(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】物品の表面に対する高分子フィルムおよび積層体の貼付方法および貼付装置
(51)【国際特許分類】
B65B 33/04 20060101AFI20240527BHJP
B65H 75/42 20060101ALI20240527BHJP
B65H 18/10 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B65B33/04
B65H75/42 F
B65H18/10
(21)【出願番号】P 2021523874
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 US2019059167
(87)【国際公開番号】W WO2020092770
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-29
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523227982
【氏名又は名称】ピーピージー・アドバンスト・サーフェス・テクノロジーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マクガイア・ジュニア・ジェームズ
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19733935(DE,A1)
【文献】特開2000-353472(JP,A)
【文献】特開平10-264915(JP,A)
【文献】米国特許第05997670(US,A)
【文献】特開2014-236031(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0000659(US,A1)
【文献】中国実用新案第207120968(CN,U)
【文献】特開2004-134020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65B 33/00-33/04
B65H 18/10
B65H 75/38-75/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルム積層体からなる多層シートのロールから剥離ライナーを剥がした後に前記高分子フィルム積層体を物品表面に貼付するための巻き出し用組立治具(100)であって、
第1および第2の長手方向延長支持バー(112,114)と、
前記第1および第2の長手方向延長支持バー(112,114)の上端に近接してそれぞれ配置された第1および第2のフィルムホルダー(108,110)と、
前記第1および第2の長手方向延長支持バー(112,114)の下端に近接してそれぞれ配置された、第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構(104,106)であって、
ロールからの前記多層シートの巻き出しを容易にする第2のフィルムホルダー/ワインダー機構(106)と、前記多層シートを前記ロールから剥離した後の前記剥離ライナーの取り込みおよび再巻き取りを容易にする第1のフィルムホルダー/ワインダー機構(104)と、
前記第1および第2の長手方向延長支持バー(112,114)に略平行に、かつ、前記第1の支持バー(112)の反対側であって、前記物品の前記表面へ貼付する前記高分子フィルム積層体を供給する際に前記剥離ライナーが前記多層シートの前記ロールから剥がされる地点に近接する側にある前記第2の支持バー(114)から離間して配置された、前記高分子フィルムまたは前記積層体の電気的接触のための電界を発生させる帯電防止バー(116)と、を備える巻き出し用組立治具(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、車両にポータブルに搭載される、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項3】
請求項2に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、当該治具が搭載される前記車両は可動リフトテーブル(102)である、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項4】
請求項3に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記可動リフトテーブル(102)は約60cmまで垂直に位置変更可能である、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項5】
請求項2に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記車両は、前記高分子フ
