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特許7494082傾斜矯正スロープおよび傾斜矯正スロープの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】傾斜矯正スロープおよび傾斜矯正スロープの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60S 9/02 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
B60S9/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020167888
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059965
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】391001169
【氏名又は名称】櫻護謨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】仲村 公孝
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3217302(JP,U)
【文献】登録実用新案第3210279(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2006/0027794(US,A1)
【文献】特表平09-511715(JP,A)
【文献】特開2017-070375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜する地面と前記地面に停車される車両との間に設置される傾斜矯正スロープであって、
前記地面側に位置する下面と、前記下面に対して傾斜する傾斜面とを有する本体と、
前記下面および前記傾斜面に接触し、前記本体を覆うポリウレア樹脂で形成される保護層と、を備え、
前記本体は、前記傾斜面の傾斜方向と直交する方向に並べられ、発泡倍率が30倍以下である発泡体で形成される複数の板材と、前記複数の板材のうち隣り合う前記板材の間において前記ポリウレア樹脂が入り込む隙間と、を有する、
傾斜矯正スロープ。
【請求項2】
前記隙間は、前記隣り合う前記板材の全周にわたり形成される、
請求項1に記載の傾斜矯正スロープ。
【請求項3】
前記発泡体の発泡倍率は、15倍以下である、
請求項1または2に記載の傾斜矯正スロープ。
【請求項4】
前記本体は、前記傾斜面のうち前記下面側に位置する一端と反対側に位置する他端に接続され、前記下面と平行な上面をさらに有する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の傾斜矯正スロープ。
【請求項5】
前記上面を覆う前記保護層によって形成され、前記車両を支持可能である支持面を有し、
前記上面の長手方向における長さは、前記傾斜面の長手方向における長さよりも長い、
請求項4に記載の傾斜矯正スロープ。
【請求項6】
把持部を有する取手をさらに備える、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の傾斜矯正スロープ。
【請求項7】
傾斜する地面と前記地面に停車される車両との間に設置される傾斜矯正スロープの製造方法であって、
前記地面側に位置する下面と、前記下面に対して傾斜する傾斜面とを有する本体を発泡倍率が30倍以下である発泡体で形成すること、
前記本体にポリウレア樹脂を塗布すること、を含み、
前記形成することは、前記傾斜面の傾斜方向と直交する方向に前記発泡体で形成される複数の板材を並べることと、前記複数の板材を接続することと、前記隣り合う前記板材の間において前記ポリウレア樹脂が入り込む隙間を形成することと、を含む、
製造方法。
【請求項8】
前記隙間は、前記隣り合う前記板材の全周にわたり形成される、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記発泡体の発泡倍率は、15倍以下である、
