(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/356 20140101AFI20240527BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240527BHJP
【FI】
B23K26/356
B23K26/00 N
(21)【出願番号】P 2020159831
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、高輝度・高効率次世代レーザー技術開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】壁谷 悠希
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】吉村 涼
(72)【発明者】
【氏名】渡利 威士
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-115853(JP,A)
【文献】特開2015-221918(JP,A)
【文献】特開平8-206869(JP,A)
【文献】特開2017-35712(JP,A)
【文献】特開2006-218541(JP,A)
【文献】特開2012-250275(JP,A)
【文献】特開2008-178888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面における対象エリアにレーザ光を照射することで、前記対象エリアに沿って前記対象物に圧縮残留応力を付与するレーザ加工方法であって、
単位面積当たりの前記レーザ光の強度の移動平均を大きくしつつ、前記対象エリアに対して前記レーザ光の照射スポットを走査する加工ステップを備える、レーザ加工方法。
【請求項2】
前記加工ステップにおいては、第1方向に延在すると共に前記第1方向に垂直な第2方向に並ぶ複数のラインのそれぞれに沿って前記レーザ光の照射スポットを移動させる処理を実施することで、前記対象エリアに対して前記レーザ光の照射スポットを走査し、
前記加工ステップにおいては、前記複数のラインのうちの少なくとも1本のラインごとに、単位面積当たりの前記レーザ光の強度を大きくすることで、前記移動平均を大きくする、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記加工ステップにおいては、前記処理として、前記第1方向における一方の側から他方の側に前記レーザ光の照射スポットを移動させる処理、及び前記第1方向における前記他方の側から前記一方の側に前記レーザ光の照射スポットを移動させる処理を交互に実施する、請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記加工ステップにおいては、前記対象エリアと交差する方向に沿って前記レーザ光の集光スポットの位置を移動することで、前記移動平均を大きくする、請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
単位面積当たりの前記レーザ光の強度を一定にしつつ、サンプルの表面におけるサンプルエリアに対して前記レーザ光の照射スポットを走査し、前記サンプルの表面に沿って前記サンプルに付与された圧縮残留応力を取得する準備ステップを更に備え、
前記加工ステップにおいては、前記サンプルに付与された前記圧縮残留応力に基づいて、単位面積当たりの前記レーザ光の強度の移動平均を大きくする、請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
対象物の表面における対象エリアにレーザ光を照射することで、前記対象エリアに沿って前記対象物に圧縮残留応力を付与するレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持する支持部と、
前記対象エリアに前記レーザ光を照射する照射部と、
前記支持部及び前記照射部の少なくとも1つの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、単位面積当たりの前記レーザ光の強度の移動平均が大きくなりつつ、前記対象エリアに対して前記レーザ光の照射スポットが走査されるように、前記支持部及び前記照射部の少なくとも1つの動作を制御する、レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対象物の表面に、レーザ光を吸収する吸収材料層を形成しつつ、吸収材料層にレーザ光を照射することで、対象物に圧縮残留応力を付与するレーザ加工方法が記載されている。特許文献1に記載のレーザ加工方法では、対象物に均一な圧縮残留応力を付与するために、吸収材料層の厚さが所定の厚さとなるように吸収材料層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザ加工方法のように、吸収材料層の厚さが所定の厚さとなるように吸収材料層を形成するだけでは、対象物の表面における対象エリアに沿って対象物に均一な圧縮残留応力を付与することは困難である。
【0005】
本発明は、対象物の表面における対象エリアに沿って対象物に付与される圧縮残留応力がばらつくのを抑制することができるレーザ加工方法及びレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ加工方法は、対象物の表面における対象エリアにレーザ光を照射することで、対象エリアに沿って対象物に圧縮残留応力を付与するレーザ加工方法であって、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均を大きくしつつ、対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを走査する加工ステップを備える。
【0007】
このレーザ加工方法では、対象物の表面における対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを走査することで、対象エリアに沿って対象物に圧縮残留応力を付与する。レーザ光の照射スポットの走査において、単位面積当たりのレーザ光の強度を一定とすると、レーザ光の照射スポットが走査されたエリアが対象エリアにおいて増えるほど、圧縮残留応力が付与され難くなる傾向があることが、実験的に確認された。そこで、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均を大きくしつつ、対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを走査する。これにより、単位面積当たりのレーザ光の強度を一定とした場合と比べて、対象物に付与される圧縮残留応力が低下することが抑制される。以上により、このレーザ加工方法によれば、対象物の表面における対象エリアに沿って対象物に付与される圧縮残留応力がばらつくのを抑制することができる。