ィルムまたはその積層体が徐々に後方に配置される際に前記巻き出し用組立治具(100)の前方への移動を促進する電動推進手段を備える、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項6】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記第1および第2のフィルムホルダー(108,110)のうち少なくとも1つが垂直に調整可能である、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項7】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記第2のフィルムホルダー(110)は、前記多層シートの前記ロールを保持するように構成され、前記ロールは少なくとも約8cmのコア径を有する、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項8】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記第2のフィルムホルダー(110)は、前記多層シートの前記ロールを保持するように構成され、前記ロールは少なくとも約16cmのコア径を有する、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項9】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構(104,106)のうち少なくとも1つがモーター駆動である、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項10】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構(104、106)のそれぞれがモーター駆動である、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項11】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記第1のフィルムホルダー/ワインダー機構(104)により発生するトルクは、前記第2のフィルムホルダー/ワインダー機構(106)を介して前記ロールから前記多層シートを巻き出すには不十分である、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項12】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構(104,106)のうち少なくとも1つは、テンション制御のためのブレーキを用いる、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項13】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記剥離ライナーが前記多層シートから剥がされた直後、前記多層シートの露出した接着層に対して液体、蒸気、または気体を供給する供給機構をさらに備える、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項14】
請求項13に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記供給機構は、複数のノズルを有する線形マニホールドを備える、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項15】
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)であって、前記多層シートの前記ロールは、少なくとも約60cmの幅を有する、巻き出し用組立治具(100)。
【請求項16】
物品の表面の少なくとも一部に対して高分子フィルムまたは積層体を貼付するための方法であって、
請求項1に記載の巻き出し用組立治具(100)を用意することと、
第2のフィルムホルダー(110)と第2のフィルムホルダー/ワインダー機構(106)との間に多層シートのロールを固定することと、
前記ロールから前記多層シートを巻き出すことと、
前記多層シートが前記ロールから巻き出された後、前記多層シートから剥離ライナーを剥がすことと、
剥がされた前記剥離ライナーを、第1のフィルムホルダー/ワインダー機構(104)と第1のフィルムホルダー(108)との間に位置するロール上に取り込んで再度巻き付けることと、
前記高分子フィルム積層体を前記物品の前記表面に貼付することを含む、方法。
【請求項17】
請求項
16に記載の方法であって、前記物品は貨物用コンテナである、方法。
【請求項18】
請求項
16に記載の方法であって、前記物品は船舶である、方法。
【請求項19】
請求項
16に記載の方法であって、前記物品は陸上乗用車である、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2018年11月1日に出願された米国仮特許出願第62/754,480号の利益を主張する。上記出願の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
