(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】1つの製品の保存状態を現在の時点で特定する方法及び前記方法を実行するためのコンピュータシステム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20240527BHJP
【FI】
G16C20/30
(21)【出願番号】P 2021571664
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 EP2020065263
(87)【国際公開番号】W WO2020245140
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-30
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】592055820
【氏名又は名称】サノフィ・パスツール
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ブラス
【審査官】阿部 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-74809(JP,A)
【文献】特表2006-524821(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0158670(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00 - 99/00
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の仕様に従ってバッチで製造された製品のグループ(10)の1つの製品(11)の保存状態を現在の時点で特定する方法であって、前記製品のグループ(10)の各製品(11)は、時間及び温度の関数として変化する値をとる定量的属性を有し、前記1つの製品(11)の前記保存状態は、前記現在の時点での前記1つの製品(11)の前記定量的属性値に依存し、前記方法は、
(i)前記定量的属性値の - 時間の関数としての - 変化の法則を特定するステップであって、前記製品のグループ(10)のための複数の参照製品が所定の公差内で一定の温度において保存され、及び - 実験開始時点を含む - 複数の異なる実験時点において、それぞれの参照製品のそれぞれの定量的属性値が特定及び記録される実験を行うことにより、実験安定性データセットを生成するステップを含み、且つ前記実験データセットから前記変化の法則を外挿するステップを含むステップと、
(ii)前記現在の時点において、ステップ(i)で特定された前記変化の法則によって与えられる前記定量的属性値を特定するステップであって、それにより、前記現在の時点は、前記実験時点と異なり得る、ステップと、
(iii)前記現在の時点での前記1つの製品の前記保存状態を、ステップ(ii)で特定された前記定量的属性値を使用して特定するステップと
を含む、方法において、
- 時間及び温度の関数としての前記定量的属性値の変化の複数の現象論的モデルが保存されるコンピータシステム(15)を提供するステップをさらに含み、それぞれの前記モデルは、3~9つのパラメータを有し、前記パラメータは、以下で初期定量的属性値パラメータと称される、開始時点における定量的属性値を含み、前記コンピュータシステム(15)は、前記実験安定性データセットを入力するためのインタフェース(16)を含み、それぞれの前記モデルについて、そのパラメータの最良適合値を求めるために、以前に入力された実験安定性データセットを計算するための方程式解決ツール(18)を含み、且つ各モデルについて既定の推定量を求めるための推定量生成ツール(19)を含み、前記推定量は、物理化学パラメータ尤度推定量及びフィット距離を含み、前記物理化学パラメータ尤度推定量は、少なくとも、前記実験データセット内の初期定量的属性値と、前記初期定量的属性値パラメータに関する前記各モデルについて求められた前記最良適合値との間の比較に基づき、前記フィット距離は、前記実験データセット内の前記値と、前記各モデルによって与えられる対応する値との間の比較に基づき、
- 実験安定性データセットを生成する前記ステップにおいて、前記複数の参照製品は、所定の公差内での少なくとも2つの異なる既定の一定温度において保存され、
- 前記実験安定性データセットから前記変化の法則を外挿する前記ステップは、
a)前記実験安定性データセットを、前記インタフェース(16)を通して前記コンピュータシステム(15)に入力するステップと、
b)前記コンピュータシステム(15)内の前記方程式解決ツール(18)で前記実験安定性データセットを計算するステップ及びそれぞれの前記モデルの前記パラメータについての前記求められた最良適合値を記録するステップと、
c)前記コンピュータシステム(15)内の前記推定量生成ツール(19)で前記実験安定性データセットをさらに計算するステップ及び各モデルについての前記求められた推定量を記録するステップと、
d)前記モデルのうちの最良モデルを、前記それぞれの求められた推定量に基づいて選択するステップであって、それにより、前記定量的属性値の前記特定された変化の法則は、そのパラメータの前記求められた最良適合値を有する前記選択された最良モデルである、ステップと
を含み、及び
- 前記ステップ(ii)は、開始時点から前記現在の時点まで、前記1つの製品(11)によってとられる1つの温度値又は連続的温度値を使用する計算によって実行されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記パラメータは、活性化エネルギを表すパラメータEa及び前指数因子を表すパラメータAの少なくとも1つをさらに含み、及び前記物理化学尤度パラメータ推定量は、Eaが50kJ/mol未満若しくは1000kJ/mol超である場合又はAが1kJ/mol未満若しくは300kJ/mol超である場合に負である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラメータは、反応次数を表す少なくとも1つのパラメータをさらに含み、及び前記物理化学尤度パラメータ推定量は、反応次数を表す前記少なくとも1つのパラメータが0未満又は10超である場合に負である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラメータは、開始時点での部分母集団の割合を表すか又は分数値を表すパラメータαをさらに含み、及び前記物理化学尤度推定量は、αが0未満又は1超である場合に負である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記推定量は、フィッシャ検定及びt検定の少なくとも1つに基づく定量的統計推定量をさらに含む、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
コンピュータシステム(15)を提供する前記ステップは、前記物理化学尤度推定量が負であるか、又は前記定量的統計推定量が負である場合に負である集計尤度推定量を表示するユーザインタフェースを有するものとして前記コンピュータシステムを選択することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
コンピュータシステム(15)を提供する前記ステップは、前記推定量生成ツール(19)によって求められた前記推定量を表す視覚的指示を表示するユーザインタフェースを有するものとして前記コンピュータシステムを選択することを含み、前記モデルのうちの最良モデルを選択する前記ステップは、ユーザにより、前記推定量生成ツール(19)によって求められた前記推定量を表す前記視覚的指示を考慮して実行される、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
