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特許7494402絶縁電線およびその製造方法ならびに端子付き絶縁電線およびその製造方法
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  • 特許-絶縁電線およびその製造方法ならびに端子付き絶縁電線およびその製造方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】絶縁電線およびその製造方法ならびに端子付き絶縁電線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20240527BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20240527BHJP
   H01B 5/08 20060101ALI20240527BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240527BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240527BHJP
   C22C 9/01 20060101ALI20240527BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20240527BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20240527BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20240527BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H01B7/00
H01B1/02
H01B5/08
H01B7/02
C22C9/00
C22C9/01
C22C9/02
C22C9/04
C22C9/06
C22F1/08 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023549241
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021035011
(87)【国際公開番号】W WO2023047514
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2024-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 勉
(72)【発明者】
【氏名】新井 龍一
(72)【発明者】
【氏名】仲津 照人
(72)【発明者】
【氏名】今井 リサ
(72)【発明者】
【氏名】植田 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】光地 伸明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 道朝
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013073(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/013074(WO,A1)
【文献】特開2014-032819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 1/02
H01B 5/08
H01B 7/02
C22C 9/00
C22C 9/01
C22C 9/02
C22C 9/04
C22C 9/06
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線が撚り合わされた導体とそれを被覆する被覆層とを有する絶縁電線であって、
前記素線が銅合金から構成され、当該銅合金がFe、Ti、Mg、Sn、Ag、Ni、In、Zn、Cr、Al、P、Be、CoおよびSiからなる群から選ばれる1種以上の添加元素を含有し、残部がCuおよび不可避元素からなる合金であり、
前記銅合金中の前記添加元素の量が0.2~0.4質量%であり、
前記導体が中心素線とその周囲に同心状に配置された複数の同心素線とから構成され、
