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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ウェハ切断用ワイヤソー
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240527BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20240527BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H01L21/304 611W
B24B27/06 Q
B28D5/04 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020519794
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 IB2018057668
(87)【国際公開番号】W WO2019069243
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】17195026.4
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519459425
【氏名又は名称】プレシジョン サーファシング ソリューションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー マルクス
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-76523(JP,A)
【文献】特開平7-266214(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1014299(KR,B1)
【文献】特表2009-506732(JP,A)
【文献】特開2017-147446(JP,A)
【文献】特開2002-283226(JP,A)
【文献】特開2000-42893(JP,A)
【文献】特開2013-169634(JP,A)
【文献】特開平5-147023(JP,A)
【文献】特開2011-665(JP,A)
【文献】特開平11-70493(JP,A)
【文献】特開2015-216838(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0086592(KR,A)
【文献】中国実用新案第202293065(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 27/06
B28D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースから複数のウェハを切断するためのウェハ切断用ワイヤソー(1)であって、少なくとも2つのローラ取付部(20,30)を備え、各前記ローラ取付部(20,30)は、切断用ワイヤウェブ(4)が巻掛けられた2つのワイヤ案内ローラ(2,3)の少なくとも一方を、取り外し可能に支持することができ、
前記ローラ取付部(20,30)の少なくとも1つが、
-第1のシャフト部(7)と、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)に第1の側から係合する第1のローラ係合部(25)とを含む、回転可能な第1の保持部材(5)と、
-第2のシャフト部(8)と、第1の側の反対側である第2の側から前記ワイヤ案内ローラ(2,3)に係合する第2のローラ係合部(26)とを含む、回転可能な第2の保持部材(6)と、を備え、
前記ローラ係合部(25,26)は互いに対向し、前記第1の保持部材(5)の回転軸と前記第2の保持部材(6)の回転軸とは互いに実質的に一致し、
各前記保持部材(5,6)は、前記保持部材(5,6)の前記シャフト部(7,8)を囲みベアリング支持部(11,12)内に収容されている少なくとも1つのベアリング(9,10)によって、回転可能に支持されており、
前記第1の保持部材(5)の前記第1のローラ係合部(25)と前記第2の保持部材(6)の前記第2のローラ係合部(26)との間の距離(F)が、前記第1の保持部材(5)または前記第2の保持部材(6)の前記シャフト部(7,8)を囲む少なくとも1つのベアリング(9,10)の内径(D)に比べて、少なくとも6倍大きく、
前記保持部材の少なくとも1つ(5)が、電気モータ(14)のロータ(15)からの延長部分である、
