(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ガラス組成物、ガラス板とその製造方法、及び情報記録媒体用基板
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20240527BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20240527BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20240527BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C3/095
G11B5/73
G11B5/84 Z
(21)【出願番号】P 2021502224
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007233
(87)【国際公開番号】W WO2020175407
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019031304
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 浩一
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-302032(JP,A)
【文献】特開2012-256389(JP,A)
【文献】特開2016-115378(JP,A)
【文献】特開2000-268348(JP,A)
【文献】特開平11-302033(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225725(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G11B 5/73
G11B 5/84
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%により表示して、
SiO
2 50~70%、
Al
2O
3 10~20%、
MgO 2~5%、
CaO 3~15%、
Li
2O 3~15%、
Na
2O 3~15%、
K
2O 0~5%、を成分として含有し、
成分Xのモル%による含有率を[X]の形式で示したときに、
[Al
2O
3]-[R
2O]が-0.5%未満
、
[Al
2
O
3
]/([Al
2
O
3
]+[SiO
2
])が0.160以上0.215未満である、ガラス組成物。
ただし、[R
2O]は、[Li
2O]、[Na
2O]及び[K
2O]の合計である。
【請求項2】
[SiO
2]が52~68%、
[R’O]が5~15%、
[R
2O]が10~20%、である、
請求項1に記載のガラス組成物。
ただし、[R’O]は[MgO]及び[CaO]の合計である。
【請求項3】
モル%により表示して、
SiO
2 53~67%、
Al
2O
3 10~19%、
MgO 2~4%、
CaO 4~12%、
Li
2O 5~12%、
Na
2O 5~12%、
K
2O 0~3%、を含有する、
請求項1又は2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
モル%により表示して、
SiO
2 55~65%、
Al
2O
3 11~18%、
MgO 2~3.5%、
CaO 5~11%、
Li
2O 7~10%、
Na
2O 7~10%、
K
2O 0~2%、を含有する、
請求項3に記載のガラス組成物。
【請求項5】
モル%により表示して、
SiO
2 55~64%(ただし64%を含まず)、
Al
2O
3 11~16%、
MgO 2~3.5%、
CaO 5~11%(ただし5%を含まず)、
Li
2O 7.7~10%(ただし7.7%及び10%を含まず)、
Na
2O 7~9%(ただし9%を含まず)、
K
2O 0~2%、を含有し、
[R’O]が8~13%、[R
2O]が15~18%である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス組成物。
ただし、[R’O]は[MgO]及び[CaO]の合計である。
【請求項6】
([R
2O]+[R’O])/([R
2O]+[R’O]+[Al
2O
3])が0.610~0.700、
[R
2O]/([R
2O]+[R’O])が0.550~0.630、である、
