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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】水着
(51)【国際特許分類】
   A41D 7/00 20060101AFI20240527BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A41D7/00 C
A41D13/00 115
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020173487
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064699
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-11-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年6月23日、http://172.29.3.74/mizuno/Logon.do http://172.29.3.74/mizuno/DispDetail.do?itemID=t000100420736&volumeName=00004&mizunoHinban=N2MG123091 http://172.29.3.74/mizuno/DispDetail.do?itemID=t000100420742&volumeName=00004&mizunoHinban=N2MG143097
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】水口 愛
(72)【発明者】
【氏名】西本 亜佑美
(72)【発明者】
【氏名】亀井 美予子
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235360(WO,A1)
【文献】特開2000-096309(JP,A)
【文献】特開2001-192903(JP,A)
【文献】特開2014-091894(JP,A)
【文献】国際公開第2010/007986(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0045855(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D7/00
A41D13/00-13/12
A41C1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性生地で構成されている水着であって、
上腹部を覆うように配置され、伸縮性織物で構成された上腹部緊締部、
下腹部を覆うように配置され、伸縮性織物で構成された下腹部緊締部、及び
左右対称的に、それぞれの一方の端部が下腹部緊締部の下部かつ外側部に連結され、斜め上方向に脇部を通り、背部腰部より上部かつ脇部より下部に至るように配置され、伸縮性織物で構成された2本の帯状の補強アンカーを有し、
前記上腹部緊締部は、下腹部緊締部より上部かつ腰部より上部を含み乳房の下部に至る上腹部も覆うように配置され、
前記下腹部緊締部は、前記上腹部緊締部より緊締力が高く、
前記下腹部緊締部は、二枚の伸縮性織物を貼り合わせた二重の伸縮性織物で構成されており、
脇腹及び背部を覆う領域において、前記2本の帯状の補強アンカーを除く領域は伸縮性編物で構成されていることを特徴とする水着。
【請求項2】
臀部及び大腿部後面を覆う領域の内側には、伸縮性織物で構成されている後面緊締部が配置され、後面緊締部の外側は伸縮性編物で構成されている請求項1に記載の水着。
【請求項3】
左右のそれぞれにおいて、臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本以上の補強縫製線が互いに交差するように配置されており、前記2本以上の補強縫製線の交点は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置する請求項1又は2に記載の水着。
【請求項4】
左右のそれぞれにおいて、臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本以上の補強縫製線が互いに交差するように配置されており、前記2本以上の補強縫製線の交点は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置しており、前記後面緊締部の外縁部は前記補強縫製線と重なっている請求項2に記載の水着。
【請求項5】
大腿部前面を覆う領域は伸縮性編物で構成されている請求項1~4のいずれかに記載の水着。
【請求項6】
