(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
(21)【出願番号】P 2021050560
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 宣伯
【審査官】塩田 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-050155(JP,A)
【文献】特開2018-140720(JP,A)
【文献】特開2011-105150(JP,A)
【文献】特開2004-182203(JP,A)
【文献】特開2020-34228(JP,A)
【文献】特開2019-209938(JP,A)
【文献】特開2020-069929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
F25B 1/00
F25B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機、冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器、車室内に供給される空気を加熱する放熱器、前記室外熱交換器の冷媒入口側に設けられる第1電子膨張弁、冷媒-熱媒体熱交換器、及び、前記冷媒-熱媒体熱交換器の冷媒入口側に設けられる第2電子膨張弁を含む冷媒回路と、
熱媒体を循環させて前記冷媒-熱媒体熱交換器において冷媒と熱媒体との間で熱交換を行わせる熱媒体回路と、
前記冷媒回路及び前記熱媒体回路を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記放熱器を用いて前記車室内を暖房する暖房運転において、
前記圧縮機から吐出し前記放熱器において放熱した冷媒に、
前記室外熱交換器から吸熱させる外気吸熱暖房モードと、
前記冷媒-熱媒体熱交換器から吸熱させる廃熱回収暖房モードと、を有し、
前記外気吸熱暖房モードから前記廃熱回収暖房モードへの切替時に、前記第1電子膨張弁を閉じるように制御するとともに、前記冷媒-熱媒体熱交換器の下流側の冷媒過熱度を上昇させるように制御する、車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第2電子膨張弁の開度を制御することにより、前記冷媒-熱媒体熱交換器の下流側の冷媒過熱度を上昇させる請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記廃熱回収暖房モードへ切替開始から所定時間経過後に、前記第2電子膨張弁の開度を制御することにより、前記冷媒-熱媒体熱交換器の下流側の冷媒過熱度を下降させる請求項1または請求項2記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記熱媒体回路に、前記熱媒体を循環させるポンプが設けられ、
前記制御装置は、前記外気吸熱暖房モードから前記廃熱回収暖房モードへの切替時に、前記ポンプの回転数を制御することにより前記熱媒体の循環量を減少させる請求項1から請求項3の何れか1項記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記室外熱交換器の冷媒出口に冷媒貯留部を設けた請求項1から請求項4のいずれか1項記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記冷媒回路において、前記放熱器から前記室外熱交換器の冷媒入口までの冷媒配管に、他の冷媒配管に比して、長く、太径の冷媒配管を用いる請求項1から請求項4のいずれか1項記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記熱媒体回路は、機器温度調整回路であって、
前記機器温度調整回路に熱媒体を循環させて車両に搭載される被温調対象から前記冷媒-熱媒体熱交換器によって熱を回収する、請求項1から請求項6のいずれか1項記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用されるヒートポンプ式の車両用空調装置であって、特に、冷媒回路に接続された熱媒体回路を循環する熱媒体から吸熱して車室内の暖房に利用する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮機、室内熱交換器、室外熱交換器、及び膨張弁が接続された冷媒回路を備え、室内熱交換器において冷媒と熱交換した空気を車室内に供給して車室内の空調を行うヒートポンプ式の車両用空調装置が知られている。
【0003】
このような車両用空調装置において、例えば、冷媒回路に冷媒-熱媒体熱交換器を介して熱媒体回路としてのバッテリ温度調整装置を設け、バッテリの熱を回収して暖房運転に利用するものがある。例えば、特許文献1の車両用空調装置では、暖房運転時の冷媒の吸熱を、室外熱交換器で行う外気吸熱モードと冷媒-熱媒体熱交換器で行う廃熱回収モードと、を含む複数のモードを必要に応じて切り替えて実行している。これらのモード間の切り替えは、室外熱交換器の冷媒入口側に設けた電子膨張弁と、冷媒-熱媒体熱交換器の冷媒入口前に設けた電子膨張弁とを用いて冷媒を分流させたり分流量を調整したりすることにより実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、暖房運転時の外気吸熱モードから廃熱回収モードへの切替の際に、バッテリ温度調整装置を循環する熱媒体の温度が外気温度に比して高温である場合には、冷媒回路を循環する低圧側の冷媒、すなわち、冷媒-熱媒体熱交換器を通過する冷媒の圧力(温度)が急激に上昇してしまう。このとき、圧縮機の回転数を制御しても十分でなく、室内熱交換器から吹き出されて車室内へ供給される空気の温度が乱れてしまうことがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、暖房モードの切替時において、車室内へ供給される空気の温度の乱れを抑制し、温度を一定に保つこと、などを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態は、冷媒を圧縮する圧縮機、冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器、車室内に供給される空気を加熱する放熱器、前記室外熱交換器の冷媒入口側に設けられる第1電子膨張弁、冷媒-熱媒体熱交換器、及び、前記冷媒-熱媒体熱交換器の冷媒入口側に設けられる第2電子膨張弁を含む冷媒回路と、熱媒体を循環させて前記冷媒-熱媒体熱交換器において冷媒と熱媒体との間で熱交換を行わせる熱媒体回路と、前記冷媒回路及び前記熱媒体回路を