特に大量処理において物品の表面に材料を貼付する場合、特に当該材料がロール状で提供される場合は、材料の収納および供給のためにラックやカートがしばしば使用される。例えば、自動車補修店は、スプレー式塗布作業に便利なマスキング材料を供給するための専用カートを利用することが多い。
【0003】
このようなカートは、例えば、Innovative Tools & Technologies, Inc.(ミネソタ州セントポール)から入手可能であり、比較的ベーシックで使い捨て可能な紙およびプラスチック材料(例えば、マスキングテープ)の収納に使用され得る。このようなマスキング材料が接着層を含む場合は、この材料は通常自己の接着性により巻かれる(すなわち、接着層を保護する分離可能な剥離ライナーが無い)。特許文献1はこのような例示的なカートを記載している。
【0004】
例えば、運輸、建築およびスポーツ用品関連の産業における屋内および屋外用途の範囲において、より特殊な高分子フィルムがますます有用となっている。高分子フィルムやそれを含む積層体は、保護または装飾(例えば、塗装)が望まれる物品の表面の少なくとも一部に対して有利に適用可能であることが分かっている。このような物品は、例えば、多数の他の用途のうち、電動車両および非電動車両を含む。
【0005】
高分子フィルムまたはそれを含む積層体が使用される表面は、例えば、塗装(painted)または未塗装であり得る。高分子フィルムまたはそれを含む積層体が着色等されているとき、それ自体が“フィルム状の塗料”として用いられ得る(“塗料フィルムアップリケ”,“塗料代替フィルム”,“塗料フィルム”等とも称す)。下の面に施された塗装の保護を主目的として高分子フィルムまたはそれを含む積層体が表面に接着される場合は、“塗装保護フィルム”等と称されることが多い。
【0006】
高分子フィルムまたはそれを含む積層体は、多層シート(例えば、物品の表面に対する高分子フィルムの接着のための外部に露出した接着層を含むもの)の形状を取ることが多い。一般的に、例示的な多層シートにおいて外部に露出する接着層は、多層シートが表面に貼付されるまでは通常剥離ライナー(release liner)により覆われており、これにより接着層をデブリ(debris)による汚染から保護し、ロール状で提供されることが多い多層シートの収納や扱いを容易にする。剥離ライナーを接着層から剥がしてシートを表面に貼付する際、露出された接着層は、実際に表面に接着される前にデブリを吸着し蓄積してしまう。この問題は、剥離ライナー剥離中における接着層表面の静帯電により悪化する。この静帯電は摩擦帯電作用によるものであり、摩擦帯電とも称する。
【0007】
比較的制御されていない環境(例えば、クリーンルーム環境とは対照的な環境)において高分子フィルムまたはそれを含む積層体を物品に貼付(applying)する場合、摩擦帯電が増大し、接着層に吸着され得るデブリはかなりの量となることが多い。例えば、高分子フィルムまたはそれを含む積層体を野外のボートヤード等で船舶に貼付する場合、上述のラックやカートを用いた従来の技術では、物品の表面に対する高分子フィルムのクリーンな接着は不可能であることが多い。
【0008】
しかし、所望または必要な表面仕上げを維持するためには、そのようなフィルムや積層体を制御された方法で据付ける能力が非常に重要であることが多い。上述のフィルム状塗料や塗装保護フィルム等のより特殊な高分子フィルムおよび積層体は、一定の高品質表面仕上げを形成および/または維持する目的で特によく使用される。この目的に向けて、そのような表面仕上げを達成する手段、例えば、物品の表面に高分子フィルムおよびそれを含む積層体を貼付する際に摩擦帯電を低減する方法および装置、が望まれる。多層シートにおいて使い捨て可能な剥離ライナーを備えた接着剤付き高分子フィルムおよび積層体の適切な収納、取り扱いおよび供給のための技術(ラックやカートを含む)が特に要求される。さらに、表面にフィルムや積層体を貼付する際に発生する剥離ライナー屑を適切かつ効率的に処理することも可能な技術が特に要求される。中でも、この考察が重要である1つの理由は、例えば、摩擦係数が低い剥離ライナーが最終的に床の上に捨てられた場合滑って転倒する危険があるということである。
【0009】
剥離ライナーを例えば接着性の名札から剥がして廃棄することは比較的平凡な工程である一方、接着層から剥離ライナーを剥がして廃棄する工程はシートサイズが大きくなるにつれて指数関数的に難しくなる。この難しさは、シートがロール状で提供される場合に特に顕著になる。従来のロール収納ラックを用いてフィルムおよび積層体の大きなシートから剥離ライナーを剥がすことはかなり難しいということが証明されている。複雑化の要因は、保護されていない接着層が最初に自身に付着するという煩わしさを回避しつつ表面に対するシートの貼付を容易とするため、ロールから所望のサイズ分を切り取った後のシートを載せるための、シート自体のサイズ以上のサイズのテーブルを通常使用できなければならない、ということである。また、この困難な工程は、通常複数の設置者(installers)による補助を必要とし、工程に伴う人件費が増大する。
【0010】
