IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシーの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】シクロペンテノンの合成
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/54 20060101AFI20240527BHJP
   C07C 49/633 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C07C45/54
C07C49/633
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021512422
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019050544
(87)【国際公開番号】W WO2020068419
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】62/737,969
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】パディラアセヴェド、アンジェラ アイ.
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-287150(JP,A)
【文献】特開昭54-092947(JP,A)
【文献】CONIA, J. M. et al.,“Sur un mode de preparation simple des cyclopentenones par action de l'acide polyphosphorique sur les esters d'acides αβ-ethyleniques”,Tetrahedron Letters,1968年,Vol. 9、No. 17,pp. 2101-2104,DOI: 10.1016/S0040-4039(00)89752-X
【文献】CONIA, J. M. et al.,“No. 515. - Sur la preparation de cyclopentenones par action de l'acide polyphosphorique sur les esters d'acides alpha-ethyleniques. 1re Partie: Aspects pratiques”,BULLETIN DE LA SOCIETE CHIMIQUE DE FRANCE,1970年,No. 8-9,pp. 2981-2991,ISSN: 0037-8968
【文献】EATON, P. E. et al.,“Phosphorus pentoxide-methanesulfonic acid. Convenient alternative to polyphosphoric acid”,The Journal of Organic Chemistry,1973年,Vol. 38, No. 23,pp. 4071-4073,DOI: 10.1021/jo00987a028
【文献】ZEWGE, D. et al.,“A Mild and Efficient Synthesis of 4-Quinolones and Quinolone Heterocycles”,The Journal of Organic Chemistry,2007年,Vol. 72, No. 11,pp. 4276-4279,DOI: 10.1021/jo070181o
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/00
C07C 49/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換シクロペンテノン化合物を合成する方法であって、
(A)式(1)の化合物(「化合物(1)」):
【化1】

(式中、下付き文字nは、1、2、3または4であり、基R、R、R、およびRのそれぞれが独立して、Hもしくは(C~C)アルキルであるか、または任意の2つの隣接したR~R基が、一緒に結合して(C~C)アルキレンを形成し、R~Rのうちの残りの基が、Hもしくは(C~C)アルキルである)を、
有効量の五酸化リン/メタンスルホン酸試薬(P/HCSOH試薬)と、
式(2)の化合物(「化合物(2)」):
【化2】

(式中、下付き文字nおよび基R~Rは先に定義されたとおりである)を作製するのに十分な反応条件下で接触させることを含み、但し、前記接触工程(A)は添加されたポリリン酸(PPA)を含まない、方法。
【請求項2】
前記P/HCSOH試薬を作製するために使用されるP対HCSOHの比は、0.05/1~1/1(重量/重量)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記P/HCSOH試薬を作製するために使用されるP対HCSOHの比は、0.1/1(重量/重量)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
制限(i)~(xiii)、および(xxi):
(i) ~R のうちの少なくとも1つが(C~C)アルキルであるか、または がHであること、
(ii) ~R のそれぞれがHであること、
(iii) ~R のそれぞれがHであり、 がメチルであること、
(iv) および のそれぞれがHであり、 および のそれぞれがメチルであること、
(v) および/または がメチルであり、 がHであること、
(vi) がメチルであり、 が1-メチルエチルであり、 がHであること、
(vii) が1-メチルエチルであり、 がメチルであり、 がHであること、
(viii) および が独立して、(C~C)アルキルであり、 がHであり、 に結合した炭素原子の立体化学が(R)であり、 に結合した炭素原子の立体化学が(S)であること、
(ix) および が独立して、(C~C)アルキルであり、 がHであり、 に結合した炭素原子の立体化学が(S)であり、 に結合した炭素原子の立体化学が(R)であること、
(x)(vi)および(viii)の両方、
(xi)(vi)および(ix)の両方、
(xii)(vii)および(viii)の両方、
(xiii)(vii)および(ix)の両方
ならびに
(xxi)任意の2つの隣接した 基が、一緒に結合して(C~C)アルキレンを形成し、 のうちの残りの基が、Hまたは(C~C)アルキルであること、
のうちのいずれか1つを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物(2)は、化合物(2a)~(2e):
