(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】混焼バーナ及びボイラ
(51)【国際特許分類】
F23C 1/00 20060101AFI20240527BHJP
F23D 14/22 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
F23C1/00 301
F23D14/22 C
(21)【出願番号】P 2023082864
(22)【出願日】2023-05-19
【審査請求日】2023-06-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591203118
【氏名又は名称】株式会社IHI汎用ボイラ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】安達 耕一
(72)【発明者】
【氏名】河岡 幸伸
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/037867(WO,A1)
【文献】特開2021-025713(JP,A)
【文献】実公平01-029396(JP,Y2)
【文献】特開平09-189407(JP,A)
【文献】特開2018-087694(JP,A)
【文献】特開2019-203631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23C 1/00 - 99/00
F23D 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の燃料を火炉内に噴射する第1の噴射孔と、
火炎伝搬速度が前記第1の燃料とは異なる第2の燃料を局所的に前記第1の燃料と混焼するように前記火炉内に噴射する第2の噴射孔とを備え、
酸化剤を前記第1の燃料と前記第2の燃料との混焼領域から外れた領域であって前記第1の燃料のみが噴射される領域に前記混焼領域よりも多く供給し、
前記第1の噴射孔及び前記第2の噴射孔は、前記第1の燃料と前記第2の燃料とが局所的に交差するように前記火炉内に噴射し、
前記第1の噴射孔は、円筒面の周方向に所定間隔で複数設けられ、
前記第2の噴射孔は、前記円筒面に直交する姿勢で前記円筒面の外周に設けられた保炎リングにおいて、周方向に所定間隔で複数設けられ、
前記保炎リングには、中心周りの所定角度範囲に切欠部が形成されており、
前記切欠部は、前記火炉における燃焼ガスの排出側に位置する混焼バーナ。
【請求項2】
前記第1の燃料は化石燃料ガスであり、
前記第2の燃料は水素ガスである請求項1に記載の混焼バーナ。
【請求項3】
請求項2に記載の混焼バーナが火炉に装着されてなるボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混焼バーナ及びボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、熱効率を低下させることなくNOxの発生を抑制することのできる強制貫流ボイラの提供を目的とした強制貫流バーナが開示されている。この強制貫流バーナは、特許文献1の請求項1等に記載されているように、炉壁が、鉛直かつ内外二重円筒状に排列された蒸発管により構成され、その炉室の上部中央にバーナが設けられる形式の強制貫流ボイラにおいて、空気過剰の燃焼ガスと燃料過剰の燃焼ガスを並列に噴射する非対称燃焼バーナであり、その空気過剰の燃焼ガスによる火炎が内外二重の蒸発管の間に燃焼ガスを導入するスリット側に形成されるよう取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記背景技術は、強制貫流ボイラの熱効率を低下させることなく燃焼ガスにおけるNOxの発生を抑制することができるものの、理論空気量と供給空気量の比(空気比)が低下するとNOxの発生量が増大する傾向がある。空気比が比較的低い燃焼領域でボイラを運転させようとした場合、空気比の低下に逆行してNOxの発生量が増大するという傾向は、解決すべき重要な技術課題である。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、空気比等の酸化剤比を低下させた際の窒素酸化物(NOx)の発生量の増大を抑制することが可能な混焼バーナ及びボイラの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、混焼バーナに係る第1の解決手段として、第1の燃料を火炉内に噴射する第1の噴射孔と、火炎伝搬速度が前記第1の燃料とは異なる第2の燃料を局所的に前記第1の燃料と混焼するように前記火炉内に噴射する第2の噴射孔とを備え、酸化剤を前記第1の燃料と前記第2の燃料との混焼領域から外れた領域に前記混焼領域よりも多く供給する、という手段を採用する。