肩周囲を覆う領域に配置され、伸縮性編物で構成されている肩ストラップを有する請求項1~5のいずれかに記載の水着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性生地で構成されている水着に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水着は、泳ぐ時に動きやすくするために、伸びがよい編物で構成することが多かった。一方、近年において、例えば、特許文献1及び2で提案しているように、水着を伸縮性ファブリックで作製することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-525864号公報
【文献】国際公開公報2017/144940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水着を編物で構成した場合、着用者の水泳中の適切な体位をサポートすること、例えば腹部の落ち込みを防止することができない。一方、特許文献1及び2に記載のような織物で構成された水着の場合、腹部に対する圧迫感が強すぎる傾向があった。
【0005】
本発明は、前記問題を解決するため、水泳の際の腹部の落ち込みを抑制し、フラットな姿勢をサポートするとともに、腹部に対する圧迫感を軽減した水着を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、伸縮性生地で構成されている水着であって、上腹部を覆うように配置され、伸縮性織物で構成された上腹部緊締部、下腹部を覆うように配置され、伸縮性織物で構成された下腹部緊締部、及び左右対称的に、それぞれの一方の端部が下腹部緊締部と連結され、斜め上方向に脇腹を通り、背部に至るように配置され、伸縮性織物で構成された2本の帯状の補強アンカーを有し、前記下腹部緊締部は、前記上腹部緊締部より緊締力が高く、脇腹及び背部を覆う領域において、前記2本の帯状の補強アンカーを除く領域は伸縮性編物で構成されていることを特徴とする水着に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、水泳の際の腹部の落ち込みを抑制し、フラットな姿勢をサポートするとともに、腹部に対する圧迫感を軽減した水着を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明の一実施形態の水着の正面図である。
図2図2は本発明の一実施形態の水着の左側面図である。
図3図3は本発明の一実施形態の水着の右側面図である。
図4図4は本発明の一実施形態の水着の背面図である。
図5図5は本発明の一実施形態の水着の左側面の部分拡大図である。
図6図6は下半身の背部の膝から腰部までの部分的模式図であり、2本以上の補強縫製線の交点の位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するために検討を重ねた。その結果、伸縮性生地で構成された水着において、上腹部及び下腹部を覆う領域には伸縮性織物で構成した緊締部を配置し、かつ下腹部緊締部の緊締力を上腹部緊締部の緊締力より高くするとともに、伸縮性織物で構成された2本の帯状の補強アンカーをそれぞれの一方の端部を下腹部緊締部と連結させ、斜め上方向に脇部を通り、背部に至るように左右対称的に配置すること、並びに、脇部及び背部を覆う領域において、前記補強アンカーを除く領域は伸縮性編物で構成することで、水泳の際の腹部の落ち込みを抑制し、フラットな姿勢をサポートするとともに、腹部に対する圧迫感を軽減し得ることを見出した。
【0010】
本発明の1以上の実施形態において、水着は、上述したような上腹部緊締部、下腹部緊締部及び補強アンカーを有することで、水泳の際の腹部の落ち込みを抑制し、フラットな姿勢をサポートすることができる。上腹部緊締部及び下腹部緊締部のみを有する水着の場合は、水泳の際に、これらの緊締部のみでは、水泳の際の腹部の落ち込みを抑制しにくくなるが、さらに下腹部緊締部と一方の端部が連結し、斜め上方向に、脇部を通り、背部に至るように配置された補強アンカーを有することで、驚くことに、水泳の際の腹部の落ち込みを効果的に抑制し、フラットな姿勢をサポートすることができる。また、本発明の1以上の実施形態の水着において、前記補強アンカーを除く脇部及び背部を覆う領域を伸縮性編物で構成することで、緊締部による腹部に対する圧迫感を軽減し、着用感を高めることができる。
【0011】
本発明の1以上の実施形態において、伸縮性生地とは、生地の体長方向及び/又は身幅方向における伸長率が0%を超えることを意味する。
【0012】
本発明の1以上の実施形態において、緊締部は基本的には伸縮性織物で構成される。本発明の1以上の実施形態において、緊締力が高いとは、生地の体長方向及び/又は身幅方向(周方向とも称される。)の伸長率が低いことを意味する。