構造(2a)を有する、化合物(2a)2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オン、
【化3】
構造(2b)を有する、化合物(2b)ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オン、
【化4】
構造(2c)を有する、化合物(2c)4-メチル-ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オン、
【化5】
化合物(2d)10-メチル-ビシクロ[5.3.0]-1(7)-デセン-8-オン、および
化合物(2e)2,4,6,11-テトラメチル-ビシクロ[6.3.0]-1(8)-ウンデセン-9-オン、のいずれか1つからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
合成シクロペンテノン。
【0002】
導入
Uemichi,Yoshio;Kanoh,Hisao.Kenkyu Hokoku-Asahi Garasu Kogyo Gijutsu Shoreikai,Volume 49,Pages 225-30,1986.CODEN:AGKGAA.ISSN:0365-2599によれば、白金は、特にポリエチレン分解の強力な原料であると報告されている。Uemichi,Yoshio;Makino,Yutaka;Kanazuka,Takaji,Degradation of polyethylene to aromatic hydrocarbons over metal-supported activated carbon catalysts,Journal of Analytical and Applied Pyrolysis(1989),14(4),331-44。
【0003】
以下も参照されたい。Tabatabaenian,K.;Mamaghani,M.;Neshat,A.;Masjedi,M.Synthesis and Spectroscopic Studies of New Substituted Dinuclear η-4,5,6,7-Tetrahydroindenyl Ruthenium Complexes.Russian Journal of Coordination Chemistry.2003,29,7,501。Austin,R.N.;Clark,T.J.;Dickson,T.E.;Killian,C.M.;Nile,T.A.;Shabacker,D.J.;McPhail,T.A.Synthesis and Properties of Novel Substituted 4,5,6,7-tetrahydroindenes and Selected Metal Complexes.Journal of Organometallic Chemistry.1995,491,11。Conia,J.M.;Leriverend,M.L.Tetrahedron Letters.1968,17.2101(Conia et al.)。L.Rand and R.J.Dolinski,J.Org.Chem.,1966,31,3063およびL.Rand and R.J.Dolinski,J.Org.Chem.,1966,31,4061(総称して「RandおよびDolinski」)。Yokota,K.;Kohsaka,T.;Ito,K.;Ishihara,N.Consideration of Mechanism of Styrene/Ethylene Copolymerization with Half-Titanocene Catalysts.Journal of Polymer Science.2005,43,5041。JP10316694A Tetsuya,I.,et.al.Brancaccio G.;Lettieri,G.;Monforte,P.;Larizza,A.Farmaco,Edizione Scientifica.1983,9,702-8。Eaton,P.E.;Carlson,G.R.;Lee,J.T.Phosphorus Pentoxide-Methanesulfonic Acid.A Convenient Alternative to Polyphosphoric Acid.J.Org.Chem.1978,38,4071。Paquette,L.A.;Stevens,K.E.,Can.J.Chem.1984,62,2415。Paquette,L.A.;Cheney,D.L.,J.Org.Chem.1989,54,3334.J.Org.Chem.1966,3065。
【0004】
Coniaらは、ポリリン酸(PPA)存在下で、シクロヘキセンおよびクロトン酸を反応させることにより、排他的に唯一の生成物として2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オンが得られたと報告した(Coniaらの構造1)。Coniaらは、PPAの存在下で、クロトン酸シクロペンチルまたはクロトン酸シクロヘキシルを反応させことにより、3-メチル-ビシクロ[3.3.0]-2-オクテン-1-オン(40%収率、Coniaらの表1)または2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オン(60%収率、Coniaらの表2)がそれぞれ得られたと報告した。
【0005】
ポリリン酸(PPA)または五酸化リン(PまたはP10)およびPPAの混合物を使用して、アクリル酸またはクロトン酸などのα、β-不飽和カルボン酸で、シクロヘプテン、シクロヘキセン、またはシクロペンテンの反応を触媒させるというRandおよびDolinskiの報告によると、クロトン酸シクロヘプチル、クロトン酸シクロヘキシル、もしくはクロトン酸シクロペンチルなどのエステル副生成物を含むまたは含まない反応混合物が得られる。相対的にエステル副生成物がどれだけ作製されるかは、PPAとの混合物に使用される五酸化リンの量、またはシクロアルケンの量に対するPPAもしくはP/PPA混合物の量に依存すると言われている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、五酸化リン/メタンスルホン酸試薬(例えば、Eaton試薬)の存在下で、α、β-不飽和カルボン酸、シクロアルキルエステル化合物を環化して、置換シクロペンテノン化合物を作製する方法を含む。この合成は、より低い温度で実行することができ、さらにConiaらの従来のPPAベースの合成よりも高収率であることができる。
【0007】
この方法によって作製される置換シクロペンテノン化合物は、薬物、除草剤、殺虫剤、または置換メタロセン化合物などのオレフィン重合触媒などの触媒として有用な化合物の合成における中間体として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
