(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板用研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20240527BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240527BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240527BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G11B5/84 A
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
B24B1/00 D
(21)【出願番号】P 2020170760
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】倉田 周弥
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-142064(JP,A)
【文献】特開2021-054990(JP,A)
【文献】特開2020-090625(JP,A)
【文献】特開2013-140644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
C09K 3/14
B24B 37/00
B24B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子(成分A)、水溶性高分子(成分B)、酸(成分C)及び水を含有し、
前記成分Bが、水酸基(芳香環の置換基としての水酸基は除く)を有する構成単位aと、アミノ基、第4級アンモニウム基、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を含むモノマー由来の構成単位b(構成単位aは除く)と、を含む共重合体であ
り、
前記構成単位aは、ヒドロキシエチルアクリルアミド又はエピクロロヒドリン由来の構成単位である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項2】
成分Bの全構成単位中の構成単位aの含有量は5~95モル%であり、構成単位bの含有量は5~95モル%である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Bは、スルホン酸基を含むモノマー由来の構成単位cをさらに含む、請求項1又は2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
成分Bの全構成単位における構成単位a及び構成単位bの合計含有量は60モル%以上である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項5】
成分Bが、下記式(I)又は下記式(II)で表される構成を有する化合物である、請求項1から
4のいずれかに記載の研磨液組成物。
【化1】
式(I)中、X
1
-及びX
2
-は一価の陰イオンを示し、p、q及びrは60≦p+q+r≦100であり、式(II)中、X
3
-は一価の陰イオンを示し、m及びnは60≦m+n≦100である。
【請求項6】
成分Bの含有量が、0.01質量%以下である、請求項1から
5のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項7】
酸化剤(成分D)をさらに含む、請求項1から
6のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する研磨工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1から
7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気ディスク基板用研磨液組成物、並びにこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。高記録密度化するために、単位記録面積を縮小し、弱くなった磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。磁気ディスク基板には、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、表面粗さ、うねり、端面ダレ(ロールオフ)の低減に代表される平滑性・平坦性の向上とスクラッチ、突起、ピット等の低減に代表される欠陥低減に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、特許文献1には、シリカ、酸、界面活性剤、酸化剤、及び水を含有し、前記界面活性剤は、分子中に繰り返し単位と、スルホン酸(塩)基とを有し、さらに繰り返し単位の主査中に芳香族基を有する陰イオン界面活性剤である、研磨剤組成物が開示されている。
特許文献2には、無機粒子、特定のジアリルアミン重合体、酸、及び水を含有し、研磨液組成物中における前記ジアリルアミン重合体の含有量が0.008~0.1重量%である、磁気ディスク基板用研磨液組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-142064号公報
【文献】特開2010-135052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、研磨速度の向上とともに、基板表面のスクラッチの低減が可能な研磨液組成物の開発が求められている。また、一般的に、研磨速度とスクラッチとはトレードオフの関係にあり、例えば、研磨速度を向上させると、スクラッチが増加するという問題がある。
【0006】
そこで、本開示は、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチの低減とを両立できる研磨液組成物、並びにこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法及び基板の研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、無機粒子(成分A)、水溶性高分子(成分B)、酸(成分C)及び水を含有し、前記成分Bが、水酸基(芳香環の置換基としての水酸基は除く)を有する構成単位aと、アミノ基、第4級アンモニウム基、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を含むモノマー由来の構成単位b(構成単位aは除く)と、を含む共重合体である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【0008】
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【0009】
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の研磨組成物によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチの低減とを両立できるという効果が奏されうる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、所定の水溶性高分子を用いることで、研磨速度を向上しても、研磨後の基板表面のスクラッチの増加を抑制できるという知見に基づく。
