(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C07C 59/74 20060101AFI20240527BHJP
C11B 5/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C07C59/74 CSP
C11B5/00
(21)【出願番号】P 2022539658
(86)(22)【出願日】2019-12-31
(86)【国際出願番号】 CN2019130789
(87)【国際公開番号】W WO2021134602
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】522173712
【氏名又は名称】中石化(大連)石油化工研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】李瀾鵬
(72)【発明者】
【氏名】曹長海
(72)【発明者】
【氏名】程瑾
(72)【発明者】
【氏名】李秀崢
(72)【発明者】
【氏名】王宜迪
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109576021(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109576063(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109486537(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109486538(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108219874(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103666603(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 59/74
C11B 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される化合物。
【化1】
(式中、x及びyはそれぞれ0~4の整数であり、m及びnはそれぞれ3~9の整数であり、かつ10≦m+n≦14であり、R
1、R
2はそれぞれH、直鎖又は分岐のC1~C6アルキル又はC3~C6のシクロアルキルから選ばれる。)
【請求項2】
mは4又は5である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
x及びyはそれぞれ0又は1である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
m+n=12である、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
R
1、R
2はそれぞれH、メチル又はエチルから選ばれる、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物の低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤としての使用。
【請求項7】
異性化反応の条件下で、非共役植物油をアルカリ又はアルカリのアルコール溶液と接触させて反応させるステップ(1)と、
接触させて反応させることによって得られた生成物を酸性化して水洗し、水相を分離して、変性植物油脂肪酸を得るステップ(2)と、
ディールス-アルダー付加反応の条件下で、変性植物油脂肪酸を不飽和ジアルデヒドと接触させるステップ(3)と、
ステップ(3)で接触させて得られた生成物から未反応の原料を除去するステップ(4)とを含み、
前記非共役植物油は、コーン油、綿実油、ピーナッツ油、胡麻油、ブンカンカオイルのうちの1種又は複数種であることを特徴とする植物油系目詰まり抑制剤の製造方法。
【請求項8】
ステップ(1)において、前記アルカリは水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムであり、その使用量が非共役植物油の質量の0.5~0.6倍であり、前記アルコールは飽和2価アルコールであり、その使用量が非共役植物油の質量の2.5~3.5倍である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコールは、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールのうちの少なくとも1種である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(1)において、前記異性化反応の条件は温度180~220℃、時間3~5hを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(2)において、前記不飽和ジアルデヒドは、炭素数4~12のものである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項12】
前記不飽和ジアルデヒドは、2-ブテンジアール、2-ペンテンジアール、2-ヘキセンジアール、3-ヘキセンジアール、2-ヘプテンジアール、3-ヘプテンジアール、2-オクテンジアール、3-オクテンジアール、4-オクテンジアールのうちの1種又は複数種である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
不飽和ジアルデヒドと植物油脂肪酸とのモル比が0.5:1~3:1である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
不飽和ジアルデヒドと植物油脂肪酸とのモル比が0.8:1~2:1である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(2)において、前記ディールス-アルダー付加反応の条件は、温度190~210℃、時間0.5~2hを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(4)において、前記未反応の原料の除去は、接触させて得られた混合物を圧力30~150Pa、温度180~220℃で減圧蒸留することを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物を含有する低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物。
【請求項18】
低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物の全量を基準に、
前記化合物70~90重量%と、酸化防止剤0.2~2重量%と、芳香族炭化水素ソルベントオイル8~29重量%とを含む、請求項17に記載の低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物。
