(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】炭素被覆シリコン粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20240527BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240527BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240527BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240527BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240527BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240527BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240527BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240527BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/36 C
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/62 Z
H01M50/434
(21)【出願番号】P 2022556052
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2020057362
(87)【国際公開番号】W WO2021185435
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベーゲナー,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】ドレーゲル,クリストフ
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0355980(US,A1)
【文献】特表2019-534537(JP,A)
【文献】特表2019-528227(JP,A)
【文献】特表2020-507547(JP,A)
【文献】特表2019-508854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/052
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粒子及び固体の形態で存在するポリアクリロニトリルを混合して乾燥混合物を製造することにより、平均粒径d
50が1~15μmで、各々炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいて、10重量%以下の炭素及び90重量%以上のシリコンを含む非強凝集炭素被覆シリコン粒子を製造する方法であって、
ここで、非強凝集炭素被覆シリコン粒子は、エタノール中で超音波との同時処理による分散後、分析されるそれぞれの粒子組成物の体積加重粒径分布のd
90
値の2倍のメッシュサイズを有する篩を通過しない粒子の割合に対応する強凝集度が40%以下を示す粒子であり、
乾燥混合物中に固体の形態で存在するポリアクリロニトリルを熱分解して、気体の炭素前駆体を形成し、
こうして形成された気体の炭素前駆体をCVD法(化学蒸着、化学気相成長)によりシリコン粒子の存在下で炭化することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記シリコン粒子及び前記ポリアクリロニトリルが、乾燥混合物中に別々の粒子又は顆粒として互いに並んで存在することを特徴とする、請求項1に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥混合物が、前記乾燥混合物の総重量に基づいて、2~50重量%のポリアクリロニトリルを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項4】
ポリアクリロニトリルの熱分解が350℃以上の温度で行われることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項5】
熱分解及び炭化の間に溶融するポリアクリロニトリルの割合が、用いられるポリアクリロニトリル全体の総重量に基づいて20重量%以下である(決定法:熱重量分析)ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項6】
ポリアクリロニトリルが熱分解及び炭化の間に溶融しないことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項7】
前記炭素被覆シリコン粒子が40%以下の強凝集度(ふるい分析による決定)を示すことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項8】
前記炭素被覆シリコン粒子の体積加重粒径分布d
50と、前記炭素被覆シリコン粒子の製造の出発物質として用いた前記シリコン粒子の体積加重粒径分布d
50とから形成される差が5μm以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項9】
ポリアクリロニトリルの熱分解において、アクリロニトリル、アセトニトリル、ビニルアセトニトリル及びHCNからなる群からの分解生成物が生成されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥混合物が、グラファイト、導電性カーボンブラック、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット、カーボンナノチューブ、炭素繊維及び銅からなる群から選ばれる導電性添加剤を含有しないことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10に記載のいずれか一項に記載の方法により得られた炭素被覆シリコン粒子を、リチウムイオン電池の製造においてアノード用アノード活物質として用いることにより、リチウムイオン電池を製造する方法。
【請求項12】
リチウムイオン電池のカソード、アノード、セパレータ及び/又は電解質及び/又は電池ハウジングに位置する別のリザーバが、硝酸塩、亜硝酸塩、アジド、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩及びフッ化物のアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウム塩を含む群から選択される1種以上の無機塩を含むことを特徴とする、請求項11に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素被覆シリコン粒子の製造方法に関し、リチウムイオン電池の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
市販されている電気化学エネルギー貯蔵手段の中で、再充電可能なリチウムイオン電池は、現在、最大250Wh/kgという最も高い比エネルギーを有する。実際に使用されている負極材料(「アノード」)は、現在、主に黒鉛状炭素である。しかし、グラファイトは理論上372mAh/gという比較的低い電気化学容量を有し、これはリチウム金属で理論的に達成可能な電気化学容量のわずか10分の1程度に相当する。対照的に、シリコンは4199mAh/gでリチウムイオンに対し最も高い既知の貯蔵容量を有する。不都合なことに、シリコン含有電極活物質は、リチウムイオンで充放電するときに、最大約300%の極端な体積変化を起こす。この体積変化は、活物質及び電極構造全体に対して強い機械的応力をもたらし、これは電解研削により電気的接触が失われ、ひいては容量が低下して電極の破壊をもたらす。さらに、使用したシリコンアノード材料の表面は、電解質の構成成分と反応して、不動態化保護層(固体電解質界面;SEI)を連続的に形成し、可動性リチウムが不可逆的に失われる。
【0003】
このような問題に対処するために、多くの研究が、リチウムイオン電池のアノードの活物質として炭素被覆シリコン粒子を推奨している。例えば、Liu, Journal of The Electrochemical Society,2005,152(9),A17198~A1725頁には、炭素の割合が27%と高い炭素被覆シリコン粒子が記載されている。20重量%の炭素で被覆したシリコン粒子については、Journal of The Electrochemical Society,2002,149(12),A1598~A1603頁に小久見によって記載されている。JP2002151066は、炭素被覆シリコン粒子の炭素割合が11%~70%であることを報告している。Yoshio, Chemistry Letters 2001、1186~1187頁の被覆粒子は、20重量%の炭素を含み、平均粒径は18μmである。炭素被覆の層厚は1.25μmである。N.-L.Wu、Electrochemical and Solid-State Letters,8(2),2005,A100~A103頁の刊行物は、炭素の割合が27重量%である炭素被覆シリコン粒子を開示している。