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記放熱器を用いて前記車室内を暖房する暖房運転において、前記圧縮機から吐出し前記放熱器において放熱した冷媒に、前記室外熱交換器から吸熱させる外気吸熱暖房モードと、前記冷媒-熱媒体熱交換器から吸熱させる廃熱回収暖房モードと、を有し、前記外気吸熱暖房モードから前記廃熱回収暖房モードへの切替時に、前記第1電子膨張弁を閉じるように制御するとともに、前記冷媒-熱媒体熱交換器の下流側の冷媒過熱度を上昇させるように制御する、車両用空調装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、暖房モードの切替時において、車室内に供給させる空気の温度の乱れを抑制し、温度を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の冷媒回路Rの概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の制御装置としてのヒートポンプECUの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、外気吸熱暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れを示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、廃熱回収暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路においてバッテリの温度を調整する場合の熱媒体の流れを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、廃熱回収暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路においてモータユニットの温度を調整する場合の熱媒体の流れを示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、廃熱回収暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路においてバッテリ及びモータユニットの温度を調整する場合の熱媒体の流れを示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、併用暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路においてバッテリの温度を調整する場合の熱媒体の流れを示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、併用暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路においてモータユニットの温度を調整する場合の熱媒体の流れを示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、併用暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路においてバッテリ及びモータユニットの温度を調整する場合の熱媒体の流れを示す図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、外気吸熱暖房モード(MODE1)から廃熱回収暖房モード(MODE3)への切替時の制御に関し、圧縮機、室外膨張弁、チラー膨張弁、第1循環ポンプ及び第2循環ポンプに対する制御と、その結果を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施形態の変形例1に係る車両用空調装置の冷媒回路R1の概略構成を示す。
【
図12】本発明の実施形態の変形例2に係る車両用空調装置の冷媒回路R2の概略構成を示す。
【
図13】本発明の実施形態の変形例3に係る車両用空調装置の冷媒回路R3の概略構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一の符号は同一の機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0011】
図1に、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1の概略構成を示す。車両用空調装置1は、例えば、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電気自動車(EV)やエンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車などの車両に適用することができる。このような車両は、バッテリ(例えば、リチウム電池)が搭載され、外部電源からバッテリに充電された電力を、走行用のモータを含むモータユニットに供給することで駆動し、走行する。車両用空調装置1も、バッテリから供給される電力によって駆動する。
【0012】
本実施形態に係る車両用空調装置1は、冷媒回路Rを備え、冷媒回路Rを用いたヒートポンプ運転を行うことにより車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び除霜)を行う。また、冷媒回路Rに接続される熱媒体回路としての機器温度調整回路61を用いてバッテリ55やモータユニット65等の電装機器に対する冷却や暖機を行う。なお、以下の説明において、冷媒とは、ヒートポンプ(圧縮・凝縮・膨張・蒸発)における状態変化を伴う冷媒回路Rの循環媒体であり、熱媒体とは、このような状態変化を伴わずに熱の吸収と放熱を行う媒体である。
【0013】
冷媒回路Rは、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機2と、車室内の空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられ、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱する室内熱交換器としての室内コンデンサ(放熱器)4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる室外膨張弁6と、冷房時には冷媒を放熱させる放熱器(凝縮器)として機能し、暖房時には冷媒を吸熱させる蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿時に車室内外から冷媒に吸熱させて車室内に供給する空気を冷却する室内熱交換器としての吸熱器9と、アキュムレータ12等が冷媒配管13A~13Hにより接続されて構成されている。