【請求項19】
低硫黄ディーゼルと目詰まり抑制剤とを含有する目詰まり抑制性を向上させた低硫黄ディーゼルであって、
前記目詰まり抑制剤は請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物、又は、請求項17又は18に記載の低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物である、ことを特徴とする低硫黄ディーゼル。
【請求項20】
前記目詰まり抑制剤は、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物であり、低硫黄ディーゼル基油100重量部に対して、前記目詰まり抑制剤の含有量は0.008~0.01重量部であるか、又は、
前記目詰まり抑制剤は、請求項17又は18に記載の低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物であり、低硫黄ディーゼル基油100重量部に対して、前記
化合物換算で、低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物の含有量は0.008~0.01重量部である、請求項19に記載の低硫黄ディーゼル。
【請求項21】
目詰まり抑制剤を低硫黄ディーゼルに添加することを含む、ことを特徴とする低硫黄ディーゼル目詰まり抑制性の向上方法であって、
前記目詰まり抑制剤は、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物、又は、請求項17又は18に記載の低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤
である、低硫黄ディーゼル目詰まり抑制性の向上方法。
【請求項22】
前記目詰まり抑制剤は、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物であり、低硫黄ディーゼル基油100重量部に対して、前記目詰まり抑制剤の含有量は0.008~0.01重量部であるか、又は、
前記目詰まり抑制剤は、請求項17又は18に記載の低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物であり、低硫黄ディーゼル100重量部に対して、前記
化合物換算で、低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物の含有量は0.008~0.01重量部である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオベース目詰まり抑制剤の分野に属し、具体的には、植物油系目詰まり抑制剤として有用な化合物、及び製造方法、植物油系目詰まり抑制剤、その製造方法及び使用、該植物油系目詰まり抑制剤を含有する低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤、及び該目詰まり抑制剤を用いた低硫黄ディーゼルに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの普及に伴い、ディーゼルの消費量は年々増加している。ただし、ディーゼルの大量消費は、車両の有害物質排出のさらなる深刻化にもつながる。排出は生態環境、人間の健康、経済発展に深刻な影響を及ぼすため、各国の政府は相次いで厳格な排出規制を制定し、ディーゼル車両の有害な排出を規制している。中国のディーゼル国V基準の実施に伴い、ディーゼルの硫黄含有量は10ppm以下に低下し、脱硫ディーゼルはすでに中国国内の精錬所で生産されている。現在、中国国内では、水素化処理や水素化分解などの硫黄低減技術を採用して、燃料の硫黄分を大幅に減少させ、結果としてディーゼル中の極性化合物の含有量が低すぎて、ディーゼルの潤滑性が大幅に低下し、ディーゼルポンプの摩耗や損壊が多く発生し、しかも、エンジンフィルタのノズルの目詰まりの問題が頻繁に発生して、ディーゼルポンプの寿命を短縮させる。
【0003】
ディーゼルポンプの摩耗や損壊の問題を解決するために、耐摩耗剤をディーゼルに添加するのが一般的である。現在、市場の耐摩耗剤は主に不飽和脂肪酸類及び不飽和脂肪酸エステル、アミド類の誘導体などがあり、その中で酸型耐摩耗剤は市場の約70%を占め、エステル型とアミド型の耐摩耗剤は市場の約30%を占めている。
【0004】
低硫黄ディーゼルに植物オレイン酸を添加することによってディーゼルの潤滑性に関する問題を解決できる。ただし、通常、植物オレイン酸はほとんど凝固点の高い飽和脂肪酸を所定量含有しており、従来の分離手段、例えばフリーズプレス法、蒸留精製法などのいずれも、沸点が近いことにより、植物オレイン酸の飽和脂肪酸を完全に分離しにくく、この結果、市販の植物オレイン酸の凝固点は一般には-8℃よりも高く、Q/SHCG 57-2014基準に規定される酸型目詰まり抑制剤の凝固点が-12℃以下であるという使用の要件を満たすことができない。
【0005】
さらに、上記耐摩耗剤は、エンジンフィルタノズルの目詰まりによる給油不足をうまく解決できず、燃料インジェクタの摩損やエンジン故障を引き起こし、ディーゼルポンプの寿命短縮の問題を招く。このため、低硫黄ディーゼルに適している目詰まり抑制剤製品の研究・開発が期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の欠点に対して、本発明は、植物油系目詰まり抑制剤、その製造方法及び使用を提供する。本発明で製造される植物油系目詰まり抑制剤は、凝固点が低く、酸価が低く、ブレンド比が低く、潤滑性に優れるなどの利点があり、ブレンドによって目詰まり抑制剤製品が国V潤滑性基準及び凝固点への要件を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様では、本発明は、式(I)で示される化合物を提供する。
【0008】
【0009】
(式中、x及びyはそれぞれ0~4の整数であり、m及びnはそれぞれ3~9の整数であり、かつ10≦m+n≦14であり、R1、R2はそれぞれH、直鎖又は分岐のC1~C6アルキル又はC3~C6のシクロアルキルから選ばれる。)
好ましくは、m=4又はm=5であり、かつm+n=12である。
【0010】
好ましくは、x及びyはそれぞれ独立して0又は1である。x及びyの値は同一であってもよく、異なってもよい。
【0011】
好ましくは、R1、R2はそれぞれH、メチル又はエチルから選ばれる。R1、R2は同一であってもよく、異なってもよい。
【0012】
本発明の第2態様では、上記化合物の植物油系目詰まり抑制剤としての使用を提供する。
【0013】
第3態様では、本発明は、
異性化反応の条件下で、非共役植物油をアルカリ又はアルカリのアルコール溶液と接触させて反応させるステップ(1)と、
ステップ(1)において接触させて反応させることによって得られた生成物を酸性化して水洗し、水相を分離して、変性植物油脂肪酸を得るステップ(2)と、