【0012】
すなわち、本開示は、一態様において、無機粒子(成分A)、水溶性高分子(成分B)、酸(成分C)及び水を含有し、前記成分Bが、水酸基(芳香環の置換基としての水酸基は除く)を有する構成単位aと、アミノ基、第4級アンモニウム及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を含むモノマー由来の構成単位b(構成単位aは除く)とを含む共重合体である、磁気ディスク基板用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度を向上でき、研磨後の基板表面のスクラッチの増加を抑制できる。また、本開示によれば、その他の一又は複数の実施形態において、研磨速度を向上でき、研磨後の基板表面のスクラッチを低減できる。
【0013】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
被研磨基板は、通常、研磨パッドを張り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、研磨液組成物を研磨機に供給し、定盤や被研磨基板を動かすことにより研磨される。このような研磨において、無機粒子が研磨パッドの孔に入り込むと、研磨に作用する無機粒子の数が減り、研磨速度が低下すると考えられる。
本開示では、水溶性高分子(成分B)の水酸基(構成単位a)が無機粒子(成分A)に吸着し、アミノ基又は第4級アンモニウム基(構成単位b)が静電相互作用により研磨パッド又は基板に吸着することで、研磨に作用する無機粒子の粒子数が増加し、研磨速度の向上に寄与すると考えられる。
さらに、水溶性高分子(成分B)が研磨パッドに吸着することにより研磨パッドの表面が軟質化され、研磨パッドによる無機粒子の押し込み応力が緩和され、スクラッチ低減にも寄与すると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
本開示において、基板表面のスクラッチは、例えば、光学式欠陥検査装置により検出可能であり、スクラッチ数として定量評価できる。スクラッチ数は、具体的には実施例に記載した方法で評価できる。
【0015】
[無機粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物に含まれる無機粒子(以下、「成分A」ともいう)としては、研磨液組成物の砥粒用に一般的に使用されている無機粒子を使用することができ、金属、金属若しくは半金属の炭化物、窒化物、酸化物、又はホウ化物、ダイヤモンド等が挙げられる。金属又は半金属元素は、周期律表(長周期型)の2A、2B、3A、3B、4A、4B、5A、6A、7A又は8族由来のものである。成分Aとしては、酸化珪素(以下、シリカという)、酸化アルミニウム(以下、アルミナという)、炭化珪素、ダイヤモンド、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム(以下、セリアという)、酸化ジルコニウム等が挙げられ、これらの1種以上を使用することは研磨速度を向上させる観点から好ましい。中でも、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、成分Aとしては、シリカ粒子が好ましい。シリカ粒子としては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、粉砕シリカ、それらを表面修飾したシリカ等が挙げられ、コロイダルシリカが好ましい。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0016】
成分Aの平均粒径は、研磨速度向上の観点から、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、100nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましく、40nm以下が更に好ましく、30nm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均粒径は、1nm以上100nm以下が好ましく、5nm以上70nm以下がより好ましく、10nm以上40nm以下が更に好ましく、10nm以上30nm以下が更に好ましい。本開示において、「無機粒子の平均粒径」とは、動的光散乱法において検出角90°で測定される散乱強度分布に基づく平均粒径をいう。無機粒子の平均粒径は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0017】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度の向上の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量は、それらの合計含有量をいう。なお、成分Aがシリカの場合、成分Aの含有量はSiO2換算した値である。
【0018】
[水溶性高分子(成分B)]
本開示の研磨液組成物に含まれる水溶性高分子(以下、「成分B」ともいう)は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、水酸基(芳香環の置換基としての水酸基は除く)を有する構成単位aと、アミノ基、第4級アンモニウム基、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を含むモノマー由来の構成単位b(構成単位aは除く)とを含む共重合体である。成分Bは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。本開示において、「水溶性」とは、20℃の水に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mLの溶解度を有することをいう。
【0019】
(構成単位a)
構成単位aは、水酸基(芳香環の置換基としての水酸基は除く)を有する構成単位であって、研磨速度向上の観点から、水酸基(芳香環の置換基としての水酸基は除く)とエチレン性不飽和結合を有する化合物由来の構成単位、又は、エポキシ基を有する化合物由来の構成単位であることが好ましい。
水酸基(芳香環の置換基としての水酸基は除く)とエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、研磨速度向上の観点から、水酸基を有するアクリルアミドが好ましく、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられる。
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、エピクロロヒドリンが挙げられる。
構成単位aは、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上の観点から、ヒドロキシエチルアクリルアミド又はエピクロロヒドリン由来の構成単位であることが好ましい。
【0020】
(構成単位b)