ワイヤソー。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソーであって、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)の少なくとも1つは、取付部(20,30)の前記第1の保持部材(5)と前記第2の保持部材(6)との間に取り外し可能に把持され、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)の軸は、前記第1の保持部材(5)および前記第2の保持部材(6)の前記回転軸に実質的に一致する、ワイヤソー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のワイヤソーであって、前記少なくとも1つのベアリング(9,10)のうちの1つである前記ローラ係合部(25,26)に最も近いベアリング(9,10)が、ラジアルベアリングである、ワイヤソー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記保持部材の少なくとも1つ(5)は、前記ベアリング支持部(11)内の少なくとも2つのベアリング(9,19,29)で支持されており、前記第1の保持部材(5)の前記第1のローラ係合部(25)と前記第2の保持部材(6)の前記第2のローラ係合部(26)との間の距離(F)が、前記ローラ係合部(25)に最も近いベアリング(9)の軸方向中心と、隣接するベアリング(19)の軸方向中心との間の軸方向距離(E)に比べて、少なくとも5倍大きい、ワイヤソー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記保持部材の少なくとも1つ(5)は、前記ベアリング支持部(11)内の少なくとも2つのベアリング(9,19,29)で支持されており、前記第1の保持部材(5)の前記第1のローラ係合部(25)と前記第2の保持部材(6)の前記第2のローラ係合部(26)との間の距離(F)が、前記ローラ係合部(25)に最も近い前記ベアリング(9)と、前記ローラ係合部(25)から最も遠い前記ベアリング(29)との間の軸方向距離(A)に比べて、少なくとも5倍大きい、ワイヤソー。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)のワイヤ担持面(13)の直径(B)が、前記第1の保持部材(5)または前記第2の保持部材(6)の前記シャフト部(7,8)を囲む前記少なくとも1つのベアリング(9,10)の内径(D)に比べて大きい、ワイヤソー。
【請求項7】
請求項6に記載のワイヤソーであって、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)の長さ(L)、および/または、前記第1の保持部材(5)の前記第1のローラ係合部(25)と前記第2の保持部材(6)の前記第2のローラ係合部(26)との間の距離(F)が、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)の前記ワイヤ担持面(13)の直径(B)に比べて、少なくとも3倍大きい、ワイヤソー。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記保持部材(5)の少なくとも1つが、前記ベアリング支持部(11)内の少なくとも2つのベアリング(9,19,29)によって支持され、前記少なくとも2つのベアリングのうちの少なくとも1つ(19,29)が、アキシャルベアリングである、ワイヤソー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記第1の保持部材(5)の前記第1のローラ係合部(25)および/または前記第2の保持部材(6)の前記第2のローラ係合部(26)は、前記保持部材(5,6)の前記回転軸に関して対称であるテーパ部を備え、
前記保持部材(5,6)の前記テーパ部は、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)の係合部に当接し、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)の前記係合部は、前記保持部材(5,6)の前記係合部(25,26)の前記テーパ部に対応する部分を含む、ワイヤソー。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記第1の保持部材(5)の前記第1のローラ係合部(25)および/または前記第2の保持部材(6)の前記第2のローラ係合部(26)は、軸方向ストッパ部を備える、
ワイヤソー。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、
