(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】医療用流体を運ぶための医療用ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/168 20060101AFI20240527BHJP
A61M 5/152 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A61M5/168 500
A61M5/152
(21)【出願番号】P 2021534352
(86)(22)【出願日】2020-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2020050218
(87)【国際公開番号】W WO2020148115
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】102019200399.0
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508240177
【氏名又は名称】ビー.ブラウン メルズンゲン アーゲー
【氏名又は名称原語表記】B.BRAUN MELSUNGEN AG
【住所又は居所原語表記】Carl-Braun-Str. 1, 34212 Melsungen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーステン ハセルベック
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/106408(WO,A1)
【文献】特開昭63-164961(JP,A)
【文献】特表2012-527587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/168
A61M 5/152
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用流体(4)を運ぶための医療用ポンプ装置(1)であって、
前記医療用流体(4)を受けて送達するためのポンプ容積(3)を形成するエラストマー膜(2)であって、
前記ポンプ容積(3)が前記医療用流体(4)で少なくとも部分的に満たされた充填状態において、前記エラストマー膜(2)は弾性的に拡張され、
弾性的に拡張された前記エラストマー膜(2)によって、流体伝導方式で前記ポンプ容積(3)に接続可能な医療用流体ラインシステム(7)に前記医療用流体(4)を送達するために、送達圧力(p)が前記ポンプ容積(3)に加えられる、前記エラストマー膜(2)と、
少なくとも1つのチャネル(11、11a~11c)を有するスロットル装置(10)であって、
前記チャネル(11、11a~11c)は、流体伝導方式で前記ポンプ容積(3)に接続される注入口(12)と、流体伝導方式で前記医療用流体ラインシステム(7)に接続可能な注出口(13)と、を有し、
前記少なくとも1つのチャネル(11、11a~11c)は、前記注出口(13)を通る前記医療用流体(4)の送達が、定義された流量(F)に製造時において微調整され得るように設計される、前記スロットル装置(10)と、
を備え、
前記スロットル装置(10、10c)は、少なくとも第1のボディ(14、14c)と、第2のボディ(15、15a~15c)と、を有し、前記少なくとも1つのチャネル(11、11a~11c)は、2つのボディ(14、14c、15、15a~15c)の対向して配置された表面(16、17)の間に形成され、前記表面(16、17)は、製造時の前記流量(F)の微調整のために、前記チャネル(11、11a~11c)の有効長さが可変となるように、互いに対して移動可能であり、
前記第1のボディ(14、14c)は、シリンダボア(18、18c)を有し、前記第2のボディは、シリンダ(15、15a~15c)の形態で設計され、前記シリンダ(15、15a~15c)は前記シリンダボア(18、18c)に嵌合され、前記チャネルは、前記シリンダボア(18、18c)と前記シリンダ(15、15a~15c)との間の半径方向(R)に少なくとも一連螺
旋(11、11a~11c)の形態で設計され
、
前記シリンダ(15、15a、15b)と前記シリンダボア(18、18c)とは、液密に締り嵌めされるように、半径方向に弾性のあるプレストレスがある状態で結合されることを特徴とする、医療用ポンプ装置(1)。