前記中心素線に付着する油分量が前記中心素線の質量に対して6μg/g以下であり、 前記導体の撚りピッチが5~10mmでかつ断面積が0.15mm以下であり、
前記被覆層がポリ塩化ビニル樹脂から構成され、
前記被覆層の厚さが0.15~0.25mmである、絶縁電線。
【請求項2】
請求項1の絶縁電線において、
前記導体が非圧縮導体である場合、前記導体と前記被覆層との密着強度が19~23Nであり、
前記導体が圧縮率3~4%の圧縮導体である場合、前記導体と前記被覆層との密着強度が20~21Nであることを特徴とする、絶縁電線。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁電線と、
前記絶縁電線の端部に接続された端子と、
を有する、端子付き絶縁電線。
【請求項4】
複数の素線を撚り合わせて導体を準備する工程と、
前記導体を脱脂する工程と、
前記導体を調質する工程と、
前記導体を樹脂で被覆し被覆層を形成する工程と、を有し、
前記導体を準備する工程では、Fe、Ti、Mg、Sn、Ag、Ni、In、Zn、Cr、Al、P、Be、CoおよびSiからなる群から選ばれる1種以上の添加元素を含有し、残部がCuおよび不可避元素からなる銅合金であって、前記添加元素の量が0.2~0.4質量%である銅合金から複数の素線を製造し、当該複数の素線のうち、1本を中心素線としてその周囲に複数の同心素線を同心状に配置しながら撚りピッチ5~10mmで撚り合わせ、断面積が0.15mm以下である前記導体を製造し、
前記導体を脱脂する工程では、前記中心素線に付着する油分量を前記中心素線の質量に対して6μg/g以下に制御し、
前記導体を調質する工程では、前記導体を250~350℃で2~10時間加熱し、
前記被覆層を形成する工程では、前記導体をポリ塩化ビニル樹脂で被覆して厚さが0.15~0.25mmである前記被覆層を形成する、絶縁電線の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の絶縁電線の製造方法で製造した絶縁電線の端部から前記被覆層を剥離し前記導体を露出させる工程と、
前記導体の露出部分に端子を接続する工程と、
を有する、端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線およびその製造方法ならびに端子付き絶縁電線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用や産業用の電力線や信号線等として、導体とそれを被覆する被覆層とを有する絶縁電線が用いられてきた。昨今、車両および産業機械の複雑制御や自動化に伴い、電線の細径化および高強度化が求められている。車両用の絶縁電線においては、多くは断面積が0.35mmの絶縁電線が使用されているものの、これより細径の絶縁電線の開発も進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1では、導体の断面積が略0.22mmとするため、導体に用いる銅合金の組成を調整することが記載されている。
特許文献2では、絶縁電線を細線化したときの座屈を抑制するため、導体の中心素線の表面に付着する油分量を低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6134103号公報
【文献】特許第6864856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般的に絶縁電線は単独で使用されることは少なく、絶縁電線の両端に端子を接続し、これを介して各種機器と接続する。そして、自動車や産業機械組み立ての際、またはこれらの使用時に、各種機器と電線とを接続した状態で、機器が落下することがある。これにより、絶縁電線に瞬間的に、自由落下方向への応力がかかり、電線が破断することがある。このような破断が生じると、機器が破損したり、機器間で十分な導通が図れなくなったりする。上記特許文献1や特許文献2に記載の絶縁電線では、このような瞬間的にかかる応力への耐性までは言及されていない。
【0006】
本発明の主な目的は、瞬間的にかかる応力にも耐えられる、破断が生じ難い絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
複数の素線が撚り合わされた導体とそれを被覆する被覆層とを有する絶縁電線であって、
