(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】摩擦接合装置及び摩擦接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
B23K20/12 F
(21)【出願番号】P 2021084720
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎太郎
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-312279(JP,A)
【文献】特開2011-025281(JP,A)
【文献】特公昭49-028818(JP,B1)
【文献】特公昭50-024258(JP,B2)
【文献】特開2008-272834(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010034393(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ワークを把持する第1主軸を回転可能に備えた第1主軸機構と、
前記第1ワークと回転軸線方向に対向するように第2ワークを把持する第2主軸を回転可能に備えた第2主軸機構であって、前記第2主軸を前記第1主軸に対して前記回転軸線方向に相対移動可能な第2主軸機構と、
前記第1主軸機構及び前記第2主軸機構を制御する制御部と、
を備え、
互いに逆方向に回転する前記第1ワークと前記第2ワークとを前記回転軸線方向に当接させ、前記第1ワークと前記第2ワークとの間の摺動部を摩擦熱により軟化させた後、前記第1ワークと前記第2ワークの回転を停止することで、前記第1ワークと前記第2ワークを前記摺動部で接合する摩擦接合装置において、
前記第1主軸機構と前記第2主軸機構は、それぞれの主軸の回転停止能力が互いに異なり、
前記制御部は、前記第1主軸の回転と前記第2主軸の回転が同時に停止するように、前記第1主軸機構及び前記第2主軸機構を、それぞれの前記回転停止能力に基づいて制御することを特徴とする摩擦接合装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1主軸の回転と前記第2主軸の回転が同時に停止するように、
前記第1主軸機構が前記第1主軸の回転の減速を開始する第1減速タイミングを、前記第1主軸機構の前記回転停止能力に基づいて設定し、
前記第2主軸機構が前記第2主軸の回転の減速を開始する第2減速タイミングを、前記第2主軸機構の前記回転停止能力に基づいて設定することを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1主軸の回転と前記第2主軸の回転が同時に停止するように、
前記第1主軸機構が前記第1主軸を回転させる第1回転数を、前記第1主軸機構の前記回転停止能力に基づいて設定し、
前記第2主軸機構が前記第2主軸を回転させる第2回転数を、前記第2主軸機構の前記回転停止能力に基づいて設定することを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合装置。
【請求項4】
前記第1主軸機構が前記第1主軸を回転させる回転数と、前記第2主軸機構が前記第2主軸を回転させる回転数と、が同じ回転数であり、
前記第1主軸機構が前記第1主軸の回転の減速を開始するタイミングと、前記第2主軸機構が前記第2主軸の回転の減速を開始するタイミングと、が異なることを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合装置。
【請求項5】
前記第1主軸機構が前記第1主軸を回転させる回転数と、前記第2主軸機構が前記第2主軸を回転させる回転数と、が異なる回転数であり、
前記第1主軸機構が前記第1主軸の回転の減速を開始するタイミングと、前記第2主軸機構が前記第2主軸の回転の減速を開始するタイミングと、が異なることを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合装置。
【請求項6】
前記第1主軸機構が前記第1主軸を回転させる回転数と、前記第2主軸機構が前記第2主軸を回転させる回転数と、が異なる回転数であり、
前記第1主軸機構が前記第1主軸の回転の減速を開始するタイミングと、前記第2主軸機構が前記第2主軸の回転の減速を開始するタイミングと、が同じであることを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合装置。