【0013】
本発明の1以上の実施形態において、生地の伸長率は、JIS L 1096 8.14.1 A法(荷重17.6N(1.8kg)、引張速度200mm/min)に基づいて測定するものである。
【0014】
本発明の1以上の実施形態において、水着を構成する伸縮性生地としては、特に限定されず、通常水着に用いられる伸縮性生地を用いることができる。例えば、弾性糸を含むワンウェイ又はツーウェイの伸縮性織物、或いは、弾性糸を含むワンウェイ又はツーウェイの伸縮性編物等が好ましい。前記弾性糸は、ポリウレタン系弾性糸及びポリエステル系弾性糸からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。ストレッチ性が高く、スポーツ衣料に適しているからである。前記弾性糸は、ベアヤーン(裸糸)として、非弾性糸(リジッド糸)と引きそろえて使用してもよいし、又は表面にポリエステル繊維もしくはナイロン繊維が被覆されたカバードヤーンとして使用してもよい。また、前記伸縮性生地は、二重生地であってもよい。
【0015】
前記伸縮性織物は、特に限定されないが、例えば目付が50g/m2以上250g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは80g/m2以上230g/m2以下であり、さらに好ましくは100g/m2以上200g/m2以下である。この範囲であれば透け等の問題を起こさず、審美性に適しており、また重量感もなく着用性に優れる。
【0016】
前記伸縮性編物は、特に限定されないが、例えば目付が200g/m2以上400g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは250g/m2以上380g/m2以下であり、さらに好ましくは280g/m2以上350g/m2以下である。この範囲であれば透け等の問題を起こさず、審美性に適しており、また重量感もなく着用性に優れる。
【0017】
本発明の1以上の実施形態において、上腹部緊締部、下腹部緊締部及び補強アンカーを構成する伸縮性織物は、特に限定されないが、例えば、緊締力、着用性及びフィット性の観点から、体長方向の伸長率が15%以上75%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以上65%以下であり、さらに好ましくは25%以上55%以下である。また、特に限定されないが、例えば、緊締力、着用性及びフィット性の観点から、身幅方向の伸長率が30%以上75%以下であることが好ましく、より好ましくは35%以上65%以下である。
【0018】
本発明の1以上の実施形態において、緊締力の観点から、下腹部緊締部を構成する伸縮性織物は、上腹部緊締部を構成する伸縮性織物に比べて、体長方向及び/又は身幅方向の伸長率が低く、体長方向の伸長率が低いことがより好ましい。水泳時の腹部の落ち込みを抑制しやすい。
【0019】
下腹部緊締部を構成する伸縮性織物は、腹部に対する面圧を高めやすく、かつ、水泳時にフラットな姿勢を維持しやすい観点から、体長方向の伸長率が10%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上45%以下であり、さらに好ましくは10%以上40%以下である。また、下腹部緊締部を構成する伸縮性織物は、腹部に対する面圧を高めやすく、かつ、水泳時にフラットな姿勢を維持しやすい観点から、身幅方向の伸長率が20%以上70%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以上60%以下である。
【0020】
本発明の1以上の実施形態において、下腹部緊締部は、特に限定されないが、所定の緊締力を得られやすい観点から、二枚の伸縮性織物を重ね合せた二重の伸縮性織物で構成されていることが好ましい。第1の伸縮性織物に第2の伸縮性織物を接着剤等で貼り合せることで二重の伸縮性織物とすることができる。第1の伸縮性織物及び第2の伸縮性織物は、繊維構成や伸長率等が同じであってもよく、異なってもよい。第2の伸縮性織物は、第1の伸縮性織物の裏側(身体側)に配置されてもよく、第1の伸縮性織物の表側に配置されてもよい。
【0021】