【0008】
本発明のレーザ加工方法では、加工ステップにおいては、第1方向に延在すると共に第1方向に垂直な第2方向に並ぶ複数のラインのそれぞれに沿ってレーザ光の照射スポットを移動させる処理を実施することで、対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを走査し、加工ステップにおいては、複数のラインのうちの少なくとも1本のラインごとに、単位面積当たりのレーザ光の強度を大きくすることで、移動平均を大きくしてもよい。これにより、レーザ光の照射スポットの走査及び単位面積当たりのレーザ光の強度の制御を簡易且つ容易に実施することができる。
【0009】
本発明のレーザ加工方法では、加工ステップにおいては、上記処理として、第1方向における一方の側から他方の側にレーザ光の照射スポットを移動させる処理、及び第1方向における他方の側から一方の側にレーザ光の照射スポットを移動させる処理を交互に実施してもよい。これにより、対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを効率良く走査することができる。
【0010】
本発明のレーザ加工方法では、加工ステップにおいては、対象エリアと交差する方向に沿ってレーザ光の集光スポットの位置を移動することで、移動平均を大きくしてもよい。これにより、これにより、レーザ光の出力を調整しなくても、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均を大きくすることができる。
【0011】
本発明のレーザ加工方法では、単位面積当たりのレーザ光の強度を一定にしつつ、サンプルの表面におけるサンプルエリアに対してレーザ光の照射スポットを走査し、サンプル表面に沿ってサンプルに付与された圧縮残留応力を取得する準備ステップを更に備え、加工ステップにおいては、サンプルに付与された圧縮残留応力に基づいて、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均を大きくしてもよい。これにより、対象物に付与される圧縮残留応力がばらつくのをより確実に抑制することができる。
【0012】
本発明のレーザ加工装置は、対象物の表面における対象エリアにレーザ光を照射することで、対象エリアに沿って対象物に圧縮残留応力を付与するレーザ加工装置であって、対象物を支持する支持部と、対象エリアにレーザ光を照射する照射部と、支持部及び照射部の少なくとも1つの動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均が大きくなりつつ、対象エリアに対してレーザ光の照射スポットが走査されるように、支持部及び照射部の少なくとも1つの動作を制御する。
【0013】
このレーザ加工装置によれば、上述したレーザ加工方法と同様に、対象物の表面における対象エリアに沿って対象物に付与される圧縮残留応力がばらつくのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、対象物の表面に沿って付与される対象物の圧縮残留応力がばらつくのを抑制することができるレーザ加工方法及びレーザ加工装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態のレーザ加工装置の構成図である。
【
図3】一実施形態のレーザ加工方法のフローチャートである。
【
図4】一実施形態のレーザ加工方法を説明するためのサンプルの平面図である。
【
図5】一実施形態のレーザ加工方法を説明するための対象物の平面図である。
【
図6】一実施形態のレーザ加工方法によって照射するレーザ光の照射スポットの径を示すグラフである。
【
図7】実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって照射したレーザ光Lの強度を示すグラフである。
【
図8】比較例のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力の二次元分布を示す画像である。
【
図9】実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力の二次元分布を示す画像である。
【
図10】比較例、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力を示すグラフである。
【
図11】比較例、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力を示す表である。
【
図12】比較例のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力と補正係数(Z)とを示すグラフである。
【
図13】実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力と計算値とを示すグラフである。
【
図14】変形例1のサンプル照射強度及び対象物照射強度を示すグラフである。
【
図15】変形例2のレーザ加工方法を説明するための対象物の平面図である。
【
図16】変形例3のレーザ加工方法を説明するための対象物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置]
【0017】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、支持部2と、照射部3と、制御部4と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物10の表面10aにおける対象エリア11にレーザ光Lを照射することで、対象エリア11に沿って対象物10に圧縮残留応力を付与する装置である。つまり、レーザ加工装置1は、対象物10の表面10aにおける対象エリア11にレーザピーニング加工を施す装置である。以下の説明では、互いに直交する3方向をそれぞれX方向、Y方向及びZ方向という。本実施形態では、Z方向は第1水平方向であり、X方向は第1水平方向に垂直な第2水平方向であり、Y方向は鉛直方向である。
【0018】
支持部2は、対象物10の表面10aがZ方向に直交するように対象物10を支持する。支持部2は、例えば、対象物10を挟持するクランプ、ロボットアーム等を含んでいる。対象物10は、例えば、銅、アルミニウム、鉄、チタン等の金属材料からなる板状の部材である。レーザピーニング加工を施す時に、対象エリア11には、保護層Pが形成され、保護層Pの表面には閉じ込め層Cが形成される。保護層Pは、レーザ光Lの照射によって発生する熱から対象エリア11を保護するために当該熱を吸収する層である。保護層Pは、例えば、金属又は樹脂層である。閉じ込め層Cは、レーザ光Lの照射によって発生するプラズマの衝撃を対象物10に与えるために当該プラズマを閉じ込める層である。閉じ込め層Cは、例えば、保護層Pを覆うように供給される水である。