【請求項7】
前記第1主軸機構と前記第2主軸機構が、前記第1主軸と前記第2主軸をそれぞれ同じ回転数で回転させたときに、前記第1主軸機構が前記第1主軸の減速開始から回転停止までに要する時間と、前記第2主軸機構が前記第2主軸の減速開始から回転停止まで要する時間と、が異なることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の摩擦接合装置。
【請求項8】
第1ワークを把持する第1主軸を回転可能に備えた第1主軸機構と、
前記第1ワークと回転軸線方向に対向するように第2ワークを把持する第2主軸を回転可能に備えた第2主軸機構であって、前記第2主軸を前記第1主軸に対して前記回転軸線方向に相対移動可能な第2主軸機構と、
前記第1主軸機構及び前記第2主軸機構を制御する制御部と、
を備え、
互いに逆方向に回転する前記第1ワークと前記第2ワークとを前記回転軸線方向に当接させ、前記第1ワークと前記第2ワークとの間の摺動部を摩擦熱により軟化させた後、前記第1ワークと前記第2ワークの回転を停止することで、前記第1ワークと前記第2ワークを前記摺動部で接合する摩擦接合装置において、
前記第1主軸機構と前記第2主軸機構は、それぞれの主軸の回転停止能力が互いに異なり、
前記制御部は、前記第1主軸の回転と前記第2主軸の回転が同時に停止するように、前記第1主軸機構及び前記第2主軸機構を、それぞれの前記回転停止能力に基づいて制御することを特徴とする摩擦接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つのワークを摩擦接合する摩擦接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動旋盤装置等の工作機械、すなわち、長尺の棒材を主軸で把持して回転し切削工具を押し当てて切削加工を施す工作機械では、加工済みワークの分離後に残る残材を有効利用するための摩擦接合が行われる(特許文献1参照)。すなわち、もはやワークの削り出しが不可能な長さになった残材としての棒材を、新たに供給される棒材に摩擦接合し、次の加工の材料として利用するものであり、材料コストの削減、環境負荷低減を図ることができる。
【0003】
摩擦接合は、二つのワークの摺動部に生じる摩擦熱により摺動部を軟化させるとともに、圧力をかけながら摺動部の相対回転を停止することで摺動部を接合させ、二つのワークを一体的に接合するものである。具体的には、第1のワーク(次の工程で用いられる新たな棒材)を主軸(第1主軸)で把持して回転させるとともに、第2のワーク(先の工程で残った残材)を背面主軸(第2主軸)で把持して回転させる。そして、主軸間の軸線方向距離を狭めて、第1のワークと第2のワークの対向端面同士を互いに押し当てて摺動させることにより、摺動部に摩擦熱を生じさせる。摩擦によって接合部が十分に軟化した状態となったら、加圧を維持しつつ主軸間の相対回転を停止する。回転停止により熱が引くと摺動部は結合した状態で固まり、残材と新材とが一体的に接合された状態となる。
【0004】
ここで、ワークを回転させる主軸には、高速で回転するワーク同士の接触時や回転停止時に大きなトルク負荷が発生する。特に、回転停止時においては、停止制御の開始から停止状態に近づくにつれて摺動部の温度が低下することで、材料の軟化度合いが低下し、摺動部での摺動抵抗力が増大して大きなトルク負荷がかかる。この減速開始から停止完了までの時間が長くなるほど、摺動部の温度低下、固化の進度が大きくなり、停止時の主軸機構に負荷されるトルクがさらに増大する。また、過大なトルク負荷の発生は、接合品の品質に影響を与える可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、摩擦接合における機械的負荷の低減、接合品質の安定化を図ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の摩擦接合装置は、
第1ワークを把持する第1主軸を回転可能に備えた第1主軸機構と、
前記第1ワークと回転軸線方向に対向するように第2ワークを把持する第2主軸を回転可能に備えた第2主軸機構であって、前記第2主軸を前記第1主軸に対して前記回転軸線方向に相対移動可能な第2主軸機構と、