前記素線が銅合金から構成され、当該銅合金がFe、Ti、Mg、Sn、Ag、Ni、In、Zn、Cr、Al、P、Be、CoおよびSiからなる群から選ばれる1種以上の添加元素を含有し、残部がCuおよび不可避元素からなる合金であり、
前記銅合金中の前記添加元素の量が0.2~0.4質量%であり、
前記導体が中心素線とその周囲に同心状に配置された複数の同心素線とから構成され、
前記中心素線に付着する油分量が前記中心素線の質量に対して6μg/g以下であり、 前記導体の撚りピッチが5~10mmでかつ断面積が0.15mm以下であり、
前記被覆層がポリ塩化ビニル樹脂から構成され、
前記被覆層の厚さが0.15~0.25mmである、絶縁電線が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、瞬間的にかかる応力にも耐えうる、破断が生じ難い絶縁電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A図1Aは、絶縁電線の一例を示す概略断面図である。
図1B図1Bは、絶縁電線の他の例を示す概略断面図である。
図2図2は、絶縁電線の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図3図3は、端子付き絶縁電線の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
本明細書において数値範囲を示す「~」には上限値および下限値が当該数値範囲に含まれる。
【0011】
(絶縁電線)
本発明の好ましい実施形態にかかる絶縁電線は、いわゆる自動車や産業機械の電力線や信号線として非常に有用である。
【0012】
図1A図1Bに示すとおり、本実施形態の絶縁電線1は、複数の素線が撚り合わされた導体2と、当該導体2を覆うための被覆層3とを有する。導体2は後述の銅合金から構成され、被覆層3は後述の樹脂から構成されている。
導体2は図1Aに示す態様のとおり、1本の中心素線2aと、これを同心状に取り囲む6本の同心素線2bとから構成されている。ただし、これらの本数は、絶縁電線1の用途等に応じて適宜選択される。
【0013】
導体2は、図1Aに示すように、複数の素線を撚り合わせただけの非圧縮導体であってもよく、例えば、図1Bに示すように、複数の素線を撚り合わせた後、所望の形状に圧縮した圧縮導体であってもよい。
【0014】
各素線の断面積や直径は特に制限されないが、各素線の合計断面積、すなわち導体2の断面積は、0.15mm以下である。導体2の断面積は、0.120mm以上0.140mm以下が好ましく、0.125mm以上0.134mm以下がより好ましい。本実施形態の構成の絶縁電線1によれば、導体2の断面積を0.15mm以下のように細くしても、使用に耐えうる十分な強度や導電性が得られる。
【0015】
導体2の断面形状は、略円形状や楕円状であってもよく、多角形状等であってもよい。導体2を構成する各素線の太さは同一であってもよく、異なっていてもよいが、通常同一である。
【0016】
当該導体2では、中心素線2aと、その周囲に配置された同心素線2bとが、中心素線2aを軸として一定方向に撚られている。このときの撚りピッチは、5~10mmであればよく、6~8mmがより好ましい。「撚りピッチ」とは、中心線を軸として、導体2が360°回転するまでに必要な導体2の長さをいう。
導体2の撚りピッチが10mm以下であると、導体2の周囲に被覆層3を形成する際に、被覆層3が、導体2に食い込みやすくなる。その結果、導体2だけでなく被覆層3がテンションメンバーとして働くことが可能となる。つまり、絶縁電線1に瞬間的に応力(引張応力)がかかった際に、導体2だけでなく、被覆層3も当該応力を緩和し、絶縁電線1の破断を抑制できる。一方、導体2の撚りピッチが5mm以上であると、導体2と被覆層3との密着力が過度に高まりすぎず、導体2と端子とを接続するとき等に、被覆層3を跡残りなく剥離できる。
【0017】
ここで、導体2の各素線は、調質されたものであることが好ましい。各素線が調質されていると、導体2の強度および伸びを両立させることが可能である。
【0018】
さらに、導体2の中心素線2aに付着する油分量は、中心素線2aの質量に対して10μg/g以下であり、6μg/g以下がより好ましい。
中心素線2aに付着する油分量が少ないほど、導体2と被覆層3との親和性が高まりやすい。その結果、素線の隙間に被覆層3が入り込んだり、導体2の表面に被覆層3が密着したりしやすくなる。したがって、絶縁電線1に瞬間的に応力がかかった際に、絶縁電線1の破断が抑制されやすくなる。
