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特許7494199B型肝炎ウイルスコア関連抗原のイムノアッセイ及びそのためのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルスコア関連抗原のイムノアッセイ及びそのためのキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/576 20060101AFI20240527BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20240527BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
G01N33/576 B
C07K16/08 ZNA
C12P21/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021549030
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036213
(87)【国際公開番号】W WO2021060450
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019176474
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大植 千春
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】青柳 克己
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/014871(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/111620(WO,A1)
【文献】特表2003-515327(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107279(WO,A1)
【文献】田中靖人ほか,B型肝炎ウイルスコア関連抗原(HBcrAg)測定法の基礎的・臨床的検討,モダンメディア,2008年,54(12),347-352
【文献】Tran Nhu Duong et al.,Comparison of Genotypes C and D of the Hepatitis B Virus in Japan:A Clinical and molecular Biological Study,Journal of Medical Virology,2004年,72,551-557
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/576
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルスコア関連抗原をイムノアッセイする方法であって、イムノアッセイに用いる抗体として、少なくとも1種のB型肝炎ウイルスジェノタイプDのコア関連抗原と特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片であって、配列番号3の31~48番アミノ酸配列から成るペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いる、方法。
【請求項2】
イムノアッセイに用いる抗体として、B型肝炎ウイルスジェノタイプCのコア関連抗原と特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をさらに用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イムノアッセイが、B型肝炎ウイルスコア関連抗原と特異的に結合する第1の抗体及び第2の抗体を含むサンドイッチ法であって、
前記第1の抗体が固相に結合した捕捉用抗体であり、前記第2の抗体が標識物質と結合した検出用抗体であり、
前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方がB型肝炎ウイルスジェノタイプDのコア関連抗原と特異的に結合する前記モノクローナル抗体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の抗体を含む溶液が水溶性高分子を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
被検試料を界面活性剤、酸性化剤及びアルカリ性物質から成る群より選ばれる少なくとも1種を含む前処理液で前処理する請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理液が、還元剤をさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
イムノアッセイするB型肝炎ウイルスコア関連抗原が、ジェノタイプDのB型肝炎ウイルスコア関連抗原である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
イムノアッセイするB型肝炎ウイルスコア関連抗原が、ジェノタイプE又はFのB型肝炎ウイルスコア関連抗原である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
B型肝炎ウイルスコア関連抗原をイムノアッセイするためのキットであって、イムノアッセイに用いる抗体として、B型肝炎ウイルスジェノタイプDのコア関連抗原と結合反応するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片であって、配列番号3の31~48番アミノ酸配列から成るペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含む、キット。
【請求項10】
イムノアッセイに用いる抗体として、B型肝炎ウイルスジェノタイプCのコア関連抗原と特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をさらに用いる請求項9記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルスコア関連抗原(以下、「HBcrAg」と呼ぶことがある)のイムノアッセイ及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス(以下、「HBV」と呼ぶことがある)は、直径約42nmの球状のDNAウイルスであり、Dane粒子とも呼ばれる。ウイルスの外側は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)からなるエンベロープで構成され、内側はB型肝炎ウイルスコア抗原(HBcAg)からなるコア粒子と不完全環状二本鎖DNAからなる遺伝子で構成される。HBVは、肝細胞に侵入すると、ウイルス遺伝子が肝細胞の核内に移動し、不完全環状二本鎖DNAは、完全閉鎖二本鎖DNA(cccDNA)に転換される。cccDNAからは4種のmRNAが転写され、それらよりHBsAg、HBcAgまたはp22cr抗原(以下、「p22crAg」と呼ぶことがある)、B型肝炎ウイルスe抗原(以下、「HBeAg」と呼ぶことがある)及び逆転写酵素が翻訳される。mRNAの一部はprogenomic RNAとしてHBcAgから形成されるコア粒子に取り込まれ、そこで逆転写酵素の働きによりDNAが合成される。DNAを含むコア粒子がHBsAgより形成されるエンベロープに包まれて、Dane粒子となり、血中に放出される。Dane粒子の血中放出以外に、HBsAg、中空粒子、及びHBeAgが放出される。ここでいう中空粒子は、DNAが存在しない粒子であって、エンベロープ中にp22crAgが取り込まれることで形成される。HBcrAgは、HBcAg、HBeAg及びp22crAgの総称であり、これらは、共通してHBV DNAのC遺伝子領域にコードされている。
【0003】
血液等の被検試料中のHBcrAgの検出は、B型肝炎ウイルスの検査方法の1つとして実用化されている(特許文献1)。
【0004】
血液等の被検試料中のHBcrAgを測定するにあたり、試料中に元から存在する、HBcrAgを認識する抗体の影響による低値化を低減するため、被検試料を前処理することも知られている(特許文献2)。前処理方法としては、被検試料をドデシル硫酸ナトリウム(以下、「SDS」ということがある)のような界面活性剤又は酸で処理し、さらに加熱する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2002/014871A
