IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーウオッチ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】情報表示機構、ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/26 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
G04B19/26 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020188677
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077713
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】森 裕一
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】スイス国特許発明第701836(CH,B5)
【文献】スイス国特許出願公開第694349(CH,A3)
【文献】欧州特許出願公開第3477402(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/00 - 19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線回りに回転可能な第1表示部と、
前記第1表示部に動力を伝える第1動力部と、
前記第1軸線とは非同軸となるように配置された第2軸線回りに回転可能な第2表示部と、
前記第2表示部に動力を伝える第2動力部と、
前記第1表示部及び前記第2表示部がそれぞれ所定の周期で回転するように、前記第1表示部及び前記第2表示部の回転を制御する回転制御部と、を備え、
前記第1表示部及び前記第2表示部は、前記第1軸線を中心とした前記第1表示部の回転位置と、前記第2軸線を中心とした前記第2表示部の回転位置との相対位置の変化に基づいて、協働で情報を表示し
前記第1表示部及び前記第2表示部は、地板の厚さ方向に異なる高さ位置となるように配置され、
前記回転制御部は、前記地板の厚さ方向に重なり合うように前記第1表示部と前記第2表示部とを回転させ、
前記第1表示部及び前記第2表示部は、前記地板の厚さ方向から見た平面視での相対位置の変化に基づいて前記情報を表示し、
前記回転制御部は、前記第1表示部及び前記第2表示部の回転途中において、前記地板の厚さ方向から見て、前記第1表示部の全体が前記第2表示部の裏側に隠れた隠れ状態と、前記第1表示部の全体が前記第2表示部の裏側から抜け出した露出状態と、を少なくとも含むように前記第1表示部と前記第2表示部とを回転させることを特徴とする情報表示機構。
【請求項2】
請求項に記載の情報表示機構において、
前記回転制御部は、
時間変化に対応して回転する回転体と、
前記回転体の回転に伴って、前記第1軸線を中心とした所定の回転角度範囲内で往復回転するように前記第1表示部を回転制御する第1回転制御部と、
前記回転体の回転に伴って、前記第2軸線を中心とした所定の回転角度範囲内で往復回転するように前記第2表示部を回転制御する第2回転制御部と、を備える情報表示機構。
【請求項3】
請求項に記載の情報表示機構において、
前記第1回転制御部は、前記回転体の回転に伴って回転する第1カムと、前記第1カムの回転に追従して揺動することで前記第1表示部の回転を制御する第1制御レバーと、を備え、
前記第2回転制御部は、前記回転体の回転に伴って回転する第2カムと、前記第2カムの回転に追従して揺動することで前記第2表示部の回転を制御する第2制御レバーと、を備えている、情報表示機構。
【請求項4】
請求項に記載の情報表示機構において、
前記回転体、前記第1カム及び前記第2カムは、共通の同軸上に配置されている、情報表示機構。
【請求項5】
請求項からのいずれか1項に記載の情報表示機構において、
前記回転体は、月の満ち欠けの周期で1回転する月齢車とされ、
前記第1回転制御部は、前記回転体の1回転に対応して、前記第1表示部を1往復するように回転を制御し、
前記第2回転制御部は、前記回転体の1回転に対応して、前記第2表示部を前記第1表示部とは異なる位相で1往復するように回転を制御し、
前記第1表示部及び前記第2表示部は、位相差に対応した相対位置の変化に基づいて、前記情報として月齢を表示する、情報表示機構。
【請求項6】
請求項からのいずれか1項に記載の情報表示機構において、
前記第1表示部は、月を模した平面視円形状の月板とされ、
前記第2表示部は、前記第1表示部よりも暗色の平面視円形の影板とされ、
前記第1表示部及び前記第2表示部は、前記情報として月齢を表示する、情報表示機構。
【請求項7】
請求項又はに記載の情報表示機構において、
前記回転体を強制的に回転させて、前記第1表示部及び前記第2表示部の相対位置関係を修正する月齢修正機構を備えている、情報表示機構。
【請求項8】
請求項に記載の情報表示機構において、
前記月齢修正機構は、
前記回転体に隣接して配置され、揺動軸線を中心として待機位置と修正位置との間を揺動可能とされた月齢修正レバーと、
前記月齢修正レバーを前記待機位置に向けて付勢するレバーばねと、
前記月齢修正レバーに揺動可能に設けられ、前記修正位置に前記月齢修正レバーが位置したときに、前記回転体を一方向に向けて所定の回転量分、送り回転させる修正爪と、を備え、
前記月齢修正レバーには、前記月齢修正レバーが前記修正位置から前記待機位置に復帰するときに、前記修正爪が前記回転体から離反することを許容し、且つ前記月齢修正レバーが前記修正爪と前記回転体とが離間した位置まで復帰したときに、前記修正爪を付勢して前記送り回転を行うときの姿勢に戻す爪戻しばねが設けられている、情報表示機構。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の情報表示機構を備えていることを特徴とするムーブメント。
【請求項10】
請求項に記載のムーブメントを備えていることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報表示機構、ムーブメント及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、時刻以外の情報を表示する時計として、月齢を表示する月齢表示機構を具備する時計が知られている。この種の月齢表示機構は、一定の周期で満ち欠けを繰り返す月の状態を、時刻変化に関連付けて表示するものであって、その表示方法には従来から工夫がなされている。
なお「月齢」とは、月の満ち欠けの状態を知るための目安になる数値であって、新月を「月齢0」とし、新月からの経過日数を表すものとして知られている。一般的に、月は約29.5日の周期で満ち欠けを繰り返し、満月は約「月齢14.8」として表される。
【0003】
下記特許文献1には、月齢表示窓が形成された文字板と、2つの月絵(満月)が表示された月板とを有し、時刻変化に関連付けて月板を回転させることにより、月齢表示窓を通じて、満ち欠けを繰り返すように月絵を表示させることができる月齢表示付き時計が開示されている。
【0004】
また下記特許文献2には、月の満ち欠けの変化が段階的に表示された平面視扇形状の月齢表示部と、時刻変化に関連付けて揺動することで、月齢表示部を指針する月針とを備えた月齢表示機構が開示されている。
【0005】
また下記特許文献3には、平面視円弧状の月齢表示窓が形成された文字板と、異なる色で形成された第1月板及び第2月板とを有し、時刻変化に関連付けて第1月板及び第2月板が月齢表示窓内で互いに逆向きに揺動する月齢表示機構が開示されている。
なお、第1月板及び第2月板は、時計の厚み方向に重なり合うことが可能とされ、第1月板及び第2月板の重なり合いの変化によって、月の満ち欠けを表示することが可能とされている。
【0006】
さらに下記特許文献4には、月を模した球体を有し、時刻変化に関連付けて球体を回転させる月齢表示機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2635554号公報
【文献】欧州特許出願公開第1321832号明細書
【文献】欧州特許第1692574号明細書
【文献】欧州特許第2687918号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の記載の月齢表示付き時計では、月板に2つの月絵を180度の間隔をあけて表示しているので、月板のうち月絵が占める占有面積が大きくなってしまう。そのため、例えば直径4mmの月絵を表示する場合には、少なくとも直径10mmサイズの月板となってしまい、狭い領域で月齢表示(情報表示)することが難しい。
さらに、新月付近を表示する場合、2つの月絵が月齢表示窓に同時に現れてしまう状況が発生することが想定され、月齢の区別が視覚的に区別し難くなってしまう。そのため、安定して月齢表示(情報表示)することについて、改善の余地がある。
【0009】
上記特許文献2に記載の月齢表示機構では、月齢表示の逆転ができない構成となっているため扱い難いうえ、月の満ち欠けの終了時に、月針が終点から始点に瞬間的に移動する構成であるため月齢表示機構への負荷が大きいものであった。
上記特許文献3に記載の月齢表示機構では、第1月板及び第2月板の全移動量のうちの半分において、第1月板及び第2月板が重なることがないので、月齢表示に貢献しない無駄な動きが多かった。そのため、月齢表示(情報表示)を連続的に効率良く行うことについて、改善の余地がある。
さらに上記特許文献4に記載の月齢表示機構では、月を模した球体を利用するので、厚みが増えてしまい、小型化及び薄型化等を図り難かった。
【0010】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、狭い領域であっても良好な視認性で、連続的に安定且つ効率良く情報を表示することができるうえ、機構にかかる負荷を低減でき、さらに小型化及び薄型化を図ることができる情報表示機構、ムーブメント及び時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る情報表示機構は、第1軸線回りに回転可能な第1表示部と、前記第1表示部に動力を伝える第1動力部と、前記第1軸線とは非同軸となるように配置された第2軸線回りに回転可能な第2表示部と、前記第2表示部に動力を伝える第2動力部と、前記第1表示部及び前記第2表示部がそれぞれ所定の周期で回転するように、前記第1表示部及び前記第2表示部の回転を制御する回転制御部と、を備え、前記第1表示部及び前記第2表示部は、前記第1軸線を中心とした前記第1表示部の回転位置と、前記第2軸線を中心とした前記第2表示部の回転位置との相対位置の変化に基づいて、協働で情報を表示し、前記第1表示部及び前記第2表示部は、地板の厚さ方向に異なる高さ位置となるように配置され、前記回転制御部は、前記地板の厚さ方向に重なり合うように前記第1表示部と前記第2表示部とを回転させ、前記第1表示部及び前記第2表示部は、前記地板の厚さ方向から見た平面視での相対位置の変化に基づいて前記情報を表示し、前記回転制御部は、前記第1表示部及び前記第2表示部の回転途中において、前記地板の厚さ方向から見て、前記第1表示部の全体が前記第2表示部の裏側に隠れた隠れ状態と、前記第1表示部の全体が前記第2表示部の裏側から抜け出した露出状態と、を少なくとも含むように前記第1表示部と前記第2表示部とを回転させることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る情報表示機構によれば、回転制御部によって第1表示部及び第2表示部の回転を制御しながら、第1動力部からの動力を利用して第1表示部を第1軸線回りに所定の周期で回転させ、且つ第2動力部からの動力を利用して第2表示部を第2軸線回りに所定の周期で回転させることができる。このとき、第1軸線と第2軸線とは非同軸とされているので、第1表示部と第2表示部とを平面方向に離した状態で別々の動きをさせることができる。これにより、第1軸線を中心とした第1表示部の回転位置と、第2軸線を中心とした第2表示部の回転位置との相対位置を刻々と変化させることができ、第1表示部及び第2表示部の相対位置の変化に基づいて協働して情報を表示することができる。