【0004】
JP2004-259475は、シリコン粒子を非のグラファイトカーボン材料及び任意にグラファイトで被覆した後、炭化する方法を教示しており、炭化に関する被覆の方法のサイクルは複数回繰り返される。また、JP2004-259475では、表面被覆用のために非グラファイトカーボン材料及び任意のグラファイトを懸濁液の形態で使用していると報告されている。このような方法の手段は、炭素被覆シリコン粒子の強凝集につながることが知られている。US8394532も分散液から炭素被覆シリコン粒子を製造した。シリコンに基づいて20重量%の炭素繊維が出発材料として規定されている。
【0005】
EP1024544は、炭素層で完全に被覆された表面を有するシリコン粒子に関する。しかし、シリコン及び生成物の平均粒径を参照すると、実施例によって例示されるように、強凝集した炭素被覆シリコン粒子のみが具体的に開示されている。炭素前駆体として、EP1024544は、フェノール樹脂、イミド樹脂、芳香族スルホン酸塩の樹脂、ピッチ若しくはタールなどのポリマー、又はベンゼン、トルエン、ナフタレン、フェノール、メタン、エタン若しくはヘキサンなどの代替低分子量炭化水素を挙げる。EP2919298は、シリコン粒子及び主にポリ塩化ビニルのようなポリマーを含む混合物から始まるSi/C複合体の製造方法を教示する。この方法では、ポリマーを最初に溶融させ、次に熱分解し、熱分解生成物を最後に粉砕するが、これは強凝集粒子を暗示する。US2016/0104882は、複数のシリコン粒子が炭素マトリックスに埋め込まれた複合材料に関する。したがって、個々の炭素被覆シリコン粒子は強凝集体の形態をしている。
【0006】
US2009/0208844は、導電性の弾性炭素材料、特に膨張したグラファイトを含む炭素被膜を有するシリコン粒子を記載している。この文書は、その表面に、膨張したグラファイト粒子が炭素皮膜を介して粒子形態で付着しているシリコン粒子を開示している。非強凝集炭素被覆シリコン粒子の製造ための方法関連の基準点はUS2009/0208844では見つけることができない。US2012/0100438には、炭素被膜を有する多孔質シリコン粒子が含まれるが、皮膜の製造、及び粒子中の炭素及びシリコンの割合に関する具体的な記述はない。一方、炭素被覆シリコン粒子の製造のためのWO2018/082880は、炭素前駆体として1~10個の炭素原子を有する炭化水素を使用し、CVD法の間シリコン粒子が動くことを保っているCVD法(化学蒸着、化学気相成長)を記載する。あるいは、WO2018/082880では、シリコン粒子とポリマー炭素前駆体との乾燥混合物を、ポリマー炭素前駆体が完全に溶融するまで加熱し、次いで、溶融ポリマー炭素前駆体のみを炭化する。アノードの製造のために、EP1054462は、シリコン粒子及びバインダーで集電体を被覆した後、それらを炭化することを教示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-151066号公報
【文献】特開2004-259475号公報
【文献】米国特許第8394532号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1024544号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2919298号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0104882号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/0208844号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0100438号明細書
【文献】国際公開第2018/082880号
【文献】欧州特許出願公開第1054462号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Liu, Journal of The Electrochemical Society,2005,152(9),A17198~A1725頁
【文献】Journal of The Electrochemical Society,2002,149(12),A1598~A1603頁
【文献】Yoshio, Chemistry Letters 2001、1186~1187頁
【文献】N.-L.Wu、Electrochemical and Solid-State Letters,8(2),2005,A100~A103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような背景から、1つの目的は、リチウムイオン電池のアノード用の活物質を利用可能にする、シリコン粒子を改質する方法を提供することであり、この方法により、高い初期可逆容量を有し、さらに、その後のサイクルにおける可逆容量の低下(劣化(fading))を最小限に抑えながら安定した電気化学挙動を有するリチウムイオン電池が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シリコン粒子及び固体の形態で存在するポリアクリロニトリルを混合して乾燥混合物の製造により、平均粒径d50が1~15μmで、各々炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいて、10重量%以下の炭素及び90重量%以上のシリコンを含む非強凝集(non-aggregated)炭素被覆シリコン粒子の製造方法であって、乾燥混合物中に固体の形態で存在するポリアクリロニトリルを熱分解して、気体の炭素前駆体を形成し、こうして形成された気体の炭素前駆体をCVD法(化学蒸着、化学気相成長)によりシリコン粒子の存在下で炭化することを特徴とする、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のシリコン粒子のSEM画像である。
【
図2】実施例2のC被覆Si粒子のSEM画像である。
【
図3】実施例2のC被覆Si粒子のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明により製造された非強凝集炭素被覆シリコン粒子を、以下、略して、炭素被覆シリコン粒子と呼ぶ。
【0013】
驚くべきことに、本発明による方法は、強凝集していない(not-aggregated)炭素被覆シリコン粒子をもたらす。驚くべきことに、異なる粒子の付着又は焼結、ひいては強凝集は、あったとしても無視できる程度の発生しかなかった。これはいっそう驚くべきことであった。なぜなら、粘着性の炭素種が炭化中の高温で存在する可能性があり、これらが粒子の固化につながる可能性があるからである。それにもかかわらず、驚くべきことに、本発明によって非強凝集炭素被覆シリコン粒子が得られた。
【0014】
本発明による方法で使用されるシリコン粒子は、直径パーセンタイルd50が、好ましくは1~15μm未満、特に好ましくは2~10μm未満、最も好ましくは3~8μm未満(決定法:炭素被覆シリコン粒子について以下に記載する堀場製作所 LA950測定機器による)の体積加重粒径分布を有する。
【0015】
シリコン粒子は強凝集していないことが好ましく、特に好ましくは弱凝集していない(not agglomerated)。強凝集(Aggregated)は、例えば、球形又は極めて大まかに球形の一次粒子が、シリコン粒子の製造中の気相法において最初に形成され、融合して、気相法の反応の過程で強凝集体(aggregates)を形成することを意味する。強凝集体又は一次粒子は弱凝集体(agglomerates)も形成し得る。弱凝集体は、強凝集体又は一次粒子のゆるい集塊である。弱凝集体は、典型的に採用される混練法又は分散法を用いて、容易に強凝集体に分割され得る。強凝集体は、これらの方法では一次粒子に分解できないか、部分的にしか分解できない。その形成の結果、強凝集体及び弱凝集体は必然的に好ましいシリコン粒子とは全く異なる粒子形状を有する。強凝集を決定するために、炭素被覆シリコン粒子に関してなされた記述はシリコン粒子についても同様に適用される。
【0016】
シリコン粒子は、好ましくは、破片の粒子形状を有する。
【0017】
シリコン粒子は元素状シリコンをベースとすることが好ましい。元素状シリコンは、好ましくは高純度及び/又は多結晶性及び/又は多結晶シリコンと非晶質シリコンとの混合物であり、任意に少比率の異種原子(例えば、B、P、As)を含む、と理解されるべきである。
【0018】
