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特許7494245CD47及びEGFRの二重標的化による癌治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】CD47及びEGFRの二重標的化による癌治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240527BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240527BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240527BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240527BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K38/17
A61P35/00
A61P1/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022081697
(22)【出願日】2022-05-18
(62)【分割の表示】P 2018530075の分割
【原出願日】2016-12-08
(65)【公開番号】P2022116095
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】62/266,470
(32)【優先日】2015-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/380,177
(32)【優先日】2016-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ワイズマン,アービング エル.
(72)【発明者】
【氏名】マッケンナ,ケリー マリー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリンガム,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ホー,ドリス ポイ
(72)【発明者】
【氏名】ダレルバ,ピエロ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】フォルクマー,ジェンス-ピーター
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特許第7077226(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/138600(WO,A1)
【文献】PLoS One, (2015.9), Article.e0137345(p.1-23), doi:10.1371/journal.pone.0137345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRを発現する結腸直腸癌細胞を標的化する、ヒト患者における癌細胞枯渇用の薬学的組成物であって、
(i)CD47とSIRPαとの間の相互作用を減じ、抗SIRPα抗体及び高親和性SIRPαポリペプチドから選択される抗CD47剤、ならびに(ii)前記ヒト患者における標的細胞の枯渇を増大させるための有効量にてEGFRに対し特異的に結合する抗体を含み、
前記標的細胞は、KRAS、NRAS及びBRAFのうちの1つ以上に活性化突然変異を有する
薬学的組成物。
【請求項2】
前記高親和性SIRPαポリペプチドは、膜貫通ドメインが欠失し、野生型SIRPα配列に対して相対的に少なくとも1つのアミノ酸変化を含む高親和性可溶性SIRPαポリペプチドである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記抗CD47剤は、抗SIRPα抗体である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
EGFRに対し特異的に結合する前記抗体はEGFRシグナル伝達経路のアンタゴニストである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
EGFRに対し特異的に結合する前記抗体はEGFRシグナル伝達経路の非アンタゴニストである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
EGFRに対し特異的に結合する前記抗体はヒト化抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
初回抗原刺激量の抗CD47抗体を更に含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
初回抗原刺激量のエリスロポエチン刺激剤を更に含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
EGFRに対し特異的に結合する前記抗体は、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、ザルツムマブ及びマツヅマブからなる群から選択される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記抗CD47剤は、少なくとも0.01mg/kg、最高100mg/kgの用量にて投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
抗体に基づく癌療法は、血液学的悪性腫瘍及び固形腫瘍に罹患した患者の治療に効を奏し且つ重要なストラテジーとして確立されてきた。ヒト癌を介して発現される細胞表面抗原の定義によって、正常組織と比べて過剰発現、突然変異または選択的に発現する、広範囲な標的が明らかにされてきた。抗体に基づく療法に好適な抗原を同定することは、重要な課題であった。そのような療法は、抗原または受容体の機能(例えば、アゴニストまたはアンタゴニストの機能)における改変を媒介し、免疫系を調節するか、特異的抗原を標的化する抗体に共役される特異的薬物を送達することによって、機能させることができる。
【0002】
癌細胞の死滅は、抗体剤にも依るが、受容体遮断またはアゴニスト活性、アポトーシスの誘導、薬物もしくは細胞傷害剤の送達、免疫を介した細胞死滅機構(補体依存性の細胞傷害(CDC)、抗体依存性の細胞傷害(ADCC)及びT細胞機能の調節、ならびに腫瘍脈管構造及び間質に対して抗体が及ぼす特異的影響)に起因する場合がある。癌患者における成長因子または成長因子受容体を阻害する抗体には、CEA、上皮成長因子受容体(EGFR;ERBB1としても知られる)、ERBB2(HER2としても知られる)、ERBB3、MET(HGFRとしても知られる)、インスリン様成長因子1受容体(IGF1R)、エフリン受容体A3(EPHA3)、腫瘍壊死因子(TNF)関連のアポトーシス誘発性リガンド受容体1(TRAILR1;TNFRSF10Aとしても知られる)、TRAILR2(TNFRSF10Bとしても知られる)、及び核因子-κBリガンド(RANKL;TNFSF11としても知られる)の受容体活性化剤が包含される。
【0003】
抗EGFR抗体によっては、現在臨床に用いられているものもある。Vectibix(登録商標)(パニツムマブ)は、疾患進行中または化学療法レジメンを遵守中の転移性の結腸直腸癌腫のための治療用単剤として認可された、上皮成長因子受容体アンタゴニストである。Erbitux(登録商標)(セツキシマブ)は、限局性の(すなわち、局所的に進行した)頭頸部の扁平細胞癌腫の治療用に認可された上皮成長因子受容体(EGFR)アンタゴニストであり、EGFRを発現する転移性の結腸直腸癌の治療用に単剤としてまたはイリノテカンと併用される。ニモツズマブは、アジア、南米、アフリカの一部の国において、頭頸部癌、神経膠腫及び鼻咽頭癌の治療用途での使用が認可された、EGFRに対するヒト化IgG抗体である。
【0004】
成長因子のシグナル伝達を中断させる抗体は、シグナル伝達経路が突然変異した腫瘍の治療に無効でありうる。例えば、結腸直腸癌の多くは、EGFR経路において突然変異を起こし、結果として、恒常的活性化が生起される。最近の証拠によって、KRASまたはNRASに突然変異を有する患者が抗EGFR抗体に応答しないことが明らかにされ、結果として、これらの薬剤の使用は、KRASに突然変異がない癌患者だけに承認されていた。また、トラスツズマブの使用対象者も、ERBB2の発現量が多い患者に限られていた。その患者の群は、トラスツズマブ治療を施すことで最大限の利益が得られることが、研究によって明らかにされてきたからである。
【0005】
抗体は、癌細胞の増殖及び生存に関与する抗原を標的化するだけでなく、癌の免疫監視において重要な免疫学的経路を活性化または拮抗する機能を果たすこともできる。現今では、抗原特異的免疫応答が、抗原提示細胞、食細胞、Tリンパ球及び標的細胞の間の複雑な動的相互作用に起因することが、明らかになっている。
【0006】
例えば、健常細胞上の細胞表面タンパク質CD47、及び食細胞受容体であるSIRPαは、重要な「don’t eat-me」シグナルを構成することによって、アポトーシス細胞クリアランス及びFcR媒介性の食作用を含めた、複数のモダリティによって媒介される包摂を作動させないようにすることができる。CD47によって媒介された関与を食細胞上のSIRPαが遮断するか、ノックアウトマウスにおいてCD47の発現が失われると、生存細胞及び非老化赤血球が除去される可能性がある。代わりに、SIRPα認識を遮断することによって、通常は貪食されない標的の包摂も可能になる。
【0007】
関連する出版物には、米国特許第8,728,476号;Dalerba,P.,S.J.Dylla,Et Al.(2007).”Phenotypic Characterization Of Human Colorectal Cancer Stem Cells.”Proc Natl Acad Sci U S A 104(24):10158-10163;Weiskopf,K.,A.M.Ring,Et Al.(2013).”Engineered Sirp alpha Variants As Immunotherapeutic Adjuvants To Anticancer Antibodies.”Science 341(6141):88-91;Willingham,S.B.,J.P.Volkmer,Et Al.(2012)が包含される。”The Cd47-Signal Regulatory Protein Alpha(Sirpa)Interaction Is A Therapeutic Target For Human Solid Tumors.”Proc Natl Acad Sci U S A 109(17):6662-6667.“Epigentic and genetic features of 24 colon cancer cell lines”,Ahmed et al.,Oncogenesis,2013;Chao,M.P.,A.A.Alizadeh,Et Al.(2010).”Anti-Cd47 Antibody Synergizes With Rituximab To Promote Phagocytosis And Eradicate Non-Hodgkin Lymphoma.”Cell 142(5):699-713が挙げられる。
【発明の概要】
【0008】
個人における上皮成長因子受容体(EGFR)を発現する癌の治療を改善するための方法が提供されている。そのような癌としては、限定されないが、任意のEGFRを発現する癌、(例えば、腺癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌腫、腎細胞癌等の癌腫、及び神経膠腫)が挙げられる。関心対象の癌としては、結腸直腸癌腫、非小細胞性肺癌(NSCLC)、卵巣癌、膵臓癌、乳癌、扁平上皮細胞癌、及び神経膠腫が挙げられる。本発明の方法では、(a)CD47とSIRPαとの間のシグナル伝達を遮断する薬剤、及び(b)EGFRに対し特異的に結合する抗体の組み合わせに、癌細胞を接触させる。本発明の方法は、CD47が遮断されていない場合の公知のEGFRアンタゴニスト抗体による治療とは対照的に、治療の対象となる個人の全生存期間を延長しうる。
【0009】
一部の実施形態において、EGFRを発現する癌細胞は、EGFRシグナル伝達経路の恒常的活性化をもたらす突然変異を含む。そのような一部の実施形態にあって突然変異は、一方または両方の対立遺伝子におけるKRAS、NRASもしくはBRAFの突然変異である。一部の実施形態では、突然変異は、KRASのコドン12または13におけるものである。そのような個人は抗EGFRアンタゴニスト抗体を用いた療法の対象から除外されるが、本発明の併用療法を用いた治療によって利益を得ることが、本明細書中に示されている。他の実施形態において、野生型KRAS、NRAS、BRAFを有する個人は、本発明の方法で治療される。
【0010】