【請求項2】
前記チャネルは、少なくとも第1の螺旋の連(24a、24b)と第2の螺旋の連(25a、25b)を有する少なくとも二連螺
旋(11a、11b)の形態で設計されることを特徴とする、請求項1に記載の医療用ポンプ装置(1)。
【請求項3】
前記螺旋の連(24b、25b)は、互いに反対の巻回方向を有することを特徴とする、請求項2に記載の医療用ポンプ装置(1)。
【請求項4】
前記チャネル(11、11a~11c)は、前記シリンダボア(18c)の内側側面(I
)又は前記シリンダ(15、15a、15b)の外側側面(M)に配置された螺旋輪
郭(P、Pc)によって設計されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の医療用ポンプ装置(1)。
【請求項5】
前記輪郭(P、Pc)は、エンボス加工によって製造されることを特徴とする、請求項4に記載の医療用ポンプ装置(1)。
【請求項6】
前記輪郭(P、Pc)は、長方形(19)、三角形(20)、弓形(21)、放物線(22)、及び台形(23)からなる断面形状の群から選択される断面形状を有することを特徴とする、請求項4又は5に記載の医療用ポンプ装置(1)。
【請求項7】
前記シリンダ(15、15a、15b)は、寸法的に安定した材料(W)からなり、前記第1のボディ(14)は、前記シリンダボア(18)を有する可撓性ホース部分(S)を有することを特徴とする、請求項
1から6のいずれか一項に記載の医療用ポンプ装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用流体を運ぶための医療用ポンプ装置に関し、医療用ポンプ装置は、医療用流体を受けて送達するためのポンプ容積を形成するエラストマー膜であって、ポンプ容積が医療用流体で少なくとも部分的に満たされた充填状態において、エラストマー膜は弾性的に拡張され、弾性的に拡張された膜によって、ポンプ容積に流体伝導方式で接続可能な医療用流体ラインシステムに医療用流体を送達するために、送達圧力がポンプ容積に加えられる、エラストマー膜と、少なくとも1つのチャネルを有するスロットル装置であって、チャネルは、流体伝導方式でポンプ容積に接続される注入口と、流体伝導方式で医療用流体ラインシステムに接続可能な注出口と、を有し、少なくとも1つのチャネルは、注出口を通る医療用流体の送達が、定義された流量に製造時において微調整され得るように設計される、スロットル装置と、を備える。
【背景技術】
【0002】
この種の医療用ポンプ装置は、医学の分野で一般に知られており、点滴療法に使用するために提供される。この種のポンプ装置はまた、エラストマー注入ポンプまたは医療用エラストマーポンプと呼ぶこともできる。公知のポンプ装置は、医療用流体を受けて送達するためのポンプ容積を形成するエラストマー膜を有する。ポンプ容積を医療用流体で満たす間、膜は風船のように弾性的に拡張される。このようにして膨張された膜は、ポンプ容積に送達圧力を加える。送達圧力によって、医療流体は、流体伝導方式でポンプ装置に接続可能な、カテーテルラインの形態の、医療用流体ラインシステムに運ばれ得、患者に投与され得る。特に、医療用流体の過剰投与を回避するために、ここでは、医療用流体が特定の流量で送達されることが必要である。これを確実にするために、公知のポンプ装置には、規定の流量まで送達を抑えることを意図したスロットル装置が設けられている。この目的のために、スロットル装置は、注入口及び注出口を有するチャネルを有する。注入口は、流体伝導方式でポンプ容積に接続される。注出口は、流体伝導方式でカテーテルラインに接続可能である。公知のポンプ装置では、チャネルは、比較的小さな有効直径を有するホースの形態で設計され、従って、流動抵抗として作用する。送達圧力を発生させ、および/または流体を導くポンプ装置の構成要素は、必然的に公差の影響を受ける。これに伴い、送達圧力が公差に影響され、従って流量が公差に影響される。これらの公差を補正するために、既知のポンプ装置のチャネルは、注出口を通る医療用流体の送達が、規定された流量に製造時において微調整され得るように設計される。