それぞれの前記モデルは、3~8つのパラメータを有する、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(i)を1回実行した後、ステップ(ii)及び(iii)は、前記1つの製品(11)について且つ前記製品のグループ(10)の複数の他の製品(11)について実行される、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(i)は、前記特定された変化の法則を用いて計算された前記定量的属性値に関する信頼区間の特定をさらに含み、及びステップ(iii)は、前記現在の時点で計算された前記値に関する前記信頼区間が既定の不合格判定閾値を含むか否かを特定するステップを含む、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
修正された実験安定性データセットを特定するステップ、前記修正された実験データセットを提供するステップ及び前記修正された実験安定性データセットを用いてステップ(i)~ステップ(iii)を再び実行するステップをさらに含む、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記現在の時点は、現在の瞬間である、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(ii)及び(iii)は、電子時間温度インジケータ(eTTI)によって実行される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記現在の時点は、将来の瞬間である、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14の何れか一項に記載の方法を実行するためのコンピュータシステムであって、時間及び温度の関数としての定量的属性値の変化の複数の現象論的モデルが保存される現象論的ライブラリ(17)を含み、それぞれの前記モデルは、3~9つのパラメータを有し、前記パラメータは、以下で初期定量的属性値パラメータと称される、開始時点における定量的属性値を含み、前記コンピュータシステム(15)は、実験安定性データセットを入力するためのインタフェース(16)、それぞれの前記モデルについて、そのパラメータの最良適合値を求めるために、以前に入力された実験安定性テータセットを計算するための方程式解決ツール(18)をさらに含み、且つ各モデルについての既定の推定量を求めるための推定量生成ツール(19)を含み、前記推定量は、物理化学パラメータ尤度推定量及びフィット距離を含み、前記物理化学パラメータ尤度推定量は、少なくとも、前記実験データセット内の初期定量的属性値と、前記初期定量的属性値パラメータに関する前記各モデルについて求められた前記最良適合値との間の比較に基づき、前記フィット距離は、実験データセット内の前記値と、前記各モデルによって与えられる対応する値との間の比較に基づく、コンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、所定の仕様に従ってバッチで製造された製品のグループに関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、製品が、製品の保存状態を表す値をとる定量的属性を有するこのようなグループであって、定量的属性値は、時間及び温度の関数として変化し、製品は、定量的属性値に依存する保存状態(例えば、容認基準を満たすか又は満たさない)を有する、このようなグループに関する。
【背景技術】
【0003】
人のための医薬製品は、こうした製品の例であり、医薬製品の安定性調査の実行に関するハーモナイゼーション作業が行われたことが知られている。
【0004】
特に、医薬品規制調和国際会議(ICH)は、このような安定性調査に関する、Q1A~Q1Fとして知られているガイドラインを提供しており、その中に「新原薬及び新製剤の安定性試験(Stability Testing Of New Drug Substances And Products)」という名称のQ1A(R2)及び「安定性データの評価(Evaluation for Stability Data)」という名称のQ1Eがある。
【0005】
ICH安定性調査の目的は、原薬又は製剤の少なくとも3つのバッチの試験に基づき、同様の状況下で製造及び包装される将来のバッチの全てに適用可能なリテスト期間(原薬)又は有効期間(製剤)及び貯蔵方法のラベル表示を決定することである。
【0006】
Q1A(R2)ガイドラインは、安定性データを生成するための原理を詳述しており、Q1Eは、例えば、5℃±3℃の冷蔵庫で12カ月間等、いわゆる長期保存条件下での安定性調査から生成される入手可能なデータによってカバーされる期間より長いリテスト期間(原薬)又は有効期間(製剤)を提示する際、外挿が考慮され得る時点及び方法を記載している。
【0007】
安定性データは、原薬又は製剤の品質及び性能に影響を与える可能性のある重要な品質属性について生成される。
【0008】
Q1Eガイドラインは、一般に、原薬又は製剤に関する特定の定量的な化学的属性(例えば、含量、分解生成物、保存剤含量)が長期保存中にゼロ次速度論に従うと仮定することができると説明している。
【0009】
Q1Eガイドラインは、したがって、これらの属性のデータが、直線回帰及び一括して評価することができるか否かの検討等を含む、その付録Bに記されている種類の統計解析を適用することができることと、他の定量的属性(例えば、pH、溶出)の速度論が一般に不明であるが、適当な場合、同じ統計解析を適用することができることと、質的属性及び微生物学的属性にこの種類の統計解析が適用されないこととをさらに説明している。
【0010】
Q1Eガイドラインは、したがって、定量的属性値の - 時間の関数としての - 変化の法則を外挿する方法を開示している。外挿された変化の法則を用いれば、安定性データが生成された実験の時点と異なる時点、特に安定性データによってカバーされる期間以外の時点での定量的属性を特定することが可能である。したがって、製品の保存状態(例えば、容認基準内であるか又はそれから外れる)は、実験の時点と異なる現在の時点で特定することができる。
【0011】
このような外挿は、事前に規定された保存条件、例えば5℃±3℃の冷蔵庫で12カ月等のいわゆる長期保存条件下での1つの製剤の保存状態を知るために非常に有益である。
【0012】
より最近では、世界保健機構(WHO)のワクチンの安定性評価に関するガイドライン(Guidelines on Stability Evaluation Of Vaccines)は、回帰分析等の統計的モデリングが、安定性調査から得られたデータの分析に使用され得ると明記しており、且つモデリングが、3つ以上の安定時点が得られた後に行われ得ることを明記している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、この種の製品の保存状態を特定するための改善された方法に関し、このような方法は、たとえ実験安定性データが少なくても良好な精度性能を有する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、所定の仕様に従ってバッチで製造された製品のグループの1つの製品の保存状態を現在の時点で特定する方法であって、前記製品のグループの各製品は、時間及び温度の関数として変化する値をとる定量的属性を有し、前記1つの製品の前記保存状態は、前記現在の時点での前記1つの製品の前記定量的属性値に依存し、前記方法は、
(i)前記定量的属性値の - 時間の関数としての - 変化の法則を特定するステップであって、前記製品のグループのための複数の参照製品が所定の公差内で一定の温度において保存され、及び - 実験開始時点を含む - 複数の異なる実験時点において、それぞれの参照製品のそれぞれの定量的属性値が特定及び記録される実験を行うことにより、実験安定性データセットを生成するステップを含み、且つ前記実験データセットから前記変化の法則を外挿するステップを含むステップと、
(ii)前記現在の時点において、ステップ(i)で特定された変化の法則によって与えられる定量的属性値を特定するステップであって、それにより、前記現在の時点は、前記実験時点と異なり得る、ステップと、
(iii)前記現在の時点での前記1つの製品の前記保存状態を、ステップ(ii)で特定された定量的属性値を使用して特定するステップと
を含む、方法において、