前記第1主軸機構及び前記第2主軸機構を制御する制御部と、
を備え、
互いに逆方向に回転する前記第1ワークと前記第2ワークとを前記回転軸線方向に当接
させ、前記第1ワークと前記第2ワークとの間の摺動部を摩擦熱により軟化させた後、前記第1ワークと前記第2ワークの回転を停止することで、前記第1ワークと前記第2ワークを前記摺動部で接合する摩擦接合装置において、
前記第1主軸機構と前記第2主軸機構は、それぞれの主軸の回転停止能力が互いに異なり、
前記制御部は、前記第1主軸の回転と前記第2主軸の回転が同時に停止するように、前記第1主軸機構及び前記第2主軸機構を、それぞれの前記回転停止能力に基づいて制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摩擦接合における機械的負荷の低減、接合品質の安定化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る摩擦接合装置の模式図である。
【
図2】正面主軸と背面主軸の回転停止時間(回転停止能力)の説明図である。
【
図3】正面主軸と背面主軸の回転停止時間(回転停止能力)の説明図である。
【
図4】本実施形態と比較例の回転停止時間を示す図である。
【
図5】本実施形態と比較例のトルク負荷を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施例を説明する。ただし、以下で説明する実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定するものではない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、製造条件、構成部品の機能、材質、形状、その相対配置などは、特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、繰り返しの説明を省略する。
【0011】
(実施形態)
図1(a)は、本発明の実施形態に係る摩擦接合装置としての工作機械1の構成を概略的に示す模式図である。
図1(a)に示す工作機械1は、いわゆる自動旋盤装置であり、被加工物として例えば長尺棒材であるワークWを回転させ、これに切削工具(加工工具)をあてがうことで、切削加工(旋削加工)を施す装置である。本実施形態に係る工作機械1は、一本のワークWから加工済みワークを限界まで切り出すことができたら、その残材であるワークW2を、新たに供給されるワークW1と接合する摩擦接合装置としても利用可能に構成されている。
【0012】
工作機械1は、概略、不図示の基台上に互いに対向配置された第1の主軸機構(正面主軸機構)100及び第2の主軸機構(背面主軸機構)200と、不図示の刃物台と、を備える。第1の主軸機構100は、第1の主軸(正面主軸)101を有し、第2の主軸機構200は、第2の主軸(背面主軸)201を有し、これら二つの主軸は、それぞれの軸線が互いに略同心や平行となるように配置される。その軸線方向をZ軸方向とし、軸線方向と直交する方向のうち、鉛直方向と平行な方向をX軸方向、水平方向と平行な方向をY軸方向とする。
図1は、X軸方向に工作機械1の構成を見た平面視構成の概略図である。
【0013】
第2の主軸機構200は、第2の主軸201を回転可能に支持する第2の主軸台202を基台上でZ軸方向に移動させるための駆動機構GZを備える。駆動機構GZは、駆動源としてのモータMZ、ボールねじ、ガイドレール等により構成されたボールねじ駆動機構
である。なお、第1の主軸機構100についても、第1の主軸101を回転可能に支持する第1の主軸台102を基台上でZ軸方向に移動させるための駆動機構を備えよい。すなわち、第1の主軸機構100と第2の主軸機構200とを主軸の回転軸線方向であるZ軸方向に相対移動可能にする機構としては特定の構成に限定されるものではない。また、第1の主軸台102、第2の主軸台202を、Z軸方向だけでなく、Y軸方向やX軸方向に移動させる駆動機構を備えてもよい。
【0014】
第1の主軸台102は、例えば、不図示のビルトインモータを備えており、その回転駆動力により、第1の主軸101を回転駆動することができるように構成されている。同様に、第2の主軸台202も、不図示の駆動源から提供される回転駆動力により、第2の主軸201を回転駆動することができるように構成されている。なお、動力源構成としては、ビルトインモータに限定されるものではなく、外部の動力源から回転駆動力を伝達して回転させるような構成であってもよい。