KRAS、NRAS及びBRAFのうちの1つまたは複数について癌細胞の遺伝子型を特定することによって、個人を、療法対象者として選択できる。KRASまたはNRASに突然変異が存在することを理由に抗EGFR抗体を用いた療法の対象から現在除外されている個人を、本発明の方法を用いた療法の対象として選択することもできる。また、EGFRの陽性発現を示す癌が治療対象として選択されているときには、癌細胞上で検出可能なEGFRが発現しているか否かの試験を個人に対し実施してもよい。
【0011】
併用薬剤は同時に投与される。すなわち、他の併用薬剤(類)については、各薬剤を約45日以内、30日以内、15日以内、7日以内、3日以内、2日以内、1日以内または実質的に同時に投与できる。両方の薬剤の血清レベルが治療レベルとなるように投与がスケジューリングされている場合、薬剤の併用を考慮することができる。本発明の利点は、単剤療法として所要とされる用量と比べて抗EGFR抗体を少なめの用量で使用できることである。癌細胞母集団を枯渇させる目的で、必要に応じて投与を繰り返すことができる。
【0012】
一部の実施形態では、個人に対し治療有効量の抗CD47剤を投与する前に、プライマー剤が投与される。好適なプライマー剤には、赤血球産生促進剤(ESA)、及び/または初回抗原刺激量の抗CD47剤が含まれる。プライミング剤の投与後、網状赤血球の産生増加に有効な時間を見込んで、治療量の抗CD47剤を投与する。治療量を数通りの方法で投与することが可能である。一部の実施形態では、プライマー剤の投与後に、2通り以上の治療有効量を投与する。一部の実施形態では、治療有効量の抗CD47剤を、2通り以上の用量(濃度を漸増させた用量及びその他の等価用量)として、投与する。
【0013】
一部の実施形態では、本発明の併用薬剤を、患者のヘマトクリットを増加させる有効量の薬剤、例えば、エリスロポエチン刺激剤(ESA)と併用して投与する。そのような薬剤は公知であり、当該技術分野において使用されており、例えば、Aranesp(登録商標)(ダルベポエチンα)、Epogen(登録商標)NF/Procrit(登録商標)NF(エポエチンα)、Omontys(登録商標)(ペギネサタイド)、Procrit(登録商標)などが包含される。
【0014】
本発明の方法において用いられる抗CD47剤は、癌細胞に存在するCD47と貪食細胞上に存在するSIRPαとの間の結合を中断させる。そのような方法は、抗EGFR抗体の存在下で、癌細胞の食作用を増大しうる。好適な抗CD47剤には、可溶性SIRPαポリペプチド、可溶性CD47、抗CD47抗体、抗SIRPα抗体及びこれらに類するものが包含され、抗体という用語には、当該技術分野において公知の抗体断片及びこれらの変種が包含される。一部の実施形態において抗CD47剤は抗CD47抗体であり、一部の実施形態において抗CD47抗体は、非溶血性抗体である。一部の実施形態において、抗体はヒトIgG4 Fc領域を含む。
【0015】
抗EGFR抗体としては、限定されないが、現在臨床用とされていて臨床治験に組み入れられている抗体が挙げられ、EGFRシグナル伝達を拮抗することによって作用する抗体が包含される。そのようなEGFRアンタゴニスト抗体を本発明の方法に使用しても差し支えないが、本発明の方法では、抗EGFR抗体によるEGFRシグナル伝達の遮断を必要としないため、経路アンタゴニストでない抗体を本併用療法の方法に使用できる。現在臨床用に認可されている抗EGFR抗体の例としては、mAb225のネズミ可変領域とヒトIgG1定常領域とを含むキメラモノクローナル抗体であるセツキシマブ、完全ヒトIgG2抗体パニツムマブ、及びヒト化IgG1抗体ニモツズマブが挙げられる。臨床開発における他の抗体には、ザルツムマブ及びマツズマブが包含される。抗EGFR抗体は、単剤療法として好適な従来の用量に従って、または化学療法及び/または放射線の両方を併用して投与することもできるし、またはCD47遮断とを併用した際に効果が最適化されるように投薬量を調整することもできる。
【0016】
癌細胞への接触は、例えば治療用途にインビボで、及び、例えばスクリーニングアッセイ等の用途にインビトロで、実行することができる。CD47とSIRPαとの間の相互作用を効果的に遮断するCD47遮断薬を、抗EGFR抗体と併用し、腫瘍細胞の近傍にて、貪食細胞をはじめとする免疫細胞に接触させることによって、腫瘍細胞(例えば、癌腫、神経膠腫、黒色腫など)を枯渇対象として標的化する。併用療法では、単剤使用と比べて、腫瘍細胞の食作用及び排除を相乗的に増強させることが可能であり、また、併用によって、抗腫瘍T細胞の応答を誘発させることも、更には、併用によって、治療を受けている個人の全生存期間を延長させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
添付図面と併せ読むことで、以下の詳細な説明から本発明を最もよく理解できる。特許または出願ファイルには、カラー仕上げされた少なくとも1つの図面が含まれる。カラー図面(1つまたは複数)を含めた本特許または特許出願公開のコピーは、請求あり次第、所定料金の決済後に事務局から送付される。一般慣行によれば、本図面の様々な特徴が一定の縮尺倍率でないことが強調されるが、逆に、明確さを期して様々なフィーチャの寸法が任意に拡大または縮小されるようになっている。本図面に収録されている図は、以下のとおりである。
【0018】
図1】癌幹細胞上でのEGFRの発現率を示す図である。癌幹細胞(CD44+CD166+)、ならびにCD47及びEGFRの発現を示すマーカー用に、患者の結腸癌細胞をプロファイリングした。全てではないにしても殆どのCSCが、EGFRを共発現していないことが明らかである。
図2】CD47のSIRPα経路(すなわち抗CD47抗体(Ab)、Hu5F9-G4)が遮断されると、EGFRシグナル伝達経路内の下流突然変異には関係なくEGFRを発現する癌細胞の抗体依存性の細胞食作用(ADCP)が抗EGFR抗体(セツキシマブ)によって増強されること、対照IgG4(黒)、抗CD47抗体(Ab)Hu5F9-G4(赤)、抗EGFR抗体(Ab)セツキシマブ(緑)、またはHu5F9-G4とセツキシマブ(青)との併用の存在下での、ドナー由来のヒトマクロファージによる結腸癌細胞のパネルの食作用、以前にレポートされたKRAS及びBRAFの突然変異ステータス(Epigentic and genetic features of 24 colon cancer cell lines,Ahmed et al.,Oncogenesis,2013)を示す図である。EGFRの発現量増加によって細胞が編成され、セツキシマブの結合をフローサイトメトリーにかけて定量されたように、EGFRの発現に対してSW620は陰性である。別個の献血者2名から採取されたマクロファージを用いたデータに、平均及び標準偏差を表してある。
図3A】抗EGFR抗体(セツキシマブ及びパニツムマブ)を併用し、且つ抗CD47抗体(Hu5F9-G4)を介してCD47のSIRPαシグナル伝達経路を遮断することによって、治療的効能がインビボで増強されることを示す図であり、腫瘍増殖を示す図である。レンチウイルスをコードするGFP-ルシフェラーゼが形質導入されたUM8結腸腺癌細胞(EGFR+ )を、NSGマウスの背中に皮下注射し、腫瘍細胞生着後(生物発光イメージングにより確認)28日目に、PBS(黒)、Hu5F9-G4(赤)(250μg)、セツキシマブ(緑120μg)及びパニツムマブ(青)(120μg)をHu5F9-G4とセツキシマブ(橙色)と併用するか、Hu5F9-G4をパニツムマブ(紫)と併用し、腹腔内注射で1日おきに(PBS、Hu5F9-G4)または週次に(パニツムマブ、セツキシマブ)13週間にわたって投与して、生物発光イメージングで測定した腫瘍増殖を示す図である。Hu5F9-G4を単独投与しても腫瘍成長が阻害されず、セツキシマブの単剤療法によって腫瘍成長が安定したものの、腫瘍退縮は生じなかった。パニツムマブの単剤療法での治療で腫瘍退縮が誘発された一方で、Hu5F9-G4とセツキシマブまたはパニツムマブとを併用して治療された全てのマウスにおいて、大々的な腫瘍退縮が観察された。図Bは、生存曲線を示す図である。
図3B】抗EGFR抗体(セツキシマブ及びパニツムマブ)を併用し、且つ抗CD47抗体(Hu5F9-G4)を介してCD47のSIRPαシグナル伝達経路を遮断することによって、治療的効能がインビボで増強されることを示す図であり、生存曲線を示す図である。
図4A】抗EGFR抗体(セツキシマブ)と、抗CD47抗体(Hu5F9-G4)によるCD47のSIRPαシグナル伝達経路の遮断とを併用することで、EGFRにおける下流の突然変異とは関係なく、EGFRを発現する癌細胞の抗体依存性の細胞食作用(ADCP)が増強され、転移を防止または排除することを示す図である。図Aは、レンチウイルスをコードするGFP-ルシフェラーゼが形質導入されたDLD1結腸腺癌細胞(EGFR+ 、KRAS変異体)を、NSGマウスの背中に皮下注射し、腫瘍細胞生着の(生物発光イメージングによって確認された)後、5日目に、PBS(黒色)、Hu5F9-G4(赤色)(250μg)、セツキシマブ(緑色)(120μg)、またはHu5F9-G4を、セツキシマブ(青色)と併用して、1日おき(PBS、Hu5F9-G4)または週1回(セツキシマブ)の腹腔内注射で、7週間にわたって投与して、生物発光イメージングで測定した腫瘍増殖を示す図である。Hu5F9-G4を単独投与することで、腫瘍成長が減速したが、腫瘍成長の阻害は見られなかった。セツキシマブの単剤療法で治療を行っても、EGFRシグナル伝達経路における下流の突然変異を有する腫瘍に対して予期される効果は得られなかった。Hu5F9-G4とセツキシマブとを併用しても腫瘍増殖は阻害されなかった。但し、腫瘍増殖を低速化するうえで最も強力な効果が発揮された。
図4B】抗EGFR抗体(セツキシマブ)と、抗CD47抗体(Hu5F9-G4)によるCD47のSIRPαシグナル伝達経路の遮断とを併用することで、EGFRにおける下流の突然変異とは関係なく、EGFRを発現する癌細胞の抗体依存性の細胞食作用(ADCP)が増強され、転移を防止または排除することを示す図である。注目すべきことに、セツキシマブで治療されたマウスはPBS対照コホート(LN4/5)に比べてリンパ節転移(4/5マウス)が抑えられる一方、治療効果はHu5F9-G4(LN2/4)を用いた場合よりも劣ることを示す図である。最も強力な治療効果が得られたのは、Hu5F9-G4とセツキシマブとを併用した場合であった。このコホート内のいずれのマウスも、治療が終了した時点でまったく転移を有していなかった(LN0/5)。
図4C】抗EGFR抗体(セツキシマブ)と、抗CD47抗体(Hu5F9-G4)によるCD47のSIRPαシグナル伝達経路の遮断とを併用することで、EGFRにおける下流の突然変異とは関係なく、EGFRを発現する癌細胞の抗体依存性の細胞食作用(ADCP)が増強され、転移を防止または排除することを示す図である。注目すべきことに、セツキシマブで治療されたマウスはPBS対照コホート(肺4/5)に比べて肺転移(1/5マウス)が抑えられる一方、治療効果はHu5F9-G4(肺0/4)を用いた場合よりも劣ることを示す図である。最も強力な治療効果が得られたのは、Hu5F9-G4とセツキシマブとを併用した場合であった。このコホート内のいずれのマウスも、治療が終了した時点でまったく転移を有していなかった(肺0/5)。
図5】用量及び併用のタイミングを図示した臨床治験プロトコールの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(a)CD47シグナル伝達を遮断する薬剤と(b)標的EGFRとの併用薬剤に接触した後に、生存細胞の食作用によって癌細胞を選択的に焼灼する、被験者においてEGFRを発現する癌細胞の枯渇を標的化するための方法が提供されている。
【0020】
本発明の理解を促すために、以下、幾つかの用語を定義する。
【0021】
本活性薬剤及び方法について記述するにあたって、本発明は、記載されている特定の方法論、製品、装置及び要因に限定されるものではなく、そのような方法、装置及び製剤がそれぞれ異なりうることは勿論である。本明細書中で用いられている技術用語は、特定の実施形態のみを記述する目的としており、添付の特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を制限することを意図したものではないことを、理解すべきである。
【0022】
本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用されているように、文脈上他の意味に解すべきことが明記されている場合を除き、単数形の「a」、「and」及び「the」には、複数の指示物が包含される。ゆえに、例えば、「候補薬」に言及した場合は、そのような候補のうちの1つまたは混合物を指し、「方法」に言及した場合は、当業者に公知の等価な工程及び方法などに対する言及が包含される。
【0023】
別途規定しない限り、本明細書中に用いられている全ての技術用語及び科学用語は、本発明の帰属する当業者が共通に理解するのと同じ意味を有する。本明細書において言及されている全ての刊行物は、本明細書に記載されている発明と関連して使用できる装置、処方及び方法論を記述し開示することを目的に、本明細書中で参照により援用されている。
【0024】