前記ワイヤソーが、ステータとロータ(15)を含む電気モータ(14)を備え、前記保持部材(5)と前記ロータ(15)とが回転可能なユニットを形成し、前記ユニットが、前記電気モータ(14)と前記保持部材(5)の前記ローラ係合部(25)との間の領域に配置された単数または複数のベアリング(9,19,29)のみによって支持されている、
ワイヤソー。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記ロータ(15)における前記保持部材(5)から最も遠い端部に、少なくとも0.1mmの半径方向の間隙が設けられるように、前記ロータ(15)が前記電気モータ(14)内または前記電気モータ(14)のステータ内に保持されている、ワイヤソー。
【請求項13】
請求項11または12に記載のワイヤソーであって、前記ロータ(15)は、前記電気モータ(14)内で回転可能に配置され、前記ステータの外部においてのみ支持されている、ワイヤソー。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のワイヤソーであって、前記ワイヤソー(1)が、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)を前記保持部材(5,6)間に把持するための解放可能なクランプ機構を備える、ワイヤソー。
【請求項15】
請求項14に記載のワイヤソーであって、前記クランプ機構が引っ張り部材を備え、前記引っ張り部材は、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)を通って前記保持部材(5,6)間に延在し、前記引っ張り部材は、前記保持部材(5,6)が前記ワイヤ案内ローラ(2,3)を把持するロック状態から、前記ワイヤ案内ローラ(2,3)を前記保持部材(5,6)から解放できる解除状態にされることができる、ワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段に記載のとおりの、ワークピースから複数のウェハを切断するためのウェハ切断用ワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術によるワイヤソーは、回転可能な保持部材を備え、その保持部材には、切断用ワイヤウェブを支持するためのワイヤ案内ローラが着脱可能に取り付けられる。この取り付けは、保持部材の円錐形(テーパ形)の面を軸方向に、ワイヤ案内ローラの対応する面に押し付けることによって実施される。このようにして、ワイヤ案内ローラは、互いに対向する保持部材の間に取り外し可能に把持される。
【0003】
最新技術では、保持部材を強固な(すなわち大型の)ベアリングで堅く保持し、ワイヤ案内ローラを短くすることで硬直に構成することが知られている。たとえば、CN202293065U、JP5964197B2、および、KR20160086592Aを参照されたい。
【0004】
大型のベアリングは、ワイヤ案内ローラの回転数を限定してしまう。その理由は、ベアリングの円周に沿った速度が(ひいては摩擦損失および温度も)、ベアリングの半径とともに直線的に増大するからである。回転数が低く維持されると、切断時間が長くなり、したがって歩留まりが低下する。ウェハの品質は、切断用ワイヤの速度の上昇とともに向上するため、回転数が限定されることは、ウェハの品質に悪影響を及ぼす。
【0005】
ワイヤ案内ローラを短く構成することも、ウェハ数の面でのワイヤソーの処理能力を低下させるので、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国実用新案公報第202293065号明細書
【文献】特許第5964197号公報
【文献】韓国特許出願公開第20160086592号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の問題点を克服することであって、ウェハに高品質をもたらすとともに切断時間を短縮しつつ高処理能力を維持するワイヤソーを提供することである。また同時に、保持部材と、保持部材を回転可能に支持するベアリングとを含むローラ取付部が、省スペースな設計を有するべきである。それにより、機器のコストが低減される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、冒頭で述べたようなウェハ切断用ワイヤソーであって、第1の保持部材の第1のローラ係合部と第2の保持部材の第2のローラ係合部との間の距離が、第1の保持部材または第2の保持部材のシャフト部を囲む少なくとも1つのベアリングであって好ましくはローラ係合部に最も近いベアリングの内径に比べて、少なくとも6倍大きく、好ましくは少なくとも8倍大きく、より好ましくは少なくとも10倍大きいことを特徴とするワイヤソーによって達成される。
