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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】印刷用積層体
(51)【国際特許分類】
   G03G 7/00 20060101AFI20240527BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240527BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240527BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
G03G7/00 B
G03G7/00 M
B32B27/20 Z
B32B27/18 D
B32B27/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020561345
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048551
(87)【国際公開番号】W WO2020129785
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018238782
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596144274
【氏名又は名称】旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】中東 登志子
(72)【発明者】
【氏名】喜久山 鈴恵
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-011486(JP,A)
【文献】特開平10-319618(JP,A)
【文献】特開平07-040514(JP,A)
【文献】特開2001-183861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 7/00
B41M 5/00-5/52
B32B 1/00ー43/00
D06P 1/00-7/00
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系不織布から成る基材層と、前記基材層の片面上又は両面上の耐熱性樹脂層とを有し、
前記ポリエチレン系不織布が、高密度ポリエチレンの極細連続長繊維から成る不織布であり、
前記耐熱性樹脂層が、
ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、及びスチレン系樹脂から成る群から1種又は2種以上を含む、融点150℃以上の耐熱性樹脂、並びに
シリカ、チタニア、カオリン、及び炭酸カルシウムから成る群から選択される1種又は2種以上を含む、フィラー
を含有し、そして、
JIS K6911に準拠して測定した体積抵抗率が、1.0×10Ωcm以上1.0×1010Ωcm以下である、
印刷用積層体。
【請求項2】
前記耐熱性樹脂層を有する面について、JIS B0601に準拠して測定した算術平均粗さRaが、9.0μm以上15.0μm以下である、請求項1に記載の印刷用積層体。
【請求項3】
前記耐熱性樹脂が、アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂から成る群から1種又は2種を含む、請求項1又は2に記載の印刷用積層体。
【請求項4】
前記フィラーが、シリカ及びカオリンから成る群から選択される1種又は2種を含む、請求項1又は2のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
【請求項5】
前記耐熱性樹脂が、アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂から成る群から1種又は2種を含み、かつ、
前記フィラーが、シリカ及びカオリンから成る群から選択される1種又は2種を含む、請求項1又は2のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
【請求項6】
前記耐熱性樹脂層が静電防止剤を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
【請求項7】
前記静電防止剤がアニオン系静電防止剤である、請求項に記載の印刷用積層体。
【請求項8】
前記耐熱性樹脂層の目付が10g/m以上100g/m以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の印刷用積層体の製造方法であって、
耐熱性樹脂、フィラー、及び静電防止剤を含有する耐熱性樹脂層形成用塗工液を調製する工程、並びに
前記基材層の片面上又は両面上に、前記耐熱性樹脂層形成用塗工液を塗工して、前記耐熱性樹脂層を形成する工程