公知のポンプ装置では、チャネルは、この目的のために材料を除去して機械加工される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、冒頭に述べた種類のポンプ装置であって、従来技術と比較して改善された特性を有し、特に、製造時に、流量をより改善して微調整できるポンプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、スロットル装置が、少なくとも第1のボディと、第2のボディと、を有し、少なくとも1つのチャネルは、2つのボディの対向して配置された表面の間に形成され、表面は、製造時の流量の微調整のために、チャネルの有効長さが可変となるように、互いに対して移動可能であることによって達成される。本発明による解決策によって、特に、製造時の流量の微調整のために、材料を除去してチャネルの機械加工を行うことを省略することが可能である。このような、材料を除去する機械加工中、材料の粒子が発生する。これらの粒子は、ポンプ装置を汚染し、ポンプ装置の使用中に医療用流体ラインシステムに入り、究極的には患者の健康に危険をもたらすことがあり、従って、流量が微調整された後に注意深く除去されなければならない。本発明による解決策によって、これを行う必要はない。その代わりに、本発明による解決策によって、対向して配置された表面の製造時における相対移動によって、チャネルの有効長さ、ひいては流動抵抗をシンプルに変化させることができる。結果として生じるチャネルの長さの変化は、特に材料を除去する機械加工プロセスとは対照的に、可逆的である。すなわち、有効長さを短くした後、必要に応じて有効長さを再び長くすることができ、逆もまた同様である。従って、製造中に生じる廃棄材料を回避することができる。本発明の意味において、製造時の微調整とは、ポンプ装置の製造中または製造後の別個の方法ステップにおいて公差を補正するために、流量が個別に規定値に調整されることを意味する。対照的に、使用準備が整ったときのポンプ装置の後の状態では、流量は調整不可能であることが好ましい。流量の微調整のために、互いに対向して配置された表面は、直線移動、旋回移動、および/または回転移動で、互いに対して移動可能であり得る。第1のボディおよび第2のボディについても同様である。第1の表面は、第1のボディに割り当てられる。第2の表面は、第2のボディに割り当てられる。チャネルは、部分的に第1の表面によって、および部分的に第2の表面によって円周方向に縁取られている。チャネルの有効長さは、注入口と注出口の間のチャネルの軸方向に沿って延びる。有効長さは、油圧有効長さとも呼ばれ得、医療用流体が沿って送達されるチャネルの長さである。チャネルは、任意の所望の形態、特に直線、平坦または空間的に湾曲した形態、螺旋状または渦巻状に延在することができる。
【0005】
本発明の一実施形態では、第1のボディは、シリンダボアを有し、第2のボディは、シリンダの形態で設計され、シリンダはシリンダボアに嵌合され、チャネルは、シリンダボアとシリンダとの間の半径方向に少なくとも一連螺旋(single-flight helix)の形態で設計される。螺旋は、スクリューまたは円筒螺旋とも呼ばれ得る。従って、本発明のこの実施形態では、チャネルは、シリンダおよび/またはシリンダボアの周りに、好ましくは一定のピッチで巻回される。これは、コンパクトな設置スペースでチャネルの比較的長い有効長さが得られるという意味で、本発明の特に有利な実施形態である。これによって、例えば、直線的なチャネルに関連して、同じスロットル作用に対して、チャネルの直径を比較的大きくすることができる。このようにして、特に非常に小さな直径を有するチャネルにおいて起こり得る流体-力学界面現象(fluid-dynamic interface phenomena)を回避することが可能である。このような望ましくない界面現象は、特に、所望の流量に達する前でさえ、医療用流体の送達の開始が遅れることおよび/または送達が予定より早く止まってしまうことにつながり得る。この状況は、本発明のこの実施例によって打ち消すことができる。シリンダボアは、円形状シリンダボアであることが好ましい。シリンダは円形シリンダであることが好ましい。螺旋は、好ましくは、少なくとも1つの螺旋の連(helical flight)を有し、この意味では、2つ、3つ、または4つの螺旋の連、またはこれよりもさらに多くの数の螺旋の連を有することもできる。したがって、螺旋は、少なくとも1つの螺旋の連を有する。しかし、螺旋は、2つ、3つ、4つ、または任意の数の螺旋の連を有することもできる。流量の微調整のために、シリンダおよびシリンダボアは、軸方向および/または円周方向に互いに対して移動可能である。チャネルは、シリンダボアの内側の側面によって部分的に、およびシリンダの外側の側面によって部分的に、円周方向に縁取られていることが好ましい。従って、本発明のこの実施形態では、互いに対向して配置される表面は、シリンダボアの内側側面と、シリンダの外側側面と、である。