【0013】
このように、2つの表示部(第1表示部及び第2表示部)の相対位置の変化を利用して情報を表示するので、狭い領域であっても良好な視認性で情報を表示することができる。さらに、2つの表示部(第1表示部及び第2表示部)の相対位置を刻々と変化させることができるので、情報表示のための無駄な動きがなく、連続的に安定且つ効率良く情報を表示することができる。さらに、第1表示部及び第2表示部を逆転させることも可能であるうえ、従来のように瞬間的に移動するような動きが不要であるため、機構にかかる負荷を低減することが可能である。さらには、従来の球体のような厚みを有する部材が不要であるので、小型化及び薄型化を図ることができる。
【0015】
さらに、第1表示部と第2表示部とを地板の厚さ方向に重なり合うようにそれぞれ回転させることができるので、地板の厚さ方向から見た平面視(視点)での相対位置の変化、すなわち第1表示部と第2表示部との重なり具合の変化に基づいて情報を表示することができる。これにより、第1表示部と第2表示部との相対位置の変化を明瞭に視認することができ、情報を良好な視認性で表示することができる。
さらに、第1表示部と第2表示部とを重なり合わせることができるので、より狭い領域で情報を効率良く表示することができ、情報表示に必要な占有面積を小さくすることができる。従って、情報表示機構を各種のデバイス等に適用し易い。
【0017】
さらに、第1表示部と第2表示部との重なり具合の変化に基づいて情報を表示するときに、第1表示部の全体が第2表示部の裏側に隠れた隠れ状態と、第1表示部の全体が第2表示部の裏側から抜け出した露出状態とにすることができるので、少なくとも大きく異なる2つの態様を明瞭に表示することができ、使い易い。
【0018】
)前記回転制御部は、時間変化に対応して回転する回転体と、前記回転体の回転に伴って、前記第1軸線を中心とした所定の回転角度範囲内で往復回転するように前記第1表示部を回転制御する第1回転制御部と、前記回転体の回転に伴って、前記第2軸線を中心とした所定の回転角度範囲内で往復回転するように前記第2表示部を回転制御する第2回転制御部と、を備えても良い。
【0019】
この場合には、時間変化に対応して回転する回転体の回転に伴って、第1回転制御部及び第2回転制御部が第1表示部及び第2表示部をそれぞれ回転制御するので、時間変化に関連付けた状態で情報を表示することができる。そのため、時刻以外の情報、例えば月齢、曜日、日付等の情報を表示することが可能となる。
さらに第1表示部及び第2表示部を、往復回転(揺動)するように回転制御することができるので、さらに狭い領域であっても第1表示部及び第2表示部を連続的に動かしながら情報を正確に表示することができる。
【0020】
)前記第1回転制御部は、前記回転体の回転に伴って回転する第1カムと、前記第1カムの回転に追従して揺動することで前記第1表示部の回転を制御する第1制御レバーと、を備え、前記第2回転制御部は、前記回転体の回転に伴って回転する第2カムと、前記第2カムの回転に追従して揺動することで前記第2表示部の回転を制御する第2制御レバーと、を備えても良い。
【0021】
この場合には、時間変化に対応して回転体が回転することで、回転体の回転に伴って第1カム及び第2カムを同時に回転させることができる。そのため、第1カムの回転に追従するように第1制御レバーを揺動させることができ、第1制御レバーの揺動によって第1表示部を適切に往復回転させることができる。同様に第2カムの回転に追従するように第2制御レバーを揺動させることができ、第2制御レバーの揺動によって第2表示部を適切に往復回転させることができる。
特に、第1カム及び第2カムを利用するだけの簡便な構成で、時間変化に関連付けて第1表示部及び第2表示部を往復回転させることができるので、作動の確実性及び構成の簡略化を図ることができる。
【0022】
)前記回転体、前記第1カム及び前記第2カムは、共通の同軸上に配置されても良い。
【0023】
この場合には、回転体、第1カム及び第2カムを共通の同軸上に配置できるので、機構の全体を平面方向にコンパクトに配置することができる。
【0024】
)前記回転体は、月の満ち欠けの周期で1回転する月齢車とされ、前記第1回転制御部は、前記回転体の1回転に対応して、前記第1表示部を1往復するように回転を制御し、前記第2回転制御部は、前記回転体の1回転に対応して、前記第2表示部を前記第1表示部とは異なる位相で1往復するように回転を制御し、前記第1表示部及び前記第2表示部は、位相差に対応した相対位置の変化に基づいて、前記情報として月齢を表示しても良い。
【0025】
この場合には、時間変化に対応して月齢車である回転体が徐々に回転させることができ、月の満ち欠けの周期(約29.5日)で回転させることができる。また、月の満ち欠けの周期に対応して、第1表示部を1往復するように回転させ、第2表示部を第1表示部とは異なる位相で1往復させることができる。これにより、月の満ち欠けの周期に対応して、第1表示部と第2表示部とを異なる位相で回転させることができ、位相差に対応した相対位置の変化、すなわち第1表示部と第2表示部との重なり具合の変化に基づいて、情報である月齢を表示することができる。
つまり、2つの表示部(第1表示部及び第2表示部)の重なり具合を、月の満ち欠けの周期(約29.5日)で刻々と変化させることができ、一目で月齢を把握することが可能となる。
【0026】
)前記第1表示部は、月を模した平面視円形状の月板とされ、前記第2表示部は、前記第1表示部よりも暗色の平面視円形の影板とされ、前記第1表示部及び前記第2表示部は、前記情報として月齢を表示しても良い。
【0027】
この場合には、第1表示部が月板とされ、第2表示部が暗色の影板とされているので、月板と影板との重なり具合の変化によって、例えば新月(月齢0)、満月(月齢14.8)、上弦の月(月齢7.4)、下弦の月(月齢22.1)等の月齢を一目で明瞭に把握することができる。
【0028】
)前記回転体を強制的に回転させて、前記第1表示部及び前記第2表示部の相対位置関係を修正する月齢修正機構を備えても良い。
【0029】
この場合には、月齢修正機構によって、月齢車である回転体を強制的に回転させることができ、第1表示部及び第2表示部の相対位置関係を修正して月齢修正を行うことができる。
【0030】
)前記月齢修正機構は、前記回転体に隣接して配置され、揺動軸線を中心として待機位置と修正位置との間を揺動可能とされた月齢修正レバーと、前記月齢修正レバーを前記待機位置に向けて付勢するレバーばねと、前記月齢修正レバーに揺動可能に設けられ、前記修正位置に前記月齢修正レバーが位置したときに、前記回転体を一方向に向けて所定の回転量分、送り回転させる修正爪と、を備え、前記月齢修正レバーには、前記月齢修正レバーが前記修正位置から前記待機位置に復帰するときに、前記修正爪が前記回転体から離反することを許容し、且つ前記月齢修正レバーが前記修正爪と前記回転体とが離間した位置まで復帰したときに、前記修正爪を付勢して前記送り回転を行うときの姿勢に戻す爪戻しばねが設けられても良い。
【0031】
この場合には、月齢修正を行うにあたって、月齢修正レバーを待機位置から修正位置に向けてレバーばねの付勢力に抗して揺動軸線回りに揺動させ、月齢修正レバーを修正位置に移動させると、修正爪が回転体を一方向に向けて所定の回転量分、送り回転させる。これにより、月齢車である回転体の回転位置を修正することができ、第1表示部と第2表示部との重なり具合を修正して月齢修正を確実に行うことができる。
【0032】
また、月齢修正レバーの揺動を解除すると、レバーばねの付勢力によって月齢修正レバーを修正位置から待機位置に復帰させることができる。この際、修正爪を爪戻しばねの付勢力に抗して回転体から離反させることができるので、月齢修正レバーが待機位置に復帰する際に、修正爪が回転体を修正前の位置に向けて逆転させてしまうことを防止することができる。従って、修正した月齢を維持することができる。
なお、月齢修正レバーが修正爪と回転体とが離間した位置まで復帰すると、修正爪は爪戻しばねからの付勢力によって送り回転を行うときの姿勢に復帰するので、次回の月齢修正に備えることができる。
【0033】
)本発明に係るムーブメントは、前記情報表示機構を備えていることを特徴とする。
10)本発明に係る時計は、前記ムーブメントを備えていることを特徴とする。
【0034】
この場合には、上記情報表示機構を備えているので、時刻以外の情報を良好な視認性で、連続的に安定且つ効率良く表示することができ、機能性が向上した高品質且つ高性能なムーブメント及び時計とすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、狭い領域であっても良好な視認性で、連続的に安定且つ効率良く情報を表示することができるうえ、機構にかかる負荷を低減でき、さらに小型化及び薄型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る実施形態を示す図であって、時計の平面図である。
図2図1に示す時計からメインガラス、文字板等を取り外した平面図である。
図3図2に示す指針を取り外した状態におけるムーブメントの平面図である。
図4図2に示すムーブメントの斜視図である。
図5図3に示すムーブメントから月板、影板、ベース板及び裏物押さえ等を取り外した状態の平面図である。
図6図3に示すムーブメントから月板、影板及び裏物押さえ等を取り外した状態の斜視図である。
図7図4に示すムーブメントの縦断面図であって、筒車、日の裏車及び月齢輪列の周辺の縦断面図である。
図8図4に示すムーブメントが具備する月齢表示機構のブロック図である。
図9図4に示すムーブメントの縦断面図であって、月板、月車及び第1動力部の周辺の縦断面図である。
図10図4に示すムーブメントの縦断面図であって、影板、影車及び第2動力部の周辺の縦断面図である。
図11図4に示すムーブメントにおける、月カム、影カム、月齢車、第1動力部、第2動力部、及び回転制御部の関係を示す平面図である。
図12図11に示す第1動力部の周辺の斜視図である。
図13図12に示す状態から月戻し歯車を取り外した状態を示す斜視図である。
図14図13に示す状態から連結歯車を取り外した状態を示す斜視図である。
図15図4に示すムーブメントの縦断面図であって、月齢車及び月齢輪列の周辺の縦断面図である。
図16図4に示すムーブメントにおける月齢車と月齢輪列との関係を示す平面図である。
図17図4に示す月齢修正機構の周辺の斜視図である。
図18図4に示すムーブメントの縦断面図であって、月齢修正機構の周辺の縦断面図である。
図19図17に示す月齢修正機構における月齢修正レバーと月齢車との関係を示す平面図である。
図20図19に示す月齢修正レバーを待機位置から修正位置に向けて移動させている途中の状態を示す平面図である。
図21図20に示す月齢修正レバーを修正位置に移動させて、月齢車を送り回転させている状態を示す平面図である。
図22図4に示す月板と影板とが協働して「月齢0」を表示している状態を示す平面図である。