請求項5に記載のガラス組成物。
【請求項7】
[CaO]/([CaO]+[MgO])が0.650~0.850、
[Na
2O]/([Na
2O]+[Li
2O])が0.360~0.600、である、
請求項5又は6に記載のガラス組成物。
【請求項8】
[SiO
2]が55~62%である、
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項9】
[MgO]が3%未満である、
請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項10】
モル%により表示して、
TiO
2 0~0.2%、
ZrO
2 0~0.2%、をさらに含有し、
[TiO
2]+[ZrO
2]が0.2%以下、である、
請求項1~9のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項11】
モル%により表示して、
SnO
2 0~0.07%、
CeO
2 0~0.07%、をさらに含有し、
[SnO
2]+[CeO
2]が0.07%以下、であり、
P
2O
5、B
2O
3、SrO、BaO、Nb
2O
5、ランタノイド酸化物、Y
2O
3、Ta
2O
5、Fを実質的に含まない、
請求項1~10のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項12】
ヤング率が85GPa以上、
密度が2.565g/cm
3以下、
比弾性率が34×10
6Nm/kg以上、である、
請求項1~11のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項13】
成形温度T4から失透温度TLを差し引いた差分ΔTが0より大きい、
請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のガラス組成物により構成されたガラス板。
【請求項15】
フロートガラスである、請求項14に記載のガラス板。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のガラス板を含む情報記録媒体用基板。
【請求項17】
ガラス原料を溶融する工程と、
溶融したガラス原料をフロート法によりガラス板に成形する工程と、を具備し、
前記ガラス板が請求項1~13のいずれか1項に記載のガラス組成物により構成されるように前記ガラス原料を調製する、ガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、特に情報記録媒体の基板に適したガラス組成物に関する。また、本発明は、そのガラス組成物により構成されたガラス板とその製造方法、さらにはそのガラス板を含む情報記録媒体用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク等の情報記録装置には、記録容量の増大とアクセス時間の短縮が要求され続けている。その達成手段の一つは、情報記録媒体の回転の高速化である。
【0003】
しかし、情報記録媒体の基板は回転により撓むため、回転数が高くなると情報記録媒体の共振が大きくなり、ついには情報記録媒体と磁気ヘッドが衝突し、読み取りエラーや磁気ヘッドクラッシュが発生することが懸念される。したがって、現状の基板では、フライングハイトと呼ばれる磁気ヘッドと情報記録媒体との距離をある程度以下にできず、これが記録容量の増加の足枷となっている。
【0004】
基板の撓み及び共振を小さくするためには、基板の弾性率が高いことが望ましい。ガラスは、その組成にもよるが、基本的に、アルミニウム基板を構成するアルミニウム合金よりもヤング率が高いことが知られている。情報記録媒体の基板を用途として開発されたガラスは、例えば特許文献1~2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-81542号公報
【文献】国際公開第98/55993号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に開示されているガラスは、密度が高く、そのために情報記録装置のモータの負荷軽減や、落下時の破損防止の観点からは改善の余地があった。特許文献1及び2では、回転時の撓み防止の観点から、ヤング率を密度で除したガラスの比弾性率を高くすることが検討されている。密度が高くてもその高さを補う程度にヤング率も高ければ、ガラスの比弾性率の値は高く維持される。このため、特許文献1及び2に開示されているガラスの密度は2.67g/cm3程度以上であって十分に低くはない。