請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記塗布することは、硬化前の前記ポリウレア樹脂を噴射装置から前記本体に対して放物線を描くように噴射すること、を含む、
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜矯正スロープおよび傾斜矯正スロープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
はしご車や照明車などの特殊車両等の中には、作業時に重心が変化する車両が存在する。傾斜する地面に特殊車両を停止させ作業を行う場合、傾斜する地面の傾斜角度によっては特殊車両での作業に支障をきたす場合がある。そのため、傾斜する地面と特殊車両との間に設置し、特殊車両の傾斜を矯正する傾斜矯正スロープが必要となる場合がある。
【0003】
傾斜矯正スロープには、特殊車両の荷重に耐える十分な強度が必要になる。特殊車両の重量が大きくなれば傾斜矯正スロープも大型化し、重量は大きくなる。傾斜矯正スロープの重量が大きくなると、現場における運搬、設置等の作業に労力を要するばかりでなく、車両に傾斜矯正スロープを積んだ際に車両総重量を超えてしまう可能性もある。そのため、傾斜矯正スロープとしての機能は維持した上で、軽量な傾斜矯正スロープが求められる。
【0004】
この点に関し、特許文献1においては軽量で軌陸車を支持可能な軌陸車用ブロックが提案されている。特許文献1に開示された軌陸車用ブロックは、ブロック状に形成された発泡スチロール製のブロック部と、板状に形成され前記ブロック部の少なくとも上面の全面に沿って配置されたポリカーボネート製の外板部とを有している。ブロック部が発泡スチロール製であるため、軌陸車用ブロックがカタパルトや材木と比較して軽量に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3210279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1においては、発泡スチロール製のブロック部とすることで軽量化が図られているが、ポリカーボネート製の外板部を有するため、ポリカーボネートに相当する分重量は大きくなる。さらに、傾斜矯正スロープの作業性の向上に関しては未だに種々の改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、より作業性の優れた傾斜矯正スロープおよび当該傾斜矯正スロープの製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様における傾斜矯正スロープは、傾斜する地面と前記地面に停車される車両との間に設置される。当該傾斜矯正スロープは、前記地面側に位置する下面と、前記下面に対して傾斜する傾斜面とを有する本体と、前記下面および前記傾斜面に接触し、前記本体を覆うポリウレア樹脂で形成される保護層と、を備えている。前記本体は、前記傾斜面の傾斜方向と直交する方向に並べられ、発泡倍率が30倍以下である発泡体で形成される複数の板材と、前記複数の板材のうち隣り合う前記板材の間において前記ポリウレア樹脂が入り込む隙間と、を有する
【0009】
前記隙間は、前記隣り合う前記板材の全周にわたり形成されてもよい。前記発泡体の発泡倍率は、15倍以下でもよい。前記本体は、前記傾斜面のうち前記下面側に位置する一端と反対側に位置する他端に接続され、前記下面と平行な上面をさらに有してもよい。
【0010】
前記上面を覆う前記保護層によって形成され、前記車両を支持可能である支持面を有してもよい。前記上面の長手方向における長さは、前記傾斜面の長手方向における長さよりも長くてもよい。当該傾斜矯正スロープは、把持部を有する取手をさらに備えてもよい。
【0011】
本発明の一態様における製造方法は、傾斜する地面と前記地面に停車される車両との間に設置される傾斜矯正スロープを得る製造方法であって、前記地面側に位置する下面と、前記下面に対して傾斜する傾斜面とを有する本体を発泡倍率が30倍以下である発泡体で形成すること、前記本体にポリウレア樹脂を塗布すること、を含んでいる。前記形成することは、前記傾斜面の傾斜方向と直交する方向に前記発泡体で形成される複数の板材を並べることと、前記複数の板材を接続することと、前記隣り合う前記板材の間において前記ポリウレア樹脂が入り込む隙間を形成することと、を含んでいる。