シリコン粒子は好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは99.5重量%以上のシリコンを含む。重量%の数字はシリコン粒子の総重量、特にシリコン粒子の総重量から酸素含有量を引いた値に基づく。シリコン粒子中のシリコンの発明的割合は、Perkin Elmer製のOptima 7300 DV測定機器を用いて、EN ISO11885:2009に準拠したICP(誘導結合プラズマ)発光分析によって決定することができる。
【0019】
シリコン粒子は一般に酸化シリコンを含む。酸化シリコンは、シリコン粒子の表面に位置することが好ましい。酸化シリコンは、例えば、粉砕によるシリコン粒子の製造において、又は空気中での貯蔵中に形成され得る。このような酸化物層は、天然の酸化物層とも呼ばれる。
【0020】
シリコン粒子は、一般にその表面上に酸化物層、特に好ましくは0.5~30nm、特に好ましくは1~10nm、最も好ましくは1~5nmの厚さを有する酸化シリコン層を有する(測定法:例えば、HR-TEM(高分解能透過型電子顕微鏡))。
【0021】
シリコン粒子は、シリコン粒子の総重量に基づいて、(Leco TCH-600分析器を用いて測定された)好ましくは0.1重量%~5.0重量%、より好ましくは0.1重量%~2重量%、特に好ましくは0.1重量%~1.5重量%、最も好ましくは0.2重量%~0.8重量%の酸素を含む。
【0022】
シリコン粒子の表面は、場合により酸化物層又は他の無機基及び有機基によって覆われている可能性がある。特に好ましいシリコン粒子は、表面上に、Si-OH又はSi-H基、又は例えばアルコール又はアルケンのような共有結合した有機基を有する。
【0023】
多結晶シリコン粒子が好ましい。多結晶シリコン粒子は、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらにより好ましくは60nm以下、特に好ましくは20nm以下、最も好ましくは18nm以下、全ての中で最も好ましくは16nm以下の結晶子サイズを有する。結晶子サイズは、好ましくは3nm以上、特に好ましくは6nm以上、最も好ましくは9nm以上である。結晶子サイズは、2θ=28.4°におけるSi(111)に属する回折反射の半値全幅からScherrer法によるX線回折パターン解析により決定される。シリコンのX線回折パターンの標準は、NIST X線回折標準標準物質SRM640C(単結晶シリコン)が好ましい。
【0024】
シリコン粒子は、例えば、湿式粉砕方法又は好ましくは乾式粉砕方法などの粉砕方法によって製造され得る。本明細書では、ジェットミル、例えば、対向ジェットミル、又はインパクトミル、遊星ボールミル又は撹拌ボールミルを使用することが好ましい。湿式粉砕は、一般に、有機又は無機分散媒を用いた懸濁液中で行う。これには、例えば、出願番号DE102015215415.7を有する特許出願に記載されているように、確立された方法の使用が含まれることがある。
【0025】
ポリアクリロニトリルは、一般に、少なくとも10個のアクリロニトリルモノマー単位をベースとする。ポリアクリロニトリルは、例えば、粉末又は顆粒材料の形態で存在することができる。ポリアクリロニトリルの融点は300℃であることが知られている。300℃より低い温度では、ポリアクリロニトリルは一般に固体の形態をしている。本発明によれば、固体形態で存在するポリアクリロニトリルは、例えば適切な熱処理によって、又はポリアクリロニトリルの融解範囲の保持段階なしで済ますことによって、中間的な融解段階なしに熱分解される。
【0026】
ポリアクリロニトリルの他に、ポリアクリロニトリル以外の1種以上のさらなるポリマー、又は他の炭化水素化合物を、本発明による方法における炭素前駆体として任意に使用することができる。全体として使用される炭素前駆体の総重量に基づいて、70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上のポリアクリロニトリルを使用することが好ましい。最も好ましくは、ポリアクリロニトリル以外にそれ以外の炭素前駆体を使用しない。
【0027】
ポリアクリロニトリル及びシリコン粒子を含む乾燥混合物は、本発明による方法で使用される。シリコン粒子及びポリアクリロニトリルは一般に互いに並んで存在し、特に別々の粒子又は顆粒として乾燥混合物中に存在する。乾燥混合物には、シリコン粒子及びポリアクリロニトリルを含む弱凝集体が含まれていないことが好ましく、特にシリコン粒子及びポリアクリロニトリルを含む強凝集体は含まれていない。乾燥混合物は粉末形態が好ましい。
【0028】
乾燥混合物は、乾燥混合物の総重量に基づいて、好ましくは20重量%~99重量%、より好ましくは50重量%~98重量%、さらにより好ましくは60重量%~95重量%、特に好ましくは70重量%~90重量%、最も好ましくは75重量%~85重量%のシリコン粒子を含有する。
【0029】
乾燥混合物は、乾燥混合物の総重量に基づいて、好ましくは1重量%~80重量%、より好ましくは2重量%~50重量%、さらにより好ましくは5重量%~40重量%、特に好ましくは10重量%~30重量%、最も好ましくは15重量%~25重量%のポリアクリロニトリルを含有する。ポリアクリロニトリルの総量は、一般に、所望の程度の炭素堆積があるように選択される。
【0030】
また、乾燥混合物は、例えば、グラファイト、導電性カーボンブラック、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット、カーボンナノチューブ、炭素繊維又は銅などの金属粒子のような導電性添加剤などの1種以上のさらなる成分を含有していてもよい。好ましくは、導電性添加剤は存在しない。
【0031】
乾燥混合物には一般にいかなる溶媒も含まれない。本発明による方法は、一般に、溶媒の非存在下で行われる。しかし、このことは、使用される出発材料が、例えば、それらの製造の結果として、溶媒のいかなる残留含有量を含んでいることを排除するものではない。
【0032】
好ましくは、乾燥混合物、特にシリコン粒子及び/又はポリアクリロニトリルは、2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下の溶媒を含む。
【0033】
溶媒の例には、水のような無機溶媒、又は有機溶媒、特に炭化水素、エーテル、エステル、窒素官能基溶媒、硫黄官能基溶媒、エタノール及びプロパノールなどのアルコール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-メチルピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン及びジメチルスルホキシドが含まれる。
【0034】
シリコン粒子及びポリアクリロニトリルは、通常の方法で、例えば0~50℃、好ましくは15~35℃の温度で機械的混合により、乾燥混合物を生成するために混合することができる。標準的ミキサー、例えば、空圧ミキサー、フリーフォールミキサー、例えば、コンテナミキサー、コーンミキサー、ドラムローラーミキサー、ジャイロミキサー、タンブルミキサー又はドラムミキサー及びスクリューミキサーのような変位及びインペラーミキサーを使用することが可能である。また、遊星ボールミル、撹拌ボールミル又はドラムミルのような、前記目的のために一般的に使用されるミルを用いて、混合を達成することができる。固体形態で存在するシリコン粒子及びポリアクリロニトリルから出発する乾燥混合物の製造には、一般に、溶媒は使用せず、特に上記溶媒は使用しない。このように、一般に乾燥混合物は噴霧乾燥によっては生成されない。
【0035】
ポリアクリロニトリルの熱分解は、好ましくは350℃以上、特に好ましくは360℃以上、最も好ましくは370℃以上の温度で行われる。ポリアクリロニトリルの熱分解は、好ましくは500℃以下、特に好ましくは450℃以下、最も好ましくは400℃以下の温度で行われる。あるいは、熱分解は、前述の温度から始まり、さらに後述する炭化温度の上限までの温度範囲内で行うこともできる。分解温度は熱重量分析(TGA)により測定できる。
【0036】
ポリアクリロニトリルの熱分解では、アクリロニトリル、アセトニトリル、ビニルアセトニトリル、HCN及び/又はNH3などの種々の分解生成物が生成し得る。このような分解生成物は一般に、ポリアクリロニトリル分解に用いられる条件下において気体形態で存在する。
【0037】
ポリアクリロニトリルの熱分解が始まるまで、乾燥混合物を急速に加熱することが好ましい。乾燥混合物の温度は、熱分解が起こるまで連続的に上げることが好ましい。熱分解の開始に先立ち、加熱した乾燥混合物は、ある温度、特に融点からポリアクリロニトリルの熱分解が始まる温度までの範囲の温度では保持しないことが好ましい。
【0038】