なおここで、導体2の同心素線2bの油分量を測定対象から外したのは、(i)導体2に被覆層3を形成した場合に、同心素線2bには、被覆層3の樹脂組成物に含まれる可塑剤などの添加剤が製造の過程で付着し正確な油分量を測定できず、または逆に(ii)被覆層3を導体2から除去する場合に、同心素線2bから付着していた油も同時に除去され正確な油分量を測定できないからである。すなわち、ここでは、中心素線2aの油分量を測定しこれを制御すれば、それが同心素線2bの本数に反映され、結果的に導体2全体の油分量を制御することにつながり、素線の隙間への被覆層3の入り込みや導体2の表面への被覆層3の密着性を定量化することができる。
【0019】
導体2の中心素線2aに付着している油分量は、例えば以下の方法で特定できる。
絶縁電線1を所定の長さに切り分け、被覆層3をストリッパー等の専用工具で除去する。そして、導体2を抜き出す。そして、当該導体2から中心素線2aを取り出し、抽出溶媒(例えばクロロトリフルオロエチレンの3量体)で、油分を抽出する。これを複数回繰り返し、抽出液中の油分を、油分濃度計で特定する。そして、得られた油分量を、測定に供した中心素線2aの質量で除して算出できる。中心素線2aに付着する油分量は、後述の絶縁電線1の製造方法における導体2の脱脂工程で行う処理の種類や時間によって調整できる。
【0020】
ここで、導体2の各素線を構成する銅合金はFe、Ti、Mg、Sn、Ag、Ni、In、Zn、Cr、Al、P、Be、CoおよびSiからなる群から選ばれる1種以上の添加元素を含有し、残部がCuおよび不可避元素から構成されている。
添加元素は1種類のみでもよいし、または2種以上含んでいてもよい。通常3種以下である。添加元素は、上記の中でも特に、MgおよびSnが好ましい。
【0021】
銅合金中の添加元素の量は、0.2~0.4質量%であり、0.25~0.35質量%が好ましく、0.28~0.32質量%がより好ましい。銅合金中の添加元素の量が0.2質量%以上であると、導体2の強度が高まり、例えば引っ張り強さが強くなる。一方、銅合金中の添加元素の量が0.4質量%以下であると、導体2の導電率が高まりやすい。
【0022】
ここで、導体2の導電率は、75%IACS以上が好ましく、80%IACS以上がより好ましい。導体2の導電率が75%IACS以上であると、絶縁電線1を各種用途に使用可能となる。導体2の導電率は、JIS H 0505に基づき電気抵抗値から算出される値である。当該電気抵抗値は、長さ500mmの導体を用いてダブルブリッジ法にて測定される。導体2の導電率は、例えば上記添加元素の種類や量によって調整できる。
【0023】
導体2の強度は、350MPa以上450MPaが好ましく、390MPa以上430MPa以下がより好ましく、400MPa以上420MPa以下がさらに好ましい。導体2の強度が当該範囲であると、絶縁電線1を各種用途に使用可能となる。導体2の強度は株式会社島津製作所製万能試験機(オートグラフ)で測定される値である。導体2の強度は、上記添加元素の種類や量、調質度合い等によって調整される。
【0024】
導体2の伸び率は、5~10%が好ましく、8~10%がより好ましく、9~10%がさらに好ましい。導体2の伸び率が当該範囲であると、絶縁電線1を各種用途に使用可能となる。導体2の伸び率も株式会社島津製作所製万能試験機(オートグラフ)で測定される値である。導体2の伸び率は、上記添加元素の種類や量、調質度合い等によって調整される。
【0025】
一方、被覆層3は、導体2を絶縁被覆する層であり、ポリ塩化ビニル樹脂を含む層である。通常、被覆層3は、押出機による押出し等によって形成される。被覆層3は、ポリ塩化ビニル樹脂を主に含んでいればよく、本実施形態の目的よび効果を損なわない範囲で、ポリ塩化ビニル樹脂以外の成分を一部に含んでいてもよい。ポリ塩化ビニル樹脂を含む被覆層3は、例えばポリプロピレン樹脂を含む被覆層と比較して、導体2との密着性が低くなることがあるが、導体2の撚りピッチを制御した本実施形態によれば、導体2との密着性を十分に高めることができ、瞬間的な応力にも耐えうる絶縁電線1とすることができる。
【0026】