図23図22に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図24図22に示す状態から、月板と影板とが協働して「月齢3.7」を表示している状態を示す平面図である。
図25図24に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図26図24に示す状態から、月板と影板とが協働して「月齢7.4」を表示している状態を示す平面図である。
図27図26に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図28図26に示す状態から、月板と影板とが協働して「月齢11.1」を表示している状態を示す平面図である。
図29図28に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図30図28に示す状態から、月板と影板とが協働して「月齢14.8」を表示している状態を示す平面図である。
図31図30に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図32図30に示す状態から、月板と影板とが協働して「月齢18.5」を表示している状態を示す平面図である。
図33図30に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図34図32に示す状態から、月板と影板とが協働して「月齢22.1」を表示している状態を示す平面図である。
図35図34に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図36図34に示す状態から、月板と影板とが協働して「月齢25.8」を表示している状態を示す平面図である。
図37図36に示す状態における月カム及び影カムと、月復針レバー及び影復針レバーとの関係を示す平面図である。
図38】月齢表示機構の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
なお、本実施形態では、時計の一例として、時針及び分針がムーブメントの中心から偏心した位置に配置され、秒針を具備しない中二針構造とされた機械式時計を例に挙げて説明する。
なお、本実施形態の各図では、図面を見易くするために、時計用部品の一部の図示を省略している場合があると共に、各時計用部品を簡略化して図示している場合がある。
【0038】
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
【0039】
本実施形態では、ケース裏蓋側(表側)から文字板に向かう方向を上側、その反対側を下側として説明する。従って、地板の厚さ方向が上下方向となる。さらに本実施形態では、各軸線を中心として、上方から見て時計回りに回転する方向を時計方向といい、上方から見て反時計回りに回転する方向を反時計方向という。
【0040】
図1及び図2に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、メインガラス2、図示しない裏ガラス及び図示しないケース裏蓋が組み合わされた時計ケース3内に、ムーブメント10と、少なくとも時に関する情報を示す目盛り等を有する文字板4と、時を示す時針5及び分を示す分針6を含む指針と、を備えている。
【0041】
文字板4は、その中央部分に該文字板4を貫通する表示窓4aが大きく開口している。これにより、表示窓4aを通じて後述する月齢表示機構12を含む主要の時計部品を、メインガラス2を通じて視認することが可能とされている。
これにより、本実施形態の時計1は、実用性に加え、繊細な時計技術が凝縮された機械式時計の醍醐味と審美性を兼ね備える高級時計に分類される。
【0042】
なお、本実施形態では、時針5及び分針6を含む指針がムーブメント10の中心から偏心(具体的には文字板4の「3時」方向に偏心)した位置に配置されている。そのため、文字板4の目盛りは、指針の位置に対応して周方向に不均等に表示されている。
【0043】
時計ケース3は、図2に示すように、ムーブメント10を囲むリングケース部3aを有する円環状に形成されている。そのため、リングケース部3aは上下に開口している。リングケース部3aの下面側(表側)には、図示しない裏ガラスが重ね合わされている。ケース裏蓋は、リングケース部3aに対応して円環状に形成され、裏ガラスを挟んでリングケース部3aの下面に組み付けられている。
そのため、本実施形態の時計1は、裏ガラスを通じて主要の時計部品を視認することも可能とされている。
【0044】
図3及び図4に示すように、ムーブメント10は、該ムーブメント10の基板を構成する地板11を有している。ムーブメント10は、先に述べたようにリングケース部3aの内側に配置されている。
図3図7に示すように、地板11の裏側(すなわち上方)には、筒かな20、日の裏車30及び筒車40を含む裏輪列と、月齢表示機構(本発明に係る情報表示機構)12と、月齢修正機構13とが少なくとも配置されている。裏輪列は、地板11の裏側に配置された裏物押さえ15と地板11との間に軸支されている。
【0045】
なお、裏物押さえ15の上方には、図1に示す文字板4が配置されている。裏物押さえ15の一部は、表示窓4aの内側に配置され、メインガラス2を通じて視認可能とされている。
裏物押さえ15と地板11との間には、図4図6及び図7に示すように、ベース板16が配置されている。ベース板16は、地板11に対して重ね合わされた状態で組み合わされ、その一部はメインガラス2を通じて視認可能とされている(図1参照)。月齢表示機構12は、主にこのベース板16を利用して軸支されている。
【0046】
地板11の表側(すなわち下方)には、図7に示すように、二番車50及び香箱車60を含む表輪列が配置されている。
なお、本実施形態では、図1及び図2に示すように、地板11のうち指針を挟んでりゅうず7の反対側に位置する部分、すなわち文字板4の「9時」側に位置する部分には、該地板11を貫通する平面視円形の収容孔11aが形成されている。この収容孔11aの内側には、表輪列の回転を制御する脱進機及び脱進機を調速する調速機を1つのパーツとして組み合わせたキャリッジを具備するトゥールビヨン8が配設されている。
【0047】
なお、トゥールビヨン8については、既知の構造を採用することができ、詳細な説明は省略する。ただし、トゥールビヨン8は必須な構成ではなく、具備しなくても構わない。この場合には、例えば地板11の表側に、脱進機及び調速機を配置すれば構わない。なお、トゥールビヨン8は、メインガラス2及び裏ガラスを通じて視認可能とされている。
【0048】
(表輪列、裏輪列)
表輪列及び裏輪列について簡単に説明する。
図7に示すように、表輪列は、地板11よりも下方に配置された輪列受17と地板11の間に配置され、図示しないぜんまいの巻き解けに伴う出力トルクによって回転し、時針5及び分針6を運針させる役割を果たしている。この表輪列は、上記ぜんまいを収容する香箱車60、二番車50及び図示しない三番車等を主に備えている。
【0049】
香箱車60は、ぜんまいの巻き解けに伴う弾性復元力(動力)によって回転可能とされている。ぜんまいは、図1及び図2に示すように、りゅうず7に連結された巻真を介して巻き上げられる。
【0050】
二番車50は、ぜんまいの巻き解けに伴う動力によって回転する上記香箱車60の回転に伴って回転可能とされている。
二番車50は、下ほぞ部が輪列受17に保持された穴石等の軸受によって軸支されると共に、車軸51が地板11に保持された穴石等の軸受によって軸支され、針軸線C1回りに回転可能とされている。二番車50は、香箱車60側から動力が伝達される二番かな52と、図示しない三番車に噛み合う二番歯車53とを備えている。車軸51は、地板11よりも上方に突出するように延びている。
【0051】
裏輪列を構成する筒かな20は、地板11の上方において針軸線C1と同軸に配置されていると共に、針軸線C1回りに回転可能とされている。筒かな20は、有頂筒状に形成された筒かな本体21と、筒かな本体21の下端部に組み合わされ、後述する日の裏歯車32に噛み合う筒かな歯部22とを有している。
【0052】
筒かな本体21の内側には二番車50の車軸51が挿入されている。この際、筒かな本体21には、ばね性を有する括れ部(薄肉部)が形成され、括れ部のばね性を利用して車軸51との間に保持トルクを発生させている。これにより、筒かな20は、通常運針時、二番車50と共に針軸線C1回りを回転可能とされている。
筒かな本体21の上端部は、文字板4及び筒車40よりも上方に突出している。筒かな本体21の上端部には、分針6が取り付けられている。これにより、二番車50及び筒かな20の回転によって分針6を直接的に運針させることが可能とされている。なお、分針6は、脱進機及び脱進機を具備するトゥールビヨン8によって調速された回転速度、すなわち1時間で1回転する。
【0053】
なお、時刻合わせ時、りゅうず7から図示しない針回し輪列を介して上記保持トルク以上のトルクで筒かな20を回転させることで、時刻合わせを行うことが可能とされている。
【0054】
裏輪列を構成する筒車40は、針軸線C1と同軸に配置されていると共に、針軸線C1回りに回転可能とされている。筒車40は、筒かな本体21を囲む円筒状の筒車本体41と、筒車本体41の下端部に一体に形成され、後述する日の裏かな31に噛み合う筒歯車42と、を備えている。
【0055】
裏輪列を構成する日の裏車30は、下ほぞ部が地板11に保持された穴石等の軸受によって軸支されると共に、上ほぞ部が裏物押さえ15に保持された穴石等の軸受によって軸支され、日の裏軸線C2回りに回転可能とされている。日の裏車30は、筒歯車42に噛み合う日の裏かな31と、筒かな20における筒かな歯部22に噛み合う日の裏歯車32とを備えている。従って、日の裏車30は、筒かな20及び筒車40の両方に噛み合っている。
【0056】
これにより、筒車40は、筒かな20及び日の裏車30の回転に伴って針軸線C1回りを回転可能とされている。さらに筒車本体41の上端部は、文字板4よりも上方に突出し、且つ筒かな本体21の上端部よりも下方に配置されている。そして、筒車本体41の上端部に時針5が取り付けられている。
従って、時針5は、筒かな20に取り付けられる分針6よりも文字板4側に位置している。これにより、筒車40の回転によって時針5を直接的に運針させることが可能とされている。なお、時針5は、脱進機及び脱進機を具備するトゥールビヨン8によって調速された回転速度、すなわち12時間で1回転する。
【0057】
上述のように構成された表輪列及び裏輪列は、脱進機及び調速機によって回転が制御され、これによって分針6及び時針5を適切に運針させて、正確な時を刻むことが可能とされている。
【0058】
(月齢表示機構)
図4に示すように、月齢表示機構12は、月の満ち欠けに関する情報(月齢)を表示する情報表示機構として機能するものであり、ベース板16と裏物押さえ15との間に位置する高さ、裏物押さえ15と同じ高さ、及び裏物押さえ15よりも上方に位置する高さ等に配置され、複数層に亘って構成されている。
【0059】
本実施形態では、月齢表示機構12を構成する構成部材のブロック図を、図8に示すと共に、各構成部材の高さ位置関係を「階層」として表示している。「階層0」は日の裏歯車32が位置する高さの層としている。「階層5」は、地板11から上方に向けて最も離れた高さの層であり、後述する月板70及び影板80が位置する。なお、月板70及び影板80は同じ「階層5」に位置するものの、影板80の方が月板70よりも上方に位置する。
そして、「階層0」と「階層5」との間に、「階層0」側から順に「階層1」、「階層2」、「階層3」、「階層4」が位置する。
【0060】