を有する、
印刷用積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の印刷用積層体の前記耐熱性樹脂層上に、印刷層を有する、印刷物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の印刷用積層体の前記耐熱性樹脂層上に、レーザープリンタによって印刷を行って印刷層を形成する工程を有する、印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用積層体に関する。詳しくは、ポリエチレン系不織布から成る基材層を有しながら、レーザープリンタ印刷に好適に適用できる耐熱性及び静電特性を有する、印刷用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
マラソン大会、運動会等のイベントのゼッケン;入院患者、新生児等を識別するためのリストバンド等の印刷物は、利用者の着用が前提であり、着用時に汗と接触し、着用が長時間にわたることが想定される。そのため、これらの印刷物には、耐水性及び強度が要求される。また、工業製品管理用の製品タグ等は、製品に付随して工場内を搬送され、或いは製品とともに梱包されて出荷されるため、搬送等に耐える強度を有することを要する。
【0003】
印刷物の使用態様に応じた耐水性及び強度を具備する印刷用基材に関する技術として、例えば、特許文献1及び2が知られている。
特許文献1には、ポリエステル基材の表面に樹脂層を設けた印刷用基材が記載されている。特許文献2には、ポリエチレン系不織布層、及び架橋ポリマーを含有するコート層を有する平面基材が記載されている。なお、特許文献3及び4には、平面状繊維ウェブから構成されるポリエチレン系不織布の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-230499号公報
【文献】国際公開第2014/100527号
【文献】米国特許第3081519号明細書
【文献】米国特許第3227794号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のゼッケン、リストバンド、製品タグ等の印刷物には、着用等が想定される個体ごとの個別情報が含まれる。そのため、これらの印刷物を印刷するには、印刷情報が固定された版を用いるフレキソ印刷、グラビア印刷等は適さず、従来からインクジェットプリンタが多用されている。
しかし近年、このような印刷物の印刷に、印刷スピードが速く、1枚当たりの印刷コストが安く、インクのにじみが少ない、レーザープリンタの使用が増加している。
【0006】
レーザープリンタでは、帯電させたドラムをパターン状にレーザー露光し、露光部分に静電的に付着させたトナーを印刷用基材に転写して定着させることにより、印刷が行われる。定着は、トナーに熱及び圧力をかけることにより行われる。そのため、レーザープリンタ印刷に用いる印刷用基材は、トナーの転写に適した静電特性、及び定着時の加熱に耐えるだけの耐熱性を有することを要する。また、印刷用基材の静電特性及び耐熱性が不足すると、レーザープリンタ内における基材の搬送がスムースに行えないとの問題も生ずる。更に、解像度の高い精細な画像を印刷するには、印刷用基材の表面が平滑であることが望まれる。
【0007】
特許文献1に記載された印刷用基材は、レーザープリンタにおける定着温度に対する耐熱性は備えているが、帯電し易い。そのため、特許文献1の印刷用基材をレーザープリンタに適用すると、転写工程における原版の再現性に劣り、いわゆる「印刷抜け」が生じる。更に、この印刷用基材は表面平滑性に劣るため、高精細の画像を印刷することはできない。
特許文献2に記載された印刷用基材は、表面平滑性には優れるが、帯電し易く、耐熱性にも劣る。したがって、特許文献2の印刷用基材をレーザープリンタに適用すると、得られる印刷物に印刷抜けが生じることの他、感光ドラム、転写ドラム等の高温部に付着して、紙送りに支障をきたすことが懸念される。
【0008】
本発明は、従来技術の印刷用基材における上記のような問題点を解決するものである。
したがって本発明の目的は、レーザープリンタ印刷に好適に適用可能な印刷用基材、具体的には、耐熱性に優れ、帯電し難く、かつ、表面平滑性に優れる印刷用基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明は、以下のとおりである。
《態様1》ポリエチレン系不織布から成る基材層と、前記基材層の片面上又は両面上の耐熱性樹脂層とを有し、
JIS K6911に準拠して測定した体積抵抗率が、1.0×10Ωcm以上1.0×1010Ωcm以下である、
印刷用積層体。
《態様2》前記耐熱性樹脂層を有する面について、JIS B0601に準拠して測定した算術平均粗さRaが、9.0μm以上15.0μm以下である、態様1に記載の印刷用積層体。