被覆層3の厚さは特に制限されないが、通常0.15mm~0.25mmが好ましく、0.15mm~0.20mmがより好ましい。被覆層3の厚さが0.15mm以上であると、十分な絶縁性が得られやすく、さらには上述のように、絶縁電線1に瞬間的な引張応力がかかったときに、被覆層3もテンションメンバーとして働くことができる。一方で、被覆層3の厚さが0.25mm以下であると、絶縁電線1を細くできる。
【0027】
ここで、導体2と被覆層3との密着強度は、(i)導体2が非圧縮導体である場合、19~23Nが好ましく、(ii)導体2が圧縮導体であって当該圧縮度が3~4%である場合、20~21Nが好ましい。密着強度が各下限値以上であると、これらの密着力が十分となり、各種用途に絶縁電線1を使用可能となる。一方で、密着強度が各上限値以下であると、絶縁電線1を端子等と接続するときに、被覆層3を除去しやすい。当該密着強度は、JASO D618に基づいて測定される。
なお、導体2が圧縮導体である場合、当該圧縮率は3~4%であるのが好ましい。導体2の圧縮率は下記式から導出される。
圧縮率=(圧縮前の導体断面積-圧縮後の導体断面積)/圧縮前の導体断面積×100%
【0028】
(絶縁電線の製造方法)
図2に示すとおり、絶縁電線1の製造方法は基本的には、複数の素線を撚り合わせて導体2を準備する工程S1と、導体2を脱脂する工程S2と、導体2を調質する工程S3と、導体2をポリ塩化ビニル樹脂で被覆し被覆層3を形成する工程S4とで構成される。
【0029】
導体2の準備工程S1では、各素線は、例えば、上記銅合金を鋳造して鋳造材を形成し、これを線状に加工して得られるが、この製造方法に限定されない。
導体2の準備工程S1では、複数の素線を撚りピッチ5~10mmで撚り合わせ、断面積を0.15mm以下に制御する。このとき、1本の素線を中心素線2aとしてその周囲に6本の同心素線2bを同心状に配置し、これを上記撚りピッチで撚り合わせる。
得られた導体2は圧縮加工してもよい。
圧縮する方法の例には、ダイスに導体2を供給し、当該ダイスから引き抜く方法等が挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
導体2の脱脂工程S2では、中心素線2aに付着する油分の合計量が、中心素線2aの合計質量に対して10μg/g以下となるまで、好ましくは6μg/g以下となるまで脱脂を行う。油分の合計量が6μg/g以下となるまで脱脂を行うと、各素線とこれを覆う被覆層3との親和性が高まる。さらに、このように脱脂を行うと、各素線に均一に熱が伝わりやすくなり、素線同士の隙間に均一に被覆層3が入り込んだり、各素線の表面に被覆層3が密着したりしやすくなる。
【0031】
導体2の脱脂工程S2の処理方法は特に制限されず、例えば、有機溶媒により脱脂してもよく、熱処理によって脱脂してもよい。
有機溶媒により脱脂を行う場合、有機溶媒の種類は、素線に付着している油分の種類に応じて適宜選択される。例えば、アルコール等を用いることができる。有機溶媒で処理する方法は特に制限されず、例えば素線を有機溶媒の中に浸漬する方法であってもよく、有機溶媒を染みこませたクロス等によってふき取る方法であってもよい。
一方、熱処理によって脱脂を行う場合、不活性ガス存在下、加熱を行うことが好ましい。加熱温度や加熱時間は、素線に付着している油分の種類に応じて適宜選択される。例えば、250~350℃で2~10時間加熱する方法であってもよい。
【0032】
導体2の調質工程S3では、導体2に調質を行う温度や時間は特に制限されないが、例えば250~350℃の範囲で2~10時間行うことが好ましい。このとき、例えば窒素気流下等、不活性ガス存在下で加熱を行うことが好ましい。調質を行うことで、導体2の伸びおよび強度が両立する。さらに、調質を行うことで、素線にほどよい柔軟性が付与されるため、被覆層3を形成する際に樹脂が、素線同士の隙間に入り込みやすくなる。
【0033】
なお、導体2の脱脂工程S2では、複数の素線をまとめて脱脂しているが、1本ずつ脱脂してもよい。絶縁電線1の製造効率の観点で複数本まとめて脱脂することが好ましい。
導体2の脱脂工程S2と導体2の調質工程S3とは、導体2の準備工程S1において素線を撚る前に実施してもよいし、順序を入れ替えてもよいし、同時に実施してもよい。例えば、導体2を250~350℃で2~10時間加熱すれば、導体2の脱脂工程S2と調質工程S3とを同時に実施することができる。
導体2の脱脂工程S2および調質工程S3の処理は基本的には、素線の製造後で絶縁層3の形成前であればいつでもよい。
【0034】