【0012】
前記隙間は、前記隣り合う前記板材の全周にわたり形成されてもよい。前記発泡体の発泡倍率は、15倍以下でもよい。前記塗布することは、硬化前の前記ポリウレア樹脂を噴射装置から前記本体に対して放物線を描くように噴射すること、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より作業性の優れた傾斜矯正スロープおよび当該傾斜矯正スロープの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1実施形態に係る傾斜矯正スロープの概略的な斜視図である。
図2図2は、図1におけるA-A線に沿う傾斜矯正スロープの概略的な断面図である。
図3図3は、図1におけるB-B線に沿う傾斜矯正スロープの概略的な断面図である。
図4図4は、図3に示す傾斜矯正スロープの概略的な部分拡大図である。
図5図5は、第1実施形態に係る傾斜矯正スロープの設置状況の一例を示す模式図である。
図6図6は、第1実施形態に係る傾斜矯正スロープの設置状況の一例を示す模式図である。
図7図7は、第1実施形態に係る傾斜矯正スロープの設置状況の一例を示す模式図である。
図8図8は、第1実施形態に係る傾斜矯正スロープの設置状況の一例を示す模式図である。
図9図9は、プレートから板材を切り出す際の一例を示す模式図である。
図10図10は、複数の板材が並べられた様子を示す模式図である。
図11図11は、噴射装置により硬化前のポリウレア樹脂を噴射する様子を示す模式図である。
図12図12は、第2実施形態に係る傾斜矯正スロープの概略的な斜視図である。
図13図13は、図12に示す傾斜矯正スロープの概略的な部分分解図である。
図14図14は、第3実施形態に係る傾斜矯正スロープの概略的な部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のいくつかの実施形態につき図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る傾斜矯正スロープ10の概略的な斜視図である。図2は、図1におけるA-A線に沿う傾斜矯正スロープ10の概略的な断面図である。図3は、図1におけるB-B線に沿う傾斜矯正スロープ10の概略的な断面図である。
【0016】
以下、これらの図に示すように、互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を定義する。X方向は傾斜矯正スロープ10の長手方向に相当し、Y方向は傾斜矯正スロープ10の短手方向に相当し、Z方向は傾斜矯正スロープ10の高さ方向(鉛直方向)に相当する。
【0017】
傾斜矯正スロープ10は、本体20と、本体20の表面を覆う保護層30とを備えている。傾斜矯正スロープ10は、地面Gに設置される設置面1と、設置面1に接続され、設置面1に対して傾斜する傾斜面2と、設置面1と平行な支持面3とを有する。設置面1、傾斜面2、および支持面3は、保護層30に位置している。
【0018】
傾斜面2は、設置面1と接続される端部2aと、端部2aと反対側に位置し、支持面3と接続される端部2bとを有している。傾斜面2は、端部2bから端部2aにかけて設置面1(地面G)に近づくように傾斜している。
【0019】
図1乃至図3に示すように、本体20は、地面G側に位置する下面21と、下面21に接続され、下面21に対して傾斜する傾斜面22と、下面21と平行な上面23とを有する。
【0020】
傾斜面22は、下面21と接続される端部22aと、端部22aと反対側に位置し、上面23と接続される端部22bとを有している。傾斜面22は、端部22bから端部22aにかけて下面21(地面G)に近づくように傾斜している。傾斜面22の傾斜方向は、Y方向と直交している。
【0021】
本体20は、図2に示す側面24と、図3に示す側面25,26とをさらに有する。側面24は下面21と上面23とを接続し、Y方向およびZ方向と平行である。側面25,26は下面21と、傾斜面22および上面23とを接続し、X方向およびZ方向と平行である。
【0022】