構成単位bは、アミノ基、第4級アンモニウム基、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を含むモノマー由来の構成単位である。なお、構成単位bは、構成単位aを含まない。すなわち、アミノ基を有していても水酸基を有する構成単位は構成単位aに該当する。アミノ基は、一又は複数の実施形態において、第1級アミノ基、第2級アミノ基、又は第3級アミノ基である。構成単位bを形成するモノマーとしては、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、アリル基を有するアミン化合物、アルキル基を有するアミン化合物、アンモニア及びこれらの塩等が挙げられる。アリル基を有するアミン化合物としては、例えば、アリルアミンが挙げられる。アルキル基を有するアミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン等のジアルキルアミンが挙げられる。塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩等が挙げられ、構成単位bとしては、アリルアミン由来の構成単位、ジメチルアミン由来の構成単位、アンモニア由来の構成単位が挙げられる。構成単位bは、1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0021】
成分Bの全構成単位中の構成単位aの含有量は、研磨速度向上の観点から、5モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましく、そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、95モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、60モル%以下が更に好ましい。
【0022】
成分Bの全構成単位中の構成単位bの含有量は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、5モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、40モル%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、95モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましい。
【0023】
成分Bの全構成単位中の構成単位aと構成単位bとのモル比(a/b)は、研磨速度向上の観点から、5/95以上が好ましく、20/80以上がより好ましく、30/70以上が更に好ましく、そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、95/5以下が好ましく、80/20以下がより好ましく、60/40以下が更に好ましい。
【0024】
成分Bの全構成単位中の構成単位a及び構成単位bの合計含有量は、研磨速度向上の観点から、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、90モル%以上が更に好ましく、100モル%が更に好ましい。
【0025】
本開示において、成分Bを構成する全構成単位中のある構成単位の含有量(モル%)として、合成条件によっては、成分Bの合成の全工程で反応槽に仕込まれた全構成単位を導入するための化合物中に占める前記反応槽に仕込まれた該構成単位を導入するための化合物量(モル%)を使用してもよい。また、本開示において、成分Bを構成する2つの構成単位の構成比(モル比)として、合成条件によっては、前記成分Bの合成の全工程で反応槽に仕込まれた該2つの構成単位を導入するための化合物量比(モル比)を使用してもよい。
【0026】
成分Bとしては、例えば、下記式(I)又は下記式(II)で表される構成を有する化合物が挙げられる。
【0027】
【0028】
式(I)中、X1
-及びX2
-は一価の陰イオンを示し、p、q及びrは60≦p+q+r≦100であり、式(II)中、X3
-は一価の陰イオンを示し、m及びnは60≦m+n≦100である。
【0029】
式(I)において、X1
-、X2
-及びX3
-としては、例えば、ハロゲン化物イオン又は水酸化物イオンが挙げられる。X1
-、X2
-及びX3
-は1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
qは、研磨速度向上の観点から、5以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上が更に好ましく、そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、95以下が好ましく、80以下がより好ましく、60以下が更に好ましい。
p+rは、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、5以上が好ましく、20以上がより好ましく、40以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、95以下が好ましく、80以下がより好ましく、70以下が更に好ましい。
r/pは、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、0以上が好ましく、そして、同様の観点から、5以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.5以下が更に好ましい。
p+q+rは、研磨速度向上の観点から、60≦p+q+rが好ましく、70≦p+q+rがより好ましく、80≦p+q+rが更に好ましく、90≦p+q+rが更に好ましく、p+q+r=100が更に好ましい。
【0030】
式(II)において、mは、研磨速度向上の観点から、5以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上が更に好ましく、そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、95以下が好ましく、80以下がより好ましく、60以下が更に好ましい。
nは、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、5以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、95以下が好ましく、80以下がより好ましく、70以下が更に好ましい。
m+nは、研磨速度向上の観点から、60≦m+nが好ましく、70≦m+nがより好ましく、80≦m+nが更に好ましく、90≦m+nが更に好ましく、m+n=100が更に好ましい。
【0031】
成分Bとしては、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、アンモニア/エピクロロヒドリン/ジメチルアミン共重合体、エピクロロヒドリン/ジメチルアミン共重合体、アリルアミン/ヒドロキシエチルアクリルアミド共重合体等が挙げられる。
【0032】
