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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/52 20060101AFI20240527BHJP
   G01S 13/28 20060101ALI20240527BHJP
   G01S 7/288 20060101ALI20240527BHJP
   G01S 7/292 20060101ALI20240527BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G01S13/52
G01S13/28
G01S7/288
G01S7/292 202
G01S13/58 200
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020205119
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092350
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-152472(JP,A)
【文献】Michael Martinez,"UAS Detection, Classification, and Tracking in Urban Terrain",2019 IEEE Radar Conference (RadarConf),2019年04月,DOI: 10.1109/RADAR.2019.8835545
【文献】Linlin Wang et al.,"Micro-Doppler Based Detection of Hovering UAVs",2019 IEEE International Symposium on Antennas and Propagation and USNC-URSI Radio Science Meeting,2019年07月,AP-S 2019,pp.165-166,DOI: 10.1109/APUSNCURSINRSM.2019.8889008
【文献】Albert Huizing et al.,"Deep Learning for Classification of Mini-UAVs Using Micro-Doppler Spectrograms in Cognitive Radar",IEEE Aerospace and Electronic Systems Magazine,2019年11月,Vol.34, No.11,pp.46-56,DOI: 10.1109/MAES.2019.2933972
【文献】Wantian Wang et al.,"Motion States Classification of Rotor Target Based On Micro-Doppler Features Using CNN",IGARSS 2019 - 2019 IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium,2019年07月,pp.1390-1393,DOI: 10.1109/IGARSS.2019.8900361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、fast-time軸で必要に応じてパルス圧縮し、slow-time軸でコヒーレント積分処理してレンジ・ドップラデータ(以下、RDデータ)を取得するレーダ装置であって、
前記RDデータからCFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)処理によって複数の目標を検出し、
検出された目標毎にslow-time軸のポイントをL(M≧L≧1)ヒットずつスライディングさせながら抽出して拡張し、
前記目標毎に抽出したM(M≧2)ポイントそれぞれの時間-ドップラ軸のデータを時系列短時間処理し、
前記時系列短時間処理された結果をCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワ-ク)で学習して、前記目標の真偽を識別するレーダ装置。
【請求項2】
前記時間-ドップラ軸のデータを、前記時系列短時間処理を行う前に、KR(Khatri-Rao)積処理により拡張する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記時系列短時間処理として、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)を用いる請求項1のレーダ装置。
【請求項4】
前記時系列短時間処理として、CS(Compressed Sensing:圧縮センシング)を用いる請求項1のレーダ装置。
【請求項5】
前記時系列短時間処理として、MUSIC(Multiple signal classification)法を用いる請求項1のレーダ装置。
【請求項6】
単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、fast-time軸で必要に応じてパルス圧縮し、slow-time軸でコヒーレント積分処理してレンジ・ドップラデータ(以下、RDデータ)を取得するレーダ装置に用いられ、
前記RDデータからCFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)処理によって複数の目標を検出し、
検出された目標毎にslow-time軸のポイントをL(M≧L≧1)ヒットずつスライディングさせながら抽出して拡張し、
前記目標毎に抽出したM(M≧2)ポイントそれぞれの時間-ドップラ軸のデータを時系列短時間処理し、
前記時系列短時間処理された結果をCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワ-ク)で学習して、前記目標の真偽を識別する
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダ装置及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置では、STFT(Short-Time Fourier transform:短時間フーリエ変換)によるスペクトログラムを用いて、slow-time軸の時系列のドップラ変化を観測することで、目標の識別を行う手法がよく用いられる。しかしながら、この手法は、観測時間が短い(ヒット数が少ない)場合には、ドップラ分解能が低く、識別能力が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】パルス圧縮、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp. 278-280 (1996)