- 時間及び温度の関数としての前記定量的属性値の変化の複数の現象論的モデルが保存されるコンピータシステムを提供するステップをさらに含み、それぞれの前記モデルは、3~9つのパラメータを有し、前記パラメータは、以下で初期定量的属性値パラメータと称される、開始時点における定量的属性値を含み、前記コンピュータシステムは、前記実験安定性データセットを入力するためのインタフェースを含み、それぞれの前記モデルについて、そのパラメータの最良適合値を求めるために、以前に入力された実験安定性データセットを計算するための方程式解決ツールを含み、且つ各モデルについて既定の推定量を求めるための推定量生成ツールを含み、前記推定量は、物理化学パラメータ尤度推定量及びフィット距離を含み、前記物理化学パラメータ尤度推定量は、少なくとも、実験データセット内の初期定量的属性値と、初期定量的属性値パラメータに関する前記各モデルについて求められた最良適合値との間の比較に基づき、前記フィット距離は、実験データセット内の値と、前記各モデルによって与えられる対応する値との間の比較に基づき、
- 実験安定性データセットを生成する前記ステップにおいて、前記複数の参照製品は、所定の公差内での少なくとも2つの異なる既定の一定温度において保存され、
- 前記実験安定性データセットから前記変化の法則を外挿する前記ステップは、
a)前記実験安定性データセットを、前記インタフェースを通して前記コンピュータシステムに入力するステップと、
b)前記コンピュータシステム内の前記方程式解決ツールで前記実験安定性データセットを計算するステップ及びそれぞれの前記モデルのパラメータについての求められた最良適合値を記録するステップと、
c)前記コンピュータシステム内の前記推定量生成ツールで前記実験安定性データセットをさらに計算するステップ及び各モデルについての求められた推定量を記録するステップと、
d)前記モデルのうちの最良モデルを、それぞれの求められた推定量に基づいて選択するステップであって、それにより、定量的属性値の特定された変化の法則は、そのパラメータの求められた最良適合値を有する選択された最良モデルである、ステップと
を含み、及び
- 前記ステップ(ii)は、開始時点から前記現在の時点まで、前記1つの製品によってとられる1つの温度値又は連続的温度値を使用する計算によって実行されることを特徴とする方法を提供する。
【0015】
本発明による方法により、温度が所定の公差内で一定に保たれなかった保存条件でも、例えば冷蔵庫内での保存期間後に冷蔵庫内での保存期間後の大気温度での移動期間が続いた場合にも製品の保存状態を特定することが可能となる。
【0016】
実際、本発明による方法では、特定された変化の法則は、時間及び温度の関数であり(時間だけではない)、開始時点から製品によってとられる連続的温度は、現在の時点での定量的属性値の特定に使用される。
【0017】
市販のソフトウェアと異なり、アレニウスの法則(AKTS及びASAPと呼ばれる会社から市販されているソフトウェア等)に基づいても、本発明は、少ない実験安定性データでも高い精度性能を得ることを可能にする。
【0018】
実際、本発明は、- 市販のソフトウェアのように - 求められた変化の法則の品質を評価するために1つの統計的スコアを提供しながら、重要な数のパラメータを含む1つのモデルを有することは、実験データセットの量が少ないため、ここでは適切でなく、実際には複数の現象論的モデルを有し、最も適切なモデルを見分けるために複数の推定量を提供する方がよいとの見解に基づく。
【0019】
本明細書において、パラメータとは、当初不明であり、- 実験データセットに基づく各パラメータの値の特定に加えて - 時間及び温度の関数としての定量的属性を与える変化の法則となる関係の一部をなす一定の値であると理解されたい。
【0020】
本明細書において、モデルは、他のモデルと、これらが異なる関係で表現される場合に異なることも理解されたい。
【0021】
例えば、第一の関係が1/(1/C02+2k t)1/2であり、第二の関係が1/(1/C0n-1+k(n-1)t)1/(n-1)であり、k=A exp(-Ea/RT)であり、Cが定量的属性値であり、tが時間であり、Tが温度であり、C0が第一のパラメータであり、Aが第二のパラメータであり、Eaが第三のパラメータであり、nが第四のパラメータである場合、第一の関係は、3つのパラメータを用いた第一のモデルの表現であり、第二の関係は、4つのパラメータを用いる第二のモデルの表現であり、第一のモデルと異なる。
【0022】
第四のパラメータnが3と等しく、第一~第三のパラメータが第一のモデル及び第二のモデルにおいて同じ値を有する場合、第一のモデル及び第二のモデルによって与えられる変化の法則は、同じであるが、これは、第二モデルが第一のモデルと同じであることを意味しない点に留意されたい。
【0023】
有利な特徴によれば、
- 前記パラメータは、活性化エネルギを表すパラメータEa及び前指数因子を表すパラメータAの少なくとも1つをさらに含み、及び前記物理化学尤度パラメータ推定量は、Eaが50kJ/mol未満若しくは1000kJ/mol超である場合又はAが1kJ/mol未満若しくは300kJ/mol超である場合に負であり、
- 前記パラメータは、反応次数を表す少なくとも1つのパラメータをさらに含み、及び前記物理化学尤度パラメータ推定量は、前反応次数を表す前記少なくとも1つのパラメータが0未満又は10超である場合に負であり、
- 前記パラメータは、開始時点での部分母集団の割合を表すか又は分数値を表すパラメータαをさらに含み、及び前記物理化学尤度推定量は、αが0未満又は1超である場合に負であり、
- 前記推定量は、フィッシャ検定及びt検定の少なくとも1つに基づく定量的統計推定量をさらに含み、
- コンピュータシステムを提供する前記ステップは、前記物理化学尤度推定量が負であるか、又は前記量的統計推定量が負である場合に負である集計尤度推定量を表示するユーザインタフェースを有するものとして前記コンピュータシステムを選択することを含み、
- コンピュータシステムを提供する前記ステップは、前記推定量生成ツールによって求められた前記推定量を表す視覚的指示を表示するユーザインタフェースを有するものとして前記コンピュータシステムを選択することを含み、前記モデルのうちの最良モデルを選択する前記ステップは、ユーザにより、前記推定量生成ツールによって求められた前記推定量を表す前記視覚的指示を考慮して実行され、
- それぞれの前記モデルは、3~8つのパラメータを有し、
- ステップ(i)を1回実行した後、ステップ(ii)及び(iii)は、前記1つの製品について且つ前記製品のグループの複数の他の製品について実行され、
- ステップ(i)は、特定された変化の法則を用いて計算された定量的属性値に関する信頼区間の特定をさらに含み、及びステップ(iii)は、現在の時点で計算された値に関する信頼区間が既定の不合格判定閾値を含むか否かを特定するステップを含み、
- 方法は、修正された実験安定性データセットを特定するステップ、修正された実験データセットを提供するステップ及び前記修正された実験安定性データセットを用いてステップ(i)~ステップ(iii)を再び実行するステップをさらに含み、
- 前記現在の時点は、現在の瞬間であり、
- 前記ステップ(ii)及び(iii)は、電子時間温度インジケータ(eTTI)によって実行され、及び/又は
- 前記現在の時点は、将来の瞬間である。
【0024】
本発明は、第二の態様において、上記で開示された方法を実行するためのコンピュータシステムであって、時間及び温度の関数としての定量的属性値の変化の複数の現象論的モデルが保存される現象論的ライブラリを含み、それぞれの前記モデルは、3~9つのパラメータを有し、前記パラメータは、以下で初期定量的属性値パラメータと称される、開始時点における定量的属性値を含み、前記コンピュータシステムは、実験安定性データセットを入力するためのインタフェース、それぞれの前記モデルについて、そのパラメータの最良適合値を求めるために、以前に入力された実験安定性テータセットを計算するための方程式解決ツールをさらに含み、且つ各モデルについての既定の推定量を求めるための推定量生成ツールを含み、前記推定量は、物理化学パラメータ尤度推定量及びフィット距離を含み、前記物理化学パラメータ尤度推定量は、少なくとも、実験データセット内の初期定量的属性値と、前記初期定量的属性値パラメータに関する前記各モデルについて求められた最良適合値との間の比較に基づき、前記フィット距離は、実験データセット内の値と、前記各モデルによって与えられる対応する値との間の比較に基づく、コンピュータシステムにも関する。