【0007】
また、フロート法に代表される量産に適した方法で製造するためには、ガラスの成形温度や失透温度が適切な範囲にあることが望ましい。
【0008】
以上に鑑み、本発明は、基板として使用したときにその回転に伴う撓みを抑制できる程度に比弾性率が高く、密度が低く、かつ量産に適したガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、アルミノケイ酸塩系ガラスにおける成分の含有率と物性とに関する精力的な研究の結果、ガラスの各成分の含有率を調整することにより、上記目的を達成することに成功した。
【0010】
本発明は、
モル%により表示して、
SiO2 50~70%、
Al2O3 10~20%、
MgO 2~5%、
CaO 3~15%、
Li2O 3~15%、
Na2O 3~15%、
K2O 0~5%、を成分として含有し、
成分Xのモル%による含有率を[X]の形式で示したときに、
[Al2O3]-[R2O]が-0.5%未満である、
ガラス組成物、を提供する。
ただし、[R2O]は、[Li2O]、[Na2O]及び[K2O]の合計である。
【0011】
また、本発明は、本発明によるガラス組成物により構成されたガラス板を提供する。
【0012】
また、本発明は、本発明によるガラス板を含む情報記録媒体用基板を提供する。
【0013】
また、本発明は、
ガラス原料を溶融する工程と、
溶融したガラス原料をフロート法によりガラス板に成形する工程と、を具備し、
前記ガラス板が本発明によるガラス組成物により構成されるように前記ガラス原料を調製する、ガラス板の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比弾性率が高く、密度が低く、量産に適したガラス組成物を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、ガラス組成物の成分の含有率を示す%は、特に断らない限り「モル%」である。各成分の含有率、その合計、所定の計算式による比、ガラスの特性値等についての好ましい範囲は、以下で個別に述べる好ましい上限及び下限を任意に組み合わせて得ることができる。以下では、表記を簡略化するために、成分のモル%表示の含有率を[X]の形式で示すことがある。Xはガラス組成物を構成する成分である。したがって、例えば[Al2O3]+[SiO2]は、Al2O3のモル%表示の含有率とSiO2のモル%表示の含有率との合計を意味する。[R2O]は、[Li2O]、[Na2O]及び[K2O]の合計を意味し([R2O]=[Li2O]+[Na2O]+[K2O])、[R’O]は、[MgO]及び[CaO]の合計を意味する([R’O]=[MgO]+[CaO])。
【0016】
以下において、「実質的に含まれていない」とは、含有率が0.1モル%未満、好ましくは0.07モル%未満、さらに好ましくは0.05モル%未満、に制限されていることを意味する。工業的に製造されるガラス組成物には、工業原料等に由来する微量の不純物が含まれていることが多い。「実質的に」は、上記の含有率を限度として不可避的不純物を許容する趣旨である。また、以下の本発明の実施形態についての説明は、本発明を特定の形態に制限する趣旨ではない。
【0017】
SiO2は、ガラスの網目構造を構成する成分である。SiO2のみにより構成されるシリカガラスのヤング率は約70GPaであり、一般的なソーダライムガラス(SiO2含有率70%強)のヤング率は72GPaである。ヤング率の向上には通常低いSiO2含有率が望ましい。SiO2の含有率は、70%以下、68%以下、67%以下、65%以下、64%未満、特に63%未満が好ましく、場合によっては62%以下、さらには61%以下であってもよい。ヤング率を大きく向上させるべき場合は、SiO2の含有率を、60%以下、さらには58%以下としてもよい。SiO2の含有率が低過ぎると、ガラス網目構造の安定性が低下し、失透温度が高くなるなど不都合が生じる。SiO2の含有率は、50%以上、52%以上、53%以上、54%以上、特に55%以上が好ましく、場合によっては56%以上であってもよい。密度の低下には通常相対的に高いSiO2含有率が望ましい。密度を特に小さく抑えたい場合は、SiO2の含有率を58%以上としてもよい。
【0018】