値の範囲が指定されている場合、文脈上他の意味に解すべきことが明記されている場合を除き、その範囲の上限と下限との間にある、下限の単位の10分の1までの各介在値、及び、その記載されている範囲内にある他の任意の記載されている値または介在値が、本発明中に包含される。また、これら小さい方の範囲の上限及び下限は、記載されている範囲内で具体的に除外された限度値に従い、独立に小さい方の範囲に含めることも可能である。記載されている範囲にこれらの限度値の一方または両方が含まれる場合、これらの含まれる限度値のいずれか両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0025】
本発明についての理解が深まるように、以下の説明に、多数の具体的な詳細を記載してあるが、これらの具体的な詳細の1つ以上を用いずに本発明を実施できることは、当業者に明らかであろう。他の事例において、当業者によく知られている周知の特徴及び手順は、本発明を不明瞭にすることを回避するために記載されていない。
【0026】
一般的に、タンパク質合成、組換え細胞培養、及びタンパク質単離の従来の方法、ならびに当該技術のスキルの範囲内での組換えDNA技術が、本発明において用いられている。そのような技術は、以下の文献に完全に説明されている。例えば、Maniatis,Fritsch & Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982);Sambrook,Russell and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2001);Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I,Cold Spring Harbor Laboratory(1998);及びHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)を参照のこと。
【0027】
定義
抗CD47剤。CD47は、単一のIg様ドメインと5つの膜貫通領域とを含んでなる、広範に発現する膜貫通糖タンパク質である。SIRPα用の細胞性リガンドとして機能する。その結合は、SIRPαのNH2 末端のV様ドメインによって媒介される。SIRPαは、主として、骨髄性細胞、例えばマクロファージ、顆粒球、骨髄性樹状細胞(DC)、マスト細胞、及びその前駆体、例えば造血幹細胞上に発現する。CD47の結合を媒介するSIRPαに対する構造判定については、Lee et al.(2007)J.Immunol.179:7741-7750;Hatherley et al.(2008) Mol Cell.31(2):266-77;Hatherley et al.(2007)J.B.C.282:14567-75によって論説されている一方、CD47の結合におけるSIRPαシス二量体化の役割については、Lee et al.(2010)J.B.C.285:37953-63によって論説されている。正常細胞の食作用を阻害するCD47の役割と対応して証拠立てられているのは、造血幹細胞(HSC)及び前駆細胞に対し、これらの細胞の移行段階の直前及び移行段階中に、過渡的な上方制御が行われること、ならびに、これらの細胞上のCD47のレベルが、これらの細胞がインビボで包摂される確率を決定する、という点である。
【0028】
本明細書において、用語「抗CD47剤」または「CD47遮断を可能にする薬剤」は、CD47(例えば、標的細胞上の)からSIRPα(例えば、貪食細胞上)への結合を減ずる任意の薬剤を指す。好適な抗CD47試薬の例としては、限定されないが、SIRPα試薬が挙げられる。このSIRPα試薬は、高親和性SIRPαポリペプチド、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチド、及び抗CD47抗体または抗体断片を含むがこれらに限定されるものではない。一部の実施形態では、好適な抗CD47剤(例えば、抗CD47抗体、SIRPα試薬など)は、CD47に対し特異的に結合して、SIRPαに対するCD47の結合を減ずる。
【0029】
一部の実施形態では、好適な抗CD47剤(例えば、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチドなど)は、SIRPαに対し特異的に結合して、SIRPαに対するCD47の結合を減ずる。SIRPαに結合する好適な抗CD47剤は、(例えば、SIRPαを発現する貪食細胞内で)SIRPαを活性化しない。好適な抗CD47剤の効能は、薬剤をアッセイすることによって評価できる。例示的なアッセイでは、候補薬剤の存在下または不在下で、及びエフェクタ細胞(例えば、マクロファージまたは他の貪食細胞)の存在下で、標的細胞をインキュベートする。本発明の方法に用いられる薬剤は、薬剤の存在下での食作用と比べて、少なくとも5%(例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%)だけ食作用を上方制御する。同様に、SIRPαのチロシンリン酸化のレベルに対するインビボアッセイで明らかにされるように、候補薬剤の存在下で観察されたリン酸化と比べて、少なくとも5%(例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%)リン酸化が低減する。
【0030】
一部の実施形態において、抗CD47剤は、CD47を結合した際に活性化しない。CD47が活性化されると、アポトーシスに類似したプロセス(すなわち、プログラムされた細胞死)が起こる可能性がある(Manna and Frazier,Cancer Research,64,1026-1036,Feb.1 2004)。ゆえに、一部の実施形態において、抗CD47剤は、CD47を発現する細胞の細胞死を直接的には誘発しない。
【0031】
一部の実施形態では、個人に対し治療有効量の抗CD47剤を投与する前に、プライマー剤が投与される。好適なプライマー剤としては、赤血球産生促進剤(ESA)、及び/または初回抗原刺激量の抗CD47剤が挙げられる。プライミング剤の投与後、網状赤血球の産生増加に有効な時間を考慮に入れて、治療量の抗CD47剤を投与する。本明細書において特に参照により援用されている同時係属中の特許出願(米国特許出願第14/769,069号)に記載されている方法に従って投与を行うことができる。
【0032】
SIRPα試薬。SIRPα試薬は、認識可能な親和性にて、CD47に結合するために十分なSIRPαの一部分を含む。このSIRPαの一部分は通常、シグナル配列と、膜貫通ドメインまたは結合活性を保持するその断片との間に位置する。好適なSIRPα試薬は、天然タンパク質SIRPαとCD47との間の相互作用を減ずる(例えば、遮断し、阻止する等)。SIRPα試薬は通常、少なくともSIRPαのd1ドメインを含む。
【0033】
一部の実施形態において、本抗CD47剤は、「高親和性SIRPα試薬」であり、これには、SIRPα由来のポリペプチド、及びこれらのアナログ(例えば、CV1-hIgG4、及びCV1単量体)が包含される。高親和性SIRPα試薬は、本明細書において特に参照により援用されている国際出願PCT/US13/21937号に記載されている。この高親和性SIRPα試薬は、天然SIRPαタンパク質の変種である。親和性を増大させるアミノ酸変化は、d1ドメイン内に局在するため、高親和性SIRPα試薬はヒトSIRPαのd1ドメインを含み、このd1ドメイン内の野生型配列に対して相対的に少なくとも1つのアミノ酸変化が含まれる。そのような高親和性SIRPα試薬は、任意で、追加的なアミノ酸配列(例えば抗体Fc配列)、天然タンパク質の残基150~374またはその断片を含むがそれらに限定されない、d1ドメイン以外の野生型ヒトSIRPαタンパク質の一部分、通常はd1ドメインに隣接する断片などを含む。高親和性SIRPα試薬は、単量体または多量体、すなわち、二量体、三量体、四量体などでありうる。一部の実施形態では、高親和性SIRPα試薬は可溶性であり、ポリペプチドはSIRPα膜貫通ドメインが欠失し、野生型SIRPα配列に対して相対的に少なくとも1つのアミノ酸変化を含む。アミノ酸変化によって、CD47に対するSIRPαポリペプチドの結合親和性を、例えば解離速度の低速化によって、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、またはそれを上回って増加させる。
【0034】
任意選択的に、SIRPα試薬は融合タンパク質とされ、例えば、第2のポリペプチドとインフレームで融合される。一部の実施形態において、第2のポリペプチドは、融合タンパク質のサイズを増大させることで、例えば融合タンパク質が循環から急に取り除かれないようにすることができる。一部の実施形態において、第2のポリペプチドは、免疫グロブリンFc領域の一部分または全体である。Fc領域は、「eat me」シグナルを送り、高親和性SIRPα試薬から送られた「don’t eat me」シグナルの遮断を促すことによって、食作用の助けをする。他の実施形態において、第2のポリペプチドは、例えば、ドメインのサイズ増大、多量体化、及び/またはIg分子との付加的な結合もしくは相互作用をもたらすという点で、Fcに実質的に類似する、任意の好適なポリペプチドである。
【0035】
抗CD47抗体。一部の実施形態において、本抗CD47剤は、CD47(すなわち、抗CD47抗体)と特異的に結合して、或る細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を減ずる抗体である。一部の実施形態において、好適な抗CD47抗体は、結合した際にCD47を活性化しない。抗CD47抗体によっては、SIRPαへのCD47の結合を減じない(そのため、本明細書中の「抗CD47剤」とは見なされない)ものもあり、そのような抗体は、「非ブロッキング抗CD47抗体」と呼ばれる場合がある。好適な抗CD47抗体で「抗CD47剤」であるとされているものは、「CD47ブロック化抗体」と呼ばれる場合がある。好適な抗体の例としては、限定されないが、クローンB6H12、5F9、8B6、及びC3が挙げられ、これは、例えば、本明細書において特に参照により援用されている国際特許公報(国際公開第2011/143624号)に記載されている。好適な抗CD47抗体には、そのような抗体の完全なヒト、ヒト化またはキメラバージョンが包含される。ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は、抗原性が低いため、ヒトにおけるインビボでの用途に特に有用である。同様に、イヌ化(canonized)抗体、ネコ化抗体、その他の抗体はそれぞれ、イヌ、ネコ及びその他の種の用途に特に有用である。関心対象の抗体としては、ヒト化抗体、またはイヌ化抗体、ネコ化抗体、ウマ化(equinized)抗体、ウシ化(bovinized)抗体、ブタ化(porcinized)抗体などの抗体及びこれらの変種が挙げられる。
【0036】
一部の実施形態では、抗CD47抗体は、ヒトIgG Fc領域(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4定常領域)を含む。好ましい実施形態において、IgG Fc領域はIgG4定常領域である。IgG4ヒンジは、アミノ酸置換S241Pで安定化させることができる(本明細書において特に参照により援用されているAngal et al.(1993)Mol.Immunol.30(1):105-108を参照のこと)。
【0037】
抗SIRPα抗体。一部の実施形態において、本抗CD47剤は、SIRPα(すなわち、抗SIRPα抗体)と特異的に結合して、或る細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を減ずる抗体である。好適な抗SIRPα抗体は、SIRPαを活性化すれば食作用が阻害されてしまうという理由から、SIRPα経由のシグナル伝達の活性化または刺激を行わずに、SIRPαと結合しうる。あるいは、好適な抗SIRPα抗体は、正常細胞よりも罹患細胞に対する食作用を優先的に促す。他の細胞(非感染細胞)と比較して高いレベルのCD47(例えば、感染細胞)を発現する細胞の方が、優先的に貪食される。ゆえに、好適な抗SIRPα抗体は、SIRPαに特異的に結合し(貪食を阻害するために十分なシグナル伝達応答を活性化/刺激せずに)、SIRPαとCD47との間の相互作用を遮断する。好適な抗SIRPα抗体には、そのような抗体の完全なヒト、ヒト化またはキメラバージョンが包含される。ヒト化抗体は、抗原性が低いため、ヒトにおけるインビボでの用途に特に有用である。同様に、イヌ化(canonized)抗体、ネコ化抗体、その他の抗体はそれぞれ、イヌ、ネコ及びその他の種の用途に特に有用である。関心対象の抗体としては、ヒト化抗体、またはイヌ化抗体、ネコ化抗体、ウマ化(equinized)抗体、ウシ化(bovinized)抗体、ブタ化(porcinized)抗体などの抗体及びこれらの変種が挙げられる。
【0038】