【0025】
ここで、本発明の説明を、非限定的な実例によって以下に示される例示的な実施形態の詳細な説明文を用いて、添付の図面を参照して続ける。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】所定の仕様に従ってバッチで製造された製品のグループを概略的に示す。
【
図2】現在の時点での1つの製品の保存状態を特定することを可能にする既知の方法を示す。
【
図3】本発明による方法に関わるコンピュータシステムを概略的に示す。
【
図4】定量的属性値の変化の法則を特定するために生成された実験データセットのグラフである。
【
図5】
図4と同様であるが、定量的属性値の特定された変化の法則も示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、製品11が同じであるように所定の仕様に従ってバッチで製造された製品11のグループ10を示す。
【0028】
製品11は、腐食性があり、したがって現在の時点、例えば現時点又は将来の時点において製品11が依然として良好な保存状態を有するか否かを特定する必要がある。
【0029】
現在の時点での製品11の保存状態は、時間及び温度の関数として変化する製品11の定量的属性によってとられる値に依存する。
【0030】
ここで、製品11は、患者に投与されるワクチン用量であり、定量的属性は、ワクチン用量中の活性成分の濃度である。
【0031】
実際、ワクチンの幾つかの活性成分は、分解反応を起こし、それによりワクチン用量中のそれらの品質が時間と共に減少し、それを下回るとそのワクチンの治療的有効性が損なわれると考えられる明示された有効性閾値より低くなり得る。
【0032】
製品11の保存状態は、活性成分の濃度が閾値を上回る場合に良好と考えられ、活性成分の濃度が閾値を下回る場合に不良と考えられる。
【0033】
現在の時点での1つの製品11の保存状態を特定することができるようにすることに関して、既知の方法が
図2に示されている。
【0034】
この方法は、医薬品規制調和国際会議(ICH)によって提供されるQ1A~Q1Fと呼ばれるガイドラインで開示されており、その中に「新原薬及び新製剤の安定性試験(Stability Testing Of New Drug Substances And Products)」という名称のQ1A(R2)及び「安定性データの評価(Evaluation for Stability Data)」という名称のQ1Eがある。
【0035】
この既知の方法は、
(i)ワクチン用量中の活性成分の濃度等の定量的属性値の - 時間の関数としての - 変化の法則を特定するステップと、
(ii)現在の時点において、ステップ(i)で特定された変化の法則によって与えられる定量的属性値を特定するステップと、
(iii)ステップ(ii)で特定された定量的属性値を使用して、現在の時点での1つの製品11の保存状態を特定するステップと
を含む。
【0036】
ステップ(i)を実行するために、製品11の安定性についての実験が行われる。
【0037】
これらの実験において、グループ10からランダムに選択された特定の製品11は、所定の公差内で一定の異なる温度において保存される。- 実験開始時点を含む - 複数の異なる実験時点において、実験中のそれぞれの製品の定量的属性値が特定及び記録される。
【0038】
このようにして実験データセットが生成され、各データは、温度Tで保存された製品11の時間tにおける定量的属性値である。
【0039】
したがって、ステップ(i)の最後に、実験データセットから変化の法則を外挿するステップが実行され、その際、定量的属性値は、長期保存中にゼロ次速度論に従い、定量的属性値に、直線回帰及び一括して評価することができるか否かの検討を含む、ICHガイドラインQ1Eの付録Bに記されている特定の種類の統計解析を適用できることが前提とされる。
【0040】
外挿による変化の法則を用いてステップ(ii)を実行することにより、実験安定性データが生成された実験時点と異なる時点、特に実験安定性データによってカバーされる期間を超える時点における定量的属性値を特定することができる。
【0041】
ステップ(ii)において特定された定量的属性値から、ステップ(iii)では、製品の保存状態、例えば定量的属性値に関する閾値を含む容認基準内であるか又はそれから外れるかが得られる。
【0042】
実践において、グループ10等の製品の1つのグループに基づいて特定された変化の法則は、同じ所定の仕様に従ってバッチで製造された製品の他のグループについても使用され、グループ10から得られたサンプル(実験が行われた製品11)が製品の他のグループに関する参照製品と考えられる。
【0043】
実践において、特定された変化の法則は、それが同じ所定の仕様に従ってバッチで製造された製品の他のグループで得られたサンプルから生成された実験安定性データから特定された場合、例えば特定された変化の法則が同じ所定の仕様に従ってバッチで製造された製品の連続する3つのグループを用いて特定された場合、同じままであることが多くの場合にチェックされる。
【0044】
本発明による方法では、変化の法則は、実験データセットから、ただし、長期保存中に定量的属性値がゼロ次速度論に従い、定量的属性値に、直線回帰及び一括して評価することができるか否かの検討を含む、ICHガイドラインQ1Eの付録Bに記されている特定の種類の統計解析を適用できることを単に前提とすることより、はるかに高度な根拠によっても外挿される。
【0045】
本発明による方法に関わるコンピュータシステム
図3は、前述の実験データセットから、時間及び温度の関数としての定量的属性値の変化の法則を外挿することを促進するコンピュータシステム15を概略的に示す。
【0046】
コンピュータシステム15は、データを入力及び出力するためのインタフェース16と、現象論的モデルライブラリ17と、方程式解決ツール18と、推定量生成ツール19と、実験安定性データのためのストレージ20と、方程式解決ツール18によって求められたパラメータの最良適合値のためのストレージ21と、推定量生成ツール19によって求められた推定量のためのストレージ22とを含む。
【0047】
ここで、コンピュータシステム15は、予想品質値生成ツール26及び予想品質値生成ツール26によって生成された信頼区間マッピングのためのストレージ27をさらに含む。
【0048】
ここで、時間及び温度の関数としての定量的属性値の変化の法則を外挿することを促進することに加えて、コンピュータシステム15は、以前に特定された変化の法則を用いて現在の時点での定量的属性値を特定し、この現在の時点において、以前に特定された定量的属性値を用いて、この現在の時点での1つの製品11の保存状態を特定することも可能である。
【0049】
コンピュータシステム15は、したがって、定量値計算ツール28と、保存状態特定ツール29と、温度プロフィールのためのストレージ30と、現在の時点での特定された定量値のためのストレージ31と、現在の時点での特定された保存状態のためのストレージ32とをさらに含む。
【0050】
電子時間温度インジケータ(eTTI)等の別のコンピュータシステムは、同様の定量値計算ツール、同様の保存状態特定ツール、温度プロフィールのための同様のストレージ、現在の時点での特定された定量値のための同様のストレージ及び現在の時点での特定された保存状態のための同様のストレージを用いて、当然のことながら、データの入力及び出力のためのインタフェースも用いて構成することができることに留意されたい。
【0051】
コンピュータシステム15は、ここで、適当なプログラム(例えば、Matlab(登録商標)に基づくもの)を実行するPC又はMac等のスタンドアロンのコンピュータで実装することができ、インタフェース16は、ローカルディスプレイ、キーボード及びスタンドアロンのコンピュータのポートである。代替的に、コンピュータシステムは、別の方法において、例えば適当なプログラム(例えば、Matlab(登録商標)に基づくもの)を実行するサーバを用いて実装され、インタフェース16は、クライアント、通信リンク及びクライアントを、通信リンクを通して接続するためのサーバのローカルインタフェースを用いて実装される。
【0052】
ライブラリ17
