の計測誤差を高精度に補正することでステージの位置決め精度を向上させることができる、露光装置を提供する事を目的としている。
具体的には、本実施形態によれば、以下に示すように基板ステージが設けられている空間に近接して配置された波長トラッカによる計測結果を用いて、原版ステージの位置を計測するための計測光が伝搬する空間の環境の変化を推測する。
そして、当該計測光の波長の変化量を推測し、推測された波長の変化量に基づいて原版ステージの位置の計測結果を補正することで、ステージの位置決め精度の向上を実現している。
【0014】
より具体的には、露光装置に設けられている基板ステージや原版ステージ等のステージの位置を計測するために、干渉計を用いた測長システムが採用されている。
干渉計を用いた測長システムは、計測光の波長に基づいて位置計測を行っている。
【0015】
そのため、ステージの位置を計測する際に計測光が伝搬する空間の環境、すなわち温度、湿度又は気圧等の変化に応じて空間内の気体、すなわち空気の屈折率が変化すると、伝搬する計測光の波長が変化する。
この場合、ステージの位置の計測結果において誤差が発生することで、ステージの位置決め精度が低下してしまう。
従って、露光装置に設けられる干渉計を用いた測長システムでは、計測光の波長の変化に応じて、計測値を補正する必要がある。
【0016】
干渉計における計測光の波長を補正する方法としては、計測光が伝搬する経路の環境、すなわち温度、湿度や気圧の大きさを検出し、検出した結果から計測光が伝搬する経路における屈折率の変化を算出する方法がある。
また、そのような方法の一例として、真空空間内を伝搬する参照光と所定の空間内を伝搬する計測光とのそれぞれによって同一の計測対象の位置を計測し、双方の計測値を比較することによって、所定の空間内の屈折率を算出する方法がある。
【0017】
このような補正方法は、波長トラッカ又は波長コンペンセータと呼称される、干渉計を用いた測長システムのメーカから提供される装置において用いられている。
ここで、所定の空間を伝搬する計測光の波長をλ、真空空間内を伝搬する参照光の波長をλ、所定の空間の屈折率をnとすると、以下の式(1)が満たされる。
λ=λ/n ・・・(1)
【0018】
すなわち、波長トラッカは、所定の空間内の屈折率nを計測することができ、所定の空間内の屈折率nを把握することによって、計測光の波長λを算出することができる。
そして上記のように、干渉計は、計測光の波長及び位相に基づいて位置を計測するためのセンサであることから、計測光の波長が変化すると位置の計測結果において誤差が発生する。
そのため、計測光の波長を正確に算出することができれば、干渉計による位置の計測結果における誤差を補正することができる。
【0019】
図1(a)及び(b)は、第一実施形態に係る露光装置100の一部拡大模式的断面図を示している。
【0020】
図1(a)及び(b)に示されているように、本実施形態に係る露光装置100は、基板ステージ1(第1のステージ)、原版ステージ11(第2のステージ)及び投影光学系13を備えている。
そして本実施形態に係る露光装置100では、不図示の光源からの露光光を用いて不図示の原版に形成されたパターンを不図示の基板に転写するように露光を行うことができる。
ここで、保持部15によって保持されている投影光学系13は、不図示の原版を通過した露光光を不図示の基板上に導光する。
【0021】
また本実施形態に係る露光装置100では、以下に示すように干渉計を用いた測長システムを利用して基板ステージ1及び原版ステージ11それぞれの位置を計測している。
【0022】
基板ステージ1は、不図示のウエハ等の基板を保持して少なくともy方向(第1の方向)において走査移動すると共に、x方向においてステップ移動することができる。
そして、基板ステージ1上には基板ステージ1のy方向における位置を計測するためのミラー2(第1の反射面)が配置されており、干渉計3(第1の計測部、第1の干渉計)とミラー2との間で位置計測用の計測光30(測長ビーム、第1の計測光)が伝搬する。
【0023】
すなわち干渉計3は、ミラー2に向けて計測光30を射出した後にミラー2によって反射された計測光30を受光する。
そして、ミラー2によって反射された計測光30と不図示の参照光(第1の参照光)との干渉から干渉計3とミラー2との間の距離を計測する。
【0024】