概要および要約は、参照により本明細書に援用される。
【0009】
ある特定の発明の実施形態を、相互参照を容易にするために番号付きの態様として以下に説明する。追加の実施形態は、本明細書の他の箇所に記載される。
【0010】
態様1.置換シクロペンテノン化合物を合成する方法であって、(A)式(1)の化合物(「化合物(1)」):
【化1】
(式中、下付き文字nは、1、2、3または4であり、基R1、R2、R3、およびR4のそれぞれが独立して、Hもしくは(C~C)アルキルであるか、または任意の2つの隣接したR1~R3基が、一緒に結合して(C~C)アルキレンを形成し、R1~R3のうちの残りの基が、Hもしくは(C~C)アルキルである)を、有効量の五酸化リン/メタンスルホン酸試薬(P/HCSOH試薬)と、式(2)の化合物(「化合物(2)」):
【化2】
(式中、下付き文字nおよび基R1~R4は先に定義されたとおりである)を作製するのに十分な反応条件下で接触させることを含み、但し、接触工程(A)はポリリン酸(PPA)を含まない、方法。化合物(2)を作製するのに十分な反応条件は、無水環境および-80℃~30℃の温度を含む。工程(A)は、PPAを含まなくてもよい。
【0011】
態様2.P/HCSOH試薬を作製するために使用されるP対HCSOHの比は、0.05/1~1/1(重量/重量)である、態様1に記載の方法。
【0012】
態様3.P/HCSOH試薬を作製するために使用されるP対HCSOHの比は、0.1/1(重量/重量)である、態様1または2に記載の方法。Eaton試薬として知られている。
【0013】
態様4.限定(i)~(xxi):(i)R1~R3のうちの少なくとも1つが(C~C)アルキルであるか、またはR4がHであること、(ii)R1~R4のそれぞれがHであること、(iii)R1~R3のそれぞれがHであり、R4がメチルであること、(iv)R1およびR2のそれぞれがHであり、R3およびR4のそれぞれがメチルであること、(v)R1および/またはR2がメチルであり、R3がHであること、(vi)R1がメチルであり、R2が1-メチルエチル(すなわち、イソプロピル)であり、R3がHであること、(vii)R1が1-メチルエチル(すなわち、イソプロピル)であり、R2がメチルであり、R3がHであること、(viii)R1およびR2が独立して、(C~C)アルキルであり、R3がHであり、R1に結合した炭素原子の立体化学が(R)であり、R2に結合した炭素原子の立体化学が(S)であること、(ix)R1およびR2が独立して、(C~C)アルキルであり、R3がHであり、R1に結合した炭素原子の立体化学が(S)であり、R2に結合した炭素原子の立体化学が(R)であること、(x)(vi)および(viii)の両方、(xi)(vi)および(ix)の両方、(xii)(vii)および(viii)の両方、(xiii)(vii)および(ix)の両方、(xiv)R5がHであること、(xv)R5がメチルであること、(xvi)(i)および(xiv)または(xv)の両方、(xvii)(ii)および(xiv)または(xv)の両方、(xviii)(iii)および(xiv)または(xv)の両方、(xix)(iv)および(xiv)または(xv)の両方、(xx)(v)および(xiv)または(xv)の両方、ならびに(xxi)任意の2つの隣接したR1~R3基が、一緒に結合して(C~C)アルキレンを形成し、R1~R3のうちの残りの基が、Hまたは(C~C)アルキルであること、のうちのいずれか1つを特徴とする、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
態様5.化合物(2)は、化合物(2a)~(2e):構造(2a)を有する、化合物(2a)2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オン、
【化3】
構造(2b)を有する、化合物(2b)ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オン、
【化4】
構造(2c)を有する、化合物(2c)4-メチル-ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オン、
【化5】
化合物(2d)10-メチル-ビシクロ[5.3.0]-1(7)-デセン-8-オン、および化合物(2e)2,4,6,11-テトラメチル-ビシクロ[6.3.0]-1(8)-ウンデセン-9-オン、のいずれか1つからなる群から選択される、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
化合物(2)は、白金、パラジウム、ニッケル、ロジウム、およびルテニウムを含まなくてもよい。化合物(2)は、薬物、除草剤、殺虫剤、または置換メタロセン化合物などのオレフィン重合触媒などの触媒として有用な化合物の合成における中間体として使用することができる。例えば、化合物(2)は、化合物(2)のカルボニル基(C=O)をアルコールに還元し、アルコールを脱水して置換シクロペンタジエン化合物を得ることによって、置換シクロペンタジエン化合物へ変換することもできる。置換シクロペンタジエン化合物は、アルキルリチウムなどの強塩基によって脱プロトン化されて、置換シクロペンタジエンアニオンを得て、1つもしくは2つ、または第4族金属(例えば、Ti、ZrもしくはHf)などの遷移金属と複合体を形成して、金属-(置換シクロペンタジエニル配位子)錯体を含む置換メタロセン化合物を得ることができる。置換メタロセン化合物は、オレフィン重合触媒として使用することができ、または活性化剤(例えば、トリアルキルアルミニウム)で活性化して、エチレンおよびα-オレフィンなどのオレフィンモノマーを重合するための置換メタロセン触媒を得ることができる。
【0016】
「含まない」という用語は、検出可能な存在を含まないことを意味する。
【0017】
下付き文字nおよび基R1~R4は、化合物(1)に対して定義されているため、化合物(2)に対して定義できる。
【0018】
化合物(1)は、商業的供給元から入手するか、またはα、β-不飽和カルボン酸、シクロアルキルエステルを作製するのに好適な出発材料から合成することができる。市販の化合物(1)の例は、(1a)(2E)-2-ブテン酸、シクロヘキシルエステル;(1b)(2E)-2-ブテン酸、シクロペンチルエステル(CAS1195328-04-1);(1c)(2E)-2-ブテン酸、シクロヘプチルエステル(CAS10555-39-2);および(1d)プロペン酸、シクロペンチルエステル(CAS16868-13-6)である。(2E)-2-ブテン酸は、(E)-クロトン酸としても知られている。本明細書で特に明記しない限り、「クロトン酸」は、(2E)-2-ブテン酸を意味する。いくつかの実施形態では、化合物(1)は、化合物(1a)~(1d)のいずれか1つであり、あるいは化合物(1)は、化合物(1a)~(1d)の任意の3つからなる群から選択され、あるいは化合物(1)は化合物(1a)、あるいは化合物(1b)、あるいは化合物(1c)、あるいは化合物(1d)である。