さらに、多層シートに含まれる接着層から剥離ライナーを剥がす際に、多層シートを保管するための適切な収容場所が必要である。また、シート中の接着層から剥離ライナーを一度剥がすと、露出された接着面が悪影響(例えば、汚れ、接着剤の表面損傷など)を受けないように注意が必要である。上述のように、物品の表面に貼付するために、
高分子フィルムからなる積層体を供給する場合、シートの接着層から剥離ライナーを剥がす際にしばしば起こる摩擦帯電のせいで、接着剤の広い表面領域を汚れやデブリ無しに保つことはほぼ不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【0012】
本発明の巻き出し用組立治具(unwind assembly fixture)は、物品の表面に対する高分子フィルムおよび高分子フィルム積層体の改良された貼付(application)を容易にする。このような治具は、積層体形状の高分子フィルムを物品の表面に貼付するための接着層を含む多層シートを供給するために特に有用である。このような接着層は、表面に高分子フィルム積層体が貼付される際に剥離ライナーが剥がされるまで、当該剥離ライナーにより保護されている。
【0013】
そのような治具の例示的な実施形態は、
第1および第2の長手方向延長支持バーと、
第1および第2の長手方向延長支持バーの上端に近接してそれぞれ配置された第1および第2のフィルムホルダーと、
第1および第2の長手方向延長支持バーの下端に近接してそれぞれ配置された第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構であって、前記第2のフィルムホルダー/ワインダー機構はロールからの多層シートの巻き出し(unwind of the multi-layered sheet)を容易にしており、前記第1のフィルムホルダー/ワインダー機構は、多層シートをロールから剥離した後の剥離ライナーの取り込みおよび再巻き取りを容易にしている、第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構と、および
第1および第2の長手方向延長支持バーに略平行に、かつ、第1の支持バーの反対側であって、物品の表面へ貼付する高分子フィルム積層体を供給する際に剥離ライナーが多層シートのロールから剥がされる地点に近接する側にある第2の支持バーから離間して配置された帯電防止装置と、を備える。
【0014】
本実施形態の好ましい態様によれば、上記巻き出し用組立治具は、可動リフトテーブルのように、車両にポータブルに搭載される。物品の表面に対する高分子フィルム積層体の効率的かつ効果的な貼付を支援するため、そのような車両は、高分子フィルムまたは積層体を物品に対して適切な高さおよび位置に維持するために必要に応じて移動され得る。
【0015】
本実施形態の他の好ましい態様によれば、前記巻き出し用組立治具の前記第1および第2のフィルムホルダーのうち少なくとも1つは調整可能である。このように調整可能であることにより、様々なコア径および様々な幅を有する多層シートのロールを収容できる。
【0016】
本実施形態のさらに他の好ましい態様によれば、第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構のうち少なくとも1つは、多層シートからの高分子フィルムまたは積層体の制御された供給を行うため、テンション・コントロール技術を利用する。これは、多層シートが巻き解かれて剥離ライナーが多層シートから剥がされた後に別のロールに取り込まれて再度巻き取られる際に、適切なレベルのテンションの発生を確実にすることにより達成される。
【0017】
本実施形態の他の好ましい態様によれば、上記治具は、剥離ライナーが多層シートから剥がされた直後、多層シートの露出した接着層に対して液体、蒸気、または気体を供給する供給機構(dispensing mechanism)を備える。
【0018】
物品の表面に対して高分子フィルムまたは積層体を貼付する際の摩擦帯電の低減に着目すれば、例示的な巻き出し用組立治具は、ロール状の多層シートを取り付けるためのフィルムホルダーと、多層シートをロールから巻き出す際に多層シートまたはその一部の幅に亘って延びる帯電防止装置と、を備える。本実施形態の好ましい態様によれば、前記帯電防止装置は、高分子フィルムまたは積層体の電気的接触のための電界を発生させる帯電防止バー(anti-static bar)を備える。本実施形態の他の好ましい態様によれば、前記帯電防止バーは、高分子フィルムまたは積層体に物理的に接触する。多層シートから剥離された剥離ライナーを収容するため、前記治具は、剥離ライナーが多層シートから剥離された後に、剥離ライナーを取り込んで再度巻き取るための第2のフィルムホルダーをさらに備える。
【0019】