可溶性CD47ポリペプチド。一部の実施形態において、本抗CD47剤は、SIRPαと特異的に結合して、或る細胞(例えば、感染した細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの間の相互作用を減ずる、可溶性CD47ポリペプチドである。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαを活性化すれば食作用が阻害されてしまうという理由から、SIRPα経由のシグナル伝達の活性化または刺激を行わずに、SIRPαと結合する場合がある。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、代わりに、非感染細胞よりも感染細胞の方が優先されるように食作用を促す。正常な非標的細胞(正常細胞)と比較して高いレベルのCD47(例えば、感染細胞)を発現する細胞によって、優先的に食作用が遂行される。ゆえに、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、食作用を阻害するための十分なシグナル伝達応答を活性化/刺激せずにSIRPαを特異的に結合する。
【0039】
一部の事例において、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、例えば、本明細書中に特に参照により援用されている米国特許出願公開US20100239579号において構造的に記載されているような、融合タンパク質でありうる。一方、本明細書中に提供されている方法に好適な融合タンパク質は、SIRPαの活性化/刺激を行わない融合タンパク質だけである。また、好適な可溶性CD47ポリペプチドには、SIRPαと特異的に結合でき、且つ食作用を阻害するために十分なSIRPα活性を刺激することなくCD47とSIRPαとの間の相互作用を阻害できる、変種または自然に存在するCD47配列(例えば、細胞外ドメイン配列または細胞外ドメイン変種)を含む任意のペプチドまたはペプチド断片も包含される。
【0040】
或る実施形態において、可溶性CD47ポリペプチドは、CD47の細胞外部分が典型的には142アミノ酸長になるように、シグナルペプチドを含めた、CD47の細胞外ドメインを含む。また、本明細書中に記載されている可溶性CD47ポリペプチドには、CD47細胞外ドメインの変種が包含される。アミノ酸配列を少なくとも65%~75%、75%~80%、80~85%、85%~90%、または95%~99%(または、65%~100%の間にある、具体的には列挙されていない任意の同一性パーセント)含み、この変種はSIRPαシグナル伝達を刺激することなく、SIRPαに結合する能力を保持する。
【0041】
或る実施形態において、シグナルペプチドアミノ酸配列は、別のポリペプチド(例えば、免疫グロブリンまたはCTLA4)から誘導されるシグナルペプチドアミノ酸配列で置換される場合がある。例えば、完全長のCD47(すなわち、外側細胞膜を横断する細胞表面のポリペプチド)とは異なった、可溶性のCD47ポリペプチドが分泌されるにつれて、可溶性CD47ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、このヌクレオチド配列は通常、細胞から分泌されるポリペプチドに関連することになる。
【0042】
他の実施形態において、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチドが欠失したCD47の細胞外ドメインを含む。本明細書中に記載されているように、シグナルペプチドは、分泌タンパク質または膜貫通タンパク質の細胞表面上に曝露されない。この理由は、タンパク質の転座中にシグナルペプチドが開裂されるか、シグナルペプチドが、外側細胞膜内にアンカーされた状態のままに維持されるからである(そのようなペプチドは、シグナルアンカーとも呼ばれる)。CD47のシグナルペプチド配列は、インビボで前駆体CD47ポリペプチドから切断されると考えられている。
【0043】
他の実施形態において、可溶性CD47ポリペプチドは、CD47細胞外ドメインの変種を含む。そのような可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαシグナル伝達を刺激することなしにSIRPαに結合する能力を保持する。CD47細胞外ドメインの変種は、天然CD47配列に対して少なくとも65%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、または95%~99%同一である(記載される範囲のいずれか1つの間にある任意の同一性パーセントが包含される)アミノ酸配列を有する場合がある。
【0044】
EGFR。上皮成長因子受容体(EGFR)は、細胞表面上に存在し、その特異的リガンド(上皮成長因子を含み、且つ成長因子α(TGFα)を変換するリガンド)の結合によって活性化される。EGFRは、その成長因子リガンドによって活性化されると、不活性単量体形態から活性二量体への遷移を経る。EGFRの二量体化によって、その内在性細胞内タンパク質であるチロシンキナーゼ活性が刺激される。結果として、EGFRのC末端ドメイン内で、幾つかのチロシン(Y)残基の自己リン酸化が生起される。この自己リン酸化によって、幾つかの他のタンパク質は、下流の活性化及びシグナル伝達を行うように誘発され、それ自身のホスホチロシン結合SH2ドメインを介してリン酸化チロシンと会合することになる。これらの下流シグナル伝達タンパク質は、幾つかのシグナル形質導入カスケード(主としてMAPK、Akt及びJNK経路)を開始することによって、DNAの合成及び細胞増殖を遂行する。
【0045】
EGFR活性化が下流に及ぼす効果としては、3つの主要経路が調節されることが挙げられる。リン酸化されたEGFRが、GRB2及びSHCアダプタータンパク質を介してグアニンヌクレオチド交換因子を補充することで、RASが活性化されると、RAS-RAF-MAPK経路の誘導(induction)が起こる。この工程は引き続いて、細胞増殖、腫瘍浸潤、及び転移に最終的に影響するRAF及びMAPキナーゼ経路を促進する。EGFRシグナル伝達経路におけるRASの関与は、抗EGFRアンタゴニスト抗体での治療に重要である。EGFR阻害剤は、EGFRの発現量が多いにもかかわらず、ごく一部の患者においてのみ有効である。癌によってはEGFR阻害剤に対する抵抗性を得ると見られるものもあり、標的療法に対する感受性欠如の根底には、EGFR遺伝子自体における突然変異だけでなく、RAS、RAF及びAKTのような下流エフェクタにおける差次的な臨床転帰に関連する突然変異も含めた、複数の機序が存在すると思われる。
【0046】
EGFR遺伝子は、染色体7p11.2上に存在していて、464アミノ酸の膜貫通受容体タンパク質をコードする28個のエクソンを有する。EGFRの内部では、エクソン5~7及び13~16がリガンド結合ドメインをコードし、一方、エクソン18~24がTKドメインをコードする。エクソン25~28によってコードされた領域内では、自己リン酸化が生起される。
【0047】
EGFRまたはファミリーメンバーの突然変異、増幅または誤調節は、全ての上皮癌の約30%に関係していることが示唆されている。TKドメイン内では、如何なる場所においても突然変異が起こる可能性があるが、エクソン18~21で、肺癌における相次ぐEGFR突然変異が観察される。これらのなかで最も頻繁なのは、約45%の症例において起こるエクソン19でのインフレーム欠失であり、次いで頻度が高いのは、40~45%の症例において起こるエクソン21での点突然変異である。エクソン19では20通り以上の欠失が観察される。一方、検出された点突然変異のなかでも最もよく起こるのは、エクソン21でのL858Rである。デノボ突然変異は、EGFR内で構成的に受容体を作動させて起こることが知られている。これらのなかで最も重要なのはT790Mであるが、症例の約50%を占める、エクソン20での点突然変異、症例の約5%を占める、エクソン20での挿入突然変異はまた、抵抗に関連している。
【0048】
コドン12及び13でのKRASにおける突然変異は、NSCLC患者の約15~50%において起こり、一方、BRAF突然変異は肺癌患者の1~2%において検出されている。非喫煙者の場合はEGFR突然変異が起こり、喫煙者の場合はKRAS突然変異が起こることから、NSCLC内では、KRAS突然変異及びEGFR突然変異が相互に排他的であると思われる。およそ30%~50%の結腸直腸腫瘍は、突然変異したKRAS遺伝子を有するものとして知られている。突然変異したBRAF遺伝子は、5%~10%の腫瘍に存在していて、また、抗EGFR抗体に対する応答にも影響する可能性がある。
【0049】
KRAS、NRAS、BRAF突然変異。複数の研究によって明らかにされてきたように、KRASまたはNRASエクソン2、3、または4において突然変異を有する腫瘍患者は、化学療法と併用して抗EGFR抗体療法を施しても、奏効しないことが予想される(Ciardiello et al.2014;Douillard et al.2013;Karthaus et al.2013;Peeters et al.2014;Stintzing et al.2014;Tejpar et al.2014)。関心対象の特異的突然変異としては、コドン12または13におけるKRAS突然変異が挙げられる。このKRAS突然変異は、KRAS c.34G>T(G12C);KRAS c.34G>C(G12R);KRAS c.34G>A(G12S);KRAS c.35G>C(G12A);KRAS c.35G>A(G12D);KRAS c.35G>T(G12V);KRAS c.37G>T(G13C);KRAS c.37G>C(G13R);KRAS c.37G>A(G13S);KRAS c.38G>C(G13A);KRAS c.38G>A(G13D);NRAS c.34G>T(G12C);NRAS c.34G>A(G12S);NRAS c.35G>C(G12A);NRAS c.35G>A(G12D);NRAS c.35G>T(G12V)を含むがこれらに限定されない。KRAS突然変異のうち最も頻度が高いG12D、G12V、G13D、G12Cの4つは、全てのKRAS突然変異の83%を占める。例えば、Peeters et al.JCO February 20,2013 vol.31 no.6 759-765;Stoltze et al.Scientific Reports 5,Article number:8535(2015)を参照のこと。
【0050】
これらの遺伝子の遺伝子型を分析する際には、当該技術分野において公知の様々な方法を使用できる。突然変異を検出する従来の方法は、腫瘍組織の直接的DNA配列決定によって、スクリーニングすることを含んでいた。Sanger配列決定技術は、殆どの分子診断実験室で利用可能であり、新規な変種を含めた、遺伝子全体での変化が検出されるという特異な利点を有する。最近の方法論は、迅速で堅牢な高感度試験を達成するため、突然変異の標的スクリーニングに焦点を当ててきた。分子診断実験室において現在使用されている様々な方法には、少し例を挙げると、増幅不応性突然変異系、パイロシーケンシング、スマート増幅プロセス、高分解能融解分析、及び制限断片長多型が包含される。これらの方法はいずれも、関心対象の領域において、変異体と野生型DNAとを区別する。直接的な配列決定とは対照的に、標的化された分析に対する検出限界は、正常DNAを背後にして変異体DNA約1~5%とされている。
【0051】
殆どの実験室では、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を使用して突然変異の有無を試験している。また、冷凍された腫瘍組織を使用する実験室も2~3あるが、FFPE試料をスクリーニングするに際して、DNA抽出の成功、封埋組織に使用される定着剤による干渉等の重要な課題が提起されている。なかでも極めて重要な課題は、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく方法論を用いる場合に、有効な分析用に短縮されたアンプリコンを得ることである。細針吸引及び胸膜滲出液などの代替の試料タイプは、悪性腫瘍の診断を迅速化し、容易にすることを可能にする、実行可能な選択肢として現在評価されている。試験に先立って腫瘍を微小切開することもまた、有用である。これにより、効果的に試料が富化され、結果として、感受性が高まるためである。
【0052】
この目的に対応することを目指して市販されている試験が、therascreen KRAS RGQ(Rotor-Gene Q)PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)キットである。KRAS遺伝子のコドン12または13における突然変異の有無を検査する試験は、原発腫瘍または転移からのホルマリン固定パラフィン包埋組織に対して実施できる。PCR増幅及びDNA配列分析または対立遺伝子特異的PCR(原発腫瘍または転移からのホルマリン固定パラフィン包埋組織に対するBRAF V600E突然変異ステータス用)がある。
【0053】