【文献】WO2005/111620A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているモノクローナル抗体を用いた、日本で実用化されている公知の方法では、日本人に多いB型肝炎ウイルス(以下、「HBV」と呼ぶことがある)ジェノタイプであるジェノタイプCと特異的に結合するモノクローナル抗体が用いられている。しかしながら、この方法では、欧州やインドに多い、HBVジェノタイプD(以下、「HBV gen.D」と呼ぶことがある)の検出感度が低いという問題がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、公知の方法よりもHBV gen.Dの検出感度が高い新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、HBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体を抗体として用いることにより、HBV gen.Dの検出感度を向上させることが可能ではないかと考えた。しかしながら、HBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体はこれまでに作出されていない。本願発明者らは、HBV gen.Dのコア抗原を遺伝子工学的手法により作出し、これをマウスに免疫して作出したハイブリドーマにより、HBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体を創製することに成功し、このモノクローナル抗体を、被検試料中のHBcrAgのイムノアッセイのための抗体の一部として用いることにより、HBV gen.Dの検出感度が向上することを実験的に確認して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1) B型肝炎ウイルスコア関連抗原をイムノアッセイする方法であって、イムノアッセイに用いる抗体として、少なくとも1種のB型肝炎ウイルスジェノタイプDのコア関連抗原と特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片であって、配列番号3の31~48番アミノ酸配列から成るペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いる、方法。
(2) イムノアッセイに用いる抗体として、B型肝炎ウイルスジェノタイプCのコア関連抗原と特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をさらに用いる(1)に記載の方法。
(3) 前記イムノアッセイが、B型肝炎ウイルスコア関連抗原と特異的に結合する第1の抗体及び第2の抗体を含むサンドイッチ法であって、
前記第1の抗体が固相に結合した捕捉用抗体であり、前記第2の抗体が標識物質と結合した検出用抗体であり、
前記第1の抗体及び前記第2の抗体の少なくとも一方がB型肝炎ウイルスジェノタイプDのコア関連抗原と特異的に結合する前記モノクローナル抗体である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記第2の抗体を含む溶液が水溶性高分子を含む、(3)に記載の方法。
(5) 被検試料を界面活性剤、酸性化剤及びアルカリ性物質から成る群より選ばれる少なくとも1種を含む前処理液で前処理する(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 前記前処理液が、還元剤をさらに含む(5)に記載の方法。
(7) イムノアッセイするB型肝炎ウイルスコア関連抗原が、ジェノタイプDのB型肝炎ウイルスコア関連抗原である(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) イムノアッセイするB型肝炎ウイルスコア関連抗原が、ジェノタイプE又はFのB型肝炎ウイルスコア関連抗原である(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
(9) B型肝炎ウイルスコア関連抗原をイムノアッセイするためのキットであって、イムノアッセイに用いる抗体として、B型肝炎ウイルスジェノタイプDのコア関連抗原と結合反応するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片であって、配列番号3の31~48番アミノ酸配列から成るペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含む、キット。
(10) イムノアッセイに用いる抗体として、B型肝炎ウイルスジェノタイプCのコア関連抗原と特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をさらに用いる(9)記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、HBV gen.DのHBcrAgを高感度で検出できる新規なイムノアッセイが初めて提供された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】HBcAg、HBeAg及びp22crAgのアミノ酸配列構造の関係概略図である。
図2】本発明の方法の実施例において測定した、2つの試験例における各種検体についての測定結果の相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法に用いるHBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体は、下記実施例に詳述する方法により作出することが可能である。すなわち、下記実施例では、HBV gen.Dの感染患者の血液からDNAを回収し、HBcrAgをコードする領域をPCRにより増幅し、大腸菌に導入して遺伝子工学的にHBcrAgを生産し、これをマウスに免疫して常法によりハイブリドーマを作出し、HBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これからHBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体を回収することによりHBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体を得ることができる。下記実施例では、この方法によりHB124及びHB135と命名した2種類のハイブリドーマが得られたので、HBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体は再現性をもって作出可能であることが確認された。また、下記実施例で得られたHB124及びHB135が産生するモノクローナル抗体は、いずれも、配列番号3の31~48番アミノ酸配列に含まれる領域をエピトープとするものである。なお、配列番号3の31~48番アミノ酸配列から成るペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体であれば、配列番号3の31~48番アミノ酸配列に含まれる領域をエピトープとするモノクローナル抗体であると判断できる。また、本明細書及び特許請求の範囲において、「特異的に結合する」とは抗原抗体反応するという意味である。
【0013】
本発明のイムノアッセイにおいては、用いる抗体は、HBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体のみでもよいが、他のジェノタイプのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体をも用いることが好ましい。これにより、ジェノタイプDのみならず、ジェノタイプD以外のジェノタイプのHBcrAgについても高感度で検出が可能となる。例えば、日本において実用化されている方法では、日本人に多いジェノタイプCと特異的に結合するモノクローナル抗体が用いられているが、本発明では、ジェノタイプCと特異的に結合するモノクローナル抗体に加えて、ジェノタイプDと特異的に結合するモノクローナル抗体を用いることが好ましい。そのようにすれば、日本人に多いジェノタイプCも、欧州人やインド人に多いジェノタイプDも高感度に検出することができる。
【0014】
HBV gen.CのHBcAgのアミノ酸配列を配列番号1に、HBV gen.CのHBeAgのアミノ酸配列を配列番号2に示す。なお、配列番号2の1~10番目のアミノ酸は、図1のHBeAgのアミノ酸配列の-10~-1番目に、11~159番目のアミノ酸は、1~149番目に相当する。HBV gen.DのHBcAgのアミノ酸配列のうち、アミノ酸No.1-149を配列番号3に示す。HBcAg、HBeAg及びp22crAgのアミノ酸配列構造の関係概略図を図1に示す。また、実施例で創製されたハイブリドーマHB124及びHB135が産生するモノクローナル抗体が認識するエピトープを含む領域を配列番号4に示す。ジェノタイプCとジェノタイプDでは、このエピトープ中のN末端から数えて10番目のアミノ酸(以下、「10aa」と記載。他も同様)が、ジェノタイプCではGluであるが、ジェノタイプDではAspであり、これ以外は両者で同じである。
【0015】
