(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20240527BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20240527BHJP
C08J 3/075 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C12N5/00
A23L13/00 Z
C08J3/075 CEP
(21)【出願番号】P 2023525503
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(86)【国際出願番号】 CN2021139532
(87)【国際公開番号】W WO2022143244
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】202011598284.0
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】胡静
(72)【発明者】
【氏名】尹健
(72)【発明者】
【氏名】汪翔
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109503863(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0161843(US,A1)
【文献】Chemical Engineering Journal,2020, Vol.393, No.124728, pp.1-11
【文献】Biomacromolecules,2017, Vol.18, pp.2128-2138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
まず、アルギン酸ナトリウムを溶解して溶液とした後、当該アルギン酸ナトリウム溶液に一定量の炭酸カルシウムを均一分散となるように加えてスラリーを得るステップと、
その後、デキストランを溶解して溶液とした後、当該デキストラン溶液にキトサンを均一分散となるように加えてスラリーを得るステップと、
先の2つのスラリーを混合してなるスラリーを鋳型に流し込み、さらに、
前記鋳型を、塩酸を入れた密閉容器に入れて、架橋させることで、ダブルネットワークの物理架橋型ハイドロゲルを得るステップと、
その後、
ダブルネットワークの物理架橋型ハイドロゲルをヘパリンナトリウム溶液に浸漬して、ヘパリンがコーティングされたハイドロゲルを得た後、
ヘパリンがコーティングされたハイドロゲルをコラーゲン溶液に浸漬して、コラーゲン及びヘパリンがコーティングされた、ダブルネットワークの架橋型ハイドロゲルを得るステップと、
を含むことを特徴とする、筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法。
【請求項2】
(1)アルギン酸ナトリウム
(Alg)と水を均一に混合・溶解してアルギン酸ナトリウム溶液を得た後、前記アルギン酸ナトリウム溶液に一定量の炭酸カルシウム
(CaCO
3
)を加えて、前記炭酸カルシウムを均一分散となるように撹拌し、第1のゲル材を得る第1のゲル材の調製ステップと、
(2)デキストラン(Dex)と水を均一に混合・溶解してデキストラン溶液を得た後、前記デキストラン溶液にキトサン(CS)を加えて、前記キトサンを均一分散となるように撹拌し、第2のゲル材を得る第2のゲル材の調製ステップと、
(3)第1のゲル材と第2のゲル材を均一に混合して鋳型に流し込み、さらに、前記鋳型を、塩酸溶液を入れた密閉容器に入れ、塩酸を用いてスラリーを12~36時間封入し、ダブルネットワークの
キトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオン(CS/Dex/Alg/Ca
2+
)の架橋型ハイドロゲルを得る、ダブルネットワークのキトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオン架橋型ハイドロゲルの調製ステップと、
(4)ステップ(3)で調製して得られたハイドロゲルをヘパリンナトリウム溶液に15~45分間浸漬し、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca
2+ハイドロゲルを得る、ヘパリンコーティングのための浸漬ステップと、
(5)ステップ(4)で調製して得られた、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca
2+ハイドロゲルをコラーゲン溶液に15~45分間浸漬し、コラーゲンとヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca
2+ハイドロゲルを得た後、凍結乾燥を行う、コラーゲンコーティングのための浸漬ステップと、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法。
【請求項3】
ステップ(1)に記載のアルギン酸ナトリウムにおけるα-L-Guluronic acid(G)とβ-D-Mannuronic acid(M)との比率
(G/M)が、70/30~30/70であることを特徴とする、請求項2に記載の筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、アルギン酸ナトリウ
ム溶液におけるアルギン酸ナトリウムの含有量が、1~2wt%であり、第1のゲル材におけるCaCO
3の含有量が、0.01~0.5wt%であることを特徴とする、請求項2に記載の筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法。
【請求項5】
前記デキストラン溶液におけるデキストランの含有量が、0.5~2.0wt%であり、前記第2のゲル材におけるキトサンの含有量が、0.5~3wt%であることを特徴とする、請求項2に記載の筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法。
【請求項6】
前記第1のゲル材と前記第2のゲル材とを質量比1:1~2:1で混合することを特徴とする、請求項2に記載の筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法。
【請求項7】
請求項
1から6のいずれか1項に記載の筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲル
の調製方法を含む、
筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルを含む培地
の調製方法。
【請求項8】
請求項
1から6のいずれか1項に記載の調製方法に
より調製される筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルを培地として用いることを特徴とする、筋肉幹細胞の培養方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の調製方
法の、培養肉分野における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法及びその使用に関し、特に、新規な物理的ダブルネットワークの架橋型ハイドロゲルの調製方法及びその使用に関し、バイオ食品材料の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞培養肉は、従来の食肉生産と比較して、食肉製品の環境に対する負荷を低減させる可能性がある(Environmental Science & Technology,2015,49,11941-11949)。幹細胞培養肉には関心が高まっており、現在、食用を目的として幹細胞から肉を形成する様々な方法が提案されている(Journal of Integrative Agriculture,2015,14,222-233)。しかし、スケーラブルな細胞培養基材(ブラケット)の欠如が、幹細胞培養肉を制限する主な課題となっている。
【0003】
人工模倣細胞外マトリックス(ECM)ハイドロゲルは、生体内のECM特性を再現し、且つハイドロゲルに機械的特性や生化学的機能を付与するために用いられており、組織工学や3次元細胞培養のための有望な材料である(Nature Biotechnology,2005,23,47-55)。ハイドロゲルは、合成ポリマー又は天然ポリマーから調製される。天然ハイドロゲルは、高い多孔性、高い保水力、及びECMの組織様物理特性を模倣することができる能力など、多くのユニークな特性を持っている(Gels,2017,3,6-20)。そして、合成ハイドロゲルと比較して、天然ハイドロゲルはより高い固有の生体適合性、及び望ましい生分解性を備えている(Journal of Materials Science Materials in Medicine,2019,30,115-124)。しかしながら、機械的強度が弱く、或いは過度に分解されやすいことから、天然ハイドロゲルは、特定の用途において一定の制限がある。
【0004】