月齢表示機構12は、図3図6及び図8に示すように、第1軸線O1回りに回転可能な月板(本発明に係る第1表示部)70と、第1軸線O1とは非同軸となるように配置された第2軸線O2回りに回転可能な影板(第2表示部)80と、月板70に対して該月板70を第1軸線O1回りに回転させるための動力を伝える第1動力部90と、影板80に対して該影板80を第2軸線O2回りに回転させるための動力を伝える第2動力部91と、月板70及び影板80がそれぞれ所定の周期で回転するように、月板70及び影板80の回転を制御する回転制御部95と、を備えている。
【0061】
本実施形態の月齢表示機構12は、第1軸線O1を中心とした月板70の回転位置と、第2軸線O2を中心とした影板80の回転位置との相対位置の変化に基づいて、協働して月の満ち欠けの情報、すなわち月齢を表示する。具体的には、月板70及び影板80の重なり具合の変化を、月の満ち欠けの周期(約29.5日)に対応して変化させることで月齢を表示することが可能とされている。
なお、図1図4では、月板70及び影板80が協働して「月齢7.4」を表示している場合を例に挙げている。
【0062】
(月板、影板)
図1図4に示すように、月板70及び影板80は、時計1の平面視で、針軸線C1とりゅうず7との間に位置する領域に主に配置されている。従って、月板70及び影板80は、針軸線C1を挟んでトゥールビヨン8とは反対側に位置する領域、すなわち文字板4の「3時」側に位置する領域に配置されている。
これに対して、月板70の第1軸線O1及び影板80の第2軸線O2は、ムーブメント10の中心部に配置されていると共に、文字板4の「12時」側と「6時」側に離間した状態で配置されている。第1軸線O1が文字板4の「12時」寄りに配置され、第2軸線O2が文字板4の「6時」寄りに配置されている。
【0063】
図3図4図9及び図10に示すように、月板70は、月を模した平面視円形状に形成された厚みの薄い円板とされ、例えば黄色等の明色で形成されている。
月板70には、第1軸線O1と同軸上に配置された固定リング72を有する月板アーム71が一体に形成されている。月板アーム71は、地板11の平面方向に屈曲を繰り返すと共に、地板11の厚さ方向に段差が付いた帯状アームとされている。固定リング72は、後述する月車110の上端部にねじ結合されている。
これにより、月板70及び月板アーム71は、月車110に一体的に連結され、月車110の回転に伴って第1軸線O1回りを回転することが可能とされている。より具体的には、月板70は、第1軸線O1を中心として、所定の回転角度範囲内で往復回転するように制御されている。
【0064】
影板80は、平面視円形状に形成された厚みの薄い円板とされ、月板70と相似形状となるように外形形成されている。図示の例では、影板80は、月板70と同一形状及び同一サイズとなるように外形形成されている。ただし、影板80は、月板70と同一形状及び同一サイズに形成されている必要はなく、例えば影板80の方が月板70よりも僅かに大きくなるように形成しても構わない。
また影板80は、月板70よりも暗色、例えば黒色等で形成されている。
【0065】
影板80には、第2軸線O2と同軸上に配置された固定リング82を有する影板アーム81が一体に形成されている。影板アーム81は、時計1の平面視で屈曲を繰り返すと共に、地板11の厚さ方向に段差が付いた帯状アームとされている。固定リング82は、後述する影車150の上端部にねじ結合されている。
これにより、影板80及び影板アーム81は、影車150に一体的に連結され、影車150の回転に伴って第2軸線O2回りを回転することが可能とされている。より具体的には、影板80は、第2軸線O2を中心として、所定の回転角度範囲内で往復回転するように制御されている。
【0066】
上述のように構成された月板70及び影板80は、地板11の厚さ方向に異なる高さ位置となるように配置されている。具体的には、月板アーム71及び影板アーム81がそれぞれ段付き状に形成されていることで、影板80の方が月板70よりも上方に位置するように配置されている。これにより、月板70及び影板80は、回転途中で地板11の厚さ方向に重なり合うことが可能とされている。
【0067】
(第1動力部)
図5図6図9及び図11に示すように、第1動力部90は月板70を回転させるための動力を発生させると共に、発生した動力を月板70に伝える役割を果たしている。
第1動力部90は、動力源である月戻しばね100と、月戻しばね100による弾性復元力によって第3軸線O3回りに回転する月戻し車120と、月戻し車120の回転に伴って第1軸線O1回りを回転する月車110と、を備えている。
【0068】
図9図11図14に示すように、月戻し車120は、ベース板16に第3軸線O3と同軸に固定(例えば圧入固定)された月戻し車案内ピン121と、月戻し車案内ピン121に対して連結ねじを介して組み合わされると共に、月戻し車案内ピン121に第3軸線O3回りに回転可能に支持された月戻し真122と、月戻し真122に対して第3軸線O3回りに相対回転可能に組み合わされた月戻し歯車123と、を主に備えている。
【0069】
月戻し車案内ピン121は、円筒状に形成されていると共に、上方に開口したねじ孔が形成されている。
月戻し真122は、月戻し車案内ピン121を径方向の外側から囲む中心パイプ122aを備えている。中心パイプ122aは、上下方向に外径が変化する多段の円筒状に形成され、下端部は例えば平面視D形状(いわゆるDカット)に形成されている。これにより、中心パイプ122aの下端部に、月戻しばね100の後述するばね固定部102を嵌合することが可能とされている。さらに月戻し真122の上端部における外周面には、周方向に間隔をあけて連結歯124が複数形成されている。
【0070】
各連結歯124は、図11及び図12に示すように、第3軸線O3を中心として、反時計方向側を向いた第1係合面124aと、時計方向側を向いた第2係合面124bと、を備えている。
図示の例では、第1係合面124a及び第2係合面124bは、月戻し真122の外周面から径方向の外側に向かうにしたがって漸次反時計方向側に向けて延びるようにそれぞれ傾斜している。ただし、第2係合面124bの傾斜角度の方が、第1係合面124aの傾斜角度よりも大きい。
【0071】
上述のように構成された月戻し真122は、月戻し車案内ピン121のねじ孔に螺着された連結ねじによって上方への抜け止めがされた状態で、第3軸線O3回りに回転可能に月戻し車案内ピン121に軸支されている。
【0072】
図9図11及び図12に示すように、月戻し歯車123は、月戻し真122よりも大きい直径で形成され、中心パイプ122aに相対回転可能に組み合わされている。なお、中心パイプ122aには、月戻し歯車123の下方に重なるように抜け止めリング125が固定されている。
月戻し歯車123は、月車110に噛み合い可能とされている。従って、月戻し歯車123が回転することに伴って月車110を第1軸線O1回りに回転させることが可能とされている。
【0073】
月戻し歯車123には、上方に向けて2つの支持ピン、すなわち第1支持ピン126及び第2支持ピン127が突出するように形成されている。これら第1支持ピン126及び第2支持ピン127は、第3軸線O3を挟んで径方向に向かい合うように形成されている。
【0074】
さらに月戻し歯車123の上面には、月戻し真122の回転トルクを月戻し歯車123に伝える2つの連結爪、すなわち第1連結爪130及び第2連結爪135が配置されている。
第1連結爪130は、第1支持ピン126を利用して月戻し歯車123の上面に配置されると共に、第1支持ピン126回りに揺動可能とされている。第1連結爪130は、第1支持ピン126を囲む基部から時計方向側に向けて延びた第1爪部130aと、基部から反時計方向側に向けて延びた第1ばね部130bと、を備えている。
【0075】
第2連結爪135は、第1連結爪130と同様に構成されている。
すなわち第2連結爪135は、第2支持ピン127を利用して月戻し歯車123の上面に配置されると共に、第2支持ピン127回りに揺動可能とされている。第2連結爪135は、第2支持ピン127を囲む基部から時計方向側に向けて延びた第2爪部135aと、基部から反時計方向側に向けて延びた第2ばね部135bと、を備えている。
【0076】
第1連結爪130の第1ばね部130bは、第2連結爪135の第2爪部135aに対して径方向の外側から接触しており、弾性復元力によって第2爪部135aを径方向の内側に押圧している。これにより、第2爪部135aは、月戻し真122の周方向に隣り合う連結歯124の間に入り込むように押し付けられている。
同様に、第2連結爪135の第2ばね部135bは、第1連結爪130の第1爪部130aに対して径方向の外側から接触しており、弾性復元力によって第1爪部130aを径方向の内側に押圧している。これにより、第1爪部130aは、月戻し真122の周方向に隣り合う連結歯124の間に入り込むように押し付けられている。
【0077】
以上のことにより、第1爪部130a及び第2爪部135aは、これら第1爪部130a及び第2爪部135aよりも時計方向側に位置する連結歯124の第1係合面124aに係合可能とされていると共に、第1爪部130a及び第2爪部135aよりも反時計方向側に位置する連結歯124の第2係合面124bに対して係合可能とされている。
【0078】
このような係合状態において、月戻し真122が第3軸線O3を中心として反時計方向に回転した場合には、上述した係合状態を維持したまま、第1連結爪130及び第2連結爪135を介して月戻し真122の回転トルクを月戻し歯車123に伝えることができ、図11に示す矢印の如く、月戻し歯車123を反時計方向に共回りさせることが可能とされている。
【0079】
これに対して、月戻し真122が時計方向に回転した場合には、第1爪部130a及び第2爪部135aは、連結歯124の第2係合面124bの傾斜によって、第2係合面124b上を摺動しながら径方向の外側に向けて押圧される。
これにより、第1連結爪130及び第2連結爪135は、第1ばね部130b及び第2ばね部135bの付勢力に抗して、第1爪部130a及び第2爪部135aが月戻し真122から離間するように揺動する。そのため、連結歯124は第1爪部130a及び第2爪部135aを周方向に乗り越えながら時計方向に移動する。そのため、月戻し車120を回転させることなく、月戻し真122だけを時計方向に回転させることが可能とされている。
【0080】
つまり、第1連結爪130、第2連結爪135及び連結歯124は、月戻し真122が反時計方向に回転したときに月戻し歯車123を共回りさせ、且つ月戻し真122が時計方向に回転したときに、月戻し歯車123に対する月戻し真122の相対的な回転を許容するラチェット機構として機能する。
【0081】
月戻しばね100は、図9図13及び図14に示すように、例えば鉄やニッケル等の金属、又はシリコン等の非金属からなる渦巻ばねとされ、ベース板16の上面に重なるように配置されている。月戻しばね100は、外端部及び内端部を相対回転させ、縮径するように巻き締めることによって巻き上げられる。巻き上げられた月戻しばね100は、弾性変形することで外端部と内端部との間にトルクを発生させる。
【0082】
月戻しばね100は、渦巻状に形成されたばね本体101と、ばね本体101の内端部に位置するばね固定部102と、ばね本体101の外端部に位置するばね係合部103と、を備えている。
ばね本体101は、例えば平面視で第3軸線O3を中心としたアルキメデス曲線に沿って延びた渦巻き状に形成されている。なお、図示の例では、ばね本体101は、ばね固定部102からばね係合部103に向かって反時計方向に延びている。
【0083】