なお、上記のとおり、配列番号3は、HBV gen.DのHBcAgのアミノ酸配列のうち、アミノ酸No.1-149であるが、配列番号3の31~48番アミノ酸配列は、HBV gen.DのMinor配列であり、HBV gen.E及びHBV gen.FのMajor配列でもある。したがって、本発明のモノクローナル抗体のエピトープを含む領域である配列番号3の31~48番アミノ酸配列は、HBV gen.E及びHBV gen.FのMajor配列中の配列でもある。したがって、本発明のモノクローナル抗体は、HBV gen.E及びHBV gen.Fにも特異的に結合する。このことは、下記実施例においても実験的に確認されている。このため、本発明の方法によれば、欧州やインドにおけるHBV感染者に多いジェノタイプD、ならびに欧州や南米におけるHBV感染者に多いジェノタイプEおよびジェノタイプFも高感度に検出することができる。
【0016】
本発明のイムノアッセイにおいては、上記した各モノクローナル抗体自体を用いることもできるし、各モノクローナル抗体に代えて、又は各モノクローナル抗体と共に、それらの抗原結合性断片を用いてもよい。抗体の抗原結合性断片は、全長抗体の一部であり、例えば、定常領域欠失抗体(例、F(ab’)、Fab’、Fab、Fv)が挙げられる。抗体はまた、単鎖抗体等の改変抗体であってもよい。
【0017】
HBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体として、少なくとも上記した、HBV gen.D、E及びFのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体を用いる点以外は、本発明のイムノアッセイは、周知のイムノアッセイと同様にして行うことができる。すなわち、このようなイムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法が挙げられる。また、このようなイムノアッセイとしては、例えば、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、免疫比濁法(TIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。これらのイムノアッセイ自体は周知であり、ここで詳しく述べる必要はないが、それぞれ簡単に説明する。
【0018】
直接競合法は、測定すべき標的抗原(本発明ではHBcrAg)に対する抗体を固相に固定化し(固相化)、非特異吸着を防ぐためのブロッキング処理(血清アルブミン等のタンパク質溶液で固相を処理)後、この抗体と、前記標的抗原を含む被検試料と、一定量の標識した抗原とを反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。被検試料中の抗原と標識抗原とが、抗体に対して競合的に結合するので、被検試料中の抗原量が多いほど、固相に結合する標識の量が少なくなる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量(標識の性質に応じて、吸光度、発光強度、蛍光強度等、以下同じ)を測定して、抗原濃度を横軸、標識量を縦軸にとった検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。直接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、US20150166678Aに記載されている。
【0019】
間接競合法では、標的抗原(本発明ではHBcrAg)を固相化する。次いで、固相のブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料と、一定量の抗標的抗原抗体とを混合し、前記固相化抗原と反応させる。洗浄後、固相に結合された前記抗標的抗原抗体を定量する。これは、前記抗標的抗原抗体に対する標識した二次抗体を反応させ、洗浄後、標識量を測定することにより行うことができる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化されて標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。なお、標識二次抗体を用いずに、標識した一次抗体を用いることも可能である。間接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、上記したUS20150166678Aに記載されている。
【0020】
サンドイッチ法は、抗標的抗原抗体を固相化し、ブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料を反応させ、洗浄後、標的抗原に対する標識した二次抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。サンドイッチ法において、固相化した抗体を「捕捉用抗体」、標識した抗体を「検出用抗体」とも称する。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。サンドイッチ法自体はこの分野において周知であり、例えば、US20150309016A1に記載されている。
【0021】
上記した各種イムノアッセイのうち、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)、放射イムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)は、上記した直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法等を行う際に用いる標識の種類に基づいて分類したイムノアッセイである。化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)は、標識として酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、AMPPD)を用いた、イムノアッセイである。酵素イムノアッセイ法(EIA)は、標識として酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ等)を用いるイムノアッセイである。各酵素の基質としては、吸光度測定等により定量可能な化合物が用いられる。例えば、ペルオキシダーゼの場合には、1,2-フェニレンジアミン(OPD)や3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン(TMB)等、アルカリフォスファターゼの場合には、p-ニトロフェニルフォスフェート(pNPP)等、β-ガラクトシダーゼの場合には、MG:4-メチルウンベリフェリルガラクトシド、NG:ニトロフェニルガラクトシド等、ルシフェラーゼの場合には、ルシフェリン等が用いられる。放射イムノアッセイ(RIA)は、標識として放射性物質を用いる方法であり、放射性物質としては、H、14C、32P、35S、125I等の放射性元素が挙げられる。蛍光イムノアッセイ(FIA)は、標識として蛍光物質または蛍光タンパク質を用いる方法であり、蛍光物質または蛍光タンパク質としては、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質等が挙げられる。これらの標識を用いるイムノアッセイ自体はこの分野において周知であり、例えば、US8039223BやUS20150309016A1に記載されている。
【0022】
免疫比濁法(TIA)は、測定すべき標的抗原(本発明ではHBcrAg)と、該抗原に対する抗体との結合により生成された抗原抗体複合物により濁度が増大する現象を利用したイムノアッセイである。抗標的抗原抗体溶液に、種々の既知濃度の抗原を添加し、それぞれ濁度を測定し、検量線を作成する。未知の被検試料について、同様に濁度を測定し、測定された濁度を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。免疫比濁法自体は周知であり、例えば、US 20140186238 A1に記載されている。ラテックス凝集法は、免疫比濁法と類似しているが、免疫比濁法における抗体溶液に代えて、表面に抗標的抗原抗体を固定化したラテックス粒子の浮遊液を用いる方法である。免疫比濁法及びラテックス凝集法自体はこの分野において周知であり、例えば、US 7,820,398 Bに記載されている。
【0023】
イムノクロマトグラフィー法は、ろ紙、セルロースメンブレン、ガラス繊維、不織布等の多孔性材料で形成された基体(マトリックスやストリップとも呼ばれる)上で上記したサンドイッチ法や競合法を行う方法である。例えば、サンドイッチ法によるイムノクロマトグラフィー法の場合、抗標的抗原抗体を固定化した検出ゾーンを上記基体上に設け、標的抗原を含む被検試料を基体に添加し、上流側から展開液を流して標的抗原を検出ゾーンまで移動させ、検出ゾーンに固定化させる。固定化された標的抗原を、標識した二次抗体でサンドイッチして、検出ゾーンに固定化された標識を検出することにより、被検試料中の標的抗原を検出する。標識二次抗体を含む標識ゾーンを検出ゾーンよりも上流側に形成しておくことにより、標的抗原と標識二次抗体との結合体が検出ゾーンに固定化される。標識が酵素の場合には、酵素の基質を含めた基質ゾーンも検出ゾーンよりも上流側に設けられる。競合法の場合には、例えば、検出ゾーンに標的抗原を固定化しておき、被検試料中の標的抗原と、検出ゾーンに固定化された標的抗原とを競合させることができる。検出ゾーンよりも上流側に標識抗体ゾーンを設けておき、被検試料中の標的抗原と標識抗体を反応させ、未反応の標識抗体を検出ゾーンに固定化して標識を検出又は定量することにより、被検試料中の標的抗原を検出又は定量することができる。イムノクロマトグラフィー法自体は、この分野において周知であり、例えばUS 6210898 Bに記載されている。