次に干渉計3からは、ミラー2によって反射された計測光30と不図示の参照光とを互いに干渉させることで得られる干渉光4が光ピックアップ5へ射出される。
そして光ピックアップ5は、干渉光4を受光した後、光ファイバ6を介して干渉光4を信号処理基板8へ出力する。
そして信号処理基板8は、入力された干渉光4を光電変換することで、基板ステージ1のy方向における位置を算出する。
【0025】
また信号処理基板8には、空間の屈折率を検出するための波長トラッカ9(第3の計測部)から出力された計測光が光ファイバ37を介して入力される。
上記のように、波長トラッカ9は、真空空間内を伝搬する計測光(第4の計測光)と所定の空間内を伝搬する計測光(第3の計測光)とのそれぞれによって同一の計測対象の位置を計測し、双方の計測値を比較することによって所定の空間内の屈折率を算出する。
換言すると、波長トラッカ9は、原版ステージ11に比べて基板ステージ1に近接して配置されており、内部を伝搬する計測光の波長を計測することで、基板ステージ1が設けられている空間の屈折率を算出することができる。
【0026】
そして信号処理基板8は、波長トラッカ9によって取得された基板ステージ1が設けられている空間の屈折率の計測値をケーブル21を介して波長補正手段20(制御部)に伝送する。
その後、波長補正手段20は、信号処理基板8から伝送された屈折率の値から、基板ステージ1が設けられている空間内を伝搬する計測光30の波長の変化量をリアルタイムに算出する。
そして波長補正手段20は、算出された計測光30の波長の変化量を用いて基板ステージ1のy方向における位置の計測結果を補正する。
【0027】
また本実施形態に係る露光装置100では、上記と同様の方法を用いて、不図示の原版を保持してy方向に走査移動する原版ステージ11のy方向における位置も計測している。
【0028】
すなわち、図1(a)及び(b)に示されているように、原版ステージ11上に設けられたミラー12(第2の反射面)と干渉計33(第2の計測部、第2の干渉計)との間で位置計測用の計測光31(測長ビーム、第2の計測光)が伝搬する。
換言すると、干渉計33は、ミラー12に向けて計測光31を射出した後にミラー12によって反射された計測光31を受光することによって、原版ステージ11のy方向における位置を計測する。
【0029】
そして干渉計33からは、ミラー12によって反射された計測光31と不図示の参照光(第2の参照光)とを互いに干渉させることで得られる干渉光34が光ピックアップ35へ射出される。
次に光ピックアップ35は、干渉光34を受光した後、光ファイバ36を介して干渉光34を信号処理基板8へ出力する。
【0030】
そして信号処理基板8は、入力された干渉光34を光電変換することで、原版ステージ11のy方向における位置を算出する。
【0031】
次に、本実施形態に係る露光装置100において原版ステージ11のy方向における位置の計測結果を補正する方法について説明する。
【0032】
露光装置において、原版ステージ11が配置されている空間及び基板ステージ1が配置されている空間それぞれに波長トラッカを設けることは、装置の大型化に繋がるため好ましくない。
そこで、従来の露光装置では原版ステージ11及び基板ステージ1それぞれが配置されている空間の環境、すなわち温度、湿度及び気圧は互いに同一であるという前提を置いている。
そして、それに基づき、基板ステージ1が配置されている空間に設けられた波長トラッカ9によって算出された屈折率の値を用いて、原版ステージ11の位置の計測結果を補正している。
【0033】
しかしながら、走査露光装置を用いて露光を行う場合には、一般的に基板ステージ1及び原版ステージ11はそれぞれ、互いに逆方向に走査移動する。
すなわち、図1(b)に示されているように、例えば基板ステージ1が+y方向に走査移動する場合には、原版ステージ11は-y方向に走査移動する。
換言すると、原版ステージ11は、基板ステージがy方向の一方の向きに移動する際には他方の向きに移動するように、y方向において基板ステージ1と同一の周波数fで往復移動する。
【0034】
そして、所定の空間における気圧は、当該空間内に設けられているステージが移動することによって生じる風圧に応じて変化する。