Al2O3は、ガラスのヤング率を向上させ、適量の使用により失透を抑制する成分である。Al2O3の含有率が高過ぎると、ガラスの粘度と失透温度が上昇し、溶融性が低下する。Al2O3の含有率は、20%以下、19%以下、18%以下、特に16%以下が好ましく、場合によっては15.5%以下、さらには15%以下であってもよい。Al2O3の含有率は、10%以上、11%以上、12%以上、特に13%以上が好ましく、場合によっては14%以上であってもよい。
【0019】
[Al2O3]/([Al2O3]+[SiO2])は、ヤング率を上昇させるために、0.140以上、0.150以上、特に0.160以上、場合によっては0.165以上とすることが好ましい。この比は、良好な失透温度を得るために、0.220以下、0.215未満、特に0.210以下、場合によっては0.205未満とすることがより好ましい。
【0020】
MgOは、ガラスのヤング率を向上させ、密度を低下させ、溶融性を向上させる成分である。しかし、MgOの含有率が高過ぎるとガラスの失透温度が上昇する。MgOの含有率は、2%以上、2.2%以上、特に2.3%以上が好ましく、場合によっては2.4%以上であってもよい。MgOの含有率は、5%以下、4%以下、特に3.5%以下が好ましく、場合によっては3.3%以下、さらには3%未満であってもよい。
【0021】
CaOは、ガラスの高温での粘度を下げ、溶融性を向上させる成分である。しかし、CaOの含有率が高過ぎるとガラスが失透しやすくなる。CaOの含有率は、3%以上、4%以上、5%以上、特に6%以上が好ましく、場合によっては7%以上、さらには8%以上であってもよい。CaOの含有率は、15%以下、12%以下、11%以下、さらには11%未満、特に10%以下が好ましく、場合によっては9%以下であってもよい。
【0022】
[R’O]は、ガラスの溶融性を向上させるために、5%以上、7%以上、8%以上、特に9%以上、場合によっては10%以上とすることが好ましい。[R’O]は、失透性を低下させるために、15%以下、14%以下、特に13%以下、場合によっては12.5%未満、さらには12%以下とすることが好ましい。
【0023】
[CaO]/[R’O]は、良好な失透性を得るために、0.650以上、0.700以上、特に0.725以上とすることが好ましく、同様の理由から、0.850以下、0.800以下、特に0.775以下とすることが好ましい。
【0024】
Li2Oは、ガラスの溶融性を高め、ガラス網目修飾成分の中ではヤング率を維持することに適した成分である。しかし、Li2Oの含有率が高過ぎると、ガラスのヤング率が低下し、粘度が低くなり過ぎて失透性が悪化する。Li2Oの含有率は、3%以上、5%以上、7%以上、7.5%以上、特に7.7%を超えることが好ましく、場合によっては8%以上、さらには8.2%以上であってもよい。Li2Oの含有率は、15%以下、12%以下、11%以下、10%以下、特に10%未満が好ましく、場合によっては9.4%未満、さらには9%以下、さらには8.8%以下であってもよい。
【0025】
Na2Oは、ガラスの溶融性を高め、失透性を抑制する成分である。しかし、Na2Oの含有率が高過ぎると、ヤング率が低下し、粘度が低くなり過ぎる。Na2Oの含有率は、3%以上、5%以上、7%以上、特に7.2%以上が好ましく、場合によっては7.5%以上であってもよい。Na2Oの含有率は、15%以下、12%以下、11%以下、10%以下、特に9%未満が好ましく、場合によっては8.4%以下、さらには8%以下であってもよい。
【0026】
K2Oは、少量の添加によって、ガラスの溶融性を高め、失透性を抑制する任意成分である。しかし、K2Oの含有率が高過ぎると、ヤング率が低下し、粘度が低くなり過ぎる。K2Oの含有率は、0.05%以上、特に0.1%以上、場合によっては0.15%以上であってもよい。K2Oの含有率は、5%以下、3%以下、特に2%以下が好ましく、場合によっては1%以下、さらには0.5%以下であってもよい。
【0027】
[R2O]は、ガラスの溶融性及び失透性を良好に保ち、粘度が低くなり過ぎて成形性が低下しないように、10~20%に調整することが望ましい。[R2O]は、12%以上、13%以上、特に15%以上、場合によっては15.5%以上、さらには16%以上がより好ましく、20%以下、19%以下、特に18%以下、場合によっては17.4%以下、さらには17%以下とするとよい。
【0028】
[Na2O]/([Na2O]+[Li2O])は、失透性を良好に保つために、0.360以上、0.400以上、特に0.420以上とすることが好ましく、同様の理由から、0.600以下、0.560以下、特に0.540以下、場合によっては0.520以下とすることが好ましい。