【0006】
本発明のさらなる実施形態では、チャネルは、少なくとも第1の螺旋の連および第2の螺旋の連を有する少なくとも二連螺旋(double-flight helix)の形態で設計される。従って、本発明のこの実施形態では、チャネルの形状は、二重螺旋、二重ねじ、または二重円筒螺旋とも呼ばれ得る。第1の螺旋の連は第1の巻回方向を有する。第2の螺旋の連は第2の巻回方向を有する。第1の巻回方向および第2の巻回方向は、互いに反対であってもよいし、同じ向きであってもよい。第1の螺旋の連は第1のピッチを有する。第2の螺旋の連は第2のピッチを有する。第1のピッチと第2のピッチは、寸法が同じであってもよいし、異なってもよい。第1の螺旋の連と第2の螺旋の連とが同じ巻回方向と同じピッチを有していれば、第1の螺旋の連と第2の螺旋の連とは交点を形成せず、この意味では互いに離れている。そうでなければ、特に巻回方向が逆の場合には、螺旋の連は交点を形成し、この意味では相互に接続される。本発明のこの実施形態は、特に、達成されるべき微調整という背景に対してチャネルの流体特性の適合性を改善することができる。
【0007】
本発明のさらなる実施形態では、螺旋の連は、互いに反対の巻回方向を有する。例えば、第1の螺旋の連は左巻きとすることができ、第2の螺旋の連は右巻きとすることができ、またはその逆にできる。螺旋の連は、ここでは交点を形成する。これは、チャネルの閉塞の可能性に関して特に有利である。例えば異物等によって引き起こされ得るこのようなチャネルの閉塞の場合、医療用流体は、交点によって閉塞を越えて運ばれ得る。この結果、チャネルのスロットル作用は、このような閉塞があっても比較的小さい影響しか受けない。
【0008】
本発明のさらなる実施形態では、チャネルは、シリンダボアの内側側面および/またはシリンダの外側側面に配置された螺旋輪郭(profiling)によって設計される。輪郭は、くぼみ輪郭、および/または隆起輪郭の形態で設計され得る。例えば、輪郭は、内側側面及び/又は外側側面に導入された輪郭溝の形態で設計することができる。輪郭は、製造工学の領域で主に知られている方法を使用して、材料の除去または成形によって設計され得る。例えば、輪郭は、エンボス加工、エッチング、研削等によって設計され得る。輪郭は、任意の所望の断面形状を有することができる。輪郭は、好ましくは、チャネルの円周方向に少なくとも部分的に開いている。
【0009】
本発明のさらなる実施形態では、輪郭は、エンボス加工によって製造される。この目的に適した方法は、主に、例えばスクリュー製造の領域で知られている。本発明のこの実施例によって、特に、チャネルの設計における狭い寸法公差を遵守することが可能である。これは、流量の微調整に関して特に有利である。
【0010】
本発明のさらなる実施形態では、輪郭は、長方形、三角形、弓形、放物線および台形からなる断面形状の群から選択される断面形状を有する。前述の断面形状は、チャネルの流動特性に関して有利であることが証明されている。
【0011】
本発明のさらなる実施形態では、シリンダとシリンダボアとは、液密に締り嵌め(fluid-tight interference fit)されるように、半径方向に弾性のあるプレストレスがある状態で結合される。シリンダとシリンダボアとの間の液密な締り嵌めは、望ましくない漏れを打ち消し、医療用流体がチャネルに沿って機能的に正しい方法で送達されることを確実にする。この実施形態では、シリンダが寸法的に安定した材料から作られ、かつ、シリンダボアが可撓性材料から作られ、またはその逆である場合に、有利であることが証明されている。材料のこの風変りなペアリングによって、弾性のあるプレストレスがある状態が特に簡単な方法で得られる。
【0012】
本発明のさらなる実施形態では、シリンダは、寸法的に安定した材料からなり、第1のボディは、シリンダボアを有する可撓性ホース部分を有する。特に、対応する材料特性を有する金属、ガラスまたはプラスチックを、寸法的に安定した材料として選択することができる。可撓性ホース部分は、弾力性のあるプラスチックから作られることが好ましい。これにより、シリンダとシリンダボアとの間を特に有利に液密締り嵌めできることが分かっている。