【0007】
本発明では、混焼バーナに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記第1の噴射孔及び前記第2の噴射孔は、前記第1の燃料と前記第2の燃料とが局所的に交差するように前記火炉内に噴射する、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、混焼バーナに係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記第1の噴射孔は、円筒面の周方向に所定間隔で複数設けられ、前記第2の噴射孔は、前記円筒面に直交する姿勢で前記円筒面の外周に設けられた保炎リングにおいて、周方向に所定間隔で複数設けられる、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、混焼バーナに係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記保炎リングには、中心周りの所定角度範囲に切欠部が形成されており、前記切欠部は、前記火炉における燃焼ガスの排出側に位置する、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、混焼バーナに係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記第1の燃料は化石燃料ガスであり、前記第2の燃料は水素ガスである、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、ボイラに係る解決手段として、上記第5の解決手段に係る混焼バーナが火炉に装着されてなる、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、空気比等の酸化剤比を低下させた際の窒素酸化物(NOx)の発生量の増大を抑制することが可能な混焼バーナ及びボイラを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る貫流ボイラAの構成を示す側面図(a)及び正面図(b)である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る混焼バーナ2の構成を示す正面図(a)、下面図(b)及び部分拡大図(c)である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるボイラ缶体(火炉)の内部構成を示す横断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る混焼バーナ2の性能を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る貫流ボイラAは、
図1に示すように、ボイラ缶体1、混焼バーナ2及び燃料ガス受入部3を少なくとも備えている。ボイラ缶体1は、有底円筒状の中空体であり、中心軸方向が鉛直方向となる姿勢で基台上に固定されている。ボイラ缶体1の上部には混焼バーナ2が装着され、またボイラ缶体1の側部には燃料ガス受入部3が設けられている。
【0015】
このようなボイラ缶体1は、貫流ボイラAにおける火炉に相当する。すなわち、このボイラ缶体1における略円筒状かつ縦型の内空は、貫流ボイラAの燃焼室である。ボイラ缶体1の内空(燃焼室)には、
図3に示すように、側壁近傍部位に略円環状に配列するとともに縦方向に延在する複数の水管1a、1bが設けられている。
【0016】
これら複数の水管1a、1bは、
図3に示すように、ボイラ缶体1の中心軸周りに2重に配置されている。すなわち、円環状に配置された複数の水管1aは、同じく円環状に配置された複数の水管1bよりもボイラ缶体1の中心軸線に近い側に設けられた内側水管である。これに対して、円環状に配置された複数の水管1bは、同じく円環状に配置された複数の水管1aよりもボイラ缶体1の中心軸線から遠い側に設けられた外側水管である。
【0017】
複数の内側水管1a及び外側水管1bは、図示するように、周方向に隣り合うもの同士が相互に接続されている。また、周方向に接続された複数の内側水管1aは、周方向の特定箇所にスリット部Sが形成されている。このスリット部Sは、周方向に隣り内側水管1aが相互接続されていない部位であり、ボイラ缶体1の内空(燃焼室)で発生した燃焼ガスの排気流路を形成している。