ばね固定部102は、ばね本体101の内端部に一体形成され、円環状に形成されていると共に第3軸線O3と同軸に配置されている。ばね固定部102は、月戻し真122の中心パイプ122aの下端部に嵌合されることで、中心パイプ122aに一体的に組み合わされている。
ばね係合部103は、ばね本体101の外端部に一体形成され、ばね本体101の外周部よりも径方向外側で周方向に沿って形成されている。ばね係合部103は、ベース板16から突設された2つの固定ピン104に対して係合している。これにより、ばね本体101は、外端部側が固定された状態とされている。
【0084】
このように構成された月戻しばね100は、上述した月戻し真122を時計方向に回転させることで巻き上げられる。そして、巻き上げられた月戻しばね100が、巻き解けることで、月戻し真122に対して反時計方向の回転トルクを発生させる。これにより、月戻しばね100は、月戻し真122及び月戻し歯車123に対して、反時計方向に回転させる回転トルク(駆動力)を付与することが可能とされている。
【0085】
なお、月戻し歯車123が第3軸線O3を中心として時計方向に回転する場合には、第1爪部130a及び第2爪部135aが連結歯124の第1係合面124aに対して係合した状態を維持したまま回転するので、月戻しばね100の弾性復元力に抗して月戻し真122を時計方向に回転させることが可能とされている。
つまり、月戻し歯車123は、巻き上げられた月戻しばね100の弾性復元力によって、常に反時計方向に回転しようとするが、時計方向に向けても回転が許容されている。これにより、後述する月復針レバー195の揺動が許容される。
【0086】
図9図11に示すように、月車110は、下ほぞ部がベース板16に保持された穴石等の軸受によって軸支され、第1軸線O1回りに回転可能とされている。月車110は、上述した月戻し歯車123に噛み合っており、月戻し歯車123の回転に伴って回転可能とされる。特に月車110は、月戻し歯車123を介して伝達される月戻しばね100の回転トルクによって、図11に示す矢印の如く、第1軸線O1を中心として時計方向に回転しようとする。
【0087】
月車110の車軸111には、上方に向けて開口したねじ孔が形成されている。この月車110の車軸111の上端部には、先に述べた月板アーム71の固定リング72が重ね合わされている。そして、ねじ孔に螺着された連結ねじによって、月板70は固定リング72を介して月車110に一体に組み合わされている。これにより、月板70は月車110の回転に伴って第1軸線O1回りを回転可能とされている。
【0088】
(第2動力部)
図5図6図10及び図11に示すように、第2動力部91は、影板80を回転させるための動力を発生させると共に、発生した動力を影板80に伝える役割を果たしている。第2動力部91は、上述した第1動力部90と同等の構成とされているため、簡略に説明する。
第2動力部91は、時計1の平面視において、文字板4の「3時」と「9時」を結ぶ第1仮想線L1(図5図11参照)に対して、第1動力部90と線対称となるように配置されている。これにより、第1動力部90及び第2動力部91をバランス良く配置することができ、例えばメインガラス2を通じて視認したときに、優れたデザイン性及び意匠性を得ることができる。
【0089】
図10及び図11に示すように、第2動力部91は、動力源である影戻しばね140と、影戻しばね140による弾性復元力によって第4軸線O4回りに回転する影戻し車160と、影戻し車160の回転に伴って第2軸線O2回りを回転する影車150と、を備えている。
【0090】
影戻し車160は、ベース板16に第4軸線O4と同軸に固定(例えば圧入固定)された影戻し車案内ピン161と、影戻し車案内ピン161に対して連結ねじを介して組み合わされると共に、影戻し車案内ピン161に第4軸線O4回りに回転可能に支持された影戻し真162と、影戻し真162に対して第4軸線O4回りに相対回転可能に組み合わされた影戻し歯車163と、を主に備えている。
【0091】
影戻し真162は、影戻し車案内ピン161を径方向の外側から囲む中心パイプ162aを備えている。中心パイプ162aは、多段の円筒状に形成され、下端部が例えば平面視D形状(いわゆるDカット)に形成されていることで、下端部に影戻しばね140の後述するばね固定部142を嵌合することが可能とされている。
影戻し真162における上端部の外周面には、周方向に間隔をあけて連結歯164が複数形成されている。各連結歯164は、第4軸線O4を中心として、時計方向側を向いた第1係合面164aと、反時計方向側を向いた第2係合面164bと、を備えている。
【0092】
上述のように構成された影戻し真162は、影戻し車案内ピン161のねじ孔に螺着された連結ねじによって上方への抜け止めがされた状態で、第4軸線O4回りに回転可能に影戻し車案内ピン161に軸支されている。
【0093】
影戻し歯車163は、影戻し真162よりも大きい直径で形成され、中心パイプ162aに相対回転可能に組み合わされている。なお、中心パイプ162aには、影戻し歯車163の下方に重なるように抜け止めリング165が固定されている。
影戻し歯車163は、影車150に噛み合い可能とされている。従って、影戻し歯車163が回転することに伴って影車150を第4軸線O4回りに回転させることが可能とされている。
【0094】
影戻し歯車163には、上方に向けて第1支持ピン166及び第2支持ピン167が突出するように形成されていると共に、影戻し真162の回転トルクを影戻し歯車163に伝える第1連結爪170及び第2連結爪175が配置されている。
第1連結爪170は、第1支持ピン166回りに揺動可能とされ、第1爪部170a及び第1ばね部170bを備えている。第2連結爪175は、第2支持ピン167回りに揺動可能とされ、第2爪部175a及び第2ばね部175bを備えている。
【0095】
第1連結爪170の第1ばね部170bは、第2爪部175aを径方向の内側に押圧している。これにより、第2爪部175aは影戻し真162の周方向に隣り合う連結歯164の間に入り込むように押し付けられている。第2連結爪175の第2ばね部175bは、第1爪部170aを径方向の内側に押圧している。これにより、第1爪部170aは影戻し真162の周方向に隣り合う連結歯164の間に入り込むように押し付けられている。
【0096】
第1爪部170a及び第2爪部175aは、これら第1爪部170a及び第2爪部175aよりも反時計方向側に位置する連結歯164の第1係合面164aに係合可能とされていると共に、第1爪部170a及び第2爪部175aよりも時計方向側に位置する連結歯164の第2係合面164bに対して係合可能とされている。
【0097】
このような係合状態において、影戻し真162が第4軸線O4を中心として時計方向に回転した場合には、上述した係合状態を維持したまま、第1連結爪170及び第2連結爪175を介して影戻し真162の回転トルクを影戻し歯車163に伝えることができ、図11に示す矢印の如く、影戻し歯車163を時計方向に共回りさせることが可能とされている。
【0098】
これに対して、影戻し真162が反時計方向に回転した場合には、第1爪部170a及び第2爪部175aは、連結歯164の第2係合面164bの傾斜によって、第2係合面164b上を摺動しながら径方向の外側に向けて押圧される。これにより、連結歯164は第1爪部170a及び第2爪部175aを周方向に乗り越えながら反時計方向に移動する。そのため、影戻し車160を回転させることなく、影戻し真162だけを反時計方向に回転させることが可能とされている。
【0099】
つまり、第1連結爪170、第2連結爪175及び連結歯164は、影戻し真162が時計方向に回転したときに影戻し歯車163を共回りさせ、且つ影戻し真162が反時計方向に回転したときに、影戻し歯車163に対する影戻し真162の相対的な回転を許容するラチェット機構として機能する。
【0100】
影戻しばね140は、渦巻ばねとされ、ベース板16の上面に重なるように配置されている。影戻しばね140は、外端部及び内端部を相対回転させ、縮径するように巻き締めることによって巻き上げられる。巻き上げられた影戻しばね140は、弾性変形することで外端部と内端部との間にトルクを発生させる。
【0101】
影戻しばね140は、渦巻状に形成されたばね本体141と、ばね本体141の内端部に位置するばね固定部142と、ばね本体141の外端部に位置するばね係合部143と、を備えている。
ばね本体141は、例えば平面視で第4軸線O4を中心としたアルキメデス曲線に沿って延びた渦巻き状に形成されている。
【0102】
ばね固定部142は、ばね本体141の内端部に一体形成され、円環状に形成されていると共に第4軸線O4と同軸に配置されている。ばね固定部142は、影戻し真162の中心パイプ162aの下端部に組み合わされている。
ばね係合部143は、ばね本体141の外端部に一体形成され、ばね本体141の外周部よりも径方向外側で周方向に沿って形成されている。ばね係合部143は、ベース板16から突設された固定ピン144等によってベース板16に固定されている。
【0103】
このように構成された影戻しばね140は、上述した影戻し真162を反時計方向に回転させることで巻き上げられる。そして、巻き上げられた影戻しばね140が、巻き解けることで、影戻し真162に対して時計方向の回転トルクを発生させる。これにより、影戻しばね140は、影戻し真162及び影戻し歯車163に対して、時計方向に回転させる回転トルク(駆動力)を付与することが可能とされている。
【0104】
なお、影戻し歯車163が第4軸線O4を中心として反時計方向に回転する場合には、第1爪部170a及び第2爪部175aが連結歯164の第1係合面164aに対して係合した状態を維持したまま回転するので、影戻しばね140の弾性復元力に抗して影戻し真162を反時計方向に回転させることが可能とされている。
つまり、影戻し歯車163は、巻き上げられた影戻しばね140の弾性復元力によって、常に時計方向に回転しようとするが、反時計方向に向けても回転が許容されている。これにより、後述する影復針レバー205の揺動が許容される。
【0105】
図10及び図11に示すように、影車150は、下ほぞ部がベース板16に保持された穴石等の軸受によって軸支され、第2軸線O2回りに回転可能とされている。影車150は、影戻し歯車163に噛み合っており、影戻し歯車163の回転に伴って回転可能とされる。特に影車150は、影戻し歯車163を介して伝達される影戻しばね140の回転トルクによって、第2軸線O2を中心として図11に示す矢印の如く、反時計方向に回転しようとする。
【0106】
影車150の車軸151には、上方に向けて開口したねじ孔が形成されている。この影車150の車軸151の上端部には、先に述べた影板アーム81の固定リング82が重ね合わされている。そして、ねじ孔に螺着された連結ねじによって、影板80は固定リング82を介して影車150に一体に組み合わされている。これにより、影板80は影車150の回転に伴って第2軸線O2回りを回転可能とされている。
【0107】
(回転制御部)
図8及び図11に示すように、回転制御部95は、上述のように構成された月板70及び影板80をそれぞれ所定の周期で回転するように、月板70及び影板80の回転を制御する役割を果たしている。
特に回転制御部95は、地板11の厚さ方向に重なり合うように配置された月板70と影板80とを回転させることで、先に述べたように地板11の厚さ方向から見た視点での月板70と影板80の相対位置の変化、すなわち月板70及び影板80の重なり具合の変化に基づいて月齢を表示させる。
【0108】