【0013】
本発明のさらなる利点および特徴は、特許請求の範囲、および図面を参照して説明される本発明の好ましい例示的実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】点滴療法に使用するために提供され、スロットル装置を有する、本発明による医療用ポンプ装置の実施形態の、大幅に簡略化された概略図を示す。
【
図2】
図1のポンプ装置のスロットル装置の、大幅に簡略化された概略的かつ部分的に切り取られた詳細図を示し、スロットル装置は、特に、シリンダの形態の第2のボディを有する。
【
図3】
図1および
図2のスロットル装置用シリンダのさらなる実施形態の大幅に簡略化された概略詳細図を示す。
【
図4】
図1および
図2のスロットル装置用シリンダのさらなる実施形態の大幅に簡略化された概略詳細図を示す。
【
図5】
図1及び
図2のスロットル装置のチャネルの異なる断面形状を示し、いずれの場合も大幅に簡略化及び切り取られた概略断面図を示す。
【
図6】
図2の視点における、
図1のポンプ装置のためのスロットル装置のさらなる実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1によれば、医療用ポンプ装置1は、外来患者および/または入院患者の点滴療法において、医療用流体4を送達するために提供される。医療用ポンプ装置1はまた、エラストマー注入ポンプまたは医療用エラストマーポンプと呼ぶこともできる。
【0016】
医療用ポンプ装置1は、医療用流体4を受けて送達するためのポンプ容積3を形成するエラストマー膜2を有する。本ケースでは、医療用流体は、液体の薬剤であり、これ以上詳細には定義されない。
図1を参照すると、医療用ポンプ装置1は、充填状態で示されている。この充填状態において、エラストマー膜2は、医療用流体4の機械的作用のために、風船のように柔軟に拡張される。
図1では、エラストマー膜2は、描画上の理由から、壁の厚が誇張されて示されている。対照的に、膜2が医療用流体4で満たされていない状態では、膜2はたるんでいるか、またはいずれにしても弾性的拡張の度合いが低い。ポンプ容積3または膜2を医療用流体4で充填するために、再閉鎖可能な充填ノズル5が設けられ、これは、一般に知られている液密方式で膜2に取り付けられる。
【0017】
弾性的に拡張されたエラストマー膜2は、ポンプ容積3に送達圧力pを加える。このようにして生成された送達圧力pによって、医療用流体4は、一般に公知の方法で、かつ流体伝導方式でエラストマー膜2に接続された通路ノズル6を介して、ポンプ容積3から、流体伝導方式でポンプ装置1に接続された医療用流体ラインシステム7に送達され得る。
図1において、医療用流体ラインシステム7は、大幅に簡略化された概略的かつ部分的に切り取られた破線図でのみ示されている。この場合、医療流体ラインシステムは、公知の中心静脈カテーテルの患者ライン7であり、それを通して医療用流体4が患者に投与され得る(図面には詳細には示されていない)。この場合、ポンプ装置1は、通路ノズル6から出発して、ホースライン8を介して患者ライン7に流体伝導方式で接続可能である。このために、端部がポンプ容積3に向かうホースライン8は、本ケースでは非開放的に通路ノズル6に接続されている。その反対側の端部において、ホースライン8は流体コネクタ9を有する。この場合、流体コネクタは、公知のルアーアタッチメント9の形態で設計される。ルアーアタッチメント9は、患者ライン7の相補的なルアーアタッチメントに接続するために設けられている。図面に示されていない実施形態では、流体コネクタ9は、NRFitアタッチメントの形態で設計されてもよい。
【0018】
この場合、医療用ポンプ装置1は、患者が身体に容易に装着することができ、特に外来患者治療の状況において、外部エネルギー供給なしで使用することができるような寸法にされる。したがって、医療用ポンプ装置1は軽量で寸法的にコンパクトであり、この場合、ポンプ容積3は、400mlの呼び寸法を有する。言うまでもなく、ポンプ容積3はこれとは異なっていてもよく、例えば、50ml~750mlの呼び寸法で寸法決めされていてもよい。
【0019】