図2に示すように、下面21のX方向の長さL1は、上面23のX方向の長さL2よりも長い。下面21と傾斜面22がなす角度θは、下面21のX方向の長さL1、上面23のX方向の長さL2および本体20の高さHTに応じて決定される。図2に示す例においては、設置面1と傾斜面2がなす角度は角度θと等しくなる。
【0023】
図3に示す本体20のY方向の長さL3は、下面21と上面23のY方向と平行な各辺において等しい。また、下面21のX方向の長さL1および上面23のX方向の長さL2は、本体20のY方向の長さL3よりも長い。
【0024】
例えば、L1=1000mm,L2=600mm,L3=360mm,HT=200mmの場合、角度θは約26度となる。L1=1000mm,L2=600mm,L3=360mm,HT=160mmの場合、角度θは約21度となる。
【0025】
図3に示すように、本体20は、傾斜面22の傾斜方向と直交するY方向に並べられた複数の板材40で形成される。板材40の厚さ方向は、Y方向と一致している。図3に示す例においては、12枚の板材40が並べられている。複数の板材40は、接着剤による接着や、熱による溶着などにより接続される。複数の板材40は、厚さ方向に貫通させた貫通穴にビス(ボルト)を挿入させてナットを用いて接続されてもよい。板材40の数量は、本体20のY方向の長さL3に応じて決定される。板材40の厚さT1は、例えば30mmである。
【0026】
板材40は、発泡体で形成されている。発泡体は、例えば発泡プラスチックである。発泡プラスチックの一例としては、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレン、ポリウレタンなどである。板材40を形成する発泡体の発泡倍率は例えば30倍以下であり、15倍以下であることが好ましい。発泡体で板材40を形成することで板材40の質量を軽減することができ、本体20の質量も軽減される。発泡倍率が15倍である発泡ポリスチレンの密度は、例えば74kg/mである。発泡ポリスチレンは、例えば高密度発泡ポリスチレンである。
【0027】
発泡体の10%変形時における圧縮応力は、0.5MPa(1cmに対して5kgの荷重が加わった際に10%変形する)以上であることが好ましい。
【0028】
以上のような発泡体であれば、傾斜矯正スロープ10を形成するために十分な強度を有する。使用する車両が予め決まっている場合などには、車両の重量等に応じて10%変形時における圧縮応力が0.5MPaよりも小さい発泡体で板材40を形成してもよい。
【0029】
保護層30は、ポリウレア樹脂で形成されている。保護層30は本体20の表面の全体を覆っており、保護層30は本体20の下面21,傾斜面22,上面23,側面24~26と接触している。保護層30は本体20の表面の全体を覆い、継ぎ目がないように形成されることで、保護層30は本体20から剥がれにくい。
【0030】
ポリウレア樹脂は、イソシアネートとポリアミンの化学反応で生成されるウレア結合を基本とした樹脂化合物であって、優れた防水性、耐薬品性、耐摩耗性、耐熱性および防食性等を有する。ポリウレア樹脂で形成された保護層30で本体20を覆うことで、本体20を長期間保護することができる。
【0031】
保護層30の厚さtは例えば1mm以上であり、2mmが好ましい。保護層30は、例えば下面21,傾斜面22,上面23,側面24~26に対して厚さが等しくなる様に形成されている。使用する車両等に応じて保護層30の厚さtは、1mmよりも薄くてもよいし、各面21~26に対して保護層30の厚さtが異なってもよい。
【0032】
本体20が保護層30に覆われた状態において、傾斜矯正スロープ10は、比重は例えば0.5以下であり、比重が0.1になるように形成されることが好ましい。傾斜矯正スロープ10の比重が0.1であれば、傾斜矯正スロープ10を大型化させても傾斜矯正スロープ10の質量が増加しすぎることはない。
【0033】
図4は、図3に示す傾斜矯正スロープ10の概略的な部分拡大図であり、傾斜矯正スロープ10の設置面1側の一部を示している。板材40が有する面40aおよび面40bの少なくとも一方に接着剤GLが塗布され、複数の板材40がY方向に接続されている。接着剤GLは、例えば面40aおよび面40bの全面に塗布される。
【0034】