図5図6図8図11及び図15に示すように、回転制御部95は、時間変化に対応して回転する月齢車(本発明に係る回転体)180と、月齢車180の回転に伴って、第1軸線O1を中心とした所定の回転角度範囲内で往復回転するように月板70を回転制御する第1回転制御部190と、月齢車180の回転に伴って、第2軸線O2を中心とした所定の回転角度範囲内で往復回転するように影板80を回転制御する第2回転制御部200と、を備えている。
【0109】
(月齢車)
月齢車180は、第5軸線O5と同軸に配置され、下端部がベース板16に固定(例えば圧入固定)された月齢車案内ピン181と、月齢車案内ピン181に対して連結ねじを介して組み合わされると共に、月齢車案内ピン181に第5軸線O5回りに回転可能に支持された月齢歯車182と、を主に備えている。
【0110】
月齢車案内ピン181は、円筒状に形成されていると共に、上方に開口したねじ孔が形成されている。
月齢歯車182は、月齢車案内ピン181を径方向の外側から囲む中心パイプ182aを備えている。月齢歯車182は、後述する第4中間車250に噛み合っており、第4中間車250の回転に伴って第5軸線O5回りに回転可能とされている。なお、月齢歯車182は、月齢車車案内ピン181のねじ孔に螺着された連結ねじによって上方への抜け止めがされた状態で、第5軸線O5回りに回転可能に月齢車案内ピン181に軸支されている。
【0111】
月齢歯車182の上面には、図5に示すように、第5軸線O5を中心として月の満ち欠け状態の変化を示す複数の月齢読取部183が周方向に均等に表示されている。図示の例では、新月から満月を経由して再び新月に至るまでの変化を示す合計8つの月齢読取部183が等間隔(第5軸線O5を中心として45度間隔)に表示されている。
【0112】
なお、月齢読取部183の数は8つに限定されるものではなく、適宜変更して構わない。これら月齢読取部183は、メインガラス2を通じて視認することが可能とされている。また、月齢読取部183の表示方法としては、特に限定されるものではなく、例えば印刷、シール添付、刻印等が挙げられる。
【0113】
上述のように構成された月齢車180は、図5及び図16に示すように、月齢輪列210を介して日の裏車30の回転に伴って、月の満ち欠けの周期である、約29.5日で1回転するように構成されている。
なお、月齢車180は、時計1の平面視で、針軸線C1を挟んでトゥールビヨン8とは径方向の反対側(文字板4の「3時」側)に配置されている。従って、トゥールビヨン8の中心及び月齢車180の中心は、時計1の平面視で第1仮想線L1上に位置している。
【0114】
(月齢輪列)
図7図15及び図16に示すように、月齢輪列210は、日の裏車30の回転に伴って第6軸線O6回りに回転する第1中間車220と、第1中間車220の回転に伴って第7軸線O7回りに回転する第2中間車230と、第2中間車230の回転に伴って第8軸線O8回りに回転する第3中間車240と、第3中間車240の回転に伴って第9軸線O9回りに回転すると共に、月齢車180を回転させる第4中間車250と、を備えている。
【0115】
第1中間車220は、ベース板16によって軸支され、日の裏かな31に噛み合う第1中間歯車221と、第1中間かな222と、を備えている。これにより、第1中間車220は、日の裏車30の回転に伴って第6軸線O6回りを回転する。
【0116】
第2中間車230は、上ほぞ部が裏物押さえ15に保持された穴石等の軸受によって軸支されていると共に、下ほぞ部が地板11に保持された穴石等の軸受によって軸支されている。第2中間車230は、第1中間かな222に噛み合う第2中間歯車231と、第2中間かな232と、を備えている。これにより、第2中間車230は、第1中間車220の回転に伴って第7軸線O7回りを回転する。
【0117】
第3中間車240は、上ほぞ部が裏物押さえ15に保持された穴石等の軸受によって軸支されていると共に、下ほぞ部がベース板16に保持された穴石等の軸受によって軸支されている。第3中間車240は、第2中間かな232に噛み合う第3中間歯車241と、第3中間かな242と、を備えている。これにより、第3中間車240は、第2中間車230の回転に伴って第8軸線O8回りを回転する。
【0118】
第4中間車250は、ベース板16に第9軸線O9と同軸に固定(例えば圧入固定)された中間車案内ピン251と、中間車案内ピン251に対して連結ねじを介して組み合わされると共に、中間車案内ピン251に第9軸線O9回りに回転可能に支持された中間車真252と、中間車真252に対して所定の摩擦力(圧接力)を維持した状態で組み合わされると共に、第3中間かな242に噛み合う第4中間歯車253と、中間車真252に形成され、月齢歯車182に噛み合う第4中間かな254と、を備えている。これにより、第4中間車250は、第3中間車240の回転に伴って第9軸線O9回りを回転すると共に、月齢車180を回転させることが可能とされている。
なお、中間車真252は、中間車案内ピン251のねじ孔に螺着された連結ねじによって上方への抜け止めがされた状態で、第9軸線O9回りに回転可能に中間車案内ピン251に軸支されている。
【0119】
なお、月齢修正時に、月齢車180を通常の運針方向とは逆向きに回転させることで、中間車真252と第4中間歯車253との間に上記摩擦力を超える相対的な回転力が作用した場合には、中間車真252に対して第4中間歯車253をスリップさせることが可能とされている。
【0120】
上述のように構成された月齢輪列210は、先に述べたように月の満ち欠けの周期である約29.5日(より詳しくは29.5306日)で月齢車180を1回転させるように、所定の減速比で日の裏車30の回転トルクを月齢車180に伝えるように構成されている。なお、月齢車180は、運針時に、第5軸線O5を中心として時計方向に回転するように構成されている。
【0121】
なお、月齢輪列210を構成する各車の歯数を一例として挙げる。
図8に示すように、12時間で1回転する筒車40の筒歯車42は歯数が「32」とされ、それに噛み合う日の裏かな31の歯数は「8」とされている。日の裏かな31に噛み合う第1中間歯車221の歯数は「32」とされ、第1中間かな222の歯数は「18」とされている。第1中間かな222に噛み合う第2中間歯車231の歯数は「36」とされ、第2中間かな232の歯数は「17」とされている。第2中間かな232に噛み合う第3中間歯車241の歯数は「36」とされ、第3中間かな242の歯数は「13」とされている。第3中間かな242に噛み合う第4中間歯車253の歯数は「47」とされ、第4中間かな254の歯数は「21」とされている。そして、第4中間かな254に噛み合う月齢歯車182の歯数は「81」とされている。
従って、この月齢輪列210において、月齢車180は、29.5307日に1周の周期(実際の月齢周期との誤差0.0004%)で回転する。
【0122】
(第1回転制御部)
図5図6図9及び図11に示すように、第1回転制御部190は、月齢車180の回転に伴って回転する月カム(本発明に係る第1カム)191と、月カム191の回転に追従して、第10軸線O10回りを揺動することで月板70の回転を制御する月復針レバー(本発明に係る第1制御レバー)195と、を備えている。
特に、第1回転制御部190は、月齢車180の1回転に対応して、月板70を所定の回転角度範囲で第1軸線O1を中心に一往復するように月板70を制御する。
【0123】
(第2回転制御部)
図5図6図10及び図11に示すように、第2回転制御部200は、月齢車180の回転に伴って回転する影カム(本発明に係る第2カム)201と、影カム201の回転に追従して、第11軸線O11回りを揺動することで影板80の回転を制御する影復針レバー(本発明に係る第2制御レバー)205と、を備えている。
特に、第2回転制御部200は、月齢車180の1回転に対応して、影板80を所定の回転角度範囲で第2軸線O2を中心に一往復するように影板80を制御する。さらに本実施形態の第2回転制御部200は、月板70とは異なる位相で影板80が回転するように制御する。
【0124】
これにより、月板70及び影板80は、位相差に対応した相対位置の変化に基づいて月齢を表示することが可能とされている。
【0125】
(第1回転制御部)
第1回転制御部190について詳細に説明する。
図9及び図11に示すように、月カム191は、月齢車180における中心パイプ182aに一体的に組み合わされており、第5軸線O5と同軸に配置されている。これにより、月カム191は、月齢車180と共に、月の満ち欠けの周期である約29.5日で1回転する。
【0126】
月カム191は、外周面の一部が径方向の内側に向けて局所的に窪んだ窪み部191aとされ、第5軸線O5を挟んで窪み部191aとは径方向の反対側に位置する部分が突起部191bとされた平面視ハート形状に形成されている。よって、月カム191は、いわゆるハートカムとされている。
【0127】
月復針レバー195は、月車110と月カム191との間に配置され、車軸の上ほぞ部が裏物押さえ15に保持された穴石等の軸受によって軸支されていると共に、下ほぞ部がベース板16に保持された穴石等の軸受によって軸支されている。
【0128】
月復針レバー195は、月車110に噛み合う平面視扇形状に形成された歯車片196と、月カム191の外周面に対して径方向の外側から接触するレバー部197と、を備えている。レバー部197は、先端部が例えば先鋭化しており、月カム191の外周面に対して点接触することが可能とされている。
【0129】
このように構成された月復針レバー195は、歯車片196を介して、第1軸線O1を中心として時計方向に回転しようとする月車110に噛み合っているので、図11に示す矢印に示す如く、第10軸線O10を中心として反時計方向に揺動しようとする。これにより、月復針レバー195は、月カム191の外周面に対してレバー部197を常に押し付けるような回転トルクを受けている。そのため、月復針レバー195と月カム191とは常に接触した状態が維持されている。
【0130】
上述のように第1回転制御部190が構成されているので、月齢車180と共に共回りする月カム191の回転位置に対応して、月車110及び月板70の回転を制御することが可能とされている。つまり、第1回転制御部190は、月齢車180が1回転することに伴って、月板70が第1軸線O1を中心として所定の回転角度範囲で一往復するように回転を制御することが可能とされている。
【0131】
(第2回転制御部)
第2回転制御部200について詳細に説明する。
図10及び図11に示すように、影カム201は、月カム191と同様に、月齢車180における中心パイプ182aに一体的に組み合わされており、第5軸線O5と同軸に配置されている。これにより、月齢車180、月カム191及び影カム201は、共通の同軸上に配置されている。また、影カム201についても、月カム191と同様に、月齢車180と共に月の満ち欠けの周期である約29.5日で1回転する。なお、影カム201は、月カム191の上方に配置されている。
【0132】
影カム201は、外周面の一部が径方向の内側に向けて局所的に窪んだ窪み部201aとされ、第5軸線O5を挟んで窪み部201aとは径方向の反対側に位置する部分が突起部201bとされた平面視ハート形状に形成されている。よって、影カム201は、いわゆるハートカムとされている。
【0133】
本実施形態では、影カム201は、窪み部201a及び突起部201bの位置が、月カム191の窪み部191a及び突起部191bに対して、時計1の平面視で、第1仮想線L1(文字板4の「3時」と「9時」を結ぶ仮想線)に対して直交する第3仮想線L3(図11参照)に対して線対称となるように、月カム191に対して対称配置されている。
【0134】
影復針レバー205は、影車150と影カム201との間に配置され、車軸の上ほぞ部が裏物押さえ15に保持された穴石等の軸受によって軸支されていると共に、下ほぞ部がベース板16に保持された穴石等の軸受によって軸支されている。