乾燥混合物は、不連続的に、又は好ましくは連続的に温度を上昇させることによって加熱することができる。例えば、不連続加熱のための予熱炉に乾燥混合物を導入することができる。連続加熱は、一定又は可変の加熱速度、ただし一般に正の加熱速度での加熱を含み得る。加熱速度は好ましくは毎分1~1000℃、特に好ましくは毎分1~100℃、最も好ましくは毎分1~10℃の範囲である。別の実施形態では、加熱速度は、好ましくは毎分1~20℃、特に好ましくは毎分1~15℃、最も好ましくは毎分1~10℃の範囲である。さらに別の実施形態では、加熱速度は、好ましくは毎分10~1000℃、特に好ましくは毎分20~500℃、最も好ましくは毎分50~100℃の範囲である。
【0039】
本発明による方法の実施中、ポリアクリロニトリルは、一般に、液体又は溶融形態ではなく、好ましくは部分的に液体又は溶融形態でさえない。一般に、ポリアクリロニトリルの熱分解前又は分解中に、ポリアクリロニトリルの溶融は本質的に起こらないか、又はかなりの程度まで起こらない。本発明による方法の実施中に溶融するポリアクリロニトリルの割合は、使用されるポリアクリロニトリル全体の総重量に基づいて、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。好ましくは、固体形態で存在するポリアクリロニトリルは、350℃以上の温度に加熱することによって分解され、ここで使用されるポリアクリロニトリルの総重量に基づいて、10重量%以下、特に5重量%以下のポリアクリロニトリルが溶融する。特に好ましくは、固体形態で存在するポリアクリロニトリルは、分解前又は分解中にポリアクリロニトリルが溶融物の形態で存在しないで、350℃以上に加熱して分解する。最も好ましくは、ポリアクリロニトリルは分解前又は分解中に溶融しない。同様に最も好ましくは、本発明による方法の実施中にポリアクリロニトリルが全く溶融しない。この分解挙動は熱重量分析(TGA)により確認できる。
【0040】
ポリアクリロニトリルは、炭化が始まる時点で、使用したポリアクリロニトリル(熱重量分析(TGA)による測定)に基づいて、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上、最も好ましくは60重量%以上の程度で分解される。
【0041】
本発明によるCVD法による炭化では、ポリアクリロニトリルから形成された気体の炭素前駆体が分解され、シリコン粒子が炭素で被覆されることにより、炭素被覆シリコン粒子が得られる。通例、気体の炭素前駆体は、炭素の堆積を伴ってシリコン粒子の高温表面で分解する。
【0042】
ポリアクリロニトリルの熱分解、及びポリアクリロニトリルから生成する気体の炭素前駆体の炭化は、時間的に連続的に、又は好ましくは同時に行われ得る。熱分解及び炭化は同時に行うことが好ましく、同じ炉又は反応器で行うことが好ましい。
【0043】
炭化は好ましくは500超~1400℃、特に好ましくは700~1200℃、最も好ましくは900~1100℃の温度で行う。有利には、炭化は低温で行われることもできる。炭化温度は熱重量分析(TGA)により決定できる。炭化温度はポリアクリロニトリルの熱分解の温度以上が好ましい。
【0044】
加熱速度は好ましくは毎分1~1000℃、特に好ましくは毎分1~100℃、最も好ましくは毎分1~10℃の範囲である。加熱速度は単位時間当たりの温度上昇を示す。別の実施形態では、加熱速度は、好ましくは毎分1~20℃、特に好ましくは毎分1~15℃、最も好ましくは毎分1~10℃の範囲である。さらに別の実施形態では、加熱速度は、好ましくは毎分10~1000℃、特に好ましくは毎分20~500℃、最も好ましくは毎分50~100℃の範囲である。
【0045】
さらに、異なる加熱速度又は加熱速度を用いずに間隔を用いる段階的方法も可能である。加熱速度を用いない間隔は、反応混合物を一定時間ある温度又は温度範囲内に保持することが好ましい。加熱速度を用いない間隔は、例えば、30分~24時間、好ましくは1~10時間、特に好ましくは2~4時間持続するのが有利である。500~1200℃、特に好ましくは700~1100℃、最も好ましくは900~1000℃の範囲の温度の、加熱速度を用いない間隔が好ましい。炭化温度未満では、加熱速度を用いない間隔でないことが好ましい。冷却は、能動的に又は受動的に、着実に、又は段階的に行うことができる。
【0046】
熱分解及び/又は炭化の持続時間は、例えば、これに選択される温度及びシリコン粒子上の炭素被膜の所望の層厚によって導かれる。好ましい熱分解及び/又は炭化は、30分~24時間、好ましくは1~10時間、特に好ましくは2~4時間持続する。この方法は、0.5~2barの圧力で行うことが好ましい。
【0047】
熱分解及び/又は炭化は、例えば、管状炉、仮焼炉、ロータリーキルン、ベルト炉、チャンバー炉、レトルト炉又は流動床反応器のような従来の炉で行うことができる。加熱は、対流又は誘導によって、マイクロ波又はプラズマによって行うことができる。炭化は熱分解も行われる同じ装置で行うことが好ましい。
【0048】
熱分解及び/又は炭化は、反応混合物の連続混合、又は好ましくは静的、すなわち混合せずに行うことができる。
【0049】
固体形態で存在する成分は、流動化されないことが好ましい。これにより、技術的な複雑さが減少する。
【0050】
乾燥混合物の調製、熱分解及び/又は炭化は、好気的又は好ましくは嫌気的条件下で行われ得る。特に、熱分解及び/又は炭化は、嫌気性条件下で行うことが好ましい。窒素又は好ましくはアルゴン雰囲気のような不活性ガス雰囲気が特に好ましい。不活性ガス雰囲気は、任意にさらに、水素のような還元ガスの割合を含むこともできる。不活性ガス雰囲気は、反応媒体の上で静的であってもよいし、ガス流の形態で反応混合物上を流れてもよい。
【0051】
シリコン粒子は、単一の被覆手順において炭素で被覆されることが好ましい。炭素被覆シリコン粒子には、さらなる炭素被覆処理を施さないことが好ましい。
【0052】
本発明により得られた炭素被覆シリコン粒子は、例えば電極材料の製造、そのさらなる使用のために、直接送ることができ、又は代替的に、分級技術(ふるい分け(sieving、sifting)により過大又は過小サイズを除外することができる。機械的な後処理又は分級、特に粉砕は行わないことが好ましい。
【0053】
炭素被覆シリコン粒子は、単離された粒子又は緩い弱凝集体の形態であることが好ましいが、炭素被覆シリコン粒子の強凝集体の形態ではない。弱凝集体は複数の炭素被覆シリコン粒子のクラスターである。強凝集体は炭素被覆シリコン粒子の集合体である。弱凝集体は、例えば、混練法又は分散法を用いて、個々の炭素被覆シリコン粒子に分離することができる。炭素被覆シリコン粒子を破壊せずに、強凝集体をこの方法で個々の粒子に分離することはできない。しかし、これは、本発明による方法において、強凝集した炭素被覆シリコン粒子が少量で形成される個々の場合を除外しない。
【0054】
強凝集体の形態の炭素被覆シリコン粒子の存在は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて可視化することができる。未被覆シリコン粒子のSEM画像及びTEM画像を炭素被覆シリコン粒子の対応する画像と比較することは、この目的に特に適している。粒径分布又は粒径のみを決定するための静的光散乱法は、強凝集体の存在を確かめるのに適していない。しかし、炭素被覆シリコン粒子が測定精度の範囲内においてそれらの製造のために用いたシリコン粒子の粒径よりも著しく大きい粒径を有する場合、このことは強凝集した炭素被覆シリコン粒子の存在を示すことになる。前記の決定法は、特に組み合わせて用いることが好ましい。
【0055】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下の強凝集度を示す。強凝集の程度はふるい分析によって決定される。強凝集の程度は、エタノール中で超音波との同時処理による分散後、分析されるそれぞれの粒子組成物の体積加重粒径分布のd90値の2倍のメッシュサイズを有する篩を通過しない粒子、特にメッシュサイズが20μmを有する篩を通過しない粒子の割合に対応する。
【0056】
炭素被覆シリコン粒子及び出発材料として用いたシリコン粒子の体積加重粒径分布d50から形成された相違も、炭素被覆シリコン粒子が強凝集していないことを示す指標である。炭素被覆シリコン粒子の体積加重粒径分布d50、及び炭素被覆シリコン粒子の製造の出発物質として使用されるシリコン粒子の体積加重粒径分布d50から形成される差は、好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。
【0057】
炭素被覆シリコン粒子は、直径パーセンタイルd50が好ましくは2μm以上、特に好ましくは3μm以上、最も好ましくは4μm以上の体積加重粒径分布を有する。炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは10μm以下、特に好ましくは8μm以下、最も好ましくは6μm以下のd50値を有する。
【0058】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくはd90≦40μm、特に好ましくはd90≦30μm、非常に特に好ましくはd90≦10μmの値を有する体積加重粒径分布を有する。