【0014】
室外膨張弁6及び室内膨張弁8は、いずれも図示しないパルスモータにより駆動される電子膨張弁であり、パルスモータに加えられるパルス数によって全閉から全開までの間で開度が適宜制御される。室外膨張弁6は、室内コンデンサ4から流出し室外熱交換器7に流入する冷媒を減圧膨張させる。また、室外膨張弁6は、室外熱交換器7を用いた暖房運転時に、室内コンデンサ4の冷媒出口における過冷却の達成度合いの指標となるSC(サブクール)値が予め定めた目標値となるように、後述するヒートポンプECU11により開度が制御される(SC制御)。室内膨張弁8は、吸熱器9に流入する冷媒を減圧膨張させると共に、吸熱器9における冷媒の吸熱量を調整する。
【0015】
室外熱交換器7には、室外送風機15が設けられている。室外送風機15は、室外熱交換器7に外気を強制的に通風することにより、外気と冷媒とを熱交換させ、停車中にも室外熱交換器7に外気が通風されるようになっている。
【0016】
室外熱交換器7の冷媒出口と吸熱器9の冷媒入口とは冷媒配管13Aにより接続されている。冷媒配管13Aには、室外熱交換器7側から順に、逆止弁18と室内膨張弁8とが設けられている。逆止弁18は、吸熱器9に向かう方向が順方向となるように冷媒配管13Aに設けられる。冷媒配管13Aは、逆止弁18よりも室外熱交換器7側の位置で冷媒配管13Bに分岐している。
【0017】
冷媒配管13Aから分岐した冷媒配管13Bは、アキュムレータ12の冷媒入口に接続されている。冷媒配管13Bには、室外熱交換器7側から順に、暖房時に開放される電磁弁21及び逆止弁20が設けられている。逆止弁20は、アキュムレータ12に向かう方向が順方向となるように接続されている。冷媒配管13Bの電磁弁21と逆止弁20との間は冷媒配管13Cに分岐している。冷媒配管13Bから分岐した冷媒配管13Cは、吸熱器9の冷媒出口に接続されている。アキュムレータ12の冷媒出口と圧縮機2とは、冷媒配管13Dにより接続されている。
【0018】
圧縮機2の冷媒出口と室内コンデンサ4の冷媒入口とは、冷媒配管13Eにより接続されている。室内コンデンサ4の冷媒出口には冷媒配管13Fの一端が接続され、冷媒配管13Fの他端側は室外膨張弁6の手前(冷媒上流側)で冷媒配管13Gと冷媒配管13Hに分岐している。分岐した一方の冷媒配管13Hが室外膨張弁6を介して室外熱交換器7の冷媒入口側に接続されている。また、分岐した他方の冷媒配管13Gは、冷媒配管Aの逆止弁18と室内膨張弁8との間に接続されている。冷媒配管13Gの冷媒配管Aとの接続点より冷媒上流側には、電磁弁22が設けられている。
【0019】
これにより、冷媒配管13Gは室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18の直列回路に対して並列に接続され、室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18をバイパスする回路となる。
【0020】
吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されている(
図1では吸込口25として代表して示す)。吸込口25には吸込切換ダンパ26が設けられている。吸込切換ダンパ26により、車室内の空気である内気(内気循環)と、車室外の空気である外気(外気導入)とを適宜切り換えて吸込口25から空気流通路3内に導入する。吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0021】
空気流通路3の空気の流れに対して、室内コンデンサ4の空気下流側となる空気流通路3内には、補助ヒータ(図示せず)が設けられている。補助ヒータは、例えば、PTCヒータ(電気ヒータ)から構成され、補助ヒータが通電されて発熱することにより車室内の暖房を補完する。
【0022】
室内コンデンサ4の空気上流側における空気流通路3内には、空気流通路3内に流入し、吸熱器9を通過した後の空気流通路3内の空気(内気や外気)を室内コンデンサ4及び補助ヒータに通風する割合を調整するエアミックスダンパ28が設けられている。
なお、補助暖房手段として、例えば、圧縮機廃熱によって加熱した温水を空気流通路3に配置したヒータコアに循環させることにより、送風空気を加熱する形態とすることもできる。
【0023】
冷媒回路Rには、冷媒-熱媒体熱交換器64が接続されている。冷媒-熱媒体熱交換器64は、冷媒流路64Aと熱媒体流路64Bとを備え、冷媒回路Rの一部を構成すると同時に、熱媒体回路としての機器温度調整回路61の一部を構成する。
【0024】
具体的には、冷媒-熱媒体熱交換器64は冷媒回路Rに以下のように接続される。
冷媒回路Rにおいて、冷媒配管13Aに設けられた逆止弁18の下流側であって、室内膨張弁8の冷媒上流側には、分岐回路としての冷媒配管72の一端が接続されている。冷媒配管72の他端は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aの入口に接続されている。冷媒配管72にはチラー膨張弁73が設けられている。
【0025】
チラー膨張弁73は、図示しないパルスモータにより駆動される電子膨張弁であり、パルスモータに加えられるパルス数によって全閉から全開までの間で開度が適宜制御される。チラー膨張弁73は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aに流入する冷媒を減圧膨張させると共に、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aの下流側における冷媒の過熱度を調整する。
【0026】
冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aの出口には冷媒配管75の一端が接続されている。冷媒配管75の他端は冷媒配管13Bにおいて逆止弁20とアキュムレータ12との間に接続されている。このように、これらのチラー膨張弁73、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64A等も冷媒回路Rの一部を構成する。
【0027】
冷媒回路Rを循環する冷媒は、冷媒-熱媒体熱交換器64によって、機器温度調整回路61を循環する熱媒体と熱交換を行う。機器温度調整回路61は、バッテリ55やモータユニット65等の被温調対象に熱媒体を循環させてバッテリ55やモータユニット65の温度を調整する。なお、モータユニット65には、走行用の電動モータと電動モータを駆動するインバータ回路等の発熱機器も含まれる。被温調対象として、バッテリ55やモータユニット65の他に、車両に搭載されて発熱する機器を適用することができる。
【0028】