【0024】
上記した各種イムノアッセイのうち、検出感度及び自動化の容易性の観点から、サンドイッチ法、特に、固相として磁性粒子を用い、標識として酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD))を用いるイムノアッセイである化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)が好ましい。
【0025】
HBcAgは、分子間S-S結合を有し、HBeAgは分子内S-S結合を有しており、これらのS-S結合により所定の立体構造を維持している。これらの抗原を高感度にイムノアッセイするためには、これらのS-S結合を切断して抗原を直線化し、抗原と自己抗体とを解離させることが望まれるため、HBcrAgの検出のために、被検試料(検体)を前処理することが好ましい。以下、この前処理及び前処理後のイムノアッセイにおける反応工程と検出工程について説明する。
【0026】
1.前処理工程
本発明の方法は、生体試料と抗体とを反応させる免疫反応により生体試料中に存在するHBcrAgを測定する方法であるが、免疫反応(反応工程)の前に、生体試料と界面活性剤、酸性化剤又はアルカリ性物質を含む前処理液とを混和することによる前処理工程を含むことが好ましい。前処理液は、酸性化剤又はアルカリ性物質と、界面活性剤とを含んでもよい。前処理工程により、生体試料中に元々存在するHBcrAgに特異的に結合する抗体の影響による、HBcrAgの低値化を低減することができる。また、HBcAgは、分子間S-S結合を有し、HBeAgは分子内S-S結合を有しており、これらのS-S結合により所定の立体構造を維持している。これらの抗原をイムノアッセイするためには、これらのS-S結合を切断して抗原を直線化(リニアエピトープ化)することが望まれる。したがって、前処理には、S-S結合を切断する還元剤が含まれることが好ましい。即ち、前処理液は、(1)界面活性剤、酸性化剤又はアルカリ性物質と、(2)還元剤を含むことが好ましい。
【0027】
前記前処理工程において混和する生体試料と前処理液の体積比は、1:10~10:1、特に1:5~5:1、さらに1:3~3:1とすることが好ましい。本発明で用いられる生体試料は、HBcrAgを含有し得る試料であれば特に限定されず、例えば、血液試料(血清、血漿、全血)、尿、便、口腔粘膜、咽頭粘膜、腸管粘膜および生検試料、腸管試料、肝臓試料)が挙げられる。好ましくは、生体試料は、血液試料であり、より好ましくは血清または血漿である。
【0028】
前処理液は、界面活性剤、酸性化剤又はアルカリ性物質に加えて、さらに還元剤を含むことが好ましい。前処理液に含まれる還元剤の好ましい例としては、2-ジエチルアミノエタンチオール(DEAET)、トリス (2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、イミダゾール、システイン、システアミン、ジメチルアミノエタンチオール、ジエチルアミノエタンチオール、ジイソプロピルアミノエタンチオール、ジチオスレイトール等を挙げることができる。還元剤の濃度としては、生体試料との混和液の終濃度として0.5~100mM、特に1.0~50mM、さらに2.0~20mMとすることが好ましい。
【0029】
前処理液には、必要に応じて、尿素、チオ尿素等、他のタンパク変性剤が含まれていてもよい。変性剤の濃度は、処理時濃度で0.1M以上が好ましく、さらに0.5M以上4M未満が好ましい。また、前処理液には、処理効果を増強させるために、単糖類、二糖類、クエン酸、及びクエン酸塩類のいずれか、またはこれらを組合せて添加してもよい。さらに、前処理液には、EDTA等のキレート剤が含まれていてもよい。
【0030】
前処理条件は、大別して、1.酸性化剤を主成分として含む前処理液を使用する系(酸性化前処理系)と、2.SDS等の界面活性剤を主成分として含む前処理液を使用する系(界面活性剤前処理系)と、3.アルカリ性物質を主成分として含む前処理液を使用する系(アルカリ性前処理系)の3種類の系に分けられ、これらの何れかを選択可能である。以下、それぞれの前処理系について分けて記載する。
【0031】
1-1.酸性化前処理
酸性化前処理系において、前処理液に含まれる酸性化剤としては、塩酸、硫酸、酢酸等を好適に使用できる。酸性化剤を使用する場合、前処理液の酸の規定度は、前処理時の濃度として、0.01N以上、特に0.02N以上0.5N以下、さらに0.05N以上0.4N以下とすることが好ましい。酸の規定度を0.01N以上とすることで、前処理の効果が十分に得ることが可能である。
【0032】
酸性化前処理においては、生体試料との混和時に沈澱が生じないよう、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の種類としては、陽イオン性、両イオン性、非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0033】
陽イオン性界面活性剤としては、特に炭素数10個以上の一本鎖アルキル基と、第3級アミンまたは第4級アンモニウム塩を同分子中に有している陽イオン性界面活性剤が好ましい。このような界面活性剤の例としては、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(C16TAC)、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(C16TAB)、ラウリルピリジニウムクロライド、テトラデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド等が挙げられる。陽イオン界面活性剤の添加量は、検体との混和時の濃度で0.01%以上1%以下が好ましく、さらに、0.01%~0.5%が好ましい。
【0034】
なお、本明細書中で記載される「%」の濃度は、特に記載のない限り、重量/体積(w/v)の濃度表示である。
【0035】
非イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton(登録商標)X-100等)、Tween(登録商標)20、Tween 80、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij(登録商標)35等)等を挙げることができる。
【0036】
両イオン性界面活性剤の例としては、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート(CHAPS)、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(C12APS)、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(C14APS)、N-ヘキサデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(C16APS)などが挙げられる。
【0037】
前処理工程は、生体試料と前処理液を単に混和し、混合液を室温又は加熱下で所定時間放置することにより行うことができる。必要に応じて、撹拌、振とうなどを行ってもよい。特に、混合液は、加熱することが好ましい。加熱温度は、例えば25℃~45℃であり、好ましくは30℃~40℃である。前処理時間は、1分以上、特に3分以上、さらに5分以上とすることが好ましい。前処理時間の上限は特に存在しないが、60分以下でよい。
【0038】
1-2.界面活性剤前処理
界面活性剤前処理系において、前処理液に含まれる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、及び陽イオン界面活性剤から成る群より選ばれる少なくとも1種であってよい。特に、陰イオン性界面活性剤を主成分として含むことが好ましい。使用可能な非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、及び陽イオン性界面活性剤の例は、上記1-1に例示したものと同様である。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、N-ラウロイルサルコシンナトリウム(NLS)、ドデシル硫酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム (SDBS)、デオキシコール酸等を挙げることができる。SDSを使用する場合は、生体試料と混和した混和液の前処理時の濃度として、0.1~12.5%、特に0.25~10%、さらに0.5~7.5%とすることが好ましい。SDSの濃度を0.1~10%とすることで、抗原を検体中の抗体から十分に遊離させるとともに、SDSの析出等を生じにくい、という効果を奏する。
【0039】