本発明の巻き出し用組立治具は、物品の表面の少なくとも一部に対して高分子フィルムまたは積層体を貼付するための改良された方法において有用である。例示的な実施形態において、そのような方法は、上述の巻き出し用組立治具を準備することと、第2のフィルムホルダーと第2のフィルムホルダー/ワインダー機構との間に多層シートのロールを固定することと、ロールから多層シートを巻き出すことと、多層シートがロールから巻き出された後、多層シートから剥離ライナーを剥がすことと、剥がされた剥離ライナーを、第1のフィルムホルダー/ワインダー機構と第1のフィルムホルダーとの間に位置するロール上に取り込んで再度巻き付けることと、高分子フィルム積層体を物品の表面に貼付することと、を含む。
【0020】
本発明の治具および方法論を用いて、高分子フィルムおよび高分子フィルム積層体を様々な表面に対してより効率的かつ効果的に貼付することができる。例示的な実施形態では、当該表面は、例えば、貨物用コンテナ、船舶、および陸上乗用車の表面である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明に係る例示的な巻き出し用組立治具の正面右側斜視図。
【
図1G】
図1Aの例示的な巻き出し用組立治具の正面左側斜視図。
【
図1H】
図1Aの例示的な巻き出し用組立治具の裏面左側斜視図。
【
図1I】
図1Aの例示的な巻き出し用組立治具の裏面右側斜視図。
【
図2】高分子フィルムを自動車に貼付するために用いられる本発明の例示的な巻出し用組立治具の白黒写真。
【
図3】高分子フィルムを艇体に貼付するために用いられる本発明の例示的な巻き出し用組立治具の白黒写真。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の巻き出し用組立治具は、ロール状で提供される多層シートを物品の表面に適用するべく展開する(unroll)ために使用される。一実施形態では、この治具は多層シートの展開だけでなく、少なくとも一層の材料層を多層シートが表面に貼付される前に多層シートから剥がすことを容易にする。有利には、好ましい実施形態において、他の利点の中でも、巻き出し用組立治具は多層シートの供給および貼付を、摩擦帯電を抑えた状態で行うことができる。このような好ましい実施形態によれば、本発明の巻き出し用組立治具は、ロール状の多層シートを取り付ける機構と、ロールから多層シートを巻き出す際に多層シートまたはその一部の幅に亘って延びる帯電防止装置とを備える。多層シートのロールは、別の方向でもよいが、通常は巻き出し用組立治具に垂直または水平に懸架される。
【0023】
帯電防止装置は、物品の表面に適用される高分子フィルムまたはそれを含む積層体上の電荷を中和するための任意の好適な機構を備える。一実施形態において、帯電防止装置は電界を発生させる帯電防止バーを備えており、バー付近の空気分子が正負イオンに分解される。帯電防止装置は、高分子フィルムまたはそれを含む積層体と少なくとも電気的に接触し、実施形態によっては、物理的にも接触する。バー付近を通る帯電物質(すなわち、摩擦帯電した物質)は、その上の電荷が中和されるまで逆の電荷をもつイオンを引き付ける。このようにして、高分子フィルムまたはそれを含む積層体が、摩擦帯電に伴う従来の問題がなく物品の表面に貼付され得る。
【0024】
本発明の好ましい実施形態の他の態様によると、巻き出し用組立治具は、物品の表面に対する高分子フィルムまたはそれを含む積層体の貼付の前に多層シートから剥がされた少なくとも1つの層(例えば、剥離ライナー)を取り込んで巻き取るための機構をも備える。このような機構が存在する場合、当該機構は通常上述の層が剥がされる多層シートのロールの向きと同じ向きで(通常、垂直か水平に)懸架される。
【0025】
巻き出し用組立治具は、地面や床などに固定されて設置され得る。代替の実施形態では、巻き出し用組立治具は、トラックや手押し車〔例えば、可動リフトテーブル(
mobile lift table)〕のような車両に移動可能に設置される。
【0026】
図1Aから
図1Iは、本発明に係る例示的な巻き出し用組立治具を示す。
図1Aに示すように、巻き出し用組立治具100は、可動リフトテーブル102上に取り付けられている。可動リフトテーブル102は、第1および第2のフィルムホルダー108,110に対応してそれらの下に配置された第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構104,106を支持する。フィルムホルダー108,110とフィルムホルダー/ワインダー104,106のうちの少なくともどちらかは、異なる幅の多層シートのロールを収容するために垂直に調整可能であることが好ましい。例示的な実施形態では、第1および第2のフィルムホルダー108,110が垂直に調整可能であり、それぞれ、長手方向に延びる第1および第2の支持バー112,114上に位置する。
【0027】
一実施形態において、ロール状多層シートは、可動リフトテーブル102または他の高さ調整のための適切な方法を用いて、そこから高分子フィルムまたは積層体を供給して表面に貼付するための所望の高さに配置され得る。本実施形態の例示的な態様によれば、巻き出し用組立治具は、約15cmまで垂直に位置調整可能な可動リフトテーブルの上に取り付けられている。本実施形態のさらなる態様によれば、巻き出し用組立治具は、約30cmまで垂直に位置調整可能な可動リフトテーブルの上に取り付けられている。本実施形態のさらに他の態様によれば、巻き出し用組立治具は、約60cmまで垂直に位置調整可能な可動リフトテーブルの上に取り付けられている。従来の方法では、表面に対する効果的かつ効率的な貼付のために高分子フィルムまたは積層体を適切な高さに保持する追加の設置者、ひいては人件費、が必要であったが、有利なことに、上述の剥離ライナーが多層シートから巻き解かれる高さを調整する能力により、これら従来の必要条件を削減することができる。
