特許 7494394 波動歯車装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-05-24

(45)【発行日】2024-06-03

(54)【発明の名称】波動歯車装置

(51)【国際特許分類】

   F16H 1/32 20060101AFI20240527BHJP

【ＦＩ】

F16H1/32 B

【請求項の数】 1

(21)【出願番号】P 2023523826

(86)(22)【出願日】2021-05-26

(86)【国際出願番号】 JP2021020067

(87)【国際公開番号】W WO2022249355

(87)【国際公開日】2022-12-01

【審査請求日】2023-08-07

(73)【特許権者】

【識別番号】390040051

【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ

(74)【代理人】

【識別番号】100090170

【弁理士】

【氏名又は名称】横沢 志郎

(72)【発明者】

【氏名】松沢 幸太郎

(72)【発明者】

【氏名】平林 英樹

(72)【発明者】

【氏名】小林 修平

(72)【発明者】

【氏名】奥原 偉生

【審査官】角田 貴章

(56)【参考文献】

【文献】特開平９－２５０６１０（ＪＰ，Ａ）

【文献】国際公開第２０１５／００１５８２（ＷＯ，Ａ１）

【文献】特開２００５－２９１２３７（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｆ１６Ｈ １／３２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

剛性の内歯歯車と、
可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせ、前記内歯歯車に対する前記外歯歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記内歯歯車と前記外歯歯車とを相対回転可能な状態で支持する軸受と、
を備え、
前記内歯歯車は、前記軸受の内輪が一体形成されている内輪一体型の歯車であり、
前記内歯歯車は、前記軸受の内輪側軌道溝が形成された円形外周面と、内歯が形成された円形内周面と、ボルト穴が開口している円環状端面とを備え、
前記ボルト穴が、円周方向に沿って所定の間隔で配置され、前記円環状端面から軸線の方向に延びている波動歯車装置において、
前記内歯歯車の前記内歯は、前記内輪側軌道溝に対して、前記軸線の方向に沿って見た場合に、当該内歯の全体が、前記円環状端面の側にオフセットしており、
前記ボルト穴は、前記円環状端面に開口するボルト通し穴部と、当該ボルト通し穴部に連続して前記軸線の方向に延びるネジ穴部とを備えており、
前記ボルト穴の前記ネジ穴部は、前記内歯に対して、前記軸線の方向に沿って見た場合に、当該ネジ穴部の全体が、前記円環状端面とは反対側にオフセットしていることを特徴とする波動歯車装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、軸受によって剛性の内歯歯車と可撓性の外歯歯車とが相対回転可能な状態で支持された波動歯車装置に関し、更に詳しくは、軸受の内輪が内歯歯車に一体形成されている内輪一体型の内歯歯車を備えた波動歯車装置に関する。

【背景技術】

【0002】

軸受を備えた波動歯車装置においては、小型化、扁平化などの観点から、内歯歯車に軸受の内輪が一体形成された内輪一体型の内歯歯車（あるいは、内歯歯車一体型の内輪）が用いられる場合がある。内輪一体型の内歯歯車を備えた波動歯車装置は、例えば、特許文献１に記載されている。

【0003】

内輪一体型の内歯歯車では、その円形内周面に内歯が形成され、その円形外周面に軸受の内輪側の軌道溝が形成されている。また、内歯歯車には、その一方の円環状端面に開口するネジ穴が形成されており、ネジあるいはボルト締結によって、内歯歯車は、固定側部材（装置ハウジング）あるいは減速回転を出力する出力部材に取り付けられる。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0004】

【文献】特開平９－２９１９８３号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0005】

波動歯車装置の内輪一体型の内歯歯車において、取付け用のネジ穴の部分が内歯形成部分の近傍にあると、内歯歯車を他の部材にボルト（ネジ）で締結した際に内歯部分が変形し、外歯歯車とのかみ合い精度、組付け精度の悪化などの弊害が発生するおそれがある。

【0006】

本発明の目的は、この点に鑑みて、ボルト（ネジ）締結に起因する内歯部分の変形を抑制できるようにした内輪一体型の内歯歯車を備えた波動歯車装置を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0007】

本発明の波動歯車装置は、剛性の内歯歯車と、可撓性の外歯歯車と、外歯歯車を非円形に撓めて内歯歯車に部分的にかみ合わせ、内歯歯車に対する外歯歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、内歯歯車と外歯歯車とを相対回転可能な状態で支持する軸受とを備えている。内歯歯車は、軸受の内輪が一体形成されている内輪一体型の歯車である。内歯歯車は、軸受の内輪側軌道溝が形成された円形外周面と、内歯が形成された円形内周面と、ボルト穴が開口している円環状端面とを備えている。ボルト穴は、円周方向に沿って所定の間隔で配置され、軸線の方向に延びている。