前処理液が陰イオン性界面活性剤を上記濃度で含有する場合、感度向上の観点から、さらに非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤から成る群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を含むことが好ましい。非イオン性界面活性剤の濃度は、前処理時の終濃度で0.01%~5%が好ましく、さらに0.05%~5%が好ましい。両イオン性界面活性剤の終濃度は、0.01%~5%が好ましい。
【0040】
上記陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤の混合液に陽イオン界面活性剤を加えることもできる。陽イオン界面活性剤の濃度は、0.01%~1%が好ましい。
【0041】
界面活性剤前処理においては、生体試料と前処理液を単に混和し、混合液を室温又は加熱下で放置または撹拌、振とうすることにより行うことができる。混合液は、加熱することが好ましい。加熱温度は、例えば35℃~95℃であり、好ましくは60℃~80℃である。前処理時間は、1分以上であればよく、上限は特に存在しないが、60分以下でよい。
【0042】
1-3.アルカリ性前処理
アルカリ性前処理系において、前処理液に含まれるアルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を好適に使用できる。前処理液のアルカリ性物質の規定度は、前処理時の終濃度として、0.05N超0.5N以下、特に0.1N以上0.4N以下とすることが好ましい。アルカリ性物質の規定度を0.05N超0.5N以下とすることで、前処理の効果が十分に得られ、かつ、後段の反応工程への影響を最小化することが可能である。
【0043】
アルカリ性前処理においては、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の種類としては、非イオン性、両イオン性、陰イオン性界面活性剤が挙げられる。これにより、後述するイムノアッセイの感度をさらに向上させることができる。使用可能な非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、及び陰イオン性界面活性剤の例は、上記1-1及び上記1-2に例示したものと同様である。
【0044】
前処理工程は、生体試料と前処理液を単に混和し、混合液を室温又は加熱下で所定時間放置することにより行うことができる。必要に応じて、撹拌、振とうなどを行ってもよい。特に、混合液は、加熱することが好ましい。加熱温度は、例えば25℃~45℃であり、好ましくは30℃~40℃である。前処理時間は、1分以上、特に3分以上、さらに5分以上とすることが好ましい。前処理時間の上限は特に存在しないが、60分以下でよい。
【0045】
2.反応工程
本発明の方法の上記前処理工程で得られた生体試料混和液は、次いでイムノアッセイの反応工程に供される。反応工程においては、生体試料混和液中の抗原をHBcrAgに対する抗体と反応させる。生体試料混和液は、HBcrAgに対する抗体と反応させる前に、緩衝液と混和してもよい。上記前処理工程において、酸性化剤又はアルカリ性物質を主成分として含む前処理液を使用する場合は、生体試料混和液は、HBcrAgに対する抗体と反応させる前に、緩衝液と混和することが好ましい。なお、HBcrAgのイムノアッセイ自体は、上記したとおり種々の方法が周知であり、HBcrAgを定量可能ないずれのイムノアッセイをも採用することができる。
【0046】
前記緩衝液としては、例えば、MES緩衝液、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液をベースとしたものが挙げられる。前処理液として界面活性剤を含有するものを使用した場合には、未反応の界面活性剤を吸収するために、例えば、BSA、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)デキストラン硫酸ナトリウム等の水溶性高分子を前処理後の混和液と混合した際の終濃度で0.01~10.0%、特に0.05~5.0%程度含む緩衝液を使用することが好ましい。前処理工程の混和液と緩衝液との混合は、体積比で、1:10~10:1、特に1:5~5:1、さらに1:3~3:1とすることが好ましい。
【0047】
本発明の方法で使用されるHBcrAgに対する抗体は、上記したとおりである。HBcrAgに対する抗体は、固相化されていてもよい。本明細書において、固相化された抗体を、単に固相化抗体ということがある。固相としては、例えば、液相を収容または搭載可能な固相(例、プレート、メンブレン、試験管等の支持体、及びウェルプレート、マイクロ流路、ガラスキャピラリー、ナノピラー、モノリスカラム等の容器)、ならびに液相中に懸濁または分散可能な固相(例、粒子等の固相担体)が挙げられる。固相の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、金属、及びカーボンが挙げられる。固相の材料としてはまた、非磁性材料、又は磁性材料を用いることができるが、操作の簡便性等の観点から、磁性材料が好ましい。固相は、好ましくは固相担体であり、より好ましくは磁性固相担体であり、さらにより好ましくは磁性粒子である。抗体の固相化方法としては、従前公知の方法を利用することができる。このような方法としては、例えば、物理的吸着法、共有結合法、親和性物質(例、ビオチン、ストレプトアビジン)を利用する方法、及びイオン結合法が挙げられる。特定の実施形態では、HBcrAgに対する抗体は、固相に固相化された抗体であり、好ましくは、磁性の固相に固相化された抗体であり、より好ましくは、磁性粒子に固相化された抗体である。
【0048】
反応工程は、前処理工程の混和液と緩衝液とを混合する場合、混和後に固相化した抗体に接触させてもよく、緩衝液中に例えば粒子上に固相化した抗体を予め入れて粒子液とし、前記混和液と粒子液とを混合させてもよい。反応工程は、例えば免疫凝集法や競合法のように一次反応工程のみで実施してもよいが、サンドイッチ法のように二次反応工程を設けてもよい。なお、二次反応工程を設ける場合、一次反応工程と二次反応工程の間に、未反応成分を除去するための洗浄工程を設けてもよい。
【0049】
HBcrAgに対する抗体は、標識物質で標識化されていてもよい。本明細書において、標識物質で標識化された抗体を、単に標識化抗体ということがある。標識物質としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジン、ビオチン)、蛍光物質またはタンパク質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光又は吸光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウム、ルテニウム)、放射性物質(例、H、14C、32P、35S、125I)が挙げられる。また、本発明の方法では二次反応を設ける場合、二次反応に用いる抗体としては、このような標識物質で標識化されていてもよい。
【0050】
このような標識物質で標識された抗体を含む溶液(以下、「標識体液」と呼ぶことがある)に水溶性高分子を含ませることにより、検出感度がさらに向上させることができるので好ましい。水溶性高分子としては、デキストラン、アミノデキストラン、フィコール(商品名)、デキストリン、アガロース、プルラン、各種セルロース(例えば、ヘミセルロースやリグリン等)、キチン、キトサン、β―ガラクトシダーゼ、サイログロブリン、ヘモシアニン、ポリリジン、ポリペプチド及びDNA、並びにこれらの修飾体(例えば、DEAE Dextranやデキストラン硫酸ナトリウム等)を挙げることができる。これらのうち、多糖類であるフィコール(商品名)、デキストラン及びアミノデキストラン並びにこれらの修飾体が好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、イムノアッセイの感度の観点及び水溶性であるという観点から、6千~400万が好ましい。標識体液中の水溶性高分子の濃度は、特に限定されないが、検出感度の観点から、標識体液全体に対して通常、0.5%~10%、好ましくは、1%~8%である。
【0051】
特定の実施形態では、本発明の方法は、二次反応に用いる抗体として、HBcrAgに対する抗体と異なるエピトープを認識するHBcrAgに対する別の抗体(二次抗体)を含む。HBcrAgに対するモノクローナル抗体により認識されるエピトープと、HBcrAgに対する別の抗体により認識されるエピトープとの組合せは、特に限定されない。このような別の抗体の使用は、例えば、サンドイッチ法が利用される場合に好ましい。二次抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、再現性の観点からモノクローナル抗体が好ましい。
【0052】
3. 検出工程
一次抗体又は二次抗体に標識を用いた場合、使用する標識に適した方法、例えば酵素標識を用いた場合は酵素の基質を添加することによって、検出する。例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)を標識抗体として用いた場合は、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を酵素基質として用いた化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)の系とすることができる。