【0019】
化合物(1)は、式(a)の対応するシクロアルカノール:
【化6】
(式中、下付き文字nおよび基R1~R3は、化合物(1)に対して定義されたとおりである)を、式(b)のα、β-不飽和カルボン酸:
【化7】

(式中、R4は、脱水条件下で、化合物(1)に対して定義されたとおりである)と反応させることによって容易に合成することができる。好適な脱水条件としては、還流トルエン、パラトルエンスルホン酸(pTsOH)などのプロトン酸、および生成される水を除去するためのディーンスタークトラップ、または分離するための乾燥剤が挙げられる。乾燥剤の例は、3オングストロームのモレキュラーシーブおよび無水硫酸ナトリウムである。対応するアルコールおよびカルボン酸からカルボン酸のエステルを合成するための方法ならびに条件はよく知られており、有用である。化合物(1)はまた、式(a)のシクロアルカノールを、対応するα、β-不飽和カルボン酸無水物と反応させることによって合成することができ、2モル等量の化合物(b)を脱水することによって作製することができる。
【0020】
シクロアルカノール化合物(a)は、商業的供給業者から入手するか、またはアルコールを作製する周知の方法によって合成することができる。下付き文字nが1である市販の化合物(a)の例は、(a1)シクロペンタノール(CAS96-41-3);(a2)3-メチル-シクロペンタノール(CAS18729-48-1);(a3)3,4-ジメチル-シクロペンタノール(CAS73316-51-5);および(a4)3,3-ジメチル-シクロペンタノール(CAS60670-47-5)である。下付き文字nが2である市販の化合物(a)の例は、(a5)シクロヘキサノール(CAS108-93-0);(a6)2-メチルシクロヘキサノール(立体異性体または単一鏡像異性体の混合物);(a7)4-メチルシクロヘキサノール(CAS589-91-3);(a8)2,5-ジメチルシクロヘキサノール(CAS3809-32-3);および(A9)5-メチル-2-(1-メチルエチル)-シクロヘキサノール(例えば、立体異性体の混合物として、または(1R,2S,5R)-メントールなどのその任意の1つの単一鏡像異性体として)である。下付き文字nが3である市販の化合物(a)の例は、(a10)シクロヘプタノール(CAS502-41-0);(a11)4-メチルシクロヘプタノール(CAS90200-61-6);および(a12)4,4-ジメチルシクロヘプタノール(CAS35099-84-4)である。下付き文字nが4である市販の化合物(a)の例は、(a13)シクロオクタノール(CAS696-71-9);および(a14)3,5,7-トリメチルシクロオクタノール(CAS1823711-29-0)である。いくつかの実施形態では、化合物(a1)~(a14)のいずれか1つ、あるいは化合物(a1)~(a14)の任意の13個からなる群から選択される化合物、あるいは下付き文字nが1、2または3である化合物(1);あるいは下付き文字nが1または2である化合物(1);あるいは下付き文字nが1である化合物(1);あるいは下付き文字nが2である化合物(1);あるいは下付き文字nが3または4である化合物(1);あるいは下付き文字nが3である化合物(1);あるいは下付き文字nが4である化合物(1)から、化合物(1)が作製され、R1~R3を含むアルコール由来部分が対応する。
【0021】
α、β-不飽和カルボン酸化合物(b)は、商業的供給業者から入手するか、またはカルボン酸を作製する周知の方法によって合成することができる。市販の化合物(b)の例は、(b1)アクリル酸(R4がHである化合物(b));(b2)クロトン酸(R4がメチルである化合物(b));(b3)2-ペンテン酸(R4がエチルである化合物(b));および(b4)2-ヘキセン酸(R4がプロピルである化合物(b))である。いくつかの実施形態では、化合物(b1)~(b4)のいずれか1つ;あるいは化合物(b1)~(b4)の任意の3つからなる群から選択される化合物;あるいは化合物(b1)または(b2);あるいは化合物(b1);あるいは化合物(b2);あるいは化合物(b3)または(b4);あるいは化合物(b3);あるいは化合物(b4)から、化合物(1)が作製され、R4を含むカルボン酸由来部分が対応する。
【0022】
アルキルとは、直鎖(1つ以上の炭素原子)、分枝鎖(3つ以上の炭素原子の場合)、または環状(3つ以上の炭素原子の場合)である非置換一価飽和非環式炭化水素を意味する。各(C~C)アルキルは独立して、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、または1,1-ジメチルエチルである。あるいは、各(C~C)アルキルは独立して、(C~C)アルキル;あるいは(C~C)アルキル;あるいは(C~C)アルキル;あるいは(C~C)アルキル;あるいは(C~C)アルキル;あるいはメチルまたは(C)アルキルである。いくつかの態様では、各(C~C)アルキルは独立して、(C~C)アルキルであり、各(C~C)アルキルは独立して、メチル、エチル、プロピル、または1-メチルエチル;あるいはメチル、プロピルまたは1-メチルエチル;あるいはメチル;あるいはエチル;あるいはプロピル;あるいは1-メチルエチルである。置換アルキルは、1つ以上の水素原子が、非置換アルキル、ハロゲン、またはアルキルカルボン酸エステルなどの置換基によって形式的に置換されていることを除いて、先に定義されたとおりアルキルである。
【0023】
アルキレンとは、直鎖(1つ以上の炭素原子)、分枝鎖(3つ以上の炭素原子の場合)、または環状(3つ以上の炭素原子の場合)である非置換二価飽和非環式炭化水素である。各(C~C)アルキレンは、独立して、メチレン(CH)、エチレン(CHCH)、プロピレン(CHCHCH)、1-メチルエチレン(CH(CH)CH)、ブチレン((CH)、1-メチルプロピレン(CH(CH)CHCH)、2-メチルプロピレン(CHCH(CH)CH)、または1,1-ジメチルエチレン(C(CHCHである。置換アルキレンは、1つ以上の水素原子が、非置換アルキル、ハロゲン、またはアルキルカルボン酸エステルなどの置換基によって形式的に置換されていることを除いて、先に定義されたとおりアルキレンである。
【0024】
化合物とは、分子または分子の集まりを意味する。
【0025】