ディールス-アルダー付加反応の条件下で、変性植物油脂肪酸を不飽和ジアルデヒドと接触させるステップ(3)と、
未反応の原料を除去して、植物油系目詰まり抑制剤を得るステップ(4)とを含む、ことを特徴とする植物油系目詰まり抑制剤の製造方法を提供する。
【0014】
好ましくは、ステップ(1)において、前記非共役植物油は非共役炭素-炭素二重結合を有し、かつリノレン酸の含有量が0.6%以下、ヨウ素価が60mgKOH/g以上、好ましくは85mgKOH/g以上の植物油であり、好ましくは、コーン油、綿実油、ピーナッツ油、胡麻油、ブンカンカオイルのうちの1種又は複数種である。
【0015】
好ましくは、ステップ(1)において、前記アルカリは水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムであり、その使用量が非共役植物油の質量の0.5~0.6倍であり、前記アルコールは飽和2価アルコール、好ましくは炭素数2~5の飽和2価アルコール、さらに好ましくはエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールのうちの少なくとも1種である。前記アルコールの使用量は非共役植物油の質量の2.5~3.5倍である。
【0016】
好ましくは、ステップ(1)において、前記異性化反応の条件は温度180~220℃、時間3~5hを含む。
【0017】
好ましくは、ステップ(2)において、前記不飽和ジアルデヒドは、炭素数4~12の不飽和ジアルデヒド、好ましくは2-ブテンジアール、2-ペンテンジアール、2-ヘキセンジアール、3-ヘキセンジアール、2-ヘプテンジアール、3-ヘプテンジアール、2-オクテンジアール、3-オクテンジアール、4-オクテンジアールのうちの1種又は複数種であり、好ましくは、不飽和ジアルデヒドと植物油脂肪酸とのモル比が0.5:1~3:1、好ましくは0.8:1~2:1である。
【0018】
好ましくは、ステップ(2)において、前記接触時間は0.5~2hであり、好ましい温度は190~210℃である。
【0019】
好ましくは、前記未反応の原料の除去は、接触させて得られた混合物を圧力30~150Pa、好ましくは65~120Pa、温度180~220℃、好ましくは195~205℃で減圧蒸留することを含む。
【0020】
第4態様では、本発明は、また、上記植物油系目詰まり抑制剤の製造方法によって製造される植物油系目詰まり抑制剤、及び該植物油系目詰まり抑制剤を含有する低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物を提供する。
【0021】
好ましくは、低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物の全量を基準に、該低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物は植物油系目詰まり抑制剤70~90重量%と、酸化防止剤0.2~2重量%と、芳香族炭化水素ソルベントオイル8~29重量%とを含有する。好ましくは、低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物は、植物油系目詰まり抑制剤と、酸化防止剤と、芳香族炭化水素ソルベントオイルとからなる。
【0022】
第5態様では、本発明はまた、目詰まり抑制性を向上させた低硫黄ディーゼルを提供し、前記低硫黄ディーゼルは、低硫黄ディーゼルと目詰まり抑制剤とを含有し、前記目詰まり抑制剤は上記植物油系目詰まり抑制剤又は低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物である。
【0023】
好ましくは、低硫黄ディーゼル100重量部に対して、前記植物油系目詰まり抑制剤(即ち式(I)で示される化合物又はその2種以上の組み合わせ)の含有量は0.008~0.01重量部である。
【0024】
第6態様では、本発明はまた、上記化合物、植物油系目詰まり抑制剤又は低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤組成物を低硫黄ディーゼルに添加することを含む低硫黄ディーゼル目詰まり抑制性の向上方法を提供する。
【0025】
好ましくは、低硫黄ディーゼル100重量部に対して、前記植物油系目詰まり抑制剤(即ち式(I)で示される化合物又はその2種以上の組み合わせ)の含有量は0.008~0.01重量部である。
【0026】
本発明では、植物油を原料として、変性植物油脂肪酸を得た後、一定の鎖長を有する不飽和ジアルデヒドの極性基を変性植物油脂肪酸分子鎖に導入することによって、得られた製品はエンジンフィルタのノズルの目詰まりの問題を確実に解決し、エンジン故障の回数を減らし、エンジンの寿命を延ばし、しかも、目詰まり抑制剤の使用量を低く抑える。その原因としては、分子中に2つアルデヒド基と1つカルボキシルが同時に存在することで、分子の極性が向上するだけではなく、脂肪環構造が分子間の内部結合作用の低下に有利であり、ディーゼル燃料に細菌が繁殖するという問題を解決し、ディーゼルが長期間保存する場合に存在する細菌繁殖及び排出物によるフィルタの目詰まりを回避する。さらに、該化合物はまた潤滑性を備え、従来の酸型低硫黄ディーゼル耐摩耗剤に比べて、本製品は低い凝固点及び酸価を有し、かつより優れた潤滑効果があり、ブレンド比を低下し、ディーゼルエンジンへの腐食を防止し、特に寒冷地への使用に適している。
【0027】
本発明で製造される植物油系目詰まり抑制剤の性能、例えば凝固点、引火点、金属含有量、低温保存安定性などの指標は全て国V潤滑性基準を満たす。本発明は、プロセスが簡単であり、原料が入手されやすく、低コストであり、工業的生産が容易であるなどの特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】は本発明の実施例1のステップ(1)で得られた変性大豆油脂肪酸のHNMRスペクトルである。
【
図2】は本発明の実施例1のステップ(2)で得られた目詰まり抑制剤製品のHNMRスペクトルである。
【
図3】は本発明の実施例1のステップ(1)で得られた変性大豆油脂肪酸の赤外線スペクトルである。
【
図4】は本発明の実施例1のステップ(2)で得られた目詰まり抑制剤製品の赤外線スペクトルである。
【
図5】は実施例1で製造される目詰まり抑制剤のTOFマススペクトルである。
【
図6】は実施例1で製造される目詰まり抑制剤の炭素核磁気スペクトル(
13C-NMR)である。
【
図7】実施例1で製造される目詰まり抑制剤の水素核磁気スペクトル(