【0015】
第1の主軸101は、ワークW1を保持又は把持するためのワーク保持穴を備えた中空構造を有しており、ワークW1を把持状態(第1の主軸101におけるワークW1の軸心が定まり、かつ軸方向の移動が規制された状態)とするための不図示のチャックやチャックスリーブを備える。ワーク保持穴は、軸線方向に第2の主軸側に向かって開口しており、ワークW1のうち開口から露出した部分が、不図示の刃物台に支持された切削工具により旋削加工が施される部分となる。第1の主軸101の前にワークW1の支持構造であるガイドブッシュを配置してもよい。
【0016】
また、上述した不図示のチャックやチャックスリーブは、軸線方向の移動が規制されたチャックに対して、後方からチャックスリーブがテーパ面を介して軸線方向に接合する構成となっている。チャックスリーブは、不図示の油圧やエア等で駆動する流体シリンダから付与される力を受けて軸線方向に移動しようとすることで、チャックに対し、軸心に向かう方向の分力を含む力を作用させ、チャックに設けられたスリットが閉じるような締め付け力をチャックに発生させる。これにより、ワークW1を把持する状態が形成される。
【0017】
第2の主軸201側の構成は、第1の主軸101側の構成と同様、ワークW2を把持して回転させることが可能な構成となっている。基本的な構成は、従来既知の背面主軸構成と同様である。工作機械1が摩擦接合装置として利用される場合において、第2の主軸201が把持するワークW2は、第1の主軸101に把持され刃物台の切削工具により旋削加工が行われた後に残った残材としてのワークとなる。
【0018】
工作機械1は、例えばCPU(中央演算処理装置)等のプロセッサとメモリとを有するコンピュータで構成された制御部を備える。制御部は、各主軸機構100、200や刃物台、不図示のワーク供給部などの工作機械1を構成する各部の各種動作を制御する。
【0019】
図1(b)は、本実施形態に係る摩擦接合装置としての工作機械1によるワークW1とワークW2の摩擦接合時の様子を示す模式図である。なお、
図1(b)では、
図1(a)に示した制御部の図示を省略している。
【0020】
摩擦接合装置としての工作機械1は、二つのワークW1、W2の摺動部に生じる摩擦熱により摺動部を軟化させるとともに、圧力をかけながら摺動部の相対回転を停止することで摺動部を接合させ、二つのワークW1、W2を一体的に接合するものである。第1の主軸101に把持されるワークW1は、当該摩擦接合工程の後に実施される旋削加工における被加工物として用意された新しい棒材である。一方、第2の主軸201に把持されるワークW2は、上述したように、当該摩擦接合工程の前に実施された旋削加工における残材としての棒材である。
【0021】
先ず、
図1(a)に示すように、二つのワークW1、W2が回転軸線方向であるZ軸方向に互いに離れた状態で、第1の主軸101と第2の主軸201をそれぞれ回転させる。それぞれの回転数が所定の回転数で安定したら、駆動機構GZにより第2の主軸201をZ軸方向に第1の主軸101に近づけるように移動させる。
【0022】
そして、
図1(b)に示すように、第1の主軸101と第2の主軸201のZ軸方向の相対距離を、第1のワークW1と第2のワークW2の対向端面同士が所定の当接圧で互いに押し付けられるように維持し、第1のワークW1と第2のワークW2を摺動させる。第1のワークW1と第2のワークW2の摺動部には摩擦熱が生じ、摺動部が軟化した状態となる。摩擦によって摺動部が十分に軟化し、第1のワークW1と第2のワークW2の間に高温の軟化部分Jが形成された状態となったら、加圧を維持しつつ主軸間の相対回転を停
止する。回転停止により軟化部分Jの熱が引いて固まることで、第1のワークW1と第2
のワークW2とが一体的に結合した状態となる。これにより、残材と新材とが一体となった一本の棒材が形成される。
【0023】
ここで、第1の主軸機構100と第2の主軸機構200は、それぞれの主軸の回転を停止する際の能力、典型的には、主軸の回転停止制御を開始(減速を開始)してから回転が完全に停止するまでに要する時間、に差異がある場合がある。
【0024】
図2及び