特に、医療用流体4の過剰投与を防ぐために、送達圧力pを適切にスロットル調整することが必要である。この目的のために、医療用ポンプ装置1は、更にスロットル装置10を有する。本ケースでは、スロットル装置10は、ポンプ容積3の外側のホースライン8の領域に配置されるが、必ずしもそうでなくてもよい。図面に詳細に示されていない実施形態では、スロットル装置10は、例えば、ポンプ容積3または通路ノズル6に一体化されてもよい。スロットル装置10はチャネル11を有し、これは、
図1に大幅に簡略化された概略図で示されている。チャネルは、注入口12および注出口13を有する。本ケースでは、注入口12は、ホースライン8および通路ノズル6を介して、流体伝導方式でポンプ容積3に接続されている。本ケースでは、注出口13は、ホースライン8及び流体コネクタ9を介して、流体伝導方式で患者ライン7に接続されている。
【0020】
特に、エラストマー膜2は、その製造から生じる寸法公差が生じ得る。エラストマー膜2の材料の特性もまた、特定の公差が生じ得る。これらの公差によって、送達圧力pが公差に影響され、したがって、医療用流体4の送達が公差に影響される。これは医療の観点から望ましくなく、というのも、医療用ポンプ装置1で投与され得る医療用流体4の流量Fはできるだけ正確に達成しなければならないからである。これを確実にするために、チャネル11は、注出口13を通る医療用流体4の送達が、製造時において、規定された流量Fに微調整され得るように設計される。従って、製造時においてチャネル11によって微調整することによって、特に、エラストマー膜2の寸法公差または材料公差が補正され得る。スロットル装置10のさらなる構造的及び機能的特徴は、特に
図2から見ることができる。
【0021】
スロットル装置10は、第1のボディ14と第2のボディ15とを有している。チャネル11は、2つのボディ14,15の対向して配置された表面16、17の間に形成される。第1の表面16は、第1のボディ14に割り当てられる。第2の表面17は、第2のボディ15に割り当てられている。流量Fを微調整し、従って上述した公差補正に効果を及ぼすために、2つの面16、17は、チャネル11の有効長さが可変となるように互いに対して移動可能である。チャネル11の有効長さ(より詳細には定義されていない)は、注入口12と注出口13との間を延びる。チャネル11の有効長さが小さいほど、流動抵抗が小さくなり、したがって医療用流体4の送達に対するスロットル作用が小さくなる。チャネル11の有効長さが長ければ長いほど、流動抵抗が大きくなり、したがって医療用流体4の送達に対するスロットル作用が大きくなる。従って、有効長さの減少は微調整を目的として流量Fを増やすことができ、逆に、有効長さの増加は微調整を目的として流量Fを減少させることができる。流量Fの微調整のために、本ケースの第2のボディ15は、第1のボディ14に対して軸方向Aに動かされる。
図2から分かるように、これは、表面16、17の間に形成されるチャネル11の有効長さを変化させ、したがって、チャネル11の流動抵抗を変化させる。
図2に見られる構成から出発して、第2のボディ15が、
図2の図面平面において軸方向Aにより下方に移動される場合、チャネル11の有効長さが増加する。この目的のために、第2のボディ15が逆方向に上方に移動される場合、チャネル11の有効長さが減少する。この場合、上述の有効長さの適合、すなわち微調整は、製造時に、したがって別個の製造および/または組み立てステップで行われる。対照的に、ポンプ装置1が使用可能な状態にある場合のチャネル11の有効長さの適合は、本ケースでは提供されない。
【0022】
本ケースでは、第1のボディ14はシリンダボア18を有し、第2のボディはシリンダ15の形態で設計され、シリンダボア18に嵌合される。チャネルは、シリンダボア18とシリンダ15との間の半径方向Rで少なくとも一連螺旋11の形態で設計される。螺旋11は、スクリューまたは円筒状螺旋とも呼ばれ得る。チャネル11のこの設計により、比較的コンパクトな構造体積でチャネル11の有効長さを長くすることができる。例えば、注入口12と注出口13との間を軸方向Aに直線状に延びる流路と比較して、同じ流動抵抗のまま、したがって同じスロットル作用のまま、有効断面積を比較的大きくすることができる。このようにして、非常に小さい有効直径に関連し得る界面現象を打ち消すことができる。特に、チャネルが螺旋11の形態で設計されているので、上記の界面現象によって送達の開始が遅れることおよび/または送達が予定より早く止まってしまうことを回避することが可能である。
【0023】