本発明の1以上の実施形態において、補強アンカーは、下腹部緊締部との相乗作用によって、水泳時の腹部の落ち込みをより効果的に抑制しつつ、着用感を良好にする観点から、長さL(長手方向のサイズ)が70mm以上200mm以下であることが好ましく、より好ましくは80mm以上180mm以下である。また、本発明の1以上の実施形態において、補強アンカーは、下腹部緊締部との相乗作用によって、水泳時の腹部の落ち込みをより効果的に抑制しつつ、着用感を良好にする観点から、幅Wが10mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは15mm以上85mm以下である。また、補強アンカーの長手方向に垂直する方向の幅Bは、15mm以上40mm以下が好ましく、より好ましくは18mm以上25mm以下である。本発明の1以上の実施形態において、補強アンカーの長さL、幅W及び幅Bは、JASPOのMサイズに相当するものであり、水着を平置きにした状態で測定する。補強アンカーにおいて、下腹部緊締部と連結した一方の端部の幅が、他方の端部の幅より大きいことが好ましい。補強アンカーと下腹部緊締部の連結手段は特に限定されず、接着剤で連結されてもよく、縫製によって連結されてもよいが、補強アンカー及び下腹部緊締部の相乗効果による水泳時の腹部の落ち込みをより効果的に抑制する観点から、縫製によって連結されていることが好ましい。補強アンカーと下腹部緊締部以外の他の部位も、接着剤で連結されてもよく、縫製によって連結されてもよいが、縫製によって連結されていることが好ましい。
【0022】
本発明の1以上の実施形態において、接着剤は、ホットメルト接着剤であることが好ましい。ホットメルト接着剤としては、特に限定されず、例えば、シートタイプ、不織布タイプ、液状タイプ等が挙げられる。
【0023】
本発明の1以上の実施形態において、胸部を覆う領域には伸縮性織物で構成された胸部緊締部が配置されていることが好ましく、胸部緊締部において、乳房を覆う領域の乳房緊締部の緊締力が他の領域の緊締力より高いことがより好ましい。これにより、身体形状の凹凸を軽減し、水泳時の身体形状による形状抵抗を軽減することができる。乳房を覆う領域は、所定の緊締力を得られやすい観点から、二枚の伸縮性織物を重ね合せた二重の伸縮性織物で構成されていることが好ましい。第1の伸縮性織物に第2の伸縮性織物を接着剤等で貼り合せることで二重の伸縮性織物とすることができる。第1の伸縮性織物及び第2の伸縮性織物は、繊維構成や伸長率等が同じであってもよく、異なってもよい。第2の伸縮性織物は、第1の伸縮性織物の裏側(身体側)に配置されてもよく、第1の伸縮性織物の表側に配置されてもよい。乳房緊締部は、下腹部緊締部と同じ生地で構成してもよく、異なる生地で構成してもよい。乳房緊締部以外の胸部緊締部は、上腹部緊締部と同じ生地で構成してもよく、異なる生地で構成してもよい。
【0024】
本発明の1以上の実施形態において、水着は、肩周囲を覆う領域に配置され、伸縮性編物で構成されている肩ストラップを有することが好ましい。これにより、脇下及び肩部を含む肩周囲のストレスが軽減され、水泳時に上腕が動きやすい。
【0025】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、水泳時に下肢が下がることを抑制し、水平姿勢を維持しやすい観点から、臀部及び大腿部後面を覆う領域の内側には、伸縮性織物で構成されている後面緊締部が配置されていることが好ましい。より好ましくは、後面緊締部は水着の下端まで延びている。
【0026】
本発明の1以上の実施形態において、後面緊締部は、特に限定されないが、所定の緊締力を得られやすい観点から、二枚の伸縮性織物を重ね合せた二重の伸縮性織物で構成されていることが好ましい。第1の伸縮性織物に第2の伸縮性織物を接着剤等で貼り合せることで二重生地とすることができる。第1の伸縮性織物及び第2の伸縮性織物は、繊維構成や伸長率等が同じであってもよく、異なってもよい。第2の伸縮性織物は、第1の伸縮性織物の裏側(身体側)に配置されてもよく、第1の伸縮性織物の表側に配置されてもよい。
【0027】
後面緊締部を構成する伸縮性織物は、より効果的に水泳時に下肢が下がることを抑制し、水平姿勢を維持しやすい観点から、体長方向の伸長率が10%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上45%以下であり、さらに好ましくは10%以上40%以下である。また、後面緊締部を構成する伸縮性織物は、より効果的に水泳時に下肢が下がることを抑制し、水平姿勢を維持しやすい観点から、身幅方向の伸長率が20%以上70%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以上60%以下である。下腹部緊締部及び後面緊締部は、同じ生地で構成してもよく、異なる生地で構成してもよい。
【0028】