抗EGFR抗体。ヒトEGFRを特異的に結合し阻害する、臨床的に有用な抗体のなかには、本発明の方法において利用可能であり、用途を見出せるものが幾つかある。抗EGFRモノクローナル抗体(例えば、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、ザルツムマブ及びマツヅマブ)は、EGFR単量体の細胞外ドメインに結合し、内在性リガンドを介して結合し、受容体の内在化をトリガして、リガンド誘発性受容体の活性化を遮断するための受容体を競合する。EGFRのL2ドメインに結合するセツキシマブは、マウス及びヒト供給源のそれぞれに由来する可変領域及び定常領域から構成されるキメラタンパク質抗体であり、一方、パニツムマブ及びニモツズマブは、ヒト抗体及びヒト化抗体である。現在に至るまで、食品医薬品局は、進行性の結腸直腸癌、神経膠腫、及び頭頸部腫瘍において用いられるEGFR標的mAbsを認可してきた。
【0054】
抗体を現在処方されている通りに使用してもよいし、投薬量を様々に変えながら、併用療法を最適化することもできる。例えば、セツキシマブは現在、初期用量として400mg/m2 の用量で処方されていて、続いて週1回250mg/m2 を注射する。重篤でない輸注反応では、用量を50%減らしても差し支えない。パニツムマブは現在、14日毎6mg/kgの静脈内注射として処方されている。重篤でない輸注反応では、用量を50%減らしても差し支えない。
【0055】
例えば、抗EGFR抗体は、必要に応じて、約0.05mg/kg、0.1mg/kg、5mg/kg、1mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg、12.5mg/kg、15mg/kg、またはそれを超える用量で投与することができる。例えば、毎日、1日おき、半週毎、毎週、145日毎に、所望の結果を達成するために十分な時間にわたって、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれを超える週数にわたって投与できる。一部の実施形態において、併用療法に対する用量は、単剤療法として効果を発揮するために必要とされる用量を下回る。
【0056】
EGFRシグナル伝達を直接的に阻害する抗体に加えて、本発明の併用方法は、例えば、本明細書において特に参照により援用されている国際特許出願(国際公開第2012058592号)に記載されている非拮抗的抗EGFR抗体13A9などを用いて利用されている。
【0057】
本明細書において、「抗体」には、免疫グロブリン分子に対する言及が包含され、特定の抗原に対して免疫学的に反応性のポリクローナル及びモノクローナル抗体の両方が包含される。また、この用語には、キメラ抗体(例えば、ヒト化ネズミ抗体)及びヘテロ共役抗体などの遺伝子操作形態が包含される。用語「抗体」はまた、抗原結合能力(例えば、Fab′、F(ab′)2 、Fab、Fv及びrIgGを有する断片を含む、抗体の抗原結合形態が包含される。また、この用語は組換え一本鎖Fv断片(scFv)を指す。また、抗体という用語には、二価及び二重特異性分子、二重特異性抗体、三重特異性抗体、ならびに四重特異性抗体が包含される。
【0058】
抗体の選択は、選択性、親和性、細胞毒性などをはじめとする多様な基準に基づきうる。「抗体に対して特異的に(または選択的に)結合する」または「に対して特異的に(または選択的に)免疫反応性」という語句は、タンパク質またはペプチドに言及した場合、タンパク質及び他の生物製剤の異種母集団における、タンパク質の存在を決定づける、結合反応を指す。このため、指定されたイムノアッセイ条件の下で、指定された抗体は、バックグラウンドの少なくとも2倍、より典型的にはバックグラウンドの10~100倍の、特定のタンパク質配列に結合する。本発明の抗体は概して、エフェクタ細胞(例えば、ナチュラルキラー細胞またはマクロファージ)の存在下、標的細胞の表面上の抗原に結合する。エフェクタ細胞上のFc受容体は、結合抗体を認識する。
【0059】
例えば、ファージまたは類似のベクター内で組換え抗体のライブラリを選択する等の組換え方法によって、あるいは、動物を抗原でまたはその抗原をコードするDNAで免疫感作することによって、特定の抗原に対して免疫学的に反応する抗体を生成できる。ポリクローナル抗体を調製する方法は、当業者に公知である。代わりに、抗体はモノクローナル抗体でありうる。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法を使用して調製できる。ハイブリドーマ法では典型的に、適切な宿主動物を、免疫化剤で免疫化し、免疫化剤に対し特異的に結合する抗体を産生するかその抗体を産生する能力があるリンパ球を誘発させる。代わりに、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次いで、リンパ球を、ポリエチレングリコール等の適切な融合剤を用いて不死化細胞系統と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成する。
【0060】
ヒト抗体は、当該技術分野において公知の、ファージディスプレイライブラリを含む様々な技術を使用して、産生することが可能である。同様に、部分的にまたは完全に不活性化された内在性免疫グロブリン遺伝子を有するマウス等のトランスジェニック動物に、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによって、ヒト抗体を作製できる。抗原投与した際、ヒト抗体の産生が観察される。この産生は、遺伝子再配列、アセンブリ、及び抗体レパートリ等のあらゆる点で、ヒトにおいて見られるのと酷似していた。
【0061】
抗体はまた、様々なペプチダーゼでの消化によって生成される十分に特徴付けられた幾つかの断片として存在する。こうして、ヒンジ領域のジスルフィド結合下の抗体をペプシンで消化し、F(ab)′2 (すなわち、それ自体ジスルフィド結合を介してVH -CH1に結合された軽鎖であるFabの二量体)を生成する。温和な条件下でF(ab)′2 が還元されてヒンジ領域内のジスルフィド結合が破壊されると、それにより、F(ab)′2 二量体がFab′単量体に変換される。Fab′単量体は本質的に、ヒンジ領域の一部を有するFabである。無傷抗体の消化に関して様々な抗体断片が定義されているが、化学的に、または組換えDNA方法論を使用するかのいずれかによって、そのような断片をデノボ合成できることは、当業者によって認識されるであろう。ゆえに、本明細書において「抗体」という用語には、抗体全体の改変によって産生されたか、組換えDNA方法論(例えば、一本鎖Fv)を使用して新規に合成されたか、ファージディスプレイライブラリを使用して同定された、いずれの抗体断片も包含される。
【0062】
「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小限の配列を収容する免疫グロブリン分子である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特性、親和性及び能力を有するマウス、ラットまたはウサギ等の非ヒト化学種(ドナー抗体)のCDR由来の残基で置換されるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が包含される。幾つかの実例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体内にもインポートされたCDRまたはフレームワーク配列内にも見出されない、残基を含む場合がある。ヒト化抗体は一般的に、少なくとも1つそして典型的には2つ存在する可変ドメインのうちの実質的に全てを含み、CDR領域のうちの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応していて、且つフレームワーク(FR)領域のうちの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列のFRである。また、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)(典型的には、ヒト免疫グロブリンのFc)の少なくとも一部を含むことが、最適である。
【0063】
関心対象の抗体に関し、ADCC(抗体依存性の細胞障害)またはADCP(抗体依存性の細胞食作用)を誘発する能力について試験することができる。溶解した細胞からの標識または乳酸脱水素酵素の放出のいずれかを検出することによって、標的細胞の生存度低減(例えば、アネキシンアッセイ)を検出することによって、抗体関連のADCC活性をモニターし、定量化できる。アポトーシスについてのアッセイは、末端デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ媒介性ジゴキシゲニン-11-dUTPニック・エンド・ラベリング(TUNEL製)アッセイ(Lazebnik et al.,Nature:371,346(1994)で実施することができる。また、細胞毒性は当該技術分野において公知の検出キット、例えばRoche Applied Science(Indianapolis,Ind.)製Cytotoxicity Detection Kitで直接的に検出できる。
【0064】
本発明の目的に対応した「患者」には、ヒト及び他の動物の両方が包含され、特に、ペット及び実験用動物(例えば、マウス、ラット、ウサギなど)をはじめとする哺乳動物が包含される。ゆえに、本方法は、ヒト療法及び獣医学的用途の両方に適用可能である。一実施形態において患者は、哺乳動物、好ましくは霊長類であり、他の実施形態において、患者はヒトである。
【0065】
本明細書において、「被験者」、「個人」及び「患者」という用語は同義に用いられており、治療に関して評価の対象とされ及び/または治療の対象とされる哺乳動物を指す。一実施形態において、哺乳動物はヒトである。「被験者」、「個人」及び「患者」という用語には、限定されないが、癌に罹患した個人が包含される。被験者は、ヒトとすることができるが他の哺乳動物、特に、ヒト疾患用の実験モデルとして有用な(例えばマウスやラットなどの)哺乳動物も包含される。
【0066】
本明細書中において、用語「癌」、「新生組織形成」、及び「腫瘍」はそれぞれ同義に用いられており、自律的で無規制な成長を呈する細胞で、細胞増殖に対する制御を有意に失ったことにより特徴付けられる非尋常的な成長表現型を呈する細胞を指す。本用途において検出、分析、または治療の対象となる細胞には、前癌性(例えば、良性)、悪性、前転移性、転移性及び非転移性細胞が包含される。ほぼあらゆる組織における癌が、公知となっている。「癌負荷(cancer burden)」という語句は、被験者における癌細胞の量子または癌容積を指す。ゆえに、癌負荷の低減とは、被験者における癌細胞数または癌容積の低減を指す。本明細書において、「癌細胞」という用語は、癌細胞であるか癌細胞から誘導される細胞(例えば、癌細胞のクローン)である、任意の細胞を指す。当業者に公知の癌の種類は、固形腫瘍(例えば、癌腫、肉腫、グリア芽腫、黒色腫、リンパ腫、骨髄腫等)、及び白血病のような循環癌等、多岐にわたっている。癌の例としては、限定されないが、卵巣癌、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、泌尿器癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、頭頸部癌及び脳腫瘍が挙げられる。
【0067】
癌の「病理」には、患者の安寧を危うくする全ての現象が包含され、これには、限定されないが、隣接する細胞における異常もしくは制御不能な細胞成長、転移または正常機能の中断、サイトカインもしくは他の分泌産物の異常なレベルでの放出、炎症反応もしくは免疫学的反応の抑制または悪化、周囲もしくは遠隔の組織または器官(例えば、リンパ節など)の新生組織形成、前悪性、悪性疾患または浸潤が挙げられる。
【0068】
本明細書において、「癌再発」及び「腫瘍再発」という用語、及びその文法上のバリエーションは、癌の診断後に腫瘍性細胞または癌性細胞が更に成長することを指す。とりわけ、再発が起こる可能性があるのは、癌性組織において更に癌性細胞が成長した場合である。同様に、「腫瘍の進展(Tumor spread)」は、腫瘍の細胞が限局的または遠隔の組織及び器官に伝播した場合に起こる。このため、腫瘍の進展には腫瘍転移が含まれる。腫瘍増殖が限局的に広がり、関与する組織が圧迫、破壊、または正常な臓器機能の防害を被って機能を損なうと、「腫瘍浸潤」が起こる。
【0069】
本明細書において、「転移」という用語は、転移元の癌性腫瘍の器官に直接的に接続されていない器官または身体部分における癌性腫瘍増殖を指す。転移とは、微小転移(すなわち、転移元の癌性腫瘍の器官に直接的に接続されていない器官または身体部分における検出不能量の癌性細胞の存在)を含むものであると理解される。転移はまた、或るプロセスの幾つかのステップ(例えば、癌細胞が元の腫瘍部位から乖離・移行し、及び/または癌細胞が身体の他の部分に進入すること)として定義される場合もある。
【0070】