図3に、正面主軸としての第1の主軸101を回転する第1の主軸機構100と、背面主軸としての第2の主軸201を回転する第2の主軸機構200との間の、回転停止時間(回転停止能力)の違いを示す。第1の主軸機構100と第2の主軸機構200との間において、例えば、それぞれの構成部品の種類やサイズや重量等に違いがあるような場合には、回転時にそれぞれの主軸に発生する慣性力に違いが生じる。特に、旋削加工を行う工作機械1を摩擦接合装置としても利用する場合には、正面主軸機構は背面主軸機構よりも大がかりな装置構成となるため、主軸回転時に発生する慣性力は、正面主軸機構の方が背面主軸機構よりも大きくなる傾向がある。
【0025】
ここで、主軸機構の回転停止能力とは、機構構成に含まれる慣性体の重量・電気的な停止力・機械的な停止力等に基づく総合的な指標であり、その具体的な大きさ、あるいは大きさの比較は、例えば、
図2に示すような実験結果から得ることが可能である。
【0026】
図2に示すように、二つの主軸をそれぞれ同じ回転数で回転させた場合、減速を開始して停止状態となるまでに要する時間は、正面主軸の方が背面主軸よりも長くなる。なお、正面主軸機構と背面主軸機構とで、制御可能な回転数(最大回転数)に違いがある場合があり、より高速での回転を制御可能とするための機構構成の違いにより、正面主軸機構の方が背面主軸機構よりも慣性力が大きくなる場合がある。
【0027】
本実施形態に係る摩擦接合装置としての工作機械1では、第1の主軸101と第2の主軸202のそれぞれの回転停止タイミングが互いに一致するように、回転停止制御の開始タイミング等を調整した摩擦接合工程の制御を行う。二つの主軸の回転停止タイミングを一致させる方法としては、例えば、第1の主軸機構100と第2の主軸機構200との間の回転停止能力の違いを考慮し、それぞれの回転数を所定の値に設定するとともに、回転停止制御の開始のタイミング、すなわち減速を開始するタイミングに時間差を設ける。より具体的な構成例については、実施例を用いて後述する。
【0028】
図3に示すように、同じ回転数で回転させた第1の主軸101と第2の主軸201とを同じ停止タイミングTSで停止させるためには、第1の主軸101の減速タイミングT1を、第2の主軸201の減速タイミングT2よりも早く設定する必要がある。正面主軸と
しての第1の主軸101を回転する第1の主軸機構100は、第1の主軸101の回転時に発生する慣性力が大きく、その慣性力の違いにより、減速開始から回転停止までに要する時間が、背面主軸としての第2の主軸201のそれよりも長くなる。したがって、減速タイミングT1と減速タイミングT2との時間差を、第1の主軸101と第2の主軸201の減速開始から回転停止までに要する時間の違いに基づいて設定する。
【0029】
本実施形態における摩擦接合工程制御の利点について説明する。
【0030】
二つのワークの摺動部の軟化の度合いは、二つのワークの間の相対回転数が低下するにつれて低下し、軟化の度合いが低下するほど摺動部での摺動抵抗力が増大する。そのため、停止制御開始(減速開始)から回転停止までの停止制御時間(期間)が長くなればなるほど、停止時における軟化度合いの低下の度合いが大きくなり、停止間際に主軸に生じるトルク負荷はより大きなものとなる。したがって、トルク負荷を低減するためには、できるだけ短時間で、軟化状態が維持されているうちに、すなわち、材料が冷えてトルク負荷が大きくなる前に、主軸の回転を停止するのが好ましい。
【0031】
また、二つの主軸の間で停止タイミングに差異があると、二つの主軸の回転機構それぞれに過大なトルク負荷がかかる可能性がある。工作機械1において使用頻度が相対的に高い正面主軸側の機構に対する機械的負荷が大きくなるのは、メンテナンスや装置寿命等の観点から好ましくない。したがって、二つの主軸の回転が停止するタイミングは同一であることが好ましい。
【0032】
図4は、本実施形態の摩擦接合構成における回転停止時間と、比較例として、片方の主軸のみを回転駆動して二つのワークを相対回転させることで摩擦接合する構成における回転停止時間と、を比較して示すグラフである。
図4(a)は比較例の回転停止時間を示し、
図4(b)は本実施形態の回転停止時間を示す。
【0033】
片方の主軸のみを回転駆動させる比較例の構成においては、摩擦接合に必要な回転数と、主軸の回転停止能力と、によって、回転停止時間が固定されてしまう。主軸機構の回転停止能力、典型的には、回転停止制御の開始から回転停止までに必要とする時間は、それぞれの機構構成における回転体の慣性力等に基づく、それぞれの機構構成固有のパラメータとなる。例えば、