【0018】
また、周方向に接続された複数の外側水管1bは、周方向の特定箇所にボイラ出口Eが形成されている。このボイラ出口Eは、周方向に隣り内側水管1aが相互接続されていない部位であり、ボイラ缶体1における燃焼ガスの排気口である。また、このボイラ出口Eは、周方向において上記スリット部Sとは異なる位置、例えば図示するようにスリット部Sから180度の角度だけ偏位した位置に設けられている。
【0019】
このようなボイラ缶体1では、混焼バーナ2から噴射された燃料が複数の水管1a、1bの内側において燃焼して燃焼ガスが発生する。この燃焼ガスは、スリット部Sを経由することにより複数の内側水管1aの外側つまり複数の外側水管1bの内側に回り込み、さらにボイラ出口Eを介して外部に排気される。すなわち、燃焼ガスは、全ての内側水管1aの内側及び外側を経由するとともに全ての外側水管1bの内側を経由した後に外部に排気される。
【0020】
ここで、本実施形態に係る貫流ボイラAは、図示するように、異なる2つの燃料つまり化石燃料ガス及び混焼燃料ガスを外部から取り込んで燃焼させる。すなわち、この貫流ボイラAは、化石燃料ガス及び混焼燃料ガスを混焼バーナ2から燃焼室に噴射することにより高温の燃焼ガスを発生され、当該燃焼ガスを熱源として複数の水管1a、1bに流通する水を気化させる。水の気化によって生成される水蒸気は、貫流ボイラAの最終生成物である。
【0021】
化石燃料ガス及び混焼燃料ガスのうち、化石燃料ガスは、本発明における第1の燃料であり、例えば都市ガスである。また、混焼燃料ガスは、本発明における第2の燃料であり、例えば水素ガスである。このような異なる2つの燃料は、燃焼時の火炎伝搬速度が異なっているという特徴を有する。
【0022】
すなわち、本実施形態における化石燃料ガス及び混焼燃料ガスは、火炎伝搬速度が異なる燃料の一例として選定されている。したがって、火炎伝搬速度が異なる燃料であれば、化石燃料ガス及び混焼燃料ガス以外の燃料を選定してもよい。なお、化石燃料ガスの火炎伝搬速度と混焼燃料ガスの火炎伝搬速度とが比較的大きく異なっていることは、様々な文献に記載されているように周知である。
【0023】
混焼バーナ2は、貫流ボイラAにおける最も特徴的な機構部品であり、ボイラ缶体1の上部において中心軸線上に装着されている。すなわち、この混焼バーナ2は、燃料をボイラ缶体1の内空(燃焼室)に噴射する先端部がボイラ缶体1の上部から所定距離だけ下がった位置にある。
【0024】
混焼バーナ2には、外部に開口する混焼燃料受入口2aが付帯的に設けられるとともに燃料ガス受入部3の一端が連結されている。混焼バーナ2は、燃料ガス受入部3から供給される化石燃料ガスG1と混焼燃料受入口2aに供給される混焼燃料ガスG2とを燃焼室に噴射するとともに化石燃料ガスG1及び混焼燃料ガスG2に対して酸化剤として機能する空気(燃焼用空気X)を燃焼室に噴射するとにより燃焼させる。
【0025】
このような混焼バーナ2は、
図2に示すような詳細構造を備える。すなわち、混焼バーナ2は、上述した混焼燃料受入口2aに加え、筐体2b、化石燃料供給管2c、筒体2d、複数の混焼燃料供給管2e及び保炎リング2fを備えている。
【0026】
筐体2bは、混焼燃料受入口2a、化石燃料供給管2c及び混焼燃料供給管2eを支持するとともにボイラ缶体1の上部に形成された上部開口に固定される金属部材である。筐体2bには、外部に混焼燃料受入口2aが固定され、外部から内部にかけて化石燃料供給管2c及び混焼燃料供給管2eが鉛直姿勢で固定されている。
【0027】
化石燃料供給管2cは、図示するように鉛直方向に延在する金属製の直管である。この化石燃料供給管2cの上端部(後端部)には、燃料ガス受入部3が接続されている。すなわち、この化石燃料供給管2cは、後端部に化石燃料供給管2cから供給される化石燃料ガスG1を下端に向けて流通させる。
【0028】
筒体2dは、このような化石燃料供給管2cの下端に設けられた金属製の中空部品である。この筒体2dは、有底円筒状に形成されるとともに中心軸線が鉛直方向となる姿勢で化石燃料供給管2cの下端に設けられている。このような筒体2dは、上端部が化石燃料供給管2cに連通しており、当該化石燃料供給管2cから化石燃料ガスG1が内部空間に流入する。
【0029】