【0009】
本発明に係る上述の比率によって、保持部材は、切断用ワイヤウェブによってワイヤ案内ローラに作用される張力に対して最適に適応できる。ベアリングの内径を縮小することにより、ベアリングの外側リングの半径方向の変位が低減する。それにより、ローラがより大きく撓むことが許容されるので、互いに対向するローラ係合部の間の距離を大きくすることが可能になる。したがって、保持部材は、ワイヤ案内ローラから伝達される力に対してより容易く適応できる。それにより両保持部材は、共通の撓み線に沿って傾く。その撓み線は、保持部材およびそれらの間に把持されるワイヤ案内ローラで構成されるユニットの撓みを表すものである。結局のところ、追加的に生じる撓みは、ウェハの品質を損なうものではないうえ、(適応するように柔軟性が増した)ワイヤ案内ローラや機器の他の構成パーツに害を及ぼすものでもないということが判明した。
【0010】
ベアリングの直径が縮小するにつれて、ベアリング内の相対速度が(ひいては摩擦も)小さくなるため(v=R×ω)、互いに対向するローラ係合部間のより大きな距離に対してベアリングの内径が小さくなることにより、保持部材をより速い回転速度で駆動することが可能になる。また、ベアリングの転動要素(たとえば、円筒形または玉形の要素)の、ベアリングのリングとの接触面積が大きくなり、それにより変形が低減されるので、摩擦はさらに減少する。
【0011】
同時に、ワイヤ案内ローラの長さの増大により、ワイヤウェブを増やすことが可能になる。より大きなワークピースまたはより多くのワークピースを、並行して切断することができる。
【0012】
保持部材のローラ係合部とは、保持部材において、動作時にワイヤ案内ローラに係合する部分、すなわち、ワイヤ案内ローラの対応する部分に当接する部分である。
【0013】
第1の保持部材の第1のローラ係合部と第2の保持部材の第2のローラ係合部との間の距離は、ワイヤソーの動作時、すなわち、保持部材間にワイヤ案内ローラが把持された状態における、ローラ係合部間の距離に相当することが好ましい。解放状態では、対向するローラ係合部は、ワイヤ案内ローラの取り外し/交換を可能にするために、動作状態の時に比べて互いから若干より離れている場合がある。
【0014】
好適な実施形態では、ワイヤソーは、切断用ワイヤウェブを巻掛けるための少なくとも2つのワイヤ案内ローラを備え、ワイヤ案内ローラの少なくとも1つは、取付部の第1の保持部材と第2の保持部材との間に取り外し可能に把持され、当該ワイヤ案内ローラの軸は、第1の保持部材および第2の保持部材の回転軸に実質的に一致する。この実施形態は、単数または複数のワイヤ案内ローラが取り付けられたワイヤソーの動作状態を表すものである。
【0015】
ワイヤ案内ローラの装着状態(動作状態)では、切断用ワイヤもまた、切断用ワイヤウェブを形成するようにワイヤ案内ローラに巻回されて取り付けられることが可能である。
【0016】
好適な実施形態では、少なくとも1つのベアリングのうちの1つであって好ましくはローラ係合部に最も近いベアリングが、ラジアルベアリングであり、好ましくはローラベアリングである。ラジアルベアリングは、半径方向の力を支えることができる一方、ベアリング支持部内での保持部材の傾きを許容する。許容される傾きの量は、選択されたベアリングのタイプに依る。
【0017】
好適な実施形態では、保持部材の少なくとも1つは、ベアリング支持部内の少なくとも2つのベアリングによって支持され、第1の保持部材の第1のローラ係合部と第2の保持部材の第2のローラ係合部との間の距離は、ローラ係合部に最も近いベアリングの軸方向中心と、隣接するベアリングの軸方向中心との間の軸方向距離に比べて、少なくとも5倍大きく、好ましくは少なくとも10倍大きく、より好ましくは少なくとも15倍大きい。ベアリング間の距離が小さいことにより、ベアリング支持部内の保持部材の高い(傾き)柔軟性が許容されると同時に、省スペースな設計が可能になる。「ベアリングの軸方向中心」とは、軸に沿ったベアリングの延在範囲の中央を意味する。
【0018】
好適な実施形態では、保持部材の少なくとも1つは、ベアリング支持部内の少なくとも2つのベアリングによって支持され、第1の保持部材の第1のローラ係合部と第2の保持部材の第2のローラ係合部との間の距離は、ローラ係合部に最も近いベアリングと、ローラ係合部から最も遠いベアリングとの間の軸方向距離に比べて、少なくとも5倍大きく、好ましくは少なくとも10倍大きく、より好ましくは少なくとも15倍大きい。この場合でも、ベアリング間の距離が小さいことにより、ベアリング支持部内の保持部材の高い(傾き)柔軟性が許容されると同時に、省スペースな設計が可能になる。