そのため、基板ステージ1が+y方向に走査移動することで基板ステージ1が設けられている空間の気圧が変化する一方で、原版ステージ11が-y方向に走査移動することで原版ステージ11が設けられている空間の気圧が変化する。
【0035】
具体的には、基板ステージ1が+y方向に走査移動した場合には、基板ステージ1のy方向における位置を計測するための計測光30が伝搬する空間内の空気は膨張するため、当該空間の気圧は減少する。
一方、基板ステージの+y方向への走査移動と同期して、原版ステージ11が-y方向に走査移動すると、原版ステージ11のy方向における位置を計測するための計測光31が伝搬する空間内の空気は圧縮されるため、当該空間の気圧は増大する。
【0036】
また、不図示の基板上に形成されている複数のショット領域それぞれに対して露光を行うために基板ステージ1は周期的に+y方向の走査移動と-y方向の走査移動とを繰り返す。
一方で、原版ステージ11は基板ステージ1とは逆位相で-y方向の走査移動と+y方向の走査移動とを繰り返す。
【0037】
従って、計測光31が伝搬する空間内における気圧と、計測光30が伝搬する空間内における気圧とはそれぞれ、互いに逆位相であるように周期的に時間変化する。
加えて、一般的に原版ステージ11は基板ステージ1に比べて大きい速度で走査移動するため、原版ステージ11が設けられている空間における気圧の時間変化の振幅と、基板ステージ1が設けられている空間における気圧の時間変化の振幅とも互いに異なる。
【0038】
本実施形態に係る露光装置100では、上記の特徴を利用して、基板ステージ1が配置されている空間に設けられた波長トラッカ9によって算出された屈折率の値を用いて、原版ステージ11のy方向における位置の計測結果を以下のように補正する。
【0039】
図2(a)は、本実施形態に係る露光装置100において所定の基板を露光する際に波長トラッカ9によって計測される計測光の波長λの時間変化を模式的に示している。
なお、ここで波長トラッカ9によって計測される計測光の波長λの時間変化は、波長トラッカ9が設けられている空間の環境、すなわち温度、湿度又は気圧の変化に伴う当該空間の屈折率の時間変化と等価である。
また、波長トラッカ9は基板ステージ1が配置されている空間、すなわち計測光30が伝搬する空間に設けられていることから、図2(a)に示されている波長λの時間変化は、計測光30の波長の時間変化と考えることができる。
【0040】
本実施形態に係る露光装置100のように、露光装置内の空間の温度が精密に制御されている場合には、空間の屈折率の変化に対しては、当該空間の気圧の変動が支配的となる。
そして、基板ステージ1が走査移動する際に波長トラッカ9によって計測される計測光の波長の時間変化λ(t)は、以下の式(2)のように表すことができる。
λ(t)=λ low(t)+λ high(t) ・・・(2)
ここで、λ low(t)は大気圧の時間変化による成分、λ high(t)は基板ステージ1が走査移動する際に生じる風圧の時間変化による成分である。
【0041】
ここでλ high(t)は、基板の複数のショット領域を露光する際に基板ステージ1が所定の周波数で往復して行う複数回の走査移動に従って時間変化すると考えられる。
すなわち、例えば基板ステージ1の走査移動の周波数がf[Hz]であった場合、λ high(t)も周波数f[Hz]で変化する。
このときλ high(t)は、以下の式(3)のように表される。
【数1】
すなわち、時刻tがtからtまでの間に基板ステージ1が複数回の走査移動を行うことに伴って、λ high(t)は、振幅M及び周波数fで時間変化する正弦関数で表すことができる。
【0042】
一方、大気圧は非常に低い周波数で時間変化するため、λ low(t)は基板ステージ1の走査移動の周波数fに比べて十分低い周波数で時間変化すると考える。
【0043】
以上から、波長トラッカ9によって計測される計測光の波長λは、図2(a)に示されているように時間変化すると考えることができる。
なお、波長トラッカ9によって計測される計測光の波長の時間変化λ(t)のうち、基板ステージ1の走査移動によって変動する成分λ high(t)の周期Tは、走査移動の周波数fが5Hzであった場合には、T=1/f=0.2秒となる。
【0044】
そして、上記のように基板ステージ1及び原版ステージ11はそれぞれ、互いに逆方向に走査移動する。