本発明の1以上の実施形態において、より効果的に水泳時の下肢の水平姿勢を安定化させるとともに、ハムストリングスの動きをサポートする観点から、また、左右のそれぞれにおいて、臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の補強縫製線が互いに交差するように配置されており、前記2本以上の補強縫製線の交点は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置することが好ましく、前記後面緊締部の外縁部は前記補強縫製線と重なっていることがより好ましい。クロール、バタフライ、背泳ぎ及び平泳ぎ時等の各種水泳時に、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3を覆う領域の皮膚伸びが大きく、上述したように、後面緊締部を配置するとともに、体長方向に沿って2本以上の補強縫製線が互いに交差するよう、かつ前記2本以上の補強縫製線の交点が水泳時の皮膚延びが大きい臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの領域に位置するように配置することで、より効果的に水泳時の下肢の水平姿勢を安定化させるとともに、ハムストリングスの動きをサポートすることができる。特に、前記後面緊締部の外縁部と前記補強縫製線が重なっている場合、後面緊締部及び補強縫製線の相乗作用により、水泳時の下肢の水平姿勢を安定化しやすい上、ハムストリングスの動きをより効果的にサポートすることができる。
【0029】
本発明の1以上の実施形態において、「ハムストリングスの近位1/3」とは、ハムストリングスの近位端から遠位端までの身長方向の長さを100%とした場合、近位端からの距離が100%/3である部位をいう。また、「臀部のトップ」とは、大殿筋の上端から下端までの身長方向の長さを100%とした場合、大殿筋の下端からの距離が100%/2である部位をいう。図6は下半身の背部の膝から腰部までの部分的模式図であり、2本以上の補強縫製線の交点の位置が示されている。
【0030】
補強縫製線は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って配置されている。補強縫製線は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、交点が臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの領域に位置するように、体長方向に沿って2本以上、例えば、2本、3本、4本等配置されていればよく、特に限定されない。着用感の観点から、補強縫製線は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、2本配置されていることが好ましい。補強縫製線は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、2本配置されている場合は、左右それぞれにおいて、臀部から大腿部に掛けて、略X字状の構造となる。
【0031】
補強縫製線は、腰部まで延びていてもよい。より効果的に水泳時の下肢の水平姿勢を安定化することができる。補強縫製線は、水着の下端まで延びていてもよい。より効果的に水中姿勢を安定化することができる。補強縫製線の少なくとも1本は、より効果的に水中姿勢を安定化する観点から、仙骨周辺を通るように配置されていることが好ましい。補強縫製線の交点は、より効果的に水中姿勢を安定化し、ハムストリングスの動きをサポートする観点から、ハムストリングスの一部を覆う領域に位置することが好ましい。
【0032】
本発明の1以上の実施形態において、臀部及び大腿部後面を覆う領域において、後面緊締部以外の領域は伸縮性編物で構成されていることが好ましい。また、本発明の1以上の実施形態において、大腿部前面を覆う領域は伸縮性編物で構成されていることが好ましい。後面緊締部及び補強縫製線によって水泳時の下肢の下がりを抑制するとともに、大腿部前面及び後面緊締部以外の大腿部後面を覆う領域を伸縮性編物が構成されていることにより、臀部及び下肢に対する圧迫感を軽減することができ、サイズレンジも広くなる。
【0033】
本発明の1以上の実施形態において、伸縮性編物は、特に限定されないが、例えば、着用感及びフィット性の観点から、体長方向の伸長率が60%以上250%以下であることが好ましく、より好ましくは100%以上200%以下であり、さらに好ましくは120%以上170%以下である。また、伸縮性編物は、身幅方向の伸長率が60%以上250%以下であることが好ましく、より好ましくは100%以上150%以下である。
【0034】
本発明の1以上の実施形態の水着は、伸縮性生地で構成されたものであればよく、その形状は特に限定されない。ワンピースタイプ、オールインワンタイプ(ハーフスパッツ型、ロングスパッツ型)、フルボディタイプ等のいずれであってもよい。袖なしでもよく、袖ありでもよい。また、本発明の1以上の実施形態の水着は、特に限定されないが、着用性の観点から、バックホールを有することが好ましい。
【0035】
以下図面を用いて本発明の1以上の実施形態の水着を説明するが、本発明は、図面に示されたものに限定されない。図1は本発明の一実施形態の水着の正面図であり、図2は同左側面図であり、図3は同右側面図であり、図4は同背面図であり、図5は同左側面の部分拡大図である。該実施形態の水着1は、女子用オールインワンハーフスパッツ型水着である。