被覆層3の形成工程S4では、ポリ塩化ビニル樹脂の押出し加工等によって、被覆層3を形成できる。これにより、導体2の周囲に被覆層3が配置された上述の絶縁電線1を得ることができる。
【0035】
(端子付き絶縁電線)
本実施形態の端子付き絶縁電線は、各種の配線に利用できる。例えば、自動車や飛行機等の機器、産業用ロボット等の制御機器の各種電気機器の配線に使用可能である。より具体的には、自動車用ワイヤーハーネス等に使用可能である。
【0036】
図3に示すように、端子付き絶縁電線は、絶縁電線1と、絶縁電線1の端部に接続された端子10とを有する。端子付き絶縁電線では、端子10は絶縁電線1の一方の端部に接続されていてもよいし、両方の端部に接続されていてもよい。
端子10には、一端側から、各種装置と接続するための雌型または雄型の嵌合部11と、絶縁電線1の導体2を固定するワイヤバレル部12と、絶縁電線1の被覆層3を支持するためのインシュレーションバレル部13とが順に配置されている。
嵌合部11は、各種装置と接続可能な構造であればよく、その種類に応じて適宜選択される。ワイヤバレル部12は、導体2と端子10とを電気的および機械的に確実に接続するため、導体2を圧縮して固定するための構造を有している。インシュレーションバレル部13は、被覆層3を十分に支持し、固定するための構造を有している。これらは、一般的な端子の構造と同様である。
【0037】
(端子付き絶縁電線の製造方法)
端子付き絶縁電線の製造方法は基本的に、絶縁電線1の端部から被覆層3を剥離し導体2を露出させる工程と、導体2の露出部分に端子10を接続する工程とで構成される。
【0038】
絶縁電線1の端部から被覆層3を剥離し導体2を露出させる方法は、一般的な方法と同様であり、例えば、ストリッパー等の専用器具で導体2を露出させてもよい。
【0039】
絶縁電線1の導体2に端子10を接続する方法も、一般的な方法と同様であり、例えば端子10のインシュレーションバレル部13に絶縁電線1の被覆層3を固定するとともに、ワイヤバレル部12を加締めて、ワイヤバレル部12に露出した導体2を圧接させる方法とすることができる。
【0040】
なお、本実施形態によれば、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際標である持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」に貢献することにもつながる。
【実施例
【0041】
(1)サンプルの作製
(1.1)サンプル1
0.3質量%のSnを含有し、残部がCuおよび不可避元素から構成される銅合金を、外周に水冷ジャケットを設けた黒鉛鋳型を有する水平連続鋳造機によって連続鋳造して、直径12mmの鋳造ロッドを作製した。当該鋳造ロッドに冷間加工を施して直径約0.16mmの複数本の素線を得た。
【0042】
その後、素線を7本準備し、そのうちの1本を中心素線と、残りの6本を中心素線の周囲に同心状に配置する同心素線とした。そして、これらの素線を撚りピッチ12mmで撚り合わせて導体とした。当該導体の断面積は、0.13mmであった。
その後、導体を、窒素気流中において300℃で2時間熱処理した(導体を脱脂および調質した)。
【0043】
その後、導体の周囲を覆うように、ポリ塩化ビニル樹脂を押出機のダイスから押し出して、導体の周囲に被覆層を形成した。被覆層の厚さは0.2mmとした。
【0044】
(1.2)サンプル2~5
導体の撚りピッチを、表1に示すように変更した。
それ以外は、サンプル1と同様にサンプル2~5を作製した。
【0045】
(1.3)サンプル11
サンプル1の作製時と同様に素線を作製し、撚りピッチが15mmの導体を準備した。
その後、導体をダイスの穴に通して円形圧縮加工を施した。圧縮率は3%とした。
その後、導体を、窒素気流中において300℃で2時間熱処理した(導体を脱脂および調質した)。
それ以外は、サンプル1と同様にサンプル11を作製した。
【0046】
(1.4)サンプル12~16
導体の撚りピッチを、表1に示すように変更した。
それ以外は、サンプル11と同様にサンプル12~16を作製した。
【0047】
(2)評価
サンプル1~5およびサンプル11~16に対しそれぞれ以下の測定および試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0048】
(2.1)中心素線の油分付着量の測定