本ケースでは、シリンダボア18は円形シリンダとして設計される。従って、シリンダ15は円形シリンダである。螺旋11は、シリンダ15の全長にわたって、軸方向Aに対するピッチ(これ以上詳細には定義されない)を有して、円周方向にコイル状に延びている。この場合、螺旋11は一定のピッチを有する。
【0024】
本ケースでは、チャネル11は螺旋輪郭Pによって設計されており、この螺旋輪郭Pは、本ケースでは、シリンダ15の外側側面M上に配置されている。輪郭Pは、長方形の断面形状(
図5a))を有し、エンボス加工によって製造される。このために、シリンダ15は、製造工学の領域でよく知られている方法によってエンボス加工することができる、寸法的に安定した材料Wから製造される。
【0025】
図5a)に見られるような長方形19の形態の断面形状以外に、更なる断面形状が代替的に可能であり、
図5b)~5e)に更に示される。従って、輪郭Pは、代替的に、三角形20、弓形21、放物線22、または台形23の形態の断面形状を有することができる。
【0026】
第1のボディ14は、可撓性ホース部分Sを有し、その中をシリンダボアが延びる。シリンダボア18は、少なくとも半径方向Rに柔軟な弾性を有するように設計されている。シリンダ15とシリンダボア18との間に液密な締り嵌めが得られるように、シリンダ15は、シリンダボア18の半径方向に弾性のあるプレストレスを受けながらシリンダボア18内に押圧される。これは、医療用流体4がチャネル11に沿って機能的に正しい方法で送達され、例えば、シリンダ15の外周を越えて押し出されないことを保証する。
【0027】
図3は、シリンダ15の代わりにシリンダボア18内に嵌合することができるシリンダ15aのさらなる実施例を示す。シリンダ15aは、その設計的特徴及び機能的特徴の点で、シリンダ15に実質的に対応している。繰り返しを避けるために、シリンダ15に関連する開示が参照され、この開示は、シリンダ15aに対応して適用される。シリンダ15aとシリンダ15との間の相違点のみを後述する。シリンダ15とは対照的に、チャネル11aが設けられている。チャネルは、二連螺旋11aの形態で設計され、第1の螺旋の連24aおよび第2の螺旋の連25aを有する。第1の螺旋の連24aは、第1の巻回方向(より詳細には記載されていない)を有する。第2の螺旋の連25aは、第2の巻回方向(より詳細には記載されていない)を有する。2つの巻回方向は対応する。さらに、螺旋の連24a、25aは同一のピッチを有する。螺旋11aの二連構成によって、特に、チャネル11aが不必要に閉塞されることを防止することができる。例えば、螺旋の連24aが異物によって詰まった場合、医療用流体は、依然としてさらなる螺旋の連25aに沿って送達され得、逆もまた同様である。
【0028】
図4は、シリンダ15bのさらなる実施例を示す。繰り返しを避けるために、シリンダ15およびシリンダ15aに関連する開示を再び参照し、その開示の各々は、シリンダ15bに対応して適用される。シリンダ15bとシリンダ15aとの間の相違点のみを後述する。シリンダ15bは、第1の螺旋の連24bおよび第2の螺旋の連25bを有するように設計された二連螺旋11bの形態のチャネルを有する。螺旋の連24b、25bは、互いに反対の巻回方向を有する(より詳細には記載されていない)。このようにして、螺旋の連24b、25bは、交点26bを形成する。このように、螺旋の連24bは、流体伝導方式で互いに接続される。
【0029】
図6は、スロットル装置10cを大幅に簡略化した模式図を示す。スロットル装置10cは、
図1による医療用ポンプ装置1のスロットル装置10の代わりに用いることができる。スロットル装置10cは、その設計や機能上、スロットル装置10に大きく対応している。したがって、繰り返しを避けるために、スロットル装置10に関連する開示を参照し、この開示は、スロットル装置10cに対応して適用される。スロットル装置10cは、チャネル11cを有する。このチャネルは、シリンダボア18cとシリンダ15cとの間の一連螺旋11cの形態で設計されている。シリンダ15cは、螺旋11cをより良く示すために、描画上の理由から軸方向に短く示されている。チャネル11とは対照的に、チャネル11cは、シリンダボア18cの内側側面I上に配置された輪郭Pcによって形成されている。従って、輪郭Pcは、内側側面Iにエンボス加工されている。この場合の輪郭Pcは、