現在、ハイドロゲルに適用されている主な架橋方法には、化学架橋と物理架橋がある。化学架橋の方法は、グラフト共重合、ラジカル重合、化学クリック反応、酵素反応、熱ゲル化、及び放射線架橋などを含んでおり、主に多くの化学試薬により行われる。一方、物理架橋は、分子間相互作用(イオン架橋、疎水性相互作用、及び水素結合)により行われる。物理架橋法は、より便利で環境に優しく、生体適合性により優れていることは明らかである。しかし、物理架橋は、架橋強度が弱く、形成されたハイドロゲルが崩壊しやすいなどの欠点がある。そのため、機械的特性がより高く崩壊しにくい、物理架橋による天然ハイドロゲルを構築することは、急務となっている。
【0005】
褐藻類から抽出される直鎖状多糖であるアルギン酸塩は、α-L-Guluronic acid(G)とβ-D-Mannuronic acid(M)との2つの単糖からなる、天然のアニオン性高分子電解質である(Biomaterials、1999、20、45~53)。アルギン酸塩は、広く入手可能で安価であり、且つ生体適合性など多くの優れた特性を具備している。アルギン酸塩は、Ca2+、Sr2+、Ba2+などの2価のイオンと相互作用する場合、緻密な3次元構造となって機械的特性を向上させるという特徴を有している。しかしながら、安定性はイオン性ポリマーにとってかなり大きな課題であるため、アルギン酸塩ハイドロゲルでは、分解速度の制御が難しい。以上のことから、アルギン酸塩の主な欠点は、機械的特性が低いこと、及び細胞接着性が低いことである。
【0006】
キトサンは、エビ、カニ、昆虫から抽出されており、β-(1,4)グリコシド結合によりグルコサミンとN-アセチルグルコサミンとを連結してなる、天然の線状化合物である。他の天然の多糖類とは異なり、キトサンは、唯一のアルカリ性多糖類及びカチオン性高分子電解質であり、酸化物を容易に形成し、金属イオンをキレートする能力及び薄膜を形成する能力を有している。キトサンは、無毒で環境に優しく、生分解が可能であるため、アメリカ食品医薬品局(FDA)により食品添加物として認められている(Journal of Polymers and the Environment、2016、25、973-982)。また、キトサンは、その生体適合性が高く、天然のECMに匹敵する力学的特性を有している(Carbohydrate Polymer、2010、82、227-232)ため、薬物投与、組織工学、及びがん診断などのバイオメディカル分野に広く用いられている(European Polymer Journal、2013、49、780-792)。しかし、キトサンは、pH値が6.2未満の場合にしか水に溶解させることができず、キトサンは、水素結合、疎水相互作用と鎖間の静電的相互作用との間のバランスによってはじめて、ゲルを形成することができる。
【0007】
アニオンのアルギン酸塩とカチオンのキトサンとが、静電気的相互作用によって互いに引き寄せられてハイドロゲルを形成することができることは、明らかである。この形態のハイドロゲルは、生体適合性が高く、より環境に優しいものの、その機械的特性が低く、細胞接着性が低いことが主な欠点である。したがって、高い生体適合性、高い架橋強度、強い細胞接着性を具備している天然のハイドロゲルを得ることは、依然として課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い生体適合性、高い架橋強度、強い細胞接着性を具備している天然のハイドロゲルをどのように調製するかという上記課題を解決するために、幹細胞を培養するための、吸着力が強く且つ崩壊しにくい新規な物理的ダブルネットワークの架橋型ハイドロゲルを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、まず、半溶解酸性化ゾル-ゲル転移法と内部ゲル化法を組み合わせて、キトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオンが物理的に架橋されたダブルネットワーク型ハイドロゲルを調製し、次に、ヘパリンにより浸漬・コーティングして前記ハイドロゲルがタンパク質や成長因子を吸着する能力を増強させた後、ヘパリンのタンパク質に対する吸着能力によりコラーゲンを用いてコーティングする。これらの修飾基により、細胞に接着し成長因子の放出を制御する能力をハイドロゲルに具備させている。また、ダブルネットワークの架橋構造によって、ハイドロゲルが大量の水にて膨潤した後、2つのネットワークの相乗作用によりハイドロゲルの機械的特性も増強し、且つハイドロゲルの完全性を維持することができる。同時に、このハイドロゲルは、化学的架橋ネットワークに必要な有毒な化学架橋剤による細胞毒性を改善できるという特徴を有している。
【0010】