【0036】
水着1は、上腹部を覆うように配置された上腹部緊締部10、下腹部を覆うように配置された下腹部緊締部20、それぞれ一方の端部が下腹部緊締部と連結され、斜め上方向に脇部を通り、背部に至るように左右対称的に配置された2本の帯状の補強アンカー30を有する。上腹部緊締部10及び補強アンカー30は、第1の伸縮性織物101で構成されている。下腹部緊締部20は、第1の伸縮性織物101に第2の伸縮性織物102を張り合わせた二重の伸縮性織物で構成されており、上腹部緊締部10より緊締力が高い。水着1は、このような上腹部緊締部10、下腹部緊締部20及び補強アンカー30を有することで、水泳の際の腹部の落ち込みを抑制し、フラットな姿勢(水平姿勢)をサポートすることができる。
【0037】
水着1は、バックホール200を有しており、2本の補強アンカー30の他方の端部は、バックホール200の外縁部まで伸びている。2本の補強アンカー30の他方の端部は、それぞれ、バックホールの上部まで伸びて、互いに離れていてもよく、場合によっては、2本の補強アンカー30の他方の端部は、バックホールの上部まで伸びて、互いに繋がっていてもよい。
【0038】
補強アンカー30において、内側長さL1と外側長さL2は異なっており、内側長さL1が外側長さL2より短くてもよく、内側長さL1と外側長さL2は同じであってもよい。また、補強アンカー30において、下腹部緊締部20側の端部の幅W1とバックホール200側の端部の幅W2は異なっており、下腹部緊締部20側の端部の幅W1が、バックホール200側の端部の幅W2より大きくてもよく、下腹部緊締部20側の端部の幅W1は、バックホール200側の端部の幅W2と同じであってもよい。また、補強アンカー30において、下腹部緊締部20側の端部の幅B1とバックホール200側の端部の幅B2は異なっており、下腹部緊締部20側の端部の幅B1が、バックホール200側の端部の幅B2より大きくてもよく、下腹部緊締部20側の端部の幅B1は、バックホール200側の端部の幅B2と同じであってもよい。
【0039】
水着1の脇部及び背部を覆う領域において、補強アンカー30を除く領域は伸縮性編物103で構成されている。これにより、腹部に対する圧迫感を軽減し得る。
【0040】
水着1は、胸部を覆う領域に配置された胸部緊締部40を有し、胸部緊締部40において、乳房を覆う領域の乳房緊締部41の緊締力が他の領域の緊締力より高い。乳房緊締部41以外の胸部緊締部40は、第1の伸縮性織物101で構成されている。乳房緊締部41は、第1の伸縮性織物101に第2の伸縮性織物102を張り合わせた二重の伸縮性織物で構成されている。これにより、身体形状の凹凸を軽減し、水泳時の身体形状による形状抵抗を軽減することができる。
【0041】
水着1は、肩周囲を覆う領域に配置され、伸縮性編物103で構成されている肩ストラップ50を有する。これにより、脇下及び肩部を含む肩周囲のストレスが軽減され、水泳時に上腕が動きやすい。
【0042】
水着1は、臀部及び大腿部後面を覆う領域の内側に配置されている後面緊締部60を有する。後面緊締部60は水着の下端まで延びている。後面緊締部60は、第1の伸縮性織第1の伸縮性織物101に第2の伸縮性織物102を張り合わせた二重の伸縮性織物で構成されている。これにより、水泳時の下肢が下がることを抑制し、水平姿勢を維持しやすい。
【0043】
水着1は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って配置されている2本の補強縫製線70a、70bを有する。補強縫製線70a、70bの交点が臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの領域に位置するように配置されている。補強縫製線70a、70bは、左右それぞれにおいて、臀部から大腿部に掛けて、略X字状の構造となっている。後面緊締部60の外縁部は、補強縫製線70a及び70bのそれぞれの一部と重なっている。補強縫製線70a、70bの上部は腰部まで延びており、補強縫製線70a、70bの下部は水着の下端まで延びている。これにより、後面緊締部60との相乗作用により、より効果的に水中姿勢を安定化することができる。
【0044】
水着1の臀部及び大腿部の後面における後面緊締部60以外の領域及び大腿部前面を覆う領域は伸縮性編物103で構成されている。これにより、後面緊締部による臀部及び下肢に対する圧迫感を軽減することができる上、サイズレンジも広くなる。
【0045】
水着1において、第1の伸縮性織物101に第2の伸縮性織物102を接着剤で張り合わせることができる。また、水着1において、各バーツは縫製で一体化することができる。