【0059】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくはd10≧0.5μm、特に好ましくはd10≧1μm、最も好ましくはd10≧1.5μmを有する体積加重粒径分布を有する。
【0060】
炭素被覆シリコン粒子の粒径分布は、二峰性又は多峰性であり得、好ましくは単峰性であり、特に好ましくは狭い。炭素被覆シリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下の幅(d90-d10)/d50を有する。
【0061】
炭素被覆シリコン粒子の体積加重粒径分布を、堀場製作所製 LA950測定器のMieモデルを使用し炭素被覆シリコン粒子の分散媒としてのエタノールを用いた静的レーザー散乱によって決定した。
【0062】
炭素被覆シリコン粒子の炭素被膜は、好ましくは1~100nmの範囲、特に好ましくは150nmの平均層厚を有する(測定法:走査型電子顕微鏡(SEM)及び/又は透過型電子顕微鏡(TEM))。
【0063】
炭素被覆シリコン粒子は、典型的には、好ましくは0.1~10m2/g、特に好ましくは0.3~8m2/g、最も好ましくは0.5~5mm2/gのBET比表面積を有する(窒素を用いるDIN ISO9277:2003-05に従って決定)。
【0064】
炭素被膜は多孔性であってもよいが、好ましくは非多孔性である。炭素被膜は、好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下の多孔度を有する(全多孔度の決定法:1-[見かけの密度(DIN51901に従ったキシレンピクノメトリー法により決定)及び骨格密度(DIN66137-2に従ったHeピクノメトリー法により決定)]の商)。
【0065】
炭素被覆シリコン粒子の炭素被膜は、好ましくは、水性又は有機溶媒又は溶液、特に水性又は有機電解質、酸又はアルカリなどの液体媒体に対して不透過性である。
【0066】
一般に、シリコン粒子は細孔内にはない。炭素被膜は一般に直接、シリコン粒子の表面上にある。
【0067】
炭素被膜は、一般にフィルムの形態であり、又は一般に粒状又は繊維状ではない。一般に、炭素被膜には、炭素繊維又はグラファイト粒子などの粒子又は繊維は一切含まれていない。
【0068】
炭素被覆シリコン粒子では、シリコン粒子は一部又は好ましくは完全に炭素中に埋め込まれる。炭素被覆シリコン粒子の表面は、部分的又は好ましくは完全に炭素からなる。
【0069】
炭素は、非晶質形態で存在してもよく、又は好ましくは部分的又は完全に結晶形態で炭素被膜中に存在してもよい。
【0070】
一般に、各炭素被覆シリコン粒子はシリコン粒子を含む(測定法:走査型電子顕微鏡(SEM)及び/又は透過型電子顕微鏡(TEM))。
【0071】
炭素被覆シリコン粒子は、任意の所望の形状をとることができ、好ましくは多片状である。
【0072】
炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは0.1重量%~8重量%、より好ましくは0.2重量%~5重量%、さらにより好ましくは0.3重量%~3重量%、特に好ましくは0.5重量%~1重量%の炭素を含む。炭素被覆シリコン粒子は、好ましくは92重量%~99.9重量%、より好ましくは93重量%~99重量%、さらにより好ましくは95重量%~99重量%、特に好ましくは96重量%~99重量%のシリコン粒子を含む。重量%で示した上記の数字は、いずれの場合も炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づく。
【0073】
炭素被覆シリコン粒子は、炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいて、好ましくは0重量%~5重量%、特に好ましくは0.1重量%~3重量%、最も好ましくは0.1重量%~1重量%の窒素含有率を有する(決定法:元素分析)。窒素は、本明細書では複素環の形態で化学的に結合して存在することが好ましく、例えば、ピリジン単位又はピロール単位(N)として存在する。これはリチウムイオン電池のサイクル安定性にも有利である。
【0074】
炭素被膜は、例えば、5重量%以下、好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下の酸素含有率を有することができる。また、上記の主成分と同様に、さらなる化学元素が存在することも可能であり、例えば、Li、Fe、Al、Cu、Ca、K、Na、S、Cl、Zr、Ti、Pt、Ni、Cr、Sn、Mg、Ag、Co、Zn、B、P、Sb、Pb、Ge、Bi、希土類などの制御された添加又は同時の不純物の形態で存在することができ、その含有率は、好ましくは、1重量%以下、特に好ましくは100ppm以下である。重量%で示した上記の数字は、いずれの場合も炭素被膜の総重量に基づく。
【0075】
また、炭素被覆シリコン粒子は、1種以上の導電性添加剤、例えば、グラファイト、導電性カーボンブラック、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット、カーボンナノチューブ、炭素繊維又は銅などの金属粒子を含有していてもよい。炭素被覆シリコン粒子は、炭素被覆シリコン粒子の総重量に基づいて、好ましくは10重量%以下、特に好ましくは1重量%以下の導電性添加剤を含む。最も好ましくは、導電性添加剤は存在しない。
【0076】
炭素被覆シリコン粒子は、例えば、リチウムイオン電池のアノード材料の活物質として適している。
【0077】
本発明は、さらに、本発明の方法により得られた炭素被覆シリコン粒子を、リチウムイオン電池用のアノードの製造におけるアノード活性材料として用いることにより、リチウムイオン電池の製造方法を提供する。リチウムイオン電池は、一般に、カソード、アノード、セパレータ、及び電解質を含む。
【0078】
好ましくは、カソード、アノード、セパレータ、電解質及び/又は電池ハウジングに位置する別のリザーバは、硝酸塩(NO3
-)、亜硝酸塩(NO2
-)、アジド(N3
-)、リン酸塩(PO4
3-)、炭酸塩(CO3
2-)、ホウ酸塩及びフッ化物(F-)のアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウム塩を含む群から選択される1種以上の無機塩を含む。無機塩は特に電解質中及び/又は特にアノードに存在することが好ましい。特に好ましい無機塩は、硝酸塩(NO3
-)、亜硝酸塩(NO2
-)、アジド(N3
-)のアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウム塩であり、硝酸リチウム及び亜硝酸リチウムが最も好ましい。
【0079】
電解質中の無機塩の濃度は、好ましくは0.01~2モル、特に好ましくは0.01~1モル、さらにより好ましくは0.02~0.5モル、最も好ましくは0.03~0.3モルである。アノード、カソード及び/又はセパレータ、特にアンード中の無機塩の充填量は、いずれの場合もアノード、カソード及び/又はセパレータの表面積に基づいて、好ましくは0.01~5.0mg/cm2、特に好ましくは0.02~2.0mg/cm2、最も好ましくは0.1~1.5mg/cm2である。
【0080】
アノード、カソード又はセパレータは、好ましくは0.8重量%~60重量%、特に好ましくは1重量%~40重量%、最も好ましくは4重量%~20重量%の無機塩を含む。アノードの場合、これらの数字はアノード被膜の乾燥重量に関係し、カソードの場合、それらはカソード被膜の乾燥重量に関係し、セパレータの場合、それらはセパレータの乾燥重量に関係する。
【0081】
フル充電させたリチウムイオン電池のアノード材料は、部分的にのみリチウム化されていることが好ましい。したがって、アノード材料、特に本発明の炭素被覆シリコン粒子は、フル充電させたリチウムイオン電池内で部分的にのみリチウム化されることが好ましい。「フル充電させた」とは、電池のアノード材料がリチウムの最も高い充填量を有する電池の状態を指す。アノード材料の部分リチウム化は、アノード材料中のシリコン粒子の最大リチウム吸収容量が消耗していないことを意味する。シリコン粒子の最大リチウム吸収容量は一般に式Li4.4Siに相当し、したがってシリコン原子当たり4.4個のリチウム原子である。これはシリコン1g当たり4200mAhの最大比容量に相当する。
【0082】
リチウムイオン電池のアノード中のシリコン原子に対するリチウム原子の比率(Li/Si比)は、例えば、電荷の流れにより調節することができる。アノード材料又はアノード材料中に存在するシリコン粒子のリチウム化の程度は、流れた電荷に比例する。この変形例では、リチウムイオン電池の充電の過程で、リチウムのためのアノード材料の容量が完全に消耗されることはない。この結果、アノードの部分的なリチウム化が起こる。
【0083】