そのため、計測光31が伝搬する空間内における気圧の時間変化と、計測光30が伝搬する空間内における気圧の時間変化とは、互いに逆位相となる。
【0045】
従って、原版ステージ11が配置されている空間に波長トラッカを設けた場合、当該波長トラッカによって計測される計測光の波長の時間変化、すなわち計測光31の波長の時間変化は、計測光30の波長の時間変化に対して逆位相になると考えられる。
また、原版ステージ11の走査移動速度と基板ステージ1の走査移動速度とも互いに異なるため、計測光31の波長の時間変化の振幅と計測光30の波長の時間変化の振幅とも互いに異なると考えられる。
【0046】
以上を考慮すると、計測光31の波長の時間変化λ(t)は、以下の式(4)のように表すことができる。
λ(t)=λ low(t)+λ high(t) ・・・(4)
ここで、λ high(t)は、
【数2】
であり、aは基板ステージ1の走査移動における最大速度に対する原版ステージ11の走査移動における最大速度の比に伴う係数(所定の係数)である。
一方、大気圧の時間変化は、原版ステージ11が配置されている空間と基板ステージ1が配置されている空間とで互いに等しいと考えられるため、以下の式(5)が満たされると考えることができる。
λ low(t)=λ low(t) ・・・(5)
【0047】
以上より、計測光31の波長の時間変化λ(t)は、以下の式(6)のように書き直すことができる。
λ(t)=λ low(t)-aλ high(t) ・・・(6)
図2(b)は、本実施形態に係る露光装置100において上記に示した方法によって求められた計測光31の波長の時間変化λ(t)を示している。
【0048】
以上のように、干渉計3からの計測光30及び波長トラッカ9における計測光それぞれの波長は、基板ステージ1の移動に応じて変化する一方で、干渉計33からの計測光31の波長は、原版ステージ11の移動に応じて変化する。
そして、基板ステージ1が配置されている空間に設けられた波長トラッカ9によって計測された値から、原版ステージ11のy方向における位置を計測するための干渉計33からの計測光31が伝搬する空間の気圧の時間変化を推測する。
【0049】
そして、計測光31の波長の時間変化を推測し、干渉計33によって得られた原版ステージ11のy方向における位置の計測結果を補正する。
これにより、原版ステージ11が配置されている空間に波長トラッカを設けること無く、干渉計33による原版ステージ11のy方向における位置の計測精度を向上することができる。
【0050】
次に、波長トラッカ9によって計測される計測光の波長の時間変化λ(t)からλ low(t)及びλ high(t)を互いに分離する方法について説明する。
【0051】
図3は、本実施形態に係る露光装置100において波長トラッカ9によって計測される計測光の波長の時間変化λ(t)からλ low(t)及びλ high(t)を互いに分離する処理のフローチャートを示している。
【0052】
まず、波長トラッカ9によって計測される計測光の波長の時間変化λ(t)からノイズ成分を除去するために、波長トラッカ9からの出力を不図示の第1のローパスフィルタに入力する(ステップS1)。
このとき、基板ステージ1の走査移動の周波数fより十分高い周波数で時間変化するノイズ成分は除去される一方で、周波数fに応じて時間変化する成分λ high(t)は、正確に抽出される必要がある。
【0053】
そのため、第1のローパスフィルタのカットオフ周波数は、基板ステージ1の走査移動の周波数fより大きい値に設定する。
すなわち、基板ステージ1のy方向の位置を計測するための計測光30の波長の時間変化λ(t)は、以下の式(7)のように表すことができる。
λ(t)=λ lpf_high(t) ・・・(7)
【0054】
また、基板ステージ1の走査移動の周波数fは、基板ステージ1の走査移動における速度やストロークに依存するため、第1のローパスフィルタのカットオフ周波数は、これらに応じて変化させることができる。
換言すると、第1のローパスフィルタのカットオフ周波数、すなわち第1のローパスフィルタによって選択される所定の周波数領域は、基板ステージ1の走査移動の周波数fに応じて決定される。
そして、このときの第1のローパスフィルタの出力値をλ lpf_high(t)と表すこととする。
【0055】
次に、上記のようにλ low(t)は基板ステージ1の走査移動の周波数fに比べて十分に低い周波数で時間変化する成分である。