1H-NMR)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書で開示された範囲の端点及び全ての値はこの正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近い値を含むものとして理解すべきである。値の範囲の場合、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と単独の点の値、及び単独の点の値同士は互いに組み合わせられて1つ又は複数の新しい値の範囲を構成することができ、これらの値の範囲は本明細書において具体的に開示されると同程度である。
【0030】
本発明では、非共役植物油とは、非共役二重結合を含有する植物油であり、各種の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、例えば炭素数12~22の直鎖又は分岐の脂肪酸を含有する。好ましくは、非共役植物油の全量を基準に、不飽和脂肪酸の含有量は70重量%以上、好ましくは75重量%以上である。前記飽和脂肪酸は例えばステアリン酸及び/又はパルミチン酸である。前記不飽和脂肪酸とは、不飽和二重結合を含有する脂肪酸であり、不飽和二重結合の数は1つ、2つ、3つ以上であってもよく、好ましくは、前記非共役植物油は、不飽和二重結合の数が2~5個であるもの、例えばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸のうちの1種又は複数種である。好ましくは、非共役植物油の全量を基準に、不飽和二重結合が2つ以上の脂肪酸の含有量は40重量%以上、さらに好ましくはリノール酸の含有量は40~70重量%であり、より好ましくは45~65重量%である。さらに好ましくは、非共役植物油の全量を基準に、共役二重結合不飽和脂肪酸は例えばα-エレオステアリン酸の含有量は、60重量%未満、好ましくは50重量%未満、さらに好ましくは40重量%未満である。
【0031】
本発明では、各種の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の含有量はガスクロマトグラフィー法によって測定される。
【0032】
本発明では、非共役植物油についてガスクロマトグラフィーを行い、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸などの基準サンプルと比較することによって、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸などの含有量を決定し、各脂肪酸の不飽和二重結合数に基づいて、さらに不飽和二重結合の数を決定してもよい。
【0033】
好ましくは、前記非共役植物油のヨウ素価は60~155mg(I2)(100g)-1、好ましくは85~130mg(I2)(100g)-1である。
【0034】
好ましくは、前記非共役植物油の酸価は180~210mg(KOH)g-1、好ましくは190~200mg(KOH)g-1である。
【0035】
本発明では、前記非共役植物油の酸価及びヨウ素価はそれぞれGB/T 5530~2005及びGB/T 5532~2008方法によって測定される。
【0036】
好ましくは、前記非共役植物油の分子量は700~1000、好ましくは850~950である。
【0037】
植物油脂肪酸のタイプが自然界で公知のものであり、各種の脂肪酸が確実に分離されているので、各種の脂肪酸基準サンプルのガスクロマトグラムを取得しておき、次に、非共役植物油と各種の脂肪酸基準サンプルとのガスクロマトグラムを比較することで、非共役植物油の脂肪酸の組成を取得し、非共役植物油の(平均)分子量を取得する。本発明では、前記非共役植物油の分子量は該方法によって得られる。
【0038】
本発明では、好ましくは、前記非共役植物油は、コーン油、綿実油、ピーナッツ油、胡麻油、ブンカンカオイルのうちの1種又は複数種である。
【0039】
本発明では、ステップ(1)において、前記アルカリは、異性化反応に必要な環境を提供し得る各種のアルカリ性物質、好ましくは水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムである。前記アルカリの使用量は、好ましくは非共役植物油の質量の0.5~0.6倍である。
【0040】
本発明では、非共役植物油をアルカリの存在で直接異性化反応させてもよい。本発明の1つの好ましい実施形態によれば、前記アルカリは、アルカリのアルコール溶液で使用される。好ましくは、前記アルコールは飽和2価アルコール、さらに好ましくは炭素数2~7、より好ましくは2~4の飽和2価アルコールであり、具体的には、好ましくはエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールのうちの少なくとも1種である。好ましくは、前記アルコールの使用量は、非共役植物油の質量の2.5~3.5倍である。
【0041】
ステップ(1)において、非共役植物油、無機アルカリ及び任意の2価アルコールを混合した後、160~180℃で撹拌しながら3~5h反応させる。撹拌速度は好ましくは100~500rpm、さらに好ましくは300~400rpmである。前記反応器は、一般的に使用される撹拌器付きの反応器であり、好ましくは温度、圧力や撹拌速度などの自動制御が可能である。
【0042】
本発明では、ステップ(1)において、前記酸性化は、好ましくは無機酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸などのうちの少なくとも1種を用いて、pH2~3に酸性化する。
【0043】
本発明では、水洗は、好ましくは蒸留水、脱イオン水などを用いて、洗浄水が中性となるまで水洗し、静置して層別化した後、水相を分離することである。
【0044】
ステップ(1)によって、非共役植物油中の非共役不飽和脂肪酸のうちの少なくとも非共役二重結合の一部が、共役二重結合に異性化される。核磁気共鳴及び赤外線検出方法によって該反応の発生が確認され得る。
【0045】
本発明では、ステップ(2)において、前記不飽和ジアルデヒドは炭素数4~12の不飽和ジアルデヒド、好ましくは2-ブテンジアール、2-ペンテンジアール、2-ヘキセンジアール、3-ヘキセンジアール、2-ヘプテンジアール、3-ヘプテンジアール、2-オクテンジアール、3-オクテンジアール、4-オクテンジアールのうちの1種又は複数種である。
【0046】
上記不飽和ジアルデヒドは市販品であってもよく、既知の方法によって製造されたものであってもよく、例えば、2-ペンテンジアールは、臭化シアンをピリジン環に作用して、環上の窒素原子を3価から5価に変換し、ピリジン環を加水分解反応させてペンテンジアールを生成したものであってもよいし、チオシアン酸塩とクロラミンTとを反応させて塩化シアンを生成し、イソニコチン酸と作用して、加水分解し、ペンテンジアール(陳恵珠ら「乳及び乳製品中のチオシアン酸塩含有量の分光光度測定」参照、中国衛生検査雑誌、2012(08):46-48)を生成したものであってもよい。3-ヘキセンジアールは3-ヘキセン-1,6-ジオール(市販)を銅触媒で酸化して製造したものであってもよい。4-オクテンジアールは1,5-シクロオクタジエンを酸化したものであってもよい。上記具体的な方法は当業者に公知のことであるので、ここでは詳しく説明しない。