図4に示す例においては、隣り合う板材40の端部の間に隙間C(凹部)が形成されている。隙間Cが存在する場合、保護層30が形成される際にポリウレア樹脂が隙間Cに入り込むことで、保護層30の本体20に対する密着性が高まる。隙間Cは、例えば隣り合う板材40の境界全周にわたり連続的または断続的に設けられた溝である。隙間Cの深さは、一例では図示したように保護層30の厚さ以下である。
【0035】
図4に示す例においては、保護層30が有する設置面1に凹凸が形成されている。設置面1が有する凹凸は、例えばポリウレア樹脂が塗布される際に形成されてもよいし、ポリウレア樹脂が塗布された後に形成されてもよい。
【0036】
例えば、保護層30は、設置面1の表面粗さが下面21の表面粗さよりも粗くなるように形成される。設置面1の表面粗さが下面21の表面粗さよりも粗くなるように保護層30が形成されることで、傾斜矯正スロープ10が本体20のみを備える場合と比較して、設置面1と地面Gとの間の摩擦力を増加させることができる。保護層30が有する凹凸は、設置面1のみならず、傾斜面2や支持面3などに形成されてもよい。
【0037】
図5乃至図8は、第1実施形態に係る傾斜矯正スロープの設置状況の一例を示す模式図である。図5乃至図8において、傾斜矯正スロープ10は、傾斜面2が車両Vに対向するように設置されている。図示されていないが、一対の傾斜矯正スロープ10が車両Vの幅方向に設置されている。
【0038】
図5および図6に示す例において、車両Vは、傾斜する地面Gに前輪VFが後輪VRに比べて下がるように停車されている。車両Vとして、特殊車両である、照明装置V1を有する照明車を例示する。傾斜矯正スロープ10は、特殊車両であるはしご車や、救急車両および特殊災害対策車などの緊急車両や一般車両、建設機械等にも適用し得る。
【0039】
図5に示す例において、車両Vは傾斜する地面Gの傾斜角度αに相当する分傾いている。傾斜角度αは、傾斜する地面Gと水平な基準面S1がなす角度である。傾斜角度αが大きい場合、車両Vが有する照明装置V1の使用が妨げられる場合がある。照明装置V1を有する車両Vは作業時に重心が変化するため、傾斜角度αが大きい地面G上に車両Vが停車された場合、車両Vによる作業は困難となる。例えば、傾斜角度αが3度以上である場合、傾斜する地面Gに停車された車両Vから照明装置V1を延出させることに支障をきたす。
【0040】
図6に示す例において、車両Vの前輪VFは、傾斜矯正スロープ10の支持面3上に位置している。傾斜矯正スロープ10は、傾斜する地面Gと地面Gに停車された車両Vとの間に設置される。X方向に沿って傾斜する地面Gを走行する車両Vは、前輪VF側から傾斜面2に乗り上げ支持面3上で停止する。車両Vが支持面3に停車されることで、傾斜する地面Gに対して車両Vを確実に支持することができる。
【0041】
前輪VFが支持面3上に位置する場合、図5において説明した車両Vの傾斜角度αは、傾斜角度βに矯正される。傾斜角度βは、前輪VFの接地面と後輪VRの接地面とを含む面S2と水平な基準面S1がなす角度である。傾斜角度βは、傾斜角度αよりも小さい。
【0042】
例えば傾斜角度βが3度より小さければ、車両Vが有する照明装置V1の使用が妨げられることはない。作業時に重心が変化する車両Vが傾斜する地面G上に停車された場合であっても、傾斜角度αが傾斜矯正スロープ10の使用により矯正されることで問題なく作業をすることができる。
【0043】
例えば傾斜角度αが6度である地面Gに、設置面1から支持面3までの高さが160mmで、傾斜面2と設置面1がなす角度が21.8度である傾斜矯正スロープ10が設置された場合、車両Vが傾斜矯正スロープ10の支持面3上に位置する状態であれば、傾斜角度βは2.7度となる。この場合、傾斜矯正スロープ10を使用することで、傾斜が3.3度矯正されたといえる。
【0044】
図7および図8に示す例において、後輪VRが前輪VFに比べて下がるように車両Vが傾斜する地面Gに停車されている。図8においては、車両Vの後輪VRが傾斜矯正スロープ10の支持面3上に位置している。後輪VRが前輪VFに比べて下がるように停車された場合であっても、図5および図6を用いて説明したように傾斜矯正スロープ10を使用することにより、車両Vの傾斜角度αを傾斜角度βに矯正することができる。
【0045】