本発明は、まず、筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの調製方法を提供するものである。前記調製方法は、まず、アルギン酸ナトリウムを溶解して溶液とした後、当該アルギン酸ナトリウム溶液に一定量の炭酸カルシウムを均一分散となるように加えてスラリーを得て;その後、デキストランを溶解して溶液とした後、当該デキストラン溶液にキトサンを均一分散となるように加えてスラリーを得て;先の2つのスラリーを混合して前記スラリーを鋳型に流し込み、さらに、塩酸を入れた密閉容器に入れて、架橋させることで、ダブルネットワークの物理架橋型ハイドロゲルを得て;その後、ヘパリンナトリウム溶液に浸漬して、ヘパリンがコーティングされたハイドロゲルを得て、次に、コラーゲン溶液に浸漬して、コラーゲン及びヘパリンがコーティングされたダブルネットワークの架橋型ハイドロゲルを得ることを含む。
【0011】
好ましくは、前記方法は、以下のステップを含む:
(1)第1のゲル材の調製:アルギン酸ナトリウムと水を均一に混合・溶解してアルギン酸ナトリウム溶液を得た後、前記アルギン酸ナトリウム溶液に一定量の炭酸カルシウムを加えて前記炭酸カルシウムを均一分散となるように撹拌し、第1のゲル材を得るステップ;
(2)第2のゲル材の調製:デキストラン(Dex)と水を均一に混合・溶解してデキストラン溶液を得た後、前記デキストラン溶液にキトサン(CS)を加えて前記キトサンを均一分散となるように撹拌し、第2のゲル材を得るステップ;
(3)キトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオンのダブルネットワークの架橋型ハイドロゲルの調製:第1のゲル材と第2のゲル材を均一に混合して鋳型に流し込み、さらに、前記鋳型を、塩酸溶液を入れた密閉容器に入れ、塩酸を用いてスラリーを12~36時間封入し、CS/Dex/Alg/Ca2+のダブルネットワークの架橋型ハイドロゲルを得るステップ;
(4)ヘパリンコーティングのための浸漬:ステップ(3)で調製して得られたハイドロゲルをヘパリンナトリウム溶液に15~45分間浸漬し、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルを得るステップ;
(5)コラーゲンコーティングのための浸漬:ステップ(4)で調製して得られた、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルをコラーゲン溶液に15~45分間浸漬し、コラーゲンとヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルを得た後、凍結乾燥により前記筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルを得るステップ。
【0012】
好ましくは、前記方法における水は、好ましくは脱イオン水又は高純度水である。
【0013】
好ましくは、ステップ(1)におけるアルギン酸塩は、褐藻類から抽出される直鎖状多糖であり、α-L-Guluronic acid(G)とβ-D-Mannuronic acid(M)との2つの単糖からなり、アルギン酸ナトリウムにおけるα-L-Guluronic acid(G)とβ-D-Mannuronic acid(M)との比率が70/30~30/70である、天然のアニオン性高分子電解質である。
【0014】
好ましくは、ステップ(1)において、アルギン酸ナトリウムAlg溶液におけるアルギン酸ナトリウムの含有量が1~2wt%である。
【0015】
好ましくは、ステップ(1)において、第1のゲル材におけるCaCO3の含有量が0.01~0.5wt%である。
【0016】
好ましくは、ステップ(1)において、炭酸カルシウムを撹拌する時間は、6~12時間である。
【0017】
好ましくは、ステップ(2)において、デキストランの分子量は、80~100kDaである。
【0018】
好ましくは、ステップ(2)において、デキストラン溶液におけるデキストランの含有量は、0.5~2.0wt%である。
【0019】
好ましくは、ステップ(2)において、前記第2のゲル材におけるキトサンは、脱アセチル化度が90~95%であり、分子量が50~250kDaである。
【0020】
好ましくは、ステップ(2)において、前記第2のゲル材におけるキトサンの含有量は、0.5~3wt%である。
【0021】
好ましくは、ステップ(3)において、第1のゲル材と第2のゲル材とを質量比1:1~2:1で混合する。
【0022】