【0047】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、不飽和ジアルデヒドと植物油脂肪酸(不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸との全量)とのモル比は0.5:1~3:1、好ましくは0.8:1~2:1である。
【0048】
本発明では、ステップ(2)において、変性植物油脂肪酸、不飽和ジアルデヒドを反応器に投入して、180~220℃、好ましくは190~210℃で0.5~2h反応させる。
【0049】
好ましくは、ステップ(2)において、前記接触は超音波の条件下で行われ、好ましくは、ステップ(2)において、前記接触は全て超音波の条件下で行われる。超音波電力は好ましくは100W~600W、好ましくは200~300Wである。
【0050】
ステップ(2)において、不飽和脂肪酸中の共役不飽和二重結合と不飽和ジアルデヒド中の不飽和結合とがディールス-アルダー付加反応を起こし、環化して上記式(I)で示される構造を有する化合物を得る。ガスクロマトグラフィー、TOFF質量分析、赤外線、核磁気共鳴水素スペクトル及び炭素スペクトルによって式(I)で示された構造の化合物の生成/存在が確認され得る。例えば、ガスクロマトグラフィーにおいて新しい特徴ピークの出現は反応の発生を表し、TOFF質量分析と組み合わせると、反応による新化合物の分子量の情報が得られ、赤外線分析によって反応メカニズム及び反応による新化合物に備える特定の官能基が推定され、TOFF質量分析による分子量情報、赤外線分析による官能基の情報とともに、炭素核磁気スペクトル及び水素スペクトルの結果から、反応による新化合物製品の分子構造が得られる。
【0051】
本発明では、様々な手段によりステップ(2)で得られた反応后混合物中の未反応の原料を除去してもよく、その中でも、減圧蒸留が好ましい。好ましくは、前記減圧蒸留は、圧力30~150Pa、好ましくは65~120Pa、温度180~220℃、好ましくは195~205℃である。本発明では、別に断らない限り、前記圧力は絶対圧力である。
【0052】
なお、ディールス-アルダー付加反応の立体選択性が高いため、上記方法によって得られたのは2種の異性体の混合物であり、この2種の異性体は化学シフトが類似し、極性が類似し、かつ分子量が同じであるので、通常混合物の形態で存在する。本発明では、特に断らない限り、式(I)で示される化合物又は植物油系目詰まり抑制剤はこの2種の異性体の混合物である。
【0053】
第3態様では、本発明はまた、主として、上記植物油系目詰まり抑制剤70~90重量%と、酸化防止剤0.2~2重量%と、芳香族炭化水素ソルベントオイル8~29重量%とを含む、上記植物油系目詰まり抑制剤を含有する低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤を提供する。
【0054】
前記酸化防止剤は、ディーゼル用目詰まり抑制剤に適している、抗酸化性を有する各種の物質であってもよく、通常、フェノール系酸化防止剤が使用される。
【0055】
前記フェノール系酸化防止剤は、モノフェノール、ビスフェノール、ジフェノール及びポリフェノールであってもよいし、これらの任意の割合の混合物であってもよい。例えば、o-tert-ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、6-tert-ブチル-2-メチルフェノール、6-tert-ブチル-3-メチルフェノール;4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-ジメチルフェノール;2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,5-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール;2,5-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT、酸化防止剤T501)、4,6-ジ-tert-ブチル-2-メチルフェノール;2,4,6-トリス-tert-ブチルフェノール、2-アリル-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール、2-sec-ブチル-4-tert-ブチルフェノール、4-sec-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-ノニル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール(酸化防止剤DBEP)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-n-ブチルフェノール(酸化防止剤678);tert-ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ジ-tert-ブチル-α-メトキシ-p-クレゾール(BHT-MO)、4-ヒドロキシメチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(酸化防止剤754)、2,6-ジ-tert-ブチル-α-ジメチルアミノ-p-クレゾール(酸化防止剤703)、4,4’-イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、2,2’-ビス-(3-メチル-4ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(酸化防止剤DOD)、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラ-tert-ブチルビフェニル(酸化防止剤712)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(酸化防止剤ビスフェノール2246)、4,4’-メチレン-ビス-(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(酸化防止剤メチリデン736)、2,2’-メチレン-ビス-(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)(酸化防止剤425)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)(酸化防止剤ZKF)、2,2’-メチレン-ビス[4-メチル-6-(α-メチルシクロヘキシル)フェノール](酸化防止剤WSP)、2,2’-メチレン-ビス-(6-α-メチルベンジルp-クレゾール)、4,4’-メチレン-ビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)(酸化防止剤T511)、4,4’-メチレン-ビス-(2-tert-ブチルフェノール)(酸化防止剤702)、2,2’-エチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-エチレン-ビス-(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-エチレン-ビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチレン-ビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール)(酸化防止剤BBM、酸化防止剤TCA)、4,4’-イソブチレン-ビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)などが挙げられる。