機器温度調整回路61は、バッテリ55やモータユニット65に熱媒体を循環させるための循環装置としての第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63と、空気-熱媒体熱交換器67と、流路切換装置としての三方弁81,82,83とを備え、これらが熱媒体配管68A~68Dにより接続されて構成されている。
【0029】
冷媒-熱媒体熱交換器64において、熱媒体流路64Bの冷媒吐出側に熱媒体配管68Aの一端が接続され、熱媒体入口に熱媒体配管68Aの他端が接続されている。熱媒体配管68Aには、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体吐出側から順に、三方弁83、バッテリ55、三方弁82、空気-熱媒体熱交換器67、三方弁81、第1循環ポンプ62が設けられている。このように、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bは機器温度調整回路61の一部を構成する。
熱媒体配管68Aにおいて、三方弁83の熱媒体下流側には、バッテリ55をバイパスする熱媒体配管68Bの一端が接続され、熱媒体配管68Bの他端は、熱媒体配管68Aの三方弁82よりも熱媒体下流側に接続される。
【0030】
三方弁82の、熱媒体配管68Bの反対側には、熱媒体配管68Cの一端が設けられ、熱媒体配管68Cの他端は、熱媒体配管68Aの第1循環ポンプ62と三方弁81との間に接続されている。
【0031】
熱媒体配管68Aの三方弁82と空気-熱媒体熱交換器67との間には熱媒体配管68Dの一端が設けられ、熱媒体配管68Dの他端は、熱媒体配管68Aの第1循環ポンプ62よりも熱媒体上流側に接続される。熱媒体配管68Dには、熱媒体上流側から順にモータユニット65及び第2循環ポンプ63が設けられている。
機器温度調整回路61をこのような構成とすることで、三方弁81,82,83を制御して、機器温度調整回路61においてバッテリ55のみ、モータユニット65のみ、または、バッテリ55及びモータユニット65の双方に熱媒体を循環させて、これらの温度を調整することができる。
【0032】
機器温度調整回路61で使用される熱媒体としては、例えば水、HFO-1234yfのような冷媒、クーラント等の液体、空気等の気体が採用可能である。尚、本実施形態ではクーラントを熱媒体として採用している。また、バッテリ55やモータユニット65の周囲には例えば熱媒体が当該バッテリ55やモータユニット65と熱交換関係で流通可能なジャケット構造が施されているものとする。
【0033】
チラー膨張弁73が開いている場合、冷媒配管13Gや室外熱交換器7から流出した冷媒の一部又は全部は、冷媒配管72に流入しチラー膨張弁73で減圧された後、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aに流入して蒸発する。一方、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bには、機器温度調整回路61を循環し、バッテリ55やモータユニット65から吸熱した熱媒体が流入する。冷媒は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aを流れる過程で熱媒体流路64Bを流れる熱媒体から吸熱した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる。
【0034】
図2に、車両用空調装置1の制御装置としてのヒートポンプECU11の概略構成を示す。ヒートポンプECU11は、走行を含む車両全般の制御を司る車両コントローラ35とCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)等の車載ネットワークにより相互に通信可能に接続され、情報の送受信を行う。ヒートポンプECU11及び車両コントローラ35には何れもプロセッサを備えたコンピュータの一例としてのマイクロコンピュータを適用することができる。
【0035】
ヒートポンプECU11には、以下の各センサや検出器が接続され、これらの各センサや検出器等の出力が入力される。
具体的には、ヒートポンプECU11には、車両の外気温度Tamを検出する外気温度センサ33、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36、車室内の空気の温度Tinを検出する内気温度センサ37、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41、圧縮機2の吐出冷媒圧力(吐出圧力Pd)を検出する吐出圧力センサ42、圧縮機2の吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度センサ43、圧縮機2の吸込冷媒温度Tsを検出する吸込温度センサ44、室内コンデンサ4の温度TCIを検出する室内コンデンサ温度センサ46、室内コンデンサ4の圧力(室内コンデンサ4を出た直後の冷媒圧力:室内コンデンサ出口圧力Pci)を検出する室内コンデンサ圧力センサ47と、吸熱器9の温度Teを検出する吸熱器温度センサ48、吸熱器9の冷媒圧力を検出する吸熱器圧力センサ49、設定温度や空調運転の切り換えを設定するための空調操作部53、室外熱交換器7の温度TXOを検出する室外熱交換器温度センサ54、室外熱交換器7の冷媒圧力PXOを検出する室外熱交換器圧力センサ56、及び、ヒートポンプECU11には、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bを出て熱媒体回路を循環する熱媒体の温度Tw(以下、「チラー水温」という)を検出する熱媒体温度センサ79、が接続されている。
【0036】
一方、ヒートポンプECU11の出力には、圧縮機2、室外送風機15、室内送風機(ブロワファン)27、吸込切換ダンパ26、エアミックスダンパ28、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、電磁弁21,22、三方弁81,82,83、チラー膨張弁73、第1循環ポンプ62、第2循環ポンプ63が接続されている。ヒートポンプECU11は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定、車両コントローラ35からの情報に基づいてこれらを制御する。
【0037】
以下、このように構成された車両用空調装置1における暖房運転時の動作について説明する。本実施形態におけるヒートポンプECU11(制御装置)は、暖房運転において、室外熱交換器7のみによって吸熱を行う外気吸熱暖房モードと、冷媒-熱媒体熱交換器64のみによって吸熱を行う廃熱回収熱暖房モードとを切り替えて実行する。また、暖房モードと廃熱回収モードとの切替時には、室外熱交換器7及び冷媒-熱媒体熱交換器64の双方によって吸熱を行うことになる。したがって、本実施形態における車両用空調装置では、外気吸熱暖房モード、廃熱回収暖房モード、及び、併用暖房モードを含む3つの暖房モードを実行することができる。