成分Bは、構成単位a及び構成単位b以外のその他の構成単位をさらに含有してもよい。その他の構成単位としては、例えば、スルホン酸基を含むモノマー由来の構成単位cが挙げられる。構成単位cとしては、例えば、イソプレンスルホン酸、2-メタクリルアミドー2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、フェニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。構成単位cは、1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0033】
成分Bを構成する各構成単位の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでもよい。
【0034】
成分Bがアンモニア/エピクロロヒドリン/ジメチルアミン共重合体の場合、成分Bは、例えば、水溶媒中においてアンモニア・ジメチルアミンによるエピクロロヒドリンの開環反応により合成することにより得ることができる。
成分Bがエピクロロヒドリン/ジメチルアミン共重合体の場合、成分Bは、例えば、水溶媒中においてジメチルアミンによるエピクロロヒドリンの開環反応により合成することにより得ることができる。
成分Bがアリルアミン/ヒドロキシエチルアクリルアミド共重合体の場合、成分Bは、例えば、極性溶媒中においてアリルアミンとヒドロキシエチルアクリルアミドとのラジカル重合により合成することにより得ることができる。
【0035】
成分Bの重量平均分子量は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、1,500以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、1,000,000以下が好ましく、750,000以下がより好ましく、500,000以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Bの重量平均分子量は、500以上1,000,000以下が好ましく、1,000以上750,000以下がより好ましく、1,500以上500,000以下が更に好ましい。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて実施例に記載の条件で測定した値とする。
【0036】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、0.000001質量%以上が好ましく、0.00001質量%以上がより好ましく、0.0001質量%以上が更に好ましく、0.0005質量%以上が更に好ましく、0.001質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、0.01質量%以下が好ましく、0.01質量%未満がより好ましく、0.009質量%以下が更に好ましく、0.006質量%以下が更に好ましく、0.005質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、0.000001質量%以上0.01質量%以下が好ましく、0.00001質量%以上0.01質量%以下がより好ましく、0.0001質量%以上0.009質量%以下が更に好ましく、0.0005質量%以上0.006質量%以下が更に好ましく、0.001質量%以上0.005質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0037】
本開示の研磨液組成物中の成分Aに対する成分Bの質量比(成分Bの含有量/成分Aの含有量)は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、0.00001以上が更に好ましく、0.0001以上が更に好ましく、0.0002以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上の観点から、0.02以下が好ましく、0.01以下がより好ましく、0.005以下が更に好ましい。そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Aに対する成分Bの質量比は、0.00001以上0.02以下が好ましく、0.0001以上0.01以下がより好ましく、0.0002以上0.005以下が更に好ましい。
【0038】
[酸(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、酸(成分C)を含有する。本開示において、酸の使用は、酸又はその塩の使用を含む。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0039】
成分Cとしては、例えば、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸;有機リン酸、有機ホスホン酸、カルボン酸等の有機酸;等が挙げられる。中でも、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、無機酸及び有機ホスホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、リン酸及び硫酸の少なくとも一方がより好ましい。有機ホスホン酸としては、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、HEDPがより好ましい。これらの酸の塩としては、例えば、上記の酸と、金属、アンモニア及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも1種との塩が挙げられる。上記金属としては、例えば、周期表の1~11族に属する金属が挙げられる。これらの中でも、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、上記の酸と、1A族に属する金属又はアンモニアとの塩が好ましい。
【0040】
本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度向上の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せである場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0041】
本開示の研磨液組成物中の成分Aに対する成分Cの質量比C/A(成分Cの含有量/成分Aの含有量)は、研磨速度向上の観点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、質量比C/Aは、0.1以上5以下が好ましく、0.2以上4以下がより好ましく、0.3以上3以下が更に好ましい。
【0042】
[水]
本開示の研磨液組成物は、媒体として水を含有する。水としては、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。本開示の研磨液組成物中の水の含有量は、成分A、成分B、成分C及び後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0043】
[酸化剤(成分D)]
本開示の研磨液組成物は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、酸化剤(以下、「成分D」ともいう)をさらに含むことができる。成分Dは、一又は複数の実施形態において、ハロゲン原子を含まない酸化剤である。成分Dは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0044】