【文献】CFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89 (1996)
【文献】KR積アレイ、Wing-Kin Ma, ‘DOA Estimation of Quasi-Stationary Signals With Less Sensors Than Sources and Unkown Spatial Noise Covariance: A Khatri-Rao Subspace Approach’, IEEE Trans. Signal Process, vol.58, no.4, pp.2168-2180, April (2010)
【文献】空間平均法、菊間、‘アレーアンテナによる適応信号処理’、科学技術出版、pp.163-170, pp.336-337 (1999)
【文献】短時間FFT、中野、‘ウェーブレットによる信号処理と画像処理’、共立出版株式会社、pp.97-100 (1999)
【文献】圧縮センシング、Toyoki Hoshikawa, ‘Performance Comparison of Compressed Sensing Algorithms for DOA Estimation of Multi-band Signals’, 2018 15TH WORKSHOP ON POSITIONING NAVIGATION AND COMMUNICATIONS(2018)
【文献】MUSIC、菊間、’アダプティブアンテナ技術’、Ohmsha、pp.137-142 (2003)
【文献】畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)、斎藤、’ゼロから作るDeep Learning’、オライリー・ジャパン、pp.205-220 (2016)
【文献】CNNによる識別、藤田、’実装ディープラーニング’、Ohmsha、pp.94-111 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のレーダ装置では、STFTによるスペクトログラムを用いて目標の識別を行った場合、観測時間が短いまたはヒット数が少ないと、ドップラ分解能が低く、識別能力が低下する問題があった。
【0005】
本実施形態の課題は、観測時間が短いまたはヒット数が少ない場合の目標識別能力を向上させることのできるレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、実施形態によれば、単パルスまたは変調したN(N≧1)パルスを用いて、fast-time軸で必要に応じてパルス圧縮し、slow-time軸でコヒーレント積分処理してレンジ・ドップラデータ(以下、RDデータ)を取得するレーダ装置であって、前記RDデータからCFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)処理によって複数の目標を検出し、検出された目標毎にslow-time軸のポイントをL(M≧L≧1)ヒットずつスライディングさせながら抽出して拡張し、前記目標毎に抽出したM(M≧2)ポイントそれぞれの時間-ドップラ軸のデータを時系列短時間処理し、前記時系列短時間処理された結果をCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワ-ク)で学習して、前記目標の真偽を識別する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の送信系統の構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図である。
図3図3は、第1の実施形態の受信系統において、受信データ取得後の処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、第1の実施形態の受信系統において、KR積処理及び短時間処理について説明するための概念図である。
図5図5は、第1の実施形態の受信系統に用いられ、レーダ反射波の反射点間の相関を抑圧する部分相関行列平均化手法を説明するための図である。
図6図6は、第2の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図である。
図7図7は、第2の実施形態の受信系統において、図6に示す構成にした場合の処理の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、第3の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図である。
図9図9は、第3の実施形態の受信系統において、受信データ取得後の処理の流れを示すフローチャートである。
図10図10は、第4の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図である。
図11図11は、第4の実施形態の受信系統において、受信データ取得後の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
以下、図1乃至図7を参照して、第1の実施形態に係るレーダ装置を説明する。
図1及び図2は、それぞれ第1の実施形態に係るレーダ装置の送信系統、受信系統の構成を示すブロック図、図3は、図2に示す受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
【0010】
図1に示す送信系統において、信号生成器1は送信種信号を生成し、変調器2は送信種信号から変調信号を生成し、周波数変換器3は変調信号を高周波信号に変換し、パルス変調器4は高周波信号をパルス変調(パルス圧縮)してN(N≧2)ヒットの送信パルスを生成し、送信アンテナ5は送信パルスを送信する。
【0011】