【0135】
影復針レバー205は、影車150に噛み合う平面視扇形状に形成された歯車片206と、影カム201の外周面に対して径方向の外側から接触するレバー部207と、を備えている。レバー部207は、先端部が例えば先鋭化しており、影カム201の外周面に対して点接触することが可能とされている。
【0136】
このように構成された影復針レバー205は、歯車片206を介して、第2軸線O2を中心として反時計方向に回転しようとする影車150に噛み合っているので、図11に示す矢印の如く、第11軸線O11を中心として時計方向に揺動しようとする。これにより、影復針レバー205は、影カム201の外周面に対してレバー部207を常に押し付けるような回転トルクを受けている。そのため、影復針レバー205と影カム201とは常に接触した状態が維持されている。
【0137】
上述のように第2回転制御部200が構成されているので、月齢車180と共に共回りする影カム201の回転位置に対応して、影車150及び影板80の回転を制御することが可能とされている。つまり、第2回転制御部200は、月齢車180が1回転することに伴って、影板80が第1軸線O1を中心として、月板70とは位相がずれた状態で所定の回転角度範囲で一往復するように回転を制御することが可能とされている。
【0138】
特に本実施形態の回転制御部95は、上述した第1回転制御部190及び第2回転制御部200を備え、月齢車180の回転に伴って月板70及び影板80を異なる位相差で回転させるので、月板70及び影板80の回転途中において、時計1の平面視で、月板70の全体が影板80の裏側に隠れた隠れ状態、すなわち新月状態(図22参照)と、月板70の全体が影板80の裏側から抜け出した露出状態、すなわち満月状態(図30参照)と、を少なくとも含むように回転させることが可能とされている。この点は、後に詳細に説明する。
【0139】
(月齢修正機構)
さらに本実施形態の月齢表示機構12は、図5図6図17及び図18に示すように、月齢車180を強制的に回転させて、月板70及び影板80の相対位置関係を修正する月齢修正機構13を備えている。
【0140】
図17及び図18に示すように、月齢修正機構13は、月齢車180に隣接した状態でベース板16上に配置され、揺動軸線Mを中心として待機位置P1と修正位置P2(図21参照)との間を揺動可能とされた月齢修正レバー300と、月齢修正レバー300を待機位置P1に向けて付勢する月齢修正レバーばね(本発明に係るレバーばね)310と、月齢修正レバー300に揺動可能に設けられ、修正位置P2に月齢修正レバー300が位置したときに、月齢車180を通常の運針時とは逆方向の反時計方向に向けて所定の回転量分、送り回転させる月齢修正爪(本発明に係る修正爪)320と、を備えている。
【0141】
月齢修正レバー300は、月齢車180の径方向外側、具体的には文字板4の「1時」から「2時」付近に配置され、地板11の周方向に沿って平面視円弧状に形成されている。月齢修正レバー300における周端部のうち、月齢車180から離れた側に位置する第1周端部301は、ベース板16から上方に向けて突出した揺動ピン303によって揺動可能にガイドされている。揺動ピン303の中心軸線が上記揺動軸線Mとされている。
これにより、月齢修正レバー300は、揺動軸線Mを中心として揺動可能とされ、周端部のうち月齢車180に近い側に位置する第2周端部302を、月齢車180に対して接近離間させることが可能とされている。
【0142】
なお、第2周端部302が月齢車180に対して接近した位置が修正位置P2とされ、第2周端部302が月齢車180から離間した位置が待機位置P1とされている。
さらに月齢修正レバー300には、該月齢修正レバー300を上下方向に貫通すると共に、揺動軸線Mを中心として円弧状に形成された案内孔304が形成されている。案内孔304には、ベース板16から上方に向けて突設された位置決めピン305が挿入されている。これにより、月齢修正レバー300を、待機位置P1又は修正位置P2に位置決めすることが可能とされている。
【0143】
月齢修正レバーばね310は、ベース板16上に固定された基端部311と、該基端部311から時計方向に延びる弾性ばね部312と、を備えている。弾性ばね部312は、弾性復元力を利用して月齢修正レバー300を径方向の外側に向けて押圧することで、月齢修正レバー300を待機位置P1に付勢している。これにより、月齢修正レバー300は、通常の運針時、待機位置P1に位置している。
【0144】
月齢修正レバー300の第2周端部302には、図4及び図6に示すように、下方に向けて突出した操作ピン306が固定されている。操作ピン306は、地板11及びベース板16を上下方向に貫通し、且つ径方向の外側に開口した操作孔307内に収容されている。
図2に示すように、時計ケース3には、上記操作ピン306に対して径方向から対向するように操作ボタン308が押込み操作可能に設けられている。操作ボタン308は、時計ケース3の側方に露出しており、外部から押込み操作可能とされている。
【0145】
これにより、操作ボタン308を押込み操作することで、操作ピン306を介して月齢修正レバー300に外力を付与することができ、月齢修正レバー300を月齢修正レバーばね310の付勢力に抗して待機位置P1から修正位置P2に向けて揺動させることが可能とされている。
【0146】
図17及び図18に示すように、月齢修正爪320は、月齢修正レバー300における第2周端部302の上面に重なるように配設されている。月齢修正爪320は、第2周端部302の上面から上方に向けて突設された揺動ピン321回りに揺動可能とされている。月齢修正爪320は、月齢車180における月齢歯車182に向けて延びた第1修正爪322と、揺動ピン321よりも径方向の外側に向けて延びると共に、第2周端部302の上面から上方に向けて突設された位置決めピン324に対して接触可能な第2修正爪323と、を備えている。
【0147】
第1修正爪322は、図17及び図19に示すように、月齢修正レバー300が待機位置P1に位置しているときに、月齢歯車182の歯部の外側に待機しており、図20及び図21に示すように、月齢修正レバー300が修正位置P2に位置したときに、月齢歯車182の歯部を押し込んで月齢車180を反時計方向に例えば2歯分に相当する回転量だけ回転させることが可能とされている。これにより、月齢車180を強制的に反時計方向に送り回転させることが可能とされている。
【0148】
さらに図19図21に示すように、月齢修正レバー300には、該月齢修正レバー300が修正位置P2から待機位置P1に復帰するときに、月齢修正爪320の第1修正爪322が月齢車180から離反することを許容し、且つ月齢修正レバー300が第1修正爪322と月齢車180とが離間した位置まで復帰したときに、月齢修正爪320を付勢して送り回転を行う姿勢に戻す爪戻しばね330が設けられている。
【0149】
爪戻しばね330は、月齢修正レバー300の上面に固定された基端部331と、該基端部331から時計方向に延びる弾性ばね部332と、を備えている。弾性ばね部332は、弾性復元力を利用して第1修正爪322を月齢車180側に向けて押し出すように月齢修正爪320を付勢している。これにより、月齢修正爪320は、第2修正爪323が位置決めピン324に対して接触した姿勢で位置決めされている。
【0150】
(時計の作用)
次に、上述のように構成された時計1の作用について説明する。
本実施形態の時計1によれば、ぜんまいからの動力を利用して、表輪列及び裏輪列が規則正しく回転制御されながら、二番車50、三番車を順に回転させることができる。そのため、二番車50の回転に伴って筒かな20を回転させることができると共に、日の裏車30を介して筒車40を回転させることができる。これにより、分針6及び時針5をそれぞれ運針させることができる。
【0151】
ところで日の裏車30が回転すると、図11及び図16に示すように、月齢輪列210(第1中間車220、第2中間車230、第3中間車240及び第4中間車250)を介して月齢車180に回転トルクを伝達することができるので、第5軸線O5を中心として月齢車180を時計方向に回転させることができる。しかも、月齢車180を月の満ち欠けの周期である約29.5日で1回転するように回転させることができる。
【0152】
月齢車180が回転することで、月齢車180に伴って月カム191及び影カム201を共回りさせることができる。そのため、回転制御部95によって、月板70及び影板80の回転を制御しながら、第1動力部90からの回転トルクを利用して月板70を第1軸線O1回りに回転させ、且つ第2動力部91からの回転トルクを利用して影板80を第2軸線O2回りに回転させることができる。
【0153】
このとき、図1に示すように、第1軸線O1と第2軸線O2とは非同軸とされているので、月板70及び影板80を平面方向に離した状態で別々の動きをさせることができる。これにより、第1軸線O1を中心とした月板70の回転位置と、第2軸線O2を中心とした影板80の回転位置との相対位置を刻々と変化させることができ、月板70及び影板80の相対位置の変化に基づいて協働して月齢を表示することができる。
【0154】
特に、月板70と影板80とを地板11の厚さ方向に重なり合うようにそれぞれ回転させることができるので、時計1の平面視での相対位置の変化、すなわち月板70と影板80との重なり具合の変化に基づいて月齢を表示することができる。これにより、月板70と影板80との相対位置の変化を明瞭に視認することができ、月齢を良好な視認性で表示することができる。
【0155】
月齢表示について、詳細に説明する。
本実施形態では、月齢車180の回転に伴って月カム191及び影カム201を共回りさせることができる。そのため、月カム191の回転に追従するように月復針レバー195を揺動させることができ、月の満ち欠けの周期に対応して月板70を第1軸線O1回りに所定の回転角度範囲で一往復するように回転させることができる。これと同時に、影カム201の回転に追従するように影復針レバー205を揺動させることができ、月の満ち欠けの周期に対応して影板80を第2軸線O2回りに所定の回転角度範囲で一往復するように回転させることができる。
【0156】
しかも、月板70と影板80とを異なる位相で回転させることができ、位相差に対応した相対位置の変化、すなわち月板70と影板80との重なり具合の変化に基づいて月齢を表示することができる。
つまり、月板70及び影板80の重なり具合を、月の満ち欠けの周期(約29.5日)で刻々と変化させることができ、一目で月齢を表示することができる。
【0157】
具体的には、図22及び図23に示すように、月齢車180の回転によって、時計1の平面視で月カム191の突起部191bと影カム201の突起部201bとを結ぶ第2仮想線L2が先に述べた第1仮想線L1に対して直交する位置に、月カム191及び影カム201が達することで、月板70の全体が影板80の裏側に隠れた隠れ状態、すなわち新月「月齢0」を表示することができる。
【0158】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180が第5軸線O5を中心として時計方向に回転が進むと、月齢車180に伴って月カム191及び影カム201が共回りするので、それに追従して月復針レバー195及び影復針レバー205がそれぞれ揺動する。そして、図24及び図25に示すように、第2仮想線L2が第1仮想線L1に対して約45度傾斜した位置関係に月カム191及び影カム201が達することで、月板70の一部が影板80の裏側から露出した状態となり、いわゆる三日月「月齢3.7」を表示することができる。