【0019】
好適な実施形態では、ワイヤ案内ローラのワイヤ担持面の直径は、第1の保持部材または第2の保持部材のシャフト部を囲む少なくとも1つのベアリングであって好ましくはローラ係合部に最も近いベアリングの内径に比べて、大きく、好ましくは少なくとも1.5倍大きく、より好ましくは少なくとも2倍大きい。すでに上述のとおり、ベアリングの内径が小さいことは、ワイヤ案内ローラと保持部材との間の力の伝達を最適にし、より速い回転速度を可能にするため、有利である。
【0020】
好適な実施形態では、ワイヤ案内ローラの長さは、ワイヤ案内ローラのワイヤ担持面の直径に比べて、少なくとも3倍大きく、好ましくは少なくとも4倍大きく、より好ましくは少なくとも5倍大きい。この比率もまた、互いに対向するローラ係合部間の距離を増大しベアリングの内径を縮小するという、本発明の着想を反映するものである。ワイヤ案内ローラのワイヤ担持面の直径を大きくすることで、ベアリング内の速度を上げることなくワイヤ速度を上昇させる。
【0021】
好適な実施形態では、保持部材の少なくとも1つは、ベアリング支持部内の少なくとも2つのベアリングによって支持され、当該少なくとも2つのベアリングのうちの少なくとも1つは、アキシャルベアリングであり、好ましくはボールベアリングである。
【0022】
さらなる実施形態では、一方の保持部材であって好ましくは第2の保持部材が、ベアリング支持部内で1つのラジアルベアリングのみで支持されているか、あるいは、他方の保持部材であって好ましくは第1の保持部材が、ベアリング支持部内で1つのラジアルベアリングおよび1つまたは2つのアキシャルベアリングのみで支持されているか、あるいは、その両方である。
【0023】
さらなる実施形態では、全てのベアリングが、ワイヤ案内ローラの外側に配置される。すなわち、ベアリングはワイヤ案内ローラ内に延在しない。ワイヤ案内ローラは半径方向に取り外される必要があり、保持部材におけるワイヤ案内ローラ内へ延びる部分を小さくすることにより、ワイヤ案内ローラをより簡単に交換できる。
【0024】
好適な実施形態では、第1の保持部材の第1のローラ係合部および/または第2の保持部材の第2のローラ係合部は、保持部材の回転軸に関して対称であるテーパ部を備え、保持部材のテーパ部は好ましくは、ワイヤ案内ローラの係合部に当接し、ワイヤ案内ローラの係合部は、保持部材の係合部のテーパ部に対応する部分を含む。
【0025】
本発明に係る上記比率に関連してテーパ部を介して連結することにより、切断用ワイヤウェブの張力の取り扱いにおいて最適な結果が得られる。
【0026】
好適な実施形態では、第1の保持部材の第1のローラ係合部および/または第2の保持部材の第2のローラ係合部は、軸方向ストッパ部を備え、その軸方向ストッパ部は、好ましくは保持部材の回転軸に直交し、好ましくはテーパ部の半径方向外側に設けられる。
【0027】
軸方向ストッパ部は、軸方向ストッパ部を介したワイヤ案内ローラと保持部材との間の軸力の伝達を可能にする。それにより、ワイヤ案内ローラと保持部材との間の係合領域に撚れが生じないようにしている。
【0028】
好適な実施形態では、保持部材の少なくとも1つは、電気モータのロータからの延長部分であるか、あるいは、当該ロータに接続されている。電気モータは、ステータと、ステータに囲まれたロータとを備える。ロータがステータ内で支持されていないことが、好ましい。好適な実施形態では、ステータに囲まれたロータは、保持部材のみによって支持されている。保持部材とロータとが回転可能なユニットを形成し、そのユニットは、電気モータと保持部材のローラ係合部との間の領域に配置された単数または複数のベアリングのみによって支持される。
【0029】
好適な実施形態では、ロータにおける保持部材から最も遠い端部が、ステータの一部分または電気モータのハウジングの一部分であり得る当該端部を囲む非回転構造との間に、少なくとも0.1mmであって好ましくは少なくとも0.3mm(たとえば0.5mm~0.6mm)の半径方向の間隙を、好ましくはエアギャップの形態で備えるように、ロータが電気モータ内または電気モータのステータ内に保持される。保持部材において、大きな度合いの傾き運動が許容される。
【0030】
好適な実施形態では、ロータは、電気モータ内で回転可能に配置され、ステータの外部においてのみ支持されており、好ましくは、電気モータにおける保持部材に面する側のみにおいて支持されている。この場合でも、回転軸に対する保持部材の傾きが、大きな度合いで許容される。
【0031】
好適な実施形態では、ワイヤソーは、保持部材間にワイヤ案内ローラを把持するための解放可能なクランプ機構を備える。