図4(a)の比較例では、回転停止に0.6秒が必要となり、これ以上短い時間で主軸の回転を停止させることはできない。
【0034】
一方、本実施形態では、二つの主軸をそれぞれ互いに逆方向に回転させることで、二つのワーク間に所定の相対回転数の回転を生じさせる。このような構成において二つの主軸の回転停止制御を略同時に行うことで、二つの主軸の片方のみを回転駆動させる比較例の構成よりも、回転停止制御の開始から回転停止までの時間を短くすることができる。また、本実施形態では、一方の主軸の回転数と他方の主軸の回転数とで決まる相対回転数が、摩擦接合に必要となる所定の回転数を得られる範囲において、二つの主軸の回転数を任意に設定することができる。すなわち、慣性力が大きく回転停止能力が低い正面主軸については、停止制御に要する時間を短くするために、回転数をできるだけ低く設定する。一方、慣性力が小さく回転停止能力が高い背面主軸については、回転数を上げても停止制御に必要な時間を正面主軸よりも短くすることができるので、必要な相対回転数を満たすために、高い回転数に設定する。これにより、
図4(b)の本実施形態の構成例では、停止制御に要する時間を0.2秒に短縮することができる。
【0035】
図5は、本実施形態の摩擦接合構成において発生するトルク負荷と、比較例の摩擦接合構成(片方の主軸のみを回転駆動)において発生するトルク負荷と、を比較して示すグラフである。
図5(a)は比較例のトルク負荷を示し、
図5(b)は本実施形態のトルク負
荷を示す。なお、
図5(a)と
図5(b)のそれぞれにおいて、図左側のピーク値は、回転する二つのワークを当接させたタイミングで発生するトルク負荷である。また、
図5(a)と
図5(b)のそれぞれにおいて、図右側でトルク負荷がピーク後にゼロとなっているのは主軸の回転が停止した状態を示しており、その回転停止直前で発生するピークが回転停止時に発生するトルク負荷である。
【0036】
比較例の構成では、
図4(a)に示したように、回転停止に時間を要するため、停止状態に近づいたときの二つのワークの摺動部の温度低下が大きく、材料の軟化度合いの低下による摺動部での摺動抵抗力が増大しやすい。そのため、
図5(a)に示すように、二つのワークを当接させる際のトルク負荷よりも大きなトルク負荷が発生してしまうことがある。
【0037】
一方、本実施形態では、
図4(b)に示したように、回転停止に要する時間を比較例よりも短くすることができるため、停止状態に近づいたときでも、材料の軟化状態が維持され、摺動部での摺動抵抗力の増大が抑えられる。したがって、
図5(b)に示すように、回転停止直前で発生するピーク値を、
図5(a)に示す比較例のピーク値よりも大幅に低減することができる。
【0038】
本実施形態の摩擦接合方法のより具体的な構成例である実施例について説明する。
【0039】
<実施例1>
図6は、本発明の実施例1の摩擦接合工程のフロー図である。実施例1では、回転停止能力に応じて、二つの主軸の回転数をそれぞれ所定の回転数に設定し、二つの主軸の回転が同時に止まるように、減速開始タイミングを調整する。
【0040】
すなわち、第1の主軸を第1の回転数で回転させるとともに、第2の主軸を第2の回転数で回転させる(S101)。回転数の設定は、第1の主軸と第2の主軸とでそれぞれ異なる回転数に設定してよい(第1回転数≠第2回転数)。例えば、
図4(b)に示したように、摩擦接合に必要な相対回転数を確保できる範囲で、回転物の慣性が大きい正面主軸の回転数を小さく、回転物の慣性が小さい背面主軸の回転数を大きくしてよい。
【0041】
第1の主軸と第2の主軸のそれぞれの回転が安定したら、それぞれの主軸が把持するワークの先端面同士を圧接し、摩擦熱により二つのワークの摺動部を軟化させる(S102)。
【0042】
二つのワークの摺動部が十分に軟化したら、第1の主軸の減速を第1の減速タイミングで開始し(S103)、第2の主軸の減速を第2の減速タイミングで開始する(S104)。本実施例では、回転停止能力が低い(回転停止に時間がかかる)第1の主軸の減速を、第2の主軸の減速よりも早いタイミングで行う。各タイミングは、各主軸それぞれの回転停止能力に基づいて設定することで、二つの主軸の停止タイミングを一致させることができる(S105)。
【0043】