従って、波長トラッカ9によって計測される計測光の波長の時間変化λ(t)からλ low(t)を抽出するために、波長トラッカ9からの出力を、周波数fより十分低いカットオフ周波数を有する第2のローパスフィルタに入力する(ステップS2)。ここで、周波数fより十分低いカットオフ周波数とは、例えば0.1Hzである。
そして、このときの第2のローパスフィルタの出力値をλ lpf_low(t)と表すこととする。
【0056】
以上より、λ low(t)は、第2のローパスフィルタの出力値λ lpf_low(t)と以下の式(8)に表されるように対応付けることができる。
λ low(t)=λ lpf_low(t) ・・・(8)
また、λ high(t)は、第1のローパスフィルタ及び第2のローパスフィルタそれぞれの出力値λ lpf_high(t)及びλ lpf_low(t)と以下の式(9)に表されるように対応付けることができる。
λ high(t)=λ lpf_high(t)-λ lpf_low(t) ・・・(9)
このように式(8)及び(9)に基づいて、λ lpf_high(t)及びλ lpf_low(t)からλ low(t)及びλ high(t)を取得することができる(ステップS3)。
【0057】
そして、計測光31の波長の時間変化λ(t)は、式(6)に式(8)及び式(9)を代入することによって、以下の式(10)のように表すことができる。
λ(t)=λ lpf_low(t)-a(λ lpf_high(t)-λ lpf_low(t)) ・・・(10)
【0058】
ここで、式(10)に含まれる係数aの値は、原版ステージ11及び基板ステージ1それぞれの走査移動における最大速度の間の比で決定されるが、これに限らずオーバーレイ精度が改善するような所定の値に決定しても構わない。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る露光装置100では、干渉計3によって基板ステージ1のy方向における位置を計測する(第1の計測ステップ)と共に、干渉計33によって原版ステージ11のy方向における位置を計測する(第2の計測ステップ)。
そして、波長トラッカ9によって計測光の波長を計測し(第3の計測ステップ)、波長トラッカ9によって計測された計測光の波長の時間変化をローパスフィルタに入力することによって、当該計測光の波長の時間変化のうち所定の周波数領域の成分を取得する。
具体的には、波長トラッカ9で計測された計測光の波長の時間変化を、走査移動の周波数fより高い第1のカットオフ周波数を有する第1のローパスフィルタと、周波数fより低い第2のカットオフ周波数を有する第2のローパスフィルタとのそれぞれに入力する。それにより、波長トラッカ9によって計測された計測光の波長の時間変化のうち第1の周波数領域の成分及び第2の周波数領域の成分をそれぞれ取得する。
すなわち、本実施形態に係る露光装置100では、波長トラッカ9の計測値λ(t)から所定の周波数領域の成分λ lpf_high(t)及びλ lpf_low(t)をそれぞれ抽出する。また、それらの間の差に対してゲインaを乗じる。
【0060】
そして、原版ステージ11のy方向における位置を計測するための干渉計33の計測光31の波長の時間変化λ(t)を算出し、その結果を用いて原版ステージ11のy方向における位置の計測値を補正する(補正ステップ)。
すなわち本実施形態に係る露光装置100では、波長補正手段20が、波長トラッカ9による計測結果と基板ステージ1の走査移動における周波数fとに基づいて、干渉計33による原版ステージ11のy方向における位置の計測結果を補正する。
これにより、原版ステージ11のy方向における位置を計測するための干渉計33の計測値を高精度に補正することができる。
【0061】
なお本実施形態に係る露光装置100では、ローパスフィルタを用いて波長トラッカ9の計測値λ(t)から所定の周波数領域の成分λ lpf_high(t)及びλ lpf_low(t)をそれぞれ抽出しているが、これに限られない。
例えば、移動平均フィルタ、バンドパスフィルタ又はハイパスフィルタ等を用いて、波長トラッカ9の計測値λ(t)から所定の周波数領域の成分を抽出しても構わない。
【0062】
[第二実施形態]
図4は、第二実施形態に係る露光装置200の一部拡大模式的上面図を示している。