図2に示す受信系統において、受信アンテナ11は送信パルスの反射信号を受信する。周波数変換器12は受信信号を中間周波数に周波数変換し、AD変換器13は周波数変換された信号をディジタル信号に変換する。パルス圧縮器14はディジタル信号に変換された信号をパルス圧縮し(非特許文献1参照)、slow-time FFT処理器15はパルス圧縮された受信信号にslow-time軸のFFT処理を施して、レンジ-ドップラデータ(RDデータ)を取得する。CFAR検出器16は、RDデータを用いて、CFAR(非特許文献2参照)処理によって目標を検出する。目標レンジ抽出器17はCFAR処理によって検出された目標それぞれのレンジセルを取得する。時系列短時間KR積処理器18はslow-time軸を抽出し、L(M≧L1)ヒットずつスライディングさせながらM(M≧2)ポイントを抽出し、抽出したポイントのK(K≧2)個の時系列時間-ドップラ軸のデータを抽出し、このデータに対して、拡張アレイ処理としてKR(Khatri-Rao)積処理(非特許文献3参照)を行う。時系列短時間処理器19はKR積処理されたslow-time軸の時系列の信号を短時間に分割してFFT処理する。CNN識別器20は短時間FFT処理された信号をCNNによる学習処理によって目標の真偽を識別する。識別結果出力器21は、CNN識別結果から真の目標のみを抽出して出力する。
【0012】
すなわち、受信系統では、受信アンテナ11で受信した信号は、周波数変換器12で周波数変換され、AD変換器13でディジタル信号に変換される。次に、図3に示すように、ディジタル化された受信データが入力されると(ステップS11)、パルス圧縮(非特許文献1参照)信号の場合は、パルス圧縮器14でパルス圧縮され(ステップS12)、slow-time FFT処理器15でslow-time軸のFFT処理が施されて(ステップS13)、レンジ・ドップラデータ(RDデータ)を得る。このRDデータを用いて、CFAR処理器16でCFAR処理を行って目標を検出し(ステップS14)、レンジ抽出器17で検出目標それぞれのレンジセルを抽出する(ステップS15)。
【0013】
次に、検出目標毎のレンジセルに対して、slow-time時間のドップラ変化を抽出することを考える。これは、短時間フーリエ変換を用いる場合はスペクトログラムと言われるものである。この際、slow-time軸の時系列の信号を短時間に分割してFFTするために、各々のフーリエ変換結果のドップラ分解能が低下する問題がある。この対策のために、拡張アレイ処理としてKR積処理(非特許文献3参照)を用いることを考える。
【0014】
まず、時系列短時間KR積処理器18で、パルス圧縮14後のslow-time軸を抽出し、L(M≧L1)ヒットずつスライディングさせながら抽出したM(M≧2)ポイントのK(K≧2)個の時系列時間-ドップラ軸のデータを抽出する。この様子を図4(a)に示す。このデータに対して、KR積処理(非特許文献3参照)を適用する(ステップS16)。定式化すると、次の通りである。まず、抽出したslow-time軸の信号列を次式で表現する。
【0015】
【数1】
【0016】
次にこの信号Xを用いて、KR積処理を行う。まず、相関行列は次式で表現できる。
【0017】
【数2】
【0018】
ここで、レーダ反射波では、反射点間に相関があり、(2)式の相関成分には反射点間のクロスタームが発生する問題がある。この相関を抑圧するために、図5に示すように、相関行列を部分行列に分離し、平均化する部分相関行列平均化手法を適用する(非特許文献4参照)。
【0019】
これは、相関行列Rxxの相関成分を抑圧するために、X(M次元)の信号長のうち、部分列であるPセルずつ、slow-time軸でスライディングしながら抽出し、そのたびに部分相関行列の演算を行い、部分相関行列の平均値を算出するものである。ここで、2P-1>Mと選定することにより、KR積処理後にドップラ軸で高分解能化できるようにする。この処理により、相関行列の成分のクロスタームが抑圧され、複数反射点間の相関が抑圧される。
【0020】
【数3】
【0021】
この部分相関行列の平均値であるRxxpを用いて、KR積処理器18により、左端と上端の要素をベクトル化すると、2P-1次元の列ベクトルとなる。
【0022】
【数4】
【0023】
【数5】
【0024】
このKR積処理後の信号Xkrは、図4(b)に示すように、1つのレンジセルのslow-time軸で重複する部分が生じる。これについては、重複部分は、重複した信号の中の1つの信号で代表する処置とすればよい。次に、このKR積処理後の信号を用いて、時系列短時間処理器19で時系列短時間処理を行う(ステップS17)。
【0025】
これにより、検出したレンジセル毎に、図4(c)に示すような、時間に対するドップラの変化を表す時間-ドップラデータ(以下、TDデータと称する)を描くことができる。この2次元のTDデータをCNN(畳み込みニューラルネットワーク、非特許文献8参照)を用いたCNN識別処理器20に入力して、目標の真偽を識別する(ステップS18)。上記ステップS14からステップS18の処理は、CFAR検出処理の目標の検出数に達するまで、検出レンジを変更して繰り返される(ステップS19,S20)。CNNによる識別手法(非特許文献9参照)としては、識別クラス毎に、TDデータによる学習データを準備して、識別クラスを教師として学習させておき、その学習結果をCNN識別器20に設定しておく。実測データが入力され、CNN識別器20に、検出レンジセル毎のTDデータが入力される毎に識別結果出力器21により、識別結果が出力される(ステップS21)。このCNN識別処理のモデル設定手法は、一般的な手法であり、細部は参考文献(非特許文献9)等に記述がある。識別手法としては、CNNを用いない方式でもよいのは言うまでもない。入力データとしては、検出レンジセル毎に2次元TDデータであるが、2次元TDデータを1次元に並べ替えてから、入力する識別手法でもよい。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、ドップラ軸で低分解能となる時系列短時間処理の前処理として、KR積処理をするようにしているので、ドップラ軸高分解能化を図ることができ、これによって観測時間が短い(ヒット数が少ない)場合でも、目標識別能力を向上させることができる。
【0027】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、第1実施形態で述べた時系列短時間処理として、FFT処理(非特許文献5参照)を用いる手法について述べる。
【0028】
図6は第2の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図、図7は、図6に示す受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。送信系統については、第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を割愛する。また、図6及び図7において、同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0029】