【0019】
照射部3は、支持部2によって支持された対象物10の表面10aにおける対象エリア11にレーザ光Lを照射する。照射部3は、レーザ光Lの集光スポットCSを対象エリア11に対して三次元的(X方向、Y方向及びZ方向)に移動させることで、レーザ光Lの照射スポットSを対象エリア11において二次元的(X方向及びY方向)に移動させる。集光スポットCSは、レーザ光Lにおいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度が最大になる領域である。レーザ光Lの照射スポットSは、対象エリア11におけるレーザ光Lの照射領域である。例えば、
図2の(a)に示されるように、集光スポットCSが対象エリア11上に位置させられる場合には、集光スポットCSが照射スポットSとなる。この場合、照射スポットSの径が最小になり、照射スポットSにおいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度が最大になる。
図2の(b)に示されるように、集光スポットCSが対象エリア11上からZ方向に沿って移動するほど、照射スポットSの径が大きくなり、照射スポットSにおいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度が小さくなる。
【0020】
図1に示される照射部3は、光源31と、光軸調整部32と、光軸調整レンズ33と、X軸可動ミラー34と、Y軸可動ミラー35と、対物レンズ36と、を有している。光源31は、レーザ光Lを出射する。光源31は、例えば、パルス発振方式によってレーザ光Lを出射する半導体レーザである。光軸調整部32は、光軸調整レンズ33を支持している。光軸調整部32は、光軸調整レンズ33をZ方向に沿って移動させることで、レーザ光Lの集光スポットCSをZ方向に沿って移動させる。X軸可動ミラー34は、レーザ光Lを反射するミラー面の傾きを調整することで、レーザ光Lの集光スポットCSをX方向に沿って移動させる。Y軸可動ミラー35は、レーザ光Lを反射するミラー面の傾きを調整することで、レーザ光Lの集光スポットCSをY方向に沿って移動させる。X軸可動ミラー34及びY軸可動ミラー35のそれぞれは、例えば、ガルバノミラーである。対物レンズ36は、レーザ光Lの集光スポットCSがZ方向に垂直な平面上に位置するように、レーザ光Lの集光スポットCSの位置を光学的に補正する。対物レンズ36は、例えばf・θレンズである。
【0021】
制御部4は、レーザ光Lの集光スポットCSが対象エリア11に対して所定の軌跡で三次元的に移動するように(換言すれば、レーザ光Lの照射スポットSが対象エリア11において所定の軌跡で二次元的に移動するように)、照射部3の動作を制御する。集光スポットCSが対象エリア11に対して所定の軌跡で三次元的に移動することで、照射スポットSが対象エリア11において所定の軌跡で二次元的に移動し、照射スポットSにおいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度が増減する。制御部4は、例えば処理部41と、記憶部42と、入力受付部43と、を有している。処理部41は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部41では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部42は、ハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部43は、オペレータから各種データの入力を受け付けるインターフェース部である。本実施形態では、入力受付部43は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
[レーザ加工方法]
【0022】
上述したレーザ加工装置1において実施されるレーザ加工方法について、
図3に示されるフローチャートに沿って説明する。当該レーザ加工方法は、対象物10の表面10aにおける対象エリア11にレーザ光Lを照射することで、対象エリア11に沿って対象物10に圧縮残留応力を付与する方法である。つまり、当該レーザ加工方法は、対象物10の表面10aにおける対象エリア11にレーザピーニング加工を施す方法である。本実施形態のレーザ加工方法では、以下に述べる準備ステップ及び加工ステップが実施される。
【0023】
まず、サンプル20(
図4参照)を準備し、サンプル20をレーザ加工装置1にセットする(
図3に示されるステップS01)。すなわち、サンプル20の表面20a(
図4参照)がZ方向と直交するように、サンプル20を支持部2に固定する。サンプル20がレーザ加工装置1にセットされると、サンプルエリア21(
図4参照)、レーザ光Lの照射条件等が制御部4によって設定される。本実施形態では、サンプル20は、対象物10と同一の材料からなり且つ対象物10と同一の形状を有する部材である。サンプルエリア21は、対象エリア11と同一の形状を有するエリアである。本実施形態では、
図4に示されるように、X方向における一方の側を第1側とし、X方向における他方の側を第2側とする。つまり、第1側及び第2側は、X方向において互いに対向する側である。また、Y方向における一方の側を第3側とし、Y方向における他方の側を第4側とする。つまり、第3側及び第4側は、Y方向において互いに対向する側である。一例として、サンプルエリア21は、X方向において対向する二辺、及びY方向において対向する二辺を有する矩形状のエリアである。
【0024】
続いて、サンプルエリア21に保護層Pが形成され且つ当該保護層Pの表面に閉じ込め層Cが形成された状態で、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を一定にしつつ、サンプル20の表面におけるサンプルエリア21に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査する(
図3に示されるステップS02、準備ステップ)ように、制御部4が照射部3を制御する。具体的には、