以下、各暖房モードについて説明する。
【0038】
(1)外気吸熱暖房モード(MODE1)
図3は、外気吸熱暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ(矢印)を示している。ヒートポンプECU11により(オートモード)、或いは、空調操作部53へのマニュアル操作(マニュアルモード)により暖房運転が選択され、ヒートポンプECU11が外気吸熱暖房モードを実行する場合、電磁弁21を開放し、室内膨張弁8を全閉とする。また、チラー膨張弁73及び電磁弁22を全閉とする。
【0039】
圧縮機2、及び、室内送風機27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が室内コンデンサ4及び補助ヒータ(図示せず)に通風される割合を調整する状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は室内コンデンサ4に流入する。室内コンデンサ4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は室内コンデンサ4内の高温冷媒により加熱され、一方、室内コンデンサ4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0040】
室内コンデンサ4で液化した冷媒は室内コンデンサ4を出た後、冷媒配管13F、13Hを経て室外膨張弁6に至る。冷媒は、室外膨張弁6で減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、車両の走行により流入する外気、或いは、室外送風機15にて通風される外気から吸熱する。即ち、冷媒回路Rがヒートポンプとなる。
【0041】
そして、室外熱交換器7を出た低温低圧の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13B、電磁弁21、逆止弁20を経てアキュムレータ12に流入する。冷媒はアキュムレータ12で気液分離された後、ガス冷媒が冷媒配管13Dを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。室内コンデンサ4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出される。これにより、車室内の暖房が行われることとなる。
【0042】
ヒートポンプECU11は、目標吹出温度TAOから目標室内コンデンサ圧力PCO(室内コンデンサ4の圧力PCIの目標値)を算出し、この目標室内コンデンサ圧力PCOと、室内コンデンサ圧力センサ47が検出する室内コンデンサ4の冷媒圧力(室内コンデンサ圧力PCI、すなわち、冷媒回路Rの高圧側圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、室内コンデンサ温度センサ46が検出する室内コンデンサ4の温度(室内コンデンサ温度TCI)及び室内コンデンサ圧力センサ47が検出する室内コンデンサ圧力PCIに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、室内コンデンサ4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。また、室内コンデンサ4による暖房能力が不足する場合には補助ヒータ(図示せず)に通電して発熱させ、暖房を補完する。
【0043】
(2)廃熱回収暖房モード(MODE2)
図4~
図6は、廃熱回収暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路61の熱媒体の流れを示している。
廃熱回収暖房モードでは、ヒートポンプECU11は電磁弁21を閉じ、室外膨張弁6と室内膨張弁8を全閉とし、電磁弁22を開く。また、チラー膨張弁73を開いてその弁開度を制御する状態とする。圧縮機2及び室内送風機27を運転する。
【0044】
これにより、室内コンデンサ4から出た全ての冷媒が電磁弁22に流れ、冷媒配管13Gを経て冷媒配管72に流入する。冷媒は、冷媒配管72を通過してチラー膨張弁73で減圧された後、冷媒配管72を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aに流入して蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。冷媒流路64Aで蒸発した冷媒は、冷媒配管75を経て冷媒配管13Bの逆止弁20の下流側に流入し、アキュムレータ12、冷媒配管13Dを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0045】
一方、機器温度調整回路61では、バッテリ55の温度を調整してバッテリ55から熱を回収する場合(
図4)、モータユニット65の温度を調整してモータユニット65から熱を回収する場合(
図5)、バッテリ55及びモータユニット65の温度を調整して、両者から熱回収する場合(
図6)の3つの場合がある。
【0046】
図4に示すバッテリ55から熱を回収する場合には、熱媒体は、第1循環ポンプ62により循環され、三方弁83を経て流入したバッテリ55において熱交換した後、三方弁82を経て熱媒体配管68Cに流入し、熱媒体配管68Aを経て冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bに至る。熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64A内で蒸発する冷媒により吸熱されて冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出て第1循環ポンプ62により再びバッテリ55に流入する循環を繰り返す。
【0047】
図5に示すモータユニット65から熱を回収する場合には、熱媒体は、第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により循環され、三方弁83を経て流入したモータユニット65において熱交換した後、熱媒体配管68Dから三方弁81及び熱媒体配管68Aを経て冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bに至る。熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64A内で蒸発する冷媒により吸熱されて冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出て第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により熱媒体配管68A、三方弁83、熱媒体配管68B及び熱媒体配管68Dを経て再びモータユニット65に流入する循環を繰り返す。