図5c)による弓形21の形態の断面形状を有するが、必ずしもそうである必要はない。弓形21の代わりに、
図5によるさらなる断面形状または他の種類の断面形状を設けることもできる。
以下の項目は、国際出願時の特許請求の範囲に記載の要素である。
(項目1)
医療用流体(4)を運ぶための医療用ポンプ装置(1)であって、
前記医療用流体(4)を受けて送達するためのポンプ容積(3)を形成するエラストマー膜(2)であって、
前記ポンプ容積(3)が前記医療用流体(4)で少なくとも部分的に満たされた充填状態において、前記エラストマー膜(2)は弾性的に拡張され、
弾性的に拡張された前記エラストマー膜(2)によって、流体伝導方式で前記ポンプ容積(3)に接続可能な医療用流体ラインシステム(7)に前記医療用流体(4)を送達するために、送達圧力(p)が前記ポンプ容積(3)に加えられる、前記エラストマー膜(2)と、
少なくとも1つのチャネル(11、11a~11c)を有するスロットル装置(10)であって、
前記チャネル(11、11a~11c)は、流体伝導方式で前記ポンプ容積(3)に接続される注入口(12)と、流体伝導方式で前記医療用流体ラインシステム(7)に接続可能な注出口(13)と、を有し、
前記少なくとも1つのチャネル(11、11a~11c)は、前記注出口(13)を通る前記医療用流体(4)の送達が、定義された流量(F)に製造時において微調整され得るように設計される、前記スロットル装置(10)と、
を備え、
前記スロットル装置(10、10c)は、少なくとも第1のボディ(14、14c)と、第2のボディ(15、15a~15c)と、を有し、前記少なくとも1つのチャネル(11、11a~11c)は、2つのボディ(14、14c、15、15a~15c)の対向して配置された表面(16、17)の間に形成され、前記表面(16、17)は、製造時の前記流量(F)の微調整のために、前記チャネル(11、11a~11c)の有効長さが可変となるように、互いに対して移動可能であることを特徴とする、医療用ポンプ装置(1)。
(項目2)
前記第1のボディ(14、14c)は、シリンダボア(18、18c)を有し、前記第2のボディは、シリンダ(15、15a~15c)の形態で設計され、前記シリンダ(15、15a~15c)は前記シリンダボア(18、18c)に嵌合され、前記チャネルは、前記シリンダボア(18、18c)と前記シリンダ(15、15a~15c)との間の半径方向(R)に少なくとも一連螺旋(single-flight helix)(11、11a~11c)の形態で設計されることを特徴とする、項目1に記載の医療用ポンプ装置(1)。
(項目3)
前記チャネルは、少なくとも第1の螺旋の連(24a、24b)と第2の螺旋の連(25a、25b)を有する少なくとも二連螺旋(double-flight helix)(11a、11b)の形態で設計されることを特徴とする、項目2に記載の医療用ポンプ装置(1)。
(項目4)
前記螺旋の連(24b、25b)は、互いに反対の巻回方向を有することを特徴とする、項目3に記載の医療用ポンプ装置(1)。
(項目5)
前記チャネル(11、11a~11c)は、前記シリンダボア(18c)の内側側面(I)及び/又は前記シリンダ(15、15a、15b)の外側側面(M)に配置された螺旋輪郭(profiling)(P、Pc)によって設計されていることを特徴とする、項目2から4のいずれか一項に記載の医療用ポンプ装置(1)。
(項目6)
前記輪郭(P、Pc)は、エンボス加工によって製造されることを特徴とする、項目5に記載の医療用ポンプ装置(1)。
(項目7)
前記輪郭(P、Pc)は、長方形(19)、三角形(20)、弓形(21)、放物線(22)、及び台形(23)からなる断面形状の群から選択される断面形状を有することを特徴とする、項目5又は6に記載の医療用ポンプ装置(1)。
(項目8)
前記シリンダ(15、15a、15b)と前記シリンダボア(18、18c)とは、液密に締り嵌め(fluid-tight interference fit)されるように、半径方向に弾性のあるプレストレスがある状態で結合されることを特徴とする、項目2から7のいずれか一項に記載の医療用ポンプ装置(1)。
(項目9)
前記シリンダ(15、15a、15b)は、寸法的に安定した材料(W)からなり、前記第1のボディ(14)は、前記シリンダボア(18)を有する可撓性ホース部分(S)を有することを特徴とする、項目8に記載の医療用ポンプ装置(1)。