図4に示されるように、サンプルエリア21において、Y方向(第1方向)に延在すると共にX方向(第1方向に垂直な第2方向)に並ぶ複数のラインL1のそれぞれに沿ってレーザ光Lの照射スポットSを移動させる第1処理を実施することで、サンプルエリア21に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査する。本実施形態では、第1処理として、第3側から第4側に(第1方向における一方の側から他方の側に)レーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理、及び第4側から第3側に(第1方向における他方の側から一方の側に)レーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理を交互に実施する。なお、隣り合うラインL1の間隔は、X方向におけるレーザ光Lの照射スポットSの幅の1/2程度である。
【0025】
続いて、サンプル20の表面20aに沿ってサンプル20に付与された圧縮残留応力を取得する(
図3に示されるステップS03、準備ステップ)。本実施形態では、サンプル20に付与された圧縮残留応力を、作業者が、X線残留応力測定装置によって測定し、入力受付部43に入力する。
【0026】
続いて、補正係数(Z)を取得する(ステップS04)。この「補正係数(Z)」は、圧縮残留応力の付与し易さを示す係数である。本実施形態では、処理部41が、サンプル20に付与された圧縮残留応力に基づいて、補正係数(Z)を取得する。具体的には、サンプル20に付与された圧縮残留応力を、最初に照射スポットSを走査したエリアにおいてサンプル20に付与された圧縮残留応力で除算して、補正係数(Z)が算出される。
【0027】
続いて、サンプル20に一定の圧縮残留応力を付与することができる単位面積当たりのレーザ光Lの強度を取得する(ステップS05)。なお、以下の説明において「サンプル20に一定の圧縮残留応力を付与することができる単位面積当たりのレーザ光Lの強度」を「サンプル照射強度」と呼称する。本実施形態では、処理部41が、サンプル照射強度を取得する。処理部41は、サンプル照射強度を、以下の導出過程によって導出する。
【0028】
サンプル20に発生した塑性変形の量(以下、塑性変形量と呼称する)は、サンプル20に照射したレーザ光Lのパルス幅及びサンプル20に発生した衝撃波圧力に比例するため、下記の数式(1)の関係を満たす。
【数1】
【0029】
数式(1)におけるLpはサンプル20に発生した塑性変形量(μm)、πpはサンプル20に照射したレーザ光Lのパルス幅(ns)、Pはサンプル20に発生した衝撃波圧力(GPa)である。
【0030】
圧縮残留応力は、塑性ひずみ量(塑性変形量を部材の変形前の長さで除算した値)と相関があるため、サンプル20に付与された圧縮残留応力及びサンプル20の塑性変形量は、下記の数式(2)の関係で表すことができる。
【数2】
数式(2)におけるσはサンプル20に付与された圧縮残留応力(MPa)である。
【0031】
閉じ込め層Cを水にした場合、サンプル20に発生した衝撃波圧力は、サンプル20に照射したレーザ光Lのレーザ強度と下記の数式(3)の関係を満たす。
【数3】
数式(3)におけるIは単位面積当たりのレーザ光Lの強度(GW/cm
2)である。
【0032】
ここで、有効衝撃波圧力について下記の数式(4)の関係で表すことができる。この「有効衝撃波圧力」は、補正係数(Z)を考慮した衝撃波圧力である。
【数4】
数式(4)におけるP
1は有効衝撃波圧力(GPa)、Zは補正係数(Z)である。
【0033】
以上の数式(1)、数式(2)、数式(3)及び数式(4)によれば、補正係数(Z)に応じて単位面積当たりのレーザ光Lの強度を調整することで、サンプル20に付与される圧縮残留応力を一定にできる。つまり、補正係数(Z)に基づいて、サンプル照射強度が導出される。本実施形態では、以上の導出過程に基づいて、処理部41がサンプル照射強度を取得する。
【0034】
続いて、対象物10に一定の圧縮残留応力を付与することができる単位面積当たりのレーザ光Lの強度を取得する(ステップS06)。なお、以下の説明において「対象物10に一定の圧縮残留応力を付与することができる単位面積当たりのレーザ光Lの強度」を「対象物照射強度」と呼称する。具体的には、処理部41が、サンプル照射強度を、対象物照射強度に変換して取得する。本実施形態では、サンプルエリア21が対象エリア11と同一の形状を有するエリアであるため、処理部41は、サンプル照射強度が適用されるエリアを等倍に変換することで、対象物照射強度を取得する。処理部41が取得した対象物照射強度は、記憶部42に記憶される。
【0035】
続いて、対象物10を準備し、対象物10をレーザ加工装置1にセットする(ステップS07)。すなわち、
図1に示されるように、対象物10の表面10aがZ方向と直交するように、対象物10を支持部2に固定する。対象物10がレーザ加工装置1にセットされると、対象エリア11、レーザ光Lの照射条件等が制御部4によって設定される。本実施形態では、
図5に示されるように、X方向における一方の側を第1側とし、X方向における他方の側を第2側とする。つまり、第1側及び第2側は、X方向において互いに対向する側である。また、Y方向における一方の側を第3側とし、Y方向における他方の側を第4側とする。つまり、第3側及び第4側は、Y方向において互いに対向する側である。一例として、対象エリア11は、X方向において対向する二辺、及びY方向において対向する二辺を有する矩形状のエリアである。
【0036】
続いて、対象エリア11に保護層P(
図1参照)が形成され且つ当該保護層Pの表面に閉じ込め層C(
図1参照)が形成された状態で、サンプル20に付与された圧縮残留応力に基づいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくしつつ、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査する(
図3に示されるステップS08、加工ステップ)ように、制御部4が照射部3を制御する。この「移動平均」は、レーザ光Lの照射スポットSを走査した所定範囲において、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を平均した値である。本実施形態では、対象物照射強度に基づいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくしつつ、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査する。具体的には、
図5に示されるように、対象エリア11において、Y方向(第1方向)に延在すると共にX方向(第1方向に垂直な第2方向)に並ぶ複数のラインL1のそれぞれに沿ってレーザ光Lの照射スポットSを移動させる第2処理を実施する。制御部4は、対象物照射強度に基づいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を1本のラインL1ごとに大きくすることで、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくする。具体的には、1本のラインL1ごとに、レーザ光Lの集光スポットCSの位置をZ方向(対象エリア11と交差する方向)に沿って対象エリア11に近づけるように移動することで、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を大きくする。