【0056】
本発明では、低硫黄ディーゼルとは硫黄含有量が10ppm未満のディーゼルである。
【0057】
本発明による上記式(I)化合物は、低硫黄ディーゼル目詰まり抑制性向上に用いられる場合、低硫黄ディーゼル基油に直接添加してもよいし、他の助剤例えば酸化防止剤などと配合して目詰まり抑制剤組成(組成物)を形成したものとして低硫黄ディーゼルに添加し、目詰まり抑制性を向上させた低硫黄ディーゼルを得るようにしてもよい。
【0058】
本発明では、区別のために、目詰まり抑制剤添加前及び添加後のディーゼルはそれぞれ低硫黄ディーゼル、及び目詰まり抑制性を向上させた低硫黄ディーゼルと呼ばれる。前記目詰まり抑制性向上とは、目詰まり抑制剤添加前のディーゼルに比べて、向上の度合いに関わらず、ディーゼルの目詰まり抑制性が向上することを意味する。
【0059】
以下、実施例によって本発明の植物油系低硫黄ディーゼル用目詰まり抑制剤、その製造方法及び使用の効果をさらに説明する。実施例は、本発明の技術案に基づいて実施され、詳細な実施形態や具体的な操作プロセスが記載されるが、本発明の特許範囲は下記の実施例に限定されない。
【0060】
以下の実施例における実験方法は、特に断らない限り、本分野の一般的な方法である。使用される試薬は全て市販品や一般的な方法によって製造されるものである。
【0061】
本発明で製造される目詰まり抑制剤製品の酸価はGB/T 7304方法に準じて測定され、凝固点はGB/T 510方法に準じて測定され、低硫黄ディーゼルの摩耗痕径(潤滑性に対応)はSH/T 0765方法に準じて測定される。
【0062】
植物油脂肪酸の転化率A=(m1-m2)/m1×100%である。ここで、m1は第2ステップの反応に投入される植物油脂肪酸の質量であり、m2は反応後に分離した植物油脂肪酸の質量である。
【0063】
本発明では、ガスクロマトグラフィー検出に使用される機器及び分析条件は、具体的には、以下のとおりである。サンプルの製造はGB/T17376『動物・植物油脂、脂肪酸メチルの製造』を参照し、器具はThermo DSQ IIを使用し、カラムはAglient DB-1HTを使用し、条件としては、初期温度170℃で、1min保持した後、5℃/minの速度で350℃に昇温して5min保持し、サンプル注入口の温度は260℃、検出器温度は280℃、スプリットは20:1、サンプル注入量は1μLとする。
【0064】
本発明では、赤外線分析に使用される機器及び分析条件は、具体的には、以下のとおりである。器具はThermo NICOLET 6700を使用し、条件としては、CaF2塗膜、走査範囲400~4000cm-1、解像度4cm-1、走査回数32回とする。
【0065】
本発明では、水素核磁気スペクトル分析に使用される機器及び分析条件は、具体的には、以下のとおりである。器具はBruker AVANCE III 500型番のものを使用し、条件は、試験温度300K、共振周波数(SFO1)500MHz、溶媒として重水素化クロロホルム、内部基準としてテトラメチルシラン、スペクトル幅(SWH)10000Hz、パルス幅(P1)10μs、サンプリング時間3.27s、サンプリング回数(NS)64回、遅延時間(D1)10sである。
【0066】
本発明では、炭素核磁気スペクトル分析に使用される機器及び分析条件は、具体的には、以下のとおりである。器具はBruker AVANCE III 500型番のものを使用し、条件は、試験温度300K、共振周波数(SFO1)125MHz、溶媒として重水素化クロロホルム、内部基準としてテトラメチルシラン、スペクトル幅(SWH)10000Hz、パルス幅(P1)10μs、サンプリング時間3.27s、サンプリング回数(NS)64回、遅延時間(D1)10sである。
【0067】
本発明では、TOF質量分析に使用される機器及び分析条件は、具体的には、以下のとおりである。器具はBruker microfexマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を使用し、条件としては、ジスラノール(dithranol 20mg/ml)、トリフルオロ酢酸ナトリウム(10mg/ml)をテトラヒドロフランに溶解して溶媒とし、使用に備える。マトリックスをα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(HCCA)とし、HCCAを溶媒に超音波溶解して、飽和溶液を調製して遠心分離し、使用に備え、測定対象サンプルを溶媒(10mg/ml)に溶解し、等体積のポリペプチド溶液とマトリックス溶液の上澄み液とを均一に混合し、次に、混合溶液1μLをサンプル板に滴下して自然乾燥させて結晶化した。次に、分析のために質量分析計に供する。陽イオン反射モードを用いて検出し、反射電圧を19kVとする。合計200回のワンパス走査による信号からマススペクトルを得て、独自の分析ソフトウェアを用いてベースライン補正及びピーク標示を行う。
【0068】
〔実施例1〕
(1)コーン油(ヨウ素価125mgKOH/g、残りの性質は表1参照)1000g、エチレングリコール3500g、KOH 600gを反応器に投入して均一に混合し、160℃で撹拌しながら5h反応させ、生成物を塩酸でpH2.5に酸性化し、中性となるまで水洗し、静置して層別化すると、水相を分離して、変性コーン油脂肪酸を得た。
【0069】
(2)変性コーン油脂肪酸100g、2-ブテンジアール(別称:シスブテンジアール、上海金錦楽実業有限公司製、純度99%、下同)44.5gを超音波反応器に加えて、反応温度130℃、超音波電力200W、300rpmで撹拌しながら1h反応させると、反応を終了し、反応系が室温に降温すると、減圧蒸留して、圧力65Paの200℃の留分を収集し、目詰まり抑制剤製品を得た。コーン油脂肪酸の転化率は48.2%、製品の酸価は122.5mgKOH/g、凝固点は-26.5℃であった。
【0070】
図1及び
図2は、それぞれ変性コーン油脂肪酸、及び環付加反応後に分離していない生成物のガスクロマトグラムであり、環付加反応後、14.04minにターゲット生成物の特徴ピークが現れ、また、約7.8minに変性コーン油脂肪酸を表す特徴ピークがほぼ消えていることが分かり、系内でディールス-アルダー付加反応が起こったことが示されている。