《態様3》前記ポリエチレン系不織布が、高密度ポリエチレンの極細連続長繊維から成る不織布である、態様1又は2に記載の印刷用積層体。
《態様4》前記耐熱性樹脂層が、融点150℃以上の耐熱性樹脂を含有する、態様1~3のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
《態様5》前記耐熱性樹脂が、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、及びスチレン系樹脂から成る群から1種又は2種以上を含む、態様4に記載の印刷用積層体。
《態様6》前記耐熱性樹脂層がフィラーを含有する、態様1~5のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
《態様7》前記フィラーが、シリカ、チタニア、カオリン、及び炭酸カルシウムから成る群から選択される1種又は2種以上を含む、態様6に記載の印刷用積層体。
《態様8》前記耐熱性樹脂層が静電防止剤を含有する、態様1~7のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
《態様9》前記静電防止剤がアニオン系静電防止剤である、態様8に記載の印刷用積層体。
《態様10》前記耐熱性樹脂層の目付が10g/m以上100g/m以下である、態様1~9のいずれか一項に記載の印刷用積層体。
《態様11》態様1~10のいずれか一項に記載の印刷用積層体の製造方法であって、
耐熱性樹脂、フィラー、及び静電防止剤を含有する耐熱性樹脂層形成用塗工液を調製する工程、並びに
前記基材層の片面上又は両面上に、前記耐熱性樹脂層形成用塗工液を塗工して、前記耐熱性樹脂層を形成する工程
を有する、
印刷用積層体の製造方法。
《態様12》態様1~10のいずれか一項に記載の印刷用積層体の前記耐熱性樹脂層上に、印刷層を有する、印刷物。
《態様13》態様1~10のいずれか一項に記載の印刷用積層体の前記耐熱性樹脂層上に、レーザープリンタによって印刷を行って印刷層を形成する工程を有する、印刷物の製造方法。
《発明の効果》
《0010》
本発明の印刷用積層体は、耐熱性に優れ、帯電し難く、かつ、表面平滑性に優れる。
したがって本発明の印刷用積層体は、個別情報を含む高精細な画像を、レーザープリンタによって印刷するための印刷用基材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《印刷用積層体》
本発明の印刷用積層体は、
ポリエチレン系不織布から成る基材層と、基材層の片面上又は両面上の耐熱性樹脂層とを有し、
JIS K6911に準拠して測定した体積抵抗率が、1.0×10Ωcm以上1.0×1010Ωcm以下である。
【0011】
〈基材層〉
本発明の印刷用積層体における基材層は、ポリエチレン系不織布から成る。
このポリエチレン系不織布は、平面状繊維ウェブから構成されていてよい。平面状繊維ウェブは、リボン状繊維の3次元ネットワーク構造を有していてよい。このリボン状繊維は、幅が25μm以下、厚みが4μm以下、長さがランダムであってよく、3次元ネットワーク構造中で長さ方向に配向していてよい。そしてこの構造中で、リボン状繊維のそれぞれが、長さ、幅、及び厚み方向の種々のポイントで不均一な間隔にて部分的に融着することにより、3次元ネットワーク構造を形成していてよい。
【0012】
このような平面状繊維ウェブは、例えば、特許文献3及び4に記載されている方法により、製造することができる。具体的には、繊維前駆体ポリマーと、沸点以下の温度では該繊維前駆体ポリマーの貧溶媒となる溶媒と、を含むドープ液を用いる。このドープ液を、沸点を超える温度に設定して、低温低圧のゾーン内に吐出して紡糸する。このとき、吐出直前のドープ液の圧力をわずかに下げることにより、平面状繊維ウェブを製造することができる。
【0013】
本発明における基材層を構成するポリエチレン系不織布は、高密度ポリエチレン系不織布であることが好ましく、高密度ポリエチレン極細連続長繊維不織布であることがより好ましい。高密度ポリエチレン極細連続長繊維不織布は、耐水性及び強度が高く、表面の平滑性にも優れることから、本発明における基材層として非常に適している。
本発明における基材層の厚みは、印刷用基材としての取り扱い性及び強度のバランスを考慮すると、0.10mm以上0.30mm以下とすることが好ましく、0.12mm以上0.25mm以下とすることがより好ましい。
基材層の目付(面密度)は、30g/m以上120g/m以下の範囲が好ましく、より好ましくは40g/m以上100g/m以下である。
【0014】
この高密度ポリエチレン極細連続長繊維不織布は市販品として入手することも可能であり、例えば、旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ(株)製の「タイベック(登録商標)」が好ましいものとして挙げられる。
【0015】
〈耐熱性樹脂層〉