【0029】
[R2O]/([R2O]+[R’O])は、良好な失透性を得るために、0.550以上、0.560以上、特に0.570以上とすることが好ましく、同様の理由から、0.635以下、0.630以下、特に0.620以下、場合によっては0.610以下とすることが好ましい。
【0030】
なお、良好な失透性を得るためには、Li2O、Na2O、K2O、MgO及びCaOの質量基準の含有率に対する、Na2Oの質量基準の含有率の比を、0.500未満とすることが好ましい。同様の理由から、[Na2O]/([R2O]+[R’O])は、0.380未満が好ましい。
【0031】
([R2O]+[R’O])/([R2O]+[R’O]+[Al2O3])は、粘度の絶対値及び失透温度に対して成形温度が低くなり過ぎないように、0.610以上、0.620以上、特に0.630以上、場合によっては0.635以上が好ましい。また、この比は、失透温度が高くなりすぎないように、0.700以下、0.695未満、特に0.690以下、場合によっては0.685未満が好ましい。
【0032】
[Al2O3]-[R2O]が大きくなると、粘度が高くなって失透温度が高くなり過ぎる。[Al2O3]-[R2O]は、-0.5%未満、-0.7%以下、特に-1%以下が好ましく、場合によっては-1.3%以下、-1.4%以下、さらには-1.5%以下であってもよい。
【0033】
TiO2は、ガラスのヤング率を高める任意成分である。しかし、TiO2は密度を大きくし、失透性にも影響を与えるため、TiO2の含有率は0.2%以下が好ましい。ZrO2も同様の任意成分であり、その含有率は0.2%以下が好ましい。これらの含有率の合計に相当する[TiO2]+[ZrO2]も0.2%以下とすることが好ましい。TiO2及びZrO2はそれぞれ実質的に含まれていないことがより好ましい。一方、TiO2及び/又はZrO2の含有は失透温度TLを低減させる効果を有するため、[TiO2]+[ZrO2]を0.005%以上としてもよい。
【0034】
SnO2及びCeO2は、Sn又はCeの価数変化により清澄作用を持ちうる任意成分である。しかし、これらの含有率が高過ぎると、ガラスの密度が大きくなり、場合によっては失透性が悪化する。SnO2及びCeO2の含有率はそれぞれ0.2%以下、さらに0.07%以下であることが好ましく、SnO2及びCeO2はそれぞれ実質的に含まれていないことがより好ましい。SnO2及びCeO2は、その含有率を合計しても実質的に含有しないとみなすことができる程度、例えば含有率の合計([SnO2]+[CeO2])が0.07%以下、さらに0.07%未満に制限されていることがさらに好ましい。
【0035】
SrO及びBaOも任意成分であるが、ガラスの密度を増加させる。SrO及びBaOの含有率はそれぞれ0.2%以下であることが好ましく、これらの含有率の合計に相当する[SrO]+[BaO]が0.2%以下であることがより好ましく、SrO及びBaOがそれぞれ実質的に含まれていないことがさらに好ましい。
【0036】
Nb2O5、ランタノイド酸化物、Y2O3及びTa2O5は、ガラスのヤング率の向上に効果がある任意成分である。しかし、これらの任意成分は、ガラスの密度を大きくし、失透性を悪化させることがある。Nb2O5、ランタノイド酸化物、Y2O3及びTa2O5はそれぞれ実質的に含まれていないことが好ましい。なお、ランタノイド酸化物は、元素番号57から71までの元素の酸化物である。
【0037】
P2O5、B2O3及びFは、原料の溶融を促進する任意成分である。しかし、これらの成分は、溶融炉の耐火物の侵食を助長し、揮発した後に炉壁にて凝縮し、異物としてガラス融液に混入することがある。P2O5、B2O3及びFはそれぞれ実質的に含まれていないことが好ましい。
【0038】
清澄のために原料の一部を硫酸塩として添加するとよいことが知られている。この場合は硫酸塩から発生するSO3がガラスに残存することが多い。SO3の含有率は、0.5%以下、0.3%以下、さらには0.2%以下が好ましい。SO3は、任意成分であり、実質的に含まれていなくてもよい。
【0039】
清澄作用を奏しうるその他の任意成分としては、As2O5、Sb2O5及びClも例示できる。しかし、これらの成分は環境に対する影響が大きい(この点では上述したFも同様)。As2O5、Sb2O5及びClは実質的に含まれていないことが好ましい。