ライブラリ17には、製品11の定量的属性値、ここではワクチン用量中の活性成分の濃度の変化の複数の現象論的モデルが保存される。
【0053】
現象論的モデルは、それぞれ反応の速度定数kと温度Tとの間のアレニウスの関係に基づく。アレニウスの関係は、2つ以上の粒子間で反応が起こるために、これらの粒子間で正しい方向に且つ十分なエネルギで衝突が起こる必要があることを説明する衝突理論に基づく。
【0054】
アレニウスの関係は、
k=A exp(-Ea/RT)
であり、速度定数kは、単位時間当たりの反応数であり、前指数因子Aは、単位時間当たりの衝突総数であり、指数因子exp(-Ea/RT)は、衝突の結果、反応が起こる確率であり、Eaは、反応の活性化エネルギであり、Tは、単位°Kの温度であり、Rは、理想気体定数である。
【0055】
オーダ0、オーダ1、オーダ2、オーダ3及びオーダnと呼ばれるモデル
ライブラリ17内のオーダ0、オーダ1、オーダ2、オーダ3及びオーダnと呼ばれる特定のモデルについて、製品11の定量的属性値、ここではワクチン用量中の活性成分の濃度の反応分解は、以下の化学的速度の法則に従うことが前提とされる。
dC/dt=k f(C)
Cは、定量的属性値(ここではワクチン用量中の活性成分の濃度)であり、tは、時間であり、fは、オーダ0、オーダ1、オーダ2、オーダ3及びオーダnと呼ばれるモデルがそれに基づくそれぞれの関数である。
【0056】
以下の表1は、これらの5つのモデルの各々について、f(C)の表現、dC/dtの表現及び一定の温度におけるdC/dtの積分の解析解C(t)の表現を示す。
【0057】
【0058】
C(t)の表現において、C0は、開始時点における定量的属性値(ワクチン用量中の活性成分の濃度)である。
【0059】
これは、C(t)の表現から且つ前指数因子A、活性化エネルギEa及び温度Tの関数としてkを与えるアレニウスの関係から、オーダ0、オーダ1、オーダ2及びオーダ3と呼ばれるモデルが3つのパラメータ、すなわちA、Ea及びC0を有するという結果並びにオーダnと呼ばれるモデルが4つのパラメータ、すなわちオーダ0、オーダ1、オーダ2及びオーダ3と呼ばれるモデルのパラメータ(A、Ea及びC0)の他にnを有するという結果が得られる。
【0060】
製品が保存される温度Tの値並びにパラメータA、Ea及びC0(並びにまたオーダnと呼ばれるモデルについてn)の値により、時間tにおける定量的属性値Cを特定することができる。
【0061】
温度が一定のままではなかった場合の時間tにおける定量的属性値Cを特定することも可能であるが、ただし、経時的な温度プロフィールが分かっていること(例えば、開始時点から5℃で60日、その後、25℃で1日、その後、5℃で10日)及び特定が反復的に、すなわち温度ステップごとに連続的に行われること(例えば、上述の例では、まずC0から始めて60日での定量的属性値を特定し、その後、60日での定量的属性値から始めて持続期間1日の61日での定量的属性値を特定し、その後、61日での定量的属性値から始めて持続時間10日の71日での定量的属性値を特定する)が条件となる。
【0062】
オーダ0と呼ばれるモデルは、その速度論が共役反応物質/基質の成分の濃度に依存しない反応に対応する。生物学では、これは、特定の酵素触媒反応に当てはまる。実線において、このモデルは、例えば、反応開始時に基質濃度が高いままである限り当てはまる。
【0063】
オーダ1と呼ばれるモデルは、その速度論が共役反応物質/基質の成分の1つのみの濃度に依存する反応に対応する。これは、水性媒質中の加水分解、空気/水界面における酸化又は酵素触媒と同じ種類の特定の反応について当てはまる。
【0064】
オーダ2と呼ばれるモデルは、その速度論が、反応が多糖類鹸化又はタンパク質脱アミド化と同じ種類である場合、共役反応物質/基質の成分の両方の濃度に依存するか、又は反応がタンパク質二量体化と同じ種類である場合、共役反応物質/基質の成分の一方のみの濃度に依存する反応に対応する。
【0065】
オーダ3と呼ばれるモデルは、その速度論が、共役反応物質/基質の成分の一方が二分子である場合及び反応がタンパク質三量体化と同じ種類である場合、共役反応物質/基質の両方の濃度に依存する反応に対応する。
【0066】
オーダnと呼ばれるモデルは、その速度論が、共役反応物質/基質の成分の一方又は両方が二分子又は多分子である場合及び反応がαヘリックスタンパク質構造の破壊又は3より大きい多量体化と同じ種類である場合、共役反応物質/基質の両方の濃度に依存する反応に対応する。
【0067】
オーダnと呼ばれるモデルでは、nがそれぞれ0、1、2及び3に等しい場合、オーダ0、オーダ1、オーダ2及びオーダ3と呼ばれるモデルと同じ変化の法則が得られることに留意されたい。実践において、オーダnと呼ばれるモデルは、nが整数でない場合及び/又は3超である場合に有益である。
【0068】
併発反応と呼ばれるモデル
ライブラリ17内の他のモデルは、併発反応と呼ばれる。これは、オーダnと呼ばれるモデルと同じであるが、相違点は、2つの反応(1つではない)が同時に継続すると考えられることであり、それぞれ反応1は、部分的な定量的属性C1についてのパラメータA1、Ea1、C01及びn1を含み、反応2は、部分的な定量的属性C2についてのパラメータA2、Ea2、C02及びn2を含み、定量的属性値Cは、部分的な定量的属性C1及びC2の合計であり(換言すればC=C1+C2)、C1=αC、C2=(1-α)Cであり、αは、部分母集団の割合と呼ばれる。
【0069】
したがって、併発反応と呼ばれるモデルには、8つのパラメータ、すなわちC0、α、A1、Ea1、n1、A2、Ea2及びn2がある。
【0070】
製品が保存される温度の値並びにパラメータC0、α、A1、Ea1、n1、A2、Ea2及びn2の値から、数値積分によって時間tにおける定量的属性値Cを特定することができる。
【0071】
温度が一定でなかった場合の時間tにおける定量的属性値Cを特定することも可能であるが、前述のように、経時的な温度プロフィールが分かっていることと、特定が反復的に行われることとが条件となる。
【0072】
Finke-Watzkyと呼ばれるモデル
ライブラリ17内の他のモデルは、Finke-Watzkyと呼ばれる。定量的属性値C(ここではワクチン用量中の活性成分の濃度)の他に別の定量的属性値N(ここではワクチン用量中の分解された活性成分の濃度)が考慮され、NとCとの間に以下の関係がある。
dN/dt=k1 C
dC/dt=-k1 C-k2 C N
k1及びk2は、2つの異なるアレニウスの関係のそれぞれの速度定数であり、すなわち、
k1=A1 exp(-Ea1/RT)
k2=A2 exp(-Ea2/RT)
である。
【0073】
したがって、Finke-Watzkyと呼ばれるモデルには、5つのパラメータ、すなわちC0、A1、Ea1、A2及びEa2がある。
【0074】
製品が保存される温度Tの値並びにパラメータC0、A1、Ea1、A2及びEa2の値から、数値積分によって時間tにおける定量的属性値Cを特定することができる。
【0075】
温度が一定でなかった場合の時間tにおける定量的属性値Cを特定することも可能であるが、前述のように、経時的な温度プロフィールが分かっていることと、特定が反復的に行われることとが条件となる。
【0076】
Finke-Watzkyと呼ばれるモデルは、核生成又は発芽のような、タンパク質の媒質中で一般的であり、特に後者が濃縮される場合の凝集反応に対応する。
【0077】
Prout-Tompkinsと呼ばれるモデル
ライブラリ17内の他のモデルは、Prout-Tompkinsと呼ばれる。このモデルは、Sestak n/mとしても知られる。定量的属性値(ここではワクチン用量中の活性成分の濃度)の反応分解は、時間tにおいて分率ξであり、分率ξは、以下の化学速度論の法則に従うことが前提とされる。
dξ/dt=-kξn(1-ξ)m
反応が完了すると、ξ=1であり、反応開始時、ξは、0超である(且つ1未満である)。
【0078】
表記法を簡単にするために、以下では、開始時点におけるξの値をαと表記する。このαは、併発反応と呼ばれるモデルのαと同じ現象論的重要度を有さない点に留意されたい。
【0079】
したがって、Prout-Tompkinsと呼ばれるモデルには、6つのパラメータ、すなわちC0、A、Ea、n、m及びαがある。
【0080】