【0037】
なお、本実施形態では、第2処理として、第3側から第4側に(第1方向における一方の側から他方の側に)レーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理、及び第4側から第3側に(第1方向における他方の側から一方の側に)レーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理を交互に実施する。
【0038】
以上のように、準備ステップ及び加工ステップを実施することで、対象エリア11に沿って対象物10に圧縮残留応力を付与する。つまり、上記レーザ加工方法は、対象エリア11に沿って圧縮残留応力が付与された対象物10を製造する方法である。
[作用及び効果]
【0039】
上記レーザ加工方法では、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくしつつ、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査する。これにより、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を一定とした場合と比べて、対象物10に付与される圧縮残留応力が低下することが抑制される。よって、上記レーザ加工方法によれば、対象物10の表面10aにおける対象エリア11に沿って対象物10に付与される圧縮残留応力がばらつくのを抑制することができる。
【0040】
上記レーザ加工方法では、加工ステップにおいて、Y方向に延在すると共にX方向に並ぶ複数のラインL1のそれぞれに沿ってレーザ光Lの照射スポットSを移動させる第2処理を実施することで、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査し、加工ステップにおいては、複数のラインL1のうち1本のラインL1ごとに、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を大きくすることで、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくする。これにより、レーザ光Lの照射スポットSの走査及び単位面積当たりのレーザ光Lの強度の制御を簡易且つ容易に実施することができる。
【0041】
上記レーザ加工方法では、加工ステップにおいては、上記第2処理として、Y方向における一方の側から他方の側にレーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理、及びY方向における他方の側から一方の側にレーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理を交互に実施する。これにより、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSを効率良く走査することができる。
【0042】
上記レーザ加工方法では、加工ステップにおいて、Z方向に沿ってレーザ光Lの集光スポットCSの位置を移動することで、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくする。これにより、レーザ光Lの出力を調整しなくても、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくすることができる。当該作用及び効果を以下に実証する。
【0043】
図6に示されるように、照射スポットSのZ方向位置と照射スポットSの径との相関関係を取得した。当該相関関係によれば、照射スポットSの径は、照射スポットSのZ方向位置を変数とする一次関数によって近似される。レーザ光Lの出力が一定の場合、単位面積当たりのレーザ光Lの強度は、照射スポットSの径の2乗と反比例するため、Z方向に沿ってレーザ光Lの集光スポットCSの位置を移動することで、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくできることが実証された。
【0044】
上記レーザ加工方法では、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を一定にしつつ、サンプル20の表面におけるサンプルエリア21に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査し、サンプル20の表面20aに沿ってサンプル20に付与された圧縮残留応力を取得する準備ステップを実施する。加工ステップにおいては、サンプル20に付与された圧縮残留応力に基づいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくする。これにより、対象物10に付与される圧縮残留応力がばらつくのをより確実に抑制することができる。
【0045】
上記レーザ加工装置1によれば、上記レーザ加工方法と同様に、対象物10の表面10aにおける対象エリア11に沿って対象物10に付与される圧縮残留応力がばらつくのを抑制することができる。
[比較例及び実施例]
【0046】
次に、比較例、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法について説明する。比較例、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって照射したレーザ光の照射条件は次の通りである。
レーザ光の条件
波長:1064nm
パルスエネルギー:42mJ
パルス幅:39.4ns(ガウシアン)
集光サイズ:φ0.19~0.30mm
強度:1.5~3.8GW/cm2
繰り返し周波数:300Hz
対象物の条件
材質:アルミニウム合金(A2024)
形状:49×49mm
厚さ:3mm
対象エリア:3×3mm
保護層:アルミニウムテープ(厚さ:100μm以下)
閉じ込め層:流水
【0047】
比較例のレーザ加工方法では、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均を一定にしつつ、対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを走査するステップ(準備ステップ)を4回実施した。実施例1及び実施例2のレーザ加工方法では、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均を大きくしつつ、対象エリア11に対してレーザ光の照射スポットを走査するステップ(加工ステップ)を4回実施した。なお、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法では、単位面積当たりのレーザ光の強度は、集光スポットをZ方向に沿って移動することによって調整された。