「試料」という用語を患者に関して言う場合、血液及び生物学的起源の他の液体試料、生検試料もしくは組織培養物などの固体組織試料、またはこれらに由来する細胞、ならびにその後代子孫が包含される。この定義にはまた、調達後に、例えば、特定の細胞母集団(例えば癌細胞)に対し試薬を用いた処理、洗浄または濃縮などの任意の方法で操作された試料も含まれ、それ以外に、特定のタイプの分子(例えば、核酸、ポリペプチドなど)に対して富化された試料も、この定義に含まれる。「生物学的試料」という用語には臨床試料が包含されるだけでなく、外科的切除によって得られた組織、生検、培養細胞、細胞上清、細胞溶解物、組織サンプル、器官、骨髄、血液、血漿、血清などによって得られた組織も包含される。「生物学的試料」には、患者の癌細胞から得られた試料、例えば、患者の癌細胞(ポリヌクレオチド及び/またはポリペプチドを含む細胞溶解物または他の細胞抽出物等)から得られるポリヌクレオチド及び/またはポリペプチドを含む試料、ならびに患者由来の癌細胞を含む試料が包含される。同様に、患者由来の癌細胞を含む生物学的試料には、非癌性細胞も包含される。
【0071】
本明細書において、「診断(diagnosis)」という用語は、分子もしくは病理学的状態、疾患または病態の同定(例えば、乳癌、前立腺癌、または他の種類の癌の分子サブタイプの同定)を指すために用いられている。
【0072】
本明細書において、「予後(prognosis)」という用語は、卵巣癌等の腫瘍性疾患の再発、転移の広がり、及び薬剤耐性などの、癌に起因する死亡または進行の尤度に関する予測を指すために用いられている。本明細書において、「予測(prediction)」という用語は、観察、経験、または科学的推論に基づいて予言または推定する行為を指すために用いられている。一実施例において、医師は、原発腫瘍を外科的に切除し及び/または癌の再発を伴わない一定期間にわたって化学療法を施した後で、患者の生存する尤度を予測することができる。
【0073】
本明細書において、用語「治療(treatment)」、「治療すること(treating)」などは、効果を得ることを目的に、薬剤を投与すること、または処置を遂行することを指す。この効果は、疾患もしくはその症状を完全にまたは幾分か予防するという点で予防的である場合もあれば、及び/または、疾患及び/または疾患の症状に関して幾分かまたは完全な治癒をもたらすという点で治療的である場合もある。本明細書において、「治療(Treatment)」には、哺乳類、特にヒトにおける腫瘍の治療が包含される場合があり、更には、(a)当該の疾患に罹患しがちである可能性があるがまだその疾患に罹患していないと診断された(例えば、原発性疾患に関連するかもしくは原発性疾患によって引き起こされうる疾患を含む)被験者において、疾患または疾患の症状の発症を予防すること、(b)疾患を阻害(すなわちその発症を阻止)すること、及び(c)疾患を緩和すること、すなわち疾患の退縮を引き起こすことが包含される場合もある。
【0074】
治療とは、癌の治療もしくは改善、または予防における成功の兆しを指し、客観的または主観的パラメータ(例えば、症状の排除、寛解及び軽減、患者における疾患の病態に対する耐容性の向上、変性速度または衰退速度の減速化、または、退化最終時点での衰弱抑制)が含まれる。症状の治療または寛解は、医師による診察結果を含む客観的パラメータまたは主観的パラメータに基づく場合がある。したがって、「治療(treating)」という用語には、本発明の化合物または薬剤を投与することによって、癌もしくは他の疾患に関連する症状または病態の発症を予防または遅延させるか、緩和するか、阻止または阻害することが包含される。「治療効果(therapeutic effect)」という用語は、被験者における疾患、疾患の症状、または疾患の副作用の軽減、排除もしくは予防を指す。
【0075】
或る実施形態において、「と併用して」、「併用療法」及び「併用製品」は、本明細書中で使用されている第1の治療剤及び化合物を患者に同時投与することを指す。併用投与する場合、各成分を同時に、または異なる時点にて任意の順序で連続して、投与することができる。ゆえに、所望の治療効果が発揮されることを期して、各成分を別個に、但し時間的に十分に近づけて投与することができる。
【0076】
本発明の医薬組成物と癌治療剤、ESA、または腫瘍に対する抗体との「同時投与」とは、薬物、ESAまたは抗体と、本発明の組成物の両方が治療効果を有するタイミングで、高親和性CD47試薬を投与することを意味する。そのような同時投与は、本発明の化合物を投与することに関して、薬物、ESAもしくは抗体の並行投与(すなわち、同時投与)、事前投与、または二次的投与を含みうる。本発明の特定の薬物及び組成物の投与の適切なタイミング、順序及び投与量は、当業者によって難なく特定される。
【0077】
本明細書において、治療評価項目には、当該技術分野において公知の、且つ食品医薬品局によって用いられている意味が与えられる。
【0078】
全生存期間は、無作為化された時点から何らかの原因で死亡するまでの期間として定義され、且つ「治療の意図(intent-to-treat)」母集団で測定される。生存は、癌の評価項目として最も信頼性が高いと考えられており、適正な生存評価のための研究を実施できる場合、通常は評価項目として好ましいとされている。この評価項目は、測定が正確且つ容易であり、死亡日付別に文書化される。評価項目の測定において、バイアスは要因とはならない。生存率の改善は、臨床的利益を評価するためのリスク-便益分析として分析する必要がある。無作為化比較研究では、全生存期間を評価できる。毒性プロファイルが許容可能で、且つ新薬承認をしばしば支持している場合、全生存期間における統計的に有意な改善の実証を、臨床的に有意であると見なしても差し支えない。本発明の方法の利益に、患者の全生存期間の延長を含める場合がある。
【0079】
腫瘍評価に基づく評価項目には、DFS、ORR、TTP、PFS及び治療成功期間(TTF)が包含される。これらの時間依存の評価項目に関するデータの収集及び分析は、間接的評価、計算、及び推定値(例えば、腫瘍測定値)に基づく。無病生存率(DFS)は、無作為化された時点から腫瘍が再発するまでの期間、または何らかの原因で死亡するまでの期間として定義される。この評価項目の最も頻繁な使用は、根治手術または放射線療法の後に、補助設定に組み入れられる。化学療法で患者の大部分が完全奏効を達成した場合、DFSも同様に重要な評価項目とすることができる。
【0080】
客観的奏効率
ORRは、腫瘍サイズが所定量だけ減少し、最小限度の時間を対象とした、患者の比率として定義される。奏効の持続期間は通常、初期奏効の時点から腫瘍の進行が記録された時点までの測定値である。概して、FDAは部分奏効と完全奏効とを合算した合計として、ORRを定義した。このように定義されている場合、ORRは、単群研究において評価できる、薬物抗腫瘍活性の直接的測定値である。
【0081】
無増悪期間及び無増悪生存率
TTP及びPFSは、薬物承認のための主要評価項目としての機能を果たしている。TTPは、無作為化から客観的な腫瘍の進行として定義され、TTPには死が包含されない。PFSが、無作為化から客観的な腫瘍の進行または死までの時間として定義される。腫瘍進行の正確な定義は重要であり、プロトコールで慎重に詳述すべきである。
【0082】
本明細書において、用語「相関する(correlates)」、または「と相関する(correlates with)」及びこれらに類する用語は、2つの事象の実例同士の間の統計的関連性を指し、事象には数値、データセット及びこれらに類するものが包含される。例えば、事象に数字が含まれている場合、正の相関(本明細書において直接的な相関とも呼ばれる)は、一方が増加するに伴って他方も増加することを意味する。負の相関(本明細書において逆相関とも呼ばれる)は、一方が増加するに伴って他方が減少することを意味する。
【0083】
「投薬単位」は、治療の対象となる特定の個人に対する単位投薬として適した、物理的に個別の単位を指す。各単位は、必要とされる医薬担体に関連して所望の治療効果を生ずるように計算された所定量の活性化合物を含有しうる。投薬単位形態の指定は、(a)活性化合物の独自の特徴、及び達成される特定の治療効果、ならびに(b)そのような活性化合物を配合する技術に固有の限度によって指示できる。
【0084】
「医薬的に許容される賦形剤」とは、概ね安全で毒性がなく所望される医薬組成物を調製するうえで有用な賦形剤を意味する。この賦形剤には、獣医学的用途及びヒトの医薬用途に許容される賦形剤が包含される。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体であることもあれば、またはエアロゾル組成物の場合、ガス状であることもある。
【0085】
「医薬的に許容される塩類及びエステル類」とは、医薬的に許容されていて且つ所望の薬理学的特性を有する、塩類及びエステル類を意味する。そのような塩類には、化合物中に存在する酸性プロトンが無機または有機塩基と反応する能力がある場合に形成されうる塩類が包含される。好適な無機塩類には、アルカリ金属(例えばナトリウム及びカリウム)、マグネシウム、カルシウムならびにアルミニウムを用いて形成されたものが包含される。好適な有機塩類には、アミン塩基類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなど)のような有機塩基類を用いて形成されたものが包含される。また、そのような塩類には、無機酸類、例えば塩酸及び臭化水素酸と共に形成された酸付加塩、ならびに有機酸類、例えば酢酸、クエン酸、マレイン酸、ならびにアルカンスルホン酸及びアレーンスルホン酸(メタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸など)が包含される。医薬的に許容されるエステル類には、C1-6 アルキルエステル等の化合物中に存在するカルボキシ基、スルホニルオキシ基、及びホスホノキシ基から形成されるエステルが包含される。2つの酸性基が存在する場合、医薬的に許容される塩またはエステルは、一酸単塩(もしくはモノエステル)または二塩(もしくはジエステル)でありうる。同様に、3つ以上の酸性基が存在する場合は、そのような基のうちの一部または全部を塩化またはエステル化することが可能である。本発明における化合物は、非塩化形態または非エステル化形態にて存在する場合もあれば、塩化またはエステル化形態にて存在する場合もあり、そのような化合物の命名は、元の(非塩化及び非エステル化)化合物、ならびにその医薬的に許容される塩類及びエステル類の両方を包含するように意図される。また、本発明において命名される特定の化合物は、2種以上の立体異性体形態で存在する場合があり、そのような化合物の命名は、全ての単一立体異性体及びそのような立体異性体の全ての混合物(ラセミ体またはそれ以外のもの)を含むことが意図される。
【0086】
「医薬的に許容される」及び「生理学的に許容される」という用語ならびにその文法上のバリエーションは、組成物、担体、希釈剤及び試薬に言及する場合、同義に用いられ、本物質をヒトに投与または塗布しても本組成物の投与が禁ぜられる程度にまで所望されない生理学的影響が及ばずに済むことを表す。
【0087】
「治療有効量」とは、疾患の治療を目的に被験者に投与した場合に、当該の疾患に対する治療を行ううえで十分な量を意味する。
【0088】
使用方法
(i)CD47の活性を遮断する薬剤と、(ii)EGFRに対し特異的に結合する抗体とを併用して、標的細胞に接触することを含むレジメンにおいて、特に、EGFRを発現する上皮癌(例えば、腺癌、結腸直腸癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、卵巣癌、膵臓癌、乳癌、NSCLC、EGFRを発現する神経膠腫などを対象とした、原発性癌もしくは転移性癌を治療または軽減する方法が提供されている。そのような方法は、治療を必要とする被験者に対し、本試薬と、化学療法薬、放射線療法またはESAとの組み合わせを含むが、これらに限定されない治療有効量もしくは有効用量の本発明の併用薬剤を投与することを含む。
【0089】
本発明の併用薬剤の、癌治療を目的とした場合の有効量は、患者がヒトであるかそれとも動物であるか、他の薬品が投与されたか否か、及び治療が予防的であるかそれとも治療的であるかを問わず、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態をはじめとする多様な要因に応じて異なる。通常は、患者がヒトであるが、非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマなどの伴侶動物、例えば、ウサギ、マウス、ラットなどの実験用哺乳動物、及びこれらに類するものも治療の対象とすることができる。治療投薬を滴定することによって、安全性及び効能を最適化できる。
【0090】
一部の実施形態では、各剤の治療的投薬は、宿主体重の約0.0001~100mg/kg、より一般的には、0.01~5mg/kgの範囲でありうる。投薬量は、例えば1mg/kg(体重)もしくは10mg/kg(体重)、または1~10mg/kgの範囲内とすることができる。例示的な治療措置は、2週間毎もしくは1か月毎に1回、または3~6か月毎に1回の投与を伴う。本発明の治療エンティティは、通常複数の理由で投与される。単回投与の間隔は、毎週、毎月または毎年とすることができる。また、患者における治療エンティティの血中濃度を測定することで示唆されるように、間隔を不規則としてもよい。代わりに、本発明の治療エンティティを徐放製剤として投与しても差し支えないが、この場合は、投与回数を少なくする必要がある。投薬量及び頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期に応じて異なる。