また、筒体2dは、円板状の下端部が閉塞するとともに、図示するように円環状の周面部の周方向に所定間隔で複数の化石燃料ガスノズル2gが形成されている。これら複数の化石燃料ガスノズル2gは、筒体2dの周方向に略均等に化石燃料ガスG1を噴射する。このような化石燃料ガスノズル2gは、本発明における第1の噴射孔である。
【0030】
すなわち、複数の化石燃料ガスノズル2gは、第1の燃料である化石燃料ガスG1を火炉内つまりボイラ缶体1の内空(燃焼室)に噴射する。化石燃料供給管2cから筒体2dの上端部に流入する化石燃料ガスG1は、筒体2dの周面部に形成された複数の化石燃料ガスノズル2gを介してボイラ缶体1の内空(燃焼室)に噴射される。
【0031】
複数の混焼燃料供給管2eは、化石燃料供給管2c及び筒体2dの周囲に所定間隔を空けて設けられた金属製の直管である。複数の混焼燃料供給管2eは、各々の上端部(後端部)が混焼燃料受入口2aに接続されている。また、複数の混焼燃料供給管2eは、先端部の鉛直方向における位置が同一に設定されている。このような複数の混焼燃料供給管2eは、後端部に混焼燃料受入口2aから供給される混焼燃料ガスを下端に向けて流通させる。
【0032】
保炎リング2fは、このような混焼燃料供給管2eの下端を塞ぐように設けられた略リング状の金属部材である。この保炎リング2fは、片面(上面)が複数の混焼燃料供給管2eに直交する姿勢で当該混焼燃料供給管2eの下端部に接続されており、例えば中心がボイラ缶体1の中心軸線と同心である。このような保炎リング2fには、各々の混焼燃料供給管2eの先端部に合致する位置に混焼ガスノズル2hが設けられている。
【0033】
これら複数の混焼ガスノズル2hは、混焼燃料ガスG2を燃焼室内に噴射させるための開口であり、本発明における第2の噴射孔である。すなわち、複数の混焼ガスノズル2hは、化石燃料ガスG1(第1の燃料)とは火炎伝搬速度が異なる混焼燃料ガスG2(第2の燃料)を局所的に化石燃料ガスG1(第1の燃料)と混合するように火炉内つまりボイラ缶体1の内空(燃焼室)に噴射する。
【0034】
外部から受け入れた混焼燃料ガスG2は、混焼燃料受入口2aから複数の混焼燃料供給管2eの上端部に流入し、複数の混焼燃料供給管2eの内部を流通して保炎リング2fに供給される。この混焼燃料ガスG2は、保炎リング2fに形成された複数の混焼ガスノズル2hから燃焼室内に噴射される。
【0035】
また、略リング状の保炎リング2fには、切欠部Kが形成されている。この切欠部Kは、保炎リング2fの周方向に所定の角度範囲で母材が欠落する円弧状部位であり、
図3に示すようにボイラ缶体1のスリット部Sに対峙するように位置設定されている。この切欠部Kには、混焼燃料供給管2eの下端部が接続されておらず、当然に混焼ガスノズル2hが設けられていない。
【0036】
すなわち、複数の混焼ガスノズル2hは、切欠部Kを備える保炎リング2fに形成されているので、燃焼室の局所的な領域のみで混焼燃料ガスG2が化石燃料ガスG1と交差するように、換言すると混焼燃料ガスG2が燃焼室の局所的な領域のみで化石燃料ガスG1と混合するように燃焼室に噴射するものである。
【0037】
上記局所的な領域は、
図2(b)や
図3に示すように、ボイラ缶体1の中心軸線つまり筒体2dの中心軸線であり、また保炎リング2fの中心点の周りにおいて、所定の角度範囲に亘る保炎リング2fの存在領域である。この周りにおいて、保炎リング2fの切欠部Kでは混焼燃料ガスG2が噴射されることなく、専ら化石燃料ガスノズル2gから化石燃料ガスG1が噴射される。
【0038】
この切欠部Kは、
図2(b)や
図3に示すように、保炎リング2fの中心点の周りにおいて180°以下の角度範囲に設けられている。このような切欠部Kの角度範囲は、後述する窒素酸化物Noxの発生量等を考慮して適宜設定される。すなわち、切欠部Kの角度範囲は、
図2(b)や
図3に示す角度範囲よりも広くても良く、また狭くてもよい。
【0039】
なお、
図2において、符号2iは着火装置を示している。この着火装置2iは、燃焼室内に噴射された化石燃料ガスG1及び混焼燃料ガスG2を着火させるための装置であり、筐体2bによって支持されるとともに、筐体2bの内部を鉛直方向に延在する。このような着火装置2iは、燃焼室内に露出する下端部(先端部)から火花を発生させることにより、化石燃料ガスG1及び混焼燃料ガスG2を着火させる。
【0040】
燃料ガス受入部3は、
図1(a)に示すようにボイラ缶体1の側方に設けられている。この燃料ガス受入部3は、下端に化石燃料受入口3aが設けられ、上端が混焼バーナ2における化石燃料供給管2cの上端部に接続されている。このような燃料ガス受入部3は、化石燃料受入口3aで受け入れた化石燃料ガスG1を混焼バーナ2に供給する配管構造である。