【0071】
図3及び
図4は、それぞれ、変性コーン油脂肪酸、及び分離後の生成物の赤外線スペクトルであり、ここで、985cm
-1での吸収ピークは共役炭素炭素二重結合の特徴ピークであり、2751cm
-1での吸収ピークはアルデヒド基の特徴ピークであり、反応生成物にはアルデヒド基の官能基があることが判定され、また、共役炭素炭素二重結合の特徴ピークがほぼ消えており、これは、ディールス-アルダー付加反応によって、アルデヒド基が変性コーン油脂肪酸の分子鎖に導入されたことが示されている。
【0072】
図5は、製造された目詰まり抑制剤のTOFマススペクトルであり、製品の分子量が364であることが分かった。製品の酸価122.5mgKOH/g、及び生成物の分子量から、製品の分子内に1つのカルボキシル官能基があると判定された。
【0073】
図6は、製造された目詰まり抑制剤の炭素核磁気スペクトル(
13C-NMR)であり、ここで、化学シフトδ=178ppmはカルボキシル中の炭素、化学シフトδ=204ppmはアルデヒド基中の炭素、化学シフトδ=132ppmは炭素-炭素二重結合中の炭素である。吸収ピークの強度から、製品分子中のアルデヒド基の数がカルボキシルの数の2倍であり、炭素-炭素二重結合の数がカルボキシルと同じであることが分かった。
【0074】
製品分子中に1つのカルボキシル官能基があるため、製品には2つのアルデヒド基と、1つの炭素-炭素二重結合とが含まれている。
【0075】
図7は、製造された目詰まり抑制剤の水素核磁気スペクトル(
1H-NMR)であり、ここで、化学シフトδ=9.7ppm、δ=5.9ppm、δ=2.7ppm、δ=2.2ppm、δ=1.3ppm、δ=0.9ppmはそれぞれ、
【0076】
【0077】
、-HC=CH-、化学環境の異なる
【0078】
【0079】
、-CH2-、-CH3に帰属し、裂分数量から、製品の構造式が
【0080】
【0081】
、及び
【0082】
【0083】
の混合物が推定され得る。
【0084】
上記スペクトル及び原料から、変性反応によって植物油脂肪酸の分子鎖上に脂肪環構造及びアルデヒド基である極性官能基が導入されていることが分かり、得られた目詰まり抑制剤製品は、式(I)で示される構造の化合物であり、ここで、x=0、y=0、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=0、y=0、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0085】
〔実施例2〕
(1)コーン油1000g、エチレングリコール2500g、KOH 500gを反応器に投入して均一に混合し、180℃で撹拌しながら3h反応させ、生成物を塩酸でpH2に酸性化し、中性となるまで水洗した後、静置して層別化すると、水相を分離して、変性コーン油脂肪酸を得た。
【0086】
(2)変性コーン油脂肪酸100g、2-ブテンジアール58.8gを超音波反応器に加えて、反応温度110℃、超音波電力100W、300rpmで撹拌しながら2h反応させ、反応を終了し、反応系が室温に降温すると、減圧蒸留して、圧力65Paの200℃の留分を収集し、目詰まり抑制剤製品を得た。コーン油脂肪酸の転化率は47.2%、製品の酸価は122.1mgKOH/g、凝固点は-26.3℃であった。
【0087】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=0、y=0、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=0、y=0、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0088】
〔実施例3〕
(1)コーン油1000g、エチレングリコール3000g、KOH 550gを反応器に投入して均一に混合し、170℃で撹拌しながら4h反応させ、生成物を塩酸でpH3に酸性化し、中性となるまで水洗した後、静置して層別化すると、水相を分離して、変性コーン油脂肪酸を得た。
【0089】
(2)変性コーン油脂肪酸100g、2-ブテンジアール24.7gを超音波反応器に加えて、反応温度150℃、超音波電力300W、300rpmで撹拌しながら0.5h反応させ、反応を終了し、反応系が室温に降温すると、減圧蒸留して、圧力65Paの200℃の留分を収集し、目詰まり抑制剤製品を得た。コーン油脂肪酸の転化率は49.3%、製品の酸価は121.7mgKOH/g、凝固点は-27.0℃であった。
【0090】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー、及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=0、y=0、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=0、y=0、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0091】
〔実施例4〕
綿実油(ヨウ素価108mgKOH/g)を反応原料として用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。綿実油脂肪酸の転化率は45.3%、製品の酸価は122.4mgKOH/g、凝固点は-26.8℃であった。
【0092】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー、及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=0、y=0、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=0、y=0、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0093】
〔実施例5〕
ピーナッツ油(ヨウ素価95mgKOH/g)を反応原料として用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。ピーナッツ油脂肪酸の転化率は25.5%、製品の酸価は122.0mgKOH/g、凝固点は-26.8℃であった。
【0094】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー、及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=0、y=0、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=0、y=0、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0095】
〔実施例6〕