以上、本実施例の摩擦接合工程によれば、摩擦接合に必要な相対回転数を確保しつつ、両軸の回転停止を同時に完了することで、摩擦接合工程の全体の停止時間の短縮を図ることが可能となる。そして、回転停止時間が短くなることで材料がより軟化した状態で主軸の回転を停止させることができるので、回転停止時に発生するトルク負荷を抑制することができる。
【0044】
なお、第1主軸の回転数と第2主軸の回転数は、同じ回転数であってもよい。正面主軸と背面主軸のいずれも最大回転数が5000rpmの装置の場合においては、上限いっぱ
いの回転数で接合を実施してもよい。両軸の回転数を5000rpmに設定し、停止能力が高い方の主軸の減速を先に開始し、その後に低い方の主軸の減速を開始することで、二つのワークの接合面が最も熱を保持した状態で回転停止を完了することができる。
【0045】
<実施例2>
図7は、本発明の実施例2の摩擦接合工程のフロー図である。実施例2では、二つの主軸の回転停止制御について、減速開始のタイミングと、停止完了のタイミングとを、それぞれ一致させる。それらのタイミングを一致させるために、各主軸の回転数の設定を、それぞれの回転停止能力に応じて調整する。
【0046】
すなわち、第1の主軸を第3の回転数で回転させるとともに、第2の主軸を第4の回転数で回転させる(S201)。第3の回転数と第4の回転数は、第1の主軸の回転停止時間と、第2の主軸の回転停止時間とが、それぞれ同じ停止時間(第1停止時間)となるように設定される。第1の主軸と第2の主軸は回転停止能力が互いに異なるため、第3の回転数と第4の回転数は互いに異なる値となる。例えば、回転物の慣性が大きい正面主軸としての第1の主軸の回転数(第3の回転数)は、回転物の慣性が小さい背面主軸としての第2の主軸の回転数(第4の回転数)よりも小さい回転数であって、停止時間が同じになる回転数に設定される。
【0047】
第1の主軸と第2の主軸のそれぞれの回転が安定したら、それぞれの主軸が把持するワークの先端面同士を圧接し、摩擦熱により二つのワークの摺動部を軟化させる(S202)。
【0048】
二つのワークの摺動部が十分に軟化したら、第1の主軸の減速と第2の主軸の減速を同じタイミングで開始する(S203)。上述したように、各主軸の回転数はそれぞれの回転停止能力に応じて、回転停止にかかる時間が同じとなるように設定されている。したがって、二つの主軸は互いに一致したタイミングで停止する(S204)。
【0049】
実施例2の摩擦接合工程によれば、実施例1のように減速開始のタイミングにずれがないため、相対回転数の低下が始まってから相対回転数がゼロになるまでの時間を、実施例1の制御よりも短くすることができる。したがって、回転停止時に発生するトルク負荷をより効果的に抑制することができる。
【0050】
本発明の実施形態及び実施例によれば、回転数をそれぞれの主軸の回転物の慣性の大きさに合わせた値に設定し、互いに逆方向に回転させることで、回転停止に要する時間を短縮し、回転停止時に発生するトルク負荷を低減することができる。これにより、過大なトルク負荷の発生による治具やワークの損傷を抑制することができる。また、接合品における接合強度や、種類の異なるワーク同士を摩擦接合するような場合の特定位相接合の安定度を向上させることが可能となる。
【0051】
また、本実施形態及び実施例によれば、工作機械1における既存の機械構成を変えずに、摩擦接合時の主軸回転停止時間の短縮が可能である。すなわち、特別な装置構成を別途追加等する必要がなく、低コストで簡易に、摩擦接合装置として利用する際の機械負荷の低減や接合品質の安定化などの効果を得ることができる。
【0052】
<その他>
二つの主軸の停止タイミングを一致させる方法としては、上述の実施形態及び実施例で説明した方法に限定されるものではない。例えば、モータの駆動電力を制御することで、主軸の停止動作を制御してもよい。すなわち、回転停止能力に応じて、逆向きの力が生じるように電流・電圧を調整することで電気的に各主軸の回転停止動作を制御してもよい。
また、ブレーキ等の制動手段により主軸に対して外部から制動力を付与・制御することで、機械的に各主軸の回転停止動作を制御するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…工作機械、100…第1主軸機構、101…第1主軸、102…第1主軸台、200…第2主軸機構、201…第2主軸、202…第2主軸台、GZ…駆動機構、W1…第1ワーク、W2…第2ワーク