有効量は、検出可能な量の目的の生成物(例えば、化合物(2))の作製を可能にするのに十分な量である。リン酸および/またはスルホン酸試薬の有効量は、検出可能な量の化合物(2)の作製を可能にするのに十分なそれらの量である。検出可能な量は、1H-核磁気共鳴(1H-NMR)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、既知の標準に対して)、ガスクロマトグラフィー(GC、既知の標準に対して)、または質量分析;一般的に1H-NMRなどの任意の好適な分析方法によって特徴付けることができる。工程(A)で使用される五酸化リン/メタンスルホン酸試薬の有効量は、その組成物、反応条件およびコストに応じて変化してもよい。当業者は、(1)および95重量%の五酸化リン/メタンスルホン酸試薬の初期反応混合物から始めて、その後、反応条件下で最適な結果が得られるまで、より低い重量%の五酸化リン/メタンスルホン酸試薬を含む反応混合物を体系的に試みることによって、その最適有効量を決定することができる。有効量は、(1)および五酸化リン/メタンスルホン酸試薬の総重量に基づいて、50~95重量%、あるいは50~80重量%であってもよい。あるいは、P/HCSOH試薬の有効量は、化合物(1)のモル数に対して、1~10モル当量(mol当量)、あるいは1~5mol当量、あるいは1~3mol当量であってもよい。例えば、1.0モルの化合物(1)が接触工程(A)で使用される場合、次いで、P/HCSOH試薬の有効量は、1~10モル、あるいは1~5モル、あるいは1~3モルであってもよい。
【0026】
メタンスルホン酸は、式HCSOHの化合物であり、CAS番号75-75-2を有し、商業的供給業者から幅広く入手可能である。
【0027】
五酸化リンは、式P(P10とも表記)の化合物であり、CAS番号1314-56-3を有し、商業的供給業者から幅広く入手可能である。
【0028】
五酸化リンおよびメタンスルホン酸試薬(「P/HCSOH試薬」、P10/HCSOH試薬またはP/MeSOH試薬とも表記)は、P(P10とも表記)およびHCSOHの物理的ブレンド、またはその反応生成物である。試薬中のP/HCSOHの重量/重量比は、0.05/1~1/1、あるいは0.1/1~1/1あるいは0.15/1~1/1、あるいは0.2/1~1/1、あるいは0.05/1~0.14/1、あるいは0.1/1であってもよい。0.1/1(wt/wt)P/HCSOH試薬は市販されており、Eaton試薬と呼ばれることもある。PおよびCHSOHの試薬は、例えば、接触工程(A)に先だってまたはその間に、化合物(1)の存在下でその場で形成されてもよい。あるいは、PおよびCHSOHの試薬は、接触工程(A)の前に(化合物(1)の非存在下で)予め形成されてもよい。接触工程(A)の前にP/CHSOH試薬を予め形成し、接触工程(A)の実施形態で、後で使用するために、得られる予備成形試薬を貯蔵することが便利である。いくつかの態様では、方法はさらに、限定(i)または(ii):(i)接触工程(A)の前に、および化合物(1)の非存在下で、P/HCSOH試薬を予備成形する工程であること、または(ii)この接触工程はさらに、化合物(1)の存在下で、一緒に五酸化リンおよびメタンスルホン酸を接触させて、その場でP/HCSOH試薬を形成することを含む。
【0029】
ポリリン酸またはPPAはCAS番号8017-16-1を有し、一般に式HO-[P(=O)(OH)]-Hの化合物であり、下付き文字nは重合度を示す。PPAは酸素原子およびリン原子から構成され、硫黄原子および炭素原子を含まない。
【0030】
いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用される各反応物、試薬、溶媒、または他の材料、およびそれらの各生成物は、Pt、Ni、Pd、RhおよびRuを含まない。
【0031】
作製するのに十分な反応条件下としては、反応温度;反応圧力;反応雰囲気;もしあれば、反応溶媒;反応物および試薬濃度;反応物の相互および試薬に対するモル濃度比;ならびに、否定化合物の非存在が挙げられる。反応圧力は、一般的に、オレフィン重合反応の場合はより高いことを除いて、室内圧力(例えば、101キロパスカル(kPa))である。必要に応じて、反応(例えば、工程(A))は、ドラフト内で、無水分子状窒素ガス雰囲気下で、またはシュレンク管技術および条件を使用して、実施されてよい。
【0032】
作製するのに十分な反応条件下での反応温度は、工程ごとに異なる場合がある。例えば、工程(A)(環化)において、化合物(2)を作製するのに十分な反応条件下としては、-78℃~30℃、あるいは-30℃~25℃、あるいは0℃~25℃、あるいは-5℃~5℃の反応温度を挙げてもよい。
【0033】
溶媒の使用の有無、および作製するのに十分な反応条件下で使用される場合の溶媒の種類は、工程ごとに異なる場合がある。工程(A)は、溶媒を含まない場合もあれば、溶媒を用いる場合もある。メタンスルホン酸の量が反応物を可溶化するのに十分である場合、溶媒を省略してもよい。あるいは、極性非プロトン性溶媒を用いることができる。極性非プロトン性溶媒は、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1-メトキシ-2-(2-メトキシエトキシ)エタン、およびそれらの任意の2つ以上の混合物から選択することができる。用いられる極性非プロトン性溶媒の量は特に重要ではない。前述の極性非プロトン性溶媒は、化合物(1)および/またはP/HCSOH試薬を可溶化するのに役立つ場合がある。用いられる溶媒の量は、その中の0.5モル濃度((Molar)M)~5M、または1M~2.5MのP/HCSOH試薬である出発溶液を調製するのに十分であり得る。極性非プロトン性溶媒は、接触工程(A)が、そのための上記の範囲内のより低温で実施されることを可能にし得る。プロトン性溶媒は、強力な脱水剤である、P/HCSOH試薬と不所望に反応することが予想されるため、極性非プロトン性溶媒がP/HCSOH試薬のために使用される。極性非プロトン性溶媒は、化合物(1)およびP/HCSOH試薬を共可溶化するために、中間極性であってよい。極性非プロトン性溶媒は、-25℃~25℃で、あるいは25℃で、あるいは10℃で、あるいは0℃で、あるいは-10℃で、あるいは-25℃で化合物(1)の均一溶液を生成することができ得る。P/HCSOH試薬の存在下で、化合物(1)の反応を成功させるために、均一溶液を必要としない。
【0034】
作製するのに十分な反応条件下に含まれる反応雰囲気は、工程(A)(環化)のための無水分子状窒素ガスまたはシュレンク管条件であり得る。
【0035】
作製するのに十分な反応条件下で含まれる反応物および試薬の反応濃度は、独立して0.1~1.4M、あるいは0.25~1モル濃度(M)、あるいは0.4~1Mの範囲であり得る。