図6に示す受信系統、図7に示す処理の流れにおいて、第1の実施形態に示した時系列短時間処理器19として、時系列短時間FFT処理器19aを用い、時系列短時間処理(ステップS17)として、時系列短時間FFT処理(ステップS17a)を行う点に特徴がある。 すなわち、時系列短時間処理として、代表的なものに短時間FFT処理(非特許文献5参照)がある。本実施形態では、短時間FFT処理が採用されている場合に、ドップラ軸で低分解能となる時系列短時間FFT処理の前処理として、KR積処理をするようにすることで、ドップラ軸高分解能化を図り、これによって観測時間が短い(ヒット数が少ない)場合でも、目標識別能力を向上させることを可能としている。
【0030】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、第1実施形態で述べた時系列短時間処理として、CS処理(圧縮センシング、非特許文献6参照)を用いる手法について述べる。
【0031】
図8は第3の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図、図9は、図8に示す受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。送信系統については、第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を割愛する。
【0032】
図8に示す受信系統、図9に示す処理の流れにおいて、第1の実施形態に示した時系列短時間処理器19として、時系列短時間CS処理器19bを用い、時系列短時間処理(ステップS17)として、時系列短時間CS処理(ステップS17b)を行う点に特徴がある。他の部分は、図2及び図3と同様であるので、同一部分に同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0033】
本実施形態で適用するCS処理は、定式化すると以下のようになる。入力信号は、時系列短時間KR積処理器18でKR積処理(ステップS16)をした後の信号であり、(4)式と同様である。この信号を、slow-time軸でFFTした信号を入力信号Ysとする。
【0034】
【数6】
【0035】
【数7】
【0036】
Asのq番目の縦列の要素は、波源がドップラxqに存在するときのドップラ軸の信号ベクトルである。
【0037】
【数8】
【0038】
【数9】
【0039】
ここで、(6)式を用いて、Xsがスパースであることを用いると、次式を最小化するXsを算出することができる(非特許文献6参照)。
【0040】
【数10】
【0041】
このXsが、検出レンジセル毎のドップラ軸の信号に相当し、短時間FFT処理と同様に、TDデータを得ることができる。この検出レンジセル毎のTDデータを用いて識別するCNN処理器20によるCNN識別処理(ステップS18)は、第1の実施形態と同様である。
【0042】
以上のように、本実施形態によっても、ドップラ軸で低分解能となる時系列短時間CS処理の前処理として、KR積処理をするようにしているので、ドップラ軸高分解能化を図ることができ、これによって観測時間が短い(ヒット数が少ない)場合でも、目標識別能力を向上させることができる。
【0043】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、時系列短時間処理として、MUSIC(Multiple Signal Classification)処理(非特許文献7参照)を用いる手法について述べる。
【0044】
図10は第4の実施形態に係るレーダ装置の受信系統の構成を示すブロック図、図11は、図10に示す受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。送信系統については、第1の実施形態と同様であるので、ここでは説明を割愛する。
【0045】
図10に示す受信系統、図11に示す処理の流れにおいて、第1の実施形態に示した時系列短時間処理器19として、時系列短時間MUSIC処理器19cを用い、時系列短時間処理(ステップS17)として、時系列短時間MUSIC処理(ステップS17c)を行う点に特徴がある。他の部分は、図2及び図3と同様であるので、同一部分に同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0046】
本実施形態で適用するMUSIC処理は、定式化すると以下のようになる。入力信号は、時系列短時間KR積処理18をした後の信号であり、(4)式と同様である。第2の実施形態では、この信号をslow-time軸でFFT処理した結果をYsとしたが、本実施形態では、FFT処理する前の(4)式と同様の信号を入力とする。
【0047】
【数11】
【0048】
このRxxを用いて、MUSIC処理し、次式によりMUSICスペクトルを算出する。
【0049】
【数12】

このSmusicが、ドップラ軸の信号に相当し、短時間FFTと同様に、TDデータを得ることができる。この検出レンジセル毎のTDデータを用いて識別するCNN識別器20のCNN識別処理(ステップS18)は、第1の実施形態と同様である。
【0050】
以上のように、本実施形態によっても、ドップラ軸で低分解能となる時系列短時間MUSIC処理の前処理として、KR積処理をするようにしているので、ドップラ軸高分解能化を図ることができ、これによって観測時間が短い(ヒット数が少ない)場合でも、目標識別能力を向上させることができる。
【0051】
以上、時系列短時間処理の前に、時系列短時間KR積処理を行う実施形態について述べたが、時系列短時間KR積処理を行わずに、他の時系列短時間処理を行う方式でもよい。また、データ拡張を行う方式としては、KR積処理以外の方式でもよい。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…信号生成器、2…変調器、3…周波数変換器、4…パルス変調器、5…送信アンテナ、
11…受信アンテナ、12…周波数変換器、13…AD変換器、14…パルス圧縮器、15…slow-time FFT処理器、16…CFAR検出器、17…目標レンジ抽出器、18…時系列短時間KR積処理器、19…時系列短時間処理器、19a…時系列短時間FFT処理器、19b…時系列短時間CS処理器、19c…時系列短時間MUSIC処理器、20…CNN識別器、21…識別結果出力器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11