本発明の印刷用積層体における耐熱性樹脂層は、印刷用積層体に、レーザープリンタの定着温度に対する耐熱性を付与し、プリンタ内の高温部への付着を抑制する機能を有する。
耐熱性樹脂層は、基材層の片面上のみに存在していてもよいし、基材層の両面上に存在していてもよい。しかしながら、印刷用積層体の両面に適切な耐熱性を付与し、レーザープリンタ内の搬送をスムースにする観点からは、耐熱性樹脂層が基材層の両面上に存在していることが好ましい。
【0016】
耐熱性樹脂層は、耐熱性樹脂を含有し、好ましくは更にフィラーを含有していてもよい。
耐熱性樹脂層は静電防止剤を更に含有していてもよく、又は耐熱性樹脂層の表面に静電防止剤が塗布されていてもよい。
【0017】
耐熱性樹脂は、融点がレーザープリンタの定着温度以上の樹脂であることが好ましい。
この観点から、耐熱性樹脂層は、融点150℃以上、好ましくは融点160℃以上の耐熱性樹脂を含有することが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、スチレン系樹脂等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
【0018】
フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸カルシウム、カオリン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、銀等の微粒子を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらのうち、熱的にも化学的にも安定であり、着色し難い等の利点を有することから、シリカ、チタニア、カオリン、炭酸カルシウム等から選択される1種以上を使用することが好ましい。
フィラーの平均粒子径は、10nm以上100nm以下が好ましく、15nm以上50nm以下がより好ましく、さらに好ましくは20nm以上30nm以下である。
【0019】
耐熱性樹脂層中のフィラーの含有量は、耐熱性樹脂100質量部に対して、例えば、50質量部以上、75質量部以上、100質量部以上、又は125質量部以上であることが好ましく、例えば、300質量部以下、250質量部以下、225質量部以下、200質量部以下、又は175質量部以下であることが好ましい。
【0020】
耐熱性樹脂層が静電防止剤を含有しているとき、又は耐熱性樹脂層の表面に静電防止剤が塗布されているとき、静電防止剤は、環境中の水分を吸着することによって印刷用積層体の静電特性を改善し、帯電し難くする機能を有する。
【0021】
静電防止剤は、アニオン性静電防止剤、カチオン性静電防止剤、両イオン性静電防止剤、及び非イオン性静電防止剤のいずれであってもよい。所望の静電防止効果を得る観点からは、アニオン性静電防止剤、カチオン性静電防止剤、又は両イオン性静電防止剤を使用することが好ましい。
【0022】
アニオン性静電防止剤としては、例えば、脂肪酸のアルカリ金属塩(RCOO)、モノアルキル硫酸のアルカリ金属塩(ROSO )、アルキルポリオキシエチレン硫酸のアルカリ金属塩(RO(CHCHO)SO )、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩(RR’CHCHCSO )、モノアルキルリン酸のアルカリ金属塩(ROPO(OH)O)等を挙げることができる。カチオン性静電防止剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩(RN(CH)、ジアルキルジメチルアンモニウム塩(RR’N(CH)、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(RN(CH)(CH)等を挙げることができる。両イオン性静電防止剤としては、例えば、アルキルジメチルアミンオキシド(R(CHNO)、アルキルカルボキシベタイン(R(CHCHCOO)等を挙げることができる。ただし、以上において、R及びR’は、それぞれ、アルキル基であり、Xはハロゲン化物イオンであり、nはオキシエチレン単位の重合度を示す数である。
印刷用積層体における耐熱性樹脂層に含有される、又は耐熱性樹脂層の表面上に塗布される静電防止剤として、アニオン性静電防止剤又はカチオン性静電防止剤を使用することがより好ましく、アニオン性静電防止剤又はカチオン性静電防止剤を使用することが更に好ましく、特にアニオン系静電防止剤を使用することが好ましい。
【0023】
本発明の印刷用積層体において、耐熱性樹脂層が基材層の片面上のみに存在する場合、基材層のうちの、耐熱性樹脂層が存在していない方の面上に、上記のような静電防止剤を塗布してもよい。このような操作により、本発明の印刷用積層体の両面の静電特性を改善することができ、レーザープリンタ内における積層体の搬送を更にスムースにすることができ、好ましい。
【0024】