以上説明した第1実施形態においては、作業性に優れた傾斜矯正スロープ10を提供することができる。つまり、発泡体で形成された板材40で本体20を形成し、傾斜矯正スロープ10を軽量化することで、現場での傾斜矯正スロープ10を運搬、設置等する作業に必要な労力を削減することができるため、作業性の向上を図ることができる。作業に必要な労力を削減することで、作業時間を短縮することもできる。
【0046】
本体20が保護層30に覆われた状態において、傾斜矯正スロープ10の比重が0.1であれば大型化しても質量が増加しにくいため、人力で運搬することができる傾斜矯正スロープ10を形成することができる。軽量化された傾斜矯正スロープ10であれば、車両に積んだ際に車両総重量を超えにくい。
【0047】
傾斜矯正スロープ10が備える本体20は、ポリウレア樹脂で形成された保護層30で覆われている。これにより、傾斜矯正スロープ10は、傾斜矯正スロープ10が本体20のみを備える場合と比較して、より高い耐荷重性能を実現することができる。
【0048】
保護層30が柔軟性を有するポリウレア樹脂で形成されているため、例えば傾斜矯正スロープ10上の車両から荷重が加わった場合、設置面1は地面Gの形状に合わせて変化することができる。設置面1の形状が地面Gの形状に合わせて変化することで設置面1と地面Gとの接地面積が増加し、設置面1と地面Gとの間の摩擦力が増加する。設置面1が地面Gの形状に合わせて変化することで設置面1と地面Gとの間の摩擦力が増加するため、傾斜矯正スロープ10は地面Gに対して滑りにくい。
【0049】
さらに、保護層30が本体20の表面と接触しているため、保護層30の形状の変化に合わせて本体20の表面も変化することができる。例えば傾斜矯正スロープ10上の車両から荷重が加わった場合、地面Gの形状に合わせて設置面1が変化するのみならず、設置面1の形状変化に合わせて下面21の形状も変化する。下面21の形状も変化することで設置面1と地面Gとの接地面積がより増加し、設置面1と地面Gとの間の摩擦力はさらに増加する。
【0050】
以上説明したように、発泡体で形成された本体20をポリウレア樹脂で形成された保護層30で覆うことで、傾斜矯正スロープ10としての機能を維持した上で軽量な傾斜矯正スロープ10を形成することができるため、より作業性の優れた傾斜矯正スロープ10を提供することができる。
【0051】
続いて、傾斜矯正スロープ10の製造方法について説明する。まずは、本体20の製造工程について説明する。
【0052】
図9は、プレートPから板材40を切り出す際の一例を示す模式図である。板材40は、例えば矩形状のプレートPから切り出すことで形成される。形成される板材40は、すべて同一形状である。プレートPは、上述した発泡体で形成される。
【0053】
プレートPの厚さは、板材40の厚さT1と等しい。板材40は、例えばプレートPから図9に示す例のように切り出すことができる。図9に示すように板材40を切り出すことで、廃棄する材料を削減することができる。
【0054】
図9に示す例においては、プレートP(M1=2000mm,M2=1000mm)から、12枚の板材40(L1=1000mm,L2=600mm,HT=200mm,角度θ=約26度)を切り出すことができる。
【0055】
図10は、複数の板材40が並べられた様子を示す模式図である。図10に示すように、発泡体で形成された複数の板材40がY方向に並べられている。Y方向は、傾斜面22の傾斜方向と直交している。図10に示す例においては、12枚の板材40が並べられている。Y方向に並べられた複数の板材40は、接着剤による接着や、熱による溶着などにより接続される。複数の板材40は、厚さ方向に貫通させた貫通穴にビス(ボルト)を挿入させてナットを用いて接続されてもよい。本体20は板材40で形成されるため、板材40の形状を変更することで本体20の形状や寸法を自在に変更することができる。
【0056】
以上の工程により、地面側に位置する下面21と、下面21に接続され、下面21に対して傾斜する傾斜面22と、傾斜面22のうち下面21側に位置する一端と反対側に位置する他端に接続され、下面21と平行な上面23とを有する本体20を形成することができる。
【0057】