【0091】
予防的用途では、比較的低投薬量を、比較的頻度の低い間隔で且つ長期間にわたって投与する場合がある。患者のなかには、残りの人生にわたってずっと治療を受け続ける人もいる。他の治療的用途では、疾患の進行が軽減されるかまたは終結するまで、好ましくは、患者の疾患の症状が幾分または完全に改善したことが明らかになるまで、時には比較的に短間隔、及び比較的高投薬量が必要とされることがある。以後、患者に対し予防的措置を施すことが可能である。
【0092】
更に他の実施形態において、本発明の方法は、癌腫、神経膠腫等の癌における腫瘍増殖、腫瘍転移もしくは腫瘍浸潤を治療、軽減、または予防することを含む。予防的用途においては、疾患の危険性を受けやすいか、またはさもなければ、疾患の危険に曝されている患者に対し、医薬組成物または薬品を、疾患、その合併症、及び疾患の発症中に現れる中間病理学的表現型の生化学的、組織学的及び/または行動的症状を含む、疾患のリスクを排除または軽減するか、疾患の重篤度を低減するか、疾患の発症を遅延させるために十分な量で投与することを含む。
【0093】
癌治療用の組成物は、非経口、局所、静脈内、腫瘍内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内または筋肉内的手段によって投与できる。典型的な投与経路は、静脈内または腫瘍内であるが、他の経路も同程度に有効でありうる。
【0094】
本組成物は、注射可能薬物(液体溶液または懸濁液のいずれか)として調製されることがごく一般的であり、注射に先立って、液体ビヒクルを溶媒とする溶液または懸濁液に適した固体形態を調製することもできる。また、上記したように、補助剤効果を強化する目的で、調製物を、ポリラクチド、ポリグリコリドまたはコポリマーなどのリポソームもしくはマイクロ粒子中に乳化またはカプセル化することもできる(Langer,Science 249:1527,1990及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997)。本発明の薬剤は、活性成分の持続放出または拍動放出を可能にするように処方できるデポー注射またはインプラント調製形態で、投与できる。医薬組成物は、無菌で実質的に等張性として処方され、米国食品医薬品局の全ての適正製造基準(GMP)規制に完全に準拠しているのが、ごく一般的である。
【0095】
本明細書中に記載されている併用薬剤の毒性は、例えば、LD50(母集団の50%に対する致死量)またはLD100(母集団の100%に対する致死量)を算出することによって、細胞培養または実験動物において標準医薬手順を介して求めることが可能である。毒性と治療効果との用量比は、治療上の指標となる。これらの細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトにおいて使用した場合に毒性を示さない投薬量範囲を定式化する際に使用することができる。本明細書中に記載されているタンパク質の投薬量は、毒性が殆ど無いかまたは皆無である有効用量を含む循環濃度の範囲内に収まっていることが好ましい。この投薬量は、用いられた投薬量の形態及び用いられた投与経路に応じて、この範囲内で異なる場合がある。正確な処方、投与経路及び投薬量は、個々の医師が、患者の病状を考慮したうえで選択することができる。
【0096】
本医薬組成物は、投与方法に応じた様々な単位投薬量形態で投与できる。例えば、経口投与に適した単位投薬形態としては、限定はされないが、粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤及びトローチ剤が挙げられる。本発明の組成物は、経口投与された際に消化されないように防護する必要があることを認識されたい。この防護は、分子を組成物と錯化させて、酸性及び酵素的加水分解に対して耐性化するか、リポソームまたは保護バリアのような適切な耐性がある担体中に分子をパッケージングすることによって、達成されるのが一般的である。薬剤を消化されないように防護する手段は、当該技術分野において周知である。
【0097】
投与対象となる組成物は、医薬的に許容される担体(好ましくは、水性担体)中に溶解された抗体または他の焼灼剤を含むことが、ごく一般的である。使用することができる水性担体は、例えば、緩衝食塩水など多岐にわたっている。これらの溶液は滅菌されていて、概ね望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌処理される場合もある。本組成物に、必要に応じて、生理学的状態を近似化する医薬的に許容される補助物質、例えば、pH調整及び緩衝剤、毒性調整剤など、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含有させることもできる。これらの製剤中の活性薬剤の濃度は広範に異なる場合があり、選択された特定の投与様式及び患者のニーズに応じて、主として流体容積、粘度、重量などに基づいて選択される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed.,1980)及びGoodman & Gillman,The Pharmacological Basis of Therapeutics(Hardman et al.,eds.,1996))。
【0098】
また、本発明の範囲内には、本発明の本組成物(例えば、抗EGFR抗体、抗CD47剤、及びその製剤)と使用説明書とを含んでなるキットが含まれる。本キットには、少なくとも1つの追加的な試薬、例えば、化学療法薬、ESAなどが更に付属する場合がある。本キットは通常、キットの内容物の意図された用途を指示するラベルを含む。ラベルという用語には、キットに添付または付属しているか、さもなければキットに付随する書面もしくは記録資料が包含される。
【0099】
本組成物は治療処置用に投与できる。上述されているように、本組成物は、標的細胞を実質的に焼灼するために十分な量にて患者に投与される。これを達成するために十分な量は、全生存期間率の改善を図れる「治療有効量」として定義される。患者によって要求され許容される投薬量及び頻度に応じて、組成物を単回投与または複数回投与できる。治療に必要な特定の用量は、哺乳動物の医療状態及び病歴、ならびに他の因子(例えば年齢、重量、性別、投与経路、効率等)に依存する。
【0100】
実験
実施例1
CD47遮断と抗EGFRとを併用した、結腸直腸癌の治療
これまで全ての方法を記述してきたが、それらの参考文献は、本明細書において特に参照により援用されている。
・ Dalerba,P.,S.J.Dylla,Et Al.(2007).”Phenotypic Characterization Of Human Colorectal Cancer Stem Cells.”Proc Natl Acad Sci U S A 104(24):10158-10163.
・ Weiskopf,K.,A.M.Ring,Et Al.(2013)が包含される。”Engineered Sirp alpha Variants As Immunotherapeutic Adjuvants To Anticancer Antibodies.”Science 341(6141):88-91.
・ Willingham,S.B.,J.P.Volkmer,Et Al.(2012).”The Cd47-Signal Regulatory Protein Alpha(Sirpa)Interaction Is A Therapeutic Target For Human Solid Tumors.”Proc Natl Acad Sci U S A 109(17):6662-6667.
・ Epigentic and genetic features of 24 colon cancer cell lines,Ahmed et al.,Oncogenesis,2013
【0101】
癌細胞
DLD1細胞(ATCC)、HT29細胞(ATCC)、SW620細胞(ATCC)、SW48細胞(ATCC)、LS174T細胞(ATCC)、HCT116細胞(ATCC)、及びCACO-2細胞(ATCC)は、RPMI(ThermoFisher S製)(DLD1)、EMEM(ThermoFisher S製)(CACO-2、LS174T)、マッコイ5A(ThermoFisher S製)(HT29、HCT116)、またはライボビッツL-15(ThermoFisher S製)(SW48、SW620)中に、10%ウシ胎仔血清(Omega Scientific製)、ペニシリン100U/mL及びストレプトマイシン100μg/mL(ThermoFisher S製)を補給して、培養された。eGFPルシフェラーゼ2(pgl4)融合タンパク質を発現するようにエンジニアリングされたpCDH-CMV-MCS-EF1 puro HIVベースのレンチウイルスベクター(Systems Biosciences製)を使用して、GFPルシフェラーゼ+DLD1細胞系列を形質導入によって生成した。FACSAria II細胞ソーター(BD Biosciences製)上でGFP発現用にソーティングを行い、安定な系統を作成した。UM8患者の異種移植癌細胞(腺癌、S状結腸、T3N0Mx)は、以前にその特徴付け及び確立を行ったP.Dalerbaから得られたものである(Dalerba,P.,S.J.Dylla,Et Al.(2007)。”Phenotypic Characterization Of Human Colorectal Cancer Stem Cells.”Proc Natl Acad Sci U S A 104(24):10158-10163)。腫瘍細胞に、ポリブレン6μg/mL含有の培地中でレンチウイルスを一晩形質導入した。翌日、細胞を繰り返し洗浄して、ポリブレン及び細胞外レンチウイルスを取り除いた。形質導入された(GFP+)細胞は後に、FACSによって異種移植腫瘍から単離された。
【0102】
インビボ食作用アッセイ
末梢血単核細胞を密度勾配遠心分離によって富化し、単球を抗CD14マイクロビーズ(Miltenyi製)で精製し、10%のABヒト血清(Invitrogen製)ならびにペニシリン100U/mL及びストレプトマイシン100μg/mL(Invitrogen製)を補給したIMDM+GlutaMax(Invitrogen製)中で7~10日間にわたる培養によってマクロファージに分化させた。50,000マクロファージと100,000GFP+腫瘍細胞を2時間共培養し、次いで、LSR Fortessaセルアナライザー)及び高スループットサンプラー(BD Biosciences製)を使用した分析によって食作用アッセイを実施した。治療に使用された抗体としては、以下が挙げられる。IgG4アイソタイプ対照、抗CD47クローンHu5F9-G4(Stanford製)、及び抗EGFRセツキシマブ(Bristoll-Myers Squibb製)。抗CD206抗体を使用し、フローサイトメトリーによって、マクロファージを同定した。死滅細胞をDAPI(Sigma製)で染色して分析の対象から除外した。食作用をGFP+マクロファージの百分率として評価し、個別のドナー毎に各細胞系列に対して最大限の奏効に正規化した。
【0103】
マウス
6~8週齢のNSG(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)マウスを用いた。これらのマウスのStanfordコロニーは、Jackson Labs(Stock 005557)から購入されたマウスに基づいて作られた。
【0104】
インビボ撮像
IVIS Spectrum(Caliper Life Science製)で生物発光イメージングを実行し、Living Image 4.0ソフトウェアを使用して定量化した。D-ルシフェリン(ホタル)カリウム塩(Biosynth製)1gをPBS60mL中に溶解して、溶液を調製した。マウスにルシフェリン溶液200μLを腹腔内注射した。ルシフェリンを注射してから20分後に、腫瘍移植の解剖学的領域から総フラックス(光子/秒)値を得た。
【0105】
転移のエクスビボ検出
DFC500カメラ(Leica製)付属のM205 FA蛍光解剖顕微鏡(Leica製)を使用して肺及びリンパ節内のGFP+癌細胞を検出することによって、肺及びリンパ節への転移を明視化した。
【0106】
異種移植腫瘍モデル
GFPルシフェラーゼ50,000個+DLD1細胞またはGFPルシフェラーゼ240,000個+UM8細胞を、50%マトリゲル(BD製)と共に、NSGマウスの背中に移植した。両方のモデルにおいて、生物発光イメージングで腫瘍生着を確認した際に、治療を開始し、指示どおりに続行した。全ての治療において、腹腔内注射で(100μl)抗体を投与した。内訳は次のとおりである。1日おきにPBS及びHu5F9-G4(250μg)を、週に一度セツキシマブ(120μg)及びパニツムマブ(120μg)。腫瘍増殖を、生物発光イメージングでモニターした。DLD1モデルマウスで、指示された治療期間の完了後に、蛍光解剖顕微鏡を用いて肺及びリンパ節内のGFP+癌細胞を検出することによって、肺及びリンパ節転移の存在を分析した。