【0008】

本発明の波動歯車装置の内輪一体型の内歯歯車において、その内歯は、内輪側軌道溝に対して、軸線の方向に沿って見た場合に、当該内歯の全体が、円環状端面の側にオフセットしている。また、内歯歯車に形成したボルト穴は、円環状端面に開口するボルト通し穴部と、当該ボルト通し穴部に連続して軸線の方向に延びるネジ穴部とを備えている。ボルト穴のネジ穴部は、内歯に対して、軸線の方向に沿って見た場合に、当該ネジ穴部の全体が、円環状端面とは反対側にオフセットしている。

【発明の効果】

【0009】

本発明の波動歯車装置の内輪一体型の内歯歯車においては、ボルト（ネジ）締結力が作用するネジ穴の部分が、内歯に対して半径方向の外側に隣接した位置から軸線の方向に外れた位置に形成される。よって、ボルト（ネジ）締結時に内歯が形成されている部分が変形することに起因する、内歯歯車と外歯歯車のかみ合い精度あるいは組付け精度が下がる等の弊害を抑制できる。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】（ａ）は本発明を適用した波動歯車装置の一例を示す概略縦断面図であり、（ｂ）はその概略端面図である。

【図2】（ａ）は内輪一体型の内歯歯車の概略縦断面図であり、（ｂ）はその概略端面図である。

【発明を実施するための形態】

【0011】

以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。なお、以下に述べる実施の形態は本発明の一例を示すものであり、本発明を実施の形態に限定することを意図したものではない。

【0012】

波動歯車装置１は、図１に示すように、剛性の内歯歯車２と、シルクハット形状をした可撓性の外歯歯車３と、波動発生器４と、内歯歯車２と外歯歯車３とを相対回転可能な状態で支持する軸受５とを備えている。波動発生器４は、外歯歯車３の外歯３０が形成されている部分を楕円形状に撓めて内歯歯車２の内歯２０に部分的にかみ合わせた状態を形成している。波動発生器４が不図示のモータ等によって回転駆動されると、内歯歯車２に対する外歯歯車３のかみ合い位置が円周方向に移動する。これにより、内歯歯車２と外歯歯車３との間の歯数差に応じた相対回転が、両歯車２、３の間に生じる。例えば、内歯歯車２を不図示の固定側部材に固定して回転しないように支持すると、外歯歯車３の側から、相対回転が減速回転出力として取り出される。

【0013】

軸受５は本例ではクロスローラベアリングであり、その外輪６は外歯歯車３の円環状のボス３１に締結固定されている。軸受５の内輪は、内歯歯車２に一体形成されている。すなわち、内歯歯車２は、軸受５の内輪が一体形成された内輪一体型の内歯歯車である。内歯歯車２は、軸受５の内輪側軌道溝２１（Ｖ溝）が形成された円形外周面２２と、内歯２０が形成された円形内周面２４と、軸線１ａの方向の一方の側に形成された第１円環状端面２５および他方の側に形成された第２円環状端面２６とを備えている。内歯歯車２には、不図示の固定側部材に締結固定するために用いるボルト穴２７が形成されている。

【0014】

ボルト穴２７は、円周方向に沿って等角度間隔に配置されており、第１円環状端面２５に開口しており、第１円環状端面２５から軸線１ａの方向に延びている。ボルト穴２７のそれぞれは、第１円環状端面２５に開口するボルト通し穴部２８（キリ穴）と、当該ボルト通し穴部２８に連続して軸線１ａの方向に延びるネジ穴部２９とを備えている。ボルト通し穴部２８は円形内周面を備えた部分であり、ネジ穴部２９は、円形内周面にネジが切られた部分である。

【0015】

ここで、内歯歯車２の内歯２０は、軸線１ａの方向に沿ってみた場合に、円形内周面２４における第１円環状端面２５の側の内周面部分に形成されている。内輪側軌道溝２１は円形外周面２２における第２円環状端面２６の側の外周面部分に形成されている。すなわち、内歯２０は、内輪側軌道溝２１に対して、軸線１ａの方向に沿ってみた場合に、第１円環状端面の側にオフセットした位置に形成されている。

【0016】

また、ボルト穴２７のボルト通し穴部２８は、内歯２０の半径方向の外側の位置に形成されており、ネジ穴部２９は内歯２０から軸線１ａの方向に外れた位置に形成されている。換言すると、ボルト穴２７のネジ穴部２９は、内歯２０に対して、軸線１ａの方向に沿って見た場合に、第１円環状端面２５とは反対側にオフセットした位置に形成されている。

【0017】

このように、内輪一体型の内歯歯車２においては、ボルト穴２７のネジ穴部２９が、内歯２０が形成されている部分に対して、軸線１ａの方向にオフセットした位置に形成されている。内歯歯車２を不図示の固定側部材に締結固定する際のボルト締結力が作用するネジ穴部２９の部分が、内歯２０に対して半径方向の外側近傍の位置から、軸線１aの方向に外れている。よって、ボルト締結時に、内歯歯車２における内歯２０の形成部分に生じる変形を抑制あるいは軽減できる。この結果、変形に起因するかみ合い精度あるいは組付け精度の低下を抑制できる。

【図1】

【図2】