【0046】
図1図5に示された水着1において、第2の伸縮性織物102は裏側(体表面側)に配置されているが、本発明の水着は、これらに限定されない。例えば、必要に応じて、第2の伸縮性織物102の全部又は一部は水着の表側に配置されていてもよい。また、図1図5においては、女子用水着を説明しているが、伸縮性生地で構成されている水着であれば、他のタイプの女子用水着や男子用水着に適用することができる。また、本発明の範囲内において、適宜様々な変更は当業者に明らかな範囲で可能である。
【0047】
本発明は、特に限定されないが、好ましくは、以下の態様を含む。
[1] 伸縮性生地で構成されている水着であって、
上腹部を覆うように配置され、伸縮性織物で構成された上腹部緊締部、
下腹部を覆うように配置され、伸縮性織物で構成された下腹部緊締部、及び
左右対称的に、それぞれの一方の端部が下腹部緊締部と連結され、斜め上方向に脇部を通り、背部に至るように配置され、伸縮性織物で構成された2本の帯状の補強アンカーを有し、
前記下腹部緊締部は、前記上腹部緊締部より緊締力が高く、
脇腹及び背部を覆う領域において、前記2本の帯状の補強アンカーを除く領域は伸縮性編物で構成されていることを特徴とする水着。
[2] 前記下腹部緊締部は、二重の伸縮性織物で構成されている、[1]に記載の水着。
[3] 臀部及び大腿部後面を覆う領域の内側には、伸縮性織物で構成されている後面緊締部が配置され、後面緊締部の外側は伸縮性編物で構成されている、[1]又は[2]に記載の水着。
[4] 左右のそれぞれにおいて、臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本以上の補強縫製線が互いに交差するように配置されており、前記2本以上の補強縫製線の交点は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置する、[1]~[3]のいずれかに記載の水着。
[5] 前記後面緊締部の外縁部は前記補強縫製線と重なっている、[4]に記載の水着。
[6] 大腿部前面を覆う領域は伸縮性編物で構成されている、[1]~[5]のいずれかに記載の水着。
[7] 肩周囲を覆う領域に配置され、伸縮性編物で構成されている肩ストラップを有する、[1]~[6]のいずれかに記載の水着。
【実施例
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
実施例及び比較例では、下記の伸縮性生地を用いた。
第1の伸縮性織物101:平織りと二重織を組み合わせた織物で、目付けは138g/m2であり、織物の繊維組成は、ナイロン繊維65%、ポリウレタン弾性繊維35%であった。経糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:78dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数:10本)をカバーリングした糸を用いた。緯糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:55dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数10本)をカバーリングした糸とポリウレタン弾性繊維(繊度:44dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数10本)をカバーリングした糸を用いた。密度(打ち込み本数)は、経糸184本/インチ、緯糸188本/インチであった。該生地を経糸が周方向に沿うように用いた。第1の伸縮性織物101の体長方向の伸長率は37.4%であり、身幅方向の伸長率は53.3%であった。
第2の伸縮性織物102:平織りの織物で、目付けは114g/m2であり、織物の繊維組成は、ナイロン繊維66%、ポリウレタン弾性繊維34%であった。経糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:55dtex)にナイロン繊維(繊度:24dtex、フィラメント数:7本)をカバーリングした糸を用いた。緯糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:44dtex)にナイロン繊維(繊度:24dtex、フィラメント数7本)をカバーリングした糸を用いた。密度(打ち込み本数)は、経糸219本/インチ、緯糸187本/インチであった。該生地を経糸が周方向に沿うように用いた。第2の伸縮性織物102の体長方向の伸長率は54.6%であり、身幅方向の伸長率は49.5%であった。