【0048】
図6に示すバッテリ55及びモータユニット65の両者から熱を回収する場合には、熱媒体は、第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により循環され、三方弁83を経て、バッテリ55において熱交換した後、三方弁82及び熱媒体配管68Dを経て更にモータユニット65において熱交換する。
【0049】
その後、熱媒体配管68Dにおいて第2循環ポンプ63に吸い込まれ、三方弁81及び熱媒体配管68Aを経て冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bに至る。熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64A内で蒸発する冷媒により吸熱されて冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出て第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により熱媒体配管68A、三方弁83を経て再びバッテリ55に流入する循環を繰り返す。
【0050】
このように廃熱回収単独モードでは、冷媒回路Rの冷媒が冷媒-熱媒体熱交換器64にて蒸発し、機器温度調整回路61の熱媒体のみから吸熱する。即ち、冷媒は室外熱交換器7に流入して蒸発することは無く、冷媒は熱媒体を介してバッテリ55、モータユニット65、またはバッテリ55とモータユニット65から熱を汲み上げることになるので、室外熱交換器7への着霜の問題を解消しながら、バッテリ55及びモータユニット65を冷却し、バッテリ55及びモータユニット65(被温調対象)から汲み上げた熱を室内コンデンサ4に搬送して車室内を暖房することができる。
【0051】
(3)併用暖房モード(廃熱回収並列モード)
図7~
図9は、併用暖房モードにおける冷媒回路Rの冷媒の流れ及び機器温度調整回路61の熱媒体の流れを示している。
併用暖房モードでは、ヒートポンプECU11は
図3に示した冷媒回路Rの暖房運転における外気吸熱暖房モードの状態で、更に電磁弁22を開き、チラー膨張弁73も開いてその弁開度を制御する状態とする。これにより、室内コンデンサ4から出た冷媒の一部が室外膨張弁6の冷媒上流側で分流され、冷媒配管13Gを経て冷媒配管72に流入する。
【0052】
冷媒配管72に流入した冷媒は、チラー膨張弁73で減圧された後、冷媒配管72を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Aに流入して蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。冷媒流路64Aで蒸発した冷媒は、冷媒配管74を経て冷媒配管13Bの逆止弁20下流側に入り、アキュムレータ12、冷媒配管13Dを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0053】
一方、機器温度調整回路61における熱媒体は、上述した廃熱回収暖房モードと同様に、バッテリ55の温度を調整してバッテリ55から熱を回収する場合(
図7)、モータユニット65の温度を調整してモータユニット65から熱を回収する場合(
図8)、バッテリ55及びモータユニット65の温度を調整して、両者から熱回収する場合(
図9)の3つの場合がある。
【0054】
図7に示すバッテリ55から熱を回収する場合には、熱媒体は、第1循環ポンプ62により循環され、三方弁83を経て流入したバッテリ55において熱交換した後、三方弁82を経て熱媒体配管68Cに流入し、熱媒体配管68Aを経て冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bに至る。熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64A内で蒸発する冷媒により吸熱されて冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出て第1循環ポンプ62により再びバッテリ55に流入する循環を繰り返す。
【0055】
図8に示すモータユニット65から熱を回収する場合には、熱媒体は、第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により循環され、三方弁83を経て流入したモータユニット65において熱交換した後、熱媒体配管68Dから三方弁81及び熱媒体配管68Aを経て冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bに至る。熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64A内で蒸発する冷媒により吸熱されて冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出て第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により熱媒体配管68A、三方弁83、熱媒体配管68B及び熱媒体配管68Dを経て再びモータユニット65に流入する循環を繰り返す。
【0056】
図9に示すバッテリ55及びモータユニット65の両者から熱を回収する場合には、熱媒体は、第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により循環され、三方弁83を経て、バッテリ55において熱交換した後、三方弁82及び熱媒体配管68Dを経て更にモータユニット65において熱交換する。その後、熱媒体配管68Dにおいて第2循環ポンプ63に吸い込まれ、三方弁81及び熱媒体配管68Aを経て冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Bに至る。熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64A内で蒸発する冷媒により吸熱されて冷却される。冷媒の吸熱作用で冷却された熱媒体は、冷媒-熱媒体熱交換器64を出て第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63により熱媒体配管68A、三方弁83を経て再びバッテリ55に流入する循環を繰り返す。