図4に示されているように、本実施形態に係る露光装置200では、基板ステージ1のy方向(第1の方向)における位置を計測するためのミラー2(第1の反射面)が基板ステージ1上に配置されている。
【0063】
そして、干渉計3(第1の計測部、第1の干渉計)とミラー2との間で位置計測用の計測光30(測長ビーム、第1の計測光)が伝搬する。
すなわち干渉計3は、ミラー2に向けて計測光30を射出した後にミラー2によって反射された計測光30を受光することによって、基板ステージ1のy方向における位置を計測する。
【0064】
次に干渉計3からは、計測光30と不図示の参照光(第1の参照光)とを互いに干渉させることで得られる干渉光4が光ピックアップ5へ射出される。
そして光ピックアップ5は、干渉光4を受光した後、光ファイバ6を介して干渉光4を信号処理基板8へ出力する。
そして信号処理基板8は、入力された干渉光4を光電変換することで、基板ステージ1のy方向における位置を算出する。
【0065】
また信号処理基板8には、所定の空間の屈折率を検出するための波長トラッカ9から出力された計測光が光ファイバ37を介して入力される。
そして信号処理基板8は、波長トラッカ9によって取得された所定の空間内の屈折率の計測値をケーブル21を介して波長補正手段20に伝送する。
【0066】
その後、波長補正手段20は、信号処理基板8から伝送された屈折率の値から、所定の空間内を伝搬する計測光30の波長の変化量をリアルタイムに算出する。
そして波長補正手段20は、算出された計測光30の波長の変化量を用いて基板ステージ1のy方向における位置の計測結果を補正する。
【0067】
このとき、波長トラッカ9によって計測される計測光30の波長の時間変化λ(t)は、第一実施形態に係る露光装置100と同様に、以下の式(11)のように表すことができる。
λ(t)=λ low(t)+λ high(t) ・・・(11)
【0068】
ここで、λ high(t)は、以下の式(12)のように表される。
【数3】
すなわち、時刻tがtからtまでの間に基板ステージ1が複数回の走査移動を行うことに伴って、λ high(t)は、振幅M及び周波数fで時間変化する正弦関数で表すことができる。
そして、λ low(t)は大気圧の時間変化による成分であり、基板ステージ1の走査移動の周波数fに比べて十分低い周波数で時間変化すると考える。
【0069】
また、本実施形態に係る露光装置200では、基板ステージ1のx方向(第2の方向)における位置を計測するためのミラー12(第2の反射面)も基板ステージ1上に配置されている。
そして、干渉計33(第2の計測部、第2の干渉計)とミラー12との間で位置計測用の計測光31(測長ビーム、第2の計測光)が伝搬する。
すなわち干渉計33は、ミラー12に向けて計測光31を射出した後にミラー12によって反射された計測光31を受光することによって、基板ステージ1のx方向における位置を計測する。
【0070】
次に干渉計33からは、計測光31と不図示の参照光(第2の参照光)とを互いに干渉させることで得られる干渉光34が光ピックアップ35へ射出される。
そして光ピックアップ35は、干渉光34を受光した後、光ファイバ36を介して干渉光34を信号処理基板8へ出力する。
【0071】
また、波長トラッカ9(第3の計測部)は、ミラー12に比べてミラー2に近接して配置されており、内部を伝搬する計測光(第3の計測光)の波長を計測することで、干渉計3からの計測光30が伝搬する空間の屈折率を算出することができる。
【0072】
従来の露光装置では、例えば干渉計3が配置される空間に設けられた波長トラッカ9によって算出された屈折率の値をそのまま用いて、干渉計33による計測結果を補正している。
しかしながら、本実施形態に係る露光装置200のような走査露光装置では、基板ステージ1は、y方向において走査移動を行う一方で、x方向においてはステップ移動を行う。
すなわち、基板ステージ1において、x方向におけるステップ移動とy方向における走査移動とは互いに連動しておらず、独立に行われる。
【0073】
また、基板ステージ1において、x方向におけるステップ移動の際の速度及び加速度とy方向における走査移動の際の速度及び加速度とも互いに異なる。
そのため、y方向における走査移動の際の計測光30が伝搬する空間内の気圧の変動と、x方向におけるステップ移動の際の計測光31が伝搬する空間の気圧の変動も互いに異なることとなる。