【0036】
作製するのに十分な反応条件下で含まれる反応物の相互および試薬に対するモル濃度比は、使用される反応物および試薬に応じて、理論的反応化学量論の0.25倍~1.5倍、あるいは理論的反応化学量論の0.99倍~1.2倍、あるいは理論的反応化学量論の1.0倍~1.1倍に変化してもよい。
【0037】
否定剤は、作製するのに十分な反応条件下で含まれるべきではない。工程(A)(環化)において、否定剤は、P/HCSOH試薬の酸性度を中和するか、または別の方法で無効にする量の塩基性化合物であり得る。例えば、工程(A)で使用される化合物(1)の純度は、少なくとも95重量%、あるいは少なくとも98重量%、あるいは少なくとも99重量%、あるいは少なくとも99.5重量%であり得る。
【0038】
化合物は、そのすべての同位体および天然の存在量ならびに同位体濃縮型を含む。濃縮型は、医学的用途または偽造防止用途を有してもよい。
【0039】
いくつかの態様では、本明細書の化合物、組成物、配合物、混合物、または反応生成物のいずれかは、H、Li、Be、B、C、N、O、F、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、ランタノイド、およびアクチノイドからなる群から選択される化学元素のうちのいずれか1つを含まない可能性があるが、但し、化合物、組成物、配合物、混合物、または反応生成物に必要な化学元素(例えば、ポリオレフィンに必要なCおよびH、またはアルコールに必要なC、H、およびO)は除外されない。
【0040】
別途示されない限り、以下を適用する。あるいは、異なる実施形態に先行する。ASTMとは、標準化機構であるASTM International(West Conshohocken,Pennsylvania,USA)を意味する。いずれの比較例も説明の目的でのみ使用されており、先行技術ではない。含まないまたは欠いているは、完全に存在しないこと、代替として検出不可能であることを意味する。してもよい(may)は、必須ではなく、選択の許容を付与する。機能的は、機能的に可能または有効であることを意味する。任意の(optional)(任意に(optionaly))は、存在しない(除外される)、あるいは存在する(含まれる)ことを意味する。特性は、標準試験方法および測定条件(例えば、粘度:23℃および101.3kPa)を使用して測定される。範囲は、端点、部分範囲、およびその中に包含される整数値および/または小数値を含むが、整数の範囲が小数値を含まない場合を除く。室温:23℃。±1℃。化合物に関連するとき置換されているとは、水素の代わりに、置換ごとに1個または複数個(その数を含む)の置換基を有することを意味する。化合物の構造および名前の間に不一致がある場合は、構造が優先される。
【実施例
【0041】
本明細書に他に記載がない限り、特徴付けのために以下の調製方法を使用する。必要に応じて、グローブボックス内の乾燥窒素雰囲気下で合成を行う。乾燥窒素流下で冷却されたオーブン乾燥ガラス器具内で、乾燥窒素雰囲気下で無水条件を必要とする反応を行う。無水トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、および1,2-ジメトキシエタンは、Sigma-Aldrichから入手する。窒素で満たされたグローブボックス内で行う実験に使用される溶媒は、活性化4オングストローム(Å)モレキュラーシーブ上で保管することによって、さらに乾燥する。すべての他の試薬は、Sigma-Aldrichから購入し、受け入れたままの状態で使用する。例えば、0.1/1(wt/wt)P/MeSOH試薬は、Sigma-Aldrich CAS#39394-84-8から購入することができる。
【0042】
H-NMR(プロトン磁気共鳴スペクトル法)化学シフトデータを、重水素化溶媒中の残留プロトンを参照として使用して、テトラメチルシラン(TMS)、δスケールに対する低磁場を百万分率(ppm)で報告する。CDCl中で測定されたH-NMR化学シフトデータは7.26ppm、ベンゼン-d6(C)中で測定されたデータは7.16ppm、テトラヒドロフラン-d8(THF-d8)中で測定されたデータは3.58ppmを参照している。H-NMR化学シフトデータは、ppm単位の化学シフト(多重度、ヘルツ(Hz)の結合定数(複数可))、および積分値の形式で報告される。多重度は、s(シングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、q(カルテット)、pent(ペンテット)、m(マルチプレット)、およびbr(ブロード)と省略される。GC/MS(EI)とは、ガスクロマトグラフィー-質量分析(電子イオン化)を意味する。
【0043】
調製1:(1a)(2E)-2-ブテン酸、シクロヘキシルエステルの合成。
【化8】
ドラフト内で、シクロヘキサノール(30ミリリットル(mL)、283.9ミリモル(mmol))、クロトン酸(25.9g、300.98mmol)、p-トルエンスルホン酸(1.08g、5.68mmol)、および40mLのトルエンを250mL丸底フラスコ内に入れた。フラスコにディーンスタークトラップおよび還流冷却器を取り付けた。得られた反応混合物を加熱還流させ、生成した水を共沸的に除去した。18時間還流した後、反応混合物を周囲温度に冷却し、水(55mL)でクエンチした。得られた有機層を分離し、NaHCO飽和水溶液(2×40mL)、次いで食塩水(30mL)で洗浄し、次いで硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過した。溶媒を減圧下で除去して、化合物(1a)を淡黄色液体(40.6g)として85%の収率で得た。HNMR(400MHz、クロロホルム-d)δ6.93(dq、1H)、5.81(dq、1H)、4.84~4.73(m、1H)、1.92~1.80(m、4H)、1.77~1.64(m、3H)、1.59~1.12(m、6H)およびGC/MS(EI)(質量検出=168、87、69)は、(2E)-2-ブテン酸、シクロヘキシルエステルと一致した。
【0044】
調製2(仮想例):(1b)(2E)-2-ブテン酸、3,5,7-トリメチルシクロオクチルエステル(1e)の合成。シクロヘキサノールを284mmolの(a14)3,5,7-トリメチルシクロオクタノール(CAS1823711-29-0)で置換する以外は、調製1を繰り返すことにより、(2E)-2-ブテン酸、3,5,7-トリメチルシクロオクチルエステル(1b)が得られる。
【0045】
調製3:(2E)-2-ブテン酸、シクロペンチルエステル(1c)の合成。
【化9】