【0057】
このように、併用暖房モードでは、冷媒回路Rの冷媒の流れに対して室外熱交換器7と冷媒-熱媒体熱交換器64が並列に接続されているので、冷媒が室外熱交換器7と冷媒-熱媒体熱交換器64に流れてそれぞれで蒸発する。従って、室外熱交換器7によって外気から吸熱すると共に、冷媒-熱媒体熱交換器4によって熱媒体からも吸熱することになる。これにより、熱媒体を介してバッテリ55及びモータユニット65から熱を汲み上げ、バッテリ55及びモータユニット65を冷却しながら、汲み上げた熱を室内コンデンサ4に搬送し、車室内の暖房に利用することができるようになる。
【0058】
(暖房運転のモード切替)
以下、
図10を用いて、外気吸熱暖房モード(MODE1)から廃熱回収暖房モード(MODE3)への切替時の制御について説明する。
図10は、ヒートポンプECU32による圧縮機2、室外膨張弁6、チラー膨張弁73、第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63に対する制御と、その結果を示すグラフであり、上段にヒートポンプECU32による制御(Input)、下段に上段に示す制御の結果(Output)を示す。また、
図10において、破線は参考(従来)例について、実線は本実施形態における車両用空調装置1についての制御及び制御結果を示す。
【0059】
(1)参考例におけるモード切替制御
参考例に係る車両用空調装置では、外気吸熱暖房モードから排熱回収暖房モードへの切替時に、ヒートポンプECU11により、冷媒-熱媒体熱交換器64において冷媒と熱媒体とを熱交換させるために、チラー膨張弁73を一定の速度で開度が狙い値となるように制御する。
【0060】
本参考例では、室外膨張弁6が全閉となるまでの間に、すなわち、外気吸熱暖房モードから廃熱回収暖房モードへの切替開始から切替完了までの間(併用暖房モードによる運転期間)に、チラー膨張弁73の開度が狙い値となるように制御する。また、チラー膨張弁73の開度制御に伴って、冷媒回路Rの高圧側圧力、すなわち、吹出口29から車室内に供給される空気の温度に基づいて圧縮機2の回転数を減少させるように制御する。第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63の動作は変化させないため、冷媒-熱媒体熱交換器64を循環する熱媒体の流量も変化しない。
【0061】
この場合、
図10に示すように、室外膨張弁6が閉じたときにチラー膨張弁73の開度が狙い値となるので、熱媒体からの吸熱を早期に行うことができるが、熱媒体の温度が外気温に比して高温の場合は、冷媒回路Rの低圧側圧力、特に、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側の冷媒の圧力が急激に上昇してしまう。このとき、圧縮機2の回転数が減少しているものの、回転数を減少させるだけでは不十分であり、吹出口29から車室内へ供給される空気の温度が乱れてしまい、乗員に不快感を与えるおそれがある。
【0062】
(2)本実施形態におけるモード切替制御
本実施形態においては、ヒートポンプECU11は、外気吸熱暖房モードから廃熱回収暖房モードへの切替時に、室外膨張弁6を閉じるように制御し、同時に、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側(冷媒出口側)の冷媒の圧力の過熱度を一時的に上昇させるように制御する。
【0063】
具体的には、ヒートポンプECU11は、室外膨張弁6を閉じるように制御し、室外膨張弁6が全閉となるまでの間に、すなわち、外気吸熱暖房モードから廃熱回収暖房モードへの切替開始から切替完了までの間(併用暖房モードによる運転期間)に、チラー膨張弁73を緩やかに所定の開度まで開くように制御する。
【0064】
また、チラー膨張弁73の開度制御に伴って、冷媒回路Rの高圧側圧力、すなわち、吹出口29から車室内に供給される空気の温度に基づいて圧縮機2の回転数を減少させるように制御する。このとき、チラー膨張弁73は、所定の開度まで緩やかに開き、全開とならないことから、圧縮機2の回転数は上述の参考例よりも緩やかに減少する。さらに、第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63を制御して、機器温度調整回路61を循環する熱媒体の流量(循環量)を一時的に減少させ、再び熱媒体の流量を増加させて室外膨張弁6が全閉となるまでに元の流量に戻す。なお、廃熱回収暖房モードへの切替は、室外膨張弁6が全閉となり室外熱交換器7における外気と冷媒との熱交換が行われなくなると完了する。
【0065】
併用暖房モードによる運転期間は、チラー膨張弁73が所定の開度に絞られており(全開でない)、かつ、熱媒体の流量が一時的に減少する。このため、上述の参考例に比して、併用暖房モードによる運転期間における熱媒体の温度が高く、つまり、冷媒-熱媒体熱交換器64での冷媒による熱媒体からの吸熱量が小さい。このように制御することで、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側(冷媒出口側)の過熱度を上昇させて、冷媒回路Rの低圧側圧力、特に、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側の冷媒圧力の急上昇を抑制することができる。
【0066】
また、ヒートポンプECU11は、外気吸熱暖房モードから廃熱回収暖房モードへの切替開始から所定時間経過後、例えば、廃熱回収暖房モードへの切替完了時に、チラー膨張弁73の開度をさらに大きくなるよう制御する。これにより、冷媒-熱媒体熱交換器64において冷媒による熱媒体からの吸熱量が増加し、冷媒の冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側(冷媒出口側)の過熱度が徐々に低下し、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側の冷媒圧力も低下する。
【0067】
このように、本実施形態に係る車両用空調装置1によれば、外気吸熱暖房モードから廃熱回収暖房モードへの切替時において、冷媒の冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側(冷媒出口側)の過熱度を上昇させて、冷媒回路Rの低圧側圧力、特に、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側の冷媒圧力の急上昇を抑制する。これにより、室内コンデンサ4からの吹出空気温度、ひいては車室内に供給する空気の温度の乱れを抑制し、一定に保つことができる。
【0068】