好ましくは、ステップ(3)において、鋳型は内部に複数本の毛細管構造(直径0.3~0.6mm)が存在し、互いに平行な長い筋繊維状のハイドロゲル形状が得られる、直方体(縦、横、高さが(50~200mm)×(50~200mm)×(10~50mm))である。
【0023】
好ましくは、ステップ(3)における塩酸溶液の濃度は、5~10mol/Lである。
【0024】
好ましくは、ステップ(4)におけるヘパリン溶液の濃度は、1~7g/Lである。
【0025】
好ましくは、ステップ(4)において、ヘパリンコーティングのための浸漬の具体的な操作は、以下の通りであってもよい:調製されたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルをPBSに15~45分間浸漬した後、ヘパリン溶液に15~45分間浸漬することを3~5回繰り返し、さらにPBSで洗浄して、表面に吸着されていないヘパリンを除去する。
【0026】
好ましくは、ステップ(5)におけるコラーゲン溶液の濃度は10~20wt%である。
【0027】
好ましくは、ステップ(5)において、コラーゲンコーティングのための浸漬の具体的な操作は、以下の通りであってもよい:調製して得られた、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルをPBSに15~45分間浸漬した後、コラーゲン溶液に15~45分間浸漬することを3~5回繰り返し、さらにPBSで洗浄して、表面に吸着されていないヘパリンを除去する。
【0028】
好ましくは、ステップ(5)において、前記凍結乾燥の温度は-60~-80℃であり、凍結乾燥の時間は12~24時間である。
【0029】
本発明は、上記調製方法により調製して得られた筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルを提供する。
【0030】
本発明は、上記筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルを含む培地を提供する。
【0031】
本発明は、上記筋肉幹細胞培養用架橋ハイドロゲルを培地として用いる、筋肉幹細胞の培養方法を提供する。
【0032】
好ましくは、上記筋肉幹細胞は、特に限定されていないが、ブタ筋肉幹細胞、ウシ筋肉幹細胞などを含む。
【0033】
本発明は、上記調製方法又は上記筋肉幹細胞培養用架橋型ハイドロゲルの、培養肉分野における使用を提供する。
【0034】
(本発明により得られる有利な効果)
1.本発明は、半溶解酸性化ゾル-ゲル転移法と内部ゲル化法を組み合わせて、炭酸カルシウム及びキトサンの溶解を開始し、当該溶解過程でアルギン酸ナトリウムとデキストランとのネットワークを形成し、最終的にダブルネットワーク型物理架橋のCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルが成功裏に調製される。このハイドロゲルでは、2つのネットワークの相乗作用により機械的特性の完全性が確保されているため、その後の幹細胞培養の過程でハイドロゲルが崩壊しにくく、有毒な化学架橋剤の使用を避けながら強力に架橋されたハイドロゲルを得ることができる。
2.本発明は、ハイドロゲル系にヘパリンが導入されていることにより、幹細胞成長因子の固定・保存に有利であり、成長因子の長期的放出が可能となる。同時に、ヘパリンの導入は、ハイドロゲルとコラーゲンとの架橋に役立っている。
3.本発明は、ハイドロゲル系にさらにコラーゲンを導入することにより、幹細胞への接着に有利であり、ハイドロゲルの生体適合性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】コラーゲンとヘパリンでコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca
2+ハイドロゲルの調製フローチャートである。
【
図2】本発明のポリキャピラリー状培養肉の製造鋳型の構造を示す模式図である。
【
図3】初代ブタ筋肉幹細胞の顕微鏡画像であり、a)分化前の初代ブタ筋肉幹細胞の顕微鏡画像(4X)であり、b)72時間分化後の初代ブタ筋肉幹細胞の顕微鏡画像(4X)である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を実施例と併せて詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではないことは、当業者にとって理解されるであろう。実施例において特定の条件が示されていない場合、それらは従来の条件又は製造者によって推奨される条件に従って実施される。使用される試薬又は装置に製造者が明記されていない場合、それらはいずれも市販で入手できる通常の製品である。
【0037】