ドラフト内で、ディーンスタークトラップおよび還流冷却器を取り付けた50mL丸底フラスコ内に、シクロペンタノール(2.1mL、23.2mmol)、クロトン酸(2.11g、24.6mmol)、p-トルエンスルホン酸(0.088g、0.46mmol)、および5mLのトルエンを入れる。得られた混合物を加熱して還流させ、生成された水を共沸的に除去する。18時間の還流後、反応混合物を周囲温度に冷却し、水(10mL)でクエンチする。得られた有機層を分離し、NaHCO飽和水溶液(2×10mL)、次いで食塩水(20mL)で洗浄し、次いで硫酸マグネシウム上で乾燥させる。ろ過し、減圧下でろ液から溶媒を除去して、2.8g(78%収率)の化合物(1c)を無色の液体として得る。HNMRおよびGC/MS(質量検出=154)は、(2E)-2-ブテン酸、シクロペンチルエステルと一致した。化合物(1c)は、GC/MS(EI)154(質量)、87、69を特徴とする。H NMR(400MHz、クロロホルム-d)δ6.91(dq、1H)、5.79(dq、1H)、5.18(tt、1H)、1.94~1.79(m、5H)、1.83~1.63(m、4H)、1.67~1.48(m、2H)。
【0046】
本発明例1:化合物(2a)2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オンの合成
【化10】
(下付き文字nが2であり、R1~R3がHであり、R4がメチルである化合物(2))。ドラフト内で、撹拌棒を備えた250mL丸底フラスコ内の窒素雰囲気下で、化合物(1a)(2E)-2-ブテン酸、シクロヘキシルエステル(3g、17.8mmol)を添加した。フラスコ内のエステルを0℃に冷却した。次いで、P/HCSOH試薬(0.1/1))(8.49mL、53.5mmol)を0℃で滴下した。得られた反応混合物を周囲温度(23℃)まで撹拌しながら温め、周囲温度で72時間撹拌を続けた。得られた粗生成物を20mLの水で希釈し、次いで、発泡がおさまるまで固体NaHCOを少しずつ加えて、pH8~pH9を有するクエンチした混合物を得た。分液漏斗で、クエンチした混合物の水層と有機層を分離した。水層をジエチルエーテル(3×20mL)で3回抽出した。有機層を3つの抽出物と混ぜ合わせ、その混合を食塩水(30mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過した。真空中で溶媒を除去して、2.45gの化合物(2a)を薄茶色の油状生成物(91.4%収率)として得た。HNMR(400MHz、クロロホルム-d)δ2.77~2.67(m、1H)、2.61(ddd、1H)、2.48~2.34(m、1H)、2.32~2.03(m、3H)、2.03~1.47(m、5H)、1.14(d、3H)は、(2a)2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オンと一致した。
【0047】
本発明例2(仮想例):化合物(2b)ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オンの合成
【化11】
(下付き文字nが1であり、R1~R4がHである化合物(2))。化合物(1a)を18mmolの(1b)プロペン酸、シクロペンチルエステル(CAS16868-13-6)で置換する以外は、本発明例1を繰り返すことにより、化合物(2b)が得られる。
【0048】
本発明例3:化合物(2c)(4-メチル-ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オン、すなわち、下付き文字nが1であり、R1~R3がHであり、R4がメチルである化合物(2))の合成:
【化12】

ドラフト内で、撹拌棒を備えた100mL丸底フラスコ内の窒素雰囲気下で、調製3の化合物(1c)(2E)-2-ブテン酸、シクロペンチルエステル(0.5g、3.24mmol)を添加した。フラスコ内のエステルを0℃に冷却した。次いで、P/HCSOH試薬(0.1/1))(1.5mL、9.73mmol)を0℃で滴下した。得られた反応混合物を周囲温度(23℃)まで撹拌しながら温め、72時間撹拌を続けた。得られた粗生成物を5mLの水で希釈し、次いで、発泡がおさまるまで固体NaHCOを少しずつ加えて、pH8~pH9を有するクエンチした混合物を得た。分液漏斗で、クエンチした混合物の水層と有機層を分離した。水層をジエチルエーテル(3×8mL)で3回抽出した。有機層を3つの抽出物と混ぜ合わせ、その混合を食塩水(15mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過した。真空中で溶媒を除去して、0.42g(95%収率)の化合物(2c)をオレンジ色の油として得た。H NMR(400MHz、クロロホルム-d)δ3.05~2.89(m、1H)、2.81(dt、1H)、2.66~2.47(m、1H)、2.47~2.26(m、6H)、1.19(d、3H)は、化合物(2c)と一致した。
【0049】
本発明例4(仮想例):化合物(2d)10-メチル-ビシクロ[5.3.0]-1(7)-デセン-8-オン(下付き文字nが3であり、R1~R3がHであり、R4がメチルである化合物(2))の合成。化合物(1a)を18mmolの(1c)(2E)-2-ブテン酸、シクロヘプチルエステル(CAS10555-39-2)で置換する以外は、本発明例1を繰り返すことにより、化合物(2d)が得られる。
【0050】
本発明例5(仮想例):化合物(2e)2,4,6,11-テトラメチル-ビシクロ[6.3.0]-1(8)-ウンデセン-9-オン(下付き文字nが4であり、R1~R4がメチルである化合物(2))の合成。化合物(1a)を18mmolの(1e)(2E)-2-ブテン酸、3,5,7-トリメチルシクロオクチルエステル(調製2)で置換する以外は、本発明例1を繰り返すことにより、化合物(2e)が得られる。
【0051】
前述したように、PPAまたはP/PPA混合物を使用してアクリル酸またはクロトン酸などのα、β-不飽和カルボン酸で、シクロヘプテン、シクロヘキセン、またはシクロペンテンの反応を触媒するようなConiaら、RandおよびDolinskiならびに他の報告によると、エステル副生成物を含む反応混合物(例えば、それぞれ、クロトン酸シクロヘプチル、クロトン酸シクロヘキシル、またはクロトン酸シクロペンチル)が得られる。五酸化リン/メタンスルホン酸試薬を使用して、アクリル酸またはクロトン酸などのα、β-不飽和カルボン酸で、シクロヘプテン、シクロヘキセン、またはシクロペンテンの反応を触媒することにより、エステル副生成物を含まない反応混合物(例えば、反応は、それぞれ、クロトン酸シクロヘプチル、クロトン酸シクロヘキシル、またはクロトン酸シクロペンチルを産生しない反応)を得られることが見出された。この発見は、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)による反応混合物の少なくとも1つの分析に基づいているが、エステル副生成物は示されていない。この発見はまた、P/HCSOH試薬の存在下で、シクロヘプテン、シクロヘキセン、またはシクロペンテンとアクリル酸やクロトン酸などのα、β-不飽和カルボン酸との反応が、P/HCSOH試薬の存在下で、それぞれクロトン酸シクロヘプチル、クロトン酸シクロヘキシル、またはクロトン酸シクロペンチルの反応よりもはるかに速く進行することを確認したことに基づいている。