代替の好ましい変形例では、リチウムイオン電池のLi/Si比はセルバランスによって調整される。この場合、リチウムイオン電池は、アノードのリチウム吸収容量が好ましくはカソードのリチウム放出容量より大きいように設計される。これの効果は、フル充電された電池では、アノードのリチウム吸収容量が完全に消耗されないことであり、このことはアノード材料が部分的にだけリチウム化されていることを意味する。
【0084】
本発明の部分的リチウム化の場合、リチウムイオン電池のフル充電状態におけるアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは2.2以下、特に好ましくは1.98以下であり、最も好ましくは1.76以下である。リチウムイオン電池のフル充電状態におけるアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは0.22以上、特に好ましくは0.44以上、最も好ましくは0.66以上である。
【0085】
リチウムイオン電池のアノード材料中のシリコンの容量は、シリコン1g当たり4200mAhの容量に基づいて、50%以下の範囲で、特に好ましくは45%以下の範囲で、最も好ましくは40%以下の範囲で利用されることが好ましい。
【0086】
シリコンのリチウム化の程度又はリチウムのためのシリコンの容量の利用(Si容量利用率α)は、例えば、WO1702534611頁4行~12頁25行に記載されているように、特にSi容量利用率αのためのその中の式及び「Bestimmung der Delithiierungs-Kapazitaet β」[Determination of delithiation capacity β]及び「Bestimmung des Si-Gewichtsanteils ωSi」[Determination of the proportion by weight of Si ωSi](参照により援用される)の見出しの下の補足情報を用いて決定することができる。
【0087】
リチウムイオン電池における本発明に従って製造された炭素被覆シリコン粒子の使用は、驚くべきことに、そのサイクル挙動の改善につながる。このようなリチウムイオン電池は、最初の充電サイクルにおいて容量の小さな不可逆的損失、及びその後のサイクルにおいて僅かな劣化のみで安定な電気化学挙動を有する。このように、本発明の炭素被覆シリコン粒子は、容量の小さな初期損失を達成し、さらにリチウムイオン電池の容量の小さな連続的損失を達成することができる。全体として、本発明のリチウムイオン電池は非常に良好な安定性を有する。これは、多数のサイクルの場合であっても、例えば、本発明のアノード材料又はSEIの機械的破壊の結果として、ほとんど疲労現象が起きないことを意味する。
【0088】
これらの効果は、硝酸リチウムなどの無機塩を電解質に加えることによってさらに高めることができる。
【0089】
本発明による方法では、炭素は高い選択性でシリコン粒子上に堆積されることが有利である。純粋な炭素粒子又は炭素繊維は、より少ない程度で副産物として形成される。これは収率を増加させ、炭素被覆シリコン粒子から炭素粒子を分離するのに必要な労力も軽減する。好ましくは、ポリアクリロニトリルから形成された気体の炭素前駆体の総重量に基づいて、50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上、最も好ましくは70重量%以上の炭素がシリコン粒子上に堆積される(決定方法:元素分析)。炭素被膜は本明細書では共有結合によりシリコン粒子に有利に付着する。
【0090】
熱分解及び/又は炭化も静的に、すなわち、反応混合物の流動化、撹拌又は他の一定の混合なしに行うことができるので、本方法は技術的に簡単な方法で構成することができる。特別な設備はなしで済ますことができる。このことは全て非常に有利であり、特に方法の規模を拡大する場合、非常に有利である。さらに、従来のCVD法と比較して、エチレンなどの炭素含有ガスを取り扱う必要がなく、したがって安全性要件が低いため、本方法は取り扱いがより容易である。全体として、本発明の方法は、乾燥混合物の製造もまた、出発材料の単なる混合であり、したがって溶媒、又は噴霧乾燥などの他の慣用の乾燥工程は不要であるので、安価に行うことができる。
【0091】
ポリアクリロニトリルの溶融のための保持段階をなしで済ますことにより、所要時間を短縮し、時空収率を高め、さらにエネルギーを節約することができる。
【0092】
驚くべきことに、本発明により製造された炭素被覆シリコン粒子は、前述の有利なサイクル挙動に加えて、高い容積エネルギー密度も有するリチウムイオン電池を得るために使用することができる。
【0093】
また、本発明により製造された炭素被覆シリコン粒子は、有利には、高い導電率、及び例えば、有機溶媒、酸又はアルカリのような腐食媒体に対して高い耐性を有する。リチウムイオン電池のセルの内部抵抗も、本発明による炭素被覆シリコン粒子を用いて減少させることができる。
【0094】
さらに、本発明により製造された炭素被覆シリコン粒子は、水中、特にリチウムイオン電池のアノード用の水性インク配合物中で驚くほど安定であり、このことは従来のシリコン粒子を用いたこのような条件下で起こる水素の発生を減少させることができることを意味する。これにより、水性配合物を発泡させない処理、安定した電極スラリーの供給、及び特に均質で気泡のないアノードの製造が可能となる。対照的に、本発明による方法で出発材料として使用されたシリコン粒子は、水中に比較的大量の水素を放出する。
【0095】
例えば、溶媒を用いて炭素でシリコン粒子を被覆する場合、又は本発明に従わない乾燥方法又は本発明に従わないCVD法を用いる場合に得られるように、強凝集した炭素被覆シリコン粒子では、このような有利な効果は達成できないか、又は本発明に従う程度まで達成できない。
【実施例】
【0096】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するのに役立つ。
【0097】
特に記載のない限り、以下の(比較例)実施例を周囲圧力(1013mbar)及び室温(23℃)の空気中で実施した。以下の方法及び材料を用いた。
【0098】
<炭化>
N型試料熱電対を備えるカスケード制御を用いてCarbolite GmbH製の1200℃の3ゾーン管状炉(TFZ 12/65/550/E301)で炭化を行った。記載されている温度は、熱電対の設置場所の管状炉の内部温度に基づいている。いずれの場合も炭化すべき出発材料を、石英ガラス(QCS GmbH)で作られた1つ以上の燃焼ボートに秤量し、石英ガラスで作られた作業管に導入した。炭化に使用される構成及び方法のパラメータをそれぞれの例で報告する。
【0099】
<CVD反応器>
Carbolite GmbH社製の使用した1000℃CVD反応器(HTR 11/150)は、セラミックライニングを有する電気加熱されたロータリーキルン(その中の温度が制御される)内に存在する石英ガラスドラムからなる。反応ゾーンに沿った加熱速度は10~20K/分であり、加熱したドラムは反応ゾーン内で均一の温度分布を有する。記載されている温度は、熱電対の設置場所のドラムの目標内部温度に基づいている。
【0100】
ガラスドラムは、炉蓋を閉じた状態で周囲空気と断熱される。方法の間、ガラスドラムを回転させ(315°、振動数6~8/分)、壁に膨らみがあり、粉末の追加混合を確実にする。気体の導管は石英ガラスドラムに接続される。バイパスを介して、サーモスタットで温度を制御したバブラー容器のスイッチを、前駆体蒸気の発生のために入れることが可能である。生成された副産物及び排出ガスを反対側のオフガス管に吸い出す。化学気相成長に用いる構成及び方法のパラメータは、使用する前駆体によって異なる。
【0101】
<分級/ふるい分け>
炭化又は化学気相成長後に得たC被覆Si粉末を、AS200基本ふるい分け機(Retsch GmbH)でステンレス鋼ふるい上の水で湿式ふるい分けすることにより、20μmを超える過大サイズを除外した。粉砕製品を超音波(Hielscher UIS250V、振幅80%、サイクル:0.75、持続時間:30分)によりエタノール中に分散(固形分率20%)させ、ふるい(20μm)付きふるいタワーに適用した。ふるい分けは、無限の時間事前選択及び50~70%の振幅で、水流を通過させて行った。底部から出たシリコン含有懸濁液を200nmナイロン膜で濾過し、フィルター残渣を100℃、50~80mbarの真空乾燥キャビネット内で恒量になるまで乾燥させた。
【0102】
得られたC被覆Si粒子の特性決定には以下の分析法及び設備を用いた。
【0103】
<走査型電子顕微鏡(SEM/EDX)>
Zeiss Ultra 55走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型INCAクロスサイトX線分光計で、顕微鏡分析を行った。分析の前に、試料を、帯電現象の防止のためにBaltec SCD500スパッター/炭素被覆ユニットを用いて炭素の蒸着に供した。
【0104】
<透過型電子顕微鏡(TEM)>