(実施例1:キトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオンが架橋されたダブルネットワーク型ハイドロゲルの調製)
ビーカーにアルギン酸ナトリウム(AR、120kDa、G/M比35/65)1gと脱イオン水99mLを加え、アルギン酸ナトリウムが溶解してアルギン酸ナトリウムの1wt%溶液を得るように撹拌した後、アルギン酸ナトリウム溶液に炭酸カルシウム0.1gを加え、炭酸カルシウムが均一に分散するまで撹拌してスラリーと類似する第1のゲル材とした。次に、ビーカーにデキストラン(AR、80~100kDa)1gと脱イオン水99mLを加え、デキストランが溶解してデキストランの1wt%溶液を得るように撹拌した後、デキストラン溶液にキトサン(脱アセチル化度90.24%、230kDa)2gを加え、キトサンが均一に分散するまで撹拌してスラリーと類似する第2のゲル材とした。第1のゲル材と第2のゲル材とを質量比1:1で均一に混合するまで撹拌した。スラリーを鋳型に流し込み、前記鋳型を、塩酸(1mol/L)100mLを入れた密閉プラスチックボックスに入れ、24時間ゾル-ゲル転移を行った。調製されたハイドロゲルを型から出し、脱イオン水で洗浄した。
【0038】
(実施例2:ヘパリンがコーティングされた、キトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオンが架橋されたダブルネットワーク型ハイドロゲル)
ビーカーにヘパリンナトリウム(0.5g)と脱イオン水(100mL)を加え、ヘパリン溶液(5.0g/L)を得た。調製されたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルをPBSに30分間浸漬した後、ヘパリン溶液に15分間浸漬することを、3回繰り返した。PBSで洗浄して、表面に吸着されていないヘパリンを除去し、静電吸着によって、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルを得た。
【0039】
(実施例3:コラーゲンがコーティングされた、キトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオンが架橋されたダブルネットワーク型ハイドロゲル)
ビーカーにコラーゲンと脱イオン水を加え、コラーゲン溶液(20wt%)を得た。調製された、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルをPBSに30分間浸漬した後、コラーゲン溶液に15分間浸漬することを、3回繰り返した。PBSで洗浄して表面のコラーゲンを除去した。コラーゲンとヘパリンとの間の相互作用により、コラーゲン及びヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルを得た。その後、このハイドロゲルを真空凍結乾燥機で凍結乾燥(-80℃)した。
【0040】
(実施例4:ハイドロゲルの、成長因子に対する吸着)
物理的に架橋されたダブルネットワーク型ハイドロゲルをPBSで洗浄し、得られたハイドロゲルを75%エタノールに20分間浸漬した。その後、無菌脱イオン水に5分間浸漬して無菌水でエタノールを洗浄する操作を、3回繰り返することにより、残ったエタノールをすべて除去した(Food Hydrocolloids、2017、72、210-218)。その後、成長因子であるビタミンC(0.05μg/mL)及びbFGF(10ng/mL)を含んでいる溶液にハイドロゲルを移し、24時間膨潤させた。最後に、残った溶液中のbFGF(450nm)及びビタミンC(536nm)の含有量を酵素結合免疫測定法(ELISA)により測定し、溶液中のbFGF及びビタミンCの初期濃度と残った溶液の濃度との差から、ハイドロゲルの成長因子に対する吸着を算出した。
【0041】
【0042】
(実施例5:ハイドロゲルからの成長因子の放出)
実施例4による、成長因子を吸着したハイドロゲルを1mLの無菌PBS溶液に入れ、24時間ごとに、実験中のPBS液をピペットで採集し、さらに、等量の新たな無菌PBS溶液と交換した。ウェルプレートに採集された前記液体を、EP管で保存し、-20℃の冷蔵庫に入れて測定用とした。採集された液体におけるbFGF(450nm)及びビタミンC(536nm)の含有量は、酵素結合免疫測定法(ELISA)により測定した。
【0043】