製品が保存される温度Tの値並びにパラメータC0、A、Ea、n、m及びαの値から、数値積分によって時間tにおける定量的属性値Cを特定することができる。
【0081】
温度が一定でなかった場合の時間tにおける定量的属性値Cを特定することも可能であるが、前述のように、経時的な温度プロフィールが分かっていることと、特定が反復的に行われることとが条件となる。
【0082】
Prout-Tompkinsと呼ばれるモデルは、自己触媒又は漸進加速反応に対応する。
【0083】
Sestak n/pと呼ばれるモデル
ライブラリ17内の他の反応は、Sestak n/pと呼ばれる。これは、Prout-Tompkinsと呼ばれるモデルと同じと仮定されるが、分率ξが従う化学的速度論の法則が以下のとおりである点が異なる。
dξ/dt=-kξn log(1-ξ)p
【0084】
したがって、Sestak n/pと呼ばれるモデルには、6つのパラメータ、すなわちC0、A、Ea、n、p及びαがある。
【0085】
製品が保存される温度Tの値並びにパラメータC0、A、Ea、n、p及びαの値から、数値積分によって時間tにおける定量的属性値Cを特定することができる。
【0086】
温度が一定でなかった場合の時間tにおける定量的属性値Cを特定することも可能であるが、前述のように、経時的な温度プロフィールが分かっていることと、特定が反復的に行われることとが条件となる。
【0087】
Sestak n/pと呼ばれるモデルは、係数pで漸進的に加速され、反応物質又は分解生成物の拡散を限定するオーダnの反応に対応する。この反応は、固体製剤中の加水分解と同じ種類のものである。
【0088】
Sestak m/pと呼ばれるモデル
ライブラリ17内の他の反応は、Sestak m/pと呼ばれる。これは、Prout-Tompkinsと呼ばれるモデルと同じと仮定されるが、分率ξが従う化学的速度論の法則が以下のとおりである点が異なる。
dξ/dt=-k(1-ξ)m log(1-ξ)p
【0089】
したがって、Sestak m/pと呼ばれるモデルには、6つのパラメータ、すなわちC0、A、Ea、m、p及びαがある。
【0090】
製品が保存される温度Tの値並びにパラメータC0、A、Ea、m、p及びαの値から、数値積分によって時間tにおける定量的属性値Cを特定することができる。
【0091】
温度が一定でなかった場合の時間tにおける定量的属性値Cを特定することも可能であるが、前述のように、経時的な温度プロフィールが分かっていることと、特定が反復的に行われることとが条件となる。
【0092】
Sestak m/pと呼ばれるモデルは、係数pでの自己触媒型であり、反応生成物又は反応物質若しくは分解生成物の拡散を限定するオーダmの反応に対応する。この反応は、固体製剤中の多量体化と同じ種類のものである。
【0093】
モデルパラメータの要約
以下の表2は、ライブラリ17内の10の現象論的モデルのパラメータを要約したものである。
【0094】
【0095】
ライブラリ17内の現象論的モデルは、したがって、3~8つのパラメータを有する。
【0096】
方程式解決ツール18
コンピュータシステム15において、方程式解決ツール18は、ストレージ20内にある、以前に入力された安定性データセットを計算して、ライブラリ17の各モデルについて、そのパラメータの最良適合値を求めることができる。
【0097】
パラメータの最良適合値は、実験データセットへのC(t)のフィットを表すものとして選択されたパラメータの関数を最適化することによって求められ、パラメータの最良適合値は、そのために関数が最適化される値である。
【0098】
ここで、このような関数は、実験データセット内の値と、C(t)によって与えられる対応する値との間の差の二乗和であり、関数は、その差の二乗和を最小にすることによって最適化される。
【0099】
関数の最適化は、反復アルゴリズムを実行することによって行われ、ここで、パラメータの値の開始時のセットから、Nelder-Meadシンプレックスアルゴリズムに基づくMatlab(登録商標)のfminsearch関数を用いて実行される。
【0100】
開始時のセットの値は、ここで、コンピュータシステム15により、例えばランダム性の根源としてクロックドリフトを使用してランダムに生成される。
【0101】
したがって、反復アルゴリズムがこの開始時の数値セットから各モデルについて実行されて、求められた最良適合値がストレージ21に記録される。
【0102】
推定量生成ツール19
コンピュータシステム15において、推定量生成ツール19は、ライブラリ17内の各モデルについて、そのモデルのモデリング品質を評価することを促進する各種の推定量を求めることができる。
【0103】
1つの推定量は、求められたパラメータの物理化学尤度に関する。モデルは、現象論的であるため、パラメータの各々は、物理化学的意味を有し、それにより各パラメータにあり得る値の範囲を割り当てることができ、この範囲に含まれない値は、可能性が低く、例えば活性化エネルギEaについて負の値であることが想起される。
【0104】
他の推定量は、量的統計及び質的(確率的)統計に基づく。
【0105】
パラメータについて求められた最良適合値の物理化学尤度推定量
この推定量は、正(尤度が高い)又は負(尤度が低い)であり得る。
【0106】
物理化学尤度推定量は、その物理化学尤度推定量が負である下記の場合以外には正である。
【0107】
求められた初期定量的属性値のパラメータC0に関して、初期実験定量的属性値(実験安定性データセット内の初期定量的属性値)との比較が行われる。
【0108】
物理化学尤度推定量は、求められた初期定量的属性値パラメータC0と初期実験定量的属性値との間の差が既定の閾値より大きい場合に負である。物理化学尤度推定量は、求められた初期定量的属性値パラメータC0が0未満である場合にも負である。
【0109】
ここで、実験安定性データセットの解析的標準偏差が不明であるとき、閾値は、初期実験定量的属性値の30%(又は値が対数目盛で与えられる場合には0.3)である。
【0110】
実験安定性データセットの解析的標準偏差が分かっていれば、閾値は、解析的標準偏差の値である。
【0111】
解析的標準偏差は、従来、実験安定性データセットが得られた測定の精度の統計的尺度である。
【0112】
基本的に活性化エネルギを表す求められたパラメータEaに関して、物理化学尤度推定量は、Eaが50kJ/mol未満又は1000kJ/mol超である場合に負である。代替的に、50~1000kJ/molの範囲は、50~500kJ/mol又は50~300kJ/mol等のより狭い範囲に置き換えられる。
【0113】
基本的に前指数因子を表す求められたパラメータAに関して、物理化学尤度推定量は、Aが1未満又は300kJ/mol超である場合に負である。代替的に、範囲1~300kJ/molは、20~200kJ/mol等のより狭い範囲に置き換えられる。
【0114】
基本的に部分母集団の割合を表す(併発反応と呼ばれるモデル)か、又は開始時点での分率値を表す(Prout-Tompkins、Sestak n/p及びSestak m/pと呼ばれるモデル)求められたパラメータαに関して、物理化学尤度推定量は、αが0未満又は1超である場合に負である。
【0115】
基本的にそれぞれ反応次数を表す求められたパラメータn、m及びpに関して、物理化学尤度推定量は、n、m又はpが0未満又は10超である場合に負である。代替的に、範囲0~10は、0~3等のより狭い範囲に置き換えられる。
【0116】
質的統計に基づく推定量
質的統計に基づく1つの推定量は、ストレージ20内にある実験安定性データセット内の値と、モデルによって与えられる対応する値との間の比較に基づくフィット距離である。
【0117】
フィット距離は、ここで、実験安定性データセット内の値と、モデルによって与えられる対応する値との間の差の二乗和の平方根である。フィット距離の値が小さいほど、モデルは、実験データセットにより良好にフィットする。
【0118】
質的統計に基づく他の推定量は、ベイジアン情報量基準(BIC)である。よく知られているように、この基準により、パラメータの数によってモデリング品質上に誘導されるバイアスを推定することができる。BICの値が低いほど、パラメータの数によって誘導されるバイアスが小さい。
【0119】