ブンカンカオイル(ヨウ素価116mgKOH/g)を反応原料として用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。ブンカンカオイル脂肪酸の転化率は39.5%、製品の酸価は122.2mgKOH/g、凝固点は-26.8℃であった。
【0096】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー、及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=0、y=0、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=0、y=0、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0097】
〔実施例7〕
2-ペンテンジアール50.8gを反応原料として用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。コーン油脂肪酸の転化率は44.2%、製品の酸価は119.6mgKOH/g、凝固点は-25.8℃であった。
【0098】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー、及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=0、y=1、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=0、y=1、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0099】
〔実施例8〕
3-ヘキセンジアール57.2gを反応原料として用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。コーン油脂肪酸の転化率は42.5%、製品の酸価は117.4mgKOH/g、凝固点は-24.3℃であった。
【0100】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー、及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=1、y=1、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=1、y=1、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0101】
〔実施例9〕
4-オクテンジアール70.0gを反応原料として用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。コーン油脂肪酸の転化率は30.5%、製品の酸価は115.7mgKOH/g、凝固点は-20.3℃であった。
【0102】
核磁気、赤外線、クロマトグラフィー、及び質量分析から明らかなように、式(I)で示される構造の化合物が得られ、ここで、x=2、y=2、m=5、n=7であり、R1、R2はそれぞれHであり、また、x=2、y=2、m=4、n=8であり、R1、R2はそれぞれHの混合物である。
【0103】
〔実施例10〕
エチレングリコールの代わりに1,3-プロピレングリコールを用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。コーン油脂肪酸の転化率は44.1%、製品の酸価は122.4mgKOH/g、凝固点は-26.3℃であった。
【0104】
〔実施例11〕
エチレングリコールの代わりに1,4-ブタンジオールを用いて、目詰まり抑制剤製品を得た以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。コーン油脂肪酸の転化率は40.2%、製品の酸価は122.2mgKOH/g、凝固点は-26.5℃であった。
【0105】
〔比較例1〕
ヨウ素価49mgKOH/gのパーム油を反応原料として用いて、目詰まり抑制剤を製造した以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であった。パーム油脂肪酸の転化率は6.4%未満であり、目詰まり抑制剤の転化率が低すぎて、経済的な利益がなかった。
【0106】
〔比較例2〕
植物油と不飽和ジアルデヒドを直接反応させた以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であり、その結果、反応が起こらず、製品が合成できなかった。
【0107】
〔比較例3〕
共役二重結合を有する桐油を用いた以外、製造プロセス及び操作条件は実施例1と同様であり、その結果、反応系では架橋副反応が起こり、桐油脂肪酸の転化率は51.2%、製品の凝固点は-9℃であった。凝固点が高すぎて、使用の要件を満たしていない。
【0108】
【0109】
〔測定例1〕
硫黄含有量が10ppm未満の低硫黄ディーゼル(低硫黄ディーゼル-1)及び摩耗痕径が580μmよりも大きい水素化精製ディーゼル(低硫黄ディーゼル-2)を用いて測定を行い、その具体的な性質は表2に示される。上記実施例及び比較例で製造された目詰まり抑制剤を上記低硫黄ディーゼルに添加して、製品の性能について測定を行い、測定結果を表3、表4に示す。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
表3及び表4から分かるように、植物油を直接使用するか、又はステップ(1)の生成物を使用する場合は、低硫黄ディーゼルへの潤滑効果が劣り、低硫黄ディーゼルの潤滑性は国Vディーゼル潤滑性の要件を満足できず、また、-20℃又は-30℃では改良剤の析出が見えられた。本発明で変性された植物油脂肪酸は、低硫黄ディーゼルに対する潤滑性が明らかに改善され、添加量が80ppm又は100ppmである場合、ブレンド後の低硫黄ディーゼルは国Vディーゼル潤滑性(摩耗痕径は460μm以下)の要件を満足でき、-20℃又は-30℃では析出が見られなかった。このことから、製造された目詰まり抑制剤製品は、顕著な潤滑効果があり、しかも、凝固点が低く、使用量が少ない。
〔測定例2〕
本発明の製品が目詰まり抑制性能を有することを確認するために、低硫黄ディーゼル-1製品をそれぞれ1L、水20mlに加えて激しく振とうさせた後、密閉空間に保存し、実施例の製品及び比較例の製品を添加したディーゼルサンプルと、未添加のディーゼルサンプルの総汚染物(総汚染物は主にディーゼルで生じた細菌や他の排出物を含み、総汚染物の含有量が高すぎると、フィルタの目詰まりが発生する)を比較し、総汚染物の検出はGB/T 33400に準じて行われ、結果は表5に示される。
【0114】
【0115】
表5から分かるように、未添加ディーゼルは、保存時間が長くなるに伴い、総汚染物の含有量が増加し、一方、添加製品は低硫黄ディーゼルの抗菌性を明らかに改善し、添加量が80ppmである場合、ブレンド後の低硫黄ディーゼルは、6カ月放置したところ、総汚染物の含有量はほぼ変わらない。