成長因子の放出試験から分かるように、実施例3による、ハイドロゲルに吸着されたbFGF及びビタミンCは、10日目の時点で検出できなくなり、実施例2による、ハイドロゲルに吸着されたbFGF及びビタミンCは、8日目の時点で検出できなくなり、実施例1による、ハイドロゲルに吸着されたbFGF及びビタミンCは、4日目の時点に検出できなくなった。このことから、本発明により調製されるハイドロゲルは、幹細胞成長因子の固定・保存に有利であり、成長因子の長期的放出が可能となることが分かる。
【0044】
(実施例6:ダブルネットワーク型ハイドロゲルにおけるブタ筋肉幹細胞の培養)
実施例4で得られた成長因子含有ハイドロゲルを用い、調製されたダブルネットワーク型ハイドロゲルに細胞を1500個/mm2の密度で接種し、成長培地(79%DMEM、10%FBS、1%二重抗体、79%DMEM)で24時間培養した。その後、前記培地を分化培地(97%DMEM、2%ウマ血清、1%二重抗体)に交換し、前記細胞をさらに7日間培養した。培養7日後の毛細管構造において、有意に増殖した細胞が多く観察された。
【0045】
(実施例7:ハイドロゲルの機械的試験)
ハイドロゲルについては、インストロン社製メカニカルテストのフレーム(モデル5565A)を用いて一軸圧縮試験を行った。応力は、力曲線σ=F/A0に従って計算した。FとA0は試料を圧縮するための力、及び試料の初期面積である。ゲルの弾性率は、G(t)=σ(t)/γに従って計算した。試料について、試験を少なくとも3回繰り返した。試験の前に、ハイドロゲルに亀裂や変形がないかどうかをよく検査した。ゲルをステンレス製圧縮板の中央に揃えた。ゲルは非常に滑りやすいので、圧縮される際にゲルが自由に膨張するようにした。初期クロスヘッド速度を4%ひずみ/秒とし、5%、10%、20%ひずみの圧縮における試料の応力緩和を調査した。その結果、本発明により調製されたハイドロゲルは、その緩和時の応力応答が300秒にも及ぶことが分かった。
【0046】
(実施例8:ハイドロゲルの走査型電子顕微鏡試料の調製)
ハイドロゲルの形態について、Hitachi S-4800 SEM(日立、日本)を用いて、凍結乾燥されたハイドロゲルに対して5kVの加速電圧をかけてイメージングした。試験の前に、ハイドロゲルの断面を導電性テープで金属基材に固定し、金でスパッタリングメッキを行った。この調査により、本発明により調製されたハイドロゲルは、複数の孔径を有する多孔質構造であり、それらの構造は成長因子の膨潤に有利であり、成長因子のハイドロゲル内部への拡散を促進できることが判明した。さらに、これらの孔は、大きな比表面積を提供し、筋肉幹細胞の接着に有利である。
【0047】
(実施例9:ヘパリンとコラーゲンがコーティングされた、キトサン/デキストラン/アルギン酸塩/カルシウムイオンが架橋されたダブルネットワーク型ハイドロゲルの調製)
ビーカーにアルギン酸ナトリウム(AR、120kDa、G/M比70/30)2gと脱イオン水98mLを加え、アルギン酸ナトリウムが溶解してアルギン酸ナトリウムの2wt%溶液を得るように撹拌した後、アルギン酸ナトリウム溶液に炭酸カルシウム0.3gを加え、炭酸カルシウムが均一に分散するまで撹拌してスラリーと類似する第1のゲル材とした。次に、ビーカーにデキストラン(AR、80~100kDa)2gと脱イオン水98mLを加え、デキストランが溶解してデキストランの2wt%溶液を得るように撹拌した後、デキストラン溶液にキトサン(脱アセチル化度90.24%、230kDa)3gを加え、キトサンが均一に分散するまで撹拌してスラリーと類似する第2のゲル材とした。第1のゲル材と第2のゲル材とを質量比2:1で均一に混合するまで撹拌した。スラリーを鋳型に流し込み、前記鋳型を、塩酸(1mol/L)100mLを入れた密閉プラスチックボックスに入れ、12時間ゾル-ゲル転化を行った。調製されたハイドロゲルを型から出し、脱イオン水で洗浄した。ビーカーにヘパリンナトリウム(0.1g)と脱イオン水(100mL)を加え、ヘパリン溶液(1.0g/L)を得た。調製されたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルをPBSに15分間浸漬した後、ヘパリン溶液に45分間浸漬することを、5回繰り返した。PBSで洗浄して、表面に吸着されていないヘパリンを除去した。静電吸着によって、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルが得られた。ビーカーにコラーゲンと脱イオン水を加え、コラーゲン溶液(10wt%)が得られた。調製された、ヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルをPBSに15分間浸漬した後、コラーゲン溶液に45分間浸漬することを、5回繰り返した。PBSで洗浄して、表面のコラーゲンを除去した。コラーゲンとヘパリンとの間の相互作用により、コラーゲン及びヘパリンがコーティングされたCS/Dex/Alg/Ca2+ハイドロゲルが得られた。その後、このハイドロゲルを真空凍結乾燥機で凍結乾燥(-80℃)させた。調製して得られたハイドロゲルは、多孔質であり、ハイドロゲルでブタ筋肉幹細胞を7日間培養した後、毛細管構造において多くのブタ筋肉幹細胞が観察された。