BICは、異なる数のパラメータを有する2つのモデルを比較すると興味深い。BICの値が最も低いものが、最も多いパラメータを有するモデルである場合、そのモデリング品質は、基本的に最も多いパラメータを有するモデルがより高い。
【0120】
2つのモデルを比較するのに有益な質的統計に基づく他の推定量は、よく知られた赤池情報量基準(AIC)及び尤度比検定(LLH)である。AICとLLHは、Matlab(登録商標)で得られるそれぞれの関数を用いて計算され得る。
【0121】
量的統計に基づく推定量
量的統計に基づく1つの推定量は、フィッシャ検定の結果(正又は負)である。
【0122】
よく知られているように、フィッシャ検定は、実験安定性データセット内の値の標準偏差(解析的標準偏差)を、対応する時点におけるモデルによって与えられる値のセットの標準偏差(モデル標準偏差)と比較して、解析的標準偏差がモデル標準偏差に近い又はそれより小さいか否かを特定することに基づく。
【0123】
質的統計に基づく他の推定量は、スチューデントt検定の結果(正又は負)である。
【0124】
スチューデントt検定は、フィッシャ検定の結果が正であった場合にのみ行われる。
【0125】
よく知られているように、スチューデントt検定は、実験安定性データセット内の値の平均(解析平均)を、対応する時点におけるモデルによって与えられる値のセットの平均(モデル平均)と比較することに基づく。スチューデントt検定は、ここで、95%信頼レベルを用いて行われる。
【0126】
推定量生成ツール19によって求められる推定量は、ストレージ22に記録される。
【0127】
予想品質値生成ツール26
コンピュータシステム15において、予想品質値生成ツール26は、ライブラリ17内で選択され、最良適合値が求められたモデルについて信頼区間マッピングを求めることができる。
【0128】
信頼区間マッピングは、求められた最良適合値の各々に関する信頼区間(CI)を含む。このような信頼区間は、それらの間に最良適合値がある下限値及び上限値の各々を含む。
【0129】
下限及び上限値は、ここで、ベイジアン方式を使用して求められる。
【0130】
ある変形形態では、ベイジアン方式の代わりにブートストラップ方式又はジャックナイフ方式が使用され得る。
【0131】
特定の場合、実験データセットでは、特に最も多いパラメータを有するモデルにとって有意な信頼区間の下限及び上限値を求めることができないことに留意されたい。
【0132】
求められた信頼区間マッピング又は有意な区間マッピングがなかったことは、ストレージ27に保存される。
【0133】
定量値計算ツール28
推定量生成ツール19によって求められたそれぞれの推定量に基づき、また実験安定性データセットの初期定量的属性値と比較される初期定量的属性値に基づき、モデルのうちの最良モデルが選択される。
【0134】
実験データセットにおいて、パラメータに関する有意な信頼区間を求めることができない場合、例えば1つ又は複数の実験点を追加することによって実験データセットを変更することを試みることができ、且つ/又は実験データセットで有意な信頼区間を求めることのできる他のモデルを選択するように決めることができる。
【0135】
したがって、そのパラメータについて求められた最良適合値を有する選択された最良モデルは、定量的属性値の特定された変化の法則となる。
【0136】
したがって、定量値計算ツール28は、インタフェース16を通して構成される。
【0137】
コンピュータシステム15及び特に定量値計算ツール28は、したがって、特定された変化の法則を各パラメータ値の信頼区間と共に認識する。
【0138】
したがって、インタフェース16を通してコンピュータシステム15に時間t及び製品が保存された一定温度の値を入力することにより、定量値計算ツール28に、現在の時点tでの定量的属性値Cを特定させることが可能となる。
【0139】
インタフェース16を通してコンピュータシステム15に時間t及び経時的温度プロフィール(例えば、開始時から5℃で60日、その後、25℃で1日、その後、5℃で10日)を入力することにより、定量値計算ツール28に、現在の時点tでの定量的属性値Cを特定させることも可能であり、このプロフィールは、ストレージ30に記録される。
【0140】
定量値計算ツール28は、連続的反復により、すなわち温度ステップごとに連続的に時間tでの定量的属性Cを特定する(例えば、上述の例では、まずC0から始めて60日での定量的属性値を特定し、その後、60日での定量的属性値から始めて持続期間1日の61日での定量的属性値を特定し、その後、61日での定量的属性値から始めて持続時間10日の71日での定量的属性値を特定する)。
【0141】
したがって、実験安定性データが生成された実験時点と異なる時点、特に実験安定性データによってカバーされる期間を超える時点における定量的属性値を特定し、温度が一定のままでなかった保存条件で定量的属性値を特定することが可能となる。
【0142】
現在の時点tでの特定された定量的属性値Cは、ストレージ31に記録される。
【0143】
現在の時点tでの定量的属性値Cに加えて、定量値計算ツールは、パラメータ値の信頼区間から、現在の時点での求められた定量的属性値Cの信頼区画を特定することができる。特定された信頼区間は、特定された定量的属性値Cと共にストレージ31に記録される。
【0144】
保存状態特定ツール29
ストレージ31内に記録された定量的属性値及び関連する信頼区間から、保存状態特定ツール29は、製品の保存状態、例えば関連する信頼区間を考慮した定量的属性値の閾値を含む容認基準内にあるか又はそれから外れるかを特定することができる。
【0145】
製品の特定された保存状態は、ストレージ32記録され、インタフェース16を通してユーザに通信される。
【0146】
以下では、本発明による方法を、コンピュータシステム15を用いて実行する例を説明する。
【実施例】
【0147】
この例において、グループ10内からランダムに選択された特定の製品11を所定の公差内で一定の異なる温度において保存し、- 実験開始時点を含む - 複数の異なる実験時点において、実験対象のそれぞれの製品の活性成分の濃度を特定及び記録した。
【0148】
以下の表3に挙げる実験データセットは、グループ10内の製品11がインフルエンザワクチン製剤の用量であるこのような実験から得られた。
【0149】
【0150】
実験は、4種類の一定温度、それぞれ4℃、25℃、37℃及び45℃で各温度に1つの製品11を用いて行われたことが分かる。それぞれの一定温度の公差は、±3℃であった。4種類の温度の各々について、実験は、開始時点(グループ10の発売時)から37日間行われた。
【0151】
表3に挙げた実験データセットの定量的属性は、SRIDアッセイによって特定されたHA Fluの有効性である。
【0152】
各サンプル(実験が行われた製品11)について、初期HA Flu有効性(開示視点での値)は、同じであり、すなわち798μg/mlである。
【0153】
分解反応により、HA Flu有効性は、時間の経過と共に低下するが、実験データセット内の特定の値は、初期HA Flu有効性の値より高いか又は先行する値より高いこと(例えば、4℃及び25℃の第20日を参照されたい)に留意されたい。これは、測定の不確実性による。
【0154】
図面の
図4は、表3に挙げた十源データセットのグラフであり、HA Flu有効性(単位:μ/ml)が縦軸、時間(単位:日数)が横軸である。
【0155】
上記の表3に挙げた実験データセットをコンピュータシステム15に入力し、方程式解決ツール18を使用してこの実験安定性データセットを計算して、ライブラリ17内の各モデルについてパラメータの最良適合値を求めた。
【0156】
最良適合値をライブラリ17内の各モデルについて求め、コンピュータシステム15のストレージ21に保存した。
【0157】
求められた最良適合値と、- 有意である場合 - 信頼区間(CI)の下限値及び上限値とが以下の表4~13に挙げられ、表中、値の単位は、J/Molである。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
表4~13には、信頼区間(CI)の何れの下限値及び上限値も挙げられていないが、これは、求められた値が有意とするには高すぎるからである。
【0169】
コンピュータシステム15において、推定量生成ツール19を使用して、各モデルについての物理化学尤度推定量、フィット距離、BIC並びにフィッシャ検定及びt検定を求めた。