【0040】
ガラスの工業原料から不可避的に混入する代表的な不純物は酸化鉄である。酸化鉄は、2価の酸化物(FeO)又は3価の酸化物(Fe2O3)としてガラス組成物中に存在する。酸化鉄の含有率は、3価の酸化物に換算した含有率[T-Fe2O3]により表示して、0.5%以下、0.3%以下、特に0.2%以下が好ましい。ガラスの着色を排除するべき場合、Fe2O3に換算した酸化鉄(T-Fe2O3)は実質的に含まれていないことが好ましい。
【0041】
本発明によるガラス組成物は、上記以外の任意成分も含み得るが、上記以外の任意成分は実質的に含まれていないことが好ましい。
【0042】
本発明によるガラス組成物の好ましい一形態は、以下の組成を有する。
[SiO2]:55~64%(ただし64%を含まず)
[Al2O3]:11~16%
[MgO] :2~3.5%
[CaO]: 5~11%(ただし5%を含まず)、
[Li2O]:7.7~10%(ただし7.7%及び10%を含まず)
[Na2O]:7~9%(ただし9%を含まず)
[K2O]:0~2%
[R’O]:8~13%
[R2O]:15~18%
[Al2O3]-[R2O]:-0.5%未満
【0043】
この形態においては以下が成立することが好ましい。
[Al2O3]/([Al2O3]+[SiO2]):0.140~0.220
([R2O]+[R’O])/([R2O]+[R’O]+[Al2O3]):0.610~0.700、
[R2O]/([R2O]+[R’O]):0.550~0.630
【0044】
この形態においてはさらに以下が成立することがより好ましい。
[CaO]/([CaO]+[MgO]):0.650~0.850
[Na2O]/([Na2O]+[Li2O]):0.360~0.600
【0045】
好ましい実施形態において本発明によるガラス組成物が有し得る特性、具体的には弾性率、密度及び温度特性、は以下のとおりである。
【0046】
ヤング率は、85GPa以上、86GPa以上、さらには86.5GPa以上が好ましい。密度は、2.565g/cm3以下、2.550g/cm3以下、さらには2.546g/cm3以下が好ましい。比弾性率は、34×106Nm/kg以上、さらには34.5×106Nm/kg以上が好ましい。なお、比弾性率はヤング率を密度で除して算出される値であり、上記程度に高い比弾性率は回転する基板の撓み防止に有利である。好ましい一形態において、本発明によるガラスは、上記程度に高い比弾性率と上記程度に低い密度とを兼ね備えることができる。
【0047】
本発明によるガラス組成物の好ましい一形態は、以下の特性を具備する。
ヤング率:85GPa以上
密度:2.565g/cm3以下
比弾性率:34×106Nm/kg以上
【0048】
失透温度TLは、1110℃以下、1105℃以下、さらには1100℃以下が好ましい。成形温度T4は、1020℃以上、さらには1040℃以上が好ましい。また、成形温度T4から失透温度TLを差し引いた差分ΔT(ΔT=T4-TL)は、0よりも大きいことが好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、15℃以上がより好ましく、18℃以上が特に好ましい。ここで、成形温度T4は、白金球引き上げ法により測定した粘度が104dPa・sとなる温度である。失透温度TLは、試料ガラスを粉砕し、温度傾斜電気炉中で2時間保持し、炉から取り出したガラス内部に失透が観察された最高温度である。好ましい一形態において、本発明によるガラスは、上記程度に低い失透温度と正のΔTを有し得る。
【0049】
なお、好ましい歪点は530℃未満である。この特性温度を有するガラスは、580℃未満、さらには570℃未満のガラス転移点を有する。この特性は、量産工程におけるガラスの成形と成形後の徐冷とをさらに容易とする。
【0050】
好ましい線熱膨張係数は80~88×10-7/℃である。ここで、線熱膨張係数は、50~350℃の平均線熱膨張係数を意味する。この値は、建築物や車両の窓等に用いられる一般的なソーダライムガラスよりも低い。より低い線熱膨張係数は、残留歪みを低減できる点で有利であり、例えばフロート法で製造する場合にはガラス板の反りの抑制や切断安定性の向上をもたらしうる。
【0051】