【0048】
比較例のレーザ加工方法によって照射されたレーザ光は、単位面積当たりのレーザ光の強度が、3.8GW/cm
2を維持するように調整された。実施例1のレーザ加工方法によって照射されたレーザ光は、
図7の(a)に示されるように、単位面積当たりのレーザ光の強度が、3.0GW/cm
2から3.8GW/cm
2となるように調整された。実施例2のレーザ加工方法によって照射されたレーザ光は、
図7の(b)に示されるように、単位面積当たりのレーザ光の強度が、1.5GW/cm
2から3.8GW/cm
2となるように調整された。
【0049】
比較例、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力の二次元分布を、X線残留応力測定装置によって測定した。圧縮残留応力の二次元分布の測定条件は、次のとおりである。
圧縮残留応力の二次元分布の測定条件
X線サイズ:φ0.5mm
範囲:5.0×2.5mm
間隔:0.25mm
管球:Co
【0050】
比較例のレーザ加工方法によって対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力の二次元分布は、
図8に示されるように、最初にレーザ光が走査された側(X=1.0mm側)から最後にレーザ光が走査された側(X=4.0mm側)に向かって低下する分布となった。これにより、単位面積当たりのレーザ光の強度を一定とすると、レーザ光の照射スポットが走査されたエリアが対象エリアにおいて増えるほど(すなわち、レーザ光の照射スポットが走査されたエリアが対象エリアにおいて密になるほど)、圧縮残留応力が付与され難くなる傾向があることが、実験的に確認された。実施例1のレーザ加工方法によって対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力の二次元分布は、
図9の(a)に示されるように、比較例のレーザ加工方法による圧縮残留応力の二次元分布に比べ、ばらつきが抑制された分布となった。実施例2のレーザ加工方法によって対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力の二次元分布は、
図9の(b)に示されるように、比較例のレーザ加工方法による圧縮残留応力の二次元分布に比べ、ばらつきが抑制された分布となったが、実施例1のレーザ加工方法による圧縮残留応力の二次元分布に比べ、ばらつきが広がった分布となった。なお、
図9、
図9の(a)及び(b)において、圧縮残留応力は、負の値で示されている。
【0051】
図10は、比較例、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力を示すグラフである。
図10において、「X方向位置」は、X方向における位置を意味し、「Y方向平均残留応力」は、各X方向位置での「Y方向に沿った部分に付与された圧縮残留応力の平均値」を意味する。
図10に示されるように、対象エリアにおけるY方向平均残留応力について、最大値と最小値との差に着目すると、当該差については、比較例のレーザ加工方法による値よりも実施例1及び実施例2のレーザ加工方法による値が小さくなり、実施例2のレーザ加工方法による値よりも実施例1のレーザ加工方法による値が小さくなった。
【0052】
図11は、比較例、実施例1及び実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力を示す表である。
図11において、「最大値」は、
図8、
図9の(a)及び
図9の(b)のそれぞれに示される対象エリア(3×3mmの点線枠内)に沿って付与された圧縮残留応力の最小値を意味し、「最小値」は、当該対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力の最大値を意味し、「平均値」は、当該対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力の平均値を意味する。「偏差」は、当該対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力が平均値からばらついた大きさを意味し、「偏差/|平均値|」は、当該対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力が平均値からばらついた割合を意味する。
図11に示されるように、「偏差」及び「偏差/|平均値|」については、比較例のレーザ加工方法による値よりも実施例1及び実施例2のレーザ加工方法による値が小さくなり、実施例2のレーザ加工方法による値よりも実施例1のレーザ加工方法による値が小さくなった。すなわち、実施例2において対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力は、比較例において対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力より均一である。また、実施例1において対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力は、実施例2において対象エリアに沿って付与された圧縮残留応力よりも均一である。
【0053】
以上の結果から、単位面積当たりのレーザ光の強度を一定とすると、レーザ光の照射スポットが走査されたエリアが対象エリアにおいて増えるほど、圧縮残留応力が付与され難くなる傾向があることが実証された。また、単位面積当たりのレーザ光の強度の移動平均を大きくしつつ、対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを走査することで、対象物の表面における対象エリアに沿って対象物に付与される圧縮残留応力がばらつくのを抑制できることが立証された。
【0054】
図12の(a)は、比較例のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力を示すグラフである。比較例のレーザ加工方法では、レーザ光の強度を一定にしつつ、対象物の表面の対象エリアに対してレーザ光の照射スポットを走査した。この「比較例のレーザ加工方法に用いられた対象物」を「上記実施形態のレーザ加工方法のステップS02に用いられたサンプル」とすると、
図12の(a)は、単位面積当たりのレーザ光の強度を一定にしつつ、サンプルの表面におけるサンプルエリアに対してレーザ光の照射スポットを走査し、サンプルの表面に沿ってサンプルに付与された圧縮残留応力を示すグラフである。