成分Dとしては、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、例えば、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、研磨速度向上の観点、被研磨基板の表面に金属イオンが付着しない観点及び入手容易性の観点から、過酸化水素がより好ましい。
【0045】
本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、研磨速度向上の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そしてスクラッチ低減の観点から、4質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、0.01質量%以上4質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下が更に好ましい。成分Dが2種以上の組合せである場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0046】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、複素環芳香族化合物、脂肪族アミン化合物、脂環式アミン化合物、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、研磨速度向上剤、界面活性剤、成分B以外の水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0047】
[研磨液組成物のpH]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度向上の観点から、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、3以下が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、1以上が更に好ましい。そして、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、本開示の研磨液組成物のpHは、0.5以上6以下が好ましく、0.8以上5以下がより好ましく、1以上4以下が更に好ましく、1以上3以下が更に好ましい。pHは、上述した酸(成分C)や公知のpH調整剤等を用いて調整することができる。本開示において、上記pHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータを用いて測定でき、例えば、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値とすることができる。
【0048】
[研磨液組成物の製造方法]
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B、成分C及び水と、さらに所望により、任意成分(成分D及びその他の成分)とを公知の方法で配合することにより製造できる。例えば、本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、少なくとも成分A、成分B、成分C及び水を配合してなるものとすることができる。したがって、本開示は、その他の態様において、少なくとも成分A、成分B、成分C及び水を配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分C及び水、並びに必要に応じて任意成分(成分D及びその他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。成分Aの無機粒子(成分A)は、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。成分Aが複数種類の無機粒子からなる場合、複数種類の無機粒子は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Bが複数種類の水溶性高分子からなる場合、複数種類の水溶性高分子は同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Cが複数種類の酸からなる場合、複数種類の酸は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0049】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における前記各成分の含有量をいう。本開示の研磨液組成物は、その保存安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造及び輸送コストを更に低くできる点で好ましい。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に、必要に応じて前述の水で適宜希釈して使用すればよい。希釈倍率は、希釈した後に上述した各成分の含有量(使用時)を確保できれば特に限定されるものではなく、例えば、10~100倍とすることができる。
【0050】
[研磨液キット]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を製造するためのキット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。本開示の研磨液キットとしては、例えば、成分A及び水を含む砥粒分散液と、成分B及び成分Cを含む添加剤水溶液と、を相互に混合されない状態で含む、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記砥粒分散液と前記添加剤水溶液とは、使用時に混合され、必要に応じて水を用いて希釈される。前記砥粒分散液に含まれる水は、研磨液組成物の調製に使用する水の全量でもよいし、一部でもよい。前記添加剤水溶液には、研磨液組成物の調製に使用する水の一部が含まれていてもよい。前記砥粒分散液及び前記添加剤水溶液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分(成分D及びその他の成分)が含まれていてもよい。本開示の研磨液キットによれば、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチの低減を両立可能な研磨液組成物を得ることができる。
【0051】
[被研磨基板]
被研磨基板は、一又は複数の実施形態において、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である。一又は複数の実施形態において、被研磨基板の表面を本開示の研磨液組成物を用いて研磨する工程の後、スパッタ等でその基板表面に磁性層を形成する工程を行うことにより磁気ディスク基板を製造できる。
【0052】