【0170】
以下の表14には、各モデルについて求められた距離、集計尤度推定量、統計的距離、BIC並びにフィッシャ検定及びt検定の複合結果が挙げられる。求められた初期定量的属性値パラメータC0も挙げられる。
【0171】
フィッシャ検定及びt検定の複合結果は、フィッシャ検定の結果が正であり、t検定の結果が正である場合に有利である。フィッシャ検定及びt検定の複合結果は、フィッシャ検定の結果が負である場合に負である(ここで、t検定は、フィッシャ検定の結果が正である場合にのみ行われることが想起される)。
【0172】
集計尤度推定量は、物理化学尤度推定量並びにフィッシャ検定及びt検定の複合結果の少なくとも一方が負である場合を除いて正である。
【0173】
【0174】
ここで、コンピュータシステム15は、表14をユーザに対して表示し、ライブラリ17内の10のモデルから1つのモデルを選択するための根拠を与える。
【0175】
集計尤度推定量を表示する1つの可能性は、モデル名と同じコラムであり、各セルにおいて、それぞれのモデルの名前を、例えば正の場合には緑、負の場合にはオレンジ等の既定の2つの色の一方を背景と共に含める。
【0176】
前述のように、推定量生成ツール19によって生成される推定量の他に、表14には、求められた初期定量的属性値パラメータC0も挙げられる。
【0177】
実際、求められた初期定量的属性値パラメータC0及び実験初期定量的属性値を、例えばパラメータに関して求められた最良適合値の物理化学尤度推定量を生成するために考慮された解析的標準偏差に反映されない、実験初期定量的属性値の測定における実験上の困難さを考慮して、ユーザが独自に比較することは、興味深い。
【0178】
ユーザは、したがって、集計尤度推定量が負であってもモデルを保持し得る。
【0179】
この例では、集計尤度推定量は、併発反応についてのみ正である(これは、他の全てのモデルについて負である)。
【0180】
これにより、併発反応が優位となる。
【0181】
求められた初期定量的属性値パラメータC0に関して、この例では、各サンプル(実験が行われた製品11)において初期HA Flu有効性が798μg/mlであることが想起される。
【0182】
求められた初期定量的属性値パラメータC0が798に最も近いモデルは、併発反応(796.3)、次いでSestak n/p(779.6)、オーダ3(769.7)、次いでオーダn(768.1)である。
【0183】
これにより、併発反応が優位となる。
【0184】
フィット距離に関して、フィット距離が小さいほどモデリング品質が高い。
【0185】
最も小さいフィット距離を有するモデルは、併発反応(294.81)、次いでオーダn(360.09)、Sestak n/p(360.91)、次いでオーダ3(362.46)である。
【0186】
これにより、併発反応が優位となる。
【0187】
BICに関して、パラメータの数が同じであれば、BICが低いほどモデリング品質が高い。
【0188】
BICが最も低いモデルは、オーダ3(438.43)、次いで併発反応(440.64)、オーダn(441.5876)、次いでオーダ2(442.63)である。
【0189】
パラメータの数は、オーダ3及びオーダ2が3であり、オーダnが4であり、併発反応が8であることが想起される。
【0190】
これにより、併発反応が優位となる。
【0191】
フィッシャ検定及びt検定に関して、並進反応のみが優位である(これは、他の全てのモデルで負である)。
【0192】
したがって、最も高いモデリング品質は、並進反応の場合のようである。
【0193】
図面中の
図5は、
図4と同様であるが、並進反応と呼ばれるモデルによって得られる曲線も、パラメータに関して求められた最良適合値と共に示す。
【0194】
このようなモデリングは、実験データセットに比較的密接に追従することが分かる。
【0195】
しかしながら、先の表9から分かるように、表3に挙げられた実験データセットでは、並進反応と呼ばれるモデルのパラメータの信頼区間の有意な値を求めることができない。
【0196】
したがって、有意な値が求められた他のモデル、すなわちモデリング反応に関して並進反応と呼ばれるモデルの直下にある、オーダnと呼ばれるモデルを選択することが決定された。
【0197】
オーダnと呼ばれるモデルが選択され、パラメータに関する最良適合値が求められると、前述のように、インタフェース16を通して時間t及び製品が保存された一定の温度Tをコンピュータシステム15に入力することにより、定量値計算ツール28に、現在の時点tにおける定量的属性Cを特定させることが可能となり、インタフェース16を通して時間t及びストレージ30に記録される経時的温度プロフィールをコンピュータシステム15に入力することにより、定量値計算ツール28に、現在の時点tにおける定量的属性値Cを特定させることもできる。
【0198】
特定された現在時点tおける定量的属性値Cが特定され、関連する信頼区間と共にストレージ31に記録されると、保存状態特定ツール29は、製品の保存状態、例えば関連する信頼区間を考慮した定量的属性値の閾値を含む容認基準内であるか又はそれから外れるかを特定することができる。
【0199】
製品の特定された保存状態は、ストレージ32に記録され、インタフェース16を通してユーザに通信される。
【0200】
定量的属性値のよりよい変化の法則を求めるために、変更された実験安定性データセットを特定し、変更された実験データセットを提供し、変更された実験安定性データセットを用いて方法を再び実行することが可能である。
【0201】
例えば、変更された実験安定性データセットは、
- 当初の実験データセットに、それまでに行われた別の実験からの別の実験データを追加したもの、
- 当初の実験データセットから、例えば既定の一定温度の1つが高すぎるために有意でないとして除外された実験データを引いたもの、
- 上記の混合、すなわち当初の実験データセットから特定の実験データセットが除外され、その一方で別の実験データが追加されたもの、又は
- 当初のデータセットと共通部分を有さない、例えば異なるバッチで製造された製品の異なるグループのサンプルに関する実験からの全く新しい実験データセット
である。
【0202】
変更された実験テータセットは、例えば、
- 既定の推定量のよりよい集合を提供し、したがってモデルのうちの最良モデルを選択するステップを容易にすることを考慮して、
- 選択された最良モデルのパラメータのより正確な値及びしたがって現在の時点での前記1つの製品の保存状態をより正確に、すなわちパラメータのより小さい信頼区間で特定することができるようにすることを考慮して、又は
- (製品のグループから選択されたサンプルからの)当初の実験テータセットに基づいて特定された変化の法則が(製品の別のグループから選択されたサンプルからの)全く新しい実験データセットにも当てはまるか否かをチェックすることを考慮して特定される。
【0203】
上記で開示した実施形態の変形形態において、製品は、患者に投与されるワクチン用量と異なる例えば他の医薬品、化粧品、合成化学製品又は食品であり、ワクチン用量と異なるこれらの製品は、その分解がアレニウスの法則に従い、特に定量的属性値の変動の方向が同じであり(常に減少するか又は常に増大する)、変動方向が変化する微生物分解と異なる。
【0204】
上記で開示した実施形態の変形形態において、時間及び温度の関数としての定量的属性値の変化の現象論的モデルは、異なり、例えば最大で9つのパラメータを有する。
【0205】
上記で開示した実施形態の変形形態において、コンピュータシステムは、現象論的であり、且つ10以上のパラメータ、例えば10のパラメータを含む、時間及び温度の関数としての定量的属性値の変化のモデル、並びに/又は現象論的ではないモデル、並びに/又は時間及び温度並びに残留水分、照明及び/又は放射等の他の要因の関数としての定量的属性値の変化のモデルも含む。
【0206】
上記で開示した実施形態の変形形態において、推定量は、異なり、且つ/又は異なる方法で表示され、例えば、集計尤度推定量の表示は、物理化学的パラメータ尤度推定量の表示に置き換えられる。
【0207】
他の多くの変形形態が可能であり、この点において、本発明は、開示及び図示された例に限定されないことが想起される。