【0032】
好適な実施形態では、クランプ機構は、ワイヤ案内ローラを通って保持部材間に延在する、好ましくは引張りロッドである引っ張り部材を備え、その引っ張り部材は、保持部材がワイヤ案内ローラを把持するロック状態から、ワイヤ案内ローラを保持部材から解放できる解除状態にされることができる。
【0033】
本発明のさらなる実施形態を、図面および従属請求項に示す。符号の説明は、本開示の一部を構成する。以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。図面は、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】互いに対向するローラ取付部間に把持されたワイヤ案内ローラを示す図である。
図2図1の第1のローラ取付部を示す拡大図である。
図3図1の第2のローラ取付部を示す拡大図である。
図4】ワイヤソーの垂直断面を概略的に示す図である。
図5】ワイヤソーの水平断面を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図4および図5は、ワークピースから複数のウェハを切断するためのウェハ切断用ワイヤソー1を概略的に示す。ワイヤソー1は、少なくとも2つのローラ取付部20,30を備え、各ローラ取付部20,30は、切断用ワイヤウェブ4を巻掛けるワイヤ案内ローラ2,3を、取り外し可能に支持することができる。
【0036】
図1図3は、ワイヤ案内ローラ2を伴うローラ取付部20,30をより詳細に示す。
【0037】
本実施形態では、各ローラ取付部20,30は、
-第1のシャフト部7と、ワイヤ案内ローラ2,3に第1の側から係合する第1のローラ係合部25とを含む、第1の回転可能な保持部材5と、
-第2のシャフト部8と、第1の側の反対側である第2の側からワイヤ案内ローラ2,3に係合する第2のローラ係合部26とを含む、第2の回転可能な保持部材6と、
を備える。
【0038】
ローラ係合部25,26は互いに対向し、第1の保持部材5の回転軸と第2の保持部材6の回転軸とは互いに実質的に一致する。
【0039】
各保持部材5,6は、保持部材5,6のシャフト部7,8を囲みベアリング支持部11,12内に収容されている少なくとも1つのベアリング9,10によって、回転可能に支持されている。
【0040】
本発明によれば、第1のローラ係合部25と第2のローラ係合部26との間の距離Fは、第1の保持部材5または第2の保持部材6のシャフト部7,8を囲む少なくとも1つのベアリング9,10の内径Dに比べて、少なくとも6倍大きく、好ましくは少なくとも8倍大きく、より好ましくは少なくとも10倍大きい。
【0041】
上記比率の計算には、ローラ係合部25,26に最も近いベアリング9,10の直径Dを使用することが好ましい。
【0042】
正確な縮尺で描かれた図1の本実施形態では、比率F/Dは約9.3である。
【0043】
図1および図5に見られるように、切断用ワイヤウェブ4を巻掛けるワイヤ案内ローラ2は、取付部20,30の第1の保持部材5と第2の保持部材6との間に取り外し可能に把持される。ワイヤ案内ローラ2,3の軸は、第1の保持部材5および第2の保持部材6の回転軸に実質的に一致する。
【0044】
図1のワイヤソーは、ワイヤ案内ローラ2,3を保持部材5,6間に把持するための解放可能なクランプ機構を備える。クランプ機構は、ここでは引っ張りロッド16である引っ張り部材を備えることができ、引っ張り部材は、ワイヤ案内ローラ2,3を通って保持部材5,6間に延在する。引っ張り部材は、保持部材5,6がワイヤ案内ローラ2,3を把持するロック状態から、ワイヤ案内ローラ2,3を保持部材5,6から解放できる解除状態にされることができる。クランプ力を印加する手段は、引っ張りロッド16を介して、第2のベアリング支持部12を第1のベアリング支持部11に向かって引き寄せることが可能である。
【0045】
少なくとも1つのベアリング9,10(ここでは、ローラ係合部25,26に最も近いベアリング9,10)は、ラジアルベアリングであり、好ましくはローラベアリングである(図1を参照のこと)。
【0046】
図1の実施形態では、第1の保持部材5は、ベアリング支持部11内の3つのベアリング9,19,29で支持されている。ここで、第1のローラ係合部25と第2のローラ係合部26との間の距離Fは、ローラ係合部25に最も近いベアリング9の軸方向中心と、隣接するベアリング19の軸方向中心との間の軸方向距離Eに比べて、少なくとも5倍大きく、好ましくは少なくとも10倍大きく、より好ましくは少なくとも15倍大きい(図1では、約26倍大きい)。
【0047】