本発明によるガラス組成物は、上記温度特性から容易に理解できるとおり、フロート法による量産に適し、この場合はフロートガラスと呼ばれるガラス板、として製造されることになる。フロート法は、周知のとおり、溶融炉においてガラス原料を溶融する工程と、フロート槽へと導入した溶融されたガラス原料をフロート槽内の溶融錫上においてガラス板に成形する工程と、を具備している。本発明の一形態では、得られるガラス板を構成するガラス組成物が上述した所望の組成となるようにガラス原料を調製することにより、フロートガラスが製造される。フロートガラスは、フロート槽において一方の主面が溶融錫に接して成形され、その主面へと錫が拡散する。このため、フロートガラスは、ボトム面と呼ばれる一方の主面に錫が拡散した表面層を有し、この表面層はトップ面と呼ばれる他方の主面には存在しない。別の観点から述べると、フロートガラスでは、一方の主面における錫の濃度が他方の主面における錫の濃度よりも高くなっている。
【0052】
ガラス板は化学強化ガラスとしてもよい。化学強化処理は、周知のとおり、ガラスに含まれるアルカリイオンをそれよりもイオン半径が大きいアルカリイオン、例えばリチウムイオンをナトリウムイオンにより、或いはナトリウムイオンをカリウムイオンにより置換することにより、ガラスの表面に圧縮応力を導入する処理である。ガラス板の化学強化処理は、通常アルカリイオンを含む溶融塩にガラス板を接触させることにより実施される。溶融塩としては、硝酸カリウム、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとの混塩を例示できる。硝酸カリウム単独の溶融塩を用いる場合、硝酸カリウムの熱分解及びガラスの耐熱性を考慮し、溶融塩の温度は460℃~500℃程度が適切である。ガラスと溶融塩とを接触させる時間は、例えば4時間~12時間が適切である。
【0053】
化学強化処理したガラス板は、特に情報記録媒体用基板として適している。もっとも、本発明によるガラス板は、その他の用途、例えばディスプレイ又は太陽電池のカバーガラスとしても使用できる。
【実施例】
【0054】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例も本発明を限定するものではない。
【0055】
表1に示した組成となるように、通常のガラス原料であるシリカ、アルミナ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム等を用いてバッチを調合した。調合したバッチを白金坩堝に投入して1580℃で4時間保持し、鉄板上に流し出した。このガラスを電気炉中650℃で30分保持した後、炉の電源を切り、室温まで放冷して試料ガラスとした。得られた各試料ガラスの特性を以下のように測定した。結果を表1に示す。
【0056】
〔密度、ヤング率〕
試料ガラスを切断し、各面を鏡面研磨して25×25×5mmの板状サンプルを作製し、アルキメデス法により各サンプルの密度を測定した。また、ヤング率はJIS R1602-1995の超音波パルス法に準じて測定した。具体的には、前述の密度測定に用いたサンプルを用い、超音波パルスが伝播する音速を縦波と横波について測定し、前述の密度とともに当該JIS記載の数式に代入してヤング率Eを算出した。なお、伝播速度は、オリンパス株式会社製の超音波厚さ計MODEL 25DL PLUSを用い、周波数20kHzの超音波パルスがサンプルの厚み方向に伝播し反射して戻ってくるまでの時間を、伝播距離(サンプルの厚さの2倍)で除して算出した。
【0057】
〔ガラス転移点、線熱膨張係数〕
試料ガラスから径5mm、長さ18mmの円柱状試料を作製し、TMA装置により5℃/分で加熱した際の熱膨張曲線を測定した。この曲線に基づいて、ガラス転移点、50~350℃の平均線熱膨張係数を得た。
【0058】
〔失透温度TLの測定〕
試料ガラスを粉砕し、目開き2.83mmの篩を通り、目開き1.00mmの篩に残る粒子をふるい分けた。この粒子を洗浄して粒子に付着した微粉を除去し、乾燥して失透温度測定用サンプルを調製した。失透温度測定用サンプルの25gを白金ボート(長方形でフタのない白金製の器)に厚みが略均一になるようにいれ、温度傾斜炉中で2時間保持した後に炉から取り出し、ガラス内部に失透が観察された最高温度を失透温度とした。
【0059】
〔成形温度T4の測定〕
白金球引き上げ法により粘度を測定し、その粘度が104dPa・sとなる温度を成形温度T4とした。
【0060】
試料1~13は、いずれも、ヤング率85GPa以上、密度2.565g/cm3以下、比弾性率34×106Nm/kg以上となった。試料1~12では失透温度が1110℃以下であったが、試料13では失透温度が1110℃を上回った。
【0061】