Zeiss Libra 120透過型電子顕微鏡で層の厚さ及び炭素配置の解析を行った。試料は、樹脂マトリックスに埋め込んだ後、ミクロトーム切片、又は粉末から直接調製した。これは各試料のスパチュラ先端を超音波でイソプロパノール約2mlに分散させ、銅格子に等することによって行った。これを100℃で約1分間ホットプレート上で両側を乾燥させた。
【0105】
<無機分析/元素分析>
実施例で報告したC含有量をLeco CS 230分析器で確認し、O及びN含有量の決定にはLeco TCH―600分析器を用いた。得られた炭素被覆シリコン粒子中の他の元素の定性的及び定量的測定をICP(誘導結合プラズマ)発光分析法(Optima 7300 DV,Perkin Elmer製)により行った。この目的のため、試料をマイクロ波(マイクロ波3000、Anton Paar製)で酸蒸解(HF/HNO3)した。ICP-OESによる測定はISO11885「水質-誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)による選択された元素の測定」(「Water qulity - Determination of selected elements by inductively coupled plasma optical emission spectrometry(ICP-OES)(ISO11885:2007);ドイツ版EN ISO11885:2009)」)に準拠しており、これは酸性水溶液(例えば、酸性化飲料水、廃水及び他の水試料、土壌及び堆積物の王水抽出物)の分析に用いる。
【0106】
<粒径決定>
粒径分布は堀場製作所 LA950による静的レーザー散乱によってISO13320に従って決定した。試料の調製においては、個々の粒子ではなく弱凝集体のサイズを測定しないように、測定溶液中の粒子の分散に特に注意しなければならない。分析する粒子をエタノール中に分散させた。この目的のために、測定前に、必要に応じて、LS24d5ソノトロードを用いたHielscherモデルUIS250vの超音波実験機器で4分間250Wで超音波処理した。
【0107】
<C被覆Si粒子の強凝集度の測定>
決定はふるい分析により行う。強凝集度は、超音波を用いる同時処理によるエタノール中での分散後に、分析されるそれぞれの粒子組成物の体積加重粒径分布のd90値の2倍のメッシュサイズを有するふるいを通過しない粒子のパーセンテージに対応する。
【0108】
<BET比表面積測定>
材料の比表面積は、DIN ISO9277:2003-05に従ったBET法により、Sorptomatic 199090機器(Porotec社)又はSA-9603MP機器(堀場製作所)を用いて窒素によるガス吸着を介して測定した。
【0109】
<Siタイトネス(tightness)>
液体媒体のためのSi接近容易性
液体媒体用C被覆Si粒子中のシリコンの利用性の決定を、既知のシリコン含量(元素分析から)を有する材料について以下の試験法により行った。
【0110】
C被覆シリコン0.5~0.6gを、まずNaOH(4M、H2O)とエタノールとの(1:1 vol.)混合物20mlに超音波を用いて分散させ、次に40℃で120分間撹拌した。粒子を200nmナイロン膜に通して濾過し、水でpH中性まで洗浄し、次いで乾燥キャビネット中で100℃/50~80mbarで乾燥させた。NaOH処理後のシリコン含有率を決定し、試験前のSi含有率と比較した。タイトネスはアルカリ処理後のパーセントで表される試料のSi含有率及び未処理C被覆粒子のパーセントで表されるSi含有率の商に相当する。
【0111】
<粉末の導電性の測定>
C被覆試料の比抵抗を、圧力チャンバー(ダイ半径6mm)及び油圧ユニット(米国Caver製、モデル3851CE-9、S/N:130306)からなる、Keithley, 2602 System Source Meter ID266404の測定システムにおいて、制御された圧力(最大60MPa)下で決定した。
【0112】
[実施例1(Ex1)]
粉砕によるシリコン粒子の製造
流動床ジェットミル(7barで90m3/時の窒素を粉砕気体とするNetzsch-Condux CGS16)を用いて、ポリシリコンの製造からの粗大なSiチップを粉砕した。
【0113】
こうして得られたシリコン粒子は、
図1のSEM画像(7500×倍率)に示すように、個々の、非強凝集チップ状の粒子の形態であった。
【0114】
元素組成:Si≧98重量%、C0.01重量%、H<0.01重量%、N<0.01重量%、O0.47重量%。
粒度分布:単峰性;D10:2.19μm、D50:4.16μm、D90:6.78μm、(D90-D10)/D50=1.10、(D90-D10)=4.6μm。
比表面積(BET):2.662m2/g。
Siタイトネス:0%
粉末の導電率:2.15μS/cm
【0115】
[実施例2(Ex2)]
ポリアクリロニトリル(PAN)からの気相コーティングによるシリコン粒子のC被覆:
実施例1のシリコン粒子(Si)80.00g及びポリアクリロニトリル(PAN)20.00gをボールミルローラーベッド(Siemens/Groschopp)を用いて80rpmで3時間機械的に混合した。こうして得られたSi/PAN混合物99.00gを石英ガラスボート(QCS GmbH)に入れ、以下のパラメータを考慮して炭化した。
【0116】
不活性ガスとして窒素/H2、N2/H2流速200ml/分、以下の温度処理。
温度が1000℃に達するまで10℃/分の加熱速度、保持時間3時間。
【0117】
冷却後、87.00gの黒色粉末が得られ(炭化収率88%)、これを湿式ふるい分け法により過大サイズを除外した。20μm未満の粒径D99のC被覆Si粒子79.00gを得た。
【0118】
得られたC被覆Si粒子のSEM画像(7500×倍率)を
図2に、TEM画像(40000×倍率)を
図3に示す。
【0119】
元素組成:Si≧98重量%、C0.7重量%、H0.01重量%、N0.32重量%、O0.7重量%。
粒度分布:単峰性;D10:2.71μm、D50:4.57μm、D90:7.30μm、(D90-D10)/D50=1.00。
強凝集度:9%。
比表面積(BET):2.51m2/g。
Siタイトネス:約100%(不透過性)
粉末の導電率:70820.64μS/cm
【0120】
[比較例3(CEx.3)]
ポリアクリロニトリル(PAN)からの溶融コーティングによるシリコン粒子のC被覆
Si/PAN混合物が3ゾーン管状炉で以下の温度処理を受けたという相違がある他は、実施例2と同様である。
最初に、300℃の温度に達するまで10℃/分の加熱速度、保持時間90分、N2/H2流速200ml/分、
その後、1000℃の温度に達するまで10℃/分の加熱速度、保持時間3時間、N2/H2流速200ml/分。
【0121】
冷却後、92.12gの黒色粉末が得られ(炭化収率94%)、これを湿式ふるい分け法により過大サイズを除外した。20μm未満の粒径D99のC被覆Si粒子87.51gを得た。
【0122】
元素組成:Si≧98重量%、C0.5重量%、H<0.01重量%、N0.1重量%、O0.61重量%。
粒度分布:単峰性;D10:2.35μm、D50:4.51μm、D90:8.01μm、(D90-D10)/D50=1.26。
強凝集度:5%。
比表面積(BET):2.46m2/g。
Siタイトネス:約100%(不透過性)
粉末の導電率:50678.78μS/cm
【0123】
[比較例4(CEx.4)]
ポリアクリロニトリル(PAN)からの液体コーティングによるシリコン粒子のC被覆
ポリアクリロニトリル(PAN)20.00gを室温でジメチルホルムアミド(DMF)1332mlに溶解した。超音波(Hielscher UIS250V、振幅80%、サイクル:0.9、継続時間:30分)により、実施例1(D50=4.16μm)のシリコン粉末(Si)80.00gをPAN液に分散させた。得られた分散液を、B-290実験室噴霧乾燥機(BUECHI GmbH)を用いて、B-295不活性ループ及びB-296除湿器(BUECHI GmbH)(ノズル先端0.7mm、ノズルキャップ1.4mm、ノズル温度130℃、N2ガス流量30、吸引器100%、ポンプ20%)で噴霧乾燥させた。褐色粉末58.00gが得られた(収率58%)。こうして得られたSi/PAN粉末57.50gを3ゾーン管状炉に入れ、比較例3に記載された温度処理を施した。
【0124】
冷却後、47.15gの黒色粉末が得られ(炭化収率82%)、これを湿式ふるい分け法により過大サイズを除外した。20μm未満の粒径D99のC被覆Si粒子39.61gを得た。
【0125】
元素組成:Si≧98重量%、C0.4重量%、N0.17重量%、O0.73重量%。
粒度分布:単峰性;D10:3.69μm、D50:6.98μm、D90:11.12μm、(D90-D10)/D50=1.06。
強凝集度:16%。
比表面積(BET):2.13m2/g。
Siタイトネス:約100%
粉末の導電率:56714.85μS/cm
【0126】
[比較例5(CEx.5)]
ポリスチレン(PS)からの気相コーティングによるシリコン粒子のC被覆