【0028】
本実施形態のさらなる態様によれば、上記可動リフトテーブルは、高分子フィルムまたは積層体が徐々に後方へ配置される(incrementally dispensed behind)際に、カートに取り付けられた巻き出し用組立治具の前方への動きを促進する電動推進手段(motorized propulsion)を備える。従来の方法では、必要な長さの材料を一度にすべて巻き出すため、接着層が潜在的なデブリや他の問題となる要因に晒されていたが、可動リフトテーブル102は、貼付が進むにつれて前方に移動し、同時に比較的限定された量の材料のみを巻き出す(かつ接着層を露出させる)。これは、大きなシート(例えば、その長さが幅よりも大きい多層シート、特に、その幅が典型的な設置者のアームスパンより大きい多層シート)を貼付する場合に特に有利である。
【0029】
例示的な実施形態では、巻き出し用組立治具は、少なくとも60cmの幅を有するシートを供給および貼付するために構成される。さらなる例示的な実施形態では、巻き出し用組立治具は、少なくとも90cmの幅を有するシートを供給および貼付するために構成される。さらに他の例示的な実施形態では、巻き出し用組立治具は、少なくとも120cmの幅を有するシートを供給および貼付するために構成される。さらに他の例示的な実施形態では、巻き出し用組立治具は、少なくとも150cmの幅を有するシートを供給および貼付するために構成される。このような大きなシートのロールは、かなりの直径を有し得る。ある例示的な実施形態では、第2のフィルムホルダーは多層シートのロールを保持するために構成され、当該ロールは少なくとも約8cmのコア径を有する。さらなる例示的な実施形態では、第2のフィルムホルダーは多層シートのロールを保持するために構成され、当該ロールは少なくとも約16cmのコア径を有する。
【0030】
帯電防止装置116は、長手方向に延びる第1および第2の支持バー112,114と略平行に、高分子フィルムまたは積層体の供給および貼付中に剥離ライナーが多層シートから剥がれる地点に近接して配置される。さらなる実施形態では、供給機構(例えば、複数のノズルを含む線形マニホールド)を帯電防止装置116と略平行に配置する。この供給機構は、剥離ライナーが多層シートの接着層から剥がされた直後、露出した接着層に向かって液体、蒸気、または気体を供給する。このような液体、蒸気、または気体は、物品の表面に対する高分子フィルムまたは積層体のさらに効率的な貼付を容易にする。
【0031】
巻き出し用組立治具100の使用中に、多層シートはロール状態で第2のフィルムホルダー/ワインダー機構106に載置される。第2のフィルムホルダー/ワインダー機構106はテンション・コントロール装置を備える。このテンション・コントロール装置は、その上でフィルムが最小張力レベルに達するまで回転しない。このようなテンション・コントロール装置は、張力を制御するための任意の好適な機構を備える。例えば、空気式、電気式、および磁気式ブレーキや、一部のモーターでさえ、そのように張力を制御することができる。ブレーキは多層シートの意図しない展開(unrolling)を防止する。また、ブレーキは、適切な張力レベルの達成を確実にすることによって、シートからの高分子フィルムまたは積層体の制御された供給を可能にする。
【0032】
第1のフィルムホルダー/ワインダー機構104は、第2のフィルムホルダー/ワインダー機構106に近接して配置され、表面に貼付するために高分子フィルムまたは積層体を供給する際に多層シートから剥がされた(例えば、スクラップの)剥離ライナー
(release liner)を取り込んで除去コア(removal core)に再度巻き付けることを容易にする。例示的な実施形態では、第1のフィルムホルダー/ワインダー機構104は、テンション・コントロール状態でモーター駆動される、任意の好適なテンション・コントロール機構を備える。空気式、電気式、および磁気式クラッチが、第1のフィルムホルダー/ワインダー機構104のモーターによるトルクを制限するために使用され得る。または、クラッチを使用せずに張力を制御できるモーターもある。用いられた特別な機構にかかわらず、第1のフィルムホルダー/ワインダー機構104は、第2のフィルムホルダー/ワインダー機構106と第2のフィルムホルダー110との間に確実に配置された多層シートのロールから剥離ライナーが剥がされて巻き出されるにつれて剥離ライナー内で大きく成り得る張力を制限するように動作する。