本開示において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅等の金属及びこれらの金属を主成分とする合金を含有する被研磨基板に好適である。被研磨基板としては、例えば、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板や、結晶化ガラス、強化ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等のガラス基板がより適しており、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板が更に適している。本開示において「Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板」とは、アルミニウム合金基材の表面を研削後、無電解Ni-Pメッキ処理したものをいう。
【0053】
被研磨基板の形状としては、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状が挙げられる。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2~95mm程度であり、その厚みは例えば0.4~2mm程度である。
【0054】
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、粗研磨後の基板の研磨に好適に用いることができる。被研磨基板としては、粗研磨後の基板が挙げられる。粗研磨に用いる砥粒は、アルミナ、シリカ等が挙げられる。
【0055】
[磁気ディスク基板の製造方法]
一般に、磁気ディスクは、研削工程を経た被研磨基板が、粗研磨工程、仕上げ研磨工程を経て研磨され、記録部形成工程にて磁気ディスク化されて製造される。本開示における研磨液組成物は、磁気ディスク基板の製造方法における、被研磨基板を研磨する研磨工程、好ましくは仕上げ研磨工程に使用されうる。すなわち、本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、「本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む、磁気ディスク基板の製造方法(以下、「本開示の基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の基板製造方法は、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。
【0056】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程である。また、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、その他の一又は複数の実施形態において、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する工程である。
【0057】
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程又は仕上げ研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の砥粒や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。さらに、使用した研磨液を再利用する循環研磨においても、本開示の研磨液組成物は使用できる。研磨機としては、特に限定されず、基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0058】
本開示で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、例えば、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができ、研磨速度の向上の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0059】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨荷重は、研磨速度の向上の観点から、好ましくは5.9kPa以上、より好ましくは6.9kPa以上、更に好ましくは7.5kPa以上であり、そして、スクラッチ低減の観点から、20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、更に好ましくは16kPa以下である。本開示の製造方法において研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。また、研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
【0060】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程における本開示の研磨液組成物の供給速度は、スクラッチ低減の観点から、被研磨基板1cm2当たり、好ましくは0.05mL/分以上15mL/分以下であり、より好ましくは0.06mL/分以上10mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上1mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上0.5mL/分以下である。
【0061】
本開示の研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示の研磨液組成物となる。
【0062】
本開示の基板製造方法によれば、本開示における研磨液組成物を用いることで、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できるという効果が奏されうる。
【0063】
[研磨方法]
本開示は、その他の態様として、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法(以下、「本開示の研磨方法」ともいう)に関する。本開示の研磨方法を使用することにより、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できるという効果が奏されうる。本開示の研磨方法における前記被研磨基板としては、上述のとおり、磁気ディスク基板の製造に使用されるものが挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。具体的な研磨の方法及び条件は、上述した本開示の基板製造方法と同じ方法及び条件とすることができる。
【0064】
本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することは、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することであり、或いは、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨することである。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0066】
1.研磨液組成物の調製(実施例1~14及び比較例1~7)
コロイダルシリカ(成分A)、表1に示す水溶性高分子B1~B8(成分B又は非成分B)、リン酸(成分C)、過酸化水素(成分D)、及びイオン交換水を配合して撹拌することにより、表1に示す実施例1~14及び比較例1~7の研磨液組成物を調製した。各研磨液組成物中の各成分の含有量(有効量)は、表1に示すとおりである。イオン交換水の含有量は、成分A、成分B又は非成分B、成分C、及び成分Dを除いた残余である。