【0159】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180、月カム191及び影カム201がさらに回転して、図26及び図27に示すように、第2仮想線L2が第1仮想線L1に対して一致した位置関係に月カム191及び影カム201が達することで、月板70の一部が影板80の裏側からさらに露出した状態となり、いわゆる上弦の月「月齢7.4」を表示することができる。
【0160】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180、月カム191及び影カム201がさらに回転して、図28及び図29に示すように、第2仮想線L2が第1仮想線L1に対して約45度傾斜した位置関係に月カム191及び影カム201が達することで、月板70の一部が影板80の裏側からさらに露出した状態となり、満月近傍の月「月齢11.1」を表示することができる。
【0161】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180、月カム191及び影カム201がさらに回転して、図30及び図31に示すように、第2仮想線L2が第1仮想線L1に対して直交した位置関係に月カム191及び影カム201が達することで、月板70の全体が影板80の裏側から抜け出した露出状態、すなわち満月「月齢14.8」を表示することができる。
【0162】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180、月カム191及び影カム201がさらに回転して、図32及び図33に示すように、第2仮想線L2が第1仮想線L1に対して約45度傾斜した位置関係に月カム191及び影カム201が達することで、月板70の一部が影板80の裏側に再び隠れた状態となり、いわゆる寝待月「月齢18.5」を表示することができる。
【0163】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180、月カム191及び影カム201がさらに回転して、図34及び図35に示すように、第2仮想線L2が第1仮想線L1に対して一致した位置関係に月カム191及び影カム201が達することで、月板70の一部が影板80の裏側にさらに隠れた状態となり、いわゆる下弦の月「月齢22.1」を表示することができる。
【0164】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180、月カム191及び影カム201がさらに回転して、図36及び図37に示すように、第2仮想線L2が第1仮想線L1に対して45度傾斜した位置関係に月カム191及び影カム201が達することで、月板70の一部が影板80の裏側にさらに隠れた状態となり、いわゆる新月近傍の月「月齢25.8」を表示することができる。
【0165】
この状態から時刻変化に伴って月齢車180、月カム191及び影カム201がさらに回転することで、図22及び図23に示すように、月板70の全体が影板80の裏側に隠れた隠れ状態に移行し、新月「月齢0」を表示することができる。この段階で、月齢車180が1回転する。
【0166】
上述のように、月齢車180が月の満ち欠けに対応した周期(約29.5日)で1回転する過程において、月板70及び影板80の相対位置を変化、すなわち重なり具合を刻々と変化させることができ、月齢を正確に表示することができる。
【0167】
以上説明したように、本実施形態の月齢表示機構12によれば、月板70及び影板80の相対位置の変化を利用して月齢を表示するので、狭い領域であっても良好な視認性で月齢を表示することができる。さらに、月板70及び影板80の相対位置を刻々と変化させることができるので、月齢表示のための無駄な動きがなく、連続的に安定且つ効率良く月齢を表示することができる。さらに、月板70及び影板80を逆転させることも可能であるうえ、従来のように瞬間的に移動するような動きが不要であるため、月齢表示機構12にかかる負荷を低減することが可能である。さらには、従来の球体のような厚みを有する部材が不要であるので、小型化及び薄型化を図ることができる。
【0168】
以上のことから、本実施形態の月齢表示機構12によれば、狭い領域であっても良好な視認性で、連続的に安定且つ効率良く月齢を表示することができるうえ、月齢表示機構12にかかる負荷を低減でき、さらに小型化及び薄型化を図ることができる。
さらに、月齢表示機構12を備えるムーブメント10及び時計1によれば、時刻以外の情報である月齢を良好な視認性で、連続的に安定且つ効率良く表示することができ、機能性が向上した高品質且つ高性能なムーブメント及び時計となる。
【0169】
さらに、本実施形態の月齢表示機構12によれば、月板70と影板80とを重なり合わせることができるので、より狭い領域で月齢を効率良く表示することができ、月齢表示に必要な占有面積を小さくすることができる。従って、月齢表示機構12を多数の時計部品を有するムーブメント10であっても組み込み易い。
【0170】
さらに月板70と影板80との重なり具合の変化に基づいて月齢を表示するときに、月板70の全体が影板80の裏側に隠れた隠れ状態(図22に示す新月状態)と、月板70の全体が影板80の裏側から抜け出した露出状態(図30に示す満月状態)とにすることができるので、大きく異なる2つの態様を明瞭に表現することができ、使い易い。
【0171】
さらに月板70及び影板80を、往復回転(揺動)するように回転制御することができるので、さらに狭い領域であっても月板70及び影板80を連続的に動かしながら月齢を正確に表示することができる。
【0172】
さらに月カム191及び影カム201を利用するだけの簡便な構成で、時間変化に関連付けて月板70及び影板80を往復回転させることができるので、作動の確実性及び構成の簡略化を図ることができる。しかも、月齢車180、月カム191及び影カム201を共通の同軸上に配置しているので、月齢表示機構12の全体を平面方向にコンパクトに配置することができる。
【0173】
さらに、月板70を黄色等の明色で形成し、影板80を黒色等の暗色で形成しているので、月板70と影板80との重なり具合の変化によって、例えば新月(月齢0)、満月(月齢14.8)、上弦の月(月齢7.4)、下弦の月(月齢22.1)等の月齢を一目で明瞭に認識し易い。
【0174】
さらに、本実施形態の月齢表示機構12は、月齢修正機構13を備えているので、月齢の修正が必要な場合に月齢車180を送り回転させることができ、月板70及び影板80の相対位置関係を修正して月齢修正を行うことができる。
【0175】
詳細に説明する。
月齢修正を行う場合には、時計ケース3の側方に露出している図2に示す操作ボタン308を押込み操作する。これにより、操作ピン306を押し込むことができ、図19図21に示すように、月齢修正レバー300を待機位置P1から月齢修正レバーばね310の付勢力に抗して揺動させて、修正位置P2に位置させることができる。これにより、月齢修正爪320の第1修正爪322を利用して、月齢歯車182の歯部を押し込むことができ、月齢車180を運針時とは逆の反時計方向に2歯分に相当する回転量だけ回転させることが可能とされている。これにより、月齢車180を強制的に反時計方向に送り回転させることができる。
【0176】
従って、月齢車180の回転位置を修正することができ、月板70と影板80との重なり具合を調整することができ、月齢修正を確実に行うことができる。特に、月齢歯車182の上面には、月齢読取部183が周方向に等間隔をあけて表示されているので、月齢読取部183を目安にしながら月齢修正を行えるので、修正を行い易い。
なお、月齢車180を運針時とは逆方向に送り回転させるので、月齢輪列210と月齢車180との噛み合い関係のバックラッシュの影響を受けることなく、月齢修正を行える。
【0177】
なお月齢車180が運針時とは逆方向に送り回転されることで、第4中間車250の第4中間かな254が運針時とは逆方向に回転しようとするが、第4中間歯車253が他の月齢輪列210と噛み合っている。これにより、第4中間車250の第4中間かな254を、第4中間歯車253に対してスリップさせることができ、月齢修正を適切に行うことができる。
【0178】
また、操作ボタン308の押込みを解除すると、月齢修正レバーばね310の付勢力によって月齢修正レバー300を修正位置P2から待機位置P1に復帰させることができる。この際、月齢歯車182の歯部を押し込んでいた月齢修正爪320の第1修正爪322が歯部に係合したまま、月齢修正レバー300が復帰するおそれがある。しかし、月齢修正爪320を爪戻しばね330の付勢力に抗して月齢車180から離反させることができるので、月齢修正レバー300が待機位置P1に復帰する際に、月齢修正爪320が月齢車180を修正前の位置に向けて逆転させてしまうことを防止することができる。従って、修正した月齢を確実に維持することができる。
【0179】
なお、月齢修正レバー300が待機位置P1に復帰すると、月齢修正爪320は爪戻しばね330からの付勢力によって送り回転を行うときの姿勢に復帰するので、次回の月齢修正に備えることができる。
【0180】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0181】
例えば、上記実施形態では、機械式の時計を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、例えばクォーツ式の時計に適用しても構わない。この場合には、例えばステップモータの駆動力を利用して、各車を回転させるように構成すれば良い。
【0182】
さらに上記実施形態では、月板及び影板を利用して月齢を表示する場合を例に挙げて説明したが、表示する情報としては月齢に限定されるものではない。例えば、月齢に代えて曜日等を表示しても構わないし、それ以外の各種の情報を表示しても構わない。これらの場合には、表示する情報に応じて、例えば第1表示部及び第2表示部の形状、色、模様等に加え、回転制御部の回転速度や第1カム及び第2カムの形状等を適宜変更すれば良い。
【0183】
さらに上記実施形態では、月齢輪列を、第1中間車、第2中間車、第3中間車及び第4中間車で構成したが、この場合に限定されるものではなく、月齢車を月の満ち欠けの周期(約29.5日)で1回転させることができれば、月齢輪列を任意に構成して構わない。
【0184】
さらに上記実施形態では、第1動力部の動力源として月戻しばねを採用し、第2動力部の動力源として影戻しばねを採用することで、別個の動力源を具備する構成としたが、この場合に限定されるものではない。
例えば、図38に示すように、共通の動力源として1つの戻しばね400を具備し、この戻しばね400で発生した回転トルクを利用して、月戻し車120及び影戻し車160を介して月車110及び影車150に回転トルクを伝える月齢表示機構12としても構わない。
【符号の説明】
【0185】
O1…第1軸線
O2…第2軸線
P1…待機位置
P2…修正位置
1…時計
10…ムーブメント
11…地板
12…月齢表示機構(情報表示機構)
13…月齢修正機構
70…月板(第1表示部)
80…影板(第2表示部)
90…第1動力部
91…第2動力部
95…回転制御部
180…月齢車(回転体)
190…第1回転制御部
191…月カム(第1カム)
195…月復針レバー(第1制御レバー)
200…第2回転制御部
201…影カム(第2カム)
205…影復針レバー(第2制御レバー)
300…月齢修正レバー
310…月齢修正レバーばね(レバーばね)
320…月齢修正爪(修正爪)
330…爪戻しばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38