次に、保護層30の製造工程について説明する。図11は、噴射装置50により硬化前のポリウレア樹脂Rを噴射する様子を示す模式図である。硬化前のポリウレア樹脂Rが複数の板材40で形成された本体20に塗布されることで、保護層30が形成される。
【0058】
硬化前のポリウレア樹脂Rは、例えば噴射装置50により本体20に対して噴射される。硬化前のポリウレア樹脂Rは本体20の表面の全体を覆うように塗布されるため、保護層30は本体20の表面と接触している。ポリウレア樹脂は短時間で硬化する速乾性を有するため、施工性に優れている。ポリウレア樹脂は溶剤を使用しないため、本体20を発泡ポリスチレン等の発泡体で形成する場合であってもその表面が溶けたりすることがない。
【0059】
硬化前のポリウレア樹脂Rを噴射装置50から本体20に対して放物線を描くように噴射させることで、保護層30の表面に図4を用いて説明した凹凸を形成することができる。
【0060】
硬化前のポリウレア樹脂Rを塗布する前に、本体20の表面に穴や溝などの凹部を予め形成してもよい。硬化前のポリウレア樹脂Rが凹部に入り込むことで、保護層30の本体20に対する密着性をさらに向上させることができる。
【0061】
以上の製造方法によれば、発泡体で形成された本体20と、ポリウレア樹脂で形成された保護層30とを備える傾斜矯正スロープ10を製造することができる。
【0062】
第1実施形態の変形例として、例えば本体20は発泡倍率の異なる板材40を組み合わせて形成されてもよいし、発泡体で形成された板材40と発泡体以外の材料で形成された板材とを組み合わせて形成されてもよい。
【0063】
第1実施形態の他の変形例として、本体20は、複数の板材40で形成されず一体物であってもよい。この場合、本体20は、板材40と同じ発泡体で形成される。
【0064】
第1実施形態のさらに他の変形例として、傾斜面22は、下面21と接続されていなくてもよい。この場合、本体20は、下面21と傾斜面22を接続する面をさらに有する。
【0065】
第1実施形態のさらに他の変形例として、本体20は、下面21と平行な上面23を有さなくてもよい。この場合、傾斜矯正スロープ10は支持面3を有さない。
【0066】
第1実施形態のさらに他の変形例として、傾斜矯正スロープ10を着色することで、地面Gに設置される際における傾斜矯正スロープ10の視認性を向上させてもよい。着色は、ポリウレア樹脂によって行われてもよいし、他の方法であってよい。
【0067】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を適宜省略する。
【0068】
図12は、第2実施形態に係る傾斜矯正スロープ100の概略的な斜視図である。傾斜矯正スロープ100は、本体20と、本体20の表面を覆う保護層30と、取手Hとを備えている。傾斜矯正スロープ100は、傾斜矯正スロープ100の運搬時等に使用される取手Hを備える点で第1実施形態と異なる。
【0069】
取手Hは、把持部H1を有している。取手Hは例えばハット型のパイプであるが、この例に限られない。図12に示す例においては、取手Hは例えば傾斜矯正スロープ100に対してビスBを用いて側面4の中央部に取り付けられている。側面4は、設置面1と、傾斜面2および支持面3とを接続し、X方向およびZ方向と平行である。
【0070】
取手Hは、側面4の反対側に位置する側面にも取り付けられてもよいし、そのどちらか一方のみに取り付けられてもよい。取手Hは、設置面1と支持面3とを接続し、Y方向およびZ方向と平行な側面5に取り付けられてもよい。
【0071】
図13は、図12に示す傾斜矯正スロープ100の概略的な部分分解図である。図13において、本体20を形成する複数の板材40のうち、後述する取手Hが取り付けられる側に位置する板材41と、板材41と隣り合う板材42とを例示する。図13において、保護層30は省略されている。
【0072】
取手HがビスBを用いて取り付けられる場合、図13に示すように、例えば板材41と板材42には取手Hが取り付けられる位置と対応する位置に予め加工がされている。すなわち、板材41は、ビスBが挿入される貫通穴h1を有している。貫通穴h1は、ビスBのねじ径よりも大きく加工される。板材42には、板材41と接続された際に貫通穴h1と対応する位置に凹部Dが形成され、この凹部DにナットNTが設けられている。