【0067】
各研磨液組成物の調製において、成分B、非成分B、成分C及び成分Dには以下のものを使用した。
(成分B)
B1:アンモニア/エピクロロヒドリン/ジメチルアミン共重合体(モル比:5/50/45)[センカ株式会社製、重量平均分子量:10,000]
B2:エピクロロヒドリン/ジメチルアミン共重合体(モル比:50/50)[センカ株式会社製、重量平均分子量:8,000]
B3:アリルアミン/ヒドロキシエチルアクリルアミド共重合体(モル比:70/30)の塩酸中和物[花王社製、重量平均分子量:9,000]
B4:アリルアミン/ヒドロキシエチルアクリルアミド共重合体(モル比:50/50)の塩酸中和物[花王社製、重量平均分子量:10,000]
(非成分B)
B5:アミノベンゼンスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物(モル比45/5/50)[花王社製、重量平均分子量:10,000]
B6:DADMAC(ポリN,Nジアリル(N,N―メチル)アンモニウムクロライド)[日東紡績株式会社製、重量平均分子量:8,500]
B7:DADMAC/SO2(N,Nジアリル(N,Nジメチル)アンモニウムクロライド/二酸化硫黄の共重合体)(モル比:50/50)[日東紡績株式会社製、重量平均分子量:4,000]
B8:ポリビニルアルコール[重量平均分子量:88,000]
(成分C)
リン酸[和光純薬工業社製、特級]
(成分D)
過酸化水素水[濃度35質量%、ADEKA社製]
【0068】
2.各パラメータの測定
(1)コロイダルシリカ(成分A)の平均粒径
研磨液組成物の調製に用いた成分A(コロイダルシリカ)と、成分C(リン酸)とをイオン交換水に添加し、撹拌することにより、標準試料を作製した。標準試料中における成分A及び成分Cの含有量はそれぞれ、1質量%、0.45質量%とした。この標準試料を動的光散乱装置(大塚電子社製DLS-6500)により、同メーカーが添付した説明書に従って、200回積算した際の検出角90°におけるCumulant法によって得られる散乱強度分布の面積が全体の50%となる粒径を求め、コロイダルシリカの平均粒径とした。結果を表1~3に示す。
【0069】
(2)水溶性高分子(成分B及び非成分B)の重量平均分子量
成分B及び非成分Bの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件で測定した。結果を表1~3に示す。
<測定条件>
カラム:TSKgel GMPWXL+TSKgel GMPWXL(東ソー社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=7/3(体積比)
温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料サイズ:2mg/mL
検出器:RI
標準物質:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:1,100、3,610、14,900、152,000、POLMER STANDARDS SERVICE社製)
【0070】
(3)pHの測定
研磨液組成物のpHは、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて25℃にて測定し、電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値を採用した。結果を表1~3に示す。
【0071】
3.研磨方法
前記のように調製した実施例1~14及び比較例1~7の研磨液組成物を用いて、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨した。次いで、研磨速度及びスクラッチ数を後述する測定方法により測定し、結果を表1~3に示した。
なお、比較例5ではシリカが凝集していたため、比較例5の研磨液組成物を用いた研磨は行っていない。
【0072】
[被研磨基板]
被研磨基板として、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板を予めアルミナ砥粒を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。この被研磨基板は、厚さが0.8mm、外径が95mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nmであった。
【0073】
[研磨条件]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(発泡層:ポリウレタンエラストマー、厚さ0.9mm、平均開孔径10μm)
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm2あたりの供給速度:0.076mL/分)
下定盤回転数:32.5rpm
研磨荷重:13.0kPa
研磨時間:6分間
基板の枚数:10枚
【0074】
4.評価
[研磨速度の評価]
研磨前後の各基板1枚当たりの重さを計り(Sartorius社製、「BP-210S」)を用いて測定し、各基板の質量変化から質量減少量を求めた。全10枚の平均の質量減少量を研磨時間で割った値を研磨速度とし、下記式により算出した。実施例1~6及び比較例1~5の研磨速度の測定結果を、比較例1を100とした相対値として表1に示す。実施例7~10及び比較例6の研磨速度の測定結果を、比較例6を100とした相対として表2に示す。実施例11~14及び比較例7の研磨速度の測定結果を、比較例7を100とした相対値として表3に示す。
質量減少量(g)={研磨前の質量(g)- 研磨後の質量(g)}
研磨速度(mg/min)=質量減少量(mg)/ 研磨時間(min)
【0075】
[スクラッチの評価]
測定機器:KLA ・テンコール社製、「Candela OSA7100」
評価:研磨試験機に投入した基板のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10,000rpmにてレーザーを照射してスクラッチ数を測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチ数を算出した。実施例1~6及び比較例1~5のスクラッチ数の測定結果を、比較例1を100とした相対値として表1に示す。実施例7~10及び比較例6のスクラッチ数の測定結果を、比較例6を100とした相対として表2に示す。実施例11~14及び比較例7のスクラッチ数の測定結果を、比較例7を100とした相対値として表3に示す。
【0076】
【0077】
上記表1に示すとおり、実施例1~6の研磨液組成物は、比較例1~5の研磨液組成物に比べて、研磨速度が向上し、スクラッチが効果的に低減していた。
【0078】
【0079】
【0080】
上記表2及び表3に示すとおり、実施例7~14の研磨液組成物も、実施例1~6と同様の傾向であり、比較例6、7の研磨液組成物に比べて、研磨速度が向上し、スクラッチが低減していた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示によれば、例えば、高記録密度化に適した磁気ディスク基板を提供できる。