【0107】
実施例2
固形腫瘍及び進行性・転移性の結腸直腸癌患者においてHu5F9-G4とセツキシマブとを併用した、第1b/2相治験
米国においてCRCは、20%の患者が転移性疾患を有する癌関連死の主要原因の第3位を占める。治療選択肢は、フロントライン治療が効を奏さなかった転移性CRC患者のみを対象としている。ゆえに、必要とされるのは、新規且つ効果的な療法である。Hu5F9-G4は、癌幹細胞上で抗貪食シグナルを発現し、マクロファージ及びT細胞誘発性の排除によってCRC及び癌幹細胞を枯渇させて、抗腫瘍効果を達成する、ファースト・イン・クラスのモノクローナル抗体標的CD47である。前臨床研究で、Hu5F9-G4を、臨床的に承認された抗EGFRモノクローナル抗体セツキシマブと併用した場合の、劇的及び相乗的な抗腫瘍効果が、実証された。この相乗的効能は、KRAS変異体患者に対して発揮されるが、全てのCRC患者の最高40%は治療選択肢が限定されており、単剤セツキシマブは抗腫瘍活性の欠如を理由にFDAの認可を受けていない。ゆえに、Hu5F9-G4は、この母集団におけるセツキシマブ活性を救済し増強できるが、高い医療ニーズへの対応はなされていない。これらの前臨床データ形態は、再発/不応性KRAS変異体の転移性CRC、及び抗EGFR療法に不応性のKRAS野生型転移性患者において、提案された第1b相/第2相の臨床試験での、臨床上の抗腫瘍の概念実証を試験するための基礎を成すものである。
【0108】
転移性の結腸直腸腺癌は、再発率が高く且つ長期生存率が低い腫瘍である。セツキシマブ及びパニツムマブなどのEGFR標的抗体は、KRAS野生型の患者における予後を有意に改善してきた。しかしながら、KRAS突然変異を有する患者は、およそ40%~50%の結腸直腸癌を含み、抗EGFR抗体療法が奏効していない。ゆえに、未だ対応がなされていない医療ニーズに対処するための追加的な療法が必要とされている。
【0109】
Hu5F9-G4は、CD47(すなわち、抗貪食細胞表面タンパク質)を標的化するモノクローナル抗体である。この抗体を介してCD47シグナル伝達を遮断してマクロファージによる食作用を促進することにより、結腸直腸癌を含むヒト腫瘍細胞が排除されることが、前臨床研究によって実証された。追加的な前臨床研究では、抗CD47抗体が、セツキシマブ及びパニツムマブを含むFc受容体活性化抗癌抗体と相乗的に作用しうることが実証されている。RAS野生型及び変異体の両方のインビボ・モデルにおいて、(Hu5F9-G4)と抗EGFR抗体との併用療法は、いずれかの薬剤を単独で用いた場合と比べて有意に奏効した。
【0110】
結腸直腸癌を含む固形腫瘍患者において、Hu5F9-G4とセツキシマブとの併用が安全な許容範囲にあるか否かを試験した。第1b/2相治験は、進行性固形腫瘍患者及び進行性・転移性の結腸直腸癌患者に対し静脈内投与されたHu5F9-G4とセツキシマブとの併用による安全性・忍容性及び最適性の投薬ストラテジーを確立するものである。治験の第1b相パートにおいて、参加希望者全員が固形腫瘍の母集団では、CRC、頭頸部癌、乳癌、膵臓癌、卵巣癌に罹患した患者の治療に重点を置いて、併用を評価する。
【0111】
セツキシマブ開始用量300mg/m2 、続いて200mg/m2 /週の患者は、セツキシマブの単剤全量と比べてそれぞれ25%及び20%の減量となる。Hu5F9-G4の初期用量の内訳は、初回抗原刺激量1mg/kgとそれに続く維持用量10mg/kg/週とである。次のコホートでは、セツキシマブを単剤全量400mg/m2 まで上昇させ、続いて250mg/m2 /週に上昇させた。二次的用量コホートは、その併用療法(combination)に負荷用量ストラテジーを組み入れて、Hu5F9-G4の用量を、単剤全量にエスカレートする。評価済の最大用量を、単剤推奨用量を超えないようにして、個々の抗体毎にスケジュールする。本治験の第2相パートでは、選択されたCRC患者の母集団における併用薬剤の第2相推奨用量にて、予備的な抗腫瘍活性を調査する。
【0112】
主な組み入れ基準
1.成人≧18歳
2.組織学的診断
a.第1b相のみ:以前の全身療法の少なくとも1つのレジメンで治療を受けたか、全身療法を拒否していて、且つ利用可能な治癒療法がない患者を対象に、CRC、頭頸部、乳癌、膵癌及び卵巣癌に重点を置いて、組織学的にまたは細胞学的に確証された、進行性固形悪性腫瘍
b.第2相RASの突然変異によるCRC:組織学的に確認された進行性/転移性RASの突然変異によるCRCで、進行したかイリノテカン及びオキサリプラチンの両方に基づく化学療法に対して不適格なCRC、または
c.第2相RAS野性型CRC:組織学的に確認された進行性/転移性RAS野生型CRCで、進行したかまたはイリノテカン及びオキサリプラチンの両方をベースとした化学療法に対して不適格であり、再発したか、抗EGFR抗体(例えば、セツキシマブ、パニツムマブまたはその他)を含めた少なくとも1つの以前の全身療法に不応性のCRC
3.ECOGスコア0~2
4.第2相パートのみの場合:RECIST1.1に準じて、奏効に関して測定可能または評価可能である疾患
5.実験測定値、血球数:
ヘモグロビン≧9.5g/dL
ANC≧1.0×109 /mL
血小板≧75×109 /mL
6.実験測定値、肝機能:
AST/ALT≦5X ULN
ビリルビン≦1.5X ULNまたは3.0X ULN、及び専ら非共役性(患者についてギルバート症候群または遺伝的同等な既往歴が文書化されている場合)
7.実験測定値、腎機能:
血清クレアチニン≦1.5X ULN、またはそれを超えて上昇した場合、GFR≦40mL/分/1.73m2 と計算された。
8.妊娠の可能性がある女性の場合、Hu5F9-G4投与前の30日以内に、尿または血清妊娠試験で陰性であった。
9.妊娠の可能性がある女性に対し、研究中に2通りの効果的な避妊方法を敢えて用いることを義務付ける。被験薬の最終投与後6か月間にわたってこの方法を継続する。
10.パートナーの女性が妊娠の可能性がある場合、男性に対し研究中に1つの著効な避妊方法を進んで用いることを義務付ける。被験薬の最終投与後6か月間にわたってこの方法を継続する。
11.被験者がインフォームドコンセントを提供した。
12.診療所への通院、及び研究プロトコールに概説されている手順に準拠することが可能であり、それを義務付けることに前向きである。
13.第2相のみ:治験責任医師が(利用できる腫瘍組織がないこと、生検及び患者の安全性の問題を含むが、これに限定されない理由で)実行不可能であると判断した場合を除き、1回の必須の前治療、及び1回の腫瘍生検に進んで同意する。
【0113】
除外基準
1.活性な脳転移を有する患者(CNS病変が治療済みで安定している患者は、コルチコステロイド及び放射線療法を少なくとも3週間中止していて、活性であるとは見なされない)。
2.化学療法、ホルモン療法、を含む前抗癌療法、またはHu5F9-G4の投与に先立って治験薬を2週間以内または少なくとも4半減期以内の長い方(最大4週間まで)。限局性の非CNS放射線療法、LHRHアゴニストによるホルモン療法の既往、低用量ステロイド(経口プレドニゾン、または等価用量≦20mg/日)、ビスホスホネート及びRANKL阻害剤による治療は、除外の基準でない。
3.CD47またはSIRPα標的薬剤による前治療。
4.公知の活性または慢性の、肝炎BもしくはC感染、またはHIV。
5.Hu5F9-G4の初回投与に先立つ4週間の期間にわたって、3単位以上のRBC輸血を必要とするものとして定義される、RBC輸血依存症。ヘモグロビン組み入れ基準を満たす目的から、スクリーニング中及び登録に先立って、RBC輸血が許可される。
6.過去3か月における溶血性貧血またはエバンス症候群の病歴。
7.第2相のみ:第2の悪性腫瘍(治療済の基底細胞または限局性の扁平上皮皮膚癌を除く)、または他の悪性病変で、治療が少なくとも3年前に完了していて再発の所見が認められていないもの。
8.治験責任医師及び治験依頼者によって評価された重大な医学的疾患または病態で、本研究に関与するリスク対効果比を実質的に増大させるもの。これには、限定されないが、過去6か月以内の急性心筋梗塞、不安定狭心症、非管理状態の真性糖尿病、重大な活動性感染、重篤な免疫不全状態、及び鬱血性心不全(NYHA分類II~IV度)が含まれる。
9.プロトコール要件を遵守する能力もしくはインフォームドコンセントを提供する能力を妨げる可能性が高い、精神疾患または薬物乱用の病歴
10.妊娠または授乳中。
11.陽性の直接抗グロブリン試験(DAT)。
【0114】
RASの突然変異及びRAS野性型CRCを有する患者における、Hu5F9-G4とセツキシマブとの併用による、客観的奏効率(ORR)を算出する。二次的目標には、Hu5F9-G4とセツキシマブとの併用による薬物動態(PK)プロファイルの評価が含まれる。第2相では、例えば、RAS突然変異を有し且つRAS野性型CRCにHu5F9-G4とセツキシマブとを併用して治療を施した患者の、奏効の持続期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、腫瘍進行までの期間、及び全生存期間などの副次的な効能パラメータを評価した。
【0115】
Hu5F9-G4とセツキシマブとを併用した免疫細胞サブセットの頻度及び腫瘍浸潤を含む、薬力学的(PD)マーカー及び予測マーカーを評価する。CRCの分子サブタイプにおける効能を評価する。
【0116】
Hu5F9-G4は、CD47に対するヒト化モノクローナル抗体であり、セツキシマブは、EGFRに対するキメラモノクローナル抗体である。両方の薬物を静脈内投与する。各サイクルを28日間としたサイクル1では、1日目に初回抗原刺激量のHu5F9を投与し、次いで、週次にセツキシマブ及びHu5F9を投与する。サイクル1において8日目に第1の負荷用量のセツキシマブを投与し、続いて、9日目に第1の維持用量のHu5F9-G4を投与する。但し、15日目には、以後の併用薬剤投与ではいずれも同じ開始用量にて投与する。同時的投与の日に、Hu5F9-G4の投与に先立ってまずセツキシマブを注射する。このスケジュールは、下表に例証されている。
【0117】
【表1】
【0118】
本研究のパートAでは、Hu5F9-G4及びセツキシマブを用いて8週間にわたって患者を治療した。MTDの決定に用いられたDLTの安全性評価は、最初の4週間以内に行われる。(改訂後のRECIST基準に準じて)2サイクル毎に奏効の評価を行う。治療開始から疾患進行まで、2サイクル毎に奏効の評価を行う。
【0119】
第2相には2群が含まれる。一方の群はRASの突然変異CRCを有する患者を含み、他方の群はRAS野生型CRCを有する患者を含む。Simonの二段階デザインの第I期では、患者を8週間にわたって治療し、次いで、奏効率を評価する。客観的奏効率(ORR)(CR+PR)は、改訂後のRECIST1.1基準に準じて算出される。奏効の評価は、治療開始から疾患進行まで、2サイクル毎に発生する。最大88例の患者(44例の患者/群)が、第2相に登録している。第2相の試料サイズは、コホート毎15%の代替仮説とは対照的に、奏効率5%の帰無仮説に基礎を置くコホート毎にSimonの二段階ミニマックスデザインに基づいて片側αレベル=0.10及びパワー=0.80を用いたものである。
【0120】
第1b相合計数:患者15~24例。第2相:合計で最高88例の患者(各コホート内に44例)、各コホート内:Simonの二段階デザイン、ステージ1=患者29例、ステージ2=更に15例の患者。
【0121】
全ての目的に対応することを期して、本明細書において引用されている各刊行物は、その全容が、本明細書中に参照により援用されている。
【0122】
本発明は、特定の方法論、プロトコール、細胞系統、動物種または属、及び記載されている試薬だけに限定されない。この種のものは多様でありうるためである。本明細書中で用いられている技術用語は、特定の実施形態のみを記述する目的としており、本発明の範囲を制限することを意図したものではなく、添付の特許請求の範囲のみによって限定されることを、理解すべきである。
【0123】
本明細書において、文脈上他の意味に解すべきことが明記されている場合を除き、単数形の「a」、「and」及び「the」には、複数の指示語が包含される。ゆえに、例えば、「細胞」に言及した場合は複数のそのような細胞が包含され、「培養」に言及した場合は、1つ以上の培養、及び当業者に公知であるその等価物などが包含される。特に明記されていない限り、本明細書中に用いられている全ての技術用語及び科学用語は、本発明の帰属する分野の当業者が共通に理解するのと同じ意味を有する。
【0124】
関連出願への相互参照
本出願は、2016年8月26日出願された米国仮特許出願第62/380,177号、及び2015年12月11日出願された同第62/266,470号に対する利益及び優先権を主張するものであり、これらの出願の全容は、本明細書において参照により援用されている。
【0125】
連邦政府の助成による研究開発
本発明は、国立衛生研究所によって締結された契約CA139490の下で、政府の支援を受けて為されたものである。政府は本発明において特定の権利を有する。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5