二重の伸縮性織物:第1の伸縮性織物101と第2の伸縮性織物102をホットメルト接着剤(ユタックス社製、品名「J861」)で生地端を貼り合わせて二重の伸縮性織物として用いた。なお、第1の伸縮性織物101と第2の伸縮性織物102は、いずれも経糸が周方向に沿うように用いた。二重の伸縮性織物の体長方向の伸長率は30.9%であり、身幅方向の伸長率は56.8%であった。
伸縮性編物103:経編、目付けは306g/m2であり、繊維組成は、ポリエステル繊維(繊度:56dtex、フィラメント数:36本)84%、ポリウレタン弾性繊維(繊度:44dtex)16%であった。体長方向の伸長率は151.2%であり、身幅方向の伸長率は125.0%であった。
【0050】
(実施例1)
第1の伸縮性織物101、第2の伸縮性織物102、二重の伸縮性織物及び伸縮性編物103を用いて、図1~4に示すような水着1(JASPO規格Mサイズ)を作製した。
補強アンカー30において、下腹部緊締部20側の端部の幅W1は77mmであり、バックホール200側の端部の幅W2は27mmであった。補強アンカー30において、内側長さL1は109mmであり、外側長さL2は157mmであった。また、下腹部緊締部20側の幅B1は22.4mmであり、バックホール200側の幅B2は21.9mmであった。
後面緊締部60は、臀部から大腿部内側の領域を覆うように配置されていた。
2本の補強縫製線70a及び70bの交点はハムストリングスを覆う領域に配置されていた。
【0051】
(比較例1)
水着全体を伸縮性編物103で構成した以外は、実施例1と同様にして水着を作製した。
【0052】
(比較例2)
補強アンカーを設けず、補強アンカーの対応する領域も伸縮性編物103で構成する以外は、実施例1と同様にして水着を作製した。
【0053】
(比較例3)
伸縮性編物103の代わりに第1の伸縮性織物を用いた以外は、実施例1と同様にして水着を作製した。
【0054】
実施例及び比較例の水着による衣服圧を下記のように測定し、その結果を下記表1に示した。
【0055】
(衣服圧の測定)
マネキン(サンクリエイト社製、女性用マネキン)に、衣服圧センサーを、それぞれ、へその直下に該当する部位(測定部位1)、測定部位1の上方に位置し、測定部位1からの体長方向の垂直距離が7cmである部位(測定部位2)、測定部位1の右方向に位置し、測定部位1からの身幅方向の垂直距離が5cmである部位(測定部位3)に貼り付けた後、衣服圧測定用装置(エイエムアイ・テクノ社製、品名「接触圧測定器 AMI3032-2(2B)」)にて衣服圧を測定した。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1においては、水泳時に落ちやすい部位である測定部位2における衣服圧が比較例3と同等であるうえ、測定部位1及び3における衣服圧が適切な値となっており、腹部に対する圧迫感も軽減されている。比較例2の場合は、比較例1よりは衣服圧が高くなっているものの、水泳時に落ちやすい部位である測定部位2における衣服圧が比較例3より小さく、水泳時の腹部の落ち込みを抑制し難い。
【0058】
実施例及び比較例の水着を9名の週に数回トレーニングを行っているマスターズスイマー男女に着用させ、水泳中におけるボディポジション(ここでは腹部と下肢の水中での位置をいう。)の落ち込みに対する抑制感の程度を、比較例1を基準に下記の5段階の基準で評価した。その結果を下記表2に示した。また、腹部に対する圧迫感を、比較例3を基準に下記の3段階の基準で評価した。その結果を下記表2に示した。
【0059】
(ボディポジション)
1:低い
2:やや低い
3:同じ
4:やや高い
5:高い
【0060】
(腹部に対する圧迫感)
1:弱い
2:やや弱い
3:同じ
【0061】
【表2】
【0062】
上記表2のデータから分かるように、実施例の水着を着用した方が水泳の際の腹部及び下肢の落ち込みが抑制されるとともに、腹部に対する圧迫感も軽減される。
【0063】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は例示であって、本発明はこれらに限定されない。本発明の範囲は、請求の範囲の記載に基づいて解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の水着は、練習用水着として用いてもよく、女子の場合は、レース初心者やマスターズ水泳用水着としても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 水着
10 上腹部緊締部
20 下腹部緊締部
30 補強アンカー
40 胸部緊締部
41 乳房緊締部
50 肩ストラップ
60 後面緊締部
70a、70b 補強縫製線
101 第1の伸縮性織物
102 第2の伸縮性織物
103 伸縮性編物
200 バックホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6