絶縁電線80mを所定の長さに切り分け、被覆層を専用工具で除去して導体を抜きだした。同心素線を、撚り方向と逆向きに撚って外し、中心素線を抜きだした。当該作業は、25℃、湿度20%の恒温恒湿槽内部で行った。そして、抜き出した中心素線の質量を測定した。その後、油分洗浄したガラス共栓付き三角フラスコに中心素線と抽出溶媒(クロロトリフルオロエチレンの3量体)を入れ、ガラス栓をしてよく撹拌した。中心素線に付着した油分が抽出された溶液をメスフラスコに移し、共栓付き三角フラスコに更に抽出溶媒を加え、再撹拌し、油分が抽出された溶液をメスフラスコに移した。これらの作業を3回繰り返しメスアップした。当該抽出液を、油分濃度計(堀場製作所社製OCMA-555H)を用いて、抽出溶媒中に溶解した油分の質量を測定した。そして、中心素線の質量で除し、残留油分を把握した。
【0049】
(2.2)伸びおよび導体強度の測定
各絶縁電線について、伸びおよび導体強度を株式会社島津製作所製万能試験機(オートグラフ)で測定した。測定の結果、すべてのサンプルにおいて、伸びが10%で導体強度が402MPaであった(表への記載は省略)。
【0050】
(2.3)導電率の測定
各絶縁電線について、導電率をJIS H 0505に基づき電気抵抗値から算出した。当該電気抵抗値は長さ500mmの導体を用いてダブルブリッジ法にて測定した。測定算出の結果、すべてのサンプルにおいて、導電率が81%IACSであった(表への記載は省略)。
【0051】
(2.4)被覆層の密着強度の測定
被覆層の密着強度は、JASO D618に基づいて測定した。具体的には、長さ100mmの絶縁電線を準備して、その一端部の被覆層を除去して長さ25mm分の導体を露出させるとともに、他端部の長さ25mm分を切断し廃棄した。全長75mmの当該絶縁電線を測定対象として、露出させた導体を保持板の貫通孔(直径が導体の外径より大きく、かつ絶縁電線の外径より小さい孔)に挿通した。当該保持板を固定し、保持板から突出した導体の一端部を引っ張った。そして、被覆層が導体から剥離し、導体が抜けたときの最小荷重を密着強度とした。
【0052】
(2.5)自由落下試験
各絶縁電線300mmの一方の端部に、端子を取り付けて、端子のワイヤバレル部およびインシュレーションバレル部に負荷がかかるように、端子の先端に400gの重りを付けた。そして、端子を取り付けていない側の端部を、高さ1000mmの位置で固定した。そして、重りを高さ1000mmの位置から自由落下させて、絶縁電線に破断が生じたかどうかを、目視によって確認した。評価は以下の基準で行った。
合格 :絶縁電線に破断が生じなかった
不合格:絶縁電線に破断が生じた
【0053】
(2.6)被覆除去試験
各絶縁電線の一端の被覆層を専用工具(小寺電子製作所製全自動電線切断皮剥機)で除去し、被覆層の除去の可否を確認した。評価は以下の基準で行った。
合格 :所定の引抜き力で被覆層を除去した際に被覆層の樹脂の残留が認められなかった
不合格:所定の引抜き力で被覆層を除去した際に被覆層の一部(樹脂)が付着したまま残留した
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、サンプル2~4およびサンプル13~15では自由落下試験および被覆除去試験の両方で優れた結果を得られた。
詳しくは、導体の撚りピッチが5~10mmである場合には、自由落下試験の結果が良好であった(サンプル2~4およびサンプル13~15)。これに対し、導体の撚りピッチが10mmを超えると、自由落下試験の結果が不合格であった(サンプル1およびサンプル11、12)。撚りピッチが5mmを下回ると、被覆層をすべて除去できなかった。
これらのことから、瞬間的にかかる応力に耐えうる、破断が生じ難い絶縁電線を提供するうえでは、導体の撚りピッチや中心素線の油分量、被覆層の材質、被覆層の厚さなどを総合的に考慮し一定に制御することが有用であると推測された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は複数の素線が撚り合わされた導体とそれを被覆する被覆層とを有する絶縁電線にかかり、いわゆる自動車や産業機械の電力線や信号線として有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 絶縁電線
2 導体
2a 中心素線
2b 同心素線
3 被覆層
10 端子
11 嵌合部
12 ワイヤバレル部
13 インシュレーションバレル部
図1A
図1B
図2
図3