耐熱性樹脂層は、上記した以外の任意添加剤を含有していてもよい。耐熱性樹脂層の任意添加剤としては、例えば、老化防止剤、光沢付与剤、艶消し剤(マット剤)、滑剤、着色剤等を挙げることができる。
【0025】
本発明の印刷用積層体における耐熱性樹脂層の厚みは、印刷用基材としての取り扱い性及び耐熱性のバランスを考慮すると、目付としてs10g/m以上100g/m以下の範囲が適切であり、15g/m以上80g/m以下の範囲が好ましく、18g/m以上70g/m以下の範囲がより好ましい。
【0026】
〈印刷用積層体の特性〉
本発明の印刷用積層体は、静電特性に優れ、帯電し難いとの利点を有する。
具体的には、本発明の印刷用積層体について、JIS K6911に準拠して測定した体積抵抗率は、1.0×10Ωcm以上1.0×1010Ωcm以下の範囲である。この値が1.0×10Ωcm未満であると導電性が高くなり過ぎ、1.0×1010Ωcmを超えると帯電し易くなり、いずれの場合もレーザープリンタにおけるトナーの静電的な転写効率が悪化して、原版の再現性が損なわれる。
本発明の印刷用積層体の体積抵抗率は、好ましくは1.5×10Ωcm以上4.0×10Ωcm以下の範囲である。
【0027】
本発明の印刷用積層体は、表面平滑性に優れ、レーザープリンタを用いた印刷によって高精細なイメージを得ることができる。
本発明の印刷用積層体の耐熱性樹脂層を有する側の表面について、JIS B0601に準拠して測定した算術平均粗さRaを、9.0μm以上15.0μm以下とすることができる。Raが15.0μmを超える粗さの表面への印刷では、得られるイメージの精細性が不足する。一方、印刷面の表面平滑性を過度に高くしても、視認される印刷イメージの精細性が無限に向上するものではないから、Raを9.0μm未満にする実益は少ない。
本発明の印刷用積層体の、耐熱性樹脂層を有する側の表面の算術平均粗さRaは、10.0μm以上14.0μm以下がより好ましく、11.0μm以上13.0μm以下が更に好ましい。
【0028】
本発明の印刷用積層体は、レーザープリンタ内の搬送に適した摩擦特性を有する。
本発明の印刷用積層体は、標準金属繊維端子との間で荷重200gにて摩擦したときの摩擦係数μが、0.15MIU以上0.40MIU以下であることが好ましく、0.18MIU以上0.38MIU以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.20MIU以上0.35MIU以下である。
【0029】
本発明の印刷用積層体は、高度の耐熱性を有し、レーザープリンタ内の高温部への付着が抑制されている。
本発明の印刷用積層体は、140℃に加熱された金属板に2秒間圧着しても、金属板に付着しない耐熱性を有する。
【0030】
本発明の印刷用積層体は、適切な水分を含有し、レーザープリンタを用いた印刷に好適であり、かつ、レーザープリンタ内部におけるスムースな搬送が可能である。
本発明の印刷用積層体は、JIS P 8127に準拠して、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下の水分率が、好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下とすることができ、より好ましくは1.1質量%以上2.0質量%以下とすることができる。
【0031】
《印刷用積層体の製造方法》
本発明の印刷用積層体は、上述の特徴を備えている限り、任意の方法で製造されてよい。
本発明の印刷用積層体は、例えば、下記(A)又は(B):
(A)耐熱性樹脂、フィラー、及び静電防止剤を含有する耐熱性樹脂層形成用塗工液を調製する工程、並びに
基材層の片面上又は両面上に、前記耐熱性樹脂層形成用塗工液を塗工して、耐熱性樹脂層を形成する工程
を有する、
印刷用積層体の製造方法(製造方法A);
(B)耐熱性樹脂、及びフィラーを含有する耐熱性樹脂層形成用塗工液を調製する工程、
基材層の片面上又は両面上に、前記耐熱性樹脂層形成用塗工液を塗工して、耐熱性樹脂層を形成する工程、並びに
前記耐熱性樹脂層の表面上に、静電防止剤を塗布する工程
を有する、
印刷用積層体の製造方法(製造方法B)
によって、製造することができる。
【0032】
〈製造方法A〉
製造方法Aでは、先ず、耐熱性樹脂、フィラー、及び静電防止剤を含有する耐熱性樹脂層形成用塗工液を調製する。耐熱性樹脂層形成用塗工液は、耐熱性樹脂、フィラー、及び静電防止剤が、適当な溶媒に溶解又は分散された液状の組成物であってよい。耐熱性樹脂層形成用塗工液は、耐熱性樹脂、フィラー、及び静電防止剤以外に、任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。
耐熱性樹脂層形成用塗工液は、例えば、耐熱性樹脂を含有するエマルジョンに、フィラー及び静電防止剤、並びに必要に応じて所望の任意成分を、順不同で添加する、等の適宜の方法によって調製されてよい。
【0033】