【0052】
理論に縛られることを望まないが、P/HCSOH試薬をα、β-不飽和カルボン酸(例えば、クロトン酸)と反応させることにより、一般式R4CH=CHC(=O)-O-SO-CHの混合無水物(式R4CH=CHC(=O)のアシリウムイオン(すなわち、アシルカルボニウムイオン)がその場で生成し、シクロアルケンのフリーデル-クラフツアシル化を急速に受ける)がその場で得られ、式R-C(=O)-Rのケトン(RはR4CH=CH-であり、Rはシクロアルケン-1-イルであり、ケトンは環化反応を受ける)がその場で得られ、対応するシクロペンテノンが得られると考えられている。例えば、シクロアルケンがシクロヘキセンであり、α、β-不飽和カルボン酸がクロトン酸である場合、P/HCSOH試薬をクロトン酸と反応させることにより、一般式HCCH=CHC(=O)-O-SO-CHの混合無水物(式HCCH=CHC(=O)のアシリウムイオン(すなわち、アシルカルボニウムイオン)をその場で生成し、シクロアルケンのフリーデル-クラフツアシル化を急速に受ける)がその場で得られ、式R-C(=O)-Rのケトン(RはHCCH=CH-であり、Rはシクロヘキセン-1-イルであり、ケトンは環化反応を受ける)がその場で得られ、2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オンである対応するシクロペンテノン(すなわち、7-メチルビシクロ[4.3.0]-7-ノネン-9-オン)が得られると考えられている。したがって、シクロヘプテン、シクロヘキセン、またはシクロペンテンなどのシクロアルケンとアクリル酸またはクロトン酸などのα、β-不飽和カルボン酸との反応において、五酸化リン/メタンスルホン酸試薬を使用しても、PPAまたはP/PPA混合物を使用するConiaら、RandおよびDolinski、ならびに他のものによって報告されたエステル副生成物(例えば、それぞれクロトン酸シクロヘプチル、クロトン酸シクロヘキシル、またはクロトン酸シクロペンチル)を本質的に作製しない。
本願は以下の態様にも関する。
(1) 置換シクロペンテノン化合物を合成する方法であって、(A)式(1)の化合物(「化合物(1)」):
【化13】
(式中、下付き文字nは、1、2、3または4であり、基R1、R2、R3、およびR4のそれぞれが独立して、Hもしくは(C ~C )アルキルであるか、または任意の2つの隣接したR1~R3基が、一緒に結合して(C ~C )アルキレンを形成し、R1~R3のうちの残りの基が、Hもしくは(C ~C )アルキルである)を、有効量の五酸化リン/メタンスルホン酸試薬(P /H CSO H試薬)と、式(2)の化合物(「化合物(2)」):
【化14】
(式中、下付き文字nおよび基R1~R4は先に定義されたとおりである)を作製するのに十分な反応条件下で接触させることを含み、但し、前記接触工程(A)は添加されたポリリン酸(PPA)を含まない、方法。
(2) 前記P /H CSO H試薬を作製するために使用されるP 対H CSO Hの比は、0.05/1~1/1(重量/重量)である、前記(1)に記載の方法。
(3) 前記P /H CSO H試薬を作製するために使用されるP 対H CSO Hの比は、0.1/1(重量/重量)である、前記(1)または(2)に記載の方法。
(4) 制限(i)~(xxi):(i)R ~R のうちの少なくとも1つが(C ~C )アルキルであるか、またはR4がHであること、(ii)R1~R4のそれぞれがHであること、(iii)R1~R3のそれぞれがHであり、R4がメチルであること、(iv)R1およびR2のそれぞれがHであり、R3およびR4のそれぞれがメチルであること、(v)R1および/またはR2がメチルであり、R3がHであること、(vi)R1がメチルであり、R2が1-メチルエチルであり、R3がHであること、(vii)R1が1-メチルエチルであり、R2がメチルであり、R3がHであること、(viii)R1およびR2が独立して、(C ~C )アルキルであり、R3がHであり、R1に結合した炭素原子の立体化学が(R)であり、R2に結合した炭素原子の立体化学が(S)であること、(ix)R1およびR2が独立して、(C ~C )アルキルであり、R3がHであり、R1に結合した炭素原子の立体化学が(S)であり、R2に結合した炭素原子の立体化学が(R)であること、(x)(vi)および(viii)の両方、(xi)(vi)および(ix)の両方、(xii)(vii)および(viii)の両方、(xiii)(vii)および(ix)の両方、(xiv)R5がHであること、(xv)R5がメチルであること、(xvi)(i)および(xiv)または(xv)の両方、(xvii)(ii)および(xiv)または(xv)の両方、(xviii)(iii)および(xiv)または(xv)の両方、(xix)(iv)および(xiv)または(xv)の両方、(xx)(v)および(xiv)または(xv)の両方、ならびに(xxi)任意の2つの隣接したR1~R3基が、一緒に結合して(C ~C )アルキレンを形成し、R1~R3のうちの残りの基が、Hまたは(C ~C )アルキルであること、のうちのいずれか1つを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の方法。
(5) 前記化合物(2)は、化合物(2a)~(2e):
構造(2a)を有する、化合物(2a)2,3,4,5,6,7-ヘキサヒドロ-3-メチル-1H-インデン-1-オン、
【化15】
構造(2b)を有する、化合物(2b)ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オン、
【化16】
構造(2c)を有する、化合物(2c)4-メチル-ビシクロ[3.3.0]-1(5)-オクテン-2-オン、
【化17】
化合物(2d)10-メチル-ビシクロ[5.3.0]-1(7)-デセン-8-オン、および
化合物(2e)2,4,6,11-テトラメチル-ビシクロ[6.3.0]-1(8)-ウンデセン-9-オン、のいずれか1つからなる群から選択される、前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の方法。