【0073】
ポリウレア樹脂で保護層30が形成された後、側面4には貫通穴h1と対応する位置に開口が形成される。この開口が形成されることでビスBをナットNTまで挿入させることができる。
【0074】
ビスBが取手Hの有する貫通穴h2、側面4に形成された開口、貫通穴h1の順に挿入され、ナットNTと締結されることで、取手Hは側面4に取り付けられる。ビスBの長さは、取手Hを取り付けた際にビスBの先端がナットNTから数mm程度突出する長さが好ましい。取手Hの取付方法としてビスBを用いる方法を例示したが、取手Hの取付方法はこの例に限られない。
【0075】
傾斜矯正スロープ100が取手Hを備えることで、傾斜矯正スロープ100の可搬性を向上させることができる。取手HをビスBで取り付けることで、必要に応じて取手Hを着脱することが可能となる。
【0076】
第2実施形態の変形例として、傾斜矯正スロープ100は取手Hを備えずに、側面に凹部を設けることで把持部が形成されてもよい。
【0077】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。第1実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を適宜省略する。
【0078】
図14は、第3実施形態に係る傾斜矯正スロープ200の概略的な部分拡大図である。傾斜矯正スロープ200は、本体20と、本体20の表面を覆う保護層31とを備えている。保護層31は、防滑材SAを有している。保護層31が防滑材SAを有することで、保護層31が形成される際に設置面1に凹凸部32が形成される。防滑材SAの一例としては、例えば珪砂などの砂があるが、この例に限られない。
【0079】
保護層31の製造工程について説明する。まず、硬化前のポリウレア樹脂が本体20に塗布されることで、第1層31aが形成される。硬化前のポリウレア樹脂は、図11を用いて説明した噴射装置50などにより塗布される。第1層31aが乾燥する前に、防滑材SAが第1層31aの表面に散布される。
【0080】
防滑材SAが散布され、第1層31aが乾燥した後に、第1層31aおよび防滑材SAの上から硬化前のポリウレア樹脂が塗布され、第2層31bが形成される。図14に示す例においては、第2層31bは、第1層31aよりも厚く形成されている。防滑材SAが散布された状態で硬化前のポリウレア樹脂が塗布されることで、凹凸部32が設置面1に形成される。例えば、防滑材SAが第1層31aの表面全体に均一に散布されることで、凹凸部32は設置面1の全体に形成される。
【0081】
第2層31bが形成された後に、さらに硬化前のポリウレア樹脂が第2層31b上に塗布されてもよい。保護層31が有する凹凸部32は、設置面1のみならず、傾斜面2や支持面3などに形成されてもよい。
【0082】
保護層31が防滑材SAを有するため、第1実施形態の製造方法で保護層30を形成させた場合と比較して、設置面1をより粗くすることができる。保護層31が防滑材SAを有することで、傾斜矯正スロープ200が地面に設置される際における設置面1と地面との間の摩擦力をさらに増加させることができる。
【0083】
例えば傾斜矯正スロープ200上の車両から荷重が加わった場合、設置面1の形状が地面の形状に合わせて変化するのみならず、保護層31が防滑材SAを有するため凹凸部32が地面に対して食い込むことで傾斜矯正スロープ200は地面に対して滑りにくくなる。
【0084】
以上の実施形態は、本発明の範囲を各実施形態にて開示した構成に限定するものではない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
10…傾斜矯正スロープ、1…設置面、2…傾斜面、3…支持面、20…本体、21…下面、22…傾斜面、22a,22b…端部、23…上面、30,31…保護層、40…板材、50…噴射装置、100,200…傾斜矯正スロープ、H…取手、H1…把持部、V…車両。
図1
図2
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図11
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図14