ベアリング29と19とを、単一のアキシャルベアリングと見なすことができる。
【0048】
さらなる好適な実施形態では、距離Fは、ローラ係合部25に最も近いベアリング9と、ローラ係合部25から最も遠いベアリング29との間の軸方向距離Aに比べて、少なくとも5倍大きく、好ましくは少なくとも10倍大きく、より好ましくは少なくとも15倍大きい。正確な縮尺で描かれた図1の本実施形態では、比率F/Aは約13.5である。
【0049】
ワイヤ案内ローラ2,3のワイヤ担持面13の直径Bは、第1の保持部材5または第2の保持部材6のシャフト部7,8を囲む少なくとも1つのベアリング9,10であって好ましくはローラ係合部25,26に最も近いベアリング(9,10)の内径Dに比べて、大きく、好ましくは少なくとも1.5倍大きく、より好ましくは少なくとも2倍大きい。
【0050】
好ましくは、ワイヤ案内ローラ2,3の長さLが、ワイヤ案内ローラ2,3のワイヤ担持面13の直径Bに比べて、少なくとも3倍大きく、好ましくは少なくとも4倍大きく、より好ましくは少なくとも5倍大きい。図1では、比率L/Bは約4.3である。
【0051】
図1および図2に示すように、ベアリング9はラジアルベアリングであり、ベアリング19および29は、アキシャルベアリングを構成しており、好ましくはボールベアリングを構成している。
【0052】
第1の保持部材5の第1のローラ係合部25および第2の保持部材6の第2のローラ係合部26はそれぞれ、保持部材5,6の回転軸に関して対称に配置されるテーパ部を備える。保持部材5,6のテーパ部は、ワイヤ案内ローラ2,3の係合部に当接し、ワイヤ案内ローラ2,3の係合部は、保持部材5,6の係合部25,26のテーパ部に対応する部分を含む(図2および図3を参照のこと)。
【0053】
さらに、第1のローラ係合部25および第2のローラ係合部26はそれぞれ、軸方向ストッパ部を備え、その軸方向ストッパ部は、保持部材5,6の回転軸に直交し得る。図示する実施形態では、軸方向ストッパ部は、テーパ部の半径方向外側に設けられる。
【0054】
図1および図2に見られるように、第1の保持部材5は、電気モータ14のロータ15からの延長部分であるか、あるいは、ロータ15に接続されている。ワイヤソー1は、ステータとロータ15とを含む電気モータ14を備える。保持部材5とロータ15とが回転可能なユニットを形成し、そのユニットは、電気モータ14と保持部材5のローラ係合部25との間の領域に配置された単数または複数のベアリング9,19,29のみによって支持されている。
【0055】
ロータ15における保持部材5から最も遠い端部が、少なくとも0.1mmであって好ましくは少なくとも0.3mm(たとえば0.5mm~0.6mm)の半径方向の間隙を、好ましくはエアギャップの形態で備えるように、ロータ15が電気モータ14内に保持されている。
【0056】
ロータ15は、電気モータ14内で回転可能に配置されて、ステータの外部においてのみ支持されていることが可能であり、好ましくは、電気モータ14における保持部材5に面する側のみにおいて支持されている。
【0057】
本発明は、これらの実施形態に限定されない。他の変形例が、当業者にとって明らかになり、以下の請求項において規定された本発明の範囲内に属すると考えられる。上記明細書の全ての部分で、特に図面に関連して記載された個々の特徴は、他の特徴との関わりまたは組み合わせで記載されているとしても、それぞれ互いに組み合わせて別の実施形態を形成することが可能であるか、あるいは、請求項および明細書の他の部分に記載された事項に応用することが可能であるか、あるいは、その両方が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 ウェハ切断用ワイヤソー、2 ワイヤ案内ローラ、3 ワイヤ案内ローラ、4 切断用ワイヤウェブ、5 第1の回転可能な保持部材、6 第2の回転可能な保持部材、7 第1のシャフト部、8 第2のシャフト部、9 ベアリング、10 ベアリング、11 ベアリング支持部、12 ベアリング支持部、13 ワイヤ担持面、14 電気モータ、15 ロータ、16 引っ張りロッド、19 ベアリング、20 ローラ取付部、25 第1のローラ係合部、26 第2のローラ係合部、29 ベアリング、30 ローラ取付部、A ローラ係合部に最も近いベアリングと、ローラ係合部から最も遠いベアリングとの間の軸方向距離、B ワイヤ担持面13の直径、D ベアリングの内径、E ローラ係合部に最も近いベアリングの軸方向中心と、隣接するベアリングの軸方向中心との間の軸方向距離、F 第1のローラ係合部25と第2のローラ係合部26との間の距離、G エアギャップ、L ワイヤ案内ローラの長さ。
図1
図2
図3
図4
図5