一実施形態において、剥離ライナーが、第1のフィルムホルダー108と第1のフィルムホルダー/ワインダー機構104との間に確実に配置された除去コア(例えば、供給および貼付のための巻き出しの開始前は空のコア)に巻き直される際の張力は、第2のフィルムホルダー110と第2のフィルムホルダー/ワインダー機構106との間に確実に配置された多層シートのロールから剥離ライナーが最初に巻き出される際の最小張力より小さい。このように異なる張力は、多層シートからの剥離ライナーの最初の巻き出しを取り押さえることから巻き出しを防ぎ、このような現象は、高分子フィルムまたはその積層体を供給する際、(剥離ライナーの代わりに)多層シート全体が除去コア上に引っ張られるという結果となり得る。
【0033】
図2は、高分子フィルムまたはその積層体を自動車に貼付するために用いられる本発明の巻き出し用組立治具を示す。
図3は、高分子フィルムまたはその積層体を艇体に貼付するために用いられる本発明の巻き出し用組立治具を示す。図示のように、多層シートのロールが、一方のフィルムホルダー/ワインダー機構と対応するフィルムホルダーの間に、一方の支持バーに近接して垂直に配置される。設置者によりそのロールから多層シートが巻き解かれた際、剥離ライナーが高分子フィルムまたはその積層体から分離され、他方のフィルムホルダー/ワインダー機構と対応するフィルムホルダーの間に他方の支持バーに近接して垂直に配置されたロールに巻き取られる。図示の実施形態では、一方のロールからの巻き出しと同時に剥離ライナーが他方のロールに巻き取られる間、多層シートは帯電防止装置を通過し、帯電防止装置はその縦幅に亘って電気的かつ物理的に多層シートに接触する。代替の実施形態では、帯電防止装置は、高分子フィルムからなる多層シートから剥離ライナーが除去された後に、その縦幅に亘って電気的かつ物理的に高分子フィルムに接触する。
【0034】
本発明の巻き出し用組立治具およびそれに関連する方法は、幅広い種類の物品に対する高分子フィルムまたはそれを含む積層体の貼付に使用できる。用途は数多く広範囲に亘る。例示的な実施形態では、多層シートが貼付される物品は貨物用コンテナである。他の例示的な実施形態では、多層シートが貼付される物品は、船舶、特にその船体、例えば艇体である。さらに他の例示的な実施形態では、多層シートが貼付される物品は、自動車のような陸上乗用車である。本発明の巻き出し用組立治具は、剥離ライナーの制御された剥離を容易にし、高分子フィルムおよび積層体の貼付中における摩擦帯電問題による悪影響を軽減するだけでなく、物品の表面への改良された載置を容易にし、高分子フィルムまたはその積層体からなる大きなシート(例えば、その長さが幅よりも大きい多層シート、特に、その幅が典型的な設置者のアームスパンより大きい多層シート)の貼付に必要な設置者の数を低減できる。
【0035】
本発明の種々の修正および変更は、添付される特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者に明らかである。以下の特許請求の範囲の方法に記載される工程は、それらが記載された順番に実行されることを必ずしも必要としない。当業者であれば、それらが記載された順番から工程を実行する変形例を認識するであろう。また、ある特徴、工程、または構成についての言及または議論の欠如は、その存在しない特徴または構成が除外された請求項の基礎を、但し書きまたは同様のクレームの文言を介して提供する。
【0036】
さらに、本文全体で用いられているように、範囲は、その範囲内に含まれるそれぞれ個々の値を説明するための省略表現として用いられてもよい。その範囲内のどの値を範囲の末端として選択してもよい。同様に、その範囲内のどの離散値も、本発明の特徴の説明および主張において挙げられる最小または最大値として選択してもよい。
以下、本発明に含まれる態様を記す。
〔態様1〕高分子フィルム積層体からなる多層シートのロールから剥離ライナーを剥がした後に前記高分子フィルム積層体を物品表面に貼付するための巻き出し用組立治具であって、
第1および第2の長手方向延長支持バーと、
前記第1および第2の長手方向延長支持バーの上端に近接してそれぞれ配置された第1および第2のフィルムホルダーと、
前記第1および第2の長手方向延長支持バーの下端に近接してそれぞれ配置された、第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構であって、
ロールからの前記多層シートの巻き出しを容易にする第2のフィルムホルダー/ワインダー機構と、前記多層シートを前記ロールから剥離した後の前記剥離ライナーの取り込みおよび再巻き取りを容易にする第1のフィルムホルダー/ワインダー機構と、
前記第1および第2の長手方向延長支持バーに略平行に、かつ、前記第1の支持バーの反対側であって、前記物品の前記表面へ貼付する前記高分子フィルム積層体を供給する際に前記剥離ライナーが前記多層シートの前記ロールから剥がされる地点に近接する側にある前記第2の支持バーから離間して配置された帯電防止装置と、を備える巻き出し用組立治具。
〔態様2〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、車両にポータブルに搭載される、巻き出し用組立治具。