【0055】
図12の(a)に示されるように、最初にレーザ光が走査されたエリア(X=1mmのエリア)に近く、サンプルエリアにおいて圧縮残留応力が付与された領域が疎の状態であるほど、圧縮残留応力は付与され易い。最後にレーザ光が走査されたエリア(X=4mmのエリア)に近く、サンプルエリアにおいて圧縮残留応力が付与された領域が密の状態であるほど、圧縮残留応力は付与され難い。
図12の(b)は、当該サンプルに付与された圧縮残留応力に基づいて求められた補正係数(Z)を示すグラフである。
図12の(b)に示されるように、補正係数(Z)は、サンプルの表面に沿ってサンプルに付与された圧縮残留応力を、最初にレーザ光が走査されたエリアにおいてサンプルに付与された圧縮残留応力で除算して求められる。
【0056】
対象物に付与される圧縮残留応力の理論値は、補正係数(Z)及び単位面積当たりのレーザ光の強度に基づく計算値(以下、計算値と呼称する)として算出される。
図13の(a)の実験値1は、実施例1のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力を示す。
図13の(a)の計算値1は、実施例1のレーザ加工方法によって対象物に照射されたレーザ光(
図7の(a)参照)に基づく計算値を示す。
図13の(a)に示されるように、対象物に付与された圧縮残留応力と、圧縮残留応力の計算値は、実施例1において定性的に一致することが確認された。
図13の(b)の実験値2は、実施例2のレーザ加工方法によって対象物に付与された圧縮残留応力を示す。
図13の(b)の計算値2は、実施例2のレーザ加工方法によって対象物に照査されたレーザ光(
図7の(b)参照)に基づく計算値を示す。
図13の(b)に示されるように、対象物に付与された圧縮残留応力と、圧縮残留応力の計算値は、実施例2において定性的に一致することが確認された。
[変形例]
【0057】
本発明は、上述した実施形態及び実施例に限定されない。上記実施形態のレーザ加工方法では、サンプル20は、対象物10と同一の材料からなる部材であったが、対象物10と異なる材料からなる部材であってもよい。サンプル20は、対象物10と同一の形状を有する部材であったが、対象物10と異なる形状を有する部材であってもよい。また、サンプルエリア21は、対象エリア11と同一の形状を有するエリアであったが、対象エリア11と異なる形状を有するエリアであってもよい。この場合、処理部41が、サンプル照射強度を、対象物照射強度に変換して取得する。
【0058】
対象エリア11がサンプルエリア21より大きい場合の変形例1を説明する。実施例1のレーザ加工方法によって照射されたレーザ光は、
図14の(a)に示されるように、単位面積当たりのレーザ光の強度が、3.0GW/cm
2から3.8GW/cm
2に大きくなる。実施例1のレーザ加工方法に用いられた対象物10をサンプルとすると、上述した単位面積当たりのレーザ光の強度は、サンプル照射強度である。
図14の(b)は、変形例1として当該サンプル照射強度を変換して取得した対象物照射強度である。
図14の(a)及び(b)に示されるように、サンプル照射強度が適用される3mmのエリア(X=1.0mm~4.0mm、
図14の(a)参照)を9mmのエリア(X=1.0mm~10.0mm、
図14の(b)参照)に変換することで、対象物照射強度を取得する。
【0059】
変形例2のレーザ加工方法について説明する。変形例2のレーザ加工方法では、
図15に示されるように、対象エリア11の中心から対象エリア11の外縁まで(すなわち、対象エリア11の内側から外側に向かって)、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくしつつ、レーザ光Lの照射スポットSを渦巻状のラインL1に沿って移動させて、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査する。この場合、照射スポットSが渦巻状のラインL1に沿った移動を1周する度に、レーザ光Lの強度を切り替えると好ましい。すなわち
図15においては、照射スポットSのX方向における位置がスタート地点のX方向における位置と一致し、且つ照射スポットSのY方向における位置がスタート地点のY方向における位置よりも負側に位置する度に、レーザ光Lの強度を切り替えると好ましい。なお、対象エリア11において入れ子状に並んだ環状のラインに沿って、レーザ光Lの照射スポットSを移動させてもよい。一例として、複数の環状のラインのそれぞれに沿って照射スポットSを移動させる処理を、内側の環状のラインから外側の環状のラインに向かって(すなわち、対象エリア11の内側から外側に向かって)順次に実施することで、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSを走査してもよい。この場合、レーザ光Lの照射スポットSが所定の環状のラインを移動する間はレーザ光Lの強度を固定し、大きさの異なる環状のラインに移動する度に強度を切り替えると好ましい。つまり、照射スポットSが所定の環状のラインを1周移動するごとに、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を大きくすることで移動平均を大きくすると好ましい。当該変形例2のレーザ加工方法では、レーザ光Lの照射スポットSを、対象エリア11の内側から外側に向かって移動させてレーザ光Lの照射スポットSを走査したが、レーザ光Lの照射スポットSを、対象エリア11の外側から内側に向かって移動させてレーザ光Lの照射スポットSを走査してもよい。
【0060】
変形例3のレーザ加工方法について説明する。変形例3のレーザ加工方法では、対象エリア11を複数のエリアに分割して、複数のエリアのそれぞれにおいて、上記実施形態のレーザ加工方法を実施する。例えば、
図16に示されるように、X方向及びY方向に沿って二行二列に配列された4つのエリアに対象エリア11を分割する。当該4つのエリアのそれぞれにおいて並行して上記実施形態のレーザ加工方法を実施することで、対象エリア11が広い場合であっても、対象エリア11に沿って対象物10に圧縮残留応力を付与する時間を短縮化することができる。
【0061】
上記実施形態のレーザ加工装置1では、制御部4が、レーザ光Lの集光スポットCSが対象エリア11に対して所定の軌跡で三次元的に移動するように(換言すれば、レーザ光Lの照射スポットSが対象エリア11において所定の軌跡で二次元的に移動するように)照射部3の動作を制御したが、制御部4は、支持部2及び照射部3の少なくとも1つの動作を制御すればよい。例えば、制御部4は、レーザ光Lの集光スポットCSが対象エリア11に対して所定の軌跡で三次元的に移動するように、支持部2の動作を制御してもよい。或いは、制御部4は、レーザ光Lの集光スポットCSが対象エリア11に対して所定の軌跡で三次元的に移動するように、支持部2の動作及び照射部3の動作を制御してもよい。