次いで、基材層の片面上又は両面上に、上記の耐熱性樹脂層形成用塗工液を塗工して、耐熱性樹脂層を形成する。塗工液の塗布は、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等の適宜の塗布方法によってよい。耐熱性樹脂層形成用塗工液が溶媒を含む場合、塗工後に塗膜を加熱して、溶媒を除去してもよい。
【0034】
〈製造方法B〉
製造方法Bでは、耐熱性樹脂、及びフィラーを含有する耐熱性樹脂層形成用塗工液を調製する。この耐熱性樹脂層形成用塗工液は、耐熱性樹脂、及びフィラーが、適当な溶媒に溶解又は分散された液状の組成物であってよい。耐熱性樹脂層形成用塗工液は、耐熱性樹脂、及びフィラー以外に、製造方法Aにおける耐熱性樹脂層形成用塗工液と同様の任意成分を含んでいてもよい。
製造方法Bにおける耐熱性樹脂層形成用塗工液は、静電防止剤を含有している必要はない。しかしながら、この耐熱性樹脂層形成用塗工液は、静電防止剤を含有していてもよい。
製造方法Bにおける耐熱性樹脂層形成用塗工液は、例えば、耐熱性樹脂を含有するエマルジョンに、フィラー、及び必要に応じて所望の任意成分を、順不同で添加する、等の適宜の方法によって調製されてよい。
【0035】
次いで、基材層の片面上又は両面上に、上記の耐熱性樹脂層形成用塗工液を塗工して、耐熱性樹脂層を形成する。塗工液の塗布は、製造方法Aと同様に行うことができる。耐熱性樹脂層形成用塗工液が溶媒を含む場合、塗工後に塗膜を加熱して、溶媒を除去してもよい。
【0036】
製造方法Bでは、更に、耐熱性樹脂層の表面上に、静電防止剤を塗布する。
静電防止剤の塗工は、例えば、市販の静電防止剤を、そのまま、又は適宜に希釈したものを塗工液として用いて、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法により、行うことができる。静電防止剤が溶媒を含む場合、塗工後に塗膜を加熱して、溶媒を除去してもよい。
【0037】
《印刷物の製造方法》
本発明の別の観点によると、本発明の印刷用積層体の耐熱性樹脂層上に、レーザープリンタによって印刷を行って印刷層を形成する工程を有する、印刷物の製造方法が提供される。
本発明の印刷用積層体は、レーザープリンタ環境で加えられる熱に対して十分な耐熱性を有し、かつ、帯電し難く、更に表面平滑性に優れるから、レーザープリンタ印刷により、高鮮明な印刷柄を有する印刷物を高速度で製造することができる。
【0038】
《印刷物》
本発明の別の観点によると、本発明の印刷用積層体の耐熱性樹脂層上に印刷層を有する、印刷物が提供される。
本発明の印刷物は、耐水性及び強度に優れる本発明の印刷用積層体上に、高鮮明な印刷柄を有するものであり、例えば、マラソン大会、運動会等のイベントのゼッケン;入院患者、新生児等を識別するためのリストバンド;工業製品管理用の製品タグ等として、極めて好適である。
【実施例
【0039】
《耐熱性樹脂層形成用塗工液1の調製》
固形分換算で20質量部相当のアクリル系樹脂エマルジョン(バイエル社製、商品名「Bayhydrol A 2601」)と、固形分換算で30質量部相当のコロイダルシリカ水分散体(アルドリッチ製、商品名「Ludox TM40」、粒径22nm)と、アニオン系静電防止剤とを混合し、脱イオン水で希釈することにより、固形分濃度50質量%の耐熱性樹脂層形成用塗工液1を調製した。
【0040】
《耐熱性樹脂層形成用塗工液2の調製》
コロイダルシリカ水分散体に代えて、固形分換算で30質量部相当のチタニア水分散体(石原産業(株)製、商品名「CR-85」、粒径0.25μm)を使用した他は、耐熱性樹脂層形成用塗工液1の調製と同様にして、固形分濃度50質量%の耐熱性樹脂層形成用塗工液2を調製した。
【0041】
《耐熱性樹脂層形成用塗工液3の調製》
アクリル系樹脂エマルジョンに代えて、固形分換算で20質量部相当のスチレン系樹脂エマルジョン(サイデン化学(株)製、商品名「サイビノールEK-81」を使用した他は、耐熱性樹脂層形成用塗工液1の調製と同様にして、固形分濃度50質量%の耐熱性樹脂層形成用塗工液3を調製した。
【0042】
《耐熱性樹脂層形成用塗工液4の調製》
固形分換算で20質量部相当のアクリル系樹脂エマルジョン(バイエル社製、商品名「Bayhydrol A 2601」)と、30質量部のカオリン粉末(ブラジル国、Imerys Rio Capim Caulim S.A.製、商品名「センチュリーHC」、粒径0.9μm)と、アニオン系静電防止剤とを混合し、脱イオン水で希釈することにより、固形分濃度50質量%の耐熱性樹脂層形成用塗工液4を調製した。
【0043】
《耐熱性樹脂層形成用塗工液5の調製》
アニオン系静電防止剤を使用しなかった他は、耐熱性樹脂層形成用塗工液1の調製と同様にして、固形分濃度50質量%の耐熱性樹脂層形成用塗工液4を調製した。
【0044】
《実施例1》
1.印刷用積層体の製造