【0041】
また、この混焼バーナ2では、
図2(a)に示すように、酸化剤である空気が保炎リング2fの切欠部Kを介して燃焼室に主に流入する。すなわち、保炎リング2fの切欠部Kは、空気(酸化剤)を燃焼室により多く供給するための空気流路を形成している。したがって、保炎リング2fの存在領域つまり化石燃料ガスG1と混焼燃料ガスG2とが混焼する局所的な領域(混焼領域)における空気量は、保炎リング2fの切欠部Kの領域つまり化石燃料ガスG1のみが噴射される領域における空気量よりも少ない。
【0042】
例えば、上記混焼領域における空気量は、化石燃料ガスG1及び混焼燃料ガスG2を完全燃焼させるための理論空気量未満の第1の量に設定される。これに対して、保炎リング2fの切欠部Kの領域における空気量は、上記第1の量よりも多い空気量に設定される。
【0043】
次に、第1実施形態に係る貫流ボイラA及び混焼バーナ2の動作及び作用・効果について
図4を参照して説明する。
【0044】
この貫流ボイラAでは、混焼バーナ2に設けられた化石燃料ガスノズル2gから化石燃料ガスG1が燃焼室に噴射されるとともにノズル2hから混焼燃料ガスG2が燃焼室に噴射される。また、この貫流ボイラAでは、保炎リング2fの切欠部Kの領域に燃焼用空気Xが主に供給される。そして、燃焼室において中心軸周りの保炎リング2fの存在領域(局所的な領域)では化石燃料ガスG1と混焼燃料ガスG2とが交差することにより混合して燃焼し、保炎リング2fにおける切欠部Kの領域では、化石燃料ガスG1のみが燃焼する。
【0045】
そして、局所的な領域における空気の供給量は保炎リング2fの切欠部Kの領域における空気の供給量よりも少ないので、
図2(a)に示すように、燃焼室内には燃料過剰の火炎F1と空気過剰の火炎F2とが形成される。すなわち、燃料過剰の火炎F1は、化石燃料ガスG1と混焼燃料ガスG2とが混焼することによって形成される火炎である。また、空気過剰の火炎F2は、化石燃料ガスG1が過剰な空気下で燃焼することによって形成される火炎である。
【0046】
図4は、このような貫流ボイラAの燃焼特性を示すグラフである。
図4(a)は、燃焼時の空気比つまり燃焼ガスに含まれる酸素濃度(O
2%)に応じた窒素酸化物Noxの発生量を示している。また、
図4(b)は、混焼燃料ガスG2(水素ガス)と化石燃料ガスG1(都市ガスの主成分であるメタン)との燃料特性(密度、爆発範囲、火炎温度及び火炎伝搬速度)を参考として示している。
【0047】
図4(a)では、貫流ボイラAにおいて化石燃料ガスG1と混焼燃料ガスG2との比率を80%対20%に設定した場合の窒素酸化物Noxの発生量の変化特性を示している。また、この
図4(a)では、参考例として、特許文献1の強制貫流ボイラつまり化石燃料ガスG1のみを燃焼させた場合における窒素酸化物Noxの発生量の変化特性を示している。
【0048】
この
図4(a)から分かるように、本実施形態に係る貫流ボイラAでは、空気比が1.17~1.75の範囲で変化しても窒素酸化物Noxの発生量が殆ど変化しない。これに対して、特許文献1の強制貫流ボイラでは、空気比が1.17~1.75の範囲において酸素濃度が低下する程に窒素酸化物Noxの発生量が増大する。
【0049】
このような本実施形態における素酸化物Noxの変化特性は、化石燃料ガスG1と混焼燃料ガスG2との火炎伝搬速度の差異に起因すると推測される。すなわち、火炎伝播速度が異なる2種類の燃料を燃焼させた場合、火炎伝播速度がより速い混焼燃料ガスG2が先行燃焼することにより火炎伝播速度がより遅い化石燃料ガスG1に供給される酸素が減少する。
【0050】
また、同時に火炎伝播速度がより速い混焼燃料ガスG2にも十分な酸素が供給されないことになり、混焼燃料ガスG2の燃焼反応が遅れる。これによって燃料過剰の火炎F1全体の温度の上昇が抑制されるので、燃焼ガス中における窒素酸化物Noxの発生量が低下する。
【0051】
また、空気過剰の火炎F2は、化石燃料ガスG1が過剰な空気下で燃焼することによって形成されるので、火炎温度が比較的低い。したがって、燃焼ガス中における窒素酸化物Noxの発生量が低い。
【0052】
このような本実施形態によれば、化石燃料ガスG1(第1の燃料)をボイラ缶体1(火炉)内に噴射する石燃料ガスノズル2g(第1の噴射孔)と、火炎伝搬速度が化石燃料ガスG1(第1の燃料)とは異なる混焼燃料ガスG2(第2の燃料)を局所的に化石燃料ガスG1(第1の燃料)と混焼するようにボイラ缶体1(火炉)内に噴射する混焼ガスノズル2h(第2の噴射孔)とを備え、燃焼用空気X(酸化剤)を化石燃料ガスG1(第1の燃料)と混焼燃料ガスG2(第2の燃料)との混焼領域から外れた領域に混焼領域よりも多く供給するので、空気比(酸化剤比)を低下させた際の窒素酸化物NOxの発生量の増大を抑制することが可能な混焼バーナ2及び貫流ボイラAを提供することが可能である。