【0053】
本発明は、また、上記した本発明のイムノアッセイを実施するためのキットをも提供する。当該キットは、上記した、HBV gen.DのHBcrAgと特異的に結合するモノクローナル抗体を含む。該モノクローナル抗体は、磁性粒子等に固相化されていてもよく、また、標識化されていてもよい。好ましい実施形態では、該モノクローナル抗体は、磁性粒子等に固相化されている。好ましい実施形態では、本発明のキットは、採用されるイムノアッセイの種類に応じた構成を有していてもよい。例えば、サンドイッチ法が採用される場合、本発明のキットは、i)上記前処理液、ii)HBcrAgに対するモノクローナル抗体、iii)緩衝液、並びに任意の構成成分として、iv)HBcrAgに対する別の抗体、v)標識物質、vi)希釈液、及び、必要に応じて、vii)標識物質と反応する基質を含んでいてもよい。ii)及びiii)の構成成分は、同一溶液に含まれていてもよい。iv)の構成成分は、v)標識物質で標識化されていてもよい。好ましくは、HBcrAgに対する抗体は、磁性粒子に固相化されていてもよい。
【0054】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1 B型肝炎ウイルスコア関連抗原(HBcrAg)ジェノタイプDに反応するモノクローナル抗体の構築
(1-1)HBVコア関連抗原の発現および精製
(A)HBc抗原発現プラスミドの構築
HBVジェノタイプD(HBV gen.D)のコア領域に相当する発現プラスミドは以下の方法で構築した。 HBV gen.D患者血清100μLをDNA抽出液100μL 〔1M Tr is- HC1 (pH8.4)が 10μL, 250mM EDTAが8μL,10%SDSが40μL, 5M NaClが 8μL,20mg/mL ProteinaseKが10μL, tRNA(5μg/μL)が 1μL,滅菌水が23μL〕と混合させ、54℃、30分間保温した。200μLのフェノール ・ クロロホルム(1:1)溶液を加えて混合し、15,000rpmで5分間の遠心分離の後、上清を取り出し150μLのイソプロパノールと7μLの5M NaClを加えて-20℃で1時間静置した。15,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、沈殿物を70%エタノールでリンスし、15,000rpm、4℃で再度5分間遠心分離した。沈殿物を自然乾燥させ、20μLの滅菌水に溶解させてHBV DNA溶液とした。
【0056】
このHBV DNA溶液の5μLを2つのプライマー(5'-gaattcatggacattgacccgtataaa-3'(配列番号5)、5'-ggatcctaacattgagattcccgaga-3'(配列番号6))を用いPCRを行った。PCRはGeneAmpTM (DNA Amplification Reagent Kit,Perkin Elmer Cetus製)のキッ卜を用いDNA変性95℃1分、アニーリング 55℃1分、DNA合成72℃1分の条件で行い、得られたDNA断片を0.8%アガロースゲル電気泳動により分離し、グラスパウダー法(GeneClean)で精製した。このPCRにより増幅された遺伝子断片は、HBcrAgのコアの領域をコードするものである。この増幅されたHBc遺伝子断片0.5μgを制限酵素反応液20μL〔50mM Tris-HCl(pH7.5),10mM MgCl,1mM ジチオスレイトール,100mM NaCl,15単位のEooRIおよび15単位のBamHI酵素〕中で37℃で1時間消化し、その後0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、約570bpのEooRI-BamHI断片を精製した。次に発現ベクターであるpATrpのDNA 0.5μgを制限酵素反応液20μL〔50mM Tris- HCl(pH7.5),10mM MgCl,1mM ジチオスレイトール,100mM NaCl,15単位のEooRIおよび15単位のBamHI酵素〕中で37℃で1時間消化し、その反応液に水39μLを加え、70℃で5分間熱処理した後にバクテリアアルカリ性ホスファターゼ(ΒΑΡ)1μL(250単位/μL)を加えて37℃で1時間保温した。
【0057】
この反応液にフェノールを加えてフェノール抽出を行い、得られた水層をエタノール沈殿し、沈殿物を乾燥した。得られたEcoRI-BamHI処理ベクターDNA 0.5μgと上述のHBc 570bp断片を10×リガーゼ用緩衝液 〔660mM Tris-HCl(pH7.5),66mM MgCl,100mMジチオスレイトール,1mM ATP〕5μL、Τ4リガーゼ1μL(350単位/μL)に水を加えて50μLとし、16℃で一晩保温し、連結反応を行なった。発現プラスミドpATrp-HBcを得るために、この連結反応液を用いて大腸菌HB101を形質転換した。
【0058】
形質転換に用いる感受性大腸菌株は塩化カルシウム法〔Mandel,M.とHiga, A. , J. Mol. Biol., 53, 159-162(1970)〕により作られる。形質転換大腸菌を25μg/mLのアンピシリンを含むLBプレート(1%トリプトン、0.5%NaCl,l.5%寒天)上に塗布し、37℃に一晩保温した。プレート上に生じた菌のコロニーを1白金耳取り、25μg/mLのアンピシリンを含むLB培地に移し、一晩37℃で培養した。
【0059】
1.5mLの菌培養液を遠心して集菌し、プラスミドDNAのミニプレパレーションアルカリ法〔Manniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,(1982)〕によりDNA抽出を行った。得られたプラスミドDNA 1μLを制限酵素反応液20μL〔50mM Tris-HCl(pH7.5),10mM MgCl,1mM ジチオスレイトール、100mM NaCl,15単位のEooRIおよび15単位のBamHI酵素〕中で37℃で1時間消化し、アガロースゲル電気泳動を行って、約570bpのEcoRI-BamHI断片が生じるpATrp-HBc発現プラスミドを選別した。
【0060】
(B)HBc gen.D抗原をコードするポリペプチドの発現および精製
発現プラスミドpATrp-HBcをもつ大腸菌HB101株を50μg/mLのアンピシリンを含む3mLの2YT培地(1.6%トリプトン、1%酵母エキス、0.5% NaCl)に接種し、37℃で9時間培養した。この培養液1mLを50μg/mLのアンピシリンを含む100mLのM9-CA培地(0.6% NaHP0,0.5% KHP0,0.5% NaCl,0.1% NHCl,0.1mM CaCl,2mM MgS04, 0.5% カザミノ酸,0.2% グルコース)に植え継ぎ、37℃で培養した。OD600=0.3の時に終濃度40mg/Lになるようにインドールアクリル酸を加え、さらに16時間培養した。この培養液を5,000rpm、10分間遠心分離して菌体を集めた。
【0061】
菌体に20mLの緩衝液A〔50mM Tris-HCl(pH8.0),lmM EDTA,30mM NaCl〕を加えて懸濁し、再び遠心分離を行なって発現菌体 2.6gを得た。得られた菌体を緩衝液A 10mL中に懸濁し、超音波破砕により大腸菌膜を破砕した後に12,000rpm、4℃,30分間遠心分離を行い、HBc粒子を含む可溶性画分を得た。回収した上清を23,000rpm、4℃にて2時間遠心し(Beckman SW28.1ローター)、沈殿を得た。沈殿は5%ショ糖を含むTris-EDTA緩衝液(50mM Tris-HCl (pH8.0), 5mM EDTA)に再懸濁した。5%ショ糖を含むTris-EDTA緩衝液にて平衡化したSepharose CL4B(Amersham-Pharmacia Biochem)カラム(2.6cm×85cm)にアプライし同緩衝液にて溶出させた。分画をSDS-PAGEにより解析し、HBc抗原の分子量22kDaのバンドが検出された分画を集めた。集めた分画を限外濾過(排除分子量 50kDa)により濃縮した後、 60%ショ糖、50%ショ糖、40%ショ糖を含むTris-EDTA緩衝液を重層させたステップ密度勾配上に濃縮液を重層させ、39,000rpm、4℃にて5時間遠心した(Beckman Ty60Tiローター)。遠心後底から順に分画し、分画をSDS-PAGEにより解析した。HBc抗原は高密度分画と低密度分画の2層に分画され、それぞれを集め、HBc抗原精製品として用いた。
【0062】
(1-2)ハイブリドーマの作製
前記方法により調製したポリベプチド(genotype D HBc)にSDSを終濃度が10%となるように加え100℃で5分間変性処理した。この変性HBc抗原を、0.15M NaClを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.3)(PBS)に終濃度が0.2~1.0mg/mLとなるように希釈し、等量のフロイントアジュバントと混和し、4~6週齢のBALB/cマウスに10~20μg腹腔内投与した。2~4週間ごとに計5回同様の追加免疫を行い、さらにPBSに溶解したHBc 10μgを最終免疫として尾静脈内に投与した。