【0074】
すなわち、干渉計3が配置される空間に設けられた波長トラッカ9によって計測される計測光の波長の時間変化を、干渉計33からの計測光31にそのまま適用して補正を行うと、x方向における位置に関して計測誤差が大きくなってしまう。
一方、大気圧の時間変化は、計測光30が伝搬する空間と計測光31が伝搬する空間とで互いに等しいと考えることができる。
【0075】
そこで、本実施形態に係る露光装置200では、計測光31の波長の時間変化λ(t)を以下の式(13)のように表すと共に、以下の式(14)に表される関係を利用する。
λ(t)=λ low(t) ・・・(13)
λ low(t)=λ low(t) ・・・(14)
【0076】
そして、周波数fより低いカットオフ周波数を有するローパスフィルタを用いて計測光30の波長の時間変化λ(t)からλ lpf_low(t)を抽出すると共に、
λ low(t)=λ lpf_low(t)
の関係及び式(14)に基づいてλ lpf_low(t)をλ low(t)として用いる。
【0077】
以上のように、本実施形態に係る露光装置200では、波長トラッカ9で計測された計測光の波長の時間変化を、周波数fより低いカットオフ周波数を有するローパスフィルタに入力する。それにより、波長トラッカ9によって計測された計測光の波長の時間変化のうち所定の周波数領域の成分を取得する。
すなわち、本実施形態に係る露光装置200では、波長トラッカ9の計測値λ(t)から大気圧の変動に伴う成分λ low(t)を抽出する。
【0078】
そして、基板ステージ1のx方向における位置を計測するための干渉計33からの計測光31の波長の時間変化λ(t)を算出し、その結果を用いて基板ステージ1のx方向における位置の計測値を補正する。
すなわち本実施形態に係る露光装置200では、波長補正手段20が、波長トラッカ9による計測結果と基板ステージ1のy方向における走査移動の周波数fとに基づいて、干渉計33による基板ステージ1のx方向における位置の計測結果を補正する。
これにより、基板ステージ1のx方向における位置の計測値を高精度に補正することができる。
【0079】
なお、波長トラッカ9の計測光の波長の時間変化には、x方向におけるステップ移動の際の計測光31が伝搬する空間の気圧の変動に応じた成分も含まれている可能性がある。
その場合には、波長トラッカ9からの出力をステップ移動の周波数に対応したバンドパスフィルタに入力し、x方向におけるステップ移動に伴う成分を抽出することで、干渉計33による基板ステージ1のx方向における位置の計測値を補正することもできる。
【0080】
また、本実施形態に係る露光装置200では、波長トラッカ9による計測結果と基板ステージ1のy方向における走査移動の周波数fとに基づいて、基板ステージ1のx方向における位置の計測結果を補正している。
しかしながら、これに限られず、波長トラッカ9による計測結果と基板ステージ1のy方向における走査移動の周波数fとに基づいて、基板ステージ1のz方向における位置の計測結果を補正しても構わない。
【0081】
[物品の製造方法]
次に、本実施形態に係る露光装置を用いた物品の製造方法について説明する。
半導体IC素子、液晶表示素子及びMEMS等の物品を製造する方法は、本実施形態に係る露光装置を用いて、感光剤が塗布されたウエハやガラス基板等の基板を露光する工程を含む。
また、上記方法は、露光された基板(感光剤)を現像する工程と、現像された基板を加工処理する他の周知の工程を含む。
【0082】
なお、ここでいう他の周知の工程には、エッチング、感光剤剥離、ダイシング、ボンディング及びパッケージング等が含まれる。
本実施形態に係る物品の製造方法によれば、従来よりも高品位の物品を製造することができる。
【0083】
以上、好ましい実施形態について説明したが、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 基板ステージ(第1のステージ)
2 ミラー(第1の反射面)
3 干渉計(第1の計測部)
9 波長トラッカ(第3の計測部)
11 原版ステージ(第2のステージ)
12 ミラー(第2の反射面)
20 波長補正手段(制御部)
33 干渉計(第2の計測部)
100 露光装置
図1
図2
図3
図4