【0053】
また、本実施形態によれば、石燃料ガスノズル2g(第1の噴射孔)及び混焼ガスノズル2h(第2の噴射孔)は、化石燃料ガスG1(第1の燃料)と混焼燃料ガスG2(第2の燃料)とが局所的に交差するようにボイラ缶体1(火炉)内に噴射するので、化石燃料ガスG1(第1の燃料)と混焼燃料ガスG2(第2の燃料)とを効果的に混焼させることができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、石燃料ガスノズル2g(第1の噴射孔)は、筒体2dにおける周面(円筒面)の周方向に所定間隔で複数設けられ、混焼ガスノズル2h(第2の噴射孔)は、筒体2dにおける周面(円筒面)に直交する姿勢で筒体2dにおける周面(円筒面)の外周に設けられた保炎リング2fにおいて、周方向に所定間隔で複数設けられるので、化石燃料ガスG1(第1の燃料)と混焼燃料ガスG2(第2の燃料)とを効果的に混焼させることができる。
【0055】
さらに、本実施形態によれば、保炎リング2fには、中心周りの所定角度範囲に切欠部Kが形成されており、この切欠部Kはボイラ缶体1(火炉)における燃焼ガスの排出側に位置するので、複数の水管1a、1b内を流通する水を効果的に加熱することができる。すなわち、本実施形態によれば、水蒸気の生成における熱効率が優れてた貫流ボイラAを提供することができる。
【0056】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記各実施形態では、火炎伝搬速度が異なる2つの燃料として化石燃料ガスG1(第1の燃料)と、当該化石燃料ガスG1(第1の燃料)よりも火炎伝搬速度が速い混焼燃料ガスG2(第2の燃料)を採用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第2の燃料として第1の燃料よりも火炎伝搬速度が遅い燃料を採用してもよい。
【0057】
(2)上記各実施形態では、本発明を貫流ボイラAに適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明に係る混焼バーナは貫流式以外の形式のボイラにも適用することが可能である。
【0058】
(3)上記各実施形態では、化石燃料ガスG1(第1の燃料)と混焼燃料ガスG2(第2の燃料)とを直交する方向に噴射することにより混合させたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、化石燃料ガスG1(第1の燃料)の噴射方向と混焼燃料ガスG2(第2の燃料)の噴射方向との関係は、最低限交差していればよく直交方向に限定されない。
【0059】
(4)上記各実施形態では、空気過剰の火炎F2を形成するための燃焼用空気Xの空気流路を保炎リング2fの切欠部Kによって形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、切欠部Kを設けることなく、保炎リング2fの切欠部Kに相当する部位に複数の噴射孔を空気流路として設けてもよい。この場合、複数の噴射孔から化石燃料ガスG1(第1の燃料)と燃焼用空気Xとが空気過剰状態で混合したガスが燃焼室に噴射されて空気過剰の火炎F2を形成する。
【符号の説明】
【0060】
A 貫流ボイラ
E ボイラ出口
F1 燃料過剰の火炎
F2 空気過剰の火炎
G1 化石燃料ガス(第1の燃料)
G2 混焼燃料ガス(第2の燃料)
K 切欠部
S スリット部
X 燃焼用空気(酸化剤)
1 ボイラ缶体
1a、1b 水管
2 混焼バーナ
2a 混焼燃料受入口
2b 筐体
2c 化石燃料供給管
2d 筒体
2e 混焼燃料供給管
2f 保炎リング
2g 石燃料ガスノズル(第1の噴射孔)
2h 混焼ガスノズル(第2の噴射孔)
3 燃料ガス受入部
【要約】
【課題】空気比等の酸化剤比を低下させた際の窒素酸化物(NOx)の発生量の増大を抑制することが可能な混焼バーナ及びボイラを提供する。
【解決手段】第1の燃料を火炉内に噴射する第1の噴射孔と、第1の燃料と当該第1の燃料とは火炎伝搬速度が異なる第2の燃料とを火炉内に噴射する第2の噴射孔とを備え、酸化剤を第1の燃料と第2の燃料との混焼領域から外れた領域に混焼領域よりも多く供給する。
【選択図】
図2