ポリアクリロニトリルの代わりにポリスチレン(PS)を使用したという相違がある他は、実施例2と同様である。冷却後、80.00gの黒色粉末(炭化収率80%)を得、湿式ふるい分け法により過大サイズを除外した。20μm未満の粒径D99のC被覆Si粒子75.00gを得た。
【0127】
元素組成:Si≧98重量%、C0.22重量%、H<0.01重量%、N<0.01重量%、O0.39重量%。
粒度分布:単峰性;D10:2.73μm、D50:5.02μm、D90:8.29μm、(D90-D10)/D50=1.11。
強凝集度:6%。
比表面積(BET):1.547m2/g。
Siタイトネス:約86%
粉末の導電率: 4084.782μS/cm
【0128】
[比較例6(CEx.6)]
エテンからの気相コーティングによるシリコン粒子のC被覆
実施例1(D50=4.16μm)のシリコン粒子20.00gを室温でCarbolite GmbH製のCVD反応器(HTR11/150)のガラス管に移した。試料の導入に続いて、プロセスガス(10分間アルゴン3slm、3分間エテン及びH2それぞれ1slm、5分間アルゴン3slm)によるパージ手順を行った。20K/分の加熱速度で、反応ゾーンを900℃まで加熱した。パージング及び加熱の間でも、管を回転させ(振動数8/分で315°)、粉末を混合した。目標温度に到達すると、10分の保持時間が続いた。CVD被覆は反応時間30分間、総ガス流速3.6slmで、以下のガス組成で行った。
【0129】
2molのエテン、0.3slm、8.33体積%;アルゴン2.4slm、66.6体積7%;H2 0.9slm、26体積%。
【0130】
冷却後、15.00gの黒色粉末(収率75%)を得、湿式ふるい分け法により過大サイズを除外した。20μm未満の粒径D99のC被覆Si粒子14.50gを得た。
【0131】
得られたC被覆Si粒子のSEM画像(7500×倍率)を
図9に、TEM画像(20000×倍率)を
図10に示す。
【0132】
元素組成:Si≧94重量%、C2.54重量%、H<0.01重量%、N<0.01重量%、O0.10重量%。
粒度分布:単峰性;D10:2.79μm、D50:5.26μm、D90:8.77μm、(D90-D10)/D50=1.44。
強凝集度:3%。
比表面積(BET):2.1m2/g。
Siタイトネス:約100%(不透過性)
粉末の導電率:818267.37μS/cm
【0133】
[実施例7(Ex.7)]
実施例2のC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池における電気化学的試験
ポリアクリル酸の溶解が完了するまで、ポリアクリル酸29.71g(85℃で一定重量まで乾燥、Sigma-Aldrich、Mw約450000g/mol)及び脱イオン水756.60gをシェーカー(290L/分)を用いて2.5時間撹拌した。水酸化リチウム一水和物(Sigma-Aldrich)を、pHが7.0(WTWのpH340ipHメーター及びSenTix RJDプローブにより測定)となるまで、数回に分けてこの溶液に加えた。次に、この溶液をシェーカーによりさらに4時間混合した。
【0134】
次に実施例2の炭素被覆シリコン粒子7.00gを中和したポリアクリル酸溶液12.50g及び脱イオン水5.10gに20℃で冷却しながら4.5m/秒の円周速度で5分間、12m/sで30分間分散させた。グラファイト(Imerys、KS6L C)2.50gを加えた後、さらに30分間12m/sの円周速度で混合物を撹拌した。脱気後、厚さ0.03mmの銅箔(Schlenk Metallfolien、SE-Cu58)にギャップ高さ0.20mmでフィルムアプリケーター(Erichsen、model 360)によって分散液を塗布した。このようにして製造されたアノード被膜を、次に50℃及び1barの空気圧で60分間乾燥させた。
【0135】
乾燥アノード被膜の平均基本重量は3.01mg/cm2、被膜密度は1.0g/cm3であった。
【0136】
2電極配置のボタン型セル(CR2032型、Hohsen社)について電気化学的研究を行った。
【0137】
実施例7の電極被膜を対極又は負極(Dm=15mm)として使用し、含有率94.0%及び平均基準重量15.9mg/cm2(SEI社から供給された)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物6:2:2をベースとする被膜を作用極又は正極(Dm=15mm)として使用した。60μlの電解質を浸したガラス繊維濾紙(Whatman、GD Type A/E)をセパレータ(Dm=16mm)とした。使用した電解質は、フルオロエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの1:4(v/v)混合物中のヘキサフルオロリン酸リチウムの1.0モル溶液からなった。セルをグローブボックス(<1ppm H2O、O2)で構築し、使用した全ての成分の乾燥物中の水分含量は20ppm未満であった。
【0138】
電気化学的試験を20℃で行った。第1のサイクルで5mA/g(C/25に相当)及びその後のサイクルで60mA/g(C/2に相当)の定電流でcc/cv方法(定電流/定電圧)によりセルを充電し、電圧限界4.2Vに到達した時点で、電流が1.2mA/g(C/100に相当)又は15mA/g(C/8に相当)未満になるまで定電圧でセルを充電した。第1のサイクルで5mA/g(C/25に相当)及び電圧限界3.0Vに達するまでその後のサイクルで60mA/g(C/2に相当)の定電流でcc方法(定電流)によりセルを放電させた。選択した比電流は、正極の被膜の重量に基づいた。
【0139】
配合物をベースに、アノードの部分リチウム化を伴うセルバランスによりリチウムイオン電池を作動させた。
【0140】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0141】
[実施例8(Ex.8)]
実施例2のC被覆シリコン粒子を含むアノードと電極の硝酸リチウム含浸及びリチウムイオン電池における電気化学的試験
実施例7に記載したアノードを、実施例2の炭素被覆シリコン粒子を用いて製造した。アノードは次の手順によりLiNO3でさらに改質した。直径15mmの実施例7のアノードを、エタノールLiNO3溶液(エタノール1ml当たり21.7mg)30μlで湿らせた。次いで、含浸させたアノードを、乾燥キャビネット内で80℃で2時間乾燥させ、重量を決定した。アノードに塗布されるLiNO3の量を、重量差から計算し、被膜重量1mg当たりのLiNO3のmg(mg/mgcoating)で与えられ、0.08mg/gcoating(0.24mg/cm2
anode)であった。
【0142】
実施例7に記載のように含浸したアノードをリチウムイオン電池に設置し、同じ手順で試験に供した。
【0143】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0144】
[比較例9(CEx.9)]
比較例3のC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池における電気化学的試験
比較例3の炭素被覆シリコン粒子を用いた以外は、実施例7で上述したようにリチウムイオン電池を製造し、試験した。
【0145】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0146】
[比較例10(CEx.10)]
比較例4のC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池における電気化学的試験
比較例4の炭素被覆シリコン粒子を用いた以外は、実施例7で上述したようにリチウムイオン電池を製造し、試験した。
【0147】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0148】
[比較例11(CEx.11)]
比較例5のC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池における電気化学的試験
比較例5の炭素被覆シリコン粒子を用いた以外は、実施例7で上述したようにリチウムイオン電池を製造し、試験した。
【0149】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0150】
[比較例12(CEx.12)]
比較例6のC被覆シリコン粒子を含むアノード及びリチウムイオン電池における電気化学的試験
比較例6の炭素被覆シリコン粒子を用いた以外は、実施例7で上述したようにリチウムイオン電池を製造し、試験した。
【0151】
電気化学的試験の結果を表1にまとめた。
【0152】
【0153】
本発明による実施例7のリチウムイオン電池は、驚くべきことに、サイクル1後の放電容量が同等に高い比較例9、10、11及び12のリチウムイオン電池と比較して、より安定な電気化学的挙動を示した。
【0154】
本発明による実施例8の硝酸リチウムを加えたリチウムイオン電池は、驚くべきことに、さらに安定な電気化学的挙動を示した。