【0063】
最終免疫後3日目にこのマウスより脾臓を無菌的に摘出し、ハサミおよび金属メッシュを用いて脾臓を個々の細胞にほぐし、RPMI-1640培地で3回洗浄した。対数増殖期のマウス骨髄腫細胞株Sp2/OAg14をRPMI-1640培地で3回洗浄後、該細胞と脾臓細胞を1:5の細胞数比で混合した。200×g、5分間遠心分離後、上清を除去し、細胞隗を緩やかに混合しながら50%ポリエチレングリコール(PEG)4000(メルク社)を含むRPMI-1640培地1mLをゆっくりと加え、さらにRPMI-1640培地10mLを加えて細胞融合させた。
【0064】
融合細胞は、遠心分離(200×g、5分間)によってPEGを除いた後、10%ウシ胎児血清およびヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(HAT)を含むRPMI-1640培地に懸濁し、96ウェル細胞培養プレートに播種した。約10日間培養してハイブリドーマのみを増殖させた後、培養上清の一部をとり、あらかじめSDSにより変性させたHBcを固相化抗原に用いたELISA法により抗HBc抗体を産生するウェルを スクリーニングし、変性HBcに対する反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得た。さらに、SDS存在下で同様のスクリーニングを行い、SDS存在下でも変性HBcに対する反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイプリドーマを選択した。
【0065】
得られたハイブリドーマについて、限界希釈法により単一クローン化を行い、抗体産生ハイブリドーマを樹立した。得られたハイブリドーマをHB124、HB135と命名した。
【0066】
(1-3)モノクローナル抗体の作製および解析
(1-2)に記載の方法により得られたハイブリドーマを、あらかじめプリスタンを腹腔投与しておいたBALB/cマウス腹腔に移植し、7~14日後産生されたモノクローナル抗体を含む腹水を採取した。該モノクローナル抗体は、 プロティンAセファロースカラムを用いたアフィ二ティークロマトグラフィ一によりIgGフラクションを分離精製した。
【0067】
抗マウスIg各アイソタイプ抗体を用いたアイソタイプタイビングキット(Zymed社)により、それぞれのモノクローナル抗体の(サブ)クラスを同定した。その結果、ΗΒ124はIgG2b、κ、HB135はIgG2a、κであった。
【0068】
配列番号1又は配列番号3に示すHBc抗原のアミノ酸配列のうちの20アミノ酸配列を有する各種ペプチドを調製してマイクロタイタープレートに固相化し、得られたモノクローナル抗体について、各ペプチドに対する反応性を調べ、エピトープ解析を行った。
【0069】
結果を表1に示す。表1には、HBc gen.Cに対するモノクローナル抗体である、HB44、HB50、HB61、HB91、HB110のエピトープを示す。HB44、HB50、HB61、HB91、HB110の調製方法、エピトープ解析方法は、特許文献1に示される通りである。
【0070】
さらに、表1には、HB124、HB135のエピトープ解析結果を示す。HB124およびHB135は、配列番号3の31~48番目から成るペプチドと特異的に結合した。したがって、HB124およびHB135は、配列番号3の31~48番目のアミノ酸配列に含まれる領域をエピトープとして認識することが分かった。配列番号3の31~48番目のアミノ酸配列は、HBc gen.D、HBc gen.E及びHBc gen.Fに共通して見いだされる配列であり、HB124及びHB135は、HBc gen.D、HBc gen.E及びHBc gen.Fに特異的に結合する抗体であることが分かった。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例2 HBcrAgジェノタイプDのイムノアッセイによる測定
(1)抗HBcrAgプレートの調製
ポリスチレン製96穴マイクロウェルプレート(Nunc社製)に表2に示す各抗HBcrAg抗体を各濃度で含む抗体希釈液(0.1M 炭酸水素ナトリウム、0.1M 塩化ナトリウム、pH9.6)を100μL/ウェル分注し、4℃で一晩インキュベーションを行った。マイクロウェルプレートをPBSで3回洗浄し、次いで、ブロッキング液(1.0% BSA、3%スクロースを含むPBS)を200μL/ウェル分注し、室温で2時間インキュベーションを行った。ブロッキング液を除去した後、プレートを真空乾燥させ、抗HBcrAg抗体プレートとした。
【0073】
【表2】
【0074】
(2)HBcrAgジェノタイプDの測定
購入したHBcrAgジェノタイプD陽性血清検体44検体(ProMedDxより入手)について、(1)で調製した2種のプレートを用いて、HBcrAgの測定を行った。各検体100μLを、SDS溶液(15% SDS、2% Tween60(商品名))50μLと混合して70℃で30分間反応させた。
【0075】
各マイクロウェルプレートに1次反応バッファー(100mM Tris、20mM EDTA・2Na、200mM NaCl、5% BSA、1% Triton X405、pH7.5)100μLを分注し、次いで上記反応済み検体を各50μL添加した。室温で120分間振とうし、0.5%Tween(商品名)/PBSで5回洗浄した。次いで、表3に示すアルカリフォスファターゼ標識抗HBcrAgモノクローナル抗体(20mM Tris、150mM NaCl、0.1% Casein Na、1%BSA、5.7mM MEGA10、3.4mM NLS、pH7.5)溶液を100μL/ウェル分注し、室温で60分間静置した。ここで使用したHB91及びHB110は、常法に従ってアルカリフォスファターゼ標識したものである。プレートを0.5%Tween(商品名)/PBSで5回洗浄した後、基質溶液(CDP-Star(登録商標)+ Emerald II(登録商標))を100μL/ウェル分注し、室温で20分間反応させた後、マイクロプレートリーダーで測光した。
【0076】
上記検体と同時に既知濃度の組み換えHBcrAgを含む標準液を測定し、標準曲線を作成し、各検体からの発光シグナルからHBcrAg濃度を算出した。試験例1及び2の条件における各検体の測定値(U/mL)の相関を図2に示す。なお、図2の縦軸は試験例1、横軸は試験例2を示す。HBcrAgのジェノタイプD陽性検体44検体のうち、9検体において、実施例の条件下で測定値が有意に上昇した。抗HBcrAgモノクローナル抗体HB124を使用することで、ジェノタイプDの測定感度が向上することが示された。
【0077】
上記に加えて、HB124に代えてHB135を使用した固相化プレートを使用して、同様の条件で各検体のHBcrAgの測定を行った。その結果、HBcrAgの測定値は、HB124を使用した場合と非常に高い相関が得られ、ほぼ同等の結果となった(データ示さず)。
【0078】
【表3】
【0079】
実施例3 検体前処理液(酸処理)への還元剤添加の影響
HBcrAg陽性の抗原濃度既知の購入検体2種(検体A(p22crAg優位検体)、検体B(HBeAg優位検体))について、これらの10倍及び10倍希釈検体について、検体前処理及びHBcrAg検出を行った。
【0080】
検体30μLに表4に示す各種前処理液90μLを添加し、37℃で6.5分間反応させた。中和液(0.7M Bicine、10% NLS、pH10)30μLを加えて37℃で20秒間反応させた。
【0081】
常法に従って、HB44、HB124、HB61、HB114を4:1:4:7となるように固相化した磁性粒子(富士レビオ社製)を使用した。抗体固相化磁性粒子を0.06%含む粒子希釈液(50mM MOPS、8% BSA、pH7.5)50μLに上記処理済み検体を加えて37℃で8分間反応させた。0.05% Tween20(商品名)/PBSで洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識した抗体HB91のFab断片を1μg/mL含む標識体液(20mM Tris-HCl、300mM NaCl、3% BSA、13.6mM NLS、5.5mM C14APS、pH7.5)を50μL加え、37℃で8分間反応させた。0.05% Tween20(商品名)/PBSで洗浄後、AMPPD基質液を添加して、463nmの発光を測定した。
【0082】
各条件下の測定結果を表4に示す。陰性検体においては前処理への還元剤の添加の有無による影響は見られなかったが、HBcrAg陽性検体においては、p22crAgが優位な検体とHBeAgが優位な検体の両方においてシグナルの増加が見られた。特に、いずれの検体においても2.46~2.74LogU/mL(表中では「LU/mL」)の極めて低濃度の抗原がより確実に検出可能であることが示された。
【0083】
【表4】
【0084】
実施例4 検体前処理(SDS処理)への還元剤添加の影響