【0048】
(比較例1)
キトサンとアルギン酸ナトリウムのみが架橋された場合について、すなわち、第1のゲル材に炭酸カルシウムが含まれておらず、第2のゲル材にデキストランが含まれていないこと以外は、残りのステップを実施例1~3と同様にして、ハイドロゲルを調製した。
【0049】
調製されたハイドロゲルに対して成長因子の吸着実験を行ったところ、成長因子を6時間吸着した時点でハイドロゲルは大量に崩壊しており、崩壊の割合は60%を占めたことが分かった。また、調製されたハイドロゲルに対して応力試験を行ったところ、応力応答はわずか30秒であった。
【0050】
(比較例2)
アルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンのみを含んでいる場合について、すなわち、第2のゲル材が含まれていないこと以外は、残りのステップを実施例1~3と同様にして、ハイドロゲルを調製した。
【0051】
調製されたハイドロゲルに対して成長因子の吸着実験を行ったところ、成長因子を12時間吸着した時点でハイドロゲルは大量に崩壊しており、崩壊の割合は55%を占めたことが分かった。また、調製されたハイドロゲルに対して応力試験を行ったところ、応力応答はわずか80秒であった。
【0052】
(比較例3)
デキストランを含んでいない場合について、即ち、第2のゲル材にキトサンのみが含まれていること以外は、残りのステップを実施例1~3と同様にして、ハイドロゲルを調製した。
【0053】
調製されたハイドロゲルに対して成長因子の吸着実験を行ったところ、成長因子を24時間吸着した後、吸着されたbFGFは10.0ng/mLであり、ビタミンCは0.050μg/mLであった。10日目では吸着されたbFGFとビタミンCは検出できなかった。調製されたハイドロゲルに対して応力試験を行ったところ、応力応答は250秒であった。ブタ筋肉幹細胞の培養実験を行った後、接着された細胞の量は少なく、デキストランを含むハイドロゲルより有意に少なかった。
【0054】
(比較例4)
実施例1に従って2つのゲル材料を調製して混合した後、スラリーを鋳型に流し込み、前記鋳型を、PBS(1mol/L)100mLを入れた密閉プラスチックボックスに入れ、24時間転化を行った。型から出した後、依然としてスラリーであることが確認された。このスラリーは、ハイドロゲルの基本的な機械的特性を具備していなく、この状態では成長因子を吸着・放出する能力、応力特性を有していないため、ブタ筋肉幹細胞について、このスラリーで細胞培養実験を実施することができなかった。
【0055】
(比較例5)
ビーカーにアルギン酸ナトリウム(AR、120kDa、G/M比35/65)1gと脱イオン水49mLを加え、アルギン酸ナトリウムが溶解してアルギン酸ナトリウムの2wt%溶液を得るように撹拌した後、もう1つのビーカーに塩化カルシウム0.1gと脱イオン水49mLを加え、塩化カルシウムが溶解して塩化カルシウムの0.2wt%溶液を得るように撹拌した。その後、もう1つのビーカーにデキストラン(AR、80~100kDa)1gと脱イオン水49mLを加え、デキストランが溶解してデキストランの2wt%溶液を得るように撹拌した後、もう1つのビーカーにキトサン(脱アセチル化度90.24%、230kDa)2gと塩酸(1mol/L)49mLを加え、キトサンが溶解してキトサンの4wt%溶液を得るように撹拌した。アルギン酸ナトリウム溶液、塩化カルシウム溶液、デキストラン溶液、キトサン溶液を質量比1:1:1:1で均一に撹拌して混合し、24時間静置してハイドロゲルを得た。その後、実施例2及び3の手順に従って処理してハイドロゲルを調製した。
【0056】
調製されたハイドロゲルに対して応力試験を行ったところ、応力応答は180秒であった。ブタ筋肉幹細胞の培養実験を行った後、接着された細胞の量は少なく、半溶解酸性化ゾル-ゲル転移法により調製されたハイドロゲルより有意に低かった。
【0057】
以上、本発明が好ましい実施例により開示されたが、本発明を限定するためのものではない。当業者であれば、本発明の思想及び範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び修正を行うことができるので、本発明の権利範囲は、請求の範囲に規定されているものに準じるべきである。