なお、冷媒回路Rの室内コンデンサ4から室外熱交換器7入口までの冷媒配管13Fに、他の冷媒配管に比して、長く、太径の冷媒配管を用いることで、暖房時の冷媒量を増加させることができる。また、冷媒回路Rの冷媒高圧側、例えば、室外熱交換器7の冷媒出口に冷媒貯留部としてレシーバを配置してレシーバサイクルとしてもよい。
【0069】
(変形例1)
図11に、上述した実施形態の変形例1に係る車両用空調装置の冷媒回路R1の概略構成を示す。変形例1に係る車両用空調装置の冷媒回路R1には、冷媒-熱媒体交換器91の冷媒流路91Aが接続され、冷媒-熱媒体交換器91の熱媒体流路91Bに熱媒体回路90が接続されている。冷媒-熱媒体交換器91の冷媒流路91Aは、冷媒回路R1の一部を構成し、冷媒-熱媒体交換器91の熱媒体流路91Bは熱媒体回路90の一部を構成する。熱媒体回路90には、室内コンデンサ4が設けられている。
【0070】
したがって、圧縮機2から吐出した高温高圧の冷媒は、冷媒-熱媒体交換器91において熱媒体回路90を循環ポンプ94によって循環させられる熱媒体と熱交換し、熱媒体に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。熱媒体回路90における熱媒体は高温となり、室内コンデンサ4に通風される空気流通路3内の空気が室内コンデンサ4を循環する高温の熱媒体により加熱される。
【0071】
(変形例2)
図12に、上述した実施形態の変形例2に係る車両用空調装置の冷媒回路R2の概略構成を示す。変形例2に係る車両用空調装置の冷媒回路R1には、冷媒-熱媒体交換器93の冷媒流路93Aが接続され、冷媒-熱媒体交換器93の熱媒体流路93Bに熱媒体回路92が接続されている。冷媒-熱媒体交換器93の冷媒流路93Aは、冷媒回路R2の一部を構成し、冷媒-熱媒体交換器93の熱媒体流路93Bは熱媒体回路92の一部を構成する。熱媒体回路92には、室外熱交換器7が設けられている。
【0072】
熱媒体回路92では、熱媒体と、車両の走行により流入する外気、或いは、室外送風機15にて通風される外気とが熱交換する。室内コンデンサ4で液化した冷媒は室内コンデンサ4を出た後、冷媒配管13F、13Hを経て室外膨張弁6に至る。冷媒は、室外膨張弁6で減圧された後、冷媒-熱媒体交換器93に流入する。冷媒は、冷媒-熱媒体交換器93において熱媒体回路92を循環ポンプ95によって循環させられる熱媒体と熱交換する。冷媒-熱媒体交換器93を出た低温低圧の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13B、電磁弁21、逆止弁20を経てアキュムレータ12に流入する。
【0073】
(変形例3)
図13に、上述した実施形態の変形例3に係る車両用空調装置の冷媒回路R3の概略構成を示す。変形例3に係る車両用空調装置の冷媒回路R3には、冷媒-熱媒体交換器91の冷媒流路91A及び、冷媒-熱媒体交換器93の冷媒流路93Aが接続されている。また、冷媒-熱媒体交換器91の熱媒体流路91Bに熱媒体回路90が接続され、冷媒-熱媒体交換器93の熱媒体流路93Bには熱媒体回路92が接続されている。
【0074】
冷媒-熱媒体交換器91の冷媒流路91Aは、冷媒回路R3の一部を構成し、冷媒-熱媒体交換器91の熱媒体流路91Bは熱媒体回路90の一部を構成する。冷媒-熱媒体交換器93の冷媒流路93Aは、冷媒回路R3の一部を構成し、冷媒-熱媒体交換器93の熱媒体流路93Bは熱媒体回路92の一部を構成する。室内コンデンサ4は熱媒体回路90に設けられ、室外熱交換器7は熱媒体回路92に設けられている。
【0075】
圧縮機2から吐出した高温高圧の冷媒は、冷媒-熱媒体交換器81において熱媒体回路90を循環ポンプ94によって循環させられる熱媒体と熱交換し、熱媒体に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。一方、熱媒体回路90における熱媒体は高温となり、室内コンデンサ4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は室内コンデンサ4を循環する高温の熱媒体により加熱される。
【0076】
熱媒体回路92では、熱媒体と、車両の走行により流入する外気、或いは、室外送風機15にて通風される外気とが熱交換する。室内コンデンサ4で液化した冷媒は室内コンデンサ4を出た後、冷媒配管13F、13Hを経て室外膨張弁6に至る。冷媒は、室外膨張弁6で減圧された後、冷媒-熱媒体交換器93に流入する。冷媒は、冷媒-熱媒体交換器93において熱媒体回路92を循環ポンプ95によって循環させられる熱媒体と熱交換する。冷媒-熱媒体交換器93を出た低温低圧の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13B、電磁弁21、逆止弁20を経てアキュムレータ12に流入する。
【0077】
変形例1~変形例3に係る車両用空調装置においても、外気吸熱暖房モード、廃熱回収暖房モード、及び、併用暖房モードを含む3つの暖房モードを実行することができる。そして、外気吸熱暖房モード(MODE1)から廃熱回収暖房モード(MODE3)への切替時に、室外膨張弁6を閉じるように制御し、同時に、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側(冷媒出口側)の冷媒の圧力の過熱度を一時的に上昇させるように制御する(
図10参照)。具体的には、ヒートポンプECU11は、室外膨張弁6を閉じるように制御し、室外膨張弁6が全閉となるまでの間に、すなわち、外気吸熱暖房モードから廃熱回収暖房モードへの切替開始から切替完了までの間(併用暖房モードによる運転期間)に、チラー膨張弁73を緩やかに所定の開度まで開くように制御する。
【0078】
このように制御することにより、変形例1~変形例3に係る車両用空調装置においても、外気吸熱暖房モードから廃熱回収暖房モードへの切替時に、冷媒の冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側(冷媒出口側)の過熱度を上昇させて、冷媒回路Rの低圧側圧力、特に、冷媒-熱媒体熱交換器64の下流側の冷媒圧力の急上昇を抑制する。これにより、室内コンデンサ4からの吹出空気温度、ひいては車室内に供給する空気の温度の乱れを抑制し、一定に保つことができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1:車両用空調装置,2:圧縮機,3:空気流通路,4:室内コンデンサ、6:室外膨張弁,7:室外熱交換器,8:室内膨張弁,9:吸熱器,11:ヒートポンプECU(制御装置),61:機器温度調整回路,62:第1循環ポンプ,63:第2循環ポンプ,64,91,93:冷媒-熱媒体熱交換器,73:チラー膨張弁