実施例3と同じ血清を100倍希釈した検体についてHBcrAg検出を行った。 検体100μLに表5に示す各種前処理液200μLを添加し、80℃で5分間反応させた。常法に従って、HB44、HB124、HB61、HB114を4:1:4:7となるように固相化した磁性粒子(富士レビオ社製)を使用した。抗体固相化磁性粒子を0.06%含む粒子希釈液(50mM MOPS、8% BSA、pH7.5)50μLに上記処理済み検体を50μL加えて37℃で8分間反応させた。0.05% Tween20(商品名)/PBSで洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識した抗体HB91のFab断片を1μg/mL含む標識体液(20mM Tris-HCl、37.5mM NaCl、1% BSA、11.4mM MEGA10,5.1mM NLS、2.9mM SDBS、pH7.5)を50μL加え、37℃で8分間反応させた。0.05% Tween20(商品名)/PBSで洗浄後、AMPPD基質液を添加して、463nmの発光を測定した。
【0085】
各条件下の測定結果を表5に示す。HBcrAg陽性検体において、p22crAgが優位な検体とHBeAgが優位な検体の両方においてシグナルの増加が見られた。
【0086】
【表5】
【0087】
実施例5 標識体液への水溶性高分子添加の影響
実施例3と同じ検体についてHBcrAg検出を行った。検体30μLに前処理液(16mM DEAETを含む)90μLを添加し、37℃で6.5分間反応させた。次いで、中和液30μLを加えて37℃で20秒間反応させた。
【0088】
実施例3と同様に調製した抗体固相化磁性粒子を0.06%含む粒子希釈液50μLに上記処理済み検体を加えて37℃で8分間反応させた。0.05% Tween20(商品名)/PBSで洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識した抗体HB91のFab断片を1μg/mL含む表6に示す標識体液を各50μL加え、37℃で8分間反応させた。0.05% Tween20(商品名)/PBSで洗浄後、AMPPD基質液を添加して、463nmの発光を測定した。
【0089】
各条件下の測定結果を表6に示す。標識体液にフィコールを添加することによって、濃度依存的にシグナルが高くなった。陰性検体においてもシグナルが上がり、バックグラウンドが高くなる傾向があるが、陽性検体のシグナルの上昇がより顕著であった。これにより、2.46~2.74LU/mLの低濃度抗原をさらに確実に検出できることが示された。
【0090】
【表6】
【0091】
実施例6 HBcrAgジェノタイプD, E, Fの測定
(1)抗HBcrAg粒子の調製
実施例3に記載した方法に従って、抗体HB44、HB135、HB61、HB114を固相化した磁性粒子(富士レビオ社製)を調製した。また、対照として抗体HB44、HB61、HB114を固相化した磁性粒子(富士レビオ社製)を調製した。
【0092】
(2)HBcrAgジェノタイプD、E、F検体および組換えHBeAgジェノタイプDの測定
HBVジェノタイプA, C, D陽性検体はProMedDxより入手した。ジェノタイプE, F陽性検体はTRINAより入手した。また、組換えHBcrAgとして、HBeAgジェノタイプDの1~149アミノ酸配列からなる組換え抗原を1ng/mLで含む組換え抗原溶液を作製した。検体を実施例3の試験例5の条件にて処理し、処理済み検体を得た。組換え抗原溶液も同様に前処理して、処理済み抗原溶液を得た。
【0093】
実施例6(1)で調製したHB44、HB135、HB61及びHB114を固相化した磁性粒子(試験例32)、HB44、HB61及びHB114を固相化した磁性粒子(試験例30)又は実施例3で調製した、HB44、HB124、HB61及びHB114を固相化した磁性粒子(試験例31)と上記処理済み検体又は抗原溶液を用いた以外は、実施例3に記載した方法でHBcrAgを測定した。さらに、検体の代わりに、既知濃度の組み換えHBcrAgを含む標準液を測定し、標準曲線を作成し、各検体からの発光量からHBcrAg濃度(kU/mL)を算出した。
【0094】
結果を表7に示す。HB124とHB135を固相化抗体として加えた試験例31及び32では、HBVジェノタイプDの検体、及び組換え抗原に、同等の強さで反応することが確認された。
【0095】
また、HB124とHB135を固相化抗体として加えた試験例31及び32では、これら固相化抗体を加えない試験例30と比較して、HBVジェノタイプE及びジェノタイプF検体の測定値が平均で約4倍上昇した。
【0096】
モノクローナル抗体HB124、HB135を使用することで、ジェノタイプE、Fの測定感度が向上することが示された。
【0097】
【表7】
【0098】
実施例7 アルカリ性物質を含む前処理
組換えHBcrAgを0、5、250KU/mLで含む抗原溶液に、モノクローナル抗体HB44、HB124、HB61、HB114、HB91を各10μg/mLとなるように添加後、37℃で60分インキュベートし、競合抗体陽性モデル検体を作製した。モノクローナル抗体を添加していない抗原溶液を競合抗体陰性モデル検体とした。1.5mLチューブに競合抗体陽性モデル検体と競合抗体陰性モデル検体40μLを分注した。0M~0.5Mに調製した水酸化ナトリウム(NaOH)を70μL添加後撹拌し、37℃で6.5分間反応させた。NaOHと等モル濃度の塩酸、0.7M Urea、0.2% TritonX-100を含む中和液70μLを加えて中和後速やかに撹拌し、処理済み検体を得た。
【0099】
実施例3で調製した、HB44、HB124、HB61及びHB114を固相化した磁性粒子を0.06%含む粒子希釈液50μLに上記処理済み検体30μLを加え、37℃で8分間反応させた。以降の反応は実施例3に記載の方法でHBcrAgを測定した。
【0100】
表8に示したように、前処理時0.127 M以上のNaOHの存在で、競合抗体による影響を受けずにHBcrAgを測定できることを確認した。
【0101】
【表8】
【0102】
実施例8 検体前処理液(アルカリ性処理)への界面活性剤の添加効果
アルカリ性物質を含む前処理液に組み合わせる界面活性剤として、非イオン性界面活性剤(Triton X-100、Brij35、Tween 20、Tween 80)、両イオン性界面活性剤(CHAPS、C12APS、C14APS、C16APS)、陰イオン性界面活性剤(SDS、SDBS、NLS)について検討した。
【0103】
0.2M NaOH(前処理時濃度0.127M)、各種界面活性剤を0.16、0.8、4%(前処理時濃度0.1、0.5、2.5%)となるように混合して前処理液を調製した。
1.5mLチューブに実施例7で調製した、競合抗体陽性モデル検体(組換えHBcrAg濃度250KU/mL)と競合抗体陰性モデル検体(組換えHBcrAg濃度250KU/mL)40μLと、NaOH及び各種界面活性剤を混合した前処理液70μLとを混合し、撹拌後37℃で6.5分間反応させた。0.2MのHClを含む中和液70μLを加えて中和後速やかに撹拌し、処理済み検体を得た。アルカリ処理をしない場合のControlとして、上記前処理液の代わりに0.2MのNaCl溶液を用いた。
上記処理済み検体中のHBcrAgの測定は、実施例7と同様に行った。
【0104】
前処理時0.1%以上の非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤が存在することにより、アルカリ処理による沈殿が生じることが軽減され、競合抗体による影響を受けることなく感度上昇が確認された(表9)。
陰イオン性界面活性剤は、非イオン性、両イオン性界面活性剤よりさらに感度の上昇が認められた。
【0105】
【表9】
【0106】
実施例9 検体前処理液(アルカリ性処理)への界面活性剤及び還元剤の添加効果
HBcrAg陽性の抗原濃度既知の購入検体2種(検体Ax10希釈、4.46LogU/mL(p22crAg優位検体)、検体Bx10希釈、4.74LogU/mL(HBeAg優位検体))にモノクローナル抗体HB44、HB124、HB61、HB114、HB91を各10μg/mLとなるように添加後、37℃で60分インキュベートし、競合抗体陽性検体を作製した。モノクローナル抗体を添加していない検体を競合抗体陰性検体とした。
0.2M(前処理時0.127M)NaOH、4.71%(前処理時3%)SDSの前処理液に還元剤としてDEAET又はTCEPを前処理時1、3、6、10mMとなるように添加し、前処理液を調製した。上記の競合抗体陽性検体及び競合抗体陰性検体40μLに、NaOHとSDSと各濃度のDEAET又はTCEPを混合した前処理液を70μL添加し、撹拌後37℃で6.5分間反応させた。0.2M HClを含む中和液を70μL加えて中和後速やかに撹拌した。コントロールとして、還元剤0mMにて同様に処理した。
上記処理済み検体中のHBcrAgの測定は、実施例7と同様に行った。
還元剤を添加することにより、前処理による感度上昇が確認され、特に検体A(p22cr優位検体)に対して効果が認められた(表10)。
【0107】
【表10】
図1
図2
【配列表】
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