基材層としては、ポリエチレン系不織布(旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ(株)製、商品名「タイベック1073D」、厚み0.21mm、目付75g/m)を用いた。この基材層の両面上に、耐熱性樹脂層形成用塗工液1を塗工して、目付14g/mの耐熱性樹脂層を形成することにより、実施例1の印刷用積層体を得た。
【0045】
2.印刷用積層体の評価
上記で得られた印刷用積層体について、以下の手法によって評価した。
評価結果は、表1に示した。
(1)目付(g/m
得られた印刷積層体の任意の3箇所から、20cm×20cmの試料を切り取り、各試料の質量を測定し、その平均値を試料単位面積当たりの質量に換算した。
(2)厚み(μm)
得られた印刷積層体に厚み方向の荷重10kPaをかけた状態で、任意の10箇所の厚みを測定し、その平均値を厚みとした。
(3)算術平均粗さRa(μm)
(株)キーエンス製の形状解析レーザーマイクロスコープ(形式名「VK-X100」)を用いて、JIS B 0601:2001に準拠して、算術平均粗さRaを測定した。測定範囲は9mm×7mm、測定時の観察倍率は200倍とした。
【0046】
(4)摩擦抵抗μ(MIU)
カトーテック(株)製の摩擦感テスー(形式名「KES-SE」)を用いて、標準金属繊維端子と印刷用積層体試料とを荷重200gにて摩擦したときの平均摩擦係数μを求めた。
(5)耐熱性
(株)ホギメディカル製のメディカルシーラー(形式名「MS-451THP2」)を用いて、加熱温度140℃、加熱時間2秒、及び冷却温度80℃の条件で、金属製の加熱板と印刷用積層体試料とを圧着したときに、印刷用積層体試料が上部加熱板に付着しているか否かを目視にて観察し、以下の基準で評価した。
A(良好):印刷用積層体試料が上部加熱板に付着しなかったとき
C(不良):印刷用積層体試料が上部加熱板に付着したとき
【0047】
(6)体積抵抗率(Ωcm)
日置電機(株)製の超絶縁計(形式名「SM-8220」)及び平板試料用電極(形式名「SME-8310」)を用いて、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下における印刷用積層体試料の体積抵抗率を求めた。
(7)水分率(質量%)
JIS P8127に準拠して、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下における印刷用積層体試料の水分率を求めた。
【0048】
(8)印刷適正(通紙性及び印刷鮮明性)
A4サイズにカットした印刷用積層体試料をリコー製のレーザープリンタ(形式名「MP-C4503」)の手差しトレイから挿入し、普通紙モード、両面童子印刷条件にて、20枚連続印刷を行った。
このときの通紙性及び印刷鮮明性を、それぞれ、以下の基準で評価した。
〈通紙性〉
A(良好):20枚全部につき、用紙詰まり及び印刷ずれがなく、正常に印刷が行えたとき
C(不良):20枚のうち、用紙詰まり又は印刷ずれが1枚以上発生したとき
〈印刷鮮明性〉
A(良好):20枚全部につき、印刷画像の目視観察にて、カスレ及び飛びが発生していなかったとき
B:20枚のうち、印刷画像の目視観察にて、カスレ又は飛びの発生した枚数が1枚又は2枚であったとき
C(不良):20枚のうち、印刷画像の目視観察にて、カスレ又は飛びの発生した枚数が3枚以上であったとき
【0049】
《実施例2~8及び比較例1及び2》
使用した基材層及び耐熱性樹脂層形成用塗工液の種類、並びに耐熱性樹脂層の目付を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様にして印刷用積層体を製造し、評価した。
評価結果は、表1に示した。
【0050】
《比較例3》
基材層として、ポリエチレン系不織布(旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ(株)製、商品名「タイベック1073D」、厚み0.21mm、目付75g/m)を用い、この基材層の両面上に、アニオン系静電防止剤を塗工することにより、比較例3の印刷用積層体を得た。
得られた印刷用積層体について、実施例1と同様にして評価した。
評価結果は、表1に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1における基材層の素材の略所は、それぞれ、以下の意味である。
PE1:ポリエチレン系不織布(旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ(株)製、商品名「タイベック1073D」)
PE2:ポリエチレン系不織布(旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ(株)製、商品名「タイベック1443R」)
PE3:ポリエチレン系不織布(旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ(株)製、商品名「タイベック1056D」)
PET:ポリエステル系不織布