〔態様3〕態様2に記載の巻き出し用組立治具であって、当該治具が搭載される前記車両は可動リフトテーブルである、巻き出し用組立治具。
〔態様4〕態様3に記載の巻き出し用組立治具であって、前記可動リフトテーブルは約60cmまで垂直に位置変更可能である、巻き出し用組立治具。
〔態様5〕態様2に記載の巻き出し用組立治具であって、前記車両は、前記高分子フィルムまたはその積層体が徐々に後方に配置される際に前記巻き出し用組立治具の前方への移動を促進する電動推進手段を備える、巻き出し用組立治具。
〔態様6〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記第1および第2のフィルムホルダーのうち少なくとも1つが垂直に調整可能である、巻き出し用組立治具。
〔態様7〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記第1のフィルムホルダーは、前記多層シートの前記ロールを保持するよう構成され、前記ロールは少なくとも約8cmのコア径を有する、巻き出し用組立治具。
〔態様8〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記第1のフィルムホルダーは、前記多層シートの前記ロールを保持するよう構成され、前記ロールは少なくとも約16cmのコア径を有する、巻き出し用組立治具。
〔態様9〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構のうち少なくとも1つがモーター駆動である、巻き出し用組立治具。
〔態様10〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構のそれぞれがモーター駆動である、巻き出し用組立治具。
〔態様11〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記第2のフィルムホルダー/ワインダー機構により発生するトルクは、前記第1のフィルムホルダー/ワインダー機構を介して前記ロールから前記多層シートを巻き出すには不十分である、巻き出し用組立治具。
〔態様12〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記第1および第2のフィルムホルダー/ワインダー機構のうち少なくとも1つは、テンション制御のためのブレーキを用いる、巻き出し用組立治具。
〔態様13〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記剥離ライナーが前記多層シートから剥がされた直後、前記多層シートの露出した接着層に対して液体、蒸気、または気体を供給する供給機構をさらに備える、巻き出し用組立治具。
〔態様14〕態様13に記載の巻き出し用組立治具であって、前記供給機構は、複数のノズルを有する線形マニホールドを備える、巻き出し用組立治具。
〔態様15〕態様1に記載の巻き出し用組立治具であって、前記多層シートの前記ロールは、少なくとも約60cmの幅を有する、巻き出し用組立治具。
〔態様16〕物品の表面に高分子フィルムまたは積層体を貼付するための巻き出し用組立治具であって、
ロール状の多層シートを取り付けるためのフィルムホルダーと、
前記多層シートを前記ロールから巻き出す際に前記多層シートまたはその一部の幅に亘って延びる帯電防止装置と、を備える巻き出し用組立治具。
〔態様17〕態様16に記載の巻き出し用組立治具であって、前記帯電防止装置は、前記高分子フィルムまたは積層体の電気的接触のための電界を発生させる帯電防止バーを備える、巻き出し用組立治具。
〔態様18〕態様16に記載の巻き出し用組立治具であって、前記帯電防止バーは、前記高分子フィルムまたは積層体に物理的に接触する、巻き出し用組立治具。
〔態様19〕態様16に記載の巻き出し用組立治具であって、剥離ライナーが前記多層シートから剥離された後に前記剥離ライナーを取り込んで再度巻き取るための第2のフィルムホルダーをさらに備える、巻き出し用組立治具。
〔態様20〕態様16に記載の巻き出し用組立治具であって、前記フィルムホルダーは垂直に調整可能である、巻き出し用組立治具。
〔態様21〕物品の表面の少なくとも一部に対して高分子フィルムまたは積層体を貼付するための方法であって、
態様1の巻き出し用組立治具を用意することと、
前記第2のフィルムホルダーと前記第2のフィルムホルダー/ワインダー機構との間に前記多層シートの前記ロールを固定することと、
前記ロールから前記多層シートを巻き出すことと、
前記多層シートが前記ロールから巻き出された後、前記多層シートから前記剥離ライナーを剥がすことと、
剥がされた前記剥離ライナーを、前記第1のフィルムホルダー/ワインダー機構と前記第1のフィルムホルダーとの間に位置するロール上に取り込んで再度巻き付けることと、
前記高分子フィルム積層体を前記物品の前記表面に貼付することを含む、方法。
〔態様22〕態様21に記載の方法であって、前記物品は貨物用コンテナである、方法。
〔態様23〕態様21に記載の方法であって、前記物品は船舶である、方法。
〔態様24〕態様21に記載の方法であって、前記物品は陸上乗用車である、方法。