【0062】
また、上記実施形態のレーザ加工装置1では、加工ステップにおいて、対象エリア11と交差するZ方向に沿ってレーザ光Lの集光スポットCSの位置を移動することで、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を大きくしたが、照射部3が出射するレーザ光Lの出力を大きくすることで、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を大きくしてもよい。
【0063】
上記実施形態のレーザ加工方法では、加工ステップにおいて、第3側から第4側にレーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理、及び第4側から第3側にレーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理を交互に実施したが、第3側から第4側にレーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理、又は第4側から第3側にレーザ光Lの照射スポットSを移動させる処理を連続して実施してもよい。
【0064】
上記実施形態のレーザ加工方法では、加工ステップにおいて、1本のラインL1ごとに、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を大きくしたが、複数のラインL1ごとに、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を大きくしてもよい。
【0065】
上記実施形態のレーザ加工方法では、隣り合うラインL1の間隔は、X方向におけるレーザ光Lの照射スポットSの幅の1/2程度に並んでいたが、この間隔は等間隔であってもよい。隣り合うラインL1の間隔が等間隔の場合、上記実施形態のレーザ加工方法において照射スポットSの幅が最小の(すなわち、集光スポットCSの位置がZ方向において対象エリア11に最も近い場合の照射スポットSの幅の)場合の1/2であると好ましい。この場合、隣り合うラインL1の間は、照射スポットSによって確実に2回以上走査される。また、隣り合うラインL1の間隔は、上記実施形態のレーザ加工方法において照射スポットSの幅が最大(すなわち、集光スポットCSの位置がZ方向において対象エリア11に最も遠い場合の照射スポットSの幅の)場合の1/2であってもよい。この場合、複数のラインL1において、隣り合うラインL1の間隔が疎になるため、レーザ加工方法全体の加工時間を短縮できる。
【0066】
隣り合うラインL1の間隔は等間隔でなくてもよい。隣り合うラインL1の間隔が等間隔ではない場合、照射スポットSが移動した領域が均一に重なり合う間隔(すなわち、単位面積当たりのレーザ光Lの強度に応じて変化する照射スポットSの幅の1/2)に調整されると好ましい。この場合、隣り合うラインL1の間の領域は、照射スポットSによって重複なく2回走査される。この場合、対象エリア11に対して照射スポットSを均一に走査することができる。
【0067】
上記実施形態のレーザ加工方法では、加工ステップにおいて、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を1本のラインL1ごとに大きくしたが、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくすればよい。例えば、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を連続的に大きくしてもよい。或いは、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を小さくしても、対象エリア11に対してレーザ光Lの照射スポットSが走査した所定範囲において、単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくすればよい。
【0068】
上記実施形態のレーザ加工方法では、準備ステップにおいて、作業者が、サンプル20に付与された圧縮残留応力をX線残留応力測定装置によって測定し、入力受付部43に入力していたが、X線残留応力測定装置を更に備えるレーザ加工装置1が対象物10に付与された圧縮残留応力を測定し、サンプル20に付与された圧縮残留応力を取得してもよい。この場合、処理部41がX線残留応力測定装置からサンプル20に付与された圧縮残留応力を取得する。
【0069】
上記実施形態のレーザ加工方法では、1回の準備ステップを1回の加工ステップのために実施していたが、1回の準備ステップを複数回の加工ステップのために実施してもよい。この場合、一つのサンプル20に準備ステップを実施した後に、複数の対象物10に加工ステップを実施することができる。
【0070】
上記実施形態のレーザ加工方法では、準備ステップ及び加工ステップが連続して実施されていたが、準備ステップ及び加工ステップは、別々に実施されてもよい。この場合、サンプル20の表面20aに沿ってサンプル20に付与された圧縮残留応力又は所定の係数を記憶部42に取得させることで、レーザ加工装置1の製造時に準備ステップを実施することができる。この「所定の係数」は、サンプル20の表面20aに沿ってサンプル20に付与された圧縮残留応力に基づいて求められるサンプル照射強度、対象物照射強度又は補正係数等の係数である。或いは、所定の係数を予めデータベースに記憶して、データベースから所定の係数を処理部41が取得することで、準備ステップを実施することができる。
【0071】
上記実施形態のレーザ加工方法では、準備ステップを実施していたが、少なくとも加工ステップを実施すればよい。この場合も、単位面積当たりのレーザ光Lの強度を一定とした場合と比べて、対象物10に付与される圧縮残留応力がばらつくのを抑制することができる。ただし、準備ステップを実施すれば、サンプル20に付与された圧縮残留応力に基づいて単位面積当たりのレーザ光Lの強度の移動平均を大きくすることができるため、対象物10に付与される圧縮残留応力がばらつくのをより確実に抑制することができる。
【0072】
対象エリア11は、平面に限定されず、曲面であってもよい。対象エリア11は、矩形に限定されず、円形等の他の形状であってもよい。ラインL1は、直線に限定されず、曲線であってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…レーザ加工装置、2…支持部、3…照射部、4…制御部、10…対象物、10a…表面、11…対象エリア、20…サンプル、20a…表面、21…サンプルエリア、L…レーザ光、CS…集光スポット、S…照射スポット、L1…ライン。